JP2011205921A - ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体及びそれを用いた光学活性(R)−3−キヌクリジノールの製造方法 - Google Patents

ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体及びそれを用いた光学活性(R)−3−キヌクリジノールの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】連続的に光学活性(R)−3−キヌクリジノールを製造する方法の提供。
【解決手段】3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子を含む組換えベクター、該ベクターが導入された遺伝子組換え体並びに該組換え体を用いた光学活性(R)−3−キヌクリジノールの製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、医薬及び農薬として有用である光学活性(R)−3−キヌクリジノールの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系遺伝子が導入されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体の提供に関する。また、本発明は、当該組換体を利用した光学活性(R)−3−キヌクリジノールの製造方法に関する。
光学活性3−キヌクリジノールの製造方法としては、3−キヌクリジノンの不斉還元反応を触媒する酵素を利用する方法が知られている。この方法に利用される3−キヌクリジノンの不斉還元反応を触媒する酵素としては、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属又はアグロバクテリウム(Agrobacterium)属に属する微生物により産生される酵素であって、NADH依存的に3−キヌクリジノン又はその塩を還元し、光学活性(R)−3−キヌクリジノールを生成する酵素(特許文献1、2)が知られている。そして、前記酵素とグルコース脱水素酵素とを大腸菌で共発現させて、補酵素再生系と組み合わせた不斉還元反応により3−キヌクリジノンから光学活性(R)−3−キヌクリジノールを製造する方法が知られている(特許文献2)。
しかしながら、従来の組換体による光学活性(R)−3−キヌクリジノールの製造方法では、微生物菌体が機械的に破砕及び/又は溶菌されるため、菌体の再利用による繰り返し反応や連続的な生産反応を行うことが困難であった。具体的には、大腸菌を宿主とした組換体を酵素的不斉還元反応に用いた場合、反応の進行に伴って菌体が破壊され、これに伴って反応効率が低下したり、菌体内の補酵素が漏出することが多い。このため、大腸菌組換体を使用した系では、系外からの補酵素添加が必要であり、また菌体の再利用による繰り返し反応や連続的な生産反応を行うことは困難であった。
また、他の方法として、微生物菌体を適当な担体に固定した固定化酵素を用いた連続生産反応による方法が知られているが、この方法においても上記と同様に、反応に伴って補酵素が反応系外へ漏出するため、随時補酵素を添加しなければならなかった。
また、3−キヌクリジノールの製造方法としては、補酵素再生系を構成する遺伝子が導入されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体を用いて、3−キヌクリジノンから3−キヌクリジノールを生成する方法が知られている(特許文献3)。
この方法ではロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体を用いているため、上記の大腸菌組換体で生じた補酵素の漏出等の現象は観察されない。
しかし、この方法における3−キヌクリジノン不斉還元反応は、宿主となるロドコッカス(Rhodococcus)属細菌内在性の還元酵素によるものである。このため、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子を導入した組換体による反応に比べて、生成物の光学純度、反応収率などは低かった。
特開2003-334069号 特開2008-212144号 特開2004-159587号
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子が導入された遺伝子組換体であって、菌体内で再生された補酵素が漏出することなく、菌体の再利用による繰り返し反応や連続生産が可能となる組換体を提供することにある。また、本発明が解決しようとする課題は、前記組換体を用いた光学活性(R)−3−キヌクリジノールの製造方法を提供することにある。
本発明者らは、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子が導入されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体を作製した。該組換体は菌体内で再生された補酵素が漏出することがないため、菌体の再利用による繰り返し反応や効率的な連続生産が可能である。
また、本発明者らは、前記組換体の使用により、高い光学純度を有する光学活性(R)−3−キヌクリジノールを効率良く製造できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子が導入された、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体。
(2)3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子が、ミクロバクテリウム属に属する微生物由来のものである、上記(1)に記載の組換体。
(3)補酵素がNADHである、上記(1)に記載の組換体。
(4)補酵素再生系酵素遺伝子がアルコール脱水素酵素遺伝子である、上記(1)に記載の組換体。
(5)アルコール脱水素酵素遺伝子が、ロドコッカス属に属する微生物由来のものである上記(4)に記載の組換体。
(6)ロドコッカス属に属する微生物が、ロドコッカス ルーバー(Rhodococcus ruber)DSM44541、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)DSM 43066、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC25544及びロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC4277からなる群から選ばれる少なくとも一種である、上記(5)に記載の組換体。
(7)ロドコッカス属に属する微生物が、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス グロベルルス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス ルテウス(Rhodococcus luteus)、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)及びロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、上記(1)に記載の組換体。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の組換体又はその培養液を、3-キヌクリジノン又はその塩に作用させる工程を含む、光学活性(R)−3−キヌクリジノール又はその塩の製造方法。
本発明により、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子が導入されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体を提供することができる。当該組換体は、菌体内で再生された補酵素が漏出することがないため、菌体の再利用による繰り返し反応や効率的な連続生産に用いることが可能である。さらに、本発明の組換体を用いることにより、高い光学純度を有する光学活性(R)−3−キヌクリジノールを効率良く製造することができる。
プラスミドpSJ034の制限酵素地図を示す図である。 プラスミドpRQAの制限酵素地図を示す図である。 酵素反応を繰り返し行った結果を示すグラフである。
以下、本発明を詳細に説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態のみに限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施をすることができる。
1.概要
本発明は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子が導入されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体、並びに該組換体を用いた光学活性(R)−3−キヌクリジノールの製造方法に関する。
本発明者らは、光学活性(R)−3−キヌクリジノールの製造において、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子が導入されたロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体を用いることにより、補酵素を添加しない条件下で酵素反応を繰り返し行うことができることを見出した。そして、当該酵素反応の結果として、高い光学純度を有する光学活性(R)−3−キヌクリジノールを効率良く製造することができることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
2.3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子
本発明において、3−キヌクリジノン不斉還元酵素とは、3−キヌクリジノン又はその塩を不斉還元し、光学活性(R)−3−キヌクリジノールの生成を触媒する酵素を意味し、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子とは、前記酵素をコードする遺伝子を意味する。なお、遺伝子には、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA及びRNAが含まれる。
本発明に用いられる3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子としては、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加してなるアミノ酸配列からなり、かつ、キヌクリジノン還元酵素活性を有するタンパク質
ここで、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列としては、例えば、
(i) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii) 配列番号2で示されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii) 配列番号2で示されるアミノ酸配列に1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、
(iv) 上記(i)〜(iii) の組合せにより変異されたアミノ酸配列
などが挙げられる。
ここで、「キヌクリジノン還元酵素活性」とは、3−キヌクリジノンに特異的に作用して、3−キヌクリジノンのカルボニル基を還元し、光学活性3−キヌクリジノールを生成する触媒活性を意味する。当該酵素活性は、公知方法、例えば第4124453号特許公報に記載されたガスクロマトグラフィーによる活性測定法、分光光学法を用いた活性測定法により測定することができる。また、「キヌクリジノン還元酵素活性を有する」とは、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質のキヌクリジノン還元酵素活性を100としたときと比較して、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、好ましくは90%以上の活性を有することを意味する。
また、本発明に使用される3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子としては、例えば、以下の(a)又は(b)に示すポリヌクレオチドを含む遺伝子が挙げられる。
以下の(a)及び(b)のポリヌクレオチドを含む遺伝子は、これらポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいし、これらポリヌクレオチドを一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター配列、SD配列、シグナル配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含むものであってもよく、限定されるものではない。
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、キヌクリジノン不斉還元酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
上記(b)のポリヌクレオチドは、Kunkel法やGapped duplex法等の部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTMSite-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて、上記(a)のポリヌクレオチドに変異を導入することにより得ることができる。
また、上記(b)のポリヌクレオチドは、配列番号1で示される塩基配列からなるポリヌクレオチド又はその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法によりcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることもできる。ハイブリダイゼーション法の手順及びライブラリーの作製方法については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press(1989))等を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーを用いてもよい。
上記ストリンジェントな条件としては、例えば、0.1×SSC〜10×SSC、0.1%〜1.0%SDS及び20℃〜80℃の条件が挙げられ、より詳細には、37℃〜56℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、0.1×SSC、0.1%SDS中、室温で10〜20分の洗浄を1〜3回行う条件が挙げられる。
ハイブリダイゼーションは、公知の方法によって行うことができる。ハイブリダイゼーションの方法については、例えば、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons(1987-1997))等を参照することができる。
本明細書において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドには、例えば、配列番号1で示される塩基配列と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。同一性を示す値は、BLASTなどの公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
また、配列番号1で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、例えば、配列番号1で示される塩基配列において1個又は数個の核酸に欠失、置換又は付加などの変異の生じた塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
ここで、配列番号1で示される塩基配列において1個又は数個の核酸に欠失、置換又は付加などの変異の生じた塩基配列としては、例えば、
(a) 配列番号1で示される塩基配列中の1〜10個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)の核酸が欠失した塩基配列、
(b) 配列番号1で示される塩基配列中の1〜10個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)の核酸が他の核酸で置換された塩基配列、
(c) 配列番号1で示される塩基配列に1〜10個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)の核酸が付加した塩基配列、
(d)上記(a)〜(c)の組合せにより変異された塩基配列
などが挙げられる。
本発明の3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、3−キヌクリジノン不斉還元酵素を発現する微生物のDNAを鋳型として、当該遺伝子部分配列を増幅することにより取得することができる。
本発明において、塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができ、例えば、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することができる。
3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子が由来する微生物としては、例えば、アグロバクテリウム(Agrobacterium)属、ロドトルーラ(Rhodotorula)属、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属等に属する微生物が挙げられるが、発現する酵素の光学選択性の観点から、ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物が好ましい。
ミクロバクテリウム(Microbacterium)属に属する微生物としては、例えば、ミクロバクテリウム ルテオラム(Microbacterium luteolum)JCM 9174、ミクロバクテリウム エステボアロマティカム(Microbacterium estevoaromaticum)JCM9172、ミクロバクテリウム アラビノガラクタノリティカム(Microbacterium arabinogalactanolyticum)JCM 9171などが挙げられるが、ミクロバクテリウム ルテオラムJCM 9174が好ましい。なお、JCM番号が付された菌株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターから容易に入手することができる。
3.補酵素再生系酵素遺伝子
本発明において、補酵素再生系酵素とは、補酵素を酸化型から還元型、あるいは還元型から酸化型に再生する酵素を意味し、補酵素再生系酵素遺伝子とは、前記酵素をコードする遺伝子を意味する。なお、遺伝子には、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA及びRNAが含まれる。
本発明において、「補酵素」とは酸化還元反応における電子の授受に機能する低分子量の有機化合物を指す。上記のとおり、補酵素には酸化型補酵素及び還元型補酵素があるが、酸化型補酵素としては、例えば、NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)、NADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)、FAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)等が挙げられ、還元型補酵素としては、NADH、NADPH、FADH等が挙げられる。
また、「補酵素再生系」とは、補酵素依存性還元酵素(例えば3−キヌクリジノン不斉還元酵素)による還元反応の結果として酸化型に変換された補酵素を、還元型に再生する反応系、あるいは補酵素依存性酸化型酵素による酸化反応の結果として還元型に変換された補酵素を、酸化型に再生する反応系をいう。
本発明に用いられる補酵素再生系酵素遺伝子としては、以下の(a)又は(b)のタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
(a)配列番号4に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号4に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換若しくは付加してなるアミノ酸配列からなり、かつ、補酵素再生系酵素活性を有するタンパク質
ここで、配列番号4で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が、欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列としては、例えば、
(i) 配列番号4で示されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、
(ii) 配列番号4で示されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、
(iii) 配列番号4で示されるアミノ酸配列に1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、
(iv) 上記(i)〜(iii) の組合せにより変異されたアミノ酸配列
などが挙げられる。
ここで、「補酵素再生系酵素活性」とは、補酵素を酸化型から還元型、又は還元型から酸化型へ変換させる活性を意味する。当該活性は、公知の補酵素定量方法、例えば、自動分析機を用いて各補酵素の吸光度を分析する方法により、測定することができる。例えば、NAD+を用いた場合であれば、トリス−塩酸緩衝液(pH8.0, 50mM)、NAD+(0.3mM)、セミカルバジド(6.2mM)、2−プロパノール(150mM)及び酵素を含む液(10〜200μL/mL) からなる反応混合液を、37℃でインキュベーションして反応させ、NADHの生成にともなう340nmの吸光度の増加を測定する。そして、この反応条件において、1分間に1μmolのNADをNADHに変換するのを触媒する酵素活性を 1 unit(1U)と定義することにより、補酵素再生系酵素活性を測定することができる。
また、「補酵素再生系酵素活性を有する」とは、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質の補酵素再生系酵素活性を100としたときと比較して、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、好ましくは90%以上の活性を有することを意味する。
また、本発明に使用される補酵素再生系酵素遺伝子としては、例えば、以下の(a)又は(b)に示すポリヌクレオチドを含む遺伝子が挙げられる。
以下の(a)及び(b)のポリヌクレオチドを含む遺伝子とは、これらポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいし、これらポリヌクレオチドを一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター配列、SD配列、シグナル配列、Kozak配列、ターミネーター等)を含むものであってもよく、限定されるものではない。
(a)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号3に示す塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、補酵素再生系酵素活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
上記(b)のポリヌクレオチドに関する部位特異的突然変異誘発法、ストリンジェントな条件、コロニーハイブリダイゼーション等による取得方法、ハイブリダイゼーションの方法等は、上記と同様である。
本明細書において、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドには、例えば、配列番号3で示される塩基配列と少なくとも80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは98%以上の同一性(相同性)を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドが含まれる。同一性を示す値は、BLASTなどの公知のプログラムを利用することにより算出することができる。
また、配列番号3で示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドは、例えば、配列番号3で示される塩基配列において1個又は数個の核酸に欠失、置換又は付加などの変異の生じた塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
ここで、配列番号3で示される塩基配列において1個又は数個の核酸に欠失、置換又は付加などの変異の生じた塩基配列としては、例えば、
(a) 配列番号3で示される塩基配列中の1〜10個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)の核酸が欠失した塩基配列、
(b) 配列番号3で示される塩基配列中の1〜10個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)の核酸が他の核酸で置換された塩基配列、
(c) 配列番号3で示される塩基配列に1〜10個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、より好ましくは1〜2個、さらに好ましくは1個)の核酸が付加した塩基配列、
(d)上記(a)〜(c)の組合せにより変異された塩基配列
などが挙げられる。
本発明の補酵素再生系酵素遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、補酵素再生系酵素を発現する微生物のDNAを鋳型として、当該遺伝子部分配列を増幅することにより取得することができる。
本発明において、塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができ、例えば、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することができる。
補酵素再生系酵素としては、例えば、アルコール脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素等が挙げられる。
アルコール脱水素酵素とは、アルコールを酸化してケトンに変換する酵素活性を有するものを意味する(Biotechnol. Bioengineering. vol.81, issue 7,865-869(2003))。
アルコール脱水素酵素による反応は酸化還元反応であるため、補酵素はこの反応により還元型(例えばNADH)となる。ここで、上記補酵素のうち、アルコール脱水素酵素に用いることのできる補酵素としてはNAD、NADP、FADなどが挙げられるが、工業的利用を目的とした場合はNADを用いることがより好ましい。
上記アルコール脱水素酵素としては、脂肪族アルコールを酸化することによりNADH再生を行うものが特に好ましい。
アルコール脱水素酵素遺伝子が由来する微生物としては、例えば、パン酵母、カンジダ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属等の微生物が挙げられるが、ロドコッカス属に属する微生物が好ましい。
ロドコッカス属に属する微生物としては、例えば、ロドコッカス ルーバー(Rhodococcus ruber)DSM44541、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)DSM 43066、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC25544、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC4277、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)等が挙げられるが、ロドコッカス ルーバー(Rhodococcus ruber)DSM44541が好ましい。
上記アルコール脱水素酵素の基質としては、例えばエタノール、2−プロパノール、2−ブタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ヘプタノール、2−オクタノールまたはシクロヘキサノールなどの第1級および第2級アルコールが挙げられる。中でも、2−プロパノールを用いることが好ましい。
4.組換えベクター
本発明の組換体の作製には、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子の両者を含有する組換えベクターを用いることができる。このベクターにより、3−キヌクリジノン不斉還元酵素及び補酵素再生系酵素を同一の反応系に発現させることができる。補酵素は、発現した3−キヌクリジノン不斉還元酵素の触媒反応により、還元型から酸化型に変換される。一方、補酵素再生系酵素も同一系内に発現するため、補酵素再生系酵素の触媒反応により、酸化型補酵素は還元型に再生される。従って、還元型補酵素を反応系に添加しなくても、3−キヌクリジノン不斉還元酵素を用いて光学活性(R)−3−キヌクリジノールを連続的に製造することができる。
本発明のベクターは、3−キヌクリジノン不斉還元酵素及び補酵素再生系酵素の両者を発現させるため、上述した3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子(必要に応じ、当該遺伝子の上流に転写プロモーターやSD配列(宿主が原核細胞の場合)やKozak配列(宿主が真核細胞の場合)を、下流にターミネーターを、PCR等により付加しておく)を含むように挿入して構築することができる。
プロモーターの種類は宿主において適切な発現を可能にするものであれば特に限定されるものではないが、例えば、エシエリヒア属宿主において利用できるものとしてはトリプトファンオペロンのtrpプロモーター、ラクトースオペロンのlacプロモーター、ラムダファージ由来のPLプロモーター及びPRプロモーターなどが挙げられ、tacプロモーター、trcプロモーターのように改変、設計された配列も利用できる。
バシラス属宿主において利用できるものとしては、グルコン酸合成酵素プロモーター(gnt)、アルカリプロテアーゼプロモーター(apr)、中性プロテアーゼプロモーター(npr)、a-アミラーゼプロモーター(amy)などが挙げられる。
コリネバクテリウム属宿主において利用できるものとしては、エシェリヒア・コリのlacプロモーター、tacプロモーター、trpプロモーターが存在する(Y.Morinaga,M.Tsuchiya,K.Miwa and K.Sano,J. Biotech., 5, 305-312(1987))。また、コリネバクテリウム属細菌のtrpプロモーターも好適なプロモーターである(特開昭62−195294号公報)。
ロドコッカス属宿主において利用できるものとしては、発現ベクターpSJ034に含まれるロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)SK-92-B1株由来のニトリラーゼ発現調節遺伝子に係るプロモーターが挙げられる。
また、本発明の組換えベクターは、必要に応じて、エンハンサーなどのシスエレメント、本発明の酵素遺伝子の5'側または3'側の非翻訳領域、スプライシング接合部、ポリアデニレーション部位、複製可能単位、相同領域、選択マーカーを含むことができる。これらのエレメントは、本発明の酵素遺伝子の発現に用いられる宿主に対応したものであれば、特に制限されず、当分野の技術常識に基づいて選択することができる。
なお、選択マーカーとしては、特に制限されず、例えば遺伝子発現に使用される宿主が細菌の場合は、薬剤抵抗性遺伝子(例えば、アンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、シクロヘキシミド耐性遺伝子、テトラマイシン耐性遺伝子など)を利用することができる。
また、本発明に使用されるベクターとしては、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)やロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)から単離された潜在性プラスミド(特開平4−330287号公報、特開平4−148685号公報、特開平9−28379号公報)を利用して構築されたベクターを使用することができる(J. Gene.Microbiol. 138., 1003 (1992)、特開平5−64589号公報)。
本発明のベクターに含まれる3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子は、上述の通りである。
5.細菌組換体
本発明の組換体は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子が導入されたものである。
宿主細胞としては、例えば、各種動物細胞、各種植物細胞、細菌、枯草菌、酵母等が挙げられるが、好ましくは細菌である。
宿主細胞として用いる細菌としては、ロドコッカス(Rhodococcus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エシエリヒア(Escherichia)属、バシラス(Bacillus)属、に属する細菌が挙げられるが、ロドコッカス属細菌が好ましい。ロドコッカス属細菌は、細胞表層が強固な点で、繰り返しの使用や連続反応等で他の菌種に比べ優位である(特開平11−103878号、特開平8−98697号、特開平6−197791号、特開平6−178691号等公報参照)。
ロドコッカス属細菌としては、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、ロドコッカス グロベルルス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス ルテウス(Rhodococcus luteus)、ロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)等が挙げられるが、好ましくはロドコッカス ロドクロウスである。
形質転換の方法としては、遺伝子工学分野で慣用されている技術、例えば電気穿孔法、リポフェクション法、ヒートショック法、PEG法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法等が挙げられる。
形質転換により作製されたロドコッカス属細菌組換体は、微生物変換反応における微生物触媒として使用することができる。
ロドコッカス属細菌組換体の培養方法において、培地としては、通常これらの微生物が生育しうるものであればいずれも使用することができる。例えば、炭素源としては、グルコース、ガラクトース、フラクトース、スクロース、ラフィノース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール、グリセリン等のアルコール類を挙げることができる。窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物を挙げることができる。その他、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、酵母エキス、各種アミノ酸等を用いてもよい。無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を挙げることができる。その他、ビタミン等が必要に応じて適宜添加してもよい。培養中は必要に応じてアンピシリンやテトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。培養条件は、通常、pH 4〜10、温度10〜40℃の範囲にて好気的に10〜180時間培養する。培養は、液体培養及び固体培養のいずれで行うこともできる。
培養後、集菌操作を行い、必要に応じて洗浄を行うことにより微生物触媒を調製する。その使用形態は、集菌した菌体を適当な緩衝液又は培養液に懸濁させた菌体懸濁液として、又はアクリルアミド、カラギーナン、アガロース等の適当な担体に固定化、又はイオン交換樹脂等に吸着させた固定化担体として使用することができる。それら使用形態は、反応条件等によって適宜選択される。
6.光学活性(R)−3−キヌクリジノール又はその塩の製造方法
(1)3−キヌクリジノン
本発明の方法において基質として使用される3−キヌクリジノンは、以下の式(I)で示される。
Figure 2011205921


[式中、(H)は鉱酸又は有機酸と塩を形成した状態であってもよいことを表す。]

式(I)で示される3−キヌクリジノンは、その窒素原子において有機酸又は鉱酸等と塩を形成しているものであってもよい。有機酸塩としては、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、酪酸塩、脂肪族有機酸塩(例えば、フマル酸塩、マロン酸塩、シュウ酸塩)、芳香族有機酸塩(安息香酸等)が挙げられる。また、鉱酸塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等が挙げられるが、入手の容易さの観点から、塩酸塩が好ましい。
本発明において、式(I)で示される3−キヌクリジノンは、市販のものを使用することもできるし、公知または新規な方法で製造したものを使用することもできる。
(2)光学活性(R)−3−キヌクリジノール
光学活性(R)−3−キヌクリジノールは、以下の式(II)で示される。
Figure 2011205921


[式中、(H)は鉱酸又は有機酸と塩を形成した状態であってもよいことを表す。]

式(II)で示される光学活性(R)−3−キヌクリジノールは、その窒素原子において有機酸又は鉱酸等と塩を形成しているものであってもよい。有機酸塩及び鉱酸塩については上記と同様である。
(3)光学活性(R)−3−キヌクリジノールの製造方法
本発明は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素及び補酵素再生系酵素を発現する組換体又はその培養液を、微生物触媒として3-キヌクリジノン又はその塩に作用させることにより、光学活性(R)−3−キヌクリジノール又はその塩を製造する方法を提供するものである。
3−キヌクリジノン不斉還元酵素は、上記式(I)で示される3−キヌクリジノンの3位にあるケトンを還元して上記式(II)で示される(R)−3−キヌクリジノールを生成する反応を触媒する。この触媒反応において、補酵素は還元型から酸化型へ変換されることから、当該触媒反応を繰り返し行うためには、還元型補酵素を何らかの形で補充する必要がある。
本発明の方法に用いられる組換体は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素及び補酵素再生系酵素を同一の反応系に発現することができる。従って、当該反応系において、補酵素は、3−キヌクリジノン不斉還元酵素の触媒反応により還元型から酸化型に変換されるが、同時に発現した補酵素再生系酵素の触媒反応により、酸化型から還元型に再生される。
従って、還元型補酵素を反応系に添加しない条件下であっても、3−キヌクリジノン不斉還元酵素を用いて光学活性(R)−3−キヌクリジノールを繰り返し製造することができる。
さらに、本発明の方法に用いられる組換体は、好ましくはロドコッカス属細菌である。ロドコッカス属細菌は細胞表層が強固であることから、繰り返しの使用や連続反応等で他の菌種に比べ優位である。
従って、組換体としてロドコッカス属細菌を用いることにより、光学活性(R)−3−キヌクリジノールを繰り返し製造することができる。
本発明の方法において、3−キヌクリジノン還元酵素は、3−キヌクリジノンに特異的に作用して、3−キヌクリジノンのカルボニル基を還元し、3−キヌクリジノールを生成する触媒活性を有する。「3−キヌクリジノンに特異的に作用」するとは、3−キヌクリジノンには作用するが、ほかの化合物、例えば3−キヌクリジノンに類似した化合物には実質的には作用しないことをいう。ここで、「3−キヌクリジノンに類似した化合物」とは、例えば、トロピノン、N-メチル-4-ピペリジノン、6-ヒドロキシトロピノン、4-ピペリドン、テトラヒドロチオピラン-4-オン、4-メチルシクロヘキサノン、3-メチルシクロヘキサノン、2-メチルシクロヘキサノンなどを例示することができる。これらの化合物は、トロピノン還元酵素の基質として作用する化合物として知られている(Phytochemistry 67, 327-337 (2006)参照)。
本発明の方法は、具体的には、3−キヌクリジノン不斉還元酵素の基質(3−キヌクリジノン)及び補酵素再生系酵素(例えばアルコール脱水素酵素)の基質を添加した水性媒体に、上記組換体の懸濁液を添加し、適切な温度条件で触媒反応を行った後、得られた反応液から光学活性(R)−3−キヌクリジノールを採取することによって実施することができる。
本発明の方法において、上記触媒反応は連続して繰り返し行うことができ、その繰り返しの回数としては、2〜10回であり、好ましくは3〜8回、より好ましくは4〜7回である。
3−キヌクリジノン不斉還元酵素の基質及び補酵素再生系酵素の基質の添加は、連続的に行うことができる。補酵素再生系酵素としてアルコール脱水素酵素を用いた場合、反応系に添加する脂肪族アルコールの量は、式(I)で示される3−キヌクリジノンに対して100モル倍以下、好ましくは40モル倍以下である。
本発明の製造方法における水性媒体としては、イオン交換水、緩衝液などが挙げられる。緩衝液に用いられる緩衝剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等のリン酸アルカリ金属塩、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等の酢酸アルカリ金属塩が挙げられる。また、3−キヌクリジノン又はその塩の溶解を促進させるために、有機溶媒又は界面活性剤を含んだ系でも反応を行うことができる。
本発明の方法における酵素反応の反応温度としては、本発明の組換体又はその死菌化細胞に含まれる酵素の安定性、反応速度の点から0〜70℃を挙げることができ、好ましくは約30〜40℃である。
反応pHとしては、反応が進行する範囲内である限り適宜変化させることができるが、例えば、pH 5〜8を挙げることができる。
酵素反応の反応時間は約1〜48時間であり、5時間〜24時間程度が好ましい。
反応終了混合液からの目的物の単離は、除菌後、濃縮、抽出、カラム分離、結晶化等通常の公知の方法によって行うことができる。例えば、pHをアルカリ性に調整後、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;ヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素類;塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類; ブタノール、イソブタノール、t-アミルアルコール等のアルコール系溶媒等一般的な溶媒により抽出分離することができる。
目的物が光学活性(R)−3−キヌクリジノールであることの確認は、ガスクロマトグラフィーあるいは、高速液体クロマトグラフィーにより、標品と溶出時間を比較することにより行われる。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及びアルコール脱水素酵素遺伝子を含む組換えベクターの作製
(1)3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子の取得
3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子は、ミクロバクテリウム ルテオラム(Microbacterium luteolum)JCM9174から抽出した染色体DNAを鋳型としてPCRを行い、当該遺伝子のORF(open reading frame)領域の全てを増幅することにより取得した。
PCRに用いたプライマー(プライマーA及びプライマーB)並びにPCR反応条件は以下の通りである。

プライマーA:catctagaatgatcatgaacctcaccg(配列番号5)
プライマーB:gcagcatgccatccctattgtgcggtgtatcctc(配列番号6)

プライマーAは、上記3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子のORF領域(768bp:配列番号1)の開始コドンATGを含む配列とその上流にXba I制限部位を付加したプライマーである。プライマーBは、終止コドンTGAを含む配列とその下流にSph I制限部位を付加したプライマーである。

PCR用の反応混合物は、25μlの2×PrimeSTAR Max DNA Polymerase buffer、22μlの蒸留水、各1μlの10μM プライマーA及びB、鋳型としてプラスミドpCRBAC水溶液を1μl添加したものを用いた。
PCRは、98℃で10秒の変性を行った後、[変性(98℃、10秒)−アニール(60℃、15秒)−伸長(72℃、4秒)]を30サイクル、GeneAmp PCR System 2400 (パーキンエルマー社製)を用いて行った。
反応終了後、1μlの反応終了液を0.7%アガロースゲル電気泳動により分析し、増幅産物を確認した。
増幅産物をWizard SV Gel AND PCR Clean-Up System(Promega社製)を用いて精製し、約50μlのDNA溶液を得た。このDNA溶液35μlを制限酵素XbaI、SphIで処理した後、エタノール沈殿によりDNA断片を回収した。
次に、XbaI、SphIで制限酵素処理を行ったプラスミドpUC18(タカラバイオ社製)溶液1μlと、上記の方法で得られたキヌクリジノン還元酵素遺伝子を含むDNA断片溶液4μl、TaKaRa Ligation Kit Mighty Mix(タカラバイオ社製)5μlを混合した。
混合液を16℃で45分反応させてDNA鎖の連結反応を行い、大腸菌JM109株を形質転換した。
形質転換体をアンピシリン(100μg/mL)含有LB培地(1%バクト−トリプトン、0.5%バクト−酵母エキス、1%塩化ナトリウム、以下、「LB培地」と略す)プレート上で生育させ、Blue/Whiteセレクション法により選別されたいくつかの白色のコロニーを、アンピシリン含有液体LB培地で培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)によりプラスミドを精製してpQDHRとした。
プラスミドpQDHR溶液20μlを制限酵素XbaI、SphIで処理し、処理液の全量を0.7%アガロースゲル電気泳動した。
泳動後のゲルから約0.8kbのバンドを切り出し、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega社製)を用いて精製して約50μlのDNA溶液1を得た。
(2)補酵素再生系遺伝子(アルコール脱水素酵素遺伝子)の取得
アルコール脱水素酵素遺伝子は、ロドコッカス ルーバー(Rhodococcus ruber)DSM44541から抽出した染色体DNAを鋳型として、上記(1)と同様の反応条件でPCRを行い、当該遺伝子のORF領域の全てを増幅することにより取得した。
PCRに用いたプライマー(プライマーC及びプライマーD)は以下の通りである。

プライマーC:gcgcatgcggaggaaatgtaatgaaagccgtccagtacac(配列番号7)
プライマーD:gcacctgcaggcatcctcagggaaccaccacgccgc(配列番号8)


プライマーCは、アルコール脱水素酵素遺伝子のORF領域(1038bp:配列番号3)の開始コドンATG上流のシャイン・ダルガーノ配列(SD配列)を含み、その上流にSphI制限部位をつけたプライマーである。
プライマーDは、終止コドンTGAを含む配列とその下流にSse8387I制限部位を付加したプライマーである。

反応終了後、上記(1)に記載の方法と同様にして増幅産物を精製し、各約50μlのDNA溶液を得た。このDNA溶液各35μlを制限酵素SphI及びSse8387Iで処理した後、エタノール沈殿によりDNA断片を回収した。
次に、上記(1)に記載の方法と同様にして、上記DNA断片と、SphI及びSse8387Iで制限酵素処理を行ったプラスミドpUC18(タカラバイオ社製)とを連結し、大腸菌JM109株を形質転換した。
形質転換体を上記(1)に記載と同様の方法によりLB培地プレート上で生育させ、白色コロニーを選別し、アンピシリン含有液体LB培地で培養して、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)によりプラスミドを精製してpADHRとした。
得られたプラスミドpADHR溶液20μlを制限酵素SphI及びSse8387Iで処理し、上記(1)に記載と同様の方法で精製して約50μlのDNA溶液2を得た。
(3)キヌクリジノン還元酵素遺伝子とアルコール脱水素酵素遺伝子の連結
XbaI及びSse8387Iで制限酵素処理を行ったプラスミドpUC18(0.5μl)と、上記(1)で得られたキヌクリジノン還元酵素遺伝子を含むDNA溶液1(2.25μl)と、上記(2)で得られたアルコール脱水素酵素遺伝子を含むDNA溶液2(2.25μl)とを混合し、上記(1)と同様の方法によりDNA断片を連結し、JM109を形質転換した。
形質転換体を上記(1)と同様の方法によりLB培地プレート上で生育させ、白色コロニーを選別し、アンピシリン含有液体LB培地で培養して、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)によりプラスミドを精製してpQARとした。
得られたプラスミドpQAR溶液20μlを制限酵素XbaI及びSse8387Iで処理し、上記(1)に記載と同様の方法で精製して各約50μlのDNA溶液3を得た。
(4)組換えベクター(ロドコッカス属細菌用プラスミドpRQA)の作製
XbaI及びSse8387Iで制限酵素処理を行ったプラスミドpSJ034(図1)溶液(1μl)と、上記(3)で得られたキヌクリジノン還元酵素遺伝子及びアルコール脱水素酵素遺伝子を含むDNA溶液3(4μl)とを、上記(1)と同様の方法により連結し、大腸菌JM109株を形質転換した。
形質転換体をカナマイシン(50μg/mL)含有LB培地プレート上で生育させ、いくつかのコロニーをカナマイシン含有液体LB培地で培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)によりプラスミドを精製してpRQA(図2)とした。
なお、pSJ034は、特開平10−337185号明細書記載の方法によりプラスミドpSJ023から作製したものである。pSJ023は形質転換体R.rhodochrous ATCC12674/pSJ023(FERM BP-6232)として産業総合技術研究所 特許生物寄託センターに寄託されている。
2.ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体の作製
(1)ロドコッカス属細菌組換体の作製
上記1.(4)で得られた組換えベクター(プラスミドpRQA)を、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)ATCC12674と混合し、氷上に10分静置後、電気パルス(2.25kv、200OHNS)を行い、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及びアルコール脱水素酵素遺伝子を含む組換えベクター(pRQA)を導入したロドコッカス属細菌組換体を作製した。
(2)ロドコッカス属細菌組換体の培養
上記(1)で得られたロドコッカス属細菌組換体を、カナマイシン含有GGPK培地〔組成:1.5%グルコース、0.1%酵母エキス、1%グルタミン酸ナトリウム、0.05%KH2PO4、0.05%K2HPO4、0.05%Mg2SO4・7H2O(pH7.2)〕に植菌し、30℃で2日間振盪培養を行った。
培養後、集菌し、適当な緩衝液等で菌体懸濁液を調製した。
3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及びアルコール脱水素酵素遺伝子を含むロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体を用いた光学活性(R)−3−キヌクリジノールの生産
23mM 3−キヌクリジノン及び719 mM 2−プロパノールを含む反応液(pH7.0)1mlに、実施例1で作製した菌体懸濁液を加えて37℃で反応させた。反応時間が1時間経過したところで反応を止め、菌体を遠心分離により回収した。回収した菌体を50mM KPBで懸濁し、再度遠心分離することにより洗浄した。回収した菌体に23mM 3−キヌクリジノン及び719mM 2−プロパノールを含む反応液(pH7.0)1 mlを加え、37℃で再度反応させた。この操作を繰り返し7回目まで反応させた。
定量及び分析はRtx-5 Amineカラム(Restek)を用いたガスクロマトグラフィーで行った。また、光学異性体の確認は、Rt-bDEXmカラム(Restek)を用いたガスクロマトグラフィーで行った。
その結果、NADHを添加することなく、さらには菌体を再利用した7回目の反応においても充分な光学活性(R)−3−キヌクリジノールの生産を確認した(図3)。
以上より、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及びアルコール脱水素酵素遺伝子が導入されたロドコッカス属細菌組換体において、NADHの再生反応が効率的に行われていることが確認された。
<比較例1>
3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子、アルコール脱水素酵素遺伝子を含む大腸菌組換体の作製
(1)3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子の取得
3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子は、上記[実施例1]と同じ反応条件及び鋳型を用いてPCR法により取得した。PCRに用いたプライマー(プライマーE及びプライマーF)は以下の通りである。

プライマーE:gggcatgcggaggaaatgtaatgatcatgaacctcaccga(配列番号9)
プライマーF:gcagaattccatccctattgtgcggtgtatcctc(配列番号10)

プライマーEは、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子のORF領域(768bp:配列番号1)の開始コドンATGを含む配列とその上流にシャイン・ダルガーノ配列(SD配列)を含み、その上流にSphI制限部位をつけたプライマーである。
プライマーFは、終止コドンTGAを含む配列とその下流にEcoRI制限部位を付加したプライマーである。
次に、SphI、EcoRIで制限酵素処理を行ったプラスミドpUC119(タカラバイオ社製)溶液1μlと、上記の方法で得られた3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子を含むDNA断片溶液4μl、TaKaRa Ligation Kit Mighty Mix(タカラバイオ社製)5μlを混合した。
混合液を16℃で45分反応させてDNA鎖の連結反応を行い、大腸菌JM109株を形質転換した。
形質転換体をアンピシリン(100μg/mL)含有LB培地プレート上で生育させ、Blue/Whiteセレクション法により選別されたいくつかの白色のコロニーを、アンピシリン含有液体LB培地で培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)によりプラスミドを精製してpQDHとした。
(2)大腸菌組換体の作製
上記(1)で得られたプラスミドpQDH、及び[実施例1]で得られたアルコール脱水素酵素を発現するプラスミドpADHRを用いて大腸菌JM109株を形質転換し、キヌクリジノン還元酵素遺伝子を含むプラスミドを導入した大腸菌組換体、及びアルコール脱水素酵素遺伝子を含むプラスミドを導入した大腸菌組換体を作製した。
(3)大腸菌組換体の培養
上記(2)で得られた大腸菌組換体を、アンピシリン(100μg/mL)及びIPTG(1mM)含有LB培地に植菌し、37℃で一晩振盪培養を行った。培養後、集菌し、適当な緩衝液等で菌体懸濁液を調製した。
<比較例2>3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子を含む大腸菌組換体、及びアルコール脱水素酵素遺伝子を含む大腸菌組換体を用いた光学活性(R)−3−キヌクリジノールの生産
3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及びアルコール脱水素酵素遺伝子が導入されたロドコッカス属細菌組換体の代わりに、<比較例1>で得られた大腸菌組換体の菌体懸濁液を用いて[実施例2]の(R)−3−キヌクリジノールの生産を行った。
その結果、1回目の反応では6時間の反応で23mMの(R)−3−キヌクリジノールが生成したにもかかわらず、2回目の反応ではわずかの反応しか起こらなかった。この反応液にNADHを添加したところ1回目の反応と同程度の(R)−3−キヌクリジノール生成が見られた。このことから、大腸菌組換体においては、補酵素NADH再生系は機能するものの、菌体内からNADHが速やかに流出するなどの理由から、NADH無添加条件では繰り返し反応や連続反応には適さないことが明らかとなった。
以上より、3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及びアルコール脱水素酵素遺伝子が導入されたロドコッカス属細菌組換体において、NADHの再生反応が効率的に行われていることが確認された。
本発明によれば、菌体内で再生された補酵素が漏出することなく、菌体の再利用による繰り返し反応や効率的な連続生産が可能なロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体を作製することができる。また、該組換体により高い光学純度を有する光学活性(R)−3−キヌクリジノールを効率良く製造することができる。
配列番号5:合成DNA
配列番号6:合成DNA
配列番号7:合成DNA
配列番号8:合成DNA
配列番号9:合成DNA
配列番号10:合成DNA

Claims (8)

  1. 3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子及び補酵素再生系酵素遺伝子が導入された、ロドコッカス(Rhodococcus)属細菌組換体。
  2. 3−キヌクリジノン不斉還元酵素遺伝子が、ミクロバクテリウム属に属する微生物由来のものである、請求項1に記載の組換体。
  3. 補酵素がNADHである、請求項1に記載の組換体。
  4. 補酵素再生系酵素遺伝子がアルコール脱水素酵素遺伝子である、請求項1に記載の組換体。
  5. アルコール脱水素酵素遺伝子が、ロドコッカス属に属する微生物由来のものである請求項4に記載の組換体。
  6. ロドコッカス属に属する微生物が、ロドコッカス ルーバー(Rhodococcus ruber)DSM44541、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)DSM 43066、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC25544及びロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)ATCC4277からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項5に記載の組換体。
  7. ロドコッカス属に属する微生物が、ロドコッカス ロドクロウス(Rhodococcus rhodochrous)、ロドコッカス グロベルルス(Rhodococcus globerulus)、ロドコッカス ルテウス(Rhodococcus luteus)、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)及びロドコッカス エスピー(Rhodococcus sp.)からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の組換体。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の組換体又はその培養液を、3-キヌクリジノン又はその塩に作用させる工程を含む、光学活性(R)−3−キヌクリジノール又はその塩の製造方法。
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