JP5542085B2 - 前処理ポリエステル繊維の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は前処理ポリエステル繊維の製造方法に関し、さらに詳しくは、高温動的疲労後のゴムとの接着性に優れた、前処理ポリエステル繊維の製造方法に関する。
ポリエチレンテレフタレート及びその誘導体に代表されるポリエステル繊維は、優れた機械力学特性、物理的・化学的特性を有し、工業的に大量生産され、その用途は産業資材をはじめ多岐に渡っている有用な繊維である。特に高強度ポリエステル繊維は、タイヤ、ベルトやホース等のゴム資材の補強材として、非常に好適な素材であり、最近ますますの高度の性能が要求されている。例えばVベルト等のベルト用コードとしてはメンテナンスフリーのために高モジュラス化、さらに大型の高負荷ラップドベルト用コードとしても更なる耐疲労性が要求されている。他方、タイヤコード用としてはタイヤ成形時の歩留り向上のため、さらに低収縮化や乗り心地向上のための高モジュラス化、また大型タイヤの運用のための耐疲労性の向上等が要求されている。
しかし、他の汎用ゴム補強用繊維であるレーヨン等に比べると、ポリエステル繊維は高強力ではあるものの、モジュラスが低く、収縮率が大きいという性質を基本的には有している。そこで高強力ポリエステル繊維を高モジュラス化、低収縮率化するために、高配向な未延伸糸から出発し、それを延伸する方法が開発され、実用化されている(特許文献1や特許文献2等)。さらに紡糸性を向上させるために、紡糸油剤を工夫したりするなどの改良が、現在でも引き続き行われている(特許文献3等)。
また、ポリエステル繊維は極性が低い分子構造からなるために、ゴムとの接着性について基本的に問題を有している。そのため、ポリエステル繊維とゴムとの接着剤として、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)系接着剤を汎用的に用い、さらにその改良が検討されている。通常はRFL系接着剤で処理する前に、繊維を接着性向上剤にて前処理する二浴処理方法が広く採用されている。そのほか、接着性向上剤をあらかじめ紡糸工程にて付与する前処理ポリエステル繊維も知られている。(例えば特許文献4や特許文献5)
しかしいずれの方法によっても、これら従来の方法によってポリエステル繊維に接着剤処理を行ったとしても、特にベルト等に要求されるゴム中の高温動的疲労後の接着性において、いまだ不満足な性能であった。
特開昭53−58032号公報 特開昭57−154410号公報 特開平7−70819号公報 特開昭52−96234号公報 特開2000−355875号公報
本発明はゴムとの接着において、高温動的疲労後の接着性に極めて優れ、かつ生産性の高い効率的な前処理ポリエステル繊維の製造方法を提供することにある。
本発明の前処理ポリエステル繊維の製造方法は、固有粘度が0.9以上かつ末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であるポリエチレンテレフタレートポリマーを溶融吐出し、アルカリ性硬化触媒を含有する紡糸油剤を付与した後に、2000〜6000m/分の速度で引き取り、次いで延伸した後、エポキシ化合物を含有する仕上げ油剤を付与し、熟成処理することを特徴とする。
さらには、熟成処理温度が20〜50℃の範囲であることや、熟成処理時間が50時間以上であることが好ましく、エポキシ硬化触媒がアミン化合物であることが好ましい。
本発明によれば、ゴムとの接着において、高温動的疲労後の接着性に極めて優れ、かつ生産性の高い効率的な前処理ポリエステル繊維の製造方法が提供される。
本発明の前処理ポリエステル繊維の製造方法は、固有粘度が0.9以上かつ末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であるポリエチレンテレフタレートポリマーを溶融吐出し、エポキシ硬化触媒を含有する紡糸油剤を付与した後に、2000〜6000m/分の速度で引き取り、次いで延伸した後、エポキシ化合物を含有する仕上げ油剤を付与し、熟成処理するものである。
本発明にて溶融吐出に用いられるポリエチレンテレフタレートポリマーとしては、ポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるものである。ここでこのポリエステルの主たる繰返し単位の含有量としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されているものであることが好ましく、特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
またこのポリエステルポリマーの固有粘度としては0.9以上であることが必要であり、さらには0.93〜1.10、特には0.95〜1.07の範囲にすることが好ましい。固有粘度が0.9未満であると溶融紡糸して得られるポリエステル繊維の強度が低下し、高強度ポリエステル繊維を得ることが困難となる。
さらに本発明の前処理ポリエステル繊維の製造方法においては、ポリマーの固有粘度が0.9以上であると共に、ポリマーの末端カルボキシル基量が15当量/ton以上と高いことを特徴とする。上限としては30当量/ton以下であることが好ましく、さらにはポリマー段階での末端カルボキシル基量としては16〜25当量/tonの範囲、特には18〜23当量/tonの範囲であることが好ましい。通常、ゴム補強用の高強度ポリエステル繊維においては、末端カルボキシル基量は少ないことが必須であると考えられていた。そのため生産性が低いにもかかわらず、末端カルボキシル基量の多いポリマーが多用されていたのである。しかし本発明者らは、ゴム繊維複合体中における耐久性においては、繊維強力とともにゴム・繊維間の接着力が重要であることに注目し、末端カルボキシル基量をこのように高い範囲に調節し、2000〜6000m/分の高速にて紡糸し、その他の要件、つまり高速紡糸と最適なエポキシ処理とを組み合わせることにより、より最適なゴム補強用の前処理ポリエステル繊維が得られることに到達したものである。さらに本発明の製造方法では、末端カルボキシル基量を無理に減少させる必要が無いために、ポリマー重合時の歩留りや生産性も向上し、そのポリマーひいては繊維の生産コストも低減することが出来るようになった。
また、溶融紡糸されるポリエステルポリマーの重合方法としては、現在テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールから作られるDMT法(エステル交換法)とテレフタル酸とエチレングリコールから作られる直重法(直接エステル化法)があり、本発明の製造方法においては、いずれの方法を用いることも可能である。しかし、DMT法で作られたポリエチレンテレフタレートには、その末端基として、本発明において必須のカルボキシル基に加えて、テレフタル酸ジメチルに起因したメチル基末端が存在する。このメチル基末端は、仕上げ油剤中のエポキシ基との反応をしないため少ないことが好ましく、本発明においては、ポリエステルポリマーとしては、末端メチル基が存在しない、直重法で作られるポリエステルポリマーであることが好ましい。直重法ポリエステルポリマーを用いることにより、繊維表面に置けるカルボキシル基とエポキシ基との反応性をより高いレベルにて確保することが可能になるのである。
さらに本発明で用いられるポリエステルポリマーとしては、ポリマー中の酸化チタン含有量が0.05〜3重量%の範囲であることが好ましい。酸化チタン含有量が0.05重量%より少ないと繊維化した後の延伸工程等において、ローラーと繊維の間に働く応力を分散させるための平滑効果が不十分となる傾向にあり、最終的に得られる繊維の高強度化に不利となる傾向にある。逆に含有量が3%より多い場合には、酸化チタンがポリマー内部において異物として働き、延伸性を阻害し、最終的に得られる繊維の強度も低下する傾向にある。通常高強力ポリエステル繊維の製造においては、ポリマー中の酸化チタンの含有は異物による製糸性低下につながるために避けられることが多かった。しかし生産工程中の摩擦による強力の低下や、ゴム中でのポリエステル繊維の疲労性の低下を防止する目的からは、このような少量の酸化チタンをポリエステルポリマー中に含有することが好ましい。
またポリエステルポリマーの固有粘度を0.9以上とするためにも、本発明で用いられるポリエステルポリマーは、固相重合されたものであることが好ましい。本発明の製造方法においては、少なくともポリマー段階での固有粘度は、溶融紡糸前の段階にて0.9以上に高めておくことが求められるからである。
本発明の前処理ポリエステル繊維の製造方法では、上記のようなポリエステルポリマーを2000〜6000m/分の高速で引き取り、次いで延伸することが必要である。このように高速で引き取った場合、延伸前の段階にて繊維は部分配向糸となり、その後の延伸と組み合わせることにより高モジュラス、低収縮率のポリエステル繊維となる。さらにこのように高速紡糸を行うことにより、その生産性についても向上させることが出来る。
紡糸口金からのポリエステルポリマーの吐出量としては、生産性の面からも420g/分〜1800g/分の範囲が好ましく、さらには500g/分〜1000g/分であることが好ましい。またポリマー吐出の際の紡糸ドラフト(口金からのポリマー吐出線速度/引取速度)としては、500〜4000の範囲が好ましく、さらには1000〜2500であることが好ましい。このような高紡糸ドラフト比を採用することにより、繊維の配向結晶化を促進することが可能となる。
このように本発明の製造方法においては、高速にて紡糸することが必須であるが、さらには紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度以上の加熱紡糸筒を通過させることが好ましい。このとき加熱紡糸筒の長さとしては10〜500mmであることが好ましい。紡糸口金から吐出された直後のポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、このように加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましいのである。加熱紡糸筒を通過した紡出糸条は、次いで30℃以下の冷風を吹き付けて冷却することが好ましい。さらには25℃以下の冷風であることが好ましい。
さらにこのように高速紡糸することによって得られる前処理ポリエステル繊維は、X線小角回折による長周期が12nm以下であることが好ましい。長周期をこのように小さくするためには溶融紡糸速度をより高速化することが好ましく、低速紡糸ではこの長周期の値が大きくなってしまう。また工業的には、長周期の下限としては9nm程度であることが好ましい。さらにはこのX線小角回折による長周期としては10nm〜11nmの範囲であることが好ましい。
ここでいう長周期とは繊維縦軸方向(繊維を紡糸する方向)のポリエステルポリマーにおける結晶と結晶の間隔のことである。この長周期が小さい場合、ポリエステル繊維において結晶間の間隔が短いことを示している。そして長周期がこのような範囲をとる場合には、結果として、分子が途切れることなく結晶と結晶とを直接に結ぶタイ分子の数が多くなり、ゴム補強用繊維として用いた場合のゴム中における繊維の強力維持率を高く保つことができるのである。このため、ポリマー中の末端カルボキシル基量が従来より多い条件で紡糸する本願発明の製造方法の場合であっても、エポキシ処理等の表面処理を伴うことにより、十分な耐久性を得ることが可能となる。またこのような長周期の範囲であると、繊維の物性を高モジュラス、低収縮率のゴム補強用繊維に適した物性となる。
またこのように高速紡糸して得られた繊維を延伸する条件としては、紡糸後に1.5〜5.0倍に延伸することが好ましい。このように高倍率の延伸をすることによって、より高強度の延伸繊維を得ることが可能となる。
本発明におけるポリエステル繊維の延伸方法としては、引き取りローラーから一旦巻取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよいが、引き取りローラーから連続的に延伸工程に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸することが好ましい。また延伸条件としては1段ないし多段延伸であり、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは繊維が実際に断糸する張力に対する、延伸を行う際の張力の比である。
延伸時の予熱温度としては、ポリエステル未延伸糸のガラス転移点の20℃低い温度以上、結晶化開始温度の20℃低い温度以下で行うことが好ましい。延伸倍率は紡糸速度に依存するが、破断延伸倍率に対し延伸負荷率60〜95%となる延伸倍率で延伸を行うことが好ましい。また、繊維の強度を維持し寸法安定性を向上させるためにも、延伸工程で170℃から繊維の融点以下の温度で熱セットを行うことが好ましい。さらには延神時の熱セット温度が170〜270℃の範囲であることが好ましい。
さらに本発明の前処理ポリエステル繊維の製造方法は、その前処理方法としてポリマーの溶融吐出後に、エポキシ硬化触媒を含有する紡糸油剤を付与し、その後高速での引き取り、次いで延伸した後に、エポキシ化合物を含有する仕上げ油剤を付与し、加熱処理するものである。
溶融紡糸直後の紡糸油剤に含有されるエポキシ硬化触媒としては、後の仕上げ油剤に含有されるエポキシ化合物を硬化させるエポキシ硬化剤であればよく、アルカリ性硬化触媒であることが好ましく、特にはアミン化合物であることが好ましい。より具体的には、例えば脂肪族アミン化合物等の、さらに好ましくは炭素数4〜22の脂肪族アミンにエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドが2〜20モル付加したアミン化合物が最適である。
本発明の製造方法では、紡糸油剤としては上記のエポキシ硬化触媒に加えて、その他の紡糸油剤構成成分として、平滑剤、乳化剤、帯電防止剤等の通常のポリエステル繊維の紡糸油剤で用いられるものを含むことができる。ただし、この紡糸油剤中にはエポキシ化合物は含有しないことが好ましい。より具体的なその他の成分としては、平滑剤としては鉱物油、脂肪酸エステル類、乳化剤としては、高級アルコール類またはエチレンオキサイド(EO)付加物、帯電防止剤としてはアニオン系、カチオン系の様々な界面活性剤などを挙げることができる。
このような紡糸油剤の各成分の割合は、エポキシ硬化触媒(アミン化合物等)3〜20重量%、平滑剤30〜80重量%、乳化剤20〜70重量%、その他の添加剤適量で100重量%になるような組み合わせが好ましい。このような配合とすることにより、得られる前処理糸の接着性や耐久性を向上させるとともに、紡糸油剤本来の平滑性、集束性の機能を発揮しながら、製糸工程におけるガイドや延伸ローラー等の汚れも少なくすることが可能となる。
紡糸油剤は、通常のローラー式油剤付与法やノズル式油剤付与法により、溶融紡出された未延伸糸に付与することができる。ここで紡糸油剤の付与量としては、0.10〜2.0重量%が好ましく、さらには0.30〜1.0重量%であることが好ましい。紡糸油剤溶液は、低粘度鉱物油等で希釈したストレート油剤の形で付与しても良いし、水性エマルジョンの形で付与しても良く、特に限定されるものではない。
本発明の製造方法では上記紡糸油剤を付与した後、高速引き取り、延伸し、その後エポキシ化合物を含有する仕上げ油剤を付与することとなる。
ここで仕上げ油剤に含有するエポキシ化合物としては、例えば1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の一種又は二種以上の混合物であることが好ましい。より具体的にはハロゲン含有のエポキシ類が好ましく、例えばエピクロルヒドリン多価アルコール又は多価フェノールとの合成によって得られるものを挙げることができ、グリセロールポリグリシジルエーテルやポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの化合物が好ましい。このようなエポキシ化合物を含む仕上げ油剤の繊維表面への付着量としては、0.05〜1.5重量%、好ましくは0.10〜1.0重量%であることが好ましい。仕上げ油剤には、紡糸油剤と同様に平滑剤、乳化剤、帯電防止剤やその他添加剤等を必要に応じて混合しても良い。
本発明の前処理ポリエステル繊維の製造方法では、溶融吐出後、上記のような紡糸油剤、仕上げ油剤を繊維に付与した後、熟成処理することが必要である。
延伸後、仕上げ油剤が付与されたポリエステル繊維は、巻取られた後、20〜50℃、好ましくは30〜45℃の温度で50時間以上の熟成処理を施すことが好ましい。20℃より低い温度ではエポキシの硬化反応速度が遅く、繊維表面のエポキシ化合物を有効に反応させることが工業的に困難であり、後工程での加工性やゴムとの接着力の低下の傾向にある。一方、50℃より高い温度ではゴムと接着力こそ良好な値を保つものの、ポリエステル繊維の物性変化や、エポキシ化合物の硬化により、ポリエステル繊維が固くなりさらには得られる接着処理コードも硬く、後工程や最終製品成型時での加工性の低下や、製品外観品位が低下する傾向にある。また加温処理温度が高くなるほど、エポキシ化合物以外の油剤成分である鉱物油や脂肪族エステル等が繊維表面にブリードアウトし、得られる繊維の性能が低下する傾向にある。また処理時間は安定した加工性やゴムとの接着力を得るためには、72〜1000時間、さらには100〜500時間であることが、生産性などの点からも好ましい。
このような本発明の製造方法にて得られる前処理ポリエステル繊維としては、その繊維表面のエポキシ指数としては、1.0×10−3当量/kg以下であることが好ましい。さらには前処理ポリエステル繊維1kgあたりのエポキシ指数が0.5×10−3〜0.01×10−3当量/kgであることが好ましい。エポキシ指数が高い場合には、未反応のエポキシ化合物が多くなる傾向にあり、たとえば後の撚糸工程で粘性を帯びたスカムがガイド類に大量に発生するなど、繊維の工程通過性が低下するとともに、撚糸斑等の製品品位の低下を招く問題が発生する。
また本発明の製造方法で得られる前処理ポリエステル繊維の固有粘度としては、0.9以上であることが好ましい。さらには0.9〜1.1であることが好ましい。この段階での固有粘度が低すぎると、ポリエステル繊維の強度が低下するばかりではなく、特にゴム加硫工程での強力低下を十分に抑制することが出来ない傾向にある。
また、溶融紡糸、延伸処理を経て得られるこの前処理ポリエステル繊維は、繊維横軸方向(繊維を紡糸する方向に垂直な方向)の結晶サイズが35〜80nmの範囲であることが好ましい。特に前処理ポリエステル繊維の繊維縦軸の結晶の間隔である長周期が12nm以下と短い場合、高強力繊維とするためには繊維の横軸方向の結晶が35nm以上に成長させることが好ましい。ただし結晶サイズが大きすぎても繊維が剛直となり疲労性が低下するために、80nm以下であることが好ましい。さらには繊維横軸方向の結晶サイズとしては40〜70nmの範囲であることが好ましい。このように繊維の横軸方向に結晶が成長することにより、タイ分子が繊維横軸方向へも発達しやすいため、繊維の縦横方向に3次元的な構造が構築され、本発明のようなゴム補強用に特にふさわしい繊維となる。またこのような3次元構造をとることにより、繊維の損失係数Tanδが低くなり、繰返し応力下での発熱量を抑制でき、繰返し応力を与えた後の接着性能も高く保つことが可能となり、ゴム補強用途に特に好ましい繊維となる。
さらに本発明の製造方法にて得られる前処理ポリエステル繊維は、最終的にそのポリマー全体のカルボキシル基量が20当量/ton以上であることが好ましい。従来、特に高温や高振動などの高負荷の環境下にて用いられるゴム補強用ポリエステル繊維においては、その耐熱劣化性を向上させる目的等のため、最終的なポリマー中のカルボキシル基量を15当量/ton以下に保つことが常識的な手法であった。しかしゴム補強用に適した前処理ポリエステル繊維としては、繊維の強力維持以外にゴムとの接着性維持の必要性が高く、20当量/ton以上のカルボキシル基量であることが好ましい。そして末端カルボキシル基量の上限としては40当量/ton以下、さらには30当量/ton以下、もっとも好ましくは21〜25当量/tonの範囲であることが好ましい。本発明の製造方法においては、溶融紡糸前のポリエステルポリマーの末端カルボキシル基量を無理に低く抑える製造方法を採用していないために、このような溶融紡糸時のポリエステルポリマー中のカルボキシル基末端量は溶融紡糸後でも増えにくく、このような範囲の好適なカルボキシ末端量のポリエステル繊維を、容易に得ることができる。
そして、紡糸油剤、仕上げ油剤を付与し、熟成処理した後の前処理ポリエステル繊維の表面(原糸表面)の末端カルボキシル基量としては、10当量/ton以下であることが好ましい。繊維ポリマー全体のカルボキシル基量は、前述のとおり20当量/ton以上であることが好ましいが、繊維表面に付着しているエポキシ化合物と反応しているため、繊維表面のカルボキシル基量としては、それより少ない10当量/ton以下であることが好ましい。このように繊維ポリマー中のカルボキシル基が繊維表面においてエポキシ基と反応することにより、極めて優れた接着性能を有することができるのである。このとき繊維表面の末端カルボキシル基量が多く残存していた場合には、耐熱性や接着性が低下する傾向にあり好ましくない。
このような本発明の製造方法にて得られる前処理ポリエステル繊維の強度としては、4.0〜10.0cN/dtexの範囲であることが好ましい。さらには5.0〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも結果的にはゴム中での耐久性に劣る傾向にある。例えば、ぎりぎりの高強度での生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり、工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。
また180℃の乾熱収縮率は、1〜15%であることが好ましい。乾熱収縮率が高すぎる場合、加工時の寸法変化が大きくなる傾向にあり、繊維を用いた成形品の寸法安定性が劣るものとなりやすい。
本発明の製造方法にて得られるポリエステル繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、製糸性の観点から0.1〜100dtex/フィラメントであることが好ましい。特にベルト等のゴム補強用繊維や、産業資材用繊維としては、強力、耐熱性や接着性の観点から、1〜20dtex/フィラメントであることが好ましい。
総繊度に関しても特に制限は無いが、10〜10,000dtexが好ましく、特にベルト等のゴム補強用繊維や、産業資材用繊維としては、250〜6,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては例えば1,000dtexの繊維を2本合糸して総繊度2,000dtexとするように、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に2〜10本の合糸を行うことも好ましい。
さらに本発明の製造方法にて得られた前処理ポリエステル繊維は、上記のような前処理ポリエステル繊維をマルチフィラメントとし、撚りを掛けてコードの形態として用いることも好ましい。この前処理ポリエステルコードは、マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、強力利用率が平均化し、そのゴム中疲労性が向上する。撚り数としては50〜1000回/mの範囲であることが好ましく、下撚りと上撚りを行い合糸したコードであることも好ましい。合糸する前の糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や柔軟性がより向上する。繊度が小さすぎる場合には強度が不足する傾向にある。逆に繊度が大きすぎる場合には太くなりすぎて柔軟性が得られない問題や、紡糸時に単糸間の膠着が起こりやすく安定した繊維の製造が困難となる傾向にある。
さらに、このようにして得られる前処理ポリエステル繊維コードは、その表面にさらに繊維・ゴム用のRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)系接着剤を付与し、接着処理コードとすることができる。そしてこの接着処理コードは、未加硫ゴムに埋め込み加硫することによって、繊維・ゴム複合体とすることができ、ゴム資材であるベルトやホース等として使用することができる。
本発明のこのような前処理ポリエステル繊維コードは、高モジュラス、低収縮率の物性を保ちながら、ポリマー中のカルボキシル基末端と仕上げ油剤中のエポキシ化合物が反応し、高い接着性を有している。また高速紡糸により繊維軸方向の長周期が小さく耐久性に優れた繊維であり、その繊維表面におけるエポキシとカルボキシル基末端による表面保護効果との相乗効果により、ゴム中での接着耐久性に極めて優れた繊維となった。そのため特に本発明の前処理ポリエステル繊維は、ゴム中にて屈曲疲労をさせた後にもそのゴムとの接着性や耐疲労性を高いレベルを保つことができ、高温動的疲労後の接着性に極めて優れたゴム補強用の前処理ポリエステル繊維となった。特にVベルト等の屈曲や高速回転等の運動を伴う繊維・ゴム複合体として、高負荷の動的歪がかけられた状態であっても高い耐疲労性を確保しながら、高モジュラス・低収縮率であるためのメンテナンスフリー性なども併せ持ち、高いレベルにて各種要求特性を満たすことが出来たのである。
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
(1)固有粘度
ポリエステルチップ、ポリエステル繊維を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。IVと表記した。
(2)末端カルボキシル基量
粉砕機を用いて粉末状にしたポリエステルサンプル40.00グラムおよびベンジルアルコール100mlをフラスコに加え、窒素気流下で215±1℃の条件下、4分間にてポリエステルサンプルをベンジルアルコールに溶解させた。溶解後、室温にまでサンプル溶液を冷却させた後、フェノールレッドのベンジルアルコール0.1質量%溶液を適量添加し、N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液によって、速やかに滴定し、変色が起こるまでの滴下量をAmlとした。ブランクとして100mlのベンジルアルコールにフェノールレッドのベンジルアルコール0.1質量%を同量添加し、N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液によって、速やかに滴定し、変色が起こるまでの滴下量をBmlとした。それらの値から下記式によってポリエステルサンプル中の末端COOH基含有量(末端カルボキシル基量)を計算した。
末端COOH基含有量(当量/ton)=(A−B)×10×N×10/40
なお、ここで使用したベンジルアルコールは試薬特級グレードの物を蒸留し、遮光瓶に保管したものを利用した。N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液は、定法により事前に濃度既知の硫酸溶液によって滴定し、規定度Nを正確に求めたものを使用した。
(3)繊維表面末端カルボキシル基量
JIS K0070−3.1項 中和滴定法に準じて繊維表面のカルボキシル基量(酸価)を求めた。すなわち、繊維試料約5gにジエチルエーテル/エタノール=1/1溶液50mlを加え、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を数滴添加し、室温で15分間超音波振とうした。この溶液に0.1ml水酸化カリウムエタノール溶液(ファクター値f=1.030)で滴定し、指示薬のうすい紅色が30秒間続いたときを終点として指示薬滴下量を測定し、以下の式から酸価を算出した。
酸価A(当量/ton)=(B×1.030×100)/S
[ここで、Bは0.1ml水酸化カリウムエタノール溶液滴定量(ml)、Sは試料量(g)を表す。]
(4)末端メチル基量
ポリエステルを加水分解して酸成分、グリコール成分にした後、ガスクロマトグラフィーにて酸のメチルエステル成分を定量し、この値から算出した。
(5)酸化チタン含有量
各元素の含有量は、蛍光X線装置(リガク社 3270E型)を用いて測定し、定量分析を行った。この蛍光X線測定の際には、ポリエステル繊維樹脂ポリマーを圧縮プレス機でサンプルを2分間260℃に加熱しながら、7MPaの加圧条件下で平坦面を有する試験成形体を作成し、測定を実施した。
(6)繊維横軸方向結晶サイズ(X線回折)
ポリエステル組成物・繊維のX線回折測定については、X線回折装置(株式会社リガク製RINT−TTR3、Cu‐Kα線、管電圧:50kV、電流300mA、平行ビーム法)を用いて行った。長周期間隔はX線小角散乱測定装置を用い従来公知の方法、即ち波長1.54ÅのCu−Kα線を線源とし、繊維軸に直角に照射して得られる子午線干渉の回折線よりブラックの式を用いて算出した。繊維横軸方向結晶サイズはX線広角回折から赤道線走査の(010)(100)強度分布曲線の半価幅よりシエラーの式を用いて求めた。
(7)エポキシ指数(EI)
加温処理後の該ポリエステル繊維をJIS K−7236に従ってエポキシ指数(EI
:繊維1kgあたりのエポキシ当量数)を測定した。
(8)繊維の強伸度及び中間荷伸、
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。尚、中間荷伸は強度4cN/dtex時の伸度を表した。
(9)乾熱収縮率
JIS−L1013に従い、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置後、無荷重状態で、乾燥機内で180℃×30min熱処理し、熱処理前後の試長差より算出した。
(10)耐熱強力維持率
ポリエステル繊維2本を、上撚470回/m、下撚470回/mを掛けたものを生コードとして、その生コードをRFL接着剤に付漬し、張力下で240℃で2分間処理した処理コードの強力を測定したものを強力Aとする。その後、処理コードを加硫モールド中に埋め込み、80℃で120分、促進加硫した処理コードを抜き出し、強力を測定したものを強力Bとし、強力維持率をB/A(%)の式でもとめた。
(11)初期剥離接着力
処理コードとゴムとの接着力を示すものである。コードを36本/2.54cm(inch)で引きそろえ、0.5mm厚の天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴムシートで挟みつける。これらのシートを、直行するように重ねあわせ、150℃の温度で、30分間、50kg/cmのプレス圧力で加硫し、次いで、コード方向に沿って短冊状に切り出す。作成したサンプルの短冊に沿った方のシートをゴムシート面に対し90度の方向へ200mm/分の速度で剥離するのに要した力をN/2.54cm(inch)で示したものである。なおこの初期剥離接着力は室温にて測定したものである。
(12)動的疲労後のゴムとの接着性能評価(シューシャイン測定)
2.5mm厚のSBR/NR系ゴムを挟んで、得られたコードを26本/2.54cm(inch)の密度で互いに平行に並べた2層のプライを作成し、さらに各プライ層の外側を1.5mm厚のSBR/NR系ゴムでカバーのち、温度150℃で30分間、90kg/cmの条件で加硫して、長さ500mm、幅5mm、厚み5.5mmのベルトを作成した。
次いで、このベルトを50kg/2.54cm(inch)の荷重を印加して直径50mmのプーリーに取付け、温度100℃にて5時間にわたり30,000サイクルの繰返し伸張圧縮疲労を加えた。伸張圧縮疲労後のベルトのプライ間を300mm/分の速度で剥離し、得られる平均剥離接着力(N/2.54cm(inch))を高温動的疲労後の接着力として求めた。
この評価方法は、動的たわみ試験であり、いわゆるシューシャイン試験と呼ばれている評価方法である。
(13)工程評価
本発明の前処理ポリエステル繊維の工程評価として、生産安定性の面から、撚糸スカム、生産効率を、経済性の面からポリマーコストを、+++;優れている、++;普通、+;劣る、の3段階にて評価した。
[実施例1]
(a)紡糸油剤の調整
グリセリントリオレート65部、POE(10)ラウリルアミノエーテル12部、POE(20)硬化ヒマシ油エーテル8部、POE(20)硬化ヒマシ油トリオレート12部、POE(8)オレイルホスフェートNa2部、酸化防止剤1部からなる油剤組成分10部を50℃に加温した。
(b)仕上油剤の調整
ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX−512」)60部、ジイソオクチルアゼレート30部、POE(8)硬化ヒマシ油エーテル8部、ジイソオクチルスルホサクシネートNa2部からなる油剤組成分45部を40℃に加温した後、40℃に加温した軟化水55部にゆっくり添加しながら攪拌したのち、18℃に冷却した。
(c)ポリエステル繊維の製造
固相重合後チップの固有粘度(35℃オルトクロロフェノール溶媒にて測定)1.03で末端カルボキシル基量が20当量/トンで、末端メチル基量が0当量/トンであり、酸化チタン含有量が0.05wt%である直重法によって得られたポリエチレンテレフタレートチップを用い、紡糸ドラフト1777の条件にて、溶融紡糸法により384フィラメントのポリエステル繊維を得た。
紡糸口金より紡出され、2800m/分で引き取られた未延伸糸には、上記の方法で調製した紡糸油剤を繊維100部に対して油剤付着分0.4部(脂肪族アミン化合物成分付着量0.048重量%)となるように付与した後、60℃の第1ローラーで引き取り、第1ローラーと60℃の第2ローラーとの間で1.25倍に第1段延伸し、さらに第2ローラーと180℃の第3ローラーとの間で合計延伸倍率が1.43倍になるように第2段延伸し、引き続き第3ローラーと第4ローラーとの間は延伸倍率1.0倍にしたのち、上記の方法で調整した仕上油剤を繊維100部に対して油剤付着分が0.2重量部(エポキシ化合物成分付着量0.12重量%)となるようにローラー式油剤付与法で付与し、第4ローラーと捲取機の間でインターレース(IL)ノズルで交絡を付与したのちに5000m/分の速度で各10kgを捲取った。得られた繊維は、固有粘度が0.91、繊度が1130dtex、強度が6.9cN/dtex、伸度が12%の力学特性を有し、末端カルボキシル基量は22当量/tonであり、長周期が10nm、繊維表面末端カルボキシル基量は7当量/ton、繊維横軸方向の結晶サイズは45nm、末端メチル基量は0当量/ton、酸化チタン含有量は0.05wt%、表面エポキシ基量は0.1×10−3当量/kgであった。
そうして得られた繊維を、30℃の温度下で360時間の熟成処理した。紡糸速度が速いにもかかわらず、生産工程におけるスカム発生量は少ないものであった。
得られたポリエステル繊維は、470回/mの下撚を掛けた後、これを2本合わせて470回/mの上撚をかけて得られてコードをレゾルシン・ホルマリン・ラテックス接着液(RFL液)を用いて接着処理し、240℃で2分間緊張熱処理して処理コードとした。
得られた、ポリエステル繊維およびコードの物性は、強力が134N、伸度が13%、44N時の荷伸が3.9%、177℃乾収が2.7%であった。
そのコードを用いて、シューシャシンテストを実施した結果、動的疲労後のコードの剥離接着力は550N/inchであり、非常に高い接着力を持つものであった。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1の、固相重合後のチップの末端カルボキシル基を20当量/tonから9当量/tonとし、末端メチル基量が5当量/tonであるポリエステルチップを用いた以外は実施例1と同様に行い、最終繊度が同じ1130dtex、固有粘度が0.91のポリエステル繊維と、それを撚糸した処理コードを得た。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表1に併せて示す。実施例1と比較し、繊維の末端カルボキシル基量が18当量/トンと少ないものの通常の剥離接着力は得られており、耐熱強力維持率も十分なものであった。しかし、動的疲労後の接着性(シューシャイン測定)においては劣るものであった。
[比較例2]
比較例1と異なりエポキシ化合物を付せず、紡糸油剤からもアミン成分を抜いた非アミン系の紡糸油剤を用いた以外は、比較例1と同様に行った。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表1に併せて示す。比較例1と比べ、さらに動的疲労後の接着性(シューシャイン測定)において劣るものであった。
[比較例3]
実施例1の30℃、360時間の熟成処理を60℃、80時間の加熱処理とした以外は、実施例1と同様に行った。熟成処理を行わずに加熱処理を行ったため、生産工程におけるスカムの発生量は多めであった。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表1に併せて示す。
[実施例2]
実施例1の紡糸速度を2800m/分から3200m/分とし、物性をあわせるためにフィラメント数を384から500とし、延伸倍率を調整した以外は、実施例1と同様に行い、最終繊度が同じ1130dtex、固有粘度が0.91のポリエステル繊維と、それを撚糸した処理コードを得た。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表2に示す。
[実施例3]
実施例1の紡糸速度を2500m/分として、物性を合わせるためにフィラメント数を384から249とし、延伸倍率を調整した以外は、実施例1と同様に行い、最終繊度が同じ1130dtex、固有粘度が0.91のポリエステル繊維と、それを撚糸した処理コードを得た。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表2に併せて示す。
[比較例4]
固有粘度(35℃オルトクロロフェノール溶媒にて測定)1.03で末端カルボキシル基量が20当量/tonで、末端メチル基量が0当量/tonであるポリエチレンテレフタレートチップを用い、紡糸ドラフト60の条件にて、溶融紡糸法により250フィラメントのポリエステル繊維を得た。
紡糸口金より紡出され、600m/分で引き取られた未延伸糸には、上記の方法で調製した紡糸油剤を繊維100部に対して油剤付着分0.4部(脂肪族アミン化合物成分付着量0.048重量%)となるように付与した後、100℃の第1ローラーで引き取り、第1ローラーと120℃の第2ローラーとの間で3.0倍に第1段延伸し、さらに第2ローラーと190℃の第3ローラーとの間で合計延伸倍率が5.0倍になるように第2段延伸し、引き続き第3ローラーと第4ローラーとの間は延伸倍率0.97倍にしたのち、上記の方法で調整した仕上油剤を繊維100部に対して油剤付着分が0.2重量部(エポキシ化合物成分付着量0.12重量%)となるようにローラー式油剤付与法で付与し、第4ローラーと捲取機の間でインターレース(IL)ノズルで交絡を付与したのちに3400m/分の速度で各10kgを巻き取った。なお上記以外の条件は実施例1と同様にした。低速紡糸であり、スカムの発生量は低いレベルのままであった。
得られた繊維は、繊度が1130dtex、固有粘度が0.91であり、強度が7.6cN/dtex、伸度が14%の力学特性を有し、末端カルボキシル基量は22当量/tonであり、長周期が14nm、繊維表面末端カルボキシル基量は7当量/ton、繊維横軸方向の結晶サイズは35nm末端メチル基量は0当量/ton、酸化チタン含有量は0.05wt%、表面エポキシ基量は0.1×10−3当量/kgであった。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表2に併せて示す。
実施例3と比較し、この比較例4は長周期が14nmと大きく、強伸度において差が見られないにもかかわらず、乾熱収縮率や中間荷重伸度も大きく、初期接着力こそ同等だが、ゴム中耐熱協力維持率や動的疲労後の接着性(シューシャイン測定)において大きく劣るものであった。
[比較例5]
実施例1と異なりエポキシ化合物を付せず、紡糸油剤からもアミン成分を抜いた非アミン系の紡糸油剤を用いた以外は、実施例1と同様に行った。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表2に併せて示す。動的疲労後の接着性(シューシャイン測定)において劣るばかりか、ゴム中における耐熱強力維持率も低下するものであった。
Figure 0005542085
Figure 0005542085

Claims (4)

  1. 固有粘度が0.9以上かつ末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であるポリエチレンテレフタレートポリマーを溶融吐出し、エポキシ硬化触媒を含有する紡糸油剤を付与した後に、2000〜6000m/分の速度で引き取り、次いで延伸した後、エポキシ化合物を含有する仕上げ油剤を付与し、熟成処理することを特徴とする前処理ポリエステル繊維の製造方法。
  2. 熟成処理温度が20〜50℃の範囲である請求項1記載の前処理ポリエステル繊維の製造方法。
  3. 熟成処理時間が50時間以上である請求項1または2記載の前処理ポリエステル繊維の製造方法。
  4. エポキシ硬化触媒がアミン化合物である請求項1〜3のいずれか1項記載の前処理ポリエステル繊維の製造方法。
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