JP5435477B2 - ダイヤモンド微粒子を分散させた複合めっき液及びその製造方法 - Google Patents

ダイヤモンド微粒子を分散させた複合めっき液及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ダイヤモンド微粒子を均一に分散させた複合めっき液及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、金属めっき液中に、親水性ポリマー又はイオン性官能基が導入されたダイヤモンド微粒子を界面活性剤とともに分散させた複合めっき液及びその製造方法に関する。
ダイヤモンド微粒子であるナノダイヤモンドは、人工的には衝撃圧縮法や静圧法により製造され、その製造方法により得られる形態が異なり、多結晶、単結晶、クラスター等の異なるタイプのナノダイヤモンドが知られている。多結晶タイプのナノダイヤモンドは、球状の構造を有しているため、固体間の摺動面に適した材料と考えられる。
多結晶タイプのナノダイヤモンドは、一次粒子の粒径が5〜20nmの焼結体であるが、一次粒子のままで安定に存在することは困難で、50〜7,500nm程度の大きな凝集体となって存在している。そのため、こうしたナノダイヤモンドは、工業的に利用する際に液体中で分散させて使用されてきた。
めっき処理に微粒子を用いる場合には、水溶媒に微粒子を分散させて使用する方法が一般的である。例えば、金属めっき浴に、フッ素樹脂、ナイロン、ポリエチレン、黒鉛、フッ化黒鉛、二硫化モリブデン、窒化ホウ素等の微粒子を分散した複合めっき浴が知られている。こうした複合めっき浴に被めっき体を浸漬させて複合めっきを行うことにより、被めっき体の表面に化学的に金属膜を析出させるとともに金属膜中に微粒子を共析させ、金属マトリックス中に微粒子を分散させた複合めっき膜を形成することができる。形成された複合めっき膜は、めっき金属の諸物性と共に、分散した微粒子の特性を併せ持つことになり、分散共析させる微粒子の種類により、低摩擦性、耐摩耗性、硬度等の様々な優れた特性をめっき膜に付与することができる。
しかしながら、分散させる微粒子として、ナノダイヤモンド等の炭素系材料、フッ素系樹脂、セラミック等の微粒子をめっき処理に用いる場合、撥水性及び疎水性が強く、そのままでは、金属めっき浴中に分散させることができないため、微粒子をめっき膜中に均一に分散共析させることは非常に困難である。
従来より、界面活性剤を分散助剤として用いて微粒子をめっき浴に分散させる方法が用いられている。分散助剤として用いられる界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、めっき浴のpHに対応してカチオン性を示す両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤等が知られている。特許文献1では、ダイヤモンド粉末を混入しためっき液に、ノニオン系分散剤を添加してダイヤモンド粉末をめっき液中に分散させて複合めっきを行う点が記載されている。
界面活性剤を用いない方法としては、例えば、特許文献2では、ダイヤモンド微粒子を懸濁しためっき浴に酸素を含有する気体で撹拌しながら基材を浸漬して、ダイヤモンド微粒子を分散させためっき膜を形成する方法が記載されている。また、特許文献3では、ナノダイヤモンドに、導入剤としてポリエチレングリコールユニット含有高分子アゾ重合剤(AZOPEG)を用いてカチオン性官能基を導入して分散させた分散液で複合めっきを行う方法が記載されている。
特開平8−337883号公報 特開2006−225730号公報 特開2008−150250号公報
衝撃圧縮法により得られた多結晶タイプのナノダイヤモンドは、一次粒子が5〜20nmと極めて小さいが、ナノダイヤモンド表面には、非黒鉛質、黒鉛質皮膜などが融着し、粒径が50〜7,500nmの二次又は三次凝集体として製造販売されている。
市販のナノダイヤモンドをめっき液中に分散させる場合、界面活性剤を添加しても粒子同士の凝集が起こりやすく、凝集した粒子が沈殿するため安定した分散液を得ることは非常に難しい。ナノダイヤモンドが安定して分散していない状態でめっき処理を行っためっき膜の表面には、ナノダイヤモンドの凝集析出(偏析)が生じるという問題があった。
こうした問題に対処するために、超音波分散法やビーズミル分散法等によりナノダイヤモンドの凝集体を解砕することが提案されている。こうした分散方法を用いるとナノダイヤモンドの平均粒径が十数nm〜数百nmの分散液を得ることができるが、めっき液中においては金属イオンの影響を受けるため、ナノダイヤモンドは再凝集・沈殿を生じてしまう。
また、従来行われてきたナノダイヤモンドを用いた複合めっき処理では、平均粒径が数nm〜数百nm程度のサイズのナノダイヤモンドをめっき液中に分散させて複合めっき膜を得ていたが、分散させるナノダイヤモンドの濃度が希薄であったため、複合めっき膜中に共析するナノダイヤモンドの含有量が数%程度のものであった。そのため、ナノダイヤモンドの特性を十分に発揮する複合めっき膜が得られなかった。
そこで、本発明は、ダイヤモンド微粒子を安定して分散させた複合めっき液及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る複合めっき液の製造方法は、アゾ系ラジカル開始剤と水系溶媒中で反応させてアニオン性官能基が導入されたダイヤモンド微粒子をカチオン性界面活性剤とともに分散させてpH3〜8の範囲に調整した分散液を作製し、作製された分散液を金属めっき液に添加してpH3〜5の範囲に調整し、ダイヤモンド微粒子を安定して分散させた複合めっき液を製造することを特徴とする。さらに、前記ダイヤモンド微粒子の平均粒径が1nm〜1000nmであることを特徴とする。さらに、前記界面活性剤は、分子量が30,000〜200,000である単独重合体又は共重合体の界面活性剤であることを特徴とする。さらに、前記金属めっき液は、ニッケルイオン、コバルトイオン、銅イオン、金イオン、鉄イオン、パラジウムイオン、白金イオン、スズイオン及びロジウムイオンよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の金属イオンを含むことを特徴とする。
本発明に係る複合めっき液は、上記の製造方法により製造されたことを特徴とする。さらに、前記ダイヤモンド微粒子の濃度が0.1g/リットル〜20g/リットルであることを特徴とする。
本発明に係る複合めっき方法は、上記の複合めっき液を用いて基材表面にめっき処理を行うことにより、前記ダイヤモンド微粒子を金属マトリックス中に均一に分散させた複合めっき膜を形成することを特徴とする。
本発明は、上記のような構成を有することで、金属めっき液中に、親水性ポリマー又はイオン性官能基が導入されたダイヤモンド微粒子をイオン性又は非イオン性の界面活性剤とともに分散させ、ダイヤモンド微粒子が安定した状態で均一に分散した複合めっき液を得ることができる。
複合めっき液に関するゼータ電位の測定結果を示すグラフである。 複合めっき液に関する粒度分布の測定結果を示すグラフである。 実施例1の複合めっき膜の断面を撮影したSEMの拡大写真である。 実施例2の複合めっき膜の断面を撮影したSEMの拡大写真である。
本発明において使用される金属めっき液としては特に制限はないが、ニッケルイオン、コバルトイオン、銅イオン、金イオン、鉄イオン、パラジウムイオン、白金イオン、スズイオン及びロジウムイオンよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の金属イオンを含むものが使用でき、特に好ましいものとしてはニッケルイオンを含む金属めっき液が挙げられる。
本発明に使用するダイヤモンド微粒子としては、平均粒径が1nm〜1000nm、好ましくは10nm〜1000nm、特に好ましくは10nm〜200nmのものを使用するとよい。こうしたダイヤモンド微粒子は、通常入手可能な多結晶タイプ、単結晶タイプ、クラスタータイプのものを用いることができる。摺動特性の優れた複合めっき膜を得るには、粒径の小さいものを用いるとよい。
金属めっき液中にてダイヤモンド微粒子を均一に分散させるために、ダイヤモンド粒子の表面に親水性ポリマー又はイオン性官能基を導入するが、例えば、カチオン性官能基の場合、酸性領域下で容易にプロトンと結合してオニウムを形成するアミノ基、チオール基、水酸基、ホスフィン基等が挙げられる。この中でも、最もオニウムを形成しやすいアミノ基が好ましく、二つのアミノ基を有するアミジン骨格がさらに好ましい。
そのため、ダイヤモンド微粒子と反応させるアゾ系ラジカル開始剤は、アミジン骨格を有するものが好ましい。アミジンは塩酸塩になっていても環状体でもよい。具体的に列挙すると、2,2’−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−1,3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等が挙げられる。これらは市販されており容易に入手できる。
イオン性官能基を導入したダイヤモンド微粒子を分散させた水性分散液を製造するには、ダイヤモンド微粒子をアゾ系ラジカル開始剤と水系溶媒中で反応させて行う。水系溶媒中にダイヤモンド微粒子及びアゾ系ラジカル開始剤を混合して、加熱又は光照射によりラジカル反応を開始させればよい。加熱する場合は50℃以上、好ましくは65〜75℃に加熱すれば十分であり、数十時間で反応は完了する。反応の速度は、アゾ系ラジカル開始剤の量に依存し、ダイヤモンド微粒子の重量の0.1〜5倍量のアゾ系開始剤を用いることが好ましい。アゾ系開始剤の量が5倍量を越えるとダイヤモンド微粒子に導入される有機物の量は増加しなくなり、0.1倍量未満ではダイヤモンド微粒子に導入される有機物が少なく分散性が不十分になる。
水系溶媒は、水、又は水と水溶性溶媒との混合物であり、通常は水を用いればよい。使用するアゾ系ラジカル開始剤が水に溶解しない場合には、水溶性溶媒を適宜混合して用いることができる。水溶性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、エチレングリコール、グリセリン、低分子量ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリオール、アセトニトリル等のニトリル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、N−メチル−2−ピロリドン等のラクタム類、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン等の含硫黄溶媒、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の含燐溶媒等が挙げられる。
反応時のダイヤモンド微粒子の濃度は、1〜20重量%であることが好ましく、さらに5〜10重量%が好ましい。濃度が20重量%よりも高くなるとダイヤモンド微粒子が凝集してしまい、凝集したダイヤモンド微粒子とアゾ系ラジカル開始剤との間の反応が不十分となってをイオン性官能基を導入するのが難しくなり、1重量%未満では複合めっき液中のダイヤモンド微粒子の濃度が低下して複合めっき膜中のダイヤモンド微粒子の共析量が低下する。
上述の方法で得られたダイヤモンド微粒子の水性分散液は、そのまま金属めっき液中に添加することもできるが、未反応のアゾ系ラジカル開始剤や過剰な塩類を除くために分離・洗浄といった処理を行うことが好ましい。分離方法としては、濾過、遠心分離等の方法が用いられる。濾材としては0.1μm程度のメンブランフィルターが分離ロスが少なく好ましい。洗浄する場合には通常脱塩水を用いるが、残存するアゾ系ラジカル開始剤等の有機物を除去しやすいように水溶性の有機溶媒を適宜混合してもよい。また、pHを調整するために、各種塩類を溶解して用いることもできる。
水性分散液中でのダイヤモンド微粒子の再凝集を抑制するためには、水性分散液をpH3〜8の範囲に調整することが好ましい。強酸又は塩基の液性の場合には、ダイヤモンド微粒子の表面の電荷が対イオンによって中和され、電荷反発による分散安定性が阻害される。pH調整剤としては、燐酸1水素塩、燐酸2水素塩、炭酸水素塩、炭酸塩、水酸化物等が挙げられるが、これらのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を用いることもできる。
また、ダイヤモンド微粒子の表面に導入する官能基を親水性ポリマーにすることで、微粒子表面における高分子鎖による立体反発力を高めて、ダイヤモンド微粒子を安定して分散させることもできる。
この場合、アゾ系ラジカル開始剤の両末端を水酸基からCl(塩素)末端に変換し、次いで得られる化合物に高分子鎖を付与することができる。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)残基、ポリジメチルシロキサン(PDMS)残基等が挙げられる。水酸基からCl末端への変換は、公知の酸クロライド化反応の反応条件を広く適用できる。引き続き行われる高分子との反応は、一般的な脱塩化水素反応であり、通常、塩基性化合物の存在下で行うのが有利である。ここで、PEG残基としては、具体的には、
−(CH2CH2O)−(nは約4以上、好ましくは約10以上の整数)
が挙げられる。また、PDMS残基としては、
−[Si(CH32−O]−(mは約3以上、好ましくは40以上の整数)
が挙げられる(特開2006−219591号公報参照)。
また、ダイヤモンド微粒子に対して、アミノ基含有シランカップリング剤又はアミノ基含有シリコーンオイルにより乾式下で表面処理してその表面にアミノ基を導入し、導入されたアミノ基についてアクリル酸メチルのマイケル付加反応及びジアミンによる末端アミノ化を乾式下で繰り返すことによりグラフト反応させて、ポリアミンデンドリマーをダイヤモンド微粒子の表面に形成することも可能である(特開2001−106940号公報参照)。
以上説明した親水性ポリマー又はイオン性官能基を導入したダイヤモンド微粒子をそのまま金属めっき液中に添加しても、金属めっき液中ではニッケルイオン等の電解質イオンの強いイオン強度の影響を受けるため、ダイヤモンド微粒子間に働く静電的反発力が打ち消され、凝集・沈殿を生じてしまう。
そのため、こうしたダイヤモンド微粒子の凝集・沈殿を抑制し、金属めっき液中でダイヤモンド微粒子を安定して分散させるために、分散剤として界面活性剤を添加することが好ましい。添加する界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性等のイオン性界面活性剤、又は非イオン性界面活性剤が挙げられる。例えば、イオン性界面活性剤の場合、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等であり、これらはダイヤモンド微粒子の表面に導入したイオン性官能基により適宜選択すればよい。ここで用いるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル等の炭素数1〜6の整数である。
また、親水性ポリマーを導入したダイヤモンド微粒子の場合、非イオン系界面活性剤を用いることが好ましく、例えばPEGの場合ポリエチレングリコールモノ−4−オクチルフェニルエーテルやアルキルフェノール系の界面活性剤が挙げられる。
分散剤として用いる界面活性剤は、分子量30,000〜200,000の単独重合体又は共重合体の界面活性剤が好ましい。分子量が200,000よりも大きいと、ダイヤモンド微粒子間架橋を引き起こし、分散剤よりもむしろ凝集剤として作用するようになる。また、分子量が30,000よりも小さいと、吸着速度は速くてもダイヤモンド微粒子からの脱着が起こりやすくなって分散剤としての効果は小さくなる。
上述のように作製された分散液を金属めっき液に添加して複合めっき液を製造する場合、ダイヤモンド微粒子の添加量は、複合めっき液中の組成において0.5〜10g/リットルであることが好ましい。ダイヤモンド微粒子の添加量をこの範囲に調整した複合めっき液を用いてめっき処理すれば、めっき膜中にダイヤモンド微粒子を均一に分散させることができ、さらにダイヤモンド微粒子の含有率を0.1〜30容量%の範囲で調整することもできる。
また、複合めっき液に使用する還元剤としては、次亜リン酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、ヒドラジン等の次亜リン酸塩やアミンボラン類、またはヒドラジン塩等が挙げられる。複合めっき液中の還元剤の濃度は、使用する還元剤の種類や析出させる金属により相違するが、複合めっき液中の組成において20〜50g/リットルであることが好ましい。
また、複合めっき液の調整にあたっては、ダイヤモンド微粒子の分散状態を妨げない範囲で錯化剤を添加することが好ましい。複合めっき液に使用できる錯化剤としては、クエン酸、乳酸、コハク酸、マロン酸、プロピオン酸、アジピン酸、リンゴ酸、グリコール酸等の有機酸やこれらの水溶性塩が挙げられ、これらのうち一種又は二種類以上を組み合わせて用いることができる。添加する錯化剤の濃度は、複合めっき液中の組成において10〜40g/リットルであることが好ましい。
上述にように製造された複合めっき液を用いて公知の無電解めっき処理を実施する場合、ダイヤモンド微粒子が安定して分散された複合めっき液に対して、基材である被めっき体を浸漬させることにより、被めっき体の表面において、金属マトリックス中にダイヤモンド微粒子がナノオーダーで均一に分散された複合めっき膜を形成させることができる。
また、めっき処理を実施する場合には、金属イオンの還元反応を促進させ、複合めっき膜の析出速度を一定に保つために、複合めっき液の酸性度をpH3〜5にすることが好ましい。複合めっき液のpHを調整するためには、塩酸、硫酸、スルファミン酸等の酸性溶液や、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム等のアルカリ性溶液を調整剤として適宜添加することができる。
さらに、析出速度を保つためには、めっき処理中の浴温を85〜90℃に調整して実施することが好ましい。また、必要に応じて、めっき処理中に複合めっき液を撹拌したり、被めっき体を揺動させることで、めっき効率を向上させたり、複合めっき膜の外観及び膜厚を一定に保つことができる。
以上に説明した複合めっき液の製造方法及びそれを用いた複合めっき方法について、好ましい形態の一つとしては、例えば、上述したような親水性ポリマー又はイオン性官能基を導入したダイヤモンド微粒子(平均粒径;1nm〜1000nm)及び界面活性剤を複合めっき液中に均一に分散させたNi−P無電解複合めっき液(下記組成参照)及びそれを使用した複合めっき方法が挙げられる。
<無電解複合めっき液の組成>
・硫酸ニッケル六水和物 25〜30g/リットル
・界面活性剤 0.5〜10g/リットル
・ダイヤモンド微粒子 0.5〜10g/リットル
・リンゴ酸(錯化剤) 10〜50g/リットル
・コハク酸(錯化剤) 10〜50g/リットル
・次亜リン酸ナトリウム(還元剤) 20〜50g/リットル
この複合めっき方法では、液温85〜90℃、pH4〜5に調整した上記の無電解複合めっき浴に、被めっき体を30〜60分程度浸漬させて無電解複合めっきを行い、被めっき体の表面にNi−Pマトリックス中にダイヤモンド微粒子が均一に分散した複合めっき膜が形成される。
この複合めっき方法によれば、5〜15μmの複合めっき膜を被めっき体の表面に形成でき、膜の内部に平均粒径が1nm〜1000nmに調整されたダイヤモンド微粒子を均一に分散することが可能となる。そして、ダイヤモンド微粒子の析出量を0.1〜30容量%にすることができ、ダイヤモンド微粒子の特性を発揮させるのに十分な量を析出させることが可能となる。
上記の無電解複合めっき液を用いて無電解複合めっき処理を行う上で、めっき処理の進行により金属イオンが還元剤によって金属に還元され、また、ダイヤモンド微粒子が共析するにことにより、複合めっき液中の金属イオン濃度、還元剤濃度及びダイヤモンド微粒子濃度が低下し、またpHも低下することになる。
したがって、連続的に又は一定時間毎に複合めっき液中に金属塩、還元剤、ダイヤモンド微粒子及びpH調整剤を補給して、それらの濃度を建浴状態に維持することが好ましい。この場合、金属イオン、還元剤、ダイヤモンド微粒子の濃度の低下量及びpHの変化量と、複合めっき膜の析出量は互いに比例関係にあると考えられる。また、複合めっき膜の析出速度は、複合めっき液の濃度が初期濃度と同じであれば、同一めっき条件においてほぼ一定であると考えられるため、一定時間毎に一定量の金属塩、還元剤、ダイヤモンド微粒子及びpH調整剤を適量補給することにより、複合めっき液中の濃度をほぼ初期濃度に維持することができる。
無電解複合めっき液は、めっき処理で消費される金属塩等の補給を行うことにより、少なくても2ターン、一般的には、3〜4ターン程度まで良好に複合めっき処理を続けることができ、連続的にめっき処理を行っても、表面が平滑で均一性に優れた複合めっき膜を安定して形成でき、また、析出速度やダイヤモンド微粒子の共析量の低下も少ない。ここで、1ターンとは、無電解複合めっき液中の初期金属イオン濃度に相当する量の金属が析出した時点での複合めっき液の状態を表しており、複合めっき液の消耗度を示す。
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。
(実施例1)
<アニオン性官能基導入ダイヤモンド微粒子の作製>
ダイヤモンド微粒子は、住石マテリアルズ株式会社製のSCMファインダイヤ(平均粒径;20nm)を用いた。また、ダイヤモンド微粒子の表面にアニオン性官能基を導入するマクロアゾ開始剤として、和光純薬工業株式会社製の「V−501(4,4’−azobis(4−cyanoantanoic acid))」(以下「V−501」という)を使用した。
撹拌子と冷却管、熱電対を備えた100ミリリットル丸底フラスコ中にダイヤモンド微粒子(1.0g)及びV−501(1.0g)を加え、次いでメタノール溶媒100ミリリットルを加えて撹拌しながら、窒素雰囲気下で50℃に加熱して24時間反応させた。24時間反応させた後、ダイヤモンド微粒子の表面に対するアニオン性官能基の導入量を増やすために、V−501(1g)をメタノール10ミリリットルに溶解させ、24時間反応させた溶液に添加し、さらに窒素雰囲気下で50℃に加熱して24時間反応させた。
反応終了後、反応溶媒を除去して未反応のモノマーを除去した。ダイヤモンド微粒子の表面において物理的に吸着しているモノマーを完全に除去するために、再度メタノールを100ミリリットル加え、超音波処理によりダイヤモンド微粒子を分散させ、1.5×104rpmで約60分間遠心分離を行った。遠心分離後、メタノールを除去して得られたダイヤモンド微粒子を吸引乾燥により乾燥した。
乾燥させたダイヤモンド微粒子(1.0g)に、0.1M−NaOH水溶液100ミリリットルを加えて超音波処理により分散させ、マグネティックスターラーで撹拌しながら、60℃に加熱して6時間以上洗浄を行った。洗浄した後、反応生成物と溶媒を分離するために、1.5×104rpmで約60分間遠心分離を行った。遠心分離後、上澄のNaOH水溶液を除去して純水30ミリリットルを加え、超音波処理によりダイヤモンド微粒子を分散させる中和処理を行った。この中和処理は、ダイヤモンド微粒子を含む溶液が中性になるまで数回繰り返し行った。
こうして作製されたアニオン性官能基導入ダイヤモンド微粒子を純水100ミリリットルに分散させて、1重量%のダイヤモンド微粒子分散液を得た。得られた分散液のpHは6.8、平均粒径は約12nm、最大粒径は約30nmであった。分散液を顕微鏡で観察した結果、ダイヤモンド微粒子の凝集塊は観察されなかった。
作製されたアニオン性官能基導入ダイヤモンド微粒子についてFT−IRスペクトル測定を行った。その測定結果をみると、1750cm-1、1630cm-1及び1390cm-1 付近に原料のダイヤモンド微粒子にはない新しい吸収が認められ、ダイヤモンド微粒子の表面に対するCOOH基の導入が確認できた。
作製されたアニオン性官能基導入ダイヤモンド微粒子を純水中に1g/リットルの濃度で分散させ、超音波処理により十分に分散させた後、カチオン性界面活性剤(ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)を1.0g/リットルの濃度となるように添加し、さらに超音波処理により十分に分散させた。
得られたダイヤモンド微粒子及び界面活性剤が均一に分散した分散液を金属めっき液に添加し、下記の組成の複合めっき液を調製した。
<複合めっき液の組成>
・硫酸ニッケル六水和物 25g/リットル
・次亜リン酸ナトリウム一水和物 30g/リットル
・リンゴ酸 25g/リットル
・乳酸 20g/リットル
・コハク酸 5g/リットル
・ホウ砂 5g/リットル
・ダイヤモンド微粒子分散液 2g/リットル
調製した複合めっき液は、硫酸又は水酸化アンモニウム溶液を適宜添加してpH5.0に調整した。次に、複合めっき液の温度を90℃(複合めっき液の使用温度)に昇温させた。このとき、複合めっき液中のダイヤモンド微粒子は、良好な分散状態を維持しており、製造された複合めっき液は、使用温度に昇温しても安定した分散状態を保持することが確認できた。分散状態は、沈殿の有無及び複合めっき液の色等を目視でチェックして良好な分散状態であることを確認した。
こうした分散状態の評価は、ゼータ電位や粒度分布を測定することで定量的に評価することもできる。また、分散状態の安定度は、複合めっき液を昇温後室温に冷却した状態でゼータ電位や粒度分布を測定し、分散状態の変化を分析して定量的に評価することができる。その場合、調製した複合めっき液をゼータ電位粒度分布測定装置(例えば、べックマン・コールター株式会社製;製品名DelsaNano)により測定することで定量的な評価が可能となる。図1及び図2は、それぞれ複合めっき液のゼータ電位及び粒度分布の測定結果の一例を示すグラフである。処理前(昇温した状態で測定)及び処理後(室温に冷却した状態で測定)の測定結果の間に大きな変化はみられず、安定した分散状態が実現していることがわかる。
複合めっき液を用いて試験片(材料;ステンレス鋼(SUS304))に複合めっき処理を行った。複合めっき処理した試験片に対して、複合めっき膜の外観及びダイヤモンド微粒子の共析量について評価を行った。試験片の外観は均一なニッケル光沢色が表出しており、ダイヤモンド微粒子の共析量は約10重量%であった。
図3は、形成された複合めっき膜の断面を撮影したSEMの拡大写真である。図3に示す拡大写真を観察した結果、複合めっき膜中のダイヤモンド微粒子は平均粒径が約20nmのサイズで均一に分散共析していることが確認できた。
(実施例2)
<PEG導入ダイヤモンド微粒子の作製>
試験管に、実施例1と同様のダイヤモンド微粒子を0.05g、PEGマクロアゾ開始剤として和光純薬工業株式会社製の「VPE−0201」を2.0g加えた。さらに、反応触媒として、o−ジクロロベンゼンを15ミリリットル加え、マグネティックスターラーで撹拌しながら、窒素雰囲気下で70℃に加熱して反応させた。
反応後、試験管にメタノールを加えて反応を停止させ、洗浄溶媒としてメタノールを用いて、生成物の洗浄を行った。また、非グラフトPEGを取り除くため、生成物をメタノール中へ分散させ、約5分間超音波洗浄を行い、その後1.5×104rpmで約30分遠心分離を行って、非グラフトPEGが溶解している上澄み液を除去した。この操作を3回繰り返して、非グラフトPEGを除去した。その後、沈殿物を減圧下で50℃に加熱して十分乾燥させた。
生成物に対してFI−IRスペクトル測定を行った。その結果、1110cm-1、1700cm-1及び2950cm-1付近にPEG鎖に由来するエーテル結合の特性を示す吸収が認められ、ダイヤモンド微粒子の表面にPEG鎖がグラフト重合により導入されたことが確認できた。また、エステル結合に由来する吸収も認められた。これらの測定結果をみると、ダイヤモンド微粒子の表面に導入されたCOOH基とPEGの末端の水酸基との縮合反応が進行し、PEGはエステル結合を介してダイヤモンド微粒子の表面にグラフト重合して導入されたことを示唆している。
作製したPEG導入ダイヤモンド微粒子を純水中で1g/リットルの濃度で分散させ、超音波処理により十分に分散させた後、非イオン性界面活性剤(ポリエチレングリコールモノ−4−オクチルフェニルエーテル)を1.0g/リットルの濃度となるように添加し、さらに超音波処理により十分に分散させた。
得られたダイヤモンド微粒子及び界面活性剤が均一に分散した分散液を金属めっき液に添加し、下記の組成の複合めっき液を調製した。
<複合めっき液の組成>
・硫酸ニッケル六水和物 25g/リットル
・次亜リン酸ナトリウム一水和物 30g/リットル
・リンゴ酸 25g/リットル
・乳酸 20g/リットル
・コハク酸 5g/リットル
・ホウ砂 5g/リットル
・ダイヤモンド微粒子分散液 0.1g/リットル
調製した複合めっき液は、硫酸又は水酸化アンモニウム溶液を適宜添加してpHを5.0に調整した。次に、複合めっき液の温度を90℃(複合めっき液の使用温度)に昇温させた。このとき、複合めっき液中のダイヤモンド微粒子は、良好な分散状態を維持しており、製造された複合めっき液は、使用温度に昇温しても安定した分散状態を保持することが確認できた。なお、分散状態については、実施例1と同様に目視により確認した。
複合めっき液を用いて試験片(材料;ステンレス鋼(SUS304))に複合めっき処理を行った。複合めっき処理した試験片に対して、複合めっき膜の外観及びダイヤモンド微粒子の共析量について評価を行った。試験片の外観は均一なニッケル光沢色が表出しており、ダイヤモンド微粒子の共析量は約1重量%であった。
図4は、形成された複合めっき膜の断面を撮影したSEMの拡大写真である。図4に示す拡大写真を観察した結果、複合めっき膜中のダイヤモンド微粒子は平均粒径が約100nmのサイズで均一に分散共析していることが確認できた。

Claims (8)

  1. アゾ系ラジカル開始剤と水系溶媒中で反応させてアニオン性官能基が導入されたダイヤモンド微粒子をカチオン性界面活性剤とともに分散させてpH3〜8の範囲に調整した分散液を作製し、作製された分散液を金属めっき液に添加してpH3〜5の範囲に調整し、ダイヤモンド微粒子を安定して分散させた複合めっき液を製造することを特徴とする複合めっき液の製造方法。
  2. 前記ダイヤモンド微粒子の平均粒径が1nm〜1000nmであることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記界面活性剤は、分子量が30,000〜200,000である単独重合体又は共重合体の界面活性剤であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 前記金属めっき液は、ニッケルイオン、コバルトイオン、銅イオン、金イオン、鉄イオン、パラジウムイオン、白金イオン、スズイオン及びロジウムイオンよりなる群から選ばれた1種又は2種以上の金属イオンを含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 請求項1から4のいずれかに記載された製造方法により製造されたことを特徴とする複合めっき液。
  6. 前記ダイヤモンド微粒子の濃度が0.1g/リットル〜20g/リットルであることを特徴とする請求項5に記載の複合めっき液。
  7. 請求項1から4のいずれかに記載の製造方法により製造された複合めっき液を用いて基材表面にめっき処理を行うことにより、前記ダイヤモンド微粒子を金属マトリックス中に均一に分散させた複合めっき膜を形成することを特徴とする複合めっき方法。
  8. 請求項7に記載の複合めっき方法により形成された複合めっき膜。
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