JP5403498B2 - (r)−3−キヌクリジノールの製造方法 - Google Patents
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Description
ナカザワエワ(Nakazawaea)属、キャンディダ(Candida)属、プロテウス(Proteus)属に属する微生物からなる群から選ばれる微生物を作用させる方法(特許文献1)がある。この方法では、光学純度は49%eeから最高92%ee、蓄積濃度は最高3.7g/L(0.37w/v%)で、(R)−3−キヌクリジノールを得ているが、光学純度と蓄積濃度がともに低いという問題点がある。
また、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)を作用させる方法(非特許文献1)がある。この方法では、基質濃度10%で95%以上の収率を示したものの、光学純度は85%eeと、選択性が十分でないという問題点がある。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
本発明の(R)−3−キヌクリジノールの製造方法の好ましい態様によれば、前記微生物が、リゾビウム2a亜属に属する微生物であり、特には、前記微生物が、配列番号1又は配列番号2で表される塩基配列に対して99%以上の相同性を示す塩基配列の16SrRNA遺伝子を有する微生物である。
また、本発明の(R)−3−キヌクリジノールの製造方法のより好ましい態様によれば、前記微生物がリゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)、又はリゾビウム・トロピシ(Rhizobium tropici)であり、特には、リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)YGK−574(FERM P−21334)、又はリゾビウム・トロピシ(Rhizobium tropici)NBRC 15247である。
また、本発明は、受託番号FERM P−21334である、リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)YGK−574にも関する。
3−キヌクリジノンに対して、リゾビウム(Rhizobium)属に属する微生物[ただし、リゾビウム・ラディオバクター(Rhizobium radiobactor)を除く]又はその処理物を作用させることにより、(R)−3−キヌクリジノールを選択的にかつ高収率で製造することができる。
本発明における微生物としては、3−キヌクリジノンから(R)−3−キヌクリジノールを著量生成し、蓄積する能力を有する、リゾビウム(Rhizobium)属に属する微生物[ただし、リゾビウム・ラディオバクター(Rhizobium radiobactor)を除く]であればその種及びその起源は何ら問わない。
特に好ましいリゾビウム種は、リゾビウム・リゾゲネス及びリゾビウム・トロピシである。リゾビウム・リゾゲネスとは、16SrRNA遺伝子(16S rDNA)の塩基配列に対して99%以上の相同性を示す16SrRNA遺伝子を有するリゾビウム属の種を意味する。すなわち、配列番号1で表される塩基配列に対して99%以上、好ましくは100%の相同性を示す塩基配列の16SrRNA遺伝子を有する微生物を意味するものである。リゾビウム・トロピシ種とは、16SrRNA遺伝子(16S rDNA)の塩基配列に対して99%以上の相同性を示す16SrRNA遺伝子を有するリゾビウム属の種を意味する。すなわち、配列番号2で表される塩基配列に対して99%以上、好ましくは100%の相同性を示す塩基配列の16SrRNA遺伝子を有する微生物を意味するものである。配列番号2は、リゾビウム・トロピシNBRC 15247の16SrRNA遺伝子1406bpの塩基配列を示している。
1−1.形態的・培養的性質(+は陽性、−は陰性を表す。)
(1)細胞形態:桿菌
(2)幅:0.7〜0.8μm
(3)長さ:1.0〜1.2μm
(4)胞子形成:−
(5)運動性:+
(6)コロニー形態:淡黄色、円形、隆起状態レンズ状、周縁全縁、表面形状スムーズ、透明度不透明、粘稠度バター様
(1)グラム染色:−
(2)各培養温度での生育:37℃ −、45℃ −
(3)カタラーゼ:+
(4)オキシダーゼ:+
(5)酸/ガス産生(グルコース):−/−
(6)O/Fテスト(グルコース):+/−
(7)硝酸塩還元:−
(8)インドール産生:−
(9)ブドウ糖 酸性化:−
(10)アルギニンジヒドロラーゼ:−
(11)ウレアーゼ:+
(12)エスクリン加水分解:+
(13)ゼラチン加水分解:−
(14)β−ガラクトシダーゼ:+
(15)各種化合物の資化性
ブドウ糖:+
L−アラビノース:+
D−マンノース:+
D−マンニトール:+
N−アセチル−D−グルコサミン:−
マルトース:+
グルコン酸カリウム:+
n−カプリン酸:−
アジピン酸:−
dl−リンゴ酸:+
クエン酸ナトリウム:+
酢酸フェニル:−
(16)チトクロームオキシダーゼ:+
本菌株よりゲノムDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子(16S rDNA)の配列を解析した。決定された1445bpの塩基配列を配列表の配列番号1に示す。こうして得られた本菌株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)を用いて、DNA塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)に対して相同性を検索し、近縁菌群と系統樹を作製した結果、本菌株はリゾビウム(Rhizobium)属に属すると推定された。最も近縁であった基準株はリゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)ATCC11325株〔Accession No.AY945955〕であり、100.0%の相同性を示した。以上の結果より、本菌株をリゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)であると判定した。
Bergey’s Manual(p337)には、本発明で使用されるリゾビウム(Rhizobium)属を含むリゾビアセア(Rhizobiaceae)科の分類学的コメントが記載され、アグロバクテリム(Agrobaterium)属、アロリゾビウム(Allorhizobium)属、リゾビウム(Rhizobium)属、シノリゾビウム(Sinorizobium)属の4種の分類について記載している(図1)。図1は、16S rDNA配列に基づき、リゾビアセア科(アグロバクテリウム属、アロリゾビウム属、リゾビウム属、シノリゾビウム属と関連する科の微生物)の中で、関連性を表した隣接結合法による系統樹を示している。
本発明で使用するリゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)[旧名:アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobaterium rhizogenes)]は2aに属し、非特許文献1に記載のリゾビウム・ラディオバクター(Rhizobium radiobactor)[旧名:アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobaterium tumefaciens)]は2bに属する。両者の微生物を比較すると、表1〜表3(Bergey’s Manual(p334−336))に示すように、形態的、栄養的性質、生理学的性質も大きく異なり、図1(Bergey’s Manual(p337))に示す系統樹でも異なる集団に分かれている。
また、後述の実施例で示したように、リゾビウム2a亜属に属するリゾビウム・リゾゲネス及びリゾビウム・トロピシは、3−キヌクリジノンから(R)−3−キヌクリジノールの変換において、光学純度が100%eeの(R)−3−キヌクリジノールを製造することが可能である。一方、リゾビウム・ラディオバクターは、非特許文献1で報告されているように、光学純度は85%eeで(R)−3−キヌクリジノールへ変換されている。リゾビウム2a亜属とリゾビウム2b亜属は系統樹での分類では、比較的近い亜属であるが、前記のように形態的、栄養的性質、生理学的性質、並びに3−キヌクリジノンから(R)−3−キヌクリジノールの変換の点においては、その性質が異なっており、当業者にとっては予想外である。
前記微生物の培養液の調整方法としては、(ア)炭素源及び窒素源を適宜添加した培地に微生物の菌体を接種して同一の該培地中で増殖させて培養液を得る方法、(イ)培養を段階的に行って培養液を得る方法、すなわち、前培養と本培養を組み合わせて培養液を得る方法が挙げられるが、好ましくは(イ)の方法である。(イ)の方法は、まず、前培養として、炭素源及び窒素源を適宜添加した培地に前記微生物の菌体を接種して微生物を増殖させて、本培養で使用する微生物の確保を目的として第一段階の培養液(以下、前培養液という。)を得た後、次に本培養として、容量を増大させた培地に前培養液を加えて、炭素源及び窒素源を適宜添加して微生物を培養することで蓄積反応に十分な酵素の産生を目的として第二段階の培養液(以下、本培養液という)を得る方法である。しかしながら、前記微生物の菌体を含む培養液の調製方法は、これらの方法に限定されるものではなく、更に、3回以上の培養を組み合わせて行うことも可能である。
前記微生物を培養するための培地は、通常これらの微生物が生育可能な培地であれば特に制限はなく、一般的な微生物用の任意の公知培地を用いることができる。培地の炭素源及び窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、アミノ酸、無機窒素、有機酸、糖類などを使用することができる。また、必要に応じて、微量金属塩、ビタミン類、核酸関連物質、無機塩類などを添加することもできる。
本培養の進行とともに、酵素生産量も増加していくが、本培養の後半には、生育速度の低下とともに、炭素源及び窒素源の消費速度、酵素生産速度も低下し、本培養を終了する。炭素源及び窒素源の総添加量、培養時間、菌体の濃度、酵素生産量などから本培養の終了を判断することもできる。
[i]得られた培養液はそのまま以下に述べる蓄積反応に使用してもよいし、
[ii]微生物を培養液から回収して反応に使用したり、更に
[iii]微生物の処理物、例えば、破砕物、粗酵素、精製酵素などを反応に使用することもできる。
続いて、前記微生物又はその処理物により、3−キヌクリジノンから(R)−3−キヌクリジノールを生成する反応を行うことができる。この蓄積反応は、バッチ式でも、バイオリアクターなどを用いた連続式でも可能である。バッチ式反応の場合には、数時間から7日間で行うことができる。
触媒量の補酵素で3−キヌクリジノンの不斉還元反応を進行させるためには、酸化型補酵素のNAD+又はNADP+をそれぞれ還元型補酵素のNADH又はNADPHへと再生する反応が必要であり、一般的に、この補酵素再生反応には、グルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースの酸化反応が利用されている。
(R)−3−キヌクリジノールの蓄積反応は、前記微生物が十分に増殖して、変換能力が十分となった時点から開始することができるが、前記微生物の増殖が十分でない培養初期段階でも、生育阻害が起こらない濃度範囲で培地に3−キヌクリジノンを添加して、微生物の増殖と(R)−3−キヌクリジノールの蓄積反応を同時に行うことができる。
(1)培地[A]
脱塩水1.0L中に酵母エキス5.0g、スクロース3.0g、塩化アンモニウム0.5g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物1.0g、リン酸二水素カリウム1.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.1gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6.8に調整した培地。
脱塩水1.0L中に酵母エキス10.0g、スクロース30.0g、塩化アンモニウム2.0g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物2.0g、リン酸二水素カリウム2.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.2g、塩化マンガン(II)四水和物0.2g、塩化カルシウム0.2gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6.8に調整した培地。
脱塩水1.0L中に酵母エキス5.0g、グルコース5.0g、塩化アンモニウム0.5g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物1.0g、リン酸二水素カリウム1.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.1gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6.8に調整した培地。
脱塩水1.0L中に酵母エキス10.0g、グルコース10.0g、塩化アンモニウム2.0g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物1.0g、リン酸二水素カリウム1.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.1g、塩化マンガン(II)四水和物0.1g、塩化カルシウム0.1gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6.8に調整した培地。
[GCの分析条件]
カラム;CP−CHIRASIL−DEX CB(Varian社製)25m×0.25mm、
N2流速;1mL/分、
カラム温度;140℃、
インジェクション温度;220℃、
検出;FID、220℃、
保持時間;3−キヌクリジノン6.9分、(S)−3−キヌクリジノール13.9分、(R)−3−キヌクリジノール14.4分
(1)前培養
培地[A]100mLを500mL容の三角フラスコに入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、栄養寒天培地に維持したリゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)YGK−574の菌体を1白金耳接種し、27℃で24時間振とう培養して、前培養液を得た。
一方、撹拌、通気、温度及びpH調整が可能な2L容のジャーファーメンターに培地[B]1Lを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。このジャーファーメンターに、上記前培養液20mLを加え、撹拌及び通気を実施しながら28℃及びpH6.8で培養を行った。
5v/v%アンモニア水溶液で培養液のpHを調整しながら、培養を継続した。本培養を開始してから34時間目で、アンモニア溶液の添加量が18.0gとなり、生育速度と酵素生産速度が低下したため、培養を終了し、本培養液を得た。
上記本培養液100mLを遠心分離により集菌し静止菌体を得た。これに、3−キヌクリジノン塩酸塩5.2w/v%とD−グルコース6.0w/v%を含む、pH8.0の0.1Mリン酸カリウム緩衝液100mLを加えて懸濁し、pHを7.0に調整した。この懸濁液を撹拌下35℃にて反応を開始した。基質の3−キヌクリジノン塩酸塩とD−グルコースを適宜追加し、水酸化ナトリウム水溶液により適宜pHを7.0に調整しながら反応を行い、目的物の生成速度が低下したため90時間目で反応を終了した。
(1)前培養
培地[C]100mLを500mL容の三角フラスコに入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、栄養寒天培地に維持したリゾビウム・トロピシ(Rhizobium tropici)NBRC 15247(独立行政法人製品評価技術基盤機構 生物遺伝資源部門の分譲菌株)の菌体を1白金耳接種し、27℃で24時間振とう培養して、前培養液を得た。
一方、培地[D]500mLを100mLずつ500mL容の三角フラスコに分注し、各々同じように以下の操作を行った。121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施したのち、培地100mLにつき、上記前培養液を2mL加え、28℃で振とう培養を行った。
D−グルコース、塩化アンモニウムを少しずつ添加し、培養を継続した。本培養を開始してから45時間目で、培地100mLにつき、D−グルコースの添加量が1.8g、塩化アンモニウムの添加量が0.36gとなり、生育速度と酵素生産速度が低下したため、培養を終了し、本培養液を得た。
上記本培養液500mLを遠心分離により集菌し静止菌体を得た。これに、3−キヌクリジノン塩酸塩4.0w/v%とD−グルコース5.0w/v%を含む、pH8.0の0.1Mリン酸カリウム緩衝液100mLを加えて懸濁し、pHを7.0に調整することにより、菌体を5倍濃縮した懸濁液を得た。この懸濁液を撹拌下35℃にて反応を開始した。基質の3−キヌクリジノン塩酸塩とD−グルコースを適宜追加し、水酸化ナトリウム水溶液により適宜pHを7.0に調整しながら反応を行い、目的物の生成速度が低下したため93時間目で反応を終了した。
Claims (2)
- 3−キヌクリジノンに、リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)、若しくはリゾビウム・トロピシ(Rhizobium tropici)又はその処理物を作用させることにより(R)−3−キヌクリジノールを得ることを特徴とする、(R)−3−キヌクリジノールの製造方法。
- 前記微生物がリゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)YGK−574(FERM P−21334)である、請求項1に記載の(R)−3−キヌクリジノールの製造方法。
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