JP5954539B2 - 1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、使用されている微生物はパン酵母であり、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルについての記載はない。パン酵母は、食品用に使用される微生物で供雑物も多いことが推測され、反応後の精製などの後処理を考慮すると工業的な製造方法とは言いがたい。また、1−ブトキシカルボニル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの立体配置は(3R,4S)の立体異性体の1種類に限定されている。
これらのことより、工業的に有効な微生物学的方法を用いたケトン還元により、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを製造する方法は知られていない。
しかしながら、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは生体内に存在する基質ではないため、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを基質とする立体選択性の高いケトン還元酵素、及びそのような酵素を有する微生物は全く知られていなかった。
従って、本発明の目的は、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを、立体選択的に製造することのできる微生物又はケトン還元酵素を提供することである。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]下記一般式(1)
(ii)1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する酵素、
を作用させ、立体選択的にケトン還元を行うことを特徴とする、
下記一般式(2)
で表される1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法、
[2]前記ケトン還元活性を有する酵素が、メナディオンレダクターゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼである、[1]に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法、
[3]前記メナディオンレダクターゼがキャンディダ(Candida)属に属する微生物由来であり、グルコースデヒドロゲナーゼがバチルス(Bacillus)属に属する微生物由来である、[2]に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法、
[4]前記キャンディダ(Candida)属に属する微生物がキャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)である、[1]又は[3]に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法、
[5]前記バチルス(Bacillus)属に属する微生物が、バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)又はバチルス・エスピー(Bacillus・sp.)である、[1]又は[3]に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法、
[6]前記クルトバクテリウム(Curtobacterium)属に属する微生物がクルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130(NITE P−1385)である、[1]に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法、
[7]1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの立体選択的ケトン還元用メナディオンレダクターゼ、
[8]1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの立体選択的ケトン還元用グルコースデヒドロゲナーゼ、
[9]受託番号NITE P−1385である、クルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130、
[10]受託番号NITE P−1402であるエシェリヒア・コリ(Escherichia・coli)BL21(DE3)/pETMR、
[11]受託番号NITE P−1401である、エシェリヒア・コリ(Escherichia・coli)JM109/pGDA、
[12]メナディオンレダクターゼの1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの立体選択的ケトン還元酵素としての使用、及び
[13]グルコースデヒドロゲナーゼの1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの立体選択的ケトン還元酵素としての使用、
に関する。
本発明の前記一般式(2)で表される1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法は、前記一般式(1)で表される1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに、(i)クルトバクテリウム(Curtobacterium)属、キャンディダ(Candida)属、若しくはバチルス(Bacillus)属に属する微生物、若しくは前記微生物の調製物、又は(ii)1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する酵素を作用させ、立体選択的にケトン還元を行うことを特徴とするものである。
本発明の製造方法によって製造される前記一般式(2)で表される1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは、前記一般式(1)で表される1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルのケトン基を還元することによって得ることができる。ここで、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは2つの不斉炭素を有するため、trans−(3R,4R)、trans−(3S,4S)、cis−(3R,4S)、又はcis−(3S,4R)の4つの異性体が存在する。本発明の製造方法では、これらの異性体を立体選択的に製造することができる。
本発明における微生物としては、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを著量生成し、蓄積する能力を有する、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属に属する微生物、キャンディダ(Candida)属に属する微生物、若しくはバチルス(Bacillus)属に属する微生物であればその種及びその起源は何ら問わない。
本発明における微生物として好ましくは、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属に属する微生物を挙げることができる。更に好ましくは、クルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130(NITE P−1385)を挙げることができる。本菌株は平成24年7月4日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに上記受託番号で国内寄託されている。
1−1.形態的性質(+は陽性、−は陰性を表す)
(1)細胞形態:桿菌
(2)幅:0.8〜0.9μm
(3)長さ:1.5〜2.0μm
(4)胞子形成:−
(5)運動性:+
1−2.コロニー形態(+は陽性、−は陰性を表す)
培養条件:Nutrient agar培地、30℃ 24時間
(1)直径:1.0mm
(2)色調:黄色
(3)形:円形
(4)隆起状態:レンズ状
(5)周縁:全縁
(6)表面の形状など:スムーズ
(7)透明度:不透明
(8)粘調度:バター様
1−3.生理学的性質(+:陽性、−:陰性)
(1)グラム染色:+
(2)生育の範囲 温度
37℃:+
45℃:−
(3)カタラーゼ反応:+
(4)オキシダーゼ反応:−
(5)グルコースからの酸/ガス産生(酸産生/ガス産生):+/−
(6)O/Fテスト(酸化/発酵):+/−
(7)硝酸塩還元:−
(8)ピラジンアミダーゼ:+
(9)ピロリドニルアリルアミダーゼ:+
(10)アルカリフォスファターゼ:+
(11)β−グルクロニダーゼ:−
(12)β−ガラクトシダーゼ:+
(13)α−グルコシダーゼ:+
(14)N−アセチル−β−グルコサミニダーゼ:+
(15)エスクリン(β−グルコシダーゼ):+
(16)ウレアーゼ:−
(17)ゼラチン加水分解:−
(18)ブドウ糖:+
(19)リボース:−
(20)キシロース:−
(21)マンニトール:−
(22)マルトース:−
(23)乳糖:−
(24)グリコーゲン:−
(25)カタラーゼ:+
(26)嫌気条件下での生育:−
(27)でんぷんの加水分解:−
(28)カゼインの加水分解:−
本菌株よりゲノムDNAを抽出し、16S rRNA遺伝子(16S rDNA)の配列を解析した。決定された塩基配列を配列表の配列番号1に示す。こうして得られた本菌株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)を用いて、DNA塩基配列データベース(アポロンDB−BA7.0)に対する相同性検索の結果、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属由来の16S rDNA塩基配列に対し高い相同性を示し、クルトバクテリウム・シトレウム(Curtobacterium・citreum)DSM20528株〔Accession No.X77436〕の16S rDNA塩基配列に対し相同率99.9%の最も高い相同性を示した。また、GenBank/DDBJ/EMBLに対する相同性検索の結果においても、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属の16S rDNA塩基配列に対して高い相同性を示し、クルトバクテリウム・シトレウム(Curtobacterium・citreum)DSM20528株〔Accession No.X77436〕の16S rDNA塩基配列に対し相同率99.9%の最も高い相同性を示した。
本菌株の16S rDNA塩基配列を用いて、DNA塩基配列データベース(アポロンDB−BA7.0)に対する相同性検索上位10株の16S rDNA塩基配列に基づく簡易分子系統解析の結果、本菌株はクルトバクテリウム(Curtobacterium)属の種で形成されるクラスター内に含まれたが、本菌株はクルトバクテリウム(Curtobacterium)属のクラスター内において、いずれの既知種ともやや異なり、独立した分子系統学的位置を示した。
形態的性質とコロニーの形状、生理学的性質においては、クルトバクテリウム(Curtobacterium)属の性状に類似するものの、完全に一致する既知種は見当たらなかった。
以上のように、本菌株はクルトバクテリウム(Curtobacterium)属に含まれると考えられるが、16S rDNA塩基配列解析の結果及び生理・生化学性状試験の結果は、ともに本菌株がクルトバクテリウム(Curtobacterium)属の既知種とは異なることを示唆した。
これらのことから、本菌株をクルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.)であると判定した。
本発明における微生物として好ましくは、キャンディダ(Candida)属に属する微生物を挙げることができ、より好ましくはキャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)であり、更に好ましくは、キャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)NBRC0960株を挙げることができる。キャンディダ属に属する微生物は、後述のように1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する酵素、すなわちメナディオンレダクターゼを有している。このメナディオンレダクターゼにより、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを立体選択的にケトン還元することができる。
本発明における微生物として好ましくは、バチルス(Bacillus)属に属する微生物を挙げることができ、更に好ましくは、バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)、更に好ましくはバチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)IWG3株を挙げることができる。また、別のバチルス(Bacillus)属に属する微生物として、好ましくはバチルス・エスピー(Bacillus・sp.)を挙げることができる。バチルス属に属する微生物は、後述のように1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する酵素、すなわちグルコースデヒドロゲナーゼを有している。このグルコースデヒドロゲナーゼにより、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを立体選択的にケトン還元することができる。
本発明に用いる立体選択的ケトン還元活性を有する酵素は、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する限りにおいて、特に限定されるものではないが、メナディオンレダクターゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼを挙げることができる。
本発明におけるメナディオンレダクターゼとしては、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する限りにおいて、その由来は限定されるものではないが、好ましくはキャンディダ(Candida)属由来メナディオンレダクターゼを、更に好ましくはキャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)由来メナディオンレダクターゼを、最も好ましくはキャンディダ・マセドニエンシスNBRC0960株由来のメナディオンレダクターゼを挙げることができる。
メナディオンレダクターゼとしては、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する限りにおいて、市販の酵素であってもよい。
本発明で使用されるメナディオンレダクターゼ遺伝子は、該遺伝子の塩基配列において1つ若しくは複数(一般的に数個)のヌクレオチドが欠失、置換、付加及び/若しくは挿入された塩基配列を含み、かつメナディオンレダクターゼ活性を有する酵素タンパク質をコードする塩基配列を含むものであってもよい。更に、本発明で使用されるメナディオンレダクターゼ遺伝子は、上記メナディオンレダクターゼをコードする遺伝子と標準的な条件下でハイブリダイズする塩基配列若しくは該塩基配列を含む組換えDNA配列も含み得る。
本発明に用いられるメナディオンレダクターゼの遺伝子、組換え発現ベクター及び組換え微生物は、下記の手順によって得ることができる。
(1)本発明のメナディオンレダクターゼを提供しうる微生物からの染色体DNAの単離、及びこの染色体DNAによる遺伝子ライブラリーの構築、
(2)コロニー又はプラークハイブリダイゼーション、PCRクローニング、インバースPCR、サザンブロットハイブリダイゼーションなどによる、染色体DNAからのメナディオンレダクターゼ遺伝子のクローニング、
(3)得られたメナディオンレダクターゼ遺伝子の塩基配列の決定及びメナディオンレダクターゼ遺伝子を効率的に含有し発現する組換え発現ベクターの構築、
(4)形質転換、形質導入、接合及び電気穿孔による、組換え発現ベクター上又は染色体上にメナディオンレダクターゼ遺伝子を有する組換え微生物の作成。
本発明で使用されるメナディオンレダクターゼは、例えばキャンディダ属に属する微生物に含まれているものでもよく、その微生物から分離及び精製されたものでもよい。また、前記メナディオンレダクターゼを含むベクターにより形質転換された組換え微生物に含まれているものでもよく、その組換え体から分離及び精製されたメナディオンレダクターゼでもよい。具体的には、後述の[i]培養された微生物を含む培養液、[ii]培養液から回収した微生物、又は[iii]前記微生物の調製物、例えば、破砕物、破砕物から固形分を除いた無細胞抽出物、粗酵素、又は精製酵素を用いることができる。
本発明におけるグルコースデヒドロゲナーゼとしては、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する限りにおいて、その由来は限定されるものではないが、好ましくはバチルス(Bacillus)属由来グルコースデヒドロゲナーゼを、更に好ましくはバチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、GDH−2と称することがある)を挙げることができる。更に、別の好ましいグルコースデヒドロゲナーゼとして、バチルス・エスピー(Bacillus・sp.)由来グルコースデヒドロゲナーゼ(以下、GDH−1と称することがある)を挙げることができる。
グルコースデヒドロゲナーゼとしては、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する限りにおいて、市販の酵素であってもよい。具体的には、GDH−1としては、天野エンザイム社製のバチルス・エスピー(Bacillus・sp.)由来グルコースデヒドロゲナーゼが挙げられる。
また、本発明で使用されるGDH−2は、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有し、且つ1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに対する立体選択的ケトン還元活性を有する酵素タンパク質であれば限定されないが、例えば配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるものでもよく、配列番号6で示されるアミノ酸配列において、1つ若しくは複数(一般的には数個)のアミノ酸が欠失、置換、付加及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列からなり、グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素タンパク質でもよい。
本発明で使用されるグルコースデヒドロゲナーゼは、例えばバチルス属に属する微生物に含まれているものでもよく、その微生物から分離及び精製されたものでもよい。また、前記グルコースデヒドロゲナーゼを含むベクターにより形質転換された組換え微生物に含まれているものでもよく、その組換え微生物から分離及び精製されたグルコースデヒドロゲナーゼでもよい。具体的には、後述の[i]培養された微生物を含む培養液、[ii]培養液から回収した微生物、又は[iii]前記微生物の調製物、例えば、破砕物、破砕物から固形分を除いた無細胞抽出物、粗酵素、又は精製酵素を用いることができる。
また、立体異性体の立体選択率は80%以上が好ましく、85%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましく、95%以上が最も好ましい。前記立体選択率の百分率は、HPLC分析ピークの面積百分率である。
次に、本発明で使用されるクルトバクテリウム(Curtobacterium)属に属する微生物又は組換え微生物の培養方法について説明する。前記微生物を培養するための培地は、通常これらの微生物が生育可能な培地であれば特に制限はなく、一般的な微生物用の任意の公知培地を用いることができる。培地の炭素源及び窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、肉エキス、アミノ酸、無機窒素、有機酸、又は糖類などを使用することができる。また、必要に応じて、微量金属塩、ビタミン類、核酸関連物質、又は無機塩類などを添加することもできる。
[i]得られた培養液はそのまま以下に述べる蓄積反応に使用してもよいし、
[ii]微生物を培養液から回収して反応に使用したり、更に
[iii]微生物の調製物(例えば、破砕物、破砕物から固形分を除いた無細胞抽出物、粗酵素、及び/又は精製酵素など)を反応に使用することもできる。
反応のpHは5.0〜10.0、好ましくはpH5.0〜8.0である。反応温度は10〜50℃、好ましくは20〜40℃である。基質の1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの添加量は、反応液に対して0.1〜10.0w/v%、好ましくは0.3〜5.0w/v%である。1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの添加は一度に行ってもよいが、高濃度の1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルによる反応阻害が見られる場合には分割して添加してもよい。
前記のように、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの4位のケトンを非立体選択的に還元した場合、4種の異性体が生成する。すなわち、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは、下記一般式(1)と下記一般式(1’)に記載のようにケト−エノール互変異性のある化合物であり、水溶液中でラセミ化が生じる。
前記1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは、通常生体内に存在するエステルではない。例えば、本発明に用いることのできるグルコースデヒドロゲナーゼは、生体内ではグルコースを酸化してグルコン酸を生成する酵素として働いている。このグルコースデヒドロゲナーゼが、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから立体選択的に1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを生成できることは、その対象となる基質の違いから驚くべきことである。
同様に、本発明に用いることのできるメナディオンレダクターゼは、生体内では、メナディオン(別称2−メチル−1,4−ナフトキノン)の1位のケトンを還元する酵素として働いている。メナディオンと、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルとの構造は全く異なるものであり、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルから立体選択的に1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを生成できることは、予想できることではない。
本発明者らは、この他に多数の酵素について、検討を行ったが、立体選択的にケトン還元できた酵素は前記の2つの酵素のみであった。
また、クルトバクテリウム・エスピーは、多数の土壌分離菌から見出したものであるが、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルは、通常生体内に存在するエステルではないため、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを基質として、立体選択的にケトン還元できる酵素を有する微生物属は、非常に少ないものと考えられる。
(1)培地[A]
脱塩水1.0L中にトリプトン10.0g、酵母エキス5.0g、塩化ナトリウム10.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
脱塩水1.0L中にグルコース50.0g、コーンスティープリカー50.0g、酵母エキス30.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを6.0に調整した培地。
脱塩水1.0L中にトリプトン20.0g、酵母エキス10.0g、塩化ナトリウム10.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
脱塩水1.0L中にトリプトン10.0g、酵母エキス5.0g、塩化ナトリウム10.0g、アガロース15.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
脱塩水1.0L中に酵母エキス5.0g、トリプトン2g、グルコース0.5g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物1.0g、リン酸二水素カリウム1.0gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
脱塩水1.0L中に酵母エキス20.0g、シュクロース20.0g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物2.0g、リン酸二水素カリウム2.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.5g、塩化カルシウム0.1g、塩化マンガン(II)四水和物0.1gを含み、水酸化ナトリウム水溶液によりpHを7.0に調整した培地。
1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステル(和光純薬工業製):50mM
NADH:60mg/mL
NADPH:60mg/mL
トリス−塩酸緩衝液(pH8.0):50mM
生成物の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを下記条件で分析した。
カラム:キラルパックAD−RH(ダイセル化学工業製)4.6×150mm
溶離液A:0.01M酢酸アンモニウム水/メタノール=80/20(v/v)
溶離液B:0.01M酢酸アンモニウム水/メタノール/アセトニトリル=5/20/75(v/v/v)
流速:0.5mL/分
溶離液Bグラジエント: 60%→70% 15分
カラム温度:40℃
検出:UV210nm
4種の立体異性体の保持時間は、還元試薬であるソディウムボロハイドライドを用いて、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルを非立体選択的に還元して合成した、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸の4種の立体異性体混合物を用いて確認した。
(9.1)1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの保持時間
立体異性体1[推定立体配置はtrans−(3R,4R)又はtrans−(3S,4S)のいずれか一方である。]:6.6分
立体異性体2[推定立体配置はcis−(3R,4S)]:7.2分
立体異性体3[推定立体配置はcis−(3S,4R)]:8.1分
立体異性体4[推定立体配置はtrans−(3R,4R)又はtrans−(3S,4S)のいずれか一方である。但し、上記立体異性体1の立体配置とは異なる。]:8.7分、
(9.2)1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの保持時間
立体異性体1[推定立体配置はtrans−(3R,4R)又はtrans−(3S,4S)のいずれか一方である。]:6.3分
立体異性体2[推定立体配置はcis−(3R,4S)]:7.1分
立体異性体3[推定立体配置はcis−(3S,4R)]:9.6分
立体異性体4[推定立体配置はtrans−(3R,4R)又はtrans−(3S,4S)のいずれか一方である。但し、上記立体異性体1の立体配置とは異なる。]:10.4分、
上記分析条件によって得られたそれぞれの立体異性体のピーク面積を用いて、下記の計算式により算出する。
立体選択率(%)=(立体異性体のピーク面積)/(4種の立体異性体のピーク面積合計)×100(%)
カラム:カプセルパックC18MGII(資生堂製)4.6×250mm
溶離液:アセトニトリル/30mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)=50/50(v/v)
流速:1mL/分
カラム温度:40℃
検出:UV=210nm
保持時間
1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステル:6.6分、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステル:16.6分
クルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの蓄積反応
培地[A]2mLを10mL容の試験管に入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この試験管に、寒天培地に維持したクルトバクテリウム・エスピー YGK−130(NITE P−1385)を1白金耳接種し、28℃で24時間振とう培養し、種培養液とした。
次に、50mL三角フラスコに培地[A]10mLを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、上記前培養液200μLを加え、28℃で24時間振とう培養を行った。
上記培養液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物として回収した菌体をリン酸カリウム緩衝液10mLで縣濁後、グラスビーズで菌体を破砕した。菌体破砕液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を回収し酵素溶液とした。上記酵素溶液100μLを反応液[G]1mLに添加し、37℃で3時間、静置反応した。メタノール1mLを添加し、反応を停止した。
HPLCにより分析した結果、主反応生成物として1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの立体異性体2を得た。その立体選択率は85%であった。
キャンディダ・マセドニエンシス(Candida macedoniensis)NBRC 0960由来メナディオンレダクターゼ遺伝子のクローニング
(1)キャンディダ・マセドニエンシス NBRC 0960の培養
キャンディダ・マセドニエンシス NBRC 0960は15mLの培地[B]に植菌し、28℃で3日間振とう培養を行った。培養後、3,000rpm、4℃にて10分間遠心分離することにより集菌し、キャンディダ・マセドニエンシス NBRC 0960の菌体を得た。
キャンディダ・マセドニエンシス NBRC 0960の菌体を少量のTES緩衝液(0.05Mトリス−塩酸緩衝液、0.01Mエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(略称EDTA−Na)、25%(w/v)シュクロース、pH7.0)に懸濁後、最終濃度0.5MのEDTA−Na、リゾチーム、プロテアーゼ Kを添加し、37℃で4時間インキュベートした。その後最終濃度1%のドデシル硫酸ナトリウム(略称SDS)を添加し、更にインキュベートすることで細胞破砕液を得た。細胞破砕液に等量のフェノール/クロロホルム溶液(1:1)を加えゆっくりと完全に混合した。その後、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。続いて、再度等量のフェノール/クロロホルム溶液(1:1)を加えゆっくりと完全に混合し、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。これに2倍量のエタノールと最終濃度0.3Mの酢酸ナトリウムを加え、完全に混合し、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離した。得られた沈殿を20分間真空デシケーターにて乾燥した後、少量のTE緩衝液(10mMトリス−塩酸緩衝液、1mMのEDTA−Na、pH8.0)に溶解し、ゲノムDNAを得た。
キャンディダ・マセドニエンシス NBRC 0960のゲノムDNAを鋳型にして、センスプライマー(配列番号4)とアンチセンスプライマー(配列番号5)を用いたPCR法によりメナディオンレダクターゼ遺伝子(配列番号3)を増幅した。PCRはPyrobest DNAポリメラーゼ(タカラバイオ)を用いて、94℃で1分、58℃で1分、72℃で4分を35サイクル繰り返すことで行った。PCRの結果増幅された遺伝子断片を制限酵素NdeIとEcoRIで切断処理後、同様に処理したpET21aベクターに挿入することでメナディオンレダクターゼ発現ベクターpETMRを構築した。pETMRを大腸菌BL21(DE3)株に形質転換し、形質転換株エシェリヒア・コリ(Escherichia・coli)BL21(DE3)/pETMR(NITE P−1402)を得た。本菌株は平成24年8月9日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに上記受託番号で国内寄託されている。
キャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)NBRC 0960由来メナディオンレダクターゼを用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの蓄積反応
培地[A]2mLを10mL容の試験管に入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この試験管に、アンピシリンを添加後、寒天培地に維持したエシェリヒア・コリ BL21(DE3)/pETMR(NITE P−1402)を1白金耳接種し、28℃で24時間振とう培養し、種培養液とした。
次に、50mL三角フラスコに培地[A]10mLを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、アンピシリンを添加後、上記前培養液200μLを加え、28℃で振とう培養を開始した。培養1時間後最終濃度1mMになるようにイソプロピル−β−チオガラクトピラノシドを添加し、24時間振とう培養を継続した。
上記培養液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物として回収した菌体をリン酸カリウム緩衝液10mLで縣濁後、超音波で菌体を破砕した。菌体破砕液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を回収し酵素溶液とした。上記酵素溶液100μLを反応液[G]1mLに添加し、37℃で3時間、静置反応した。メタノール1mLを添加し、反応を停止した。
HPLCにより分析した結果、主反応生成物として1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの立体異性体3を得た。その立体選択率は95%であった。
バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)IWG3由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−2)遺伝子のクローニング
バチルス・メガテリウム IWG3は15mLの培地[C]に植菌し、28℃で3日間振とう培養を行った。培養後、3,000rpm、4℃にて10分間遠心分離することにより集菌し、バチルス・メガテリウム IWG3の菌体を得た。
バチルス・メガテリウム IWG3の菌体を少量のTES緩衝液(0.05Mトリス−塩酸緩衝液、0.01MのEDTA−Na、25%(w/v)シュクロース、pH7.0)に懸濁後、最終濃度0.5MのEDTA−Na、リゾチーム、プロテアーゼ Kを添加し、37℃で4時間インキュベートした。その後最終濃度1%のSDSを添加し更にインキュベートすることで細胞破砕液を得た。細胞破砕液に等量のフェノール/クロロホルム溶液(1:1)を加えゆっくりと完全に混合した。その後、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。続いて、再度等量のフェノール/クロロホルム溶液(1:1)を加えゆっくりと完全に混合し、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離し、上層を回収した。これに2倍量のエタノールと最終濃度0.3Mの酢酸ナトリウムを加え、完全に混合し、3,500×gにて20分間室温にて遠心分離した。得られた沈殿を20分間真空デシケーターにて乾燥した後、少量のTE緩衝液(10mMトリス−塩酸緩衝液、1mMのEDTA−Na、pH8.0)に溶解し、ゲノムDNAを得た。
Makinoらの報告(ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY)、264巻、6381〜6385頁、1989年)に基づき、下記に示す手法にて実施した。バチルス・メガテリウム IWG3のDNA240μgをとり、制限酵素EcoRI、BglIIそれぞれ150単位と37℃、3時間反応させた。反応液の全量を1%アガロースゲル電気泳動に供し、3−4Kbの大きさに相当するDNAを含む部分を切出して、電気抽出法によりゲルからDNA断片を溶出させた。次いで溶出液を当量のフェノール及びフェノール/クロロホルムで順次抽出し、得られた水層にエタノールを添加してDNAを沈澱させた後、TE緩衝液100μLに溶かした。ベクターpBR322 20μgをEcoRI、BamHIで完全分解して得られた直鎖状ベクターDNAをTE緩衝液200μLに溶解し、上記工程で得られたDNA断片と1:10の割合に混合し、T4 DNAリガーゼを14℃で一夜反応させた。上記工程で得られた組換えDNAを形質転換により大腸菌C600に導入し、アンピシリン50μg/mLを含む寒天培地[D]上で生育してきたコロニーを集めてバチルス・メガテリウム IWG3のDNAライブラリーと称した。DNAプローブ(配列番号8)をIngliaらの方法(ヌクレイック・アシッド・リサーチ(Nucleic Acids Res)、9巻、1627〜1642頁、1982年) に従ってT4ポリヌクレオチドキナーゼとγ−32P−ATPを用いてラベルした。次に前記工程で得られた大腸菌をアンピシリン50μg/mLを含む寒天培地[D]上でコロニーとして生育させ、これをレプリカ法によって、ナイロンメンブレンへ移し、リゾチーム溶菌し、アルカリでDNA変性させ、塩酸による中和処理を行った後、前記プロープとハイブリダイゼーションさせた。ハイブリダイゼーションは6倍濃度のSSC緩衝液(原液組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、5倍濃度のデンハルト液(0.02%フィコール、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%牛血清アルブミン)、0.5%SDS、牛胸腺DNA20μg/mL(終濃度)及びラベルしたDNAプロープ約5×105cpm/mLを用いてプレハイプリダイゼーションを45℃、3時間行った後、45℃で一夜のハイブリダイゼーションを行った。この後、5倍濃度のSSCを用いて45℃で2回、続いて5倍濃度のSSC(0.1%SDSを含む)を用いて45℃で2回、4倍濃度のSSCで2回ナイロンメンプランを洗浄した。この後ナイロンメンプランを乾燥させ、オートラジオグラフィー(−80℃、一夜)に供した。その結果、ハイブリダイゼーション陽性のコロニーが見出された。そこで陽性のコロニーよりプラスミドDNAを調製し、制限酵素EcoRI及びSalIで切断し、アガロースゲル電気泳動を行った後、ラベルしたDNAプローブとサザンハイプリダイゼーション(ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J.Mol.Biol.)、98巻、503〜517頁、1975年)を行った。その結果、EcoRI、SalI切断で生成する約3.6KbのDNA断片にDNAプロープが強くハイブリダイズすることが見出されたため、このプラスミドをpGDA1と命名した。プラスミドpGDA1 10μgをEcoRI及びPvuIで切断し、1%アガロース電気泳動に供し、約1.5Kbの大きさの断片を回収した。得られた断片1μgにdATP、dGTP、dCTP、dTTPを終濃度各1mM、DNAポリメラーゼクレノウフラグメント 4単位を加え、10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)、7mM塩化マグネシウム、1mMジチオスレイトールの反応液20μL中で、30℃、20分間反応させた。これにより両端が平滑末端にされたDNA断片を精製し、その約0.5μgにPstIリンカーとT4DNAリガーゼ10単位を加え、66mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)、5mM塩化マグネシウム、5mMジチオスレイトール、1mMアデノシン三リン酸(略称ATP)の反応液20μL中で、14℃、一夜反応させた。反応後DNA断片を精製し、BanIIで切断後、この断片にマングピーンヌクレアーゼ 1Uを加え、40mM酢酸ナトリウム(pH4.5)、100mM塩化ナトリウム、2mM塩化亜鉛、10%グリセロールの反応液50μL中で、30℃、30分間反応させた。この操作によりBanIIの突出末端を平滑末端にし、更に上述したのと同様の方法でEcoRIリンカーを連結した。反応後DNA断片を精製し、EcoRIとPstIで両端を切断し、EcoRI−PstI断片として回収した。発現ベクターpKK223−3を制限酵素EcoRIとPstIで切断した後、回収したEcoRI−PstI断片と混合し、T4DNAリガーゼで結合反応を行わせた。その反応液を用いて大腸菌JMI05を形質転換した。この中の1株からプラスミドDNAを抽出し、これをpGDA2と命名した。pGDA2を大腸菌JM109株に形質転換し、形質転換株エシェリヒア・コリ(Escherichia・coli)JM109/pGDA株(NITE P−1401)を得た。本菌株は平成24年8月9日付けで、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに上記受託番号で国内寄託されている。
バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)IWG3由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−2)を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの蓄積反応
培地[A]2mLを10mL容の試験管に入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この試験管に、アンピシリンを添加後、寒天培地に維持したエシェリヒア・コリ JM109/pGDA(NITE P−1401)を1白金耳接種し、28℃で24時間振とう培養し、種培養液とした。
次に、50mL三角フラスコに培地[A]10mLを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、アンピシリンを添加後、上記前培養液200μLを加え、28℃で振とう培養を開始した。培養1時間後最終濃度1mMになるようにイソプロピル−β−チオガラクトピラノシドを添加し、24時間振とう培養を継続した。
上記培養液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、沈殿物として回収した菌体をリン酸カリウム緩衝液10mLで縣濁後、超音波で菌体を破砕した。菌体破砕液を15,000rpmで10分間遠心分離を行い、上清を回収し酵素溶液とした。上記酵素溶液100μLを反応液[G]1mLに添加し、50℃で18時間、静置反応した。メタノール1mLを添加し、反応を停止した。
HPLCにより分析した結果、主反応生成物として1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの立体異性体4を得た。その立体選択率は95%であった。
バチルス・エスピー(Bacillus・sp.)由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−1)を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの蓄積反応
天野エンザイム社製バチルス・エスピー(Bacillus・sp.)由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−1)を20mg含む酵素溶液100μL(溶媒:50mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0))を反応液[G]1mLに添加し、50℃で18時間、静置反応した。メタノール1mLを添加し、反応を停止した。
HPLCにより分析した結果、主反応生成物として1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸メチルエステルの立体異性体2を得た。その立体選択率は95%であった。
クルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの蓄積反応
反応の基質に1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを用いた以外、実施例1と同様に行った。得られた主反応生成物は1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの立体異性体2であり、その立体選択率は100%であった。
キャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)NBRC 0960由来メナディオンレダクターゼを用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの蓄積反応
反応の基質に1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを用いた以外、実施例3と同様に行った。得られた主反応生成物の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステル立体異性体3の立体選択率は95%であった。
バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)IWG3由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−2)を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの蓄積反応
反応の基質に1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを用いた以外、実施例5と同様に行った。得られた主反応生成物は1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの立体異性体4であり、その立体選択率は93%であった。
バチルス・エスピー(Bacillus・sp.)由来グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH−1)を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの蓄積反応
反応の基質に1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを用いた以外、実施例6と同様に行った。得られた主反応生成物は1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの立体異性体2であり、その立体選択率は95%であった。
クルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130を用いた1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの蓄積反応
培地[E]100mLを500mL容の三角フラスコに入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。この三角フラスコに、栄養寒天培地に維持したクルトバクテリウム・エスピー YGK−130(NITE P−1385)の菌体を1白金耳接種し、28℃で24時間振とう培養し、種培養液とした。
次に、撹拌、通気、温度及びpH調整が可能な2L容のジャーファーメンターに培地[F]1Lを入れ、121℃で20分間、オートクレーブ滅菌を実施した。このジャーファーメンターに、上記前培養液10mLを加え、撹拌及び通気を実施しながら28℃及びpH7.0で、29時間培養を行った。上記培養を合計2回行った。
上記培養液1,600mLを遠心分離により集菌し、20mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を加え800mLとした。次に、グルコースを24g添加し、1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの5%(w/w)水溶液を少しずつ添加しながら、pH6.8、25℃で22時間反応を行った。1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの5%水溶液を合計260.4g添加した。得られた反応液を分析した結果、1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルを蓄積濃度10.3g/L、収率83%で得た。
また、得られた主反応生成物は1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸エチルエステルの立体異性体2であり、その立体選択率は99%であった。
Claims (8)
- 下記一般式(1)
で表される1−ベンジル−4−オキソ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルに、
(i)クルトバクテリウム(Curtobacterium)属、キャンディダ(Candida)属、若しくはバチルス(Bacillus)属に属する微生物、又は前記微生物の調製物、又は
(ii)メナディオンレダクターゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼ、
を作用させ、立体選択的にケトン還元を行うことを特徴とする、
下記一般式(2)
で表される1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法。 - 前記メナディオンレダクターゼがキャンディダ(Candida)属に属する微生物由来であり、グルコースデヒドロゲナーゼがバチルス(Bacillus)属に属する微生物由来である、請求項1に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法。
- 前記キャンディダ(Candida)属に属する微生物がキャンディダ・マセドニエンシス(Candida・macedoniensis)である、請求項1又は2に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法。
- 前記バチルス(Bacillus)属に属する微生物が、バチルス・メガテリウム(Bacillus・megaterium)又はバチルス・エスピー(Bacillus・sp.)である、請求項1又は2に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法。
- 前記クルトバクテリウム(Curtobacterium)属に属する微生物がクルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130(NITE P−1385)である、請求項1に記載の1−ベンジル−4−ヒドロキシ−3−ピペリジンカルボン酸アルキルエステルの製造方法。
- 受託番号NITE P−1385である、クルトバクテリウム・エスピー(Curtobacterium・sp.) YGK−130。
- 受託番号NITE P−1402であるエシェリヒア・コリ(Escherichia・coli)BL21(DE3)/pETMR。
- 受託番号NITE P−1401である、エシェリヒア・コリ(Escherichia・coli)JM109/pGDA。
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