図1および図2に示すポートホールダイス(10)は、中空押出材(1)の外周面を成形する雌型(11)と内周面を成形する雄型(20)とが組み合わされてなり、前記雄型(20)が本発明の押出ダイスの一実施形態である。
雌型(11)は、中央部にベアリング孔(12)を有し、ベアリング孔(12)の下流側にはリリーフ孔(13)が形成され、上流側には溶着室用凹部(14)が形成されている。
前記雄型(20)は、ダイス基盤(21)の中央から下流側にマンドレル(30)が突出し、このマンドレル(30)の周囲に押出方向に貫通する複数個のポートホール(22)を有している。隣接するポートホール(22)(22)間には、下流側に突出する前記マンドレル(30)をその基端部(31)で支持する脚部(23)が形成されている。
図3に示すように、前記マンドレル(30)において、基端部(31)の先端側に径の小さい心棒(32)が一体に形成され、前記基端部(31)と心棒(32)との直径差によりこれらの間には段部(33)が形成されている。前記心棒(32)の先端側はさらに径小となって、外周面に螺旋状のネジ溝が形成されたボルト部(34)が一体に形成されている。前記基端部(31)、心棒(32)およびボルト部(34)は同軸上に形成されている。マンドレルリング(35)は、外周面に、押出材(1)の内周面を成形するベアリング部(36)が突設された環状体である。ナット(37)は前記ボルト部(34)のネジ溝に螺合されるネジ孔(38)を有している。而して、前記心棒(32)にマンドレルリング(35)を外嵌めして段部(33)に当接させ、ボルト部(34)にナット(37)のネジ孔(38)を螺合させると、マンドレルリング(35)は段部(33)とナット(37)に挟まれて、押出軸方向の所定位置に配置される。前記心棒(32)およびマンドレルリング(35)の材料特性および寸法については後に詳述する。
前記雌型(11)と雄型(20)とを組み合わせると、雌型(11)のベアリング孔(12)内に雄型(20)のマンドレルリング(35)のベアリング部(36)が嵌り込んでこれらの間に環状の成形用間隙(符号なし)が形成され、雌型(11)の溶着室用凹部(14)の一部が雄型(20)の端面で塞がれてポートホール(22)に連通する溶着室を形成する。そして、各ポートホール(22)に流入した押出材料は溶着室で合流し、成形用間隙から中空部(2)を有する押出材(1)として押出される。
本発明における「押出時のダイス温度」とは、心棒(32)およびマンドレルリング(35)が高温押出時に所定の温度となり、そのときの温度をいう。また、心棒(32)とマンドレルリング(35)との間に「隙間(S1)がある」とは、心棒(32)とマンドレルリング(35)との接触の有無を意味するのではなく、常温(T1)における心棒の外径(AT1)とマンドレルリングの内径(BT1)とが「BT1>AT1」なる関係を満足し、両者の間にクリアランスが存在することを意味する。また、常温(T1)時の隙間(S1)の大きさはマンドレルリング(35)の内径(BT1)と心棒(32)の外径(AT1)との差(BT1−AT1)で表わすものとする。なお、マンドレルの軸線が水平となる姿勢で心棒(32)とマンドレルリング(35)の組み立てを行うと、軸合わせがなされていないために周方向でクリアランスが偏り、あるいはマンドレルリング(35)と心棒(32)が部分的に接触することもあるが、このような場合でも隙間(S1)は(BT1−AT1)である。
〔マンドレルの材料〕
本発明において、マンドレルリングは基材の少なくとも外周面に硬質の耐アルカリ被膜が形成されている必要がある。本実施形態におけるマンドレルリング(35)は、基材(39a)の全表面が硬質の耐アルカリ被膜(39b)で覆われている。
前記マンドレルリング(35)の基材(39a)を構成する材料は耐摩耗性に優れ、かつその熱膨張係数(α2)と心棒(32)を構成する材料の熱膨張係数(α1)とがα1>α2の関係を満足するものであれば特に限定されない。本実施形態においては、心棒(32)を含む部分(以下、単に「心棒」と略する)が工具鋼で形成されているのに対し、マンドレルリング(35)の基材(39a)は前記工具鋼よりも耐摩耗性の高い超硬材料で構成されている。超硬材料としては、WC−Co等の超硬合金、高速度工具鋼、粉末高速度工具鋼、セラミックス等を例示できる。表1に、これらの超硬材料および工具鋼の一例およびそれらの熱膨張係数を示す。なお、心棒(32)およびマンドレルリング(35)の基材(39a)の熱膨張係数がα1>α2の関係を満足すれば良いので、例示した材料は表1に記載した用途に限定されない。例えば、粉末高速度工具鋼の心棒に超硬合金やセラミックスのマンドレルリングを組み合わせる場合も本発明に含まれる。
前記耐アルカリ被膜(39b)は、押出中においては基材(39a)の摩耗を防ぎ、押出後のダイスメンテナンスにおいては洗浄に用いる苛性ソーダ等の強アルカリ液に溶解することなく基材(39a)を保護する。基材(39a)の材料の中には、強アルカリ液に接触すると表面から含有成分の一部が溶解するものがある。例えばWC−CoではCoが強アルカリ液に溶解して失われ、Coの溶出によって表面強度が低下して摩耗した状態になる。かかる現象に対し、本発明では基材(39a)の表面に耐アルカリ被膜(39b)を形成し、基材(39a)表面における含有成分の溶解を防いで基材(39a)の摩耗を防止する。また、耐アルカリ被膜(39b)は高硬度で耐摩耗性を有しているので、押出による被膜自身の摩耗が防がれて溶解防止効果を長期間維持することができる。
耐アルカリ被膜(39b)は、耐アルカリ性および耐摩耗性を有する限りその種類は限定されず、表2に記載した被膜を例示できる。前記耐アルカリ被膜(39b)は、基材(39a)よりも高い硬度を有していることが好ましい。例えば、超硬合金(WC−Co)のHRA硬度は85程度(HV硬度で900)であり、耐アルカリ被膜(39b)の好ましいHV硬度は900以上、特に好ましくは1800以上である。基材(39a)よりも高硬度(39a)の耐アルカリ被膜(39b)を形成することで、マンドレルリング(35)の耐摩耗性をさらに向上させることができる。表2に記載した被膜はいずれもHV硬度が1800以上である。耐アルカリ被膜(39b)の厚さも限定されないが、十分な上記効果を得るためには1μm以上であることが好ましい。特に好ましい厚さは2〜8μmである。前記耐アルカリ被膜(39b)は、所定形状に成型した基材(39a)に対し、CVD、PVD等の周知の表面処理を施すことによって形成することができる。
また、マンドレルリング(30)において、押出時のダイス温度(T2)と常温(T1)の状態が繰り返されることにより、基材(39a)は膨張と収縮を繰り返すことになるが、前記の耐アルカリ被膜(39b)の厚さであればその被膜に割れを生ずることなく、割れた部分からのアルカリ洗浄液による溶解は生じない。
前記マンドレル(35)において、前記耐アルカリ被膜(39b)は押出材料が付着するマンドレルリング(35)の外周面のみならず、耐摩耗性を要求されない内周面および端面にも形成されている理由は以下のとおりである。洗浄時のダイス温度は常温(T1)または押出時の温度(T2)よりも低下しているから、心棒(32)およびマンドレルリング(35)はそれぞれに収縮して締め代が緩み、両者の間には隙間(S1)が生じている(図5A参照)。そして、洗浄液は心棒(32)のボルト部(34)とナット(37)の螺合部からこの隙間(S1)にも入り込むおそれがあり、マンドレルリング(35)の内周面も洗浄液に接触する可能性がある。マンドレルリング(35)の内周面が溶解して内径が拡大すると、マンドレルリング(35)の径方向における固定安定性が低下して押出安定性が低下する原因となる。このため、締め代の緩みによって洗浄液が接触するおそれのある内周面にも耐アルカリ被膜(39b)が形成されている。
また、本実施形態のようにマンドレルリングが軸線方向において下流側からナット等の抑え部材によって拘束されている場合は、マンドレルリング(35)の両端面はダイス基盤(31)の段部(33)とナット(37)とに強く押圧されているので、これらの合わせ目から洗浄液が入り込む可能性は極めて低く、押出安定性に悪影響を及ぼすような洗浄液の浸入は起こらない。しかも後の〔マンドレルリングの押出軸方向における固定〕で詳述するように、押出時のダイス温度(T2)に上昇した時に、熱膨張係数の差により軸線方向においてマンドレルリング(35)が緩まないように、常温(T1)時は高温(T2)時よりもナット(37)がマンドレルリング(35)を強く締め付けているため、マンドレルリング(35)の端面を通って洗浄液が浸入する可能性はなお一層低くなる。
従って、常温(T1)時の状態に鑑みると、図4Aに示すマンドレルリング(80)のように、基材(39a)の外周面および内周面に耐アルカリ被膜(39b)が形成されていれば、両端面(81a)(81b)に耐アルカリ被膜(39b)が形成されていなくても、洗浄液が内周面に接触する可能性は極めて低く、マンドレルリング(80)の固定安定性を低下させない。図3および図4Aのマンドレルリング(35)(80)は、その逃がし径がナット(37)のフランジ(37a)の径よりも大きいために下流側端面の外縁部が露出しているので洗浄液が接触する。従って、下流側端面(81b)が耐アルカリ被膜で覆われていない図4Aのマンドレルリング(80)では、下流側端面(81b)の外縁部が洗浄液に接触して基材(39a)に溶解が生じる。しかしながら、下流側端面において、洗浄時の溶解によって生じる程度の寸法変化によってマンドレルリングの固定安定性が低下することはないので、端面の耐アルカリ被膜は必須要件ではない。従って、上記構造のマンドレルにおいては、マンドレルリングの基材の外周面および内周面に耐アルカリ被膜が形成されていれば足り、両端面に耐アルカリ被膜が形成されていないマンドレルリングを使用した場合も、洗浄によって固定安定性が損なわれることがなく、安定した押出を繰り返し行うことができる。
また、本発明は、マンドレルリング端面の耐アルカリ被膜を排除するものではなく、図3に示した基材(39a)の全表面に耐アルカリ被膜(39b)を形成したマンドレルリング(35)、図4Bおよび図4Cに示すように基材(39a)の上流側端面(81a)および下流側端面(81b)のうちのどちらか一方にのみに耐アルカリ被膜(39b)を形成したマンドレルリング(82)(84)も本発明に含まれる。
なお、マンドレルリングの下流側端面は溶解しても固定安定性に悪影響を及ぼさないと雖も、マンドレルリングの寿命を可及的に長くする上で、下流側端面の外縁部が溶解するよりも溶解しない方が好ましいことは明らかである。マンドレルリングの下流側端面を洗浄液に接触させない方法としては、図4Dのようにナット(37)のフランジ(37b)の径を拡大してマンドレルリング(80)の逃がし径と同寸とし、フランジ(37b)でマンドレルリング(80)の端面を覆う構造を推奨できる。また、図3および図4Bのマンドレル(35)(82)のように、基材(39a)の下流側端面(81b)に耐アルカリ被膜(39b)を形成して基材(39a)を保護することも好ましい。
さらに、洗浄液がマンドレルリングの内周面に接触しない場合は、内周面の耐アルカリ被膜も必須条件ではない。例えば、後述の第4実施形態のマンドレル(60)は心棒(61)が基盤部(21)の台座(24)に着脱自在でありマンドレルリング(35)を心棒(61)の本体部(62)の上流側から嵌める構造であるから、マンドレルリング(35)を下流側から抑えるための頭部(64)が本体部(62)と一体に形成されている(図14〜15B参照)。前記心棒(61)には、図3のマンドレル(30)のナット(37)に対応する頭部に螺合部が存在しないので、下流側からの洗浄液の浸入はない。また、マンドレルリング(35)の両端面は、台座(24)と頭部(64)のフランジ(67)によって強く押圧されているので、図3のマンドレル(30)と同じく、両端面から洗浄液が浸入することもない。よって、マンドレルリング(35)の内周面(35a)は洗浄液に接触しない。従って、心棒の先端側から洗浄液が浸入しないマンドレル構造においては、図16に示すように、基材(39a)の外周面にのみ耐アルカリ被膜(39b)を形成し、上流側端面(81a)、下流側端面(81b)および内周面(81c)に耐アルカリ被膜(39b)を形成しないマンドレルリング(86)を使用することができる。
従って、本発明におけるマンドレルリングにおいて、外周面に耐アルカリ被膜が形成されていることは必須要件であるが、その他の面においてはマンドレルの構造に応じて被膜の要否が決定される。
マンドレルリングにおいて、基材の一部の面に耐アルカリ被膜を形成しないことによるメリットは、耐アルカリ被膜形成のための表面処理のコストダウンである。表面処理方法として先に例示したCVDおよびPVDでは、全表面に被膜を形成する処理と一部の面に被膜を形成しない処理とで処理コストに差があるので、コスト面で有利である。ただし、マンドレルリングの固定安定性に悪影響を及ぼさない面に耐アルカリ被膜が存在していても何ら不都合はないので、基材に対する保護効果をより一層高め、あるいは不本意な洗浄液の接触やマンドレルの分解洗浄等に備えて端面や内周面に耐アルカリ被膜を形成することは、必ずしも無駄であるとは言えない。
本発明において、常温(T1)時に心棒とマンドレルリングとの間に隙間があるので、マンドレルリングの心棒への着脱が容易であり、マンドレルリングの交換等のメンテナンスを簡単に行える。そして、心棒から外したマンドレルリングに対して耐アルカリ被膜を再形成することも可能であるから、耐アルカリ被膜による基材の保護効果と耐アルカリ被膜の再形成とにより、マンドレルリングの強度を長期間維持して寿命を延ばすことができる。
本発明において、マンドレルリングの基材として心棒よりも熱膨張係数の小さい材料を用いることにより、押出時の加工発熱によるマンドレルリングの膨張率が小さくなるため、押出材はより安定した寸法のものを得ることができる。即ち、心棒(工具鋼)に熱膨張係数の小さいマンドレルリングを組み合わせたマンドレルでは、押し出していない時と加工発熱最大時との外径差が、工具鋼のみで製作したマンドレルにおける外径差よりも小さくなるので、押出材の肉厚が安定する。そして、押出材の寸法が安定していると、後加工後の製品品質も安定したものとなる。例えば、押出後に引抜加工を行う場合、押出材に偏肉がなく肉厚が一定であれば、引抜材の肉厚も一定になる。また、押出材の肉厚が一定であれば、引抜上がりの長さも一定になる。また、上述した耐アルカリ被膜は耐摩耗性が高いので摩耗粉の発生が少なく、摩耗粉の押出材への混入も減少する。押出材に異物であるダイスの摩耗粉が混入していると、押出材の品質が低下することはもとより引抜材の表面欠陥となる。押出材への摩耗粉の混入量が少なければ、引抜材に発生する表面欠陥も少なくなる。これらのことから、本発明の押出ダイスを用いて製造した押出材は、押出材としての品質が優れていることはもとより、後加工用素材としても品質の優れたものとなる。
〔マンドレルの形状〕
本発明のマンドレルは、マンドレルリングを心棒に外嵌めした状態において、常温時に両者間に隙間があり、押出時のダイス温度において、マンドレルの軸線方向の少なくとも一部においてその隙間が無くなって両者が接触するように設定されている限り、前記心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面の形状は任意に設定することができる。即ち、本発明におけるマンドレルの形状に関する条件は下記(1)(2)である。
(1)常温時にマンドレルリングを心棒に外嵌めすることができる隙間があること
(2)押出時のダイス温度において、軸線方向の少なくとも一部においてその隙間が無くなって心棒とマンドレルリングとが接触すること
以下に、本発明において設定可能なマンドレルの形状例を示す。また、マンドレルリングの寸法は耐アルカリ被膜を含む寸法である。
(第1実施形態)
図3および図5Aは、常温(T1)時におけるマンドレル(30)の要部断面図である。このマンドレル(30)は、図1および図2に示した押出ダイス(10)の雄型(20)の一部を構成するマンドレルである。
前記マンドレル(30)は、心棒(32)の外周面(32a)およびマンドレルリング(35)の内周面(35a)がマンドレル(30)の軸線と平行に形成され、心棒(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)の内径(BT1)は軸線方向において一定である。前記心棒(32)にマンドレルリング(35)を外嵌めすると、両者間に軸線に平行な一定の隙間(S1)が存在する。
常温(T1)時に心棒(32)とマンドレルリング(35)とを組み付ける際には、前記隙間(S1)があるのでマンドレルリング(35)を心棒(32)に外嵌めすることは容易である。さらに、ナット(37)を取り付けて締め付けると、心棒(32)には押出方向の引張力が生じ、マンドレルリング(35)には押出方向の圧縮力が生じる。
(第2実施形態)
図6および図7Aは、常温(T1)時におけるマンドレル(40)の要部断面図である。このマンドレルは(40)は、図1および図2に示した押出ダイス(10)の雄型(20)において、第1実施形態のマンドレル(30)に代わるものである。なお、図6〜図7Bにおいて、図1〜図5Bと共通の符号は同じものを表すものとして重複する説明を省略する。
前記マンドレル(40)は、心棒(32)の外周面(32a)をマンドレル(40)の軸線と平行に形成する一方で、マンドレルリング(45)の内周面(45a)は下流側に向かって外向きに傾斜するテーパー面(テーパー角度:θT1)で形成されている。心棒(32)にマンドレルリング(45)を外嵌めすると、心棒(32)とマンドレルリング(45)との間に、押出の上流側端部(心棒の付け根側)で最も狭く、下流側(心棒の先端側)に向かって徐々に広くなる隙間(S1)が存在する。
本実施形態のマンドレル(40)と第1実施形態のマンドレル(30)とは、心棒(32)が共通し、マンドレルリング(35)(45)の内周面(35a)(45a)の角度が異なる。また、前記マンドレルリング(45)は基材(49a)の表面全体に耐アルカリ被膜(49b)が形成されている。
図7Aは、常温(T1)時のマンドレルリング(45)の内径(BT1)として直径が最小となる上流端における直径を示している。心棒(32)の外径(AT1)は軸線方向において一定である。従って、心棒(32)の外周面(32a)とマンドレルリング(35)の内周面(35a)との間には、(BT1−AT1)を最小値とする隙間(S1)が存在する。
常温(T1)時に心棒(32)とマンドレルリング(35)とを組み付ける際には、前記隙間(S1)があるのでマンドレルリング(35)を心棒(32)に外嵌めすることは容易である。さらに、ナット(37)を取り付けて締め付けると、心棒(32)には押出方向の引張力が生じ、マンドレルリング(35)には押出方向の圧縮力が生じる。
(第3実施形態)
図8および図9Aは、常温(T1)時におけるマンドレル(50)の要部断面図である。このマンドレルは(50)は、図1および図2に示した押出ダイス(10)の雄型(20)において、第1実施形態のマンドレル(30)に代わるものである。なお、図8〜図9Bにおいて、図1〜図5Bと共通の符号は同じものを表すものとして重複する説明を省略する。
前記マンドレル(50)は、マンドレルリング(35)の内周面(35a)をマンドレル(30)の軸線と平行に形成する一方で、心棒(52)の外周面(52a)は下流側に向かって外向きに傾斜するテーパー面で形成されている。これらの寸法は、心棒(52)の外周面(52a)とマンドレルリング(35)の内周面(35a)との間に隙間(S1)が存在し、かつその隙間(S1)は押出の下流側(心棒の先端側)に向かって徐々に狭くなって下流端で最も狭くなり、上流側(心棒の付け根側)に向かって徐々に広くなって上流端で最も広くなるように設定されている。
本実施形態のマンドレル(50)と第1実施形態のマンドレル(30)とは、マンドレルリング(35)が共通し、心棒(32)(52)の外周面(32a)(52a)の角度が異なる。
図9Aは、常温(T1)時の心棒(52)の外径(AT1)として、直径が最大となる下流端における直径を示している。マンドレルリング(35)の内径(BT1)は押出方向において一定である。従って、心棒(32)の外周面(32a)とマンドレルリング(35)の内周面(35a)との間には、(BT1−AT1)を最小値とする隙間(S1)が存在する。
常温(T1)時に心棒(52)とマンドレルリング(35)とを組み付ける際には、前記隙間(S1)があるのでマンドレルリング(35)を心棒(52)に外嵌めすることは容易である。さらに、ナット(37)を取り付けて締め付けると、心棒(52)には押出方向の引張力が生じ、マンドレルリング(35)には押出方向の圧縮力が生じる。
〔マンドレルリングの径方向における固定〕
図11は、温度(T)に対する心棒(32)(52)の外径(A)およびマンドレルリング(35)(45)の内径(B)の変化を示したものである。なお、上述した3種類のマンドレル(30)(40)(50)において、第2実施形態のマンドレルリング(45)の内周面(45a)および第3実施形態の心棒(52)の外周面(52a)はテーパー面であって、軸線方向においてその内径(B)および外径(A)が変化しているので、ここでは、それぞれ心棒(32)(52)とマンドレルリング(35)(45)との隙間が最小となる部分における、心棒(32)(52)の外径(A)およびマンドレルリング(35)(45)の内径(B)として説明する。即ち、第1実施形態のマンドレル(30)においては任意の部分における心棒の外径(A)およびマンドレルリングの内径(B)であり、第2実施形態のマンドレル(40)においては上流端における心棒(32)の外径(A)およびマンドレルリング(45)の内径(B)であり、第3実施形態のマンドレル(50)においては下流端における心棒(52)の外径(A)およびマンドレルリング(35)の内径(B)である。
心棒(32)(52)およびマンドレルリング(35)(45)はいずれも熱膨張により寸法が拡大する(AT、BT)。この図に示すように、常温(T1)において、マンドレルリングの内径(BT1)は心棒の外径(AT1)よりも大きく、実寸としてBT1−AT1の隙間がある。温度(T)が上昇すると、心棒(32)(52)およびマンドレルリング(35)(45)は、それぞれの基材(39a)(49a)の熱膨張係数(α1)(α2)に応じて径が大きくなる。T2>T1を満足する任意の温度(T2)における心棒(32)(52)の外径(AT2)およびマンドレルリング(35)(45)の内径(BT2)は、下記の(I)式および(II)式で表される。
AT2=AT1×(T2−T1)×α1+AT1 …(I)
BT2=BT1×(T2−T1)×α2+BT1 …(II)
ただし、α1:心棒を構成する材料の熱膨張係数
α2:マンドレルリングの基材を構成する材料の熱膨張係数
T1:常温
T2:高温(>T1)
AT1:常温(T1)時の心棒の外径
BT1:常温(T1)時のマンドレルリングの内径(>AT1)
常温(T1)においてマンドレルリング(35)(45)の内径(BT1)を心棒(32)(52)の外径(AT1)よりも大きい寸法で製作すると、両者の寸法差により心棒(32)の外周面とマンドレルリング(35)(45)の内周面との間には隙間(S1)があるので、容易に外嵌めすることができる。
そして、ダイス温度が上昇すると、心棒(32)(52)の外径拡大量がマンドレルリング(35)(45)の内径拡大量を上回るために隙間(S1)は減少していき、この隙間(S1)が無くなるとマンドレルリング(35)(45)は心棒(32)(52)に固定される。
熱膨張係数はα1>α2であるから、図11に参照されるように、温度上昇に伴い、温度(TZ)において心棒(32)(52)の外径(ATZ)とマンドレルリング(35)(45)の内径(BTZ)が等しくなった時点で隙間(S1)が無くなり、マンドレルリング(35)(45)は心棒(32)(52)から外れなくなって固定された状態となる。さらに温度が上昇すると、心棒(32)(52)の外径(AT)がマンドレルリング(35)(45)の内径(BT)を上回る。心棒(32)(52)の外径(AT)がマンドレルリング(35)(45)の内径(BT)を上回る温度領域(T>TZ)では、心棒(32)(52)の膨張力がマンドレルリング(35)(45)を内側から締め付ける力として作用し、マンドレルリング(35)(45)に周方向の引張力が付与されるので、ますます心棒(32)(52)から外れにくくなってしっかりと固定される。
(第1実施形態)
マンドレル(30)は、常温(T1)時における隙間(S1)が軸線と平行であるから、ダイス温度が上昇する過程で隙間(S1)は平行を保ちながら狭くなっていき、T≧TZなる温度領域において隙間(S1)が無くなって心棒(32)の外周面(32a)とマンドレルリング(35)の内周面(35a)とが全面で接触する(図5B参照)。
(第2実施形態)
マンドレル(40)は、常温時(T1)における隙間(S1)が上流側ほど狭くなっているので、ダイス温度が上昇する過程で、最初に心棒(32)の上流端において隙間(S1)が無くなり、隙間(S1)の無い領域が下流側に拡大していく(図7B参照)。そして、上流側に形成される接触面(41)は、常温(T1)時のマンドレルリング(45)の内周面(45a)に倣って下流側に向かって外向きに傾斜する傾斜面となる。
なお、本実施形態では、図7Bに示すように、押出時のダイス温度(T2)において上流側で心棒(32)とマンドレルリング(45)とが接触し下流側で隙間(S1)が残るように、マンドレルリング(45)の上流端における内径(BT1)および内周面(45a)のテーパー角度、心棒(32)の外径(AT1)が設定されているが、本発明はこのような寸法設定に限定するものではない。接触面が押出の下流側に向かって外向きに傾斜していれば足り、上記の寸法設定により、心棒とマンドレルリングを全領域で接触させることも、上流側または中間部で接触させることも可能であり、複数箇所で接触する場合も本発明に含まれる。さらには、心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面は平滑面であることに限定されず、一方に設けられた突起部を他方に食い込ませるような接触構造も本発明に含まれる。
(第3実施形態)
マンドレル(50)は、常温時(T1)における隙間(S1)は下流側ほど狭くなっているので、ダイス温度が上昇する過程で、最初に心棒(52)の下流端において隙間(S1)が無くなり、隙間(S1)の無い領域が上流側に拡大していく(図9B参照)。常温時(T1)における隙間(S1)は下流側ほど狭くなっているので、押出時のダイス温度(T2)においては、マンドレルリング(35)は下流側ほど大きな力で締め付けられる。このため、図9に示すように、心棒(52)の外周面(52a)とマンドレルリング(35)の内周面(35a)との界面にかかる応力場に違いが現れ、圧力は下流側ほど高く上流側ほど低くなる。そして、このような圧力分布の違いにより、押出方向とは逆向きの力(F)が作用する。この逆向きの力(F)は押出材料がマンドレルリング(35)を下流側に押す力に抗して作用するので、押出中のマンドレルリング(35)の下流側への動きが抑制され、マンドレルリング(35)の位置安定性が向上する。
なお、本実施形態では、図9Bに示すように、押出時のダイス温度(T2)において、下流側で心棒(52)とマンドレルリング(35)とが接触し、上流側で隙間(S1)が残るように、マンドレルリング(35)の内径(BT1)、心棒(52)の下流端における外径(AT1)および外周面(32a)のテーパー角度が設定されていることを示しているが、本発明はこのような寸法設定に限定するものではない。常温時の隙間が押出の下流側で狭くなるように設定されていれば上記効果が得られるので、軸線に平行な心棒の外周面と下流側に向かって内向きに傾斜するマンドレルリングの内周面との組み合わせ、傾斜方向の異なるテーパー面の組み合わせ、同方向に傾斜して角度の異なるテーパー面の組み合わせも本発明に含まれる。また、心棒とマンドレルリングとが全領域で接触する場合も本発明に含まれる。さらには、前記隙間の大きさが押出方向の全域で変化していることにも限定されず、軸線方向の一部に隙間(S1)の大きさが一定となされた芯合わせ部を設けることも可能である。
本発明において、押出時のダイス温度(T2)において心棒とマンドレルリングとが全領域で接触することは必須の条件ではない。このことは第2実施形態および第3実施形態が示している。しかしながら、両者の接触面積が大きいほど締め付け力が利いてマンドレルリングの固定安定性が向上することから、マンドレルリングの内周面の面積の20%以上、特に50%以上が心棒の外周面に接触することが好ましい。かかる接触面積率は、心棒およびマンドレルリングの基材の材料選定および寸法設定によって調節できる。
(心棒とマンドレルリングの締め代)
押出時、ダイスは所定温度に加熱されて常温(T1)よりも高温となる。従って、図5B、7B、9Bに示すように、押出時のダイス温度(T2)において、心棒(32)(52)の外径(AT2)がマンドレルリング(35)(45)の内径(BT2)と等しくなるか、心棒(32)(52)の外径(AT2)がマンドレルリング(35)(45)の内径(BT2)を上回るように、常温(T1)時の心棒(32)(52)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)(45)の内径(BT1)を設定すれば、マンドレルリング(35)(45)を心棒(32)(52)に固定した状態で押出を行うことができる。そして、マンドレルリング(35)(45)が心棒(32)(52)に固定された状態で押出を行うと、押出材(1)の偏肉が抑制されて高品質の押出材(1)を製造することができる。ただし、心棒(32)(52)の膨張力が過剰になってマンドレルリング(35)(45)の引張力の限界を超えるとマンドレルリング(35)(45)が破損するので、材料の熱膨張係数(α1、α2)と押出時のダイス温度(T2)を勘案して、高温時に適度な引張力を生じさせるように、常温(T1)時の心棒(32)(52)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)(45)の内径(BT1)を設定する。
ここで、任意の温度(T)における心棒(32)(52)とマンドレルリング(35)(45)との締まり具合および緩み具合を、心棒(32)(52)の外径(AT)とマンドレルリング(35)(45)の内径(BT)の比率に基づいて、下記(III)式の締め代(XT)として定義する。AT<BT、即ち両者の間には隙間がある状態ではXT<0となり、締め代(XT)値が小さくなるほど緩みが大きいことを示している。一方、AT>BT、即ち両者の間には隙間がなくマンドレルリング(35)(45)が内側から心棒(32)(52)に締め付けられている状態ではXT>0となり、締め代(XT)の値が大きくなるほど締め付け力大きいことを示している。AT=BT(XT=0)は、両者間に隙間はないが締め付け力が利いていない状態である。
XT(%)=(AT/BT−1)×100 …(III)
さらに、(III)式により、常温(T1)時および高温(T2)時(押出時のダイス温度)における心棒(32)(52)とマンドレルリング(35)(45)との締め代(XT1)(XT2)は、それぞれ(IV)式および(V)式により表わされる。
XT1(%)=(AT1/BT1−1)×100 …(VI)
XT2=(AT2/BT2−1)×100
={〔AT1×(T2−T1)×α1+AT1〕/〔BT1×(T2−T1)×α2+BT1〕−1}×100
…(V)
心棒(32)(52)およびマンドレルリング(35)(45)は、常温(T1)時にAT1<BT1となるように製作されるのでXT1<0となり、締め代(XT1)は両者間の隙間があって緩んだ状態を示している。一方、押出時のダイス温度(T2)において両者間の隙間が無くなってAT2≧BT2であるから、その締め代(XT2)は0または正値となり、締め付け力が利いている状態を示している。また、XT2<0は、押出時のダイス温度(T2)においても緩みがあってマンドレルリング(35)(45)が心棒(32)(52)に固定されていない状態を示している。
前記締め代(XT2)が大きくなるほど締め付け力も強くなり、マンドレルリング(35)(45)がしっかりと固定されて外れにくくなるが、上述したように締め付け力が過度に大きくなるとマンドレルリング(35)(45)が破損するおそれがある。また、押出時には材料流れにより押出方向の力もが加わる。これらを勘案すると、前記締め代(XT2)は0.3%以下が好ましい。前記締め代(XT2)が0または正値である限り下限値は規定されないが、確実に固定するために0.05%以上が好ましい。特に好ましい締め代(XT2)は0.15〜0.25%である。なお、締め代(XT2)の適正範囲は、心棒(32)(52)およびマンドレルリング(35)(45)の材質、マンドレルリング(35)(45)の厚み等によって異なる。
従って、常温(T1)時に隙間(S1)が最小となり押出時のダイス温度(T2)時に締め付け力が最大となる部分において、高温(T2)時の締め代(XT2)が0〜0.3%となるように心棒(32)(52)の外径(AT1)およびマンドレルリング(35)(45)の内径(BT1)を設定すれば良い。その他の部分における締め代は、常温(T1)時の隙間(S1)の大きさに応じた値となる。
また、常温(T1)時の締め代(XT1)は負値である限り限定されない。心棒(32)(52)の外径(AT1)がマンドレルリング(35)(45)の内径(BT1)よりも小さいので、これらの組み付け作業は容易である。押出ダイスは、押出が終わって常温(T1)に冷却されると常温(T1)時の締め代(XT1)に戻って緩みが生じるので、心棒(32)(52)からマンドレルリング(35)(45)を取り外すことができる。従って、摩耗したマンドレルリングの取り外し、新しいマンドレルリングの取り付けといったメンテナンスを容易に行える。
なお、図5A、5B、7A、7B、9A、9Bは、径方向の熱膨張を説明するための模式図であって、押出軸方向の熱膨張は表わされていない。
〔マンドレルリングの押出軸方向における固定〕
上記実施形態のマンドレル(30)(40)(50)においては、心棒(32)(52)の先端に、マンドレルリング(35)(45)の内径よりも径の大きいナット(37)が着脱自在に取り付けられている。高温(T2)時のマンドレルリング(35)は心棒(32)(52)によって径方向に締め付けられて固定されるが、押出中は材料の流れにより下流側への力が加わる。そこで、前記マンドレル(30)(40)(50)においては、ナット(37)を取り付けることでマンドレルリング(35)(45)の抜け落ちを確実に防ぎ、固定安定性を高めている。また、ナット(37)を取り付けて押出軸方向の拘束力を加えることで、心棒(32)(52)の膨張力による締め付けのみで固定する場合よりも、締め代(XT2)を小さくすることができるので、締め代(XT2)の増大によるマンドレルリング(35)(45)の破損の危険性を回避できる。
また、ナット(37)を取り付けるマンドレル(30)(40)(50)においては、心棒(32)およびマンドレルリング(35)(45)の押出軸方向における寸法にも常温(T1)時に差を設けておき、高温(T2)時にナット(37)がマンドレルリング(35)に当接して、マンドレルリング(35)(45)がナット(37)によって確実に拘束されるようにすることが好ましい。
図12Aおよび図12Bは、第1実施形態のマンドレル(30)を例示して心棒(32)およびマンドレルリング(35)の押出軸方向における好ましい寸法関係を示している。図12Aに示す常温(T1)時において、心棒(32)の長さはマンドレルリング(35)の長さよりも短く、ボルト部(34)に螺合させたナット(37)はマンドレルリング(35)を締め付けている。心棒(32)には、心棒(32)とナット(37)との間の隙間(S2)に応じた引張力が付与され、マンドレルリング(35)は押出軸方向に拘束されている。図12Bは、図12Aの押出時のダイス温度(T2)時の状態を示す図であり、心棒(32)およびマンドレルリング(35)がそれぞれに膨張した状態を示している。心棒(32)の熱膨張係数(α1)とマンドレルリング(35)の基材(39a)の熱膨張係数(α2)はα1>α2の関係にあるので、心棒(32)の寸法拡大量がマンドレルリング(35)の寸法拡大量を上回り、前記隙間(S2)は減少方向に変化する。この隙間(S2)の減少により、心棒(32)に付与される引張力は減少し、マンドレルリング(35)に対する締め付け力は減少するが、隙間(S2)がある限りがナット(37)による抑えが利いているので、マンドレルリング(35)が押出軸方向にずれることはない。即ち、マンドレルリング(35)は径方向と押出軸方向の両方向に拘束されて固定されている。このように、押出軸方向の拘束が加わることで、上述した径方向の締め代(XT2)を小さくしても、マンドレルリング(35)の固定安定性を維持することができる。ひいては、マンドレルリング(35)に付与される周方向の引張力を軽減して、締め代(XT2)の増大による破損を回避することができる。
これに対し、図13Aは、常温(T1)において心棒(32)とマンドレルリング(35)の長さが等しく、心棒(32)とナット(37)との間に隙間(S2)が無い状態を示している。図13は、図13Aの押出時のダイス温度(T2)における状態を示す図であり、熱膨張により心棒(32)がマンドレルリング(35)よりも長くなって、マンドレルリング(35)とナット(37)との間に隙間(S3)が生じている。このような状態では、マンドレルリング(35)に対してナット(37)による抑えが利かなくなり、押出軸方向の固定安定性が低下する。また、このような状態でマンドレルリング(35)のずれを確実に阻止するには、径方向の締め代(XT2)を十分に大きくする必要があるので、マンドレルリング(35)が破損する可能性も増大する。
なお、図12Aおよび図12Bでは常温(T1)時に心棒(32)がマンドレルリング(35)より短い場合を示したが、その差が小さく押出時のダイス温度(T2)時に長さが逆転して心棒(32)がマンドレルリング(35)よりも長くなれば、図13Bのようにナット(37)による抑えが利かなくなる。
以上より、押出時のダイス温度(T2)においてマンドレルリング(35)にナット(37)による締め付け力が作用するように、常温(T1)時の心棒(32)およびマンドレルリング(35)の押出軸方向の寸法を設定しておくことが好ましい。ダイスの温度上昇に伴って、マンドレルリング(35)とナット(37)は緩む方向に変化するので、押出時のダイス温度(T2)時にナット(37)による締め付け力を確実に利かせるためには、少なくとも常温(T1)時にナット(37)がマンドレルリング(35)を締め付けている必要がある。第2実施形態のマンドレル(50)および第3実施形態のマンドレル(50)において、ナット(37)による締め付け力を利かせるための寸法設定は第1実施形態のマンドレル(30)と共通である。
さらに、第2実施形態および第3実施形態のマンドレル(40)(50)においては、マンドレルリング(45)の内周面(45a)または心棒(52)の外周面(52a)がテーパー面で形成されることによって、マンドレルリング(45)(35)の抜け止め効果を得ている。
第2実施形態のマンドレル(40)では、常温(T1)のマンドレルリング(45)の内周面(45a)がマンドレル(40)の軸線に対して下流側に向かって外向きに傾斜するテーパー面で形成されているため、押出時のダイス温度(T2)時における接触面(41)もマンドレルリング(45)の内周面(45a)の傾斜方向に倣って下流側に向かって広がる外向きの傾斜面となる(図5B参照)。このため、押出材料の流れがマンドレルリング(45)を下流側へ押そうとしても、外向きの傾斜面(接触面)(41)がその動きを阻止する方向に作用して抜け止め効果を奏する。従って、マンドレルリング(45)の動きが抑制されて高い固定安定性が得られる。前記接触面(41)の位置は、常温(T1)時の隙間(S1)の大きさや熱膨張率(α1、α2)の差によって決まるので、常温(T1)時に上流側に向かって狭くなる隙間(S1)を有する本実施形態においては、その傾斜角度(θT2)は常温(T1)時のマンドレルリング(45)の内周面(45a)のテーパー角度(θT1)から僅かに変化するが、傾斜方向は維持される。
前記接触面(41)は僅かでも傾斜していれば上述した抜け止め効果が得られるので、本発明は接触面(41)の傾斜角度(θT2)を限定するものではない。ただし、接触面(41)のマンドレル(40)の軸線に対する傾斜角度(θT2)が大きくなるほどその効果は増大するので、前記傾斜角度(θT2)は0.05〜3°が好ましく、特に0.1〜2°が好ましい。
また、本実施形態のマンドレル(40)は心棒(32)の先端側(下流側)からマンドレルリング(45)を外嵌めする構造であるので、両者の接触面積の確保と外嵌め可能なマンドレルリング(45)の最小径と心棒(32)の最大径とを勘案すると、常温(T1)時のテーパー角度(θT1)は自ずと制限され、接触面(41)の傾斜角度(θT2)も相応の角度に制限される。ただし、心棒を基端部に対して脱着自在とし、心棒の根本側(上流側)からマンドレルリングを嵌める構造にすれば、上記のテーパー角度(θT1)および傾斜角度(θT2)を大きくすることができる。かかる構造のマンドレルについては第4実施形態において後に詳述する。
第3実施形態のマンドレル(50)では、図10に示すように、マンドレルリング(35)を径方向に締め付ける圧力の分布の差によって生じる力(F)によって、マンドレルリング(35)が軸線方向にも拘束されるので抜け止め効果が得られる。
〔マンドレルリングの周方向における位置決め〕
マンドレルにおいては、心棒およびマンドレルリングの孔の断面形状を非円形に形成することにより、マンドレルリングの周方向の回動を阻止することができる。これにより、周方向のずれがなくなって固定安定性を高めるとともに、マンドレルリングの位置決めを行うことができる。特に、押出材の中空部の形状が円以外の場合は、周方向の位置決めが必要となるため、適用意義が大きい。
〔心棒の脱着〕
本発明においては、マンドレルの心棒をダイスの基盤部に対して脱着自在とすることもできる。
(第4実施形態)
図14〜図15Bに示すマンドレル(60)は、図1に参照される雄型(20)の基盤部(21)から一体に続く台座(24)に対して着脱自在に取り付けられる心棒(61)とこの心棒(61)に外嵌めされるマンドレルリング(35)とにより構成されている。図14〜図15Bにおいて、図1〜図5Bと共通の符号は同じものを表すものとして重複する説明を省略する。
前記心棒(61)はボルト形であり、マンドレルリング(35)の装着部位である本体部(62)の上流側には、心棒(31)を台座(24)に取り付けるための凸部(63)が該本体部(62)と同軸状に設けられ、下流側には、マンドレルリング(35)を抑える頭部(64)が設けられている。一方、マンドレルリング(35)は第1実施形態と同じものである。そして、心棒(61)の凸部(63)側からマンドレルリング(35)を嵌め、凸部(63)を台座(24)に取り付けると、本体部(62)に外嵌めされたマンドレルリング(35)は台座(24)の先端面と心棒(61)の頭部(64)との間に挟まれて軸線方向の所定位置に配置される。本実施形態においては、前記心棒(61)およびマンドレルリング(35)の材料と形状の両面により、押出時のダイス温度において、マンドレルリング(35)が心棒(61)に固定される。
図14および図15Aは、常温(T1)時におけるマンドレル(60)の要部断面図である。
前記心棒(61)の本体部(62)は外径が(AT1)の円柱形であり、その外周面(62a)は心棒(61)の軸線、即ちマンドレル(60)の軸線に対して平行である。前記凸部(63)は本体部(62)よりも径小であり、本体部(62)に続く部分が円柱形の芯合わせ部(65)であり、その外周面は心棒(61)の軸線、即ちマンドレルの軸線に平行である。この芯合わせ部(65)の上流側はさらに径小となされた雄ねじ部(66)である。前記頭部(64)はマンドレルリング(35)の内径よりも大きく、本体部(62)に嵌めたマンドレルリング(35)を下流側から抑えるものである。また、前記頭部(64)は本体部(62)に続く部分に径大のフランジ(67)が形成されている。
一方、台座(24)の先端面には、心棒(61)の凸部(63)に対応する凹部(25)が設けられている。前記凹部(25)は、開口側(下流側)が軸線に平行な内周面を有し心棒(61)の芯合わせ部(65)に対応する芯合わせ部(26)であり、奥側(上流側)が心棒(61)の雄ねじ部(66)に対応する雌ねじ部(27)である。この台座(24)の芯合わせ部(26)の内周面および前記心棒(61)の芯合わせ部(65)の外周面はいずれもマンドレル(60)の軸線に平行であるからこれらの芯合わせ部(65)(26)は平行である。
常温(T1)において、前記マンドレル(60)の組み立てを行う。前記心棒(61)の凸部(63)側からマンドレルリング(35)を本体部(62)に外嵌めし、凸部(63)を台座(24)の凹部(25)に挿入して雄ねじ部(66)を雌ねじ部(27)に螺合させて、心棒(61)を台座(24)に固定する。このとき、前記心棒(61)の芯合わせ部(65)と台座(24)の芯合わせ部(26)とが平行に組み付けられることで、心棒(61)の軸線は台座(24)の軸線に高精度で合わされる。即ち、心棒(61)の凸部(63)の外周面と台座(24)の凹部(25)の内周面とが平行となる芯合わせ部(65)(26)を設けることで、雄ねじ部(66)と雌ねじ部(27)との螺合のみで心棒(61)を取り付けるよりも、高精度で芯合わせがなされた状態に取り付けられて固定され、ひいては押出材の偏肉が抑制される。また、マンドレルリング(35)は台座(24)の先端面と心棒(61)の頭部(64)との間に挟まれて軸線方向の所定位置に配置される。
上述したマンドレル(60)の組み立てが完了しても、常温(T1)においては、心棒(61)の本体部(62)の外周面(62a)とマンドレルリング(35)の内周面(35a)との間には隙間(S1)が存在している。本実施形態において、前記隙間(S1)の大きさは軸線方向において一定である。
常温(T1)時に心棒(61)とマンドレルリング(35)とを組み立てる際には、前記隙間(S1)があるのでマンドレルリング(35)を心棒(61)に外嵌めすることは容易である。さらに、心棒(61)を台座(24)に固定して頭部(64)でマンドレルリング(35)を抑えると、心棒(61)の本体部(62)には押出方向の引張力が生じ、マンドレルリング(35)には押出方向の圧縮力が生じる。
ダイス温度が上昇すると、心棒(61)およびマンドレルリング(35)がそれぞれの熱膨張係数(α1)(α2)に従って膨張し、心棒(61)の本体部(62)には圧縮力が生じ、マンドレルリング(35)には周方向の引張力が生じる。そして、心棒(61)の本体部(62)の外径拡大量がマンドレルリング(35)の内径拡大量を上回るために隙間(S1)は減少していき、図15Bに示すように隙間(S1)が無くなるとマンドレルリング(35)は心棒(61)の本体部(62)に固定される。
本実施形態の心棒(61)は頭部(64)が本体部(62)と一体になっているので、本体部(62)の軸線方向における熱膨張に伴って頭部(64)の位置が下流側に後退する。ダイス温度が上昇すると、心棒(61)とマンドレルリング(35)の熱膨張係数の差により本体部(62)の寸法拡大量はマンドレルリング(35)の寸法拡大量を上回るので、頭部(64)による締め付け力は弱くなる方向に変化する。ダイス温度が上昇しても、図14Bに示すように、マンドレルリング(35)の両端が台座(24)の先端面および心棒(61)の頭部(64)に接触している限りは、相応の締め付け力が利いている。押出時のダイス温度(T2)において頭部(64)による締め付け力を利かせるには、常温(T1)時に温度上昇による緩み量を上回る強い締め付け力を付与しておく必要がある。常温(T1)時において、心棒(61)の本体部(62)の長さ(L1)をマンドレルリング(35)の長さ(L2)よりも僅かに短く設定し、さらに心棒(61)の芯合わせ部(65)の長さ(L3)を台座(24)の芯合わせ部(26)の長さ(L4)よりも短く設定することにより、マンドレルリング(35)の両端を台座(24)の先端面および心棒(61)の頭部(64)に接触させ、さらに雄ねじ部(66)と雌ねじ部(27)の締め具合で心棒(61)位置の微調整を行いマンドレルリング(35)に付与する締め付け力の調節を行う。また、本体部(62)は下流側部分がテーパー状に縮径されて芯合わせ部(65)へと続いているので、ねじの緊締による心棒(61)の上流側への移動はスムーズに行われる。そして、常温(T1)においてマンドレル(60)を組み立てる際に、ねじの締め具合によってマンドレルリング(35)に対する締め付け力を適宜調節しておき、押出時のダイス温度(T2)に温度上昇して締め付け力が緩んでもなお頭部(64)がマンドレルリング(35)に接触している状態を維持するようにする。
ダイスの基盤部に対して心棒を脱着自在に取り付ける構造においては、心棒の交換が可能であり、かつメンテナンスをさらに簡単に行える。また、このような構造においては、マンドレルリングを心棒の上流側から嵌めることができるので、軸線に対して心棒の外周面およびマンドレルリングの内周面の一方または両方を傾斜させる場合に、それらのテーパー角度の設計の自由度が基盤部と一体となった心棒を有するマンドレル(第1〜第3実施形態)よりも高い。例えば図17Aに示すように、心棒(72)の外周面(72a)およびマンドレルリング(75)の内周面(75a)が下流側に向かって外向きに傾斜するテーパー面で形成されたマンドレル(70)においては、マンドレルリング(75)の内径が最大となる下流側に本体部(72)の外径が最小となる上流側を挿入することになる。このため、心棒(72)の外周面(72a)のテーパー角度(θ1)およびマンドレルリング(75)の内周面(75a)のテーパー角度(θ2)を大きく設定しても心棒(72)とマンドレルリング(75)の組み立てが可能であるから、テーパー角度(θ1)(θ2)の設計の自由度が高い。図17Bに示すように、前記マンドレル(70)は押出時のダイス温度(T2)において、隙間(S1)が無くなって本体部(72)の外周面(72a)とマンドレルリング(75)の内周面(75a)とが接触し、テーパー角度(θ1)(θ2)に応じた傾斜角度(θ3)の接触面(79)が形成される。第2実施形態で説明したように、下流側に向かって外向きに傾斜する接触面は軸線方向におけるマンドレルリングの固定安定性を高める効果がある。従って、組み立ての可否によってテーパー角度(θ1)(θ2)が制限されない構造においては、接触面の傾斜角度(θ3)が大きくなるように心棒およびマンドレルリングの寸法を設定することで、軸線方向におけるマンドレルリングの固定安定性の向上を図ることができる。
さらに、第1〜第3実施形態のように頭部(ナット)が心棒から外れるようにすれば、マンドレルリングは心棒の上流側、下流側のどちらからも嵌めることができるので、マンドレル設計の自由度が高くなる。
本発明の押出ダイスは、閉じられた中空部を有する中空材の押出のみならず、中空部の一部が開口した半中空材の押出にも適用することができる。
また、本発明の押出ダイスを用いて成形する材料は金属である限り何ら限定されず、アルミニウム、銅、鉄およびこれらの合金を例示できる。