JP2013253328A - ゴム補強用短繊維、その製造方法及びそれを用いた成形体 - Google Patents

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Abstract

【課題】補強効果および耐疲労性に優れたポリエチレンナフタレートからなるゴム補強用短繊維および、それを用いたゴムと短繊維からなる成形体を提供すること。
【解決手段】エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルからなるゴム補強用短繊維であって、短繊維を構成するポリエステル分子の末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であり、短繊維表面における末端カルボキシル基量が10当量/ton以下であるゴム補強用短繊維である。さらには、短繊維の表面に、エポキシ基を有する表面処理剤が付着していることや、繊維表面のエポキシ指数が1.0×10−3当量/kg以下であること、短繊維の繊維長が0.3〜10mmであることが好ましい。または製造方法として、繊維内部に存在する分子の末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であるポリエチレンナフタレート繊維を表面処理して、繊維表面ににおける末端カルボキシル基量を10当量/ton以下とし、次いでカットするゴム補強短繊維の製造方法である。さらには、表面処理がエポキシ化合物を用いた処理であることや、表面処理をポリエチレンナフタレート繊維が無撚りの状態で行うものであることが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明はゴム補強用短繊維に関し、さらに詳しくは耐疲労性に優れるポリエチレンナフタレートからなるゴム補強用短繊維とゴム補強用短繊維の製造方法及びそれを用いてなる成形体に関する。
現在、ベルト、ホース、タイヤなどのゴム製品の力学的特性を向上させるため、ビニロン、ナイロン、ポリエステル、アラミドなどの短繊維を配合、補強する方法が様々検討されている(例えば特許文献1など)。低強度・低モジュラスのゴムに対し、高強度・高モジュラスの短繊維を配合しゴム繊維複合体とすることによりゴム製品の力学的特性を高め、ゴム製品の用途を拡大しているのである。
しかし疲労性が重視される用途では、繰り返しの負荷がかかるために、添加した短繊維が逆に欠点となり悪影響を及ぼすという問題があった。特に高い強度ではあるが、高いモジュラスを有する繊維において、その欠点は顕著となった。その理由としては、ゴムと短繊維との混練時には、剪断力によって生じる発熱により高温となるが、繊維は高いモジュラスを維持し続けるため、モジュラスの高い短繊維とモジュラスが低いゴムとの界面において、乖離が起こりやすくなっているからであると考えられている。
そこで比較的低い実際に使用される温度領域では高いモジュラスを有し、ゴムと短繊維との混練時のような製造工程途中の高温下では、モジュラスがある低下する繊維であれば、クラックの発生要因箇所を減少させうるとの考え方がある。そしてそのようなゴム補強用の短繊維として、特許文献2では、ポリエチレンナフタレート短繊維が提案されている。
しかし従来のポリエチレンナフタレート繊維では耐熱性が十分ではなく、ゴムの加硫工程における補強用繊維の強度低下や、ゴム成型物として高温領域で使用される場合の疲労性の低下を防止するためにさらなる改善が望まれていた。
特開平5−262919号公報 特開平9−256218号公報
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、補強効果および耐疲労性に優れたポリエチレンナフタレートからなるゴム補強用短繊維および、それを用いたゴムと短繊維からなる成形体を提供することにある。
本発明のゴム補強用短繊維は、エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルからなるゴム補強用短繊維であって、短繊維を構成するポリエステル分子の末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であり、短繊維表面における末端カルボキシル基量が10当量/ton以下であることを特徴とする。
さらには、短繊維の表面に、エポキシ基を有する表面処理剤が付着していることや、繊維表面のエポキシ指数が1.0×10−3当量/kg以下であること、短繊維の繊維長が0.3〜10mmであることが好ましい。または、この本発明のゴム補強用短繊維とゴムよりなる成形体である。
またもうひとつの本発明のゴム補強短繊維の製造方法は、繊維内部に存在する分子の末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であるポリエチレンナフタレート繊維を表面処理して、繊維表面ににおける末端カルボキシル基量を10当量/ton以下とし、次いでカットすることを特徴とする。
さらには、表面処理がエポキシ化合物を用いた処理であることや、表面処理をポリエチレンナフタレート繊維が無撚りの状態で行うものであることが好ましい。
本発明によれば、補強効果および耐疲労性に優れたポリエチレンナフタレートからなるゴム補強用短繊維および、それを用いたゴムと短繊維からなる成形体が提供される。
本発明のゴム補強用短繊維は、ポリエステル繊維を含有するものであり、該ポリエステル繊維が、エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルからなる繊維である。このポリエチレンナフタレートとしては、エチレン−2,6−ナフタレートであることが好ましい。そしてこのポリエステルの主たる繰返し単位の含有量としては、ポリエチレンナフタレートを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましく、強力維持率の点からは共重合成分を含まないホモポリマーであることがもっとも好ましい。
また本発明のゴム補強用短繊維としては、その短繊維内部の短繊維を構成するポリエステル分子の末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であり、短繊維表面における末端カルボキシル基量が10当量/ton以下であることが必須である。さらには、その繊維内部に存在するポリエステル分子の末端カルボキシル基量は16〜25当量/tonの範囲であることが好ましい。また繊維表面における末端カルボキシル基量は3〜9当量/tonの範囲であることが好ましい。またこれらの繊維中の末端カルボキシル基量と繊維表面の末端カルボキシル基量の差は5〜15当量/tonであることが好ましく、特には7〜13当量/tonであることが好ましい。
本発明者らは、ゴム補強用短繊維を構成するポリエチレンナフタレートにおいてはその繊維の表面に存在する分子末端のカルボキシ基量の存在がその耐久性に大きな影響を与えるのに対し、繊維内部に存在する分子の末端カルボキシル基量は従来の通説とは異なり耐久性への悪影響は少なく、逆に表面を被覆する樹脂との接着の観点から、末端カルボキシ基量が一定量以上必要であることを見出したのである。繊維内部のカルボキシ基量を多くすることにより繊維と表面処理剤との接着強度を高め、最終的にはゴム補強用短繊維として最適な物性となることを見出したのである。
さらには本発明のゴム補強用短繊維としては、そのポリエステル短繊維の表面に、エポキシ基を有する表面処理剤が付着していることが好ましい。特にはポリエステル繊維の内部に存在する分子の末端カルボキシル基量が元々15当量/ton以上あり、その繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着することにより、繊維表面の末端カルボキシル基量が10当量/ton以下となっていることが好ましい。このようにポリマー中のカルボキシル基が繊維表面においてエポキシ基と反応することにより、本発明のポリエステル繊維から構成されるゴム補強用短繊維は極めて優れた接着性能を有することができる。このとき繊維表面の末端カルボキシル基量が多く残存し過ぎる場合には、耐久性や接着性が低下する傾向にある。
本発明のゴム補強用短繊維の表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着している場合、表面処理剤としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の一種又は二種以上の混合物であるエポキシ化合物を含有することが好ましい。より具体的にはハロゲン含有のエポキシ類が好ましく、例えばエピクロルヒドリン多価アルコール又は多価フェノールとの合成によって得られるものを挙げることができ、グリセロールポリグリシジルエーテルやポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの化合物が好ましい。このようなエポキシ化合物を含む表面処理剤の繊維表面への付着量としては、0.05〜1.5重量%であることが好ましく、さらには0.10〜1.0重量%であることが好ましい。また表面処理剤には平滑剤、乳化剤、帯電防止剤やその他添加剤等を必要に応じて混合しても良い。
エポキシ基を有する表面処理剤が本発明のゴム補強用短繊維に付着している場合、その繊維表面におけるエポキシ指数としては、1.0×10−3当量/kg以下であることが好ましい。さらには表面処理ポリエステル繊維1kgあたりのエポキシ指数が0.01×10−3〜0.5×10−3当量/kgであることが好ましい。繊維表面のエポキシ指数が高すぎる場合には、未反応のエポキシ化合物が多くなる傾向にあり、たとえばゴム混錬工程の際に粘性を帯びたスカムがガイド類に大量に発生するなど、繊維の工程通過性が低下する問題が発生する傾向にある。
さらには、エポキシ基を有する表面処理剤が付着した本発明のゴム補強用短繊維には、さらにアルカリ性硬化触媒がその繊維表面に付着していることが好ましい。ここでアルカリ性硬化触媒としては、先に述べたエポキシ化合物を硬化させるエポキシ硬化剤であることが好ましい。このようなアルカリ性硬化触媒としては、アミン化合物を挙げることができ、中でも脂肪族アミン化合物であることが好ましい。さらに好ましくは炭素数4〜22の脂肪族アミンにエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドが2〜20モル付加したアミン化合物であることが好ましい。
さて本発明のゴム補強用短繊維はポリエステル繊維からなるものであるが、ここでポリエステル繊維の固有粘度としては0.50〜1.10の範囲であることが好ましい。さらには0.6〜1.05の範囲が、特には0.65〜0.95の範囲であることが好ましい。本発明に用いるポリエステル繊維においては、固有粘度が低すぎると繊維強度が低下する傾向に有り、ゴムの加硫工程での強力低下を十分に抑制すること困難となる傾向にある。
さらに本発明で用いられるポリエステル繊維としては、融点が275〜310℃であることが好ましい。融点が低すぎる場合には、工程における強力低下や、繊維コードの機械特性が温度上昇により劣化する傾向にある。
また、本発明にて用いられるポリエステル繊維の強度が7.0〜9.8cN/dtexであることが好ましい。繊維強度が低い場合には、ゴム補強用短繊維として十分な補強効果を得られない傾向にある。
本発明に用いられるポリエステル繊維はポリエチレンナフタレート繊維であって、X線広角回折より得られる結晶体積が100〜1200nmであり、結晶化度が30〜60%であることが好ましい。さらには結晶体積が250nm以上、特には550nm以上の範囲であることが好ましい。結晶体積が大きい場合には融点が高く耐熱性に優れ、耐疲労性も良好な繊維となる。また結晶化度としては35〜55%であることが好ましい。
ここで本願の結晶体積とは繊維の広角X線回折において、回折角が15〜16度、23〜25度、25.5〜27度の回折ピークから得られる結晶サイズの積である。ちなみにこのそれぞれの回折角はポリエチレンナフタレート繊維の結晶面(010)、(100)、(1−10)における面反射によるものであり、理論的には各ブラッグ反射角2θに対応するものであるが、全体の結晶構造の変化により若干シフトしたピークを有するものである。また、このような結晶構造はポリエチレンナフタレート繊維に特有のものである。例えば同じポリエステル繊維ではあっても、ポリエチレンテレフタレート繊維には存在しない。
このような本発明にて用いられるポリエチレンナフタレート繊維はX線広角回折の最大ピークが14〜28度の範囲にあるものであるが、さらには、耐熱性が高い繊維とするためには最大ピークが25.5〜27.0度の(1−10)面の結晶が大きく成長したものであることが好ましく、寸法安定性と高強力を高いバランスで両立させるためには23.0〜25.0度の(100)面の結晶が大きく成長したものであることが好ましい。
また、繊維が高い結晶化度であることにより、高い引張強度や高モジュラスを実現することが容易になる。本願の結晶化度(Xc)とは、比重(ρ)とポリエチレンナレフタレートの完全非晶密度(ρa)と完全結晶密度(ρc)とから下記の数式(1)により求めた値である。
結晶化度 Xc={ρc(ρ−ρa)/ρ(ρc−ρa)}×100 数式(1)
式中
ρ :ポリエチレンナフタレート繊維の比重
ρa :1.325(ポリエチレンナレフタレートの完全非晶密度)
ρc :1.407(ポリエチレンナレフタレートの完全結晶密度)
結晶化度を高めるためには、結晶体積を大きくするのと同じく、紡糸ドラフト比や延伸倍率等を高め、繊維を高倍率に引き伸ばすことによって得ることができる。
また紡糸前のポリマーの段階で、均一な結晶構造を形成させることが重要であり、たとえば特有のリン化合物をポリマーに含有させることによってそのような均一な結晶構造を実現させることが可能となる。このようなリン化合物としてはフェニルホスホン酸およびその誘導体であることが好ましく、特にフェニルホスホン酸は水酸基を有するため、そうでは無いフェニルホスホン酸ジメチルなどのアルキルエステルに比べて沸点が高く、真空下で飛散しにくいというメリットもある。
これら特有のリン化合物を溶融ポリマー中に直接添加することにより、ポリエチレンナフタレートの結晶性が向上し、その後の製造条件の下で結晶化度と、結晶体積のバランスの取れたポリエチレンナフタレート繊維を得ることができる。これはこの特有のリン化合物が、紡糸及び延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し結晶を微分散化させる効果であると考えられる。また従来ポリエチレンナフタレート繊維を高速紡糸することは非常に困難であったが、これらのリン化合物が添加されることにより、紡糸安定性が飛躍的に向上し、かつ断糸が起きない点から実用的な延伸倍率を高めることによって繊維を高強度化することができるようになった。
またこのようなリン化合物は、金属と共に用いることが好ましく、例えば二価金属とともに用いることが好ましい。さらにはリン化合物と共に、周期律表における第4〜5周期かつ3〜12族の金属元素およびMgの群より選ばれる少なくとも1種以上の金属元素が溶融ポリマー中に添加されていることが好ましい。特には繊維に含まれる金属元素が、Zn、Mn、Co、Mgの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であることが好ましい。中でも2価金属であることが好ましい。このような金属成分とリン化合物をポリマー中に含有することにより、均一なポリマー構造を実現させることが可能となるのである。
本発明に用いられるポリエステル繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、製糸性の観点から0.1〜100dtex/フィラメントであることが好ましい。特に強力、耐熱性や接着性の観点から、1〜20dtex/フィラメントであることが好ましい。一方、ポリエステル繊維を短繊維にカットする前の紡糸時の総繊度に関しては特に制限は無いが、10〜10,000dtexが好ましく、特に250〜6,000dtexであることが好ましい。
本発明のゴム補強用短繊維の短繊維長としては0.3〜10.0mmの長さが好ましい。0.3mm未満では短繊維による補強効果が得られにくい傾向にあり、また10.0mmより長い場合は短繊維同士が絡みが生じやすく、ゴム内で均一に分散しない傾向にある。
このような本発明のゴム補強用短繊維は、例えば以下の製造方法にて得ることが出来る。
本発明に用いられるポリエステル繊維は、エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルポリマーを溶融紡糸することにより得ることが出来る。このポリエステルの主たる繰返し単位の含有量としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
繊維の固有粘度としては0.60以上であることが好ましいが、そのためには、ポリマー段階での固有粘度は、生チップを固相重合するなどの手法により高め、紡糸前には0.65以上とすることが好ましく、さらには0.67〜1.0の範囲にすることが、特には0.70〜0.80の範囲にすることが好ましい。原糸中の末端カルボキシル基量を15当量/ton以上とするためには、ポリマー段階でも15〜30当量/ton、さらには16〜25当量/トン、特には18〜23当量/トンの範囲のポリエステルポリマーを用いることが好ましい。このように原糸中の末端カルボキシル基量を増加させるためには、生チップでの固有粘度を必要最小限に抑えたり、固相重合時の重合時間を短くするなどの方法や、紡糸時の溶融温度を高めるなどの方法を採用することが好ましい。
本発明に用いられるポリエステル繊維を得るための延伸方法としては、引取りローラーから一旦巻取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよいが、引取りローラーから連続的に延伸工程に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸することが生産性の面からも好ましい。また延伸条件としては1段でも良いが多段延伸であることが好ましく、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは繊維が実際に断糸する張力に対する、延伸を行う際の張力の比である。
このように高速にて紡糸する場合、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度以上の加熱紡糸筒を通過することが好ましい。加熱紡糸筒の長さとしては10〜500mmであることが好ましい。紡糸口金から吐出された直後のポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、このように加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましい。加熱紡糸筒を通過した紡出糸条は、次いで30℃以下の冷風を吹き付けて冷却することが好ましい。さらには25℃以下の冷風であることが好ましい。
本発明のゴム補強用ポリエステル短繊維は、上記のように紡糸、延伸して得られた長繊維を、所定の長さに切断することによって得ることが出来る。 さらに本発明に用いられるポリエステル繊維は、その繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着していることが好ましい。さらには無撚りの状態でエポキシ硬化触媒を含有する紡糸油剤を付与し、次いで延伸した後にエポキシ化合物を含有する仕上げ油剤を付与することが好ましい。すなわち本発明のゴム補強用短繊維の製造方法としては、エチレン−2,6−ナフタレートを主たる繰り返し単位とし、末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であるポリエステルポリマーを溶融吐出し、無撚りの状態でエポキシ硬化触媒を含有する紡糸油剤を付与し、次いで延伸した後にエポキシ化合物を含有する仕上げ油剤を付与し、短繊維にカットすることが好ましい。
ここでエポキシ基を有する表面処理剤とは、エポキシ化合物を含有するものであり、そのエポキシ化合物としては、例えば1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の一種又は二種以上の混合物であることが好ましい。より具体的にはハロゲン含有のエポキシ類が好ましく、例えばエピクロルヒドリン多価アルコール又は多価フェノールとの合成によって得られるものを挙げることができ、グリセロールポリグリシジルエーテルやポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの化合物が好ましい。このようなエポキシ基を有する表面処理剤の繊維表面への付着量としては、0.05〜1.5重量%、好ましくは0.10〜1.0重量%であることが好ましい。この表面処理剤には平滑剤、乳化剤、帯電防止剤やその他添加剤等を必要に応じて混合したものであることも好ましい。
また、表面処理剤中のエポキシは先に表面にて硬化させることが好ましく、そのためには表面処理剤を塗布する前の紡糸段階等にて、アルカリ性硬化触媒などをあらかじめ繊維表面に塗布し、その後エポキシ基を有する表面処理剤を塗布した後に熟成処理することが好ましい。
ここで用いるアルカリ性硬化触媒としては、特にはアミン化合物であることが好ましい。より具体的には、例えば脂肪族アミン化合物等の、さらに好ましくは炭素数4〜22の脂肪族アミンにエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドが2〜20モル付加したアミン化合物が最適である。硬化触媒の付与量としては、0.10〜2.0重量%が好ましく、さらには0.30〜1.0重量%であることが好ましい。
さらに、本発明のゴム補強用ポリエステル短繊維は、その表面に繊維・ゴム用のRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)系接着剤を付与したものであることが好ましい。長繊維から短繊維への切断は、RFL接着剤の付与の前後のいずれでも可能であるが、操業性の面からはRFL接着剤の付与後に切断することが好ましい。接着処理した本発明のゴム補強用ポリエステル短繊維は、未加硫ゴムに混練りし、ゴム中に短繊維を埋め込んでから加硫することによって、より好適な繊維・ゴム複合体とすることができる。
本発明のゴム補強用ポリエステル短繊維は、マトリックスの補強に適した高モジュラス、低収縮率の物性を保ちながら、ポリマー中のカルボキシル基末端の存在により、高い接着性を有している。また固有粘度が高く耐久性に優れた繊維であり、その繊維表面におけるカルボキシル基末端の量が少ないことにより、ゴム中での接着耐久性に優れた短繊維となった。
そのため特に本発明のゴム補強用ポリエステル短繊維は、ゴム中にて屈曲疲労をさせた後にもそのゴムとの接着性や耐疲労性を高いレベルを保つことができ、高温動的疲労後の接着性に極めて優れたゴム補強用のポリエステル短繊維となった。特に屈曲や高速回転等の運動を伴う繊維・ゴム複合体として、高負荷の動的歪がかけられた状態であっても高い耐疲労性を確保し、高いレベルにて各種要求特性を満たすことが出来たのである。
また、このようにして得られた本発明のゴム補強用ポリエステル短繊維は、ゴムと用いることにより強度と耐久性に優れた成形品とすることができる。例えば未加硫ゴムとゴム補強用短繊維をニーダー等にて混練し、分散させた後、加硫することにより短繊維補強ゴム成形品を得ることができる。得られた成形品は強度と高い対疲労性を有し、特に高温動的疲労後の接着性に優れたものであり、ベルト、ホース、タイヤ等各種の用途に最適に使用できる。
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
(1)固有粘度:
チップまたは繊維をフェノールとオルトジクロロベンゼンとの混合溶媒(容量比6:4)に溶解し、35℃でオストワルド型粘度計を用いて測定して求めた。IVと表記した。
(2)末端カルボキシル基量
粉砕機を用いて粉末状にしたポリエチレンナフタレートサンプル40.00グラムおよびベンジルアルコール100mlをフラスコに加え、窒素気流下で215±1℃の条件下、4分間にてポリエチレンナフタレートサンプルをベンジルアルコールに溶解させた。溶解後、室温にまでサンプル溶液を冷却させた後、フェノールレッドのベンジルアルコール0.1質量%溶液を適量添加し、N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液によって、速やかに滴定し、変色が起こるまでの滴下量をAmlとした。ブランクとして100mlのベンジルアルコールにフェノールレッドのベンジルアルコール0.1質量%を同量添加し、N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液によって、速やかに滴定し、変色が起こるまでの滴下量をBmlとした。それらの値から下記式によってポリエチレンナフタレートサンプル中の末端COOH基含有量(末端カルボキシル基量)を計算した。
末端COOH基含有量(当量/ton)=(A−B)×10×N×10/40
数式(2)
なお、ここで使用したベンジルアルコールは試薬特級グレードの物を蒸留し、遮光瓶に保管したものを利用した。N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液は、定法により事前に濃度既知の硫酸溶液によって滴定し、規定度Nを正確に求めたものを使用した。
(3)繊維表面末端カルボキシル基量
JIS K0070−3.1項 中和滴定法に準じて繊維表面のカルボキシル基量(酸価)を求めた。すなわち、繊維試料約5gにジエチルエーテル/エタノール=1/1溶液50mlを加え、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を数滴添加し、室温で15分間超音波振とうした。この溶液に0.1ml水酸化カリウムエタノール溶液(ファクター値f=1.030)で滴定し、指示薬のうすい紅色が30秒間続いたときを終点として指示薬滴下量を測定し、以下の式から酸価を算出した。
酸価A(当量/ton)=(B×1.030×100)/S 数式(3)
[ここで、Bは0.1ml水酸化カリウムエタノール溶液滴定量(ml)、Sは試料量(g)を表す。]
(4)比重、結晶化度
比重は四塩化炭素/n−ヘプタン密度勾配管を用い、25℃で測定した。得られた比重から下記の数式(4)より結晶化度を求めた。
結晶化度 Xc={ρc(ρ−ρa)/ρ(ρc−ρa)}×100 数式(4)
式中 ρ :ポリエチレンナフタレート繊維の比重
ρa :1.325(ポリエチレンナレフタレートの完全非晶密度)
ρc :1.407(ポリエチレンナレフタレートの完全結晶密度)
(5)結晶体積、最大ピーク回折角
繊維の結晶体積、最大ピーク回折角はBruker社製D8 DISCOVER with GADDS Super Speedを用いて広角X線回折法により求めた。
結晶体積は、繊維の広角X線回折において2Θがそれぞれ15〜16°、23〜25°、25.5〜27°に現れる回折ピーク強度の半価幅より、それぞれの結晶サイズをフェラーの式、
D=(0.94×λ×180)/(π×(B−1)×cosΘ) 数式(5)
(ここで、Dは結晶サイズ、Bは回折ピーク強度の半価幅、Θは回折角、λはX線の波長(0.154178nm=1.54178オングストローム)を表す。)
より算出し、下式により結晶1ユニットあたりの結晶体積とした。
結晶体積(nm)=結晶サイズ(2Θ=15〜16°)×結晶サイズ(2Θ=23〜25°)×結晶サイズ(2Θ=25.5〜27°) 数式(6)
最大ピーク回折角は、広角X線回折において強度が最も大きいピークの回折角を求めた。
(6)融点Tm
TAインスツルメンツ社製Q10型示差走査熱量計を用い、試料量10mgの繊維を窒素気流下、20℃/分の昇温条件で320℃まで加熱して現れた吸熱ピークの温度を融点Tmとした。
(7)エポキシ指数(EI)
加温処理後の該ポリエチレンナフタレート繊維をJIS K−7236に従ってエポキシ指数(EI:繊維1kgあたりのエポキシ当量数)を測定した。
(8)原糸の強伸度及び中間荷伸
短繊維に切断前のポリエステル原糸を用いた。引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。尚、中間荷重伸度伸は繊維の場合、強度4cN/dtex時の伸度である。
(9)原糸の乾熱収縮率
短繊維に切断前のポリエステル原糸を用いてJIS−L1013に従い、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置後、無荷重状態で、乾燥機内で180℃×30min熱処理し、熱処理前後の試長差より算出した。
(10)短繊維補強ゴム成形品の降伏引張強度、破断伸度
短繊維で補強したゴム成形品の補強効果と伸びを示すものであり、JIS K6301に従い、3号ダンベル状試験片を500mm/分の引張速度で切断させる際の降伏点荷重を試験片の断面積で割った値を降伏引張強度とし、切断時の標線間伸びを破断伸度とした。
(11)短繊維補強ゴム成形品の屈曲疲労寿命
短繊維で補強したゴム成形品の耐疲労性を判定する指標であり、東洋製機(株)のデマチア屈曲疲労試験機を用い、3号ダンベル状試験片を80℃雰囲気下、5Hzの周期で25%屈曲させ、亀裂が生じるまでの回数を、屈曲疲労寿命とした。
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100重量部とエチレングリコール50重量部との混合物に酢酸マンガン四水和物0.030重量部、酢酸ナトリウム三水和物0.0056重量部を攪拌機、蒸留搭及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行い、引き続いてエステル交換反応が終わる前にフェニルホスホン酸(PPA)を0.03重量部(50ミリモル%)を添加した。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.024重量部を添加して、攪拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、305℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空下で縮合重合反応を行い、常法に従ってチップ化して極限粘度0.62のポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。このチップを65Paの真空度下、120℃で2時間予備乾燥した後、同真空下240℃で10〜13時間固相重合を行い、極限粘度0.71のポリエチレンナフタレート樹脂チップを得た。
高カルボキシル基末端を有するポリエチレンテレフタレートチップを用い、溶融紡糸法により高速紡糸、多段延伸し、表面にエポキシ処理することにより、下記のようなポリエステル繊維を準備した。
このとき紡糸油剤としては、グリセリントリオレート65部、POE(10)ラウリルアミノエーテル12部、POE(20)硬化ヒマシ油エーテル8部、POE(20)硬化ヒマシ油トリオレート12部、POE(8)オレイルホスフェートNa2部、酸化防止剤1部からなる油剤組成分10部を50℃に加温したものを用意した。
また、仕上油剤としては、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX−512」)60部、ジイソオクチルアゼレート30部、POE(8)硬化ヒマシ油エーテル8部、ジイソオクチルスルホサクシネートNa2部からなる油剤組成分45部を40℃に加温した後、40℃に加温した軟化水55部にゆっくり添加しながら攪拌したのち、18℃に冷却したものを用意した。
そして上記ポリエチレンテレフタレートチップを305℃の溶融温度で紡糸することにより、紡糸口金より紡出され、475m/分で引き取られた未延伸糸には、上記の紡糸油剤を繊維100部に対して油剤付着分0.4部となるように付与した後、ローラーを用い、合計延伸倍率が5.90倍になるように2段延伸し、引き続きローラー間で延伸倍率1.0倍の処理したのち、上記の仕上油剤を繊維100部に対して油剤付着分が0.2重量部(エポキシ化合物成分付着量0.12重量%)となるようにローラー式油剤付与法で付与し、インターレース(IL)ノズルで交絡を付与したのちに2800m/分の速度で各10kgを捲取った。そうして得られた繊維を、30℃の温度下で360時間の熟成処理した。
得られた繊維は、固有粘度が0.65、繊度が1112dtex、強度が8.4cN/dtex、伸度が12%の力学特性を有し、末端カルボキシル基量は17当量/tonであり、融点が280℃で、表面エポキシ基量は0.1×10−3当量/kgであった。
得られた延伸糸をレゾルシン・ホルマリン・ラテックス系接着剤に浸漬し、175℃の雰囲気下で1分間乾燥させた後、230℃の雰囲気下で2分間熱処理した。かくして得られた接着処理ポリエステル繊維を、カッター刃により切断し、繊維長が3.0mmの短繊維を得た。
このゴム補強用短繊維を、天然ゴム、スチレンブタジエンを主成分とする未加硫ゴム中にそれぞれ5容量%配合し、MS式加圧ニーダー(DS3―10MHHS,森山製作所(株)製)を使用し、3分間混練した。短繊維が配向するように適当な厚さにシート出しを行い、プレス加硫によりゴムシートを作り、短繊維の配向方向にサンプルを切り出し短繊維補強ゴム成形品とし、性能を評価した。
[比較例1]
固有粘度が0.74のポリエチレンナフタレートチップを用い、295℃で溶融紡糸を行い、物性を揃えるために延伸条件を微調整した以外は、実施例1と同様のポリエステル繊維を準備した。
このもののポリエステル原糸の繊度は実施例1と同じ1112dtex、固有粘度が0.71のポリエステル繊維であった。実施例1と比較し、繊維の末端カルボキシル基量が10当量/tonと少ないものの通常の剥離接着力は得られており、耐熱強力維持率も十分なものであった。しかし、得られた短繊維を用いた短繊維補強ゴム成形品の屈曲寿命疲労は、実施例1に劣るものであった。評価結果を表1に示した。
[比較例2]
比較例1と異なりエポキシ化合物を付与せず、紡糸油剤からもアミン成分を抜いた非アミン系の紡糸油剤を用いた以外は、比較例1と同様に行った。比較例1と比べ、耐熱強力維持率が低く、短繊維補強ゴム成形品の屈曲寿命疲労も実施例1に劣るものであった。評価結果を表1に合わせて示した。
[実施例2]
実施例1の紡糸速度を475m/分から4000m/分とし、延伸速度を2800m/分から4200m/分とし、延伸倍率を調整した以外は、実施例1と同様に行い、固有粘度が0.65、繊度が1110dtex、強度が7.2cN/dtex、伸度が8%の力学特性を有したポリエステル原糸を得た。このものの末端カルボキシル基量は17当量/tonであり、融点が296℃で、表面エポキシ基量は0.1×10−3当量/kgであった。
さらに実施例1と同様にして短繊維ゴム成型品として評価したところ、優れた補強性と耐疲労性を有するものであった。評価結果を表1に合わせて示した。
[比較例3]
比較例1と同様のポリエチレンナフタレートチップを用い、物性を揃えるために延伸条件を微調整し、エポキシ化合物を付与せず、紡糸油剤からもアミン成分を抜いた非アミン系の紡糸油剤を用いた以外は、実施例2同様の短繊維ゴム成型品を準備した。実施例2に比べ、補強性、耐疲労性に劣るものであった。評価結果を表1に合わせて示した。
[実施例3]
実施例2の紡糸速度を4200m/分から5500m/分とし、延伸倍率を調整した以外は、実施例1と同様に行い、固有粘度が0.65、繊度が1110dtex、強度が8.8cN/dtex、伸度が8%の力学特性を有したポリエステル原糸を得た。このものの末端カルボキシル基量は17当量/tonであり、融点が278℃で、表面エポキシ基量は0.1×10−3当量/kgであった。
さらに実施例1と同様に短繊維とし、短繊維ゴム成形品とした。補強性、耐疲労性とも優れた効果が得られた。評価結果を表1に合わせて示した。
[比較例4]
比較例1と同様の低カルボキシル基末端を有するポリエチレンナフタレートチップを用い、物性を揃えるために延伸条件を微調整し、エポキシ化合物を付与せず、紡糸油剤からもアミン成分を抜いた非アミン系の紡糸油剤を用いた以外は、実施例3同様の短繊維および短繊維ゴム成形品とした。実施例3に比べ、補強性、耐疲労性とも劣るものであった。評価結果を表1に合わせて示した。
Figure 2013253328

Claims (8)

  1. エチレンナフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルからなるゴム補強用短繊維であって、短繊維を構成するポリエステル分子の末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であり、短繊維表面における末端カルボキシル基量が10当量/ton以下であることを特徴とするゴム補強用短繊維。
  2. 短繊維の表面に、エポキシ基を有する表面処理剤が付着している請求項1記載のゴム補強用短繊維。
  3. 繊維表面のエポキシ指数が1.0×10−3当量/kg以下である請求項1または2記載のゴム補強用短繊維。
  4. 短繊維の繊維長が0.3〜10mmである請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用短繊維。
  5. 繊維内部に存在する分子の末端カルボキシル基量が15当量/ton以上であるポリエチレンナフタレート繊維を表面処理して、繊維表面ににおける末端カルボキシル基量を10当量/ton以下とし、次いでカットすることを特徴とするゴム補強用短繊維の製造方法。
  6. 表面処理がエポキシ化合物を用いた処理である請求項5記載のゴム補強用短繊維の製造方法。
  7. 表面処理をポリエチレンナフタレート繊維が無撚りの状態で行う請求項5または6記載のゴム補強用短繊維の製造方法。
  8. 請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用短繊維とゴムよりなる成形体。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2018145533A (ja) * 2017-03-01 2018-09-20 帝人株式会社 ゴムまたは樹脂補強用短繊維の製造方法

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