JP4973264B2 - 位相差フィルムおよびその製造方法 - Google Patents

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Description

液晶表示装置は通常、液晶と位相差フィルムとの組み合わせを含んでいる。位相差フィルムとしては、ポリカーボネート樹脂や環状オレフィン系重合体樹脂をフィルムにし、該フィルムを更に延伸して得られた位相差フィルムが知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2を参照)。しかしながら、これらの原料樹脂は高価であるため、安価なプラスチック材料からなる位相差フィルムの開発が要望されている。
例えば、特許文献3には、ポリオレフィン樹脂からなる位相差板が記載されている。該文献に依れば、この位相差板は、Tダイの吐出口から押し出された樹脂を、幾分延伸するように、冷却しながら引き取ることにより製造される。しかしながら、このような、縦一軸方向に延伸する方法で得られたフィルムは、フィルム幅方向の配向が不均一であって位相差にムラがあったり、幅方向において厚みムラがあったりするため、位相差フィルムとして適したものではない。
特開平07−256749号公報 特開平05−2108号公報 特開昭60−24502号公報
本発明の目的は、高い軸精度と均一な位相差を有するポリプロピレン系樹脂製位相差フィルムおよびその製造方法を提供することにある。
すなわち本発明は、ポリプロピレン系樹脂からなるフィルムを、縦延伸と横延伸を逐次に行うことを含むポリプロピレン系樹脂製位相差フィルムの製造方法であって、前記横延伸は、下記工程を有する方法である。
前記フィルムを、前記ポリプロピレン系樹脂の融点以上の予熱温度で予熱する工程;
予熱された前記フィルムを、前記予熱温度よりも低い延伸温度で横方向に延伸する工程;
横方向に延伸された前記フィルムを熱固定する工程。
また本発明は、前記方法により得られるポリプロピレン系樹脂製位相差フィルムである。
本発明の方法によれば、高い軸精度と均一な位相差を有するポリプロピレン系樹脂製位相差フィルムを得ることができる。また本発明の方法で製造されたポリプロピレン系樹脂製位相差フィルムは、特に大型液晶テレビなどの大画面の液晶ディスプレイに用いられても、光学的な不均一性に由来する位相差や光軸のムラがなく視野角依存性を改善する効果に優れるものである。さらに軸精度が高く、均一な位相差を有する前記位相差フィルムを備える本発明の液晶表示装置は、視野角特性および耐久性に優れるものである。
本発明の位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとの共重合体である。また、これらの混合物であってもよい。
前記α−オレフィンとしては、具体的には、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、1−オクテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−プロピル−1−ヘプテン、2−メチル−3−エチル−1−ヘプテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタダセン、1−オクタテセン、1−ノナデセンなどが挙げられ、前記したα−オレフィンのうち、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましい。
特に共重合性の観点から、より好ましくは、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンであり、さらに好ましくは、1−ブテン、1−ヘキセンである。
ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン・エチレン共重合体またはプロピレン・1−ブテン共重合体であることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂が、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとの共重合体である場合、該共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
光学的な均一性が高い位相差フィルムが得られることから、下記の樹脂選定試験で求められるパラメータ(A)が0.07〜1.0の範囲にあるポリプロピレン系樹脂が好ましい。パラメータ(A)が0.07〜1.0であるポリプロピレン系樹脂の例としては、プロピレン系ランダム共重合体が挙げられる。
<樹脂選定試験>
ポリプロピレン系樹脂を熱プレス成形して厚さ0.1mmのフィルムを作製する。前記熱プレス成形では、樹脂を230℃で5分間予熱後、3分間かけて100kgf/cm2まで昇圧し、100kgf/cm2で2分間保圧し、その後、30℃で30kgf/cm2の圧力で5分間冷却する。該フィルムをJIS K−7113に準じ、恒温槽を設置した引張試験装置を用い、引張試験速度が100mm/min、ひずみ200%における応力が10±1 kg/cm2となる温度に設定した恒温槽中で延伸したときに観測される応力−ひずみ曲線(S−Sカーブ)において式(3)でパラメータ(A)を求める。
パラメータ(A)(%・kg/cm2)={B600(ひずみ600%における応力)− B200(ひずみ200%における応力)}/400・・・式(3)
プロピレン系ランダム共重合体としては、プロピレンとエチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のα−オレフィンとを共重合して得られるプロピレン系ランダム共重合体が挙げられる。炭素原子数4〜20個を有するα−オレフィンとしては、前記したモノマーを挙げることができ、より好ましくは、前記した炭素原子数4〜12のα−オレフィンである。
前記プロピレン系ランダム共重合体の例としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体等が挙げられる。より具体的には、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体としては、例えば、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−1−オクテンランダム共重合体等が挙げられ、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体としては、例えば、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−オクテンランダム共重合体等が挙げられ、好ましくはプロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘキセンランダム共重合体である。
ポリプロピレン系樹脂が共重合体である場合、該共重合体におけるコモノマー由来の構成単位の含量は、透明性と耐熱性のバランスの観点から、0重量%を超え40重量%以下が好ましく、0重量%を超え20重量%がより好ましく、さらに好ましくは0重量%を超え10重量%である。なお、2種類以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体である場合には、該共重合体に含まれる全てのコモノマー由来の構成単位の合計含量が、前記範囲であることが好ましい。
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nで測定される値で通常0.1〜200g/10分であり、好ましくは0.5〜50g/10分である。MFRがこのような範囲のプロピレン系重合体を用いることにより、縦延伸および横延伸時のフィルムの垂れさがりが少なくなり、均一に延伸しやすい。
ポリプロピレン系樹脂の分子量分布は、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比で定義され、通常1〜20である。MnおよびMwは、溶媒に140℃のo−ジクロロベンゼンを用い、標準サンプルにポリスチレンを用いるGPCによって測定される。
ポリプロピレン系樹脂の融点は、通常120〜170℃である。なお前記融点は、示差走査型熱量計(DSC)によって測定された融解曲線において最高強度のピークが現われている温度で定義され、ポリプロピレン系樹脂のプレスフィルム10mgを、窒素雰囲気下で230℃で5分間熱処理後、降温速度10℃/分で30℃まで冷却して30℃において5分間保温し、さらに30℃から230℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の融解ピーク温度である。
ポリプロピレン系樹脂の製造方法としては、公知の重合用触媒を用いてプロピレンを単独重合する方法や、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとを共重合する方法が挙げられる。
公知の重合触媒としては、例えば、
(1)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分等からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第3成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒等が挙げられる。
プロピレン系重合体の製造に用いる触媒系としては、これらの中で、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子性供与性化合物とを組み合わせた触媒系が最も一般的に使用できる。より具体的には、有機アルミニウム化合物としては、好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物およびテトラエチルジアルモキサンが挙げられ、電子供与性化合物としては、好ましくはシクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランが挙げられる。マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては例えば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報等に記載された触媒系が挙げられる。メタロセン触媒としては例えば、特許第2587251号、特許第2627669号、特許第2668732号に記載された触媒系が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂の製造に用いる重合方法としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶剤重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマー中で行う気相重合法等が挙げられ、好ましくは塊状重合法または気相重合法である。これらの重合法は、バッチ式であってもよく、連続式であってもよい。
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのどの形式であってもよい。ポリプロピレン系樹脂は、耐熱性の点からシンジオタクチック、あるいはアイソタクチックのプロピレン系重合体であることが好ましい。
ポリプロピレン系樹脂は、分子量やプロピレン由来の構成単位の割合、タクチシティーなどが異なる2種類以上のポリプロピレン系ポリマーのブレンドでもよいし、ポリプロピレン系ポリマー以外のポリマーや添加剤を適宜含有してもよい。
ポリプロピレン系樹脂が含有することができる添加剤の例としては、酸化防止剤、紫外線吸収材、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤(HALS)や、1分子中に例えばフェノール系とリン系の酸化防止機構と有するユニットを有する複合型の酸化防止剤などが挙げられる。紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ヒドロキシトリアゾール系などの紫外線吸収剤や、ベンゾエート系など紫外線遮断剤などが挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型などが挙げられる。滑剤としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドや、ステアリン酸などの高級脂肪酸、及びその金属塩などが挙げられる。造核剤としては、例えばソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ポリビニルシクロアルカンなどの高分子系造核剤等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては球状、あるいはそれに近い形状の無機又は有機微粒子が使用できる。上記の各添加剤は、複数種を併用してもよい。
本発明の位相差フィルムは、ポリプロピレン系樹脂からなる原反フィルムを先に述べたような条件下に延伸することにより製造される。原反フィルムとしては、光学的に均質な無配向、あるいは無配向に近いフィルムを用いることが好ましい。具体的には、面内位相差が30nm以下のフィルムを用いることが好ましい。原反フィルムの製造方法としては、溶剤キャスト法や押出成形法が挙げられる。前者の方法は、有機溶剤に熱可塑性樹脂を溶解した溶液を、離形性を有する二軸延伸ポリエステルフィルム等の基材上にダイコーターによりキャスティングした後、乾燥して有機溶剤を除去し、基材上にフィルムを形成する方法である。このような方法で基材上に形成されたフィルムは、基材から剥離されて原反フィルムとして使用される。後者の方法は、熱可塑性樹脂を押出機内で溶融混練した後、Tダイより押し出し、ロールに接触させて冷却固化しながら引き取り、フィルムを得る方法である。この方法で製造されたポリプロピレン系樹脂フィルムがそのまま原反フィルムとして本発明の方法に使用される。原反フィルムの製造コストの観点から、押出成形法が好ましい。
原反フィルムをTダイ押出成形法で製造するとき、Tダイより押し出された溶融体を冷却し固化させる方法としては、キャスティングロールとエアーチャンバーを用いて冷却する方法、キャスティングロールとタッチロールにより挟圧する方法、キャスティングロールと、該キャスティングロールにその周方向に沿って圧接するよう設けられた金属製の無端ベルトとの間で挟圧する方法などが挙げられる。冷却にキャスティングロールを用いる場合には、透明性により優れる位相差フィルムを得るために、使用するキャスティングロールの表面温度は、0〜30℃であることが好ましい。
キャスティングロールとタッチロールにより挟圧する方法で原反フィルムを製造する場合、ほぼ無配向の原反フィルムを得るために、タッチロールとしては、ゴムロール、または弾性変形可能な金属製無端ベルトからなる外筒と、該外筒の内部に弾性変形可能な弾性体からなるロールとを有し、かつ前記外筒と弾性体ロールとの間が温度調節用媒体により満たされてなる構造のロールを用いることが好ましい。
タッチロールとしてゴムロールを使用する場合は、鏡面状の表面を有する位相差フィルムを得るために、Tダイより押し出された溶融体は、キャスティングロールとゴムロールとの間で支持体とともに挟圧することが好ましい。支持体としては、厚みが5〜50μmの熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムが好ましい。
キャスティングロールと、該キャスティングロールにその周方向に沿って圧接するよう設けられた金属製の無端ベルトとの間で挟圧する方法により原反フィルムを成形する場合、前記無端ベルトは、キャスティングロールの周方向に該キャスティングロールと平行に配置された複数のロールによって保持されていることが好ましい。より好ましくは、無端ベルトが、直径100〜300mmの二本のロールで保持されてなり、無端ベルトの厚みが100〜500μmである。
光学的な均一性により優れる位相差フィルムを得るためには、延伸に供する原反フィルムは厚みムラが小さいことが好ましい。原反フィルムの厚みの最大値と最小値の差は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは4μm以下である。
上記の方法等により得られた原反フィルムを、縦延伸と横延伸を逐次で行うことにより、ポリプロピレン系樹脂製位相差フィルムを得ることができる。延伸は、縦延伸を先に行った後で横延伸を行ってもよく、横延伸を先に行った後で縦延伸を行ってもよい。
縦延伸方法としては、二つ以上のロールの回転速度差により原反フィルムを延伸する方法や、ロングスパン延伸法が挙げられる。ロングスパン延伸法とは、二対のニップロールとその間にオーブンを有する縦延伸機を用い、該オーブン中で原反フィルムを加熱しながら前記二対のニップロールの回転速度差により延伸する方法である。光学的な均一性が高い位相差フィルムが得られるため、ロングスパン縦延伸法が好ましい。とりわけエアーフローティング方式のオーブンを用いることが好ましい。エアーフローティング方式のオーブンとは、該オーブン中に原反フィルムを導入した際に、該原反フィルムの両面に上部ノズルと下部ノズルから熱風を吹き付けることが可能な構造である。複数の上部ノズルと下部ノズルがフィルムの流れ方向に交互に設置されている。該オーブン中、原反フィルムが前記上部ノズルと下部ノズルのいずれにも接触しないようにしながら、延伸する。この場合の延伸温度(すなわち、オーブン中の雰囲気の温度)は、90℃以上、ポリプロピレン系樹脂の融点以下であることが好ましい。オーブンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの温度設定は同じでもよいし、異なってもよい。
縦延伸倍率は、限定はされないが、通常1.01〜2倍であり、光学的な均一性により優れる位相差フィルムが得られるため、1.05〜1.8倍であることが好ましい。
横延伸は、下記工程を有する。
前記フィルムを、前記ポリプロピレン系樹脂の融点以上の予熱温度で予熱する工程;
予熱された前記フィルムを、前記予熱温度よりも低い延伸温度で横方向に延伸する工程;
横方向に延伸された前記フィルムを熱固定する工程。
代表的な横延伸の方法としては、テンター法が挙げられる。テンター法は、チャックでフィルム巾方向の両端を固定した原反フィルムを、オーブン中でチャック間隔を広げて延伸する方法である。テンター法においては、予熱工程を行うゾーン、延伸工程を行うゾーン、熱固定工程を行うゾーンのオーブン温度は独立に温度調節をすることができる装置を使用する。前記のような条件下で横延伸を行うことにより、軸精度に優れ、かつ均一な位相差を有する位相差フィルムを得ることができる。
横延伸の予熱工程は、フィルムを幅方向に延伸する工程の前に設置される工程であり、フィルムを延伸するのに十分な高さの温度まで該フィルムを加熱する工程である。ここで予熱工程での予熱温度は、オーブンの予熱工程を行うゾーン内の雰囲気の温度を意味し、延伸するフィルムのポリプロピレン系樹脂の融点以上の温度である。予熱温度は、得られる位相差フィルムの軸精度に大きく影響し、融点よりも低い予熱温度では、得られる位相差フィルムにおいて均一な位相差を達成することができない。延伸されるフィルムの予熱工程滞留時間は、30〜120秒であることが好ましい。この予熱工程での滞留時間が30秒に満たない場合は、延伸工程でフィルムが延伸されるときに応力が分散し、位相差フィルムとしての軸、位相差の均一性に不利な影響を及ぼす可能性があり、また、滞留時間が120秒を超える場合は、必要以上に熱を受け、フィルムが部分的に融解し、ドローダウン(下に垂れる)する可能性ある。予熱工程滞留時間は、30〜60秒であることがさらに好ましい。
横延伸の延伸工程は、フィルムを幅方向に延伸する工程である。この延伸工程での延伸温度(これは、オーブンの延伸工程を行うゾーン内の雰囲気の温度を意味する)は予熱温度より低い温度である。予熱されたフィルムを予熱工程よりも低い温度で延伸することにより、該フィルムを均一に延伸できるようになり、その結果、光軸および位相差の均一性が優れた位相差フィルムが得られる。延伸温度は、予熱工程における予熱温度より5〜20℃低いことが好ましく、7〜15℃低いことがより好ましい。
横延伸の熱固定工程とは、延伸工程終了時におけるフィルム幅を保った状態で該フィルムをオーブン内の所定温度の雰囲気内を通過させる工程である。フィルムの位相差や光軸など光学的特性の安定性を効果的に向上させるために、熱固定温度は、延伸工程における延伸温度よりも5℃低い温度から延伸温度よりも30℃高い温度までの範囲内であることが好ましい。
横延伸の工程は、更に熱緩和工程を有してもよい。この工程は、テンター法においては通常、延伸ゾーンと熱固定ゾーンとの間に設けられ、他のゾーンから独立して温度設定が可能な熱緩和ゾーンにおいて行われる。具体的には、熱緩和は、延伸工程においてフィルムを所定の幅に延伸した後、チャックの間隔を数%(通常は、0.5〜7%)だけ狭くし、無駄な歪を取り除くことで行われる。
位相差フィルムに求められる位相差は、該位相差フィルムが組み込まれる液晶表示装置の種類により異なるが、通常、面内位相差R0は30〜300nmである。後述する垂直配向モード液晶ディスプレイに使用する場合は、視野角特性に優れるという観点から、面内位相差R0が40〜70nmであり、厚み方向位相差Rthは、90〜230nmであることが好ましい。位相差フィルムの厚みは、通常10〜100μmであり、好ましくは10〜60μmである。位相差フィルムを製造する際の延伸倍率と、製造する位相差フィルムの厚みを制御することにより、所望の位相差を有する位相差フィルムを得ることができる。
上記の方法で製造した位相差フィルムは、フィルム面内(500mm幅×500mm長さの面内)の位相差の最大値と最小値との差が10nm以下であり、フィルムの幅方向500mmの光軸を測定した場合、光軸が−1°以上+1°以下であり、光学的な均一性が高い位相差フィルムである。
本発明の位相差フィルムは、種々の偏光板や液晶層などと積層されて、携帯電話、携帯情報端末(Personal Digital Assistant:PDA)、パソコン、大型テレビ等の液晶表示装置として好ましく使用される。本発明の位相差フィルムを積層して使用する液晶表示装置(LCD)としては、光学補償ベンド(Optically Compensated Bend:OCB)モード、垂直配向(Vertical Alignment:VA)モード、横電界(In-Plane Switching:IPS)モード、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor:TFT)モード、ねじれネマティック(Twisted Nematic:TN)モード、超ねじれネマティック(Super Twisted Nematic:STN)モードなど種々のモードの液晶表示装置が挙げられる。特に、VAモードの液晶表示装置に使用する場合に視野角依存性を改良するのに効果的である。液晶表示装置は一般に、2枚の基板とそれらの間に挟持される液晶層とを有する液晶セルの両側に、それぞれ偏光板が配置されており、その一方の外側(背面側)に配置されたバックライトからの光のうち、液晶セルとバックライトの間にある偏光板の透過軸に平行な直線偏光だけが液晶セルへ入射するようになっている。本発明の位相差フィルムは、背面側偏光板と液晶セルとの間および/または表側偏光板と液晶セルとの間に粘着剤を介して配置することができる。また、偏光板は通常、ポリビニルアルコールからなる偏光フィルムを保護するために2枚のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどの保護フィルムで接着剤を介して挟持した構成となっているが、本発明の位相差フィルムは、表側偏光板および/または背面側偏光板の液晶セル側の保護フィルムの代わりにこれが接着剤で偏光フィルムに貼合されることで、光学補償フィルム(位相差フィルム)と保護フィルムの両方の役割を果たすことも可能である。
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
(1)樹脂選定試験
ポリプロピレン系樹脂を熱プレス成形して厚さ0.1mmのフィルムを作製した。前記熱プレス成形では、樹脂を230℃で5分間予熱後、3分間かけて100kgf/cm2まで昇圧し、100kgf/cm2で2分間保圧し、その後、30℃で30kgf/cm2の圧力で5分間冷却する。該フィルムをJIS K−7113に準じ、恒温槽を設置した引張試験装置を用い、引張試験速度が100mm/min、ひずみ200%における応力が10±1 kg/cm2となる温度に設定した恒温槽中で延伸したときに観測される応力−ひずみ曲線(S−Sカーブ)において式(3)でパラメータ(A)を求めた。
パラメータ(A)(%・kg/cm2)={B600(ひずみ600%における応力)− B200(ひずみ200%における応力)}/400・・・式(3)
(2)融点
ポリプロピレン系樹脂を熱プレス成形して、厚さ0.5mmのシートを作成した。前記熱プレス成形では、熱プレス機内でプロピレン系重合体を230℃で5分間予熱後、3分間かけて50kgf/cm2まで昇圧し2分間保圧した後、30℃、30kgf/cm2で5分間冷却するようにプレスした。作製したプレスシートの切片10mgについて、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、DSC−7型)を用い、窒素雰囲気下で下記[1]〜[5]の熱履歴を加えた後、50℃から180℃まで昇温速度5℃/分で加熱して融解曲線を作成した。この融解曲線において、最高吸熱ピークを示す温度(℃)を求め、これを該プロピレン系樹脂の融点(Tm)とした。
[1]220℃で5分間加熱する;
[2]降温速度300℃/分で220℃から150℃まで冷却する;
[3]150℃において1分間保温する;
[4]降温速度5℃/分で150℃から50℃まで冷却する;
[5]50℃において1分間保温する。
(3)メルトフローレート(MFR)
メルトフローレートは、JIS K7210に従い、温度230℃、荷重21.18Nで測定した。
(4)エチレン含有量
プロピレン・エチレン共重合体について、高分子分析ハンドブック(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されているIRスペクトル測定を行い、該共重合体中のエチレン由来の構成単位の含量を求めた。
(5)キシレン可溶成分量
ポリプロピレン系樹脂の試料1gを沸騰キシレン100mlに完全に溶解させた後、20℃に降温し、同温度で4時間静置した。その後、濾過により析出物と濾液とに分別し、濾液からキシレンを留去して生成した固形物を減圧下70℃で乾燥した。乾燥して得られた残存物の重量の前記試料の重量(1g)に対する百分率を、該ポリプロピレン系樹脂の20℃キシレン可溶成分量(CXS)とした。
(6)面内位相差R0、厚み方向位相差Rth
面内位相差は、位相差測定装置(王子計測機器(株)製、KOBRA−CCD)を用いて、位相差フィルムの500mm幅×500mm長さの領域を測定した。厚み方向位相差Rthは位相差フィルムの中央部分を、位相差測定装置(王子計測機器(株)製、KOBRA−WPR)を用いて測定した。
(7)光軸の角度
偏光顕微鏡を用いて位相差フィルムの500mm幅の範囲を20mm間隔で光軸の角度を測定した。
[実施例1]
ポリプロピレン系樹脂(プロピレン−エチレンランダム共重合体、樹脂選定試験で求められたパラメータ(A)=0.011、Tm=136℃、MFR=8g/10分、エチレン含有量=4.6重量%、CXS=4%、住友化学社製、商品名:ノーブレンW151)を、シリンダー温度を200℃とした65mmφ押出機に投入して溶融混練し、65kg/hの押出量で前記押出機に取り付けられた1200mm巾Tダイより押出した。押出された溶融ポリプロピレン系樹脂は、12℃に温調した400mmφのキャスティングロールと、12℃に温調した金属スリーブからなる外筒とその内部にある弾性体ロールから構成されるタッチロールにより挟圧して冷却され、厚さ200μmのポリプロピレン系樹脂フィルムを得た。エアーギャップは115mm、キャスティングロールとタッチロールとの間で溶融ポリプロピレン系樹脂を挟圧した距離は20mmであった。得られたポリプロピレン系樹脂フィルムを2組のニップロール間にエアーフローティング方式のオーブンを有するロングスパン縦延伸機に導入して縦延伸を行った。エアーフローティング方式のオーブンは2ゾーンに分かれており、各ゾーンの長さは1.5mであった。縦延伸の条件は、第1ゾーンの温度=128℃、第2ゾーンの温度=132℃、入口速度=8m/分、延伸倍率=1.5倍であった。縦延伸フィルムの厚みは170μm、面内位相差R0の平均値は1290nm、厚み方向位相差Rthは720nmであった。
さらに、この縦延伸フィルムをテンター法で横延伸を行い、位相差フィルムを得た。横延伸の条件は、予熱ゾーンの温度=141℃、延伸ゾーンの温度=131℃、熱固定ゾーンの温度=131℃、延伸倍率=3.5倍であった。
得られた位相差フィルムのR0、Rthおよび光軸精度を測定した。R0の平均値は70nm、R0の最大値と最小値の差は6nm、Rthは200nm、光軸の角度は−0.5°以上+0.5°以下であり、該位相差フィルムは光学的な均一性が高かった。この位相差フィルムを、VAモード液晶セルの背面に、液晶セル基板側から順に、粘着剤、位相差フィルム、粘着剤、偏光板の順に積層し、液晶セルの前面には、粘着剤、偏光板の順に積層した。この液晶表示装置の背面にバックライトを設置し、液晶セルは電圧無印加の黒表示状態において、視野角の変化による光漏れの程度で、視野角依存性を評価した。どの方向から見ても光漏れが少ない場合、視野角依存性が小さく、位相差フィルムの視野角特性は優れていることになる。この例の液晶表示装置は、正面方向も斜め方向も光漏れは少なく、視野角特性は優れていることを確認した。
[実施例2]
ポリプロピレン系樹脂ノーブレンW151を、シリンダー温度を250℃とした90mmφ押出機に投入して溶融混練し、100kg/hの押出量で前記押出機に取り付けられた1250mm巾Tダイより押出した。押出された溶融ポリプロピレン系樹脂は、10℃に温調したキャスティングロールとエアーチャンバーにより冷却され、厚さ160μmのポリプロピレン系樹脂フィルムを得た。エアーギャップは90mmであった。得られたポリプロピレン系樹脂フィルムを2組のニップロール間にエアーフローティング方式のオーブンを有するロングスパン縦延伸機に導入して縦延伸を行った。エアーフローティング方式のオーブンは2ゾーンに分かれており、各ゾーンの長さは2mであった。縦延伸の条件は、第1ゾーンの温度=125℃、第2ゾーンの温度=129℃とし、入口速度=8m/分、延伸倍率=1.5倍であった。縦延伸フィルムの厚みは130μm、R0は910nm、Rthは510nmであった。
さらに、この縦延伸フィルムをテンター法で横延伸を行い、位相差フィルムを得た。横延伸の条件は、予熱ゾーンの温度=140℃、延伸ゾーンの温度=135℃、熱固定ゾーンの温度=130℃、延伸倍率=4.5倍であった。
得られた位相差フィルムのR0、Rthおよび光軸精度を測定した。R0の平均値は70nm、R0の最大値と最小値の差は10nm、Rthは120nm、光軸の角度は−0.5°以上+0.5°以下であり、該位相差フィルムは光学的な均一性が高かった。この位相差フィルムを、VAモード液晶セルの背面に、液晶セル基板側から順に、粘着剤、位相差フィルム、粘着剤、偏光板の順に積層し、液晶セルの前面には、粘着剤、偏光板の順に積層した。この液晶表示装置の背面にバックライトを設置し、液晶セルは電圧無印加の黒表示状態において、視野角の変化による光漏れの程度で、視野角依存性を評価した。どの方向から見ても光漏れが少ない場合、視野角依存性が小さく、位相差フィルムの視野角特性は優れていることになる。この例の液晶表示装置は、正面方向も斜め方向も光漏れは少なく、視野角特性は優れていることを確認した。
[比較例1]
下記の横延伸条件を用いた以外は、実施例1と同様にして位相差フィルムを作製した。
横延伸の条件は、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーンの全ての温度を136℃とし、ライン速度は1m/分、延伸倍率は3.5倍とした。得られた位相差フィルムの面内位相差は70nmであり、位相差の最大値と最小値の差は16nmであり、光軸の角度は−2°以上+2°以下であり、光学的な均一性が高いものを得ることができなかった。

Claims (6)

  1. ポリプロピレン系樹脂からなるフィルムを、縦延伸と横延伸を逐次に行うことを含むポリプロピレン系樹脂製位相差フィルムの製造方法であって、前記横延伸は、下記工程を有することを特徴とする方法。
    前記フィルムを、前記ポリプロピレン系樹脂の融点以上の予熱温度で予熱する工程;
    予熱された前記フィルムを、前記予熱温度よりも低い延伸温度で横方向に延伸する工程;
    横方向に延伸された前記フィルムを熱固定する工程。
  2. 前記ポリプロピレン系樹脂がプロピレン系ランダム共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂製位相差フィルムの製造方法。
  3. 縦延伸を、エアーフローティング方式のオーブン内でロングスパン延伸法で行うことを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂製位相差フィルムの製造方法。
  4. 請求項1〜3いずれかの製造方法により得られることを特徴とするポリプロピレン系樹脂製位相差フィルム。
  5. 位相差の最大値と最小値の差が10nm以下であり、光軸が−1°以上+1°以下であることを特徴とする請求項4に記載のポリプロピレン系樹脂製位相差フィルム。
  6. 請求項4に記載のポリプロピレン系樹脂製位相差フィルムを備えることを特徴とする液晶表示装置。
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