JP4882158B2 - ゴム補強用ポリエステル繊維およびその製造方法 - Google Patents

ゴム補強用ポリエステル繊維およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はポリエステル繊維およびその製造方法に関するものである。詳しくは、タイヤ、ホース、ベルト等ゴム構造物の補強材料に用いるポリエステル繊維にエポキシ化合物を含む処理剤を付与したゴム補強用ポリエステル繊維、および該ポリエステル繊維を高い生産性にて製糸性良く安定して生産するための製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレンテレフタレートで代表されるポリエステル繊維は高強度、寸法安定性に優れる等の物理特性を有し、かつ耐疲労性にも優れているため、ゴム構造物の補強材料として好ましいものである。ポリエステル繊維をタイヤ、ホース、ベルト等のゴム構造物補強材として用いることは周知であり、これら用途での必要特性である強力、寸法安定性や耐疲労性を向上させたポリエステル繊維に関して、特開平3−97914号公報や特開昭59−15513号公報等で提案されている。
【0003】
しかし、ポリエステル繊維はナイロンやレーヨン等に比べゴム類との接着性が悪く、このことがポリエステル繊維のゴム構造物補強用途において大きな欠点であり、高い接着性を必要とする分野への展開を困難としている。この欠点を解決すべく、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、エチレンウレア化合物等を繊維に付与し、ゴム構造物との接着性を向上させる方法が提案されてきている。これらの方法として、例えば、特開昭49−25222号公報では、未延伸のポリエステル繊維に、グリセリングリシジルエーテルとシアングアニジンを含有する処理液を付与した後、150℃以上で加熱延伸するといった技術が開示されている。また、特開昭61−12970号公報では、ポリエステル繊維の紡糸工程および/または延伸工程でエポキシ化合物を付与し、熱セットした後、平滑剤と活性剤および、これらの分離を防ぐ水を含有した油剤を付与する技術が提案されている。
【0004】
これらの従来技術においては、熱処理時に加熱されたローラーやプレート等の表面にエポキシ化合物等の熱劣化物堆積が発生し、製糸操業性が悪化するといった問題が発生する。紡出した糸条を一旦巻き取ることなく延伸熱処理を施す直接紡糸延伸法での製造は困難であり、生産効率が非常に悪いと言った問題があった。加えて、ゴム補強用途のポリエステル繊維において重要な特性である高次加工後の高寸法安定性を達成するためには、紡出糸条を2000m/分以上の高速で引取ることが必要であり、この糸条の延伸熱処理を一旦巻き取ることなく行う直接紡糸延伸法では走行糸条の延伸速度が4000〜7000m/分程度となり、更なる製糸性の悪化を導く。
【0005】
特開昭52−96234号公報では、3000m/分以上の引取速度で引取ったポリエステル未延伸糸の表面に接着活性を付与する処理剤で処理した後延伸する方法が提案されているが、この実施例中では紡出糸条を一旦巻取り、別工程において低速(実施例中では110〜560m/分)で延伸する2工程法が取られている。そのため、生産効率が非常に悪いことがわかる。また、この2工程法では、我々が求める繊維の高強度、高寸法安定性などの物性を得ることはできなかった。
【0006】
これに対し、特開昭58−46178号公報では、加熱水蒸気による熱処理を行った後、接触式加熱を行うといった方法が提案されているが、高速紡糸においては水蒸気による処理時間が非常に短くなり、熱劣化物堆積抑制に大きな効果は得られない。
【0007】
また、特開平8−113877号公報では直接紡糸延伸法において延伸熱処理した後にエポキシ化合物を含有した仕上油剤を付与する方法が提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この方法によって得られた繊維は目標とする接着性を得られないことが認められた。延伸熱処理を施した後にエポキシ化合物を付与しているため、、延伸熱処理後、繊維の結晶性が増加し、エポキシ化合物の繊維内部への拡散が困難となり、繊維表面に形成される接着剤槽と繊維との結合力が低下するためと考えられる。これに加えて、この方法では設備および作業が複雑になり生産コストが増加してしまうといった問題がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。従って、本発明の目的は、高い生産能力で製糸性良く製造でき、かつゴムとの接着性および強力保持率、寸法安定性に優れることに加え、ディップ処理等が施された処理コードにおいて物性バラツキが軽減された、ゴム補強材料として好適なポリエステル繊維およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、エポキシ化合物が付与されたポリエステル繊維であって、下記(a)〜(d)の特性を同時に満足することを特徴とする。
(a)破断強度が5cN/dtex以上
(b)150℃×30分時乾熱収縮率が13%以下
(c)温度〜収縮応力曲線における最大収縮応力時温度が200℃以下
(d)原糸を220℃×1.5分(張力0.6cN/dtex)で熱処理した後の1.32cN/dtex張力時中間伸度と150℃×30分時乾熱収縮率の和で示す寸法安定度が6.5%以下。
【0011】
なお、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維において、以下の(1)〜(4)が好ましい条件であり、これらを適用することにより更に優れた効果を期待することができる。
(1)温度〜収縮応力曲線における最大収縮応力が0.45〜0.60cN/dtexであること。
(2)破断強度が6cN/dtex以上であること。
(3)熱収縮応力曲線における最大収縮応力時温度が197℃以下であること。
(4)ポリエステル繊維がポリエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルからなること。
【0012】
また、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維の製造方法は、溶融紡糸されたポリエステル繊維糸条に、未延伸状態においてエポキシ化合物を含有する処理剤を付与し、その後ローラーにより延伸熱処理を施した後、糸条を巻取る直接紡糸延伸法において、紡出糸の引取速度が2000m/分以上であり、延伸処理が終了した後に表面温度160〜210℃の熱処理ローラーを2対以上使用して熱処理を施すことを特徴とする。
【0013】
なお、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維の製造方法において、以下の(5)が好ましい条件であり、これらの条件の適用により更に優れた効果を期待することができる。
(5)延伸が表面温度65〜155℃である引取ローラーと1対または複数の延伸ローラー間にて施されること
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維について詳細に説明する。
本発明のポリエステル繊維は、分子鎖中にエチレンテレフタレート繰り返し単位を90モル%以上、好ましくは95モル%以上含むポリエステルで構成される。
係るポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどあるが、なかでもポリエチレンテレフタレートが好適である。また、本発明の構成要件および目的を損なわない範囲において、ポリエチレンテレフタレートに従来公知の酸成分、グリコール成分を共重合させても、また安定剤等の添加剤を添加しても差し支えない。前記共重合成分としては、例えばイソフタル酸、アジピン酸等が挙げられる。また、前記グリコール成分としては、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリメチレングリコール等が挙げられる。
【0015】
次に、本発明で用いるエポキシ化合物とは、1分子中に1個以上、好ましくは2個以上のエポキシ基を有するものであり、具体的には、グリセロ−ルポリグリシジルエ−テル、ジグリセロ−ルポリグリシジルエ−テル、ポリグリセロ−ルポリグリシジルエ−テル、ソルビト−ルポリグリシジルエ−テル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、レゾルシノール型ジグリシジルエーテル、ヒドロキノン型ジグリシジルエーテル、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテレフタレート、N−グリシジルフタルイミド等の芳香族エポキシ化合物、及びポリブタジェンジグリシジルエーテル、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等の高分子エポキシ化合物等が挙げられる。
【0016】
本発明のポリエステル繊維の破断強度は5cN/dtex以上、好ましくは6cN/dtex以上である。破断強度が5cN/dtex未満の場合にはゴム構造物の補強効果が不十分となる。
【0017】
また、150℃×30分時乾熱収縮率が13%以下であることが必要である。乾熱収縮率が13%を越える場合、ディップ処理等の後加工を施しても、必要とされる寸法安定性が得られず、ゴム構造物の寸法の変化や形状の悪化を引き起こすため好ましくない。
【0018】
更に、本発明のポリエステル繊維の熱収縮応力曲線における最大収縮応力時温度は200℃以下であることが必要であり、好ましくは197℃以下である。該温度が200℃を越える場合には、該原糸の熱セット性が悪くなり、ディップ処理工程において多量の熱を付与しないと目標とする寸法安定性を得られないといったコスト面からの問題が発生するため好ましくない。
【0019】
原糸を220℃×1.5分(張力0.6cN/dtex)で熱処理した後の1.32cN/dtex張力時中間伸度と150℃×30分時乾熱収縮率の和で示す寸法安定度が6.5%以下であることが必要である。寸法安定度が6.5%を越える場合には、ディップ処理等における熱処理後の収縮が大きすぎることにより、ホースやベルト等のゴム構造物が変形し、形状が悪化してしまう。もしくは、熱処理後の中間伸度が高すぎることにより、例えばホースにおいては、ホースの膨張し易くなり圧力伝達が悪化する、またベルトにおいては、ベルトが低応力で変形し易くなり、応力伝達が低下してしまうなどといった不具合が生じるため好ましくない。
【0020】
更に、ディップ処理工程において、コード化された該繊維の張力が高くなるため、処理機間の処理コード物性バラツキといった不具合を減少させ、安定して処理コードを生産できるといった利点から、温度〜収縮応力曲線における最大収縮応力が0.45〜0.60cN/dtexであることが好ましい。
【0021】
上記の優れた特性を具備する本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、以下に例示する製造方法により製造することができる。
【0022】
まず、ポリエステルチップをエクストルーダ型押出機に供給して溶融チップとなし、続いて紡糸口金から紡糸する。紡糸された糸条はチムニー冷風により冷却固化される。ここにおける冷却方法は、環状式の冷却方式が好ましい。
【0023】
次に紡出糸条を温度を300〜350℃、長さを10〜75cmの範囲の口金下加熱域を通し、更により安定した品位で目的のポリエステル繊維を得るために、加熱域に続く無加熱域、つまり保温領域を長さ1〜30cmの範囲で設けることが好ましい方法である。
【0024】
次いで、エポキシ化合物を含有した処理剤を該紡出糸条に付与する。エポキシ化合物を含有する処理剤の付与は、ポリエステル繊維が未延伸状態においてなされることが重要である。これは、繊維が未延伸状態、すなわち結晶化があまり進行していない状態にて付与することで、繊維内へのエポキシ化合物の浸透が比較的容易に生じるため、ゴム構造物との接着性が向上すると考えられる。
【0025】
また、エポキシ化合物は紡糸油剤に含有させて糸条に付与することが、設備の簡略化のため好ましい。
【0026】
エポキシ化合物を含有する処理剤の糸条への付与方法に特に限定はなく、例えばガイド方式、オイリングローラー、スプレー、浸漬等の方法で付与できる。
【0027】
続いて、本発明の製造方法においては、該糸条は引取速度は2000m/分以上で引取る必要がある。2000m/分を下回ると、目的とする繊維の寸法安定性を得ることが困難となる。
【0028】
次に、引取られた未延伸糸は、生産効率向上のため一旦巻取られることなく延伸される必要がある。該未延伸糸は引き続いて延伸域に移送される。ここで、表面温度が65〜155℃である引取ローラーと1対または複数の延伸ローラー間にて延伸されることが好ましい。この温度範囲内で延伸がなされることで、より安定した品質と品位にて、目的とする繊維を製造することができる。また、更なる品位向上の点から2段以上の多段延伸することが好ましく、目的とする繊維物性を得るために、この延伸過程において該糸条は1.5〜2.6倍に延伸されることが好ましい。この延伸終了後に、該糸条に表面温度が160〜210℃の熱処理ローラーにて熱処理を施すことが重要である。この温度が160℃未満では、繊維に単糸切れが多くなって製糸操業性が著しく低下するばかりか、目標とする強力および乾熱収縮率が得られない。また、210℃を越えると、熱処理ローラー表面へのエポキシ化合物の熱劣化物堆積が促進されるため、該ローラーと繊維の摩擦抵抗が増加し、糸切れ、単糸切れ増加という、製糸操業性悪化を引き起こす。また、この樹脂膜が形成されることにより、繊維への熱伝導率が低下し、安定した繊維の品質を得ることが困難となる。更に、より効果的に熱処理を行い、品位良く本発明のゴム補強用ポリエステル繊維を製造するには、表面温度160〜210℃の熱処理ローラーが2対以上の複数使用され、熱処理を施すことが好ましい。ここでは採用する工程によって、糸条を定長で熱処理だけ行っても、若干のストレッチや緩和処理を施しても構わない。なお、延伸ローラーとは延伸繊維糸条に延伸を施すローラーのことであり、熱処理ローラーとは160〜210℃の高温熱処理を施すものをいうが、設備簡略化の点から、延伸に使用する最後の延伸ローラーを160〜210℃の熱処理ローラーに使用しても構わない。
【0029】
次いで、非加熱ローラに捲回されて0.5〜6%程度の弛緩処理が施されることが好ましい条件であり、その後、4000〜7000m/分程度の速度で巻取機によって巻取られる。
【0030】
上記のような紡糸・延伸条件を採用することで、ゴム構造物との接着性および強力、寸法安定性の優れたポリエステル繊維を得ることができる。
【0031】
従って、上記した本発明のゴム補強用ポリエステル繊維の製造方法によれば、糸条の品質を安定させるとともに、ゴム構造物との優れた接着性と高強力保持率および高寸法安定性を有することに加え、ディップ処理等が施された処理コードにおいて物性バラツキが軽減された、ゴム補強用途において極めて有用なポリエステル繊維を効率的に得ることができる。
【0032】
更には、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維の製造方法では、従来の設備や作業を複雑化することなく高生産効率で、ゴム補強用途に好適なポリエステル繊維を得ることができる。
【0033】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。実施例および比較例における各測定値は次の方法に従って測定したものである。
【0034】
本発明のゴム補強用ポリエステル繊維の延伸糸の物性および製糸性の評価は以下の通りである。
【0035】
[破断強度]
株式会社オリエンテック社製テンシロン引張試験機を用い、JIS L−1017(1995)に従って測定した。
【0036】
[乾熱収縮率]
試料をかせ状に取り、20℃、65%RHの温調室に24時間以上放置した後、0.088cN/dtexの荷重をかけて測定された長さL0の試料を、無荷重で150℃のオーブン中で30分間熱処理する。その後、該オーブンから取り出して前記温調室にて4時間放置し、再び上記荷重をかけて測定した長さL1から、次式により算出した。
乾熱収縮率ΔS=[(L0−L1)/L0]×100。
【0037】
[熱処理後の寸法安定度]
試料をかせ状に取り、0.6cN/dtexの張力をかけ、220℃のオーブン内で1.5分間熱処理した後、1.32cN/dtex張力時中間伸度と150℃×30分時乾熱収縮率を測定し、これらの和を寸法安定度とする。中間伸度は、株式会社オリエンテック社製テンシロン引張試験機を用い、1.32cN/dtex張力時の伸度を測定し、乾熱収縮率は前記と同様の方法で測定した。
【0038】
[熱収縮応力曲線における最大収縮応力および最大収縮応力時温度]
加熱炉内に試長25cmでセットし、室温から150℃未満の間で昇温速度10℃/分、150℃から250℃の間で昇温速度3℃/分で測定した熱収縮応力曲線より求めた。
【0039】
[固有粘度(IV)]
オストワルド粘度計を用いて、オルソクロロフェノール100mlに対し、試料3gを溶解した溶液の相対粘度ηrpを25℃で測定し、次の近似式によりIVを算出した。
IV=0.0242ηrp+0.2634 (但し、ηrp=(t×d)/(t0 ×d0))
t :溶液の落下時間(秒)
t0:オルソクロロフェノールの落下時間(秒)
d :溶液の密度(g/cc)
d0:オルソクロロフェノールの密度(g/cc)。
【0040】
[ローラー汚れの評価]
加熱ローラー表面に熱劣化物が堆積し、製糸が困難となり、ローラー表面の清掃が必要となる間での時間を測定し、これにより評価した。
○:24時間以上、×:24時間未満。
[製糸性の評価]
24時間の製糸において、下記の通り糸切れ回数により製糸性を評価した。
○:0回、△:1〜2回、×:3回以上。
【0041】
また、後述する方法にて得られた処理コードの物性は以下の評価により得た。
[破断強度および強力保持率]
処理コードの破断強度は上記した延伸糸の測定方法Aと同様の手法により測定した。また、強力保持率Kは次式より算出した。
K=(Tc/Td)×100
Td:延伸糸の破断強度(cN/dtex)
Tc:処理コードの破断強度(cN/dtex)。
【0042】
[中間伸度および標準偏差]
株式会社オリエンテック社製テンシロン引張試験機を用い、JIS L−1017(1995)に従い、1.32cN/dtex張力時の伸度をn=10にて測定し、その平均値を中間伸度とした。また、n=10の標準偏差を求めた。
【0043】
[乾熱収縮率および標準偏差]
上記した延伸糸の測定方法と同様の手法によりn=10にて測定し、その平均値を中間伸度とした。また、n=10の標準偏差を求めた。
【0044】
[接着力および標準偏差]
各実施例および比較例により得られた処理コードをアルミ板に巻いた後、片面にEPDM未加硫ゴムを貼り付け、加圧化で160℃、60分間プレス加硫を行った。放冷後アルミ板を抜き、コードを加硫ゴムから引張速度50mm/分で剥離させ、その最大応力を接着力とし、n=10の平均値を表1中に記載した。また、n=10の標準偏差を求めた。
【0045】
[実施例1〜3および比較例1〜3]
固有粘度が1.2のポリエチレンテレフタレートチップを、エクストルーダ型溶融紡糸装置に供給し、吐出口径が0.6φおよび吐出孔数240本の紡糸口金にてポリエチレンテレフタレート繊維を紡出する。該紡出糸にオイリングローラーにて紡糸油剤中にエポキシ化合物である”デナコール”EX−512(ポリグリセロールポリグリシジルエーテル:長瀬化成工業株式会社)を該紡糸油剤である水エマルジョン液に対し、5重量%含有させた処理剤を付与した。ここで、該紡糸油剤にはジオレイルアジペートおよび硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物(エチレンオキサイド付加モル数が15モル)を、それぞれ6:4の重量比率で配合した油剤の20%水エマルジョン液を用いた。ここで、該紡糸油剤の油分付着量が繊維重量に対し約0.6重量%付着するようにオイリングローラーの回転数を設定した。その後、該糸条を表1中の条件にて、引取ローラー(1FR)によって引取り、該糸条を一旦巻き取ることなく連続して延伸した。延伸は表1に示す温度および延伸倍率にそれぞれ設定された1FR、第1延伸ローラー(1DR)および第2延伸ローラーの3対のローラーにて2段延伸する。ここで第2延伸ローラーは第1熱処理ローラーとしても使用した(以下第2延伸ローラーを2D・1HRと表示する)。続いて、2D・1HRと同じ温度および速度に設定された第2熱処理ローラー(2HR)を経て、次の非加熱の弛緩ローラーにて1%の弛緩処理を施し巻取った。1FRと1DR間で1段延伸、1DRと2D・1HR間で2段延伸を行い、2D・1HRおよび2HRにおいて熱処理を施した。このとき、巻取られた延伸糸の繊度が約1100dtexとなるように条件を設定した。上記で得られた該延伸糸(繊度1100dtex、短繊維数240本)を合撚して総繊度2200dtexの生コード、1100dtex//2、撚数8T/10cmを得た。
【0046】
一方、苛性ソーダ水溶液、アンモニア水溶液を加えた水に酸性溶液で反応せしめたレゾルシン・ホルマリン初期縮合物:スミカノール700(住友化学株式会社製、65%水溶液を添加して十分に攪拌し分散させる。次に、”ニッポール”2518FS(日本ゼオン株式会社製、ビニルピリジン・スチレン・ブタジェンポリマー水乳化物)を、前記レゾルシン・ホルマリン初期縮合分散液と固形分比率で1:4(重量比)、さらに、ホルマリンをR/F比が1:2(モル比)となるように添加して均一に混合し、20℃の温度で24時間熟成させた。使用直前に”デナボンド”E(長瀬化成工業株式会社製、特殊クロロフェノール化合物20%溶液)を、RFLと固形分比率で1:2.5(重量比)となるように添加し、十分攪拌して調整した。なお、該処理剤の粘度、付着量コントロールは処理剤への水の添加希釈により調節した。
【0047】
次いで、コンピュートリーター処理機(リッツラー社製)を用いて、該生コ−ドを上記RFL処理液に浸漬処理した後、温度130℃で60秒の乾燥した後、温度240℃で60秒の熱処理を行って処理コ−ドを得た。RFL処理液の生コード付着量は3.0重量%とした。かくして得られた延伸糸および処理コードの特性を表1に示す。
【0048】
【表1】
Figure 0004882158
表1の結果から明らかなように、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、製糸性良く製造できることに加え、コードでの強力保持率、寸法安定性およびゴムとの接着力に加え、ディップ処理時の物性バラツキが改良されたものである。
【0049】
【発明の効果】
上記に説明した通り、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維は、強力保持率、寸法安定性およびゴム構造物との接着性に優れることに加え、ディップ処理時の物性バラツキが改善されるため、ゴム補強用途に対して極めて有用である。また、本発明のゴム補強用ポリエステル繊維の製造方法によれば、ローラー汚れが軽減されることにより、高生産性で高品位のゴム補強用ポリエステル繊維を製造することができる。

Claims (7)

  1. エポキシ化合物が付与されたポリエステル繊維であって、下記(a)〜(d)の特性を同時に満足することを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維。
    (a)破断強度が5cN/dtex以上
    (b)150℃×30分時乾熱収縮率が13%以下
    (c)試料長25cmで、室温から150℃未満の間で昇温速度10℃/分、150℃から250℃の間で昇温速度3℃/分で測定した熱収縮応力曲線における最大収縮応力時温度が200℃以下
    (d)原糸を220℃×1.5分(張力0.6cN/dtex)で熱処理した後の1.32cN/dtex張力時中間伸度と150℃×30分時乾熱収縮率の和で示す寸法安定度が6.5%以下。
  2. 試料長25cmで、室温から150℃未満の間で昇温速度10℃/分、150℃から250℃の間で昇温速度3℃/分で測定した熱収縮応力曲線における熱収縮応力曲線における最大収縮応力が0.45〜0.60cN/dtexであることを特徴とする請求項1記載のゴム補強用ポリエステル繊維。
  3. 破断強度が6cN/dtex以上であることを特徴とする請求項1または2記載のゴム補強用ポリエステル繊維。
  4. 熱収縮応力曲線における最大収縮応力時温度が197℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のゴム補強用ポリエステル繊維。
  5. ポリエステル繊維がポリエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とするポリエステルからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のゴム補強用ポリエステル繊維。
  6. 溶融紡糸されたポリエステル繊維糸条に、未延伸状態においてエポキシ化合物を含有する処理剤を付与し、その後ローラーにより延伸熱処理を施した後、糸条を巻き取る直接紡糸延伸法において、紡出糸の引き取り速度が2000m/分以上であり、延伸処理が終了した後に表面温度160〜210℃の熱処理ローラーを2対以上使用して熱処理を施すことを特徴とするゴム補強用ポリエステル繊維の製造方法。
  7. 延伸が表面温度65〜155℃である引取ローラーと1対または複数の延伸ローラー間にて施されることを特徴とする請求項6記載のゴム補強用ポリエステル繊維の製造方法。
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