JP5017748B2 - 重合性化合物、電気化学デバイス用電解質および重合性化合物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩素含有量の少ないオキシアルキレン基を有する重合性化合物、該重合性化合物の重合物を用いた電気化学デバイス用電解質、二次電池用電解質、二次電池および該重合性化合物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子製品の高性能化、小型化に対する要求が強く、そのエネルギー源である電池材料に対しても、小型化、軽量化でかつ高容量、高エネルギー密度が求められ、種々の研究開発が行われている。
近年そのような要求に応える目的から、従来の電解質溶液に代わる新しいイオン伝導体として、固体電解質が全固体一次電池、二次電池、コンデンサ等の電気化学デバイスへの応用が試みられている。従来の電解液を使用した電気化学デバイスでは、液漏れや溶質の染みだしの問題から安全性や信頼性に問題がある。このような電解液を用いた場合の欠点を克服するために、高分子化合物を電解質に使用したいわゆる高分子電解質が種々検討されている。高分子電解質は可堯性を有し、機械的衝撃にも追従し、さらに電極−電解質間でのイオン電子交換反応に際して生じる電極の体積変化にも追従し得る特徴を有している。
このような高分子電解質としては、米国特許第4303748号明細書ではポリアルキレンオキシドにアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を溶解した固体電解質が提案されているが、イオン伝導度が不十分で、さらに極材との接触抵抗が高いといった課題が残されている。このようにイオン伝導度が不十分であった場合には、充電および放電時の電流密度が充分に得られず、大電流を必要とする用途には適用できず、用途が限定されてしまう。
上記の固体電解質の欠点を克服するため、ポリ(メタ)アクリレートを主鎖として側鎖または/かつ架橋鎖としてポリアルキレングリコール鎖を導入した高分子にアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を溶解した固体電解質が数多く提案されている。このような高分子の基質となるポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートとしては、活性水素を有する(メタ)アクリレート誘導体を基質として、特公昭43−9071号公報に示されているルイス酸触媒を用いたカチオン重合の製法にてアルキレンオキシドを開環重合させて得ることができるが、反応触媒に含まれる塩素分の除去が難しく、得られるポリアルキレングリコール誘導体中に残存することから、電解質として用いる際に、溶解している金属塩との反応や極材または集電体の腐食、または内部での火花発生や短絡が発生し、容量の保持や安全性および安定性その他特性の低下を引き起こしてしまう。また通常知られているアルカリ金属水酸化物やアルカリ金属アルコラート等のアニオン重合触媒では、反応温度を通常は100℃以上と高くする必要があることやアルカリ金属が重合性基である(メタ)アクリロイル基の重合を引き起こす可能性があることから、適用することができない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、塩素含有量の少ないオキシアルキレン基を有する重合性化合物、高いイオン伝導度を示し、かつ安全性に優れた二次電池やコンデンサ等の電気化学デバイス用の材料として有用な重合物の製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、触媒として三フッ化ホウ素化合物を用いて、式(2)で示される重合性化合物にアルキレンオキシドを開環重合させた後に、式(2)で示される化合物とアルキレンオキシドの合計量100重量部に対して0.1〜10重量部の酸化マグネシウム30〜70重量%および酸化アルミニウム10〜40重量%を含有する複合金属酸化物で処理することを特徴とする、塩素含有量が100ppm以下である式(1)で示される重合性化合物の製造方法。
XO(AO)nH (1)
(Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基であり、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、n=1〜100である。)
XO(A 1 O)mH (2)
(Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基であり、A 1 Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、m=0〜99である。)
さらに、本発明は、この重合性化合物を重合させる、電気化学デバイス用電解質の製造方法である。
【0005】
【発明の実施の形態】
本発明の式(1)で示される重合性化合物は、塩素含有量100ppm以下であり、好ましくは25ppm以下であり、より好ましくは10ppm以下である。塩素含有量が100ppmより多いと、電気特性が劣る。
塩素含有量は以下の方法で測定することができる。
例えば、日本工業規格JIS K2241 5.3.3に準拠した塩素分析方法や、ISO10304−1に準拠したイオンクロマトグラムによる陰イオン分析法等が挙げられる。これらの分析方法を用いるにあたっては、予め有機物質を白金るつぼなどで燃焼させ、そのガスを捕集し、かつ燃焼残分を収集し、これを上記分析方法に充当する形でも分析することが可能である。
また、式(1)で示される重合性化合物のCPR値が30以下のものが好ましく、15以下のものがより好ましく、5以下のものがさらに好ましい。CPR値が30以下であると電気特性に優れる。
CPR値はJIS K1557 6.8に準じて測定することができる。
【0006】
式(1)で示される重合性化合物は塩素含有量が少ないため電気特性に優れることから、特に電気化学デバイス用重合性化合物として好適に使用することができる。
式(1)で示される重合性化合物の重合物は塩素含有量が少ないため電気特性に優れることから、特に電気化学デバイス用電解質として好適に使用することができる。
式(1)で示される重合性化合物をホウ酸または無水ホウ酸によりエステル化することによって得られる重合性ホウ酸エステル化合物を製造して、さらに重合性ホウ酸エステル化合物を重合することにより電気化学デバイス用電解質として使用することができる。
電気化学デバイス用電解質としては、二次電池、電解コンデンサ等の電解質として使用することができ、イオン性化合物および有機高分子化合物からなる二次電池用電解質の有機高分子化合物として有用であり、特にリチウムイオン二次電池用電解質として有用である。さらに、その二次電池用電解質を用いた二次電池に使用することができる。
【0007】
本発明で用いる式(1)で示される重合性化合物において、Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基である。
式(1)においてAOで示される炭素数2〜4のオキシアルキレン基は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基などが挙げられ、好ましくはオキシエチレン基またはオキシプロピレン基である。またこれらの1種または2種以上の混合物でもよく、2種以上の時の重合形式はブロック状、ランダム状のいずれでもよい。
nは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜100であり、イオン伝導度を得る目的から好ましくは5〜100である。100を超えると重合性基の導入量が少なく、マトリクスとしての機械的強度が得難くなる。
【0008】
本発明に用いられる式(1)で示される重合性化合物は、三フッ化ホウ素化合物を触媒として使用し、原料である活性水素含有重合性化合物1モルにアルキレンオキシド1〜100モルを開環重合させた後に、活性水素含有重合性化合物とアルキレンオキシドの合計量100重量部に対して0.1〜10重量部の複合金属酸化物で処理することにより得ることができる。
また、式(1)で示される重合性化合物は、活性水素を2つ含有する化合物であるジオール化合物に、アクリル酸クロリドやメタクリル酸クロリドを脱塩酸反応することで、もしくはジオール化合物にアクリル酸やメタクリル酸をエステル化反応させることでも得ることができる。しかし、式(1)で示される片末端が重合性基で、かつもう一方が水酸基である構造の化合物の収率が低いため成形性が劣ることなどがあり、塩素やその他不純物の残存も多いことから好ましくない。
【0009】
活性水素含有重合性化合物は、式(2)で示される化合物である。
XO(A1O)mH (2)
(Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基であり、A1Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、m=0〜99である。)
式(2)において、Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基である。式(2)においてA1Oで示される炭素数2〜4のオキシアルキレン基は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基などが挙げられ、好ましくはオキシエチレン基またはオキシプロピレン基である。またこれらの1種または2種以上の混合物でもよく、2種以上の時の重合形式はブロック状、ランダム状のいずれでもよい。mは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、0〜99である。好ましくは0〜49である。
【0010】
具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリブチレングリコールモノアクリレート、ポリブチレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノアクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート等が挙げられる。好ましくはアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピルである。
【0011】
本発明の製造方法で用いる三フッ化ホウ素化合物としては、例えば三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体、三フッ化ホウ素酢酸錯体等の三フッ化ホウ素化合物等が挙げられる。好ましくは三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジn−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体である。三フッ化ホウ素化合物の添加量は、従来から知られているように、活性水素含有重合性化合物およびアルキレンオキシドの総重量に対して、0.01〜1.00重量%の範囲で用いることが好ましい。
【0012】
本発明の製造方法で使用される複合金属酸化物としては、酸化マグネシウム30〜70重量%および酸化アルミニウム10〜40重量%を含有するものである。より好ましくは酸化マグネシウム50〜70重量%および酸化アルミニウム25〜40重量%含有するものである。この範囲にある複合金属酸化物を使用すると塩素分の低減に有効である。また、複合金属酸化物を焼成活性化したものも使用することができ、さらに塩素分の低減に効果的である。焼成活性化する場合、焼成活性化温度は200〜1000℃で2〜6時間処理することが一般的である。
【0013】
複合金属酸化物の形状としては、特に制限はないが粉体状であるものが好ましい。
さらに、複合金属酸化物は、乾燥減量が10重量%未満が好ましく、5重量%未満がより好ましい。乾燥減量が10重量%以上であると、酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムの相対的な含有量が低下する場合があり好ましくない。ここで言う乾燥減量とは、複合金属酸化物を105±2℃の恒温乾燥機にて3時間乾燥した後の減少重量を、乾燥前の複合金属酸化物に対する重量百分率で表したものである。
【0014】
さらに、この複合金属酸化物には二酸化ケイ素が含まれていても良いが、その含有量は10重量%未満が好ましく、5重量%未満がより好ましい。二酸化ケイ素の含有量が10重量%以上であると、酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムの相対的な含有量が低下し、さらに、効率的な反応触媒等の除去が困難となり好ましくない。前記複合金属酸化物は、市販品としては、例えば協和化学工業(株)製のキョーワード500、キョーワード1000、キョーワード2000、富田製薬(株)製のトミックスAD500などが挙げられる。
【0015】
複合金属酸化物の市販品としての代表組成は以下の通りである。キョーワード500(酸化マグネシウム38.2重量%、酸化アルミニウム16.1重量%、二酸化ケイ素含有しない)、キョーワード1000(酸化マグネシウム35.2重量%、酸化アルミニウム19.1重量%、二酸化ケイ素含有しない)、キョーワード2000(酸化マグネシウム59.2重量%、酸化アルミニウム33.0重量%、二酸化ケイ素含有しない)、トミックスAD500(酸化マグネシウム37.4重量%、酸化アルミニウム17.2重量%、二酸化ケイ素含有しない)である。本発明では、複合金属酸化物を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。酸化マグネシウムおよび酸化アルミニウムを含有する複合金属酸化物の使用量は、式(2)の重合性化合物とアルキレンオキシドの合計量100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5重量部である。0.1重量部より少ない場合には塩素分の低減が十分ではなく、10重量部より多い場合には除去することが困難で、かつポリアルキレングリコール誘導体の収量が低下するため好ましくない。
【0016】
複合金属酸化物を用いた処理方法は、開環重合を行って得られた重合性化合物、複合金属酸化物を任意の方法で混合または接触させることができるが、攪拌しながら接触させるのが好ましい。また、添加順序は特に限定されないが、通常は開環重合を行って得られた重合性化合物に複合金属酸化物を添加する。
処理温度は通常50〜90℃であり、好ましくは60〜80℃である。50℃を下回ると塩素分の低減が十分でなく、90℃より高いとポリアルキレングリコール誘導体の劣化もしくは重合性基の安定性に問題を生じる原因となることもある。処理時間は通常30分〜6時間である。30分より短いと塩素分の低減が十分ではない可能性があり、6時間より長くてもそれ以上の効果は見られないこともある。また、同時に減圧処理をすることもでき、さらに効果的である。
処理後、濾過、遠心分離などによって複合金属酸化物を除去することが好ましい。
また複合金属化合物による処理では、遷移金属、アルカリ土類金属、アルカリ金属、これらの塩およびイオンの低減効果も併せて得ることができる。これらのうちアルカリ土類金属、アルカリ金属に由来する成分の存在は、電気デバイス用の材料として用いる場合に障害となり得るため、より低減することが望ましい。これらの存在量については、JIS K1557 6.8に従って算出される含有する塩基性物質の量を示すCPR値から計り知ることが可能である。
【0017】
本発明の式(1)で示される重合性化合物を、ホウ酸または無水ホウ酸によりエステル化することによって得られる重合性ホウ酸エステル化合物は電気特性が良好である。特に好適に電気化学デバイスに用いることができる。
さらに重合性ホウ酸エステル化合物を重合することにより電気化学デバイス用電解質として好適に使用することができる。
電気化学デバイス用電解質としては、二次電池、電解コンデンサ等の電解質として使用することができ、イオン性化合物および有機高分子化合物からなる二次電池用電解質の有機高分子化合物として有用であり、特にリチウムイオン二次電池用電解質として有用である。さらに、その二次電池用電解質を用いた二次電池に使用することができる。
【0018】
式(1)で示される重合性化合物由来の重合性ホウ酸エステル化合物(以下、重合性ホウ酸エステル化合物と称する)は、好ましくは塩素含有量100ppm以下であり、より好ましくは25ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下である。塩素含有量が100ppm以下であると、電気特性に優れる。
また、重合性ホウ酸エステル化合物のCPR値が30以下のものが好ましく、15以下のものがより好ましく、5以下のものがさらに好ましい。CPR値が30以下であると電気特性に優れる。
本発明に用いられる重合性ホウ酸エステル化合物は、式(1)で示される重合性化合物にオルトホウ酸、メタホウ酸、ピロホウ酸などのホウ酸または無水ホウ酸を加え、50〜90℃にて空気通気下で真空による脱水反応することで得られる。例えば反応温度50〜90℃、0.133〜6.67kPa(1〜50mmHg)の真空下において、空気を適当量通気しつつ、撹拌しながら2〜30時間脱水反応することで重合性ホウ酸エステル化合物が生成する。
反応温度は50〜90℃であり、好ましくは60〜90℃である。50℃より低いと脱水によるエステル化反応の進行が困難であり、90℃より高いと重合性基の保持が困難である。
エステル化反応は、0.133〜6.67kPaの減圧下で行うのが好ましく、0.133〜4.00kPaで行うのがより好ましい。0.133kPaより低いとエステル化反応に付帯して発生する水によって突沸する可能性があり、6.67kPaより高いと脱水によるエステル化反応の進行が困難である。
反応中に系内に通じる空気は、特に制限はないものの、好ましくは凝縮型エアードライヤー等によって乾燥させたものである。
反応時間は2〜30時間であり、好ましくは2〜20時間である。2時間より短いと発生する水の除去が困難であり、30時間を超えると重合性基の保持が困難である。
【0019】
式(1)で示される重合性化合物の水酸基1モルに対して、ホウ素原子1/3モルの比率において、ホウ酸トリエステルが生成する。
ホウ酸エステル化の割合は、水酸基とホウ素原子のモル比率によって任意に調整可能であるが、式(1)で示される重合性化合物の水酸基とホウ素原子のモル比率は、好ましくは6/1〜3/1の範囲である。
エステル化反応に際しては、エステル化反応に関わらない溶剤を適宜用いることができる。また重合性基の保護のために、従来知られているヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ジ−t−ブチル−ヒドロキシトルエン、フェノチアジン等の重合禁止剤を20〜1000ppmの添加量で用いることができる。
【0020】
本発明に用いられる式(1)で示される重合性化合物および重合性ホウ酸エステル化合物は、これに含まれる重合性基を重合させた形で使用する。重合は、加熱、紫外線、可視光、電子線などのエネルギーによってなされるが、適宜、公知の重合開始剤を使用しても良い。重合後の数平均分子量は50,000〜10,000,000であるのが好ましく、50,000を下回ると得られるフィルムの自立性や可堯性の発現が得難くなることもあり得る。
【0021】
式(1)で示される重合性化合物または重合性ホウ酸エステル化合物は、1種または2種以上を混合して使用することができる。配合によっては、混合して使用することにより機械的特性の向上や電気化学デバイス用材料として使用した際のイオン伝導度の向上が望まれる。
本発明に用いられる式(1)で示される重合性化合物の重合物または重合性ホウ酸エステル化合物の重合物は、電気化学デバイス用材料として使用する際に、イオン性化合物を除いた成分の中で、良好なイオン伝導度と機械的特性の両立の点から、5〜100重量%の比率において用いるのが好ましく、10〜90重量%の比率において用いるのがより好ましい。
【0022】
式(1)の重合性化合物の重合物を使用した電解質では、イオン伝導性を有するポリアルキレングリコール鎖が、ポリ(メタ)アクリル酸主鎖に対してグラフト鎖または架橋鎖として導入されるため、高いイオン伝導度と両立して、フィルム安定性が優れる。さらに式(1)で示される重合性化合物を2種以上使用することで、重合性基の導入量(架橋密度)、イオン伝導を担うポリアルキレングリコール鎖の種類および長さを任意に制御することができ、材料設計の点からも非常に有用である。
重合性ホウ酸エステル化合物の重合物を使用した電解質では、ホウ素によるカチオン輸率の向上によってイオン伝導度の向上と、それに伴う電気化学デバイス用電解質としての性能改善が達成できる。そして、ホウ酸エステル基がポリマーマトリクスと同一分子中に固定されているために、高いイオン伝導度と両立して、フィルム安定性が優れる。また、ホウ酸エステルが同一分子中にあるため、イオン性化合物以外の第三成分を添加することなく使用することもでき、電解質フィルムを得る際の工程の単純化が可能であり、非常に有用である。
さらに基質となる式(1)で示される重合性化合物を2種以上使用することで、重合性基の導入量、ホウ酸エステル基の導入量を任意に制御することができ、材料設計の点からも非常に有用である。
【0023】
本発明の電気化学デバイス用電解質に用いられるイオン性化合物は、本発明に用いられる有機高分子化合物に対して任意の比率で混合することができる。本発明に用いられるイオン性化合物に含まれるアルカリ金属1モルに対して、本発明に用いられる有機高分子化合物に含まれるオキシアルキレン単位の総数2〜30モルの比率となるように混合するのが好ましく、アルカリ金属1モルに対してオキシアルキレン単位の総数2〜20モルの比率となるように混合するのが、有機高分子化合物のガラス転移温度低下によるイオン伝導度への寄与の点からより好ましく、アルカリ金属1モルに対してオキシアルキレン単位の総数2〜15モルの比率となるように混合するのが、有機高分子化合物のガラス転移温度低下によるイオン伝導度への寄与およびキャリア数の増大によるイオン伝導度向上の点からさらに好ましい。
【0024】
本発明の電気化学デバイス用電解質に用いられるイオン性化合物の種類は特に限定されるものではなく、コンデンサ用途においては、例えば(CH3)4NBF4、(CH3CH2)4NBF4等の4級アンモニウム塩、AgClO4等の遷移金属塩、(CH3)4PBF4等の4級ホスホニウム塩、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiSCN、NaBr、NaI、NaSCN、KI、KSCNなどのアルカリ金属塩、p−トルエンスルホン酸等の有機酸およびその塩などが挙げられ、好ましくは出力電圧が高く得られ、解離定数が大きい点から、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、アルカリ金属塩である。
【0025】
本発明の二次電池用電解質に用いられるイオン性化合物としては、例えばLiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiSCN、NaBr、NaI、NaSCN、KI、KSCNなどのアルカリ金属塩が挙げられ、好ましくはLiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、Li(C2F5SO2)2N、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiSCNなどのリチウム塩である。
さらに本発明の二次電池用電解質には、イオン伝導性または強誘電性の塩、ガラスの粉末などを添加することができる。このような塩またはガラスの粉末としては、例えばSnO2、BaTiO3、Al2O3、Li2O・3B2O3、LaTiO3などが挙げられる。
【0026】
本発明の電気化学デバイス用電解質は、種々の方法で調製可能である。その調製方法は特に限定されないが、例えば、本発明に用いられる式(1)で示される重合性化合物または重合性ホウ酸エステル化合物は、多くの低沸点有機溶剤に溶解するため、これとイオン性化合物を低沸点溶剤に溶解して溶液を調製し、これを加熱によりキャスティングして低沸点溶剤を除去しつつ重合性有機化合物を熱重合させることで、力学的強度を有する高分子電解質薄膜を得ることができる。なお必要に応じて、紫外線、可視光、電子線等の電磁波を照射することで重合性化合物の重合による薄膜を得ることもできる。また、例えば、式(1)で示される重合性化合物または重合性ホウ酸エステル化合物の重合物とイオン性化合物を良く混練し成形することで、電気化学デバイス用電解質薄膜を得ることができる。
【0027】
有機高分子化合物は本発明の効果を妨げなければ、他の有機高分子化合物を混合して使用しても問題ない。他の有機高分子化合物としては、例えばポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸共重合体、アクリロニトリル−スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート共重合体等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
本発明に用いられる式(1)で示される重合性化合物および重合性ホウ酸エステル化合物を予め混合し、イオン性化合物を溶解させて、かかる後に重合しても良い。式(1)で示される重合性化合物に他の重合性化合物を混合し、イオン性化合物を溶解させて、かかる後に重合させて使用しても良い。または本発明に用いられる式(1)で示される重合性化合物、重合性ホウ酸エステル化合物および他の重合性化合物を予め混合し、イオン性化合物を溶解させて、かかる後に重合しても良い。
【0028】
他の重合性化合物としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸ブチル等のアルキルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等のアルキルメタクリレート、下記式(3)で示されるポリアルキレングリコールアクリレート、下記式(3)で示されるポリアルキレングリコールメタクリレート、アクリロニトリル、スチレン、ジビニルベンゼンなどが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
Y[(A2O)k−R]a (3)
(Yは1〜4個の水酸基を持つ化合物の残基または水酸基であり、A2Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物であり、k=0〜150、a=1〜4であり、かつk×a=0〜300であり、Rは水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、シアノエチル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基であり、分子中に少なくとも一つはアクリロイル基またはメタクリロイル基を含む。)
式(3)で示される化合物において、Yは1〜4個の水酸基を持つ化合物の残基または水酸基である。
式(3)においてA2Oで示される炭素数2〜4のオキシアルキレン基は、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基などが挙げられ、好ましくはオキシエチレン基またはオキシプロピレン基である。またこれらの1種または2種以上の混合物でもよく、2種以上の時の重合形式はブロック状、ランダム状のいずれでもよい。
Rは水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、シアノエチル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基である。
式(3)で示される化合物は分子中に少なくとも一つはアクリロイル基またはメタクリロイル基をもつ。
【0029】
また上記以外にも、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エーテル、鎖状エーテル等の有機溶剤、ポリアルキレングリコール誘導体、ポリアルキレングリコール誘導体のホウ酸エステル化物を混合使用しても良い。
ポリアルキレングリコール誘導体としては、下記式(4)で示される化合物であり、式(4)で示されるポリアルキレングリコール誘導体のホウ酸エステルとしては、下記式(4)で示される化合物をホウ酸または無水ホウ酸によりエステル化することによって得られる化合物である。
Z[(A3O)l−H]b (4)
(Zは1〜6個の水酸基を持つ化合物の残基、A3Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基の1種または2種以上の混合物であり、l=0〜600,b=1〜6であり、かつl×b=0〜600である。)
【0030】
本発明の高分子電解質と、従来から知られている正極材料、負極材料を組み合わせることで、イオン伝導度、充放電サイクル特性、安全性に優れた二次電池を得ることが可能である。
【0031】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
なお、以下文中においてLiTFSIはリチウムビス(トリフルオロメタンスルホネート)イミドを示す。電解質組成物のイオン性化合物としてのLiTFSIの添加量は、各実施例とも電解質組成物中に含まれるアルキレンオキシドのエーテル酸素8モルに対して、Liイオン濃度が1モルの比率となっている。
【0032】
実施例1
攪拌装置、温度計および圧力ゲージを備えた5リットル容のオートクレーブに2−ヒドロキシエチルメタクリレート260g(2.0モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.028gおよび三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.621gを入れ、系内を窒素ガスにて置換した後エチレンオキシド308g(7.0モル)を圧力1MPa(10.0kg/cm2)以下、温度55℃以下の条件で3時間かけて圧入し、さらに1時間反応を継続した。次に空気を通じて未反応のエチレンオキシドを除去した。その後、協和化学工業(株)製キョーワード500(酸化マグネシウム38.2重量%、酸化アルミニウム16.1重量%、二酸化ケイ素含有しない)を22.7g(活性水素含有重合性化合物とアルキレンオキシドの合計量100重量部に対して4重量部)を加え、空気バブリングしながら、5kPa、70℃の条件にて4時間処理した。次にキョーワード500を濾別し、実施例1の重合性化合物(ポリエチレングリコール(EO4.5)モノメタクリレート)511gを得た。
実施例2
攪拌装置、温度計および圧力ゲージを備えた5リットル容のオートクレーブに2−ヒドロキシエチルアクリレート116g(1.0モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.023gおよび三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.468gを入れ、系内を窒素ガスにて置換した後エチレンオキシド352g(8.0モル)を圧力1MPa(10.0kg/cm2)以下、温度55℃以下の条件で4時間かけて圧入し、さらに1時間反応を継続した。次に空気を通じて未反応のエチレンオキシドを除去した。その後、協和化学工業(株)製キョーワード500(酸化マグネシウム38.2重量%、酸化アルミニウム16.1重量%、二酸化ケイ素含有しない)を23.4g(活性水素含有重合性化合物とアルキレンオキシドの合計量100重量部に対して5重量重量部)加え、空気バブリングしながら、5kPa、70℃の条件にて4時間処理した。次にキョーワード500を濾別し、実施例2の重合性化合物(ポリエチレングリコール(EO9)モノアクリレート)421gを得た。
【0033】
実施例3
攪拌装置、温度計および圧力ゲージを備えた5リットル容のオートクレーブに2−ヒドロキシプロピルメタクリレート144g(1.0モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.043gおよび三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体0.87gを入れ、系内を窒素ガスにて置換した後プロピレンオキシド725g(12.5モル)を圧力1MPa(10.0kg/cm2)以下、温度55℃以下の条件で6時間かけて圧入し、さらに2時間反応を継続した。次に空気を通じて未反応のプロピレンオキシドを除去した。その後、協和化学工業(株)製キョーワード2000(酸化マグネシウム59.2重量%、酸化アルミニウム33.0重量%、二酸化ケイ素含有しない)を43.5g(活性水素含有重合性化合物とアルキレンオキシドの合計量100重量部に対して5重量部)加え、空気バブリングしながら、5kPa、70℃の条件にて4時間処理した。次にキョーワード2000を濾別し、実施例3の重合性化合物(ポリプロピレングリコール(PO13.5)モノメタクリレート)782gを得た。
比較例1
攪拌装置、温度計および圧力ゲージを備えた5リットル容のオートクレーブに2−ヒドロキシエチルメタクリレート260g(2.0モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.028gおよび四塩化錫3.41gを入れ、系内を窒素ガスにて置換した後エチレンオキシド308g(7.0モル)を圧力1MPa(10.0kg/cm2)以下、温度55℃以下の条件で4時間かけて圧入し、さらに1時間反応を継続した。次に空気を通じて未反応のエチレンオキシドを除去した。次に5重量%水酸化ナトリウム水溶液34.1gを投入して、空気バブリングしながら、5kPa、70℃の条件にて4時間脱水処理した。その後に生成した中和塩を濾別し、比較例1の重合性化合物(ポリエチレングリコール(EO4.5)モノメタクリレート)511gを得た。
【0034】
比較例2
攪拌装置、温度計および圧力ゲージを備えた5リットル容のオートクレーブに2−ヒドロキシエチルアクリレート116g(1.0モル)、ヒドロキノンモノメチルエーテル0.023gおよび四塩化錫2.81gを入れ、系内を窒素ガスにて置換した後エチレンオキシド352g(8.0モル)を圧力1MPa(10.0kg/cm2)以下、温度55℃以下の条件で5時間かけて圧入し、さらに1時間反応を継続した。次に空気を通じて未反応のエチレンオキシドを除去した。次に5重量%水酸化ナトリウム水溶液28.1gを投入して、空気バブリングしながら、5kPa、70℃の条件にて4時間脱水処理した。その後に生成した中和塩を濾別し、比較例2の重合性化合物(ポリエチレングリコール(EO9)モノアクリレート)421gを得た。
【0035】
実施例4
比較例2の重合性化合物1.00gと実施例2の重合性化合物99.0gを混合して、混合物である実施例4の重合性化合物100gを得た。
比較例3
比較例2の重合性化合物10.0gと実施例2の重合性化合物90.0gを混合して、混合物である比較例3の重合性化合物100gを得た。
【0036】
製造例1
実施例1の重合性化合物284g(1.0モル)に無水ホウ酸11.6g(0.167モル)を加え、乾燥空気雰囲気下80℃まで昇温した。80℃となったのちに系内を徐々に減圧し、乾燥空気(乾燥空気は凝縮型エアードライヤーを通じて脱水した空気である。以下同様である。)通気下にて圧力2.67kPa(20mmHg)以下の状態を12時間保持し、反応の進行に伴って発生する水を除去した。その後濾過することで重合性ホウ酸エステル化合物(1)を275g得た。
製造例2
実施例2の重合性化合物468g(1.0モル)に無水ホウ酸11.6g(0.167モル)を加え、乾燥空気雰囲気下80℃まで昇温した。80℃となったのちに系内を徐々に減圧し、乾燥空気通気下にて圧力2.67kPa(20mmHg)以下の状態を12時間保持し、反応の進行に伴って発生する水を除去した。その後濾過することで重合性ホウ酸エステル化合物(2)を460g得た。
【0037】
製造例3
実施例3の重合性化合物869g(1.0モル)に無水ホウ酸11.6g(0.167モル)を加え、乾燥空気雰囲気下80℃まで昇温した。80℃となったのちに系内を徐々に減圧し、乾燥空気通気下にて圧力2.67kPa(20mmHg)以下の状態を12時間保持し、反応の進行に伴って発生する水を除去した。その後濾過することで重合性ホウ酸エステル化合物(3)を860g得た。
製造例4
実施例4の重合性化合物468g(1.0モル)に無水ホウ酸11.6g(0.167モル)を加え、乾燥空気雰囲気下80℃まで昇温した。80℃となったのちに系内を徐々に減圧し、乾燥空気通気下にて圧力2.67kPa(20mmHg)以下の状態を12時間保持し、反応の進行に伴って発生する水を除去した。その後濾過することで重合性ホウ酸エステル化合物(4)を460g得た。
【0038】
製造例5
実施例1の重合性化合物189g(0.67モル)、実施例3の重合性化合物290g(0.33モル)に無水ホウ酸11.6g(0.167モル)を加え、乾燥空気雰囲気下80℃まで昇温した。80℃となったのちに系内を徐々に減圧し、乾燥空気通気下にて圧力2.67kPa(20mmHg)以下の状態を12時間保持し、反応の進行に伴って発生する水を除去した。その後濾過することで重合性ホウ酸エステル化合物(5)を470g得た。
比較製造例1
比較例1の重合性化合物284g(1.0モル)に無水ホウ酸11.6g(0.167モル)を加え、乾燥空気雰囲気下80℃まで昇温した。80℃となったのちに系内を徐々に減圧し、乾燥空気通気下にて圧力2.67kPa(20mmHg)以下の状態を12時間保持し、反応の進行に伴って発生する水を除去した。その後濾過することで重合性ホウ酸エステル化合物(比1)を275g得た。
【0039】
比較製造例2
比較例2の重合性化合物468g(1.0モル)に無水ホウ酸11.6g(0.167モル)を加え、乾燥空気雰囲気下80℃まで昇温した。80℃となったのちに系内を徐々に減圧し、乾燥空気通気下にて圧力2.67kPa(20mmHg)以下の状態を12時間保持し、反応の進行に伴って発生する水を除去した。その後濾過することで重合性ホウ酸エステル化合物(比2)を460g得た。
比較製造例3
比較例3の重合性化合物468g(1.0モル)に無水ホウ酸11.6g(0.167モル)を加え、乾燥空気雰囲気下80℃まで昇温した。80℃となったのちに系内を徐々に減圧し、乾燥空気通気下にて圧力2.67kPa(20mmHg)以下の状態を12時間保持し、反応の進行に伴って発生する水を除去した。その後濾過することで重合性ホウ酸エステル化合物(比3)を460g得た。
【0040】
実施例、比較例、製造例および比較製造例の重合性化合物および重合性ホウ酸エステル化合物の塩素含有量を、イオンクロマトグラムを用いて算出した。イオンクロマトグラムによる塩素分の測定に際しては、重合性化合物または重合性ホウ酸エステル化合物をJIS K0102等に記載の方法に準拠して、N/2水酸化カリウムエタノール溶液の存在下にて灰化した上で測定し、JIS K0029に規定された塩化物イオン標準液によって作成した塩化物イオン濃度の検量線により塩素の含有量を算出した。
CPR値はJIS K1557 6.8に準拠して、重合性化合物または重合性ホウ酸エステル化合物をメタノールに溶解させ、N/100塩酸を滴定液として電位差滴定を行い、滴定に要したN/100塩酸の量から求めた。
【0041】
実施例5
実施例1の重合性化合物4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.27g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
実施例6
実施例2の重合性化合物4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.76g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
【0042】
実施例7
実施例3の重合性化合物4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.23g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
実施例8
実施例4の重合性化合物4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.76g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
【0043】
実施例9
製造例1で得られた重合性ホウ酸エステル化合物(1)4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.29g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
実施例10
製造例3で得られた重合性ホウ酸エステル化合物(3)4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.24g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
【0044】
実施例11
製造例4で得られた重合性ホウ酸エステル化合物(4)4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.78g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
実施例12
製造例5で得られた重合性ホウ酸エステル化合物(5)4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.28g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
【0045】
実施例13
実施例2の重合性化合物2.00g、製造例2で得られた重合性ホウ酸エステル化合物(1)2.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.77g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
比較例4
比較例1の重合性化合物4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.27g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
【0046】
比較例5
比較例2の重合性化合物4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.76g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
【0047】
比較例6
比較例3の重合性化合物4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.76g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
比較例7
比較製造例2で得られた重合性ホウ酸エステル化合物(比2)4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.78g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
【0048】
比較例8
比較製造例3で得られた重合性ホウ酸エステル化合物(比3)4.00gに、支持塩としてLiTFSIを2.78g添加し、均一に溶解させた後、ポリテトラフルオロエチレン製ボート中に流し込み、アルゴン雰囲気下、ホットプレート熱重合させ、真空により乾燥することで厚さ0.50mmのイオン伝導性高分子組成物(高分子電解質)を得た。
【0049】
実施例5〜13、比較例4〜8で得られた高分子電解質のフィルム成形性および安定性は、自立するフィルムが得られ、−5〜120℃の温度範囲にて柔軟性および形状を保ち、電気化学デバイス用電解質として使用するにあたって良好なものが得られた。
実施例5、7、9、比較例4、7で得られた高分子電解質のイオン伝導度の評価は次のようにおこなった。各高分子電解質フィルムをステンレス電極に挟み込み、アルゴン雰囲気下、温度を変化させ、各温度における交流複素インピーダンス測定を行い、得られた複素平面上のプロット(Cole−Coleプロット)のバルク抵抗成分の半円の直径からイオン伝導度として求めた。
【0050】
実施例14
正極活物質としてマンガン酸リチウム粉末75重量部と、バインダーポリマーとしてポリフッ化ビニリデン粉末5重量部、導電材として炭素粉末20重量部を良く混練し、銅箔上にホットプレス法にて厚さ0.10mm、直径10mmの正極材料を得た。アルカリ金属イオン吸蔵材として厚さ約0.08mm、直径10mmの金属リチウム箔を負極材料とした。実施例5の高分子電解質を直径10mmに打ち抜き、前述の正極材料および負極材料にて挟み込み、さらにステンレス電極にて挟み込んで二次電池を得た。
得られた二次電池について、50℃および80℃において、電流密度200mA/m2の条件で4.15Vまで充電した後、電流密度220mA/m2の条件で3.50Vまで放電する充放電を300サイクル繰り返し、各電池の初期容量(1サイクル目)、100サイクル目および300サイクル目の正極1kg当たりの放電容量を、初期容量に対する百分率にて評価した。
◎:初期容量の70%以上の放電容量を有する
○:初期容量の40%以上70%未満の放電容量を有する
△:初期容量の40%未満の放電容量を有する
×:内部短絡発生あるいは極材の劣化、または伝導度が十分に得られない等の理由により評価不可
【0051】
実施例15
高分子電解質として実施例7の高分子電解質を使用した他は、実施例14と同じ組成にて二次電池を組み、実施例14と同様の条件にて充放電サイクル試験を行った。
実施例16
高分子電解質として実施例8の高分子電解質を使用した他は、実施例14と同じ組成にて二次電池を組み、実施例14と同様の条件にて充放電サイクル試験を行った。
実施例17
高分子電解質として実施例9の高分子電解質を使用した他は、実施例14と同じ組成にて二次電池を組み、実施例14と同様の条件にて充放電サイクル試験を行った。
実施例18
高分子電解質として実施例12の高分子電解質を使用した他は、実施例14と同じ組成にて二次電池を組み、実施例14と同様の条件にて充放電サイクル試験を行った。
実施例19
高分子電解質として実施例13の高分子電解質を使用した他は、実施例14と同じ組成にて二次電池を組み、実施例14と同様の条件にて充放電サイクル試験を行った。
【0052】
比較例9
高分子電解質として比較例4の高分子電解質を使用した他は、実施例14と同じ組成にて二次電池を組み、実施例14と同様の条件にて充放電サイクル試験を行った。
比較例10
高分子電解質として比較例6の高分子電解質を使用した他は、実施例14と同じ組成にて二次電池を組み、実施例14と同様の条件にて充放電サイクル試験を行った。
比較例11
高分子電解質として比較例7の高分子電解質を使用した他は、実施例14と同じ組成にて二次電池を組み、実施例14と同様の条件にて充放電サイクル試験を行った。
【0053】
実施例20
厚さ0.50mmのアルミニウム板を極板とし、実施例6の高分子電解質を直径10mmの円形に打ち抜き、極板2枚の間に挟み込んだものを測定セルとした。この測定セルを温度80℃のアルゴンガス雰囲気下にて、両極板より周波数0.1Hz、振幅100mVの交流を継続して与え、10日後、30日後の極板の高分子電解質との接触面を観察した。
○:接触面の表面状態が試験開始時と全く変化していない。
△:接触面の一部分に白化した部分が見られるものの、殆ど変化していない。
×:接触面のほぼ全面が明らかに腐食している。
【0054】
実施例21
高分子電解質として実施例10の高分子電解質を使用した他は、実施例20と同様に交流電圧印加状態でのアルミニウム腐食試験を行った。
実施例22
高分子電解質として実施例11の高分子電解質を使用した他は、実施例20と同様に交流電圧印加状態でのアルミニウム腐食試験を行った。
【0055】
比較例12
高分子電解質として比較例5の高分子電解質を使用した他は、実施例20と同様に交流電圧印加状態でのアルミニウム腐食試験を行った。
比較例13
高分子電解質として比較例8の高分子電解質を使用した他は、実施例20と同様に交流電圧印加状態でのアルミニウム腐食試験を行った。
【0056】
各実施例、比較例で得られた重合性化合物、各製造例、比較製造例で得られた重合性ホウ酸エステル化合物の塩素分のイオンクロマトグラムによる分析値およびCPR値を表1に、実施例および比較例の電解質組成およびイオン性化合物の種類を表2、25℃および80℃におけるイオン伝導度の評価結果を表3、50℃および80℃における充放電試験の評価結果を表4、交流電圧印加状態でのアルミニウム腐食試験結果を表5に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表中の構造欄、Mはメタクリロイル基を、Aはアクリロイル基を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
比較例の重合性化合物では塩素含有量、CPR値とも高いのに対し、本発明の重合性化合物では塩素含有量が極めて少なく、CPR値も低いことが確かめられた。また本発明の重合性化合物を重合して用いた電気化学デバイス用電解質では、イオン伝導度が高く、二次電池用電解質としても優れたサイクル特性を示し、金属製極板を腐食せず安定性の高いことが確かめられた。
【0064】
【発明の効果】
本発明の重合性化合物は塩素含有量が極めて少なく、CPRも低い。本発明の重合性化合物を重合して高分子電解質として用いた場合には高いイオン伝導度が得られ、高温条件での負荷においても金属製極板を腐食しないため電気化学デバイス用の材料として有用であり、この電解質を用いた場合に、広い温度範囲に亘って高いイオン伝導度を有し、サイクル特性および安全性および安定性に優れた電気化学デバイスを得ることができる。
Claims (3)
- 触媒として三フッ化ホウ素化合物を用いて、式(2)で示される重合性化合物にアルキレンオキシドを開環重合させた後に、式(2)で示される重合性化合物とアルキレンオキシドの合計量100重量部に対して0.1〜10重量部の酸化マグネシウム30〜70重量%および酸化アルミニウム10〜40重量%を含有する複合金属酸化物で処理することを特徴とする、塩素含有量が100ppm以下である式(1)で示される重合性化合物の製造方法。
XO(AO)nH (1)
(Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基であり、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、n=1〜100である。)
XO(A 1 O)mH (2)
(Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基であり、A 1 Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、m=0〜99である。) - 触媒として三フッ化ホウ素化合物を用いて、式(2)で示される重合性化合物にアルキレンオキシドを開環重合させた後に、式(2)で示される重合性化合物とアルキレンオキシドの合計量100重量部に対して0.1〜10重量部の酸化マグネシウム30〜70重量%および酸化アルミニウム10〜40重量%を含有する複合金属酸化物で処理することで塩素含有量が100ppm以下である式(1)で示される重合性化合物を得、この重合性化合物を重合させる、電気化学デバイス用電解質の製造方法。
XO(AO)nH (1)
(Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基であり、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、n=1〜100である。)
XO(A 1 O)mH (2)
(Xはアクリロイル基またはメタクリロイル基であり、A 1 Oは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、m=0〜99である。) - 前記電気化学デバイスが二次電池であることを特徴とする、請求項2記載の方法。
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