本発明において、静止状態での前記活物質層の成膜中に、前記集電体の長尺方向に加わる機械的な引っ張り応力を、2N/cm以下にするのがよい。より好ましくは、機械的な引っ張り応力を1N/cm以下にするのがよく、更に好ましくは、静止状態での前記活物質層の成膜中に、前記集電体の長尺方向に加わる機械的な引っ張り応力を、無視できる大きさにするのがよい。ここで「無視できる大きさ」とは、機械的な引っ張り応力(テンション)がないか、又は極めて微弱であって、前記集電体の変形が起こらず、結果として、走査型電子顕微鏡による、成膜された前記活物質層の断面の観察像に、テンションが印加された状態で形成された活物質層の断面の観察像と有意の差を生じるおおきさを言う(後述の実施例1及び図7参照。)。静止成膜で、しかも長尺方向に加わるテンションを無視できる大きさにすると、均一な熱負荷を実現することができ、サイクル特性が飛躍的に向上する。前記集電体を長尺方向に走行させながら成膜する従来の方法では、長尺方向にかけるテンションをオフにすると前記集電体の巻きずれが起こるため、成膜中に長尺方向にかけるテンションをオフにすることはできない。これに対し、本発明では、静止状態で成膜するため、成膜中に、前記集電体の長尺方向に加わるテンションを無視できる大きさにすることができる。
また、前記集電体を静止させた状態で前記活物質層形成領域に位置する前記集電体の一領域に前記活物質層を成膜した後、集電体走行手段を用いて前記集電体を所定の長さだけ走行させて、前記集電体の前記一領域の後方領域を前記活物質層形成領域に移動させ、前記活物質層の成膜を再び行うのがよい。このように成膜と走行を繰り返すことによって、前記集電体を走行させながら連続的に成膜するのと遜色のない生産性を実現することができる。
また、前記活物質層形成領域において前記集電体を保持するロールの回転によって、前記集電体を所定の長さだけ走行させるのがよい。前記ロールの前記回転によって前記集電体を速やかに走行させることができる。
この場合、前記ロールとして多角形ロールを用いるのがよい。そして、前記多角形ロールの前記集電体保持面が平坦面若しくは凹面形状を有するのがよい。成膜面は弧状であっても電極の特性に差異は小さい、しかしながら電池として巻回した場合、膜厚分布に差が大きく出てくる。そこで平坦な面に成膜を行うには、円形のキャンロールではなく、3角形以上の多角形のキャンロールが必要となる。そのキャンロールを用いて成膜を行うと膜厚分布を小さくすることが可能となる。
また、多角形のキャンロールを用いた場合、成膜長が多角形の面によって制御できるため定量的なマスキング処理を行うことができる。通常、円形キャンロールを用いた場合、走行させ成膜を行うことで集電体全域に活物質層が堆積される。この結果、タブ(電極端子)を通常の超音波溶接で接続することが容易ではなく、抵抗溶接を用いて接続処理を施さないと接着しない。多角形ロールを用いた場合、マスキングができるため、ほぼ成膜されていない面が存在し、既存の超音波溶接でタブ(電極端子)を容易に接着できる。
また、前記活物質層の厚さが所定の膜厚に達するまで断続的に成膜を行うのがよい。例えば、真空蒸着法で成膜すると、成膜時の熱で前記活物質層と前記集電体の界面で活物質と集電体とが過剰に合金化するおそれがある。また、静止成膜では、前記集電体が蒸着源などからの輻射熱に耐え切れず、箔切れを起こす可能性がある。そこで非連続的に成膜することで、前記集電体が蒸着源などからの輻射熱を浴びる時間を短縮する。断続的に成膜すれば、成膜を中断している間に放熱させることができ、成膜時の熱の影響を小さく抑えることができる。
また、前記集電体の両面に前記活物質層を形成するのがよい。両面に前記活物質層を形成した場合、片面の場合に比べて充放電容量をほぼ2倍にすることができる。
また、前記活物質層を真空蒸着法によって形成するのがよい。真空蒸着法は成膜速度が速いので、生産性よく前記電池用電極を形成することができる。
また、前記集電体として銅を含有する材料を用いるのがよく、また、ケイ素を含有する活物質材料を用いて、ケイ素を含有する前記活物質層を形成するのがよい。
また、前記活物質層を形成する際の雰囲気中に存在する酸素含有成分によって、成膜中、又は成膜中断中、又は成膜終了後に前記活物質層を酸化することによって、前記活物質層の少なくとも表面に活物質の酸化物を含有する層を形成するのがよい。成膜後、及び成膜中に活物質層を酸化することによって、より一層特性の向上をはかることができる。
本発明の二次電池は、本発明の電池用電極を負極とする二次電池、例えばリチウムイオン二次電池として構成されているのがよい。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本実施の形態では、本発明に基づく電池用電極の製造方法によって負極を形成し、この負極を用いてリチウムイオン二次電池を構成した例について説明する。
図1は、本実施の形態に基づく電極形成装置1の構成を示す概略図である。この電極形成装置1は真空蒸着装置であり、真空チャンバー2、蒸着源3、円形ロール4、輻射熱遮蔽板5、シャッタ6、および真空排気装置7を備えている。そして、帯状の負極集電体12を長尺方向に走行させる手段として、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bが設けられている。
真空チャンバー2は、輻射熱遮蔽板5によってロール設置室2aと蒸着源設置室2bとに仕切られている。蒸着源設置室2bには、蒸着源3が設置され、ロール設置室2aには、蒸着源3の上方に円形ロール4が設置されている。輻射熱遮蔽板5は、蒸着源3から発生する輻射熱が負極集電体12に伝わるのを抑制するためのものである。輻射熱遮蔽板5の中央部には開口部が設けられ、折り返し部5aによって蒸着領域Aが設定されており、蒸着領域Aにおける蒸着材料の流れはシャッタ6によって制御される。真空排気装置7は、チャンバー2内の圧力を所定の圧力以下に排気できるように構成されている。
蒸着源3は、電子銃8、るつぼ9、ハースライナ10、および蒸着材料11によって構成され、電子銃8は、電子ビームを照射して加熱することにより蒸着材料11を蒸発させる機能を有する。また、るつぼ9内には、カーボンを母材とするハースライナ10を介して蒸着材料11が設置されている。
電解銅箔などからなる帯状の負極集電体12は、円形ロール4、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bの各々の外周面に渡して配置され、両端側は2つのローラ14aと14bに巻き取られる。円形ロール4、および2つのガイドローラ13aと13bは、内部に冷却水を通すことにより、負極集電体12を水冷できるように構成されている。
電極形成装置1を用いて、負極を形成するには、まず、負極集電体12を円形ロール4、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bの各々の外周面に渡して配置する。この際、例えば、一方の端部を残して、他はローラ14bに巻き取っておく。次に、上記一方の端部の蒸着領域Aに位置する一領域を、吸引法や静電吸着法によって円形ロール4に密着させる。この後、望ましくは、負極集電体12の長尺方向に加えているテンションをオフにする。
次に、チャンバー2内を真空排気装置7によって排気しながら、シャッタ6を閉じた状態で、電子銃8から蒸着材料11に電子ビームを照射し、蒸着材料11を加熱する。これにより、蒸着材料11を溶融させるとともに、酸素や水分などの不純物となるガスを放出させる。
次に、電子ビームの照射をいったん停止し、真空排気を続けながら、蒸着材料11を放冷させ、所定の圧力になるまで排気を続ける。
所定の圧力になったら、再び電子ビームを照射し、蒸着材料11が完全に溶融した後、シャッタ6を開き、円形ロール4に密着させて保持している集電体12の上記一領域上に活物質層を堆積させる。この際、シャッタ6の開閉を調節して、蒸着が断続的に行われるようにすることができる。
成膜後、シャッタ6を閉じた状態で、負極集電体12の長尺方向へのテンションをオンにした後、負極集電体12の上記一領域と円形ロール4との密着を解除する。次に、円形ロール4、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bをそれぞれ所定の角度だけ回転させて、負極集電体12を図1中の点線矢印Bの方向に所定の長さだけ走行させ、前記後方領域である、上記一領域の次の活物質層形成領域を蒸着領域Aに移動させた後、負極集電体12の走行を停止させる。次に、この活物質層形成領域を吸引手段や静電吸着手段によって円形ロール4に密着させる。この後、望ましくは、負極集電体12の長尺方向に加えているテンションをオフにする。
この後は、再びシャッタ6の開閉を調節して、負極集電体12の次の活物質層形成領域上に負極活物質層を堆積させる。この一連の動作を繰り返すことにより、帯状の負極集電体12の上に負極活物質層を形成することができる。この負極活物質層は、連続してつながっていてもよいし、タブを設けるための負極活物質層非形成領域を間に挟んで断続的に形成することもできる。
図1では、真空蒸着法によって負極活物質層を形成する例を説明したが、負極活物質層の形成方法は特に限定されるものではなく、集電体表面に負極活物質層を形成できる方法であれば何でもよい。例えば、気相法、焼成法あるいは液相法を挙げることができる。気相法としては、真空蒸着法の他に、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、CVD法(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長法)、あるいは溶射法などのいずれを用いてもよい。液相法としては、例えば鍍金が挙げられる。また、それらの2つ以上の方法、更には他の方法を組み合わせて負極活物質層を成膜するようにしてもよい。
図2は、代表的な成膜方法である真空蒸着法およびスパッタリング法の例を示す説明図である。スパッタリング法を用いる場合には、図1に示した蒸着源設置室2bにRFスパッタリング装置などを配置し、蒸着源3の代わりにシリコンなどからなるターゲットを置く。図2(a)に示すように、円形キャンロール4では対向面15が蒸着源3に対し凸型の曲面になっており、実際上、正面方向の負極集電体と、正面から20度以上偏った方向の負極集電体に、静止成膜で同じ厚さの蒸着膜を形成することはできない。
図3は、円形ロール4の代わりに用いられる多角形キャンロール4a〜4cの例を示す説明図である。多角形キャンロールは、断面が多角形である多角柱形のキャンロールであって、多角柱の1つの側面が蒸着源3の正面に対向するように配置される(以下、この側面を対向面15と呼ぶ。)。多角形キャンロール4a〜4cは対向面が平面であるため、負極集電体12の広い領域に静止成膜で同じ厚さの蒸着膜を形成することができる。
負極集電体12は、ガイドローラ13aおよび13bなどの働きで、多角形キャンロール4a〜4cの対向面15に密着するように配置される。必要なら、多角形キャンロールの各側面に負極集電体12を密着させるための吸引手段や静電吸着手段が設けられているのがよい。
対向面15に保持されている負極集電体12の一つの領域への成膜が終了すると、対向面15の隣の側面を蒸着源3に対向させるように、所定の角度(三角形キャンロール4aなら120度、四角形キャンロール4bなら90度、八角形キャンロール4cなら45度)だけ、多角形キャンロールを中心軸のまわりに回転させる。負極集電体12は、この動きに付随して移動し、多角形キャンロールの辺の長さの分だけ長尺方向に送られる。
なお、図1に示した輻射熱遮蔽板5の開口部と折り返し部5aを調節して、蒸着領域Aが対向面15よりも幅狭になるようにすることができる。このようにすれば負極活物質層形成領域の左右に負極活物質層非形成領域を設けることができ、タブを設けるために用いることができる。
図4は、多角形キャンロールの側面が凹面状であり、負極集電体12を蒸着源3に対して凹面状に保持できる多角形キャンロール4dの例を示す説明図である。このような多角形キャンロール4dを用いると、蒸着膜の膜厚の均一性をさらに向上させることができるとともに、後述の実施例で示すように、負極の充放電サイクル特性も向上する。
図5は、本発明の実施の形態に基づくリチウムイオン二次電池20の構成を示す断面図である。この二次電池20は、いわゆるコイン型といわれるものであり、外装カップ24に収容された負極21と、外装缶25に収容された正極22とが、セパレータ23を介して積層されている。外装カップ24および外装缶25の周縁部は絶縁性のガスケット26を介してかしめることにより密閉されている。外装カップ24および外装缶25は、例えば、ステンレスあるいはアルミニウム(Al)などの金属によりそれぞれ構成されている。
負極21は、例えば、負極集電体21aと、負極集電体21aに設けられた負極活物質層21bとによって構成されている。
負極集電体21aは、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない金属材料によって形成されているのがよい。負極集電体21aがリチウムと金属間化合物を形成する材料であると、充放電に伴うリチウムとの反応によって負極集電体21aが膨張収縮する。この結果、負極集電体21aの構造破壊が起こって集電性が低下する。また、負極活物質層21bを保持する能力が低下して、負極活物質層21bが負極集電体21aから脱落しやすくなる。
リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、あるいはクロム(Cr)などが挙げられる。なお、本明細書において、金属材料とは、金属元素の単体だけではなく、2種以上の金属元素、あるいは1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなる合金も含むものとする。
また、負極集電体21aは、負極活物質層21bと合金化する金属元素を含む金属材料によって構成されているのがよい。このようであれば、合金化によって負極活物質層21bと負極集電体21aとの密着性が向上し、充放電に伴う膨張収縮によって負極活物質が細分化されることが抑制され、負極集電体21aから負極活物質層21bが脱落するのが抑えられるからである。また、負極における電子伝導性を向上させる効果も得られる。
負極集電体21aは、単層であってもよいが、複数層によって構成されていてもよい。複数層からなる場合、負極活物質層21bと接する層がケイ素と合金化する金属材料からなり、他の層がリチウムと金属間化合物を形成しない金属材料からなるのがよい。
負極集電体21aの、負極活物質層21bが設けられる側の面は、粗化されていることが好ましく、例えば、負極集電体21aの表面粗度Ra値が0.1μm以上であるのがよい。このようであれば、負極活物質層21bと負極集電体21aとの密着性が向上するからである。一方、Ra値は3.5μm以下、より好ましくは3.0μm以下であるのがよい。表面粗度が大きすぎると、負極活物質層21bの膨張に伴って負極集電体21aに亀裂が生じやすくなるおそれがあるからである。なお、表面粗度Ra値は、JIS B0601に規定される算術平均粗さRaのことである。負極集電体21aのうち、負極活物質層21bが設けられている領域の表面粗度Raが上記の範囲内であればよい。
負極活物質層21b中には、負極活物質としてケイ素の単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上が含まれている。このうち、とくにケイ素が含まれているのがよい。ケイ素はリチウムイオンを合金化して取り込む能力、および合金化したリチウムをリチウムイオンとして再放出する能力に優れ、リチウムイオン二次電池を構成した場合、大きなエネルギー密度を実現することができる。ケイ素は、単体で含まれていても、合金で含まれていても、化合物で含まれていてもよく、それらの2種以上が混在した状態で含まれていてもよい。
負極活物質層21bは、厚さが5〜6μm程度の薄膜型である。負極活物質層21bは、シリコンの単体及びその化合物、並びにスズの単体及びその化合物のうちの1種以上からなる負極活物質層21bが、負極集電体21a上に形成されている。
この際、前記シリコン又はスズの単体の一部又は全部が、前記負極を構成する集電体と合金化しているのがよい。既述したように、負極活物質層21bと負極集電体21aとの密着性を向上させることができるからである。具体的には、界面において負極集電体21aの構成元素が負極活物質層に、または負極活物質層の構成元素が負極集電体21aに、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。充放電により負極活物質層21bが膨張収縮しても、負極集電体21aからの脱落が抑制されるからである。なお、本願では、上述した元素の拡散も合金化の一形態に含める。
負極活物質層1bがスズの単体を含む場合、スズ層の上にコバルト層が積層され、積層後の加熱処理によって両者が合金化されているのがよい。このようにすると、充放電効率が高くなり、サイクル特性が向上する。この原因の詳細は不明であるが、リチウムと反応しないコバルトを含有することで、充放電反応を繰り返した場合のスズ層の構造安定性が向上するためと考えられる。
負極活物質層21bがケイ素の単体を含む場合には、リチウムと金属間化合物を形成せず、負極活物質層21b中のケイ素と合金化する金属元素として、銅、ニッケル、および鉄が挙げられる。中でも、銅を材料とすれば、十分な強度と導電性とを有する負極集電体21aが得られるので、特に好ましい。
また、負極活物質層21bを構成する元素として、酸素が含まれているのがよい。酸素は負極活物質層21bの膨張および収縮を抑制し、放電容量の低下および膨れを抑制することができるからである。負極活物質層21bに含まれる酸素の少なくとも一部は、ケイ素と結合していることが好ましく、結合の状態は一酸化ケイ素でも二酸化ケイ素でも、あるいはそれら以外の準安定状態でもよい。
負極活物質層21bにおける酸素の含有量は、3原子数%以上、45原子数%以下の範囲内であることが好ましい。酸素含有量が3原子数%よりも少ないと十分な酸素含有効果を得ることができない。また、酸素含有量が45原子数%よりも多いと電池のエネルギー容量が低下してしまう他、負極活物質層21bの抵抗値が増大し、局所的なリチウムの挿入により膨れたり、サイクル特性が低下してしまうと考えられるからである。なお、充放電により電解液などが分解して負極活物質層21bの表面に形成される被膜は、負極活物質層21bには含めない。よって、負極活物質層21bにおける酸素含有量とは、この被膜を含めないで算出した数値である。
また、負極活物質層21bは、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とが交互に積層されていることが好ましく、第2層は少なくとも第1層の間に1層以上存在することが好ましい。この場合、充放電に伴う膨張および収縮を、より効果的に抑制することができるからである。例えば、第1層におけるケイ素の含有量は90原子数%以上であることが好ましく、酸素は含まれていても含まれていなくてもよいが、酸素の含有量はなるべく少ない方が好ましく、全く酸素を含んでおらず、含有量が零であればより好ましい。この場合、より高い放電容量を得ることができるからである。一方、第2層におけるケイ素の含有量は90原子数%以下、酸素の含有量は10原子数%以上であることが好ましい。この場合、膨張および収縮による構造破壊をより効果的に抑制することができるからである。第1層と第2層とは、負極集電体21aの側から、第1層、第2層の順で積層されていてもよいが、第2層、第1層の順で積層されていてもよく、表面は第1層でも第2層でもよい。また、酸素の含有量は、第1層と第2層との間において段階的あるいは連続的に変化していることが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、リチウムイオンの拡散性が低下し、抵抗が上昇してしまう場合があるからである。
なお、負極活物質層21bは、ケイ素および酸素以外の他の1種以上の構成元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、あるいはクロム(Cr)が挙げられる。
正極22は、例えば、正極集電体22aと、正極集電体22aに設けられた正極活物質層22bとによって構成されている。
正極集電体22aは、例えば、アルミニウム,ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されているのがよい。
正極活物質層22bは、例えば、正極活物質として、充電時にリチウムイオンを放出することができ、かつ放電時にリチウムイオンを再吸蔵することができる材料を1種以上含んでおり、必要に応じて、炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材(バインダー)を含んでいるのがよい。
リチウムイオンを放出および再吸蔵することが可能な材料としては、例えば、一般式LixMO2で表される、リチウムと遷移金属元素Mからなるリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。これは、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムイオン二次電池を構成した場合、高い起電力を発生可能であると共に、高密度であるため、二次電池の更なる高容量化を実現することができるからである。なお、Mは1種類以上の遷移金属元素であり、例えば、コバルトおよびニッケルのうちの少なくとも一方であるのが好ましい。xは電池の充電状態(放電状態)によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2あるいはLiNiO2などが挙げられる。
なお、正極活物質として、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合には、その粉末をそのまま用いてもよいが、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部に、このリチウム遷移金属複合酸化物とは組成が異なる酸化物、ハロゲン化物、リン酸塩、硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種を含む表面層を設けるようにしてもよい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。この場合、表面層の構成元素と、リチウム遷移金属複合酸化物の構成元素とは、互いに拡散していてもよい。
また、正極活物質層22bは、長周期型周期表における2族元素,3族元素または4族元素の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。2族元素としてはマグネシウム(Mg),カルシウム(Ca)あるいはストロンチウム(Sr)などが挙げられ、中でもマグネシウムが好ましい。3族元素としてはスカンジウム(Sc)あるいはイットリウム(Y)などが挙げられ、中でもイットリウムが好ましい。4族元素としてはチタンあるいはジルコニウム(Zr)が挙げられ、中でもジルコニウムが好ましい。これらの元素は、正極活物質中に固溶していてもよく、また、正極活物質の粒界に単体あるいは化合物として存在していてもよい。
セパレータ23は、負極21と正極22とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ23の材料としては、例えば、微小な空孔が多数形成された微小多孔性のポリエチレンやポリプロピレンなどの薄膜がよい。
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解した電解質塩とで構成され、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
電解液の溶媒としては、例えば、1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸エチレン;EC)や4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸プロピレン;PC)などの環状炭酸エステル、および、炭酸ジメチル(DMC)や炭酸ジエチル(DEC)や炭酸エチルメチル(EMC)などの鎖状炭酸エステルなど、非水溶媒が挙げられる。溶媒はいずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いるのがよい。例えば、炭酸エチレンや炭酸プロピレンなどの高誘電率溶媒と、炭酸ジメチルや炭酸ジエチルや炭酸エチルメチルなどの低粘度溶媒とを混合して用いることにより、電解質塩に対する高い溶解性と、高いイオン伝導度とを実現することができる。
また、溶媒はスルトンを含有していてもよい。電解液の安定性が向上し、分解反応などによる電池の膨れを抑制することができるからである。スルトンとしては、環内に不飽和結合を有するものが好ましく、特に、下記に構造式を示す1,3−プロペンスルトンが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
また、溶媒には、1,3−ジオキソール−2−オン(炭酸ビニレン;VC)あるいは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン(VEC)などの不飽和結合を有する環式炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。放電容量の低下をより抑制することができるからである。特に、VCとVECとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得ることができるので好ましい。
更に、溶媒には、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を混合して用いるようにしてもよい。放電容量の低下を抑制することができるからである。この場合、不飽和結合を有する環式炭酸エステルと共に混合して用いるようにすればより好ましい。より高い効果を得ることができるからである。ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体は、環式化合物でも鎖式化合物でもよいが、環式化合物の方がより高い効果を得ることができるので好ましい。このような環式化合物としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(FEC)、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(DFEC)などが挙げられ、中でもフッ素原子を有するDFECやFEC、特にDFECが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
電解液の電解質塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6)やテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4)などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、電解液はそのまま用いてもよいが、高分子化合物に保持させていわゆるゲル状の電解質としてもよい。その場合、電解質はセパレータ3に含浸されていてもよく、また、セパレータ3と負極1または正極2との間に層状に存在していてもよい。高分子材料としては、例えば、フッ化ビニリデンを含む重合体が好ましい。酸化還元安定性が高いからである。また、高分子化合物としては、重合性化合物が重合されることにより形成されたものも好ましい。重合性化合物としては、例えば、アクリル酸エステルなどの単官能アクリレート、メタクリル酸エステルなどの単官能メタクリレート、ジアクリル酸エステル,あるいはトリアクリル酸エステルなどの多官能アクリレート、ジメタクリル酸エステルあるいはトリメタクリル酸エステルなどの多官能メタクリレート、アクリロニトリル、またはメタクリロニトリルなどがあり、中でも、アクリレート基あるいはメタクリレート基を有するエステルが好ましい。重合が進行しやすく、重合性化合物の反応率が高いからである。
リチウムイオン二次電池20は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、前述したように図1に示した蒸着装置などを用いて、負極集電体12に負極活物質層を形成した後、所定の形状に裁断して負極21を作製する。
負極活物質層21bに酸素を含有させる場合、酸素の含有量は、例えば、負極活物質層21bを形成する際の雰囲気中に酸素を含有させたり、焼成時あるいは熱処理時の雰囲気中に酸素を含有させたり、または用いる負極活物質粒子の酸素濃度により調節する。
また、前述したように、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とを交互に積層して負極活物質層21bを形成する場合には、雰囲気中における酸素濃度を変化させることにより調節するようにしてもよく、また、第1層を形成したのち、その表面を酸化させることにより第2層を形成するようにしてもよい。
なお、負極活物質層21bを形成したのちに、真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で熱処理を行い、負極集電体21aと負極活物質層21bとの界面をより合金化させるようにしてもよい。
次に、正極集電体22aに正極活物質層22bを形成する。例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材および結着剤(バインダー)とを混合して合剤を調製し、これをNMPなどの分散媒に分散させてスラリー状にして、この合剤スラリーを正極集電体22aに塗布した後、圧縮成型することにより正極22を形成する。
次に、負極21とセパレータ23と正極22とを積層して配置し、外装カップ24と外装缶25との中に入れ、電解液を注入し、それらをかしめることによってリチウムイオン二次電池20を組み立てる。この際、負極21と正極22とは、負極活物質層21bと正極活物質層22bとが対向するように配置する。
組み立て後、リチウムイオン二次電池20を充電すると、正極22からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極21側へ移動し、負極21において還元され、生じたリチウムは負極活物質と合金を形成し、負極21に取り込まれる。放電を行うと、負極21に取り込まれていたリチウムがリチウムイオンとして再放出され、電解液を介して正極22側へ移動し、正極22に再び吸蔵される。
図6は、本発明の本実施の形態に基づくリチウムイオン二次電池の別の構成を示す斜視図(a)および断面図(b)である。図6に示すように、二次電池30は角型の電池であり、電極巻回体36が電池缶37の内部に収容され、電解液が電池缶37に注入されている。電池缶37の開口部は、電池蓋38により封口されている。電極巻回体36は、帯状の負極31と帯状の正極32とをセパレータ(および電解質層)33を間に挟んで対向させ、長手方向に巻回したものである。負極31から引き出された負極リード34は電池缶37に接続され、電池缶37が負極端子を兼ねている。正極32から引き出された正極リード35は正極端子39に接続されている。
電池缶37および電池蓋38の材料としては、鉄やアルミニウムなどを用いることができる。但し、アルミニウムからなる電池缶37および電池蓋38を用いる場合には、リチウムとアルミニウムとの反応を防止するために、正極リード35を電池缶37と溶接し、負極リード34を端子ピン39と接続する構造とするのが好ましい。
リチウムイオン二次電池30は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、前述したように、負極31および正極32を作製する。次に、負極31と正極32とをセパレータ33を間に挟んで対向させ、長手方向に巻き回すことにより、電極巻回体36を形成する。この際、負極31と正極32とは、負極活物質層と正極活物質層とが対向するように配置する。次に、この電極巻回体36を角型形状の電池缶37に挿入し、電池缶37の開口部に電池蓋38を溶接する。次に、電池蓋38に形成されている電解液注入口から電解液を注入した後、注入口を封止する。以上のようにして、角型形状のリチウムイオン二次電池30を組み立てる。
また、電解液を高分子化合物に保持させる場合には、ラミネートフィルムなどの外装材からなる容器に電解液とともに重合性化合物を注入し、容器内において重合性化合物を重合させることにより、電解質をゲル化する。また、電極の大きな膨張収縮に対応するために、容器として金属缶を用いてもよい。また、負極31と正極32とを巻回する前に、負極31または正極32に塗布法などによってゲル状電解質を被着させ、その後、セパレータ33を間に挟んで負極31と正極32とを巻回するようにしてもよい。
組み立て後、前述したように、リチウムイオン二次電池30を充電すると、正極32からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極31側へ移動し、負極31において還元され、生じたリチウムは負極活物質と合金を形成し、負極31に取り込まれる。放電を行うと、負極31に取り込まれていたリチウムがリチウムイオンとして再放出され、電解液を介して正極32側へ移動し、正極32に再び吸蔵される。
リチウムイオン二次電池20および30では、負極活物質層中に負極活物質としてケイ素の単体及びその化合物などが含まれているため、二次電池の高容量化が可能になる。しかも、本実施の形態の負極は、その製造方法に基づく前述した構造的特徴を有し、充電時の前記活物質層の膨張に際して、電池用電極の構造破壊が起こりにくい。このため、充電容量、及び容量維持率などのサイクル特性が優れている。
以下、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。なお、以下の実施例の説明では、実施の形態において用いた符号および記号をそのまま対応させて用いる。
実施例1〜3および比較例1〜3
実施例1〜3では、円形キャンロール4を用い、負極活物質としてケイ素の単体(シリコン)を用い、真空蒸着法またはスパッタリング法によって薄膜型の負極活物質層を形成し、図5に示したコイン型のリチウムイオン二次電池20を作製した。
<負極21の形成>
まず、図1に示した真空チャンバー2内に、円形キャンロール4を設置する。次に、負極集電体12として厚さ18μm、表面粗度Ra値0.3μmの帯状電解銅箔を円形キャンロール4、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bの各外周面に渡して配置した。
実施例1では、原料として純度99%のシリコンを用い、偏向式電子ビーム蒸着源3を用いて、真空蒸着法により、既述したとおりの操作順序で、電解銅箔12上に負極活物質層としてシリコン層を形成した。この時の実質的な成膜レートは100nm/sであった。実施例1-1では静止成膜時のテンションをオンにし、実施例1-2では静止成膜時のテンションをオフにした。
実施例2では、スパッタリング法によって成膜した。純度99.99%のケイ素ターゲットを用い、RFマグネトロンスパッタリング法によってシリコン層を形成した。この時の実質的な成膜レートは0.5nm/sであり、形成されたケイ素からなる負極活物質層の厚さは4.5μmであった。実施例1と同様に、実施例2-1では静止成膜時のテンションをオンにし、実施例2-2では静止成膜時のテンションをオフにした。
実施例3では、実施例1と同様に真空蒸着法によってシリコン層を形成したが、実施例1と異なり蒸着を3回断続的に繰り返すことによって、所定の厚さのシリコン層を形成した。
スパッタリング法は、成膜速度が遅いので、長尺電極作製のための成膜方法には不向きである。真空蒸着法は、成膜速度が速いので、長尺電極作製のための成膜方法として用いられるが、負極集電体12に加わる熱負荷が大きい。このため、静止成膜を行うと、所定の厚さの負極活物質層を形成する前に、負極集電体12が焼き切れてしまったり、負極活物質層と負極集電体12との合金化が進みすぎてしまい、初回放電容量が減少したり、充放電サイクル特性が低下するという問題点がある。
そこで、実施例3では、負極集電体12が熱負荷に耐え得る時間だけ成膜を行い、その後一旦成膜を休止し、負極集電体12の温度が低下した後に成膜を再開する断続的な成膜方法によって、目標とする所定の厚さのシリコン層を形成した。
なお、この電極断面をAES(Auger electron spectroscopy;オージェ電子分光法)分析によって解析すると、一旦成膜を止めた部分のシリコン表面および電極最表面がチャンバー中の残留酸素もしくは大気開放時の大気中酸素によって、バルク中より酸化されており、酸素濃度のことなるシリコン層が積層された構造となっていることを確認した。この電極の活物質層おける酸素濃度を酸素濃度計で分析した結果、活物質全体に対して3原子数%以上の酸素の存在を確認した。
比較例1〜3では、負極集電体12を走行させながら、他の条件は実施例1〜3と同様にして成膜した。
<リチウムイオン二次電池20の作製>
次に、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合して合剤を調製し、この合剤を分散媒であるNMPに分散させてスラリー状とし、この合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体22aに塗布し、分散媒を蒸発させ乾燥させた後、圧縮成型することにより、正極活物質層22bを形成した。
次に、負極21とセパレータ23と正極22とを積層して配置し、外装カップ24と外装缶25との中に入れ、電解液を注入し、それらをかしめることによってリチウムイオン二次電池20を組み立てた。
セパレータ23として、微小多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムを中心材とし、その両面を微小多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムで挟み込んだ構造の、厚さ23μmの多層セパレータを用いた。
また、電解液としては、炭酸エチレン(EC)と炭酸ビニレン(VC)と炭酸ジメチル(DMC)とを、EC:VC:DMC=30:5:65の質量比で混合した混合溶媒に、電解質塩としてLiPF6を1mol/dm3の濃度で溶解させた溶液を用いた。
<リチウムイオン二次電池の評価>
作製した実施例1および比較例1の二次電池20について、サイクル試験を行い、容量維持率を測定した。このサイクル試験の1サイクルは、まず、1mA/cm2の定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.1mA/cm2になるまで充電を行う。次に、1mA/cm2の定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行うものである。この充放電サイクルを室温にて100サイクル行い、次式
100サイクル目の容量維持率(%)
=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100(%)
で定義される、100サイクル目の容量維持率(%)を調べた。結果を表1に示す。
比較例1〜3では、成膜時に負極集電体12を走行させることで図12に示した応力が発生し、熱負荷が不均一になり、熱負荷の不均一性などによってサイクル特性が悪化した。また、図12に示した応力が発生しながらも、長尺方向にテンションをかけているため、長尺方向に筋状の歪みが生じる。この筋状の歪みが特性をさらに悪化させる。
実施例1〜3では、比較例1〜3に比べてサイクル特性が向上した。実質的に長尺方向に対するテンションを無くすことによって、長尺方向に対する筋状の歪みを無くすことができる。容量維持率は、テンションをオフにした静止成膜(実施例1-2など)が最も良く、テンションをオンにしたままの静止成膜(実施例1-1など)がやや劣り、テンションをかけ、走行させながら成膜する走行成膜(比較例1など)が最も悪い。
図7は、実施例1-2および実施例1-1によって形成された負極活物質層の断面構造を示し、図8は、比較例1によって形成された負極活物質層の断面構造を示す走査型電子顕微鏡写真である。電解銅箔からなる負極集電体12の上に形成されたシリコンからなる負極活物質層では、シリコンは互いに間隙を置いて集合した微小な柱状またはブロック状の塊状体を形成することが知られている。
図7および図8からわかるように、容量維持率が最もよかった実施例1-2では多数のシリコン柱状体が規則正しくほぼ一定の間隙を置いて配列しているのに対し、実施例1-1では配列がやや乱れ、間隙が規則正しく形成されることはなくなっている。容量維持率が最も悪かった比較例1ではこの傾向が一層著しくなるとともに、シリコン柱状体自体が湾曲した形状に変化している。本実施例および比較例から、負極活物質層の形成方法と、二次電池を形成した場合の容量維持率と、シリコン柱状体の構造の間に密接な関係があることが判明した。
実施例1、2および3の容量維持率を互いに比べると、蒸着法によって3層に分けて活物質層を形成した実施例3が最もよく、蒸着法によって単層で活物質層を形成した実施例1が次によく、スパッタリング法によって活物質層を形成した実施例2がやや劣っていた。
実施例4
実施例4では、種々の多角形キャンロールを用い、他は実施例3と同様にして薄膜型の負極活物質層を形成し、図5に示したコイン型のリチウムイオン二次電池20を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表2に示す。
長尺成膜を行うと考えたとき、広い範囲にわたって同じ厚さの蒸着膜を形成できるキャンロールの形状として、図2〜4を用いて既述したように、蒸着源に対し対向面15が平面形または凹面形であることが望ましい。また、静止成膜を行うことでより特性向上へと繋がる。これらを考えたとき、それを実現できるキャンロールの形状として、円形キャンロール4よりも多角形キャンロール4a〜4dのような形状のものが望ましい。
また、成膜時には静止しており、次の面の成膜時にはキャンロールが回転しピュアな面が出てくるようになっている。これらのキャンロールを用いて成膜を行ったとき、特に内角が90度以上になると次面成膜への移行がスムーズとなるため成膜しやすくなる。
実施例4−1〜4−8および実施例3−1および3−2を互いに比較すると、容量維持率は、凹形四角形のキャンロール4dを用いた場合が最もよく、八角形、四角形、三角形、そして円形の順で低下することがわかった。
実施例5および比較例5
実施例5および比較例5では、負極活物質としてケイ素の代わりにスズを用いて、薄膜型の負極活物質層を形成した。他は実施例3と同様にして、コイン型のリチウムイオン二次電池20を作製した。実施例5−1〜5−4では多角形キャンロール4a〜4dを用い、比較例5は円形キャンロール4を用いた。
すなわち、まず、実施例1と同様にして、真空チャンバー2内に負極集電体12を配置した。但し、負極集電体12として、厚さ23μm、表面粗度Ra値0.5μmの帯状電解銅箔を用いた。
次に、既述した操作順序で、原料として純度99.9%の金属スズを用い、偏向式電子ビーム蒸着源3を用いて、電解銅箔12上に厚さ3μmのスズ層を形成した。その後、原料を純度99.9%のコバルトに変更し、同様にして連続的に厚さ1μmのコバルト層をスズ上へ成膜した。次に、真空チャンバー内に大気を導入し、シリコン層が形成された電解銅箔12を取り出し、アルゴン雰囲気中で12時間、200℃で加熱処理してスズ中にコバルトを拡散させ、両者を合金化して、負極21を形成した。
次に、実施例1と同様にして二次電池20を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表3に示す。
実施例6
実施例6では、負極集電体12として電解銅箔の代わりに表面粗度Ra値0.4μmのニッケル箔を用いて、薄膜型の負極活物質層を形成した。他は実施例3と同様にして、コイン型のリチウムイオン二次電池20を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表4に示す。
実施例5および6から、活物質をスズに変えても、集電体をニッケルに変えても、実施例1〜4と同様の結果が得られることがわかった。
実施例7および比較例7
実施例7および7では、負極活物質としてシリコンを用い、真空蒸着法によって負極集電体12の両面に負極活物質層を形成し、図6に示した角型のリチウムイオン二次電池30を作製した。
<負極31の形成>
まず、図1に示した真空チャンバー2内に、円形キャンロール4を設置する。次に、負極集電体12として厚さ18μm、表面粗度A面Ra値0.3μm、B面Ra値0.4μmの帯状電解銅箔を円形キャンロール4、2つのガイドローラ13aと13b、および2つのローラ14aと14bの各外周面に渡して配置した。
蒸着材料として実施例1と同じシリコンを用い、まず、A面側に厚さ4μmのシリコン層を形成し、その後、一旦長尺を裏返して再セッティングし、B面にも同様に厚さ4μmのシリコン膜を形成した。その後、負極リード34を取り付け、負極31を形成した。
<リチウムイオン二次電池30の作製>
次に、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合して合剤を調製し、この合剤を分散媒であるNMPに分散させてスラリー状とし、この合剤スラリーをアルミニウム箔からなる正極集電体に塗布し、分散媒を蒸発させ乾燥させた後、圧縮成型することにより、正極活物質層を形成した。その後、正極リード35を取り付け、正極32を形成した。
次に、負極31と正極32とをセパレータ33を間に挟んで対向させ、巻き回し、電極回巻体36を作製した。セパレータ33として、微小多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムを中心材とし、その両面を微小多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムで挟み込んだ構造の、厚さ23μmの多層セパレータを用いた。
次に、この電極巻回体36を角型形状の電池缶37に挿入し、電池缶37の開口部に電池蓋38を溶接する。次に、電池蓋38に形成されている電解液注入口から電解液を注入した後、注入口を封止して、リチウムイオン二次電池30を組み立てた。
電解液は、ECとVCとDMCとを、EC:VC:DMC=30:5:65の質量比で混合した混合溶媒に、電解質塩としてLiPF6を1mol/dm3の濃度で溶解させた溶液を用いた。
<リチウムイオン二次電池の評価>
作製した実施例5および比較例5の二次電池について、サイクル試験を行い、容量維持率を測定した。このサイクル試験の1サイクルは、まず、3mA/cm2の定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2になるまで充電を行う。次に、3mA/cm2の定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行うものである。この充放電サイクルを室温にて100サイクル行い、次式
100サイクル目の容量維持率(%)
=(100サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100(%)
で定義される、100サイクル目の容量維持率(%)を調べた。結果を表5に示す。
実施例8
実施例7と同様に、負極集電体12として厚さ18μm、表面粗度A面Ra値0.3μm、B面Ra値0.4μmの帯状電解銅箔を用い、両面にシリコン層を形成した。但し、実施例3と同様に、シリコン層を3層に分けて断続的に形成し、実施例4と同様に、多角形キャンロール4a〜4dを用いた。
実施例7と同様にして二次電池30を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表6に示す。
実施例7および8から、活物質層を集電体の両面に形成しても、実施例1〜4と同様の結果が得られることがわかった。
図9は、実施例8−7に基づく、負極集電体に加えるテンションの大きさと容量維持率との関係を示すグラフである。実験は、上記実施例8−7と同様に、電解銅箔を負極集電体として、シリコンを活物質とし、八角形キャンロール3cを用い、蒸着法によって静止成膜により成膜した。容量維持率は、100サイクル目の容量維持率で、実施例8−7における容量維持率(91.5%)に対する比で表した。テンションは銅箔の幅方向の単位長さ(1cm)あたりのテンションの大きさ(N/cm)である。
図9から、容量維持率が実施例8−7の7割程度まで低下することを許容すれば、静止成膜中に集電体の長尺方向に加わる機械的な引っ張り応力は、2N/cm以下であるのがよく、より好ましくは、機械的な引っ張り応力が1N/cm以下であるのがよく、更に好ましくは、静止成膜中に、前記集電体の長尺方向に機械的な引っ張り応力が加わらないようにするのがよいことがわかる。
実施例9および10
実施例9では、チャンバー2内に3%の酸素を含んだアルゴン混合ガスを流入させ、この雰囲気下で成膜を行った。成膜速度などは実施例3と同じである。
なお、この電極断面をAES分析にて解析すると、シリコンバルク内および一旦成膜を止めた部分のシリコン表面および電極の最表面がチャンバー中の残留酸素もしくは大気開放時の大気中酸素によって、バルク中より酸化されており、酸素濃度の異なるシリコン層が積層された構造となっていることを確認した。この電極の活物質層おける酸素濃度を酸素濃度計で分析した結果、活物質全体に対して6原子数%の酸素が存在することを確認した。
実施例10では、酸素を導入する手段として、図10に示すようにシリコンSiを溶解させるるつぼに二酸化ケイ素SiO2を直接投入し、この蒸着源を用いて成膜した。
これらの負極を用いて、実施例7と同様にして二次電池30を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表7に示す。実施例10では、サイクル特性が大いに向上することがわかった。このメカニズムは、いまだ解明途上にあり、あまりわかっていないが、副反応抑制に効果があり、初回充電時にリチウムが比較的均一に活物質層に取り込まれる効果がある。
実施例11〜13
実施例10と同様に、蒸着源のるつぼ中にシリコンとともに異種金属材料を直接投入し、この蒸着源を用いて成膜した。異種金属としてコバルトCo、チタンTiおよび鉄Feを用い、10原子数%を混入させた。他は実施例7と同様にして二次電池30を作製し、100サイクル目の容量維持率を測定した。結果を表8に示す。
これらの異種金属は、充放電サイクル時の副反応を抑え、電極に高分子状の皮膜が堆積するのを抑制することにより、サイクル特性を改善する。異種金属を加えることによる別の効果は、の抵抗を下げることによって、充電時にリチウムが負極活物質層に均一に取り込まれるようにすることである。この結果、充電時にリチウムが局所的に集中して負極活物質層に取り込まれることによって起こる構造破壊を防止し、充電時の負極活物質層の膨張を抑制する。
実施例1〜13のいずれの実施例でも、負極集電体に加わる熱負荷をできるだけ減らすことが基本的に重要であって、そのためには、冷却手段を備えたキャンロールなどに負極集電体を密着させることが必要であり、その実現手段として引っ張り応力のない状態での静止成膜が最も望ましい。その結果得られる負極においては、活物質の剥離が起こりにくく、電極の変形も起こりにくく、充放電サイクル特性が向上する。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々に変形可能である。
例えば、上記の実施の形態および実施例では、外装部材としてコイン型や角型の缶を用いる場合について説明したが、本発明は、外装部材としてフィルム状の外装材などを用いる場合についても適用することができる。その形状も、コイン型や角型の他に、円筒型、ボタン型、薄型、あるいは大型など、どのようなものでもよい。
また、本発明は、負極と正極とを複数層積層した積層型のものについても同様に適用することができる。