しかしながら、特許文献1に記載の燃料電池セルにおいては、固体電解質層とインターコネクタの剥離を防止することはできるものの、他の層(例えば、燃料側電極層と固体電解質層)が剥離することを抑制することは容易ではなかった。
そして、例えば燃料側電極層と固体電解質層とが剥離した場合においては、燃料電池セルの発電性能が低下し、長期的信頼性が保てないというおそれがあった。
また、これらの各層の剥離を抑制するために、各層の作製を調整した場合に、長時間発電を行なった場合に、発電性能が劣化する場合があった。
それゆえ、本発明は、電極支持基板、燃料側電極層および固体電解質層の剥離を抑制することができるとともに、発電性能の低下を抑制した燃料電池セルおよびそれを用いる燃料電池セルスタック、ならびに燃料電池を提供することを目的とする。
本発明の燃料電池セルは、電極支持基板上に、燃料側電極層、固体電解質層、空気側電極層が順次積層されている燃料電池セルにおいて、前記電極支持基板および前記固体電解質層がNiを含有するとともに、前記電極支持基板と前記燃料側電極層との間に、前記電極支持基板および前記燃料側電極層よりも気孔率が低い多孔質体からなり、Niを含有するとともに、前記電極支持基板および前記燃料側電極層よりも酸化や還元による膨張度合が小さい中間層が形成されていることを特徴とする。
このような燃料電池セルでは、電極支持基板上に、燃料側電極層、固体電解質層、空気側電極層が順次積層されている燃料電池セルにおいて、前記電極支持基板および前記燃料側電極層がNiを含有するとともに、前記電極支持基板と前記燃料側電極層との間に、前記電極支持基板および前記燃料側電極層よりも気孔率が低い多孔質体な中間層が形成されていることから、電極支持基板と中間層、燃料側電極層と中間層のそれぞれが、接合面積が増えるとともに、アンカー効果により強固に接合される。
また、電極支持基板、燃料側電極層、中間層のそれぞれが、Niを含有することから、さらに電極支持基板と中間層、燃料側電極層と中間層のそれぞれが強固に接合できる。
以上より、電極支持基板と中間層とが強固に接合され、また燃料側電極層と中間層とが強固に接合されることから、電極支持基板と燃料側電極層とが、中間層を介して強固に接合することができる。したがって、電極支持基板、中間層、燃料側電極層のそれぞれの剥離を抑制することができる。
なお、中間層は多孔質体であることから、燃料電池セルに供給される燃料ガスを、燃料側電極層に効率的に供給することができる。したがって、効率の良い発電を行なうことができる。
さらに、本発明においては、あわせて燃料側電極層と固体電解質層の剥離を抑制することができる。この理由については詳細には分かっていないが、以下のように考えることができる。
燃料電池セルの発電において、燃料電池セルが酸化や還元することにより、電極支持基板や燃料側電極層が、収縮または膨張する場合がある。この場合において、例えば燃料側電極層および電極支持基板が収縮する場合には、一般に、燃料側電極層は電極支持基板よりも薄く形成されているため、燃料側電極層が、電極支持基板に引きずられ、燃料側電極層と固体電解質層との間に大きな応力が生じると考えられ、この場合には、燃料側電極層と固体電解質層が剥離を生じる場合がある。
本発明においては、電極支持基板と燃料側電極層との間に中間層を設けることにより、例えば中間層が膨張した場合であっても、その膨張度合いが電極支持基板、燃料側電極層よりも小さいことにより、中間層が電極支持基板と燃料側電極層の収縮や膨張を抑制するよう作用する。それにより、燃料側電極層が電極支持基板の膨張、収縮に引きずられることを抑制することができることから、燃料側電極層と固体電解質層との応力を緩和することができ、燃料極側電極層と固体電解質層の剥離を抑制することができると考えられる。
また、別の考え方として、次のように考えられる。燃料側電極層が膨張するとともに、電極支持基板が収縮する場合には、電極支持基板の収縮に伴い、燃料側電極層に反りが生じる。そして、燃料側電極層に反りが生じることにより、燃料側電極層と固体電解質に剥離が生じると考えられる。
本発明においては、電極支持基板と燃料側電極層との間に中間層を設け、中間層の膨張を、燃料側電極層よりも小さい膨張とすることにより、燃料側電極層の膨張が抑制され、燃料側電極層の反りを抑制することができ、燃料側電極層と固体電解質層の剥離を抑制することができると考えられる。
それゆえ、電極支持基板、中間層、燃料側電極層のそれぞれが剥離することを抑制できるとともに、燃料側電極層と固体電解質層の剥離をも抑制することができる。
また、電極支持基板、中間層、燃料側電極層のそれぞれがNiを含有することから、それぞれにおける電気抵抗が低減し、効率よく発電した電力を回収することができる。
したがって、発電効率が向上した燃料電池セルを提供することができる。
また、本発明の燃料電池セルは、前記燃料側電極層が、イットリアを固溶した安定化ジルコニア粒子とNi粒子とが均一に混合して形成されるとともに、前記Ni粒子は、前記イットリアを固溶した安定化ジルコニア粒子の間に配置されていることが好ましい。
このような燃料電池セルでは、前記燃料側電極層が、イットリアを固溶した安定化ジルコニア粒子(以下、YSZと略す)とNi粒子とが均一に混合して形成されることから、燃料側電極層に含有されるYSZとNiとの接着箇所(面積)が多くなり、燃料電池セルの発電性能を向上することができる。
即ち、燃料電池セルの発電において、YSZとNiとが接着している界面(三相界面)で、酸素と水素が反応して電子が発生する。したがって、YSZとNiとが接着する箇所を増加させることにより、酸素と水素が効率よく反応し、得られる発電量も多くなる。
本発明においては、燃料側電極層はYSZとNi粒子とが均一に混合して形成されることから、YSZとNiとが接着する箇所を増加することができ、燃料電池セルの発電性能を向上することができる。
ところで、本発明においては、Ni粒子はYSZ粒子の間に配置されていることが好ましい。
一般的に、YSZとNiとの接合は、YSZが形成した骨格にNiを分散させる。そして、このようなYSZの骨格を有する燃料側電極層は、固体電解質層に強固に接合する。
しかしながら、燃料電池セルの作製において、燃料側電極層を焼き付ける際、このYSZに分散したNiが焼結し、大きなNiの粒子を形成する場合がある。この場合、YSZとNiの接着箇所(面積)が少なくなり、これにより燃料電池セルの発電性能が低下する。
本発明の燃料電池セルにおいては、燃料側電極層は、YSZとNiが均一に混合して形成されるとともに、Ni粒子はYSZ粒子の間に配置されていることから、YSZとNiの接合(接着)においてYSZが骨格を形成しないこととなる。それゆえ、燃料側電極層の焼付け時に、Niの粒子が焼結して大きなNiの粒子を形成することを抑制できる。したがって、YSZとNiの接着箇所を多くすることができ、燃料電池セルの発電性能を向上することができる。
また、この場合YSZが骨格を形成しないことにより、燃料側電極層と固体電解質層との接合が弱くなる場合が生じるが、本発明においては、電極支持基板と燃料側電極層との間に中間層を設けることにより、燃料極側電極層と固体電解質層の剥離を抑制することができるものの、YSZが骨格を形成しないため、燃料側電極層と固体電解質層との接合強度が低下する傾向にあるため、本発明を用いる意義が大きい。
したがって、燃料側電極層は、YSZ粒子とNi粒子とが均一に混合して形成されるとともに、Ni粒子はYSZ粒子の間に配置されていることから、燃料電池セルの発電性能を向上することができる。
また、本発明の燃料電池セルスタックは、上記のうちいずれかに記載の燃料電池セルを電気的に直列に複数個接続してなることを特徴とする。
本発明の燃料電池セルスタックは、上記のうちいずれかに記載の燃料電池セルを電気的に直列に複数個接続することにより、発電性能が向上した燃料電池セルスタックとすることができる。
また、本発明の燃料電池セルにおいて、電極支持基板、中間層、燃料側電極および固体電解質のそれぞれが、強固に接合することから、長期信頼性に優れた燃料電池セルスタックとすることができる。
また、本発明の燃料電池は、上記燃料電池セルスタックを収納容器に収納してなることを特徴とする。
したがって、発電性能が向上し、かつ長期信頼性に優れた燃料電池とすることができる。
本発明の燃料電池セルは、電極支持基板、中間層、燃料側電極層のそれぞれを強固に接合することができるとともに、燃料側電極層と固体電解質層との接合をも強固にすることができることから、燃料電池セルが酸化や還元した場合であっても、これら各層が剥離することを抑制することができるとともに、発電性能の低下を抑制した、長期信頼性に優れた燃料電池セルを提供できる。また、該燃料電池セルを用いた燃料電池セルスタック、および燃料電池を提供することができる。
図1(a)は、燃料電池セル10の横断面を示し、(b)は(a)の斜視図である。なお、両図面において、燃料電池セル10の各構成を一部拡大して示している。また、図2は、本発明の燃料電池セル10の発電に携わる部位を、一部抜き出して拡大した断面図である。
燃料電池10は、断面が扁平状で、全体的に見て楕円柱状の電極支持基板1を備えている。電極支持基板1の内部には、適当な間隔で複数の燃料ガス通路2が軸長方向に形成されており、燃料電池セル10は、この電極支持基板1上に各種の部材が設けられた構造を有している。
電極支持基板1は、図1に示されている形状から理解されるように、平坦部nと平坦部nの両端の弧状部mとからなっている。平坦部nの両面は互いにほぼ平行に形成されており、平坦部nの一方の面(下面)と両側の弧状部mを覆うように燃料側電極層3が設けられており、さらに、この燃料側電極層3を覆うように、緻密質な固体電解質層4が積層されている。また、固体電解質層4の上には、酸素側電極層5が積層されている。そして、電極支持基板1と燃料側電極層3の間には、中間層7が設けられている。
また、燃料側電極層3および固体電解質層4が積層されていない他方の平坦部nの表面には、インターコネクタ6が形成されている。図1から明らかな通り、燃料側電極層3及び固体電解質層4は、インターコネクタ6の両サイドにまで延びており、電極支持基板1の表面が外部に露出しないように構成されている。
ここで、燃料電池セル10は、燃料側電極層3の酸素側電極層5と対面している部分が燃料側電極として機能して発電する。即ち、酸素側電極層5の外側に空気等の酸素含有ガスを流し、且つ電極支持基板1内のガス通路2に燃料ガス(水素)を流し、所定の作動温度まで加熱することにより発電する。そして、かかる発電によって生成した電流は、電極支持基板1に取り付けられているインターコネクタ6を介して集電される。
本発明において、電極支持基板1は、燃料ガスを燃料側電極層3まで透過させるためにガス透過性であること、およびインターコネクタ6を介しての集電を行うために導電性であることが要求され、このような要求を満足する多孔質の導電性セラミック(もしくはサーメット)から形成されるが、燃料側電極層3や固体電解質層4との同時焼成により電極支持基板1を製造する上では、Niと特定の希土類酸化物とから電極支持基板1を形成することが好ましい。
電極支持基板1は、電極支持基板1に導電性を付与するために、安価でありかつ燃料ガス中で安定なNiを含有することが好ましい。この場合において、Niは、Ni単体であってもよいし、Niの酸化物やNi含む合金もしくは合金酸化物であってもよい。なお、その他鉄族金属類として鉄、コバルト等を用いることもできる。
またNiと共に使用される希土類酸化物成分は、電極支持基板1の熱膨張係数を、固体電解質層4と近似させるために使用されるものであり、高い導電率を維持し且つ固体電解質層4等への元素の拡散を防止し、また、元素拡散による影響をなくすため、Y、Lu、Yb、Tm、Er、Ho、Dy、Gd、Sm、Prからなる群より選ばれた少なくとも1種の希土類元素を含む酸化物が好適である。このような希土類酸化物の例としては、Y2O3、Lu2O3、Yb2O3、Tm2O3、Er2O3、Ho2O3、Dy2O3、Gd2O3、Sm2O3、Pr2O3を挙げることができ、特に安価であるという点で、Y2O3,Yb2O3が好適である。
なお、電極支持基板1に含有されるNiは、電極支持基板1中に35〜65体積%の量で含まれ、希土類酸化物は、電極支持基板1中に65〜35体積%の量で含まれていることが好適である。
上記のようなNiと希土類酸化物とから構成される電極支持基板1は、燃料ガス透過性を有していることが必要であるため、通常、開気孔率が30%以上、特に35乃至50%の範囲にあることが好適である。また、その導電率は、300S/cm以上、特に440S/cm以上であることが好ましい。
また、燃料側電極層3は、電極支持基板1と同様に導電性を付与する目的でNiを含有する。なおNiは、電極支持基板1と同様、Ni単体や酸化物、Niを含む合金または合金酸化物等を用いることができ、その他、鉄、コバルト等の鉄族金属類を用いることもできる。
そして、燃料側電極層3は、それ自体公知の多孔質の導電性セラミックから形成され、例えば、Ni及び/またはNiOと、希土類元素が固溶しているZrO2やCeO2等とから形成される。
この希土類元素が固溶しているZrO2(安定化ジルコニア)やCeO2としては、以下に述べる固体電解質層4の形成に使用されているものと同様のものを用いるがよい。そして、燃料側電極層3中の安定化ジルコニア含量は、35〜65体積%の範囲にあるのが好ましく、またNi或いはNiO含量は、65〜35体積%であるのがよい。さらに、この燃料極層11の開気孔率は、15%以上、特に20〜40%の範囲にあるのがよく、その厚みは、20〜40μmであることが望ましい。
ここで、燃料側電極層3は、イットリアを固溶した安定化ジルコニア粒子(以下、YSZと略す)とNi粒子とが均一に混合して形成されるとともに、Ni粒子はYSZ粒子の間に配置されていることが好ましい。ここで、YSZ粒子としては、平均粒径が0.1〜0.3μmの微粉末を用いるのが好ましい。
燃料電池セルの発電においては、燃料側電極層3に含有されるYSZとNiが接着している界面(三相界面)で、酸素と水素が反応して電子が発生する。本発明においては、燃料側電極層3を、YSZ粒子とNi粒子とが均一に混合して形成されるとともに、Ni粒子はYSZ粒子の間に配置されていることにより、YSZとNiが接着する箇所を増加することができ、燃料電池セルの発電性能を向上することができる。
一方、本発明においては、燃料側電極層3において、YSZ粒子とNi粒子とが均一に混合して形成されるとともに、Ni粒子はYSZ粒子の間に配置されている構造としたことにより、YSZ同士が三次元網目状に連結したような構造となり、骨格を形成しないこととなる。
燃料側電極層は、一般的にYSZが骨格を形成することにより、燃料側電極層と固体電解質層を強固に接合することができるが、燃料電池セルの作製時に燃料側電極層を焼き付ける際、YSZの骨格に分散したNiが焼結し、大きなNiの粒子を形成する場合がある。この場合、YSZとNiの接着箇所(面積)が少なくなり、これにより燃料電池セルの発電性能が低下するおそれがある。
本発明においては、燃料側電極層3は、YSZ粒子とNi粒子とが均一に混合して形成されるとともに、Ni粒子はYSZ粒子の間に配置されていることから、燃料側電極層の焼付け時に、Niの粒子が焼結して大きなNiの粒子を形成することを抑制できる。したがって、YSZとNiの接着箇所を多くすることができ、燃料電池セルの発電性能を向上することができる。
ここで、YSZが骨格を形成しないことにより、燃料側電極層3と固体電解質層4との接合が弱くなる場合が生じるが、本発明においては、後述するように、電極支持基板1と燃料側電極層4との間に中間層7を設けることにより、燃料側電極層3と固体電解質層4の剥離を抑制することができるため、本発明の燃料電池セル10は、燃料側電極層3をYSZ粒子とNi粒子とが均一に混合して形成されるとともに、Ni粒子はYSZ粒子の間に配置されている構造とした場合であっても、燃料側電極層3と固体電解質層4が剥離することを抑制することができる。
したがって、燃料側電極層3と固体電解質層4が剥離することを抑制できるとともに、燃料電池セル10の発電性能を向上することができる。
燃料側電極層3上に設けられている固体電解質層4は、電極間の電子の橋渡しをする電解質としての機能を有していると同時に、燃料ガスと酸素含有ガスとのリークを防止するためにガス遮断性を有するものでなければならず、一般に3〜15モル%の希土類元素が固溶したZrO2(通常、安定化ジルコニアと呼ばれる)から形成されている。
この希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luを例示することができるが、安価であるという点からY、Ybが望ましい。
この固体電解質層4を形成する安定化ジルコニアセラミックスは、ガス透過を防止するという点から、相対密度(アルキメデス法による)が93%以上、特に95%以上の緻密質であることが望ましく、且つその厚みが10〜100μmであることが望ましい。
そして、本発明においては、電極支持基板1と燃料側電極層3との間に、電極支持基板1および燃料側電極層3よりも気孔率の低い多孔質体で、かつNiを含有する中間層7が設けられている。
なお、中間層7は図1から明らかなように、インターコネクタ6の両サイドまで延びており、電極支持基板1の表面が露出しないように構成されている。
ここで、中間層7はNiを含有するほか、希土類元素を含有することが好ましい。このような希土類元素としては、上記電極支持基板1を作製する際に用いた希土類元素を用いることができ、特にはY2O3、Yb2O3が好適である。
なお、中間層7に含有されるNiは、中間層7中に35〜65体積%の量で含まれ、希土類酸化物は、中間層7中に65〜35体積%の量で含まれていることが好適である。また中間層7は、その厚みが1〜5μmとするのが好ましい。また開気孔率としては、20%未満とするのが好ましい。
そして、中間層7は電極支持基板1および燃料側電極層3よりも気孔率が低い多孔質体であることから、電極支持基板1と中間層7、燃料側電極層3と中間層7のそれぞれが、アンカー効果により強固に接合される。
また、電極支持基板1、燃料側電極3および中間層7のそれぞれが、Niを含有することから、さらに電極支持基板1と中間層7、燃料側電極層3と中間層7のそれぞれが強固に接合できる。
それゆえ、これら各層の剥離を抑制することができるとともに、電極支持基板1と燃料側電極層3とが、中間層7を介して強固に接合することができる。
なお、中間層7は多孔質体であることから、電極支持基板1に設けられた燃料ガス通路2を流通して電極支持基板1に供給される燃料ガスは、燃料側電極層3に効率的に供給され、効率の良い発電を行なうことができる。
ところで、本発明においては、あわせて燃料側電極層3と固体電解質層4の剥離を抑制することができる。この理由については詳細には分かっていないが、以下のように考えることができる。
燃料電池セル10の発電において、燃料電池セル10が酸化や還元することにより、電極支持基板1や燃料側電極層3が、収縮または膨張する場合がある。この場合において、例えば燃料側電極層3および電極支持基板1が収縮する場合には、一般に燃料側電極層3は電極支持基板1よりも薄く形成されるため、燃料側電極層3が、電極支持基板1に引きずられ、燃料側電極層3と固体電解質層4との間に大きな応力が生じると考えられ、この場合燃料側電極層3と固体電解質層4が剥離を生じる場合がある。
本発明においては、電極支持基板1と燃料側電極層3の間に中間層7を設けることにより、例えば中間層7が膨張した場合であっても、その膨張度合いが電極支持基板1、燃料側電極層3よりも小さいことにより、中間層7が電極支持基板1と燃料側電極層3の収縮や膨張を抑制するよう作用する。それにより、燃料側電極層3が電極支持基板1の膨張、収縮に引きずられることを抑制することができることから、燃料側電極層3と固体電解質層4との応力を緩和することができ、燃料側電極層3と固体電解質層4の剥離を抑制することができると考えられる。
また、別の考え方として、次のように考えられる。燃料側電極層3が膨張するとともに、電極支持基板1が収縮する場合には、電極支持基板1の収縮に伴い、燃料側電極層3に反りが生じる。そして、燃料側電極層3に反りが生じることにより、燃料側電極層3と固体電解質4に剥離が生じる。
本発明においては、電極支持基板1と燃料側電極層3との間に中間層7を設け、中間層7の膨張を、燃料側電極層3よりも小さい膨張とすることにより、燃料側電極層3の膨張が抑制され、燃料側電極層3の反りを抑制することができ、燃料側電極層3と固体電解質層4の剥離を抑制することができると考えられる。
それゆえ、電極支持基板1、中間層7、燃料側電極層3のそれぞれが剥離することを抑制できるとともに、燃料側電極層3と固体電解質層の剥離4をも抑制することができる。
また、電極支持基板1、中間層7、燃料側電極層4のそれぞれがNiを含有することから、それぞれにおける電気抵抗が低減し、効率よく発電した電力を回収することができる。
なお、中間層7の膨張は、中間層7に含有される希土類元素の種類や含有量を適宜調整することで、調整できる。
なお、図1の例では、燃料側電極層3および中間層7は、インターコネクタ6の両サイドにまで延びているが、酸素側電極5に対面する位置に存在して形成されればよいため、例えば、酸素側電極5が設けられている側の平坦部nにのみ形成されていてもよい。
以下に、本発明の燃料電池セル10を構成する他の部材について説明する。
インターコネクタ6は、固体電解質層4が設けられていない側の電極支持基板1の平坦部分n上に直接設けることもでき、この場合にはインターコネクタ6と電極支持基板1との間の電位降下を抑制できる。
また、インターコネクタ6と電極支持基板1との間に、インターコネクタ6、電極支持基板1間の熱膨張係数差を軽減する等のために燃料側電極層3と類似する組成からなる層8を形成しても良い。なお、図1では、インターコネクタ6と電極支持基板1との間に、燃料側電極層3と類似する組成からなる層8を形成した状態を示している。
また、酸素側電極層5は、いわゆるABO3型のペロブスカイト型酸化物からなる導電性セラミックスから形成されるのが好ましい。かかるペロブスカイト型酸化物としては、遷移金属ペロブスカイト型酸化物、特にAサイトにLaを有するLaMnO3系酸化物、LaFeO3系酸化物、LaCoO3系酸化物の少なくとも1種が好ましく、600〜1000℃程度の作動温度での電気伝導性が高いという点からLaFeO3系酸化物が特に好ましい。尚、上記ペロブスカイト型酸化物においては、AサイトにLaと共にSrなどが存在しても良く、さらにBサイトには、FeとともにCoやMnが存在しても良い。
また、酸素側電極層5は、ガス透過性を有する必要があり、従って、酸素側電極層5を形成する導電性セラミックス(ペロブスカイト型酸化物)は、開気孔率が20%以上、特に30乃至50%の範囲にあることが好ましい。さらには、酸素側電極層5の厚みは、集電性という点から30〜100μmであることが好ましい。
上記の酸素側電極層5に対面する位置において、燃料側電極層3と類似組成からなる層8を介して電極支持基板1上に設けられているインターコネクタ6は、導電性セラミックスから形成されるのが好ましいが、燃料ガス(水素)及び酸素含有ガスと接触するため、耐還元性、耐酸化性を有していることが必要である。このため、耐還元性、耐酸化性を有する導電性セラミックスとしては、一般に、ランタンクロマイト系のペロブスカイト型酸化物(LaCrO3系酸化物)が使用される。また、電極支持基板1の内部を通る燃料ガスおよび電極支持基板1の外部を通る酸素含有ガスのリークを防止するため、かかる導電性セラミックスは緻密質でなければならず、例えば93%以上、特に95%以上の相対密度を有していることが好適である。
また、インターコネクタ6の厚みは、ガスのリーク防止と電気抵抗という点から、10〜200μmであることが好ましい。この範囲よりも厚みが薄いと、ガスのリークを生じやすく、またこの範囲よりも厚みが大きいと、電気抵抗が大きく、電位降下により集電機能が低下してしまうおそれがある。
また、インターコネクタ6の外面(上面)には、P型半導体9を設けることが好ましい。集電部材を、P型半導体9を介してインターコネクタ6に接続させることにより、両者の接触がオーム接触となり、電位降下を少なくし、集電性能の低下を有効に回避することが可能となる。
このようなP型半導体9としては、遷移金属ペロブスカイト型酸化物を例示することができる。具体的には、インターコネクタ6を構成するLaCrO3系酸化物よりも電子伝導性が大きいもの、例えば、BサイトにMn、Fe、Coなどが存在するLaMnO3系酸化物、LaFeO3系酸化物、LaCoO3系酸化物などの少なくとも一種からなるP型半導体セラミックスを使用することができる。このようなP型半導体9の厚みは、一般に、30乃至100μmの範囲にあることが好ましい。
以上説明した本発明の燃料電池セル10の製法について説明する。
先ず、Ni等の鉄族金属或いはその酸化物粉末と、YSZ、Y2O3などの希土類酸化物の粉末と、有機バインダーと、溶媒とを混合して坏土を調製し、この坏土を用いて押出成形により電極支持基板1成形体を作製し、これを乾燥する。なお、電極支持基板1成形体として、電極支持基板1成形体を900〜1000℃にて2〜6時間仮焼した仮焼体を用いてもよい。
次に、電極支持基板1に、燃料側電極層3、固体電解質層4、中間層7を設けた積層成形体を作製する。
ここで、NiOと希土類元素が固溶したZrO2粉末に、トルエン、バインダー、市販の分散剤等を加えてスラリー化したものをドクターブレード等の方法により、7〜75μmの厚さに成形してシート状の固体電解質層4成形体を作製する。
次に例えば所定の調合組成に従いNiO、Y2O3が固溶したZrO2(YSZ)の素原料を秤量、混合する。この後、混合した粉体に、有機バインダー及び溶媒を混合して燃料側電極層3用スラリーを調製する。
続いて、NiOとY2O3を所定の割合で混合して中間層7用スラリーを調整する。
上記のようにして作製したシート状の固体電解質層4成形体上に、燃料側電極層3用スラリーを塗布して燃料側電極層3成形体を形成し、さらに燃料側電極層3の上に、中間層7用スラリーを塗布し、それらを電極支持基板1成形体に積層する。その後、乾燥機にて乾燥させることにより、電極支持基板1に、燃料側電極層3、固体電解質層4、中間層7を設けた積層成形体を作製することができる。
なお、燃料側電極層3はスラリーとして塗布する以外に、例えば、NiOと希土類元素が固溶したZrO2やCeO2等の粉末に、トルエン、バインダー、市販の分散剤等を加えてスラリー化したものをドクターブレード等の方法により、シート状の燃料側電極層3成形体を作製することもできる。
次に、インターコネクタ6用材料(例えば、LaCrO3系酸化物粉末)、有機バインダー及び溶媒を混合してスラリーを調製し、インターコネクタ6用シートを作製し、固体電解質層4成形体が形成されていない電極支持基板1成形体の露出面に積層する。
次いで、上記の積層成形体を脱バインダー処理し、酸素含有雰囲気中、1400〜1600℃にて2〜6時間、同時焼成した。
さらに、酸素側電極層5用材料(例えば、LaFeO3系酸化物粉末)、溶媒及び増孔剤を含有するスラリーをディッピング等により固体電解質層4上に塗布する。また、インターコネクタ6の所定の位置に、必要により、P型半導体層9用材料(例えば、LaFeO3系酸化物粉末)と溶媒を含むスラリーを、ディッピング等により塗布し、1000〜1300℃で、2〜6時間焼き付けることにより、図1に示す構造の本発明の燃料電池セル10を製造できる。なお、燃料電池セル10は、その後内部に水素ガスを流し、電極支持基板1および燃料側電極3の還元処理を行なうのが好ましい。その際、たとえば750〜1000℃にて5〜20時間還元処理を行なうのが好ましい。
また、本発明の燃料電池セルスタックは、上記のようにして作製した燃料電池セル10を、複数個立設して配列した状態で、マニホールドに固着し、これら燃料電池セル10間に、集電部材を一方の燃料電池セル10の酸素側電極5に導電性セラミック等の導電性接着材により接合するとともに、隣接する他方の燃料電池セル10のP型半導体層9に導電性接着材により接合し、これにより、複数の燃料電池セル10が電気的に直接に接続され、燃料電池セルスタックが構成されている。
本発明の燃料電池セルスタックは、上記のようにして作製した燃料電池セル10を電気的に複数個接続することにより、長期信頼性に優れた燃料電池セルスタックとすることができる。
さらに、本発明の燃料電池は、上記燃料電池セルスタックを収納容器に収納し、この収納容器に、都市ガス等の燃料ガスを供給する燃料ガス導入管及び空気を供給するための空気導入管を配設することにより構成される。
先ず、平均粒径0.5μmのNiO粉末と、平均粒径0.9μmのY2O3粉末を焼成‐還元後における体積比率が、Niが48体積%、Y2O3が52体積%になるように混合し、有機バインダーと溶媒にて作製した坏土を押出成形法にて成形し、乾燥、脱脂して電極支持基板成形体を作製した。
次に8mol%のイットリウムが固溶したマイクロトラック法による粒径が0.8μmのZrO2粉末(固体電解質9原料粉末)と有機バインダーと溶媒とを混合して得られたスラリーを用いて、ドクターブレード法にて厚み30μmの固体電解質層用シートを作製した。
次に平均粒径0.5μmのNiO粉末とYSZが固溶したZrO2粉末と有機バインダーと溶媒を混合した燃料側電極層用スラリーを作製し、固体電解質層用シート上に塗布した。なお、燃料側電極層の作製において用いるYSZとしては、平均粒径が0.2μmの粉末を用いた。
続いて、平均粒径0.5μmのNiO粉末と、平均粒径0.9μmのY2O3粉末を焼成‐還元後における体積比率が、Niが48体積%、Y2O3が52体積%になるように混合して中間層用スラリーを調整し、燃料側電極層3の上に塗布した。なお、中間層の作製にあたっては、ポア材を混合して作製し、ポア材の量を電極支持基板作製時に用いるポア剤の量よりも少なくした。それにより、電極支持基板よりも気孔率の低い中間層を作製した。
そして、これら積層成形体を電極支持基板成形体に積層したのち、乾燥機中で保管して乾燥させた。
乾燥後、上記のように成形体を積層した積層成形体を1000℃にて3時間仮焼処理した。
続いて、LaCrO3系酸化物と、有機バインダーと溶媒を混合したインターコネクタ用スラリーを作製し、これを固体電解質層仮焼体が形成されていない露出した電極支持基板仮焼体上に積層し、大気中1510℃にて3時間同時焼成した。
続いて、平均粒径2μmのLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3粉末と、イソプロピルアルコールからなる混合液を作製し、積層焼結体の固体電解質層の表面に噴霧塗布し、酸素側電極成形体を形成し、1100℃にて4時間で焼き付け、酸素側電極を形成し、図1に示す燃料電池セルを作製した。
なお、作製した燃料電池セルの寸法は25mm×200mmで、電極支持基板の厚さ(n−n間の距離)は2mm、開気孔率35%、中間層7の厚さは2μm、開気孔率15%、燃料側電極3の厚さは20μm、開気孔率24%であった。なお、中間層の開気孔率は、作製した燃料電池セルのSEM写真を画像解析し、一定面積における気孔の割合を求めて気孔率とした。
また、比較例の燃料電池セルを、上記の作製方法のうち、中間層用スラリーを塗布する工程以外の工程を行ない作製した。
得られた燃料電池セルのうち電極支持基板、中間層、燃料側電極層のSEM写真を図3に示す。なお、図3(a)は、電極支持基板と燃料側電極層の間に中間層を有する本発明の燃料電池セルの例を、(b)は電極支持基板と燃料側電極層の間に中間層を有さない比較例の燃料電池セルの例を示している。
上述の方法で作製した本発明の燃料電池セルのSEM写真を用い、画像解析により中間層の開気孔率を求めた結果、中間層は、電極支持基板および燃料側電極層のいずれよりも気孔率が低い多孔質体とされていた。
ここで、得られた燃料電池セル10の燃料ガス流路に燃料ガスを流通させ、燃料電池セルの外側に酸素含有ガスを流通させ、燃料電池セルを、電気炉を用いて750℃まで加熱し、3時間の発電試験を行い、燃料電池セルの発電性能を確認した。その後、燃料電池の発電において燃料電池セルに供給される燃料ガスが遮断した場合を想定して、燃料電池セルへの燃料ガスの供給を遮断し、燃料電池セルに電流密度0.44A/cm2の条件にて30分間電流を流した。
30分後放置した後、燃料電池セルの断面を実体顕微鏡下で確認し、電極支持基板、中間層、燃料側電極層、固体電解質層の各層間の剥離を確認した。
結果、中間層を有する本発明の燃料電池セルでは、電極支持基板、中間層、燃料側電極層、固体電解質層のいずれにおいても剥離は生じなかった。
一方、中間層を有さない燃料電池セルでは、燃料側電極層と固体電解質層の境界で剥離が生じた。