JP5903298B2 - N−サクシニル−dl−アミノ酸に対する向上されたd体選択性を有する改変型d−サクシニラーゼ - Google Patents

N−サクシニル−dl−アミノ酸に対する向上されたd体選択性を有する改変型d−サクシニラーゼ Download PDF

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Description

本発明は、医薬品等の中間体の原料となるD−アミノ酸の製造に利用できる、N−サクシニル−D−アミノ酸を脱サクシニル化してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質(以下、D−サクシニラーゼと呼ぶ)に関し、詳しくは、野生型D−サクシニラーゼをアミノ酸置換することにより、D体選択性を向上させて、N−サクシニル−DL−アミノ酸からD−アミノ酸を効率よく生成できるようにした改変型D−サクシニラーゼ、及びかかる改変型D−サクシニラーゼを使用した効率的なD−アミノ酸の製造方法に関する。また、本発明は、かかる改変型D−サクシニラーゼと、N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼを組み合わせて使用することにより、N−サクシニル−DL−アミノ酸からD−アミノ酸をさらに効率的に製造する方法に関する。
光学活性アミノ酸は、医薬品、農薬及び食品などの分野で多くの需要があるが、D−アミノ酸は、光学的に純粋なアミノ酸、特に発酵法などの産物(天然のアミノ酸)として得ることが難しい。従って、D−アミノ酸を、いかにして効率的に製造するかは、産業上重要な課題となっている。
この課題に対して、本発明者らは、既に、N−サクシニルアミノ酸のラセミ体(N−サクシニル−DL−アミノ酸)を合成し、このラセミ体中のD体(N−サクシニル−D−アミノ酸)をD−サクシニラーゼでD体選択的に加水分解することによりD−アミノ酸を得る方法を提案した(特許文献1)。また、D−サクシニラーゼに加えてN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼを使用することにより、D−サクシニラーゼに対して反応せずに系中に残存したL体(N−サクシニル−L−アミノ酸)をラセミ化し、生じたラセミ体を再度原料として使用することにより、D−アミノ酸の収率を向上させる方法も提案した(特許文献1参照)。
特許文献1で使用したD−サクシニラーゼは、Cupriavidus属(クプリアビダス属)の細菌が生産する野生型のD−サクシニラーゼである。これらの野生型のD−サクシニラーゼは、N−サクシニル−D−アミノ酸を加水分解する活性がかなり高いが、本発明者らがさらに研究を進めたところ、これらの野生型のD−サクシニラーゼは、原料基質となるN−サクシニル−DL−アミノ酸の立体を完全に認識できないこと、すなわち、野生型のD−サクシニラーゼをN−サクシニルアミノ酸のラセミ体に作用させた場合、D体だけでなくL体とも反応して、D−アミノ酸だけでなくL−アミノ酸もわずかに生成してしまうことが判明した。従って、特許文献1の方法を効率的に実施するためには、そこで使用する野生型のD−サクシニラーゼをさらに改良してD体選択性を向上させることが望ましいと考えられた。
特願2010−148795号
本発明は、かかる従来技術の現状に鑑み創案されたものであり、その目的は、野生型のD−サクシニラーゼをさらに改良してD体選択性を向上させることにより、D−アミノ酸をさらに効率的に製造することができるようにすることにある。
本発明者らは、上記目標を達成するために鋭意検討した結果、Cupriavidus属由来の細胞株であるCupriavidus sp.P4−10−C(クプリアビダス・エスピー.P4−10−C)株の生産するD−サクシニラーゼのアミノ酸配列において、特定の部位が反応基質の立体認識に関与すること、そして、これらの特定の部位のアミノ酸残基を別の特定のアミノ酸残基に置換することにより、D−サクシニラーゼのD体選択性を著しく向上させることができることを見出した。また、近縁種のCupriavidus metallidurans(クプリアビダス・メタリデュランス)のD−サクシニラーゼにおいても、Cupriavidus sp.P4−10−C株と同等の部位における同様のアミノ酸残基置換により、D体選択性を著しく向上することができることを見出した。
本発明は、上記の見地に基づいて完成されたものであり、以下の(1)〜(13)を要旨とするものである。
(1)下記(A)又は(B)のアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質。
(A)配列番号2に示すアミノ酸配列において、下記(a)〜(k)から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
(a)72位のグルタミン残基のアルギニン残基への置換
(b)181位のグリシン残基のトリプトファン残基、リジン残基、アルギニン残基、アスパラギン酸又はグルタミン酸残基への置換
(c)182位のロイシン残基のトリプトファン残基、セリン残基、システイン残基、チロシン残基、リジン残基、アルギニン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基又はプロリン残基への置換
(d)183位のスレオニン残基のプロリン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基への置換
(e)184位のロイシン残基のプロリン残基への置換
(f)185位のアスパラギン残基のプロリン残基、フェニルアラニン残基、セリン残基又はアスパラギン酸残基への置換
(g)305位のアルギニン残基のスレオニン残基、アラニン残基、グリシン残基、ヒスチジン残基、グルタミン残基、セリン残基、アスパラギン残基又はバリン残基への置換
(h)348位のロイシン残基のイソロイシン残基、グルタミン酸残基、プロリン残基、メチオニン残基、トリプトファン残基、セリン残基、スレオニン残基、システイン残基、リジン残基、ヒスチジン残基又はグルタミン残基への置換
(i)351位のフェニルアラニン残基のロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、アスパラギン残基又はグルタミン残基への置換
(j)461位のアスパラギン残基のイソロイシン残基、フェニルアラニン残基、スレオニン残基、リジン残基又はアルギニン残基への置換
(k)539位のグリシン残基のプロリン残基、バリン残基、メチオニン残基、スレオニン残基又はアスパラギン残基への置換
(B)上記(A)のアミノ酸配列において、72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位、及び539位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするアミノ酸配列。
(2)(1)の(A)のアミノ酸配列が、配列番号2に示すアミノ酸配列において、182位のロイシン残基のグルタミン酸残基への置換、及び348位のロイシン残基のイソロイシン残基への置換を有するアミノ酸配列であることを特徴とする(1)に記載のタンパク質。
(3)下記(A)又は(B)の塩基配列からなることを特徴とする遺伝子。
(A)配列番号1に示す塩基配列において、下記(a)〜(k)から選択される少なくとも1個の塩基配列の置換を有する塩基配列
(a)214〜216位の塩基配列caaの、cgt、cgc、cga、cgg、aga又はaggへの置換
(b)541〜543位の塩基配列ggcの、tgg、aaa、aag、cgt、cgc、cga、cgg、aga、agg、gat、gac、gaa又はgagへの置換
(c)544〜546位の塩基配列ctgの、tgg、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、tgt、tgc、tat、tac、aaa、aag、cgt、cgc、cga、cgg、aga、agg、gat、gac、gaa、gag、cct、ccc、cca又はccgへの置換
(d)547〜549位の塩基配列acgの、cct、ccc、cca、ccg、tta、ttg、ctt、ctc、cta、ctg、aat又はaacへの置換
(e)550〜552位の塩基配列ctgの、cct、ccc、cca又はccgへの置換
(f)553〜555位の塩基配列aatの、cct、ccc、cca、ccg、ttt、ttc、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、gat又はgacへの置換
(g)913〜915位の塩基配列cggの、act、acc、aca、acg、gct、gcc、gca、gcg、ggt、ggc、gga、ggg、cat、cac、caa、cag、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、aat、aac、gtt、gtc、gta又はgtgへの置換
(h)1042〜1044位の塩基配列ctgの、att、atc、ata、gaa、gag、cct、ccc、cca、ccg、atg、tgg、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、act、acc、aca、acg、tgt、tgc、aaa、aag、cat、cac、caa又はcagへの置換
(i)1051〜1053位の塩基配列ttcの、tta、ttg、ctt、ctc、cta、ctg、att、atc、ata、atg、aat、aac、caa又はcagへの置換
(j)1381〜1383位の塩基配列aacの、att、atc、ata、ttt、ttc、act、acc、aca、acg、aaa、aag、cgt、cgc、cga、cgg、aga又はaggへの置換
(k)1615〜1617位の塩基配列ggcの、cct、ccc、cca、ccg、gtt、gtc、gta、gtg、atg、act、acc、aca、acg、aat又はaacへの置換
(B)上記(A)の(a)〜(k)から選択される塩基配列の置換を有し、かつ、(A)の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
(4)(3)の(A)の塩基配列が、配列番号1に示す塩基配列において、544〜546位の塩基配列ctgの、gaa又はgagへの置換、及び1042〜1044位の塩基配列ctgの、att,atc又はataへの置換を有する塩基配列であることを特徴とする(3)に記載の遺伝子。
(5)下記(A)又は(B)のアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質。
(A)配列番号4に示すアミノ酸配列において、下記(a)〜(e)から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
(a)177位のロイシン残基のアルギニン残基への置換
(b)180位のアスパラギン残基のアスパラギン酸残基への置換
(c)344位のロイシン残基のプロリン残基への置換
(d)347位のフェニルアラニン残基のイソロイシン残基への置換
(e)457位のアスパラギン残基のイソロイシン残基への置換
(B)上記(A)のアミノ酸配列において、177位、180位、344位、347位、及び457位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするアミノ酸配列。
(6)下記(A)又は(B)の塩基配列からなることを特徴とする遺伝子。
(A)配列番号3に示す塩基配列において、下記(a)〜(e)から選択される少なくとも1個の塩基配列の置換を有する塩基配列
(a)529〜531位の塩基配列ctgの、cgt、cgc、cga、cgg、aga又はaggへの置換
(b)538〜540位の塩基配列aacの、gat又はgacへの置換
(c)1030〜1032位の塩基配列ctgの、cct、ccc、cca又はccgへの置換
(d)1039〜1041位の塩基配列ttcの、att、atc又はataへの置換
(e)1369〜1371位の塩基配列aatの、att、atc又はataへの置換
(B)上記(A)の(a)〜(e)から選択される塩基配列の置換を有し、かつ、(A)の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
(7)配列番号2と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位、及び539位のうちのいずれかと同等な位置のアミノ酸残基が、(1)の(A)に示すアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列からなるタンパク質であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有することを特徴とするタンパク質。
(8)(7)に記載のタンパク質をコードすることを特徴とする遺伝子。
(9)配列番号4と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号4の177位、180位、344位、347位、及び457位のうちのいずれかと同等な位置のアミノ酸残基が、(3)の(A)に示すアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列からなるタンパク質であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有することを特徴とするタンパク質。
(10)(9)に記載のタンパク質をコードすることを特徴とする遺伝子。
(11)(3),(4),(6),(8)又は(10)に記載の遺伝子をベクターに挿入して組換えベクターを調製し、この組換えベクターで宿主細胞を形質転換して形質転換体を調製し、この形質転換体を培養する工程を含むことを特徴とする(1),(2),(5),(7)又は(9)に記載のタンパク質の製造方法。
(12)(1),(2),(5),(7)又は(9)に記載のタンパク質を用いてN−サクシニル−DL−アミノ酸中のN−サクシニル−D−アミノ酸を特異的に加水分解する工程を含むことを特徴とするD−アミノ酸の製造方法。
(13)N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼを用いてN−サクシニル−L−アミノ酸をラセミ化してN−サクシニル−D−アミノ酸を生成させる工程をさらに含むことを特徴とする(12)に記載の方法。
本発明の改変型D−サクシニラーゼは、野生型D−サクシニラーゼのアミノ酸配列の特定の部位のアミノ酸残基が別の特定のアミノ酸残基に置換されているので、野生型D−サクシニラーゼと比較してD体選択性が著しく向上している。従って、本発明の改変型D−サクシニラーゼを使用すれば、医薬品等の中間体の原料として有用なD−アミノ酸をさらに効率良く製造することができる。
図1は、Cupriavidus sp.P4−10−C株の生産するD−サクシニラーゼの電気泳動法による電気泳動像を示す図である。 図2は、改変型D−サクシニラーゼのスクリーニング方法を示す図である。 図3は、Cupriavidus属由来D−サクシニラーゼのアミノ酸配列のアライメント結果を示す図である。
本発明は、野生型D−サクシニラーゼを特定の部位でアミノ酸置換することにより、野生型D−サクシニラーゼと比較してD体選択性が著しく向上した改変型D−サクシニラーゼを提供するものである。本発明において、改変のベースとする野生型D−サクシニラーゼは、主にCupriavidus属の2種類の細菌(Cupriavidus sp.P4−10−C株及びCupriavidus metallidurans)のD−サクシニラーゼである。以下、各改変型D−サクシニラーゼについて説明する。
本発明の第1の側面は、Cupriavidus sp.P4−10−C株のD−サクシニラーゼをベースとした改変型D−サクシニラーゼに関する。即ち、本発明の第1の側面によれば、(A)配列番号2に示すアミノ酸配列において、下記(a)〜(k)から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質が提供される。
(a)72位のグルタミン残基のアルギニン残基への置換
(b)181位のグリシン残基のトリプトファン残基、リジン残基、アルギニン残基、アスパラギン酸又はグルタミン酸残基への置換
(c)182位のロイシン残基のトリプトファン残基、セリン残基、システイン残基、チロシン残基、リジン残基、アルギニン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基又はプロリン残基への置換
(d)183位のスレオニン残基のプロリン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基への置換
(e)184位のロイシン残基のプロリン残基への置換
(f)185位のアスパラギン残基のプロリン残基、フェニルアラニン残基、セリン残基又はアスパラギン酸残基への置換
(g)305位のアルギニン残基のスレオニン残基、アラニン残基、グリシン残基、ヒスチジン残基、グルタミン残基、セリン残基、アスパラギン酸残基又はバリン残基への置換
(h)348位のロイシン残基のグルタミン酸残基、プロリン残基、メチオニン残基、トリプトファン残基、セリン残基、スレオニン残基、システイン残基、リジン残基、ヒスチジン残基又はグルタミン残基への置換
(i)351位のフェニルアラニン残基のロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、アスパラギン残基又はグルタミン残基への置換
(j)461位のアスパラギン残基のイソロイシン残基、フェニルアラニン残基、スレオニン残基、リジン残基又はアルギニン残基への置換
(k)539位のグリシン残基のプロリン残基、バリン残基、メチオニン残基、スレオニン残基又はアスパラギン残基への置換
配列番号2は、Cupriavidus sp.P4−10−C株のD−サクシニラーゼのアミノ酸配列である。
好ましい実施態様によれば、上記(A)のタンパク質は、配列番号2に示すアミノ酸配列において、182位のロイシン残基のグルタミン酸残基への置換、及び348位のロイシン残基のイソロイシン残基への置換を有するアミノ酸配列からなる。これは、L182E+L348Iの二重変異体に相当する。後述の実施例に示す通り、L348Iの単変異のみでは、D体選択性の向上効果は見られないが、L182Eの単変異と組み合わせることにより、相乗効果が発揮され、D体選択性をさらに向上させることができる。
上記(A)のタンパク質は、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するという特徴を有する。
ここで、「D体選択的に作用する」とは、野生型のD−サクシニラーゼと比較して、N−サクシニル−L−アミノ酸(L体)よりもN−サクシニル−D−アミノ酸(D体)に反応しやすい性質のことを総じて称し、これは「D体選択性が向上している」と同義である。具体的には、「D体選択的に作用する」とは、D体に対するL体の分解比率(L/D)が野生型のD−サクシニラーゼより低いことを意味する。Cupriavidus sp.P4−10−CのD−サクシニラーゼをベースとした改変型D−サクシニラーゼの場合、基質として、例えばN−サクシニルトリプトファンを用いたときは、実施例2に記載の方法に従ってN−サクシニル−L−トリプトファン、N−サクシニル−D−トリプトファン、それぞれの基質に対して、L体を4、D体を1、すなわちL:D=4:1の比率のタンパク量で反応させたときのD体に対するL体の分解比率(L/D)が0.91未満であることを意味する。D体に対するL体の分解比率(L/D)は0.5以下であることが好ましく、0.3以下であることがさらに好ましい。また、基質として、N−サクシニルフェニルアラニンを用いたときは、実施例2に記載の方法に従ってN−サクシニル−L−フェニルアラニン、N−サクシニル−D−フェニルアラニン、それぞれの基質に対して、L体を4、D体を1、すなわちL:D=4:1の比率のタンパク量で反応させたときのD体に対するL体の分解比率(L/D)が0.69未満であることを意味する。D体に対するL体の分解比率(L/D)は0.4以下であることが好ましく、0.2以下であることがさらに好ましい。また、基質として、N−サクシニルビフェニルアラニンを用いたときは、実施例3に記載の方法に従ってN−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンのラセミ体に対し、反応させたときのD体に対するL体の分解比率(L/D)が0.09未満であることを意味する。D体に対するL体の分解比率(L/D)は0.05以下であることが好ましく、0.02以下であることがさらに好ましい。また、後述するCupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼをベースとした改変型D−サクシニラーゼの場合、基質として、N−サクシニルトリプトファンを用いたときは、実施例2に記載の方法に従ってN−サクシニル−L−トリプトファン、N−サクシニル−D−トリプトファン、それぞれの基質に対して、L体を4、L体を1、すなわちL:D=4:1の比率のタンパク量で反応させたときのD体に対するL体の分解比率(L/D)が0.54未満であることを意味する。D体に対するL体の分解比率(L/D)は0.3以下であることが好ましく、0.1以下であることがさらに好ましい。
なお、実用上の観点からは、D体に対するL体の分解比率だけではなく、L体分解率及びD体分解率それぞれの値も考慮すべきである。具体的には、L体分解率が12%以下であることが好ましく、L体分解率が12%以下でかつD体分解率が25%以上であることがさらに好ましく、L体分解率が0%でかつD体分解率が25%以上であることが特に好ましい。
本発明における立体選択性の評価は、実施例に示した通りであるが、基質濃度や酵素量、反応温度、反応時間、反応pHなどの反応条件によっては、数値が変動する場合もある。
なお、上記のD体選択性の説明において、N−サクシニル−DL−トリプトファン、N−サクシニル−DL−フェニルアラニン及びN−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンに対するD体選択性に言及したが、本発明の改変型D−サクシニラーゼは、これらの特定のN−サクシニル−DL−アミノ酸だけでなく、下記一般式(I)に示す任意のN−サクシニル−DL−アミノ酸に対しても同様にD体選択性を有する。
(一般式(I)中、Rは、置換基を有してもよい炭素数4〜20のアリール基、または置換基を有してもよい炭素数5〜20のアラルキル基を示す。)
上記Rにおける置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、4−ヒドロキシフェニル基などが挙げられる。置換基としては、アミノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルカノイル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシル基、又はハロゲン原子等が挙げられる。また、置換基を有していてもよい炭素数7〜20のアラルキル基としては、特に限定されず、例えば、ベンジル基、インドリルメチル基、4−フェニルベンジル基、4−ヒドロキシベンジル基等が挙げられる。
従来公知の野生型D−サクシニラーゼは、D−アミノ酸の前駆体であるN−サクシニル−DL−アミノ酸の光学異性を厳密には区別できず、L体にもわずかに作用して、D−アミノ酸のみならず、L−アミノ酸も生じてしまう。しかし、本発明の改変型D−サクシニラーゼは、野生型D−サクシニラーゼの一部のアミノ酸残基を置換することにより立体選択性を変化させて、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用するよう改変を加えているので、N−サクシニル−DL−アミノ酸からD−アミノ酸を選択的に生成することができる。
また、本発明の第1の側面によれば、上記(A)のタンパク質に対応する遺伝子である、以下の遺伝子も提供される。
(A)配列番号1に示す塩基配列において、下記(a)〜(k)から選択される少なくとも1個の塩基配列の置換を有する塩基配列からなることを特徴とする遺伝子
(a)214〜216位の塩基配列caaの、cgt、cgc、cga、cgg、aga又はaggへの置換
(b)541〜543位の塩基配列ggcの、tgg、aaa、aag、cgt、cgc、cga、cgg、aga、agg、gat、gac、gaa又はgagへの置換
(c)544〜546位の塩基配列ctgの、tgg、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、tgt、tgc、tat、tac、aaa、aag、cgt、cgc、cga、cgg、aga、agg、gat、gac、gaa、gag、cct、ccc、cca又はccgへの置換
(d)547〜549位の塩基配列acgの、cct、ccc、cca、ccg、tta、ttg、ctt、ctc、cta、ctg、aat又はaacへの置換
(e)550〜552位の塩基配列ctgの、cct、ccc、cca又はccgへの置換
(f)553〜555位の塩基配列aatの、cct、ccc、cca、ccg、ttt、ttc、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、gat又はgacへの置換
(g)913〜915位の塩基配列cggの、act、acc、aca、acg、gct、gcc、gca、gcg、ggt、ggc、gga、ggg、cat、cac、caa、cag、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、aat、aac、gtt、gtc、gta又はgtgへの置換
(h)1042〜1044位の塩基配列ctgの、gaa、gag、cct、ccc、cca、ccg、atg、tgg、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、act、acc、aca、acg、tgt、tgc、aaa、aag、cat、cac、caa又はcagへの置換
(i)1051〜1053位の塩基配列ttcの、tta、ttg、ctt、ctc、cta、ctg、att、atc、ata、atg、aat、aac、caa又はcagへの置換
(j)1381〜1383位の塩基配列aacの、att、atc、ata、ttt、ttc、act、acc、aca、acg、aaa、aag、cgt、cgc、cga、cgg、aga又はaggへの置換
(k)1615〜1617位の塩基配列ggcの、cct、ccc、cca、ccg、gtt、gtc、gta、gtg、atg、act、acc、aca、acg、aat又はaacへの置換
配列番号1は、Cupriavidus sp.P4−10−C株のD−サクシニラーゼの塩基配列である。
好ましい実施態様によれば、上記(A)のタンパク質に対応する遺伝子は、配列番号1に示す塩基配列において、544〜546位の塩基配列ctgの、gaa又はgagへの置換、及び1042〜1044位の塩基配列ctgの、att,atc又はataへの置換を有する塩基配列からなる。これは、L182E+L348Iの二重変異体に相当する遺伝子である。
本発明の第1の側面の改変型D−サクシニラーゼのタンパク質は、上記(A)のものに限定されず、(B)(A)のアミノ酸配列において、72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位、及び539位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質も含む。また、本発明の第1の側面の改変型D−サクシニラーゼの遺伝子は、上記(A)のものに限定されず、(B)(A)の塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列からなることを特徴とする遺伝子も含む。これは、タンパク質をコードする遺伝子の塩基配列の一部に変異が生じたり、またその結果としてタンパク質のアミノ酸配列の一部に変異が生じても、機能的には同等のタンパク質であることが多いからである。また、本発明の改変型D−サクシニラーゼの遺伝子を、由来生物以外の宿主生物(大腸菌など)に組込んで本発明の改変型D−サクシニラーゼを発現させる場合、発現効率向上のため、宿主生物のコドンユーセージに合わせて塩基配列を変更することもあるからである。
ここで、「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造や、D−サクシニラーゼ活性及びN−サクシニル−DL−アミノ酸に対するD体選択性を大きく損なわない範囲のものであり、具体的には、1〜50個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個である。ただし、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位を含むアミノ酸配列の場合には、37℃、pH7.0の条件下で配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の3%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上のD−サクシニラーゼ活性を保持していることが望ましい。
また、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件(ここでいう相同性(homology)は、比較する配列間において一致する塩基の数が最大となるような並べ方にして演算された値であることが望ましい)、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である37℃、0.1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは65℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当するに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件が挙げられる。ただし、配列表の配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列の場合には、37℃、pH7.0の条件下で配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質の3%以上、好ましくは10%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上のD−サクシニラーゼ活性を保持していることが望ましい。
本発明の第1の側面のタンパク質及びその遺伝子は、例えばTransformerMutagenesis Kit;Clonetech製、EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製、QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製、KOD−Plus−Mutagenesis Kit;東洋紡製などの市販のキットやPCR法を利用して配列番号1に記載の塩基配列を改変することによって得ることができる。得られた遺伝子によってコードされるタンパク質の活性は、例えば、得られた遺伝子を大腸菌に導入して形質転換体を作成し、この形質転換体を培養して酵素タンパク質を生成させ、この形質転換体、この形質転換体の菌体破砕液もしくは精製した酵素タンパク質をN−サクシニル−DL−アミノ酸に添加してD体に対するL体の分解比率を実施例に記載の方法で測定することによって確認することができる。
本発明の第2の側面は、Cupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼをベースとした改変型D−サクシニラーゼに関する。即ち、本発明の第2の側面によれば、(A)配列番号4に示すアミノ酸配列において、下記(a)〜(e)から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質が提供される。
(a)177位のロイシン残基のアルギニン残基への置換
(b)180位のアスパラギン残基のアスパラギン酸残基への置換
(c)344位のロイシン残基のプロリン残基への置換
(d)347位のフェニルアラニン残基のイソロイシン残基への置換
(e)457位のアスパラギン残基のイソロイシン残基への置換
配列番号4は、Cupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼのアミノ酸配列である。
上記(A)のタンパク質は、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するという特徴を有する。「D体選択的に作用する」の定義などは、第1の側面と同様であるので、説明を省略する。
また、本発明の第2の側面によれば、上記(A)のタンパク質に対応する遺伝子である、以下の遺伝子も提供される。
(A)配列番号3に示す塩基配列において、下記(a)〜(e)から選択される少なくとも1個の塩基配列の置換を有する塩基配列からなることを特徴とする遺伝子
(a)529〜531位の塩基配列ctgの、cgt、cgc、cga、cgg、aga又はaggへの置換
(b)538〜540位の塩基配列aacの、gat又はgacへの置換
(c)1030〜1032位の塩基配列ctgの、cct、ccc、cca又はccgへの置換
(d)1039〜1041位の塩基配列ttcの、att、atc又はataへの置換
(e)1369〜1371位の塩基配列aatの、att、atc又はataへの置換
配列番号3は、Cupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼの塩基配列である。
本発明の第2の側面の改変型D−サクシニラーゼのタンパク質は、上記(A)のものに限定されず、(B)(A)のアミノ酸配列において、177位、180位、344位、347位、及び457位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質も含む。また、本発明の第2の側面の改変型D−サクシニラーゼの遺伝子は、上記(A)のものに限定されず、(B)(A)の塩基配列とストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列からなることを特徴とする遺伝子も含む。「1若しくは数個」及び「ストリンジェントな条件」の定義など、並びに第2の側面のタンパク質及びその遺伝子の作成方法や活性確認方法は、第1の側面と同様であるので、説明を省略する。
以上、Cupriavidus sp.P4−10−C株のD−サクシニラーゼ及びCupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼをベースとした改変型D−サクシニラーゼについて説明したが、本発明の改変型D−サクシニラーゼはこれらの細菌のD−サクシニラーゼをベースとしたものに限定されず、Cupriavidus属の他の細菌を含む近縁種のD−サクシニラーゼをベースとしたものも含む。
Cupriavidus sp.P4−10−C株のD−サクシニラーゼとCupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼは、75%の相同性しか有さないが、実施例で示すように、Cupriavidus sp.P4−10−C株のD−サクシニラーゼのアミノ酸配列において立体選択性に関与することが今回見出されたアミノ酸残基は全て、Cupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼのアミノ酸配列でも保存されている。また、実際に、Cupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼにおいても、これらの保存アミノ酸残基を、Cupriavidus sp.P4−10−C株のD−サクシニラーゼベースの改変型D−サクシニラーゼと同様にアミノ酸置換することによって、D体選択性が向上することが確認されている。さらに、立体選択性に関与するアミノ酸残基は全て、Cupriavidus sp.P4−10−C株とCupriavidus metalliduransの間だけではなく、Cupriavidus sp.P4−10−C株とCupriavidus属の他の細菌との間でも保存されている。これらのことから、Cupriavidus sp.P4−10−C株のD−サクシニラーゼ及びCupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼに限らず、Cupriavidus sp.P4−10−C株又はCupriavidus metalliduransの近縁種のD−サクシニラーゼにおいて、Cupriavidus sp.P4−10−C株又はCupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼのアミノ酸配列中の立体選択性に関与するアミノ酸残基と同等な位置のアミノ酸残基をアミノ酸置換することによって、D体選択性が向上するものと考えられる。
従って、本発明の第3の側面は、Cupriavidus sp.P4−10−C株の近縁種のD−サクシニラーゼをベースとした改変型D−サクシニラーゼ及びその遺伝子に関する。即ち、本発明の第3の側面によれば、配列番号2と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位、及び539位のうちのいずれかと同等な位置のアミノ酸残基が、本発明の第1の側面のタンパク質(A)に示すアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列からなるタンパク質であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有することを特徴とするタンパク質、及びこのタンパク質をコードすることを特徴とする遺伝子が提供される。
本発明の第3の側面の改変型D−サクシニラーゼは、Cupriavidus sp.P4−10−C株のD−サクシニラーゼのアミノ酸配列である配列番号2と70%以上、好ましくは74%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するD−サクシニラーゼをベースとする。このような相同性レベルを有するアミノ酸配列は、公知のアミノ酸配列のデータベースに基づく相同性検索や、Cupriavidus sp.P4−10−C株のD−サクシニラーゼの遺伝子のDNA断片をプローブとしたハイブリダイゼーションにより得ることができる。例えば、相同性検索により得られるアミノ酸配列としては、Cupriavidus necator及びCupriavidus taiwanensisのD−サクシニラーゼのアミノ酸配列が挙げられる。これらのアミノ酸配列は、NCBI(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)に公開されている。なお、NCBIでは、これらのアミノ酸配列は、D−サクシニラーゼの配列ではなくペニシリンGアシラーゼ又はペニシリンGアミダーゼの配列としてそれぞれ登録されている。また、プローブハイブリダイゼーションの場合は、以下に示すようなCupriavidus属の細菌から、該当する相同性レベルのD−サクシニラーゼのアミノ酸配列を得ることができる可能性が高い。
Cupriavidus oxalaticus;
Cupriavidus gilardii;
Cupriavidus basilensis;
Cupriavidus campinensis;
Cupriavidus pauculus;
Cupriavidus pinatubonensis;
Cupriavidus respiraculi;
Cupriavidus sp。
なお、上述のCupriavidus属の細菌の中には、Ralstonia(ラルストニア)属の細菌として文献に表記されているものもあるが、Cupriavidus属が正式な属名として一般的に使用されてきている。これらの細菌の学術名は、将来の再分類により、統一又は変更される可能性がある。
本発明の第3の側面において、改変のベースとするD−サクシニラーゼは、Cupriavidus sp.P4−10−C株の近縁種からの野生型D−サクシニラーゼに限定されず、これらの野生型D−サクシニラーゼに何らかの変異を生じさせたものも、配列番号2と70%以上の相同性を有する限り、改変のベースとして使用することができる。
本発明の第3の側面において、改変は、これらのベースとするD−サクシニラーゼのアミノ酸配列中の、配列番号2の72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位、及び539位のうちのいずれかと同等な位置のアミノ酸残基を、本発明の第1の側面の改変型D−サクシニラーゼと同じアミノ酸残基に置換することによって行われる。ここで、「配列番号2の72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位、及び539位のうちのいずれかと同等な位置」は、ベースとするD−サクシニラーゼのアミノ酸配列を配列番号2のアミノ酸配列とアラインメントさせることによって特定することができる。アラインメントは、Blastなどの公知のアルゴリズムに基づく市販のアミノ酸配列解析ソフトを使用して容易に行うことができる。例えば、先に例示したCupriavidus属の細菌のうち、Cupriavidus necator及びCupriavidus taiwanensisのD−サクシニラーゼのアミノ酸配列の場合、配列番号2のアミノ酸配列とのアラインメント結果は、図3に示す通りであり、図3中の網掛けされた位置のアミノ酸残基が「配列番号2の72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位、及び539位のうちのいずれかと同等な位置」のアミノ酸残基に相当する。アミノ酸置換は、例えばTransformerMutagenesis Kit;Clonetech製、EXOIII/Mung Bean Deletion Kit;Stratagene製、QuickChange Site Directed Mutagenesis Kit;Stratagene製、KOD−Plus−Mutagenesis Kit;東洋紡製などの市販のキットやPCR法を利用して、ベースとするD−サクシニラーゼのアミノ酸配列に相当する塩基配列を部位特異的に変異させることによって行うことができる。得られた遺伝子によってコードされるタンパク質の活性は、例えば、得られた遺伝子を大腸菌に導入して形質転換体を作成し、この形質転換体を培養して酵素タンパク質を生成させ、この形質転換体、この形質転換体の菌体破砕液もしくは精製した酵素タンパク質をN−サクシニル−DLアミノ酸に添加してD体に対するL体の分解比率を実施例に記載の方法で測定することによって確認することができる。
また、本発明の第4の側面は、Cupriavidus metalliduransの近縁種のD−サクシニラーゼをベースとした改変型D−サクシニラーゼ及びその遺伝子に関する。即ち、本発明の第4の側面によれば、配列番号4と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列において、配列番号4の177位、180位、344位、347位、及び457位のうちのいずれかと同等な位置のアミノ酸残基が、本発明の第2の側面のタンパク質(A)に示すアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列からなるタンパク質であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有することを特徴とするタンパク質、及びこのタンパク質をコードすることを特徴とする遺伝子が提供される。
本発明の第4の側面の改変型D−サクシニラーゼは、Cupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼのアミノ酸配列である配列番号4と70%以上、好ましくは74%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するD−サクシニラーゼをベースとする。このような相同性レベルを有するアミノ酸配列は、公知のアミノ酸配列のデータベースに基づく相同性検索や、Cupriavidus metalliduransのD−サクシニラーゼの遺伝子のDNA断片をプローブとしたハイブリダイゼーションにより得ることができ、具体的なアミノ酸配列としては、本発明の第3の側面で例示したものと同様のものが例示される。
本発明の第4の側面において、改変のベースとするD−サクシニラーゼは、Cupriavidus metalliduransの近縁種からの野生型D−サクシニラーゼに限定されず、これらの野生型D−サクシニラーゼに何らかの変異を生じさせたものも、配列番号4と70%以上の相同性を有する限り、改変のベースとして使用することができる。
本発明の第4の側面において、改変は、これらのベースとするD−サクシニラーゼのアミノ酸配列中の、配列番号4の177位、180位、344位、347位、及び457位のうちのいずれかと同等な位置のアミノ酸残基を、本発明の第2の側面の改変型D−サクシニラーゼと同じアミノ酸残基に置換することによって行われる。ここで、「配列番号4の177位、180位、344位、347位、及び457位のうちのいずれかと同等な位置」は、ベースとするD−サクシニラーゼのアミノ酸配列を配列番号4のアミノ酸配列とアラインメントさせることによって特定することができる。アラインメントは、Blastなどの公知のアルゴリズムに基づく市販のアミノ酸配列解析ソフトを使用して容易に行うことができる。例えば、先に例示したCupriavidus属の細菌のうち、Cupriavidus necator及びCupriavidus taiwanensisのD−サクシニラーゼのアミノ酸配列の場合、配列番号4のアミノ酸配列とのアラインメント結果は、図3に示す通りであり、図3中の網掛けされた位置のアミノ酸残基が「配列番号4の177位、180位、344位、347位、及び457位のうちのいずれかと同等な位置」のアミノ酸残基に相当する。アミノ酸置換の方法、及び得られたタンパク質の活性の確認方法は、第3の側面と同様であるので、説明を省略する。
次に、本発明の改変型D−サクシニラーゼの製造方法について説明する。本発明の改変型D−サクシニラーゼは、その遺伝子を適当なベクターに挿入して組換えベクターを調製し、この組換えベクターで適当な宿主細胞を形質転換して形質転換体を調製し、この形質転換体を培養することによって容易に製造することができる。
ベクターとしては、原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で複製保持または自律増殖できるものであれば特に限定されず、プラスミドベクターおよびファージベクター、ウィルスベクター等が包含される。組換えベクターの調製は、常法に従って行えばよく、例えば、これらのベクターに、本発明の改変型D−サクシニラーゼの遺伝子を適当な制限酵素およびリガーゼ、あるいは必要に応じてさらにリンカーもしくはアダプターDNAを用いて連結することにより容易に行うことができる。また、Taqポリメラーゼのように増幅末端に一塩基を付加するようなDNAポリメラーゼを用いて増幅作製した遺伝子断片であれば、TAクローニングによるベクターへの接続も可能である。
また、宿主細胞としては、従来公知のものが使用可能であり、組換え発現系が確立しているものであれば特に制限されないが、好ましくは大腸菌、枯草菌、放線菌、麹菌、酵母といった微生物ならびに昆虫細胞、動物細胞、高等植物などが挙げられ、より好ましくは微生物が挙げられ、特に好ましくは大腸菌(例えば、K12株、B株など)が挙げられる。形質転換体の調製は、常法に従って行えばよい。
得られた形質転換体を、その宿主細胞に応じた適当な培養条件で一定期間培養すれば、組込まれた遺伝子から本発明の改変型D−サクシニラーゼが発現されて、形質転換体中に蓄積する。
形質転換体中に蓄積した本発明の改変型D−サクシニラーゼは、未精製のまま用いることができるが、精製したものを使用しても良い。この精製方法としては、従来公知のものが使用可能であり、例えば、培養後の形質転換体あるいはその培養物を適当な緩衝液中でホモジナイズし、超音波処理や界面活性剤処理等により細胞抽出液を得、そこからタンパク質の分離精製に常套的に利用される分離技術を適宜組み合わせることにより行うことができる。このような分離技術としては、塩析、溶媒沈澱法等の溶解度の差を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、非変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)などの分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーなどの荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動などの等電点の差を利用する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
次に、本発明の改変型D−サクシニラーゼを用いてD−アミノ酸を製造する方法について説明する。本発明によるD−アミノ酸は、本発明の改変型D−サクシニラーゼを用いてN−サクシニル−DL−アミノ酸(ラセミ体)中のN−サクシニル−D−アミノ酸(D体)を特異的に加水分解する工程によって製造される。
この工程は、具体的には、適当な溶液中に、本発明の改変型D−サクシニラーゼと原料のN−サクシニル−DL−アミノ酸を溶解させて反応液を調製し、この反応液を適当な条件で反応させることによって行うことができる。
使用する溶液は、蒸留水でもよいが、必要により、リン酸塩やトリスなどの緩衝剤を使用してもよい。緩衝剤を使用する場合、その濃度は20〜200mMであることが好ましく、pHは6〜8であることが好ましい。
本発明の改変型D−サクシニラーゼは、反応液中10〜3000mg/L(100〜30000U/L)の濃度で使用されることが好ましい。
本発明の改変型D−サクシニラーゼと反応させるN−サクシニル−DL−アミノ酸は、種々の公知の方法によって合成することができ、例えばSakai A.et al.,Biochemistry,2006,45(14),4455−62に記載の方法によって合成することができる。原料のDL−アミノ酸の種類は、製造したいD−アミノ酸の種類に応じて適宜選択すればよく、天然に存在する20種のアミノ酸およびビフェニルアラニン、シクロヘキシルグリシン、4−ブロモフェニルアラニンなどの非天然アミノ酸およびその誘導体であることができる。反応液中のN−サクシニル−DL−アミノ酸の濃度は、特に限定されないが、一般的に1重量%〜30重量%である。
本発明のD−アミノ酸の製造方法では、反応液を反応させる温度は、本発明の改変型D−サクシニラーゼが十分作用する温度であれば特に限定されないが、一般的には5〜60℃が好ましく、10〜55℃がより好ましく、30〜50℃がさらに好ましい。また、反応時のpHは、本発明の改変型D−サクシニラーゼが十分作用するpHであれば特に限定されないが、一般的にはpH5〜10が好ましく、pH6〜9がより好ましい。反応時間は、特に限定されないが、一般的に1〜120時間程度、好ましくは1〜72時間程度、さらに好ましくは1〜24時間程度である。反応時間は、製造したいD−アミノ酸の種類と所望の収量、収率、使用する酵素や基質の量、量比、反応温度や反応pHなどを考慮し、実験的に適宜選択することができる。
なお、本発明のD−アミノ酸の製造方法で使用する改変型D−サクシニラーゼは、精製されたものや未精製のもの(粗酵素液など)に限定されず、形質転換体中に含まれた状態のものであってもよい。この場合は、形質転換体を反応系に添加して、形質転換体を培養させながら同時に反応を進行させるか、又は予め培養された形質転換体を反応系に添加すればよい。
好ましくは、本発明のD−アミノ酸の製造方法は、N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼを用いてN−サクシニル−L−アミノ酸をラセミ化してN−サクシニル−D−アミノ酸を生成させる工程をさらに含む。本発明の改変型D−サクシニラーゼは、N−サクシニル−DL−アミノ酸(ラセミ体)中のN−サクシニル−D−アミノ酸を主に加水分解するため、このままではラセミ体のうち、N−サクシニル−L−アミノ酸の多くが無駄になってしまう。そこで、N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼを用いてN−サクシニル−L−アミノ酸をラセミ化してN−サクシニル−D−アミノ酸を生成させてやれば、残ったN−サクシニル−L−アミノ酸もD−アミノ酸に変換することができる。
N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼは、N−サクシニルアミノ酸のL体をD体に変換する反応とD体をL体に変換する反応の両方を触媒してその比率をほぼ等しく(ラセミ化)する酵素である。本発明の製造方法で使用するN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼは、N−サクシニルアミノ酸をラセミ化することができれば特に限定されず、特開2007−82534号公報に記載されたN−アシルアミノ酸ラセマーゼや特開2008−61642号公報に記載されたN−アシルアミノ酸ラセマーゼなどの従来公知のものを使用することができる。
N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼを用いてN−サクシニル−D−アミノ酸をラセミ化する反応は、例えば以下の条件でN−サクシニルアミノ酸、N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼおよび緩衝剤を含む反応溶液中で混合することにより行なう。反応温度は、使用するN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼが十分作用する温度であれば特に限定されないが、一般的には25〜70℃が好ましく、37〜60℃がより好ましい。反応時のpHは、使用するN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼが十分作用するpHであれば特に限定されないが、一般的にはpH5〜9が好ましく、pH6〜8がより好ましい。N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼは、反応液中50〜15000mg/L(5000〜1500000U/L)の濃度で使用されることが好ましい。N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼは、2価の金属イオンを0.1mM〜1M(好ましくは0.1〜1mM)の終濃度で添加することにより、活性が著しく向上する。添加する2価の金属イオンとしては、Mn2+,Co2+,Mg2+,Fe2+およびNi2+が挙げられる。N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼの反応に用いる緩衝剤は、D−サクシニラーゼの反応に用いる緩衝剤と同様のものが使用できる。なお、特開2007−82534号に記載のN−アシルアミノ酸ラセマーゼは、その後の研究により、N−サクシニルアミノ酸をより好適な基質とするN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼであることが判明している。従って、特開2007−82534号に記載のN−アシルアミノ酸ラセマーゼは、本発明のD−サクシニラーゼと組合せて使用することができる。
前述のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼによるラセミ化反応とD−サクシニラーゼによる加水分解反応は、別々に行なうことも可能であるが、同時に行なわれることが好ましい。同時に行われる場合、微視的に見ると、まずN−サクシニル−DL−アミノ酸のうちD体が本発明のD−サクシニラーゼにより加水分解(脱サクシニル化)され、目的のD−アミノ酸が生成する。基質のD体が消費されるとラセミ状態が解消されるため、N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼはL体をD体に変換する反応をより促進する。N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼにより生成したN−サクシニル−D−アミノ酸は、本発明のD−サクシニラーゼにより順次D−アミノ酸へと分解される。この繰返しにより、理論的にはほぼすべてのN−サクシニル−DL−アミノ酸をD−アミノ酸に変換することができる。ラセミ化反応および加水分解反応を同時に行う場合の反応条件は、N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼおよび本発明のD−サクシニラーゼが活性を発揮する条件の範囲内であれば特に限定しないが、基質濃度1重量%〜30重量%、pH6〜8、温度40〜50℃で行うことが好ましい。ラセミ化反応および加水分解反応に要する時間は、原料として用いるN−サクシニル−DL−アミノ酸が、所望する量のD−アミノ酸へと変換し得るまでの時間であれば特に制限されず、仕込み量によっても異なるが、一般的に1日〜7日程度である。
以下、本発明を実施例により、具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
本実施例において、N−サクシニルトリプトファン、N−サクシニルフェニルアラニン、N−サクシニルビフェニルアラニンの定量は、特に記載がない場合は、目的に応じて、以下の分析条件で定量した。
N−サクシニル−D−アミノ酸又はN−サクシニル−L−アミノ酸などの光学活性体を定量する場合は、ジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−3」(5μm、4.6×100mm)を利用した高速液体クロマトグラフィーにより行った。
N−サクシニルトリプトファンの分析
移動相:pH2.3リン酸水溶液/アセトニトリル=75/25
流速:0.7ml/min
カラム温度:40℃
検出:UV280nm
N−サクシニルフェニルアラニンの分析
移動相:pH2.3リン酸水溶液/アセトニトリル=75/25
流速:0.7ml/min
カラム温度:40℃
検出:UV210nm
N−サクシニルビフェニルアラニンの分析
移動相:pH2.3リン酸水溶液/アセトニトリル=75/25
流速:1.5ml/min
カラム温度:40℃
検出:UV254nm
また、光学純度を測定する際には、ダイセル化学工業株式会社製光学分割カラム「CHIRALPAK QN−AX」(5μm、4.6×150mm)により行った。分析条件は以下に示した通りである。
N−サクシニルトリプトファン、N−サクシニルフェニルアラニン及びN−サクシニルビフェニルアラニンの分析
移動相:メタノール/0.2M酢酸=90/10(V/V)アンモニアでpH7.0
に調製
流速:1.0ml/min
カラム温度:35℃
検出:UV210nm
また、N−サクシニルアミノ酸が加水分解(脱サクシニル化)されて生成する遊離体のD−アミノ酸及びL−アミノ酸を定量する際は、ダイセル化学工業株式会社製光学分割カラム「CROWNPAK CR(+)」(5μm、4.0×150mm)により行った。分析条件は以下に示した通りである。
DL−トリプトファンの分析
移動相:過塩素酸水溶液(pH2.0)/メタノール=90/10
流速:0.7ml/min
カラム温度:15℃
検出:UV280nm
DL−フェニルアラニンの分析
移動相:過塩素酸水溶液(pH2.0)
流速:1.2ml/min
カラム温度:15℃
検出:UV210nm
DL−ビフェニルアラニンの分析
移動相:過塩素酸水溶液(pH2.0)/メタノール=85/15
流速:1.5ml/min
カラム温度:50℃
検出:UV254nm
本発明におけるD−サクシニラーゼの活性は、以下のD−アミノ酸オキシダーゼ法により測定することができる。
<試薬>
14mM N−サクシニル−D−バリン
2.5(U/mL) ペルオキシダーゼ(東洋紡製PEO−302)
1.5mM 4−アミノアンチピリン(第一化学薬品製)
2.4mM TOOS(同人化学研究所製)
6.0(U/mL) D−アミノ酸オキシダーゼ(バイオザイム製DOX2)
を含む25mMリン酸緩衝溶液を反応試薬とする。
なお、N−サクシニル−D−トリプトファンに対する酵素活性を測定する際には、14mM N−サクシニル−D−バリンの代わりに、33mM N−サクシニル−D−トリプトファンを使用した。
N−サクシニル−D−バリンの合成は以下のようにして行った。D−バリン(ナカライテスク製、4.7g)と無水コハク酸(ナカライテスク製、4.0g)を40mLの酢酸(ナカライテスク製)に溶解した。溶液を50〜60℃に加熱し、溶媒を揮発させて結晶化した。次に、結晶化した白い沈殿を集めて、酢酸エチル20mLとメタノール20mLの混合液にて再結晶化した。沈殿を乳鉢で破砕し、乾燥させ、N−サクシニル−D−バリンを得た。詳細はSakai A.et al.,Biochemistry,2006,45(14),4455−62に記載されている。
<測定条件>
反応試薬3.0mLを37℃で5分間予備加温する。酵素溶液0.1mLを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、555nmの吸光度変化を5分記録し、直線部分から1分間あたりの吸光度変化(ΔODTEST)を測定する。盲検は、酵素溶液の代わりに酵素を溶解する溶液を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を測定する。これらの値から次の式に従ってD−サクシニラーゼ活性を求める。ここでD−サクシニラーゼ活性における1単位(U)とは、上記条件下で1分間に1マイクロモルのD−アミノ酸を生成する酵素量として定義する。

活性(U/mL)=
{(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.1×希釈倍率}/{31.0×1/2×0.1×1.0}

なお、式中の3.1は反応試薬+酵素溶液の液量(mL)、31.0は本活性測定条件におけるミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)、1/2は酵素反応で生成したHの1分子から形成するQuinoneimine色素が1/2分子であることによる係数、0.1は酵素溶液の液量(mL)、1.0はセルの光路長(cm)を示す。
また、N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼの活性測定は、以下に述べる方法で行った。
HEPES(1.0M/pH7.9)を10μl(終濃度100mM)、酢酸コバルトを1μl(終濃度0.1mM)滅菌蒸留水を49μlを混和し、この溶液に酵素液10μlを加え、この反応液に、基質となるN−サクシニル−D−フェニルアラニン溶液を30μl(終濃度60mM)を加えて30℃で反応を行い、適当な時間で移動相(メタノール/0.2M酢酸=90/10(V/V)アンモニアでpH7.0に調製したもの)により反応停止させた。生成したN−サクシニル−L−フェニルアラニンを高速液体クロマトグラフィーにより定量し、酵素活性を算出する。酵素活性はN−サクシニル−D−フェニルアラニンからN−サクシニル−L−フェニルアラニンが1分間に1μmole生成された場合を1unit(U)と定義した。
参考例1 Cupriavidus sp.P4−10−C株由来D−サクシニラーゼ遺伝子(以下、P4DSA遺伝子と称する)のクローニング
(1)野生型D−サクシニラーゼの精製
Cupriavidus sp.P4−10−C株(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6の独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに受託番号FERM BP−11387として2011年6月28日に国際寄託済)を、普通ブイヨン“栄研”1.8%に、粉末酵母エキスD−3 0.2%(和光純薬工業(株)製、Code:390−00531)、カザミノ酸「ダイゴ」0.1%(和光純薬工業(株)製、Code:392−00655)、リン酸水素二カリウム0.3%、及びグルコース0.2%を添加したpH7.5の培地で培養した。具体的には、500mLフラスコに上記培地200mLを加えオートクレーブ滅菌した培地27本を用い、35℃、150r/min、回転攪拌で2日間培養した。培養終了時の濁度(ABS660nm)は2.7であり、pHは8.6であった。培養後、冷却遠心分離機(日立工機(株)製)を用い、8000r/minで30分間遠心分離を行い、集菌した。集菌した菌体を、20mM HEPES−NaOH(pH7.5)緩衝液で洗浄した後、再度遠心分離し、菌体を36g得た。取得菌体量の約3倍の20mM HEPES−NaOH(pH7.5)緩衝液100mLで懸濁後、氷冷下の超音波細胞破砕装置 BD−1(東湘電気(株)製)を用い、5分サイクルで10回超音波破砕を行った。破砕後、高速冷却遠心機(日立工機(株)製)で8000r/min、4℃、60分間遠心分離し、上清液178mLを得た。これを粗酵素液とした。なお、本菌株は培養時にN−サクシニル−D−フェニルアラニンを添加しなくともD−サクシニラーゼを産生した。粗酵素液を透析チューブに詰め、20mM HEPES−NaOH(pH7.5)1.2M硫酸アンモニウム含有緩衝液中に投入し、低温室内(4℃)で攪拌を行いながら、数回緩衝液を交換し、一昼夜透析を行った。透析終了後、高速冷却遠心機(日立工機(株)製)で4000r/min、4℃、30分間遠心分離し、上清液100mLを得た。この上清液100mLを、予め20mM HEPES−NaOH(pH7.5)1.2M硫酸アンモニウム含有緩衝液で平衡化したButyl−TOYOPEARL 650Mカラム(東ソー(株)製)(3.2cmφ×20cm)に供して目的酵素を吸着させ、20mM HEPES−NaOH(pH7.5)1.2M硫酸アンモニウム含有緩衝液と20mM HEPES−NaOH(pH7.5)緩衝液を総量2000mL用い、直線濃度勾配法で酵素を溶出し、D−サクシニラーゼ活性のある画分を回収した。Butyl−TOYOPEARLで得られた活性画分を70%硫酸アンモニウム飽和にて濃縮し、遠心分離10,000r/min、4℃、60分間にて沈殿を回収した。回収した硫安沈殿を、5mMリン酸緩衝液(pH7.2)で透析した。この透析した酵素液33mLを、予め5mMリン酸緩衝液(pH7.2)で平衡化したMacro−Prep CHT TypeI(BIO−RAD社製)ハイドロキシアパタイトカラム(1.6cmφ×20cm)に吸着させた。次に、5mMリン酸緩衝液(pH7.2)と300mM リン酸緩衝液(pH7.2)を総量150mL用いて直線濃度勾配法で酵素を溶出し、D−サクシニラーゼ活性のある画分を回収した。Macro−Prep CHT TypeIにより得られた活性画分130mLを、ビバスピン 20(ザルトリウス(株)製)分画分子量10000の限外ろ過膜を用いて、20mLに濃縮した。回収した濃縮液を、20mM HEPES−NaOH(pH7.5)酸緩衝液で透析した。この透析液を、予め20mM HEPES−NaOH(pH7.5)緩衝液で平衡化したHi Trap Q F.F.カラム5mL(GEヘルスケア バイオサイエンス社製)に供し、続いて20mM HEPES−NaOH(pH7.5)と20mM HEPES−NaOH(pH7.5)0.3M塩化ナトリウム酸緩衝液を総量200mL用いて直線濃度勾配法で酵素を溶出し、D−サクシニラーゼ活性のある画分を回収した。D−サクシニラーゼ活性が確認された画分の少量を定法のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)分析に供し、不純蛋白質が混在しない画分を回収し、新規D−サクシニラーゼを得た。精製後の電気泳動結果を図1に示す。
(2)部分アミノ酸配列の取得
SDS−PAGE後に該酵素に相当するバンドをアクリルアミドゲル上からPVDF膜(Bio−Rad:シーケ−ブロットPVDFメンブレン)に転写し、N末端アミノ酸配列分析、及び内部アミノ酸配列分析を行い、約60kDaのバンドから内部アミノ酸配列;SNNWVIAGSRTSTGR、約23kDaのバンドからN末端アミノ酸配列;APPTDRYAAPGLEKPと内部アミノ酸配列;MARDFGPAYVDGDRRを得た。
(3)染色体DNAの調製
培養液50mLの菌体を遠心分離操作に供し、ゲノム抽出キット(東洋紡:Genomic DNA purification Kit)を用いて、そのプロトコールに従ってゲノム精製を行った。しかし、本キットで精製したゲノムDNAでは全長配列のクローニングのためのPCR反応において、長鎖のDNA断片を増幅させることができなかった。PCR条件を検討しても改善は見られなかったため、これはゲノムDNAの純度に問題があると考え、「current protocols in molucular biology」に記載されている公知の方法に基づいて、再びゲノムDNAの抽出を行った。まず、50mLの培地で培養し、集菌した菌体をTE(50mM Tris−HCl(pH8.0)、20mM EDTA)に懸濁して洗浄し、遠心分離操作により菌体を回収した後、再びこの菌体を11.3mLのTEに懸濁した。さらに、この懸濁液に0.06mlの20mg/mLプロテイナーゼK溶液、0.6mLの10%SDS溶液を加えた後、37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、2mLの5M NaCl溶液を加えて十分に攪拌し、1.6mLのCTAB/NaCl溶液(10% CTAB/0.7M NaCl)を混合し、65℃で10分間インキュベートした。インキュベート後、等量の25/24/1=フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液で除タンパクを行った。通常の細菌であれば、この工程で水層に濁りは見られないが、本菌においては濁りが残っていた。そこで、もう一度、等量の25/24/1=フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液で除タンパクを行った。これにより、濁りが完全に除去されたので、続いて、分離した水層に対して等量の24/1=クロロホルム/イソアミルアルコールを加えて混合し、水層を回収した。これと等量のイソプロパノールを加えてDNAを沈殿させ、回収した。沈殿したDNAを0.5mLのTEに溶解した後、5μlの10mg/mL RNaseを加えて、37℃で一晩反応させた。反応後、等量の25/24/1=フェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール溶液で除タンパクを行い、24/1=クロロホルム/イソアミルアルコールを加えて攪拌し、水層を回収した。この操作をさらに2回行った後に得られた水層に終濃度0.4Mとなるように3M酢酸ナトリウム溶液(pH5.2)を加え、さらに2倍容のエタノールを加えた。沈殿となって生じたDNAを回収し、70%エタノールで洗浄、乾燥させ、1mLのTEに溶解させた。
(4)P4DSA遺伝子の全長配列取得
上記(2)で同定したアミノ酸配列をもとに縮重プライマーを合成し(表1の配列番号5、6)、Cupriavidus sp.P4−10−Cから、上記(3)で抽出したゲノムDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼKOD−Plus(東洋紡製)を用いて推奨する条件のもとPCRを行った。該PCRで増幅されたPCR産物をクローニングキットTarget Clone−Plus(東洋紡製)を用いて、そのプロトコールに従って操作を行い、ベクターpBluescriptにクローニングし、エシェリヒア・コリー(Escherichia coli)DH5α株コンピテントセル(東洋紡製)に形質転換し、該形質転換体を取得した。該形質転換体をLB培地で培養し、プラスミドを抽出し、BigDye(商標登録)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)により遺伝子配列を確認し、部分配列575bpを取得した。さらに、全長配列を取得するために以下のような操作を行った。TAKARA LA PCR In Vitro Cloning Kit(タカラバイオ製)を用いて、そのプロトコールに従って操作を行い、既知配列からC末端方向へのDNA断片を増幅させることに成功し、開始コドンを含むN末端から既知の部分遺伝子配列までの塩基配列を決定した。しかしながら、上記キットではC末端側の塩基配列を決定することができなかったため、既知の塩基配列に基づき、遺伝子の外側方向に向けた2種類のプライマー(表1の配列番号7、8)を新たに設計した。このプライマーを用い、先に得たDNAを鋳型にInverse PCR法を行った。これにより、既に取得した部分遺伝子より外側の遺伝子部分を含むDNA断片を取得し、C末端配列を決定した。続いて、酵素のN末端より上流と推定される部分にNdeIの切断部位を結合させた配列を有するDNAプライマー(表1の配列番号9)とC末端より下流と推定される部分にEcoRIの切断部位を結合させた配列を有するDNAプライマー(表1の配列番号10)を用いて、この配列の間のDNAを先に得たDNAを鋳型にしたPCRにより増幅することでサクシニラーゼ遺伝子の全長を含むDNA断片を取得した。得られたDNA断片の塩基配列を解析し、D−サクシニラーゼ遺伝子の全長が含まれていることを確認し、そのアミノ酸配列を推定した。得られた塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ、配列表の配列番号1及び2に示す。
(5)取得できたP4DSAの塩基配列
上記(4)で得られたCupriavidus sp.P4−10−C株由来D−サクシニラーゼ遺伝子をNCBI−BLAST(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)により検索すると、Cupriavidus melallidurans CH34のpeptidase S45,penicillin amidase(ACCESSION No.YP_587763)として登録されている遺伝子と76%の相同性を示した。このpenicillin amidaseが属しているpenicillin acylaseファミリーは、ペニシリンGやセファロスポリンC等を加水分解する酵素であり、このような酵素がN−サクシニル−D−アミノ酸を加水分解することを推定することは困難であり、機能から予測してホモロジー検索により本遺伝子を取得することは不可能に近いものであった。
参考例2 Cupriavidus metallidurans株由来D−サクシニラーゼ遺伝子(以下、CmDSA遺伝子と称する)のクローニング
また、Cupriavidus sp.P4−10−Cの近縁種であるCupriavidus metallidurans由来のD−サクシニラーゼのクローニングも行った。
(1)CmDSAのクローニング
独立行政法人製品評価技術基盤機構よりCupriavidus metallidurans(NBRC番号101272)の菌株を取得し、液体培地で培養した。培養して得た菌体から、ゲノム抽出キット(東洋紡:Genomic DNA purification Kit)によりゲノムを抽出した。遺伝子特異的プライマーを合成し(表7の配列番号43、44)、得られたゲノムを鋳型にDNAポリメラーゼKOD−Plus(東洋紡製)を用いたPCRにより遺伝子を取得した。クローニングキットTarget Clone−Plus(東洋紡製)を用いて、そのプロトコールに従って操作を行い、ベクターpBluescriptにクローニングし、組換え発現プラスミドpCmDSAを取得した。pCmDSAをエシェリヒア・コリー(Escherichia coli)DH5α株コンピテントセル(東洋紡製)に形質転換し、該形質転換体を取得した。該形質転換体をLB培地で培養し、プラスミドを抽出し、BigDye(商標登録)Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)により遺伝子配列を確認し、アミノ酸配列を推定した。得られた塩基配列及びアミノ酸配列をそれぞれ、配列表の配列番号3及び4に示す。
参考例3 P4DSA遺伝子発現プラスミドの構築
参考例1で得られたD−サクシニラーゼ遺伝子のN末端、C末端部分にそれぞれ制限酵素NdeI及びEcoRIの切断部位を結合させた配列を有するプライマー(表1の配列番号9、10)を用いて、この間のDNAを参考例1で得たゲノムDNAを鋳型にしたPCRにより増幅することで、オープンリーディングフレームを含むDNA断片を取得した。このDNA断片を制限酵素NdeIとEcoRIで切断し、同酵素で切断したベクタープラスミドpBSKと混合し、混合液と等量のライゲーション試薬(東洋紡製ラーゲーションハイ)を加えてインキュベーションすることにより、ライゲーションを実施した。このようにライゲーションしたDNAをエシェリヒア・コリーDH5α株コンピテントセル(東洋紡績製コンピテントハイDH5α)に当製品に添付のプロトコールに従ってそれぞれ形質転換し、該形質転換体を取得した。このようにしてD−サクシニラーゼ遺伝子を大量に発現できるように設計されたpBSKP4DSAを取得した。
参考例4 P4DSA発現E.coliの作製
参考例3で構築したプラスミド、pBSKP4DSAをエシェリヒア・コリーDH5α株コンピテントセル(東洋紡績製コンピテントハイDH5α)に当製品に添付のプロトコールに従ってそれぞれ形質転換し、該形質転換体を取得した。
参考例5 N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼの調製
特開2007−82534号公報の実施例に記載の方法で、Chloroflexus aurantiacus(クロロフレクス・アウランチアクス)由来のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼを調製し、25.6(KU/mL)、100(mg/mL)の精製酵素標品を得た。
実施例1 改変型P4DSAの調製
(1)改変型P4DSA遺伝子を含む発現プラスミドの作成
参考例1で得られたpBSKP4DSAのP4DSA遺伝子全長を増幅するよう設計したプライマーを用いて、P4DSA遺伝子に変異が生じるよう、クロンテック社製、Diversify PCR Random Mutagenesis KitでPCR反応を実施した。続いて、反応液を制限酵素NdeIとEcoRIで処理後、アガロースゲル電気泳動に供し、ランダムな変異を生じたP4DSA遺伝子のNdeI+EcoRI断片をゲルから回収した。また、pBSKP4DSAを制限酵素NdeIとEcoRIで処理し、同様にしてpBSKP4DSAのベクターNdeIとEcoRI断片を回収した。最後に、ランダムな変異を生じたP4DSA遺伝子のNdeI+EcoRI断片とpBSKP4DSAのNdeI+EcoRIベクター断片とをライゲーションし、ランダムな変異を有するP4DSA遺伝子が挿入されたpBSKP4DSAのプラスミド集団を作成した。
(2)D体選択的に作用する改変型D−サクシニラーゼのスクリーニング
(1)で調製したpBSKP4DSAのプラスミド集団を用いて、エシェリヒア・コリーDH5α株コンピテントセル(東洋紡績製コンピテントハイDH5α)に、当製品に添付のプロトコールに従ってそれぞれ形質転換を行った。そうして得られたコロニー、約5,000株をLB培地(アンピシリン50μg/mLを含む)にそれぞれ接種し、37℃で16時間振とう培養した。その培養液から遠心分離により調製した菌体を、N−サクシニル−D−トリプトファン溶液(25mM KPB(pH7.0)、100mM N−サクシニル−D−トリプトファン)及びN−サクシニル−L−トリプトファン溶液(25mM KPB(pH7.0)、100mM N−サクシニル−L−トリプトファン)とそれぞれ混合し、37℃で16時間反応させた。その反応液の一部をTLCプレート(Merck社製)に供し、n−ブタノール:酢酸:水(3:1:1、v/v)からなる展開溶媒で展開し、ニンヒドリンスプレーにより、D−トリプトファン、L−トリプトファンを検出し、D−トリプトファンのスポットに対するL−トリプトファンのスポットの割合が野生型よりも小さい、即ち、野生型P4DSAと比較して、D体に反応しやすい変異株を選抜した。結果の一例を図2に示す。図2中、変異株2や変異株3が望ましい変異体であり、このような変異体を選抜した。そして、立体選択性が向上した変異株よりプラスミドを抽出し、P4DSA遺伝子全塩基配列を確認し、変異箇所を同定した。その結果、72番目、176番目、181〜185番目、286番目、305番目、348番目、351番目、388番目、461番目、518番目及び539番目のアミノ酸残基が立体選択性向上に寄与している部位として候補に挙がった。
(3)改変型プラスミドの構築(置換アミノ酸の至適化)
(1)で得た変異株の中には、複数のアミノ酸変異をもつ変異株もあったため、また、置換するアミノ酸の種類を検討するために、部位特異的(Site−Directed mutagenesis)に変異させた改変型DSA発現プラスミドを作成した。部位特異的変異の作製には、STRATAGENE社製QuikChange Site−Directed mutagenesis Kitを使用した。また、変異させる際には、置換アミノ酸の至適化も行うため、(2)で立体選択性向上に寄与していると推測された72番目、181〜185番目、305番目、348番目、351番目、461番目及び539番目のアミノ酸残基それぞれを20種のアミノ酸に置換するように、かつ、2本鎖DNAのそれぞれの鎖に相補的になるように設計した合成オリゴDNAプライマーをそれぞれ合成した(配列番号11〜42)。なお、一部の合成オリゴDNAプライマーは、置換されるアミノ酸が1種類になるように、合成した。変異導入に使用した合成オリゴDNAプライマーの配列を表2に示す。
改変型酵素の名称は、「野生型酵素のアミノ酸配列中のアミノ酸残基→残基番号→置換したアミノ酸残基」の順に表記する。例えば、L182R改変型酵素は野生型酵素のアミノ酸配列中の182番目のLeu(L)残基をArg(R)残基に置換した改変型酵素であることを意味する。なお、表2中のL182XのXとは、20種類のアミノ酸のうちの任意のアミノ酸を意味するものである。
これらのプライマーを使用し、上記キットの方法に従い、参考例1にて採取した野生型P4DSA発現プラスミドpBSKP4DSAを鋳型として、改変型プラスミドを作製した。例えば、L182Rの作製にあたっては、pBSKP4DSAを鋳型として、配列番号17及び18のプライマーを用いて、以下のPCR条件で改変型P4DSA発現プラスミドを増幅した。
98℃ 10秒
60℃ 30秒
68℃ 6分 × 25サイクル
次に、メチル化DNAを認識して切断する制限酵素DpnI処理によって鋳型pBSKP4DSAを切断し、得られた反応液でE.coli DH5αを形質転換した。形質転換体からプラスミドを回収して塩基配列を決定し、正しく変異が導入されていることを確認すると共に、コードしているアミノ酸残基を確認した。
(4)改変型P4DSA発現E.coliの作製及び粗酵素液の調製
改変型P4DSA遺伝子搭載プラスミドを持つ大腸菌形質転換体をLB培地3ml(アンピシリン50μg/mLを含む)に接種し、37℃で16時間振とう培養した。その培養液から遠心分離により調製した菌体を超音波破砕し、その遠心後の上清を改変型P4DSAの粗酵素液とした。
実施例2 改変型P4DSAを用いたN−サクシニルトリプトファン及びN−サクシニルフェニルアラニンに対する立体選択性の評価
実施例1で調製した粗酵素液を用いて、N−サクシニルトリプトファン及びN−サクシニルフェニルアラニンに対する立体選択性の評価を行った。具体的には、以下の組成のN−サクシニル−D−アミノ酸溶液及びN−サクシニル−L−アミノ酸溶液のそれぞれに対して粗酵素液を添加した。
N−サクシニル−D−トリプトファン溶液:25mM KPB(pH7.0)、1% N−サクシニル−D−トリプトファン
N−サクシニル−L−トリプトファン溶液:25mM KPB(pH7.0)、1% N−サクシニル−L−トリプトファン
N−サクシニル−D−フェニルアラニン溶液:25mM KPB(pH7.0)、1% N−サクシニル−D−フェニルアラニン
N−サクシニル−L−フェニルアラニン溶液:25mM KPB(pH7.0)、1% N−サクシニル−L−フェニルアラニン
得られた反応液を40℃で16時間インキュベートした後に、残存する基質濃度から分解率及びD体に対するL体の分解比率(L/D)を算出した。なお、改変型P4DSAは、L体に対する反応性がかなり低下しており、基質の減少量を定量する方法では、識別しづらかったため、L体を4、D体を1、すなわちL:D=4:1のタンパク質比率で反応させた。また、酵素タンパク質濃度は、L体の反応の場合は最終酵素タンパク質濃度が2.0mg/mlになるように調節し、D体の反応の場合は最終酵素タンパク質濃度が0.5mg/mlになるように調節した。その結果を表3に示す。
その結果、実施例1(1)では、複数の箇所にアミノ酸置換が起こることもあり、どの変異が立体選択性に寄与しているのか分からない変異体もあったために、R176HやV286Aなどの立体選択性の向上の寄与していない改変体も見られたが、表3に示したように、多くの改変型P4DSAにおいて、N−サクシニルトリプトファン及びN−サクシニルフェニルアラニンに対して共に、D体選択的に作用していることが確認できた。特に、N−サクシニルトリプトファンに対しては、G181E、L182W、L182Y、L182K、L182R、L182E、N185F、R305A、R305G、R305H、R305Q、R305S、R305N、L348E、L348W、L348T、F351I、G539V及びG539M、N−サクシニルフェニルアラニンに対しては、G181W、G181D、G181E、L182R、R305A、R305G、R305S、L348E及びL348Wにおいて、基質の減少量では検出限界以下(表中では、0.0)となるまでに、L体に対する反応性が低下し、野生型と比べて顕著にD体選択的に作用していることが確認できた。
実施例3 改変型P4DSAを用いたN−サクシニルビフェニルアラニンに対する立体選択性の評価
次に、実施例2でN−サクシニルトリプトファン及びN−サクシニルフェニルアラニンに対する立体選択性に関与していることが明らかとなった改変型P4DSAについて、他の芳香族アミノ酸に対してもD体選択的に作用するかどうかを確認した。他の芳香族アミノ酸としては、非天然型アミノ酸の一種であるN−サクシニルビフェニルアラニンを選択し、実施例1で調製した粗酵素液を用いて、実施例2と同様の手順で、N−サクシニルビフェニルアラニンに対する立体選択性の評価を行った。ただし、本実施例3では、以下に示すようなラセミ体溶液を反応基質として使用した。
N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニン反応溶液:25mM KPB(pH7.0)、2% N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニン
反応液を40℃で16時間インキュベートした後に、残存する基質濃度から分解率及びD体に対するL体の分解比率(L/D)を算出した。なお、N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンについては、基質にラセミ体を利用したため、D体とL体を同タンパク量で反応させたことになる。また、酵素タンパク質濃度は、最終酵素タンパク質濃度が1.0mg/mlになるように調節した。その結果を表4に示す。
その結果、評価した全ての改変型P4DSAにおいて、N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンに対してもD体選択的に作用していることが確認できた。実施例2及び3に示す結果は、本発明の改変型P4DSAはN−サクシニルトリプトファン、N−サクシニルフェニルアラニン及びN−サクシニルビフェニルアラニンのみに対してD体選択的に作用するのではなく、その他の芳香族アミノ酸や、置換基を有する非天然型の芳香族アミノ酸を含む任意のアミノ酸を構成アミノ酸とするN−サクシニル−DL−アミノ酸に対しても、D体選択的に作用することを示唆するものである。
実施例4 改変型P4DSA並びにChloroflexus aurantiacus由来のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼを用いたN−サクシニル−DL−トリプトファンからD−トリプトファン、N−サクシニル−DL−フェニルアラニンからのD−フェニルアラニン及びN−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンからD−ビフェニルアラニンの合成
(1)
改変型P4DSA(L182E、L182P、R305N)の調製
実施例1で得られた改変型P4DSA(L182E、L182P、R305N)を発現する大腸菌形質転換体のコロニーを、試験管に入った5mLのLB培地(アンピシリン50μg/mLを含む)にそれぞれ植菌し、振とう数180rpm、30℃で16時間培養し、種培養液とした。この種培養液を、500mLの坂口フラスコに入った60mLのTB培地(アンピシリン50μg/mLを含む)に接種し、振とう数310rpm、30℃で18時間培養した。培養終了時の濁度(Abs660nm)は、15.0、16.2、15.5であった。続いて、得られた菌体を遠心分離にて集菌し、25mMリン酸緩衝溶液(pH7.0)に懸濁し、氷冷下で超音波細胞破砕装置を用いて破砕した。その後、65℃で1時間、熱処理を行い、その後、一般的な方法で脱塩処理を行い、アミノ酸合成用の酵素サンプル(L182E:27.9mg/mL、5.2U/mL、L182P:7.3mg/mL、1.8U/mL、R305N:28.5mg/mL、4.3U/mL)を調製した。なお、酵素活性の基質には、N−サクシニル−D−トリプトファンを用いた。
(2)各種N−サクシニルアミノ酸との反応及び分析
5%N−サクシニル−DL−トリプトファン水溶液(pH7.5)5mL、5%N−サクシニル−DL−フェニルアラニン水溶液(pH7.5)5mL、5%N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニン水溶液(pH7.5)5mLをそれぞれ基質として用い、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるようにそれぞれ添加後、上記(1)で調製した改変型DSA(L182E、L182P、R305N)の酵素液(0.16U、0.2U、0.08U)をそれぞれの基質に加え、さらに参考例5で調製したChloroflexus aurantiacus株由来のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼ溶液25mg(6400U)をそれぞれに対して加え、45℃で3日間反応させた。また、一方でコントロールとして、PCT/JP2011/064943の実施例に記載の方法で調製した野生型DSA酵素液を用い、同様に反応させ、変換率及びD−アミノ酸の光学純度を算出した。変換率は、上記記載のジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−3」(5μm、4.6×100mm)を利用した高速液体クロマトグラフィーで酵素反応前と反応後の基質のピーク面積値を測定することによって算出した。光学純度は、上記記載のダイセル化学工業株式会社製光学分割カラム「CROWNPAK CR(+)」(5μm、4.0×150mm)で生成した遊離体のアミノ酸の光学純度を測定することによって算出した。結果を表5〜7に示す。
表5〜7に示すように、D−トリプトファン合成における反応3日目の変換率は、野生型DSA、L182E,L182P、R305Nの順に、83%、87%、86%、89%であり、D−フェニルアラニン合成における反応3日目の変換率は、野生型DSA、L182E,L182P、R305Nの順に、81%、84%、83%、84%であり、D−ビフェニルアラニン合成における反応3日目の変換率は、野生型DSA、L182E,L182P、R305Nの順に、96%、91%、96%、91%であり、いずれも問題なく反応が進んだ。また、表5〜7に示すように、いずれの改変型DSAにおいても、芳香族アミノ酸によって構成されるN−サクシニル−DL−アミノ酸を基質とした場合、野生型DSAを使用する場合と比較して、高純度の芳香族D−アミノ酸を製造できることを確認した。特に、L182Eを使用して、D−トリプトファン、D−ビフェニルアラニンを製造した場合にそれぞれ99.6%ee、99.2%ee、L182Pを使用して、D−ビフェニルアラニンを製造した場合に99.3%ee、R305Nを使用して、D−トリプトファンを製造した場合に、99.6%eeという高い光学純度に達した。また、L182Pは、実施例2で挙げられている改変型DSAの中では、N−サクシニルトリプトファンに対するL/D比が0.13と比較的大きい値を示しているが、本実施例が示すようにL182Pを使用した場合のD−トリプトファンの光学純度が98.6%eeに達したということは、表3に記載のその他の改変型DSAも、それ相当の改変効果があることを示唆する。
実施例5 二重変異改変型P4DSA(L182E+L348I)並びにChloroflexus aurantiacus由来のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼを用いたN−サクシニル−DL−トリプトファンからのD−トリプトファン、N−サクシニル−DL−フェニルアラニンからのD−フェニルアラニン及びN−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンからのD−ビフェニルアラニンの合成
(1)二重変異改変型プラスミドの構築
二重変異改変体を発現するプラスミドを作製するために、実施例1で得られた改変型P4DSA(L182E)を含む発現プラスミドを鋳型とし、上記に記載の方法でPCR反応を実施し、182番目のロイシンがグルタミン酸に置換され、かつ、348番目のロイシンがイソロイシンに置換された二重変異改変型P4DSA(L182E+L348I)を含む発現プラスミドを構築した。
(2)二重変異改変型P4DSA(L182E+L348I)の調製
(1)で得られた二重変異改変型P4DSA(L182E+L348I)を発現する大腸菌形質転換体のコロニーを、試験管に入った5mLのLB培地(アンピシリン50μg/mLを含む)に植菌し、振とう数180rpm、30℃で16時間培養し、種培養液とした。この種培養液を、500mLの坂口フラスコに入った60mLのTB培地(アンピシリン50μg/mLを含む)に接種し、振とう数310rpm、30℃で18時間培養した。培養終了時の濁度(Abs660nm)は15.6であった。続いて、得られた菌体を遠心分離で集菌し、25mMリン酸緩衝溶液(pH7.5)に懸濁し、氷冷下で超音波細胞破砕装置を用いて破砕した。その後、55℃で3時間、熱処理を行い、その後、0.45飽和になるように硫酸アンモニウムを徐々に添加し、目的のタンパク質を沈殿させた。その後、上清を取り除き、25mMリン酸緩衝溶液(pH7.5)を加えて、沈殿を再溶解させ、一般的な脱塩処理を行った後、25mMリン酸緩衝溶液(pH7.5)で平衡化した5mLのDEAEセファロースFast Flow(GEヘルスケア製)カラムにかけ、素通り画分を回収した。このようにして、アミノ酸合成用の酵素サンプル(L182E+L348I:7.0mg/mL、11.4U/mL)を調製した。なお、酵素活性の基質には、N−サクシニル−D−トリプトファンを用いた。
(3)N−サクシニル−DL−トリプトファンからのD−トリプトファンの調製
5%N−サクシニル−DL−トリプトファン水溶液(pH7.5)5mLを基質として用い、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるように添加後、上記(2)で調製した二重変異改変型DSA(L182E+L348I)の酵素液0.05mgと参考例5で調製したChloroflexus aurantiacus株由来のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼ溶液2.5mgを添加し、45℃で3日間反応させた。また、一方でコントロールとして、PCT/JP2011/064943の実施例に記載の方法で調製した野生型DSA酵素液0.025mgと参考例5で調製したChloroflexus aurantiacus株由来のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼ溶液2.5mgを添加し、45℃で3日間反応させ、変換率及びD−アミノ酸の光学純度を算出した。変換率は、上記記載のジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−3」(5μm、4.6×100mm)を利用した高速液体クロマトグラフィーで酵素反応前と反応後の基質のピーク面積値を測定することによって算出した。光学純度は、上記記載のダイセル化学工業株式会社製光学分割カラム「CROWNPAK CR(+)」(5μm、4.0×150mm)で生成した遊離体のアミノ酸の光学純度を測定することによって算出した。結果を表8に示す。なお、表8には、比較のため、表5のL182Eの単変異のデータを併記している。
表8に示すように、反応3日目にはいずれも80%以上に達した。また、反応3日目のD−トリプトファンの光学純度は、野生型は96.1%eeであるのに対し、L182Eの単変異改変型は99.6%eeであり、L182E+L348Iの二重変異改変型は99.7%eeであり、いずれの改変型も光学純度が野生型と比較して顕著に向上しており、特に二重変異改変型は、単変異改変型よりさらに光学純度が向上していた。本発明のD−サクシニラーゼは、工業規模でのD−アミノ酸の製造に使用されるため、製造されるD−アミノ酸の光学純度がわずかでも向上するということは、製造コストの低下をもたらす顕著な向上であるといえる。また、データには示さないが、L348Iの単変異のみでは、野生型と比較して選択性向上の効果は見られず、L182Eと組み合わせることで、相乗的な立体選択性向上への寄与が確認された。
(4)N−サクシニル−DL−フェニルアラニンからのD−フェニルアラニンの調製
5%N−サクシニル−DL−フェニルアラニン水溶液(pH7.5)5mLを基質として用い、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるように添加後、上記(2)で調製した二重変異改変型DSA(L182E+L348I)の酵素液0.075mgと参考例5で調製したChloroflexus aurantiacus株由来のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼ溶液2.5mgを添加し、45℃で3日間反応させた。また、一方でコントロールとして、PCT/JP2011/064943の実施例に記載の方法で調製した野生型DSA酵素液0.025mgと参考例5で調製したChloroflexus aurantiacus株由来のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼ溶液2.5mgを添加し、45℃で3日間反応させ、変換率及びD−アミノ酸の光学純度を算出した。変換率は、上記記載のジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−3」(5μm、4.6×100mm)を利用した高速液体クロマトグラフィーで酵素反応前と反応後の基質のピーク面積値を測定することによって算出した。光学純度は、上記記載のダイセル化学工業株式会社製光学分割カラム「CROWNPAK CR(+)」(5μm、4.0×150mm)で生成した遊離体のアミノ酸の光学純度を測定することによって算出した。結果を表9に示す。なお、表9には、比較のため、表6のL182Eの単変異のデータを併記している。
表9に示すように、反応3日目にはいずれも80%以上に達した。また、反応3日目のD−フェニルアラニンの光学純度は、野生型は93.6%eeであるのに対し、L182Eの単変異改変型は98.8%eeであり、L182E+L348Iの二重変異改変型は99.4%eeであり、いずれの改変型も光学純度が野生型と比較して顕著に向上しており、特に二重変異改変型は、単変異改変型よりさらに光学純度が向上していた。本発明のD−サクシニラーゼは、工業規模でのD−アミノ酸の製造に使用されるため、製造されるD−アミノ酸の光学純度がわずかでも向上するということは、製造コストの低下をもたらす顕著な向上であるといえる。また、データには示さないが、L348Iの単変異のみでは、野生型と比較して選択性向上の効果は見られず、L182Eと組み合わせることで、相乗的な立体選択性向上への寄与が確認された。
(5)N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニンからのD−ビフェニルアラニンの調製
5%N−サクシニル−DL−ビフェニルアラニン水溶液(pH7.5)5mLを基質として用い、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるように添加後、上記(2)で調製した二重変異改変型DSA(L182E+L348I)の酵素液0.05mgと参考例5で調製したChloroflexus aurantiacus株由来のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼ溶液25mgを添加し、45℃で3日間反応させた。また、一方でコントロールとして、PCT/JP2011/064943の実施例に記載の方法で調製した野生型DSA酵素液0.025mgと参考例5で調製したChloroflexus aurantiacus株由来のN−サクシニルアミノ酸ラセマーゼ溶液25mgを添加し、45℃で3日間反応させ、変換率及びD−アミノ酸の光学純度を算出した。変換率は、上記記載のジーエルサイエンス社製「Inertsil ODS−3」(5μm、4.6×100mm)を利用した高速液体クロマトグラフィーで酵素反応前と反応後の基質のピーク面積値を測定することによって算出した。光学純度は、上記記載のダイセル化学工業株式会社製光学分割カラム「CROWNPAK CR(+)」(5μm、4.0×150mm)で生成した遊離体のアミノ酸の光学純度を測定することによって算出した。結果を表10に示す。なお、表10には、比較のため、表7のL182Eの単変異のデータを併記している。
表10に示すように、反応3日目にはいずれも90%以上に達した。また、反応3日目のD−ビフェニルアラニンの光学純度は、野生型は88.3%eeであるのに対し、L182Eの単変異改変型は99.2%eeであり、L182E+L348Iの二重変異改変型は99.4%eeであり、いずれの改変型も光学純度が野生型と比較して顕著に向上しており、特に二重変異改変型は、単変異改変型よりさらに光学純度が向上していた。本発明のD−サクシニラーゼは、工業規模でのD−アミノ酸の製造に使用されるため、製造されるD−アミノ酸の光学純度がわずかでも向上するということは、製造コストの低下をもたらす顕著な向上であるといえる。また、データには示さないが、L348Iの単変異のみでは、野生型と比較して選択性向上の効果は見られず、L182Eと組み合わせることで、相乗的な立体選択性向上への寄与が確認された。
実施例6 Cupriavidus sp.P4−10−C株由来D−サクシニラーゼと近縁種のD−サクシニラーゼにおけるアミノ酸配列の相同性比較
Cupriavidus sp.P4−10−C株由来のD−サクシニラーゼにおいて明らかとなった立体選択性に関与するアミノ酸残基が、その他のCupriavidus属細菌のD−サクシニラーゼにおいて、保存されているかどうかを調べるために、Cupriavidus sp.P4−10−C、Cupriavidus metallidurans、Cupriavidus necator及びCupriavidus taiwanensisのD−サクシニラーゼのアミノ酸配列の相同性比較を行った。なお、Cupriavidus sp.P4−10−CとCupriavidus metalliduransについては、参考例1及び2で明らかにしたアミノ酸配列を、Cupriavidus necatorとCupriavidus taiwanensisについては、NCBI(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov)に公開されているアミノ酸配列を用いた。詳しくはCupriavidus necatorについては、Penicillin G acylase(ACCESSION No.YP_842011)として登録されているアミノ酸配列を、Cupriavidus taiwanensisについては、Penicillin G amidaseprecursor(ACCESSION No.YP_002008843)として登録されているアミノ酸配列を用いた。また、アミノ酸配列解析ソフトは、GENETYX CORPORATIONから販売されているGENETYX WIN Version 6.1のものを使用した。結果を図3に示す。その結果、Cupriavidus sp.P4−10−C株由来のD−サクシニラーゼで明らかになった立体選択性に関与しているアミノ酸残基の全てが、比較した全てのCupriavidus属細菌のD−サクシニラーゼで保存されていることが明らかになった。なお、これらの4種のCupriavidus属細菌のD−サクシニラーゼの相同性は、以下の表11に示すように75%〜93%であった。
実施例7 改変型Cupriavidus metallidurans由来D−サクシニラーゼ(以下、CmDSA遺伝子と称する)の調製
そこで、実施例6のアミノ酸配列のアライメント結果に基づき、近縁種においても、P4DSAの立体選択性に関与する72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位、539位に同等な部位をアミノ酸置換することにより、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対して、D体選択的に作用するようになるということを示すために、近縁種の一種であるCupriavidus metalliduransの改変型CmDSAを作成し、立体選択性を評価することにした。
(1)改変型CmDSA遺伝子発現プラスミドの構築
実施例1(3)に記載した方法と同様の方法で改変型CmDSA遺伝子発現プラスミドを構築した。作製した改変型酵素と変異導入に使用した合成オリゴDNAプライマーの配列を表12に示す。
(2)CmDSA及び改変型CmDSAの調製
実施例1(4)に記載した方法と同様の方法で、CmDSA及び改変型CmDSAの粗酵素液を調製した。
実施例8 改変型CmDSAを用いたN−サクシニルトリプトファンに対する立体選択性の評価
実施例7で調製した粗酵素液を用いて、実施例1と同様の条件及び手順で、N−サクシニルトリプトファンに対する立体選択性の評価を行った。その結果を表13に示す。
その結果、全ての改変型CmDSAにおいて、D体選択的に作用していることが確認された。すなわち、Cupriavidus sp.P4−10−C株由来D−サクシニラーゼの立体選択性に関与する72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位及び539位は、本菌株のみならず、近縁種のD−サクシニラーゼにおいても、それぞれの部位に同等な部位をアミノ酸置換することにより、D体選択性を向上させることができる部位であることが示唆された。
本発明の改変型D−サクシニラーゼは、野生型D−サクシニラーゼと比較してD体選択性が著しく向上しているので、医薬品等の中間体の原料として有用なD−アミノ酸を効率良く製造するために有用である。
配列番号5〜54は、実施例に記載した設計ポリヌクレオチドの配列である。

Claims (13)

  1. 下記(A)又は(B)のアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質。
    (A)配列番号2に示すアミノ酸配列において、下記(a)〜(k)から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
    (a)72位のグルタミン残基のアルギニン残基への置換
    (b)181位のグリシン残基のトリプトファン残基、リジン残基、アルギニン残基、アスパラギン酸又はグルタミン酸残基への置換
    (c)182位のロイシン残基のトリプトファン残基、セリン残基、システイン残基、チロシン残基、リジン残基、アルギニン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基又はプロリン残基への置換
    (d)183位のスレオニン残基のプロリン残基、ロイシン残基又はアスパラギン残基への置換
    (e)184位のロイシン残基のプロリン残基への置換
    (f)185位のアスパラギン残基のプロリン残基、フェニルアラニン残基、セリン残基又はアスパラギン酸残基への置換
    (g)305位のアルギニン残基のスレオニン残基、アラニン残基、グリシン残基、ヒスチジン残基、グルタミン残基、セリン残基、アスパラギン残基又はバリン残基への置換
    (h)348位のロイシン残基のイソロイシン残基、グルタミン酸残基、プロリン残基、メチオニン残基、トリプトファン残基、セリン残基、スレオニン残基、システイン残基、リジン残基、ヒスチジン残基又はグルタミン残基への置換
    (i)351位のフェニルアラニン残基のロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、アスパラギン残基又はグルタミン残基への置換
    (j)461位のアスパラギン残基のイソロイシン残基、フェニルアラニン残基、スレオニン残基、リジン残基又はアルギニン残基への置換
    (k)539位のグリシン残基のプロリン残基、バリン残基、メチオニン残基、スレオニン残基又はアスパラギン残基への置換
    (B)上記(A)のアミノ酸配列において、72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位、及び539位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするアミノ酸配列。
  2. 請求項1の(A)のアミノ酸配列が、配列番号2に示すアミノ酸配列において、182位のロイシン残基のグルタミン酸残基への置換、及び348位のロイシン残基のイソロイシン残基への置換を有するアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1に記載のタンパク質。
  3. 下記(A)又は(B)の塩基配列からなることを特徴とする遺伝子。
    (A)配列番号1に示す塩基配列において、下記(a)〜(k)から選択される少なくとも1個の塩基配列の置換を有する塩基配列
    (a)214〜216位の塩基配列caaの、cgt、cgc、cga、cgg、aga又はaggへの置換
    (b)541〜543位の塩基配列ggcの、tgg、aaa、aag、cgt、cgc、cga、cgg、aga、agg、gat、gac、gaa又はgagへの置換
    (c)544〜546位の塩基配列ctgの、tgg、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、tgt、tgc、tat、tac、aaa、aag、cgt、cgc、cga、cgg、aga、agg、gat、gac、gaa、gag、cct、ccc、cca又はccgへの置換
    (d)547〜549位の塩基配列acgの、cct、ccc、cca、ccg、tta、ttg、ctt、ctc、cta、ctg、aat又はaacへの置換
    (e)550〜552位の塩基配列ctgの、cct、ccc、cca又はccgへの置換
    (f)553〜555位の塩基配列aatの、cct、ccc、cca、ccg、ttt、ttc、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、gat又はgacへの置換
    (g)913〜915位の塩基配列cggの、act、acc、aca、acg、gct、gcc、gca、gcg、ggt、ggc、gga、ggg、cat、cac、caa、cag、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、aat、aac、gtt、gtc、gta又はgtgへの置換
    (h)1042〜1044位の塩基配列ctgの、att、atc、ata、gaa、gag、cct、ccc、cca、ccg、atg、tgg、tct、tcc、tca、tcg、agt、agc、act、acc、aca、acg、tgt、tgc、aaa、aag、cat、cac、caa又はcagへの置換
    (i)1051〜1053位の塩基配列ttcの、tta、ttg、ctt、ctc、cta、ctg、att、atc、ata、atg、aat、aac、caa又はcagへの置換
    (j)1381〜1383位の塩基配列aacの、att、atc、ata、ttt、ttc、act、acc、aca、acg、aaa、aag、cgt、cgc、cga、cgg、aga又はaggへの置換
    (k)1615〜1617位の塩基配列ggcの、cct、ccc、cca、ccg、gtt、gtc、gta、gtg、atg、act、acc、aca、acg、aat又はaacへの置換
    (B)上記(A)の(a)〜(k)から選択される塩基配列の置換を有し、かつ、(A)の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
  4. 請求項3の(A)の塩基配列が、配列番号1に示す塩基配列において、544〜546位の塩基配列ctgの、gaa又はgagへの置換、及び1042〜1044位の塩基配列ctgの、att,atc又はataへの置換を有する塩基配列であることを特徴とする請求項3に記載の遺伝子。
  5. 下記(A)又は(B)のアミノ酸配列からなることを特徴とするタンパク質。
    (A)配列番号4に示すアミノ酸配列において、下記(a)〜(e)から選択される少なくとも1個のアミノ酸残基の置換を有するアミノ酸配列
    (a)177位のロイシン残基のアルギニン残基への置換
    (b)180位のアスパラギン残基のアスパラギン酸残基への置換
    (c)344位のロイシン残基のプロリン残基への置換
    (d)347位のフェニルアラニン残基のイソロイシン残基への置換
    (e)457位のアスパラギン残基のイソロイシン残基への置換
    (B)上記(A)のアミノ酸配列において、177位、180位、344位、347位、及び457位以外の箇所に、1若しくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、付加および/または逆位を有するアミノ酸配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードするアミノ酸配列。
  6. 下記(A)又は(B)の塩基配列からなることを特徴とする遺伝子。
    (A)配列番号3に示す塩基配列において、下記(a)〜(e)から選択される少なくとも1個の塩基配列の置換を有する塩基配列
    (a)529〜531位の塩基配列ctgの、cgt、cgc、cga、cgg、aga又はaggへの置換
    (b)538〜540位の塩基配列aacの、gat又はgacへの置換
    (c)1030〜1032位の塩基配列ctgの、cct、ccc、cca又はccgへの置換
    (d)1039〜1041位の塩基配列ttcの、att、atc又はataへの置換
    (e)1369〜1371位の塩基配列aatの、att、atc又はataへの置換
    (B)上記(A)の(a)〜(e)から選択される塩基配列の置換を有し、かつ、(A)の塩基配列と90%以上の同一性を有する塩基配列であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有するタンパク質をコードする塩基配列。
  7. 配列番号2と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の72位、181〜185位、305位、348位、351位、461位、及び539位のうちのいずれかと同等な位置のアミノ酸残基が、請求項1の(A)に示すアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列からなるタンパク質であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有することを特徴とするタンパク質。
  8. 請求項7に記載のタンパク質をコードすることを特徴とする遺伝子。
  9. 配列番号4と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号4の177位、180位、344位、347位、及び457位のうちのいずれかと同等な位置のアミノ酸残基が、請求項3の(A)に示すアミノ酸残基に置換されているアミノ酸配列からなるタンパク質であって、N−サクシニル−DL−アミノ酸に対してD体選択的に作用してD−アミノ酸を生成する活性を有することを特徴とするタンパク質。
  10. 請求項9に記載のタンパク質をコードすることを特徴とする遺伝子。
  11. 請求項3,4,6,8又は10に記載の遺伝子をベクターに挿入して組換えベクターを調製し、この組換えベクターで宿主細胞を形質転換して形質転換体を調製し、この形質転換体を培養する工程を含むことを特徴とする請求項1,2,5,7又は9に記載のタンパク質の製造方法。
  12. 請求項1,2,5,7又は9に記載のタンパク質を用いてN−サクシニル−DL−アミノ酸中のN−サクシニル−D−アミノ酸を特異的に加水分解する工程を含むことを特徴とするD−アミノ酸の製造方法。
  13. N−サクシニルアミノ酸ラセマーゼを用いてN−サクシニル−L−アミノ酸をラセミ化してN−サクシニル−D−アミノ酸を生成させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
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