本発明は、リチウムイオン二次電池などに好適な二次電池用負極及びその製造方法に関するものであり、詳しくは、不可逆容量の発生の少ない二次電池用負極及びその製造方法、並びにそれを用いた二次電池に関するものである。
近年、モバイル機器は高性能化および多機能化されてきており、これらに伴い、モバイル機器に電源として用いられる二次電池にも、小型化、軽量化および薄型化が要求され、高容量化が求められている。
この要求に応え得る二次電池としてリチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池の電池特性は、用いられる電極活物質などによって大きく変化する。現在実用化されている代表的なリチウムイオン二次電池では、正極活物質としてコバルト酸リチウムが用いられ、負極活物質として黒鉛が用いられているが、このように構成されたリチウムイオン二次電池の電池容量は理論容量に近づいており、今後の改良で大幅に高容量化することは難しい。
そこで、充電の際にリチウムと合金化するケイ素やスズなどを負極活物質として用いて、リチウムイオン二次電池の大幅な高容量化を実現することが検討されている。ただし、ケイ素やスズなどを負極活物質として用いた場合、充電および放電に伴う膨張および収縮の度合いが大きいため、充放電に伴う膨張収縮によって活物質が微粉化したり、負極集電体から脱落したりして、充放電サイクル特性が低下するという問題がある。
従来、リチウムイオン二次電池などの負極としては、粒子状の活物質とバインダーとを含むスラリーを負極集電体に塗布した塗布型負極が用いられてきた。これに対し、近年、気相法、液相法、あるいは焼結法などにより、ケイ素などの負極活物質層を負極集電体に積層して形成した負極が提案されている(例えば、特開平8−50922号公報、特許第2948205号公報、および特開平11−135115号公報)。このようにすれば、負極活物質層と負極集電体とが一体化され、塗布型負極に比べて、充放電に伴う膨張収縮によって活物質が細分化されることを抑制でき、初回放電容量および充放電サイクル特性が向上するとされている。また、負極における電気伝導性が向上する効果も得られる。
しかし、ケイ素やスズなどを負極活物質として用いる負極には、上述した構造的破壊の問題の他に、黒鉛を負極活物質として用いる負極に比べて、充放電サイクルにおいて充電容量に対する不可逆容量の割合が大きい、すなわち、充電容量と、それから得られる放電容量との差が大きいという問題もある。これは、充電時に正極から放出され負極に取り込まれたリチウムイオンの一部が、何らかの理由で負極に保持されたままになり、放電時に正極に戻ることができなくなるために起こると考えられる。この場合、利用できるリチウムイオンの量が減少してしまうので、電池容量を最大限に活かす設計が難しくなり、電池を実際に使用するときに十分な充放電サイクル特性が得られなくなる。
そこで、不可逆容量の発生を抑えるために、後述の特許文献1には、リチウムを吸蔵・放出する活物質を含むリチウム二次電池用電極において、リン、酸素、および窒素から選ばれる少なくとも1種の不純物を含有する、微結晶シリコン薄膜または非晶質シリコン薄膜を、前記活物質として用いたことを特徴とするリチウム二次電池用電極が提案されている。
特許文献1では、微結晶シリコン薄膜とは、ラマン分光分析において、結晶領域に対応する520cm-1 近傍の散乱ピークと、非晶質領域に対応する480cm-1 近傍の散乱ピークの両方が実質的に検出されるシリコン薄膜のことであると説明されている。これは、非晶質領域を有している点で、520cm-1 近傍の散乱ピークのみが検出される、いわゆるポリシリコン(多結晶シリコン)とは異なっている。また、非晶質シリコン薄膜とは、ラマン分光分析において、結晶領域に対応する520cm-1 近傍の散乱ピークが実質的に検出されず、非晶質領域に対応する480cm-1 近傍の散乱ピークが実質的に検出されるシリコン薄膜のことであると説明されている。
また、後述の特許文献2には、リチウムの吸蔵・放出が可能な負極に、固相Aからなる核粒子の周囲の全面または一部を、固相Bによって被覆した複合粒子で、前記固相Aはケイ素、スズ、亜鉛の少なくとも一種を構成元素として含み、前記固相Bは前記固相Aの構成元素であるケイ素、スズ、亜鉛のいずれかと、前記構成元素を除いて、周期表の2族元素、遷移元素、12族元素、13族元素、ならびに炭素を除く14族元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素との固溶体または金属間化合物であり、かつ、少なくとも前記固相Aまたは前記固相Bのいずれかが非晶質である材料を用いる非水電解質二次電池が提案されている。
特許文献2には、不可逆容量が大きくなる要因として、比較的大きな結晶子サイズと明確な結晶方位を持つ結晶質系では、その結晶性の高さゆえに、充電時のリチウムの挿入によって各結晶子にそれぞれの組織が維持できないほどの体積変化が生じてくると、結晶子間を結ぶ粒界付近を中心に応力歪みを受けやすくなり、粒界を通しての電子伝導の経路が断たれることによって、活性サイトの一部が孤立して不活性化することが挙げられている。
そして、結晶子サイズの極微細化、他元素との部分的なディスオーダー化、または結晶方位のランダム化などの非晶質化組織を、構成要素に取り入れることによって、体積変化の影響を極小化させ、応力を緩和することによって、活性サイトの電気的孤立化を防止すれば、初回充電における不可逆容量の発生を最小限に抑えることができると、述べられている。
なお、特許文献2では、非晶質とは、CuK α線を用いたX線回折法で2θ値が20度〜40度の位置に頂点を有するブロードな散乱帯を有するもののこととされており、結晶性の回折線を有してもよいが、その場合には、最も強い回折強度が現れたピークの半価幅が2θ値で0.6度以上であることが望ましいとされている。
特開2001−210315号公報(第2頁)
特開2001−291512号公報(第3、4及び7、8頁、図1)
上述したように、ケイ素などを負極活物質として用いる負極では、充放電サイクルに伴う結晶構造の変化が不可逆容量の発生の一因であり、特許文献1および2には、負極における初期の不可逆容量の発生を抑えるために、活物質、あるいは負極の一部または全部を非晶質化することが有効であることが述べられている。これが正しければ、リチウム二次電池用負極に関しては、気相法によって形成されたケイ素を主成分とする活物質層は、通常、非晶質構造または微結晶構造を有しているので、特に不可逆容量の発生の抑制を意図したものでなくても、非晶質化の効果が得られる場合が多いと期待される。
しかしながら、本発明者は、鋭意研究に努めた結果、非晶質化さえされていれば不可逆容量の発生を抑える上で常に同じ効果があるのではなく、非晶質構造のケイ素にも局所的な秩序性の度合いが異なる様々なケイ素があること、そして、この局所的な秩序性の度合いの違いによって非晶質化の効果にも違いがあり、非晶質ケイ素の局所的な秩序性の度合いが低いほど、負極活物質の可逆性が向上し、電池の充放電サイクル特性が向上することを発見した。
本発明はかかる実情に鑑みてなされたもので、その目的は、リチウムイオン二次電池などに好適な負極であって、高容量で充放電サイクル特性に優れ、とくに、不可逆容量の発生が少ない二次電池用負極及びその製造方法、並びにそれを用いた二次電池を提供することにある。
本発明の第1の二次電池用負極は、負極集電体に、ケイ素を含有する負極活物質層が設けられたものであって、負極活物質層中のケイ素が非晶質構造を有し、その初回充放電後のラマンスペクトルが、横波光学フォノンによる散乱によってシフト位置480cm-1 近傍に現れる散乱ピークの強度をTO、縦波音響フォノンによる散乱によってシフト位置300cm-1 近傍に現れる散乱ピークの強度をLA、縦波光学フォノンによる散乱によってシフト位置400cm-1 近傍に現れる散乱ピークの強度をLOとするとき、以下の条件式(1)および条件式(2)のうちの少なくとも一方の関係を満たすようにしたものである。
0.25≦LA/TO ……(1)
0.45≦LO/TO ……(2)
ここで、シフト位置480cm-1 近傍、300cm-1 近傍、および400cm-1 近傍に現れる散乱ピークとは、それぞれ、シフト位置480±10cm-1 、300±10cm-1 、および400±10cm-1 の各範囲内に現れる最も大きな散乱ピークを意味する。
本発明の第2の二次電池用負極は、負極集電体に、ケイ素を含有する負極活物質層が設けられたものであって、負極活物質層中のケイ素が非晶質構造を有し、その初回充放電後のラマンスペクトルにおいて、横波光学フォノンによる散乱によってシフト位置480cm-1 近傍に現れる散乱ピークの強度をTO、縦波光学フォノンによる散乱によってシフト位置400cm-1 近傍に現れる散乱ピークの強度をLOとするとき、TOに対するLOの比(LO/TO)が充放電1サイクルによって増加する増加分Δ(LO/TO)が、以下の条件式(3)を満たすようにしたものである。
Δ(LO/TO)≦0.020 ……(3)
ここで、シフト位置480cm-1 近傍、および400cm-1 近傍に現れる散乱ピークとは、それぞれ、シフト位置480±10cm-1 、および400±10cm-1 の各範囲内に現れる最も大きな散乱ピークを意味する。
なお、Δ(LO/TO)は、LO/TOが充放電1サイクルによって増加する増加分であると表現したが、実際の測定では、充放電サイクルを複数サイクル行い、この間のLO/TOの増加分をサイクル数で割って、複数サイクルにおける平均値として1サイクル当たりの増加分Δ(LO/TO)を求めてもよいものとする。
本発明の二次電池は、上記の本発明の第1または第2の二次電池用負極を備えるようにしたものである。
本発明の第1の二次電池用負極の製造方法は、負極集電体を用意したのち、この負極集電体に、500℃以下の成膜温度にて成膜する真空蒸着法、又は、230℃以下の成膜温度にて成膜するスパッタリング法によってケイ素を含有する負極活物質層を形成するものである。なお、成膜温度とは、真空蒸着法では、負極活物質層形成領域において、例えば負極集電体保持具に装着した熱電対を接触させて測定される、負極集電体の、負極活物質層形成面の反対側の面の温度であり、スパッタリング法では、負極活物質層形成領域において、例えば負極集電体保持具に装着した熱電対によって測定される負極集電体保持具自体の温度である。本発明の第2の二次電池用負極の製造方法は、負極集電体を用意したのち、この負極集電体に、その表面を1×10−2 Pa以上5×10−1 Pa以下の圧力を有する雰囲気で覆いながら、スパッタリング法によってケイ素を含有する負極活物質層を形成するものである。
既述したように、ケイ素を負極活物質として用いる負極では、充放電サイクルに伴う結晶構造の変化が不可逆容量の発生の一因であり、負極における不可逆容量の発生を抑えるために、ケイ素を非晶質化することが有効である。ただし、本発明者が発見したように、負極活物質は非晶質化さえされていればよいというものではなく、非晶質構造のケイ素にも局所的な秩序性の度合いが異なる様々なケイ素があり、秩序性の度合いが低いほど負極活物質の可逆性が向上し、電池の充放電サイクル特性が向上するので、この局所的な秩序性の度合いをできるだけ低く抑えることが重要である。
そのためには、まず、非晶質ケイ素の局所的な秩序性の度合いを客観的に決定する方法を確立する必要がある。本発明では、非晶質ケイ素のラマン分光分析を行い、シフト位置480cm-1 近傍に現れる、横波光学フォノン(Transverse Optical Phonon)による散乱光のピーク強度をTO、シフト位置300cm-1 近傍に現れる、縦波音響フォノン(Longitudinal Acoustic Phonon)による散乱光のピーク強度をLA、そして、シフト位置400cm-1 近傍に現れる、縦波光学フォノン(Longitudinal Optical Phonon)による散乱光のピーク強度をLOとするとき、TOを基準とするLA及びLOの相対的強度、すなわち、比LA/TO及びLO/TOを決定する。そして、これらの比が大きいほど、非晶質ケイ素中の局所的な秩序性の度合いが低いものとする。
結晶ケイ素では、縦波音響フォノンによる散乱光、及び縦波光学フォノンによる散乱光は観察されないので、結晶性が比較的高く、局所的な秩序性が高い非晶質ケイ素ほど、これらの散乱光は弱くなり、逆に、結晶性が低く、局所的な秩序性が乏しい非晶質ケイ素ほど、これらの散乱光は強くなる傾向がある。従って、これらの散乱光の強さ、LA及びLOを測定することによって、非晶質ケイ素中の局所的な秩序性の度合いを評価することができる。
しかしながら、散乱光の絶対的強度を実験的に決定するには、多くの煩雑な工程が必要になり、結果的に正確さも得られにくい。そこで本発明では、LA及びLOの絶対的強度の代わりに、TOを基準とするLA及びLOの相対的強度、すなわち、比LA/TO及びLO/TOを用いて、非晶質ケイ素中の局所的な秩序性の度合いを評価する。これらの比は簡易なラマン分光分析から求めることができるので、LA及びLOの絶対的強度を用いる場合に比べて、はるかに容易に非晶質ケイ素中の局所的な秩序性の度合いの評価を行うことができる。
なお、横波光学フォノンによる散乱光は、非晶質ケイ素中の局所的な秩序性が高いほど、ピークの半値幅は狭くなり、ピーク強度TOは大きくなる傾向がある。従って、TOを基準とした相対的強度を用いても、実際上、誤った結論が導かれるおそれはない。
さて、本発明の第1の二次電池用負極では、初回充放電後のケイ素のラマンスペクトルが条件式(1)および条件式(2)のうちの少なくとも一方の関係を満足しており、非晶質構造を有するケイ素中の局所的な秩序性が十分に低く抑えられている。
0.25≦LA/TO ……(1)
0.45≦LO/TO ……(2)
この結果、充放電サイクルに伴う構造変化などによって不可逆的に取り込まれてしまうリチウムイオンの量が少ないなど、不可逆容量の発生が抑えられ、初回放電容量及び容量維持率が大きいなど、優れた充放電サイクル特性が実現される。
また、本発明の第2の二次電池用負極は、初回充放電後のケイ素のラマンスペクトルにおいて、LO/TO値が充放電1サイクルによって増加する増加分Δ(LO/TO)が、以下の条件式(3)を満たすようにしたものである。
Δ(LO/TO)≦ 0.020 ……(3)
一般に、充放電を行うごとに、膨張収縮によって活物質の秩序性は低下するので、比LO/TOは増加する。この際、秩序性の高いものほど、秩序性が低下する余地が大きいので、充放電1サイクルによる比LO/TOの増加分Δ(LO/TO)は大きい。逆に、秩序性の低いものほど、秩序性が低下する余地が小さいので、充放電1サイクルによる比LO/TOの増加分Δ(LO/TO)は小さい。従って、上記の条件式(3)
Δ(LO/TO)≦ 0.020
の主旨は、非晶質ケイ素中の局所的な秩序性が十分に低く抑えられているため、充放電1サイクルによる比LO/TOの増加分Δ(LO/TO)が小さいということであり、第1の二次電池用負極が満たす条件式(1)および条件式(2)を、視点を変えて表現したものであると言うこともできる。従って、本発明の第2の二次電池用負極においても、第1の二次電池用負極と同様、不可逆容量の発生が抑えられ、初回放電容量及び容量維持率が大きいなど、優れた充放電サイクル特性が実現される。
また、本発明の二次電池では、負極として、第1の二次電池用負極又は第2の二次電池用負極を備えているので、これらの負極の特徴である優れた充放電サイクル性能が、実際に電池の優れた充放電サイクル性能として発現する。
また、本発明における第1および第2の二次電池用負極の製造方法によれば、成膜条件を規定することによって非晶質ケイ素中の局所的な秩序性の度合いを制御するので、確実に第1の二次電池用負極又は第2の二次電池用負極を製造することができ、成膜条件を規定せずに二次電池用負極を製造する場合に比べて、充放電サイクル特性に優れた二次電池用負極を確実に製造することができる。
本発明の第1の二次電池用負極では、以下の条件式(4)および条件式(5)のうちの少なくとも一方の関係を満たすように構成されていることが望ましい。
0.28≦LA/TO ……(4)
0.50≦LO/TO ……(5)
この場合、負極活物質層を構成する非晶質構造のケイ素の、局所的な秩序性の度合いがさらに低く抑えられているので、充放電サイクル特性がさらに向上する。
本発明の第1及び第2の二次電池用負極において、負極集電体と負極活物質層とは、両者の界面の少なくとも一部において合金化しているのがよい。または、界面において負極集電体の構成元素が負極活物質層に拡散しているか、または負極活物質層の構成元素が負極集電体に拡散しているか、或いは両者が互いに拡散し合って、接合しているのがよい。このようであれば、負極活物質層と負極集電体との密着性が向上し、充放電に伴う膨張収縮によって負極活物質が細分化されることが抑制され、負極集電体から負極活物質層が脱落するのが抑えられるからである。また、第1及び第2の二次電池用負極における電気伝導性を向上させる効果も得られる。本発明では、上述した元素の拡散や、固溶体化も、合金化の一形態に含めるものとする。
また、負極活物質層が、気相法又は/及び焼成法によって形成されているのがよい。負極活物質層の形成方法は特に限定されるものではなく、負極集電体に非晶質構造を有するケイ素からなる負極活物質層を形成できる方法であれば何でもよい。例えば、気相法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、CVD法(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長法)、あるいは溶射法などのいずれを用いてもよい。また、これらの2つ以上の方法、更には他の方法を組み合わせて負極活物質層を成膜するようにしてもよい。
また、負極活物質層に、構成元素として、3〜45原子数%の酸素が含まれているのがよい。酸素は負極活物質層の膨張および収縮を抑制し、放電容量の低下および膨れを抑制することができるからである。負極活物質層に含まれる酸素の少なくとも一部は、ケイ素と結合していることが好ましく、結合の状態は一酸化ケイ素でも二酸化ケイ素でも、あるいはそれら以外の準安定状態でもよい。
この際、酸素含有率が3原子数%よりも少ないと十分な酸素含有効果を得ることができない。また、酸素含有率が45原子数%よりも多いと電池のエネルギー容量が低下してしまうほか、負極活物質層の抵抗値が増大し、局所的なリチウムの挿入により膨れたり、サイクル特性が低下したりしてしまうと考えられるからである。なお、充放電により電解液などが分解して負極活物質層の表面に形成される被膜は、負極活物質層には含めない。よって、負極活物質層における酸素含有率とは、この被膜を含めないで算出した数値である。
また、負極活物質層として、酸素を含まないか又は酸素含有率の少ない第1活物質層と、酸素含有量の多い第2活物質層とが、交互に複数層ずつ設けられているのがよい。この場合、充放電に伴う膨張および収縮を、より効果的に抑制することができるからである。例えば、第1活物質層におけるケイ素の含有率は90原子数%以上であることが好ましく、酸素は含まれていても含まれていなくてもよいが、酸素含有率は少ない方が好ましく、全く酸素が含まれないか、または、酸素含有率が微量であるのがより好ましい。この場合、より高い放電容量を得ることができるからである。一方、第2活物質層におけるケイ素の含有率は90原子数%以下、酸素の含有率は10原子数%以上であることが好ましい。この場合、膨張および収縮による構造破壊をより効果的に抑制することができるからである。また、酸素の含有率は、第1活物質層と第2活物質層との間において段階的あるいは連続的に変化していることが好ましい。酸素の含有率が急激に変化すると、リチウムイオンの拡散性が低下し、抵抗が上昇する場合があるからである。
また、負極集電体として銅を含有する材料を用いるのがよい。リチウムと金属間化合物を形成せず、負極活物質層中のケイ素と合金化する金属元素として、銅、ニッケル、および鉄が挙げられる。中でも、銅を材料とすれば、十分な強度と導電性とを有する負極集電体が得られるので、特に好ましい。
また、負極集電体の、負極活物質層が設けられる面が、粗化されているのがよい。例えば、負極集電体の表面粗さRz値が1.0μm以上であるのがよい。このようであれば、負極活物質層と負極集電体との密着性が向上するからである。一方、Rz値は5.5μm以下、より好ましくは4.5μm以下であるのがよい。表面粗さが大きすぎると、負極活物質層の膨張に伴って負極集電体に亀裂が生じやすくなるおそれがあるからである。なお、表面粗さRzは、JIS B0601−1994で規定されている十点平均粗さRzのことである。電解銅箔は、銅を含有する材料からなり、表面が粗化されているので、負極集電体の材料として好ましい。
また、負極活物質層に、構成元素として、集電体を構成する成分とは異なる金属元素が含まれているのがよい。
本発明の二次電池は、正極を構成する正極活物質中にリチウム化合物が含まれ、リチウム二次電池として構成されているのがよい。この際、電解質を構成する溶媒として、不飽和結合を有する環状炭酸エステル、例えばビニレンカーボネート(VC)又はビニルエチレンカーボネート(VEC)が含まれているのがよい。また、電解質を構成する溶媒として、環状炭酸エステル又は/及び鎖状炭酸エステルの水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されたフッ素含有化合物、例えばジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)が含まれているのがよい。これらの場合、充放電サイクル特性がさらに向上する。
また、電解質にスルトン化合物又はスルホン化合物が含まれるのがよい。この際、スルトン化合物が1,3−プロペンスルトンであるのが更によい。これにより、充放電にともなう副反応が抑制され、ガス膨張等によって生じる電池形状の変形に起因するサイクル特性の低下を防止することができる。
また、前記電解質を構成する電解質塩として、ホウ素とフッ素とを構成元素とする化合物が含まれているのがよく、この場合、充放電サイクル特性がさらに向上する。
本発明の二次電池用負極の製造方法において、真空蒸着法による成膜では、200℃以上の成膜温度によって負極集電体に負極活物質層を形成するのがよい。真空蒸着法では、蒸着粒子の入射エネルギーが小さいため、負極集電体に対する負極活物質層の密着性を確保するために、負極集電体の温度を200℃以上にすることが望ましい。
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。この際、一般的に用いられている表現に合わせて、「ケイ素」を「シリコン」と記述することがある。
図1(a)は、非晶質シリコン、多結晶シリコン、および結晶シリコンのラマンスペクトルであり、図1(b)は、後に説明する実施例8による非晶質シリコンのラマンスペクトルの拡大図である。結晶シリコンでは、結晶構造のシリコンに対応してシフト位置520cm-1 近傍にのみ散乱ピークが観察される。多結晶シリコンでは、上記結晶構造シリコンに対応する散乱ピークの波数がわずかに低波数側にシフトし、半値幅がやや大きくなるが、結晶シリコンのスペクトルと大きな違いはない。これに対し、非晶質シリコンでは、非晶質構造に対応してシフト位置480cm-1 近傍、シフト位置400cm-1 近傍、およびシフト位置300cm-1 近傍に幅広の散乱ピークが観測される。
シフト位置480cm-1 近傍に現れる散乱ピークは、結晶シリコンのシフト位置520cm-1 近傍に現れる散乱ピークと同じ、横波光学フォノン(Transverse Optical Phonon)による散乱光であり、非晶質シリコン中の局所的な秩序性が高いほど、ピークの半値幅は狭くなり、ピーク強度は強くなり、ピーク波数が結晶シリコンのピーク波数(520cm-1 )に近づく傾向がある。従って、この散乱ピークのピーク波数やピーク強度や半値幅を測定することによって、非晶質シリコンの局所的な秩序の度合いを評価することができると期待される。しかし、この散乱ピークのピーク波数は応力の影響も受けるため、局所的な秩序性の度合いと相関しない場合もある。このため、シフト位置480cm-1 近傍に現れる散乱ピークのみから、非晶質シリコン中の局所的な秩序性の度合いを決定するのは、誤った結論を導くおそれがある。
一方、シフト位置300cm-1 近傍に現れる散乱ピークは、縦波音響フォノン(Longitudinal Acoustic Phonon)による散乱光であり、シフト位置400cm-1 近傍に現れる散乱ピークは、縦波光学フォノン(Longitudinal Optical Phonon)による散乱光である。結晶シリコンでは、縦波音響フォノンによる散乱光および縦波光学フォノンによる散乱光は観察されないため、結晶性が比較的高く、局所的な秩序性が高い非晶質シリコンほど、これらの散乱光は弱くなり、逆に、結晶性が低く、局所的な秩序性が乏しい非晶質シリコンほど、これらの散乱光は強くなる傾向がある。従って、これらの散乱光の強さを測定することによって、非晶質シリコン中の局所的な秩序性の度合いを評価することができる。
しかし、散乱光の絶対的強度を実験的に決定するには、多くの煩雑な工程が必要になり、結果的に正確さも得られにくい。そこで本発明では、シフト位置480cm-1 近傍に現れる横波光学フォノンによる散乱光のピーク強度をTO、シフト位置300cm-1 近傍に現れる縦波音響フォノンによる散乱光のピーク強度をLA、そして、シフト位置400cm-1 近傍に現れる縦波光学フォノンによる散乱光のピーク強度をLOとするとき、TOを基準とするLAおよびLOの相対的強度、すなわち、比LA/TOおよびLO/TOを用いて、非晶質シリコン中の局所的な秩序性の度合いを評価する。
これらの比は、簡易なラマン分光分析で得られるスペクトル(図1(b)参照。)から求めることができるので、LAおよびLOの絶対的強度を用いる場合に比べて、はるかに容易に非晶質シリコン中の局所的な秩序性の度合いを評価することができる。なお、先述したように、TOは、基本的には、非晶質シリコン中の局所的な秩序性が高いほど大きくなる傾向があるので、TOを基準とした相対的強度を用いても、実際上、誤った結論が導かれるおそれはない。
図2は、本実施の形態に基づくリチウムイオン二次電池の構成の一例を示す斜視図(a)および断面図(b)である。図2に示すように、二次電池10は角型の電池であり、電極巻回体6が電池缶7の内部に収容され、電解液が電池缶7に注入されている。電池缶7の開口部は、電池蓋8により封口されている。電極巻回体6は、帯状の負極1と帯状の正極2とをセパレータ(および電解質層)3を間に挟んで対向させ、長尺方向に巻回したものである。負極1から引き出された負極リード端子4は電池缶7に接続され、電池缶7が負極端子を兼ねている。正極2から引き出された正極リード端子5は正極端子9に接続されている。
電池缶7および電池蓋8の材料としては、鉄やアルミニウムなどを用いることができる。但し、アルミニウムからなる電池缶7および電池蓋8を用いる場合には、リチウムとアルミニウムとの反応を防止するために、正極リード端子5を電池缶7と溶接し、負極リード端子4を端子ピン9と接続する構造とする方が好ましい。
以下、リチウムイオン二次電池10について詳述する。
負極1は、負極集電体と、負極集電体に設けられた負極活物質層とによって構成されて
おり、上述した二次電池用負極が、所定の形状に裁断されて用いられている。
負極集電体は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない金属材料によって形成されているのがよい。負極集電体がリチウムと金属間化合物を形成する材料であると、充放電に伴うリチウムとの反応によって負極集電体が膨張収縮する。この結果、負極集電体の構造破壊が起こって集電性が低下する。また、負極活物質層を保持する能力が低下して、負極活物質層が負極集電体から脱落しやすくなる。
リチウムと金属間化合物を形成しない金属元素としては、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、鉄(Fe)、あるいはクロム(Cr)などが挙げられる。なお、本明細書において、金属材料とは、金属元素の単体だけではなく、2種以上の金属元素、あるいは1種以上の金属元素と1種以上の類金属元素(半金属元素)とからなる合金も含むものとする。
また、負極集電体は、負極活物質層と合金化する金属元素を含む金属材料によって構成されているのがよい。このようであれば、合金化によって負極活物質層と負極集電体との密着性が向上し、充放電に伴う膨張収縮によって負極活物質が細分化されることが抑制され、負極集電体から負極活物質層が脱落するのが抑えられるからである。また、負極1における電気伝導性を向上させる効果も得られる。
リチウムと金属間化合物を形成せず、負極活物質層中のケイ素と合金化する金属元素として、銅、ニッケル、および鉄が挙げられる。中でも、銅を材料とすれば、十分な強度と導電性とを有する負極集電体が得られるので、特に好ましい。
負極集電体は、単層であってもよいが、複数層によって構成されていてもよい。複数層からなる場合、負極活物質層と接する層がケイ素と合金化する金属材料からなり、他の層がリチウムと金属間化合物を形成しない金属材料からなるのがよい。
負極集電体の、負極活物質層が設けられる面は、粗化されていることが好ましく、例えば、負極集電体の表面粗さRz値が1.0μm以上であるのがよい。このようであれば、負極活物質層と負極集電体との密着性が向上するからである。一方、Rz値は5.5μm以下、より好ましくは4.5μm以下であるのがよい。表面粗さが大きすぎると、負極活物質層の膨張に伴って負極集電体に亀裂が生じやすくなるおそれがあるからである。負極集電体のうち、負極活物質層が設けられている領域の表面粗度Rzが上記の範囲内であればよい。
負極活物質層中には、負極活物質としてケイ素が含まれている。ケイ素はリチウムイオンを合金化して取り込む能力、および合金化したリチウムをリチウムイオンとして再放出する能力に優れ、リチウムイオン二次電池を構成した場合、大きなエネルギー密度を実現することができる。ケイ素は、単体で含まれていても、合金で含まれていても、化合物で含まれていてもよく、それらの2種以上が混在した状態で含まれていてもよい。
負極活物質層は、厚さが4〜7μm程度の薄膜型であるのがよい。この際、ケイ素の単体の一部又は全部が、負極集電体と合金化しているのがよい。既述したように、負極活物質層と負極集電体との密着性を向上させることができるからである。具体的には、界面において負極集電体の構成元素が負極活物質層に、または負極活物質層の構成元素が負極集電体に、またはそれらが互いに拡散していることが好ましい。充放電により負極活物質層が膨張収縮しても、負極集電体からの脱落が抑制されるからである。なお、本願では、このような元素の拡散や固溶体化も、合金化の一形態に含めるものとする。
また、負極活物質層を構成する元素として、酸素が含まれているのがよい。酸素は負極活物質層の膨張および収縮を抑制し、放電容量の低下および膨れを抑制することができるからである。負極活物質層に含まれる酸素の少なくとも一部は、ケイ素と結合していることが好ましく、結合の状態は一酸化ケイ素でも二酸化ケイ素でも、あるいはそれら以外の準安定状態でもよい。
負極活物質層における酸素の含有量は、3原子数%以上、45原子数%以下の範囲内であることが好ましい。酸素含有量が3原子数%よりも少ないと十分な酸素含有効果を得ることができない。また、酸素含有量が45原子数%よりも多いと電池のエネルギー容量が低下してしまうほか、負極活物質層の抵抗値が増大し、局所的なリチウムの挿入により膨れたり、サイクル特性が低下したりしてしまうと考えられるからである。なお、充放電により電解液などが分解して負極活物質層の表面に形成される被膜は、負極活物質層には含めない。よって、負極活物質層における酸素含有量とは、この被膜を含めないで算出した数値である。
また、負極活物質層は、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とが交互に積層されていることが好ましく、第2層は少なくとも第1層の間に1層以上存在することが好ましい。この場合、充放電に伴う膨張および収縮を、より効果的に抑制することができるからである。例えば、第1層におけるケイ素の含有量は90原子数%以上であることが好ましく、酸素は含まれていても含まれていなくてもよいが、酸素含有量は少ない方が好ましく、全く酸素が含まれないか、または、酸素含有量が微量であるのがより好ましい。この場合、より高い放電容量を得ることができるからである。一方、第2層におけるケイ素の含有量は90原子数%以下、酸素の含有量は10原子数%以上であることが好ましい。この場合、膨張および収縮による構造破壊をより効果的に抑制することができるからである。また、酸素の含有量は、第1層と第2層との間において段階的あるいは連続的に変化していることが好ましい。酸素の含有量が急激に変化すると、リチウムイオンの拡散性が低下し、抵抗が上昇してしまう場合があるからである。
なお、負極活物質層は、ケイ素および酸素以外の他の1種以上の構成元素を含んでいてもよい。他の元素としては、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、銀(Ag)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ビスマス(Bi)、あるいはアンチモン(Sb)が挙げられる。
正極2は、正極集電体と、正極集電体に設けられた正極活物質層とによって構成されている。
正極集電体は、例えば、アルミニウム、ニッケルあるいはステンレスなどの金属材料によって構成されているのがよい。
正極活物質層は、例えば、正極活物質として、充電時にリチウムイオンを放出することができ、かつ放電時にリチウムイオンを再吸蔵することができる材料を1種以上含んでおり、必要に応じて、炭素材料などの導電材およびポリフッ化ビニリデンなどの結着材(バインダー)を含んでいるのがよい。
リチウムイオンを放出および再吸蔵することが可能な材料としては、例えば、一般式Lix MO2 で表される、リチウムと遷移金属元素Mからなるリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。これは、リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムイオン二次電池を構成した場合、高い起電力を発生可能であると共に、高密度であるため、二次電池の更なる高容量化を実現することができるからである。なお、Mは1種類以上の遷移金属元素であり、例えば、コバルトおよびニッケルのうちの少なくとも一方であるのが好ましい。xは電池の充電状態(放電状態)によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム遷移金属複合酸化物の具体例としては、LiCoO2 あるいはLiNiO2 などが挙げられる。
なお、正極活物質として、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物を用いる場合には、その粉末をそのまま用いてもよいが、粒子状のリチウム遷移金属複合酸化物の少なくとも一部に、このリチウム遷移金属複合酸化物とは組成が異なる酸化物、ハロゲン化物、リン酸塩、硫酸塩からなる群のうちの少なくとも1種を含む表面層を設けるようにしてもよい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。この場合、表面層の構成元素と、リチウム遷移金属複合酸化物の構成元素とは、互いに拡散していてもよい。
また、正極活物質層は、長周期型周期表における2族元素、3族元素または4族元素の単体および化合物からなる群のうちの少なくとも1種を含有することが好ましい。安定性を向上させることができ、放電容量の低下をより抑制することができるからである。2族元素としてはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)あるいはストロンチウム(Sr)などが挙げられ、中でもマグネシウムが好ましい。3族元素としてはスカンジウム(Sc)あるいはイットリウム(Y)などが挙げられ、中でもイットリウムが好ましい。4族元素としてはチタンあるいはジルコニウム(Zr)が挙げられ、中でもジルコニウムが好ましい。これらの元素は、正極活物質中に固溶していてもよく、また、正極活物質の粒界に単体あるいは化合物として存在していてもよい。
セパレータ3は、負極1と正極2とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、かつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータ3の材料としては、例えば、微小な空孔が多数形成された微多孔性のポリエチレンやポリプロピレンなどの薄膜がよい。
電解液は、例えば、溶媒と、この溶媒に溶解した電解質塩とで構成され、必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
電解液の溶媒としては、例えば、1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸エチレン、エチレンカーボネート;EC)や4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン(炭酸プロピレン、プロピレンカーボネート;PC)などの環状炭酸エステル、および、ジメチルカーボネート(炭酸ジメチル;DMC)やジエチルカーボネート(炭酸ジエチル;DEC)やエチルメチルカーボネート(炭酸エチルメチル;EMC)などの鎖状炭酸エステルなど、非水溶媒が挙げられる。溶媒はいずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いるのがよい。例えば、ECやPCなどの高誘電率溶媒と、DMCやDECやEMCなどの低粘度溶媒とを混合して用いることにより、電解質塩に対する高い溶解性と、高いイオン伝導度とを実現することができる。
また、溶媒はスルトンを含有していてもよい。電解液の安定性が向上し、分解反応などによる電池の膨れを抑制することができるからである。スルトンとしては、環内に不飽和結合を有するものが好ましく、特に、下記に構造式を示す1,3−プロペンスルトン(PRS)が好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
また、溶媒には、1,3−ジオキソール−2−オン(炭酸ビニレン、ビニレンカーボネート;VC)あるいは4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン(ビニルエチレンカーボネート;VEC)などの不飽和結合を有する環式炭酸エステルを混合して用いることが好ましい。放電容量の低下をより抑制することができるからである。特に、VCとVECとを共に用いるようにすれば、より高い効果を得ることができるので好ましい。
更に、溶媒には、ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体を混合して用いるようにしてもよい。放電容量の低下を抑制することができるからである。この場合、不飽和結合を有する環式炭酸エステルと共に混合して用いるようにすればより好ましい。より高い効果を得ることができるからである。ハロゲン原子を有する炭酸エステル誘導体は、環式化合物でも鎖式化合物でもよいが、環式化合物の方がより高い効果を得ることができるので好ましい。このような環式化合物としては、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(フルオロエチレンカーボネート;FEC)、4−クロロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4−ブロモ−1,3−ジオキソラン−2−オン、あるいは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(ジフルオロエチレンカーボネート;DFEC)などが挙げられ、中でもフッ素原子を有するDFECやFEC、特にDFECが好ましい。より高い効果を得ることができるからである。
電解液の電解質塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF6 )やテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF4 )などのリチウム塩が挙げられる。電解質塩は、いずれか1種を単独で用いてもよいが、2種以上を混合して用いてもよい。
なお、電解液はそのまま用いてもよいが、高分子化合物に保持させていわゆるゲル状の電解質としてもよい。その場合、電解質はセパレータ3に含浸されていてもよく、また、セパレータ3と負極1または正極2との間に層状に存在していてもよい。高分子材料としては、例えば、フッ化ビニリデンを含む重合体が好ましい。酸化還元安定性が高いからである。また、高分子化合物としては、重合性化合物が重合されることにより形成されたものも好ましい。重合性化合物としては、例えば、アクリル酸エステルなどの単官能アクリレート、メタクリル酸エステルなどの単官能メタクリレート、ジアクリル酸エステル、あるいはトリアクリル酸エステルなどの多官能アクリレート、ジメタクリル酸エステルあるいはトリメタクリル酸エステルなどの多官能メタクリレート、アクリロニトリル、またはメタクリロニトリルなどがあり、中でも、アクリレート基あるいはメタクリレート基を有するエステルが好ましい。重合が進行しやすく、重合性化合物の反応率が高いからである。
リチウムイオン二次電池10は、例えば、次のようにして製造することができる。
まず、負極集電体に負極活物質層を形成した後、所定の形状に裁断して負極1を作製する。
負極活物質層の形成方法は特に限定されるものではなく、負極集電体表面に活物質層を形成できる方法であれば何でもよい。例えば、気相法、焼成法あるいは液相法を挙げることができる。気相法としては、真空蒸着法の他に、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、CVD法(Chemical Vapor Deposition ;化学気相成長法)、あるいは溶射法などのいずれを用いてもよい。液相法としては、例えば鍍金が挙げられる。また、それらの2つ以上の方法、更には他の方法を組み合わせて活物質層を成膜するようにしてもよい。
真空蒸着法によって負極活物質層を形成する場合には、例えば図5に示した電子ビーム蒸着装置(以下、単に蒸着装置という。)を用いて行うことができる。図5は、本実施の形態の負極を製造する際に用いる蒸着装置の構成を表す概略図である。この蒸着装置においては、後に詳述するように、坩堝31A,31Bに収容されたケイ素からなる蒸着物質32A,32Bを蒸発させ、それをキャンロール14A,14Bに保持された帯状の負極集電体101の表面に堆積させることで負極活物質層を形成する。
この蒸着装置は、蒸着処理槽12の内部に、蒸発源13A,13B、キャンロール(成膜ロール)14A,14B、ガス導入ノズル15A,15B、シャッタ16A,16B、巻き取りローラー17,18、ガイドローラー19〜23、およびフィードローラー24を備えるようにしたものである。蒸着処理槽12の外側には真空排気装置25が設けられている。
蒸着処理槽12は、仕切板26によって、蒸発源設置室12A,12Bと、被蒸着物走行室12Cとに仕切られている。蒸発源設置室12Aと蒸発源設置室12Bとは隔壁27によって隔離されている。蒸発源設置室12Aには蒸発源13Aのほかガス導入ノズル15Aおよびシャッタ16Aが設置され、一方の蒸発源設置室12Bには蒸発源13Bのほかガス導入ノズル15Bおよびシャッタ16Bが設置されている。これらの蒸発源13A,13B、ガス導入ノズル15A,15Bおよびシャッタ16A,16Bの詳細については後に説明する。
被蒸着物走行室12Cには、蒸発源13A,13Bの上方に、それぞれキャンロール14A,14Bが設置されている。但し、仕切板26には、キャンロール14A,14Bに対応した2箇所に開口161,162が設けられ、キャンロール14A,14Bの一部が蒸発源設置室12A,12Bに突き出した状態となっている。さらに被蒸着物走行室12Cには、負極集電体101を保持し、かつ、その長尺方向に走行させる手段として、巻き取りローラー17,18、ガイドローラー19〜23、およびフィードローラー24がそれぞれ所定位置に配置されている。
ここで、負極集電体101は、その一端側が例えば巻き取りローラー17に巻き取られた状態となっており、巻き取りローラー17から順にガイドローラー19、キャンロール14A、ガイドローラー20、フィードローラー24、ガイドローラー21、ガイドローラー22、キャンロール14Bおよびガイドローラー23を経由して他端側が巻き取りローラー18に取り付けられた状態となっている。負極集電体101は、巻き取りローラー17,18、ガイドローラー19〜23、およびフィードローラー24の各外周面と接するように配設されている。なお、負極集電体101のうちの一方の面(表面)がキャンロール14Aと接し、他方の面(裏面)がキャンロール14Bと接するようになっている。巻き取りローラー17,18が駆動系となっているので、負極集電体101は、巻き取りローラー17から巻き取りローラー18へ順次搬送可能であると共に巻き取りローラー18から巻き取りローラー17へ順次搬送可能ともなっている。なお、図5は、巻き取りローラー17から巻き取りローラー18へ向けて負極集電体101が走行する様子に対応しており、図中の矢印は負極集電体101が移動する方向を表している。さらに、この蒸着装置ではフィードローラー24も駆動系となっている。
キャンロール14A,14Bは負極集電体101を保持するための、例えば円筒状をなす回転体(ドラム)であり、回転(自転)することにより順次その外周面の一部が蒸発源設置室12A,12Bに進入し、蒸発源13A,13Bと対向するようになっている。ここで、キャンロール14A,14Bの外周面のうち、蒸発源設置室12A,12Bに進入した部分41A,41Bが蒸発源13A,13Bからの蒸着物質32A,32Bによって負極活物質層が形成される蒸着領域となる。
蒸発源13A,13Bは、坩堝31A,31Bに蒸着物質32A,32Bが収容されたものであり、蒸着物質32A,32Bが加熱されることにより蒸発(気化)するようになっている。具体的には、蒸発源13A,13Bは例えば電子銃(図示せず)をさらに備えており、この電子銃の駆動によって放出される熱電子が、例えば偏向ヨーク(図示せず)によって電磁気的に飛程を制御されつつ坩堝31A,31Bに収容された蒸着物質32A,32Bへと照射されるように構成されている。蒸着物質32A,32Bは、電子銃からの熱電子の照射によって加熱され、溶融したのち徐々に蒸発することとなる。
坩堝31A,31Bは、例えば炭素のほか、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ジルコニウムまたは酸化硅素などの酸化物によって構成されており、蒸着物質32A,32Bに対する熱電子の照射に伴う坩堝31A,31Bの過度な温度上昇から守るため、その周囲の一部(例えば底面)が冷却系(図示せず)と接するように構成されていてもよい。冷却系としては、例えばウォータジャケットのような水冷方式の冷却装置などが好適である。
シャッタ16A,16Bは、蒸発源13A,13Bとキャンロール14A,14Bとの間に配置され、坩堝31A,31Bからキャンロール14A,14Bに保持される負極集電体101へ向かう気相状態の蒸着物質32A,32Bの通過を制御する開閉可能な機構である。すなわち、蒸着処理中には開状態となり、坩堝31A,31Bから蒸発した気相状態の蒸着物質32A,32Bの通過を許可する一方、蒸着処理の前後においては、その通過を遮断するものである。シャッタ16A,16Bは、制御回路系(図示せず)と接続されており、開状態または閉状態とする指令信号が入力されることにより、駆動するようになっている。
ガス導入ノズル15A,15Bは例えばアルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガスを、キャンロール14A,14Bに保持された負極集電体101の表面を覆うように排出する配管である。図5では、開口が紙面手前に向いている様子を描いている。なお、不活性ガスの排出方向は特に制限されるものではない。不活性ガスの流量制御は、例えば蒸着処理槽2の外部においてガス導入ノズル15A,15Bに連結したマスフローコントローラによって行う。また、ガス導入ノズル15A,15Bはそれぞれ1本でもよいし、あるいは複数本設けるようにしてもよい。この不活性ガスの導入により、蒸着領域の負極集電体101の表面近傍において、負極集電体101へ向かう気相状態の蒸着物質32A,32Bが適度に散乱される。その結果、局所的な秩序性が十分に低減された好ましい非晶質構造を有するケイ素からなる負極活物質層が負極集電体101に蒸着される。ガス流量(導入量)を調整することで、負極集電体101の表面を、1×10−2 Pa以上5×10−1 Pa以下、特に好ましくは2×10−2 Pa以上1.5×10−1 Pa以下の圧力を有する雰囲気(不活性ガス)で覆いながら負極活物質層を形成するようにすると、より良好な非晶質構造が得られ、サイクル特性の向上に適したものとなる。この場合、厚み方向における成膜速度を例えば80nm/s以上2μm/s以下として負極活物質層を形成するとよい。いっそう良好な非晶質構造が得られるからである。なお、負極集電体101の表面を覆う雰囲気の圧力は電離真空計などの圧力計(図示せず)によって測定すればよい。また、成膜速度については、例えば蒸着処理槽2の内部に水晶モニタ(図示せず)を設置して測定することができる。
また、負極活物質層に酸素を含有させる場合、酸素の含有量は、例えば、負極活物質層を形成する際の雰囲気中に酸素を含有させたり、焼成時あるいは熱処理時の雰囲気中に酸素を含有させたり、または用いる負極活物質粒子の酸素含有量により調節する。
また、前述したように、酸素の含有量が少ない第1層と、酸素の含有量が第1層よりも多い第2層とを交互に積層して負極活物質層を形成する場合には、雰囲気中における酸素濃度を変化させることにより調節するようにしてもよく、また、第1層を形成したのち、その表面を酸化させることにより第2層を形成するようにしてもよい。
なお、負極活物質層を形成したのちに、真空雰囲気下または非酸化性雰囲気下で熱処理を行い、負極集電体と負極活物質層との界面をより合金化させるようにしてもよい。
次に、正極集電体に正極活物質層を形成する。例えば、正極活物質と、必要に応じて導電材および結着剤(バインダー)とを混合して合剤を調製し、これをNMPなどの分散媒に分散させてスラリー状にして、この合剤スラリーを正極集電体に塗布した後、圧縮成型することにより正極2を形成する。
次に、負極1と正極2とをセパレータ3を間に挟んで対向させ、短辺方向を巻軸方向として巻回することにより、電極巻回体6を形成する。この際、負極1と正極2とは、負極活物質層と正極活物質層とが対向するように配置する。次に、この電極巻回体6を角型形状の電池缶7に挿入し、電池缶7の開口部に電池蓋8を溶接する。次に、電池蓋8に形成されている電解液注入口から電解液を注入した後、注入口を封止する。以上のようにして、角型形状のリチウムイオン二次電池10を組み立てる。
また、電解液を高分子化合物に保持させる場合には、ラミネートフィルムなどの外装材からなる容器に電解液とともに重合性化合物を注入し、容器内において重合性化合物を重合させることにより、電解質をゲル化する。また、電極の大きな膨張収縮に対応するために、容器として金属缶を用いてもよい。また、負極1と正極2とを巻回する前に、負極1または正極2に塗布法などによってゲル状電解質を被着させ、その後、セパレータ3を間に挟んで負極1と正極2とを巻回するようにしてもよい。
組み立て後、リチウムイオン二次電池10を充電すると、正極2からリチウムイオンが放出され、電解液を介して負極1側へ移動し、負極1において還元され、生じたリチウムは負極活物質と合金を形成し、負極1に取り込まれる。放電を行うと、負極1に取り込まれていたリチウムがリチウムイオンとして再放出され、電解液を介して正極2側へ移動し、正極2に再び吸蔵される。
この際、リチウムイオン二次電池10では、負極活物質層中に負極活物質としてケイ素の単体およびその化合物が含まれているため、二次電池の高容量化が可能になる。
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。なお、下記の説明では、実施の形態において用いた符号および記号をそのまま対応させて用いる。
(実施例1〜3)
本実施例では、負極集電体に真空蒸着法によって負極活物質層を形成し、これを負極1として用いて、実施の形態で図2に示した角型のリチウムイオン二次電池10を作製し、その充放電サイクル特性を測定した。以下、具体的に説明する。
まず、下記のようにして、局所的な秩序性の度合いが種々に異なる非晶質シリコンを負極活物質層として有する負極1を作製した。
負極1を形成する際には、電極形成装置として、図5に示した真空蒸着装置を用いた。負極集電体として厚さ24μm、表面粗度Rz値2.5μmの、両面が粗化された帯状電解銅箔を用い、蒸着材料としてシリコン単結晶を用いた。成膜速度は50〜100nm/sとし、厚さ5〜6μmの負極活物質層を形成した。但し、ガス導入ノズル15A,15Bからの不活性ガスやその他のガスの導入は行わず、負極活物質層を形成している間、蒸着領域での負極集電体表面の近傍を含め、真空チャンバー内の圧力を5×10-3 Pa程度に保つようにした。なお、負極活物質層は、真空チャンバー内に残留する酸素などによって酸化され、約2原子数%程度の酸素を含有するようにした。
ここでは、形成される負極活物質層の局所的な秩序性の度合いを変化させるために、上記の成膜速度の範囲において、蒸着領域における負極集電体の温度を200〜500℃の範囲で種々に変えて成膜を行った。負極集電体の温度は、蒸着材料によって運ばれてくる熱と、蒸着源からの輻射熱とを調整し、所定の温度に維持できるようにした。負極集電体の温度は、負極集電体保持具に装着した熱電対を、負極集電体の、負極活物質層形成面の反対側の面に、接触させて測定した。
いずれの実施例でも、負極集電体と負極活物質層との界面で、銅とシリコンとの過度な合金化(例えば、Cu3 Siの形成)が進むことによる剥離などが生じていないことを確認した。蒸着時の熱によって、負極集電体と負極活物質層との界面で過度な合金化が進むと、負極活物質が剥離して、サイクル特性が悪化するので、これを防止する必要がある。
具体的な成膜速度および蒸着領域における負極集電体の温度(成膜温度)の条件は、後出の表1に示したように、実施例1では100nm/sおよび500℃とし、実施例2では80nm/sおよび440℃とし、実施例3では50nm/sおよび410℃とした。
負極1を作製したのち、正極活物質である平均粒径5μmのコバルト酸リチウム(LiCoO2 )の粉末と、導電材であるカーボンブラックと、結着材であるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、コバルト酸リチウム:カーボンブラック:ポリフッ化ビニリデン=92:3:5の質量比で混合し、合剤を調製した。この合剤を分散媒であるN-メチルピロリドンNMPに分散させてスラリー状とした。この合剤スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔からなる正極集電体に塗布し、分散媒を蒸発させ乾燥させた後、加圧して圧縮成型することにより、正極活物質層を形成し、正極2を作製した。
次に、負極1と正極2とをセパレータ3を間に挟んで対向させ、巻き回し、電極回巻体6を作製した。セパレータ3として、微多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムを中心材とし、その両面を微多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムで挟み込んだ構造の、厚さ23μmの多層セパレータを用いた。
次に、この電極巻回体6を角型形状の電池缶7に挿入し、電池缶7の開口部に電池蓋8を溶接する。次に、電池蓋8に形成されている電解液注入口から電解液を注入した後、注入口を封止して、リチウムイオン二次電池10を組み立てた。
電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを、EC:DEC=30:70の質量比で混合した混合溶媒に、電解質塩としてLiPF6 を1mol/dm3 の濃度で溶解させた溶液を標準電解液とした。
実施例1〜3に対する比較例1として、成膜速度は実施例1と同じ100nm/sとする一方、蒸着源と負極集電体との間の距離を短くし、負極集電体に熱が加わりやすい配置にすることで、負極集電体の温度(成膜温度)を600℃としたことを除き、他は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池10を作製した。
<リチウムイオン二次電池の評価>
作製した実施例1〜3および比較例1のリチウムイオン二次電池10について、25℃にて充放電サイクル試験を行い、容量維持率を測定した。この充放電サイクル試験では、初めの1サイクルだけは、まず、0.2mA/cm2 の定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.05mA/cm2 に達するまで充電を行う。次に、0.2mA/cm2 の定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行う。そして、2サイクル目以降の1サイクルは、まず、2mA/cm2 の定電流で電池電圧が4.2Vに達するまで充電を行い、引き続き4.2Vの定電圧で電流密度が0.1mA/cm2 になるまで充電を行う。次に、2mA/cm2 の定電流で電池電圧が2.5Vになるまで放電を行うものである。
この充放電サイクルを25℃にて50サイクル行い、次式
2サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の容量維持率(%)
=(50サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100(%)
で定義される、50サイクル目の容量維持率(2サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の比率)を調べた。
<ラマン分光分析>
上記とは別に、リチウムイオン二次電池10について、初回(1サイクル目)放電後、および、10サイクル目放電後の電池を解体し、ジメチルカーボネート(DMC)で電極を洗浄して、乾燥させた後、非晶質ケイ素からなる負極活物質層のラマン分光分析を行い、非晶質ケイ素中の局所的な秩序性の度合いを決定した。なお、ラマン分光分析は、負極活物質層からランダムに2点を取り出し、それぞれについて測定値を求め、その平均値を用いた。
ラマン分光分析の測定条件は、以下のとおりである。
光源:アルゴンイオンレーザー(波長 488nm、ビーム径 100μm、S偏光)
測定モード:マクロラマン(測定配置 60°散乱)
散乱光:(S+P)偏光
分光器:T−64000(Jobin Yvon製、回折格子 1800gr/mm、スリット 100μm)
検出器:CCD(Jobin Yvon製)
本実施例では、実施の形態と同様にして、非晶質ケイ素のラマンスペクトルから、シフト位置480cm-1 近傍に現れる横波光学フォノンによる散乱光のピーク強度TO、シフト位置300cm-1 近傍に現れる縦波音響フォノンによる散乱光のピーク強度LA、そして、シフト位置400cm-1 近傍に現れる縦波光学フォノンによる散乱光のピーク強度LOを測定した。そして、TOを基準とするLAおよびLOの相対的強度、すなわち、比LA/TOおよびLO/TOを求め、これらの比が大きいほど、非晶質ケイ素中の局所的な秩序性の度合いが低いものとした。容量維持率およびラマン分光分析の測定結果を、成膜条件とともに、表1に示す。
表1において、9サイクルの平均のΔ(LO/TO)は、10サイクル後のLO/TO値と初回サイクル後のLO/TO値との差から、2サイクル目から10サイクル目までの間の9サイクルにおけるLO/TO値の増加分を求め、これをサイクル数9で割ることによって1サイクル当たりの増加分Δ(LO/TO)を計算したものである。
表1において、成膜後のLA/TO値およびLO/TO値は、活物質層を成膜した後、電池を作製する前の負極の活物質層についての測定値であり、初回サイクル後のLA/TO値およびLO/TO値は、電池を作製後、1回目の充放電を行った後の負極の活物質層についての測定値である。
実施例1〜3および比較例1では、(電池作製前の)成膜後の負極、および電池を作製しサイクル試験を行った後の負極において、それぞれ、シフト位置480cm-1 付近、300cm-1 付近、および400cm-1 付近に幅広の散乱ピークが観測されたことから、負極活物質層が非晶質構造を有するケイ素からなることがわかった(図1(b)参照。)。なお、図1(b)は、後述する実施例8において測定された初回充放電後の負極活物質層の非晶質シリコンのラマンスペクトルであるが、実施例1〜3および比較例1においても同様のラマンスペクトルが得られた。得られたラマンスペクトルは、より正確な情報を得るために、図1(b)に点線で示すように、ベースライン補正を行った後に、ガウス関数を用いてフィッティングを行い、各散乱ピークを分離した。300cm-1 付近の散乱ピーク(強度LA)、および400cm-1 付近の散乱ピーク(強度LO)に関しては、ピーク波数と半値幅を固定してフィッティングを行った。
表1に示したように、実施例1〜3では上述した条件式(1)および条件式(2)のうちの少なくとも一方、および条件式(3)を満たしているのに対し、比較例1では条件式(1)〜(3)のうちのいずれをも満たしていない。このため、実施例1〜3では、比較例1よりも高い容量維持率が得られた。
(実施例4〜9)
本実施例では、スパッタリング法によって負極活物質層を形成したことを除き、他は実施例1〜3と同様にしてリチウムイオン二次電池10を作製した。
負極1を形成する際には、電極形成装置として、対向ターゲット式DCスパッタリング装置(図示せず)を用いた。負極集電体として厚さ24μm、表面粗度Rz値2.5μmの、両面が粗化された帯状電解銅箔を用い、蒸着材料としてシリコン単結晶を用いた。成膜速度は0.5nm/sであり、厚さ5〜6μmの負極活物質層を形成した。この際、DCパワーは1kWで、放電ガスにはアルゴンを用い、負極集電体温度や投入電力やガス圧等の成膜条件を調整することで、種々の局所的な秩序性の度合いを有する負極活物質層を形成した。対向ターゲット式DCスパッタリング装置では、成膜に伴う温度上昇が小さいため、負極集電体保持具をヒーター加熱して、負極集電体の温度を調節した。なお、本実施例においても、負極活物質層は、真空チャンバー内に残留する酸素などによって酸化され、約2原子数%程度の酸素を含有するようにした。
負極集電体のうち、負極活物質を堆積させる成膜領域における具体的な温度条件は、後出の表2に示したように、実施例4では230℃、実施例5では200℃、実施例6では160℃、実施例7では120℃、実施例8では90℃、実施例9では60℃とした。
実施例4〜9に対する比較例2〜4として、成膜速度は実施例1と同じ0.5nm/sとする一方、成膜領域における負極集電体の温度を、比較例2では350℃、比較例3では300℃、比較例4では270℃としたことを除き、他は実施例4〜9と同様にしてリチウムイオン二次電池10を作製した。
作製した実施例4〜9および比較例2〜4についても、実施例1〜3などと同様の評価を行った。その結果を成膜条件とともに、表2に示す。
実施例4〜9および比較例2〜4においても、(電池作製前の)成膜後の負極、および電池を作製しサイクル試験を行った後の負極において、それぞれ、シフト位置480cm-1 付近、300cm-1 付近、および400cm-1 付近に幅広の散乱ピークが観測されたことから、負極活物質層が非晶質構造を有するケイ素からなることがわかった。但し、表2に示したように、実施例4〜9では上述した条件式(1)および条件式(2)のうちの少なくとも一方、および条件式(3)を満たしているのに対し、比較例2〜4では条件式(1)〜(3)のうちのいずれをも満たしていない。このため、実施例4〜9では、比較例2〜4よりも高い容量維持率が得られた。
図3は、実施例1〜9および比較例1〜4における、初回サイクル後のLA/TO値と容量維持率との関係を示すグラフ(a)、および、初回サイクル後のLO/TO値と容量維持率との関係を示すグラフ(b)である。また、図4は、実施例1〜9および比較例1〜4における、1サイクル当たりのLO/TO値の増加分Δ(LO/TO)と、容量維持率との関係を示すグラフである。なお、図3および4中で実施例のデータポイントに付した1〜9の数字は実施例の番号であり、比較例のデータポイントに付した比1〜比4の数字は比較例の番号である。
表1、表2および図3に示したように、比較例1および比較例2〜4のように、負極活物質層が非晶質シリコン層であっても、その初回サイクル後のLA/TO値およびLO/TO値が小さく、非晶質シリコン層中の局所的な秩序性の度合いが高い負極の場合には、容量維持率が低いなど、良好な充放電サイクル特性が得られなかった。
これに対して、実施例1〜9のように、負極活物質層の初回サイクル後のLA/TO値が0.25以上、または初回サイクル後のLO/TO値が0.45以上であり、非晶質シリコン層中の局所的な秩序性の度合いが低い負極の場合には、容量維持率が高いなど、優れた充放電サイクル特性が得られ、特に、初回サイクル後のLA/TO値が0.28以上、または初回サイクル後のLO/TO値が0.50以上であると、容量維持率はさらに向上した。これは、活物質材料の構造変化によって生じる不可逆容量の発生が抑えられた結果であると、考えられる。従って、本発明の第1の二次電池用負極の特徴のように、初回充放電サイクル後のLA/TO値が0.25以上、または初回充放電サイクル後のLO/TO値が0.45以上であることが必要であり、特に、初回充放電サイクル後のLA/TO値が0.28以上、または初回充放電サイクル後のLO/TO値が0.50以上であることがさらに好ましい。
また、これを実現するためには、負極集電体に負極活物質層を形成する際に、真空蒸着法で成膜する場合には500℃以下の成膜温度にて成膜し、スパッタリング法で成膜する場合には230℃以下の成膜温度にて成膜するのがよいことがわかる。
また、比較例1〜4において0.020<Δ(LO/TO)であるのに対し、実施例1〜9においては、Δ(LO/TO)≦0.020である。従って、本発明の第2の二次電池用負極の特徴のように、Δ(LO/TO)≦0.020であることが必要である。
(実施例10〜16)
本実施例では、実施例1〜3と同様にして、真空蒸着法によって負極活物質層を形成し、リチウムイオン二次電池10を作製した。実施例1〜3と異なる点は、蒸着源から負極集電体に到るシリコンの蒸着材料の流れの中に酸素ガスを直接導入して、酸素含有量が種々に異なる負極活物質層を形成したことである。成膜速度は50nm/sで一定とした。負極集電体の温度と酸素ガスの流量は下記の通りである、
実施例10:負極集電体の温度 380℃、酸素ガス流量 10sccm
実施例11:負極集電体の温度 330℃、酸素ガス流量 50sccm
実施例12:負極集電体の温度 280℃、酸素ガス流量 75sccm
実施例13:負極集電体の温度 250℃、酸素ガス流量 100sccm
実施例14:負極集電体の温度 230℃、酸素ガス流量 125sccm
実施例15:負極集電体の温度 210℃、酸素ガス流量 150sccm
実施例16:負極集電体の温度 200℃、酸素ガス流量 200sccm
(実施例17)
本実施例では、以下の点を除き、他は実施例1〜3と同様にして、真空蒸着法によって負極活物質層を形成しリチウムイオン二次電池10を作製した。ここでは、まず、形成しようとする負極活物質層の厚さの約1/5の厚さのシリコン層を形成したのち、その表面に酸素ガスを流速50sccmで吹きつけて表面を酸化することで、酸素含有量の少ない第1シリコン層と、酸素含有量の多い第2シリコン層との積層ユニットを形成した。これらの一連の工程を5回繰り返して、第1シリコン層と第2シリコン層とが、5層ずつ交互に形成された負極活物質層を形成した。また、成膜速度を50nm/s、負極集電体温度を210℃とした。
表3に、実施例3,10〜17の各々の負極における負極活物質層を形成する方法およびその成膜条件と共に、負極活物質層に含まれる酸素の含有率(原子数%)を示す。
実施例10〜17についても、実施例1〜3などと同様の評価を行った。その結果を実施例3の結果とともに、表4に示す。
実施例10〜17においても、(電池作製前の)成膜後の負極、および電池を作製しサイクル試験を行った後の負極において、それぞれ、シフト位置480cm-1 付近、300cm-1 付近、および400cm-1 付近に幅広の散乱ピークが観測されたことから、負極活物質層が非晶質構造を有するケイ素からなることがわかった。さらに、表4に示したように、実施例10〜17では上述した条件式(1)および条件式(2)のうちの少なくとも一方、および条件式(3)を満たしているので高い容量維持率が得られた。
詳細には、負極活物質層中の酸素含有率を変えた実施例10〜16では、酸素含有率が3〜45原子数%の範囲で充放電サイクルに伴うLO/TO値の増加分Δ(LO/TO)が小さく、これに相応して容量維持率が向上した。従って、負極活物質層中の酸素含有率は、3〜45原子数%の範囲であることがより好ましい。一方、実施例1〜9における負極活物質層中の酸素含有率は、2原子数%程度であって、3原子数%未満である。なお、負極活物質層中の酸素含有率は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(Energy Dispersive X-ray Fluorescence Spectrometer ;EDX)によって測定した。また、酸素含有率をX線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)またはオージェ電子分光法(Auger Electron Spectroscopy;AES)を用いて分析することも有用である。
また、実施例17では、酸素含有率のことなる第1活物質層(第1シリコン層)と第2活物質層(第2シリコン層)とを交互に形成して多層化することで、容量維持率がいっそう向上した。
(実施例18〜20)
実施例18では、負極集電体温度を420℃とし、シリコンを蒸着する蒸着源と、鉄(Fe)を蒸着する蒸着源とを同時に用いて、シリコンと鉄とを共蒸着し、負極活物質層を形成した。実施例19では、負極集電体温度を420℃とし、シリコンを蒸着する蒸着源と、コバルト(Co)を蒸着する蒸着源とを同時に用いて、シリコンとコバルトとを共蒸着し、負極活物質層を形成した。実施例20では、負極集電体温度を430℃とし、シリコンを蒸着する蒸着源と、チタン(Ti)を蒸着する蒸着源とを同時に用いて、シリコンとチタンとを共蒸着し、負極活物質層を形成した。実施例18〜20では、上記の点を除き、他は実施例1〜3と同様にして、負極を形成しリチウムイオン二次電池10を作製した。
表5に、実施例18〜20の各々の負極における負極活物質層を形成する方法およびその成膜条件と共に、負極活物質層に含まれるシリコン以外の元素の種類およびその含有率(原子数%)を示す。
実施例18〜20についても、実施例1〜3などと同様の評価を行った。その結果を表6に示す。
実施例18〜20においても、(電池作製前の)成膜後の負極、および電池を作製しサイクル試験を行った後の負極において、それぞれ、シフト位置480cm-1 付近、300cm-1 付近、および400cm-1 付近に幅広の散乱ピークが観測されたことから、負極活物質層が非晶質構造を有するケイ素からなることがわかった。さらに、表6に示したように、実施例10〜17では上述した条件式(1)および条件式(2)のうちの少なくとも一方、および条件式(3)を満たしているので高い容量維持率が得られた。ここで、負極活物質層中に鉄(Fe)、コバルト(Co)、チタン(Ti)を含有させることで、容量維持率をいっそう向上させることができた。
また、実施例1〜20(表1,2,4,6)の結果から、成膜後のLA/TO値およびLO/TO値が大きい負極では、初回サイクル後のLA/TO値およびLO/TO値も大きく、両者の間には密接な相関関係があることがわかった。
実施例21〜27では、実施例17と同じ二次電池用負極を用いたが、電解液を下記のように変更した。
(実施例21)
電解液の溶媒は、EC:DEC=30:70のままであるが、電解質塩としてLiPF6 を0.9mol/dm3 の濃度で、LiBF4 を0.1mol/dm3 の濃度で溶解させた(この電解質塩の組成は、下記の実施例22〜27でも同じである。)。
(実施例22)
電解液の溶媒として、ビニレンカーボネート(VC)を加え、ECとDECとVCとを、EC:DEC:VC=30:60:10の質量比で混合した混合溶媒を用いた。
(実施例23)
電解液の溶媒として、ビニルエチレンカーボネート(VEC)を加え、ECとDECとVECとを、EC:DEC:VEC=30:60:10の質量比で混合した混合溶媒を用いた。
(実施例24)
電解液の溶媒として、ECの代わりにフルオロエチレンカーボネート(FEC)を用い、FECとDECとを、FEC:DEC=30:70の質量比で混合した混合溶媒を用いた。
(実施例25)
電解液の溶媒として、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)を加え、ECとDECとDFECとを、EC:DEC:DFEC=30:65:5の質量比で混合した混合溶媒を用いた。
(実施例26)
電解液の溶媒として、1,3−プロペンスルトン(PRS)を加え、ECとDECとVCとPRSとを、EC:DFEC:VC:PRS=30:59:10:1の質量比で混合した混合溶媒を用いた。
(実施例27)
電解液の溶媒として、PRSを加え、ECとDECとDFECとPRSとを、EC:DEC:DFEC:PRS=30:64:5:1の質量比で混合した混合溶媒を用いた。
実施例21〜27についても、実施例1〜3などと同様の評価を行った。その結果を表7に示す。
表7に示したように、実施例21では、電解質塩としてLiBF4を添加することによって、実施例22〜25では、電解液の溶媒として炭酸ビニレン(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)を添加したり交換したりすることによって、実施例26および27では、電解液に1,3−プロペンスルトン(PRS)を添加することによって、それぞれ、同じ二次電池用負極を用いた実施例17よりも、容量維持率を向上させることができた。これらの例では、充放電サイクルに伴うLO/TO値の増加分Δ(LO/TO)が実施例17に比べて小さく抑えられており、これに相応して容量維持率が向上した。これらの例から、電解質を構成する電解質塩や溶媒を適切に選択することで負極活物質層の構造変化を抑制し、充放電サイクル特性を向上させることが可能であること、また、この際、ラマン分光分析による局所的な秩序性の測定が有効であることが判明した。
(実施例28〜37)
本実施例では、実施例1〜3と同様にして、真空蒸着法によって負極活物質層を形成し、リチウムイオン二次電池10を作製した。但し、ガス導入ノズル15A,15Bから所定量のアルゴンガスを導入し、負極活物質層を形成している間、蒸着領域での負極集電体表面を覆う雰囲気の圧力を1×10−2 Pa以上5×10−1 Pa以下に保つようにした。
実施例28〜37に対する比較例5として、成膜速度を200nm/sとし、成膜領域における負極集電体の温度を600℃超としたことを除き、他は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池10を作製した。
表8に、実施例28〜37および比較例5の各々の負極における負極活物質層を形成する方法およびその成膜条件を、実施例1および比較例1のデータと併せて示す。
実施例28〜37および比較例5についても、実施例1〜3などと同様の評価を行った。その結果を実施例3の結果とともに、表9に示す。
表8および表9に示したように、実施例28〜37においては、比較例1,5よりも高い容量維持率が得られた。これは、不活性ガスを導入し、蒸着領域(成膜領域)での負極集電体表面を覆う雰囲気の圧力をその周囲の領域よりも高く維持し、蒸発源13A,13Bから飛来するシリコン粒子を適度に散乱させるようにしたので、成膜温度によらず、所定の非晶質構造を有するシリコンを形成することができたためと考えられる。特に、実施例28,29,32〜35では、蒸着領域での負極集電体表面を覆う雰囲気の圧力を2×10−2 Pa以上1.5×10−1 Pa(15×10−2 Pa)以下に保持することで、初回充放電後のラマンスペクトルのピーク強度比LA/TO,LO/TOがそれぞれ条件式(4),条件式(5)を満たす非晶質構造が形成されるので、さらに高い容量維持率が得られた。このように、成膜速度を上げることにより成膜温度が500℃を超える高温となる場合であっても、不活性ガスの導入により雰囲気の圧力の調整を行うなどの手法を用いることで、所定の非晶質構造を有する負極活物質層を形成することができ、容量維持率の向上を図ることが可能なことが確認できた。
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々に変形可能である。
例えば、上記実施の形態および実施例では、外装部材として角型の缶を用いる場合について説明したが、本発明は、角型の他に、コイン型、円筒型、ボタン型、薄型、あるいは大型など、どのような形状のものでも適用することができる。また、外装部材としてフィルム状の外装材などを用いる場合についても適用することができる。また、本発明は、負極と正極とを複数層積層した積層型のものについても同様に適用することができる。
また、上記実施の形態および実施例では、負極集電体に負極活物質層を形成するにあたり、蒸着領域での負極集電体表面を覆う雰囲気の圧力をアルゴンガスの導入により調整するようにしたが、他のガス種によって行うことも可能である。
本発明に係る二次電池は、ケイ素の単体などを負極活物質として用いて、大きなエネルギー容量と良好な充放電サイクル特性を実現し、モバイル型電子機器の小型化、軽量化、および薄型化に寄与し、その利便性を向上させる。
本発明の実施の形態に基づく、非晶質シリコン、多結晶シリコン、結晶シリコンのラマンスペクトル(a)、および、非晶質シリコンのラマンスペクトルの拡大図(b)である。
同、リチウムイオン二次電池の斜視図(a)および断面図(b)である。
本発明の実施例による、LA/TO値およびLO/TO値と、容量維持率との関係を示すグラフである。
同、充放電1サイクル当たりのLO/TO値の増加分Δ(LO/TO)と、容量維持率との関係を示すグラフである。
本発明の二次電池用負極の製造方法に用いる蒸着装置の構成を表す概略図である。
符号の説明
1…負極、2…正極、3…セパレータ、4…負極リード、5…正極リード、6…電極巻回体、7…電池缶、8…電池蓋、9…正極端子、10…リチウムイオン二次電池、12…蒸着処理室、12A,12B…蒸発源設置領域、12C…被蒸着物走行領域、13A,13B…蒸発源、31A,31B…坩堝、32A,32B…蒸着物質、14A,14B…キャンロール、15A,15B…熱遮蔽板、16A,16B…シャッタ、17,18…巻き取りローラー、19〜23…ガイドローラー、24…フィードローラー、25…真空排気装置、26…仕切板、27…隔壁。