図1および図2に示すポートホールダイス(10)は、中空押出材(1)の外周面を成形する雌型(11)と内周面を成形する雄型(20)とが組み合わされてなり、前記雄型(20)が本発明の押出ダイスの一実施形態である。
雌型(11)は、中央部にベアリング孔(12)を有し、ベアリング孔(12)の下流側にはリリーフ孔(13)が形成され、上流側には溶着室用凹部(14)が形成されている。
前記雄型(20)は、ダイス基盤(21)の中央から下流側にマンドレル(30)が突出し、このマンドレル(30)の周囲に押出方向に貫通する複数個のポートホール(22)を有している。隣接するポートホール(22)(22)間には、下流側に突出する前記マンドレル(30)をその基端部で支持する脚部(23)が形成されている。
図3に示すように、前記マンドレル(30)において、ダイスの基盤部(21)から一体に続く台座(31)の先端側に径の小さい心棒(32)が一体に形成され、前記台座(31)と心棒(32)との直径差によりこれらの間には段部(33)が形成されている。前記心棒(32)の先端(下流側)には、心棒(32)よりも径小で外周面に螺旋状のネジ溝が形成されたボルト部(34)が心棒(32)と一体に形成されている。前記台座(31)、心棒(32)およびボルト部(34)は同軸上に形成されている。マンドレルリング(35)は、外周面に押出材(1)の内周面を成形するベアリング部(36)が突設された環状体である。ナット(37)は前記ボルト部(34)のネジ溝に螺合されるネジ孔(38)を有している。而して、前記心棒(32)にマンドレルリング(35)を外嵌めして段部(33)に当接させ、ボルト部(34)にナット(37)のネジ孔(38)を螺合させると、マンドレルリング(35)は段部(33)とナット(37)に挟まれて、押出軸方向の所定位置に配置される。前記心棒(32)およびマンドレルリング(35)の材料特性および寸法については後に詳述する。
前記雌型(11)と雄型(20)とを組み合わせると、雌型(11)のベアリング孔(12)内に雄型(20)のマンドレルリング(35)のベアリング部(36)が嵌り込んでこれらの間に環状の成形用間隙(符号なし)が形成され、雌型(11)の溶着室用凹部(14)の一部が雄型(20)の端面で塞がれてポートホール(22)に連通する溶着室を形成する。そして、各ポートホール(22)に流入した押出材料は溶着室で合流し、成形用間隙から中空部(2)を有する押出材(1)として押出される。
さらに、前記マンドレル(30)には、心棒(32)とマンドレルリング(35)とを分解することなく、これらの合わせ面を洗浄するために流体を流通させる流体用通路が設けられている。この流体用通路については後述する。
〔マンドレルの形状〕
本発明のマンドレルは、マンドレルリングを心棒に外嵌めした状態において、常温時に両者間に隙間があり、押出時のダイス温度において、マンドレルの軸線方向の少なくとも一部においてその隙間が無くなって両者が接触するように設定されている限り、前記心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面の形状は任意に設定することができる。即ち、本発明におけるマンドレルの形状に関する条件は下記(1)(2)である。
(1)常温時にマンドレルリングを心棒に外嵌めすることができる隙間があること
(2)押出時のダイス温度において、軸線方向の少なくとも一部においてその隙間が無くなって心棒とマンドレルリングとが接触すること
本発明における「押出時のダイス温度」とは、心棒(32)およびマンドレルリング(35)が高温押出時に所定の温度となり、そのときの温度をいう。
図3および図5Aは、本実施形態のマンドレル(30)の常温(T1)時における要部断面図である。このマンドレル(30)は、図1および図2に示した押出ダイス(10)の雄型(20)の一部を構成するマンドレルである。
前記マンドレル(30)は、心棒(32)の外周面(32a)およびマンドレルリング(35)の内周面(35a)がマンドレル(30)の軸線と平行に形成され、心棒(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)の内径(BT1)は軸線方向において一定である。前記心棒(32)にマンドレルリング(35)を外嵌めすると、両者間に軸線に平行な一定の隙間(S1)が存在する。
本発明において、心棒(32)とマンドレルリング(35)との間に「隙間(S1)がある」とは、心棒(32)とマンドレルリング(35)との接触の有無を意味するのではなく、常温(T1)における心棒の外径(AT1)とマンドレルリングの内径(BT1)とが「BT1>AT1」なる関係を満足し、両者の間にクリアランスが存在することを意味する。また、常温(T1)時の隙間(S1)の大きさはマンドレルリング(35)の内径(BT1)と心棒(32)の外径(AT1)との差(BT1−AT1)で表わすものとする。
なお、図5Aはマンドレルリング(35)の内周面(35a)と心棒(32)の外周面(32a)との間の距離が周方向においても一定の大きさとした状態を示しているが、常温(T1)においてはマンドレルリング(35)と心棒(32)の軸合わせがなされていないので、両者間の距離は周方向で必ずしも一定にはならない。例えば、マンドレル(30)の軸線が水平となる姿勢で組み立てを行うと、図5Cに示したように、マンドレルリング(35)の内周面(35a)の上部が心棒(32)の外周面(32a)の上部に接触して両者間の距離はゼロであり、周方向に沿って下方にいくにつれて両者間の距離が拡大し、下部において距離が最大となる。また、マンドレルリング(35)はナット(37)で締め付けられて仮止めされた状態にあるので、全周において両者は接触していないが、両者間の距離には偏りがある、という場合もある。従って、本発明において「隙間がある」とは、マンドレルリング(35)と心棒(32)との接触の有無を意味するのではなく、常温(T1)における心棒(32)の外径(AT1)とマンドレルリング(35)の内径(BT1)とが「BT1>AT1」なる関係を満足し、両者の間にクリアランスが存在することを意味する。また、マンドレルリング(35)と心棒(32)とが上述したいずれの位置関係にある場合においても、本発明における隙間(S1)の大きさはマンドレルリング(35)の内径(BT1)と心棒の外径(AT1)との差(BT1−AT1)で表される。
また、本発明は心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面はマンドレルの軸線に対して平行であることを要さず、心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面のどちらか一方または両方が軸線に対して傾斜するテーパー面で形成されているマンドレル、軸線方向の一部がテーパー面で形成されているマンドレルも本発明に含まれる。従って、両者間の隙間の大きさが軸線方向で変化することもあり、本発明における隙間(S1)とは、軸線方向においてマンドレルリングの内径(BT1)と心棒の外径(AT1)との差(BT1−AT1)が最小となる部分における隙間である。
前記マンドレル(30)は、常温(T1)時に心棒(32)とマンドレルリング(35)とを組み付ける際には、両者の間に隙間(S1)があるのでマンドレルリング(35)を心棒(32)に外嵌めすることは容易である。さらに、ナット(37)を取り付けて締め付けると、心棒(32)には押出方向の引張力が生じ、マンドレルリング(35)には押出方向の圧縮力が生じる。
〔マンドレルの材料〕
前記マンドレルリング(35)を構成する材料は耐摩耗性に優れ、かつその熱膨張係数(α2)と心棒(32)を構成する材料の熱膨張係数(α1)とがα1>α2の関係を満足するものであれば特に限定されない。本実施形態においては、心棒(32)を含む部分(以下、単に「心棒」と略する)が工具鋼で形成されているのに対し、マンドレルリング(35)は前記工具鋼よりも耐摩耗性の高い超硬材料で構成されている。超硬材料としては、WC−Co等の超硬合金、高速度工具鋼、粉末高速度工具鋼、セラミックス等を例示できる。表1に、これらの超硬材料および工具鋼の一例およびそれらの熱膨張係数を示す。なお、心棒(32)およびマンドレルリング(35)の基材の熱膨張係数がα1>α2の関係を満足すれば良いので、例示した材料は表1に記載した用途に限定されない。例えば、粉末高速度工具鋼の心棒に超硬合金やセラミックスのマンドレルリングを組み合わせる場合も本発明に含まれる。
本発明において、マンドレルリングとして心棒よりも熱膨張係数の小さい材料を用いることにより、押出時の加工発熱によるマンドレルリングの膨張率が小さくなるため、押出材はより安定した寸法のものを得ることができる。即ち、心棒(工具鋼)に熱膨張係数の小さいマンドレルリングを組み合わせたマンドレルでは、押し出していない時と加工発熱最大時との外径差が、工具鋼のみで製作したマンドレルにおける外径差よりも小さくなるので、押出材の肉厚が安定する。そして、押出材の寸法が安定していると、後加工後の製品品質も安定したものとなる。例えば、押出後に引抜加工を行う場合、押出材に偏肉がなく肉厚が一定であれば、引抜材の肉厚も一定になる。また、押出材の肉厚が一定であれば、引抜上がりの長さも一定になる。また、マンドレルリングの材料は耐摩耗性が高いので摩耗粉の発生が少なく、摩耗粉の押出材への混入も減少する。押出材に異物であるダイスの摩耗粉が混入していると、押出材の品質が低下することはもとより引抜材の表面欠陥となる。押出材への摩耗粉の混入量が少なければ、引抜材に発生する表面欠陥も少なくなる。これらのことから、本発明の押出ダイスを用いて製造した押出材は、押出材としての品質が優れていることはもとより、後加工用素材としても品質の優れたものとなる。
〔マンドレルリングの径方向における固定〕
図4は、温度(T)に対する心棒(32)の外径(A)およびマンドレルリング(35)の内径(B)の変化を示したものである。
心棒(32)およびマンドレルリング(35)はいずれも熱膨張により寸法が拡大する(AT、BT)。この図に示すように、常温(T1)において、マンドレルリングの内径(BT1)は心棒の外径(AT1)よりも大きく、実寸としてBT1−AT1の隙間がある。温度(T)が上昇すると、心棒(32)およびマンドレルリング(35)は、それぞれの熱膨張係数(α1)(α2)に応じて径が大きくなる。T2>T1を満足する任意の温度(T2)における心棒(32)の外径(AT2)およびマンドレルリング(35)の内径(BT2)は、下記の(I)式および(II)式で表される。
AT2=AT1×(T2−T1)×α1+AT1 …(I)
BT2=BT1×(T2−T1)×α2+BT1 …(II)
ただし、α1:心棒を構成する材料の熱膨張係数
α2:マンドレルリングの基材を構成する材料の熱膨張係数
T1:常温
T2:高温(>T1)
AT1:常温(T1)時の心棒の外径
BT1:常温(T1)時のマンドレルリングの内径(>AT1)
図5Aに示すように、常温(T1)においてマンドレルリング(35)の内径(BT1)を心棒(32)の外径(AT1)よりも大きい寸法で製作すると、両者の寸法差により心棒(32)の外周面とマンドレルリング(35)の内周面との間には隙間(S1)があるので、容易に外嵌めすることができる。
そして、図5Bに示すように、ダイス温度が上昇すると、心棒(32)の外径拡大量がマンドレルリング(35)の内径拡大量を上回るために隙間(S1)は減少していき、この隙間(S1)が無くなるとマンドレルリング(35)は心棒(32)に固定される。
熱膨張係数はα1>α2であるから、図4に参照されるように、温度上昇に伴い、温度(TZ)において心棒(32)の外径(ATZ)とマンドレルリング(35)の内径(BTZ)が等しくなった時点で隙間(S1)が無くなり、マンドレルリング(35)は心棒(32)から外れなくなって固定された状態となる。さらに温度が上昇すると、心棒(32)の外径(AT)がマンドレルリング(35)の内径(BT)を上回る。心棒(32)の外径(AT)がマンドレルリング(35)の内径(BT)を上回る温度領域(T>TZ)では、心棒(32)の膨張力がマンドレルリング(35)を内側から締め付ける力として作用し、マンドレルリング(35)に周方向の引張力が付与されるので、ますます心棒(32)から外れにくくなってしっかりと固定される。
〔心棒とマンドレルリングの締め代〕
押出時、ダイスは所定温度に加熱されて常温(T1)よりも高温となる。従って、図4および図5Bに示すように、押出時のダイス温度(T2)において、心棒(32)の外径(AT2)がマンドレルリング(35)の内径(BT2)と等しくなるか、心棒(32)の外径(AT2)がマンドレルリング(35)の内径(BT2)を上回るように、常温(T1)時の心棒(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)の内径(BT1)を設定すれば、マンドレルリング(35)を心棒(32)に固定した状態で押出を行うことができる。そして、マンドレルリング(35)が心棒(32)に固定された状態で押出を行うと、押出材(1)の偏肉が抑制されて高品質の押出材(1)を製造することができる。ただし、心棒(32)の膨張力が過剰になってマンドレルリング(35)の引張力の限界を超えるとマンドレルリング(35)が破損するので、材料の熱膨張係数(α1、α2)と押出時のダイス温度(T2)を勘案して、高温時に適度な引張力を生じさせるように、常温(T1)時の心棒(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)の内径(BT1)を設定する。
ここで、任意の温度(T)における心棒(32)とマンドレルリング(35)との締まり具合および緩み具合を、心棒(32)の外径(AT)とマンドレルリング(35)の内径(BT)の比率に基づいて、下記(III)式の締め代(XT)として定義する。AT<BT、即ち両者の間には隙間がある状態ではXT<0となり、締め代(XT)値が小さくなるほど緩みが大きいことを示している。一方、AT>BT、即ち両者の間には隙間がなくマンドレルリング(35)が内側から心棒(32)に締め付けられている状態ではXT>0となり、締め代(XT)の値が大きくなるほど締め付け力大きいことを示している。AT=BT(XT=0)は、両者間に隙間はないが締め付け力が利いていない状態である。
XT(%)=(AT/BT−1)×100 …(III)
さらに、(III)式により、常温(T1)時および高温(T2)時(押出時のダイス温度)における心棒(32)とマンドレルリング(35)との締め代(XT1)(XT2)は、それぞれ(IV)式および(V)式により表わされる。
XT1(%)=(AT1/BT1−1)×100 …(IV)
XT2(%)=(AT2/BT2−1)×100
={〔AT1×(T2−T1)×α1+AT1〕/〔BT1×(T2−T1)×α2+BT1〕−1}×100 …(V)
心棒(32)およびマンドレルリング(35)は、常温(T1)時にAT1<BT1となるように製作されるのでXT1<0となり、締め代(XT1)は両者間の隙間があって緩んだ状態を示している。一方、押出時のダイス温度(T2)において両者間の隙間が無くなってAT2≧BT2であるから、その締め代(XT2)は0または正値となり、締め付け力が利いている状態を示している。また、XT2<0は、押出時のダイス温度(T2)においても緩みがあってマンドレルリング(35)が心棒(32)に固定されていない状態を示している。
前記締め代(XT2)が大きくなるほど締め付け力も強くなり、マンドレルリング(35)がしっかりと固定されて外れにくくなるが、上述したように締め付け力が過度に大きくなるとマンドレルリング(35)が破損するおそれがある。また、押出時には材料流れにより押出方向の力もが加わる。これらを勘案すると、前記締め代(XT2)は0.3%以下が好ましい。前記締め代(XT2)が0または正値である限り下限値は規定されないが、確実に固定するために0.05%以上が好ましい。特に好ましい締め代(XT2)は0.15〜0.25%である。なお、締め代(XT2)の適正範囲は、心棒(32)およびマンドレルリング(35)の材質、マンドレルリング(35)の厚み等によって異なる。
従って、常温(T1)時に隙間(S1)が最小となり押出時のダイス温度(T2)時に締め付け力が最大となる部分において、押出(T2)時の締め代(XT2)が0〜0.3%となるように心棒(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)の内径(BT1)を設定すれば良い。その他の部分における締め代は、常温(T1)時の隙間(S1)の大きさに応じた値となる。
また、常温(T1)時の締め代(XT1)は負値である限り限定されない。心棒(32)の外径(AT1)がマンドレルリング(35)の内径(BT1)よりも小さいので、これらの組み付け作業は容易である。押出ダイスは、押出が終わって常温(T1)に冷却されると常温(T1)時の締め代(XT1)に戻って緩みが生じるので、心棒(32)からマンドレルリング(35)を取り外すことができる。従って、摩耗したマンドレルリングの取り外し、新しいマンドレルリングの取り付けといったメンテナンスを容易に行える。
〔マンドレルリングの押出軸方向における固定〕
上記実施形態のマンドレル(30)においては、心棒(32)の先端に、マンドレルリング(35)の内径よりも径の大きいナット(37)が着脱自在に取り付けられている。高温(T2)時のマンドレルリング(35)は心棒(32)によって径方向に締め付けられて固定されるが、押出中は材料の流れにより下流側への力が加わる。そこで、前記マンドレル(30)においては、ナット(37)を取り付けることでマンドレルリング(35)の抜け落ちを確実に防ぎ、固定安定性を高めている。また、ナット(37)を取り付けて押出軸方向の拘束力を加えることで、心棒(32)の膨張力による締め付けのみで固定する場合よりも、締め代(XT2)を小さくすることができるので、締め代(XT2)の増大によるマンドレルリング(35)の破損の危険性を回避できる。
また、ナット(37)を取り付けるマンドレル(30)においては、心棒(32)およびマンドレルリング(35)の押出軸方向における寸法にも常温(T1)時に差を設けておき、高温(T2)時にナット(37)がマンドレルリング(35)に当接して、マンドレルリング(35)がナット(37)によって確実に拘束されるようにすることが好ましい。
図5Aおよび図5Bは、心棒(32)およびマンドレルリング(35)の押出軸方向における好ましい寸法関係を示している。図5Aに示す常温(T1)時において、心棒(32)の長さはマンドレルリング(35)の長さよりも短く、ボルト部(34)に螺合させたナット(37)はマンドレルリング(35)を締め付けている。心棒(32)には、心棒(32)とナット(37)との間の隙間(S2)に応じた引張力が付与され、マンドレルリング(35)は押出軸方向に拘束されている。図5Bは、図5Aの押出時のダイス温度(T2)時の状態を示す図であり、心棒(32)およびマンドレルリング(35)がそれぞれに膨張した状態を示している。心棒(32)の熱膨張係数(α1)とマンドレルリング(35))の熱膨張係数(α2)はα1>α2の関係にあるので、心棒(32)の寸法拡大量がマンドレルリング(35)の寸法拡大量を上回り、前記隙間(S2)は減少方向に変化する。この隙間(S2)の減少により、心棒(32)に付与される引張力は減少し、マンドレルリング(35)に対する締め付け力は減少するが、隙間(S2)がある限りがナット(37)による抑えが利いているので、マンドレルリング(35)が押出軸方向にずれることはない。即ち、マンドレルリング(35)は径方向と押出軸方向の両方向に拘束されて固定されている。このように、押出軸方向の拘束が加わることで、上述した径方向の締め代(XT2)を小さくしても、マンドレルリング(35)の固定安定性を維持することができる。ひいては、マンドレルリング(35)に付与される周方向の引張力を軽減して、締め代(XT2)の増大による破損を回避することができる。
これに対し、図6Aは、常温(T1)において心棒(32)とマンドレルリング(35)の長さが等しく、心棒(32)とナット(37)との間に隙間(S2)が無い状態を示している。図6Bは、図6Aの押出時のダイス温度(T2)における状態を示す図であり、熱膨張により心棒(32)がマンドレルリング(35)よりも長くなって、マンドレルリング(35)とナット(37)との間に隙間(S3)が生じている。このような状態では、マンドレルリング(35)に対してナット(37)による抑えが利かなくなり、押出軸方向の固定安定性が低下する。また、このような状態でマンドレルリング(35)のずれを確実に阻止するには、径方向の締め代(XT2)を十分に大きくする必要があるので、マンドレルリング(35)が破損する可能性も増大する。
なお、図5Aおよび図5Bでは常温(T1)時に心棒(32)がマンドレルリング(35)より短い場合を示したが、その差が小さく押出時のダイス温度(T2)時に長さが逆転して心棒(32)がマンドレルリング(35)よりも長くなれば、図6Bのようにナット(37)による抑えが利かなくなる。
以上より、押出時のダイス温度(T2)においてマンドレルリング(35)にナット(37)による締め付け力が作用するように、常温(T1)時の心棒(32)およびマンドレルリング(35)の押出軸方向の寸法を設定しておくことが好ましい。ダイスの温度上昇に伴って、マンドレルリング(35)とナット(37)は緩む方向に変化するので、押出時のダイス温度(T2)時にナット(37)による締め付け力を確実に利かせるためには、少なくとも常温(T1)時にナット(37)がマンドレルリング(35)を締め付けている必要がある。このとき、軸線方向の寸法は心棒(32)<マンドレルリング(35)であり、心棒(32)とナット(37)との間には隙間(S2)が存在する(図5A参照)。
〔流体用通路〕
上述したように、本発明のマンドレルは、常温(T1)時に心棒とマンドレルリングとの間に隙間(S1)が存在する。そして、マンドレルの外部からその隙間(S1)に通じる流体用通路を有し、流体用通路を通じて外部から導入した液体または気体の流体を隙間(S1)に送り込み、送り込んだ流体を流体用通路を通じて外部に排出することによって、流体を隙間(S1)に流通させることができる。しかも、隙間(S1)に臨むマンドレルリングの内周面に溝が設けられているために、流体の流通量が増大する。この流体用通路による隙間(S1)への流体流通はマンドレルを分解することなく実施できるので、心棒とマンドレルの合わせ面である心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面の洗浄はマンドレルを分解することなく行うことができる。例えば、苛性液で押出材料を溶解し、水洗浄で苛性液を除去し、さらに空気で乾燥させる、といった押出後のダイス洗浄が、マンドレルを分解することなく組み立てたままの状態で行える。
流体用通路は、外部から心棒とマンドレルリングとの隙間に流体を送り込み、送り込んだ流体を隙間から外部に排出させれば足りるので、流体用通路用として孔や溝を設ける他、部材間の合わせ面に生じる僅かな隙間を流体用通路として利用することができる。
以下に、マンドレルリングの溝および種々の流体用通路について、図7A〜図11を参照して説明する。これらに図示したマンドレル(30)(39)(50)(60)(70)は、常温(T1)時において、軸線方向の寸法が心棒(32)よりもマンドレルリング(35)の方が長く、心棒(32)とナット(37)の間には隙間(S2)が存在する。
(第1の流体用通路)
図7Aは図5Aのマンドレル(30)要部拡大図であり、図7Bはマンドレルリング(35)の拡大斜視図である。
図7Bに示すように、前記マンドレルリング(35)の内周面(35a)において、上流側端部から下流側端部に通じる2本の周面溝(80a)(80b)が、軸線方向に沿って周方向等間隔で設けられている。また、マンドレルリング(35)の下流側端面には、外周縁から内周縁に通じる2本の端面溝(81a)(81b)が、前記周面溝(80a)(80b)に連通する位置に設けられている。
マンドレル(30)の組み立てにより、マンドレルリング(35)の端面溝(81a)(81b)は溝上面が閉塞されて両端が開口する孔(82a)(82b)となる。これらの孔(82a)(82b)は、心棒(32)とマンドレルリング(35)との間の隙間(S1)に流体(F)を入排するための流体用通路となる。(83a)(83b)はマンドレル(30)の側面に形成された孔(82a)(82b)の開口部であり、(84a)(84b)は隙間(S1)への連通口である。
前記マンドレル(30)において、一方の開口部(83a)から流体(F)を送り込むと、流体(F)は孔(82a)内を進み、連通口(84a)から隙間(S1)および一方の溝(80a)に入って上流側に進みながら周方向の両側に分流する。また、流体(F)は連通口(84a)から心棒(32)とナット(37)の間の隙間(S2)にも入り、周方向の両側に分流して隙間(S2)からも隙間(S1)に流れ込む。これらの分流した流体(F)は他方の溝(80b)で合流することで隙間(S1)は流体(F)に満たされる。そして、流体(F)は他方の連通口(84b)から孔(82b)に入って他方の開口部(83b)から排出される。
前記マンドレル(30)において、マンドレルリング(35)の周面溝(80a)(80b)によって心棒(32)の外周面(32a)とマンドレルリング(35)の内周面(35a)との距離が部分的に拡大しているので、流体(F)の流通量が増大し、ひいては流体流通による洗浄効果を高めることができる。しかも、マンドレルリング(35)に設けた溝(80a)(80b)(81a)(81b)によって上記効果を得たものであり、心棒(32)への加工を必要としない。従って、既存の心棒を利用し、溝付加工をしたマンドレルリングに交換するだけで上記効果を奏することができる。
前記周面溝(80a)(80b)および端面溝(81a)(81b)の数は限定されず、マンドレルリングとしての必要な強度を確保できる範囲で適宜設定することができ、周面溝(80a)(80b)と端面溝(81a)(81b)とが同数であるこことにも限定されない。また、前記端面溝(81a)(81b)は隙間(S1)に連通しているので周面溝(80a)(80b)と周方向の位置が等しいことにも限定されないが、周面溝(80a)(80b)によって効率良く流通量を増大させるには、端面溝(81a)(81b)と周面溝(80a)(80b)の周方向の位置が等しく両者が連通していることが好ましい。
マンドレルリング(35)の端面に溝を形成する場合は下流側端面に形成することが好ましい。上流側端面に溝を形成すると押出材料が溝に詰まり、詰まった材料を除去しなければ流体の入排ができないので、上流側端面には外部に開口する溝を設けないことが好ましい。
(第2の流体用通路)
図8に示すマンドレル(39)において、マンドレルリング(35)には2本の周面溝(80a)(80b)のみが設けられている。流体用通路は、ボルト部(34)および心棒(32)に設けられた曲がり孔(40)と、ボルト部(34)とナット(37)との間の螺合隙間(45)と、心棒(32)とナット(37)との間の隙間(S2)とにより構成される。
前記曲がり孔(40)は、一端がボルト部(34)の下流側端面中央に開口し、軸線に沿って第1孔(41)がボルト部(34)および心棒(32)を貫き、心棒(32)の基端で半径方向に二分岐して第2孔(42)(42)となり、第2孔(42)(42)の先端は心棒(32)の外周面(32a)に連通している。(43)は曲がり孔(40)の下流側開口部であり、(44)は心棒(32)とマンドレルリング(35)との隙間(S1)への2つの連通口である。一方、前記螺合隙間(45)は、ボルト部(34)とナット(37)とを螺合することによって不可避的に生じる僅かな隙間をそのまま利用した通路であり、マンドレル(30)の下流側端面において環状の下流側開口部(46)を形成している。また、前記螺合隙間(45)は、上流側端部が心棒(32)とナット(37)との間の隙間(S2)に連通し、該隙間(S2)を介して心棒(32)とマンドレルリング(35)との間の隙間(S1)に通じている。(47)は螺合隙間(45)の隙間(S2)への連通口である。
前記マンドレル(30)において、曲がり孔(40)の下流側開口部(43)から流体(F)を送り込むと、流体(F)は第1孔(41)を上流方向に進み、2本の第2孔(42)に分岐して連通口(44)から隙間(S1)および溝(80a)(80b)に出て周方向の両側に分流する。分流した流体(F)は前記隙間(S1)を周方向に流れながら下流側にも進み、隙間(S1)は流体(F)に満たされる。そして、流体(F)は心棒(32)とナット(37)との間の隙間(S2)に進み、さらに連通口(47)から螺合隙間(45)に入って下流側に進み、下流側開口部(46)から排出される。
前記曲がり孔(40)は2本の第2孔(42)に分岐しているが、径方向の第2孔(42)は少なくとも1本あれば隙間(S1)に流体を送り込むことができるので、第2孔(42)の本数は心棒(32)の強度を確保できる限り任意に設定することができ、周面溝(80a)(80b)と同数であるこことにも限定されない。また、第2孔(42)の連通口(44)は隙間(S1)に連通しているのでマンドレルリング(35)の周面溝(80a)(80b)と周方向の位置が等しいことにも限定されないが、周面溝(80a)(80b)によって効率良く流通量を増大させるには、第2孔(42)の連通口(44)とマンドレルリング(35)の周面溝(80a)(80b)の周方向の位置が等しく両者が連通していることが好ましい。また、第2孔(42)の軸線方向の位置も心棒(32)の基端(上流側)に限定されないが、隙間(S1)に均一に流体(F)を流通させるには排出用通路(本例においては螺合隙間(45))から最も離れた位置である心棒(32)の基端が好ましい。さらに、径方向の孔を軸線方向の複数箇所に設けても良い。
なお、常温(T1)時のマンドレル(39)を示す図8は、流体用通路としての螺合隙間(45)を説明するために、螺合隙間(45)の大きさを拡大し強調して図示したものである。押出(T2)時のマンドレル(30)を示す図5Bと対照して温度差によるナット(37)の締まり具合の差を示すものではなく、締まり具合を限定するものでもない。もとより、本発明は、ボルト部(34)の材料とナット(37)の材料の熱膨張係数やその差を限定するものではない。
また、ボルト部(34)とナット(37)の合わせ面において、ボルト部(34)の外周面およびナット(37)の内周面のどちらか一方または両方に軸線方向に沿った1本または複数本の溝を設けて通路の断面積を拡大することもできる(後述の第5の流体用通路および図11を参照)。通路断面積を拡大すれば流体の排出が促進され、また、周方向の特定箇所から排出させることができる。また、螺合隙間が無いかあるいは狭いために流体の流通が困難な場合でもマンドレルの下流端面からの流体排出が可能となる。
(第3の流体用通路)
図9に示すマンドレル(50)において、マンドレルリング(35)には2本の周面溝(80a)(80b)のみが設けられている。流体用通路は、ボルト部(34)および心棒(32)に設けられた曲がり孔(40)と、ナット(37)の上流側端面に設けられた溝(51a)(51b)とにより構成される。
前記曲がり孔(40)は、図8のマンドレル(39)における曲がり孔(40)と同一である。前記ナット(37)の上流側端面、即ちマンドレルリング(35)を抑える面には、外周縁から内周縁に通じる半径方向の2本の溝(51a)(51b)が設けられている。これらの溝(51a)(51b)はマンドレル(50)の組み立てにより、溝(51a)(51b)の上面がマンドレルリング(35)の下流側端面に閉塞されて半径方向の両端が開口した孔(52a)(52b)となる。(53a)(53b)は孔(52a)(52b)の外周側開口部であり、(54a)(54b)は隙間(S1)に通じる連通口である。
前記マンドレル(50)において、曲がり孔(40)の下流側開口部(43)から流体(F)を送り込むと、流体(F)は第1孔(41)を上流方向に進み、2本の第2孔(42)に分岐して連通口(44)から隙間(S1)および溝(80a)(80b)に出て周方向の両側に分流する。そして、分流した流体(F)は前記隙間(S1)を周方向に流れながら下流側にも進み、前記孔(52a)(52a)の連通口(54a)(54b)に直接流れ込み、あるいは隙間(S2)を経由しての連通口(54a)(54b)に流れ込み、孔(52a)(52b)を通って外周側開口部(53a)(53a)から排出される。
前記溝(51a)(51b)はナット(37)の外周縁から内周縁に達するように形成したものであるが、心棒(32)とマンドレルリング(35)との間の隙間(S1)に達していれば流体用通路となし得る。従って、ナット(37)の上流側端面において、溝(51a)(51b)の一端側が外周縁に達していることは必要条件であるが、他端側が内周縁に達していることは必要条件ではない。また、前記溝(51a)(51b)は少なくとも1本あれば流体(F)を流通させることができるので溝の数は任意に設定することができ、マンドレルリング(35)の周面溝(80a)(80b)と同数であるこことにも限定されない。また、前記溝(51a)(51b)は隙間(S1)に連通しているので周面溝(80a)(80b)と周方向の位置が等しいことにも限定されないが、周面溝(80a)(80b)によって効率良く流通量を増大させるには、ナット(37)の溝(51a)(51b)と周面溝(80a)(80b)の周方向の位置が等しく両者が連通していることが好ましい。
(第3の流体用通路)
図10に示すマンドレル(60)において、マンドレルリング(35)には2本の周面溝(80a)(80b)のみが設けられている。流体用通路は、ナット(37)の上流側端面に設けられた溝(51a)(51b)により構成されている。また、心棒(32)の外周面に溝(61a)(61b)を設けることによって、マンドレルリング(35)の周面溝(80a)(80b)とともに心棒(32)とマンドレルリング(35)との間の隙間(S1)に流通させる流体の流通量を増大させている。
前記ナット(37)に設けた2本の溝(51a)(51b)は図9のマンドレル(50)のナット(37)の溝(51a)(51b)と同一位置に設けたものであり、マンドレルリング(35)によって2つの孔(52a)(52b)を形成するとともに孔(52a)(52b)の一端側に外周側開口部(53a)(53b)を形成し、他端側に隙間(S1)との連通口(54a)(54b)を形成することも共通する。本実施形態においては、2本の孔(52a)(52b)のうちの一方を流体導入用通路(52a)として用い、他方(52b)を流体排出用通路として用いる。
また、心棒(32)の外周面において、軸線方向に沿って2本の溝(61a)(61b)が周方向等間隔に設けられている。これらの溝(61a)(61b)によって、心棒(32)の外周面とマンドレルリング(35)の内周面との距離は、周方向の2箇所で拡大される。また、前記溝(61a)(61b)は、マンドレルリング(35)の2本の周面溝(80a)(80b)と周方向の同一位置にあって隙間(S1)を挟んで対向し、さらにはナットの溝(51a)(51b)とも周方向の同一位置にある。
前記マンドレル(60)において、一方の外周側開口部(53a)から流体を導入すると、孔(52a)を通って連通口(54a)から出た流体(F)は、心棒(32)とマンドレルリング(35)との間の隙間(S1)および2つの溝(61a)および溝(80a)に送り込まれ、また心棒(32)とナット(37)との間の隙間(S2)を経由して隙間(S1)および2つの溝(61a)(80a)に送り込まれ、あるいは隙間(S2)を周方向に進んで隙間(S1)に送り込まれ、上流方向に進みつつ、周方向にも進んでいく。このとき、2つの溝(61a)(80a)によって連通口(54a)から隙間(S1)に送り込まれる流体(F)の流通量が増大される。そして、分流して隙間(S1)を満たした流体(F)は、他方の2つの溝(61b)(80b)またはその近傍で合流し、溝(61b)(80b)に沿って下流側に流れ、他方の連通口(54b)から孔(52b)に進み、外周側開口部(53b)から排出される。
このように、ナット(37)の上流側端面に溝(51a)(51b)を形成することによって、流体(F)をマンドレル(60)の側面から送り込み、あるいは排出させることができる。また、マンドレルの側面からの流体(F)の入排はマンドレルリング(35)の端面(81a)(81b)によっても可能であり(図8参照)、両方の溝(51a)(81a)、(51b)(81b)を周方向の同一位置に配置するようにしても良い。
(第5の流体用通路)
図11に示すマンドレル(70)において、マンドレルリング(35)には2本の周面溝(80a)(80b)のみが設けられている。流体用通路は、ボルト部(34)とナット(37)との合わせ面に設けられた孔(72a)(72b)と、心棒(32)とナット(37)との間の隙間(S2)とにより構成される。
前記ボルト部(34)の外周面には、周方向の2箇所に軸線方向に沿った溝(71a)(71b)が設けられ、ナット(37)を螺合させることによって溝(71a)(71b)の上面がナット(37)に塞がれて、マンドレル(70)の下流側端面およびナット(37)の上流側端面に開口する孔(72a)(72b)が形成される。(73a)(73b)は孔(72a)(72b)の下流側開口部であり、(74a)(74b)は隙間(S2)への連通口である。また、心棒(32)の外周面に形成された2本の溝(61a)(61b)は図10に示した心棒(32)の溝(61a)(61b)と同一である。
前記マンドレル(70)において、一方の下流側開口部(73a)から流体(F)を導入すると、流体(F)は孔(72a)に入り上流側に進んで連通口(74a)から隙間(S2)に出る。そして、流体(F)は隙間(S2)から隙間(S1)および2つの溝(61a)(80a)に送り込まれ、また隙間(S2)を周方向に進みながら隙間(S1)に送り込まれ、上流方向に進みつつ、周方向にも進んでいく。このとき、2つの溝(61a)(80a)によって連通口(74a)から隙間(S1)に入る流体の流通量が増大される。そして、分流して隙間(S1)を満たした流体(F)は、他方の2つの溝(61b)(80b)またはその近傍で合流し、溝(61b)(80b)に沿って下流側に流れ、他方の連通口(74b)から孔(72b)に進み、外周側開口部(73b)から排出される。
以上のように、外部に開口する流体用通路によって、心棒(32)とマンドレルリング(35)との隙間(S1)に流体(F)を送り込み、かつ送り込んだ流体(F)を排出することができる。また、マンドレルリング(35)の内周面に溝を形成することによって、隙間(S1)に流通させる流体(F)の流通量を増大させることができる。このように流体(F)を隙間(S1)に送り込んで流通させることにより、心棒(32)の外周面(32a)およびマンドレルリング(35)の内周面(35a)を洗浄することができる。流体(F)の流通はマンドレル(30)(39)(50)(60)(70)を分解することなく組み立てたままの状態で行えるので、分解および組み立ての手間を省いて短時間で作業することができる。従って、本発明の押出ダイスを用いて金属を押出した後のダイスメンテナンスにおいて、マンドレルを分解することなく組み立てたままの状態で心棒とマンドレルリングとの間の隙間に流体用通路を通じて外部から流体を送り込んで流通させることにより、心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面を洗浄することができるので、ダイスメンテナンスを短時間で効率良く行うことができる。
また、本発明はマンドレルリングに溝を設けることによって流量増大を図るものであるから、心棒への加工を要さず簡単な手段で流量増大を図ることができる。さらに流体用通路としてマンドレルリングの溝や部材間の隙間を利用する場合は、既存の心棒をそのまま利用し、マンドレルリングを交換するだけでダイスメンテナンスの効率を向上させることができる。
また、図12に示すように、マンドレルリング(35)は、内周面と端面とのエッジを面取り状に切り欠いて流体の周方向の流通を促すようにしても良い。図示例のマンドレルリングは上流側エッジの全周に面取り部(85)を設けたものであり、例えば図8、9のように流体(F)が隙間(S1)の上流側端部に送り込まれて下流側に進んでいくマンドレル(39)(40)に用いることにより、隙間(S1)の上流側端部に送り込まれた流体(F)を速やかに全周に行き渡らせ、隙間における周方向の流体流通を均一にし、かつ流体量を増大させることができる。また、隙間の下流側から上流側に流体が進むマンドレルでは、下流側エッジに面取り部を設けたマンドレルリング(図示なし)を用いることによって流体を速やかに全周に行き渡らせることができる。
本発明における流体用通路は上述したものに限定されない。また、上述した種々の導入用通路および排出用通路を任意に組み合わせるができる。また、どの流体用通路を採用した場合においても、図10および図11に示したように、心棒(32)の外周面に溝(61a)(61b)を設けることによって流体の流通量を増大することができ、流体による洗浄効果を高めることができる。
また、上述した5種類のマンドレル(30)(39)(50)(60)(70)は、いずれも心棒(32)がマンドレルリング(35)よりも短く心棒(32)とナット(37)との間に隙間(S2)のあるものを例示し、この隙間(S2)を流体用通路の一部として利用したものである。しかし、本発明は前記隙間(S2)を流体用通路として利用することを必須要件とするものではない。前記隙間(S2)が流体の流通が困難なほどに狭い場合でも、ナット(37)の上流側端面またはマンドレルリング(35)の下流側端面に溝を設ける等の方法により通路を確保することができるからである。
さらに、流体の流通方向は上述した実施形態の方向に限定されない。外部への開口部が複数あればどちらの方向にも流通させることができるので、上述した実施形態のマンドレルはいずれも逆方向の流体流通が可能である。また、3箇所以上の開口部がある場合には、複数開口部からの導入や排出も可能である。さらに、流体は入り口となる開口部から通路内に送り込む他、入り口となる開口部またはその近傍に流体を配置しておき、排出口となる開口部から吸引することによって入り口から流体を引き込むようにしても良い。
本発明の押出ダイスは、閉じられた中空部を有する中空材の押出のみならず、中空部の一部が開口した半中空材の押出にも適用することができる。
また、本発明の押出ダイスを用いて成形する材料は金属である限り何ら限定されず、アルミニウム、銅、鉄およびこれらの合金を例示できる。