JP5340937B2 - プラスチックレンズの製造方法 - Google Patents
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Description
そこで本発明の目的は、コーティング膜と基材との密着性と光学特性を両立したプラスチックレンズを提供することにある。
レンズ基材の変形による密着性低下を防ぎ、かつレンズ表面屈折力の制御を容易にするために、コーティング膜塗布前にレンズ基材をガラス転移温度以上で加熱処理し、基材内部の歪を予め除去しておくことが考えられる。しかし、この場合には以下の新たな課題があることが判明した。
従来、レンズ基材内部の歪のみが問題とされていたが、コーティング膜の厚さが厚くなるほど、コーティング膜内部の歪もレンズ全体の光学特性に大きく影響を及ぼすようになる。特に、光重合は加熱重合と比べて急激に重合反応が進行するため、コーティング膜中に歪が残り易い。コーティング膜を形成した後に、基材内部の歪除去やコーティング液の硬化のためにレンズ全体を加熱処理する方法であれば、この加熱処理によりコーティング膜内部の歪も除去することができる。しかし、コーティング膜形成前にレンズ基材の歪除去のための加熱処理を完了し、かつコーティング液の硬化を光重合により行う場合には、基材に塗布されたコーティング液は通常加熱下に置かれることがないため、コーティング膜中の歪を除去することができない。
このように、コーティング膜と基材との密着性と光学特性(表面屈折率制御および歪除去)とを両立することはきわめて困難であった。
そこで本発明者らは更に検討を重ね、コーティング膜塗布前にレンズ基材をガラス転移温度以上に加熱した後に光重合によりコーティング膜を形成し、その後、レンズ基材のガラス転移温度未満であってコーティング膜のガラス転移温度以上の温度でレンズ全体を加熱処理することにより、上記課題を解決できることを新たに見出した。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
プラスチックレンズ基材を、該基材のガラス転移温度以上の温度に加熱すること、
前記加熱後のレンズ基材の対向する一対の面の少なくとも一方の面上に、光硬化性組成物を塗布すること、
前記基材上に塗布された光硬化性組成物に対して光を照射し、前記組成物の少なくとも一部を硬化させ硬化膜を形成すること、および、
前記硬化膜が形成されたプラスチックレンズを、前記基材のガラス転移温度未満であって、かつ前記硬化膜のガラス転移温度以上の温度で加熱処理すること、
を含む、前記製造方法
に関する。
本発明は、プラスチックレンズ基材の対向する一対の面の少なくとも一方の面上に硬化膜を有するプラスチックレンズの製造方法に関する。本発明のプラスチックレンズの製造方法(以下、「態様I」ともいう)は、以下の工程を含む。
(第一工程)
プラスチックレンズ基材を、該基材のガラス転移温度以上の温度に加熱する。
(第二工程)
前記加熱後のレンズ基材の対向する一対の面の少なくとも一方の面上に、光硬化性組成物を塗布する。
(第三工程)
前記基材上に塗布された光硬化性組成物に対して光を照射し、前記組成物の少なくとも一部を硬化させ硬化膜を形成する。
(第四工程)
前記硬化膜が形成されたプラスチックレンズを、前記基材のガラス転移温度未満であって、かつ前記硬化膜のガラス転移温度以上の温度で加熱処理する。
以下に、上記各工程の詳細を順次説明する。
本工程は、コーティング膜形成前のレンズ基材を、基材のガラス転移温度以上の温度に加熱する工程である。基材のガラス転移温度以上に加熱することにより、基材内部の歪を効果的に除去することができる。
本発明におけるガラス転移温度は、レンズ基材については、熱機械分析装置(TMA)の針入モードを用いて測定した値をいうものとする。一方、硬化膜のガラス転移温度とは、動的粘弾性測定により求められる貯蔵弾性率E’、損失弾性率E”の比であるE’/E”(tanδ)が最大となる温度をいうものとする。
以下に、前記加熱方法について更に詳細に説明する。
こうして得られるプラスチックレンズの支持具への載置例を図1に示す。
図1に示すレンズは、一方の面が凸面、他方の面が凹面のメニスカスレンズである。ただし本発明においてレンズ基材の形状は、メニスカスレンズに限られず、両凸レンズ、両凹レンズ、一方の面が凸面または凹面、他方の面が平面のレンズであってもよい。なお、図1にはレンズ凸面を下向きに載置する例を示したが、本発明では凸面を上向きに載置することも好適である。
なお、累進屈折力レンズは、老視用累進屈折力レンズとして用いられるレンズである。累進屈折力レンズは老視用眼鏡レンズでありながら外見上は容易に老眼鏡と察知されない利点や、遠距離から近距離まで切れ目なく連続的に明視しうる利点などの理由から、一般に広く利用されている。しかしながら、限られたレンズ面積の中に境界線を介入させることなく、遠方を見るための視野と近方を見るための視野、更にはそれらの中間的な距離を見るための視野といった複数の視野を配置する。本発明により製造可能な累進屈折力レンズとしては、例えば、第1には物体側表面である第1の屈折表面と眼球側表面である第2の屈折表面の何れかに累進面を有する片面累進屈折力レンズ、第2には物体側表面である第1の屈折表面と眼球側表面である第2の屈折表面とに分割配分されている累進屈折力作用を備え、前記第1の表面と前記第2の表面とを合わせて処方値に基づいた遠用度数と加入度数を与える構成となっている両面非球面型累進屈折力レンズを挙げることができる。累進屈折力レンズは、例えば図2〜図5の度数分布、または図6aもしくは図6bの断面を有する。前記支持方法によれば、このような複雑な面形状を有するレンズであっても加熱処理時に安定に保持することができる。特に前記支持方法は、レンズ下面が累進面または累進要素を有する非球面を含むレンズであって、従来の方法では安定な載置が困難な形状のレンズへの適用に適する。
前記レンズ端面は、前記下向きに配置される面に対して逆テーパー形状のテーパー面である。なお、前記支持方法では、上記形状のテーパー面を含むものであればよく、必ずしも端面全体がテーパー面を構成しなくてもよい。ただし、載置の安定性や加工の容易性の観点からは、例えば図1に示すように端面全体がテーパー面であることが好ましい。
前記支持方法において加熱処理時にレンズを支持する支持具は、前記レンズ端面(テーパー面)を支持することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えばリング状部材であることができる。前記レンズ端面は、数点(好ましくは3点以上の多点)を点によって支持してもよい。この場合、例えば内周に突起を有するリング状部材を支持具として用いることができる。安定な支持のためには、例えば図1に示すように、前記テーパー面と嵌合する面を内周に有するリング状部材を支持具として使用し、該面を前記テーパー面と嵌合することによりレンズの支持を行うことが好ましい。支持具の開口部下面の内径は、レンズ下面側のレンズ外径と略同一であるか、レンズ下面側のレンズ外径より大きく、かつレンズ上面側のレンズ外径より小さくすることができる。レンズ下面と支持具を非接触の状態に維持するためには、後者が好ましい。
レンズ支持具は、軽量性と耐熱性を有する素材から製造することが好ましい。そのような素材としては、プラスチック、セラミックス、アルミニウム合金等の金属材料を挙げることができる。
以上、加熱処理時のレンズ基材の支持に好適な支持方法について説明したが、例えば特許第2783499号明細書、その全記載は、ここに特に開示として援用される、に記載の方法等の公知の方法によりレンズ基材を支持することももちろん可能である。
こうして加熱処理を施し、内部の歪を除去ないしは低減したレンズ基材には、次いで塗布膜が形成される。
本工程では、第一工程において加熱処理が施されたレンズ基材の少なくともいずれか一方の面上に光硬化性組成物を塗布する。光硬化性組成物は、レンズ基材の少なくとも一方の面に塗布すればよく、両面に塗布してもよいが、光照射の容易性を考慮すると片面のみ塗布することが好ましい。
フォトクロミック膜形成のために使用可能な硬化性成分は、光硬化性成分であればよく特に限定されず、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、スチリル基等のラジカル重合性基を有する公知の光重合性モノマーやオリゴマー、それらのプレポリマーを用いることができる。これらのなかでも、入手のし易さ、硬化性の良さから(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基をラジカル重合性基として有する化合物が好ましい。なお、前記(メタ)アクリロイルは、アクリロイルとメタクリロイルの両方を示す。
Lスケールロックウェル硬度とは、JIS−B7726に従って測定される硬度を意味する。各モノマーの単独重合体についてこの測定を行うことにより、前記硬度条件を満足するかどうかを簡単に判断することができる。具体的には、モノマーを重合させて厚さ2mmの硬化体を得、これを25℃の室内で1日保持した後にロックウェル硬度計を用いて、Lスケールロックウェル硬度を測定することにより容易に確認することができる。
前記高硬度モノマーは、硬化後の硬化体の耐溶剤性、硬度、耐熱性等を向上させる効果を有する。これらの効果をより効果的なものとするためには、単独重合体のLスケールロックウェル硬度が65〜130を示すラジカル重合性単量体が好ましい。
このような高硬度モノマーは、通常2〜15個、好ましくは2〜6個のラジカル重合性基を有する化合物であり、好ましい具体例としては、下記一般式(1)〜(5)で表される化合物が挙げられる。
前記一般式(1)におけるR14は水素原子、メチル基またはエチル基である。
一般式(1)におけるR15は3〜6価の有機基である。この有機基は特に限定されるものではなく、また、その主鎖中に、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、チオエーテル結合、スルホニル結合、ウレタン結合等の炭素一炭素結合以外の結合を含んでいてもよい。
単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60以上を示すためには、R15は、好ましくは炭素数1〜30の有機基であり、より好ましくはエーテル結合および/またはウレタン結合を含んでいてもよい炭素数1〜15の有機基である。
また、fおよびf’は、それぞれ独立に0〜3の範囲の整数である。また、Lスケールロックウェル硬度を60以上とするためには、fおよびf’の合計が0〜3であることが好ましい。
また単独重合体のLスケールロックウェル硬度を60以上とするために、hは1〜10の範囲の整数であり、好ましくは1〜6の範囲の整数である。
前記一般式(2)で示される高硬度モノマーの具体的としては、分子量2,500〜3,500の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB80等)、分子量6,000〜8,000の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB450等)、分子量45,000〜55,000の6官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー社、EB1830等)、分子量10,000の4官能ポリエステルオリゴマー(第一工業製薬社、GX8488B等)等が挙げられる。
一般式(3)で示される高硬度モノマーの具体的としては、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
一般式(4)で示される高硬度モノマーの具体的としては、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,9−ノニレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジアクリレート等が挙げられる。
一般式(5)で示される高硬度モノマーの具体的としては、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
なお、前記一般式(1)〜(5)で示される化合物でも、置換基の組み合わせによっては単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60未満のものがあるが、その場合には、これらの化合物は低硬度モノマーまたは中硬度モノマーに分類される。
また、前記一般式(1)〜(5)で示されない高硬度モノマーもあり、その代表的化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
フォトクロミック液に添加し得るフォトクロミック色素としては、公知のものを使用することができ、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物が挙げられ、本発明においては、これらのフォトクロミック化合物を特に制限なく使用することができる。
前記フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物およびクロメン化合物としては、例えば、特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、WO94/22850号明細書、WO96/14596号明細書、それらの全記載は、ここに特に開示として援用される、などに記載されている化合物が好適に使用できる。
また、優れたフォトクロミック性を有する化合物として、例えば、特開2001−114775号公報、特開2001−031670号公報、特開2001−011067号公報、特開2001−011066号公報、特開2000−347346号公報、特開2000−34476号公報、特開2000−3044761号公報、特開2000−327676号公報、特開2000−327675号公報、特開2000−256347号公報、特開2000−229976号公報、特開2000−229975号公報、特開2000−229974号公報、特開2000−229973号公報、特開2000−229972号公報、特開2000−219687号公報、特開2000−219686号公報、特開2000−219685号公報、特開平11−322739号公報、特開平11−286484号公報、特開平11−279171号公報、特開平10−298176号公報、特開平09−218301号公報、特開平09−124645号公報、特開平08−295690号公報、特開平08−176139号公報、特開平08−157467号公報等に開示された化合物も好適に使用することができる。上記公報の全記載は、ここに特に開示として援用される。
これらフォトクロミック化合物は適切な発色色調を発現させるため、複数の種類のものを適宜混合して使用することができる。
フォトクロミック液に添加する重合開始剤は、重合方法に応じて、公知の光重合開始剤から適宜選択することができる。
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アセトフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等が挙げられ、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイドが好ましい。前述のように本発明は、光ラジカル重合開始剤を使用し、ラジカル重合によりフォトクロミック膜を形成する場合であっても、基材、膜ともに歪が除去された光学特性に優れたプラスチックレンズを得ることができる。よって本発明は、重合開始剤として光ラジカル重合開始剤を含む光硬化性組成物から硬化膜を形成する際、特に好適である。
これら光重合開始剤は、複数の種類のものを適宜混合して使用することができる。光重合開始剤のフォトクロミック液全量に対する配合量としては、前記重合性成分100質量部(ラジカル重合性単量体等)に対して、通常0.001〜5質量部であり、0.1〜1質量部であると好ましい。
フォトクロミック液には、フォトクロミック色素の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加してもよい。また密着性向上のための成分を添加してもよい。これら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。
密着性向上の点で好ましいシランカップリング剤としては、
一般式(I)
R1 m Si X1 (4-m) (I)
(式中、R1 は有機基を表し、X1 は−OR2 を表し、R2 はアルキル基を表し、mは1または2の整数である。)
で表される1種又は2種以上のシラン化合物を挙げることができる。
前記フォトクロミック液は、25℃での粘度が20〜500cpsであることが好ましく、50〜300cpsであることがより好ましく、60〜200cpsであることが特に好ましい。この粘度範囲とすることにより、フォトクロミック液の塗布が容易となり、所望の厚さのフォトクロミック膜を容易に得ることができる。
本工程では、第二工程でレンズ基材上に塗布した光硬化性組成物に対して光を照射することにより、組成物の少なくとも一部を硬化させ、硬化膜を形成する。レンズ基材上に塗布した光硬化性組成物に対して光を照射することにより、組成物の少なくとも一部を硬化させ硬化膜を形成することができる。例えば紫外線硬化型組成物の場合、UVランプ下に塗布面を上にしてレンズを配置し、塗布面に対して紫外線を照射すればよい。なお、本発明における「硬化膜」とは、硬化性成分の少なくとも一部が硬化していればよく、硬化性成分が完全に硬化せず一部が未硬化の状態で残存している膜も含むものとする。塗布膜は表面のみが硬化し、内部は未硬化であることが好ましい。これは膜硬化によるレンズ基材への応力蓄積を回避するためである。よって前記光照射は、光硬化性組成物に含まれる成分の種類に応じて適切な重合度での硬化反応を行うことができるように条件を設定することが好ましい。
形成される硬化膜の厚さは特に限定されるものではないが、例えばフォトクロミック膜の場合、良好な調光性能を発現するためには、その厚さは10μm以上であることが好ましく、10〜60μmであることが更に好ましく、20〜60μmであることがよりいっそう好ましい。本発明では、上記のような比較的厚膜の硬化膜内部の歪を、後述する第四工程において効果的に除去することができる。
本工程では、第三工程で形成した硬化膜を含むレンズ全体に加熱処理を施す。前記加熱処理は、前記基材のガラス転移温度未満の温度であって、かつ硬化膜のガラス転移温度以上の温度で行われる。これにより、基材の変形を起こすことなく、膜内部の歪を除去ないしは低減することができる。
先に説明した本発明における適用が好適な加熱処理時のプラスチックレンズの支持方法は、本発明のプラスチックレンズの製造方法に限らず適用することができる。
対向する一対の面と、該一対の面の周縁を取り囲む端面とからなるレンズ形状に成形されたプラスチックレンズを、支持具によって支持しながら加熱処理することを含むプラスチックレンズの製造方法であって、
前記支持を、前記対向する一対の面の一方が下向きになるように配置されたプラスチックレンズを、前記端面を支持具によって支持することによって行うこと、および、
前記支持されるプラスチックレンズ端面は、前記下向きに配置された面に対して逆テーパー形状のテーパー面であること、
を特徴とするプラスチックレンズの製造方法
である。
そこで参考態様Aでは、加熱処理を施されるレンズの端面を、加熱処理時に下向きに配置される面(以下、「レンズ下面」または「下面」ともいう)に対して逆テーパー形状のテーパー面を含む形状とする。これにより加熱処理時にレンズを端面で支持することが可能となり、レンズ両面を所望の形状に自由に設計することができる。
参考態様Aにおいて加熱処理に付されるレンズは、対向する一対の面と、該一対の面の周縁を取り囲む端面とからなるレンズ形状に成形されたプラスチックレンズである。前記端面は、加熱処理時に下向きに配置される面に対して逆テーパー形状のテーパー面を含む。このようなプラスチックレンズは、例えば、プラスチックを注型重合法、射出成形法等の公知の成形方法によりレンズ形状に加工した後、端面にテーパー加工を施すことにより得ることができる。その詳細は、先に説明した通りである。こうして得られるプラスチックレンズの支持具への載置例としては、図1に示す態様を挙げることができる。
プラスチックレンズには、前記支持具によって端面を支持した状態で加熱処理が施される。前述のように、参考態様Aはプラスチックレンズを構成するプラスチックのガラス転移点以上に加熱する加熱処理を含む場合に好適である。但し、上記加熱処理はレンズを構成するプラスチックのガラス転移点以上の温度で行われるものに限定されるものではなく、ガラス転移点未満に加熱する加熱処理を含むプラスチックレンズの製造方法としても、参考態様Aは好適である。参考態様Aにおける加熱処理は、レンズ内の未反応モノマーの硬化、レンズの重合の促進、レンズ内部の歪除去のための徐冷(アニール)、レンズ表面に塗布した塗布膜の硬化、塗布膜上に蒸着膜を形成する際の前処理等のいずれの加熱処理であってもよい。加熱条件は、目的に応じて適宜設定すればよい。これらの加熱処理は、例えば加熱炉内で、熱、紫外線、赤外線、電子線、マイクロ波等を用いて行うことができる。例えばポリウレタンレンズのアニールの場合、加熱温度は20〜130℃程度、加熱温度は1〜12時間程度とすることができる。
先に説明した本発明において適用可能な表面処理およびカップリング剤の使用を含む密着向上方法は、本発明のプラスチックレンズの製造方法に限らず適用することができる。
プラスチックレンズ基材の対向する一対の面のいずれか一方の面上に塗布膜を有するプラスチックレンズの製造方法であって、
少なくともプラスチックレンズ基材の対向する一対の面のいずれか一方の面に、表面清浄処理、表面活性化処理、表面積増大処理および表面被膜塗布処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの表面処理を施すこと、
前記表面処理を施した面上に、カップリング剤を含む塗布液を塗布することにより塗布膜を形成すること、および、
前記塗布膜が形成されたプラスチックレンズを、前記基材のガラス転移温度未満の温度で加熱処理すること、
を含む、前記製造方法
である。
前述のように、コーティング膜形成後の加熱処理温度によってはプラスチックレンズ基材の変形が生じることがある。特にプラスチックはガラス転移温度を境界としてその流動性が大きく変化するため、加熱温度がレンズ基材のガラス転移温度以上になると、レンズ表面の屈折力制御が困難となるほどレンズ基材が変形することがある。しかし、加熱温度を下げることは密着性向上効果の点ではマイナスである。そこで本発明者らは更に検討を重ね、コーティング液に密着性向上成分としてカップリング剤を添加するとともに、コーティング液塗布前のレンズ基材表面にアルカリ処理を施すことにより、加熱温度を比較的低温とすることによる密着性向上効果低減を補うことができることを新たに見出した。参考態様Bによれば、基材の変形を抑制ないしは防止しつつレンズ基材とコーティング膜との密着性を高めることができ、これにより高品質なプラスチックレンズを得ることができる。
(工程1)
少なくともプラスチックレンズ基材の対向する一対の面のいずれか一方の面を表面処理する。
(工程2)
前記表面処理を施した面上に、カップリング剤を含む塗布液を塗布することにより塗布膜を形成する。
(工程3)
前記塗布膜が形成されたプラスチックレンズを、前記基材のガラス転移温度未満の温度で加熱処理する。
以下に、上記各工程の詳細を順次説明する。
本工程は、レンズ基材の塗布膜を形成する面(被塗布面)に表面処理を施す工程である。前記表面処理は、表面清浄処理、表面活性化処理、表面積増大処理および表面被膜塗布処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの表面処理である。その詳細は、先に本発明のプラスチックレンズの製造方法の説明において記載した通りである。
参考態様Bにおけるガラス転移温度も、本発明のプラスチックレンズの製造方法と同様、レンズ基材については、熱機械分析装置(TMA)の針入モードを用いて測定した値をいうものとする。一方、塗布膜のガラス転移温度とは、動的粘弾性測定により求められる貯蔵弾性率E’、損失弾性率E”の比であるE’/E”(tanδ)が最大となる温度をいうものとする。
本工程では、前記表面処理を施した基材表面上に、カップリング剤を含む塗布液を塗布することにより塗布膜を形成する。ここでレンズ基材表面に塗布される塗布液にカップリング剤を添加するとともに、前述のようにレンズ基材の被塗布面に表面処理を施すことにより、後述するように加熱処理温度を基材のTg未満と比較的低温にしても塗布膜と基材との密着性に優れたレンズを得ることができる。
本工程は、工程2において塗布膜を形成したレンズ全体に加熱処理を施す工程である。この加熱処理は、レンズ基材と塗布膜との密着性を高める作用がある。本発明ではこの加熱処理を基材のTg未満と比較的低温で行うが、前述のようにカップリング剤の使用および表面処理により、加熱温度が比較的低温であってもレンズ基材と塗布膜との密着性を効果的に高めることができる。また、前記基材のガラス転移温度未満の温度で加熱処理を行うため、加熱処理により基材が変形することを防ぐことができる。
1.レンズ基材の製造
以下の方法により、図1下図に示すプラスチックレンズ基材を成形した。
m−キシレンジイソシアネート484質量部、ペンタエリスリトールテトラキス3−メルカプトプロピオネート305質量部、モノチオグリセロール90質量部、ジブチルスズジウラレート0.3質量部および紫外線吸収剤として2−(2'−ヒドロキシ−5'−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール0.5質量部を混合し十分に攪拌した後、1mmHgの真空下で60分脱気を行った。
次に、遠用屈折力+3.00(D)、乱視屈折力+1.00(D)、加入屈折力+1.00(D)、遠用屈折力測定位置と加入度屈折力定位置との距離を示す累進帯長が11mm、レンズ外径60Φ、中心肉厚4.2mmの処方となる両面非球面型累進屈折力レンズを得るための、上下ガラス製レンズ型(外径68.5mm)を用意し、樹脂製ガスケットとでレンズ鋳型を組付け、その鋳型中に前記混合液を注入し、25℃〜120℃まで連続的に20時間かけて昇温し、さらに120℃で2時間保持して重合を行って、レンズを成形した。ガスケットを除去し、下型モールドと成形されたレンズとの間に楔を打ち込んで両者を剥離し、さらにレンズから上型モールドを剥がしてポリウレタン系レンズを取り出した。そして取り出したレンズを、外径がおよそ68.55mmから60mmになるように周縁部を切削加工した。その際レンズの端面に図1下図に示すテーパー構造を形成した。前記テーパー形状はレンズ幾何中心を通る法線方向の直線上に頂点を有する仮想の円錐側面とし、レンズ幾何中心を通る法線方向となす角度は45°とした。なおテーパー形状の角度はレンズ凹面側(眼球側)が広くなる方向にとし、前記仮想の円錐頂点はレンズ凸面側(物体側)に配置される。
上記1.と同様の方法でガラス転移温度測定用のレンズ基材を製造し、熱機械分析装置(TMA)の針入モードにてレンズ基材のガラス転移温度を測定したところ、100℃であった。
次いで、第一工程のため、上記1.で得られたレンズ基材を図1下図に示すレンズ支持装置に配置(レンズ下面は支持装置と非接触)した。レンズ支持装置はアルミニウム合金製であり、レンズ収容凹部は内径が63〜70Φであった。また、レンズ載置部のテーパー面の傾斜は、平面に対して45°とした。このように支持された状態で上記レンズ基材凸面および加熱炉内部の温度を熱電対によってモニターしながら、加熱炉内で室温(24℃)から目標温度110℃まで60分かけて昇温(約1.4℃/分)し、レンズ表面温度が110℃になった後、この温度で100分間保持し加熱処理を行った。加熱処理終了後、2.87℃/分の徐冷速度で室温まで冷却した。
プラスチック製容器にトリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性単量体100質量部に、フォトクロミック色素として下記クロメン1を3質量部、酸化防止剤としてLS765(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート)を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI−184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を0.4質量部、CGI403(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド)を0.1質量部添加した。その液に、密着剤として、エポキシ基を有する有機ケイ素化合物(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)4.8質量部、ラジカル重合性官能基を有する有機ケイ素化合物としてγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.6質量部を攪拌しながら滴下した。十分に攪拌した後、N−メチルジエタノールアミン1.4質量部を秤量滴下し、さらに十分に攪拌混合を行った。その後、シリコーン系レベリング剤Y−7006(ポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサンコポリマー)を0.1質量部添加混合した後、自転公転方式攪拌脱泡装置にて2分間脱泡することで、フォトクロミック液を得た。得られた液の粘度は140mPa・sであった。
その後、窒素雰囲気中でUVランプ(波長150〜380nm)にてレンズの凸面側から光照射し、フォトクロミック膜の硬化処理を行った。照射距離は330mm、照射時間は165秒で行った。硬化膜の膜厚を測定すると30μmであった。
上記と同様の方法でレンズ基材上にフォトクロミック膜を形成したレンズサンプルを作製し、このサンプル上のフォトクロミック膜のガラス転移温度を以下の方法により測定したところ、約55〜60℃であった。
動的粘弾性測定装置により貯蔵弾性率(弾性)と損失弾性率(粘性)を測定し、損失弾性率(粘性)/貯蔵弾性率(弾性)を算出し、ピークとなる温度をTgとして特定した。
硬化膜を形成したレンズを、第一加熱工程と同様に、硬化膜が下向きとなるように支持具上に載置した状態で、硬化膜表面および加熱炉内部の温度を熱電対によってモニターしながら、加熱炉内で室温(24℃)から目標温度80℃まで60分かけて昇温(約0.9℃/分)し、硬化膜表面温度が80℃になった後、この温度で120分間保持し加熱処理を行った。加熱処理終了後、2.87℃/分の徐冷速度で室温まで冷却した。
また、クロスハッチ試験によりレンズ基材とフォトクロミック膜との密着性を評価したところ、100/100で良好な結果が得られた。
実施例1において硬化膜形成前の加熱処理を行わず、硬化膜形成後にレンズ全体を加熱炉内で、室温(24℃)から目標温度110℃まで60分かけて昇温(約1.4℃/分)し、レンズ表面(硬化膜表面)温度が110℃になった後、この温度で100分間保持し加熱処理を行い、加熱処理終了後、2.87℃/分の徐冷速度で室温まで冷却した以外は実施例1と同様の方法でフォトクロミックレンズを製造した。
得られたレンズについて、レンズ基材の変形をLOH社製フォコビジョンによって評価したところ、屈折力に換算して±0.14D(平均値の絶対値0.09D)となる大きな変形が発生した。
1.レンズ基材の製造
実施例1と同様の方法により、図1下図に示すプラスチックレンズ基材(ガラス転移温度100℃)を成形した。
次いで、上記1.で得られたレンズ基材を図1下図に示すレンズ支持装置に配置(レンズ下面は支持装置と非接触)した。レンズ支持装置はアルミニウム合金製であり、レンズ収容凹部は内径が63〜70Φであった。また、レンズ載置部のテーパー面の傾斜は、平面に対して45°とした。このように支持された状態で上記レンズ基材凸面の温度および加熱炉内部の温度を熱電対によってモニターしながら、加熱炉内で室温(24℃)から目標温度110℃まで60分かけて昇温(約1.4℃/分)し、レンズ表面温度が110℃になった後、この温度で100分間保持し加熱処理を行った。加熱処理終了後、2.87℃/分の徐冷速度で室温まで冷却した。
プラスチック製容器にトリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性単量体100質量部に、フォトクロミック色素として実施例1で使用したクロメン1を3質量部、酸化防止剤としてLS765(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート)を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI−184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を0.4質量部、CGI403(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド)を0.1質量部添加した。その液に、シランカップリング剤として、エポキシ基を有する有機ケイ素化合物(γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)4.8質量部、ラジカル重合性官能基を有する有機ケイ素化合物としてγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン1.6質量部を攪拌しながら滴下した。十分に攪拌した後、N−メチルジエタノールアミン1.4質量部を秤量滴下し、さらに十分に攪拌混合を行った。その後、シリコーン系レベリング剤(ポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサンコポリマー)を0.1質量部添加混合した後、自転公転方式攪拌脱泡装置にて2分間脱泡することで、フォトクロミック液を得た。得られた液の粘度は140mPa・sであった。
その後、窒素雰囲気中で東芝ライラック製UVランプ(波長150〜380nm)にてレンズの凸面側から光照射し、フォトクロミック膜の硬化処理を行った。照射距離は330mm、照射時間は165秒で行った。硬化膜の膜厚を測定すると30μmであった。
上記と同様の方法でレンズ基材上にフォトクロミック膜を形成したレンズサンプルを作製し、このサンプル上のフォトクロミック膜のガラス転移温度を以下の方法により測定したところ、約55〜60℃であった。
動的粘弾性測定装置により貯蔵弾性率(弾性)と損失弾性率(粘性)を測定し、損失弾性率(粘性)/貯蔵弾性率(弾性)を算出し、ピークとなる温度をTgとして特定した。
硬化膜を形成したレンズを、第一加熱工程と同様に、硬化膜が下向きとなるように支持具上に載置した状態で、硬化膜表面および加熱炉内部の温度を熱電対によってモニターしながら、加熱炉内で室温(24℃)から表1に示す目標温度まで30分かけて昇温し、硬化膜表面温度が目標温度に達した後、この温度で60分間保持し加熱処理を行った。加熱処理終了後、2.87℃/分の徐冷速度で室温まで冷却した。
1.レンズ基材の製造
レンズ原料液の処方を変更した以外は実施例1と同様の方法でレンズ基材を作製した。
上記1.と同様の方法でガラス転移温度測定用のレンズ基材を製造し、熱機械分析装置(TMA)の針入モードにてレンズ基材のガラス転移温度を測定したところ、118℃であった。
次いで、上記1.で得られたレンズ基材を図1下図に示すレンズ支持装置に配置(レンズ下面は支持装置と非接触)した。レンズ支持装置はアルミニウム合金製であり、レンズ収容凹部は内径が63〜70Φであった。また、レンズ載置部のテーパー面の傾斜は、平面に対して45°とした。このように支持された状態で上記レンズ基材凸面および加熱炉内部の温度を熱電対によってモニターしながら、加熱炉内で室温(24℃)から目標温度120℃まで60分かけて昇温(約1.6℃/分)し、レンズ表面温度が118℃になった後、この温度で100分間保持し加熱処理を行った。加熱処理終了後、2.87℃/分の徐冷速度で室温まで冷却した。
上記1.で加熱処理を施したレンズ基材を60℃、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液にて5分間浸漬処理して十分に純水洗浄、乾燥を行った後、上記と同様の方法で調製したフォトクロミック液をスピンコート法で基材凸面側に塗布した。
その後、窒素雰囲気中でUVランプ(波長150〜380nm)にてレンズの凸面側から光照射し、フォトクロミック膜の硬化処理を行った。照射距離は330mm、照射時間は165秒で行った。硬化膜の膜厚を測定すると30μmであった。この硬化膜のガラス転移温度を前述の同様の方法で測定したところ、約55〜60℃であった。
硬化膜を形成したレンズを、第一加熱工程と同様に、硬化膜が下向きとなるように支持具上に載置した状態で、硬化膜および加熱炉内部の温度を熱電対によってモニターしながら、加熱炉内で室温(24℃)から表2に示す目標温度まで30分かけて昇温し、硬化膜表面温度が目標温度に達した後、この温度で60分間保持し加熱処理を行った。加熱処理終了後、2.87℃/分の徐冷速度で室温まで冷却した。
以下の方法により、図1上図に示す形状のプラスチックレンズを成形した。
m−キシレンジイソシアネート100質量部、ペンタエリスリトールテトラキス3−メルカプトプロピオネート142質量部、リン酸ジ−n−ブチル6質量部、ジブチルスズジウラレート0.25質量部および紫外線吸収剤として2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール0.5質量部を混合し充分に攪拌したのち、1mmHgの真空下で60分脱気を行った。
次に、遠用屈折力+3.00(D)、乱視屈折力+1.00(D)、加入屈折力+1.00(D)、遠用屈折力測定位置と加入屈折力測定位置との距離を示す累進帯長が11mm、レンズ外径65Φ、中心肉厚5.6mmの処方となる両面非球面型累進屈折力レンズを得るための、上下ガラス製レンズ型(外径73.5mm)を用意し、テープ式樹脂製ガスケットとでレンズ鋳型を組付け、その鋳型中に前記混合液を注入し、25℃〜120℃まで連続的に20時間かけて昇温し、更に120℃で2時間保持して重合を行った。テープを除去し、下型モールドと成形されたレンズとの間に楔を打ち込んで両者を剥離させ、さらにレンズから上型モールドを剥がしてレンズを取り出した。そして取り出したレンズを、外径がおよそ73.5mmから65mmになるように周縁部を切削加工した。その際レンズの端面に、図1上図に示す形状のテーパー構造を形成した。前記テーパー形状はレンズ幾何中心を通る法線方向の直線上に頂点を有する仮想の円錐側面とし、レンズ幾何中心を通る法線方向となす角度は0.01°とした。なおテーパー形状の角度はレンズ凹面側(眼球側)が広くなる方向とし、前記仮想の円錐頂点はレンズ凸面側(物体側)に配置される。
実施例1と同様の方法により、図1下図に示すプラスチックレンズを成形した。
次いで、アニール工程のため、得られたレンズを図1下図に示すレンズ支持装置に配置(レンズ下面は支持装置と非接触)した。レンズ支持装置はアルミニウム合金製であり、レンズ収容凹部は内径が63〜70Φであった。また、レンズ載置部のテーパー面の傾斜は、平面に対して45°とした。このように保持された状態で上記レンズを、20℃〜115℃の条件下でアニールした。上記加熱温度域にはレンズを構成するポリウレタンのガラス転移点(100℃)が含まれるが、得られたレンズは光学歪みも加熱処理による変形もなく優れたレンズ物性を示していた。
遠用屈折力−4.00(D)、乱視屈折力−1.00(D)、加入屈折力+1.00(D)、遠用屈折力測定位置と加入屈折力測定位置との距離を示す累進帯長が14mm、レンズ外径75Φ、中心肉厚0.8mmの処方となる凸面(物体側)に累進面を、凹面(眼球側)に乱視屈折力を有する累進屈折力レンズを得るための、上下ガラス製レンズ型(外径83.5mm)を用意し、テープ式樹脂製ガスケットとでレンズ鋳型を組付け、その鋳型中に、実施例1と同様のモノマー混合液を注入し、25℃〜120℃まで連続的に20時間かけて昇温し、更に120℃で2時間保持して重合を行った。テープを除去し、下型モールドと成形されたレンズとの間に楔を打ち込んで両者を剥離させ、さらにレンズから上型モールドを剥がしてレンズを取り出した。そして取り出したレンズを、外径がおよそ83.5mmから75mmになるように周縁部を切削加工した。その際レンズの端面に図1上図に示すテーパー構造を形成した。前記テーパー形状はレンズ幾何中心を通る法線方向の直線上に頂点を有する仮想の円錐側面とし、レンズ幾何中心を通る法線方向となす角度は5°とした。なおテーパー形状の角度はレンズ凹面側(眼球側)が広くなる方向にとし、前記仮想の円錐頂点はレンズ凸面側(物体側)に配置される。
平均屈折力−4.00(D)、乱視屈折力−1.00(D)、レンズ外径80Φ、中心肉厚1.0mmの処方となる凹凸両面に乱視屈折力を配分した単焦点屈折力レンズを得るために、レンズ母材の両面、または片面をカーブジェネレータにより切削加工した。片面のみを切削加工する場合は成形により予め片面に光学面を有するセミフィニッシュドレンズ(外径83.5mm)を用いた。そして光学面創成後、外径がおよそ83.5mmから80mmとなるようにレンズ周縁部を切削加工した。その際レンズの端面に図1上図に示すテーパー構造を形成した。前記テーパー形状はレンズ幾何中心を通る法線方向の直線上に頂点を有する仮想の円錐側面とし、レンズ幾何中心を通る法線方向となす角度は5°とした。なおテーパー形状の角度はレンズ凹面側(眼球側)が広くなる方向にとし、前記仮想の円錐頂点はレンズ凸面側(物体側)に配置される。
マグネッティックスターラーを備えたガラス製の容器に、γ−グリシドキシプロピルメトキシシラン142質量部を加え、攪拌しながら、0.01規定塩酸1.4質量部、水32質量部を滴下した。滴下終了後、24時間攪拌を行いγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物を得た。次に酸化第二スズ一酸化ジルコニウム複合体ゾル(メタノール分散、全金属酸化物31.5質量%、平均粒子径10〜15ミリミクロン)460質量部、エチルセロソルブ300質量部、さらに滑剤としてシリコーン系界面活性剤0.7質量部、硬化剤として、アルミニウムアセチルアセトネート8質量部を、上記γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物中に加え、充分に攪拌した後、濾過を行ってコーティング液を作製した。アルカリ水溶液で処理したプラスチックレンズ(参考例1で得られたポリウレタン系レンズ)を充分に洗浄した後、上記コーティング液の中に浸漬させ、ディップ法(引き上げ速度14cm/分)によりコーティング液をレンズ凸面に塗布した。
浸漬終了後、プラスチックレンズを図1下図に示すレンズ支持装置に配置(レンズ下面と支持装置は非接触)し、130℃で2時間加熱して硬化膜(ハードコート膜)を形成した。前記ハードコート膜形成後のレンズには、硬化による加熱でレンズに若干の変形や歪みがみられたので、再び同様のレンズ支持装置に配置し、80℃〜120℃で2時間アニールした。得られたレンズは、変形、光学歪みがとれ優れたレンズ物性を示していた。
Claims (15)
- プラスチックレンズ基材の対向する一対の面の少なくとも一方の面上に硬化膜を有するプラスチックレンズの製造方法であって、
プラスチックレンズ基材を、該基材のガラス転移温度以上の温度に加熱すること、
前記加熱後のレンズ基材の対向する一対の面の少なくとも一方の面上に、光硬化性組成物を塗布すること、
前記基材上に塗布された光硬化性組成物に対して光を照射し、前記組成物の少なくとも一部を硬化させ硬化膜を形成すること、および、
前記硬化膜が形成されたプラスチックレンズを、前記基材のガラス転移温度未満であって、かつ前記硬化膜のガラス転移温度以上の温度で加熱処理すること、
を含む、前記製造方法。 - 前記光硬化性組成物は、フォトクロミック色素および光硬化性成分を含むフォトクロミック液であり、前記硬化膜はフォトクロミック膜である請求項1に記載の製造方法。
- 前記光硬化性組成物は、光ラジカル重合開始剤を更に含む請求項1または2に記載の製造方法。
- 前記硬化膜の厚さは10〜60μmの範囲である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記プラスチックレンズ基材の加熱および/または前記加熱処理を、対向する面の一方が下向きになるように配置されたプラスチックレンズ基材の端面を、支持具によって支持しながら行い、かつ前記プラスチックレンズ基材の端面は、前記下向きに配置された面に対して逆テーパー形状のテーパー面を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記テーパー面は、同一の頂点を共有する円錐側面の一部を形成する請求項5に記載の製造方法。
- 前記支持は、前記下向きに配置された面と支持具とが非接触の状態で行われる請求項5または6に記載の製造方法。
- 前記対向する一対の面は、一方が光学面であり他方が非光学面であって、
前記下向きに配置された面は、上記光学面である請求項5〜7のいずれか1項に記載の製造方法。 - 前記下向きに配置された面は、累進面または累進要素を有する非球面を含む請求項5〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記対向する一対の面は、一方が凸面であり他方が凹面であって、
前記下向きに配置された面は、上記凸面である請求項5〜9のいずれか1項に記載の製造方法。 - 前記対向する一対の面は、いずれも中心対称性のない面形状を有する請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記支持具は、前記プラスチックレンズ端面と嵌合する面を内周に有するリング状部材であり、該面を前記プラスチックレンズ端面と嵌合することにより前記支持を行う請求項5〜11のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記加熱処理において前記支持を行い、かつ該支持において前記硬化膜を有する面を下向きに配置する請求項5〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記光硬化性組成物はカップリング剤を含み、かつ前記光硬化性組成物の塗布前に、プラスチックレンズ基材の該組成物が塗布される面に、表面清浄処理、表面活性化処理、表面積増大処理および表面被膜塗布処理からなる群から選ばれる少なくとも1つの表面処理を施す請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記表面処理は、アルカリ処理、研磨処理、オゾン暴露、コロナ放電、紫外線照射、プラズマ放電、プライマー層塗布および溶剤処理からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む請求項14に記載の製造方法。
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