[粘着剤層付位相差フィルム]
以下、実施の形態を示して本発明の粘着剤層付位相差フィルムを詳しく説明する。図1は、本発明に係る粘着剤層付位相差フィルムの好ましい一例を示す断面模式図である。図1に示されるように、本発明では、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム10の表面に、粘着剤層20を形成して、粘着剤層付位相差フィルム30とする。以下、各層について詳細に説明する。
<位相差フィルム>
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂を延伸して位相差フィルムとする。ポリプロピレン系樹脂フィルムは結晶性であるため、位相差値の発現率が極めて高く、延伸によって容易に大きな位相差値を得ることができる。したがって、ポリプロピレン系樹脂を用いることにより、薄い膜厚で所望の位相差値を有する位相差フィルムを得ることができる。
また、ポリプロピレン系樹脂は、波長400nmにおける面内の最大屈折率と最小屈折率との差(複屈折)Δn400と、波長500nmにおける面内の最大屈折率と最小屈折率との差(複屈折)Δn500との比(Δn400/Δn500)が1.05未満であるため、それぞれポリプロピレン系樹脂で構成される1/2波長板と1/4波長板とを組み合わせた場合、優れた広帯域1/4波長板とすることができる。本明細書では、上記したΔn400/Δn500の値をもって「位相差の波長分散」(本明細書中において、単に「波長分散」と呼ぶことがある。)と定義する。
さらに、ポリプロピレン系樹脂は、その光弾性係数が約2×10-12m2/N前後と小さいため、位相差フィルムをポリプロピレン系樹脂から構成することにより、1/2波長板と1/4波長板との貼合時、もしくは直線偏光板との貼合時に、貼りムラを抑制することができる。また、耐熱性試験時での白抜けをも抑制することができる。加えて、ポリプロピレン系樹脂は、高倍率で延伸できるため、横延伸で完全一軸性のフィルムを作製することも可能であり、薄膜化と幅広化を同時に達成でき、利用効率に優れる。
本発明においては、上記ポリプロピレン系樹脂を製膜することにより原反フィルムを得た後、これを延伸して、位相差を発現させて位相差フィルムを得る。位相差フィルムの膜厚は、たとえば、5〜100μm程度とすることができ、8〜75μmが好ましい。より一層薄肉に、たとえば、5〜25μm程度、さらには8〜20μm程度とすることもできる。この位相差フィルムの膜厚が100μmを超えると、薄膜化のメリットが有効に発揮されにくい場合がある。また、その膜厚が5μm未満であると、フィルムにシワ等が発生しやすく、巻き取りや貼合時のハンドリング性を悪化させる場合がある。
本発明に用いる位相差フィルムの面内の位相差値R0は、液晶表示装置に要求される特性に合わせて適宜選択されるものであるが、面内の位相差値R0は40〜500nmの範囲とする。また、厚み方向の位相差値Rthは20〜500nmの範囲にあることが好ましい。この範囲から、適用される液晶表示装置に要求される特性に適合するよう、適宜選択すればよい。面内の位相差値R0は、好ましくは60〜300nmの範囲であり、厚み方向の位相差値Rthは、より好ましくは80〜300nmの範囲である。
この位相差フィルムを1/4波長板として用いる場合、面内の位相差値R0およびNz係数は、液晶表示装置に要求される特性に合わせて適宜選択することができるが、たとえば、面内の位相差値R0は70〜160nmの範囲が好ましい。また、1/4波長板のNz係数は、0.9〜1.6の範囲が好ましく、0.95〜1.05の範囲がより好ましい。
ここで、位相差フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をny、厚み方向の屈折率をnz、および位相差フィルムの厚みをdとしたときに、位相差フィルムの面内の位相差値R0、厚み方向の位相差値Rth、およびNz係数は、それぞれ次式(a)、(b)および(c)で定義される。
R0=(nx−ny)×d (a)
Rth=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (b)
Nz=(nx−nz)/(nx−ny) (c)。
また、上記式(a)、(b)および(c)から、Nz係数と面内の位相差値R0および厚み方向の位相差値Rthとの関係は、次の式(d):
Nz=Rth/R0+0.5 (d)
で表すことができる。なお、Nz係数がほぼ1である場合、上記式(c)より、nyとnzがほぼ等しいことを意味するから、そのような位相差フィルムは、ほぼ完全な一軸性である。
(ポリプロピレン系樹脂)
次に、本発明に用いられる位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂についてさらに詳細に説明する。本発明に用いる位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、重合用触媒を用いて、プロピレンを単独重合する方法や、プロピレンと他の共重合可能なコモノマーとを共重合する方法によって製造することができる。重合用触媒としては、従来公知の重合用触媒を用いることができ、たとえば、次のようなものが挙げられる。
(1)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分からなるTi−Mg系触媒、
(2)マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第三成分とを組み合わせた触媒系、
(3)メタロセン系触媒等。
上記の触媒系の中でも、本発明の位相差フィルムに用いるポリプロピレン系樹脂の製造においては、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子供与性化合物とを組み合わせた触媒系が最も一般的に採用される。マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては、たとえば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、および特開平7−216017号公報等に記載の触媒系が挙げられる。
有機アルミニウム化合物としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドとの混合物、およびテトラエチルジアルモキサン等を好ましく用いることができる。また、電子供与性化合物としては、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチルプロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、およびジシクロペンチルジメトキシシラン等を好ましく用いることができる。
メタロセン系触媒としては、たとえば、特許第2587251号公報、特許第2627669号公報、および特許第2668732号公報等に記載の触媒系が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂は、たとえば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、およびキシレン等の炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶液重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、ならびに気体のモノマーをそのまま重合させる気相重合法等によって製造することができる。これらの方法による重合は、バッチ式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、またはアタクチックのいずれであってもよい。本発明においては、耐熱性の点から、シンジオタクチックまたはアイソタクチックのポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
本発明に用いられる位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、プロピレンの単独重合体で構成することができる他に、プロピレンを主体とし、それと共重合可能なコモノマーを少量共重合させたものであってもよい。共重合体とすることにより、ポリプロピレン系樹脂の加工性や透明性を向上させることができる。共重合体とする場合、共重合体中のコモノマー由来の単量体単位の含有量は、たとえば、20重量%以下であり、10重量%以下が好ましく、7重量%以下がより好ましい。また、共重合体中のコモノマー由来の単量体単位の含有量は、1重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましい。コモノマー由来の単量体単位の含有量が10重量%を超えると、樹脂の融点が下がり耐熱性が悪くなる場合がある。また、コモノマー由来の単量体単位の含有量が1重量%未満であると、共重合により得られ得る、たとえば、加工性や透明性向上等の効果が現れない場合がある。なお、2種類以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体とする場合には、その共重合体に含まれる全てのコモノマーに由来する単量体単位の合計含有量が上記範囲にあることが好ましい。共重合体中のコモノマー由来の単量体単位の含有量は、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法に従い、赤外線(IR)スペクトル測定を行なうことにより求めることができる。
プロピレンと共重合可能なコモノマーとしては、たとえば、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンを挙げることができる。炭素原子数4〜20のα−オレフィンとして、具体的には、次のようなものを挙げることができる。
1−ブテン、2−メチル−1−プロペン(以上、炭素原子数4); 1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン(以上、炭素原子数5); 1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン(以上、炭素原子数6); 1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン(以上、炭素原子数7); 1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン(以上、炭素原子数8); 1−ノネン(炭素原子数9); 1−デセン(炭素原子数10); 1−ウンデセン(炭素原子数11); 1−ドデセン(炭素原子数12); 1−トリデセン(炭素原子数13); 1−テトラデセン(炭素原子数14); 1−ペンタデセン(炭素原子数15); 1−ヘキサデセン(炭素原子数16); 1−ヘプタデセン(炭素原子数17); 1−オクタデセン(炭素原子数18); 1−ノナデセン(炭素原子数19)等。
上記共重合可能なコモノマーの中でも、加工性の観点から、エチレンおよび炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましく用いられる。このような炭素原子数4〜12のα−オレフィンとしては、たとえば、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン; 1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン;1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン; 1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン; 1−オクテン、5−メチル−1−ヘプテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−メチル−3−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン; 1−ノネン; 1−デセン; 1−ウンデセン; 1−ドデセン等を挙げることができる。プロピレンとの共重合性の観点からは、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンおよび1−オクテンが好ましく、中でも、エチレン、1−ブテンおよび1−ヘキセンがより好ましい。したがって、好ましい共重合体としては、プロピレン/エチレン共重合体、プロピレン/1−ブテン共重合体およびプロピレン/1−ヘキセン共重合体等が挙げられる。
プロピレンとこれと共重合可能なコモノマーとの共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよいが、位相差フィルムとしての透明度や加工性を向上させるという観点からは、プロピレンを主体とするランダム共重合体であることが好ましい。中でも、プロピレンとエチレンとのランダム共重合体が好ましい。
本発明に用いる位相差フィルムを構成するポリプロピレン系樹脂は、JIS K 7210に準拠した、温度230℃、荷重21.18Nで測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1〜200g/10分、特に0.5〜50g/10分の範囲にあることが好ましい。MFRがこの範囲にあるポリプロピレン系樹脂を用いることにより、押出機に大きな負荷をかけることなく均一なフィルム状物を得ることができる。
ポリプロピレン系樹脂には、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の添加物が配合されていてもよい。添加物としては、たとえば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、およびアンチブロッキング剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、たとえば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、およびヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられ、また、1分子中にたとえば、フェノール系の酸化防止機構とリン系の酸化防止機構とを併せ持つユニットを有する複合型の酸化防止剤も用いることができる。紫外線吸収剤としては、たとえば、2−ヒドロキシベンゾフェノン系やヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤およびベンゾエート系の紫外線遮断剤等が挙げられる。帯電防止剤としては、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型のいずれであってもよい。滑剤としては、エルカ酸アミドおよびオレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ならびにステアリン酸等の高級脂肪酸およびその塩等が挙げられる。造核剤としては、たとえば、ソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、およびポリビニルシクロアルカン等の高分子系造核剤等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては、球状またはそれに近い形状の微粒子が、無機系、有機系を問わず使用できる。これらの添加物は、複数種が併用されてもよい。
(ポリプロピレン系樹脂の原反フィルム)
本発明においては、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムを作製するに際し、まず、上記ポリプロピレン系樹脂を製膜することにより原反フィルムを得る。この原反フィルムは、透明で実質的に面内位相差のないものであることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを製造する方法としては、特に限定されるものではないが、たとえば、溶融樹脂からの押出成形法;有機溶剤に溶解させた樹脂を平板上に流延し、溶剤を除去して製膜する溶剤キャスト法等によって、面内位相差が実質的にないポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを得ることができる。
原反フィルムを製造する方法の例として、押出成形による製膜法(押出成形法)について詳しく説明する。押出成形法においては、ポリプロピレン系樹脂は、押出機中でスクリューの回転によって溶融混練され、Tダイからシート状に押出される。押出される溶融状シートの温度は、180〜300℃程度である。このときの溶融状シートの温度が180℃を下回ると、延展性が十分でなく、得られるフィルムの厚みが不均一になり、位相差ムラのあるフィルムとなる場合がある。また、その温度が300℃を超えると、樹脂の劣化や分解が起こりやすく、シート中に気泡が生じたり、炭化物が含まれたりする場合がある。
押出機は、単軸押出機であっても2軸押出機であってもよい。たとえば、単軸押出機を用いる場合は、スクリューの長さLと直径Dの比であるL/Dが24〜36程度、樹脂供給部におけるねじ溝の空間容積V1と樹脂計量部におけるねじ溝の空間容積V2との比(V1/V2)である圧縮比が1.5〜4程度であって、フルフライトタイプ、バリアタイプ、さらにマドック型の混練部分を有するタイプ等のスクリューを用いることができる。ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を抑制し、均一に溶融混練するという観点からは、L/Dが28〜36で、圧縮比V1/V2が2.5〜3.5であるバリアタイプのスクリューを用いることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂の劣化や分解を可及的に抑制するため、押出機内は、窒素雰囲気または真空にすることが好ましい。さらに、ポリプロピレン系樹脂が劣化したり分解したりすることで生じる揮発ガスを取り除くため、押出機の先端に1mmφ以上5mmφ以下程度のオリフィスを設け、押出機先端部分の樹脂圧力を高めることも好ましい。オリフィスの設置により押出機先端部分の樹脂圧力を高めることは、その先端部分での背圧を高めることを意味しており、これにより押出の安定性を向上させることができる。用いるオリフィスの直径としては、2mmφ以上4mmφ以下がより好ましい。
押出に使用されるTダイとしては、樹脂の流路表面に微小な段差や傷のないものが好ましく、また、そのリップ部分は、溶融したポリプロピレン系樹脂との摩擦係数の小さい材料でめっきまたはコーティングされ、さらにリップ先端が0.3mmφ以下に研磨されたシャープなエッジ形状のものが好ましい。摩擦係数の小さい材料としては、タングステンカーバイド系やフッ素系の特殊めっき等が挙げられる。このようなTダイを用いることにより、目ヤニの発生を抑制でき、同時にダイラインを抑制できるので、外観の均一性に優れる原反フィルムが得られる。このTダイは、マニホールドがコートハンガー形状であって、かつ以下の条件(1)または(2)を満たすことが好ましく、さらには条件(3)または(4)を満たすことがより好ましい。
(1)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの厚み方向長さ>180mm、
(2)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの厚み方向長さ>220mm、
(3)Tダイのリップ幅が1500mm未満のとき:Tダイの高さ方向長さ>250mm、
(4)Tダイのリップ幅が1500mm以上のとき:Tダイの高さ方向長さ>280mm。
このような条件を満たすTダイを用いることにより、Tダイ内部での溶融状ポリプロピレン系樹脂の流れを整えることができ、かつ、リップ部分でも厚みムラを抑えながら押出すことができるため、より厚み精度に優れ、位相差のより均一な原反フィルムを得ることができる。
ポリプロピレン系樹脂の押出変動を抑制する観点から、押出機とTダイとの間にアダプターを介してギアポンプを取り付けることが好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂中にある異物を取り除くため、リーフディスクフィルターを取り付けることが好ましい。
Tダイから押出された溶融状シートは、金属製冷却ロール(チルロールまたはキャスティングロールともいう)と、その金属製冷却ロールの周方向に圧接して回転する弾性体を含むタッチロールとの間に、挟圧させて冷却固化することで、所望の原反フィルムを得ることができる。この際、タッチロールは、ゴム等の弾性体がそのまま表面となっているものでもよいし、弾性体ロールの表面を金属スリーブからなる外筒で被覆したものでもよい。弾性体ロールの表面が金属スリーブからなる外筒で被覆されたタッチロールを用いる場合は、通常、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを直接挟んで冷却する。一方、表面が弾性体となっているタッチロールを用いる場合は、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートとタッチロールとの間に熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを介在させて挟圧することもできる。
ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを、上記のような冷却ロールとタッチロールとで挟んで冷却固化させるに際しては、冷却ロールおよびタッチロールの表面温度を低くしておき、溶融状シートを急冷させることが好ましい。たとえば、両ロールの表面温度は0℃以上30℃以下の範囲に調整されることが好ましい。これらの表面温度が30℃を超えると、溶融状シートの冷却固化に時間がかかるため、ポリプロピレン系樹脂中の結晶成分が成長してしまい、得られるフィルムの透明性が劣る場合がある。ロールの表面温度は、好ましくは30℃未満、さらに好ましくは25℃未満である。一方、ロールの表面温度が0℃を下回ると、金属製冷却ロールの表面が結露して水滴が付着し、原反フィルムの外観が悪化する場合がある。
使用する金属製冷却ロールは、その表面状態がポリプロピレン系樹脂フィルムの表面に転写されるため、その表面に凹凸がある場合には、得られるポリプロピレン系樹脂フィルムの厚み精度を低下させる可能性がある。そこで、金属製冷却ロールの表面は可能な限り鏡面状態であることが好ましい。具体的には、金属製冷却ロールの表面の粗度は、最大高さの標準数列で表して0.3S以下であることが好ましく、さらには0.1S〜0.2Sであることがより好ましい。
金属製冷却ロールとニップ部分を形成するタッチロールとは、その弾性体における表面硬度が、JIS K 6301に規定されるスプリング式硬さ試験(A形)で測定される値として、65〜80であることが好ましく、さらには70〜80であることがより好ましい。このような表面硬度のゴムロールを用いることにより、溶融状シートにかかる線圧を均一に維持することが容易となり、かつ、金属製冷却ロールとタッチロールとの間に溶融状シートのバンク(樹脂溜り)を作ることなくフィルムに成形することが容易となる。
溶融状シートを挟圧するときの圧力(線圧)は、金属製冷却ロールに対してタッチロールを押し付ける圧力により決まる。線圧は、50N/cm以上300N/cm以下とするのが好ましく、さらには100N/cm以上250N/cm以下とするのがより好ましい。線圧を上記範囲とすることにより、バンクを形成することなく、一定の線圧を維持しながらポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを製造することが容易となる。
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で、ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートとともに熱可塑性樹脂の二軸延伸フィルムを挟圧する場合、この二軸延伸フィルムを構成する熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂と強固に熱融着しない樹脂であればよく、具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、およびポリアクリロニトリル等を挙げることができる。中でも、湿度や熱等による寸法変化の少ないポリエステルが好ましい。この場合の二軸延伸フィルムの厚さは、通常、5〜50μm程度であり、10〜30μmが好ましい。
この方法においては、Tダイのリップから金属製冷却ロールとタッチロールとで挟圧されるまでの距離(エアギャップ)を200mm以下とすることが好ましく、さらには160mm以下とすることがより好ましい。Tダイから押出された溶融状シートは、リップからロールまでの間引き伸ばされて、配向が生じやすくなる。エアギャップを上記のように短くすることで、配向のより小さいフィルムを得ることができる。エアギャップの下限値は、使用する金属製冷却ロールの径とタッチロールの径、および使用するリップの先端形状により決定され特に制限されるものではないが、通常、50mm以上である。
この方法でポリプロピレン系樹脂の原反フィルムを製造するときの加工速度は、溶融状シートを冷却固化するために必要な時間により決定される。使用する金属製冷却ロールの径が大きくなると、溶融状シートがその冷却ロールと接触している距離が長くなるため、より高速での製造が可能となる。具体的には、600mmφの金属製冷却ロールを用いる場合、加工速度は、最大で5〜20m/分程度となる。
金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧された溶融状シートは、ロールとの接触により冷却固化する。そして、必要に応じて端部をスリットした後、巻き取り機に巻き取られて原反フィルムとなる。この際、原反フィルムを使用するまでの間、その表面を保護するために、その片面または両面に別の熱可塑性樹脂からなる表面保護フィルムを貼り合わせた状態で巻き取ってもよい。ポリプロピレン系樹脂の溶融状シートを熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムとともに金属製冷却ロールとタッチロールとの間で挟圧する場合には、その二軸延伸フィルムを一方の表面保護フィルムとすることもできる。
(位相差フィルムの製造方法)
本発明に用いられる位相差フィルムは、上記したようなポリプロピレン系樹脂からなる原反フィルムに、縦延伸および/または横延伸を施すことにより製造できる。ここで縦延伸とは、ロールから巻き出される長尺のフィルムを長手方向(縦方向)に延伸することをいい、横延伸とは、ロールから巻き出される長尺のフィルムを幅方向(横方向)に延伸することをいう。縦延伸と横延伸は、要求される位相差値に合わせて適宜選択すればよく、たとえば、縦延伸と横延伸のいずれかの延伸方式のみを選択してもよいし、縦延伸と横延伸の両方を行なう方式を選択してもよい。縦延伸と横延伸を両方行なう場合には、これらを逐次的に行なってもよいし、同時に行なってもよい。
二軸延伸により二軸方向の複屈折性を発現させる場合、このときの延伸倍率は、縦方向および横方向のうち、光軸を発現させる方向(延伸倍率が大きい方向であって、遅相軸となる方向)で1.1〜10倍程度、それと直交する方向(延伸倍率が小さい方向であって、進相軸となる方向)で1.1〜7倍程度の範囲から、必要とする位相差値に合わせて、適宜選択すればよい。フィルムの横方向に光軸を発現させてもよいし、縦方向に光軸を発現させてもよい。
横延伸を行なう場合、通常は以下の工程を有する。
(i)原反フィルムを、ポリプロピレン系樹脂の融点付近の温度で予熱する予熱工程;
(ii)予熱されたフィルムを、その予熱温度よりも低い温度で横方向に延伸する延伸工程;および、
(iii)横方向に延伸されたフィルムを熱固定する熱固定工程。
代表的な横延伸の方法としては、テンター法が挙げられる。テンター法は、チャックでフィルム幅方向の両端を固定した原反フィルムを、オーブン中でチャック間隔を広げて延伸する方法である。テンター法に用いる延伸機(テンター延伸機)は通常、予熱工程を行なうゾーン、延伸工程を行なうゾーン、および熱固定工程を行なうゾーンにおいて、それぞれの温度を独立に調節できる機構を備えている。このようなテンター延伸機を用いて横延伸を行なうことにより、軸精度に優れ、かつ均一な位相差を有する位相差フィルムを得ることができる。
横延伸の予熱工程(i)は、フィルムを幅方向に延伸する工程(ii)の前に設置される工程であり、フィルムを延伸するのに十分な温度までフィルムを加熱する工程である。予熱工程での予熱温度は、オーブンの予熱工程を行なうゾーンにおける雰囲気温度を意味し、延伸されるポリプロピレン系樹脂フィルムの融点付近の温度が採用される。延伸されるフィルムの予熱工程における滞留時間は、30〜120秒が好ましく、30〜60秒であることがより好ましい。この予熱工程での滞留時間が30秒に満たないと、延伸工程でフィルムが延伸されるときに応力が分散し、位相差フィルムとしての軸精度や位相差の均一性に不利な影響を及ぼす場合がある。また、その滞留時間が120秒を超えると、必要以上に熱を受け、フィルムが部分的に融解し、ドローダウンする(下に垂れる)場合がある。
横延伸の延伸工程(ii)は、フィルムを幅方向に延伸する工程である。この延伸工程での延伸温度は、通常、予熱温度より低い温度とされる。延伸工程での延伸温度は、オーブンの延伸工程を行なうゾーンにおける雰囲気温度を意味する。予熱されたフィルムを予熱工程よりも低い温度で延伸することにより、フィルムを均一に延伸できるようになり、その結果、光軸および位相差の均一性に優れた位相差フィルムを得ることができる。延伸温度は、予熱工程における予熱温度より5〜20℃低いことが好ましく、7〜15℃低いことがより好ましい。この延伸倍率としては、必要とする位相差値に合わせて適宜選択されるものであり特に制限されるものではないが、通常、光軸を発現させる方向(遅相軸となる方向)で3〜10倍程度であり、3〜6倍が好ましい。横延伸であっても、延伸倍率を大きくすれば、上記のNz係数を1に近づけることができる。延伸倍率が10倍を超えると、位相差値の均一性が損なわれる場合がある。
横延伸の熱固定工程(iii)は、延伸工程終了時におけるフィルム幅を保った状態で、そのフィルムをオーブン内の所定温度のゾーンに通過させる工程である。フィルムの位相差や光軸等光学的特性の安定性を効果的に向上させるために、熱固定温度は延伸工程(ii)における延伸温度よりも5℃低い温度から延伸温度よりも30℃高い温度までの範囲内であることが好ましい。熱固定工程での熱固定温度は、オーブンの熱固定工程を行なうゾーンにおける雰囲気温度を意味する。
原反フィルムの横延伸は、さらに熱緩和工程を有してもよい。この熱緩和工程は、テンター法においては、通常、延伸工程(ii)と熱固定工程(iii)との間で行なわれ、熱緩和のゾーンは、他のゾーンから独立して温度設定が可能なように設けられるのが通例である。具体的には、熱緩和工程は、延伸工程においてフィルムを所定の幅に延伸した後、残留歪を取り除くために、チャックの間隔を、通常、延伸終了時の間隔より0.5〜7%程度狭くして行なわれる。
<粘着剤層>
本発明の粘着剤層付位相差フィルムを構成する粘着剤層(図1における粘着剤層20)は、ガラス転移温度(Tg)が0℃以下のアクリル系樹脂(A)、架橋剤(B)および有機カチオンを有するイオン性化合物(C)を含有する粘着剤組成物から形成される。ここでアクリル系樹脂(A)は、下記式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステルモノマー(A−1)を80〜94重量%と、極性官能基を有する(メタ)アクリルモノマー(A−2)を0.1〜5重量%と、分子内に1個のオレフィン性二重結合と少なくとも1個の芳香環とを有するモノマー(A−3)を5〜15重量%を含有するモノマー組成物を重合開始剤の存在下にラジカル重合して得られるものである。このような粘着剤組成物から形成される粘着剤層は、上記ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムとの密着性に優れており、また、ガラス基板に貼合した後、剥離する際、ガラス基板に糊残り等を生じさせることなく、比較的容易に剥離することが可能であり、リワーク性に優れる。
上記式中、R1は水素原子またはメチル基であり、R2は炭素数1〜14のアルキル基である。当該アルキル基において、いずれか1以上の水素原子は、炭素数1〜10のアルコキシ基によって置換されていてもよい。
上記式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステルモノマー(A−1)としては、たとえば、式(I)におけるR1がHで、R2がn−ブチル基であるアクリル酸n−ブチル、R1がHで、R2が2−エチルヘキシル基であるアクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。また、たとえば、R1がHで、R2がアルコキシ基で置換されたアルキル基である場合、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸エトキシメチルなどが挙げられる。
極性官能基を有する(メタ)アクリルモノマー(A−2)とは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基などの極性官能基と、1個のオレフィン性二重結合(通常は(メタ)アクリロイル基)を分子内に有するものである。中でも、水酸基を有するものとして、アクリル酸2−ヒドロキシエチルが好ましく用いられる。また、カルボキシル基を有するものとして、アクリル酸が好ましく用いられる。
また、分子内に1個のオレフィン性二重結合と少なくとも1個の芳香環とを有するモノマー(A−3)としては、たとえば、スチレン、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジルなどが挙げられるが、特に、偏光板にした際の白抜け防止機能が良好であることから、下記式(II)で表されるものが好ましい。
ここで、上記式中、R3は水素原子またはメチル基を表し、nは1〜8の整数であり、R4は水素原子、アルキル基、アラルキル基、またはアリール基を表す。
このようなモノマー(A−3)としては、たとえば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル化o−フェニルフェノール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、フェノキシエチルアクリレートがより好ましい。
本発明において、上記モノマー組成物中におけるモノマー(A−1)、モノマー(A−2)およびモノマー(A−3)の含有率は、粘着剤としての主な働きを担う主モノマーであるモノマー(A−1)の割合を高く保ち、なおかつ機能性を有するモノマー(A−2)およびモノマー(A−3)の性能が効果的に発揮されるために、モノマー(A−1)/モノマー(A−2)/モノマー(A−3)=80〜94重量%/0.1〜5重量%/5〜15重量%とされ、好ましくは、85〜92重量%/0.5〜3重量%/5〜12重量%である。
アクリル系樹脂(A)は、さらに、上記モノマー(A−1)〜(A−3)以外の共重合可能なモノマーを共重合成分として含んでいてもよい。このようなモノマーは単独で用いてもよいし、異なる複数のものを組み合わせて用いてもよい。このような(A−1)〜(A−3)以外のモノマーに由来する構造単位のアクリル樹脂全体に対する含有量は、通常0〜20重量%であり、好ましくは0〜10重量%である。
アクリル系樹脂(A)の分子量は、ゲルパーミエィションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)として、100万〜200万が好ましい。重量平均分子量が100万以上であると、高温高湿下での接着性が向上し、ガラス基板と粘着剤層との間に浮きや剥れの発生する可能性が低くなる傾向にあり、しかもリワーク性が向上する傾向にあることから好ましい。また、この重量平均分子量が200万以下であると、その粘着剤層に貼合される位相差フィルム、またはさらに直線偏光板が積層された複合偏光板あるいは楕円偏光板の寸法が変化しても、その寸法変化に粘着剤層が追随して変動するので、液晶セルの周縁部の明るさと中心部の明るさとの間に差がなくなり、白抜けや色ムラが抑制される傾向にあることから好ましい。さらに、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)で表される分子量分布は、3〜7の範囲が好ましい。
また、アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、0℃以下とされ、好ましくは−5℃以下、より好ましくは−20℃以下である。ガラス転移温度が0℃を超える場合、位相差フィルムと粘着剤層との密着性が十分でない。
アクリル系樹脂(A)の製造方法としては、たとえば、溶液重合法、乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法等、公知の各種方法が採用される。このアクリル系樹脂(A)の製造は、通常、上記モノマー組成物を重合開始剤の存在下にラジカル重合することよって行なわれる。重合開始剤は、アクリル系樹脂(A)を構成するモノマーの総量100重量部に対して、0.001〜5重量部程度使用される。重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物、無機過酸化物、および過酸化物と還元剤を併用したレドックス系開始剤等が挙げられる。中でも、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、および過硫酸アンモニウム等が好ましく用いられる。
こうして得られるアクリル系樹脂(A)に、架橋剤(B)を配合して粘着剤組成物とする。架橋剤(B)は、アクリル系樹脂(A)中の特に、極性官能基を有する(メタ)アクリルモノマー(A−2)に由来する構造単位と架橋し得る官能基を、分子内に少なくとも2個有する化合物であり、たとえば、イソシアネート系化合物、エポキシ系化合物、金属キレート系化合物、アジリジン系化合物などが挙げられる。
これらの架橋剤の中でも、イソシアネート系化合物が好ましく用いられる。イソシアネート系化合物としては、たとえば、トリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートをポリオールに反応させて得られるアダクト体、トリレンジイソシアネートの二量体、およびトリレンジイソシアネートの三量体、ならびにヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートをポリオールに反応させて得られるアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートの二量体、ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体などが挙げられる。
架橋剤(B)の配合量は、アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、通常0.01〜5重量部であり、好ましくは0.1〜5重量部、さらに好ましくは0.2〜3重量部である。アクリル系樹脂(A)100重量部に対する架橋剤(B)の量が0.01重量部以上、特に0.1重量部以上であると、粘着剤層の耐久性が向上する傾向にある。また、5重量部以下であると、粘着剤層付位相差フィルムを液晶表示装置に適用したときの白抜けが目立たなくなる傾向にある。
なお、粘着剤層を形成する上記粘着剤組成物は、比較的高分子量のアクリル系樹脂(A)のみを樹脂成分として含むものであってもよいが、アクリル系樹脂(A)以外のアクリル系樹脂を含んでいてもよい。アクリル系樹脂(A)以外のアクリル樹脂としては、たとえば、上記式(I)で示される(メタ)アクリル酸エステルモノマーに由来する構造単位を主成分とし、重量平均分子量が5万〜30万の範囲にあるものが挙げられる。
上記のような粘着剤組成物の原料は、市販品を容易に入手することが可能である。たとえば、各種アクリル系モノマーは、株式会社日本触媒、東亞合成株式会社などから入手することができる。重合開始剤である2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等は、大塚化学株式会社、株式会社日本ファインケムなどから入手することができる。架橋剤であるヘキサメチレンジイソシアネートやそのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートやそのトリメチロールプロパンアダクト体等は、三井化学ポリウレタン株式会社、住化バイエルウレタン株式会社、日本ポリウレタン工業株式会社などから入手することができる。
本発明に用いられる粘着剤層は、粘着剤層付位相差フィルムまたはそれに直線偏光板が積層された複合偏光板あるいは楕円偏光板に帯電する静電気を除電するために、帯電防止性を有することが好ましい。粘着剤層付位相差フィルムまたはそれに直線偏光板が積層された複合偏光板あるいは楕円偏光板は、その剥離可能な保護フィルムを剥離するとき、および粘着剤層を保護している剥離フィルム(セパレータ)を剥離して液晶セルへ複合偏光板あるいは楕円偏光板を貼合するときなどに、しばしば静電気を帯びるが、粘着剤層が帯電防止性を有していれば、その静電気が速やかに除電され、液晶セルの表示回路が破壊されたり、液晶分子が配向を乱されたりすることが抑制される。
粘着剤層に帯電防止性を付与するには、一般に、粘着剤組成物に、金属微粒子、金属酸化物微粒子、または金属等をコーティングした微粒子等を含有させる方法; 電解質塩とオルガノポリシロキサンからなるイオン導電性組成物を含有させる方法; 有機塩系の帯電防止剤を配合させる方法等が採用される。一方、求められる帯電防止性の保持時間としては、一般的な光学フィルムの製造、流通および保管期間の観点から、最大6ヶ月程度必要である。
そこで、本発明に用いられる粘着剤層に帯電防止性を付与するため、粘着剤層を形成する粘着剤組成物にイオン性化合物を配合する。このイオン性化合物は、粘着剤組成物への相溶性に優れていることから、有機カチオンを有するイオン性化合物(C)とする。また融点が30〜80℃の範囲にあるものとする。
有機カチオンを有するイオン性化合物(C)を構成する有機カチオン成分は、イオン性化合物の融点が30〜80℃となり得るものから選択すればよいが、中でも、粘着剤層上に設けられる剥離フィルム(セパレータ)を剥がすときに帯電しにくいという観点から、ピリジニウムカチオンやイミダゾリウムカチオンがより好ましい。一方、イオン性化合物(C)において、上記有機カチオン成分の対イオンとなるアニオン成分は、同様にイオン性化合物の融点が30〜80℃となり得るものから選択され、無機のアニオンであってもよいし、有機のアニオンであってもよい。中でも、フッ素原子を含むアニオン成分は、帯電防止性能に優れるイオン性化合物を与えるという観点から好ましく用いられ、ヘキサフルオロホスフェートアニオンがさらに好ましい。
有機カチオンを有するイオン性化合物(C)としては、上記有機カチオン成分とアニオン成分の組合せから適宜選択することができ、特に限定されるものではないが、たとえば、N−ヘキシルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、N−オクチルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、N−オクチル−4−メチルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、N−ブチル−4−メチルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、N−メチル−4−ヘキシルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート、および1−エチル−3−メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。このようなイオン性化合物(C)は、それぞれ単独で、または2種以上組み合わせて用いてもよい。
有機カチオンを有するイオン性化合物(C)は、融点が30〜80℃のものを採用するが、融点は35〜70℃の範囲にあることがより好ましい。融点が80℃を超えると、イオン性化合物(C)とアクリル系樹脂(A)との相溶性が悪くなる場合がある。また、融点が30℃未満であると、帯電防止性の長期安定性に劣る場合がある。
有機カチオンを有するイオン性化合物(C)の上記アクリル系樹脂(A)100重量部に対する含有量は、0.2〜8重量部が好ましく、0.5〜3重量部がより好ましい。アクリル系樹脂(A)100重量部に対して、有機カチオンを有するイオン性化合物(C)を0.2重量部以上含有すると、帯電防止性能が向上することから好ましく、また、その量が8重量部以下であると、耐久性を保つのが容易であることから好ましい。
上記のようなイオン性化合物は市販品もあり、たとえば、ピリジニウムカチオン型イオン性化合物(広栄化学株式会社製)、イミダゾリウムカチオン型イオン性化合物(日本合成化学工業株式会社製)、および脂肪族四級アンモニウムカチオン型イオン性化合物(日清紡績株式会社製)等が挙げられる。
粘着剤組成物には、必要に応じて、シランカップリング剤、架橋触媒、耐候安定剤、タッキファイヤー、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機フィラー、アクリル系樹脂(A)以外の樹脂、溶剤などから選ばれる1種または2種以上を配合してもよい。また、粘着剤組成物に紫外線硬化性化合物を配合し、粘着剤層形成後に紫外線を照射して硬化させ、より硬い粘着剤層とするのも有用である。
また、粘着剤層を形成する粘着剤組成物に、光拡散剤を分散させて拡散粘着剤として用いることもできる。光拡散剤は、粘着剤層に光拡散性を付与するためのものであり、粘着剤層を構成するベースポリマーと異なる屈折率を有する微粒子であればよく、無機化合物からなる微粒子や有機化合物(ポリマー)からなる微粒子を用いることができる。上記したようなアクリル系樹脂(A)を含めて、粘着剤層を構成する樹脂成分は、1.4前後の屈折率を示すことが多いので、光拡散剤としては、その屈折率が1〜2程度のものから適宜選択すればよい。粘着剤層を構成する樹脂と光拡散剤との屈折率差は、通常0.01以上であり、また液晶表示装置の明るさと視認性の観点からは、0.01〜0.5が好ましい。光拡散剤として用いる微粒子は、球形のものであり、中でも単分散に近いものが好ましく、たとえば、平均粒径が2〜6μm程度の範囲にある微粒子が好ましく用いられる。
無機化合物からなる微粒子としては、たとえば、酸化アルミニウム(屈折率1.76)、酸化ケイ素(屈折率1.45)などを挙げることができる。
また、有機化合物(ポリマー)からなる微粒子としては、たとえば、メラミンビーズ(屈折率1.57)、ポリメタクリル酸メチルビーズ(屈折率1.49)、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体樹脂ビーズ(屈折率1.50〜1.59)、ポリカーボネートビーズ(屈折率1.55)、ポリエチレンビーズ(屈折率1.53)、ポリスチレンビーズ(屈折率1.6)、ポリ塩化ビニルビーズ(屈折率1.46)、シリコーン樹脂ビーズ(屈折率1.46)などを挙げることができる。
光拡散剤の配合量は、それが分散された粘着剤層に必要とされるヘイズ値や、それが適用される液晶表示装置の明るさ等を考慮して適宜決められるものであり、特に制限されないが、通常、粘着剤層を構成する樹脂100重量部に対して3〜30重量部程度である。
光拡散剤が分散された粘着剤層のヘイズ値は、粘着剤層付位相差フィルムまたはこれを用いた複合偏光板あるいは楕円偏光板が適用された液晶表示装置の明るさを確保するとともに、表示像のにじみやボケを生じにくくする観点から、20〜80%の範囲となるようにするのが好ましい。ヘイズ値は、(拡散透過率/全光線透過率)×100(%)で表される値であり、JIS K 7105に準じて測定される。
粘着剤層は、上記したようなアクリル樹脂(A)を主体とする粘着剤組成物(典型的には溶剤を含む粘着剤溶液)を上記位相差フィルム上に塗布し、乾燥させる方法によって形成できる他に、離型処理が施されたフィルムの離型処理面に、粘着剤組成物(典型的には溶剤を含む粘着剤溶液)を塗布し、乾燥させることにより粘着剤層を形成した後、この粘着剤層付フィルムを、粘着剤層側が貼合面となるように、位相差フィルム表面に貼り合わせる方法によっても形成することができる。粘着剤層が形成される位相差フィルム表面には、あらかじめコロナ放電処理を施しておくことが好ましい。これにより、位相差フィルムと粘着剤層との密着性をさらに向上させることができる。なお、位相差フィルムの粘着剤層側とは反対側に直線偏光板を積層して複合偏光板あるいは楕円偏光板を作製する場合においては(複合偏光板および楕円偏光板については後述する。)、粘着剤層の形成は、位相差フィルムに直線偏光板を積層させた後に行なってもよい。
粘着剤層の厚みは、その接着力等に応じて決定されるが、通常は1〜40μm程度である。加工性や耐久性等の特性を損なうことなく、薄型の粘着剤層付位相差フィルムおよびこれを用いた複合偏光板または楕円偏光板を得るためには、粘着剤層の厚みは3〜25μm程度とすることが好ましい。また、粘着剤層の厚みを3〜25μm程度とすることにより、液晶表示装置を正面から見た場合や斜めから見た場合の明るさを保ち、表示像のにじみやボケが生じにくくすることができる。
[複合偏光板]
本発明の粘着剤層付位相差フィルムは、直線偏光板と組み合わせて、複合偏光板とすることができる。図2は、本発明に係る複合偏光板の好ましい一例を示す断面模式図(図2(A))およびその軸角度の関係を説明するための概略図(図2(B))である。
図2に示す例では、図1に示した位相差フィルム10の表面に粘着剤層20を設けて形成される粘着剤層付位相差フィルム30の粘着剤層20とは反対側の表面上(すなわち、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム10上)に、直線偏光板50を積層して、複合偏光板54が構成されている。
図2(A)に示される複合偏光板54においては、図2(B)を参照して、直線偏光板50の吸収軸52を基準に、反時計回り方向を正として、位相差フィルム10の面内遅相軸11に至る角度θが、80〜100度、好ましくはほぼ90度となるように配置されている。以下、角度を表すときは、ここでの説明と同様、吸収軸に対して反時計回りを正とする。直線偏光板50の吸収軸52と位相差フィルム10の面内遅相軸11とがほぼ同方向、すなわち角度θがほぼ0度となるようにすることもできる。
[楕円偏光板]
本発明の粘着剤層付位相差フィルムは、直線偏光板と組み合わせて、楕円偏光板とすることもできる。本発明の楕円偏光板において、粘着剤層付位相差フィルムは、1/4波長板として機能してもよいし、1/2波長板として機能してもよい。図3は、本発明に係る楕円偏光板の好ましい一例を示す断面模式図(図3(A))およびその軸角度の関係を説明するための概略図(図3(B))である。
図3に示す例では、図1に示した位相差フィルム10の表面に粘着剤層20を設けて形成される粘着剤層付位相差フィルム30の粘着剤層20とは反対側の表面上(すなわち、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム10上)に、直線偏光板50を積層して、楕円偏光板55が構成されている。この例において、位相差フィルム10は、1/4波長板として機能する。1/4波長板は、直線偏光で入射する光を、円偏光をはじめとする楕円偏光に、また円偏光をはじめとする楕円偏光で入射する光を直線偏光に、それぞれ変換して出射する機能を有する。
本発明の粘着剤層付位相差フィルムを1/4波長板として用いる場合、その面内位相差値R0は、70〜160nmの範囲にあることが好ましく、さらには80〜150nmの範囲にあることがより好ましい。
複合偏光板または楕円偏光板とする場合に用いられる直線偏光板は、ある方向の振動面を有する直線偏光を吸収し、それと直交する方向の振動面を有する直線偏光を透過する機能が付与された光学部材であって、この分野で一般に用いられているものを使用することができる。具体的には、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムの少なくとも一方の面に、透明保護層を形成したポリビニルアルコール系の直線偏光板が一般的である。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに二色性色素を吸着配向させることにより、上記したような、ある方向の振動面を有する直線偏光を吸収し、それと直交する方向の振動面を有する直線偏光を透過する機能を付与することができる。二色性色素としては、ヨウ素や二色性有機染料が用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂フィルムからなる偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムに、一軸延伸、二色性色素による染色、および染色後のホウ酸処理を施すことにより、得ることができる。
直線偏光板に用いられる透明保護層としては、たとえば、従来から偏光フィルムの保護層として一般的に用いられている、トリアセチルセルロース(TAC)やジアセチルセルロースに代表されるアセチルセルロース系樹脂のフィルムを挙げることができるが、その他、ノルボルネン系樹脂に代表される環状ポリオレフィン系樹脂のフィルム、ポリプロピレン系樹脂のフィルム、ポリエチレンテレフタレート樹脂のフィルム、ポリ(メタ)アクリル酸メチルのフィルム等を用いてもよい。
図3(A)に示される楕円偏光板55においては、図3(B)を参照して、直線偏光板50の吸収軸52を基準に、反時計回り方向を正として、1/4波長板である位相差フィルム10の面内遅相軸12に至る角度θが、40〜50度、好ましくはほぼ45度となるように配置することで、ほぼ円偏光板として機能するようになる。あるいは、直線偏光板50の吸収軸52を基準に、反時計回り方向を正として、1/4波長板である位相差フィルム10の面内遅相軸12に至る角度θが、130〜140度、好ましくはほぼ135度となるように配置することでも、やはりほぼ円偏光板として機能するようになる。
図4は、本発明に係る楕円偏光板の別の好ましい一例を示す断面模式図(図4(A))およびその軸角度の関係を説明するための概略図(図4(B))である。図4に示す例では、図1に示した位相差フィルム10と粘着剤層20との積層体である粘着剤層付位相差フィルム30の粘着剤層20とは反対側の表面上(すなわち、ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム10上)に、第二の位相差フィルム40および直線偏光板50を順次積層して、楕円偏光板56が構成されている。この場合も、位相差フィルム10は、1/4波長板として機能するものであることが好ましく、第二の位相差フィルム40は、1/2波長板として機能するものであることが好ましい。1/2波長板は、直線偏光の向きを回転させる機能を有する。
図4に示される楕円偏光板において、直線偏光板およびその少なくとも片面に設けられる透明保護層としては、上記したものを用いることができる。また、第二の位相差フィルム40としては、従来公知のものを使用することができる他に、本発明の粘着剤層付位相差フィルムが用いられてもよい。従来公知の1/2波長板としては、たとえば環状ポリオレフィン系樹脂よりなる位相差フィルム、ポリカーボネート系樹脂よりなる位相差フィルムなどを挙げることができる。1/2波長板としての第二の位相差フィルム40は、その面内位相差値R0が、240〜400nmの範囲にあることが好ましく、さらには260〜330nmの範囲にあることがより好ましい。
図4(A)に示されるように、1/4波長板と1/2波長板とを組み合わせて用いることにより、これら波長板の積層体は、可視光領域の広い波長範囲、すなわち広帯域で1/4波長板として機能するようになり、その1/2波長板側に直線偏光板を積層した楕円偏光板は、広帯域で、直線偏光を円偏光に、また円偏光を直線偏光に変換する機能を有するようになる。さらにこのように構成することで、反射防止効果の角度依存性をも低減できるようになる。
図4(A)に示される楕円偏光板においては、図4(B)を参照して、直線偏光板50の吸収軸52を基準に、1/2波長板である第二の位相差フィルム40の面内遅相軸42に至る角度φが10〜20度、好ましくはほぼ15度となり、1/2波長板である第二の位相差フィルム40の面内遅相軸42から1/4波長板である位相差フィルム10の面内遅相軸12に至る角度Ψが55〜65度、好ましくはほぼ60度となるように配置することで、ほぼ円偏光板として機能するようになる。あるいは、直線偏光板50の吸収軸52を基準に、1/2波長板である第二の位相差フィルム40の面内遅相軸42に至る角度φが100〜110度、好ましくはほぼ105度となり、1/2波長板である第二の位相差フィルム40の面内遅相軸42から1/4波長板である位相差フィルム10の面内遅相軸12に至る角度Ψが55〜65度、好ましくはほぼ60度となるように配置することでも、やはりほぼ円偏光板として機能するようになる。後者の関係(直線偏光板50の吸収軸52から第二の位相差フィルム40の面内遅相軸42に至る角度φが100〜110度)は、図4(B)において「直線偏光板の吸収軸52」を「直線偏光板の透過軸」と読み替えた状態に相当する。直線偏光板において、吸収軸と透過軸とは面内で直交する関係にある。
複合偏光板および楕円偏光板の作製にあたり、位相差フィルムと直線偏光板との貼合および位相差フィルム同士(1/4波長板と1/2波長板)の貼合には、たとえば、粘着剤層を用いることができる。粘着剤層を形成する粘着剤としては、上記したものを含め、透明性および耐久性に優れたアクリル系ポリマーを主体とする粘着剤が好ましく用いられる。粘着剤層の厚みは、通常5〜50μmの範囲である。
本発明の複合偏光板および楕円偏光板は、直線偏光板とは反対側(位相差フィルム側)の表面に、粘着剤層付位相差フィルムに由来する粘着剤層を備える構成とすることができる。その粘着剤層は、液晶セルとの貼合に好適に用いることができる。
[液晶表示装置]
図5は、本発明に係る液晶表示装置の一構成例を示す断面模式図である。図5に示される液晶表示装置は、図2に示される複合偏光板54を液晶セル60の両側に配置した例であり、具体的には、図の下側から、バックライト70、複合偏光板54、液晶セル60および複合偏光板54の順に配置されている。2つの複合偏光板54はそれぞれ、位相差フィルム10側が液晶セル60に対向して、その粘着剤層20を介して貼合されている。2つの複合偏光板54は、それらの直線偏光板50の吸収軸が互いに直交するように配置される。
図6は、本発明に係る液晶表示装置の別の一構成例を示す断面模式図である。図6に示される液晶表示装置は、図3に示される楕円偏光板55を液晶セル60の両側に配置した例であり、具体的には、図の下側から、バックライト70、楕円偏光板55、液晶セル60および楕円偏光板55の順に配置されている。2つの楕円偏光板55はそれぞれ、1/4波長板である位相差フィルム10側が液晶セル60に対向して、その粘着剤層20を介して貼合されている。2つの楕円偏光板55は、それらの直線偏光板50の吸収軸が互いに直交するように配置される。
図7は、本発明に係る液晶表示装置のさらに別の構成例を示す断面模式図である。図7に示される液晶表示装置は、図4に示される楕円偏光板56を液晶セル60の両側に配置した例であり、具体的には、図の下側から、バックライト70、楕円偏光板56、液晶セル60および楕円偏光板56の順に配置されている。2つの楕円偏光板56はそれぞれ、1/4波長板である位相差フィルム10側が液晶セル60に対向して、その粘着剤層20を介して貼合されている。2つの楕円偏光板56は、それらの直線偏光板50の吸収軸が互いに直交するように配置される。
なお、バックライト70は、液晶表示装置が透過型または半透過反射型である場合に設けられるものであり、反射型の液晶表示装置の場合には、省略されてもよい。また、図5〜7においては、液晶セルの両面に本発明の複合偏光板または楕円偏光板を配置しているが、これに限定されるものではなく、液晶セルの片面に本発明の複合偏光板または楕円偏光板を配置し、もう一方の面に他の偏光板を貼合してもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって規定されるものではない。例中、使用量および含有量を表す「部」および「%」は、特に断りのない限り重量基準である。
(製造例1:位相差フィルム1の作製)
エチレンユニットを約5%含むプロピレン/エチレンランダム共重合体(住友化学(株)製の「住友ノーブレン W151」)を製膜して、厚さ40μmのポリプロピレン系樹脂からなる原反フィルムを得た。この原反フィルムを、テンター延伸機を用いて、予熱温度136℃、延伸温度126℃、熱固定温度100℃、ライン速度4m/minで、約4倍に横一軸延伸することにより、一軸性の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムは、面内の位相差値R0=90nm、厚み方向の位相差値Rth=45nmであり、厚みは9μmであった。次に、このポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムの片面に、東レフィルム加工(株)製の自己粘着性表面保護フィルムである商品名「トレテック7332」を貼合した。
(製造例2:位相差フィルム2の作製)
エチレンユニットを約5%含むプロピレン/エチレンランダム共重合体(住友化学(株)製の「住友ノーブレン W151」)を製膜して、厚さ90μmのポリプロピレン系樹脂からなる原反フィルムを得た。この原反フィルムを、縦延伸機を用いて、延伸温度110℃、入り口ライン速度5m/分で1.8倍に縦延伸してから、テンター延伸機を用いて、予熱温度141℃、延伸温度130℃、熱固定温度130℃、ライン速度3m/分で、約2.8倍に横延伸することにより、二軸性の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムは、面内の位相差値R0=45nm、厚み方向の位相差値Rth=110nmであり、厚みは15μmであった。次に、このポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルムの片面に、東レフィルム加工(株)製の自己粘着性表面保護フィルムである商品名「トレテック7332」を貼合した。
(製造例3:粘着剤層用シートフィルム)
(A−1)としてアクリル酸ブチル90.6部、(A−3)としてアクリル酸フェノキシエチル8.0部、(A−2)としてアクリル酸2−ヒドロキシエチル1.0部およびアクリル酸0.4部を共重合させて得られたアクリル樹脂共重合体(アクリル系樹脂(A))の酢酸エチル溶液の固形分100部に対し、イオン性化合物としてN−オクチル−4−メチルピリジニウム ヘキサフルオロホスフェート(融点44℃)を0.8部、シランカップリング剤としてグリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.5部、および架橋剤としてトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体の酢酸エチル溶液(固形分濃度75%)を固形分で0.5部混合し、さらに固形分濃度が13%になるように酢酸エチルを加えて、粘着剤組成物の塗工液とした。なお、上記アクリル系樹脂(A)の酢酸エチル溶液は、上記モノマーから構成されるモノマー組成物100部に対して0.14部のアゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤)を用いて、アクリル系樹脂の濃度が35%になるよう、酢酸エチルを適宜添加しながら、内温54〜56℃の容器の中で約12時間かけてラジカル重合させ、さらに酢酸エチルを用いて最終的な固形分が20%となるように調整されたものである。アクリル系樹脂(A)のガラス転移温度は、−40℃であった。ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定した。また、アクリル系樹脂(A)は、GPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが1,710,000であり、Mw/Mnが4.3であった。アクリル系樹脂(A)中の水酸基含有不飽和単量体であるアクリル酸2−ヒドロキシエチルに由来する構造単位は1%であり、カルボキシル基含有不飽和単量体であるアクリル酸に由来する構造単位は0.4%である。
上記塗工液を、離型処理が施された厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(セパレータ)の離型処理面に塗工、乾燥した後、形成された粘着剤層上に、さらにセパレータを貼合することにより、両面セパレータ型の粘着剤層厚さ20μmのシート状帯電防止性粘着剤を調製した。
[実施例1]
(a)位相差フィルム上への粘着剤層の形成
製造例1で得られたポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム1の表面保護フィルムが積層されている面とは反対側の面と、製造例3で得られたシート状帯電防止性粘着剤から片面のセパレータを剥がしたシートのセパレータ剥離面(粘着剤層表面)とに、それぞれ積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施し、コロナ放電処理後5分以内に、そのコロナ処理面同士を貼り合わせて粘着剤層を位相差フィルム上に形成し、粘着剤層付位相差フィルムを得た。
(b)楕円偏光板の作製
ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向している偏光フィルムの両面に、トリアセチルセルロースからなる保護フィルムが接着されている直線偏光板(住友化学(株)製のSRW062)を用意し、その片面に、ウレタンアクリレート系のシート状粘着剤(リンテック(株)から販売されているNS300MP)を貼り合わせて粘着剤付直線偏光板を作製した。次に、上記(a)で作製した粘着剤層付位相差フィルムから表面保護フィルムを剥がし、その面(ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム面)に積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施し、コロナ放電処理後5分以内にそのコロナ処理面に上記粘着剤付直線偏光板の粘着剤層を貼合して、粘着剤層付楕円偏光板を得た。
[実施例2]
(a)位相差フィルム上への粘着剤層の形成
製造例2で得られたポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム2の表面保護フィルムが積層されている面とは反対側の面と、製造例3で得られたシート状帯電防止性粘着剤から片面のセパレータを剥がしたシートのセパレータ剥離面(粘着剤層表面)とに、それぞれ積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施し、コロナ放電処理後5分以内に、そのコロナ処理面同士を貼り合わせて粘着剤層を位相差フィルム上に形成し、粘着剤層付位相差フィルムを得た。
(b)複合偏光板の作製
ポリビニルアルコールにヨウ素が吸着配向している偏光フィルムの片面に、紫外線硬化型接着剤を介して、ポリエステル系樹脂フィルムを貼合し、接着剤を硬化させて直線偏光板とした。次に、上記(a)で作製した粘着剤層付位相差フィルムから表面保護フィルムを剥がし、その面(ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム面)に、紫外線硬化型接着剤を介して上記直線偏光板のポリビニルアルコールフィルム面を貼合し、紫外線照射システム(Fusion UV Systems社製)を用いて、粘着剤層付位相差フィルムのセパレータ側から、出力1,000mW、照射量500mJの条件で紫外線を照射して接着剤を硬化させ、粘着剤層付複合偏光板を得た。
[比較例1]
(a)位相差フィルム上への粘着剤層の形成
製造例1で得られた位相差フィルム1の表面保護フィルムが積層されている側とは反対側の面に、積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施した。コロナ放電処理後5分以内に、そのコロナ処理面に、アクリル酸ブチルおよびアクリル酸をモノマー成分とするアクリル系のシート状粘着剤(片面にセパレータが設けられている;市販品)を貼合し、粘着剤層付位相差フィルムを得た。
(b)楕円偏光板の作製
上記(a)で作製した粘着剤層付位相差フィルムから表面保護フィルムを剥がし、その面(ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム面)に積算照射量15.9kJ/m2でコロナ放電処理を施し、コロナ放電処理後5分以内にそのコロナ処理面に、実施例1の(b)で用いたのと同じ粘着剤付直線偏光板の粘着剤層を貼合して、粘着剤層付楕円偏光板を得た。
[評価試験]
実施例1、実施例2および比較例1の粘着剤層付複合偏光板および楕円偏光板につき、それぞれの厚みを(株)ニコン製のデジタル測長器「MH−15M」を用いて測定した。厚み測定は、粘着剤層側のセパレータを剥離した状態で行なった。結果を表1に示す。また、粘着剤層と位相差フィルムとの密着性、およびガラス板に貼合された粘着剤層の剥離性を評価するために次の試験を行なった。
(1)粘着剤層と位相差フィルムとの密着性試験
実施例1、実施例2または比較例1の(a)で得られた表面保護フィルムを有する粘着剤層付位相差フィルムから表面保護フィルムを剥がし、その面(ポリプロピレン系樹脂からなる位相差フィルム面)に、積算照射量15.9kJ/m2の条件でコロナ放電処理を施した。別途、二軸性の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製のZB055124)の片面に、積算照射量15.9kJ/m2の条件でコロナ放電処理を施した。このノルボルネン系樹脂フィルムへのコロナ放電処理後10分以内に、そのコロナ処理面に、エポキシ化合物を含有する活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布し、その塗布面側と、上記粘着剤層付き位相差フィルムのコロナ処理面とを貼合し、FUSION社製の紫外線照射装置を用いて、出力500mW、照射量1500mJの条件で紫外線照射し、硬化させた。その後、温度23℃、相対湿度60%の雰囲気下で1日放置して、密着性評価用フィルムとした。この評価用フィルムは、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルム/硬化性樹脂組成物の硬化物層/位相差フィルム/粘着剤層の構成を有している。
この密着性評価用フィルムから、幅25mm、長さ約200mmのサンプルを裁断し、日本システムグループ(株)製の密着力評価装置を用いて、長さ方向に3点の密着力を評価した。評価は、硬度60度のスチレンゴムを使用し、0.4MPaの押圧力で押圧しながら、サンプルの25mm幅の一定方向へ20回摺動させたときに、粘着剤層が位相差フィルムから剥離した長さの3点平均を剥離距離として求めた。なお測定は、温度23℃、相対湿度60%の雰囲気下で行なった。結果を表1に示した。
(2)ガラス板に貼り付けたときの剥離性試験
上記(1)で作製した密着性評価用フィルムから、幅25mm、長さ約200mmのサンプルを裁断し、その粘着剤層面をソーダガラスに貼合した後、オートクレーブ中、圧力5kgf/cm2、温度50℃で20分間の加圧処理を行ない、引き続き温度23℃、相対湿度60%の雰囲気下で1日放置した。その後、万能引っ張り試験機(AG−1、(株)島津製作所製)を用いて、温度23℃、相対湿度60%の雰囲気にて、サンプルの長さ方向一端をつかんでクロスヘッドスピード(剥離速度)200mm/分で、90°剥離試験を行なった。剥離後のガラス板表面に粘着剤が残っているかどうかを目視で観察し、以下の基準で評価して、結果を表1に示した。
<剥離性試験の評価基準>
○:ガラス板に粘着剤が残存することなく位相差フィルムを剥離できる、
×:剥離後、ガラス板に粘着剤層が残存している。
[実施例3]
半透過反射型の液晶表示装置を備える市販の携帯電話機から液晶表示装置を取り出した。その液晶表示装置を分解し、液晶セルから前面側(視認側)の偏光板を剥離し、代わりに実施例1で作製した楕円偏光板を、その粘着剤層からセパレータを剥離してその粘着剤層側で液晶セルに貼合した。
次いで、この液晶セルを元の配置に戻して液晶表示装置を組み立てた。この液晶表示装置を作動させたところ、特に画像の乱れもなく、直ちに鮮明な映像が表示された。また、色ムラ等の不具合は観察されなかった。
[実施例4]
透過型の液晶表示装置を備える市販の携帯電話機から液晶表示装置を取り出した。その液晶表示装置を分解し、液晶セルから前面側(視認側)の偏光板を剥離し、代わりに実施例2で作製した複合偏光板を、その粘着剤層からセパレータを剥離してその粘着剤層側で液晶セルに貼合した。
次いで、この液晶セルを元の配置に戻して液晶表示装置を組み立てた。この液晶表示装置を作動させたところ、特に画像の乱れもなく、直ちに鮮明な映像が表示された。また、色ムラ等の不具合は観察されなかった。
[比較例2]
実施例3における楕円偏光板を、比較例1で作製したものに変更し、その他は実施例3と同様にして液晶表示装置を組み立て、作動させたところ、約30分の間にわたり若干の画像の乱れが観察された。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。