以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、自動変速機を搭載したFR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両に対して本発明を適用した場合について説明する。また、本実施形態において特徴とする制御であるエンジンの被駆動状態でのブリッピングを伴うシフトダウン時の制御動作について説明する前に、車両のパワートレーン(車両用駆動装置)及び自動変速機の基本動作等について説明する。
図1は、本実施形態に係る車両のパワートレーンを示す概略構成図、図2は、図1の自動変速機2における変速機構部30の一例を示すスケルトン図、図3は、図2の変速機構部30における変速段毎の各クラッチ及び各ブレーキの係合表である。
図1中において、1はエンジン(内燃機関)、2は自動変速機、3はエンジン制御装置(エンジンECU)、4はトランスミッション制御装置(変速機ECU)である。
−エンジン1−
エンジン1は、外部から吸入する空気とインジェクタ(燃料噴射弁)5から噴射される燃料とを適宜の比率で混合した混合気を、点火プラグ12の点火によって燃焼させることにより、回転動力を発生する内燃機関である。吸入空気量は、スロットルバルブ6(吸入空気量調整手段)によって調節される。このスロットルバルブ6は、電動式のアクチュエータ(スロットルモータ等)7により駆動されるもので、アクセルペダル11の踏み込み量や制御上の条件に基づきアクチュエータ7を駆動することにより開度調節される。インジェクタ5及びアクチュエータ7は、エンジン制御装置3により制御される。
−自動変速機2−
自動変速機2は、エンジン1から入力軸9に入力される回転動力を変速し、出力軸10を介して駆動輪に出力するもので、主として、トルクコンバータ(流体継手)20、変速機構部30、油圧制御装置40等を含んで構成されている。
図2に示すように、トルクコンバータ20は、エンジン1に回転連結されるもので、ポンプインペラ21、タービンランナ22、ステータ23、ワンウェイクラッチ24、ステータシャフト25、ロックアップクラッチ26を含んで構成されている。
上記ロックアップクラッチ26は、トルクコンバータ20のポンプインペラ21(入力側)とタービンランナ22(出力側)とを直結可能とするものであり、必要に応じて、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを直結する係合状態と、ポンプインペラ21とタービンランナ22とを切り離す解放状態と、これら係合状態と解放状態との中間の半係合状態(スリップ状態)との間で切り換えられる。
このロックアップクラッチ26の係合力制御は、ロックアップコントロールバルブ27でポンプインペラ21とタービンランナ22とに対する作動油圧をコントロールすることによって行われる。
変速機構部30は、図2に示すように、主として、第1プラネタリ31、第2プラネタリ32、第3プラネタリ33、クラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4、ワンウェイクラッチF0〜F3等を含んで構成されており、前進6段、後進1段の変速が可能になっている。
第1プラネタリ31は、ダブルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、サンギアS1と、リングギアR1と、複数個のインナーピニオンギアP1Aと、複数個のアウターピニオンギアP1Bと、キャリアCA1とを含む構成である。
サンギアS1は、クラッチC3を介して入力軸9に選択的に連結される。このサンギアS1は、ワンウェイクラッチF2及びブレーキB3を介してハウジングに選択的に連結され、逆方向(入力軸9の回転と反対方向)の回転が阻止される。キャリアCA1は、ブレーキB1を介してハウジングに選択的に連結されるとともに、そのブレーキB1と並列に設けられたワンウェイクラッチF1により、常に逆方向の回転が阻止される。リングギアR1は、第2プラネタリ32のリングギアR2と一体的に連結されており、ブレーキB2を介してハウジングに選択的に連結される。
第2プラネタリ32は、シングルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、サンギアS2と、リングギアR2と、複数個のピニオンギアP2と、キャリアCA2とを含む構成である。
サンギアS2は、第3プラネタリ33のサンギアS3と一体的に連結されており、クラッチC4を介して入力軸9に選択的に連結される。このサンギアS2は、ワンウェイクラッチF0及びクラッチC1を介して入力軸9に選択的に連結され、その入力軸9に対して相対的に逆方向へ回転することが阻止される。キャリアCA2は、第3プラネタリ33のリングギアR3と一体的に連結されており、クラッチC2を介して入力軸9に選択的に連結されるとともに、ブレーキB4を介してハウジングに選択的に連結される。このキャリアCA2は、ブレーキB4と並列に設けられたワンウェイクラッチF3により、常に逆方向の回転が阻止される。
第3プラネタリ33は、シングルピニオンタイプと呼ばれる歯車式遊星機構とされており、サンギアS3と、リングギアR3と、複数個のピニオンギアP3と、キャリアCA3とを含む構成である。キャリアCA3は、出力軸10に一体的に連結されている。
クラッチC1〜C4及びブレーキB1〜B4は、オイルの粘性を利用した湿式多板摩擦係合装置(摩擦係合要素)により構成されている。
油圧制御装置40は、変速機構部30におけるクラッチC1〜C4ならびにブレーキB1〜B4を個別に係合、解放させることにより適宜の変速段(前進1〜6速段、後進段)を成立させるものである。この油圧制御装置40の基本構成は公知であるので、ここでは詳細な図示や説明を割愛する。
ここで、上述した変速機構部30における各変速段を成立させる条件について、図3を用いて説明する。
図3は、変速機構部30の変速段毎でのクラッチC1〜C4、ブレーキB1〜B4及びワンウェイクラッチF0〜F3の係合状態または解放状態を示す係合表である。この係合表において、○印は「係合」、×印は「解放」、◎印は「エンジンブレーキ時に係合」、△印は「駆動時のみ係合」を示す。
なお、クラッチC1は、前進クラッチ(入力クラッチ)と呼ばれ、図3の係合表に示すように、パーキングポジション(P)、リバースポジション(R)、ニュートラルポジション(N)以外であって車両が前進するための変速段を成立させる際に係合状態で使用される。
−エンジン制御装置3、トランスミッション制御装置4−
エンジン制御装置3は、走行状況に応じてエンジン1へ供給する混合気や燃焼タイミングを制御することによりエンジン1を駆動するものである。
トランスミッション制御装置4は、油圧制御装置40を制御することにより変速機構部30における適宜の変速段つまり動力伝達経路を成立させるものである。
また、これらエンジン制御装置3とトランスミッション制御装置4とは、エンジン制御やトランスミッション制御に必要な情報を互いに送受可能に接続されている。
エンジン制御装置3及びトランスミッション制御装置4は、図示していないが、共に一般的に公知のECU(Electronic Control Unit)とされており、それぞれ、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びバックアップRAMなどを備えている。
ROMは、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAMは、CPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMは、エンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
図4に示すように、エンジン制御装置3には、上記エンジン1のクランクシャフトの回転数を検出するエンジン回転数センサ101、上記スロットルバルブ6の開度を検出するスロットル開度センサ102、吸入空気量を検出するエアフローメータ103などのエンジン1の運転状態を検出する各種センサが接続されており、その各センサの信号が入力される。また、このエンジン制御装置3は、スロットルバルブ6のアクチュエータ(スロットルモータ)7、インジェクタ5の燃料噴射量や燃料噴射タイミング、点火プラグ12の点火タイミング、吸排気バルブの開閉タイミングの位相を変化させるためのVVT(Variable Valve Timing)機構13などのエンジン1の各部を制御する。
また、このエンジン制御装置3のROMには、エンジン1の出力トルクを推定するためのトルク推定マップが記憶されている。このトルク推定マップにより、上記エンジン回転数センサ101によって検出されるエンジン回転数、スロットル開度センサ102によって検出されるスロットル開度、エアフローメータ103によって検出される吸入空気量に基づいて、現在のエンジン1の出力トルクを推定可能となっている。
更に、このエンジン制御装置3は、エンジン1の排気通路に配置された図示しない三元触媒の温度が推定可能となっている。具体的には、エンジン1の運転状態(エンジン負荷等)に基づいて三元触媒の温度を推定する。また、排気通路における三元触媒の上流側及び下流側にそれぞれ排気温センサを設けておき、これら排気温センサによって検出される排気温度から三元触媒の温度を推定するようにしてもよい。更には、触媒温度センサによって三元触媒の温度を直接的に検出するようにしてもよい(以上、触媒温度認識手段による触媒温度の推定動作及び検出動作)。
トランスミッション制御装置4には、上記入力軸9の回転数を検出する入力軸回転数センサ110、出力軸10の回転数を検出する出力軸回転数センサ111、ドライバにより操作されるアクセルペダル11の開度を検出するアクセル開度センサ112、自動変速機2のシフトレバー位置を検出するシフトポジションセンサ113、駆動輪の速度(車輪速度)を検出する車輪速センサ114などが接続されている。尚、この車輪速センサ114は、各車輪に備えられており、ABS(Antilock Brake System)制御において路面状況を検知するためのものとして使用されている。
また、このトランスミッション制御装置4は、上記ロックアップコントロールバルブ27にロックアップクラッチ制御信号を出力する。このロックアップクラッチ制御信号に基づいてロックアップコントロールバルブ27がロックアップクラッチ26の係合圧を制御し、上述したロックアップクラッチ26の係合状態(トルコン状態または完全ロックアップ状態とも呼ばれる)、解放状態(完全スリップ状態とも呼ばれる)、半係合状態(スリップ状態:フレックスロックアップ状態とも呼ばれる)が切り換えられるようになっている。
さらに、トランスミッション制御装置4は、自動変速機2の油圧制御装置40にソレノイド制御信号(油圧指令信号)を出力する。このソレノイド制御信号に基づいて油圧制御装置40の油圧制御回路に備えられているリニアソレノイドバルブやオンオフソレノイドバルブなどが制御され、所定の変速段(第1変速段〜第6変速段、後退変速段など)を達成するように、自動変速機2の各クラッチC1〜C4、各ブレーキB1〜B4などが所定の状態に係合または解放される。
−シフト装置50及びパドルスイッチ61,62−
また、本実施形態に係る車両の運転席の近傍にはシフト装置50が配置されている(図1参照)。このシフト装置50にはシフトレバー(セレクトレバーとも呼ばれる)51が変位操作可能に設けられている。また、このシフト装置50には、図5に示すように、パーキング(P)位置、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、及び、シーケンシャル(S)位置を有するシフトゲートが形成されており、ドライバが所望のレンジ位置へシフトレバー51を変位させることが可能となっている。これらパーキング(P)位置、リバース(R)位置、ニュートラル(N)位置、ドライブ(D)位置、シーケンシャル(S)位置(下記の「+」位置及び「−」位置も含む)の各レンジ位置は、上記シフトポジションセンサ113によって検出される。
上記シフトレバー51が「ドライブ(D)位置」に操作されている状態では、自動変速機2は「自動変速モード」とされ、後述する変速マップに従って変速段が選定されて自動変速動作が行われる。
一方、上記シフトレバー51が「シーケンシャル(S)位置」に操作されている状態では、自動変速機2は「手動変速モード」とされる。このS位置の前後には「+」位置及び「−」位置が設けられている。「+」位置は、マニュアルアップシフトの際にシフトレバー51が操作される位置であり、「−」位置は、マニュアルダウンシフトの際にシフトレバー51が操作される位置である。そして、シフトレバー51がS位置にあるときに、シフトレバー51がS位置を中立位置として「+」位置または「−」位置に操作されると、自動変速機2の変速段がアップまたはダウンされる。具体的には、「+」位置への1回操作ごとに変速段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→・・→6th)される。一方、「−」位置への1回操作ごとにギヤ段が1段ずつダウン(例えば6th→5th→・・→1st)される。
また、図1に示すように、本実施形態に係る車両の運転席の前方に配設されるステアリングホイール60には、パドルスイッチ61,62が設けられている。これらパドルスイッチ61,62はレバー形状とされ、変速段のアップシフトを要求する指令信号を出力するためのアップシフト用パドルスイッチ61と、変速段のダウンシフトを要求する指令信号を出力するためのダウンシフト用パドルスイッチ62とを備えている。上記アップシフト用パドルスイッチ61には「+」の記号が、上記ダウンシフト用パドルスイッチ62には「−」の記号がそれぞれ付されている。
そして、上記シフトレバー51が「シーケンシャル(S)位置」に操作されて「手動変速モード」となっている場合には、アップシフト用パドルスイッチ61が操作(手前に引く操作)されると、1回操作ごとに変速段が1段ずつアップ(例えば1st→2nd→・・→6th)される。一方、ダウンシフト用パドルスイッチ62が操作(手前に引く操作)されると、1回操作ごとに変速段が1段ずつダウン(例えば6th→5th→・・→1st)される。
また、本実施形態のものでは、所謂、Dレンジパドルアクティブ制御も可能となっている。つまり、上記シフトレバー51が「ドライブ(D)位置」に操作されて自動変速機2が「自動変速モード」となっている状態であっても、パドルスイッチ61,62の操作による手動変速動作が可能となっている。具体的には、このようにシフトレバー51が「ドライブ(D)位置」に操作されている状態では「自動変速モード」とされ、基本的には、後述する変速マップに従って変速段が選定されて自動変速動作が行われるが、この状態で、アップシフト用パドルスイッチ61が操作されると変速段がアップされ、ダウンシフト用パドルスイッチ62が操作されると変速段がダウンされるようになっている。また、その後に、パドルスイッチ61,62が操作されない状態が所定時間継続したり、アクセルペダル11の踏み込み量が大きくなったりして「自動変速モード」への復帰条件が成立すると、変速マップに従った自動変速動作に復帰するようになっている。
−変速マップ−
上記「自動変速モード」における自動変速機2の変速制御は、例えば図6に示すような変速マップ(変速条件)に従って行われる。この変速マップは、車速V及びアクセル開度θTHをパラメータとし、それら車速V及びアクセル開度θTHに応じて、適正な変速段を求めるための複数の領域が設定されたマップであって、上記トランスミッション制御装置4のROM内に記憶されている。変速マップの各領域は複数の変速線(変速段の切り換えライン)によって区画されている。尚、図6に示す変速マップにおいて、シフトアップ線(変速線)を実線で示し、シフトダウン線(変速線)を破線で示している。また、シフトアップ及びシフトダウンの各切り換え方向を図中に数字と矢印とを用いて示している。
−自動変速機2の変速制御動作−
次に、上述の如く構成された自動変速機2の変速制御動作について説明する。
先ず、シフトレバー51が「ドライブ(D)位置」に操作されている「自動変速モード」について説明する。
トランスミッション制御装置4は、上記出力軸回転数センサ111の出力信号から車速Vを算出するとともに、アクセル開度センサ112の出力信号からアクセル開度θTHを算出し、それら車速V及びアクセル開度θTHに基づいて図6の変速マップを参照して目標変速段を算出する。さらに、上記入力軸回転数センサ110及び出力軸回転数センサ111の出力信号から得られる回転数の比(出力回転数/入力回転数)を求めて現在の変速段を判定し、その現在変速段と目標変速段とを比較して変速操作が必要であるか否かを判定する。
その判定結果により、変速の必要がない場合(現在変速段と目標変速段とが同じで、変速段が適切に設定されている場合)には、現在変速段を維持するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力する。
一方、現在変速段と目標変速段とが異なる場合には変速制御を行う。例えば、自動変速機2の変速段が「4速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図6に示す点Aから点Bに変化した場合、シフトアップ変速線[4→5]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標変速段が「5速」となり、その5速の変速段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力して、4速の変速段から5速の変速段への変速(4→5アップ変速)を行う。
また、例えば、自動変速機2の変速段が「6速」の状態で走行している状況から、車両の走行状態が変化して、例えば図6に示す点Cから点Dに変化した場合、シフトダウン変速線[6→5]を跨ぐ変化となるので、変速マップから算出される目標変速段が「5速」となり、その5速の変速段を設定するソレノイド制御信号(油圧指令信号)を自動変速機2の油圧制御装置40に出力して、6速の変速段から5速の変速段への変速(6→5ダウン変速)を行う。尚、この6速の変速段から5速の変速段への変速動作は、クラッチC3を解放状態から係合状態に移行させると同時に、ブレーキB2を係合状態から解放状態に移行させる、所謂クラッチツークラッチ変速となっている。
一方、このようにシフトレバー51が「ドライブ(D)位置」に操作されている「自動変速モード」であっても、ドライバがパドルスイッチ61,62を操作した場合には、その操作に従って変速動作(手動変速動作)が行われる。つまり、この「自動変速モード」時において、アップシフト用パドルスイッチ61が操作されると、アップシフトのためのソレノイド制御信号(油圧指令信号)が自動変速機2の油圧制御装置40に出力され変速段がアップされる。一方、ダウンシフト用パドルスイッチ62が操作されると、ダウンシフトのためのソレノイド制御信号(油圧指令信号)が自動変速機2の油圧制御装置40に出力され変速段がダウンされることになる。
次に、シフトレバー51が「シーケンシャル(S)位置」に操作されている「手動変速モード」について説明する。
上述した如く、この「手動変速モード」では、シフトレバー51の操作及びパドルスイッチ61,62の操作によって変速動作が行われる。つまり、シフトレバー51が、S位置を中立位置として、「+」位置へ1回操作されるごとに変速段が1段ずつアップされ、「−」位置へ1回操作されるごとにギヤ段が1段ずつダウンされる。また、アップシフト用パドルスイッチ61が操作されると、1回操作ごとに変速段が1段ずつアップされ、ダウンシフト用パドルスイッチ62が操作されると、1回操作ごとに変速段が1段ずつダウンされる。
−ロックアップクラッチ作動マップ−
上述したロックアップクラッチ26の係合状態、解放状態、半係合状態の切り換え動作は、例えば図7に示すようなロックアップクラッチ作動マップに従って行われる。このロックアップクラッチ作動マップは、車速V及びアクセル開度θTHをパラメータとし、それら車速V及びアクセル開度θTHに応じて、ロックアップクラッチ26を、係合状態(完全ロックアップ状態)、解放状態(トルコン状態)、半係合状態(フレックスロックアップ状態:スリップ状態)の間で切り換えるためのマップであって、上記トランスミッション制御装置4のROM内に記憶されている。
つまり、車速V及びアクセル開度θTHに基づいて、係合領域(完全ロックアップ作動領域)、解放領域(トルコン作動領域)、スリップ領域(フレックスロックアップ作動領域)のいずれの領域に属するかを判定し、その判定された領域の作動となるように上記ロックアップコントロールバルブ27を制御してロックアップクラッチ26を係合、解放、或いは半係合のいずれかの状態とする制御を実行する。尚、上記アクセル開度θTHに代えてスロットル開度に応じたロックアップクラッチ作動マップ(車速とスロットル開度とに応じてロックアップクラッチ26を制御するためのマップ)によりロックアップクラッチ26の状態を切り換えるようにしてもよい。
上記フレックスロックアップ作動領域では、運転性を損なうことなく燃費を可及的に良くすることを目的としてエンジン1の回転変動を吸収しつつトルクコンバータ20の動力伝達損失を可及的に抑制するために、ロックアップクラッチ26のスリップ制御を実行する。ロックアップクラッチ26のスリップ制御については、タービン回転速度NTとエンジン回転速度NEとの回転速度差(スリップ量)NSLP(=NE−NT)を目標回転速度差(目標スリップ量:例えば50rpm)に制御するためにロックアップクラッチ26を制御する上記ロックアップコントロールバルブ27に対して駆動信号を出力する。このスリップ制御のうちの減速走行時スリップ制御は、例えば、アクセル開度θTHが略零で惰性走行(減速走行)する前進走行時において生じる駆動輪側からの逆入力をエンジン1側へ伝達する変速段、すなわちエンジンブレーキ作用が得られる変速段で行われ、タービン回転速度NT及びエンジン回転速度NEは、車両の減速にしたがって緩やかに減少させられる。このようにロックアップクラッチ26がスリップ係合させられると、エンジン回転速度NEがタービン回転速度NT付近まで引き上げられるため、エンジン1に対する燃料供給量を抑制する制御状態(フューエルカット状態)が長い期間維持されて燃費が向上する。
−エンジンの被駆動状態でのシフトダウン制御−
次に、本実施形態の特徴とする動作であるエンジン1の被駆動状態でのシフトダウン制御(以下、ブリッピングシフトダウン制御と呼ぶ)について説明する。このブリッピングシフトダウン制御は、上記エンジン回転数センサ101によって検出されたエンジン回転数が所定値(例えば1000rpm)以上であり且つドライバがアクセルペダルを踏み込んでいない(アクセル開度が非常に小さい状態(例えば開度5%以下)を含む)状態における自動変速機2のシフトダウン動作時の制御である。具体的には、この自動変速機2のシフトダウン動作時にブリッピングを行うことに伴って触媒温度が所定温度(例えば950℃)以上となっている場合には、上記ロックアップクラッチ26が完全ロックアップ作動中であることを条件として、触媒温度が所定温度未満である場合に比べて吸入空気量を増量して排気系に流れる空気量を増量するようにしている。
ここでは、自動変速機2が「手動変速モード」とされており(シフトレバー51が「シーケンシャル(S)位置」にあり)、上記エンジン1の被駆動状態で、シフトレバー51またはダウンシフト用パドルスイッチ62の操作によってシフトダウンが行われる場合について説明する。尚、これに限らず、自動変速機2が「自動変速モード」とされている場合において、アクセルオフ状態でシフトダウンされる際(所謂コーストダウン変速される際や、上記Dレンジパドルアクティブ制御によってシフトダウンされる際)に同様の制御動作を行うようにしてもよい。
図8は、このブリッピングシフトダウン制御の手順を示すフローチャートである。この図8に示すブリッピングシフトダウン制御ルーチンは、自動車の走行中に、上記エンジン制御装置3及びトランスミッション制御装置4において所定時間(例えば数msec)毎に繰り返して実行される。
先ず、ステップST1において、アクセルペダル11の開度(踏み込み量)を、アクセル開度センサ112の出力信号から算出し、このアクセルペダル11の開度が所定値以下であるか否かを判定する。ここでいう所定値としては例えば開度5%が挙げられる。つまり、エンジン1が被駆動状態となっている場合に、このステップST1ではYES判定される。上記所定値としては上述した値に限らず、例えば実験・計算等により経験的に求められる。また、スロットルバルブ6の全閉状態を検知するアイドル接点を備えさせ、このアイドル接点がON状態である場合に、このステップST1でYES判定されるようにしてもよい。
そして、アクセルペダル11の開度が上記所定値を超えており、このステップST1でNO判定された場合には、そのまま本ルーチンを終了する。
一方、アクセルペダル11の開度が所定値以下であり、ステップST1でYES判定された場合には、ステップST2に移り、上記推定または検出される触媒温度が所定値αを超えているか否かを判定する。ここでいう所定値αとしては、触媒内部の貴金属のシンタリングによる触媒劣化が進行する温度範囲のうちの下限値(例えば950℃)が適用されている。この所定値αはこの値に限定されるものではない。
触媒温度が所定値α以下でありステップST2でNO判定された場合にはステップST5に移り、ISC開度条件Bが選択される(ISC開度の変更動作は未だ実行しない)。このISC開度条件Bは、エンジン回転数に応じたISC開度を決定するために上記ROMに記憶されたマップまたはテーブルにより設定される条件であって、従来の一般的なISC開度として設定するためのものである。
図9(b)は、このISC開度条件Bにおけるエンジン回転数とISC開度(ISC開度を単位時間当たりの吸入空気量として表したもの)との関係の一例を示している。具体的には、上述した如く、オイル消費量の削減及びエンスト対策に鑑みられた「開き要求」と、ブレーキ負圧確保及びドライバビリティ確保に鑑みられた「閉じ要求」とに応じた開度となるようにISC開度が決定されるものとなっている。上記「開き要求」は、吸気負圧が高くなりすぎてクランクケースから吸気通路内にエンジンオイルが吸い出されてしまうことを抑制し且つ燃料噴射復帰時にトルク不足を招かないようにするためのISC開度として要求される。一方、「閉じ要求」は、ブレーキブースタへの負圧を十分に確保してブレーキ性能を維持し且つ燃料噴射復帰時に過剰なトルクが発生しないようにするためのISC開度として要求される。
一方、触媒温度が所定値αを超えておりステップST2でYES判定された場合にはステップST3に移り、現在のロックアップクラッチ26の作動状態としては完全ロックアップ作動中であるか否かを判定する。この判定は、上記出力軸回転数センサ111の出力信号から算出される車速Vと、アクセル開度センサ112の出力信号から算出されるアクセルペダル11の開度(踏み込み量)とを上記ロックアップクラッチ作動マップ(図7)に当て嵌めることで、現在のロックアップクラッチ26の作動状態を認識し、この作動状態が完全ロックアップ作動状態、つまり車速V及びアクセル開度θTHがロックアップクラッチ作動マップの完全ロックアップ作動領域にあるか否かを判定する。また、エンジン回転速度NEとタービン回転速度NTとの回転速度差によって完全ロックアップ作動状態であるか否かを判定するようにしてもよい。
現在のロックアップクラッチ26の作動状態が完全ロックアップ作動中ではなくステップST3でNO判定された場合にはステップST5に移り、上述したISC開度条件Bを選択する。
一方、現在のロックアップクラッチ26の作動状態が完全ロックアップ作動中でありステップST3でYES判定された場合にはステップST4に移り、ISC開度条件Aが選択される(ISC開度の変更動作は未だ実行しない)。このISC開度条件Aは、エンジン回転数に応じたISC開度を決定するために上記ROMに記憶されたマップまたはテーブルにより設定される条件であって、上記ISC開度条件Bで決定される従来の一般的なISC開度よりも大きなISC開度として設定するためのものである。
図9(a)は、このISC開度条件Aにおけるエンジン回転数とISC開度(ISC開度を単位時間当たりの吸入空気量として表したもの)との関係の一例を示している。具体的には、エンジン回転数の比較的低い領域では、上記ISC開度条件Bで決定されるISC開度に対するISC開度条件Aで決定されるISC開度の乖離量としては小さく設定される。また、エンジン回転数がアイドリング回転数程度の低い回転数(例えば1000rpm)である場合にはISC開度条件Bで決定されるISC開度とISC開度条件Aで決定されるISC開度とは一致している。これに対し、エンジン回転数の比較的高い領域では、上記ISC開度条件Bで決定されるISC開度に対するISC開度条件Aで決定されるISC開度の乖離量としては大きく設定される。例えば、エンジン回転数が4000rpmである場合には、ISC開度条件Bで決定されるISC開度に対してISC開度条件Aで決定されるISC開度は約2倍の吸入空気量が得られる開度に設定される。更に、エンジン回転数が5000rpmである場合には、ISC開度条件Bで決定されるISC開度に対してISC開度条件Aで決定されるISC開度は約2.5倍の吸入空気量が得られる開度に設定される。尚、図9に示す各ISC開度条件の数値は、排気量が3500ccのV型6気筒エンジンに適用した場合の一例を示している。
このようにしてISC開度を決定するための条件(ISC開度条件AまたはB)を選択した後、ステップST6に移る。このステップST6では、自動変速機2のダウンシフト指令がなされたか否かを判定する。つまり、アクセルペダル11の開度が上記所定値以下である状況で、シフトレバー51の「−」位置への操作、または、ダウンシフト用パドルスイッチ62の操作がなされたか否かを判定する。
ダウンシフト指令が発信されたことによりステップST6でYES判定された場合には、ステップST7に移り、自動変速機2の油圧制御が開始される。この油圧制御により自動変速機2はシフトダウン動作を開始する。実際には、上記ダウンシフト指令がなされて油圧制御が開始された後、この油圧が所定値に上昇するまでの所定の時間遅れをもってシフトダウン動作が開始されることになる。
このシフトダウン動作に伴い、ステップST8においてブリッピングが実行される。つまり、上記エンジン制御装置3からスロットルバルブ6のアクチュエータ7に対して開指令信号が出力されると共に、インジェクタ5に対して燃料噴射指令信号が出力される。これにより、スロットルバルブ6の開度を大きく設定すると共に、吸気行程を迎えている気筒に対してインジェクタ5から順次燃料噴射及びその混合気に対する点火プラグ12による点火を実行する。これにより、燃焼室内での燃焼に伴ってエンジン回転数が上昇することになる。ここでのスロットルバルブ6の開度、インジェクタ5からの燃料噴射量の制御、点火プラグ12の制御としては、シフトダウン動作後の変速段における同期回転数にエンジン回転数が迅速に達するように行われる。つまり、自動変速機2の摩擦係合要素をシフトダウン後の変速段における同期回転数まで引き上げる。これにより、変速時間の短縮化や変速応答性の向上が図られる。
尚、このブリッピング実行時におけるスロットルバルブ6の開度、インジェクタ5からの燃料噴射量及び燃料噴射タイミング、点火プラグ12の点火タイミングは、予め実験・計算等により経験的に求められている。例えば、このブリッピング時における燃料噴射指令信号の出力タイミングとしては、上述した如くダウンシフト指令がなされた後に油圧が所定値に上昇するまでの時間遅れが存在することを考慮し、このダウンシフト指令がなされた時点からタイマによって所定時間の経過を待ったタイミングとしている。このスロットル開指令信号の出力により、スロットルバルブ6の開度が増大することになるが、実際には、スロットル開指令信号が出力された後、僅かな時間遅れをもって、そのスロットル開指令信号に従った開度となる。また、上記点火プラグ12の点火タイミングとしては、上記ロックアップクラッチ26が完全ロックアップ状態にある場合に過剰なトルクが発生しないように、予め実験等によって適合されたものとなっている。
このようにしてブリッピングを伴ったシフトダウン動作が開始された後、ステップST9でシフトダウン動作が完了したことが判定されると、ステップST10で、自動変速機2の油圧制御が終了し、次の変速指令を待つことになる。ステップST9におけるシフトダウン完了の判定動作は、具体的には、自動変速機2の入力軸回転数がシフトダウン後の変速段における同期回転数(出力軸10の回転数×シフトダウン後の変速段の変速比)に略一致したか否かによって判定される。
このようにしてブリッピングを伴うシフトダウンが完了した後、ステップST11に移る。このステップST11では、上記エンジン回転数センサ101によってエンジン回転数を検出する。
その後、ステップST12に移る。このステップST12では、上述の如く選択されたISC開度条件(ISC開度条件AまたはB)に、上記ステップST11で検出したエンジン回転数を当て嵌めることによりISC開度を決定する。つまり、上記ISC開度条件Bが選択されている場合には、ISC開度としては比較的小さく設定される。即ち、上述した「開き要求」及び「閉じ要求」の両方を満たす開度としてISC開度が設定される。
一方、上記ISC開度条件Aが選択されている場合には、上記ISC開度条件Bが選択されている場合に比べてISC開度としては大きく設定されることになる(エンジン回転数がアイドリング回転数程度の低い回転数である場合を除く)。つまり、ブリッピングの実行に伴って触媒温度が所定値αを超えている場合には、上記ロックアップクラッチ26が完全ロックアップ作動中であることを条件として、ISC開度を大きく設定して排気系に流れる空気量を増量するようにしている(吸入空気量制御手段による吸入空気量の制御動作)。これにより、ブリッピング実行後における触媒温度の低下速度が高められることになる。また、何れのISC開度条件が選択されている場合であっても、エンジン回転数が高いほどISC開度としては大きく設定されることになる。
このようにしてISC開度を変更した後、リターンし、上述したステップST1からの動作が繰り返される。そして、次回のダウンシフト指令が発信されるまでの間、つまり、上記ステップST6でYES判定されるまでの間は、このステップST6でNO判定され、ステップST11で検出したエンジン回転数に従って、ステップST12において、上記選択されたISC開度条件に従ってISC開度を設定しいく。つまり、次回のダウンシフト指令が発信されるまでの間、エンジン回転数が低下していくに従って、ISC開度としても次第に小さく設定されていくことになる。また、触媒温度が上記所定値αを超えていたことでISC開度条件Aが選択されている状況で、次回のダウンシフト指令が発信されるまでの間に触媒温度が上記所定値αを下回った場合やロックアップクラッチ26が完全ロックアップ作動中でなくなった場合には、ステップST2またはステップST3でNO判定され、選択されるISC開度条件としてはISC開度条件Bに切り換えられることになる。つまり、ISC開度を小さくして上記「開き要求」及び「閉じ要求」の両方を満たす開度に設定される。
以上説明したように、本実施形態によれば、エンジン1の被駆動状態での自動変速機2のシフトダウン動作時にブリッピングを行うことに伴って触媒温度が所定温度以上となっている場合には、上記ロックアップクラッチ26が完全ロックアップ作動中であることを条件として、触媒温度が所定温度未満である場合に比べて吸入空気量を増量して排気系に流れる空気量を増量するようにしている。このように排気系に流れる空気量を増量することで、この空気による触媒冷却効果を促進させることができる。このため、短時間のうちに連続してシフトダウン動作が行われることに伴ってブリッピングが複数回に亘って行われたとしても、そのブリッピング実行タイミング同士の間の期間中における触媒温度の低下速度が高められることになり、触媒温度の過上昇を防止することができる。その結果、触媒の浄化性能の低下が回避され、また、触媒の温度がその耐熱温度を超えてしまうことを防止できる。
また、ロックアップクラッチ26が完全ロックアップ作動中であることを吸入空気量増量の条件(上記ISC開度条件Aを選択する条件)としたことにより、ブレーキ性能を十分に確保することができる。つまり、吸入空気量を多く設定した場合、吸入負圧の低下に伴い、この吸入負圧を利用しているブレーキブースタによるブレーキ力が低下してしまう可能性があるが、上述した如くロックアップクラッチ26が完全ロックアップ作動中であることを条件としたことにより、この完全ロックアップ作動中であることによるエンジンブレーキによる制動力が十分に発揮されることになる。そのため、吸入空気量を多く設定した場合であってもブレーキ性能が十分に確保できることになる。
更には、本実施形態では、上記何れのISC開度条件においてもエンジン回転数が高いほど吸入空気量を多く設定するようにしている。これにより、アクセルペダル11の踏み込み操作等に伴ってエンジン1の被駆動状態が解除されて燃料噴射が再開された場合には、エンジン回転数に適した吸入空気量が迅速に得られることになる。つまり、燃料噴射が再開された際に吸入空気量が不足してエンジン回転数に挙動を生じさせるといったことがなくなり、燃料噴射再開時におけるドライバビリティの悪化を回避することができる。
−他の実施形態−
上述した実施形態では、ロックアップクラッチ26が完全ロックアップ作動中であることを吸入空気量増量の条件(上記ISC開度条件Aを選択する条件)としていたが、本発明は、これを吸入空気量増量の条件としない場合も技術的思想の範疇である。つまり、エンジン1の被駆動状態で、触媒温度がブリッピングの実行に伴って所定温度以上となっている場合に吸入空気量を増量させるものも本発明の技術的思想の範疇である。
また、上記実施形態では、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両に対して本発明を適用した場合について説明したが、FF車両や4輪駆動車に対しても本発明は適用可能である。
また、上記実施形態では、ガソリンエンジン1を搭載した自動車に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、ディーゼルエンジンを搭載した自動車にも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(V型や水平対向型等)についても特に限定されるものではない。
更に、上記実施形態では、3つのプラネタリ31〜33を備える変速機構部30を有する自動変速機2を例に挙げたが、本発明はこれに限るものではなく種々の変速機構部を有する自動変速機に対して適用することが可能である。また、変速機構部30における変速可能な段数についても特に限定されるものではない。
また、上記実施形態では、遊星歯車機構を備えた一般的な自動変速機2を搭載した自動車に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、一般的なマニュアルトランスミッションと同様の平行歯車式変速機で構成され且つ変速動作(ギヤ段の切り換え動作)をシフトアクチュエータ及びセレクトアクチュエータ等によって自動的に行う自動化マニュアルトランスミッション(AMT)を搭載した自動車に対しても適用可能である。