JP5497557B2 - 押出ダイス - Google Patents

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Description

この発明は、中空材の押出加工に用いる押出ダイスに関する。
なお、本明細書および特許請求の範囲の記載において、押出材および押出材料の進む方向を下流または下流側と称し、逆方向を上流または上流側と称する。
押出ダイスにおいては、ベアリング部に耐摩耗性を与えるために、ベアリング部を含むダイスの一部に超硬合金やセラミック等の超硬材料が用いられている(特許文献1〜3参照)。
特許文献1には、工具鋼からなるダイケースの凹部内に超硬材料からなるリング状ダイスを焼嵌めしたダイスが記載されている。特許文献2には、マンドレルの心棒を工具鋼で形成し、この心棒に超硬材料からなるマンドレルリングを外嵌めし、心棒の先端に抜け止め用ナットを取り付けてマンドレルリングを心棒に固定するように構成したポートホールダイスの雄型が記載されている。また、特許文献3に記載されているダイスは、心棒とマンドレルリングとの間に心棒よりも軟らかいスリーブを介在させてマンドレルリングを焼嵌めしたものである。
特開平6−15348号公報 特開2003−181525号公報 特公平4−69009号公報
しかし、超硬材料を焼嵌めするタイプのダイスは、押出の準備工程やメンテナンスに手間がかかるという問題点がある。
また、超硬材料は工具鋼よりも熱膨張係数が小さく、かつ工具鋼よりも引張力に弱いという特性がある。このため、工具鋼からなる心棒に超硬材料からなるマンドレルリングを外嵌めする場合、熱間押出時に心棒が膨張し、マンドレルリングに対する締め付け力が強すぎると破損するおそれがある。逆に、締め付け力が弱すぎると、マンドレルリングがしっかりと固定されず、押出材の押継ぎ部に波打ちが発生したり、偏肉するおそれがある。また、押出材料の流れによってマンドレルリングが心棒から外れるおそれがある。
このような先行技術の問題点を解決するために、本発明者らは、特願2009−739号において、心棒およびマンドレルリングの材料の熱膨張係数差を利用し、常温においては両者間に隙間が存在してマンドレルリングを着脱可能とし、押出時のダイス温度においては熱膨張によって隙間が無くなってマンドレルリングが心棒に固定されるマンドレルを提案した。
また、特願2009−739号において提案したマンドレルは、押出時の締め代が適正値となるように常温時の心棒外径およびマンドレルリング内径を設定するので、心棒とマンドレルリングの熱膨張係数の差が大きくなるほど常温時における両者間の隙間は大きくなる。マンドレルの組み立ては常温で行うので、前記隙間が大きくなるほど組み立て時の心合わせが難しくなり、組み立て時の心合わせが不十分であると押出時においてもマンドレルリングの位置精度が悪くなる傾向がある。マンドレルリングの位置精度の低下は押出材の偏肉の一因である。このような現象に対し、マンドレルリングの位置精度を高めるために常温時の隙間が狭くなるように設定すると、押出時の締め代が大きくなるのでマンドレルリングの破損の危険性も高くなる。
本発明は、上述した技術背景に鑑み、心棒に対してマンドレルリングを着脱可能なマンドレルにおいて、心棒とマンドレルリングとの熱膨張係数の差が大きい場合でもマンドレルリングの破損の危険性を低減し、かつマンドレルリングの高い位置精度を確保できる押出ダイスの提供を目的とする。
即ち、本発明は下記[1]〜[7]に記載の構成を有する。
[1]押出材の内面を成形するマンドレルが、心棒と、該心棒に外嵌めされるマンドレルリングとを有し、
前記マンドレルリングは、心棒よりも熱膨張係数の小さい材料で構成され、
前記心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面が、マンドレルリングを心棒に外嵌めした状態において、常温時に両者間に隙間があり、押出時のダイス温度時に、マンドレルの軸線方向の少なくとも一部においてその隙間が無くなって両者が接触するように設定され、
前記心棒に、心棒の下流側端面から上流側に向かって切り込まれ、軸線に垂直な面において該心棒を分割する少なくとも1本のスリットが設けられていることを特徴とする押出ダイス。
[2]前記心棒の先端に心棒よりも径小のボルト部が心棒と一体に形成され、このボルト部にナットを螺合させることによってマンドレルリングが軸線方向に拘束されるものとなされ、前記ボルト部に心棒のスリットが延長して設けられている前項1に記載の押出ダイス。
[3]前記心棒にボルト挿通孔が設けられるとともに、孔底に雌ねじ部が設けられ、前記ボルト挿通孔に挿入したボルトを雌ねじ部に螺合させることによってマンドレルリングが軸線方向に拘束されるものとなされている前項1に記載の押出ダイス。
[4]常温時において、前記スリットの幅が心棒外径の50%以下である前項1〜3のいずれかに記載の押出ダイス。
[5]押出時のダイス温度において、前記スリットの幅が0を超えかつ心棒外径の30%以下である前項1〜4のいずれかに記載の押出ダイス。
[6]常温時において、前記スリットの軸線方向の長さ(MT1)とマンドレルリングの軸線方向の長さ(mT1)とがMT1≧mT1の関係を満たす前項1〜5のいずれかに記載の押出ダイス。
[7]前項1〜6のいずれかに記載の押出ダイスを用い、心棒とマンドレルリングとの間の軸線方向の少なくとも一部において隙間が無くなる温度で押出を行うことを特徴とする押出方法。
上記[1]に記載の発明によれば、心棒にマンドレルリングを外嵌めしたマンドレルにおいて、ダイスが押出時の温度になると、心棒とマンドレルリングとの熱膨張係数の差により両者の間に隙間が無くなり、マンドレルリングは心棒が膨張しようとする径方向の力によって締め付けられて心棒に固定される。このように、マンドレルリングが心棒に固定された状態で押出を行うと、押出材の偏肉が抑制されて高品質の押出材を製造することができる。また、常温時には心棒とマンドレルリングと間に隙間があるので、マンドレルリングの心棒への着脱が容易であり、マンドレルリングの交換等のメンテナンスを簡単に行える。
さらに、スリットによって軸線に垂直な面において分割された心棒は、外周をマンドレルリングによって拘束されているために、押出時のダイス温度において、軸線に向かって撓みスリット幅が狭くなる方向に変形する。この撓み変形が心棒とマンドレルリングの熱膨張係数差によって生じる締め付け力の一部を吸収し、マンドレルリングに対する応力負荷を軽減させる。このような応力負荷の軽減により、スリットのない心棒を用いたマンドレルよりも常温時に心棒とマンドレルリングとの間の隙間を小さく設定しても、マンドレルリングを安定して固定することができる。そして、常温時の隙間を小さく設定することで、マンドレルを組み立てる際に心棒とマンドレルリングとの間のがたつきが小さくなって心棒とマンドレルリングの心合わせがなされやすくなる。常温時に心合わせがなされていると押出時のダイス温度においても心合わせの精度が高まりマンドレルリングの位置精度が高めることができる。
上記[2]に記載の発明によれば、ナットによってマンドレルリングが押出軸方向にも固定されるので、マンドレルリングの抜け落ちが防がれてさらに安定した固定状態が得られる。また、ナットによって押出軸方向のずれを抑制することで、心棒の膨張力による締め付けのみで固定する場合よりも、締め代を小さくすることができるので、締め代の増大によるマンドレルリングの破損の危険性を回避できる。
上記[3]に記載の発明によれば、ボルトによってマンドレルリングが押出軸方向にも固定されるので、マンドレルリングの抜け落ちが防がれてさらに安定した固定状態が得られる。また、ナットによって押出軸方向のずれを抑制することで、心棒の膨張力による締め付けのみで固定する場合よりも、締め代を小さくすることができるので、締め代の増大によるマンドレルリングの破損の危険性を回避できる。
上記[4][5]に記載の各発明によれば、心棒強度を確保しつつ、心棒の撓みによるマンドレルリングに対する応力負荷軽減効果を得ることができる。
上記[6]に記載の発明によれば、心棒を上流側端部から撓ませて心棒の軸線方向の全域でマンドレルリングに対する応力負荷軽減効果を得ることができる。
上記[7]に記載の発明によれば、心棒の撓みによってマンドレルリングに対する応力負荷が軽減するので、スリットのない心棒を用いたマンドレルよりも常温時に心棒とマンドレルリングとの間の隙間を小さく設定することができる。常温時の隙間の小さいマンドレルは、マンドレルを組み立てる際に心棒とマンドレルリングとの心合わせがなされやすくなり、押出時のダイス温度においても心合わせの精度が高まりマンドレルリングの位置精度が高まって、押出材の偏肉を抑制できる。
本発明の一実施形態である雄型を備えるポートホールダイスを示す分解斜視図である。 図1のポートホールダイスの組み付け状態を示す断面図である。 図1のポートホールにおけるマンドレルの分解状態を示す断面図である。 図3のマンドレルに用いられる心棒(第1の心棒)の斜視図である。 温度と、心棒の外径およびマンドレルリングの内径との関係を示す図である。 図3のマンドレルの常温時の状態を示す断面図である。 図3のマンドレルの押出時のダイス温度時の状態を示す断面図である。 図3のマンドレルの常温時における他の状態を示す断面図である。 図3のマンドレルにおいて、ナットによるマンドレルリングの拘束を説明する常温時の断面図である。 図6Aの押出時のダイス温度における状態を示す断面図である。 図6Aの8A−8A線断面図である。 図6Bの8B−8B線断面図である。 マンドレルの他の形態(第2の心棒)の分解状態を示す断面図である。 図9Aのマンドレルの組み立て状態を示す断面図である。 図9Aのマンドレルに用いられる心棒の斜視図である。 図9Aの11A−11A線断面図である。 図9Aのマンドレル(第2の心棒)の押出時のダイス温度時の状態を示す断面図である。
図1および図2に示すポートホールダイス(10)は、中空押出材(1)の外周面を成形する雌型(11)と内周面を成形する雄型(20)とが組み合わされてなり、前記雄型(20)が本発明の押出ダイスの一実施形態である。
雌型(11)は、中央部にベアリング孔(12)を有し、ベアリング孔(12)の下流側にはリリーフ孔(13)が形成され、上流側には溶着室用凹部(14)が形成されている。
前記雄型(20)は、ダイス基盤(21)の中央から下流側にマンドレル(30)が突出し、このマンドレル(30)の周囲に押出方向に貫通する複数個のポートホール(22)を有している。隣接するポートホール(22)(22)間には、下流側に突出する前記マンドレル(30)をその基端部で支持する脚部(23)が形成されている。
図3に示すように、前記マンドレル(30)は、心棒(32)と、この心棒に外嵌めされるマンドレルリング(35)と、ナット(37)とを備えている。
前記マンドレル(30)において、ダイスの基盤部(21)から一体に続く台座(31)の先端側に径の小さい心棒(32)が一体に形成され、前記台座(31)と心棒(32)との直径差によりこれらの間には段部が形成され、この段部の下流側端面(33)がマンドレルリング(35)の軸線方向における基準位置となる。以下、この面を位置基準面(33)と称する。前記心棒(32)の先端側はさらに径小となって、外周面に螺旋状のネジ溝が形成されたボルト部(34)が一体に形成されている。前記台座(31)、心棒(32)およびボルト部(34)は同軸上に形成されている。また、図3および図4に示すように、心棒(32)およびボルト部(34)には2本のスリット(40)(41)が十字形に設けられている。マンドレルリング(35)は、外周面に押出材(1)の内周面を成形するベアリング部(36)が突設された環状体である。ナット(37)は前記ボルト部(34)のネジ溝に螺合されるネジ孔(38)を有している。而して、前記心棒(32)にマンドレルリング(35)を外嵌めして位置基準面(33)に当接させ、ボルト部(34)にナット(37)のネジ孔(38)を螺合させると、マンドレルリング(35)は位置基準面(33)とナット(37)に挟まれて、押出軸方向の所定位置に配置される。前記心棒(32)およびマンドレルリング(35)の材料特性および寸法については後に詳述する。
前記雌型(11)と雄型(20)とを組み合わせると、雌型(11)のベアリング孔(12)内に雄型(20)のマンドレルリング(35)のベアリング部(36)が嵌り込んでこれらの間に環状の成形用間隙(符号なし)が形成され、雌型(11)の溶着室用凹部(14)の一部が雄型(20)の端面で塞がれてポートホール(22)に連通する溶着室を形成する。そして、各ポートホール(22)に流入した押出材料は溶着室で合流し、成形用間隙から中空部(2)を有する押出材(1)として押出される。
〔マンドレルの形状〕
本発明のマンドレルは、マンドレルリングを心棒に外嵌めした状態において、常温時に両者間に隙間があり、押出時のダイス温度において、マンドレルの軸線方向の少なくとも一部においてその隙間が無くなって両者が接触するように設定されている限り、前記心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面の形状は任意に設定することができる。即ち、本発明におけるマンドレルの形状に関する条件は下記(1)(2)である。
(1)常温時にマンドレルリングを心棒に外嵌めすることができる隙間があること
(2)押出時のダイス温度において、軸線方向の少なくとも一部においてその隙間が無くなって心棒とマンドレルリングとが接触すること
本発明における「押出時のダイス温度」とは、心棒(32)およびマンドレルリング(35)が高温押出時に所定の温度となり、そのときの温度をいう。
図3および図6Aは、本実施形態のマンドレル(30)の常温(T)時における要部断面図である。このマンドレル(30)は、図1および図2に示した押出ダイス(10)の雄型(20)の一部を構成するマンドレルである。
前記マンドレル(30)は、心棒(32)の外周面(32a)およびマンドレルリング(35)の内周面(35a)がマンドレル(30)の軸線と平行に形成され、心棒(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)の内径(BT1)は軸線方向において一定である。前記心棒(32)にマンドレルリング(35)を外嵌めすると、両者間に軸線に平行な一定の隙間(S)が存在する。
本発明において、心棒(32)とマンドレルリング(35)との間に「隙間(S)がある」とは、心棒(32)とマンドレルリング(35)との接触の有無を意味するのではなく、常温(T)における心棒の外径(AT1)とマンドレルリングの内径(BT1)とが「BT1>AT1」なる関係を満足し、両者の間にクリアランスが存在することを意味する。また、常温(T)時の隙間(S)の大きさはマンドレルリング(35)の内径(BT1)と心棒(32)の外径(AT1)との差(BT1−AT1)で表わすものとする。
なお、図6Aはマンドレルリング(35)の内周面(35a)と心棒(32)の外周面(32a)との間の距離が周方向においても一定の大きさとした状態を示しているが、常温(T)においてはマンドレルリング(35)と心棒(32)の軸合わせがなされていないので、両者間の距離は周方向で必ずしも一定にはならない。例えば、マンドレル(30)の軸線が水平となる姿勢で組み立てを行うと、図6Cに示したように、マンドレルリング(35)の内周面(35a)の上部が心棒(32)の外周面(32a)の上部に接触して両者間の距離はゼロであり、周方向に沿って下方にいくにつれて両者間の距離が拡大し、下部において距離が最大となる。また、マンドレルリング(35)はナット(37)で締め付けられて仮止めされた状態にあるので、全周において両者は接触していないが、両者間の距離には偏りがある、という場合もある。従って、本発明において「隙間がある」とは、マンドレルリング(35)と心棒(32)との接触の有無を意味するのではなく、常温(T)における心棒(32)の外径(AT1)とマンドレルリング(35)の内径(BT1)とが「BT1>AT1」なる関係を満足し、両者の間にクリアランスが存在することを意味する。また、マンドレルリング(35)と心棒(32)とが上述したいずれの位置関係にある場合においても、本発明における隙間(S)の大きさはマンドレルリング(35)の内径(BT1)と心棒の外径(AT1)との差(BT1−AT1)で表される。
また、本発明は心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面はマンドレルの軸線に対して平行であることを要さず、心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面のどちらか一方または両方が軸線に対して傾斜するテーパー面で形成されているマンドレル、軸線方向の一部がテーパー面で形成されているマンドレルも本発明に含まれる。従って、両者間の隙間の大きさが軸線方向で変化することもあり、本発明における隙間(S)とは、軸線方向においてマンドレルリングの内径(BT1)と心棒の外径(AT1)との差(BT1−AT1)が最小となる部分における隙間である。
前記マンドレル(30)は、常温(T)時に心棒(32)とマンドレルリング(35)とを組み付ける際には、両者の間に隙間(S)があるのでマンドレルリング(35)を心棒(32)に外嵌めすることは容易である。さらに、ナット(37)を取り付けて締め付けると、心棒(32)には押出方向の引張力が生じ、マンドレルリング(35)には押出方向の圧縮力が生じる。
〔マンドレルの材料〕
前記マンドレルリング(35)を構成する材料は耐摩耗性に優れ、かつその熱膨張係数(α)と心棒(32)を構成する材料の熱膨張係数(α)とがα>αの関係を満足するものであれば特に限定されない。本実施形態においては、心棒(32)を含む部分(以下、単に「心棒」と略する)が工具鋼で形成されているのに対し、マンドレルリング(35)は前記工具鋼よりも耐摩耗性の高い超硬材料で構成されている。超硬材料としては、WC−Co等の超硬合金、高速度工具鋼、粉末高速度工具鋼、セラミックス等を例示できる。表1に、これらの超硬材料および工具鋼の一例およびそれらの熱膨張係数を示す。なお、心棒(32)およびマンドレルリング(35)の基材の熱膨張係数がα>αの関係を満足すれば良いので、例示した材料は表1に記載した用途に限定されない。例えば、粉末高速度工具鋼の心棒に超硬合金やセラミックスのマンドレルリングを組み合わせる場合も本発明に含まれる。
本発明において、マンドレルリングとして心棒よりも熱膨張係数の小さい材料を用いることにより、押出時の加工発熱によるマンドレルリングの膨張率が小さくなるため、押出材はより安定した寸法のものを得ることができる。即ち、心棒(工具鋼)に熱膨張係数の小さいマンドレルリングを組み合わせたマンドレルでは、押し出していない時と加工発熱最大時との外径差が、工具鋼のみで製作したマンドレルにおける外径差よりも小さくなるので、押出材の肉厚が安定する。そして、押出材の寸法が安定していると、後加工後の製品品質も安定したものとなる。例えば、押出後に引抜加工を行う場合、押出材に偏肉がなく肉厚が一定であれば、引抜材の肉厚も一定になる。また、押出材の肉厚が一定であれば、引抜上がりの長さも一定になる。また、マンドレルリングの材料は耐摩耗性が高いので摩耗粉の発生が少なく、摩耗粉の押出材への混入も減少する。押出材に異物であるダイスの摩耗粉が混入していると、押出材の品質が低下することはもとより引抜材の表面欠陥となる。押出材への摩耗粉の混入量が少なければ、引抜材に発生する表面欠陥も少なくなる。これらのことから、本発明の押出ダイスを用いて製造した押出材は、押出材としての品質が優れていることはもとより、後加工用素材としても品質の優れたものとなる。
Figure 0005497557
〔マンドレルリングの径方向における固定〕
図5は、温度(T)に対する心棒(32)の外径(A)およびマンドレルリング(35)の内径(B)の変化を示したものである。
心棒(32)およびマンドレルリング(35)はいずれも熱膨張により寸法が拡大する(A、B)。この図に示すように、常温(T)において、マンドレルリングの内径(BT1)は心棒の外径(AT1)よりも大きく、実寸としてBT1−AT1の隙間がある。温度(T)が上昇すると、心棒(32)およびマンドレルリング(35)は、それぞれの熱膨張係数(α)(α)に応じて径が大きくなる。T>Tを満足する任意の温度(T)における心棒(32)の外径(AT2)およびマンドレルリング(35)の内径(BT2)は、下記の(I)式および(II)式で表される。
T2=AT1×(T−T)×α+AT1 …(I)
T2=BT1×(T−T)×α+BT1 …(II)
ただし、α:心棒を構成する材料の熱膨張係数
α:マンドレルリングの基材を構成する材料の熱膨張係数
:常温
:高温(>T
T1:常温(T)時の心棒の外径
T1:常温(T)時のマンドレルリングの内径(>AT1
図6Aに示すように、常温(T)においてマンドレルリング(35)の内径(BT1)を心棒(32)の外径(AT1)よりも大きい寸法で製作すると、両者の寸法差により心棒(32)の外周面とマンドレルリング(35)の内周面との間には隙間(S)があるので、容易に外嵌めすることができる。
そして、図6Bに示すように、ダイス温度が上昇すると、心棒(32)の外径拡大量がマンドレルリング(35)の内径拡大量を上回るために隙間(S)は減少していき、この隙間(S)が無くなるとマンドレルリング(35)は心棒(32)に固定される。
熱膨張係数はα>αであるから、図5に参照されるように、温度上昇に伴い、温度(T)において心棒(32)の外径(ATZ)とマンドレルリング(35)の内径(BTZ)が等しくなった時点で隙間(S)が無くなり、マンドレルリング(35)は心棒(32)から外れなくなって固定された状態となる。さらに温度が上昇すると、心棒(32)の外径(A)がマンドレルリング(35)の内径(B)を上回る。心棒(32)の外径(A)がマンドレルリング(35)の内径(B)を上回る温度領域(T>T)では、心棒(32)の膨張力がマンドレルリング(35)を内側から締め付ける力として作用し、マンドレルリング(35)に周方向の引張力が付与されるので、ますます心棒(32)から外れにくくなってしっかりと固定される。
〔心棒とマンドレルリングの締め代〕
押出時、ダイスは所定温度に加熱されて常温(T)よりも高温となる。従って、図5および図6Bに示すように、押出時のダイス温度(T)において、心棒(32)の外径(AT2)がマンドレルリング(35)の内径(BT2)と等しくなるか、心棒(32)の外径(AT2)がマンドレルリング(35)の内径(BT2)を上回るように、常温(T)時の心棒(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)の内径(BT1)を設定すれば、マンドレルリング(35)を心棒(32)に固定した状態で押出を行うことができる。そして、マンドレルリング(35)が心棒(32)に固定された状態で押出を行うと、押出材(1)の偏肉が抑制されて高品質の押出材(1)を製造することができる。ただし、心棒(32)の膨張力が過剰になってマンドレルリング(35)の引張力の限界を超えるとマンドレルリング(35)が破損するので、材料の熱膨張係数(α、α)と押出時のダイス温度(T)を勘案して、高温時に適度な引張力を生じさせるように、常温(T)時の心棒(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)の内径(BT1)を設定する。
ここで、任意の温度(T)における心棒(32)とマンドレルリング(35)との締まり具合および緩み具合を、心棒(32)の外径(A)とマンドレルリング(35)の内径(B)の比率に基づいて、下記(III)式の締め代(X)として定義する。A<B、即ち両者の間には隙間がある状態ではX<0となり、締め代(X)値が小さくなるほど緩みが大きいことを示している。一方、A>B、即ち両者の間には隙間がなくマンドレルリング(35)が内側から心棒(32)に締め付けられている状態ではX>0となり、締め代(X)の値が大きくなるほど締め付け力大きいことを示している。A=B(X=0)は、両者間に隙間はないが締め付け力が利いていない状態である。
(%)=(A/B−1)×100 …(III)
さらに、(III)式により、常温(T)時および高温(T)時(押出時のダイス温度)における心棒(32)とマンドレルリング(35)との締め代(XT1)(XT2)は、それぞれ(IV)式および(V)式により表わされる。
T1(%)=(AT1/BT1−1)×100 …(IV)
T2(%)=(AT2/BT2−1)×100
={〔AT1×(T−T)×α+AT1〕/〔BT1×(T−T)×α+BT1〕−1}×100 …(V)
心棒(32)およびマンドレルリング(35)は、常温(T)時にAT1<BT1となるように製作されるのでXT1<0となり、締め代(XT1)は両者間の隙間があって緩んだ状態を示している。一方、押出時のダイス温度(T)において両者間の隙間が無くなってAT2≧BT2であるから、その締め代(XT2)は0または正値となり、締め付け力が利いている状態を示している。また、XT2<0は、押出時のダイス温度(T)においても緩みがあってマンドレルリング(35)が心棒(32)に固定されていない状態を示している。
前記締め代(XT2)が大きくなるほど締め付け力も強くなり、マンドレルリング(35)がしっかりと固定されて外れにくくなるが、上述したように締め付け力が過度に大きくなるとマンドレルリング(35)が破損するおそれがある。また、押出時には材料流れにより押出方向の力もが加わる。これらを勘案すると、前記締め代(XT2)は0.3%以下が好ましい。前記締め代(XT2)が0または正値である限り下限値は規定されないが、確実に固定するために0.05%以上が好ましい。特に好ましい締め代(XT2)は0.15〜0.25%である。なお、締め代(XT2)の適正範囲は、心棒(32)およびマンドレルリング(35)の材質、マンドレルリング(35)の厚み等によって異なる。
なお、前記締め代(XT2)は、後述する心棒(32)のスリット(40)(41)による撓みが無いものとして、ダイス温度(T、T)、常温(T)時の心棒(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)の内径(BT1)、熱膨張係数(α、α)から計算した値である。
従って、常温(T)時に隙間(S)が最小となり押出時のダイス温度(T)時に締め付け力が最大となる部分において、押出(T)時の締め代(XT2)が0〜0.3%となるように心棒(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)の内径(BT1)を設定すれば良い。その他の部分における締め代は、常温(T)時の隙間(S)の大きさに応じた値となる。
また、常温(T)時の締め代(XT1)は負値である限り限定されない。心棒(32)の外径(AT1)がマンドレルリング(35)の内径(BT1)よりも小さいので、これらの組み付け作業は容易である。押出ダイスは、押出が終わって常温(T)に冷却されると常温(T)時の締め代(XT1)に戻って緩みが生じるので、心棒(32)からマンドレルリング(35)を取り外すことができる。従って、摩耗したマンドレルリングの取り外し、新しいマンドレルリングの取り付けといったメンテナンスを容易に行える。
〔マンドレルリングの押出軸方向における固定〕
上記実施形態のマンドレル(30)においては、心棒(32)の先端に、マンドレルリング(35)の内径よりも径の大きいナット(37)が着脱自在に取り付けられている。高温(T)時のマンドレルリング(35)は心棒(32)によって径方向に締め付けられて固定されるが、押出中は材料の流れにより下流側への力が加わる。そこで、前記マンドレル(30)においては、ナット(37)を取り付けることでマンドレルリング(35)の抜け落ちを確実に防ぎ、固定安定性を高めている。また、ナット(37)を取り付けて押出軸方向の拘束力を加えることで、心棒(32)の膨張力による締め付けのみで固定する場合よりも、締め代(XT2)を小さくすることができるので、締め代(XT2)の増大によるマンドレルリング(35)の破損の危険性を回避できる。
また、ナット(37)を取り付けるマンドレル(30)においては、心棒(32)およびマンドレルリング(35)の押出軸方向における寸法にも常温(T)時に差を設けておき、高温(T)時にナット(37)がマンドレルリング(35)に当接して、マンドレルリング(35)がナット(37)によって確実に拘束されるようにすることが好ましい。
図6Aおよび図6Bは、心棒(32)およびマンドレルリング(35)の押出軸方向における好ましい寸法関係を示している。図6Aに示す常温(T)時において、心棒(32)の長さ(符号なし)はマンドレルリング(35)の長さ(mT1)よりも短く、ボルト部(34)に螺合させたナット(37)はマンドレルリング(35)を締め付けている。心棒(32)には、心棒(32)とナット(37)との間の隙間(S)に応じた引張力が付与され、マンドレルリング(35)は押出軸方向に拘束されている。図6Bは、図6Aの押出時のダイス温度(T)時の状態を示す図であり、心棒(32)およびマンドレルリング(35)がそれぞれに膨張した状態を示している。心棒(32)の熱膨張係数(α)とマンドレルリング(35)の熱膨張係数(α)はα>α2の関係にあるので、心棒(32)の寸法拡大量がマンドレルリング(35)の寸法拡大量を上回り、前記隙間(S)は減少方向に変化する。この隙間(S)の減少により、心棒(32)に付与される引張力は減少し、マンドレルリング(35)に対する締め付け力は減少するが、隙間(S)がある限りがナット(37)による抑えが利いているので、マンドレルリング(35)が押出軸方向にずれることはない。即ち、マンドレルリング(35)は径方向と押出軸方向の両方向に拘束されて固定されている。このように、押出軸方向の拘束が加わることで、上述した径方向の締め代(XT2)を小さくしても、マンドレルリング(35)の固定安定性を維持することができる。ひいては、マンドレルリング(35)に付与される周方向の引張力を軽減して、締め代(XT2)の増大による破損を回避することができる。
これに対し、図7Aは、常温(T)において心棒(32)とマンドレルリング(35)の長さが等しく、心棒(32)とナット(37)との間に隙間(S)が無い状態を示している。図7Bは、図7Aの押出時のダイス温度(T)における状態を示す図であり、熱膨張により心棒(32)がマンドレルリング(35)よりも長くなって、マンドレルリング(35)とナット(37)との間に隙間(S)が生じている。このような状態では、マンドレルリング(35)に対してナット(37)による抑えが利かなくなり、押出軸方向の固定安定性が低下する。また、このような状態でマンドレルリング(35)のずれを確実に阻止するには、径方向の締め代(XT2)を十分に大きくする必要があるので、マンドレルリング(35)が破損する可能性も増大する。
なお、図6Aおよび図6Bでは常温(T)時に心棒(32)がマンドレルリング(35)より短い場合を示したが、その差が小さく押出時のダイス温度(T)時に長さが逆転して心棒(32)がマンドレルリング(35)よりも長くなれば、図7Bのようにナット(37)による抑えが利かなくなる。
以上より、押出時のダイス温度(T)においてマンドレルリング(35)にナット(37)による締め付け力が作用するように、常温(T)時の心棒(32)およびマンドレルリング(35)の押出軸方向の寸法を設定しておくことが好ましい。ダイスの温度上昇に伴って、マンドレルリング(35)とナット(37)は緩む方向に変化するので、押出時のダイス温度(T)時にナット(37)による締め付け力を確実に利かせるためには、少なくとも常温(T)時にナット(37)がマンドレルリング(35)を締め付けている必要がある。このとき、軸線方向の寸法は心棒(32)<マンドレルリング(35)であり、心棒(32)とナット(37)との間には隙間(S)が存在する(図6A参照)。
〔心棒のスリット〕
本発明において、押出時の締め代(XT2)がXT2≧0となるように心棒(32)の外周面(32a)とマンドレルリング(35)の内周面(35a)が設定されていることは必須条件である。また、径方向において所定の締め代(XT2)を得る場合、心棒(32)の熱膨張係数(α)とマンドレルリング(35)の熱膨張係数(α)の差(α−α)が大きくなるほど、常温(T)時の両者の隙間(S)は大きくなる。従って、常温(T)で行うマンドレル(30)の組み立てにおいては、両者間の隙間(S)が大きくなるほどマンドレルリング(35)のがたつきが大きくなって心棒(32)とマンドレルリング(35)の軸線合わせが難しくなる。常温(T)時の軸線のずれはダイス温度が上昇しても継承されることがあり、押出時のマンドレルリング(35)の径方向の位置精度を低下させて押出材の偏肉の原因の一つとなる。常温(T)時の隙間(S)が小さくなるように心棒(32)の外径およびマンドレルリング(35)の内径を設定すれば組み立て時に両者の軸線を合わせ易くなり、押出時のマンドレルリング(35)の位置精度も高くなるが、その反面締め代(XT2)が大きくなってマンドレルリング(35)に対する締め付け力が大きくなるので破損の危険性も増すことになる。
そこで、本発明は、心棒に下流側端面から上流側に向かって切り込んだスリットを設けて軸線に垂直な面において心棒を分割し、押出時に心棒を撓ませることによってマンドレルリングに対する締め付け力を緩和し、マンドレルリングの破損を防止してる。これにより、スリットのない心棒を用いた場合よりも両者間の隙間(S)を狭く設定することができる。
以下に、スリットを有する心棒を組み合わせたマンドレルについて、図3、4、6A、6B、8A〜図11Bを参照して説明する。なお、これらに図示したマンドレル(30)(50)は、常温(T)時において、軸線方向の寸法が心棒(32)よりもマンドレルリング(35)の方が長く、心棒(32)とナット(37)の間には隙間(S)が存在し、軸線方向においてもマンドレルリングが固定されるものである。
(第1の心棒とマンドレル)
図4は、図3に示したマンドレル(30)に用いられている心棒(32)を含む部分の斜視図である。また、図8Aは図6Aの8A−8A線断面図、図8Bは図6Bの8B−8B線断面図である。また、図8Aにおいて(CT1)は常温(T)時のスリット(40)(41)の幅であり、図8Bにおいて(CT2)は押出時のダイス温度(T)におけるスリット(40)(41)の幅である。
図4に示すように、心棒(32)の先端(下流側)にはボルト部(34)が一体に形成され、ボルト部(34)の下流側端面から上流側に向かって位置基準面(33)に達する2本のスリット(40)(41)が切り込まれている。これらのスリット(40)(41)は心棒(32)の軸線を通り、直交する位置に設けられている。これらのスリット(40)(41)により、心棒(32)およびボルト部(34)は軸線に垂直な面において四分割され、分割された心棒(32)の断面は4つの四半円によって構成されている。
図8Aに示す常温(T)時において、心棒(32)とマンドレルリング(35)との間には隙間(S)がある。図8Bに示す押出時のダイス温度(T)において、心棒の外径(AT1)とマンドレルリング(35)の内径(BT2)とがAT1≧BT2の関係となって両者間の隙間(S)がなくなる。このとき、心棒(32)の熱膨張によってマンドレルリング(35)を締め付けてマンドレルリング(35)を固定する力は、マンドレルリング(35)が心棒(32)を外周側から拘束する力となり、心棒(32)の外径が拡大しようとする力に抗して作用する。そして、マンドレルリング(35)による拘束によって、四分割された心棒(32)がそれぞれ軸線に向かって僅かに撓んでスリット(40)(41)の幅が狭くなり、常温時のスリット幅(CT1)>押出時のスリット幅(CT2)となる。このような心棒(32)の撓み変形によって押出時の心棒(32)の外径は、常温(T)時の外径(AT1)および熱膨張係数(α)に基づいて(I)式により算出した外径(AT2)よりも小さくなり、マンドレルリング(35)の締め代も(V)式により算出した締め代(XT2)よりも僅かに小さくなる。即ち、心棒(32)とマンドレルリング(35)の熱膨張係数差(α−α)で生じる締め付け力の一部をスリット(40)(41)によって分割された心棒(32)の撓みで吸収し、マンドレルリング(35)に対する応力負荷を軽減させている。
上述したように、本発明のマンドレルにおいては、マンドレルリング(35)に対する締め付け力は心棒(32)の撓みによって緩和され、実際に得られる締め代は常温時の寸法おおよび熱膨張係数に基づいて算出した締め代(XT2)から心棒(32)の撓みによる緩和分を差し引いた値となる。このため、押出時に計算上の締め代(XT2)を得るためには、常温(T)時の両者間の隙間(S)を(XT2)の計算の元となった値よりも小さく(狭く)設定することができ、小さい隙間(S)でマンドレルリング(35)を安定して固定することができる。そして、常温時の隙間(S)を小さく設定することで、マンドレル(30)を組み立てる際に心棒(32)とマンドレルリング(35)との間のがたつきが小さくなって心棒(32)とマンドレルリング(35)の心合わせがなされやすくなる。常温(T)時に心合わせがなされていると押出時のダイス温度(T)においても心合わせの精度が高まりマンドレルリング(35)の位置精度が高まるので、本発明の押出ダイスを用いた金属の押出において押出材の偏肉を低減することができる。
上記の本発明による心棒の撓みを利用したマンドレルリングの心合わせ向上効果は、心棒とマンドレルリングの熱膨張係数差の大小にかかわらず得ることができる。ただし、両者の熱膨張係数差が大きいマンドレルでは、スリットなしの心棒を用いると過剰な締め付け力によるマンドレルリングの破損を防ぐために常温時の隙間(S)を大きく設定しなければならないので、このようなマンドレルにおいて本発明を適用する意義は大きい。
心棒(32)に設けるスリットの数は上記実施形態の2本に限定されない。スリットは1本あれば心棒(32)を撓ませてマンドレルリング(35)に対する締め付け力を吸収できるので、スリットの数は任意である。心棒の軸線を心棒強度を確保しつつマンドレルリングの締め付け力を緩和するために、スリットの好ましい数は1〜6本である。また、周方向において均等に撓ませるために、スリットは軸線を通っていることが好ましく、複数本のスリットを設ける場合は周方向に等間隔で設けることが好ましい。また、心棒の直径心棒を奇数部分に分割するスリットを設けることもできる。
スリット(40)(41)の幅も限定されないが、狭過ぎると心棒(32)を撓ませることができず、逆に広すぎると心棒強度が低下し、かつ過剰に撓んでマンドレルリング(35)に対する締め付け力が低下するので好ましくない。図8Aに参照されるように、常温(T)時において、好ましいスリット幅(CT1)は心棒(32)の外径(AT1)の50%以下であり、特に心棒(32)の外径(AT1)の10〜30%が好ましい。また、図8Bに参照されるように、押出時のダイス温度(T)においては、スリット幅(CT2)が0より大きいことが好ましい。スリット幅(CT2)=0とは分割した心棒(32)が撓んで接触した状態であるから、締め付け力の緩和が不十分であるおそれがある。また、常温時の好ましいスリット幅(CT1)が心棒(32)の外径(AT1)の50%以下であることから、押出時のダイス温度(T)において、スリット幅(CT2)は心棒(32)の外径(AT2)の30%以下であることが好ましく、特に心棒(32)の外径(AT2)の5〜15%が好ましい。
スリット(40)(41)の軸線方向の長さ(MT1)も限定されない。しかし、心棒(32)の撓む領域はスリット(40)(41)の底(40a)(41a)(スリットの上流側の端部)よりも下流側の部分であるから、軸線方向の全域でマンドレルリング(35)に対する締め付け力を緩和して応力負荷軽減効果を得るには、スリット(40)(41)の底(40a)(41a)が心棒(32)の上流側端部である位置基準面(33)に達していることが好ましい。また、常温(T)時のスリット(40)(41)の長さ(MT1)がマンドレルリングの長さ(mT1)と同一またはそれ以上となるよう設定することが好ましく、MT1≧mT1の関係を満足するよう設定することが好ましい。また、図3、図6A、図6Bに示したマンドレル(30)においては、マンドレルリング(35)の軸線方向の固定を確実なものとするために、常温(T)時において、心棒(32)の長さ(符号なし)をマンドレルリング(35)の長さ(mT1)よりも短くしているので、スリット(40)(41)の長さ(MT1)≧マンドレルリング(35)の長さ(mT1)の関係を満足するように設定すると、スリット(40)(41)の底(40a)(41a)はマンドレルリング(35)の位置基準面(33)よりも上流側になり、台座(31)にまで切り込んだスリットとなる。
(第2の心棒とマンドレル)
本発明のマンドレルはマンドレルリングの軸線方向の拘束手段を限定するものではない。
図9Aおよび図9Bのマンドレル(50)は、マンドレルリング(35)の軸線方向の拘束手段として、心棒(32)に対して着脱自在のボルト(51)を用いたものである。また、図10は心棒(32)の斜視図、図11Aはマンドレル(50)の常温時(T)の断面図であり、図11Bは押出時のダイス温度(T)時の断面図である。
前記マンドレル(50)において、心棒(32)の中心に心棒(32)を軸線方向に貫くボルト挿通孔(55)が設けられ、孔底となる台座(31)に雌ねじ部(56)が形成されている。上述したマンドレル(30)と同じく、心棒(32)の軸線を通る2本のスリット(40)(41)が直交する位置に設けられて心棒(32)が四分割されているが、ボルト挿通孔(55)が形成されているために、分割された心棒(32)の断面は4つの扇形によって構成されている(図11A参照)。一方、ボルト(51)は、ボルト挿通孔(55)の孔径(DT1)よりも外径(ET1)の小さい雄ねじ部(52)の一端にマンドレルリング(35)の内径(BT1、BT2)よりも径大の頭部(53)を有している。常温(T)において、ボルト挿通孔(55)の孔径(DT1)>雄ねじ部の外径(ET1)の関係にある。また、押出時のダイス温度(T)時のボルト挿通孔(55)の孔径は(DT2)、雄ねじ部(52)の外径は(ET2)であり、両者はDT2>ET2の関係にある。
図9Bに示すように、常温(T)時に行うマンドレル(50)の組み立ては、心棒(32)にマンドレルリング(35)を外嵌めし、ボルト(51)の雄ねじ部(52)を心棒(32)のボルト挿通孔(55)に挿入し、先端部を台座(31)の雌ねじ部(56)に螺合させることにより行う。組み立てたマンドレル(50)は、ボルト(51)の頭部(53)がマンドレルリング(35)の下流側端面に当接してマンドレルリング(35)を抑えている。また、押出時のダイス温度(T)においてもマンドレルリング(35)に対して抑えが利くように、マンドレルリング(35)が心棒(32)よりも長く、心棒(32)の下流側端面と頭部(53)との間には隙間(S)が存在する。
常温(T)時のマンドレル(50)は、心棒(32)とマンドレルリング(35)との間に隙間(S)を有し、スリット(40)(41)の幅は(CT1)である。押出時のダイス温度(T)に上昇すると、心棒(32)とマンドレルリング(35)の熱膨張係数の差によって両者間の隙間(S)がなくなり、マンドレルリング(35)に外周を拘束されている心棒は軸線方向に撓んでスリット幅は(CT2)に減少する。前記ボルト挿通孔(55)の孔径(DT2)はボルト(51)の雄ねじ部(52)の外径(ET2)よりも大きく設定されているので、雄ねじ部(52)が心棒(32)の撓みを妨げることはない。このような心棒(32)の撓みによって心棒(32)とマンドレルリング(35)の熱膨張係数差(α−α)で生じる締め付け力の一部が吸収され、マンドレルリング(35)に対する応力負荷を軽減させることができる。
本実施形態のマンドレル(50)において、心棒(32)のボルト挿通孔(55)の孔径(DT2)は心棒(32)の撓みを妨げないようにボルト(51)の雄ねじ部(52)の外径(ET2)よりも大きく設定する必要がある。また、心棒強度を確保するために、押出時のダイス温度(T)において心棒外径(AT2)の80%以下に設定することが好ましく、特に心棒外径(AT2)の50%以下に設定することが好ましい。
また、第2の心棒におけるスリット数、スリット幅およびスリット長さの好ましい範囲は、先に説明したボルト部を一体に形成した第1の心棒に準じる。
本発明の押出ダイスは、閉じられた中空部を有する中空材の押出のみならず、中空部の一部が開口した半中空材の押出にも適用することができる。
また、本発明の押出ダイスを用いて成形する材料は金属である限り何ら限定されず、アルミニウム、銅、鉄およびこれらの合金を例示できる。
本発明の押出ダイスは、中空部または半中空部を有する各種押出材の製造に利用できる。
1…押出材
10…ポートホールダイス
11…雌型
20…雄型(押出ダイス)
21…ダイス基盤
30、50…マンドレル
32…心棒
34…ボルト部
35…マンドレルリング
37…ナット
40、41スリット
51…ボルト
52…雄ねじ部
55…ボルト挿通孔
56…雌ねじ部
…隙間
T1、CT2…スリット幅
T1、AT2…心棒外径
T1…スリットの軸線方向の長さ
T1…マンドレルリングの軸線方向の長さ

Claims (7)

  1. 押出材の内面を成形するマンドレルが、心棒と、該心棒に外嵌めされるマンドレルリングとを有し、
    前記マンドレルリングは、心棒よりも熱膨張係数の小さい材料で構成され、
    前記心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面が、マンドレルリングを心棒に外嵌めした状態において、常温時に両者間に隙間があり、押出時のダイス温度時に、マンドレルの軸線方向の少なくとも一部においてその隙間が無くなって両者が接触するように設定され、
    前記心棒に、心棒の下流側端面から上流側に向かって切り込まれ、軸線に垂直な面において該心棒を分割する少なくとも1本のスリットが設けられていることを特徴とする押出ダイス。
  2. 前記心棒の先端に心棒よりも径小のボルト部が心棒と一体に形成され、このボルト部にナットを螺合させることによってマンドレルリングが軸線方向に拘束されるものとなされ、前記ボルト部に心棒のスリットが延長して設けられている請求項1に記載の押出ダイス。
  3. 前記心棒にボルト挿通孔が設けられるとともに、孔底に雌ねじ部が設けられ、前記ボルト挿通孔に挿入したボルトを雌ねじ部に螺合させることによってマンドレルリングが軸線方向に拘束されるものとなされている請求項1に記載の押出ダイス。
  4. 常温時において、前記スリットの幅が心棒外径の50%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の押出ダイス。
  5. 押出時のダイス温度において、前記スリットの幅が0を超えかつ心棒外径の30%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の押出ダイス。
  6. 常温時において、前記スリットの軸線方向の長さ(MT1)とマンドレルリングの軸線方向の長さ(mT1)とがMT1≧mT1の関係を満たす請求項1〜5のいずれかに記載の押出ダイス。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の押出ダイスを用い、心棒とマンドレルリングとの間の軸線方向の少なくとも一部において隙間が無くなる温度で押出を行うことを特徴とする押出方法。
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