JP5542084B2 - ゴム補強用ポリエステル繊維 - Google Patents

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Description

本発明はゴム補強用繊維に関し、さらに詳しくは、高温動的疲労後の接着性に優れたゴム補強用ポリエステル繊維に関する。
ポリエチレンテレフタレート及びその誘導体に代表されるポリエステル繊維は、優れた機械力学特性、物理的・化学的特性を有し、工業的に大量生産され、その用途は産業資材をはじめ多岐に渡っている有用な繊維である。特に高強度でかつ寸法安定性に優れたポリエステル繊維は、タイヤ、ベルト、ホース等のゴム資材の補強材として、非常に好適な素材であり、最近ますます高度の性能が要求されている。例えばVベルト等のベルト用コードとしてはメンテナンスフリーのために高モジュラス化、さらに大型の高負荷ラップドベルト用コードとしても更なる耐疲労性が要求されている。他方、タイヤコード用としてはタイヤ成形時の歩留り向上のため、さらに低収縮化や乗り心地向上のための高モジュラス化、また大型タイヤの運用のための耐疲労性の向上等が要求されている。
しかし、他の汎用ゴム補強用繊維であるレーヨン等に比べると、ポリエステル繊維は高強力ではあるものの、モジュラスが低く、収縮率が大きいという性質が有った。そこでポリエステル繊維を高モジュラス化、低収縮率化するために、高配向な未延伸糸から出発し、それを延伸する方法が用いられている(特許文献1や特許文献2等)。さらに紡糸性を向上させるために、紡糸油剤を工夫したりするなどの改良が、現在でも引き続き行われている(特許文献3等)。
また、ポリエステル繊維は極性が低い分子構造からなるために、ゴムとの接着性について基本的に問題を有している。そのため、ポリエステル繊維とゴムとの接着剤として、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス(RFL)系接着剤を汎用的に用い、さらにその改良が検討されている。通常はRFL系接着剤で処理する前に、繊維を接着性向上剤にて前処理する二浴処理方法が広く採用されている。そのほか、この二浴処理方法をポリエステル繊維側の改良にて対応する方法として、接着性向上剤をあらかじめ紡糸工程にて付与する前処理ポリエステル繊維が知られている。(例えば特許文献4や特許文献5)
しかしいずれの方法によっても、これら従来の方法によって得られるポリエステル繊維は、特にベルト等に要求されるゴム中の高温動的疲労後の接着性において、いまだ不満足な性能であるという問題が有った。
特開昭53−58032号公報 特開昭57−154410号公報 特開平7−70819号公報 特開昭52−96234号公報 特開2000−355875号公報
本発明はゴムとの接着において、高温動的疲労後の接着性に極めて優れたゴム補強用ポリエステル繊維を提供することにある。
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とする、固有粘度が0.85以上のポリエステルからなる繊維であって、繊維中の末端カルボキシル基量が20当量/ton以上、X線小角回折による長周期が9〜12nmかつ繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着していることを特徴とする。
さらには、繊維表面の末端カルボキシル基量が10当量/ton以下であることや、繊維横軸方向の結晶サイズが35〜80nmであること、繊維中の末端メチル基量が2当量/ton以下であること、繊維中の酸化チタン含有量が0.05〜3重量%であること、繊維表面のエポキシ指数が1.0×10−3当量/kg以下であることが好ましい。
本発明によれば、ゴムとの接着において、高温動的疲労後の接着性に極めて優れたゴム補強用ポリエステル繊維が提供される。
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルからなる繊維である。このポリエステルの主たる繰返し単位の含有量としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
またこのポリエステル繊維の固有粘度としては0.85以上であることが必要であり1.10以下であることが好ましい。さらには0.89〜1.05の範囲が、特には0.90〜1.00の範囲であることが好ましい。固有粘度が0.85未満であるとポリエステル繊維の強度が十分ではなく、特にゴム加硫工程での強力低下を十分に抑制することが出来ない。
さらに本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、X線小角回折による長周期が9〜12nmであることが必要である。ここでいうX線小角回折による長周期とは繊維縦軸方向(繊維を紡糸する方向)のポリエステルポリマーにおける結晶と結晶の間隔のことである。本発明のゴム補強用ポリエステル繊維におけるこの長周期は、結晶間の間隔が短いことを示している。その結果として、結晶と結晶とを直接に結ぶタイ分子の数が多くなり、ゴム補強用繊維として用いた場合のゴム中における繊維の強力維持率を高く保つことができるのである。このため、後に述べるように繊維ポリマー中の末端カルボキシル基量が従来より多い場合であっても、エポキシ処理等の表面処理を伴うことにより、十分な耐久性を得ることが可能となった。また繊維の長周期をこのような範囲とすることにより、繊維の物性を高モジュラス、低収縮率のゴム補強用繊維に適した物性となる。
長周期をこのように12nm以下とするためには高速紡糸することにより得ることが可能であり、低速紡糸ではこの長周期の値が大きくなってしまう。また高速紡糸化にも限度があり長周期としては9nmの範囲が下限となる。さらにはX線小角回折による長周期としては10nm〜11nmの範囲であることが好ましい。
また、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、繊維横軸方向(繊維を紡糸する方向に垂直な方向)の結晶サイズが35〜80nmの範囲であることが好ましい。本発明のポリエステル繊維は、その繊維縦軸の結晶の間隔である長周期が12nm以下と短いが、高強力繊維とするためには結晶の大きさも必要であり、本発明においては繊維の横軸方向の結晶サイズが35nm以上に成長することが好ましい。ただし結晶サイズが大きすぎても繊維が剛直となり疲労性が低下するため、80nm以下であることが好ましい。さらには繊維横軸方向の結晶サイズとしては40〜70nmの範囲であることが好ましい。このように繊維の横軸方向に結晶が成長することにより、タイ分子が繊維横軸方向へも発達しやすいため、繊維の縦横方向に3次元的な構造が構築され、本発明のようなゴム補強用に特にふさわしい繊維となる。またこのような3次元構造をとることにより、繊維の損失係数Tanδが低くなる。結果として繰返し応力下での発熱量を抑制でき、繰返し応力を与えた後の接着性能を高く保つことが可能となり、ゴム補強用途に特に好ましい繊維となる。
さらに本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、そのポリマー全体のカルボキシル基量が20当量/ton以上であり、その繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着していることが必要である。従来、特に高温や高振動などの高負荷の環境下にて用いられるゴム補強用ポリエステル繊維においては、その耐熱劣化性を向上させる目的等のため、ポリマーのカルボキシル基量を15当量/ton、以下、さらに理想的には10当量/ton以下に保つことが常識的な手法であった。しかしゴム補強用ポリエステル繊維には、繊維の強力維持以外にゴムとの接着性維持の必要性が高く、本発明のポリエステル繊維のようにX線小角回折による長周期が9〜12nmと小さく、かつ表面にエポキシ処理を行った場合には、20当量/ton以上のカルボキシル基量が、ゴム補強用としてはもっとも適していることを本発明者らは見出したのである。さらにはポリマー中のカルボキシル基量としては好ましくは末端カルボキシル基量の上限としては40当量/ton以下、さらには30当量/ton以下、もっとも好ましくは21〜25当量/tonの範囲であることが好ましい。
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維の表面には、エポキシ基を有する表面処理剤が付着している。ここで表面処理剤としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の一種又は二種以上の混合物であるエポキシ化合物を含有することが好ましい。より具体的にはハロゲン含有のエポキシ類が好ましく、例えばエピクロルヒドリン多価アルコール又は多価フェノールとの合成によって得られるものを挙げることができ、グリセロールポリグリシジルエーテルやポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの化合物が好ましい。このようなエポキシ化合物を含む表面処理剤の繊維表面への付着量としては、0.05〜1.5重量%、好ましくは0.10〜1.0重量%であることが好ましい。表面処理剤には平滑剤、乳化剤、帯電防止剤やその他添加剤等を必要に応じて混合しても良い。
この本発明のエポキシ基を有する表面処理剤が付着したゴム補強用ポリエステル繊維は、その繊維表面におけるエポキシ指数が、1.0×10−3当量/kg以下であることが好ましい。さらには表面処理ポリエステル繊維1kgあたりのエポキシ指数が0.01×10−3〜0.5×10−3当量/kgであることが好ましい。繊維表面のエポキシ指数が高い場合には、未反応のエポキシ化合物が多い傾向にあり、たとえば撚糸工程で粘性を帯びたスカムがガイド類に大量に発生するなど、繊維の工程通過性が低下するとともに、撚糸斑等の製品品位の低下を招く問題が発生する。
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、エポキシ基を有する表面処理剤が付着したものであるが、さらにエポキシ硬化触媒がその繊維表面に付着していることが好ましい。ここでエポキシ硬化触媒としては、本発明の必須成分であるエポキシ化合物を硬化させる硬化剤である。好ましいエポキシ硬化触媒としては、具体的にはアミン化合物を挙げることができ、中でも脂肪族アミン化合物であることが好ましい。さらに好ましくは炭素数4〜22の脂肪族アミンにエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドが2〜20モル付加したアミン化合物であることが好ましい。
そして、このような本発明のゴム補強用ポリエステル繊維の表面(原糸表面)の末端カルボキシル基量としては、10当量/ton以下であることが好ましい。本発明のゴム補強用ポリエステル繊維におけるポリマー全体のカルボキシル基量は、前述のとおり20当量/ton以上であるが、繊維表面に付着しているエポキシ化合物との反応により繊維表面のカルボキシル基量としては、それより少ない10当量/ton以下となっていることが好ましい。このようにポリマー中のカルボキシル基が繊維表面においてエポキシ基と反応することにより、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は極めて優れた接着性能を有することができる。このとき繊維表面の末端カルボキシル基量が多く残存し過ぎる場合には、耐熱性や接着性が低下する傾向にある。
また、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、その繊維中の末端メチル基量が2当量/ton以下であることが好ましい。さらには末端メチル基が含まれていないことが好ましい。ポリエステルポリマー中のメチル基は反応性が低くエポキシ基と反応しないためである。このようなポリエステルポリマー中の末端メチル基は、原料中のテレフタル酸ジメチルに起因するものであることが多い。そのため、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、テレフタル酸ジメチルを用いない直重法(直接エステル化法)によるポリエステルポリマーからなるものであることが好ましい。繊維を構成するポリマー中に、末端メチル基が無い、あるいは少ない場合には、表面処理剤中のエポキシ基との高い反応性が確保され、高い接着性や表面保護性能を確保することが可能となる。
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維においては、繊維中の酸化チタン含有量が0.05〜3重量%の範囲であることが好ましい。通常高強力ポリエステル繊維においては、酸化チタンの含有は異物による製糸性の低下につながるために避けられることが多かった。しかし生産工程中の摩擦による強力の低下や、ゴム中でのポリエステル繊維の疲労性の低下を防止する目的からは、最終製品の強力を維持する観点からもこのような少量の酸化チタンをポリエステル繊維中に含有することが好ましい。酸化チタン含有量が0.05重量%より少ないと延伸工程等でローラーと繊維の間に働く応力を分散させるための平滑効果が不十分となる傾向にあり、最終的に得られる繊維の高強度化に不利となる傾向にある。逆に含有量が3重量%より多い場合には、酸化チタンがポリマー内部において異物として働き、延伸性を阻害し、最終的に得られる繊維の強度も低下する傾向にある。
このような本発明のゴム補強用ポリエステル繊維の強度としては、4.0〜10.0cN/dtexの範囲であることが好ましい。さらには5.0〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも結果的にはゴム中での耐久性に劣る傾向にある。例えば、ぎりぎりの高強度での生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり、工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。
また繊維の180℃の乾熱収縮率は、1〜15%であることが好ましい。乾熱収縮率が高すぎる場合、加工時の寸法変化が大きくなる傾向にあり、繊維を用いた成形品の寸法安定性が劣るものとなりやすい。
本発明のポリエステル繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、製糸性の観点から0.1〜100dtex/フィラメントであることが好ましい。特にホース、ベルト等のゴム補強用繊維や、産業資材用繊維としては、強力、耐熱性や接着性の観点から、1〜20dtex/フィラメントであることが好ましい。
総繊度に関しても特に制限は無いが、10〜10,000dtexが好ましく、特にホース、ベルト等のゴム補強用繊維や、産業資材用繊維としては、250〜6,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては例えば1,000dtexの繊維を2本合糸して総繊度2,000dtexとするように、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に2〜10本の合糸を行うことも好ましい。
このような本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、例えば以下の製造方法にて得ることが出来る。
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルポリマーを溶融紡糸することにより得ることが出来る。このポリエステルの主たる繰返し単位の含有量としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
また、ポリエステルポリマーの重合方法としては、工業的には現在テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールから作られるDMT法(エステル交換法)と、テレフタル酸とエチレングリコールから作られる直重法(直接エステル化法)とがあるが、本発明ではいずれの方法を用いることも可能である。しかし、DMT法で作られたポリエチレンテレフタレートには、その末端基として、本発明において必須のカルボキシル基に加えて、テレフタル酸ジメチルに起因したメチル基末端が存在する。先に述べたようにこのメチル基末端は、表面処理剤であるエポキシ基との反応を阻害するために少ないことが好ましく、本発明においては、ポリエステルポリマーとしては、末端メチル基が存在しない、直重法で作られるポリエステルであることが好ましい。直重法ポリエステルポリマーを用いることにより、繊維表面に置けるカルボキシル基とエポキシ基との反応性をより高いレベルにて確保することが可能になり、好ましい。
繊維の固有粘度を0.85以上とするためには、ポリマー段階での固有粘度は、生チップを固相重合するなどの手法により高め、紡糸前には0.9以上とすることが好ましく、さらには0.93〜1.10の範囲にすることが、特には0.95〜1.07の範囲にすることが好ましい。原糸中の末端カルボキシル基量を20当量/ton以上とするためには、ポリマー段階でも15〜30当量/ton、さらには16〜25当量/トン、特には18〜23当量/トンの範囲のポリエステルポリマーを用いることが好ましい。
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維のX線小角回折による長周期を9〜12nmにするためには、高配向な未延伸糸から出発し、それを延伸する方法により、繊維を高モジュラス化、低収縮率化することにより、得ることが可能である。
高配向の未延伸糸を得るために、本発明のポリエステル繊維は、高速にて紡糸することが好ましく、紡糸速度としては2000〜6000m/分であることが好ましい。この場合、延伸前に得られる繊維は部分配向糸となる。また延伸する条件としては、紡糸後に1.5〜5.0倍に延伸することが好ましい。このように紡糸後に延伸することによって、より高強度の延伸繊維を得ることが可能である。
本発明のポリエステル繊維を得るための延伸方法としては、引取りローラーから一旦巻取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよいが、引取りローラーから連続的に延伸工程に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸することが生産性の面からも好ましい。また延伸条件としては1段でも良いが多段延伸であることが好ましく、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは繊維が実際に断糸する張力に対する、延伸を行う際の張力の比である。
このように高速にて紡糸する場合、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度以上の加熱紡糸筒を通過することが好ましい。加熱紡糸筒の長さとしては10〜500mmであることが好ましい。紡糸口金から吐出された直後のポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、このように加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましい。加熱紡糸筒を通過した紡出糸条は、次いで30℃以下の冷風を吹き付けて冷却することが好ましい。さらには25℃以下の冷風であることが好ましい。
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維はその繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着しているが、ここでエポキシ基を有する表面処理剤は、エポキシ化合物を含有するものであり、そのエポキシ化合物としては、例えば1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の一種又は二種以上の混合物であることが好ましい。より具体的にはハロゲン含有のエポキシ類が好ましく、例えばエピクロルヒドリン多価アルコール又は多価フェノールとの合成によって得られるものを挙げることができ、グリセロールポリグリシジルエーテルやポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどの化合物が好ましい。このようなエポキシ基を有する表面処理剤の繊維表面への付着量としては、0.05〜1.5重量%、好ましくは0.10〜1.0重量%であることが好ましい。この表面処理剤には平滑剤、乳化剤、帯電防止剤やその他添加剤等を必要に応じて混合したものであることも好ましい。
また、表面処理剤中のエポキシは先に表面にて硬化させることが好ましく、そのためには表面処理剤を塗布する前の紡糸段階等にて、エポキシ硬化触媒などをあらかじめ繊維表面に塗布し、その後エポキシ基を有する表面処理剤を塗布した後に熟成処理することが好ましい。
ここで用いるエポキシ硬化触媒としては、アルカリ性硬化触媒であることが好ましく、中でもアミン化合物であることが好ましい。より具体的には、例えば脂肪族アミン化合物等の、さらに好ましくは炭素数4〜22の脂肪族アミンにエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドが2〜20モル付加したアミン化合物が最適である。硬化触媒の付与量としては、0.10〜2.0重量%が好ましく、さらには0.30〜1.0重量%であることが好ましい。
本発明のゴム補強用繊維は、上記のような製造方法にて得られたものであるが、さらにはゴム補強に用いるためには、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維をマルチフィラメントとし、撚りを掛けてコードの形態として用いることも好ましい。このようなゴム補強用ポリエステル繊維コードは、マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、強力利用率が平均化し、そのゴム中疲労性が向上する。撚り数としては50〜1000回/mの範囲であることが好ましく、下撚りと上撚りを行い合糸したコードであることも好ましい。合糸する前の糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や柔軟性がより向上する。繊度が小さすぎる場合には強度が不足する傾向にある。逆に繊度が大きすぎる場合には太くなりすぎて柔軟性が得られない問題や、紡糸時に単糸間の膠着が起こりやすく安定した繊維の製造が困難となる傾向にある。
さらに、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、その表面に繊維・ゴム用のRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)系接着剤を付与したものであることが好ましい。接着処理した本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、未加硫ゴムに埋め込み加硫することによって、繊維・ゴム複合体とすることができ、ゴム資材であるベルトやホース等として、最適に使用することができる。
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、高モジュラス、低収縮率の物性を保ちながら、ポリマー中のカルボキシル基末端と表面処理剤中のエポキシ基が反応し、高い接着性を有している。また固有粘度が高く繊維軸方向の長周期が小さく、耐久性に優れた繊維であり、その繊維表面におけるエポキシ基とカルボキシル基末端による表面保護効果との相乗効果により、ゴム中での接着耐久性に極めて優れた繊維となった。そのため特に本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、ゴム中にて屈曲疲労をさせた後にもそのゴムとの接着性や耐疲労性を高いレベルを保つことができ、高温動的疲労後の接着性に極めて優れたゴム補強用のポリエステル繊維となった。特にVベルト等の屈曲や高速回転等の運動を伴う繊維・ゴム複合体として、高負荷の動的歪がかけられた状態であっても高い耐疲労性を確保しながら、高モジュラス・低収縮率であるためのメンテナンスフリー性なども併せ持ち、高いレベルにて各種要求特性を満たすことが出来たのである。
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
(1)固有粘度:
ポリエステルチップ、ポリエステル繊維を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。IVと表記した。
(2)末端カルボキシル基量
粉砕機を用いて粉末状にしたポリエステルサンプル40.00グラムおよびベンジルアルコール100mlをフラスコに加え、窒素気流下で215±1℃の条件下、4分間にてポリエステルサンプルをベンジルアルコールに溶解させた。溶解後、室温にまでサンプル溶液を冷却させた後、フェノールレッドのベンジルアルコール0.1質量%溶液を適量添加し、N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液によって、速やかに滴定し、変色が起こるまでの滴下量をAmlとした。ブランクとして100mlのベンジルアルコールにフェノールレッドのベンジルアルコール0.1質量%を同量添加し、N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液によって、速やかに滴定し、変色が起こるまでの滴下量をBmlとした。それらの値から下記式によってポリエステルサンプル中の末端COOH基含有量(末端カルボキシル基量)を計算した。
末端COOH基含有量(当量/ton)=(A−B)×10×N×10/40
なお、ここで使用したベンジルアルコールは試薬特級グレードの物を蒸留し、遮光瓶に保管したものを利用した。N規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液は、定法により事前に濃度既知の硫酸溶液によって滴定し、規定度Nを正確に求めたものを使用した。
(3)繊維表面末端カルボキシル基量
JIS K0070−3.1項 中和滴定法に準じて繊維表面のカルボキシル基量(酸価)を求めた。すなわち、繊維試料約5gにジエチルエーテル/エタノール=1/1溶液50mlを加え、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を数滴添加し、室温で15分間超音波振とうした。この溶液に0.1ml水酸化カリウムエタノール溶液(ファクター値f=1.030)で滴定し、指示薬のうすい紅色が30秒間続いたときを終点として指示薬滴下量を測定し、以下の式から酸価を算出した。
酸価A(当量/ton)=(B×1.030×100)/S
[ここで、Bは0.1ml水酸化カリウムエタノール溶液滴定量(ml)、Sは試料量(g)を表す。]
(4)末端メチル基量
ポリエステルを加水分解して酸成分、グリコール成分にした後、ガスクロマトグラフィーにて酸のメチルエステル成分を定量し、この値から算出した。
(5)酸化チタン含有量
各元素の含有量は、蛍光X線装置(リガク社 3270E型)を用いて測定し、定量分析を行った。この蛍光X線測定の際には、ポリエステル繊維樹脂ポリマーを圧縮プレス機でサンプルを2分間260℃に加熱しながら、7MPaの加圧条件下で平坦面を有する試験成形体を作成し、測定を実施した。
(6)繊維横軸方向結晶サイズ(X線回折)
ポリエステル組成物・繊維のX線回折測定については、X線回折装置(株式会社リガク製RINT−TTR3、Cu‐Kα線、管電圧:50kV、電流300mA、平行ビーム法)を用いて行った。長周期間隔はX線小角散乱測定装置を用い従来公知の方法、即ち波長1.54ÅのCu−Kα線を線源とし、繊維軸に直角に照射して得られる子午線干渉の回折線よりブラックの式を用いて算出した。繊維横軸方向結晶サイズはX線広角回折から赤道線走査の(010)(100)強度分布曲線の半価幅よりシエラーの式を用いて求めた。
(7)エポキシ指数(EI)
加温処理後の該ポリエステル繊維をJIS K−7236に従ってエポキシ指数(EI
:繊維1kgあたりのエポキシ当量数)を測定した。
(8)繊維の強伸度及び中間荷伸、
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。尚、中間荷伸は強度4cN/dtex時の伸度を表した。
(9)乾熱収縮率
JIS−L1013に従い、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置後、無荷重状態で、乾燥機内で180℃×30min熱処理し、熱処理前後の試長差より算出した。
(10)耐熱強力維持率
ポリエステル繊維2本を、上撚470回/m、下撚470回/mを掛けたものを生コードとして、その生コードをRFL接着剤に付漬し、張力下で240℃で2分間処理した処理コードの強力を測定したものを強力Aとする。その後、処理コードを加硫モールド中に埋め込み、80℃で120分、促進加硫した処理コードを抜き出し、強力を測定したものを強力Bとし、強力維持率をB/A(%)の式でもとめた。
(11)初期剥離接着力
処理コードとゴムとの接着力を示すものである。コードを36本/2.54cm(inch)で引きそろえ、0.5mm厚の天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴムシートで挟みつける。これらのシートを、直行するように重ねあわせ、150℃の温度で、30分間、50kg/cmのプレス圧力で加硫し、次いで、コード方向に沿って短冊状に切り出す。作成したサンプルの短冊に沿った方のシートをゴムシート面に対し90度の方向へ200mm/分の速度で剥離するのに要した力をN/2.54cm(inch)で示したものである。なおこの初期剥離接着力は室温にて測定したものである。
(12)動的疲労後のゴムとの接着性能評価(シューシャイン測定)
2.5mm厚のSBR/NR系ゴムを挟んで、得られたコードを26本/2.54cm(inch)の密度で互いに平行に並べた2層のプライを作成し、さらに各プライ層の外側を1.5mm厚のSBR/NR系ゴムでカバーのち、温度150℃で30分間、90kg/cmの条件で加硫して、長さ500mm、幅5mm、厚み5.5mmのベルトを作成した。
次いで、このベルトを50kg/2.54cm(inch)の荷重を印加して直径50mmのプーリーに取付け、温度100℃にて5時間にわたり30,000サイクルの繰返し伸張圧縮疲労を加えた。伸張圧縮疲労後のベルトのプライ間を300mm/分の速度で剥離し、得られる平均剥離接着力(N/2.54cm(inch))を高温動的疲労後の接着力として求めた。
この評価方法は、動的たわみ試験であり、いわゆるシューシャイン試験と呼ばれている評価方法である。
[実施例1]
高カルボキシル基末端を有するポリエチレンテレフタレートチップを用い、溶融紡糸法により高速紡糸、多段延伸し、表面にエポキシ処理することにより、下記のようなポリエステル繊維を準備した。
このとき、用いたポリエチレンテレフタレートチップは、固相重合後チップの固有粘度(35℃オルトクロロフェノール溶媒にて測定)が1.03で、末端カルボキシル基量が20当量/トン、末端メチル基量が0当量/トンであり、酸化チタン含有量が0.05wt%である直重法によって得られたポリエチレンテレフタレートチップであった。
一方紡糸油剤としては、グリセリントリオレート65部、POE(10)ラウリルアミノエーテル12部、POE(20)硬化ヒマシ油エーテル8部、POE(20)硬化ヒマシ油トリオレート12部、POE(8)オレイルホスフェートNa2部、酸化防止剤1部からなる油剤組成分10部を50℃に加温したものを用意した。
また、仕上油剤としては、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製「デナコールEX−512」)60部、ジイソオクチルアゼレート30部、POE(8)硬化ヒマシ油エーテル8部、ジイソオクチルスルホサクシネートNa2部からなる油剤組成分45部を40℃に加温した後、40℃に加温した軟化水55部にゆっくり添加しながら攪拌したのち、18℃に冷却したものを用意した。
そして上記ポリエチレンテレフタレートチップを溶融紡糸することにより、紡糸口金より紡出され、2800m/分で引き取られた未延伸糸には、上記の紡糸油剤を繊維100部に対して油剤付着分0.4部となるように付与した後、ローラーを用い、合計延伸倍率が1.43倍になるように2段延伸し、引き続きローラー間で延伸倍率1.0倍の処理したのち、上記の仕上油剤を繊維100部に対して油剤付着分が0.2重量部(エポキシ化合物成分付着量0.12重量%)となるようにローラー式油剤付与法で付与し、インターレース(IL)ノズルで交絡を付与したのちに5000m/分の速度で各10kgを捲取った。そうして得られた繊維を、30℃の温度下で360時間の熟成処理した。
得られた繊維は、固有粘度が0.91、繊度が1130dtex、強度が6.9cN/dtex、伸度が12%の力学特性を有し、末端カルボキシル基量は22当量/tonであり、長周期が10nm、繊維表面末端カルボキシル基量は7当量/ton、繊維横軸方向の結晶サイズは45nm、末端メチル基量は0当量/ton、酸化チタン含有量は0.05wt%、表面エポキシ基量は0.1×10−3当量/kgであった。
さらに得られたポリエステル繊維は、470回/mの下撚を掛けた後、これを2本合わせて470回/mの上撚をかけて得られてコードをレゾルシン・ホルマリン・ラテックス接着液(RFL液)を用いて接着処理し、240℃で2分間緊張熱処理して処理コードとした。
得られた、ポリエステル繊維およびコードの物性は、強力が134N、伸度が13%、44N時の荷伸が3.9%、177℃乾収が2.7%であった。
そのコードを用いて、シューシャシンテストを実施した結果、動的疲労後のコードの剥離接着力は550N/inchであり、非常に高い接着力を持つものであった。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表1に示す。
[比較例1]
低カルボキシル基末端を有する通常タイヤコード用のポリエチレンテレフタレートチップを用い、物性を揃えるために延伸条件を微調整した以外は、実施例1と同様のポリエステル繊維を準備した。
このものの最終繊度は実施例1と同じ1130dtex、固有粘度が0.91のポリエステル繊維であり、それを撚糸した処理コードを得た。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表1に併せて示す。実施例1と比較し、繊維の末端カルボキシル基量が18当量/tonと少ないものの通常の剥離接着力は得られており、耐熱強力維持率も十分なものであった。しかし、動的疲労後の接着性(シューシャイン測定)においては劣るものであった。
[比較例2]
比較例1と異なりエポキシ化合物を付与せず、紡糸油剤からもアミン成分を抜いた非アミン系の紡糸油剤を用いた以外は、比較例1と同様に行った。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表1に併せて示す。比較例1と比べ、さらに動的疲労後の接着性(シューシャイン測定)において劣るものであった。
[比較例3]
実施例1異なりエポキシ化合物を付与せず、紡糸油剤からもアミン成分を抜いた非アミン系の紡糸油剤を用いた以外は、実施例1と同様に行った。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表1に併せて示す。動的疲労後の接着性(シューシャイン測定)において劣るばかりか、ゴム中における耐熱強力維持率も低下するものであった。
[実施例2]
実施例1の紡糸速度を2800m/分から3200m/分とし、物性をあわせるためにフィラメント数を384から500とし、延伸倍率を調整した以外は、実施例1と同様に行い、最終繊度が同じ1130dtex、固有粘度が0.91のポリエステル繊維と、それを撚糸した処理コードを得た。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表2に示す。
[実施例3]
実施例1の紡糸速度を2500m/分として、物性を合わせるためにフィラメント数を384から249とし、延伸倍率を調整した以外は、実施例1と同様に行い、最終繊度が同じ1130dtex、固有粘度が0.91のポリエステル繊維と、それを撚糸した処理コードを得た。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表2に併せて示す。
[比較例4]
固有粘度(35℃オルトフロロフェノール溶媒にて測定)1.03で末端カルボキシル基量が20当量/tonで、末端メチル基量が0当量/tonであるポリエチレンテレフタレートチップを用い、紡糸ドラフト60の条件にて、溶融紡糸法により250フィラメントのポリエステル繊維を得た。
紡糸口金より紡出され、600m/分で引き取られた未延伸糸には、上記の方法で調製した紡糸油剤を繊維100部に対して油剤付着分0.4部(脂肪族アミン化合物成分付着量0.048重量%)となるように付与した後、ローラーを用い、合計延伸倍率が5.0倍になるように2段延伸し、引き続きローラー間で延伸倍率0.97倍の処理したのち、上記の実施例1と同様の仕上油剤を繊維100部に対して油剤付着分が0.2重量部(エポキシ化合物成分付着量0.12重量%)となるようにローラー式油剤付与法で付与し、インターレース(IL)ノズルで交絡を付与したのちに3400m/分の速度で各10kgを巻き取った。なお上記以外の条件は実施例1と同様にした。低速紡糸であり、スカムの発生量は低いレベルのままであった。
得られた繊維は、繊度が1130dtex、固有粘度が0.91であり、強度が7.6cN/dtex、伸度が14%の力学特性を有し、末端カルボキシル基量は22当量/tonであり、長周期が14nm、繊維表面末端カルボキシル基量は7当量/ton、繊維横軸方向の結晶サイズは35nm末端メチル基量は0当量/ton、酸化チタン含有量は0.05wt%、表面エポキシ基量は0.1×10−3当量/kgであった。得られたポリエステル繊維及び処理コードの物性と、接着評価結果を表2に併せて示す。
実施例3と比較し、この比較例4は長周期が14nmと大きく、強伸度において差が見られないにもかかわらず、乾熱収縮率や中間荷重伸度も大きく、初期接着力こそ同等だが、ゴム中耐熱協力維持率や動的疲労後の接着性(シューシャイン測定)において大きく劣るものであった。
Figure 0005542084
Figure 0005542084

Claims (6)

  1. エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とする、固有粘度が0.85以上のポリエステルからなる繊維であって、繊維中の末端カルボキシル基量が20当量/ton以上、X線小角回折による長周期が9〜12nmかつ繊維表面にエポキシ基を有する表面処理剤が付着していることを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維。
  2. 繊維表面の末端カルボキシル基量が10当量/ton以下である請求項1記載のゴム補強用ポリエステル繊維。
  3. 繊維横軸方向の結晶サイズが35〜80nmである請求項1または2記載のゴム補強用ポリエステル繊維。
  4. 繊維中の末端メチル基量が2当量/ton以下である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴム補強用ポリエステル繊維。
  5. 繊維中の酸化チタン含有量が0.05〜3重量%である請求項1〜4のいずれか1項記載のゴム補強用ポリエステル繊維。
  6. 繊維表面のエポキシ指数が1.0×10−3当量/kg以下である請求項1〜5のいずれか1項記載のゴム補強用ポリエステル繊維。
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