JP4116798B2 - 新規アミダーゼ及びそれをコードする遺伝子 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は新規な立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチド、そのペプチドをコードするDNA、それらのDNAを組み込んだ組み換えベクター、並びに上記DNA又は組み換えベクターを保有する組み換え体生物に関する。さらに本発明は、当該ポリペプチドをカルボン酸アミド類に作用させ、医・農薬中間原料として有用なキラルカルボン酸類及び/又はキラルカルボン酸アミド類を製造する方法に関する。
【0002】
【従来技術】
ラセミ体の含窒素複素環含有カルボキサミド類を生物工学的に加水分解し、医・農薬中間体として有用なキラルなカルボン酸類及び/又はカルボキサミド類を製造する方法としては以下の手法が知られている。
【0003】
(R)−含窒素複素環含有カルボン酸アミド類を選択的に加水分解する方法としては、特開平10−276794号公報には、シュードモナス アゾトフォルマンス IAM1603株又はその処理物を、特開平10−327890号公報には、シュードモナス エスピー MCI3433株又はシュードモナス エスピー MCI3434株あるいはそれらの処理物をラセミ体N−tertブチルピペラジン−2−カルボキサミドに作用させ、高い光学純度の(R)−ピペラジン−2−カルボン酸及び/又は(S)−N−ピペラジン−2−カルボン酸アミドを取得する方法が知られている。
【0004】
一方、(S)−含窒素複素環含有カルボン酸アミド類を選択的に加水分解する手法としては、特開平8−56652号公報には、シュードモナス プチダ種、シュードモナス フルオレッセンス種、クレブシエラ テリゲナ種又はクレブシエラ ニューモニア種に属する微生物の菌体あるいはその処理物をラセミ体のプロリンアミド、ピペラジン−2−カルボキサミド又はピペコール酸アミドに作用させ、高い光学純度の(S)−カルボン酸類及び/又は(R)−カルボン酸アミド類を取得する方法が記載されており、特開平10−127280号公報には、マイコプラナ属細菌の菌体又はその処理物をラセミ体のピペリジン−2−カルボキサミド又はN−アルキルピペリジン−2−カルボキサミドに作用させ、高い光学純度の(S)−ピペリジン−2−カルボン酸及び/又は(R)−N−アルキルピペラジン−2−カルボキサミドを取得する方法が記載されており、特開平10−276794号公報には、ロイコバクター属、リゾビウム属、またはミコバクテリウム属細菌の菌体、またはその処理物をN−tertブチルピペラジン−2−カルボキサミドに作用させ、高い光学純度の(S)−ピペラジン−2−カルボン酸、及び/又は(R)−N−tertブチルピペラジン−2−カルボキサミドを取得する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、これらの手法では菌体又はその処理物を加水分解触媒として用いているが、目的の反応を触媒する酵素の含量が少ない又は酵素自体が不安定性であり、十分に反応を触媒するには多量の菌体を用意する必要があるため、経済的に有利な手法ではなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、含窒素複素環含有カルボン酸アミド類を立体選択的に加水分解する能力を有する新規アミダーゼ及びそれをコードするDNAを取得すること、並びに該アミダーゼを用いて光学純度の高い含窒素複素環含有カルボン酸類及び/又はそのアミド類を製造する方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、(R)−N−アルキルピペラジン−2−カルボキサミドを選択的に加水分解する立体特異的アミダーゼの活性を有することで知られているシュードモナス アゾトフォルマンスIAM1603株から(S)−N−アルキルピペラジン−2−カルボキサミドを選択的に加水分解する酵素を単離し、それをコードするDNAを取得した。このDNAを用いて製造される立体選択的アミダーゼに富んだ組み換え体生物又は高濃度アミダーゼ溶液により、より高い生産性でより高い立体選択的なカルボン酸アミド類の加水分解反応が進行すること見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、以下の理化学的性質を有する立体選択的アミダーゼが提供される。
(1)分子量:ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定した場合に34000であり、ゲル濾過で測定した場合に32000;
(2)サブユニット構成:モノマー
(3)L−プロリンアミドを基質として用いた時のアミダーゼ反応至適pH:pH9付近
(4)L−プロリンアミドを基質として用い、pH8で反応を行なった時のアミダーゼ反応至適温度:45℃付近
(5)pH8における耐熱性:40℃以下で安定である
(6)本ポリペプチドのアミダーゼ活性を完全に阻害する化合物:フェニルヒドラジン、Zn2+、Ag+、Cd2+、Hg2+
(7)EDTAの影響:反応液に1mMのEDTAを添加することにより酵素活性が促進される。
【0009】
本発明の別の側面によれば、下記の何れかのポリペプチドが提供される。
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1から複数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチド;又は
(3)配列番号1で表されるアミノ酸配列と70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチド;
【0010】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のポリペプチドをコードするDNAが提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、下記の何れかのDNAが提供される。
(1)配列番号2で表される塩基配列を有するDNA;
(2)配列番号2で表される塩基配列において1から複数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列を有し、立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA;又は
(3)配列番号2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA:
【0011】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のDNAを有する組み換えベクターが提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のDNAまたは組換えベクターを有する形質転換体が提供される。
【0012】
本発明のさらに別の側面によれば、下記一般式(I)
【化4】
(式中、Aは、水酸基、アルコキシ基、チオール基、アルキルチオ基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる置換基により置換されていてもよいアルキル基又はAが結合している炭素原子及び該炭素原子に結合しているアミノ基と一体となって、含窒素複素環を形成しうる基であり、Rは、水素原子、置換されていても良いアルキル基又は置換されていても良いアリール基を示す。)で表されるカルボン酸アミド類に、本発明のアミダーゼ、ポリペプチド、又は形質転換体を作用させることにより、(S)−体のアミド結合を選択的に加水分解させた後、下記一般式(II)
【化5】
(式中、Aは前記と同義である。)で表される(S)−体のカルボン酸類または/及び下記一般式(III)
【化6】
(式中、A及びRは前記と同義である。)で表される(R)−体のカルボン酸アミド類を単離することを含む、光学活性なカルボン酸類及び/またはアミド類の製造方法が提供される。
【0013】
好ましくは、Aは、Aが結合している炭素原子及び該炭素原子に結合しているアミノ基と一体となって含窒素複素環を形成しうる基である。
好ましくは、エチレンジアミン4酢酸の共存下で反応を行う。
【0014】
本発明のさらに別の側面によれば、上記した本発明のDNAと、該DNAと50%以上の相同性を示す1種以上のDNAとをランダムリコンビネーションすることを特徴とする立体選択的アミダーゼ活性を有する新規なポリペプチドの製造方法が提供される。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(I)本発明のアミダーゼ及びポリペプチド
本発明は、以下の理化学的性質を有する立体選択的アミダーゼに関するものである。
(1)分子量:ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定した場合に34000であり、ゲル濾過で測定した場合に32000;
(2)サブユニット構成:モノマー
(3)L−プロリンアミドを基質として用いた時のアミダーゼ反応至適pH:pH9付近
(4)L−プロリンアミドを基質として用い、pH8で反応を行なった時のアミダーゼ反応至適温度:45℃付近
(5)pH8における耐熱性:40℃以下で安定である
(6)本ポリペプチドのアミダーゼ活性を完全に阻害する化合物:フェニルヒドラジン、Zn2+、Ag+、Cd2+、Hg2+
(7)EDTAの影響:反応液に1mMのEDTAを添加することにより酵素活性が促進され、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.5倍以上促進される。
【0016】
本発明のアミダーゼの具体例としては、配列番号1記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチド、そのホモログであって立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチド、及び、配列番号1記載のアミノ酸配列又はそのホモログのアミノ酸配列を分子内に含むポリペプチドである。
【0017】
本発明のポリペプチドのホモログとは、
配列番号1で表されるアミノ酸配列において1から複数個(好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜15個、さらに好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜7個、特に好ましくは1〜5個程度)のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチド;又は
配列番号1で表されるアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有し、立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチド;
が挙げられる。
【0018】
また、「配列番号1のアミノ酸配列を分子内に含むポリペプチド」とは、該ポリペプチドのN末端やC末端に蛋白質相互作用、リガンド結合機能又は別の特殊な機能を有するポリペプチドを結合させた融合ポリペプチドを意味する。
【0019】
ちなみに上記ポリペプチドのホモロジー検索は、例えば、FASTAプログラムやBLASTプログラムなどを用いて行うことができる。Protein Information Resource(PIR)などのアミノ酸配列データベースを対象としてBLASTプログラムを用いて配列番号1に記載のアミノ酸配のホモロジー検索を行った結果、既知のタンパク質の中で高いアミノ酸アイデンティティーを示したのは、シノリゾビウム メリオティ (Sinorhizobium meliloti)のputative proline iminopeptidase protein(66%)、及びメソリゾビウム ロティ(Mesorhizobium loti)のプロリンイミノペプチダーゼ(58%)であった。
【0020】
融合ポリペプチドの例としては、例えば、通常の分子遺伝学的手法を用いて、Mol.Microbiol.、4、759−767、(1990)においてGilbert H.J.らが報告している又は米国特許5496934号公報においてShoseyov O.らが報告しているようなセルロース結合機能を有するアミノ酸配列を本願ポリペプチドのN末端やC末端に付加したもの、ニッケル結合機能を有するヒスチジンのヘキサマーを結合させて該ポリペプチドに特異的結合能を与えたもの、またBiotechnol. Bioeng.、68、211−217、(2000)においてKim G.J.らが報告しているような手法により本発明のポリペプチドを他の機能を有するポリペプチドと融合させたもの等が挙げられる。
【0021】
本発明のポリペプチドは立体選択的アミダーゼ活性を有するものであり、ここで、立体選択的アミダーゼ活性とは、化合物中のアミド結合を立体選択的に加水分解して光学活性なカルボン酸及び/又はカルボン酸アミドを生産する活性をいう。
【0022】
該ポリペプチドは、本発明によりそのアミノ酸配列が明らかになったので、後述するように配列番号1のアミノ酸配列の一部又は全部をコードする塩基配列を基にして作成したDNAプローブを用いることにより、立体選択的アミダーゼ活性を有する任意の微生物から立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを単離する、あるいはDNA合成装置を用いて立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを合成することにより、それを用いて分子遺伝学的手法により多量の該ポリペプチドを製造し、そこから通常の方法により単離することができる。また、上記DNAを有する微生物、例えばシュードモナス アゾトフォルマンス IAM1603株の培養菌体より精製することもできる。
【0023】
尚、シュードモナス・アゾトフォルマンスIAM1603株は公知の微生物であり、東京大学分子細胞生物学研究所IAMカルチャーコレクションより入手可能である。
【0024】
微生物の培養菌体から本願ポリペプチドを単離する方法としては、一般的な蛋白質の精製方法が応用できる。例えば、上記微生物を一般的な微生物用栄養培地、好ましくは窒素源としてニュートリエントブロス及び炭素源としてリンゴ酸を含む培地で培養することで十分に増殖させた後に遠心分離により回収し、超音波破砕処理やフレンチプレス処理により無細胞抽出液とする。この無細胞抽出液から、遠心分離、カラムクロマトグラフィー、電気泳動、などの操作により蛋白質の物理化学的な性質の差異を利用して求めるポリペプチドを単離することができる。より推奨される手法としては、無細胞抽出液を調製し、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、及び電気泳動からのゲルの切り出し、等を用いて本願ポリペプチドを精製できる。別法として、後述するように配列番号2記載のDNAを適当な発現プロモーターとリボゾーム結合配列の下流に保有するベクターを組み込んだ組み換え体生物、好ましくはエシェリヒア コリ(Escherichia coli;以下、E.coli)、の培養菌体から、超音波破砕処理及び遠心分離により無細胞抽出液を調製し、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、及び疎水クロマトグラフィーを用いて本願ポリペプチドを単離する。
【0025】
以下に、シュードモナス・アゾトフォルマンスIAM1603株より単離された、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドの物理学的、及び酵素学的性質を示す。
1.分子量: 34000(ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、以下SDS−PAGEと略記する。)、32000(ゲル濾過)
2.サブユニット構成: モノマー
3.アミダーゼ反応至適pH: pH9
4.アミダーゼ反応至適温度: 45℃
5.耐熱性:45℃以下で安定である。
6.本ポリペプチドのアミダーゼ活性を完全に阻害する化合物:フェニルヒドラジン、Zn2+、Ag+、Cd2+、Hg2+。
7.EDTAの影響:反応液に1mMのEDTAを添加することにより酵素活性が約1.8倍促進される。
【0026】
さらに、本発明のポリペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、桑和貿易(米国Advanced Chem Tech社製)、パーキンェルマージャバン(米国Perkin Elmer社製)、アマシャムファルマシアバイオテク(Amersham Pharmacia Biotech社製)、アロカ(米国Protein Technology Instrument社製)、クラボウ(米国Synthecell-Vega社製)、日本パーセプティブ・リミテッド(米国PerSeptive社製)、島津製作所等のペプチド合成機を利用して化学合成することもできる。
【0027】
( II )本発明のDNA
本発明のDNAとは上記ポリペプチドをコードするDNA又はそのホモログである。
上記ポリペプチドをコードするDNAとしては、例えば、配列番号1に記載されるアミノ酸配列をコードするDNAが挙げられ、その具体例としては配列番号2で表される塩基配列を含むものが挙げられる。
【0028】
本発明のポリペプチドをコードするDNAのホモログとは、
配列番号2で表される塩基配列において1から複数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列を有し、立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA;又は
配列番号2で表される塩基配列を有するDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA:
が挙げられる。
【0029】
上記DNAホモログは、配列番号2記載のDNAに部位特異的変異導入法(Nucleic Acid Res.10,pp.6487(1982)、Methodsin Enzymol.100,pp.448(1983)、Molecular Cloning 2ndEdt., Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、PCR A Practical Approach IRL Press pp.200(1991))等を用いて適宜置換、欠失、挿入及び/または付加変異を導入することにより当業者であれば得ることが可能である。
【0030】
本明細書において「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA」とは、DNAをプローブとして使用し、コロニーハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAの塩基配列を意味し、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAまたは該DNAの断片を固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2×SSC溶液(1×SSCの組成は、150mM塩化ナトリウム、15mMクエン酸ナトリウム)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるDNA等を挙げることができる。
【0031】
ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、3rd Ed.(ed. SambrookJ. and Russsel D.W.)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、 2001、以後 "モルキュラークローニング第3版" と略す)等に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0032】
該DNAホモログとしては、配列番号2に記載の塩基配列を有するDNAと60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上の相同性を有するものが挙げられる。
【0033】
本発明のポリペプチドをコードするDNAは、例えば、以下のような方法によって取得することができる。まず、立体選択的アミダーゼ活性を有する微生物から調製してきた染色体DNAを用いて、常法によりプラスミドライブラリー又はファージライブラリーを作製する。次に、該ポリペプチドの部分アミノ酸配列の情報を用いて、該ポリペプチドをコードするDNAの部分断片を取得し、常法によりDNAプローブを作製する。このDNAプローブで上述染色体DNAライブラリーから本発明のポリペプチドをコードするDNAを特定し、適当なDNAをサブクローニングすることにより該ポリペプチドをコードするDNAを取得できる。
【0034】
より具体的には、以下の方法により本発明に係るDNAを取得できる。
1.シュードモナス アゾトフォルマンス IAM1603から本願のアミダーゼを精製し、該アミダーゼのN末端及び内部アミノ酸配列の情報を基に、シュードモナス アゾトフォルマンス IAM1603の染色体DNAを鋳型としてdegenerate PCR(ポリメラーゼチェインリアクションの略)を行い、求める立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAの部分断片を得る。これを放射性同位元素を含む核酸により標識し、DNAプローブを作製する。
2.シュードモナス アゾトフォルマンス IAM1603から染色体DNAを抽出し、適当な制限酵素(例えばFbaIなど)で部分分解する。
3.2で得られたDNA断片と、1で作製したDNAプローブを用い、サザンハイブリダイゼーションを行う。
4.3で特定されたDNAを抽出精製し、適当なプラスミドベクターに結合し、大腸菌を形質転換する。
5.1で作製したDNAプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションを行い、目的のDNA配列を含むクローンのプラスミドを取得する。
6.5で得られたプラスミドを用いて、ベクターに組み込まれたシュードモナス
アゾトフォルマンス IAM1603由来のDNAの塩基配列を決定する。
7.決定されたDNA塩基配列中に立体選択的アミダーゼのアミノ酸配列の読み取り枠を見いだし、上記工程で得られたDNA断片中に、アミダーゼの全コード領域が存在することを確認する。
【0035】
上記工程中でDNA、及び組み換え体宿主としてのE.coliの取り扱いに必要な一般的な操作は、当業者間で行われているものであり、例えばモルキュラークローニング第3版に従えば容易に実施できる。使用する酵素、試薬類も全て市販の製品を用いることができ、特に断らない限り製品で指定されている使用条件に従えば完全にそれらの目的を達成することができる。特に、上記1.において該菌からの全DNA抽出は、例えばSaitoら[Biochim. Biophys. Acta,72,619−629(1963)]の方法に準じて行うことができる。また、DNAの標識化は従来から汎用されている放射性同位元素あるいはジゴキシゲニン、ビオチン、フルオレセイン等の非放射性化合物のいずれも使用可能であり、RediprimeTMII random primelabelling system(アマシャムファルマシアバイオテク(株)社製)やAlkPhosTM Direct Labelling and Detection System(アマシャムファルマシアバイオテク(株)社製)等を用いれば容易に実施できる。また、上記4.におけるベクターとしては、例えばpBluescriptSK(−)(Stratagene社製)、等を使用することができる。さらに、上記6.におけるDNA塩基配列の決定もモルキュラークローニング第3版等に記された公知の方法を用いることができる。例えば、Li−cor DNA Sequencer model 4000L等の機器を付属のマニュアルインストラクションに従って使用すれば容易に実施できる。
【0036】
(III)本発明の組み換えベクター及び形質転換体
上記の(II)で取得された本発明のポリペプチドをコードするDNAを公知の発現ベクターに挿入することにより、立体選択的アミダーゼ発現ベクターが提供される。また、この発現ベクターで形質転換した組み換え体生物を培養することにより、立体選択的アミダーゼを取得することができる。
【0037】
本発明の立体選択的アミダーゼを発現させるための形質転換の対象となる宿主細胞としては、宿主自体が本反応に悪影響を与えない限り特に限定されることはなく、宿主ベクター系が確立されている細菌、放線菌、酵母、カビなどの微生物、昆虫細胞、植物細胞、動物細胞が好適に利用できる。具体的には以下に示すような微生物、及び高等生物細胞を挙げることができる。
【0038】
エシェリヒア属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Shizosaccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、キャンディダ(Candida)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、蚕、菜種、大豆など。
【0039】
上記で宿主細胞として好ましくは、エシェリヒア属、バチルス属、シュードモナス属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属、及びロドコッカス属微生物であり、特に好ましくは、エシェリヒア属、シュードモナス属、ブレビバクテリウム属及びコリネバクテリウム属微生物である。
【0040】
本発明のポリペプチドをin vivoで製造するには、宿主生物中において安定に存在するベクター中に本発明のDNAを導入するか、もしくは、直接宿主ゲノム中に相同組み換え等の手法により本発明のDNAを導入して組み換えDNA分子を作成し、その遺伝情報を転写・翻訳させる必要がある。
【0041】
このとき、プロモーター及びリボゾーム結合部位(RBS)を本発明のDNA鎖の5’側上流に、より好ましくは転写終結因子を3’側下流にそれぞれ組み込むことが好ましい。このプロモーター、RBS及び転写終結因子としては、宿主として利用する細胞中において機能することが知られているプロモーター、RBS及び転写終結因子であれば特に限定されず、これら各種生物において利用可能なベクター、プロモーター、RBS、及び転写終結因子に関しては、例えばモルキュラークローニング第3版や「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」などに詳述されている。
【0042】
具体的には、例えばエシェリヒア属、特にE.coliについては、べクターとしてpBR、pUC系プラスミドが挙げられ、lac(β−ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、 trc、lpp、λファージ PL、PRなどに由来するプロモーターなどが挙げられる。また、転写終結因子としては、trpA由来、ファージ由来、リボゾーマルRNA由来、及びlpp由来などが挙げられる。このようにE.coliをポリペプチド合成系として用いる場合には、目的ポリペプチドは本発明のDNAを含むベクターの組み換え体E.coliの生育に伴い構成的に、あるいはイソプロピルチオ−β−D−ガラクトシド(以下IPTG)などのポリペプチド合成誘導剤の添加により誘導的に製造される。
【0043】
上記記載の方法によりin vivoで立体選択的アミダーゼを製造できるほか、E.coliや小麦胚芽の無細胞蛋白質合成系を用いてin vitroでも該アミダーゼを製造することができる。例えば、E.coliではKigawaら[FEBS Letters、442、15−19(1999)]、小麦胚芽を用いた該合成系についてはMadinら[Proc.Natl.Acad.Sci.USA、97、559−564(2000)]の方法に準じて行うことができる。
【0044】
本発明のDNAを有する形質転換体を培養し、培養物から公知の方法で本発明のアミダーゼを単離精製することができる。
本発明のDNAを有する形質転換体を培養する方法は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。
本発明の形質転換体が大腸菌等の原核生物、酵母菌等の真核生物である場合、これら微生物を培養する培地は、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれでもよい。培養は、振盪培養または深部通気撹拌培養などの好気的条件下で行うことが好ましく、培養温度は通常15〜40℃であり、培養時間は、通常5時間〜7日間である。培養中pHは、3.0〜9.0に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニアなどを用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0045】
動物細胞を宿主細胞として得られた形質転換体を培養する培地としては、一般に使用されているRPM11640培地〔The Journal of the American Medical Association,199,519(1967)〕、EagleのMEM培地〔Science, 122, 501(1952)〕、DMEM培地〔Virology, 8, 396(1959)〕、199培地〔Proceeding of the Society for the Biological Medicine, 73, 1(1950)〕またはこれら培地に牛胎児血清等を添加した培地等が用いられる。培養は、通常pH6〜8、30〜40℃、5%CO2存在下等の条件下で1〜7日間行う。また、培養中必要に応じて、カナマイシン、ペニシリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
【0046】
形質転換体の培養物から、本発明のアミダーゼを単離精製するには、前述のように、通常のタンパク質の単離、精製法を用いればよい。
例えば、本発明のアミダーゼが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学社製)等レジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0047】
また、本発明のアミダーゼが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈殿画分より、通常の方法により該アミダーゼを回収後、該アミダーゼの不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を、タンパク質変性剤を含まないあるいはタンパク質変性剤の濃度がアミダーゼが変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、該アミダーゼを正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
【0048】
( IV )本発明のアミダーゼを用いた光学活性なカルボン酸類及び/またはアミド類の製造
また、本発明は、下記一般式(I)
【化7】
(式中、Aは、水酸基、アルコキシ基、チオール基、アルキルチオ基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる置換基により置換されていてもよいアルキル基、又は、Aが結合している炭素原子及び該炭素原子に結合しているアミノ基と一体となって、含窒素複素環を形成しうる基であり、Rは、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を示す。)で表されるカルボン酸アミド類に、本発明のアミダーゼ、ポリペプチド又は形質転換体を作用させることにより、(S)−体のアミド結合を選択的に加水分解させた後、下記一般式(II)
【化8】
(式中、Aは前記と同義である。)で表される(S)−体のカルボン酸類または/及び下記一般式(III)
【化9】
(式中、A及びRは前記と同義である。)で表される(R)−体のカルボン酸アミド類を単離することを特徴とする光学活性なカルボン酸類及び/またはアミド類を製造する方法にも関する。
【0049】
上記一般式(I)中、置換基Aは、水酸基、アルコキシ基、チオール基、アルキルチオ基、アリール基及びヘテロアリール基から選ばれる置換基により置換されていてもよいアルキル基、又は、Aが結合している炭素原子及び該炭素原子に結合しているアミノ基と一体となって含窒素複素環を形成する基であり、形成される含窒素複素環基としては、窒素原子以外のヘテロ原子が含まれていてもよい。
【0050】
上記アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、1−メチルプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヒドロキシメチル基、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基、チオメトキシメチル基、2−(4−ヒドロキシフェニル)エチル基、2−(3−インドリル)エチル基等の上述の置換基により置換されていてもよい炭素数1〜6のアルキル基が挙げられる。
【0051】
また、上記含窒素複素環基として好ましくは5〜7員の含窒素複素環であり、より好ましくは窒素原子を1又は2個含有し、それ以外のヘテロ原子を含有しない含窒素複素環基が挙げられる。上記含窒素複素環基の好ましい具体例としては、ピペリジル基、ピペラジル基、ピラジル基、ピロリジル基が挙げられる。
【0052】
また、上記含窒素複素環基は反応を阻害しない限りにおいて置換基を有していてもよく、上記置換基の具体例としては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、水酸基、アミノ基、ニトロ基、カルボン酸基、アルコキシ基等が挙げられ、このうち好ましくは炭素数1〜4のアルキル基が挙げられる。
【0053】
上記一般式(I)中の置換基Rとしては、水素原子、置換されていてもよいアルキル基又は置換されていてもよいアリール基を示す。
【0054】
上記アルキル基は、直鎖、分岐鎖或いは環状のアルキル基が挙げられ、このうち好ましくは炭素数1〜6のものであり、上記アリール基としてはフェニル基又はナフチル基が挙げられる。
【0055】
上記アルキル基又はアリール基の置換基としては、上記Aの含窒素複素環の置換基として記載したのと同様の基が挙げられる。
【0056】
上記置換されていてもよいアルキル基又はアリール基として好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、トリフルオロメチル基、1−ヒドロキシカルボニルエチル基、フェニル基、トリル基、ニトロフェニル基等が挙げられる。
【0057】
上記Rとして好ましくは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基又は置換基を有するフェニル基であり、より好ましくは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基及びp−ニトロフェニル基である。
【0058】
この製造方法においては、本発明のポリペプチドを蓄積している組み換え体生物、組み換え体生物処理物、本発明のポリペプチドが蓄積した無細胞蛋白質合成系反応液及び/又はその処理物が酵素触媒として反応系に添加される。具体的には、上記組み換え体生物を培養して得られた細胞そのまま、あるいはトルエン、界面活性剤などの有機化合物による処理、凍結乾燥処理、物理的破砕処理など公知の手法にて処理した処理物、上記無細胞蛋白質合成系の反応液、さらには上記組み換え体生物処理物、及び無細胞蛋白合成反応液から本願の立体選択的アミダーゼ活性画分を粗精製画分、又は精製物として取り出して用いることも可能である。さらには、このようにして得られた組み換え体生物、組み換え体生物処理物、酵素画分等をポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲル等の担体に固定化したもの等を用いることも可能である。以下、「高濃度酵素調製物」という用語を、上記組み換え体生物、無細胞蛋白質合成系反応物、それらの処理物、酵素画分、及び固定化物の全ての概念を包含する言葉として用いる。
【0059】
本反応において、反応原料であるラセミ体のカルボン酸アミド類は、基質濃度が高すぎると酵素が基質阻害を受ける可能性もあるため、通常、0.1mM−1Mの濃度で、より好ましくは10−100mMの濃度で反応液に添加する。これらは、反応開始時に一括して添加しても良いが、生成物の蓄積濃度を向上させために連続的もしくは間欠的に添加することもできる。
【0060】
本反応は、水性媒体中もしくは該水性媒体と有機溶媒との混合液中で行われ、上記、水性媒体としては、水、あるいは、リン酸カリウム水溶液、トリス−塩酸水溶液等の緩衝液が挙げられ、また、有機溶媒としては、エタノール、プロパノール等のアルコール類;アセトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;トルエン等の芳香族炭化水素類;クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;n−ヘキサン等脂肪族炭化水素類;ジメチルスルホキシド等の有機化合物が使用できる。
【0061】
反応液のpHはアルカリ状態で反応が好適に進行するが、pH6.0−9.5であることが好ましく、pH7.0−9.5がより好ましい。この条件を満たすために、反応中、必要に応じて、希薄な酸またはアルカリ溶液を随時添加してpHを希望の範囲に維持することもできる。
【0062】
反応温度は0−50℃で反応は進行するが、25−45℃で維持することがより好ましい。
【0063】
また、エチレンジアミン4酢酸(EDTA)を反応液に添加することにより、酵素活性を促進することができる。この場合、EDTAは0.001−100mM、より好ましくは0.5−10mMの濃度で添加される。反応液は必要に応じ攪拌混合される。
【0064】
上記反応で製造された(S)体のカルボン酸及び/又は残存した(R)体のアミド化合物は、溶媒抽出、クロマトグラフィー等、通常の分離・精製方法により単離することができる。
【0065】
(V)ランダムリコンビネーションによる新規ポリペプチドの製造
さらに本発明は、配列番号2に表される塩基配列を有するDNA又はそのDNAホモログと、該DNAと相同性が50%以上のDNAをin vivoまたはin vitroでランダムに組換えることにより、アミダーゼ活性を有する新しい塩基配列のDNAを取得する方法に関する。
【0066】
in vivoにおいてDNAをランダムに組み換える方法としては、Nat.Biotechnol.、17、333−334(1999)〕において、Cherry J.R.らにより報告された方法が挙げられる。
【0067】
また、in vitroにおいてDNAをランダムに組み換える方法としては、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、91、10747−10751(1994)において、Stemmer W.P.C.らが報告した方法、Nat.Biotechnol.、16、258−261(1998)において、Zhao H.らが報告した方法、及びNature、391、288−291(1998)において、Crameri A.らが報告した方法が挙げられ、このうちCrameri A.らの方法が特には好ましい。
【0068】
上述の方法に従えば、お互いに相同性の高い、加水分解酵素をコードするDNAを数種用いてin vitroで組み換えを行い、新規な加水分解酵素活性を有するポリペプチドをコードするDNAを取得することが当業者であれば可能である。また、得られたDNAを、本明細書中上記した方法に準じて、好適な発現系に導入して、コードされるポリペプチドを発現させることにより、アミダーゼ活性を有する新規なポリペプチドを製造することが可能である。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を越えない限り本発明の技術分野における通常の変更をすることができる。
【0069】
【実施例】
実施例1:立体選択的アミダーゼの単離
シュードモナス・アゾトフォルマンスIAM1603株を下記の組成を有するBM培地25.0リットルに接種し、30℃で12時間培養し、遠心分離により菌体を取得した。菌体125gを超音波破砕し、遠心分離により無細胞抽出液を調製した。
【0070】
【表1】
【0071】
これを10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で平衡化したDEAE−Toyopearl樹脂(東ソ−(株)社製)に吸着させイオン交換クロマトグラフィーを行い、その50mMの塩化ナトリウムを含む溶出画分の立体アミダーゼ活性を有する画分を順次硫酸アンモニウムを用いたButyl−Toyopearlカラム(東ソー(株)社製)、Gigapiteカラム(生化学工業社製)、FPLC Superdex200(アマシャムファルマシアバイオテク社製)、MonoQ(アマシャムファルマシアバイオテク社製)、及び再度Superdex200(アマシャムファルマシアバイオテク社製)を用いてカラムクロマトグラフィーを行い、そこから得られた活性画分で最終的にグラジエントゲルNPG−520L(アトー(株)社製)を用いたNative−電気泳動を行い、活性の存在する部分をゲルから切り出すことにより本発明のポリペプチドを単離した。該ポリペプチドの分子量を決定するべく、SDS−PAGE、及びTSKgel G3000SW(東ソー(株)社製)によるサイズ排除クロマトグラフィーにより決定したところ、それぞれ34000(SDS−PAGE)、及び32000(サイズ排除クロマトグラフィー)であり、サブユニット構成はモノマーであると推定された。
【0072】
実施例2:部分アミノ酸配列の解析
実施例1で得られた精製立体特異的アミダーゼをペプチダーゼにより消化し、高速液体クロマトグラフィー条件A(HPLC)により部分ペプチドを2種類分取した。
HPLC条件A;
カラム:TSKgel ODS−120T(東ソー(株)社製)
溶離液:水/トリフルオロ酢酸/アセトニトリルによるグラジエント溶出
流量:1.0mL/分
検出:UV210nm吸光度
得られたペプチド断片及び実施例1により精製したポリペプチドのN−末端のアミノ酸配列を、自動エドマン分解アミノ酸シークエンサー HP G1005A protein Sequencing System(ヒューレットパッカード社製)を用いて分析した。それぞれのアミノ酸配列は、配列番号3、4、5で示される。
【0073】
実施例3:本発明DNAの部分断片の取得
シュードモナス・アゾトフォルマンスIAM1603株を上述のBM培地5.0mLに接種し、30℃で12時間培養した。遠心分離により微生物菌体を取得し、フェノールクロロホルム法を用いて該微生物の染色体DNAを取得した。実施例2で判明したアミノ酸配列から、配列番号6−10(AF1、BF1、BR1、CF1、CR1)のPCRプライマーを設計し、耐熱型DNAポリメラーゼ存在下これら5種のプライマーのうち任意の2種を添加してPCRを行った。本PCRの産物をアガロースゲル電気泳動したところ、プライマーAF1とCR1を用いた反応液に0.2kbpのDNAが特異的に増幅されていたので、これをアガロース電気泳動ゲルから抽出精製した。そのDNAの一部をpT7BlueT−Vector(Novagen社製)にクローニングしてLi−cor DNA Sequencer model 4000Lを用いて(操作方法は付属のマニュアルインストラクションに従った)塩基配列を決定した(配列番号11)。上記Degenerate PCRにより増幅した0.2kbpの精製DNAの残りをRediprimeTMII random prime labelling system(アマシャムファルマシアバイオテク(株)社製)により標識した。
【0074】
実施例4:シュードモナス アゾトフォルマンス IAM1603 染色体DNAライブラリーのサザンハイブリダイゼーション
実施例3記載の方法によりシュードモナス アゾトフォルマンス IAM1603の染色体DNAを取得した。本DNAをFbaIで消化した後、実施例3で作製した0.2kbpの標識DNAをプローブとして用いてサザンハイブリダイゼーションを行った。手法はモルキュラークローニング第3版に従い、ハイブリダイゼーションは40%ホルムアミド、2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液中、42℃で行った。その結果、約2kbpのDNAバンドが検出され、本DNAをアガロースゲルから抽出精製し、pBluescriptSK(−)(Stratagene社製)のBamHI部位に挿入し、塩化カルシウムを用いた形質転換方法によりE.coli JM109株に導入した。
【0075】
実施例5:コロニーハイブリダイゼーション及びサブクローニング
実施例4において得られたE.coli JM109の形質転換株を80μg/mLアンピシリンを含むLB寒天培地(1Lの水溶液中にBacto Trypton 10.0g、Bacto Yeast Extract 5.0g、塩化ナトリウム 10.0g、寒天15.0gを含む)に塗布し、37℃で一晩培養した。生じたコロニーをニトロセルロース膜HybondTM ECLTM(アマシャムファルマシアバイオテク(株)社製)にリフティングし、実施例3で取得したDNAプローブを用い、40%ホルムアミド、2×SSC、0.1%SDSを含む緩衝液中、42℃でハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションの結果、陽性のクローンからプラスミド(pSTB10)を取得し、Li−cor DNA Sequencer model 4000Lを用いて、塩基配列を決定した(配列番号12)。
【0076】
実施例6:発現用プラスミドの構築
上記実施例5で得られたpSTB10を鋳型として、プライマーSTB−FとSTB−R(配列番号13及び14)を用いてPCRを行った。得られたPCR反応生成物を精製し、制限酵素HindIII及びXbaIで消化し、同様の酵素で消化したpUC19(宝酒造(株)社製)に連結してpSTB20を作製後、E.coli JM109に塩化カルシウム法で形質転換した。80μg/mLアンピシリンを含むLB寒天培地に形質転換株を塗布し、生育したクローンを取得して、E.coli JM109(pSTB20)を得た。
【0077】
実施例7:E.coli JM109(pSTB20)からの立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチドの精製
E.coli JM109(pSTB20)を80μg/mLアンピシリンを含むLB培地2.5Lで培養後、遠心分離により約10.0gの菌体を得た。これを100mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁し、超音波破砕及び遠心分離により無細胞抽出液を得た。これに硫酸アンモニウムを添加し、50−70%飽和の硫酸アンモニウム画分を得た。さらにこれを10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に溶解・透析後、同緩衝液で平衡化したDEAE−Toyopearlカラムに吸着させ、0−200mM塩化ナトリウムを含む10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)(直線濃度勾配)で溶出した。目的の活性を含む画分に30%飽和になるよう硫酸アンモニウムを加え、Butyl−Toyopearlを用いた疎水カラムクロマトグラフィーを行い、30−0%飽和硫酸アンモニウムの直線濃度勾配法で溶出した。溶出後、活性を含む画分を選択し、脱塩・濃縮し精製標品とした。
【0078】
実施例8:精製立体選択的アミダーゼの酵素学的性質
基質としてL−プロリンアミドを用いて、実施例7で取得した精製酵素のアミド加水分解反応の至適pH、及び至適温度、また本酵素の温度耐性や1mM阻害剤の影響を、加水分解反応により生じるL−プロリンをHPLCで定量することにより行った。至適温度、温度耐性、及び阻害剤の影響についての測定は100mMトリス−塩酸緩衝液(pH8)中で行なった。至適pHの測定はpHの異なる各種緩衝液中で行なった。反応は30℃で5分行い、反応はエタノールの添加により停止し、HPLCのサンプルとした。なお、温度耐性を測定するための熱処理は、各温度において5分のインキュベーションを行い、30℃に調温後その活性を測定した。また阻害剤については、酵素を1mM阻害剤存在下で30℃、3分間インキュベートした後、L−プロリンアミドを添加し30℃で5分間インキュベーションした後、エタノールの添加により反応を停止して下記HPLC条件Bを用いて生成したL−プロリンの定量をした。
【0079】
HPLC条件B
カラム:Sumichiral OA−5000((株)住化分析センター社製)
カラム温度:30℃
溶離液:2mMCuSO4 水溶液
流速:1.0mL/分
検出:UV254nm吸光度
その結果を以下の表2及び表3にまとめた。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
また、本酵素のL−プロリン−p−ニトロアニリドに対するKm及びVmaxも同様に100mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)中、30℃で測定した結果、Km値、Vmax値はそれぞれ0.583mM、及び80.9U/1mg・ポリペプチドであった(1Uは本酵素が1分間に1μmoleのL−プロリン−p−ニトロアニリドを加水分解するのに必要な酵素量である)。
【0083】
実施例9:基質選択性の検討
実施例7で取得した精製酵素を用いて、基質選択性を検討した。基質化合物は20mMの濃度で添加し、100mMトリス−塩酸(pH8.0)中、30℃で酵素反応し、分析は下記HPLC条件Cで行った。
HPLC条件C;
カラム:Smichiral OA−5000、またはOA−5000L((株)住化分析センター社製)
カラム温度:30℃
溶離液:2mM CuSO4水溶液
流速:1.0mL/分
検出:UV254nm吸光度
L−プロリンアミドに対する活性を100として、その相対活性を以下の表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
本発明のポリペプチドのアミダーゼ活性は、L−プロリンアミドまたはL−プロリン−p−ニトロアニリドに特に強い活性を示し、その他ピペラジン−2−カルボキサアミド、L−アラニンアミド、などに弱い活性を示した。また、N−アルキルアミド化合物に対しても有意な活性を示した。
【0086】
実施例10:組み換え体E.coliを用いた立体特異的アミド加水分解反応
E.coliJM109(pSTB20)を80μg/mLのアンピシリン及び0.5mMIPTGを含むLB培地3.0mLに接種し、37℃で12時間攪拌培養した。3000×g、10分の遠心分離により菌体を取得し、3.0mLの0.9%NaClで懸濁後、再度同様の遠心分離により菌体を分離した。この菌体を100mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で懸濁し、3.6mLの細胞懸濁液を得た。このうち、400μLを400μLの40mMラセミ体プロリンアミド、またはラセミ体ピペラジン−2−カルボキサミドを含む100mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)と混合後、30℃でインキュベートした。2時間後、エタノールで反応を停止し、上記HPLC条件Cにおいて、加水分解により生成したプロリンまたはピペラジン−2−カルボン酸の光学純度を測定した。その結果、D−プロリンまたは(R)−ピペラジン−2−カルボン酸の生成は全く見られず、L−プロリンまたは(S)−ピペラジン−2−カルボキサミドの光学純度はほぼ100%であった。
【0087】
実施例11:組み換え体E.coliを用いた(RS)−N−tert−ブチルピペラジン−2−カルボキサミドの加水分解反応
E.coliJM109(pSTB20)を80μg/mLのアンピシリン及び0.5mMIPTGを含むLB培地で培養し、菌体を遠心分離により得た。これの湿菌体重量を測定し、200mMのラセミ体−N−tert−ブチルピペラジン−2−カルボキサミドを含む100mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)1.0mLにそれぞれ0.28%、1.41%、及び2.83%になるよう添加し30℃でインキュベートした。一定時間ごとにサンプリングを行い、エタノールで反応を停止後、上記HPLC条件Bにより生成したピペラジン−2−カルボン酸の定量及び光学純度の測定を行った。結果を図1に示す。
図1の結果から分かるように、生成した(S)−ピペラジン−2−カルボン酸の光学純度は95.5%e.e.であった。
【0088】
【発明の効果】
本発明により、含窒素複素環含有カルボン酸アミド類を立体選択的に加水分解する能力を有する新規アミダーゼ及びそれをコードするDNAが提供される。 本発明のアミダーゼを、カルボン酸アミド類に作用させることにより、医・農薬中間原料として有用なキラルカルボン酸類及び/又はキラルカルボン酸アミド類を製造することが可能になる。
【0089】
【配列表】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、組み換え体E.coliを用いた(RS)−N−tert−ブチルピペラジン−2−カルボキサミドの加水分解反応の測定結果を示す。
Claims (8)
- 以下の理化学的性質を有する立体選択的アミダーゼ。
(1)分子量:ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定した場合に34000であり、ゲル濾過で測定した場合に32000;
(2)サブユニット構成:モノマー
(3)L−プロリンアミドを基質として用いた時のアミダーゼ反応至適pH:pH9付近(4)L−プロリンアミドを基質として用い、pH8で反応を行なった時のアミダーゼ反応至適温度:45℃付近
(5)pH8における耐熱性:40℃以下で安定である
(6)本ポリペプチドのアミダーゼ活性を完全に阻害する化合物:フェニルヒドラジン、Zn2+、Ag+、Cd2+、Hg2+
(7)EDTAの影響:反応液に1mMのEDTAを添加することにより酵素活性が促進される。 - 下記の何れかのポリペプチド。
(1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(2)配列番号1で表されるアミノ酸配列において1から複数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチド; - 請求項2に記載のポリペプチドをコードするDNA。
- 下記の何れかのDNA。
(1)配列番号2で表される塩基配列を有するDNA;
(2)配列番号2で表される塩基配列において1から複数個の塩基が欠失、置換及び/又は付加された塩基配列を有し、立体選択的アミダーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA; - 請求項3又は4に記載のDNAを有する組み換えベクター。
- 請求項3又は4に記載のDNAあるいは請求項5記載の組換えベクターを有する形質転換体。
- L−プロリンアミド、L−アラニンアミド、L−ロイシンアミド、L−イソロイシンアミド、L−セリンアミド、L−トレオニンアミド、L−メチオニンアミド、L−フェニルアラニンアミド、L−チロシンアミド、L−トリプトファンアミド、L−プロリン−p−ニトロアニリド、(RS)−ピペラジン−2−カルボキサミド、又は(RS)−N−tert−ブチルピペラジン−2−カルボキサミドから選択されるカルボン酸アミド類に、請求項1に記載のアミダーゼ、請求項2に記載のポリペプチド、又は請求項6に記載の形質転換体を作用させることにより、(S)−体のアミド結合を選択的に加水分解させた後、(S)−体のカルボン酸類または/及び(R)−体のカルボン酸アミド類を単離することを含む、光学活性なカルボン酸類及び/またはアミド類の製造方法。
- エチレンジアミン4酢酸の共存下で反応を行う、請求項7に記載の製造方法。
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