近年、モバイル機器は高性能化および多機能化されてきており、これらに伴い、モバイル機器に電源として用いられる二次電池にも、小型化、軽量化および薄型化が要求され、高容量化が求められている。
この要求に応え得る二次電池としてリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池の電池特性は、用いられる電極活物質などによって大きく変化する。現在実用化されている代表的なリチウムイオン二次電池では、正極活物質としてコバルト酸リチウムが用いられ、負極活物質として黒鉛が用いられているが、このように構成されたリチウムイオン二次電池の電池容量は理論容量に近づいており、今後の改良で大幅に高容量化することは難しい。
そこで、充電の際にリチウムと合金化するケイ素やスズなどを負極活物質として用いて、リチウムイオン二次電池の大幅な高容量化を実現することが検討されている。ただし、ケイ素やスズなどを負極活物質として用いた場合、充電および放電に伴う膨張および収縮の度合いが大きいため、充放電に伴う膨張収縮によって活物質が微粉化したり、負極集電体から脱落したりして、サイクル特性が低下するという問題がある。
これに対し、近年、ケイ素などの負極活物質層を負極集電体に積層して形成した負極が提案されている(例えば、特開平8−50922号公報、特許第2948205号公報、および特開平11−135115号公報)。このようにすれば、負極活物質層と負極集電体とが一体化され、充放電に伴う膨張収縮によって活物質が細分化されることを抑制できるとされている。また、負極における電子伝導性が向上する効果も得られる。
そこで、気相成膜技術を用いて、高容量化が可能なケイ素などの活物質層を銅箔などの集電体上に形成し、二次電池用電極を作製する種々の方法が提案されている。この場合、生産性よく電極を製造するには、帯状などの長尺形状を有する集電体を連続的または断続的に供給し、連続的または断続的に活物質層を成膜することが望ましい。
図6(a)は、後述の特許文献1で提案されているリチウム二次電池用電極の製造方法に、好適に用いられる電極形成装置101の構成を示す概略図である。この電極形成装置101は真空蒸着装置であり、真空チャンバー102、蒸着源103、回転ドラム104、輻射熱遮蔽板105、シャッタ106、および真空排気装置107を備えている。
真空チャンバー102は、輻射熱遮蔽板105によって回転ドラム設置室102aと蒸着源設置室102bとに仕切られている。蒸着源設置室102bには、蒸着源103が設置され、回転ドラム設置室102aには、蒸着源103の上方に回転ドラム104が設置されている。輻射熱遮蔽板105は、蒸着源103から発生する輻射熱が、回転ドラム104に固定された負極集電体112に伝わるのを抑制するためのものである。輻射熱遮蔽板105の中央部には、蒸着のための開口部105aが設けられ、開口部105aにおける蒸着材料の流れはシャッタ106によって制御される。真空排気装置107は、チャンバー102内の圧力を所定の圧力以下に排気できるように構成されている。
蒸着源103は、電子銃108、るつぼ109、ハースライナ110、および蒸着材料111によって構成され、電子銃108は、電子ビームを照射して加熱することにより蒸着材料111を蒸発させる機能を有する。また、るつぼ109内には、カーボンを母材とするハースライナ110を介して蒸着材料111が設置されている。
回転ドラム104は、所定の方向に回転できるように構成され、回転ドラム104の外周面を覆うように負極集電体112が設置されている。回転ドラム104は、内部に冷却水を通じることによって、集電体112を水冷できるように構成されている。
電極形成装置101を用いて、負極を作製するには、まず、負極集電体112を回転ドラム104の外周面に固定する。次に、チャンバー102内を真空排気装置107によって排気しながら、シャッタ106を閉じた状態で、電子銃108から蒸着材料111に電子ビームを照射し、蒸着材料111を加熱する。これにより、蒸着材料111を溶融させるとともに、酸素や水分などの不純物となるガスを放出させる。
次に、電子ビームの照射をいったん停止し、真空排気を続けながら、蒸着材料111を放冷させ、所定の圧力になるまで排気を続ける。
所定の圧力になったら、再び電子ビームを照射し、蒸着材料111が完全に溶融した後、シャッタ106を開き、負極集電体112の上に活物質層を堆積させる。この際、回転ドラム104を1分間に10回転の速度で回転させるとともに、シャッタ106の開閉を調節して、蒸着が断続的に行われるようにする。
図6(b)は、特許文献1に変形例として示されている電極形成装置121の一部を示す概略図である。この電極形成装置121は、一部は図示省略したが電極形成装置101と同様、真空チャンバー102、蒸着源103、輻射熱遮蔽板125、シャッタ106、および真空排気装置107を備えている。この電極形成装置121が電極形成装置101と大きく異なる点は、回転ドラム104の代わりに、図6(b)に示した、回転ドラム122、2つのガイドローラ123aと123b、および2つのローラ124aと124bが、回転ドラム設置室102bに設けられ、帯状の集電体の加工ができるように構成されていることである。
装置121では、帯状の負極集電体126が、回転ドラム122、2つのガイドローラ123aと123b、および2つのローラ124aと124bの各々の外周面に渡して設置され、負極集電体126の両側は2つのローラ124aと124bに巻き取られている。また、回転ドラム122および2つのガイドローラ123aと123bは、内部に冷却水を通すことにより、集電体126を水冷できるように構成されている。輻射熱遮蔽板125の中央部には開口部が設けられ、これと折り返し部125aによって蒸着領域Aが設定されており、蒸着領域Aにおける蒸着材料の流れはシャッタ106によって制御される。
この電極形成装置121を用いて、負極を作製するには、まず、負極集電体126を回転ドラム122、2つのガイドローラ123aと123b、および2つのローラ124aと124bの各々の外周面に渡して設置し、大部分を、例えばローラ124bに巻き取っておく。次に、前述したのと同様に、チャンバー102内を真空排気装置107によって排気しながら、シャッタ106を閉じた状態で電子銃108から蒸着材料111に電子ビームを照射し、蒸着材料111を溶融させるとともに、酸素や水分などの不純物となるガスを放出させる。
次に、電子ビームの照射をいったん停止し、真空排気を続けながら、蒸着材料111を放冷させ、所定の圧力になるまで排気を続ける。
所定の圧力になったら、再び電子ビームを照射し、蒸着材料111が完全に溶融した後、シャッタ106を開き、負極集電体126上に活物質層を堆積させる。この際、回転ドラム122、2つのガイドローラ123aと123b、および2つのローラ124aと124bをそれぞれ所定の速度で回転させ、負極集電体126を図6(b)中の矢印Bの方向に走行させながら蒸着を行う。負極集電体126の上には、図中の蒸着領域Aにおいて活物質層が形成される一方、蒸着領域A以外の領域では蒸着材料の堆積はなく、蒸着源103からの輻射熱も遮断される。そして、負極集電体126がガイドローラ123aに到達すると、ガイドローラ123aを介して水冷される。このようにして、蒸着領域Aにおいて上昇した負極集電体126の温度はすぐに低下するので、負極集電体126や活物質層への加熱が最小限に抑えられる。
そして、ローラ124bに巻かれていた負極集電体126が全て送り出され、ローラ124aに巻き取られた後は、回転ドラム122、2つのガイドローラ123aと123b、および2つのローラ124aと124bを逆方向に回転させ、負極集電体126を反対方向(図中の点線矢印Cの方向)に走行させながら、蒸着を行う。このように、蒸着領域Aを通って負極集電体126を往復移動させ、所定の厚みになるまで活物質層を形成する。
特許文献1には、以上のようにして、蒸着の際の熱の影響を最小限に抑え、充放電特性に優れたリチウム二次電池用電極を製造できると述べられている。
特開2005−158633号公報(第5−7,及び9−11頁、図1,2,4,及び5)
本発明において、前記集電体として長尺形状の集電体を用い、前記長尺形状の集電体を長尺方向に走行させながら前記活物質層を形成するのがよい。このようにすれば、生産性よく前記電池用電極を製造することができる。
また、前記活物質層の厚さが所定の膜厚に達するまで断続的に成膜を行うのがよい。例えば、真空蒸着法で成膜すると、成膜時の熱で前記集電体および前記活物質層が劣化するおそれがある。断続的に成膜すれば、成膜を中断している間に放熱することができ、成膜時の熱の影響を小さく抑えることができる。
また、前記集電体の両面に前記活物質層を形成するのがよい。片面の場合、充放電による前記活物質層の膨張圧縮で前記電池用電極が変形するおそれが大きくなる。これに対し、両面に前記活物質層を形成した場合、両面側で同じように前記活物質層の膨張圧縮が起こるため、これによる応力が釣り合って、前記電池用電極の変形が起こりにくくなる。
また、前記活物質層を気相成膜法によって形成するのがよい。この場合、前記活物質層を真空蒸着法によって形成するのが特に好ましい。真空蒸着法は成膜速度が速いので、生産性よく前記電池用電極を形成することができる。
また、前記集電体として銅を含有する材料を用いるのがよく、また、ケイ素又はスズを含有する活物質材料を用いて、ケイ素又はスズを含有する前記活物質層を形成するのがよい。
また、前記活物質層を形成する際の雰囲気中に存在する酸素含有成分によって、成膜中、又は成膜中断中、又は成膜終了後に前記活物質層を酸化することによって、前記活物質層の少なくとも表面に活物質の酸化物を含有する層を形成するのがよい。
本発明の二次電池は、本発明の電池用電極を負極とする二次電池、例えばリチウムイオン二次電池として構成されているのがよい。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施の形態では、本発明に基づく電池用電極の製造方法によって負極を形成し、この負極を用いてリチウムイオン二次電池を構成した例について説明する。
図1は、本実施の形態に基づく電極形成装置1の構成を示す概略図である。この電極形成装置1は真空蒸着装置であり、真空チャンバー2、蒸着源3、集電体保持具4、輻射熱遮蔽板5、シャッタ6、および真空排気装置7を備えている。そして、帯状の負極集電体12を長尺方向に走行させる手段として、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bを備え、負極集電体12を走行させながら負極活物質層を連続成膜できるように構成されている。
真空チャンバー2は、輻射熱遮蔽板5によって集電体保持具設置室2aと蒸着源設置室2bとに仕切られている。蒸着源設置室2bには、蒸着源3が設置され、回転ドラム設置室2aには、蒸着源3の上方に回転ドラム4が設置されている。輻射熱遮蔽板5は、蒸着源3から発生する輻射熱が負極集電体2に伝わるのを抑制するためのものである。輻射熱遮蔽板5の中央部には開口部が設けられ、これと折り返し部5aとによって蒸着領域Aが設定されており、蒸着領域Aにおける蒸着材料の流れはシャッタ6によって制御される。真空排気装置7は、チャンバー2内の圧力を所定の圧力以下に排気できるように構成されている。
蒸着源3は、電子銃8、るつぼ9、ハースライナ10、および蒸着材料11によって構成され、電子銃8は、電子ビームを照射して加熱することにより蒸着材料11を蒸発させる機能を有する。また、るつぼ9内には、カーボンを母材とするハースライナ10を介して蒸着材料11が設置されている。
電解銅箔などからなる帯状の負極集電体12は、集電体保持具4、および2つのガイドローラ13aと13b、並びに2つのローラ14aと14bに渡して配置され、負極集電体12の両側は2つのローラ14aと14bに巻き取られている。
図2は、集電体保持具4の近傍を示す斜視図(a)と、図1に2A−2A線で示した位置における集電体保持具4および負極集電体12の断面図(b)とである。図2(a)および(b)に示すように、集電体保持具4には溝部4aが設けられており、負極集電体12の外縁部12aを溝部4a内を通過させることによって、負極集電体12の負極活物質層形成面を蒸着源3に対し凹面形状に保持することができる。集電体保持具4の溝部4aの曲率半径を変えることによって、負極活物質層形成面の曲率半径を所定の大きさにすることができる。2つのガイドローラ13aと13bは、内部に冷却水を通すことにより、負極集電体12を水冷できるように構成されている。また、負極活物質層形成面の反対側に、負極集電体12を冷却するための冷却手段を設けてもよい。
電極形成装置1を用いて負極を形成するには、まず、負極集電体12を集電体保持具4、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bの各々に渡して配置する。この際、例えば、一方の端部を残し、他はローラ14bに巻き取っておく。
次に、チャンバー2内を真空排気装置7によって排気しながら、シャッタ6を閉じた状態で、電子銃8から蒸着材料11に電子ビームを照射し、蒸着材料11を加熱する。これにより、蒸着材料11を溶融させるとともに、蒸着材料やるつぼ材等から水分や不純物成分ガスを放出させる。
次に、電子ビームの照射をいったん停止し、真空排気を続けながら、蒸着材料11を放冷させ、所定の圧力以下になるまで排気を続ける。
所定の圧力以下になったら、再び電子ビームを照射し、蒸着材料11が完全に溶融した後、シャッタ6を開き、集電体12を走行させながら、蒸着源3に対し凹面形状に保持された負極活物質層形成面上に活物質層を堆積させる。
図3は、本実施の形態に基づく電極形成装置の別の構成を示す概略図である。この電極形成装置19も真空蒸着装置であり、電極形成装置1と同様、真空チャンバー2、蒸着源3、集電体保持具15、輻射熱遮蔽板5、シャッタ6、および真空排気装置7を備えている。そして、帯状の負極集電体12を長尺方向に走行させる手段として、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bを備えている。電極形成装置19が電極形成装置1と異なる点は、静止成膜と負極集電体12の走行とを断続的に繰り返すことで、負極集電体12の全領域に負極活物質層を成膜する点である。以下、相違点に重点をおいて説明する。
電解銅箔などからなる帯状の負極集電体12は、集電体保持具4の集電体保持面4a、および、2つのガイドローラ13aと13b、並びに2つのローラ14aと14bの各外周面に渡して配置され、負極集電体12の両側は2つのローラ14aと14bに巻き取られている。集電体保持具4には、所定の曲率半径の凹面形状を有する集電体保持面4aが設けられており、吸引手段や静電吸着手段によって負極集電体12の一領域を集電体保持面4aに密着させ、湾曲した凹面状に保持できるように構成されている。また、集電体保持具4、および2つのガイドローラ13aと13bは、内部に冷却水を通すことにより、負極集電体12を水冷できるように構成されている。
電極形成装置19を用いて、負極を形成するには、まず、負極集電体12を集電体保持具4、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bの各々の外周面に渡して配置する。この際、蒸着領域Aに位置する負極集電体12の一領域を、例えば吸引手段や静電吸着手段によって集電体保持面4aに密着させ、負極活物質層形成面を蒸着源3に対して凹面状に保持する。
次に、チャンバー2内を真空排気装置7によって排気しながら、シャッタ6を閉じた状態で、電子銃8から蒸着材料11に電子ビームを照射し、蒸着材料11を加熱する。これにより、蒸着材料11を溶融させるとともに、蒸着材料やるつぼ材等から水分や不純物成分ガスを放出させる。次に、電子ビームの照射をいったん停止し、真空排気を続けながら、蒸着材料11を放冷させ、所定の圧力以下になるまで排気を続ける。
所定の圧力以下になったら、再び電子ビームを照射し、蒸着材料11が完全に溶融した後、シャッタ6を開き、蒸着源3に対して凹面状に保持された集電体12の一領域上に負極活物質層を堆積させる。この際、シャッタ6の開閉を調節して、蒸着が断続的に行われるようにすることができる。
成膜後、シャッタ6を閉じた状態で、前記一領域と集電体保持面4aとの密着を解除した後、2つのローラ14aと14b、および2つのガイドローラ13aと13bをそれぞれ所定の角度だけ回転させ、負極集電体12を図1中の矢印の方向に走行させ、負極集電体12の次の領域を蒸着領域Aに移動させる。次に、この負極集電体12の次の領域を吸引手段や静電吸着手段によって集電体保持面4aに密着させ、湾曲した凹面状に保持する。
この後は、再びシャッタ6の開閉を調節して、集電体12の次の領域上に負極活物質層を堆積させる。この一連の動作を繰り返すことにより、帯状の負極集電体12上の全領域に負極活物質層を形成することができる。
本実施の形態では、真空蒸着法によって負極活物質層を形成する例を説明したが、負極活物質層の形成方法は特に限定されるものではなく、凹面状に保持された負極集電体の表面に負極活物質層を形成できる方法であれば何でもよい。例えば、気相法、焼成法あるいは液相法を挙げることができる。気相法としては、真空蒸着法の他に、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、CVD法(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長法)、あるいは溶射法などのいずれを用いてもよい。液相法としては、例えば鍍金が挙げられる。また、それらの2つ以上の方法、更には他の方法を組み合わせて負極活物質層を成膜するようにしてもよい。
図3(a)および(b)は、本実施の形態に基づく電極形成方法の利点を説明する説明図である。既述したように、本実施の形態によれば、図3(a)に示すように、負極集電体12の表面が凹面状になるように負極集電体12を保持した状態で負極活物質層16を形成するので、一般的な使用時のように、電池用電極を平坦に保持すると、負極活物質層16の表面積は増大する。この結果、負極活物質層16の表面には互いを引き離す方向に応力が発生し、図3(b)に示すように、負極活物質層16が微細な柱状物質17の集まりである場合には、これらの柱状物質17間に間隙18が生じる。この間隙18は、充電時の活物質層16の膨張に際して、その膨張した体積を受け入れる空間として機能する。このため、負極活物質層16の膨張よって生じる応力が低減され、電池用電極の構造破壊が起こりにくくなる。
図3(c)は、負極集電体12の両面に負極活物質層16を形成した例を示す部分断面図である。図3(b)のように負極活物質層16を片面に形成した場合、充放電による負極活物質層16の膨張圧縮で負極が変形するおそれが大きくなる。これに対し、負極活物質層16を両面に形成した場合、両面側で同じように負極活物質層16の膨張圧縮が起こるので、膨張圧縮による応力が両面間で釣り合って、負極の変形が起こりにくくなる。また、片面のみの場合に比べて容量がほぼ2倍になる。
図4は、本発明の実施の形態に基づくリチウムイオン二次電池20の構成を示す断面図である。この二次電池20は、いわゆるコイン型といわれるものであり、外装カップ24に収容された負極21と、外装缶25に収容された正極22とが、セパレータ23を介して積層されている。外装カップ24および外装缶25の周縁部は絶縁性のガスケット26を介してかしめることにより密閉されている。外装カップ24および外装缶25は、例えば、ステンレスあるいはアルミニウム(Al)などの金属によりそれぞれ構成されている。
負極21は、例えば、負極集電体21aと、負極集電体21aに設けられた負極活物質層21bとによって構成されている。
負極集電体21aは、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない金属材料によって形成されているのがよい。負極集電体21aがリチウムと金属間化合物を形成する材料であると、充放電に伴うリチウムとの反応によって負極集電体21aが膨張収縮する。この結果、負極集電体21aの構造破壊が起こって集電性が低下する。また、負極活物質層21bを保持する能力が低下して、負極活物質層21bが負極集電体21aから脱落しやすくなる。
リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、あるいはクロム(Cr)などが挙げられる。なお、本明細書において、金属材料とは、金属元素の単体だけではなく、2種以上の金属元素、あるいは1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなる合金も含むものとする。
また、負極集電体21aは、負極活物質層21bと合金化する金属元素を含む金属材料によって構成されているのがよい。このようであれば、合金化によって負極活物質層21bと負極集電体21aとの密着性が向上し、充放電に伴う膨張収縮によって負極活物質が細分化されることが抑制され、負極集電体21aから負極活物質層21bが脱落するのが抑えられるからである。また、負極における電子伝導性を向上させる効果も得られる。
負極集電体21aは、単層であってもよいが、複数層によって構成されていてもよい。複数層からなる場合、負極活物質層21bと接する層がケイ素と合金化する金属材料からなり、他の層がリチウムと金属間化合物を形成しない金属材料からなるのがよい。
負極集電体21aの、負極活物質層21bが設けられる面は、粗化されていることが好ましく、例えば、負極集電体21aの表面粗度Ra値が0.1μm以上であるのがよい。このようであれば、負極活物質層21bと負極集電体21aとの密着性が向上するからである。一方、Ra値は3.5μm以下、より好ましくは3.0μm以下であるのがよい。表面粗度が大きすぎると、負極活物質層21bの膨張に伴って負極集電体21aに亀裂が生じやすくなるおそれがあるからである。なお、表面粗度Ra値は、JIS B0601に規定される算術平均粗さRaのことである。負極集電体21aのうち、負極活物質層21bが設けられている領域の表面粗度Raが上記の範囲内であればよい。
負極活物質層21b中には、負極活物質としてケイ素の単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上が含まれている。このうち、とくにケイ素が含まれているのがよい。ケイ素はリチウムイオンを合金化して取り込む能力、および合金化したリチウムをリチウムイオンとして再放出する能力に優れ、リチウムイオン二次電池を構成した場合、大きなエネルギー密度を実現することができる。ケイ素は、単体で含まれていても、合金で含まれていても、化合物で含まれていてもよく、それらの2種以上が混在した状態で含まれていてもよい。
負極活物質層21bは、厚さが5〜6μm程度の薄膜型である。負極活物質層21bは、ケイ素の単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上からなる負極活物質層21bが、負極集電体21a上に形成されている。
この際、ケイ素又はスズの単体の一部又は全部が、負極21を構成する負極集電体21aと合金化しているのがよい。既述したように、負極活物質層21bと負極集電体21aとの密着性を向上させることができるからである。具体的には、界面において負極集電体21aの構成元素が負極活物質層21bに、または負極活物質層21bの構成元素が負極集電体21aに、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。充放電により負極活物質層21bが膨張収縮しても、負極集電体21aからの脱落が抑制されるからである。なお、本願では、上述した元素の拡散も合金化の一形態に含める。
負極活物質層21bがスズの単体を含む場合、スズ層の上にコバルト層が積層され、積層後の加熱処理によって両者が合金化されていてもよい。このようにすると、充放電効率が高くなり、サイクル特性が向上する。この原因の詳細は不明であるが、リチウムと反応しないコバルトを含有することで、充放電反応を繰り返した場合のスズ層の構造安定性が向上するためと考えられる。
負極活物質層21bがケイ素の単体を含む場合には、リチウムと金属間化合物を形成せず、負極活物質層21b中のケイ素と合金化する金属元素として、銅、ニッケル、および鉄が挙げられる。中でも、銅を材料とすれば、十分な強度と導電性とを有する負極集電体21aが得られるので、特に好ましい。
また、負極活物質層21bを構成する元素として、酸素が含まれているのがよい。酸素は負極活物質層21bの膨張および収縮を抑制し、放電容量の低下および膨れを抑制することができるからである。負極活物質層21bに含まれる酸素の少なくとも一部は、ケイ素と結合していることが好ましく、結合の状態は一酸化ケイ素でも二酸化ケイ素でも、あるいはそれら以外の準安定状態でもよい。
負極活物質層21bにおける酸素の含有量は、3原子数%以上、45原子数%以下の範囲内であることが好ましい。酸素含有量が3原子数%よりも少ないと十分な酸素含有効果を得ることができない。また、酸素含有量が45原子数%よりも多いと電池のエネルギー容量が低下してしまう他、負極活物質層21bの抵抗値が増大し、局所的なリチウムの挿入により膨れたり、サイクル特性が低下してしまうと考えられるからである。なお、充放電により電解液などが分解して負極活物質層21bの表面に形成される被膜は、負極活物質層21bには含めない。よって、負極活物質層21bにおける酸素含有量とは、この被膜を含めないで算出した数値である。
また、負極活物質層21bは、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とが交互に積層されていることが好ましく、第2層は少なくとも第1層の間に1層以上存在することが好ましい。この場合、充放電に伴う膨張および収縮を、より効果的に抑制することができるからである。例えば、第1層におけるケイ素の含有量は90原子数%以上であることが好ましく、酸素は含まれていても含まれていなくてもよいが、酸素含有量は少ない方が好ましく、全く酸素が含まれないか、または、酸素含有量が微量であるのがより好ましい。この場合、より高い放電容量を得ることができるからである。一方、第2層におけるケイ素の含有量は90原子数%以下、酸素の含有量は10原子数%以上であることが好ましい。この場合、膨張および収縮による構造破壊をより効果的に抑制することができるからである。第1層と第2層とは、負極集電体21aの側から、第1層、第2層の順で積層されていてもよいが、第2層、第1層の順で積層されていてもよく、表面は第1層でも第2層でもよい。また、酸素の含有量は、第1層と第2層との間において段階的あるいは連続的に変化していることが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、リチウムイオンの拡散性が低下し、抵抗が上昇する場合があるからである。
なお、負極活物質層21bは、ケイ素および酸素以外の他の1種以上の構成元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、あるいはクロム(Cr)が挙げられる。
正極22は、例えば、正極集電体22aと、正極集電体22aに設けられた正極活物質層22bとによって構成されている。
正極集電体22aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されているのがよい。
正極活物質層22bは、例えば、正極活物質として、充電時にリチウムイオンを放出することができ、かつ放電時にリチウムイオンを再吸蔵することができる材料を1種以上含んでおり、必要に応じて、炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材(バインダー)を含んでいるのがよい。
リチウムイオンを放出および再吸蔵することが可能な材料としては、例えば、一般式LixMO2で表される、リチウムと遷移金属元素Mからなるリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。これは、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムイオン二次電池を構成した場合、高い起電力を発生可能であると共に、高密度であるため、二次電池の更なる高容量化を実現することができるからである。なお、Mは1種類以上の遷移金属元素であり、例えば、コバルトおよびニッケルのうちの少なくとも一方であるのが好ましい。xは電池の充電状態(放電状態)によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2あるいはLiNiO2などが挙げられる。
なお、正極活物質として、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合には、その粉末をそのまま用いてもよいが、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部に、このリチウム遷移金属複合酸化物とは組成が異なる酸化物、ハロゲン化物、リン酸塩、硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種を含む表面層を設けるようにしてもよい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。この場合、表面層の構成元素と、リチウム遷移金属複合酸化物の構成元素とは、互いに拡散していてもよい。
また、正極活物質層22bは、長周期型周期表における2族元素,3族元素または4族元素の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。2族元素としてはマグネシウム(Mg),カルシウム(Ca)あるいはストロンチウム(Sr)などが挙げられ、中でもマグネシウムが好ましい。3族元素としてはスカンジウム(Sc)あるいはイットリウム(Y)などが挙げられ、中でもイットリウムが好ましい。4族元素としてはチタンあるいはジルコニウム(Zr)が挙げられ、中でもジルコニウムが好ましい。これらの元素は、正極活物質中に固溶していてもよく、また、正極活物質の粒界に単体あるいは化合物として存在していてもよい。
セパレータ23は、負極21と正極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ23の材料としては、例えば、微小な空孔が多数形成された微多孔性のポリエチレンやポリプロピレンなどの薄膜がよい。
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解した電解質塩とで構成され、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
電解液の溶媒としては、例えば、1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸エチレン;EC)や4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸プロピレン;PC)などの環状炭酸エステル、および、炭酸ジメチル(DMC)や炭酸ジエチル(DEC)や炭酸エチルメチル(EMC)などの鎖状炭酸エステルなど、非水溶媒が挙げられる。溶媒はいずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いるのがよい。例えば、炭酸エチレンや炭酸プロピレンなどの高誘電率溶媒と、炭酸ジメチルや炭酸ジエチルや炭酸エチルメチルなどの低粘度溶媒とを混合して用いることにより、電解質塩に対する高い溶解性と、高いイオン伝導度とを実現することができる。
また、溶媒はスルトンを含有していてもよい。電解液の安定性が向上し、分解反応などによる電池の膨れを抑制することができるからである。スルトンとしては、環内に不飽和結合を有するものが好ましく、特に、化1に示した1,3−プロペンスルトンが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
また、溶媒には、1,3−ジオキソール−2−オン(炭酸ビニレン;VC)あるいは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン(VEC)などの不飽和結合を有する環式炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。放電容量の低下をより抑制することができるからである。特に、VCとVECとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得ることができるので好ましい。
更に、溶媒には、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を混合して用いるようにしてもよい。放電容量の低下を抑制することができるからである。この場合、不飽和結合を有する環式炭酸エステルと共に混合して用いるようにすればより好ましい。より高い効果を得ることができるからである。ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体は、環式化合物でも鎖式化合物でもよいが、環式化合物の方がより高い効果を得ることができるので好ましい。このような環式化合物としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)などが挙げられ、中でもフッ素原子を有するDFECやFEC、特にDFECが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
電解液の電解質塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)やテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、電解液はそのまま用いてもよいが、高分子化合物に保持させていわゆるゲル状の電解質としてもよい。その場合、電解質はセパレータ3に含浸されていてもよく、また、セパレータ3と負極1または正極2との間に層状に存在していてもよい。高分子材料としては、例えば、フッ化ビニリデンを含む重合体が好ましい。酸化還元安定性が高いからである。また、高分子化合物としては、重合性化合物が重合されることにより形成されたものも好ましい。重合性化合物としては、例えば、アクリル酸エステルなどの単官能アクリレート、メタクリル酸エステルなどの単官能メタクリレート、ジアクリル酸エステル,あるいはトリアクリル酸エステルなどの多官能アクリレート、ジメタクリル酸エステルあるいはトリメタクリル酸エステルなどの多官能メタクリレート、アクリロニトリル、またはメタクリロニトリルなどがあり、中でも、アクリレート基あるいはメタクリレート基を有するエステルが好ましい。重合が進行しやすく、重合性化合物の反応率が高いからである。
リチウムイオン二次電池20は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、前述したように図1に示した蒸着装置などを用いて、負極集電体12に負極活物質層を形成した後、所定の形状に裁断して負極21を作製する。
負極活物質層21bに酸素を含有させる場合、酸素の含有量は、例えば、負極活物質層21bを形成する際の雰囲気中に酸素を含有させたり、焼成時あるいは熱処理時の雰囲気中に酸素を含有させたり、または用いる負極活物質粒子の酸素含有量により調節する。
また、前述したように、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とを交互に積層して負極活物質層21bを形成する場合には、雰囲気中における酸素濃度を変化させることにより調節するようにしてもよく、また、第1層を形成したのち、その表面を酸化させることにより第2層を形成するようにしてもよい。
なお、負極活物質層21bを形成したのちに、真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で熱処理を行い、負極集電体21aと負極活物質層21bとの界面をより合金化させるようにしてもよい。
次に、正極集電体22aに正極活物質層22bを形成する。例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材および結着剤(バインダー)とを混合して合剤を調製し、これをNMPなどの分散媒に分散させてスラリー状にして、この合剤スラリーを正極集電体22aに塗布した後、圧縮成型することにより正極22を形成する。
次に、負極21とセパレータ23と正極22とを積層して配置し、外装カップ24と外装缶25との中に入れ、電解液を注入し、それらをかしめることによってリチウムイオン二次電池20を組み立てる。この際、負極21と正極22とは、負極活物質層21bと正極活物質層22bとが対向するように配置する。
組み立て後、リチウムイオン二次電池20を充電すると、正極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極21側へ移動し、負極21において還元され、生じたリチウムは負極活物質と合金を形成し、負極21に取り込まれる。放電を行うと、負極21に取り込まれていたリチウムがリチウムイオンとして再放出され、電解液を介して正極22側へ移動し、正極22に再び吸蔵される。
図5は、本発明の本実施の形態に基づくリチウムイオン二次電池の別の構成を示す斜視図(a)および断面図(b)である。図5に示すように、二次電池30は角型の電池であり、電極巻回体36が電池缶37の内部に収容され、電解液が電池缶37に注入されている。電池缶37の開口部は、電池蓋38により封口されている。電極巻回体36は、帯状の負極31と帯状の正極32とをセパレータ(および電解質層)33を間に挟んで対向させ、長尺方向に巻回したものである。負極31から引き出された負極リード34は電池缶37に接続され、電池缶37が負極端子を兼ねている。正極32から引き出された正極リード35は正極端子39に接続されている。
電池缶37および電池蓋38の材料としては、鉄やアルミニウムなどを用いることができる。但し、アルミニウムからなる電池缶37および電池蓋38を用いる場合には、リチウムとアルミニウムとの反応を防止するために、正極リード35を電池缶37と溶接し、負極リード34を端子ピン39と接続する構造とする方が好ましい。
リチウムイオン二次電池30は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、前述したように、負極31および正極32を作製する。次に、負極31と正極32とをセパレータ33を間に挟んで対向させ、長尺方向に巻き回すことにより、電極巻回体36を形成する。この際、負極31と正極32とは、負極活物質層と正極活物質層とが対向するように配置する。次に、この電極巻回体36を角型形状の電池缶37に挿入し、電池缶37の開口部に電池蓋38を溶接する。次に、電池蓋38に形成されている電解液注入口から電解液を注入した後、注入口を封止する。以上のようにして、角型形状のリチウムイオン二次電池30を組み立てる。
また、電解液を高分子化合物に保持させる場合には、ラミネートフィルムなどの外装材からなる容器に電解液とともに重合性化合物を注入し、容器内において重合性化合物を重合させることにより、電解質をゲル化する。また、電極の大きな膨張収縮に対応するために、容器として金属缶を用いてもよい。また、負極31と正極32とを巻回する前に、負極31または正極32に塗布法などによってゲル状電解質を被着させ、その後、セパレータ33を間に挟んで負極31と正極32とを巻回するようにしてもよい。
組み立て後、前述したように、リチウムイオン二次電池30を充電すると、正極32からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極31側へ移動し、負極31において還元され、生じたリチウムは負極活物質と合金を形成し、負極31に取り込まれる。放電を行うと、負極31に取り込まれていたリチウムがリチウムイオンとして再放出され、電解液を介して正極32側へ移動し、正極32に再び吸蔵される。
リチウムイオン二次電池20および30では、負極活物質層中に負極活物質としてケイ素の単体及びその化合物などが含まれているため、二次電池の高容量化が可能になる。しかも、本実施の形態の負極は、その製造方法に基づく前述した構造的特徴を有し、充電時の前記活物質層の膨張に際して、電池用電極の構造破壊が起こりにくい。このため、充電容量、及び容量維持率などのサイクル特性が優れている。
以下、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。なお、以下の実施例の説明では、実施の形態において用いた符号および記号をそのまま対応させて用いる。
実施例1および比較例1
実施例1-1および1-2では、負極活物質としてケイ素の単体(シリコン)を用い、真空蒸着法によって薄膜型の負極活物質層を形成し、図4に示したコイン型のリチウムイオン二次電池30を作製した。
<負極21の形成>
まず、図1に示した真空チャンバー2内に、集電体保持面4aが所定の曲率半径の凹面形状を有する集電体保持具4を設置する。次に、負極集電体12として厚さ18μm、表面粗度Ra値0.3μmの帯状電解銅箔を、集電体保持具4、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bの各々の外周面に渡して配置し、蒸着領域Aに位置する負極集電体12の一領域を、吸引法や静電吸着法によって集電体保持面4aに密着させ、湾曲した凹面状に保持する。
次に、既述した操作順序で、原料として純度99%のシリコンを用い、偏向式電子ビーム蒸着源3を用いて、電解銅箔12上に厚さ4μmのシリコン層を形成した。次に、真空チャンバー内に大気を導入し、シリコン層が形成された電解銅箔12を取り出し、アルゴン雰囲気中で3時間、250℃で熱処理を行い、その後、所定の形状に裁断して負極21を形成した。
<リチウムイオン二次電池20の作製>
次に、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合して合剤を調製し、この合剤を分散媒であるNMPに分散させてスラリー状とし、この合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体22aに塗布し、分散媒を蒸発させ乾燥させた後、圧縮成型することにより、正極活物質層を形成した。その後、所定の形状に裁断して正極22を形成した。
次に、負極21とセパレータ23と正極22とを積層して配置し、外装カップ24と外装缶25との中に入れ、電解液を注入し、それらをかしめることによってリチウムイオン二次電池20を組み立てた。
セパレータ23として、微多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムを中心材とし、その両面を微多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムで挟み込んだ構造の、厚さ23μmの多層セパレータを用いた。
また、電解液としては、炭酸エチレン(EC)と炭酸ビニルエチレン(VEC)と炭酸ジエチル(DEC)とを、EC:VEC:DEC=30:10:60の質量比で混合した混合溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)を1mol/dm3の濃度で溶解させた溶液を用いた。
実施例1に対する比較例として、比較例1-1では平面状の集電体保持面4aを有する集電体保持具4を用い、比較例1-2および1-3では凸面状の集電体保持面4aを有する集電体保持具4を用いて、電解銅箔12に負極活物質層を形成し、それぞれ、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池20を作製した。
<リチウムイオン二次電池の評価>
作製した実施例1および比較例1の二次電池20について、サイクル試験を行い、容量維持率を測定した。このサイクル試験の1サイクルは、まず、1mA/cm2の定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.1mA/cm2になるまで充電を行う。次に、1mA/cm2の定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行うものである。この充放電サイクルを室温にて100サイクル行い、次式
100サイクル目の容量維持率(%)
=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100(%)
で定義される、100サイクル目の容量維持率(%)を調べた。結果を表1に示す。
表1中、成膜面形状は活物質源側から見た活物質層形成面の形状であり、曲率半径はその曲率半径(mm)である。表1から、成膜面形状が曲率の大きな凸面から、曲率の小さな凸面、平面、曲率の小さな凹面、そして曲率の大きな凹面へと変化するにつれて、容積維持率が改善されることがわかる。
実施例2および比較例2
実施例2および比較例2では、真空蒸着法の代わりにRFスパッタリング法を用いて薄膜型の負極活物質層を形成した。他は実施例1および比較例1と同様にして、コイン型のリチウムイオン二次電池20を作製した。
すなわち、まず、実施例1と同様に、真空チャンバー2内に負極集電体12として、厚さ18μm、表面粗度Ra値0.3μmの帯状電解銅箔を配置した。
この電解銅箔12に対向する位置に、原料である純度99.99%のシリコンからなるスパッタターゲットを配置し、圧力が10-3Pa以下の高真空下で、RFスパッタリング法により、厚さ4μmのシリコン層を形成した。次に、真空チャンバー内に大気を導入し、シリコン層が形成された電解銅箔を取り出し、その後、アルゴン雰囲気中で3時間、300℃で熱処理を行い、負極21を形成した。
次に、実施例1と同様にして二次電池20を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表2に示す。
実施例3および比較例3
実施例3および比較例3では、負極活物質としてケイ素の代わりにスズを用いて、薄膜型の負極活物質層を形成した。他は実施例1および比較例1と同様にして、コイン型のリチウムイオン二次電池20を作製した。
すなわち、まず、実施例1と同様にして、真空チャンバー2内に負極集電体12を配置した。但し、ここでは負極集電体12として、厚さ23μm、表面粗度Ra値0.5μmの帯状電解銅箔を用いた。
次に、既述した操作順序で、原料として純度99.9%の金属スズを用い、偏向式電子ビーム蒸着源3を用いて、電解銅箔12上に厚さ3μmのスズ層を形成した。その後、原料を純度99.9%のコバルトに変更し、同様にして連続的に1ミクロンのコバルト層をスズ上へ成膜した。次に、真空チャンバー内に大気を導入し、シリコン層が形成された電解銅箔12を取り出し、アルゴン雰囲気中で12時間、200℃で熱処理を行い、負極21を形成した。
次に、実施例1と同様にして二次電池20を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表3に示す。
実施例4および比較例4
実施例4および比較例4では、負極集電体12として電解銅箔の代わりに表面粗度Ra値0.4μmのニッケル箔を用いて、薄膜型の負極活物質層を形成した。他は実施例1および比較例1と同様にして、コイン型のリチウムイオン二次電池20を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表4に示す。
実施例2〜4の結果から、成膜方法、活物質材料、および集電体材料の違いによらず、
本発明に基づく製造方法は有効であることがわかる。
実施例5および比較例5
実施例5-1および5-2では、負極活物質としてシリコンを用い、真空蒸着法によって薄膜型の負極活物質層を形成し、図5に示した角型のリチウムイオン二次電池30を作製した。
<負極31の形成>
まず、図1に示した真空チャンバー2内に、集電体保持面4aが所定の曲率半径の凹面形状を有する集電体保持具4を設置する。次に、負極集電体12として厚さ18μm、表面粗度A面Ra値0.3μm、B面Ra値0.4μmの帯状電解銅箔を、集電体保持具4、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bの各々の外周面に渡して配置し、負極集電体12を走行させながら負極活物質層を形成した。
蒸着材料として実施例1と同じシリコンを用い、まず、A面側に厚さ4μmのシリコン層を形成し、その後、負極集電体12である帯状電解銅箔を裏返して再セッティングし、B面にも同様に厚さ4μmのシリコン膜を形成した。次に、真空チャンバー内に大気を導入し、シリコン層が形成された電解銅箔12を取り出し、アルゴン雰囲気中で3時間、250℃で熱処理を行い、その後、負極リード34を取り付け、負極31を形成した。
<リチウムイオン二次電池30の作製>
次に、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合して合剤を調製し、この合剤を分散媒であるNMPに分散させてスラリー状とし、この合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体に塗布し、分散媒を蒸発させ乾燥させた後、圧縮成型することにより、正極活物質層を形成した。その後、正極リード35を取り付け、正極32を形成した。
次に、負極31と正極32とをセパレータ33を間に挟んで対向させ、巻き回し、電極回巻体36を作製した。セパレータ33として、微多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムを中心材とし、その両面を微多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムで挟み込んだ構造の、厚さ23μmの多層セパレータを用いた。
次に、この電極巻回体36を角型形状の電池缶37に挿入し、電池缶37の開口部に電池蓋38を溶接する。次に、電池蓋38に形成されている電解液注入口から電解液を注入した後、注入口を封止して、リチウムイオン二次電池30を組み立てた。
電解液は、ECとVECとDECとを、EC:VEC:DEC=30:10:60の質量比で混合した混合溶媒に、電解質塩としてLiPF6を1mol/dm3の濃度で溶解させた溶液を用いた。
<リチウムイオン二次電池の評価>
作製した実施例5および比較例5の二次電池について、サイクル試験を行い、容量維持率を測定した。このサイクル試験の1サイクルは、まず、3mA/cm2の定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2になるまで充電を行う。次に、3mA/cm2の定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行うものである。この充放電サイクルを室温にて100サイクル行い、次式
100サイクル目の容量維持率(%)
=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100(%)
で定義される、100サイクル目の容量維持率(%)を調べた。結果を表5に示す。
表5から、静止成膜ばかりではなく、集電体を走行させながら活物質層を形成する場合でも、また、集電体の両面に活物質層を形成する場合でも、本発明に基づく製造方法は有効であることがわかる。
実施例6および比較例6
実施例5と同様に、電解銅箔のA面およびB面の両面に、4μmのシリコン層を形成した。まず、A面側に2μmのシリコン層を形成し、その後、負極集電体12である帯状電解銅箔を裏返して再セッティングし、B面にも2μmのシリコン膜を形成し、その後、再びA面側に2μmのシリコン層を形成し、再びB面側に2μmのシリコン層を形成した。
なお、この電極断面をAES(Auger electron spectroscopy;オージェ電子分光法)分析によって解析したところ、一旦成膜を止めた部分のシリコン表面および電極最表面がチャンバー中の残留酸素もしくは大気開放時の大気中酸素によって、バルク中より酸化されており、酸素濃度の異なるシリコン層が積層された構造となっていることを確認した。この電極の活物質層おける酸素濃度を酸素濃度計で分析した結果、活物質全体に対して6原子数%の酸素が存在することを確認した。
実施例5と同様にして二次電池30を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表6に示す。
実施例7および比較例7
チャンバー中に、3%の酸素を含んだアルゴン混合ガスを流入させ、この状態で成膜を行った以外は実験6と同様に成膜および熱処理を行った。なお、この電極断面をAES分析にて解析すると、シリコンバルク内および一旦成膜を止めた部分のシリコン表面および電極の最表面がチャンバー中の流入酸素もしくは大気開放時の大気中酸素によって酸化されており、酸素濃度のことなるシリコン層が積層された構造となっていることを確認した。この電極の活物質層における酸素濃度を酸素濃度計で分析した結果、活物質全体に対して9原子数%の酸素の存在を確認した。
実施例5と同様にして二次電池30を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表7に示す。
実施例6および7の結果から、活物質層を多層構造にする場合でも、本発明に基づく製造方法は有効であることがわかる。
上述したように、いずれの実施例でも、集電体の活物質層形成面が、曲率の大きい凸面、曲率の小さい凸面、平面、曲率の小さい凹面、曲率の大きい凹面である場合の順で、後者ほどサイクル特性が大きく改善された。これは、後者ほど成膜後の箔にかかる応力が緩和され、充放電における電極変形が飛躍的に抑制され、サイクル特性が大きく改善されたものと考えられる。また、規定サイクル後に電池を解体し、負極電極を観察したところ、サイクル特性の低いものほど、電極の変形が大きいことがわかった。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々に変形可能である。
例えば、上記の実施の形態および実施例では、外装部材としてコイン型や角型(角筒型)の缶を用いる場合について説明したが、本発明は、外装部材としてフィルム状の外装材などを用いるラミネート型などの場合についても適用することができる。その形状も、コイン型や角型の他に、円筒型、ボタン型、薄型、あるいは大型など、どのようなものでもよい。
また、本発明は、負極と正極とを複数層積層した積層型のものについても同様に適用することができる。