JP5429371B2 - 電力制御器の制御装置および制御方法 - Google Patents

電力制御器の制御装置および制御方法 Download PDF

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Description

この発明は、電力制御器の制御に関し、より特定的には、電力制御器のパルス幅変調(Pulse Width Modulation、以下「PWM」ともいう)制御に関する。
従来より、車両走行用のモータをインバータを用いて制御するシステムが採用されている。電気自動車やハイブリッド自動車、燃料電池自動車等の電動車両では、インバータによって走行用のモータの出力トルクを制御することが一般的である。代表的には、モータの出力トルクはPWM制御によって制御される。このPWM制御では、搬送波信号(キャリア信号)と電圧指令との電圧比較に基づいてインバータのスイッチング素子をオンオフさせることによって、パルス幅変調電圧をインバータからモータに印加させる。
このPWM制御時のスイッチング動作に起因してインバータから騒音が発生する。この問題に関し、たとえば特開平6−14557号公報(特許文献1)には、キャリア信号の周波数を、その周波数の所定周波数からの変動のパワースペクトル密度がキャリア周波数の逆関数となるように変動させ、そのキャリア信号を変調回路に与えて、インバータへの駆動信号を得るように構成する技術が開示されている。特許文献1の構成によれば、インバータが発生する騒音の不快感を減少させ、騒音を低減することができるとされている。
特開平6−14557号公報 特開2006−174645号公報
ところが、特許文献1に開示された技術では、電力制御器で生じる騒音の低減とモータで生じる損失の低減とを十分には両立させることができないおそれがある。また、キャリア周波数の変動によってモータの制御性が悪化するおそれがある。
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであって、この発明の目的は、モータの制御性を低下させることなく、電力制御器で生じる騒音の低減とモータで生じる損失の低減とを両立させることである。
この発明に係る制御装置は、モータと電源との間で授受される電力を制御する電力制御器の制御する。電力制御器は、少なくとも1つのスイッチング素子を含み、スイッチング素子のオンオフによって電力を変換する。制御装置は、キャリア信号と制御指令との比較に基づいてスイッチング素子のオンオフを制御する第1制御部と、キャリア信号の周波数を制御する第2制御部とを備える。第2制御部は、モータの動作状態に応じて周波数範囲を設定し、周波数範囲内でキャリア信号の周波数を変動させる。
好ましくは、第2制御部は、モータの回転速度に基づいて、モータの制御性を確保するために必要なスイッチング素子のスイッチング周波数の下限値を設定する。周波数範囲に含まれるキャリア信号の周波数は、下限値よりも大きい。
好ましくは、第2制御部は、モータの回転速度が所定速度よりも低い領域では下限値を略零に設定し、モータの回転速度が所定速度を超える領域ではモータの回転速度が高いほど下限値を大きい値に設定する。
好ましくは、第2制御部は、下限値を設定することに加えて、モータの回転速度およびトルクに応じて基準周波数を算出して基準周波数含む基準範囲を設定する。周波数範囲は、基準範囲に含まれる範囲でかつ下限値よりも大きい範囲である。
好ましくは、制御装置は、電力制御器の出力と制御目標との偏差に基づくフィードバック制御によって制御指令を生成する指令生成部をさらに備える。指令生成部は、キャリア信号の周波数の変動に応じてフィードバック制御に用いるフィードバック係数を補正し、補正されたフィードバック係数を用いたフィードバック制御によって制御指令を生成する。
好ましくは、指令生成部は、モータの回転速度およびトルクに応じた基準周波数とキャリア信号の周波数との比に応じてフィードバック係数を補正する。
好ましくは、制御装置は、各々が複数個の値を配列した複数の配列データを記憶する記憶部をさらに備える。第2制御部は、複数の配列データの各々から1個づつ値を任意に読み出し、複数の配列データのそれぞれから読み出した複数の値の積を用いてキャリア信号の周波数を変動させる。
好ましくは、電力制御器は、電源の電力をモータを駆動可能な電力に変換するインバータである。
この発明の別の局面に係る制御方法は、モータと電源との間で授受される電力を制御する電力制御器の制御装置が行なう制御方法である。電力制御器は、少なくとも1つのスイッチング素子を含み、スイッチング素子のオンオフによって電力を変換する。制御方法は、キャリア信号と制御指令との比較に基づいてスイッチング素子のオンオフを制御するステップと、キャリア信号の周波数を制御するステップとを含む。周波数を制御するステップは、モータの動作状態に応じて周波数範囲を設定し、周波数範囲内でキャリア信号の周波数を変動させるステップを含む。
本発明によれば、モータの制御性を低下させることなく、電力制御器の騒音低減とモータの損失低減とを両立させることができる。
モータ駆動制御システムの全体構成図である。 キャリア信号とパルス幅変調電圧の波形図である。 制御装置の機能ブロック図である。 モータのトルクTおよび回転速度Nと基準周波数fsとの関係を示すマップである。 ランダム周波数frの算出手法を示す図である。 ランダム周波数frの変動幅Wと騒音の音圧Pとの関係を示す図である。 制御限界ラインL1,L2および補正後のランダム周波数frの範囲を示す図である。 積分ゲインKiの補正手法を示す図である。 制御装置の処理手順を示すフローチャートである。
以下に、本発明の実施例について図面を参照して詳細に説明する。なお以下図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則的に繰返さないものとする。
図1は、本発明の実施例に従うインバータの制御装置が適用されるモータ駆動制御システムの全体構成図である。なお、本実施例では、制御装置によるPWM制御の対象をインバータとする場合について説明するが、その本発明の制御対象は、インバータに限定されるものではなく、PWM制御によって制御可能な電力制御器全般(たとえば電圧変換器)に適用可能である。
図1を参照して、モータ駆動制御システム100は、直流電圧発生部10♯と、平滑コンデンサC0と、インバータ14と、モータM1と、制御装置30とを備える。
モータM1は、電動車両(ハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池車等の電気エネルギによって車両駆動力を発生する自動車をいうものとする)の駆動輪を駆動するためのトルクを発生するための交流電動機である。代表的には、モータM1は、3相(U,V,W相)の3つのコイルを備えた永久磁石型同期電動機である。モータM1は、発電機の機能を持つように構成されてもよい。
直流電圧発生部10♯は、直流電源Bと、システムリレーSR1,SR2と、平滑コンデンサC1と、コンバータ12とを含む。
直流電源Bは、代表的には、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電装置により構成される。直流電源Bが出力する直流電圧Vbおよび入出力される直流電流Ibは、電圧センサ10および電流センサ11によってそれぞれ検出される。
システムリレーSR1は、直流電源Bの正極端子および電力線6の間に接続され、システムリレーSR1は、直流電源Bの負極端子およびアース線5の間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、制御装置30からの信号SEによりオン/オフされる。
コンバータ12は、リアクトルLA1と、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。スイッチング素子Q1およびQ2は、電力線7およびアース線5の間に直列に接続される。リアクトルLA1は、スイッチング素子Q1およびQ2の接続ノードと電力線6の間に接続される。また、平滑コンデンサC0は、電力線7およびアース線5の間に接続される。
コンバータ12は、基本的には、各スイッチング周期内でスイッチング素子Q1およびQ2が相補的かつ交互にオンオフするように制御される。コンバータ12は、昇圧動作時には、直流電源Bが出力する直流電圧Vbを直流電圧VHへ昇圧する。また、コンバータ12は、降圧動作時には、直流電圧VHを直流電圧Vbに降圧する。スイッチング素子Q1およびQ2のオンオフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S1およびS2によって制御される。
平滑コンデンサC0は、コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ14へ供給する。電圧センサ13は、平滑コンデンサC0の両端の電圧、すなわち、直流電圧VHを検出し、その検出値を制御装置30へ出力する。
インバータ14は、電力線7およびアース線5の間に並列に設けられる、U相上下アーム15と、V相上下アーム16と、W相上下アーム17とから成る。各相上下アームは、電力線7およびアース線5の間に直列接続されたスイッチング素子から構成される。たとえば、U相上下アーム15は、スイッチング素子Q3,Q4から成り、V相上下アーム16は、スイッチング素子Q5,Q6から成り、W相上下アーム17は、スイッチング素子Q7,Q8から成る。また、スイッチング素子Q3〜Q8に対して、ダイオードD3〜D8がそれぞれ逆並列に接続されている。各相上下アーム15〜17のスイッチング素子の中間点には、モータM1の各相コイルの他端が接続される。スイッチング素子Q3〜Q8のオンオフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S3〜S8によって制御される。
インバータ14は、モータM1のトルク指令値Trqcomが正の場合には、平滑コンデンサC0から直流電圧が供給されると制御装置30からのスイッチング制御信号S3〜S8に応答した、スイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作により直流電圧を交流電圧に変換して正のトルクを出力するようにモータM1を駆動する。また、インバータ14は、トルク指令値Trqcomが零の場合には、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換してトルクが零になるようにモータM1を駆動する。これにより、モータM1は、トルク指令値Trqcomによって指定された零または正のトルクを発生するように駆動される。
さらに、モータ駆動制御システム100が搭載された電動車両の回生制動時には、トルク指令値Trqcomは負に設定される(Trqcom<0)。この場合には、インバータ14は、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作により、モータM1が発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧を平滑コンデンサC0を介してコンバータ12へ供給する。
電流センサ24は、モータM1に流れる電流を検出し、その検出したモータ電流を制御装置30へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように電流センサ24は2相分のモータ電流(たとえば、V相電流ivおよびW相電流iw)を検出するように配置すれば足りる。
回転角センサ(レゾルバ)25は、モータM1のロータ回転角θを検出し、その検出した回転角θを制御装置30へ送出する。制御装置30では、回転角θに基づきモータM1の回転速度を算出できる。
制御装置30は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを内蔵した電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)により構成され、当該メモリに記憶された情報およびプログラムに基づいて所定の演算処理を実行することによって、モータ駆動制御システム100の動作を制御する。
代表的な機能として、制御装置30は、トルク指令値Trqcomおよび各センサの検出結果に基づいて、モータM1がトルク指令値Trqcomに従ったトルクを出力するように、コンバータ12およびインバータ14の動作を制御する。すなわち、コンバータ12およびインバータ14を上記のように制御するためのスイッチング制御信号S1〜S8を生成して、コンバータ12およびインバータ14へ出力する。
コンバータ12の昇圧動作時には、制御装置30は、直流電圧VHをフィードバック制御し、直流電圧VHが電圧指令値に一致するようにスイッチング制御信号S1,S2を生成する。
また、制御装置30は、電動車両が回生制動モードに入ったことを示す信号RGEを外部ECUから受けると、モータM1で発電された交流電圧を直流電圧に変換するようにスイッチング制御信号S3〜S8を生成してインバータ14へ出力する。これにより、インバータ14は、モータM1で発電された交流電圧を直流電圧に変換してコンバータ12へ供給する。
さらに、制御装置30は、電動車両が回生制動モードに入ったことを示す信号RGEを外部ECUから受けると、インバータ14から供給された直流電圧を降圧するようにスイッチング制御信号S1,S2を生成し、コンバータ12へ出力する。これにより、モータM1が発電した交流電圧は、直流電圧に変換され、降圧されて直流電源Bに供給される。
次に、図2を参照して、インバータ14のPWM制御について説明する。図2に示すように、PWM制御では、キャリア信号CRと相電圧指令170との電圧比較に基づきインバータ14の各相のスイッチング素子のオンオフを制御することによって、疑似正弦波電圧としてのパルス幅変調電圧180をモータM1の各相に印加させる。したがって、各スイッチング素子の単位時間あたりのスイッチング動作の回数(以下、「スイッチング周波数」ともいう)は、キャリア信号CRの周波数(以下、「キャリア周波数f」ともいう)に依存する。なお、キャリア信号CRは、三角波やのこぎり波によって構成することができる。図2では、三角波を例示する。
このPWM制御時のスイッチング動作に起因して、インバータ14において騒音と損失(スイッチング損失)とが発生する。キャリア周波数f(すなわちスイッチング周波数)が高いと、騒音は小さいが損失は大きい。一方、キャリア周波数fが低いと、損失は小さいが騒音は大きい。エネルギ効率の観点からはキャリア周波数fを損失の少ない低い値に設定することが望ましいが、騒音が増加するという問題がある。
このような問題に鑑み、本実施例に従う制御装置30は、モータM1の動作状態に応じた範囲を設定し、その範囲内でキャリア周波数fを任意に変動(分散)させることによって、モータM1の制御性を低下させることなく、PWM制御時の損失低減と騒音低減とを両立させる。
図3は、PWM制御に関する部分の制御装置30の機能ブロック図である。図3に示した各機能ブロックは、電子回路等によるハードウェア処理によって実現してもよいし、プログラムの実行等によるソフトウェア処理によって実現してもよい。
PWM制御部200は、電流指令生成部210と、座標変換部220,250と、電圧指令生成部240と、PWM変調部260と、キャリア制御部270と、記憶部280とを含む。
電流指令生成部210は、予め作成されたマップ等に従って、トルク指令値Trqcomに応じて、d軸電流目標値Idreqおよびq軸電流目標値Iqreqを生成する。
座標変換部220は、回転角センサ25によって検出されるモータM1の回転角θを用いた座標変換(3相→2相)により、電流センサ24によって検出されたv相電流ivおよびW相電流iwを基に、d軸電流Idおよびq軸電流Iqを算出する。
電圧指令生成部240には、d軸電流目標値Idreqとd軸電流Idとの偏差ΔId(ΔId=Idreq−Id)およびq軸電流目標値Iqreqとq軸電流Iqとの偏差ΔIq(ΔIq=Iqreq−Iq)が入力される。
電圧指令生成部240は、d軸電流偏差ΔIdおよびq軸電流偏差ΔIqのそれぞれについて、比例ゲインKpおよび積分ゲインKiを用いたPI(比例積分)演算を行なって制御偏差を求め、この制御偏差に応じてd軸電圧指令値Vd♯およびq軸電圧指令値Vq♯を生成する。積分ゲインKiは、d軸電流目標値Idreqに対するd軸電流Idの追従性および制御性、q軸電流目標値Iqreqに対するq軸電流Iqの追従性および制御性を調整するためのフィードバック係数である。積分ゲインKiが大きいほど、PI制御における積分動作の寄与が大きくなるため、制御偏差を迅速に小さくすることができる。電圧指令生成部240は、キャリア周波数fに応じて積分ゲインKiを補正する処理を行なう。積分ゲインKiの補正処理については後述する。
座標変換部250は、モータM1の回転角θを用いた座標変換(2相→3相)によって、d軸電圧指令値Vd♯およびq軸電圧指令値Vq♯をU相、V相、W相の各相電圧指令Vu,Vv,Vwに変換する。
キャリア制御部270は、キャリア周波数fを設定し、設定したキャリア周波数fに従ってキャリア信号CRを生成してPWM変調部260に出力する。この際、キャリア制御部270は、モータM1の動作状態に応じた範囲を設定し、その範囲内でキャリア周波数fをランダムに変動(分散)させる。なお、以下の説明では、キャリア周波数fをランダムに変動させることを「ランダム変調」とも記載する。
記憶部280は、後述する2つのデータテーブル(第1テーブル、第2テーブル)を記憶する。2つのデータテーブルの詳細については後述する。
以下、キャリア制御部270によるキャリア周波数fの設定手法について説明する。
まず、キャリア制御部270は、モータM1のトルクTおよび回転速度Nに基づいて、基準周波数fsを算出する。
図4は、モータM1のトルクTおよび回転速度Nと基準周波数fsとの関係を示すマップである。図4に示す回転速度N1,N2、トルクT1,T2,Tmax、上限トルクラインは、実験等により予め定められている。なお、モータM1のトルクTと回転速度Nとの交点(以下、「モータ動作点」という)は、上限トルクラインを超えない範囲で制御される。
キャリア制御部270は、モータ動作点が、図4の示す4つの領域、すなわちN<N1かつT>T1の領域A1、N1<N<N2かつT>T2の領域A2、0<N<N1かつT<T1の領域とN1<N<N2かつT<T2の領域とを合わせた領域A3、N<N2の領域A4、のいずれの領域に含まれるかによって基準周波数fsを切り替える。具体的には、キャリア制御部270は、モータ動作点が領域A1,A2,A3,A4に含まれる場合、それぞれ基準周波数fsを所定値fs1,fs2,fs3,fs4に設定する。
なお、領域A1〜A4の個数および各範囲、所定値fs1〜fs4の個数および各値は、モータM1の制御性や過熱防止などの観点から予め設定される。本実施例では、所定値fs1〜fs4が、fs1<fs2<fs3<fs4の関係が成立するように設定される。たとえば、所定値fs1,fs2,fs3,fs4を、それぞれ0.75kHz,2.5kHz,3.75kHz,5kHz程度に設定すればよい。このように、本実施例では、基準周波数fsは、所定値fs1(0.75kHz程度)の低周波数領域から所定値fs4(5kHz程度)の高周波数領域までの広い領域内で変動する。
次に、キャリア制御部270は、基準周波数fsを基準として、ランダム変調に用いるランダム周波数frを算出する。
図5は、ランダム周波数frの算出手法を示す図である。記憶部280には、図5に示す2つのデータテーブル(第1テーブル、第2テーブル)が予め記憶されている。第1テーブル、第2テーブルには、それぞれ係数α1,α2の複数の値が配列されている。キャリア制御部270は、所定周期毎に、メモリに記憶された第1、第2テーブルからそれぞれ係数α1,α2の値をランダムに読み出し、係数α1と係数α2との積をランダム係数αとして算出する。このように、2つのデータテーブルの配列を用いて係数α1,α2の組合せをずらしながら係数α1,α2を掛け合わせた値をランダム係数αとすることによって、ランダム係数αを1つのデータテーブルに記憶しておく場合に比べて、少ないデータ数でより多くのランダム係数αを得ることができる。たとえば、図5に示すように、第1、第2テーブルにそれぞれ64個の係数α1,α2を配列した場合、合計128(=64+64)個のデータ数で、4096(=64×64)通りのランダム係数αを算出することができる。したがって、少ないメモリ容量で、ランダム係数αの数値パターンを極めて長周期の数値パターンにすることができる。なお、データテーブルの数は3つ以上であってもよい。
第1、第2テーブルにそれぞれ配列される係数α1,α2の値は、ランダム係数α(α1とα2の積)の最小値と最大値との差が「1」となるように(たとえばα1とα2の積の最小値がマイナス0.5となり、最大値がプラス0.5となるように)予め設定される。
そして、キャリア制御部270は、所定幅W1にランダム係数αを乗じた値を基準周波数fsに加えた値を、ランダム周波数frとして算出する。これにより、ランダム周波数frを、基準周波数fsを基準として、上限周波数(所定幅W1とランダム係数αの最大値との積を基準周波数fsに加えた値)と下限周波数(所定幅W1とランダム係数αの最小値との積を基準周波数fsに加えた値)との間の範囲で、ランダムに変動させることができる。
図6は、ランダム周波数frの変動幅Wと、インバータ14で生じる騒音の音圧Pとの関係を示す図である。なお、図3において、変動幅Wが「0」とは、キャリア周波数fが変動せずに基準周波数fsに固定されていることを意味する。図3に示すように、変動幅Wが大きいほど、音圧Pは小さくなる。制御装置30は、この関係を利用し、高周波スペクトルを分散し特定の高調波成分を発生させないようにして低騒音化を実現する。すなわち、制御装置30は、基準周波数fsを基準としてキャリア周波数fを所定幅W1でランダムに変動させることで、特定の高調波成分を発生させないようにして、騒音の音圧Pを、基準周波数fsを固定した場合の音圧よりも低い所定圧P1に減少させる。このようにキャリア周波数fをランダムに変動させることで低騒音化が図られる。そのため、キャリア周波数f(基準周波数fs)をスイッチング損失の少ない低周波数領域に設定することが可能となる。
次に、キャリア制御部270は、モータM1の回転速度Nに基づいて制御限界ラインL1,L2を算出する。ここで、制御限界ラインL1とは、モータM1の回転速度Nに対してモータM1の制御性を確保するために必要なスイッチング周波数の下限値である。制御限界ラインL2とは、モータM1の回転速度Nに対してインバータ14のスイッチング動作による過熱を防止可能なスイッチング周波数の上限値である。キャリア制御部270は、ランダム周波数frが制御限界ラインL1よりも低い場合または制御限界ラインL2よりも高い場合、ランダム周波数frを制御限界ラインL1よりも高くかつ制御限界ラインL2よりも低い範囲に含まれる値に補正する。
図7は、制御限界ラインL1,L2および補正後のランダム周波数frの範囲を示す図である。制御限界ラインL1は、回転速度Nが所定速度よりも低い領域では零に設定され、回転速度Nが所定速度を超える領域では回転速度Nが高いほど大きい値に設定される。また、制御限界ラインL2は、回転速度Nが高いほど小さい値に設定される。
補正前のランダム周波数frは、基準周波数fsを基準として上限周波数と下限周波数との間の所定幅W1の範囲内で分散される。これに対し、補正後のランダム周波数frは、さらに制御限界ラインL1よりも高くかつ制御限界ラインL2よりも低い範囲(図7の斜線部分の範囲)に含まれるように調整される。
図3に戻って、キャリア制御部270は、キャリア周波数fが補正後のランダム周波数frに設定されたキャリア信号CRを生成し、PWM変調部260に出力する。
PWM変調部260は、キャリア信号CRと座標変換部250からの各相電圧指令Vu,Vv,Vw(図2の相電圧指令170に相当)との電圧比較に従って、インバータ14のスイッチング制御信号S3〜S8を生成する。スイッチング制御信号S3〜S8に従って、インバータ14の各相上下アーム素子のオンオフを制御することによって、モータM1の各相に、図2のパルス幅変調電圧180に相当する疑似正弦波電圧が印加される。
さらに、電圧指令生成部240は、キャリア周波数fがランダム周波数frに設定されたことに応じて、ランダム周波数frに応じた電圧指令値Vd♯,Vq♯を算出する。具体的には、電圧指令生成部240は、ランダム周波数frに応じて上述した積分ゲインKiを補正する。
図8は、積分ゲインKiの補正手法を示す図である。補正前の積分ゲインKiは、基準周波数fsに対応した値に設定されている。そのため、キャリア周波数fがランダム周波数frに設定されると、基準周波数fsとランダム周波数frとの間にずれが生じ、フィードバック制御の追従性、制御性(電流目標値Idreq,Iqreqに対する電流Id,Iqの追従性、制御性)が低下するおそれがある。そこで、電圧指令生成部240は、基準周波数fsに対するランダム周波数frの比(=fr/fs)を求め、この比と補正前の積分ゲインKiとの積を補正後の積分ゲインKiとする。これにより、ランダム周波数frに応じた電圧指令値Vd♯,Vq♯を算出することができるので、ランダム変調制御時においても、フィードバック制御の追従性、制御性を確保することができる。たとえば基準周波数fsに対してランダム周波数frが大きい場合には、積分ゲインKiが大きくなり、PI制御におけるI制御(積分動作)の寄与が大きくなるため、制御偏差を迅速に小さくすることができる。
図9は、上述のPWM制御におけるランダム変調の機能を実現するための制御装置30の処理手順を示すフローチャートである。以下に示すフローチャートの各ステップ(以下、ステップを「S」と略す)は、上述したようにハードウェア処理によって実現してもよいしソフトウェア処理によって実現してもよい。
S10にて、制御装置30は、上述した手法で基準周波数fsを算出する。S11にて、制御装置30は、上述した手法でランダム係数αを算出する。
S12にて、制御装置30は、所定幅W1にランダム係数αを乗じた値を基準周波数fsに加えた値をランダム周波数frとして算出する。
S13にて、制御装置30は、モータM1の回転速度Nに基づいて、上述した制御限界ラインL1,L2を算出する。
S14にて、制御装置30は、ランダム周波数frが制御限界ラインL1よりも高くかつ制御限界ラインL2よりも低い範囲に含まれるか否かを判断する。ランダム周波数frが制御限界ラインL1よりも高くかつ制御限界ラインL2よりも低い範囲に含まれる場合(S14にてYES)、処理はS16に移される。そうでない場合(S14にてNO)、処理はS15に移される。
S15にて、制御装置30は、ランダム周波数frが制御限界ラインL1よりも高くかつ制御限界ラインL2よりも低い範囲に含まれるように、ランダム周波数frを補正する。
S16にて、制御装置30は、ランダム周波数frをキャリア周波数fとするキャリア信号CRを生成する。
S17にて、制御装置30は、ランダム周波数frに応じた電圧指令値Vd♯,Vq♯を算出する。すなわち、上述したように、制御装置30は、基準周波数fsに対するランダム周波数frの比に応じて電圧指令値Vd♯,Vq♯のフィードバック制御(PI制御)に用いる積分ゲインKiを補正する。
S18にて、制御装置30は、電圧指令値Vd♯,Vq♯を変換した各相電圧指令Vu,Vv,Vwとキャリア信号CRとの電圧比較に従って、インバータ14のスイッチング制御信号S3〜S8を生成し、インバータ14に出力する。
以上のように、本実施例に係る制御装置30は、モータM1の動作状態に応じた周波数範囲を設定し、その周波数範囲内でキャリア周波数fをランダムに変動させることにより、モータM1の制御性を低下させることなく、高周波スペクトルを分散し特定の高調波成分を発生させないようにして低騒音化を実現する。そのため、騒音の問題から使用できなかった低周波数領域を含めたキャリア周波数fの全周波数領域において、モータM1の制御性を低下させることなく、PWM制御時の損失低減(エネルギ効率向上)と騒音低減とを両立させることが可能となる。
今回開示された実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
5 アース線、6,7 電力線、10 電圧センサ、10♯ 直流電圧発生部、11,24 電流センサ、12 コンバータ、13 電圧センサ、14 インバータ、15,16,17 上下アーム、25 回転角センサ、30 制御装置、100 モータ駆動制御システム、170 電圧指令、180 パルス幅変調電圧、200 PWM制御部、210 電流指令生成部、220,250 座標変換部、240 電圧指令生成部、260 PWM変調部、270 キャリア制御部、280 記憶部、B 直流電源、C0,C1 平滑コンデンサ、CR キャリア信号、D1〜D8 ダイオード、L1,L2 制御限界ライン、LA1 リアクトル、M1 モータ、Q1〜Q8 スイッチング素子、SR1,SR2 システムリレー。

Claims (9)

  1. モータ(M1)と電源(B)との間で授受される電力を制御する電力制御器(14)の制御装置であって、
    前記電力制御器は、少なくとも1つのスイッチング素子(Q3〜Q8)を含み、前記スイッチング素子のオンオフによって電力を変換し、
    前記制御装置は、
    キャリア信号(CR)と制御指令(170)との比較に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを制御する第1制御部(260)と、
    前記キャリア信号の周波数を制御する第2制御部(270)とを備え、
    前記第2制御部は、前記モータの回転速度に応じて周波数範囲を設定し、前記周波数範囲内で前記キャリア信号の周波数を変動させ、
    前記周波数範囲の下限値は、前記モータの回転速度が高いほど大きい値に設定される、電力制御器の制御装置。
  2. 前記下限値は、前記モータの制御性を確保するために必要な前記スイッチング素子のスイッチング周波数である、請求の範囲第1項に記載の電力制御器の制御装置。
  3. 前記下限値は、前記モータの回転速度が所定速度よりも低い領域では略零に設定され、前記モータの回転速度が前記所定速度を超える領域では前記モータの回転速度が高いほど大きい値に設定される、請求の範囲第2項に記載の電力制御器の制御装置。
  4. 前記第2制御部は、前記下限値を設定することに加えて、前記モータの回転速度およびトルクに応じて基準周波数を算出して前記基準周波数を含む基準範囲を設定し、
    前記周波数範囲は、前記基準範囲に含まれる範囲でかつ前記下限値よりも大きい範囲である、請求の範囲第2項に記載の電力制御器の制御装置。
  5. 前記制御装置は、前記電力制御器の出力と制御目標との偏差に基づくフィードバック制御によって前記制御指令を生成する指令生成部(240)をさらに備え、
    前記指令生成部は、前記キャリア信号の周波数の変動に応じて前記フィードバック制御に用いるフィードバック係数を補正し、補正された前記フィードバック係数を用いた前記フィードバック制御によって前記制御指令を生成する、請求の範囲第2項に記載の電力制御器の制御装置。
  6. 前記指令生成部は、前記モータの回転速度およびトルクに応じた基準周波数と前記キャリア信号の周波数との比に応じて前記フィードバック係数を補正する、請求の範囲第5項に記載の電力制御器の制御装置。
  7. 前記制御装置は、各々が複数個の値を配列した複数の配列データを記憶する記憶部(280)をさらに備え、
    前記第2制御部は、前記複数の配列データの各々から1個づつ前記値を任意に読み出し、前記複数の配列データのそれぞれから読み出した複数の前記値の積に基づいて前記キャリア信号の周波数を変動させる、請求の範囲第1項に記載の電力制御器の制御装置。
  8. 前記電力制御器は、前記電源の電力を前記モータを駆動可能な電力に変換するインバータ(14)である、請求の範囲第1項に記載の電力制御器の制御装置。
  9. モータ(M1)と電源(B)との間で授受される電力を制御する電力制御器(14)の制御装置(30)が行なう制御方法であって、
    前記電力制御器は、少なくとも1つのスイッチング素子(Q3〜Q8)を含み、前記スイッチング素子のオンオフによって電力を変換し、
    前記制御方法は、
    キャリア信号(CR)と制御指令(170)との比較に基づいて前記スイッチング素子のオンオフを制御するステップと、
    前記キャリア信号の周波数を制御するステップとを含み、
    前記周波数を制御するステップは、前記モータの回転速度に応じて周波数範囲を設定し、前記周波数範囲内で前記キャリア信号の周波数を変動させるステップを含み、
    前記周波数範囲の下限値は、前記モータの回転速度が高いほど大きい値に設定される、電力制御器の制御方法。
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