JP5290387B2 - 高純度カルシウムの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、昇華精製による高純度カルシウム(Ca)の製造方法に関する。
カルシウム(Ca)は、アルカリ土類金属の1つであり、原子番号20、原子量40.08である。ケイ酸塩、炭酸塩、硫酸塩、フッ化物、リン酸塩として、広く分布している。
塩化カルシウムを主成分とする溶融塩電解で純度94〜98%まで上げ、さらに真空蒸留により、純度99.9%まで精製することができる。
精製したカルシウムは、銀白色の柔らかい金属で、常温で立方細密構造、250°C以上で六方細密構造、450°C以上で体心立方構造をとる。融点839°C、沸点1480°C、密度1.55g/cm(20°C)であり、常温で酸素、ハロゲンと直接結合し、高温では水素、炭素、窒素とも反応する。用途としては、還元剤、金属の脱酸剤、高真空用ゲッターとして使用される(理化学辞典参照)。
近年、ランタンをメタルゲート材料、高誘電率材料(High−k)等の、電子材料として研究開発が進められており、注目されている金属である。また、ランタン以外の希土類についても、同様な観点から、研究及び開発がなされている。以下の説明では、特にランタンを使用する場合の問題について説明するが、他の希土類元素も同様な傾向があると言える。
ランタン金属は精製時に酸化し易いという問題があるため、高純度化が難しい材料であり、高純度製品は存在していなかった。また、ランタン金属を空気中に放置した場合には短時間で酸化し黒色に変色するので、取り扱いが容易でないという問題がある。
最近、次世代のMOSFETにおけるゲート絶縁膜として薄膜化が要求されているが、これまでゲート絶縁膜として使用されてきたSiOでは、トンネル効果によるリーク電流が増加し、正常動作が難しくなってきた。
このため、それに変わるものとして、高い誘電率、高い熱的安定性、シリコン中の正孔と電子に対して高いエネルギー障壁を有するHfO、ZrO、Al、Laが提案されている。特に、これらの材料の中でも、Laの評価が高く、電気的特性を調査し、次世代のMOSFETにおけるゲート絶縁膜としての研究報告がなされている(非特許文献1参照)。しかし、この非特許文献の場合に、研究の対象となっているのは、La膜であり、La元素の特性と挙動については、特に触れてはいない。
希土類金属を精製する方法として、希土類金属のハロゲン化物をカルシウム又は水素化カルシウムにより還元するという技術が、20年ほど前に提案されている。この中に希土類の例示としてランタンの記載もあるが、スラグを分離する手段として、スラグ分離治具を使用するという程度の技術で、ランタン金属元素の持つ問題点及び精製手段については殆ど開示がない(特許文献1参照)。
上記の通り、ランタン等の希土類元素は価値の高い材料と注目されている材料であるが、一方で高純度化するのが難しい材料である。しかしながら、炭素(グラファイト)、Al、Fe、Cu等の不純物は、ランタン等の希土類元素の特性を活かすためには低減化が好ましい。また、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、遷移金属元素、高融点金属元素、放射性元素も半導体の特性に影響を与えるので低減化が望まれている。
通常、高純度ランタンを製造する場合には、ガス成分を除く純度が4N以上であるフッ化ランタンの原料を、高純度カルシウムにより還元して純度4N以上のランタンを作製し、この還元したランタンを電子ビーム溶解して揮発性物質を除去することにより、ガス成分を除き、4N5以上の純度を有する高純度ランタンを製造することが可能である。ランタン以外の希土類元素の高純度化を行う場合も、同様の工程を採る。
しかし、この場合に、還元工程で使用するカルシウムを高純度化して、製造工程中の不純物を低減する必要がある。カルシウム中に不純物が多いと、結果として、希土類元素中の不純物が増加するという問題を生ずるからである。
従来技術を見ると、下記特許文献2に、630〜700°Cの予備蒸留(3〜16時間)で低Mgとしたのち、900〜920°Cの本蒸留(12時間)を行い、Mg:60ppm(0.006%), Al:10ppm(0.001%), Mn:80ppm(0.008%), Fe:10ppm(0.001%), Zn<10ppm(0.001%)とする技術が開示されている。
しかし、この程度のカルシウム純度では、充分とは言えない。また、Cuの不純物量の規定(記載)がないが、液体状態のカルシウムの取り扱いには水冷Cuの使用は欠かせないので、Cuの不純物が多量に含まれている可能性が大きい。
下記特許文献3には、酸化カルシウムとアルミニウム等の混合物をレトルト中に装入し、減圧蒸留により金属カルシウムを製造する方法において、該混合物とカルシウム蒸気のコンデンサーとの間に酸化カルシウム粒の充填層を配するという金属カルシウムの製造方法が開示されている。しかしこれは、特殊鋼の製錬剤であるサマリウムを製造するための還元剤(Ca)として、カルシウム中のアルミニウムのみを低減するという特化された技術であり、カルシウム中の他の不純物については記載がなく、総合的な高純度化の技術ではない。
下記特許文献4は、CaOのAl還元でレトルト中の温度分布をつけてMgを捕集しCaを高純度化するという技術が開示されている。この場合、一度の還元で99.9%以上の純度を有するカルシウムが得ることができるというレトルトの構造に特徴を持たせたもので、分析値もMgのみである。総合的な高純度化の技術ではない。
上記の通り、従来技術では、総合的な高純度化を達成できるカルシウムを製造するための有効な技術の開示がないと言える。
特開昭63−11628号公報 特開昭58−141349号公報 特公昭63−47780号公報 特開平7−76739号公報
本発明は、高純度ランタンの製造に使用できるだけでなく、他の希土類等の還元剤、金属の脱硫剤又は脱酸剤、高真空ポンプ用ゲッターとして使用するための、高純度化したカルシウムを安定して提供できる技術を提供することを課題とする。
本発明は、1)ガス成分を除く純度が4N以下であるカルシウムの原料を、昇華容器のルツボに装入し、これを750°C〜800°Cに加熱して昇華させ、これを昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させて第1回目の昇華精製を行い、次にこの第1回目で昇華精製したカルシウムを回収した後、このカルシウムを再度昇華容器のルツボに装入し、750°C〜800°Cに加熱して第2回目の昇華精製を行い、同様に昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させて純度4N5以上のカルシウムを回収することを特徴とする高純度カルシウムの製造方法、を提供する。
また、本発明は、2)カルシウムの昇華速度を0.25g/cm/h〜0.75g/cm/hとすることを特徴とする上記1)記載の高純度カルシウムの製造方法、
また、本発明は、3)昇華精製する際の昇華容器内の真空度を1×10−4Pa以上の高真空とすることを特徴とする上記1)〜2)のいずれか一項に記載の高純度カルシウムの製造方法、4)カルシウム原料からの収率を80%以上とすることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一項に記載の高純度カルシウムの製造方法、を提供する。
また、本発明は、5)回収した高純度カルシウムに含有する各遷移金属元素を5ppm未満とすることを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一項に記載の高純度カルシウムの製造方法、6)回収した高純度カルシウムに含有する各遷移金属元素の含有量を1ppm未満とすることを特徴とする上記1)〜4)のいずれか一項に記載の高純度カルシウムの製造方法、を提供する。
また、本発明は、7)カルシウムの純度が4N5以上であることを特徴とする高純度カルシウム、8)高純度カルシウムに含有する各遷移金属元素が5ppm未満であることを特徴とする上記7)記載の高純度カルシウム、9)高純度カルシウムに含有する各遷移金属元素の含有量が1ppm未満であることを特徴とする上記7)記載の高純度カルシウム、を提供する。
以上の高純度カルシウムは新規な物質であり、本願発明はこれを包含するものである。このような高純度カルシウムは、純度の高いランタン金属等の希土類元素をカルシウム還元によって精製する場合に有効に利用できる。このように、希土類元素の還元剤、金属の脱硫剤又は脱酸剤、高真空ポンプ用ゲッターとして使用することができる。
本発明は、2回の昇華精製により、純度4N5以上のカルシウムを回収するものであり、高純度化したカルシウムを安定して提供できるという優れた効果を有する。
昇華装置の概要説明図である。
本発明の高純度カルシウムの製造方法は、まずガス成分を除く純度が4N以下であるカルシウムの原料を、図1に示すような昇華容器のルツボに装入する。次に、この原料を750°C〜800°Cに加熱して昇華させ、昇華したカルシウムを昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させて第1回目の昇華精製を行う。そして、この第1回目で昇華精製したカルシウムを冷却して回収する。
次に、この回収したカルシウムを再度昇華容器のルツボに装入する。昇華容器は別に用意しても良いし、また同一の昇華容器を使用することもできる。そして、再度750°C〜800°Cに加熱して第2回目の昇華精製を行い、同様に昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させる。これによって純度4N5以上のカルシウムを回収することができる。
前記昇華させる温度750°C〜800°Cは、融点839°Cよりもやや低い温度で、カルシウムの昇華速度を調節して温度設定を行う。750°C未満では、昇華精製の効率が悪くなり、また800°Cを超える温度では、不純物の混入があるので、上記の範囲の温度に調節する。この結果、カルシウムの昇華速度を0.25g/cm/h〜0.75g/cm/hとすることができる。これはカルシウムの昇華精製に適度な速度である。
昇華容器は通常耐熱性のステンレスを使用する。そして、この昇華容器に昇華精製したカルシウムを付着(蒸着)させて回収する。
昇華精製する際の昇華容器内の真空度は、1×10−4Pa以上の高真空とし、昇華を促進させ、かつ気化し易いカルシウム内の不純物を除去する。
本発明の工程により、カルシウム原料からの収率80%以上を達成することができる。また、回収した高純度カルシウムに含有する各遷移金属元素を5ppm未満とすること、さらには、1ppm未満とすることができる。
以上によって、カルシウムの純度が4N5以上である高純度カルシウムを得ることができる。また、この高純度カルシウムに含有する各遷移金属元素を5ppm未満、さらには、1ppm未満とすることができる。
次に、実施例について説明する。なお、この実施例は理解を容易にするためのものであり、本発明を制限するものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内における、他の実施例及び変形は、本発明に含まれるものである。
(実施例1)
表1に示す不純物を含有する純度99.9%(3N)のカルシウム原料3.5kgを、図1に示す縦型の昇華容器の底部のルツボに装入した。なお、表1には、原料のばらつきも示す。昇華容器内の真空度は1×10−4Pa台とした。この真空処理はロータリーポンプによる粗引き及びクライオポンプによる本引きを行った。ルツボの加熱は下記の範囲で調節した。
加熱温度は、恒常状態で770°Cであり、通常750°C〜800°Cで制御した。また、昇華速度は、恒常状態で0.64g/cm/hであり、通常0.25g/cm/h〜0.75g/cm/hで制御した。これ以下では昇華速度のばらつきが大きくなって効率が悪く、これを超えると純度が悪化する傾向があった。
上記の通り、カルシウム原料は3.5kgとしたが、この第1回目の昇華によって昇華容器内の側壁に3.0kgの付着(蒸着)物を得た。この分析値を同様に表1に示す。
第1回目の昇華残渣は0.25kgであり、ロスは0.25kgであった。第1回目の昇華残渣の分析値も、表1に示す。これによれば、Mg<0.05wtppm、Fe:64wtppm、Cu380wtppmであり、銅の残渣が多量にあった。なお、第1回目の昇華は、原料形状が安定せず、昇華速度も安定しないという傾向があった。
次に、この第1回目の蒸着カルシウム原料を用いて、カルシウム原料3.0kgを、図1に示す縦型の昇華容器の底部のルツボに装入した。この結果、2.8kgのカルシウムを回収した。この結果、収率は、2.8/3.5=80で、80%の収率を得た。
第2回目のカルシウムの不純物量を、同様に表1に示す。この表1に示す不純物量から明らかなように、高純度カルシウムを得ることができた。
表1に示すように、原料でのカルシウム中に存在するCu量のばらつきが大きいので、2回の昇華精製が必要であることが分かる。なお、カルシウムの分析値で、SrとBaは、比較的高い値になっているが、これらはカルシウムと性質が似ているために、カルシウム還元剤等として使用する場合には、特に問題となるものではない。
なお、第1回目と第2回目の昇華条件は同じとした。
(比較例1)
実施例1と同一のカルシウム原料を用い、温度750°C、昇華速度0.50g/cm/hで、1回のみの昇華によって昇華容器内の側壁に蒸着物を得た。他の条件は、実施例1と同一である。この結果、表2の分析結果に示すように、全体的に、前記実施例に比べて不純物量は多く、特にFe、Cuの不純物量が多く、本願発明の目的を達成することができなかった。
(比較例2)
実施例1と同一のカルシウム原料を用い、第1回目の加熱温度850°C、昇華速度(蒸発速度)4.0g/cm/hの1回の昇華によって昇華容器内の側壁に蒸着物を得た。他の条件は、実施例1と同一である。この結果、表3の左側の分析結果に示すように、全体的に、前記実施例に比べて不純物量は多く、特にSi、Ti、Mn、Fe、Cu、As、Sr、Baの不純物量が多くなり、本願発明の目的を達成することができなかった。
(比較例3)
実施例1と同一のカルシウム原料を用い、第1回目の加熱温度850°C、昇華速度(蒸発速度)4.0g/cm/hで、第2回目の加熱温度850°C、昇華速度(蒸発速度)3.7g/cm/hで2回の昇華によって昇華容器内の側壁に蒸着物を得た。他の条件は、実施例1と同一である。この結果、表3の右側の分析結果に示すように、全体的に、前記実施例に比べて不純物量は多く、特にMg、Al、Si、Fe、Cu、Pbの不純物量が多く、本願発明の目的を達成することができなかった。
本発明は、2回の昇華精製により、純度4N5以上のカルシウムを回収するものであり、高純度化したカルシウムを安定して提供できるという優れた効果を有する。これによって、カルシウム還元による高純度ランタンの製造に使用できるだけでなく、他の希土類等の還元剤、金属の脱硫剤又は脱酸剤、高真空ポンプ用ゲッターとして有効に使用できる。

Claims (9)

  1. ガス成分を除く純度が4N以下であるカルシウムの原料を、昇華容器のルツボに装入し、これを750°C〜800°Cに加熱して昇華させ、これを昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させて第1回目の昇華精製を行い、次にこの第1回目で昇華精製したカルシウムを回収した後、このカルシウムを再度昇華容器のルツボに装入し、750°C〜800°Cに加熱して第2回目の昇華精製を行い、同様に昇華容器内の側壁に付着(蒸着)させて純度4N5以上のカルシウムを回収することを特徴とする高純度カルシウムの製造方法。
  2. カルシウムの昇華速度を0.25g/cm/h〜0.75g/cm/hとすることを特徴とする請求項1記載の高純度カルシウムの製造方法。
  3. 昇華精製する際の昇華容器内の真空度を1×10−4Pa以上の高真空とすることを特徴とする請求項1〜2のいずれか一項に記載の高純度カルシウムの製造方法。
  4. カルシウム原料からの収率を80%以上とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高純度カルシウムの製造方法。
  5. 回収した高純度カルシウムに含有する各遷移金属元素を5ppm未満とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の高純度カルシウムの製造方法。
  6. 回収した高純度カルシウムに含有する各遷移金属元素の含有量を1ppm未満とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の高純度カルシウムの製造方法。
  7. カルシウムの純度が4N5以上であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の方法によって製造された高純度カルシウム。
  8. 高純度カルシウムに含有する各遷移金属元素が5ppm未満であることを特徴とする請求項7記載の高純度カルシウム。
  9. 高純度カルシウムに含有する各遷移金属元素の含有量が1ppm未満であることを特徴とする請求項7記載の高純度カルシウム。
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