(基礎技術)
図1から図12を参照して、本発明の基礎技術における内燃機関の燃焼圧力制御装置について説明する。基礎技術においては、車両に配置されている内燃機関を例に取り上げて説明する。
図1は、基礎技術における内燃機関の概略図である。図1には、吸気弁および排気弁が配置されている方向に燃焼室を切断したときの概略断面図が示されている。基礎技術における内燃機関は、火花点火式である。内燃機関は、機関本体1を備える。機関本体1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド4とを含む。シリンダブロック2の内部には、各気筒の燃焼室5が形成されている。燃焼室5にはピストン3が配置されている。燃焼室5には、機関吸気通路および機関排気通路が接続されている。機関吸気通路は、燃焼室5に空気または燃料と空気との混合気を供給するための通路である。機関排気通路は、燃焼室5における燃料の燃焼により生じた排気ガスを排出するための通路である。
シリンダヘッド4には、吸気ポート7および排気ポート9が形成されている。吸気弁6は吸気ポート7の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関吸気通路を開閉可能に形成されている。排気弁8は、排気ポート9の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関排気通路を開閉可能に形成されている。シリンダヘッド4には、点火装置としての点火プラグ10が固定されている。点火プラグ10は、燃焼室5にて燃料を点火するように形成されている。
基礎技術における内燃機関は、燃焼室5に燃料を供給するための燃料噴射弁11を備える。基礎技術における燃料噴射弁11は、吸気ポート7に燃料を噴射するように配置されている。燃料噴射弁11は、この形態に限られず、燃焼室5に燃料を供給できるように配置されていれば構わない。たとえば、燃料噴射弁は、燃焼室に直接的に燃料を噴射するように配置されていても構わない。
燃料噴射弁11は、電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ29を介して燃料タンク28に接続されている。燃料タンク28内に貯蔵されている燃料は、燃料ポンプ29によって燃料噴射弁11に供給される。燃料を供給する流路の途中には、燃料の性状を検出するための燃料性状検出装置として、燃料性状センサ77が配置されている。たとえば、アルコールを含む燃料を使用する内燃機関では、燃料性状センサ77としてアルコール濃度センサが配置される。燃料性状検出装置は、燃料タンクに配置されていても構わない。
各気筒の吸気ポート7は、対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結されている。サージタンク14は、吸気ダクト15およびエアフローメータ16を介してエアクリーナ(図示せず)に連結されている。吸気ダクト15には、吸入空気量を検出するエアフローメータ16が配置されている。吸気ダクト15の内部には、ステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置されている。一方、各気筒の排気ポート9は、対応する排気枝管19に連結されている。排気枝管19は、触媒コンバータ21に連結されている。基礎技術における触媒コンバータ21は、三元触媒20を含む。触媒コンバータ21は、排気管22に接続されている。機関排気通路には、排気ガスの温度を検出するための温度センサ78が配置されている。
基礎技術における機関本体1は、排気ガス再循環(EGR)を行うための再循環通路を有する。基礎技術においては、再循環通路としてEGRガス導管26が配置されている。EGRガス導管26は、排気枝管19とサージタンク14とを互いに連結している。EGRガス導管26には、EGR制御弁27が配置されている。EGR制御弁27は、再循環する排気ガスの流量が調整可能に形成されている。機関吸気通路、燃焼室、または機関排気通路に供給された排気ガスの空気および燃料(炭化水素)の比を排気ガスの空燃比(A/F)と称すると、触媒コンバータ21の上流側の機関排気通路内には、排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ79が配置されている。
基礎技術における内燃機関は、電子制御ユニット31を備える。基礎技術における電子制御ユニット31は、デジタルコンピュータからなる。電子制御ユニット31は、双方向バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を含む。
エアフローメータ16は、燃焼室5に吸入される吸入空気量に比例した出力電圧を発生する。この出力電圧は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。アクセルペダル40には、負荷センサ41が接続されている。負荷センサ41は、アクセルペダル40の踏込量に比例した出力電圧を発生する。この出力電圧は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、クランク角センサ42は、クランクシャフトが、例えば30°回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスは入力ポート36に入力される。クランク角センサ42の出力により、機関本体1の回転数を検出することができる。更に、電子制御ユニット31には、燃料性状センサ77、温度センサ78および空燃比センサ79等のセンサの信号が入力されている。
電子制御ユニット31の出力ポート37は、それぞれの対応する駆動回路39を介して燃料噴射弁11および点火プラグ10に接続されている。基礎技術における電子制御ユニット31は、燃料噴射制御や点火制御を行うように形成されている。すなわち、燃料を噴射する時期および燃料の噴射量が電子制御ユニット31により制御される。更に点火プラグ10の点火時期が電子制御ユニット31により制御されている。また、出力ポート37は、対応する駆動回路39を介して、スロットル弁18を駆動するステップモータ17、燃料ポンプ29およびEGR制御弁27に接続されている。これらの機器は、電子制御ユニット31により制御されている。
図2に、基礎技術における第1の燃焼圧力制御装置の概略図を示す。図2には、吸気弁および排気弁が配置されている方向とは異なる方向に燃焼室を切断したときの概略断面図が示されている。
基礎技術における内燃機関は、燃料が燃焼したときの燃焼室の圧力を制御する燃焼圧力制御装置を備える。基礎技術における内燃機関は、燃焼室5に連通する副室60を備える。燃焼圧力制御装置は、燃焼室5の圧力が制御圧力に到達したときに、燃焼室5の圧力変化を駆動源として副室60の容積が変化する容積可変装置を備える。すなわち、容積可変装置は、燃焼室5の圧力が変化することにより作動する。本発明における制御圧力とは、燃焼室に連通する副室の容積が変化し始めるときの圧力である。容積可変装置は、燃焼室5の圧力が異常燃焼の発生圧力以上にならないように制御する。
本発明における異常燃焼とは、点火装置により混合気が点火し、点火した点から順次燃焼が伝搬する状態以外の燃焼を示す。異常燃焼は、たとえば、ノッキング現象、デトネーション現象およびプレイグニッション現象を含む。ノッキング現象は、スパークノック現象を含む。スパークノック現象は、点火装置において点火し、点火装置を中心に火炎が広がっているときに、点火装置から遠い位置にある未燃燃料を含む混合気が自着火する現象である。点火装置から遠い位置にある混合気は、点火装置の近傍の燃焼ガスにより圧縮されて高温高圧になって自着火する。混合気が自着火するときに衝撃波が発生する。
デトネーション現象は、高温高圧の混合気の中を衝撃波が通過することにより、混合気が着火する現象である。この衝撃波は、たとえば、スパークノック現象によって発生する。
プレイグニッション現象は、早期着火現象とも言われる。プレイグニッション現象は、点火プラグの先端の金属または燃焼室内に堆積するカーボンスラッジ等が加熱されて、所定の温度以上を維持した状態になり、この部分を火種として点火時期の前に燃料が着火して燃焼する現象である。
容積可変装置は、燃焼室5に連通している筒状部を構成する筒状部材51を備える。基礎技術における筒状部材51は、円筒状に形成されている。筒状部材51の内部には、移動部材としての副室用ピストン55が配置されている。筒状部材51の内部の空間は、副室用ピストン55により区画されている。筒状部材51の内部には、燃焼室5に向かう側に副室60が形成され、燃焼室5に向かう側と反対側にガス室61が形成されている。
基礎技術における第1の燃焼圧力制御装置のガス室61は、密閉されている。ガス室61には、気体が封入されている。基礎技術においては、ガス室61に窒素が封入されている。ガス室61に充填する気体としては、窒素に限られず、任意の気体を採用することができる。
副室用ピストン55は、矢印100に示すように、筒状部材51の内部を移動できるように配置されている。副室用ピストン55は、ピストンリング55aを介して筒状部材51に接触している。副室60には、燃焼ガスが流入する。副室用ピストン55の封止部材としては、耐熱性を有するピストンリング55aが配置されている。ピストンリング55aは、たとえば金属により形成されている。副室用ピストン55は、筒状部材51に固定されておらず、筒状部材51の軸方向に移動するように形成されている。
容積可変装置は、副室用ピストン55が制御圧力で移動し始めるように、副室用ピストン55を燃焼室5に向かって付勢する付勢装置を含む。基礎技術においては、密閉されたガス室61の圧力により副室用ピストン55を付勢している。ガス室61には、副室用ピストン55が筒状部材51の底部に着底しているときに、気圧が制御圧力になるように気体が封入されている。
図3に、基礎技術の内燃機関における燃焼室の圧力のグラフを示す。横軸がクランク角度であり、縦軸が燃焼室の圧力および副室用ピストンの変位である。図3には、燃焼サイクルのうち圧縮行程および膨張行程のグラフが示されている。副室用ピストン55は、筒状部材51の底部に着底しているときの変位が零である。基礎技術における容積可変装置は、燃焼サイクルの圧縮行程から膨張行程の期間中に、燃焼室5の圧力が制御圧力に到達した場合に、燃焼室5の圧力変化を駆動源として副室用ピストン55が移動する。この結果、副室60の容積が大きくなる。
図2および図3を参照して、圧縮行程の開始時には副室用ピストン55が筒状部材51の底部に配置されている。圧縮行程ではピストン3が上昇して、燃焼室5の圧力が上昇する。ここで、ガス室61には制御圧力の気体が封入されているために、燃焼室5の圧力が制御圧力になるまでは、副室用ピストン55は着底した状態が維持される。
図3に示す例では、クランク角度が0°(TDC)より僅か後に点火される。点火されることにより燃焼室5の圧力が急激に上昇する。燃焼室5の圧力が制御圧力に達したときに、副室用ピストン55が移動し始める。混合気の燃焼が進むと、ガス室61の気体が圧縮されて、副室用ピストン55の変位が大きくなる。このために、燃焼室5および副室60の圧力が上昇することが抑制される。図3に示す例では、燃焼室5の圧力がほぼ一定に保たれる。
燃焼室5において、更に燃料の燃焼が進むと、副室用ピストン55の変位は最大になった後に小さくなる。ガス室61の圧力が制御圧力に向かって減少する。燃焼室5の圧力が制御圧力になったときに、副室用ピストン55の変位が零に戻る。すなわち、副室用ピストン55は着底する位置まで戻る。燃焼室5の圧力が制御圧力未満になった場合には、クランク角度の進行とともに燃焼室5の圧力が減少する。
このように、基礎技術における燃焼圧力制御装置は、燃焼室5の圧力が制御圧力に到達したときに燃焼室の圧力上昇を抑制し、燃焼室の圧力が異常燃焼の発生する圧力以上にならないように制御する。
図4に、比較例の内燃機関における点火時期と出力トルクとの関係を説明するグラフを示す。比較例の内燃機関は、副室を有していない。すなわち、比較例は、容積可変装置を有していない内燃機関である。図4のグラフは、所定の状態で比較例の内燃機関を運転しているときのグラフである。横軸は、点火するときのクランク角度(点火時期)を示している。
混合気に点火する時期によって内燃機関の性能が変化することが分かる。内燃機関は、出力トルクが最大になる点火時期(θmax)を有する。出力トルクが最大になる点火時期は、エンジン回転数、スロットル開度、空燃比、圧縮比などにより変化する。出力トルクが最大になる点火時期で点火することにより、燃焼室の圧力が高くなり熱効率が最良になる。このため、出力トルクが大きくなり、燃料消費量を少なくすることができる。また、排出される二酸化炭素を減らすことができる。
ところが、点火時期を早くするとノッキング現象などの異常燃焼が発生する。特に高負荷になると、異常燃焼の発生する領域が大きくなる。比較例の内燃機関においては、異常燃焼を回避するために、出力トルクが最大になる点火時期よりも遅らせて点火している。このように、異常燃焼が発生する領域を避けた点火時期を選定している。
図5に、比較例の内燃機関の燃焼室の圧力のグラフを示す。実線は、燃料の供給を停止(フュエルカット)して、かつスロットル弁の開度が全開(WOT)のときの燃焼室の圧力を示している。このときの燃焼室の圧力は、クランク角度が0°のとき、すなわち圧縮上死点において最大になる。この圧力は、燃料を供給しないときの燃焼室の最大圧力になる。
内燃機関においては、点火時期に依存して、燃焼室の圧力が変動する。破線で示されているグラフは、出力トルクが最大になる点火時期で点火したときのグラフである。破線は、異常燃焼が発生しないと仮定した場合のグラフを示している。図5に示す例においては、クランク角度が0°(TDC)よりもやや後の時期に点火を行なっている。出力トルクが最大になる点火時期で点火した場合においては、燃焼室の圧力が高くなる。しかしながら、実際の内燃機関では、燃焼室の最大圧力(Pmax)が異常燃焼の発生する圧力よりも大きくなるために、点火時期を遅角させている。一点鎖線は、点火時期を遅角させたときのグラフである。点火時期を遅角させた場合には、出力トルクが最大になる点火時期で点火した場合よりも燃焼室の最大圧力が小さくなる。
図3を参照して、破線は、比較例の内燃機関において出力トルクが最大になる点火時期θmaxで点火した場合のグラフを示している。前述のとおり、この点火時期で点火した場合には、異常燃焼が発生する。
これに対して、基礎技術における内燃機関は、燃焼室の圧力が異常燃焼の発生圧力未満で燃焼を行なうことができる。点火時期を早くしても異常燃焼の発生を抑制することができる。特に、圧縮比が高いエンジンにおいても異常燃焼を抑制することができる。このため、図5に示す点火時期を遅らせた比較例の内燃機関に比較して、熱効率が改善され、出力トルクを大きくすることができる。または、燃料消費量を少なくすることができる。
基礎技術の内燃機関においては、熱効率が最も良くなる点火時期に点火している。基礎技術の内燃機関は、図3に示す比較例の内燃機関の出力トルクが最大になる点火時期にて点火することも可能である。しかしながら、基礎技術における内燃機関は、点火時期を比較例における内燃機関の出力トルクが最大になる点火時期よりも早くしている。この構成により、より熱効率を改善することができ、更に出力トルクを大きくすることができる。このように、基礎技術における内燃機関は、異常燃焼を回避しながら熱効率が最も良くなる時期に点火することができる。
基礎技術においては、副室用ピストン55が筒状部材51の底部に着底しているときのガス室61の気圧が制御圧力になる。制御圧力としては、燃料の供給を停止した場合における燃焼室の最大圧力より大きくすることができる。すなわち図5に示す実線のグラフの燃焼室の最大圧力より大きく設定することができる。また、制御圧力は、異常燃焼が発生する圧力未満に設定することができる。
比較例の内燃機関は、点火時期を遅角するために排気ガスの温度が高くなる。または、熱効率が低いために排気ガスの温度が高くなる。比較例の内燃機関においては、排気ガスの温度を下げるために、燃焼時の空燃比を理論空燃比より小さくすることができる。ところが、排気浄化装置としての三元触媒は、排気ガスの空燃比が理論空燃比の近傍の場合に高い浄化能力を示す。三元触媒は、理論空燃比から外れると、浄化性能が極端に小さくなってしまう。このため、燃焼時の空燃比を理論空燃比よりも小さくすると、排気ガスの浄化能力が低下し、排気ガスに含まれる未燃燃料が多くなってしまう。また、比較例の内燃機関は、排気ガスの温度が高くなるために、排気浄化装置の耐熱性が要求されて高質の材料が必要になったり、排気ガスを冷却するための装置や排気ガスを冷却するための新たな構造が必要になったりする場合がある。
これに対して、基礎技術における内燃機関は、熱効率が高いために排気ガスの温度が高くなることを回避することができる。基礎技術における内燃機関は、排気ガスの温度を下げるために燃焼時の空燃比を小さくする必要性が小さく、排気浄化装置が三元触媒を含む場合に浄化性能を維持することができる。更に、排気ガスの温度が高くなることを回避できるために、排気浄化装置の部材の耐熱性の要求が低くなる。または、排気ガスの冷却を行なうための装置等を新たに追加しなくても装置を形成することができる。
また、図3を参照して、一般的に熱効率を向上させるために内燃機関の圧縮比を上昇させる場合には、燃焼室の最大圧力Pmaxが大きくなる。このために、内燃機関を構成する部材の強度を大きくする必要がある。しかしながら、基礎技術における内燃機関は、燃焼室の最大圧力が大きくなることを回避できて、構成部材が大型になることを回避できる。たとえば、コンロッドの径が大きくなることを回避できる。また、構成部材同士の摩擦が大きくなることを回避できて、燃料消費率の悪化を抑制することができる。
さらに、燃焼室の最大圧力が高い場合においては、燃焼室の径を大きくすることが困難であるという問題がある。燃焼室の径が大きくなると、それに伴ってピストンの支持部分等の構成部材の強度を大きくする必要があり、構成部材の強度を大きくする必要がある。しかしながら、基礎技術においては、燃焼室の最大圧力を低く維持できるために、構成部材の要求強度を低く抑えることができる。このため、燃焼室の径を容易に大きくすることができる。
次に、基礎技術の内燃機関の燃焼圧力制御装置における制御圧力について説明する。
図6は、比較例における内燃機関の負荷と、燃焼室における最大圧力との関係を示すグラフである。内燃機関の負荷は、燃焼室における燃料の噴射量に対応する。異常燃焼が発生しない場合には、破線で示したように、負荷が増加するに従って燃焼室の最大圧力が増加する。所定の負荷よりも大きくなると異常燃焼が発生する。異常燃焼が発生するときの燃焼室の最大圧力は、負荷に依らずにほぼ一定であることが分かる。
基礎技術の内燃機関においては、燃焼室の圧力が異常燃焼を発生する圧力に到達しないように制御圧力を設けている。制御圧力としては、燃料が燃焼したときの燃焼室の最大圧力が異常燃焼の発生圧力よりも小さくなる範囲のうち、大きな圧力であることが好ましい。制御圧力を異常燃焼が発生する圧力の近傍まで高くすることが好ましい。この構成により、異常燃焼を抑制しながら熱効率を大きくすることができる。
図7に、基礎技術における内燃機関の燃焼室の圧力の他のグラフを示す。図2および図7を参照して、基礎技術の内燃機関は、制御圧力に到達することにより、副室用ピストン55が移動する。このときに、ガス室61の内部の圧力が上昇する。特に、ガス室61の容積が小さい場合には、ガス室61の圧力が上昇する。このため、燃焼室5内の圧力は、ガス室61の圧力上昇に伴って上昇する場合がある。燃焼室5の圧力のグラフは、制御圧力よりも大きくなった場合に上側に凸の形状になる。このため、制御圧力を定める場合には、燃焼室の圧力が異常燃焼の発生圧力に到達しないように、ガス室61の圧力の上昇分を見込んで低く設定することが好ましい。
さらに、副室用ピストン55を含む移動部材が滑らかに移動せずに、圧力の跳ね返りが生じる場合がある。図7に示すように、燃焼室の圧力が脈動する場合がある。このため、制御圧力は、燃焼室の圧力の脈動を考慮して低く設定することが好ましい。このように、制御圧力は、異常燃焼が発生する圧力から予め定められた圧力を減算した圧力に設定されることが好ましい。
次に、基礎技術の内燃機関の燃焼圧力制御装置における点火時期について説明する。
図8に、基礎技術および比較例における燃焼室の圧力のグラフを示す。実線は、基礎技術の内燃機関において出力トルクが最大になる時期に点火したときのグラフを示す。一点鎖線は、比較例の内燃機関において点火時期を遅角させた場合のグラフを示す。
基礎技術における内燃機関は、前述したように、内燃機関の熱効率が最大となる点火時期θmaxを選定することが好ましい。しかしながら、この点火時期での燃焼室の圧力は高くなる。たとえば、基礎技術の点火時期における燃焼室の圧力は、比較例の点火時期における燃焼室の圧力よりも大きくなる。このために、内燃機関によっては、火花が飛ばせずに失火してしまう場合がある。特に、基礎技術の内燃機関では、クランク角度が0°(TDC)の近傍において点火を行なっている。クランク角度が0°の近傍では、燃焼室の圧力が高いために火花が飛びにくい状態になっている。すなわち、空気密度が高いために放電が生じにくい状態になっている。
図1を参照して、燃焼室5において失火すると、未燃燃料が機関排気通路を通って排気浄化装置に流入する。基礎技術においては、未燃燃料が排気ポート9を通って三元触媒20に流入する。この場合には、三元触媒20に流入する未燃燃料が多くなり、大気中に放出される排気ガスの性状が悪化する場合がある。または、三元触媒20において、未燃燃料が燃焼して三元触媒20が過温になる場合がある。
図8を参照して、このような失火する虞のある内燃機関では、点火時期を進角させることができる。すなわち、点火時期を早くすることができる。たとえば、点火時期を出力トルクが最大になる点火時期よりも更に進角させることができる。点火時期を早くすることにより、燃焼室の圧力が低い時に点火することができて失火を抑制できる。
図9に、基礎技術における内燃機関の出力トルクと排気ガスの温度を説明するグラフを示す。燃焼室における点火時期を早くすることにより、燃焼室から排出される排気ガスの温度が下降することが分かる。
例えば、排気浄化装置を構成する部品の耐熱性を確保するために、排気ガスの温度判定値が予め定められる場合がある。図1を参照して、温度センサ78により排気ガスの温度を検出し、排気ガスの温度が予め定められた温度判定値を超えていた場合には、点火時期を進角させることができる。更に、燃焼室5に供給する燃料噴射量が多くなると、排気ガスの温度が上昇する。このために、燃料噴射弁11からの燃料の供給量が予め定められた供給量判定値よりも大きくなった場合には、点火時期を進角させることができる。この構成により、燃焼室5から排出される排気ガスの温度を下降させることができる。排気浄化装置が過温になることを抑制できる。または、進角した点火時期で点火する制御を行なうことにより、排気浄化装置を構成する部品の耐熱性を低下させることができる。たとえば、高質な材料を用いずに排気浄化装置を構成することができる。
図10に、基礎技術における第2の燃焼圧力制御装置の概略断面図を示す。第2の燃焼圧力制御装置は、筒状部材51の内部において、副室用ピストン55に対して燃焼室5と反対側の空間に変形可能な容器が配置されている。基礎技術における変形可能な容器は、ベローズ52を含む。ベローズ52の内部に気体が充填されて、ガス室が形成されている。このように、ベローズ52を配置して内部に気体を充填することにより、ガス室から気体が漏れることを抑制できる。たとえば、ピストンリング55aによるシール部分を通して、気体が流出することを抑制できる。
図11に、基礎技術における第3の燃焼圧力制御装置の概略断面図を示す。第3の燃焼圧力制御装置においては、副室用ピストン55を付勢する付勢装置として、機械ばねが配置されている。基礎技術におけるばねは、コイルスプリング53を含む。コイルスプリング53は、筒状部材51の内部に配置されている。このように、付勢装置としては、ガス室に限られず、副室用ピストンを付勢することができる任意の装置を採用することができる。
図12に、基礎技術における第4の燃焼圧力制御装置の概略図を示す。第4の燃焼圧力制御装置は、筒状部材51のガス室61に気体を供給するための気体供給装置を備える。第4の燃焼圧力制御装置においては、ガス室61に空気が充填されている。
基礎技術における気体供給装置は、モータ71と、モータ71により駆動される圧縮機72と含む。ガス室61は、逆止弁82を介して圧縮機72に接続されている。逆止弁82は、ガス室61の気体が逆流して流出することを防止する。圧縮機72とガス室61とを接続する流路の途中には、分岐流路が形成されている。この分岐流路には、逆止弁83が配置されている。逆止弁83は、副室用ピストン55が移動し始める制御圧力よりも大きな圧力で開くように形成されている。逆止弁83を配置することにより、ガス室61の内部の圧力が制御圧力よりも大きくなることを回避できる。
圧縮機72には、逆止弁81およびフィルタ73が接続されている。フィルタ73は、圧縮機72に吸入される空気から異物を除去する。逆止弁81は、圧縮機72から空気が逆流することを防止する。
気体供給装置は、電子制御ユニット31により制御されている。基礎技術においては、モータ71が電子制御ユニット31に制御されている。気体供給装置は、例えば、予め定められた間隔ごとに起動して、ガス室61から流出した気体を補充する。
このように、ガス室に気体を供給する気体供給装置を備えることにより、ガス室から気体が漏れ出たとしても、ガス室の内部の圧力をほぼ一定に保つことができる。気体供給装置としては、この形態に限られず、ガス室に気体を供給できる任意の装置を採用することができる。
また、基礎技術における内燃機関の燃焼圧力制御装置は、燃焼室の圧力を検出する圧力検出装置を備えることができる。圧力検出装置は、たとえば筒内圧力センサ(CPS:Cylinder Pressure Sensor)を含む。筒内圧力センサは、燃焼室における圧力を検出する。筒内圧力センサは、たとえば、燃焼室の圧力が検出できるようにシリンダヘッドに固定されている。
筒内圧力センサを配置することにより、移動部材が筒状部材に固着していることを検出することができる。例えば、燃料が燃焼している時の圧力を検出し、燃焼室の圧力が、予め定められた判定値よりも大きい場合には、移動部材が筒状部材に固着していると判別することができる。この判定値は、たとえば制御圧力よりも大きな圧力を採用することができる。また、筒内圧力センサを配置することにより、ガス室の気体が漏れたことを検出できる。例えば、燃焼室における圧力が、制御圧力に到達しない場合には、ガス室に充填されていた気体が漏れたことを判別することができる。
基礎技術においては、筒状部材が燃焼室に隣接して配置されることにより副室が形成されているが、副室を構成する副室構成部材としては、この形態に限られず、たとえば、シリンダヘッドに穴部が形成されることにより副室が形成されていても構わない。
基礎技術における容積可変装置は、筒状部材と筒状部材の内部に配置されている副室用ピストンとを備えるが、この形態に限られず、容積可変装置は、燃焼室の圧力変化を駆動源として副室の容積が変化するように形成されていれば構わない。たとえば、弾力性を有し、伸縮可能な容器により副室が形成され、この容器自体が変形することにより副室の容積が変化するように形成されていても構わない。
(実施の形態1)
図13から図19を参照して、実施の形態1における燃焼圧力制御装置について説明する。本実施の形態における燃焼圧力制御装置は、制御圧力を変更するための制御圧力変更装置を備える。本実施の形態における燃焼圧力制御装置は、ガス室に気体を供給する気体供給装置を備える。本実施の形態における気体供給装置は、制御圧力変更装置として機能する。
図13は、本実施の形態における第1の燃焼圧力制御装置の概略図である。第1の燃焼圧力制御装置の容積可変装置は、筒状部材51と、筒状部材51の内部に配置されている副室用ピストン55とを備える。筒状部材51の内部には、副室60およびガス室61が形成されている。本実施の形態における気体供給装置が、モータ71、圧縮機72、逆止弁81,82およびフィルタ73を備えることは、基礎技術における気体供給装置と同様である(図12参照)。気体供給装置が電子制御ユニット31により制御されていることも、基礎技術における燃焼圧力制御装置と同様である。
本実施の形態における気体供給装置は、ガス室61の圧力を変更する機能を有する。気体供給装置は、排気弁84を含む。排気弁84は、気体を排気することができるように配置されている。本実施の形態における排気弁84は、圧縮機72とガス室61とを接続する流路から分岐する流路に配置されている。気体供給装置は、圧力調整弁85を含む。圧力調整弁85は、圧縮機72とガス室61とを接続する流路に配置されている。圧力調整弁85は、開閉することによりガス室61の圧力を調整する。本実施の形態における排気弁84および圧力調整弁85は、電磁弁であり、電子制御ユニット31により制御されている。
また、本実施の形態における気体供給装置は、圧力センサ89を含む。圧力センサ89は、ガス室61の気圧を検出するように配置されている。本実施の形態における圧力センサ89は、圧縮機72とガス室61とを接続する流路に配置されている。圧力センサ89の出力値は、電子制御ユニット31に入力される。
本実施の形態における第1の燃焼圧力制御装置は、内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出装置を備える。検出した内燃機関の運転状態に基づいて制御圧力を変更する。任意の時刻における運転状態に基づいて、ガス室61の圧力を変更する。圧縮機72が駆動している状態で、圧力調整弁85を開くことにより、ガス室61の圧力を上昇させることができる。圧縮機72が停止している状態で、圧力調整弁85および排気弁84を開くことにより、ガス室61の圧力を低下させることができる。ガス室61の気圧を変更することにより制御圧力を変更することができる。たとえば、ガス室61の気圧を高くすることにより、制御圧力を高くすることができる。
次に、制御圧力を変更するための内燃機関の運転状態について、機関回転数を例に取り上げて説明する。運転状態検出装置は、機関回転数を検出するためのクランク角センサ42を含む。
図14に、比較例における内燃機関の回転数と、ノッキング余裕点火時期との関係を説明するグラフを示す。ノッキング余裕点火時期は、以下の式で表すことができる。
(ノッキング余裕点火時期)=(ノッキングが発生する点火時期)−(出力トルクが最大になる点火時期)
ノッキング余裕点火時期は、その値が小さいほど異常燃焼が発生し易くなる。それぞれの内燃機関の回転数により、ノッキングの発生しやすさが異なる。このため、第1の燃焼圧力制御装置においては、内燃機関の回転数に基づいて制御圧力を変更する。内燃機関は、概して、内燃機関の回転数が高くなると燃焼期間が短くなるために、異常燃焼が発生しにくくなる。
図15に、本実施の形態における第1の燃焼圧力制御装置の内燃機関の回転数に対する制御圧力のグラフを示す。内燃機関の回転数が高くなるほど制御圧力を高く設定している。図1を参照して、本実施の形態においては、内燃機関の回転数を関数にした制御圧力の値を、予め電子制御ユニット31のROM34に記憶させておく。電子制御ユニット31は、クランク角センサ42により内燃機関の回転数を検出し、回転数に応じた制御圧力を選定する。電子制御ユニット31は、ガス室61の気圧が選定された制御圧力になるように気体供給装置を制御する。
また、本実施の形態における第1の燃焼圧力制御装置は、燃料の性状を検出する燃料性状検出装置を備える。検出した燃料の性状に基づいて、制御圧力を変更する。内燃機関の燃料にアルコールが含まれる場合がある。本実施の形態においては、燃料の性状としてアルコール濃度を検出する内燃機関を例に取り上げて説明する。この内燃機関の運転時の特性は、アルコール濃度に依存する。
図16に、比較例の内燃機関における燃料に含まれるアルコール濃度と、遅角補正量との関係を説明するグラフを示す。比較例の内燃機関は、異常燃焼が生じる場合に点火時期を遅角させている。図16の横軸は、燃料に含まれるアルコール濃度を示し、縦軸は、異常燃焼が生じないように点火時期を遅角させるときの遅角補正量を示す。燃料に含まれるアルコール濃度が高くなるほど、遅角補正量が小さくなっている。このように、内燃機関は、アルコール濃度が高くなるほど異常燃焼が発生しにくくなる。このため、第1の燃焼圧力制御装置においては、燃料に含まれるアルコール濃度に基づいて制御圧力を変更する。
図17に、本実施の形態における第1の燃焼圧力制御装置のアルコール濃度に対する制御圧力のグラフを示す。アルコール濃度が高くなるほど、制御圧力を高く設定している。本実施の形態における燃料性状検出装置は、燃料に含まれるアルコール濃度を検出するアルコール濃度センサを含む。図1を参照して、本実施の形態における内燃機関は、燃料供給流路に燃料性状センサ77としてアルコール濃度センサが配置されている。アルコール濃度を関数にした制御圧力の値を、予め電子制御ユニット31のROM34に記憶させておく。電子制御ユニット31は、燃料に含まれるアルコール濃度を検出し、アルコール濃度に応じた制御圧力を選定する。電子制御ユニット31は、ガス室61の気圧が選定された制御圧力になるように気体供給装置を制御する。
内燃機関は、点火する時の混合気の温度が低いほど異常燃焼が生じにくい。内燃機関の運転状態としては、内燃機関の回転数の他に、吸気温度、内燃機関の冷却水温度、点火する直前における燃焼室の温度等を例示することができる。これらの温度が低いほど、制御圧力を高く設定することができる。更に、内燃機関の圧縮比が可変の場合には、圧縮比が低いほど点火する時の温度が低くなる。このため、圧縮比が低いほど、制御圧力を高くすることができる。
また、内燃機関は、新たに吸入する空気または再循環ガス等の作動ガスが燃料に対して多くなるほど、異常燃焼が生じにくい。このため、内燃機関の運転状態としては、吸気空気量、再循環ガス流量、燃焼時の空燃比を例示することができる。作動ガスが燃料に対して多くなるほど、制御圧力を高くすることができる。
燃料の性状としては、アルコール濃度の他に、ガソリンのオクタン価等の耐ノッキング性を示す指標を例示することができる。たとえば、オクタン価が高い燃料等の異常燃焼が生じにくい燃料が燃焼室に供給されたことを検出して、制御圧力を高くすることができる。
このように、内燃機関の運転状態や燃料の性状に応じて制御圧力を変更することにより、異常燃焼の発生を抑制しながら、燃焼室の最大圧力を大きくすることができる。運転状態や燃料の性状に応じて、異常燃焼の発生を抑制しながら、出力トルクを大きくしたり、燃料消費量を抑制したりすることができる。なお、燃焼圧力制御装置は、運転状態および燃料の性状を同時に検出して制御圧力を設定しても構わない。
制御圧力変更装置としては、上記の形態に限られず、制御圧力を変更できる任意の装置を採用することができる。たとえば、副室用ピストンに反力を与える付勢装置がコイルスプリングを含んでいる場合には、副室用ピストンが着底しているときに、軸方向にコイルスプリングを押圧して、コイルスプリングの長さを変更できるように形成されていても構わない。
図18に、本実施の形態における第2の燃焼圧力制御装置の概略図を示す。第2の燃焼圧力制御装置は気体供給装置を含む。第2の燃焼圧力制御装置の気体供給装置は、ガス室61の減圧速度を遅くする機能を有する。第2の燃焼圧力制御装置の気体供給装置は、副室用ピストンが戻るときに、移動速度を一時的に低くする機能を有する。
本実施の形態における第2の燃焼圧力制御装置の気体供給装置は、第1の燃焼圧力制御装置の気体供給装置の構成に加えて、絞り弁としてオリフィス87を有する。オリフィス87は、圧縮機72とガス室61とを接続する流路に配置されている。さらに、オリフィス87に並列して、逆止弁88が配置されている。逆止弁88は、圧縮機72からガス室61に向かって空気を流すように配置されている。また、圧縮機72とガス室61と接続する流路の途中には、水分を除去するための乾燥機86が配置されている。
第2の燃焼圧力制御装置は、ガス室61の圧力を上昇させる場合に、圧縮機72を駆動して、圧力調整弁85を開いた状態にする。矢印101に示すように、主に逆止弁88を通じて空気が流れる。このときに、オリフィス87を通じて空気が流れても構わない。また、ガス室61の圧力を降下させる場合には、圧力調整弁85および排気弁84を開いた状態にする。また、圧縮機72を停止させても構わない。このときに、空気は、矢印102に示すように、逆止弁88を通らずにオリフィス87を通る。排出される空気は、オリフィス87を通ることにより、流量が制限される。ガス室61を減圧するときに、短時間に大量の空気が排出され、ガス室61の圧力が大きく下降することを抑制できる。このように、第2の燃焼圧力制御装置は、ガス室61の減圧速度を遅くすることができる。
図19に、本実施の形態における第2の燃焼圧力制御装置の運転例のタイムチャートを示す。図19は、圧縮行程および膨張行程におけるグラフである。横軸はクランク角度を示している。図18および図19を参照して、クランク角度θ1までの期間においては、圧縮機72が駆動状態になっている。また、圧力調整弁85が開状態になっている。ガス室61に制御圧力のガスが充填される。クランク角度θ1において、ガス室61の圧力が制御圧力に達している。クランク角度θ1において、圧力調整弁85を閉じて圧縮機72を停止している。燃焼室5において混合気が点火されることにより、燃焼室5の圧力が上昇する。
クランク角度θ2において、燃焼室5の圧力が制御圧力に達している。クランク角度θ2において、燃焼室5の圧力がガス室61の圧力とほぼ同じになり、副室用ピストン55が移動を開始する。燃焼室5の圧力は、ほぼ一定に保たれる。
クランク角度θ3において、圧力調整弁85および排気弁84を一時的に開いた状態に制御する。圧力調整弁85および排気弁84が開くことにより、ガス室61の圧力が下降する。このときに空気がオリフィス87を通るために、所望の圧力までガス室61を減圧することができる。副室用ピストン55の変位が変化して、燃焼室5が制御圧力よりも低い圧力で維持される。クランク角度θ4において、副室用ピストン55の変位が零になる。クランク角度θ4以降においては、燃焼室5の圧力が減少する。
本実施の形態においては、ガス室61の内部を減圧する時期は、燃料が燃焼している燃焼期間のうち後半の時期に設定されている。燃焼期間を等分に分割したときに、後半の時期(後期)にガス室61を減圧している。燃焼室5の圧力が低下して副室用ピストン55が燃焼室5に向かって移動するときに、副室用ピストン55の移動速度を一時的に低下させている。この結果、副室用ピストン55が燃焼室5と反対側に向かって移動するときの時間よりも、燃焼室5に向かって移動するときの時間が長くなる。
本実施の形態における第2の燃焼圧力制御装置は、燃焼期間の後期の燃焼のばらつきを小さくすることができる。燃焼期間の後期においては、ピストンが速く移動する。または、ピストンの移動量が大きくなる。このため、燃焼室の圧力が1回の燃焼サイクル毎に変化すると、内燃機関の出力トルクが変動する。
第2の燃焼圧力制御装置は、燃焼期間の後期の燃焼室の圧力を高くすることができ、燃焼期間の後期における燃焼性を向上させることができる。たとえば、クランク角度θ4における燃焼室の圧力を、排気弁の開動作がない場合よりも高くすることができる。このため、1回の燃焼サイクルごとに生じる出力トルクのばらつきを低減することができる。この結果、内燃機関が発生する出力トルクの変動を低減することができる。ガス室の圧力を減圧する時期としては、燃焼期間のうち終わりの近傍の時期でも構わない。
第2の燃焼圧力制御装置は、内燃機関の出力トルクのばらつきが小さくなるために、点火時期を大幅に遅角させることができる。例えば、図1を参照して、本実施の形態における内燃機関は、機関排気通路に、三元触媒20が配置されている。三元触媒20は、排気浄化性能が所定の能力に達する活性化温度を有する。内燃機関の始動時などにおいては、三元触媒20は低温であり、活性化温度未満である。
三元触媒20を活性化温度以上にするために、排気ガスの温度を上昇させる場合がある。燃焼室5において、点火時期を遅角させることにより、排気ガスの温度を上昇させることができる。しかしながら、点火時期を遅角させると出力トルクのばらつきが大きくなる。第2の燃焼圧力制御装置を備える内燃機関は、出力トルクのばらつきを低減することができるために、点火時期を大幅に遅角することができる。このため、短時間に三元触媒等の排気浄化装置を昇温することができる。
また、内燃機関の出力トルクのばらつきが小さくなるために、燃焼時の空燃比をより大きくすることができる。すなわち、燃焼時の空燃比を、よりリーンにすることができる。燃焼時の空燃比を大きくすることにより、燃料消費率を向上させることができる。しかしながら、燃焼時の空燃比をリーンにすることにより出力トルクのばらつきが発生する。第2の燃焼圧力制御装置を備える内燃機関は、出力トルクのばらつきを抑制しながら燃焼時の空燃比を大きくすることができる。
また、内燃機関が排気ガス再循環(EGR)装置を備える場合には、再循環率を高くすることにより、ポンピングロスを小さくすることができる。しかしながら、排気ガスの再循環率を高くすることにより、燃焼期間が長くなって出力トルクのばらつきが大きくなる。第2の燃焼圧力制御装置を備える内燃機関は、出力トルクのばらつきを抑制しながら排気ガスの再循環率を高くすることができる。
このように、第2の燃焼圧力制御装置を備える内燃機関は、出力トルクのばらつきを抑制することにより、点火時期を大幅に遅角したり、燃焼時の空燃比を大きくしたり、排気ガスの再循環率を高くしたりすることができる。
本実施の形態における第2の燃焼圧力制御装置においては、逆止弁およびオリフィスを用いることにより、燃焼期間中にガス室から所定量の気体を抜くように形成されているが、この形態に限らず、燃焼期間中にガス室から所望の空気を排出できる任意の装置を採用することができる。または、副室用ピストンの移動速度を低下させる任意の装置を採用することができる。
その他の構成、作用および効果については、基礎技術と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
(実施の形態2)
図20から図28を参照して、実施の形態2における内燃機関の燃焼圧力制御装置について説明する。本実施の形態おける燃焼圧力制御装置は、容積可変装置の移動部材として副室用ピストンおよびガス室用ピストンを備える。本実施の形態の燃焼圧力制御装置は、ガス室に気体を供給する気体供給装置を備えるが、以下ではガス室が密閉されている容積可変装置を例に取り上げて説明する。
図20は、本実施の形態における第1の燃焼圧力制御装置の概略断面図である。本実施の形態における容積可変装置の移動部材は、副室用ピストン55とガス室用ピストン56とを含む。ガス室用ピストン56は、副室用ピストン55に接続棒58を介して固定されている。本実施の形態における移動部材は、副室用ピストン55とガス室用ピストン56との間に配置されている中間ピストン57を含む。これらの複数のピストンは、筒状部材51の内部に配置されている。
ガス室用ピストン56の外周面には、Oリング56aが配置されている。ガス室用ピストン56と筒状部材51との間の密閉が保たれている。本実施の形態における中間ピストン57は、接続棒58の軸方向に沿って、自由に移動できるように配置されている。中間ピストン57の内周面および外周面にはOリング57aが配置されている。中間ピストン57と接続棒58との間、および中間ピストン57と筒状部材51との間の密閉が保たれている。
本実施の形態においては、中間ピストン57と副室用ピストン55との間に、空気室63が形成されている。空気室63には、空気が充填されている。また、中間ピストン57とガス室用ピストン56との間には、オイル室62が形成されている。オイル室62には、オイルが充填されている。
本実施の形態における燃焼圧力制御装置の付勢装置は、ガス室61を含み、ガス室61の気圧により移動部材を燃焼室5の側に向かって付勢する。本実施の形態においては、副室用ピストン55、ガス室用ピストン56および中間ピストン57が、矢印100に示すように、筒状部材51の軸方向に一体的に移動する。また、中間ピストン57は、ガス室用ピストン56に追従して移動する。このように、オイル室62および空気室63は、複数のピストンと同時に移動する。
本実施の形態における容積可変装置は、副室用ピストン55とガス室用ピストン56とが一体的に移動することにより、オイル室62のオイルが、筒状部材51の内面に塗布される。このために、副室用ピストン55の外周面に配置されているピストンリング55a、ガス室用ピストン56の外周面に配置されているOリング56aの密閉性を向上することができる。ガス室61から気体が漏れたり、副室60から気体が漏れたりすることを抑制できる。また、オイルが筒状部材51の内面に塗布されることにより、移動部材の動きが滑らかになる。このため、移動部材が移動する時に生じる燃焼室5の圧力の脈動(図7参照)を抑制することができる。
また、本実施の形態における移動部材の中間ピストン57は、筒状部材51の軸方向に自由に移動可能に配置されている。中間ピストン57は、接続棒58に固定することができる。しかしながら、外気の温度や副室60に流入する燃焼室5からの高温の気体により、オイル室62に充填されているオイルの温度が変化して、膨張したり収縮したりする場合がある。中間ピストン57を、接続棒58に固定せずに移動可能に配置することにより、オイル室62の容積が変化して、オイルの膨張や収縮に適合することができる。
本実施の形態における容積可変装置は、筒状部としての筒状部材51が、連通管50を介して燃焼室5に接続されている。連通管50は、副室60の径よりも小さい径を有する。筒状部材51が、連通管50を介して燃焼室5に接続されていることにより、副室60と燃焼室5との距離を空けることができ、燃焼室5の熱が副室60に伝達されることを抑制できる。たとえば、燃焼室5の熱がシリンダヘッド4の内部を伝わって、副室60に到達することを抑制できる。または、高温の燃焼ガスが連通管50を通るときに、燃焼ガスを冷却することができる。
また、本実施の形態においては、ガス室61と副室60との間に空気室63が介在している。すなわち、ガス室61と副室60との間に気体の空間が配置されている。この構成により、副室60に流入する燃焼ガスの熱がガス室61に伝達されることを抑制できる。ガス室61の気体の温度が変化して、ガス室61の圧力、即ち制御圧力が変化することを抑制できる。
本実施の形態においては、ガス室と副室との間に空気室を介在させているが、この形態に限られず、任意の気体を封入した部屋を介在させることができる。封入される気体としては、熱伝導率が小さな気体が用いられることが好ましい。または、空気室は、熱伝導を低下させるために減圧されていても構わない。更には、空気室の代わりに断熱性の物質を含む部屋が配置されていても構わない。
本実施の形態における第1の燃焼圧力制御装置は、副室60の径とガス室61の径とが、ほぼ同じになっているが、この形態に限られず、副室60の径とガス室61の径とが互いに異なっていても構わない。
図21に、本実施の形態おける第2の燃焼圧力制御装置の概略断面図を示す。第2の燃焼圧力制御装置は、副室60の径とガス室61の径とが互いに異なるように形成されている。筒状部材51の軸方向に垂直な方向に切断したときに、副室用ピストン55の断面積よりも、ガス室用ピストン56の断面積が大きくなるように形成されている。この構成を採用することにより、ガス室61に充填する気体の圧力を低くすることができる。また、燃焼圧力制御装置がガス室61に気体を供給する気体供給装置を備える場合には、供給する気体の圧力を低くすることができるために、気体供給装置の構成を簡易にすることができる。
図22に、本実施の形態における第3の燃焼圧力制御装置の概略断面図を示す。図22には、副室用ピストンの変位が零の場合および副室用ピストンの変位が最大の場合の概略断面図を示している。副室用ピストン55の外周面に配置されているピストンリング55aは、第1封止部材として機能する。中間ピストン57の内周面と外周面に配置されているOリング57aは、第2封止部材として機能する。ガス室用ピストン56の外周面に配置されているOリング56aは、第3封止部材として機能する。Oリング56a,57aは、たとえば、ゴムにより形成されている。
本実施の形態における第3の燃焼圧力制御装置の容積可変装置は、ピストンリング55aの移動範囲と、Oリング57aの移動範囲とが互いに重ならないように形成されている。すなわち、中間ピストン57に配置されているOリング57aの移動範囲は、ピストンリング55aの移動範囲の外側になる様に形成されている。例えば、接続棒58が十分に長く形成され、中間ピストン57と副室用ピストン55との距離が大きくなるように形成されている。
筒状部材51の内面のピストンリング55aが移動する領域には、潤滑剤を溜めるための溝が形成されていることが好ましい。これに対して、筒状部材51の内面のOリング57aが移動する領域は、密閉性を確保するために滑らかであることが好ましい。本実施の形態のように、ピストンリング55aが移動する領域と、Oリング57aが移動する領域とを分離することにより、それぞれの封止部材に対して密閉性が向上するように、筒状部材51の内面を形成することができる。
本実施の形態においては、ピストンリング55aが移動する領域に、潤滑剤を溜めるためのクロスハッチと言われる細かい溝が形成されている。また、Oリング57aが移動する領域およびOリング56aが移動する領域は、溝等が形成されておらず、滑らかに形成されている。すなわち、筒状部材51の内面の表面粗さが小さくなるように形成されている。この構成により、オイル室62からオイルが漏れたり、ガス室61から気体が漏れたりすることを抑制できる。また、クロスハッチを形成することにより、ピストンリング55aの潤滑性を向上することができる。
図23に、本実施の形態における第4の燃焼圧力制御装置の概略断面図を示す。図23は、副室用ピストン55の変位が零のときの概略断面図である。本実施の形態における第4の燃焼圧力制御装置は、中間ピストン57と、ガス室用ピストン56との間に配置されている隔壁部59を含む。隔壁部59は、一つのオイル室を分割するように配置されている。オイル室62aおよびオイル室62bが形成されている。隔壁部59は、筒状部材51に固定されている。
隔壁部59には、2つのオイル室62a,62bを互いに流通させるように、オリフィス49が形成されている。オリフィス49は、隔壁部59を貫通している。オリフィス49は、オイル室62aとオイル室62bとの間を流れるオイルの流量を制限するように形成されている。
図24に、本実施の形態における第4の燃焼圧力制御装置の他の概略断面図を示す。図24は、副室用ピストン55の変位が最大になったときの概略断面図である。副室用ピストン55の変位が大きくなるときには、オイルはオイル室62bからオイル室62aに流れる。また、副室用ピストン55の変位が小さくなるときには、オイルはオイル室62aからオイル室62bに流れる。
オイルは、オイル室62aとオイル室62bとの間を流れるときにオリフィス49を通るために、副室用ピストン55の移動を低速にすることができる。このため、副室用ピストン55が移動する時の騒音や振動を抑制することができる。また、副室用ピストン55は、筒状部材51の底部に着底したときに跳ね返る場合がある。副室用ピストン55が跳ね返ることにより、副室60の容積が瞬間的に変化し、燃焼室5の圧力に悪影響を与える場合がある。オイル室にオリフィス49を有する隔壁部59を配置することにより、このような副室用ピストン55の跳ね返りを抑制することができる。副室用ピストン55の跳ね返りのときに生じる騒音や振動を低減することができる。燃焼室5の圧力に悪影響を与えることを抑制できる。
図25に、本実施の形態における第5の燃焼圧力制御装置の概略断面図を示す。第5の燃焼圧力制御装置は、筒状部材51に固定されている隔壁部59を含む。隔壁部59は、オイル室の内部に配置されている。隔壁部59には、第1逆止弁としての逆止弁48aおよび第2逆止弁としての逆止弁48bが配置されている。
図26に、第5の燃焼圧力制御装置の隔壁部の部分の拡大概略断面図を示す。逆止弁48aは、オイル室62bの圧力がオイル室62aの圧力よりも高くなった場合に、オイルが流れるように形成されている。逆止弁48bは、オイル室62aの圧力がオイル室62bの圧力よりも高くなった場合に、オイルが流れるように形成されている。
本実施の形態においては、オイル室62aとオイル室62bとの差圧の絶対値が互いに等しいときに、逆止弁48bを流れる流量は、逆止弁48aを流れる流量よりも小さくなるように形成されている。逆止弁48a,48bは、逆止弁48bの最大流量が、逆止弁48aの最大流量よりも小さくなるように形成されている。
図27に、本実施の形態における第5の燃焼圧力制御装置の他の概略断面図を示す。図27は、副室用ピストン55の変位が最大になったときの概略断面図である。副室用ピストン55の変位が大きくなる時、即ち副室の容積が大きくなる時には、オイル室62bのオイルが逆止弁48aを通ってオイル室62aに流入する。一方で、副室用ピストン55の変位が小さくなる時、即ち副室の容積が小さくなる時には、オイル室62aのオイルが逆止弁48bを通ってオイル室62bに流入する。図26および図27を参照して、矢印103に示す向きに副室用ピストン55が移動する場合には、大きな移動速度で移動する。矢印104に示す向きに副室用ピストン55が移動する場合には、小さな移動速度で移動する。
図28に、本実施の形態における第5の燃焼圧力制御装置の圧縮行程および膨張行程のタイムチャートを示す。横軸には、クランク角度を示している。実線にて第5の燃焼圧力制御装置を示し、破線にて隔壁部を有しない燃焼圧力制御装置を示している。
燃焼室において燃焼が開始して、燃焼室の圧力が急激に上昇する。クランク角度θ1において、燃焼室の圧力が制御圧力に到達する。副室用ピストン55が移動を開始する。クランク角度θ2になるまで逆止弁48aが開いて、オイル室62bからオイル室62aにオイルが流れる。クランク角度θ1からクランク角度θ2まで、副室用ピストンは、矢印103に示す向きに大きな速度で上昇する。
副室用ピストン55の変位が小さくなる場合には、オイル室62aに貯留されているオイルが、逆止弁48bを通ってオイル室62bに流入する。クランク角度θ2からクランク角度θ3までは、逆止弁48bが開くことによりオイルが流れている。このときに、逆止弁48bにおいてオイルの流量が制限される。副室用ピストン55の変位が零に戻る速度が遅くなる。クランク角度θ3において、副室用ピストン55の変位が零に戻っている。
副室用ピストン55は、遅い速度で変位が零に向かって減少するため、クランク角度θ2の直後における燃焼室5の圧力は、隔壁部を有しない場合よりも低くなる。しかし、燃焼期間のうち後期において燃焼室の圧力が高くなる。たとえば、クランク角度θ3の近傍においては、燃焼室の圧力が隔壁部のない場合よりも高くなる。燃焼期間の後期の燃焼性が向上し、内燃機関の出力トルクのばらつきを低減することができる。このため、実施の形態1の第2の燃焼圧力制御装置(図18および図19参照)と同様に、出力トルクのばらつきを抑制しながら、点火時期を大幅に遅角させたり、排気ガスの空燃比を大きくしたり、または、排気ガスの再循環率を高くしたりすることができる。
このように、副室の容積が小さくなる速度を、副室の容積が大きくなる速度よりも遅くすることにより、燃焼期間のうち後期の燃焼性を向上させることができる。さらに、副室用ピストンの変位が零に戻るときの速度を遅くすることができるために、移動部材の振動や騒音を低減することができる。たとえば、副室用ピストンが筒状部材の底部に着底する時の振動や騒音を低減することができる。
その他の構成、作用および効果については、基礎技術または実施の形態1と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
(実施の形態3)
図29から図31を参照して、実施の形態3における燃焼圧力制御装置について説明する。本実施の形態の燃焼圧力制御装置は、ガス室に気体を供給する気体供給装置を備えるが、以下ではガス室が密閉されている容積可変装置を例に取り上げて説明する。
図29に、本実施の形態における第1の燃焼圧力制御装置の概略図を示す。第1の燃焼圧力制御装置を備える内燃機関は、複数の燃焼室を有する。図29に示す例においては、4気筒の内燃機関を示している。この内燃機関は、第1気筒、第2気筒、第3気筒および第4気筒を備える。また、本実施の形態においては、第1気筒、第3気筒、第4気筒および第2気筒が、この順に点火が行なわれる。すなわち、気筒毎に点火時期が異なっている。
第1の燃焼圧力制御装置は、それぞれの燃焼室5ごとに容積可変装置が配置されている。それぞれの容積可変装置には、筒状部材51の内部に副室用ピストン55が配置されている。筒状部材51の内部には、副室60およびガス室61が形成されている。複数のガス室61は、接続管68で互いに接続されている。
副室60に流入する燃焼ガスの熱によりガス室61の温度が上昇する場合がある。複数のガス室61を互いに接続することにより、ガス室61の温度変化に伴う圧力の変化を緩和することができる。また、本実施の形態における内燃機関は、それぞれの気筒の点火時期が互いに異なり、更に、複数のガス室61が互いに接続管68で接続されている。このため、後述する補助タンクを備える場合と同様に、副室用ピストン55が移動するときに、実質的にガス室61の容積が大きくなっている。このため、副室用ピストン55の移動に伴うガス室61の圧力上昇を抑制することができる。
図30に、本実施の形態における第2の燃焼圧力制御装置の概略図を示す。第2の燃焼圧力制御装置は、補助タンク70を含む。補助タンク70は、接続管69を介してガス室61に接続されている。補助タンク70をガス室61に接続することは、実質的にガス室61の容積が大きくなったことに相当する。
図31に、副室用ピストンの変位と副室の圧力との関係を説明するグラフを示す。図31には、副室用ピストンを付勢する付勢装置がコイルスプリングを含む場合およびガス室を含む場合(ガスバネの場合)を示している。付勢装置がコイルスプリングを含む場合には、副室用ピストンの変位が大きくなるほど副室の圧力が大きくなる。
ガス室を含む付勢装置においては、ガス室の容積が大きくなるほど、ガス室の圧力上昇を小さくすることができる。このため、副室用ピストンの変位が大きくなっても、副室の圧力上昇を小さくすることができる。ガス室に補助タンクを接続することにより、副室の圧力上昇を抑制することができる。
特に、副室用ピストンの変位が大きくなった場合においても、副室の圧力をほぼ一定に保つことができる。この結果、図7に示したように、副室用ピストンが移動した場合に、燃焼室の圧力が上昇する(燃焼室の圧力のグラフが上側に凸になる)ことを抑制できる。燃焼室の圧力上昇を小さくすることができ、副室用ピストンが移動している期間において燃焼室の圧力をほぼ一定に保つことができる。
その他の構成、作用および効果については、基礎技術および実施の形態1または2と同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
(実施の形態4)
図32から図40を参照して、実施の形態4における内燃機関の燃焼圧力制御装置について説明する。本実施の形態の燃焼圧力制御装置は、ガス室に気体を供給する気体供給装置を備えるが、以下ではガス室が密閉されている容積可変装置を例に取り上げて説明する。
図32は、本実施の形態における第1の燃焼圧力制御装置の概略断面図である。本実施の形態における第1の燃焼圧力制御装置は、副室60が燃焼室5から離れて配置されている。第1の燃焼圧力制御装置は、燃焼室5と副室60とを接続する連通管50を備える。
図33は、第1の燃焼圧力制御装置の燃焼室における配置を説明する概略平面図である。本実施の形態における内燃機関は、2つの吸気弁6および2つの排気弁8を備える。図32および図33を参照して、連通管50は、途中で分岐して、複数の箇所にて燃焼室5に接続されている。枝分かれした連通管50は、燃焼室5のうち点火プラグ10の近傍に接続されている。連通管50は、点火プラグ10を取り囲むように配置されている。本実施の形態における連通管50は、吸気弁6の平面形状の円の中心6aを通るように、燃焼室5の外形に沿って円90を画定したときに、この円90の内側において燃焼室5に接続されている。更には、排気弁8の平面形状の円の中心を通るように、燃焼室5の外形に沿って他の円を画定したときに、他の円の内側において燃焼室5に接続されていることが好ましい。
点火プラグ10の近傍では点火の直後に燃料が燃焼する。点火プラグ10の近傍では燃焼室5の圧力が制御圧力に到達する前に燃料が燃焼する。すなわち、連通管50に気体が流入する前に燃料が燃焼する。点火プラグ10の近傍に連通管50が接続されることにより、未燃燃料が連通管50および副室60に侵入することを抑制できる。
連通管50および副室60に未燃燃料が侵入した場合には、副室60の気体が燃焼室5に戻るときに、未燃燃料が燃焼室5に流入する。このため、燃焼室5における燃焼特性が変化する場合がある。点火プラグ10の近傍に連通管50を接続することにより、このような燃焼特性の変化を回避することができる。
また、未燃燃料が連通管50および副室60に侵入することを抑制することにより、一部の燃料が燃焼せずに機関排気通路に排出されることを抑制できる。このため、燃料消費量が増加することを抑制できる。または、大気中に放出される未燃燃料の量が増加することを抑制できる。または、排気浄化装置に未燃燃料が流入して、排気浄化装置の温度が過温になることを抑制できる。
連通管50は、火炎が入り込んで副室60に流入しないように内径が小さく形成されることが好ましい。たとえば、連通管50は、副室60の径よりも小さい径を有することが好ましい。または、副室60に火炎が流入しないように連通管50を長く形成することが好ましい。また、複数箇所で連通管50を燃焼室5に接続することにより、連通管50の圧力損失を小さくすることができる。特に、燃焼室5に接続する部分の径を小さくした場合における連通管の圧力損失を小さくすることができる。
図34に、本実施の形態おける第2の燃焼圧力制御装置の概略断面図を示す。本実施の形態における第2の燃焼圧力制御装置は、連通管50が途中で分岐して複数の流路が形成されている。複数の流路のそれぞれには、第1逆止弁としての逆止弁47aおよび第2逆止弁としての逆止弁47bが配置されている。
逆止弁47aは、燃焼室5の圧力が副室60の圧力よりも大きいときに気体が流れる向きに配置されている。逆止弁47aが開く圧力(クラッキング圧力)は、副室用ピストン55が移動し始める圧力、すなわち制御圧力に設定されている。逆止弁47aは、燃焼室5の圧力が制御圧力以上になった場合に、気体が流れるように形成されている。逆止弁47bは、副室60の圧力が燃焼室5の圧力よりも大きいときに気体が流れる向きに配置されている。逆止弁47bは、微小の圧力差で気体が流れるように形成されている。
図35に、本実施の形態における第2の燃焼圧力制御装置の動作を説明するタイムチャートを示す。図35は、圧縮行程および膨張行程におけるタイムチャートである。燃焼室5において点火することにより、燃焼室5の圧力が急激に上昇する。クランク角度θ1において、燃焼室5の圧力が制御圧力に到達している。燃焼室5の圧力が制御圧力に到達したときに、逆止弁47aが開いて気体が副室60に流入する。
クランク角度θ1からクランク角度θ2までは、逆止弁47aを通して、気体が燃焼室5から副室60に流入する。クランク角度θ2において、副室用ピストン55の変位が最大になっている。クランク角度θ2からクランク角度θ3までは、逆止弁47bを通して、気体が副室60から燃焼室5に流入する。クランク角度θ3において、副室用ピストン55の変位が零に戻る。
第2の燃焼圧力制御装置では、燃焼室5の圧力が制御圧力未満では、副室60が燃焼室5に対して遮断される。このため、連通管50に未燃燃料が流入することを抑制できる。また、燃焼室5の圧力が制御圧力に到達したときには、燃料の燃焼が開始されている。クランク角度θ1では、燃料の燃焼が進んでいるために燃焼室に残存する未燃燃料が点火時期における未燃燃料と比べて少なくなっている。このために、未燃燃料が連通管50および副室60に侵入することを抑制できる。
図36に、本実施の形態における第3の燃焼圧力制御装置の概略図を示す。第3の燃焼圧力制御装置は、連通管50に配置されている開閉弁46を含む。本実施の形態における開閉弁46は、電磁弁である。開閉弁46は、電子制御ユニット31により制御されている。
第3の燃焼圧力制御装置は、燃焼室5において燃焼期間を検出するための燃焼期間検出装置を備える。本実施の形態における燃焼期間検出装置は、イオン電流検出装置45を含む。燃焼室5に燃料が燃焼しているときにはイオンが生成される。イオン電流検出装置は、電極間に電圧を印加して流れるイオン電流を検出することにより、燃料の燃焼状態を検出することができる。
本実施の形態におけるイオン電流検出装置は、点火プラグ10に接続されている。点火プラグ10により混合気を点火した後に、イオン電流検出装置45は、点火プラグの電極間に電圧を印加する。イオン電流検出装置45は、イオン電流を検出することにより、燃焼室5において燃料が燃焼しているか否かを判別する。たとえば、検出されたイオン電流が所定の判定値よりも大きい場合には、燃料が燃焼していると判別することができる。
燃焼期間検出装置は、イオン電流検出装置に限られず、燃焼期間を検出できる任意の装置を採用することができる。たとえば、燃焼期間検出装置として、燃焼室内の温度を検出する温度センサ、または燃焼室内の圧力を検出する圧力センサが配置されていても構わない。
図37に、本実施の形態における第3の燃焼圧力制御装置の運転例を説明するタイムチャートを示す。図37には、燃焼室の圧力が制御圧力に到達している期間中に、燃料の燃焼が終了する場合を示している。
図36および図37を参照して、燃焼サイクルは、圧縮行程、膨張行程、排気行程および吸気行程を有する。混合気が点火されることにより燃料の燃焼が開始する。開閉弁46は、燃焼期間中に開いた状態が維持される。イオン電流検出装置45は、たとえばイオン電流が判定値よりも小さくなったことを検出して、燃焼期間が終了したことを判別する。電子制御ユニット31は、燃焼期間が終了したことを検出し、開閉弁46を閉じる。副室用ピストン55は、変位が零に戻らずに途中で停止する。
開閉弁46は、閉止した後の膨張行程および排気行程において、閉止状態が維持される。開閉弁46は、排気弁8が開いている期間が終了した後に開くように制御される。または、開閉弁46は、吸気行程の期間中に開くように制御される。開閉弁46が開くことにより、副室用ピストン55の変位が零に戻る。
燃料が燃焼して副室用ピストン55が移動し、副室60が大きくなることにより、燃焼室5の気体が副室60に流入する。このときに、未燃燃料が副室60に流入する場合がある。第3の燃焼圧力制御装置においては、燃料の燃焼期間には開閉弁46が開いている。このため、副室60から燃焼室5に流入する気体に未燃燃料が含まれる場合においても、未燃燃料を燃焼室5にて燃焼させることができる。
また、燃料の燃焼期間の後には開閉弁46が閉じる。開閉弁46は、排気弁8が閉じるまで閉止した状態が維持される。このため、未燃燃料を含む副室60の気体が、燃焼室5に流入し、燃焼せずに燃焼室5に残存することを抑制できる。この後の排気行程において、未燃燃料が機関排気通路に流出することを抑制できる。または、燃料消費量が多くなることを抑制できる。
本実施の形態においては、排気弁8が閉じた後に開閉弁46が開くように制御される。開閉弁46は、吸気行程において開状態になる。副室60に残存していた気体が燃焼室5に流入する。副室60に残存していた気体に含まれる未燃燃料を、次の燃焼期間において燃焼させることができる。
図38に、本実施の形態における第3の燃焼圧力制御装置の他の運転例を説明するタイムチャートを示す。図38には、燃焼室の圧力が制御圧力に到達している期間の後に、燃料の燃焼が終了する場合を示している。他の運転例においては、燃焼期間の間、開閉弁46の開いた状態が維持される。副室60に流入する気体に未燃燃料が含まれる場合においても、未燃燃料を燃焼室5において燃焼させることができる。開閉弁46は、燃焼期間が終了したことを検出して閉じられる。
第3の燃焼圧力制御装置の他の運転例において、開閉弁46は、排気弁8が開いている期間が終了するまで閉止状態が維持されている。このため、連通管50に未燃燃料が残存する場合においても、排気行程において未燃燃料が機関排気通路に流出することを抑制できる。
このように、連通管に開閉弁を配置して、燃焼期間の終了時から排気弁が開いている期間の終了時まで、開閉弁を閉状態で維持することにより、未燃燃料が燃焼室から機関排気通路に排出されることを抑制できる。
図39は、本実施の形態における第4の燃焼圧力制御装置を備える内燃機関の概略平面図である。図39は、燃焼室における連通管の接続位置を説明する概略図である。第4の燃焼圧力制御装置は、燃焼室と副室とを接続する連通管50を備える。連通管50は、吸気弁6の近傍に配置されている。燃焼室を平面視して吸気弁側の領域と排気弁側の領域とに分割したときに、副室に通じる連通管50は、吸気弁側の領域において燃焼室5に接続されている。さらに、連通管50は、燃焼室5の壁面の近傍に配置されている。
燃焼サイクルの排気行程においては、燃焼室5内においてピストン3が上昇する。ピストン3が上昇するときに、ピストン3の外周面に配置されているピストンリングにより燃焼室5の内面に付着した未燃燃料がかき上げられる。かき上げられた未燃燃料は、排気ガスの流れに沿って排気弁8の近傍に集まる。
吸気弁側の領域において連通管50を燃焼室5に接続することにより、排気行程において未燃燃料が連通管50の内部に流入することを抑制できる。又は、連通管50を吸気弁6の近傍に配置することにより、未燃燃料が連通管50の内部に侵入することを抑制できる。
図40は、本実施の形態における第5の燃焼圧力制御装置の概略断面図である。第5の燃焼圧力制御装置は、基体91と筒状部を構成する筒状部材66とを備える。本実施の形態における筒状部材66は、断熱性を有する材質で形成されている。基体91は連通管50を含む。基体91は、凸部91aを含む。筒状部材66は、凸部91aに嵌合している。第5の燃焼圧力制御装置の付勢装置は、気圧により副室用ピストン55を燃焼室の側に向かって付勢するように形成されているガス室61を含む。
ガス室61は、筒状部材66の内部に形成されている。本実施の形態における筒状部材66は、ガス室61の容積が変化するように移動可能に形成されている。筒状部材66は、矢印103に示すように、筒状部材66の軸方向に移動可能に形成されている。また、本実施の形態においては、筒状部材66を任意の位置で固定するための図示しない固定装置が配置されている。固定装置は、副室用ピストン55が移動している期間には、筒状部材66を基体91に固定する一方で、副室用ピストン55が着底しているときには、筒状部材66の固定を解除するように形成されている。
本実施の形態における第5の燃焼圧力制御装置は、副室60に近接して配置されている補助シリンダを含む。本実施の形態における補助シリンダは、筒状部材66の鍔部66aおよび基体91の凹部91bを含む。鍔部66aは、補助ピストンとして機能する。補助シリンダは、鍔部66aと凹部91bとにより形成されている補助室64を含む。補助室64の軸方向に垂直な方向で切断したときの断面積は、ガス室61の軸方向に垂直な方向で切断したときの断面積と等しくなるように形成されている。本実施の形態における補助室64は、ガス室61と同じ容積になるように形成されている。補助室64には、ガス室61と同じ気体が封入されている。副室用ピストン55が着底しているときのガス室61の気圧が、補助室64の気圧と同じになるように補助室64に気体が封入されている。
本実施の形態における第5の燃焼圧力制御装置は、筒状部材66を覆うように配置されている覆い部材92を含む。覆い部材92は、基体91に固定されている。覆い部材92と筒状部材66とにより囲まれる加圧室65が形成されている。加圧室65には、所定の圧力の気体が充填されている。加圧室65の気圧により、固定装置により筒状部材66が基体91に固定されていないときに、筒状部材66が凸部91aから抜けることを防止する。
副室60に燃焼したガスが流入することにより、副室60の内部の温度が高くなる。副室60の熱が伝達されて、ガス室61の内部の温度が上昇する場合がある。ガス室61の容積が不変である場合、または空気供給装置が接続されていない場合には、ガス室61の圧力が上昇し、制御圧力が変わってしまう場合がある。このように、ガス室61の温度変化により、制御圧力が変化してしまう場合がある。
第5の燃焼圧力制御装置は、副室60に流入する燃焼ガスが連通管50を通る。連通管50の熱は、凸部91aを介して補助室64に伝達される。また、副室60の熱は、凸部91aを介して補助室64に伝達される。このため、ガス室61の温度変化に追従して、補助室64の温度が変化する。たとえば、副室60の内部の温度が上昇した場合には、ガス室61および補助室64の温度が上昇する。筒状部材66が断熱性を有する材質で形成されているために、加圧室65の温度上昇は抑制される。補助室64の温度が上昇した場合には、補助室64の容積が大きくなる。補助ピストンとしての鍔部66aが移動する。筒状部材66が移動して、ガス室61の容積が大きくなる。ガス室61の内部の圧力が上昇することが抑制される。
このように、第5の燃焼圧力制御装置は、補助シリンダの補助室64の温度変化により補助ピストンが移動し、補助ピストンの移動を駆動源として筒状部材66が移動して、ガス室61の容積が変化する。この構成により、ガス室61の内部の温度が変化してもガス室61の内部の圧力を略一定に保つことができる。すなわち制御圧力を略一定に保つことができる。
第5の燃焼圧力制御装置では、筒状部材の一部が補助シリンダの補助ピストンになるように形成されているが、この形態に限られず、補助シリンダは筒状部材から分離されて形成されていても構わない。
その他の構成、作用および効果については、基礎技術または実施の形態1から3のいずれかと同様であるので、ここでは説明を繰り返さない。
上記の実施の形態は、適宜組み合わせることができる。上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては特許請求の範囲に含まれる変更が意図されている。