図1〜3に示すポートホールダイス(10)は、中空押出材(1)の外周面を成形する雌型(11)と内周面を成形する雄型(20)とが組み合わされてなり、前記雄型(20)が本発明の押出ダイスの一実施形態である。
雌型(11)は、中央部にベアリング孔(12)を有し、ベアリング孔(12)の下流側にはリリーフ孔(13)が形成され、上流側には溶着室用凹部(14)が形成されている。
前記雄型(20)は、ダイスの基盤部(21)の中央から下流側にマンドレル(30)が突出し、このマンドレル(30)の周囲に押出方向に貫通する複数個のポートホール(22)を有している。隣接するポートホール(22)(22)間には、下流側に突出する前記マンドレル(30)をその基端部で支持する脚部(23)が形成されている。
前記マンドレル(30)は、ダイスの基盤部(21)から一体に続く台座(24)よりも径小でかつ台座(24)に対して着脱自在に取り付けられる心棒(31)とこの心棒(31)に外嵌めされるマンドレルリング(38)とにより構成されている。
前記心棒(31)はボルト形であり、マンドレルリング(38)の装着部位である本体部(32)の上流側には、心棒(31)を台座(24)に取り付けるための凸部(33)が該本体部(32)と同軸状に設けられ、下流側には、マンドレルリング(38)を抑える頭部(34)が設けられている。一方、マンドレルリング(38)は、外周面に、押出材(1)の内周面を成形するベアリング部(39)が突設された環状体である。そして、心棒(31)の凸部(33)側からマンドレルリング(38)を嵌め、凸部(33)を台座(24)に取り付けると、本体部(32)に外嵌めされたマンドレルリング(38)は台座(24)の先端面と心棒(31)の頭部(34)との間に挟まれて軸線方向の所定位置に配置される。
本発明においては、前記心棒(31)およびマンドレルリング(38)の材料と形状の両面により、押出時のダイス温度において、マンドレルリング(38)が心棒(31)に固定されるように構成している。前記心棒(31)およびマンドレルリング(38)の材料特性および形状については後に詳述する。本発明における「押出時のダイス温度」とは、心棒およびマンドレルリングが高温押出時に所定の温度となり、そのときの温度をいう。
前記雌型(11)と雄型(20)とを組み合わせると、雌型(11)のベアリング孔(12)内に雄型(20)のマンドレルリング(38)のベアリング部(39)が嵌り込んでこれらの間に環状の成形用間隙(符号なし)が形成され、雌型(11)の溶着室用凹部(14)の一部が雄型(20)の端面で塞がれてポートホール(22)に連通する溶着室を形成する。そして、各ポートホール(22)に流入した押出材料は溶着室で合流し、成形用間隙から中空部(2)を有する押出材(1)として押出される。
本発明は、マンドレルを構成する心棒およびマンドレルリングの材料および形状に主要な特徴を有し、これらによってマンドレルリングを所定位置に安定して固定できる。以下に、マンドレルリングおよび心棒の材料および形状、固定方法について詳述する。
〔マンドレルの材料〕
前記マンドレル(30)において、マンドレルリング(38)を構成する材料は耐摩耗性に優れ、かつその熱膨張係数(α2)と心棒(31)を構成する材料の熱膨張係数(α1)とがα1>α2の関係を満足するものであれば特に限定されない。本実施形態においては、心棒(31)が工具鋼で形成されているのに対し、マンドレルリング(38)は前記工具鋼よりも耐摩耗性の高い超硬材料で構成されている。超硬材料としては、WC−Co等の超硬合金、高速度工具鋼、粉末高速度工具鋼、セラミックス等を例示できる。表1に、これらの超硬材料および工具鋼の一例およびそれらの熱膨張係数を示す。なお、心棒(31)およびマンドレルリング(38)の熱膨張係数がα1>α2の関係を満足すれば良いので、例示した材料は表1に記載した用途に限定されない。例えば、粉末高速度工具鋼の心棒に超硬合金やセラミックスのマンドレルリングを組み合わせる場合も本発明に含まれる。
なお、前記ダイスの基盤部(21)は心棒(31)と同一または同等の材料で構成されている。
本発明において、マンドレルリングとして心棒よりも熱膨張係数の小さい材料を用いることにより、押出時の加工発熱によるマンドレルリングの膨張率が小さくなるため、押出材はより安定した寸法のものを得ることができる。即ち、心棒(工具鋼)に熱膨張係数の小さいマンドレルリングを組み合わせたマンドレルでは、押し出していない時と加工発熱最大時との外径差が、工具鋼のみで製作したマンドレルにおける外径差よりも小さくなるので、押出材の肉厚が安定する。また、押出材の寸法が安定していると、後加工後の製品品質も安定したものとなる。
〔マンドレルの形状と組み立て〕
図3および図4Aは、常温(T1)時におけるマンドレル(30)の要部断面図である。
心棒(31)は、本体部(32)の上流側に凸部(33)を有し、下流側に頭部(34)を有している。前記本体部(32)は円柱形であり、その外周面(32a)は心棒(31)の軸線、即ちマンドレル(30)の軸線に対して平行である。前記凸部(33)は本体部(32)よりも径小であり、本体部(32)に続く部分が円柱形の芯合わせ部(35)であり、その外周面は心棒(31)の軸線、即ちマンドレルの軸線に平行である。この芯合わせ部(35)の上流側はさらに径小となされた雄ねじ部(36)である。前記頭部(34)はマンドレルリング(38)の内径よりも大きく、本体部(32)に嵌めたマンドレルリング(38)を下流側から抑えるものである。また、前記頭部(34)は本体部(32)に続く部分に径大の鍔部(37)が形成されている。
マンドレルリング(38)は、外周面に、押出材(1)の内周面を成形するベアリング部(39)が突設された環状体である。また、その内周面(38a)はマンドレル(30)の軸線に平行であり、常温(T1)における内径(BT1)は心棒(31)の本体部(32)の外径(AT1)よりも大きい寸法に設定されている。
一方、台座(24)の先端面には、心棒(31)の凸部(33)に対応する凹部(25)が設けられている。前記凹部(25)は、開口側(下流側)が軸線に平行な内周面を有し心棒(31)の芯合わせ部(35)に対応する芯合わせ部(26)であり、奥側(上流側)が心棒(31)の雄ねじ部(36)に対応する雌ねじ部(27)である。この台座(24)の芯合わせ部(26)の内周面および前記心棒(31)の芯合わせ部(35)の外周面はいずれもマンドレル(30)の軸線に平行であるからこれらの芯合わせ部(35)(26)は平行である。
常温(T1)において、前記マンドレルリング(30)の組み立てを行う。前記心棒(31)の凸部(33)側からマンドレルリング(38)を本体部(32)に外嵌めし、凸部(33)を台座(24)の凹部(25)に挿入して雄ねじ部(36)を雌ねじ部(27)に螺合させて、心棒(31)を台座(24)に固定する。このとき、前記心棒(31)の芯合わせ部(35)と台座(24)の芯合わせ部(26)とが平行に組み付けられることで、心棒(31)の軸線は台座(24)の軸線に高精度で合わされる。即ち、心棒(31)の凸部(33)の外周面と台座(24)の凹部(25)の内周面とが平行となる芯合わせ部(35)(26)を設けることで、雄ねじ部(36)と雌ねじ部(27)との螺合のみで心棒(31)を取り付けるよりも、高精度で芯合わせがなされた状態に取り付けられて固定され、ひいては押出材の偏肉が抑制される。また、マンドレルリング(38)は台座(24)の先端面と心棒(31)の頭部(34)との間に挟まれて軸線方向の所定位置に配置される。
上述したマンドレル(30)の組み立てが完了しても、常温(T1)においては、心棒(31)の本体部(32)の外周面(32a)とマンドレルリング(38)の内周面(38a)との間には隙間(S1)が存在している。本実施形態において、前記隙間(S1)の大きさは軸線方向において一定である。
なお、図4Aはマンドレルリング(38)の内周面(38a)と心棒(31)の本体部(32)の外周面(32a)との間の距離が周方向においても一定の大きさとした状態を示しているが、常温(T1)においてはマンドレルリング(38)と心棒(31)の軸合わせがなされていないので、両者間の距離は周方向で必ずしも一定にはならない。例えば、図示の姿勢でマンドレル(30)の組み立てを行うと、図4Cに示したように、マンドレルリング(38)の内周面(38a)の上部が心棒(31)の本体部(32)の外周面(32a)の上部に接触して両者間の距離はゼロであり、周方向に沿って下方にいくにつれて両者間の距離が拡大し、下部において距離が最大となる。また、マンドレルリング(38)は心棒(31)の頭部(34)で締め付けられて仮止めされた状態にあるので、全周において両者は接触していないが、両者間の距離には偏りがある、という場合もある。従って、本発明において「隙間がある」とは、マンドレルリング(38)と心棒(31)の本体部(32)との接触の有無を意味するのではなく、常温(T1)における心棒(31)の本体部(32)の外径(AT1)とマンドレルリング(38)の内径(BT1)とが「BT1>AT1」なる関係を満足し、両者の間にクリアランスが存在することを意味する。また、マンドレルリング(38)と心棒(31)の本体部(32)とが上述したいずれの位置関係にある場合においても、本発明における隙間(S1)の大きさはマンドレルリング(38)の内径(BT1)と心棒(31)の本体部(32)の外径(AT1)との差(BT1−AT1)で表される。
また、後述する図6、図7Bにおいても、マンドレルリング(38)(44)の内周面(38a)(44a)と心棒(31)(41)の本体部(32)(42)の外周面(32a)(42a)との間の距離が周方向において一定とした例を示しているが、これらの態様においても両者が接触する部分を有していたり、周方向における両者間の距離に偏りがある場合もある。
常温(T1)時に心棒(31)とマンドレルリング(38)とを組み立てる際には、前記隙間(S1)があるのでマンドレルリング(38)を心棒(31)に外嵌めすることは容易である。さらに、心棒(31)を台座(24)に固定して頭部(34)でマンドレルリング(38)を抑えると、心棒(31)の本体部(32)には押出方向の引張力が生じ、マンドレルリング(38)には押出方向の圧縮力が生じる。
〔マンドレルリングの径方向における固定〕
図5は、温度(T)に対する心棒(31)の本体部(32)外径(A)およびマンドレルリング(38)の内径(B)の変化を示したものでる。
図5に示すように、心棒(31)およびマンドレルリング(38)はいずれも熱膨張により寸法が拡大する(AT、BT)。常温(T1)において、マンドレルリング(38)の内径(BT)は心棒(31)の本体部(32)の外径(AT)よりも大きく、両者の間には、図4Aに示したように、(BT1−AT1)なる隙間(S1)がある。
温度(T)が上昇すると、心棒(31)およびマンドレルリング(38)は、それぞれの熱膨張係数(α1)(α2)に応じて径が大きくなる。T2>T1を満足する任意の温度(T2)における心棒(31)の本体部(32)の外径(AT2)およびマンドレルリング(38)の内径(BT2)は、下記の(I)式および(II)式で表される。
AT2=AT1×(T2−T1)×α1+AT1 …(I)
BT2=BT1×(T2−T1)×α2+BT1 …(II)
ただし、α1:心棒を構成する材料の熱膨張係数
α2:マンドレルリングを構成する材料の熱膨張係数
T1:常温
T2:高温(>T1)
AT1:常温(T1)時の心棒(本体部)の外径
BT1:常温(T1)時のマンドレルリングの内径(>AT1)
ダイス温度が上昇すると、心棒(31)およびマンドレルリング(38)がそれぞれの熱膨張係数(α1)(α2)に従って膨張し、心棒(31)の本体部(32)には圧縮力が生じ、マンドレルリング(38)には周方向の引張力が生じる。そして、心棒(31)の本体部(32)の外径拡大量がマンドレルリング(38)の内径拡大量を上回るために隙間(S1)は減少していき、図4Bに示すように隙間(S1)が無くなるとマンドレルリング(38)は心棒(31)の本体部(32)に固定される。
熱膨張係数はα1>α2であるから、図5に参照されるように、温度上昇に伴い、温度(TZ)において心棒(31)の本体部(32)の外径(ATZ)とマンドレルリング(38)の内径(BTZ)が等しくなった時点で隙間(S1)が無くなり、マンドレルリング(38)は心棒(31)から外れなくなって固定された状態となる。さらに温度が上昇すると、心棒(31)の本体部(32)の外径(AT)がマンドレルリング(38)の内径(BT)を上回る。心棒(31)の本体部(32)の外径(AT)がマンドレルリング(38)の内径(BT)を上回る温度領域(T>TZ)では、心棒(31)の本体部(32)の膨張力がマンドレルリング(38)を内側から締め付ける力として作用し、マンドレルリング(38)に周方向の引張力が付与されるので、ますます心棒(31)から外れにくくなってしっかりと固定される。
押出時、ダイスは所定温度に加熱されて常温(T1)よりも高温となる。従って、図5に示すように、押出時のダイス温度(T2)において、心棒(31)の本体部(32)の外径(AT2)がマンドレルリング(38)の内径(BT2)と等しくなるか、心棒(31)の本体部(32)の外径(AT2)がマンドレルリング(38)の内径(BT2)を上回るように、常温(T1)時の心棒(31)の本体部(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(38)の内径(BT1)を設定すれば、マンドレルリング(38)を心棒(31)に固定した状態で押出を行うことができる。そして、マンドレルリング(38)が心棒(31)に固定された状態で押出を行うと、押出材(1)の偏肉が抑制されて高品質の押出材(1)を製造することができる。ただし、心棒(31)の膨張力が過剰になってマンドレルリング(38)の引張力の限界を超えるとマンドレルリング(38)が破損するので、材料の熱膨張係数(α1、α2)と押出時のダイス温度(T2)を勘案して、押出時のダイス温度(T2)において適度な引張力を生じさせるように、常温(T1)時の心棒(31)の本体部(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(38)の内径(BT1)を設定する。
ここで、任意の温度(T)における心棒(31)の本体部(32)とマンドレルリング(38)との締まり具合および緩み具合を、心棒(31)の本体部(32)の外径(AT)とマンドレルリング(38)の内径(BT)の比率に基づいて、下記(III)式の締め代(XT)として定義する。AT<BT、即ち両者の間には隙間がある状態ではXT<0となり、締め代(XT)値が小さくなるほど緩みが大きいことを示している。一方、AT>BT、即ち両者の間には隙間がなくマンドレルリング(38)が内側から心棒(31)の本体部(32)に締め付けられている状態ではXT>0となり、締め代(XT)の値が大きくなるほど締め付け力大きいことを示している。AT=BT(XT=0)は、両者に隙間はないが締め付け力が利いていない状態である。
XT(%)=(AT/BT−1)×100 …(III)
さらに、(III)式により、常温(T1)時および高温(T2)時(押出時のダイス温度)における心棒(31)の本体部(32)とマンドレルリング(38)との締め代(XT1)(XT2)は、それぞれ(IV)式および(V)式により表わされる。
XT1(%)=(AT1/BT1−1)×100 …(IV)
XT2=(AT2/BT2−1)×100
={〔AT1×(T2−T1)×α1+AT1〕/〔BT1×(T2−T1)×α2+BT1〕−1}×100 …(V)
心棒(31)の本体部(32)およびマンドレルリング(38)は、常温(T1)時にAT1<BT1となるように製作されるのでXT1<0となり、締め代(XT1)は両者間の隙間があって緩んだ状態を示している。一方、高温(T2)時は両者間の隙間が無くなってAT2≧BT2であるから、その締め代(XT2)は0または正値となり、締め付け力が利いている状態を示している。また、XT2<0は、高温(T2)時にも緩みがあってマンドレルリング(38)が心棒(31)に固定されていない状態を示している。
前記締め代(XT2)が大きくなるほど締め付け力も強くなり、マンドレルリング(38)がしっかりと固定されて外れにくくなるが、上述したように締め付け力が過度に大きくなるとマンドレルリング(38)が破損するおそれがある。また、押出時には材料流れにより押出方向の力もが加わる。これらを勘案すると、前記押出時のダイス温度(T2)における締め代(XT2)は0.3%以下が好ましい。前記締め代(XT2)が0または正値である限り下限値は規定されないが、確実に固定するために0.05%以上が好ましい。特に好ましい締め代(XT2)は0.15〜0.25%である。なお、締め代(XT2)の適正範囲は、心棒(31)およびマンドレルリング(38)の材質、マンドレルリング(38)の厚み等によって異なる。
また、常温(T1)時の締め代(XT1)は負値である限り限定されない。心棒(31)の本体部(32)の外径(AT1)がマンドレルリングの内径(BT1)よりも小さいので、これらの組み付け作業は容易である。押出ダイスは、押出が終わって常温(T1)に冷却されると常温(T1)時の締め代(XT1)に戻って緩みが生じ、かつ心棒(31)は台座(24)に対して着脱自在であるから、心棒(31)からマンドレルリング(38)を取り外すことができる。従って、摩耗したマンドレルリングの取り外し、新しいマンドレルリングの取り付けといったメンテナンスを容易に行える。ベアリング部の寸法の異なるマンドレルリングに交換することも可能であるから、押出材の内径変更にも対応できる。また、心棒はダイスの基盤部に対して着脱自在であるから心棒のメンテナンス性も良く、心棒の交換も可能である。従って、マンドレルリングの肉厚変更や長さ変更を行う場合に、共通の基盤部を使用して心棒のみを交換することもできる。
本発明は、常温時における隙間の大きさが軸線方向において一定となされたマンドレルに限定するものではない。隙間の大きさが軸線方向で変化するマンドレルにおいては、常温(T1)時に隙間(S1)が最小となり押出時のダイス温度(T2)時に締め付け力が最大となる部分において、押出時のダイス温度(T2)における締め代(XT2)が0〜0.3%となるように、常温(T1)時の心棒の本体部の外径(AT1)およびマンドレルリングの内径(BT1)を設定すれば良い。その他の部分における締め代は、常温(T1)時の隙間(S1)の大きさに応じた値となる。
なお、図4Aおよび図4Bは、径方向の熱膨張を説明するための模式図であって、軸線方向の熱膨張は表わされていない。
〔マンドレルリングの軸線方向における固定〕
押出中、マンドレルリングには材料の流れによって下流側に押す力が加わる。マンドレルリングは心棒によって径方向に締め付けられて固定されるが、下流側に押す力に対しては、マンドレルリングの両端面を台座の先端面と頭部に接触させて拘束し、あるいはさらに締め付けることによって軸線方向の固定安定性を高めることができる。また、押出軸方向の拘束力を加えることで、心棒の膨張力による締め付けのみで固定する場合よりも、締め代(XT2)を小さくすることができるので、締め代(XT2)の増大によるマンドレルリングの破損の危険性を回避できる。
本実施形態の心棒(31)は頭部(34)が本体部(32)と一体になっているので、本体部(32)の軸線方向における熱膨張に伴って頭部(34)の位置が下流側に後退する。ダイス温度が上昇すると、心棒(31)とマンドレルリング(38)の熱膨張係数の差により本体部(32)の寸法拡大量はマンドレルリング(38)の寸法拡大量を上回るので、頭部(34)による締め付け力は弱くなる方向に変化する。ダイス温度が上昇しても、図4Bに示すように、マンドレルリング(38)の両端が台座(24)の先端面および心棒(31)の頭部(34)に接触している限りは、相応の締め付け力が利いている。しかしながら、図6に示すように、押出時に、本体部(32)の長さがマンドレルリング(38)の長さを上回ってマンドレルリング(38)と頭部(34)との間に隙間(S2)が生じると、頭部(34)による締め付け力が利かなくなる。
押出時のダイス温度(T2)において頭部(34)による締め付け力を利かせるには、常温(T1)時に温度上昇による緩み量を上回る強い締め付け力を付与しておく必要がある。本実施形態のマンドレル(30)は、常温(T1)時において、心棒(31)の本体部(32)の長さ(L1)をマンドレルリング(38)の長さ(L2)よりも僅かに短く設定することによりマンドレルリング(38)の両端を台座(24)の先端面および心棒(31)の頭部(34)に接触させ、さらに雄ねじ部(36)と雌ねじ部(27)の締め具合で心棒(31)位置の微調整を行いマンドレルリング(38)に付与する締め付け力の調節を行う。また、本体部(32)は下流側部分がテーパー状に縮径されて芯合わせ部(35)へと続いているので、ねじの緊締による心棒(31)の上流側への移動はスムーズに行われる。そして、常温(T1)においてマンドレル(30)を組み立てる際に、ねじの締め具合によってマンドレルリング(38)に対する締め付け力を適宜調節しておき、押出時のダイス温度(T2)に温度上昇して締め付け力が緩んでもなお頭部(34)がマンドレルリング(38)に接触している状態を維持するようにする。
このように、マンドレルリング(38)に押出軸方向の締め付け力が加わることで、上述した径方向の締め代(XT2)を小さくしても、マンドレルリング(38)の固定安定性を維持することができる。ひいては、マンドレルリング(38)に付与される周方向の引張力を軽減して、締め代(XT2)の増大による破損を回避することができる。
なお、本実施形態では頭部(24)が本体部(32)と一体となった心棒(31)を用いているが、本発明はこのような態様に限定されない。頭部を本体部に対して固定せずに本体部に対して位置調節自在とし、軸線方向におけるマンドレルリングの締め付け力を頭部で調節するようにしても良い。さらに、本発明は頭部の存在しない心棒を除外するものでもない。
〔マンドレルリングの周方向における位置決め〕
マンドレルにおいては、心棒の本体部およびマンドレルリングの孔の断面形状を非円形に形成することにより、マンドレルリングの周方向の回動を阻止することができる。これにより、周方向のずれがなくなって固定安定性を高めるとともに、マンドレルリングの位置決めを行うことができる。特に、押出材の中空部の形状が円以外の場合は、周方向の位置決めが必要となるため、適用意義が大きい。非円形断面としては、角形断面、円形の一部を直線で形成した断面等である。
〔マンドレルの他の形状〕
図7A〜図7Cはマンドレルの他の形状例であり、図1〜図4Bのマンドレル(30)とは心棒の本体部の外周形状およびマンドレルリングの内周形状が異なり、さらに芯合わせ部を有していない点が異なる。図7Aは分解図、図7Bは常温(T1)時の組み立て状態を示し、図7Cは押出時のダイス温度(T2)における状態を示している。
マンドレル(40)は、心棒(41)の本体部(42)の外周面(42a)が、軸線に対し、テーパー角度(θ1)で下流側に向かって外向きに傾斜するテーパー面で形成されている。また、取付用の凸部は雄ねじ部(43)によって形成されている。一方、マンドレルリング(44)の内周面(44a)は、軸線に対し、テーパー角度(θ2)で下流側に向かって外向きに傾斜するテーパー面で形成されている。本体部(42)の外周面(42a)のテーパー角度(θ1)とマンドレルリング(44)の内周面(44a)のテーパー角度(θ2)は等しく、常温(T1)時における隙間(S1)は大きさが一定で軸線に対して傾斜している(図7B参照)。
前記心棒(41)を固定する台座(24)は、凹部が前記雄ねじ部(43)に対応する雌ねじ部(45)によって形成されている。前記心棒(41)は、前記雄ねじ部(43)と雌ねじ部(45)の螺合によって台座(24)に固定される。
前記マンドレル(40)は、図7Cに示す押出時のダイス温度(T2)において、隙間(S1)が無くなって本体部(42)の外周面(42a)とマンドレルリング(44)の内周面(44a)が接触する。本実施形態では両者のテーパー角度(θ1)(θ2)が等しいので、マンドレルリング(44)の内周面(44a)の全領域が本体部(42)の外周面(42a)と接触し、その接触面(46)の傾斜角度(θ3)は前記テーパー角度(θ1)(θ2)と等しくなる。
このように接触面(46)がマンドレル(40)の軸線に対して下流側に向かって外向きに傾斜する場合は、押出材料の流れがマンドレルリング(44)を下流側へ押そうとしても、外向きの傾斜面(接触面)がその動きを阻止する方向に作用する。従って、マンドレルリング(44)の動きが抑制されて軸線方向における高い固定安定性が得られる。
前記接触面(46)は僅かでも傾斜していれば上述したマンドレルリングの抑制効果が得られるので、本発明は接触面(46)の傾斜角度(θ3)を限定するものではない。ただし、接触面(46)のマンドレル(40)の軸線に対する傾斜角度(θ3)が大きくなるほどその効果は増大するので、前記傾斜角度(θ3)は0.05〜3°が好ましく、特に0.1〜2°が好ましい。
接触面(46)が傾斜するマンドレル(40)においては、その傾斜方向により本体部(42)の外径およびマンドレルリング(44)の内径は下流側で大きく上流側で小さくなっている。前記接触面(46)の傾斜角度(θ3)は常温(T1)時の本体部(42)の外周面(42a)およびマンドレルリング(44)の内周面(44a)のテーパー角度(θ1)(θ2)によって決まり、接触面(46)の傾斜角度(θ3)を大きくするには前記テーパー角度(θ1)(θ2)を大きく設定するので、下流側と上流側との直径差が大きくなる。本発明のマンドレルは心棒が台座に対して着脱自在であることが必須の構成要件であり、心棒(41)の上流側からマンドレルリング(44)を嵌めることができる。即ち、マンドレルリング(44)の内径が最大となる下流側に本体部(42)の外径が最小となる上流側を挿入することになる。従って、前記テーパー角度(θ1)(θ2)を大きく設定しても心棒(41)とマンドレルリング(44)の組み立てが可能であるから、テーパー角度(θ1)(θ2)の設計の自由度が高い。
図示例の心棒(41)は径大の頭部(34)が本体部(42)と一体に設けられているため、前記テーパー角度(θ1)(θ2)の大小にかかわらず常に上流側からマンドレルリング(44)を嵌めるのであるが、本発明において頭部の有無は限定されず、頭部が本体部と一体であるか着脱自在であるかも限定されない。従って、頭部の無い心棒や頭部が着脱自在となされた心棒は、マンドレルリングを下流側から嵌めることもできる。しかし、マンドレルリングを下流側から嵌めるとすれば、マンドレルリングの内径が最小となる上流側に本体部の外径が最大となる下流側を挿入することになるので、前記テーパー角度(θ1)(θ2)がマンドレルリングの外嵌め可能な範囲の小さい角度に制限される。その結果、傾斜する接触面によるマンドレルリングの動きを抑制する効果も小さいものとなる。本発明における心棒はダイスの基盤部に対して着脱自在であるので、組み立ての可否によってテーパー角度(θ1)(θ2)が制限されない。ひいては、接触面の傾斜角度(θ3)を大きい角度に設定することで、軸線方向におけるマンドレルリングの固定安定性の向上を図ることができる。
さらに、本発明は、本体部の外周面とマンドレルリングの内周面とが全領域で接触していることにも限定されない。押出時のダイス温度において、マンドレルの軸線方向の少なくとも一部においてその隙間が無くなって両者が接触していれば、マンドレルリングは心棒からの締め付け力を受けて固定されるからである。軸線方向の一部が接触する場合の接触面の傾斜角度も限定されない。
また、マンドレルの軸線方向の少なくとも一部を接触させ、かつその接触面を下流側に向かって外向きに傾斜させるには、常温における心棒の本体部の外周面およびマンドレルリングの内周面のうちの少なくとも一方が、マンドレルの軸線に対して下流側に向かって外向きに傾斜するテーパー面で形成されていれば良い。従って、一方が軸線と平行で他方が下流側に向かって外側に傾斜している場合も本発明に含まれる。また、両方が軸線に対して異なるテーパー角度で傾斜している場合も本発明に含まれる。なお、図7A〜図7Cのマンドレル(40)のように、両者のテーパー角度(θ1)(θ2)が等しい場合はそのテーパー角度(θ1)(θ2)がそのまま傾斜面(44)の傾斜角度(θ3)となるが、両者の角度が異なる場合(一方が軸線に平行である場合を含む)は、接触面の傾斜角度は、常温(T1)時の角度や材料の熱膨張率(α1、α2)の差によって決まるので、必ずしも常温時のテーパー角度と等しくはならないが傾斜方向は維持される。
また、両者の接触面積が大きいほど締め付け力が利いてマンドレルリングの固定安定性が向上することから、マンドレルリングの内周面の面積の20%以上、特に50%以上が心棒の外周面に接触することが好ましい。かかる接触面積率は、心棒およびマンドレルリングの材料選定および寸法設定によって調節できる。また、部分的に接触する場合、接触位置は常温時の隙間の狭い部分である。
なお、接触面の一部が下流側に向かって外向きの傾斜面であれば抜け止め効果が得られるので、接触面の全領域が傾斜面であることには限定されない。例えば、接触面の一部に、軸線に対して平行な面や逆向きの傾斜面を含んでいる場合も本発明に含まれる。
図8のマンドレル(50)は芯合わせ部の他の形状例である。心棒(51)の凸部(52)の芯合わせ部(53)は雄ねじ部(36)側で外径が小さくなる円錐台形であり、台座(24)の凹部(54)の芯合わせ部(55)はその内周面が凸部(52)の芯合わせ部(53)の外周面と同角度で傾斜し、雌ねじ部(27)側で内径が小さくなっている。凸部の芯合わせ部の外周面と凹部の芯合わせ部の内周面とが平行であれば高精度の芯合わせが可能であるから、その傾斜角度は限定されない。芯合わせ部は、図1〜3のマンドレル(30)のように軸線に平行であっても良いし、図8のマンドレル(50)のように軸線に対して傾斜していても良い。また、芯合わせ部における凸部と凹部との間の隙間は、芯合わせの精度を高めるために、常温時に組み立てが可能である限り可及的に小さくすることが好ましい。心棒およびダイスの基盤部の材料は同一または同等の材料を用いるので、押出時のダイス温度におけいても常温時の隙間の大きさが維持される。
なお、本発明において芯合わせ部の有無は任意に選択できる構成であり、図7A〜図7Cのマンドレル(40)は芯合わせ部の無い態様である。
心棒の着脱構造は図示例のねじ止めに限定されないが、着脱が容易で心棒の固定安定性が高く、マンドレルリングに対する軸線方向の締め付け力の調節を容易に行える点でねじ止めを推奨できる。その他の着脱構造としてバヨネット構造を例示できる。また、基盤部に凸部を設け心棒に凹部を設けて着脱自在としたマンドレルや、凹凸結合以外の着脱構造も本発明に含まれる。
本発明の押出ダイスは、閉じられた中空部を有する中空材の押出のみならず、中空部の一部が開口した半中空材の押出にも適用することができる。
また、本発明の押出ダイスを用いて成形する材料は金属である限り何ら限定されず、アルミニウム、銅、鉄およびこれらの合金を例示できる。
以下の実施例1、2において、図1および図2に参照されるポートホールダイス(10)の雄型(20)を、マンドレルの形状を変えて製作した。各マンドレルにおける心棒およびマンドレルリングの材料は共通であり、心棒の材料は工具鋼(SKD61、熱膨張率:13×10−6/℃)であり、マンドレルリングの材料は超硬合金(WC−Co、熱膨張率:7×10−6/℃)である。また、ダイスの基盤部の材料は心棒と同じ工具鋼(SKD61)である。
〔実施例1〕
図3〜4Bに示すマンドレル(30)を製作した。
前記心棒(31)本体部(32)の外周面(32a)およびマンドレルリング(38)の内周面(38a)はいずれも軸線に対して平行である。また、マンドレルリング(38)を径方向に固定するために、本体部(32)の外径(AT1)およびマンドレルリング(38)の内径(BT1)を表2に示す寸法に設定した。
一方、軸線方向においては、表2に示すように、心棒(31)の本体部(32)の長さ(L1)をマンドレルリング(38)の長さ(L2)よりも短く設定するともに、心棒(31)の芯合わせ部(35)の長さ(L3)を台座(24)の芯合わせ部(26)の長さ(L4)よりも短く設定した。このような寸法設定により、常温(T1)時に心棒(31)の頭部(34)をマンドレルリング(38)に接触させ、かつ強い締め付け力を付与できるようにした。
また、心棒(31)は、凸部(33)および台座(24)の凹部(25)に軸線に平行な芯合わせ部(35)(26)を設けることによって、基盤部(21)に対して高精度の芯合わせを行えるようにした。前記芯合わせ部(35)(26)は組み立て作業のために両者の間に僅かなクリアランスを設けることとし、凸部(33)の芯合わせ部(35)の外径を(22−0.005)mm、凹部(25)の芯合わせ部(26)の内径を(22+0.005)mmに設定した。この寸法設定により、心棒(31)の軸心のずれを10μm以下に納めることができる。
図4Aに示すように、常温(T1)時において、マンドレルリング(38)を心棒(31)の凸部(33)側から外嵌めし、台座(24)の凹部(26)に挿入し、雄ねじ部(36)を雌ねじ部(27)に螺合させて心棒(31)を台座(24)に固定する。このとき、前記芯合わせ部(35)(26)によって心棒(31)の芯合わせがなされ、心棒(31)の本体部(32)の外周面(32a)とマンドレルリング(38)の内周面(38a)との間には、(BT1−AT1)なる隙間(S1)が存在している。
また、本体部(32)の長さ(L1)がマンドレルリング(38)の長さ(L2)よりも短く設定されていることで、マンドレルリング(38)の両端が心棒(31)の頭部(34)と台座(24)の先端面に挟まれて所定位置に拘束される。さらに、雄ねじ部(36)と雌ねじ部(27)の締め具合により軸線方向におけるマンドレルリング(38)の締め付け力を調節し、ダイスの温度上昇による心棒(31)の膨張によって頭部(34)とマンドレルリング(38)との間に隙間が生じないように、常温(T1)時の締め付け力を設定した。即ち、ダイス温度が上昇してもマンドレルリング(38)の両端が心棒(31)の頭部(34)および台座(24)の先端面に接触している状態を維持できるようにした。
このようにして組み立てたダイスを、常温(T1)からダイス温度(T2)がT1+500℃となるように加熱し、マンドレルリング(38)を心棒(31)に固定させた(図4B参照)。この温度(T2)は押出時のダイス温度に相当する。前記心棒(31)およびマンドレルリング(38)の熱膨張率および常温(T1)時の各部の寸法より計算した押出時のダイス温度(T2)における寸法を表2に示す。さらに上述した(V)式により計算した締め代(XT2)を表2に示す。
表2に示すように、押出時のダイス温度(T2)においては、心棒(31)の本体部(32)とマンドレルリング(38)との間の隙間(S1)がなくなり、マンドレルリング(38)は径方向において適度な締め代で心棒(31)に固定された。また、軸線方向においては心棒(31)の頭部(34)によって締め付け力が付与されているので、軸線方向においても安定して固定されている。
〔実施例2〕
図7A〜図7Cに示すマンドレル(40)を製作した。
前記心棒(41)の本体部(42)の外周面(42a)およびマンドレルリング(44)の内周面(44a)は、軸線に対し、下流側に向かって外向きに傾斜するテーパー面で形成されている。本体部(42)の下流端における外径(AT1)およびマンドレルリング(44)の下流端における内径(BT1)、それぞれのテーパー角度(θ1)(θ2)を表3に示す寸法および角度に設定した。
一方、軸線方向においては、表3に示すように、心棒(41)の本体部(42)の長さ(L1)をマンドレルリング(44)の長さ(L2)よりも短く設定するともに、心棒(41)の雄ねじ部(43)の長さ(L5)を台座(24)の雌ねじ部(45)の長さ(L6)よりも短く設定し、常温(T1)においてマンドレルリング(44)に対して軸線方向の強い締め付け力を付与できるようにした。
図7Aおよび図7Bに示すように、常温(T1)時において、マンドレルリング(44)を心棒(41)の雄ねじ部(43)側から外嵌めし、台座(24)の雌ねじ部(45)に螺合させて心棒(41)を台座(24)に固定すると、心棒(41)の本体部(42)の外周面(42a)とマンドレルリング(44)の内周面(38a)との間の隙間(S1)は大きさが一定で軸線に対して傾斜している。
また、実施例1と同じく、本体部(42)の長さ(L1)がマンドレルリング(44)の長さ(L2)よりも短く設定されていることで、雄ねじ部(43)と雌ねじ部(45)の締め具合の調節でとマンドレルリング(44)に対して軸線方向の強い締め付け力を付与することができる。
このようにして組み立てたダイスを、常温(T1)からダイス温度(T2)がT1+500℃となるように加熱し、マンドレルリング(44)を心棒(41)に固定させた(図7C参照)た。心棒(41)およびマンドレルリング(44)の熱膨張率および常温(T1)時の各部の寸法より計算した押出時のダイス温度(T2)における寸法を表3に示す。さらに上述した(V)式により計算した締め代(XT2)を表3に示す。
表3に示すように、押出時のダイス温度(T2)においては、心棒(41)の本体部(42)とマンドレルリング(44)との間の隙間(S1)がなくなり、軸線に対してテーパー角度(θ3)で傾斜した接触面(46)が形成される。また、マンドレルリング(44)に対し、径方向においては前記締め代(XT2)の締め付け力によって高い固定安定性が得られる。また、軸線方向においては、心棒(41)の頭部(34)による締め付け力と下流側に向かって外向きに傾斜する接触面(46)とによって、高い固定安定性が得られる。