JP6618311B2 - ナノダイヤモンド含有メッキ膜およびナノダイヤモンド含有メッキ物 - Google Patents

ナノダイヤモンド含有メッキ膜およびナノダイヤモンド含有メッキ物 Download PDF

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Description

本発明は、ナノダイヤモンド粒子を含有する複合メッキ膜、および、そのような複合メッキ膜が形成されたメッキ物に関する。
部品や構造体の表面改質手段として複合メッキ膜が利用されることがある。複合メッキ膜は、金属マトリックス中に微粒子の分散するメッキ膜であり、表面改質対象である部品等の表面において微粒子を取り込みつつ金属系材料が析出するように膜体を成長させることによって、形成され得る。複合メッキ膜には、その母材たる金属の物性と分散微粒子の物性とが複合化した特性の発現が期待されることとなる。このような複合メッキ膜に関する技術については、例えば下記の特許文献1〜3に記載されている。
一方、近年、ナノダイヤモンドと呼称される微粒子状のダイヤモンド材料の開発が進められている。ナノダイヤモンドについては、用途によっては、粒径が10nm以下のいわゆる一桁ナノダイヤモンドが求められる場合がある。
特開2012−135921号公報 特開2013−099920号公報 特開2014−152908号公報
一次粒子の粒径が10nm以下であるナノダイヤモンドは、バルクダイヤモンドがそうであるように高い機械的強度を示し得る。微粒子たるナノ粒子は、一般に、表面原子(配位的に不飽和である)の割合が大きいので、隣接粒子の表面原子間で作用し得るファンデルワールス力の総和が大きくて凝集(aggregation)しやすい。これに加えて、ナノダイヤモンド粒子の場合、隣接結晶子の結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成する凝着(agglutination)という現象が生じ得る。ナノダイヤモンドは、このように結晶子ないし一次粒子の間が重畳的に相互作用し得る特異な性質を有するところ、当該ナノダイヤモンドの一次粒子が所定の材料中に分散した状態を創出することには技術的困難を伴う。ナノダイヤモンドは、例えば爆轟法によって得られる生成物にて先ずは、一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとり、二次粒子から一次粒子への解砕や、一次粒子を所望の材料中に分散させることに、技術的困難を伴うのである。
本発明は、以上のような事情のもとで考え出されたものであり、高硬度を実現しつつ高い耐摩耗性を実現するのに適したナノダイヤモンド含有メッキ膜、および、そのようなナノダイヤモンド含有メッキ膜が形成されたメッキ物を提供することを、目的とする。
本発明の第1の側面によると、ナノダイヤモンド含有メッキ膜が提供される。このナノダイヤモンド含有メッキ膜は、金属マトリックスと、金属マトリックス中に分散しているナノダイヤモンド一次粒子とを含む。
このような構成を有するナノダイヤモンド含有メッキ膜は、高い機械的強度を示し得るナノダイヤモンド粒子を含有するので、高硬度を実現するうえで好適である。加えて、本メッキ膜は、具体的には後記の実施例に基づいて示すように、ナノダイヤモンド非含有のメッキ膜よりも耐摩耗性が高い。耐摩耗性に関するこのような効果の一因としては、例えば、金属マトリックスと、多大な総表面積を伴ってマトリックス中で分散しているナノダイヤモンド一次粒子群との、相互作用に基づくものが考えられる。以上のように、本発明の第1の側面に係るナノダイヤモンド含有メッキ膜は、高硬度を実現しつつ高い耐摩耗性を実現するのに適するのである。メッキ膜については、熱処理によって耐摩耗性等を高める措置が採られる場合があるところ、本ナノダイヤモンド含有メッキ膜においては、熱処理を経ずとも高い耐摩耗性を得ることも可能となる。
好ましくは、ナノダイヤモンド含有メッキ膜におけるナノダイヤモンド含有量は、0.5〜3質量%である。当該ナノダイヤモンド含有量が多いほど、ナノダイヤモンド粒子の存在に起因する上述の硬度上昇効果や耐摩耗性向上効果を、より享受することができる。メッキ膜において金属マトリックスをなす金属の物性を適切に発現させるという観点からは、当該ナノダイヤモンド含有量は5質量%以下であるのが好ましい場合がある。
好ましくは、金属マトリックス中のナノダイヤモンド一次粒子は、爆轟法ナノダイヤモンド粒子(爆轟法によって生成するナノダイヤモンド粒子)である。爆轟法によると、一次粒子の粒径が10nm以下のナノダイヤモンドを適切に生じさせることが可能である。金属マトリックス中のナノダイヤモンド一次粒子は、より好ましくは空冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子(空冷式の爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子)である。空冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子は、水冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子(水冷式の爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子)よりも一次粒子が小さい傾向にあるので、当該構成は、ナノダイヤモンド一次粒子径の小さなナノダイヤモンド含有メッキ膜を実現するうえで、好適である。
好ましくは、金属マトリックスはニッケル‐リン合金である。このような構成を伴うナノダイヤモンド含有メッキ膜は、一次粒子として分散しているナノダイヤモンド粒子に加えて例えばニッケル供給源とリン供給源と錯化剤とを含有するメッキ浴を使用して行うメッキ法によって、所定の部材上に形成することができる。当該メッキ法では、メッキ浴中で一次粒子として分散しているナノダイヤモンド粒子を取り込みつつニッケル‐リン合金が析出するように部材表面に膜体を成長させることが可能なのである。本構成によると、ナノダイヤモンド含有メッキ膜において、金属マトリックスをなすニッケル‐リン合金の物性とナノダイヤモンド一次粒子の物性とが複合化した特性を、発現させることが可能である。
好ましくは、本ナノダイヤモンド含有メッキ膜は無電解メッキ膜である。このような構成を伴うナノダイヤモンド含有メッキ膜は、一次粒子として分散しているナノダイヤモンド粒子に加えて例えば金属マトリックス形成用金属イオン供給源と還元剤と錯化剤とを含有する無電解メッキ浴を使用して行う無電解メッキ法によって、所定の部材上に形成することができる。当該無電解メッキ法では、メッキ浴中で一次粒子として分散しているナノダイヤモンド粒子を取り込みつつ金属マトリックス形成用金属系材料が析出するように部材表面に膜体を成長させることが可能なのである。
本発明の第2の側面によると、ナノダイヤモンド含有メッキ物が提供される。このナノダイヤモンド含有メッキ物は、部材と、本発明の第1の側面に係る上述の複合メッキ膜であって部材上に形成されたナノダイヤモンド含有メッキ膜とを備える。このような構成のナノダイヤモンド含有メッキ物は、部材表面において、部材素地との比較のうえで、高硬度化を図りつつ耐摩耗性の向上を図るのに適する。
本発明の実施形態たるナノダイヤモンド含有メッキ膜およびナノダイヤモンド含有メッキ物の断面模式図である。 図1に示すナノダイヤモンド含有メッキ膜を形成してナノダイヤモンド含有メッキ物を作製する方法の工程図である。 実施例1における往復動摩擦摩耗試験の結果を表すグラフである。 実施例2における往復動摩擦摩耗試験の結果を表すグラフである。 実施例3における往復動摩擦摩耗試験の結果を表すグラフである。 比較例1における往復動摩擦摩耗試験の結果を表すグラフである。
図1は、本発明の実施形態たるナノダイヤモンド含有メッキ膜としてのメッキ膜10、および、本発明の他の実施形態たるナノダイヤモンド含有メッキ物としてのメッキ物20の、断面模式図である。メッキ膜10は、マトリックス11およびND粒子12を含んで表面10a(露出面)を有する。メッキ物20は、部材Xと、部材X上に形成されたメッキ膜10とを備える。
メッキ膜10のマトリックス11は、本実施形態では、ニッケル‐リン合金マトリックスである。ND粒子12は、粒径10nm以下のナノダイヤモンド一次粒子であり、且つ、マトリックス11中にて分散している。ND粒子12の粒径は、好ましくは9nm以下、より好ましくは8nm以下、より好ましくは7nm以下である。ND粒子12の粒径が小さいほど、メッキ膜10において、ND粒子12のナノ粒子としての個数密度効果を、より享受できる傾向にある。一方、ND粒子12の粒径の下限は、例えば1nmである。ナノダイヤモンド一次粒子の粒径については、例えば、小角X線散乱測定法や動的光散乱法によって測定することができる。
ND粒子12は、例えば、いわゆる爆轟法によって生成したナノダイヤモンド粒子である。ナノダイヤモンドを生成させるための爆轟法においては、例えば、容器内において爆薬を電気雷管の起爆によって爆轟させる。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を用いることができる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってナノダイヤモンドが生成する。このような爆轟法によると、一次粒子の粒径が10nm以下のナノダイヤモンドを適切に生じさせることが可能である。また、ナノダイヤモンド製造技術たる爆轟法としては、空冷式の爆轟法と水冷式の爆轟法とが知られているところ、ND粒子12は、好ましくは空冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子である。空冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子は、水冷式爆轟法ナノダイヤモンド粒子よりも一次粒子が小さい傾向にあるので、当該構成は、ナノダイヤモンド一次粒子径の小さなメッキ膜10(ナノダイヤモンド含有メッキ膜)を実現するうえで、好適である。
メッキ膜10は、ND粒子12以外の粒子を含有していてもよい。そのような粒子としては、例えば、ナノダイヤモンド一次粒子の凝集体(二次粒子)が挙げられる。メッキ膜10におけるナノダイヤモンド含有量(ND粒子12の含有量およびナノダイヤモンド二次粒子の含有量を含む)は、例えば0.5〜3質量%である。当該ナノダイヤモンド含有量が多いほど、ナノダイヤモンド粒子の存在に起因する硬度上昇効果や耐摩耗性向上効果を、より享受することができる。メッキ膜10においてニッケル‐リン合金の物性を適切に発現させるという観点からは、当該ナノダイヤモンド含有量は5質量%以下であるのが好ましい場合がある。また、メッキ膜10の厚さは、例えば1.5〜10μmである。
以上のような構成のメッキ膜10は、高い機械的強度を示し得るND粒子12を含有するので、高硬度を実現するうえで好適である。加えて、メッキ膜は、具体的には後記の実施例に基づいて示すように、表面10aの耐摩耗性が高い。耐摩耗性に関するこのような効果の一因としては、例えば、マトリックス11と、多大な総表面積を伴ってマトリックス11中で分散しているナノダイヤモンド一次粒子群との、相互作用に基づくものが考えられる。以上のように、ナノダイヤモンド含有メッキ膜たるメッキ膜10は、高硬度を実現しつつ高い耐摩耗性を実現するのに適するのである。メッキ膜については、熱処理によって耐摩耗性等を高める措置が採られる場合があるところ、メッキ膜10においては、熱処理を経ずとも高い耐摩耗性を得ることも可能となる。
また、このようなメッキ膜10を部材Xの表面に有するメッキ物20は、部材表面において、部材Xの素地との比較のうえで、高硬度化を図りつつ耐摩耗性の向上を図るのに適する。
図2は、図1に示すメッキ膜10(ナノダイヤモンド含有メッキ膜)を形成してメッキ物20(ナノダイヤモンド含有メッキ物)を作製するための方法の一例の工程図である。本方法は、前工程S1と、メッキ工程S2と、後工程S3とを含む。
前工程S1は、無電解メッキ法によるメッキ工程S2にて部材Xの表面に選択的にメッキを析出させ且つ密着性良くメッキ膜10を形成するのに適した状態とするために、メッキ工程S2でメッキ浴に浸漬されることとなる部材Xについて前処理を行うための工程であり、例えば、酸処理工程と、官能化処理工程と、触媒化処理工程とを含む。部材Xは、表面改質対象である部品や構造体であり、金属製であってもよいし、樹脂製であってもよい。
酸処理工程は、主に、部材Xの表面酸化膜の除去(特に金属製部材の場合)や部材Xの表面粗化エッチング(特に樹脂製部材の場合)のための工程である。酸処理工程では、例えば、必要に応じて行われる脱脂洗浄とその後の水洗とを経た部材Xが、酸処理用の薬液に浸漬される。酸処理用の薬液としては、例えば、塩酸や硫酸水溶液が挙げられる。塩酸を採用する場合、その塩酸の濃度は例えば5〜20質量%である。硫酸水溶液を採用する場合、その硫酸の濃度は例えば5〜10質量%である。この薬液にはフッ化水素酸を加えてもよい。また、酸処理温度は例えば室温〜50℃であり、酸処理時間は例えば1〜60分間である。このような酸処理工程の後、部材Xは水洗される。
官能化処理工程は、部材Xの表面について、無電解メッキ用の触媒が吸着しやすい状態とするための工程である。官能化処理工程では、例えば、上述の酸処理工程とその後の水洗とを経た部材Xが、官能化処理用の薬液に浸漬される。前記の触媒としてパラジウムを採用する場合、官能化処理用の薬液としては、例えば、塩化スズの塩酸溶液を用いることができる。塩化スズの塩酸溶液を採用する場合、そのスズ濃度は例えば0.1〜5質量%である。また、官能化処理温度は例えば室温〜40℃であり、官能化処理時間は例えば0.5〜10分間である。このような官能化処理工程の後、部材Xは水洗される。
触媒化処理工程は、無電解メッキ用の触媒を部材Xの表面に吸着させるための工程である。触媒化処理工程では、例えば、上述の官能化処理工程とその後の水洗とを経た部材Xが、触媒化処理用の薬液に浸漬される。触媒としてパラジウムを採用する場合、触媒化処理用の薬液としては、例えば、塩化パラジウムの塩酸溶液を用いることができる。塩化パラジウムの塩酸溶液を採用する場合、そのパラジウム濃度は例えば0.01〜1質量%である。また、触媒化処理温度は例えば室温〜40℃であり、触媒化処理時間は例えば0.5〜10分間である。このような触媒化処理工程の後、部材Xは水洗される。
前工程S1については、触媒としてパラジウムを採用する場合、上述のような官能化処理工程と触媒化処理工程を経る手法(いわゆる2液型の手法)に代えて、パラジウムとスズを含むコロイド粒子の分散する薬液を部材Xの表面に作用させて吸着させた後にスズを除去する手法(いわゆる1液型の手法)を採用してもよい。また、部材Xの表面が、選択的かつ密着性よくメッキを析出させる特性を示し得る表面、例えば新鮮なニッケル表面である場合には、上述のような官能化処理工程と触媒化処理工程を省略してもよい。
例えば以上のような前工程S1の後、メッキ工程S2が行われる。メッキ工程S2では、部材Xがメッキ浴に浸漬される。メッキ浴は、無電解ニッケル‐リン合金メッキを形成するためのメッキ浴組成に、一次粒子として分散するND粒子12が加わったものであり、一次粒子として分散するND粒子12に加えて例えばニッケル供給源とリン供給源と還元剤と錯化剤とを含有する。
メッキ浴に含有されるニッケル供給源としては、例えば、硫酸ニッケルや塩化ニッケルが挙げられる。メッキ浴におけるニッケル供給源の濃度は、メッキ浴に供給されるニッケルイオン濃度換算で、例えば0.01〜0.5mol/Lであり、好ましくは0.05〜0.2mol/Lである。
メッキ浴に含有される還元剤かつリン供給源としては、例えば、ホスフィン酸ナトリウムなどのホスフィン酸塩が挙げられる。ホスフィン酸塩を採用する場合、メッキ浴におけるホスフィン酸塩の濃度は、例えば0.02〜0.5mol/Lであり、好ましくは0.1〜0.2mol/Lである。
メッキ浴に含有される錯化剤としては、例えば、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、グリコール酸、およびこれらの塩が挙げられる。クエン酸としては、クエン酸ナトリウムやクエン酸カリウムが挙げられる。クエン酸および/またはその塩を採用する場合、メッキ浴におけるクエン酸および/またはその塩の濃度は、例えば0.02〜1.0mol/Lであり、好ましくは0.1〜0.5mol/Lである。
メッキ浴の含有するナノダイヤモンド粒子(ND粒子12)は、上述のように粒径が10nm以下のナノダイヤモンド一次粒子であり、且つ、メッキ浴中にて互いに離隔してコロイド粒子として分散している。メッキ浴におけるND粒子12の濃度は、例えば0.1〜20g/Lであり、好ましくは1〜10g/Lである。
メッキ浴は、以上の成分に加えて他の成分を含有してもよい。そのような成分としては、例えば、pH緩衝剤や、メッキ浴の自己分解抑制のための安定剤が、挙げられる。
メッキ浴の調製は、例えば、一次粒子として分散するナノダイヤモンド粒子を含有するナノダイヤモンド水分散液と、上記の他の成分を含有する水溶液とを混合し、その後に当該混合液のpHを調整することによって、行うことができる。メッキ浴のpHは例えば5〜11である。
メッキ工程S2では、以上のような組成のメッキ浴に対して酸素含有ガスをバブリングして供給しつつ且つ当該メッキ浴をマグネティックスターラー等によって撹拌しつつ、例えば上述のような前工程S1を経た部材Xがメッキ浴に浸漬される。メッキ浴中にて、部材Xの表面にはメッキ膜が成長する。具体的には、メッキ浴に一次粒子として分散しているND粒子12を取り込みつつニッケル‐リン合金が析出するように部材Xの表面に膜体が成長する。酸素含有ガスとしては空気を採用することができる。酸素含有ガスとしての空気の採用は、例えばナノダイヤモンド含有メッキ膜の製造コストの抑制の観点から好ましい。酸素含有ガスとして空気を用いる場合、メッキ工程S2にあるメッキ浴に対する空気供給量は、例えば0.05〜1.0L/分であり、好ましくは0.2〜0.5L/分である。メッキ浴の自己分解を十全に防止するという観点からは、当該空気供給量は0.05L/分以上であるのが好ましい。メッキ浴からの水の蒸散を抑制してメッキ浴組成の変化を抑制するという観点からは、当該空気供給量は1.0L/分以下であるのが好ましい。メッキ浴の撹拌のためにマグネティックスターラーを使用する場合、その撹拌速度は例えば100〜200rpmである。また、メッキ工程S2において、メッキ浴の温度は、部材Xの表面にメッキ膜を効率よく成長させるという観点から、好ましくは50〜100℃、より好ましくは65〜85℃、より好ましくは73〜75℃である。また、メッキ浴への部材Xの浸漬時間は例えば15〜120分間である。
以上のようなメッキ工程S2の後、後工程S3が行われる。後工程S3では、メッキ工程S2にてメッキ膜が表面に形成された部材Xが、水洗され、その後に乾燥される。
以上のようにして、図1に示すメッキ膜10(ナノダイヤモンド含有メッキ膜)を形成してメッキ物20(ナノダイヤモンド含有メッキ物)を作製することができる。
無電解ニッケル‐リン合金メッキ形成用の各成分に加えて分散ナノダイヤモンド一次粒子を含有するメッキ浴が使用される上記のメッキ工程S2では、ニッケル‐リン合金マトリックス(マトリックス11)とこれに分散しているナノダイヤモンド一次粒子(ND粒子12)とを含むナノダイヤモンド含有メッキ膜(メッキ膜10)が形成される。メッキ工程S2では、メッキ浴に対する酸素含有ガスの供給により、メッキ浴の自己分解を防止しつつ、メッキ浴中で一次粒子として分散しているND粒子12を取り込みつつニッケル‐リン合金が析出するように部材Xの表面に膜体を成長させることが可能なのである。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
メッキ膜形成対象の部材Xとしての銅板(純度99.9%,縦40mm×横30mm×厚さ2mm)について、脱脂洗浄とその後の水洗を行った後、前工程S1を行った。具体的には、まず、酸処理用の薬液100mlに、室温で2分間、部材Xを浸漬した(酸処理)。この酸処理用の薬液は、濃塩酸(12mol/Lの)を純水で2倍希釈して調製したものである。次に、酸処理を経た部材Xを、水洗した後、室温で1分間、官能化処理用の薬液約100mlに浸漬した(官能化処理)。この官能化処理用の薬液は、純水100mlに対して100mgの塩化スズ二水和物(SnCl2・2H2O)と100μlの濃塩酸(12mol/L)とを添加して調製したものである。次に、官能化処理を経た部材Xを、水洗した後、室温で1分間、触媒化処理用の薬液約100mlに浸漬した(触媒化処理)。この触媒化処理用の薬液は、純水100mlに対して10mgの塩化パラジウム(PdCl2)と10μlの濃塩酸(12mol/L)とを添加して調製したものである。
前工程S1を経た部材Xを水洗した後、次に、メッキ工程S2を行った。具体的には、メッキ浴100mlに対して酸素含有ガスたる空気をバブリングして供給しつつ且つ当該メッキ浴をマグネティックスターラーによって撹拌しつつ、当該メッキ浴に部材Xを浸漬した。使用したメッキ浴は、無電解ニッケル‐リン合金メッキ浴(商品名「ブルーシューマー」,日本カニゼン株式会社製)と、後述のようにして作製したナノダイヤモンド分散液Dの所定量とを用いて調製したものであって、一次粒子として分散する5g/Lのナノダイヤモンド粒子を含有し、pHが6である。また、本工程では、メッキ浴の温度を75℃とし、メッキ浴に対する空気の供給量を0.15L/分とし、メッキ浴への部材Xの浸漬時間を45分間とした。本工程にて、膜厚約6μmのメッキ膜が形成された。
次に、後工程S3を行った。具体的には、上記のメッキ膜が表面に形成された部材Xを、水洗した後、乾燥した。
以上のようにして、ニッケル‐リン合金マトリックスとこれに分散しているナノダイヤモンド一次粒子とを含むナノダイヤモンド含有メッキ膜(膜厚約6μm)を銅製部材上に形成した。このメッキ膜のナノダイヤモンド含有量は、2.8質量%であった。メッキ膜のナノダイヤモンド含有量(質量%)については、形成されたメッキ膜の乾燥質量と、当該メッキ膜を硝酸で溶解処理した溶液から遠心沈降によって得られる沈殿物(ナノダイヤモンド粒子)の乾燥質量とから、算出することができる。
〈往復動摩擦摩耗試験〉
形成されたナノダイヤモンド含有メッキ膜について、JIS H 8503(1989)に準拠し、往復動摩擦摩耗試験機(商品名「HEIDON TYPE:38」,新東科学株式会社製)を使用して下記の条件で往復動摩擦摩耗試験を行った。その結果を図3のグラフに示す。図3のグラフにおいて、縦軸は動摩擦力Fk(gf)を表し、横軸は往復動の回数を表す(図4〜6においても同様である)。
メッキ膜表面を相対的に摺動する圧子:直径10mmのSUSボール
圧子を介してのメッキ膜に対する荷重:100g
圧子からの荷重を受けた状態で往復動するメッキ膜の往復移動距離:10mm
メッキ膜の往復動の速度:100mm/分
〈ナノダイヤモンド分散液Dの作製〉
まず、ナノダイヤモンド粗生成物たる空冷式爆轟法ナノダイヤモンド煤(ナノダイヤモンド一次粒子径;4〜8nm,株式会社ダイセル製)200gに2Lの10質量%塩酸を加えて得られたスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った(ナノダイヤモンド精製のための酸処理)。この酸処理における加熱温度は85〜100℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体と煤を含む)の水洗を行った。沈殿液のpHが低pH側から2に至るまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。次に、ナノダイヤモンド精製のための酸化処理を行った。具体的には、前記デカンテーションの後の沈殿液に、2Lの60質量%硫酸水溶液と2Lの50質量%クロム酸水溶液とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で5時間の加熱処理を行った。この酸化処理における加熱温度は120〜140℃である。次に、冷却後、デカンテーションにより、固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。次に、酸化処理後のデカンテーションによって得られた沈殿液に、1Lの10質量%水酸化ナトリウム水溶液を加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この処理における加熱温度は95〜100℃である。次に、冷却後、デカンテーションによって上澄みを除いた。次に、当該デカンテーションによって得られた沈殿液に塩酸を加えてそのpHを2.5に調整した後、この沈殿液中の固形分(ナノダイヤモンド凝着体を含む)について遠心沈降法による水洗を行った。具体的には、遠心分離装置を使用して当該沈殿液ないし懸濁液について固液分離を行う操作、その後に沈殿物と上清液とを分ける操作、及び、その後に沈殿物に超純水を加えて懸濁する操作を含む一連の過程を、固形分濃度(ナノダイヤモンド濃度)を6質量%に調整したときの懸濁液の電気伝導度が64μS/cmとなるまで、反復して行った。次に、このような水洗を経たスラリー300ml(固形分濃度6質量%)を、粉砕装置ないし分散機たるビーズミル(商品名「ウルトラアペックスミルUAM−015」,寿工業株式会社製)を使用して行う解砕処理に付した。本処理では、解砕メディアとしてジルコニアビーズ(直径0.03mm)を使用し、ミル容器内に充填されるビーズの量はミル容器の容積に対して60%とし、ミル容器内で回転するローターピンの周速は10m/sとした。また、装置を循環させるスラリーの流速を10L/hとして90分間の解砕処理を行った。次に、このような解砕処理を経たスラリーから、遠心分離を利用した分級操作(20000×g,10分間)によって粗大粒子を除去した。この操作によって得られた分級液(分散するナノダイヤモンド一次粒子を含有する)の固形分濃度を測定したところ、5.8質量%であった。この分級液に超純水を加えて固形分濃度を5質量%に調整し、ナノダイヤモンドの一次粒子がコロイド粒子として分散する黒色透明のナノダイヤモンド分散液(ナノダイヤモンド分散液D)を調製した。得られたナノダイヤモンド分散液Dについて、粒径D50(メディアン径)は5.4nm、電気伝導度は1410μS/cm、pHは9.14、ナノダイヤモンド粒子のゼータ電位(25℃,ナノダイヤモンド濃度0.2質量%)は−49mVであった。
〈固形分濃度〉
ナノダイヤモンド分散液に関する上記の固形分濃度は、秤量した分散液3〜5gの当該秤量値と、当該秤量分散液から加熱によって水分を蒸発させた後に残留する乾燥物(粉体)について精密天秤によって秤量した秤量値とに基づき、算出した。
〈メディアン径〉
ナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子に関する上記の粒径D50(メディアン径)は、スペクトリス社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、動的光散乱法(非接触後方散乱法)によって測定した値である。測定に付されたナノダイヤモンド分散液は、ナノダイヤモンド濃度が0.5〜2.0質量%となるように超純水で希釈した後に、超音波洗浄機による超音波照射を経たものである。
〈ゼータ電位〉
ナノダイヤモンド分散液に含まれるナノダイヤモンド粒子に関する上記のゼータ電位は、スペクトリス社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、レーザードップラー式電気泳動法によって測定した値である。測定に付されたナノダイヤモンド分散液は、ナノダイヤモンド濃度0.2質量%への超純水による希釈を行った後に超音波洗浄機による超音波照射を経たものである。また、測定に付されたナノダイヤモンド分散液のpHは、pH試験紙(商品名「スリーバンドpH試験紙」,アズワン株式会社製)を使用して確認した値である。
〔実施例2〕
ナノダイヤモンド分散液D由来の分散ナノダイヤモンド一次粒子の濃度を5g/L(実施例1)に代えて2.5g/L(実施例2)とした以外は実施例1と同様のメッキ浴を使用したメッキ工程S2を行い、当該メッキ工程S2以外は実施例1と同様にしてナノダイヤモンド含有メッキ膜を形成した。このメッキ膜のナノダイヤモンド含有量は、2.4質量%であった。実施例2のメッキ膜について、実施例1と同様にして、往復動摩擦摩耗試験を行った。その結果を図4のグラフに示す。
〔実施例3〕
ナノダイヤモンド分散液D由来の分散ナノダイヤモンド一次粒子の濃度を5g/L(実施例1)に代えて1g/L(実施例2)とした以外は実施例1と同様のメッキ浴を使用したメッキ工程S2を行い、当該メッキ工程S2以外は実施例1と同様にしてナノダイヤモンド含有メッキ膜を形成した。このメッキ膜のナノダイヤモンド含有量は、2.1質量%であった。実施例3のメッキ膜について、実施例1と同様にして、往復動摩擦摩耗試験を行った。その結果を図5のグラフに示す。
〔実施例4〕
メッキ浴の調製のためのナノダイヤモンド一次粒子の供給材料として、ナノダイヤモンド分散液Dに代えて別のナノダイヤモンド一次粒子水分散液(商品名「Vox D」,ナノダイヤモンド濃度5質量%,粒径D50;5nm,pH9におけるゼータ電位;−55mV,エア・ブラウン株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして調製したメッキ浴(ナノダイヤモンド粒子5g/L)を使用してメッキ工程S2を行い、当該メッキ工程S2以外は実施例1と同様にしてナノダイヤモンド含有メッキ膜を形成した。このメッキ膜のナノダイヤモンド含有量は、2.3質量%であった。
〔実施例5〕
メッキ浴の調製のためのナノダイヤモンド一次粒子の供給材料として、ナノダイヤモンド分散液Dに代えて別のナノダイヤモンド一次粒子水分散液(商品名「ナノアマンド」,ナノダイヤモンド濃度5質量%,pH5,粒径D50;5nm,pH5におけるゼータ電位;+50mV,株式会社ナノ炭素研究所製)を用いた以外は実施例1と同様にして調製したメッキ浴(ナノダイヤモンド粒子5g/L)を使用してメッキ工程S2を行い、当該メッキ工程S2以外は実施例1と同様にしてナノダイヤモンド含有メッキ膜を形成した。このメッキ膜のナノダイヤモンド含有量は、2.6質量%であった。
〔比較例1〕
メッキ工程で使用したメッキ浴の組成が異なる点以外は実施例1と同様にして、無電解ニッケル‐リン合金メッキ膜を形成した。比較例1のメッキ工程で使用したメッキ浴は、ナノダイヤモンド粒子を含有せず、0.1mol/Lの硫酸ニッケルと、0.15mol/Lのホスフィン酸ナトリウムと、0.3mol/Lのクエン酸ナトリウムとを含有し、水酸化ナトリウム水溶液の添加によってpHが10.0に調整されたものである。比較例1のメッキ膜について、実施例1と同様にして、往復動摩擦摩耗試験を行った。その結果を図6のグラフに示す。
[評価]
比較例1のメッキ膜(ナノダイヤモンド非含有の無電解ニッケル‐リン合金メッキ膜)においては、往復動回数の増加に従って動摩擦力が有意に上昇した。これに対し、実施例1,2,3のナノダイヤモンド含有メッキ膜においては、比較例1のメッキ膜におけるよりも、往復動回数増加に伴う動摩擦力の上昇は抑制されていた。比較例1のナノダイヤモンド非含有の無電解ニッケル‐リン合金メッキ膜よりも実施例1,2,3のナノダイヤモンド含有メッキ膜の方が、耐摩耗性が高いと評価することができる。
X 部材
10 メッキ膜
10a 表面
11 マトリックス
12 ND粒子
20 メッキ物
S1 前工程
S2 メッキ工程
S3 後工程

Claims (4)

  1. 金属マトリックスと、
    前記金属マトリックス中に分散しているナノダイヤモンド一次粒子とを含み、
    厚さが1.5〜10μmである、ナノダイヤモンド含有メッキ膜であって、
    前記メッキ膜のナノダイヤモンド含有量が0.5〜3質量%であり、
    前記ナノダイヤモンド一次粒子は、粒径1〜7nmの爆轟法ナノダイヤモンド粒子であり、
    前記金属マトリックスはニッケル‐リン合金である、ナノダイヤモンド含有メッキ膜。
  2. 無電解メッキ膜である、請求項1に記載のナノダイヤモンド含有メッキ膜。
  3. ナノダイヤモンド含有量が1質量%を超える、請求項1または2に記載のナノダイヤモンド含有メッキ膜。
  4. 部材と、
    請求項1からのいずれか一つに記載の、前記部材上のナノダイヤモンド含有メッキ膜と、を備えるナノダイヤモンド含有メッキ物。
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