JP5367759B2 - 配線用電線導体、配線用電線導体の製造方法、配線用電線および銅合金素線 - Google Patents
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Description
特許文献2に記載された時効析出型銅合金(コルソン合金)の電線導体は、伸び率が高く圧着強度、衝撃強度に優れ、信号回路用の電線には使用できるが、ヒューズ回路を使用する様な電力用の電線に用いるには導電率が低いという問題がある。
また、特許文献3には、連続鋳造圧延法により銅合金の荒引線を得るに際して高温で焼入れすることが記載され、特許文献4には銅合金線を時効熱処理することが記載されているが、電線導体のさらなる特性向上のためには、特許文献3〜4に記載された技術以外の技術事項についても詳細な検討が必要となっている。
(1)Crを0.3〜1.5質量%、Zrを0.005〜0.4質量%含有し、さらにSn:0.1〜0.6質量%、Ag:0.005〜0.3質量%、Mg:0.05〜0.4質量%、In:0.1〜0.8質量%、およびSi:0.01〜0.15質量%からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がCuと不可避不純物からなる組成を有し、溶体化処理を兼ねる熱間加工処理を施して得られた銅合金線材を複数本撚り合わせた後に300〜550℃で1分〜5時間時効熱処理を施してなる配線用電線導体であって、引張強さが400MPa以上650MPa以下、破断時の伸びが7%以上、導電率が65%IACS以上、0.2%耐力と引張強さの比が0.7以上0.95以下であり、かつ加工硬化指数が0.03以上0.17以下であることを特徴とする、配線用電線導体。
(2)前記銅合金線材の組成が、前記Sn:0.1〜0.6質量%、Ag:0.005〜0.3質量%、Mg:0.05〜0.4質量%、In:0.1〜0.8質量%、およびSi:0.01〜0.15質量%からなる群から選ばれる少なくとも1種をこれらの含有量の合計として0.005〜0.8質量%含有することを特徴とする、前記(1)に記載の配線用電線導体。
(3)前記銅合金線材の組成が、さらにZnを0.1〜1.5質量%含有し、残部がCuと不可避不純物からなることを特徴とする、前記(1)または前記(2)に記載の配線用電線導体。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の配線用電線導体を製造する方法であって、前記組成を有する銅合金に溶体化処理を兼ねる熱間加工処理を施し、所定の線径に伸線加工して得た銅合金線材を複数本撚り合わせ、さらに圧縮した後、300〜550℃で、1分〜5時間時効熱処理を行うことを特徴とする配線用電線導体の製造方法。
(5)前記伸線加工における伸線加工度ηを、前記溶体化直後の材料の断面積をA0、前記時効直前の材料の断面積をA1とし、η=ln(A0/A1)で表したとき、ηの値が5以上であることを特徴とする、前記(4)に記載の配線用電線導体の製造方法。
(6)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の配線用電線導体に、絶縁被覆が施されていることを特徴とする、配線用電線。
(7)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の配線用電線導体の銅合金線材として用いられる銅合金素線であって、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の組成を有してなり、その電気抵抗率が完全に溶体化を行った時の電気抵抗率の70%以上であることを特徴とする、銅合金素線。
また、本発明の配線用電線導体の製造方法によれば、上述の優れた物性を有する配線用電線導体を製造できる。
本発明の配線用電線は、導体の細径化により電線重量を低減することができ、自動車およびロボット用その他の電線として好適である。
Agは強度を向上させる。Ag含有量が少なすぎるとその効果が充分に得られず、多すぎると特性上に悪影響はないもののその効果が飽和し、コスト高になる。これらの観点から、Agを含有させる場合の含有量は0.005質量%〜0.3質量%とすることが好ましく、0.01〜0.2質量%とすることがより好ましい。
Mgは銅に固溶し、格子を歪ませることで強度を向上させることができ、また加熱時の脆化を防ぎ熱間加工性を改善する効果もある。Mgを添加する場合の好ましい含有範囲は0.05〜0.4質量%であり、0.1〜0.3質量%であることがさらに好ましい。
Inは銅に固溶し、格子を歪ませることで強度を向上させることができる。ただし、Inの含有量が多すぎると導電率が低下する。よって、Inを添加する場合の好ましい含有範囲は0.1〜0.8質量%であり、0.2〜0.7質量%であることがさらに好ましい。
Siは銅に固溶し、格子を歪ませることで強度を向上させることができる。ただし、Siの含有量が多すぎると導電率が低下し、さらにCrと化合物を形成し析出硬化に寄与するCr量が減少する。よって、Siを添加する場合の好ましい含有範囲は0.01〜0.15質量%であり、0.05〜0.1質量%であることがさらに好ましい。
すなわち、本明細書において、銅合金線材とは伸線加工後の状態を指し、銅合金素線とは伸線加工前の状態を指す。銅合金素線の直径は、1mm〜20mmとすることが好ましい。なお、溶体化は、熱間加工または連続鋳造圧延と同時に行い、工程を省略することもできる。また、冷間加工は省略することもできる。
本発明の配線用電線導体は、銅合金線材を複数本撚り合わせた撚線であるが、撚り合わされる銅合金線材の本数には特に制限はなく、通常、3〜50本の銅合金線材を撚り合わせる。
時効熱処理では、Cr、Zrによる析出が生じ、強度の向上および導電率の向上が見られるが、同時に伸線加工で導入された歪の開放が生じるために引張強さ(T)に対する0.2%耐力(Y)の割合(これをY/T比と呼ぶ)が低下する。なお、Y/T比が低下する時効熱処理条件は伸線加工度により異なる。例えば、300〜550℃で1分〜5時間保持することで、Y/T比が適切な値の銅合金線材が得られる。
本発明において時効熱処理は、走間加熱での短時間での時効熱処理(例えば、1分〜30分、400℃〜550℃)で行なってもよい。あるいは、バッチ式の時効熱処理(例えば、1時間〜5時間、300℃〜500℃)で行なってもよい。いずれの場合でも、前記所定のY/T比を達成するように時効熱処理条件を調整すればよい。
表1の合金成分で示される組成の合金を高周波溶解炉にて溶解し、直径200mmの各ビレットを鋳造した。次に、溶体化処理を兼ねる熱間加工を施すため、前記ビレットを950℃で熱間押出して、直ちに水中焼入れを行い、直径20mmの銅合金素線を得た。次いで前記銅合金素線を冷間にて伸線し、直径0.175mmの銅合金線材を得た。前記線材を7本撚り合わせ、さらに圧縮して断面積0.13mm2の撚線(配線用の電線導体)とした。前記撚線を400〜450℃で2時間時効熱処理を行い、さらに絶縁体(ポリエチレン)で被覆し、長さ1kmの配線用電線を製造した。
[1]引張強度
JIS Z 2241に準じて、各3本測定し、その平均値(MPa)を示した。
[2]0.2%耐力
JIS Z 2241に記載のオフセット法に準じ、0.2%の永久伸びが生じる時の応力を求めた。3本測定し、その平均値(MPa)を示した。
[3]伸び
JIS Z 2241に準じて3本測定し、その平均値(%)を示した。
[4]導電率
四端子法を用いて、20℃(±1℃)に管理された恒温槽中で、各試料について2本ずつ測定し、その平均値(%IACS)を示した。
[5]n値
上記の引張試験で得られた応力−歪線図を真応力−真歪線図に変換し、その傾きからn値を読み取った。
[6]屈曲性(繰返し曲げ破断回数)
屈曲性評価は、電線をマンドレルではさみ、線のたわみを抑えるために下端部におもりを吊るして荷重を掛け、この状態で左右に90度ずつ折り曲げて破断するまでの折り曲げ回数をそれぞれの試料について測定した。なお、回数は90度の曲げ戻しを一回と数えた。おもりは400g、マンドレルの直径はφ25mm(低歪付与用)およびφ5mm(高歪付与用)の2種類を用い、屈曲性を評価した。なお低歪付与において、屈曲回数が3000回を超えても破断しなかった場合は試験を中止し、結果を破断無しとした。また、高歪付与においては屈曲回数が300回を超えても破断しなかった場合は試験を中止し、結果を破断無しとした。いずれも、各試料について3回ずつ測定を行い、その最小値を記録した。
[7]衝撃破断強度
1mの電線の片端を固定、もう片端におもりを取り付け、固定端の位置からおもりを落下させて破断が生じる時のおもりの重量(N)を求めることで衝撃破断強度の比較を行った。試験は破断が生じた時のおもりの重量にて3回繰り返し、いずれも破断する時の荷重を求めた。なお、実用上は、破断荷重が4N未満であると、配索中に断線する恐れがある。
[8]端子圧着強度
電線を圧着端子に接続し、それぞれの両端を掴んで引張試験を行い、破断が生じた時の強度を求めた。圧着の断面減少率は20%とした。なお、実用上、圧着強度が50N未満であると、配線時または配線後に断線が生じる可能性が高くなる。
表1の参考例5、参考例40、参考例11、参考例14、参考例20および参考例46について、圧着の断面減少率を10、20、30、40%とした時の圧着強度を表2に示す。
表1の参考例40、参考例14、参考例25、参考例46および参考例31について、溶体化を実施する材料の寸法(銅合金素線の直径)を変えることで、加工度ηを1、3、5、7、9、11と変化させて断面積0.13mm2の電線を製造した。溶体化を実施する材料の寸法を変化させた以外は、実施例1と同様とした。得られた電線の特性を表3に示す。
表1の参考例40、参考例11、参考例14、参考例20および参考例46について、直径10mmの素線を750〜950℃で溶体化熱処理を実施することで、溶体化率ρ/ρFULLを0.5〜0.9に変化させて断面積0.13mm2の電線を製造した。溶体化率を変化させた以外は、実施例1と同様とした。得られた電線の特性を表4に示す。
表5に比較例、参考例A〜Hを示す。各比較例、参考例A〜Hの構成は、以下のとおりである。
比較例1〜7は、合金組成が本発明の範囲外の例である。
比較例8〜15は、表1の参考例5および参考例40について、撚線加工後の時効熱処理条件を温度500℃で30秒間保持に変えることにより、Y/T比を本発明の範囲より大きい0.96に、n値を本発明の範囲より小さい0.02にし、圧着時の断面減少率を10、20、30、40%とした時の例である。
比較例16〜23は、表1の参考例11および参考例20について、撚線加工後の時効熱処理条件を温度570℃で8時間保持に変えることにより、Y/T比をそれぞれ本発明の範囲より小さい0.69、0.65とし、n値をそれぞれ本発明の範囲より大きい0.19、0.21として、圧着の断面減少率を10、20、30、40%とした時の例である。
参考例A〜Hは表1の参考例5、参考例40、参考例11および参考例20について、圧着の断面減少率を50%、60%と大きくしたときの例である。
比較例1〜7は、合金組成が本発明の範囲外であり、評価したいずれかの点で満足な特性が得られていない。
比較例8〜15は、参考例5および参考例40と比較し、伸び、繰返し曲げ破断回数、衝撃破断荷重が劣り、端子圧着強度は断面減少率40%において50Nを下回っている。
比較例16〜23は、参考例11および参考例20と比較し、引張強さ、繰返し曲げ破断回数、端子圧着強度が劣っている。
参考例A〜Hは、参考例5、参考例40、参考例11および参考例20と比較し、いずれも端子圧着強度が劣り、50Nを下回っている。
表6に従来例を示す。従来例は以下の工程で製造した。すなわち、表6の合金成分で示される組成の合金について、前出の特許文献1の段落0032に記載された方法により連続鋳造圧延装置にて直径20mmの荒引き線(銅合金素線に相当)を製造し、次いで冷間にて伸線し、直径0.175mmの素線を得た。前記素線を7本撚り合わせ、さらに圧縮して断面積0.13mm2の撚線を得て、さらに絶縁体(ポリエチレン)で被覆して配線用電線とした。前記撚線を通電加熱装置で焼鈍(到達温度700℃、到達時間0.5秒の熱処理)したものを従来例1および3、焼鈍していないものを従来例2および4とした。各特性の測定は、前述の[1]〜[8]と同じ方法とした。
従来例1〜4では、引張強さ、伸び、屈曲性、衝撃破断強度、端子圧着強度のうち、少なくとも1つが劣り、実用的ではないことがわかった。
前出の特許文献3の表5および表6に記載のNo.66、70、79の銅合金について、それぞれ特許文献3の段落0045、0048に記載の実施例5および実施例6の方法で製造し、直径φ6mmの銅合金素線を得た。次いで前記銅合金素線を冷間にて伸線し、直径0.175mmの銅合金線材を得た。前記線材を7本撚り合わせ、さらに圧縮して断面積0.13mm2の撚線とした。なお、この時の伸線加工度ηは7である。前記撚線を400〜450℃で2時間時効熱処理を行い、Y/T比およびn値を本発明で規定する範囲内となる様な配線用電線導体を得た。また、前記撚線を500℃で30秒間または570℃で8時間の時効熱処理を行うことで、Y/T比およびn値が本発明で規定する範囲外となる様な配線用電線導体を得た。
また、前記直径φ6mmの銅合金素線について、直径0.07、0.5または1.3mmに伸線後、それぞれ7本を撚り合わせて撚線とし、上記と同様に時効熱処理を行うことで、伸線加工度ηの値を9、5および3と変化させた配線用電線導体を得た。
得られた電線導体について、本明細書に記載の前記実施例1と同様に絶縁体被覆を行って配線用電線とし、特性を評価した。結果を表7に示す。表7の試料番号に括弧書きで併記した番号は、特許文献3の実施例に記載の合金No.である。例えば、参考例33(66)とは、参考例33と同一の合金組成であって、かつ、特許文献3の合金番号66とも同一の合金組成を有することを意味する。なお、ηが9、5および3の例は、線径が伸線加工度7の例とは異なるため、繰返し曲げ破断回数、衝撃破断荷重、端子圧着強度は直接比較対象とすることができない。よって表7にはこれらの結果は記載していない。
次に別の比較例を示す。前出の特許文献4の表1に記載のNo.19、23の銅合金について、それぞれ特許文献4の請求項3に記載の方法に従い、350℃で30秒間または600℃で1200秒間(20分間)の走間加熱による時効処理を行った。なお、時効処理に供する導体は、本明細書に記載の前記実施例1と同様の工程で製造した断面積0.13mm2の撚線とした。結果を表8に示す。表8の試料番号に括弧書きで併記した番号は、特許文献4の表1に記載の合金No.である。例えば、比較例24(19)とは、特許文献4の合金番号19と同一の合金組成を有することを意味する。
Claims (7)
- Crを0.3〜1.5質量%、Zrを0.005〜0.4質量%含有し、さらに、Sn:0.1〜0.6質量%、Ag:0.005〜0.3質量%、Mg:0.05〜0.4質量%、In:0.1〜0.8質量%、およびSi:0.01〜0.15質量%からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、残部がCuと不可避不純物からなる組成を有し、溶体化処理を兼ねる熱間加工処理を施して得られた銅合金線材を複数本撚り合わせた後に300〜550℃で1分〜5時間時効熱処理を施してなる配線用電線導体であって、
引張強さが400MPa以上650MPa以下、破断時の伸びが7%以上、導電率が65%IACS以上、0.2%耐力と引張強さの比が0.7以上0.95以下であり、かつ加工硬化指数が0.03以上0.17以下であることを特徴とする、配線用電線導体。 - 前記銅合金線材の組成が、前記Sn:0.1〜0.6質量%、Ag:0.005〜0.3質量%、Mg:0.05〜0.4質量%、In:0.1〜0.8質量%、およびSi:0.01〜0.15質量%からなる群から選ばれる少なくとも1種をこれらの含有量の合計として0.005〜0.8質量%含有することを特徴とする、請求項1に記載の配線用電線導体。
- 前記銅合金線材の組成が、さらにZnを0.1〜1.5質量%含有し、残部がCuと不可避不純物からなることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の配線用電線導体。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の配線用電線導体を製造する方法であって、前記組成を有する銅合金に溶体化処理を兼ねる熱間加工処理を施し、所定の線径に伸線加工して得た銅合金線材を複数本撚り合わせ、さらに圧縮した後、300〜550℃で、1分〜5時間時効熱処理を行うことを特徴とする配線用電線導体の製造方法。
- 前記伸線加工における伸線加工度ηを、前記溶体化直後の材料の断面積をA0、前記時効直前の材料の断面積をA1とし、η=ln(A0/A1)で表したとき、ηの値が5以上であることを特徴とする、請求項4に記載の配線用電線導体の製造方法。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の配線用電線導体に、絶縁被覆が施されていることを特徴とする、配線用電線。
- 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の配線用電線導体の銅合金線材として用いられる銅合金素線であって、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の組成を有してなり、その電気抵抗率が完全に溶体化を行った時の電気抵抗率の70%以上であることを特徴とする、銅合金素線。
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