(ポリプロピレン系樹脂フィルムの製造方法)
以下、図1を適宜参照しながら、本発明の好適な一実施形態であるポリプロピレン系樹脂フィルム(位相差フィルム)の製造方法について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図1の寸法比率、形状は、必ずしも実際の寸法比率、形状とは一致していない。
本実施形態に係るポリプロピレン系樹脂フィルムの製造方法は、主として、不活性ガス雰囲気中でポリプロピレン系樹脂を加熱・乾燥する熱処理工程(S1)、熱処理工程後のポリプロピレン系樹脂を溶融及び混練(以下、溶融混練と記す。)した後、フィルム状に押出成形し、原反フィルムを得る押出成形工程(S2)、原反フィルムを、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂からなる保護フィルムと重ねて巻き取る巻取工程(S3)、及び、原反フィルムに重ねた保護フィルムを除去した後、原反フィルムに対して縦延伸及び横延伸を施す延伸工程(S4)を有する。以下、各工程について説明する。
<S1:熱処理工程>
まず、原料のポリプロピレン系樹脂を、加熱機(不活性ガス還流型乾燥機)内に導入する。この加熱機内を不活性ガスで満たした後、加熱された不活性ガス雰囲気下で、ポリプロピレン系樹脂を熱処理して加熱乾燥する。不活性ガス雰囲気下でポリプロピレン系樹脂を加熱することにより、ポリプロピレン系樹脂の劣化の原因となる酸素を、ポリプロピレン系樹脂から除去できる。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン等の希ガス、又は二酸化炭素等を用いることができる。
熱処理後、ポリプロピレン系樹脂を、加熱機内から押出機内へ通じる輸送管を通じて、加熱機内から押出機内へ輸送する。輸送中のポリプロピレン系樹脂は、不活性ガス雰囲気下に保持することが好ましい。これにより、輸送中のポリプロピレン系樹脂が酸素に曝されることを抑制できる。
<S2:押出成形工程>
次に、押出機内のポリプロピレン系樹脂を溶融混練する。なお、押出機内を不活性ガスで満たした状態で、ポリプロピレン系樹脂を溶融混練することが好ましい。これにより、溶融混練中のポリプロピレン系樹脂の劣化(酸化分解)を抑制できる。そのため、ポリプロピレン系樹脂中での炭化物の生成が抑制され、得られるフィルムにおける色調変動や焦げの発生を抑制できる。
押出機内で溶融混練されたポリプロピレン系樹脂は、ギアポンプによってリーフディスクフィルターへ送り出された後、図1に示すように、Tダイ2からフィルム状に押し出される。Tダイ2から押し出されたポリプロピレン系樹脂4を、成形用ロール6を用いて、冷却固化しながら更に薄いフィルム状に成形して原反フィルム4aを形成する。得られた原反フィルム4aの厚み及び欠点の有無を、インライン厚み計8及び欠点検査機10で検査する。なお、インライン厚み計8としては、X線厚み計、β線厚み計、赤外線厚み計、超音波厚み計等を用いることができる。
原反フィルム4aの厚みは、30〜200μmであることが好ましい。原反フィルム4aが30μmより薄い場合、フィルム剛性が低く、フィルムのハンドリングが困難となる傾向があり、また原反フィルム4aが200μmより厚い場合、フィルムを液晶表示装置に組み込んだときに、液晶表示装置の厚みが増し、液晶表示装置の商品価値を低下させる傾向がある。そこで、原反フィルム4aの厚みを上記の好適範囲内とすることによって、これらの傾向を抑制できる。さらに、原反フィルム4aは厚み斑が小さいことが好ましく、原反フィルム4aの厚みの最大値と最小値との差は10μm以下であることが好ましく、4μm以下であることがより好ましい。原反フィルム4aの厚み斑が小さいほど、光学的な均一性に優れる位相差フィルムを得易くなる。また、原反フィルム4aの透明性を示すHAZEは2%以下であることが好ましい。これにより液晶表示装置の明るさを維持することができる。ここで、HAZEとは、JIS K−7136に従い測定される樹脂フィルムの透明性を評価する指標であり、その値が小さいほど樹脂フィルムが透明であることを示す指標である。また、原反フィルム4aは、光学的に均質な無配向あるいは無配向に近いフィルムであることが好ましく、原反フィルム4aの面内位相差R0が50nm以下であることが好ましい。ここで、面内位相差R0(nm)とは、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、面内進相軸方向(遅相軸と面内で直交する方向)の屈折率をny、フィルムの厚さをd(nm)としたとき、次式(I)で定義される値である。
R0=(nx―ny)×d・・・式(I)
上述のようなTダイ押出成形法によって原反フィルムを製造する場合、Tダイより押し出されたポリプロピレン系樹脂の溶融体を成形用ロール6で冷却し固化させつつ成形する具体的な方法としては、キャスティングロールとエアーチャンバーを用いて冷却する方法、キャスティングロールとタッチロールにより挟圧する方法、キャスティングロールと、該キャスティングロールにその周方向に沿って圧接するよう設けられた金属製の無端ベルトとの間で挟圧する方法などが挙げられる。冷却にキャスティングロールを用いる場合には、透明性に優れる位相差フィルムを得るために、使用するキャスティングロールの表面温度は、0〜30℃であることが好ましい。
キャスティングロールとタッチロールにより挟圧する方法で原反フィルム4aを製造する場合、ほぼ無配向の原反フィルム4aを得るために、タッチロールとしては、ゴムロール、または弾性変形可能な金属製無端ベルトからなる外筒と、該外筒の内部に弾性変形可能な弾性体からなるロールとを有し、かつ前記外筒と弾性体ロールとの間が温度調節用媒体により満たされてなる構造のロールを用いることが好ましい。
タッチロールとしてゴムロールを使用する場合は、鏡面状の表面を有する位相差フィルムを得るために、Tダイより押し出されたポリプロピレン系樹脂の溶融体を、キャスティングロールとゴムロールとの間で支持体とともに挟圧することが好ましい。支持体としては、厚みが5〜50μmの熱可塑性樹脂からなる二軸延伸フィルムが好ましい。
キャスティングロールと、該キャスティングロールにその周方向に沿って圧接するよう設けられた金属製の無端ベルトとの間で挟圧する方法により原反フィルム4aを成形する場合、前記無端ベルトは、キャスティングロールの周方向に該キャスティングロールと平行に配置された複数のロールによって保持されていることが好ましい。より好ましくは、無端ベルトが、直径100〜300mmの二本のロールで保持されてなり、無端ベルトの厚みが100〜500μmである。
<S3:巻取工程>
次に、ロール状に巻かれた保護フィルム12を繰り出し、原反フィルム4aを保護フィルム12と重ねて巻き取ってロール体4bを形成する。保護フィルム12は、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂からなり、縦方向および巾方向において原反フィルム4aと同程度の寸法を有する。
原反フィルム4aの押出成形工程と、原反フィルム4aの延伸工程とを個別に行う場合、押出成形工程と延伸工程との間で、原反フィルム4aを、一時保管または移送するために、ロール体状に巻き取る必要がある。このとき、原反フィルム4aを保護フィルム12と重ねて巻き取ることによって、フィルム表面同士が密着し難くなり、皺や伸び等の発生を抑制しつつ容易に原反フィルム4aを巻き取ることが可能となる。また、仮に原反フィルム4aに微小な厚み斑がある場合であっても、原反フィルム4aを保護フィルム12と重ねて巻き取ることにより原反フィルム4aの厚み斑の影響が緩和されるため、得られるロール体4bにおいてフィルムの過度の締まりや緩みを抑制でき、このロール体4bから繰り出した原反フィルム4aにおける皺や伸び等の変形を抑制できる。このように皺や伸び等の変形が抑制された原反フィルム4aを延伸工程において縦延伸及び横延伸することにより、厚み斑の抑制されたポリプロピレン系樹脂フィルム(位相差フィルム)を得ることが可能となる。また、原反フィルム4aを保護フィルム12と重ねて巻き取ることによって、原反フィルム4aを巻き取る時、及び巻き取った原反フィルム4aをロール体4bから繰り出す時における原反フィルム4aの破損を抑制できる。
保護フィルム12を構成するポリエステル系樹脂としては、例えば、PET、PBT、PENなどの未延伸フィルム、及び延伸フィルム等が挙げられる。これらのうち、PETの二軸延伸フィルムが、コストとフィルム表面の平滑性の点で好ましい。
ポリオレフィン系樹脂からなる保護フィルム12としては、例えば、ポリエチレン系樹脂フィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂フィルム、またはこれらを積層した多層フィルム等が挙げられる。
ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂からなる保護フィルム12としては、原反フィルム4aの巻き取りに支障が生じない程度の粘着性を有するものと、粘着性を有さないものとがあるが、いずれを用いてもよい。また、粘着性を有さない保護フィルム12に対して、原反フィルム4aの巻き取りに支障が生じない程度の量の粘着剤を塗布してもよい。また、保護フィルム12にカチオン系帯電防止剤又は非イオン系帯電防止剤を含有させてもよい。これにより、原反フィルム4aの巻き取りがより容易となる。
保護フィルム12の厚さは、5〜100μmであることが好ましい。保護フィルム12の厚さをこの範囲内とすることにより、原反フィルム4aの巻き取りがより容易となり、ロール体4bから繰り出した原反フィルム4aにおける皺や伸び等の変形をより効果的に抑制できる。
ロール体4bとして巻き取る原反フィルム4aの長さは、500〜6000mであることが好ましい。巻き取る原反フィルム4aの長さをこの範囲内とすることにより、原反フィルム4aの巻き取りがより容易となり、ロール体4bから繰り出した原反フィルム4aにおける皺や伸び等の変形をより効果的に抑制できる。
<S4:延伸工程>
ポリプロピレン系樹脂を押出成形して得られた原反フィルム4aに対して、縦延伸と横延伸の両方、またはいずれか一方を行うことにより、位相差フィルム(ポリプロピレン系樹脂フィルム)を得る。なお原反フィルム4aの延伸方法としては、縦延伸または横延伸を行う一軸延伸、縦延伸と横延伸とを個別に行う逐次二軸延伸、及び縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸が挙げられる。逐次二軸延伸の場合、原反フィルムの縦延伸を行った後で横延伸を行ってもよく、横延伸を行った後で縦延伸を行ってもよい。
本実施形態の製造方法は、ロール体4bから繰り出した原反フィルム4aに重ねた保護フィルム12を除去した後、原反フィルム4aを縦方向のみに延伸して、縦一軸延伸フィルムを形成する工程と、縦一軸延伸フィルムを、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂からなる保護フィルムと重ねてロール体状に巻き取る工程と、ロール体から繰り出した縦一軸延伸フィルムに重ねた保護フィルムを除去した後、縦一軸延伸フィルムを巾方向のみに延伸して、二軸延伸フィルムを形成する工程と、を備えることが好ましい。
または、本実施形態の製造方法は、ロール体4bから繰り出した原反フィルム4aに重ねた保護フィルム12を除去した後、原反フィルム4aを巾方向のみに延伸して、横一軸延伸フィルムを形成する工程と、横一軸延伸フィルムをポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂からなる保護フィルムと重ねてロール体状に巻き取る工程と、ロール体から繰り出した横一軸延伸フィルムに重ねた保護フィルムを除去した後、横一軸延伸フィルムを縦方向のみに延伸して、二軸延伸フィルムを形成する工程と、を更に備えることが好ましい。
原反フィルム4aに対する縦延伸速度と横延伸速度とは異なる場合があるため、上述のように原反フィルム4aに対する縦延伸および横延伸を個別に行えば、縦延伸及び横延伸の各延伸精度を向上させ易く、位相差フィルムとして均一な位相差および光軸を有するポリプロピレン系樹脂フィルムを得ることが可能となる。
上述のように原反フィルム4aに対する縦延伸工程及び横延伸工程を個別に行う場合、縦延伸工程と横延伸工程との間、または横延伸工程と縦延伸工程との間で、一軸延伸フィルムを、一時保管または移送するためにロール体状に巻き取る必要がある。このとき、一軸延伸フィルムを保護フィルムと重ねて巻き取ることによって、フィルム表面同士が密着し難くなり、一軸延伸フィルムを容易に巻き取ることが可能となる。また、仮に一軸延伸フィルムに微小な厚み斑がある場合であっても、一軸延伸フィルムを保護フィルムと重ねて巻き取ることにより一軸延伸フィルムの厚み斑の影響が緩和されるため、得られるロール体においてフィルムの過度の締まりや緩みを抑制でき、ロール体から繰り出した一軸延伸フィルムにおける皺や伸び等の変形を抑制できる。このように、本実施形態では、縦延伸工程から横延伸工程への移行中、又は横延伸工程から縦延伸工程への移行中において、一軸延伸フィルムの厚み斑が抑制された状態を維持することができる。また、一軸延伸フィルムを保護フィルムと重ねて巻き取ることにより、一軸延伸フィルムを巻き取る時及び巻き取った一軸延伸フィルムをロール体から繰り出す時における一軸延伸フィルムの破損を抑制できる。
なお、縦一軸延伸フィルムまたは横一軸延伸フィルムに重ねる保護フィルムとしては、原反フィルム4aに重ねる保護フィルム12と同様のものを用いてもよく、別のフィルムを用いてもよい。また、縦一軸延伸フィルムまたは横一軸延伸フィルムを保護フィルムと重ねて巻き取る方法は、原反フィルム4aを保護フィルム12と重ねて巻き取る場合と同様の方法を用いることができる。
本実施形態では、原反フィルム4aに重ねた保護フィルム12を除去した後、原反フィルム4aを縦方向に延伸すると同時に巾方向にも延伸して、二軸延伸フィルムを形成してもよい。このように、原反フィルム4aの同時二軸延伸を行うことにより、縦延伸及び横延伸を個別に行う場合に比べて短時間で効率的に二軸延伸フィルムを形成することができる。
縦延伸倍率は、光学的な均一性により優れる位相差フィルムを得るために、1.1〜5倍であることが好ましい。同様の理由から、横延伸倍率は、1.5〜8倍であることが好ましい。
原反フィルム4aの縦延伸方法としては、二つ以上のロールの回転速度差により原反フィルム4aを延伸する方法や、ロングスパン延伸法が挙げられる。ロングスパン延伸法とは、二対のニップロールとその間にオーブンを有する縦延伸機を用い、該オーブン中で原反フィルム4aを加熱しながら二対のニップロールの回転速度差により延伸する方法である。光学的な均一性が高い位相差フィルムを得るためには、ロングスパン縦延伸法を用いることが好ましく、特にエアーフローティング方式のオーブンを用いることが好ましい。エアーフローティング方式のオーブンとは、オーブン中に原反フィルム4aを導入した際に、原反フィルム4a両面に上部ノズルと下部ノズルから熱風を吹き付けることが可能な構造である。複数の上部ノズルと下部ノズルがフィルムの流れ方向に交互に設置されている。オーブン中、原反フィルムが上部ノズルと下部ノズルのいずれにも接触しないようにしながら、原反フィルム4aを延伸する。この場合の延伸温度(すなわち、オーブン中の雰囲気の温度)は、90℃以上、(ポリプロピレン系樹脂の融点Tm+15)℃以下であることが好ましい。オーブンが2ゾーン以上に分かれている場合、それぞれのゾーンの温度設定は同じでもよいし、異なってもよい。
なお、横一軸延伸フィルムの縦延伸方法については、上述した原反フィルム4aの縦延伸方法と同様である。
横延伸方法としては、テンター法が挙げられる。テンター法は、チャックでフィルム幅方向の両端を固定した原反フィルム4aを、オーブン中でチャック間隔を広げて延伸する方法である。テンター法においては、予熱工程を行うゾーン、延伸工程を行うゾーン、及び熱固定工程を行うゾーンにおける各オーブン温度を独立に調節をすることができる装置を使用する。横延伸倍率は、通常、2〜10倍であり、得られる位相差フィルムの光学的な均一性が高いという観点から、4〜7倍であることが好ましい。
横延伸の予熱工程は、原反フィルム4aを幅方向に延伸する工程の前に設置される工程であり、原反フィルム4aを延伸するのに十分な高さの温度まで原反フィルム4aを加熱する工程である。ここで予熱工程での予熱温度は、オーブンの予熱工程を行うゾーン内の雰囲気の温度を意味する。通常、得られる位相差フィルムの位相差の均一性を良好にするために、予熱温度を、(ポリプロピレン系樹脂の融点Tm−10)℃〜(ポリプロピレン系樹脂の融点Tm+10)℃の範囲内で設定することが好ましく、(ポリプロピレン系樹脂の融点Tm−5)℃〜(ポリプロピレン系樹脂の融点Tm+5)℃の範囲内で設定することがより好ましい。
横延伸の延伸工程は、原反フィルム4aを幅方向に延伸する工程である。この延伸工程での延伸温度(オーブンの延伸工程を行うゾーン内の雰囲気の温度)は、予熱温度より低い温度としても良いし、予熱温度より高い温度としても良いし、予熱温度と同じ温度としてもよい。通常、予熱された原反フィルム4aを予熱工程よりも低い温度で延伸することにより、原反フィルム4aを均一に延伸できるようになり、その結果、位相差の均一性が優れた位相差フィルムが得られるため、延伸温度は、予熱工程における予熱温度より5〜20℃低いことが好ましく、7〜15℃低いことがより好ましい。
横延伸の熱固定工程とは、延伸工程終了時におけるフィルム幅を保った状態で原反フィルム4aをオーブン内の所定温度の雰囲気内を通過させる工程である。熱固定温度は、延伸工程における延伸温度より低い温度としても良いし、延伸温度より高い温度としても良いし、延伸温度と同じ温度としてもよい。通常、原反フィルム4aの位相差や光軸など光学的特性の安定性を効果的に向上させるために、熱固定温度は、延伸工程における延伸温度よりも10℃低い温度から延伸温度よりも30℃高い温度までの範囲内であることが好ましい。
横延伸の工程は、更に熱緩和工程を有してもよい。この工程は、テンター法においては通常、延伸ゾーンと熱固定ゾーンとの間に設けられ、他のゾーンから独立して温度設定が可能な熱緩和ゾーンにおいて行われるか、熱固定工程を行うゾーンで行われる。具体的には、熱緩和は、延伸工程において原反フィルム4aを所定の幅に延伸した後、チャックの間隔を数%、好ましくは0.1〜10%だけ狭くし、無駄な歪を取り除くことで行われる。
なお、縦一軸延伸フィルムの横延伸方法については、上述した原反フィルム4aの横延伸方法と同様である。
(位相差フィルム)
本実施形態では、上述の製造方法によって得られた二軸延伸フィルム、すなわち位相差フィルムを、ポリエステル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂からなる保護フィルムと重ねて巻き取る工程を更に備えることが好ましい。なお、二軸延伸フィルムに重ねる保護フィルムとしては、原反フィルム4aに重ねる保護フィルム12と同様のものを用いてもよく、別な保護フィルムを用いてもよい。また、二軸延伸フィルムを保護フィルムと重ねて巻き取る方法は、原反フィルム4aを保護フィルム12と重ねて巻き取る場合と同様の方法を用いることができる。
二軸延伸フィルムを次工程へ移送したり、あるいは製品として保管または移送したり場合、二軸延伸フィルムをロール体状に一時巻き取る必要がある。このとき、二軸延伸フィルムを保護フィルムと重ねて巻き取ることによって、フィルム表面同士が密着し難くなり、容易に二軸延伸フィルムを巻き取ることが可能となる。また、仮に二軸延伸フィルムに微小な厚み斑がある場合であっても、二軸延伸フィルムを保護フィルムと重ねて巻き取ることにより二軸延伸フィルムの厚み斑の影響が緩和されるため、得られるロール体においてフィルムの過度の締まりや緩みを抑制でき、このロール体から繰り出した二軸延伸フィルムにおける皺や伸び等の変形を抑制できる。このように保護フィルムと重ねて巻き取った二軸延伸フィルムでは、保管又は移送の後であっても、保管又は移送の前と同様の状態、すなわち厚み斑の抑制された状態を維持できる。また、二軸延伸フィルムを保護フィルムと重ねて巻き取ることにより、二軸延伸フィルムを巻き取る時、及び巻き取った二軸延伸フィルムをロール体から繰り出す時における二軸延伸フィルムの破損を抑制できる。さらに、保護フィルムは、二軸延伸フィルムの表面を保護する機能を有するため、保護フィルムを備えた状態の二軸延伸フィルムを、表面保護層を備えた位相差フィルムとして用いることができる。
本実施形態に係る製造方法によって得られる位相差フィルムでは、HAZEが2%以下であることが好ましい。また、位相差フィルムに要求される位相差は、該位相差フィルムが組み込まれる液晶表示装置の種類により異なるが、面内位相差R0は、通常30〜300nmである。後述する垂直配向モード液晶ディスプレイに使用する場合は、視野角特性に優れるという観点から、面内位相差R0が40〜70nmであり、厚み方向位相差Rthは、90〜230nmであることが好ましい。位相差フィルムを製造する際の延伸倍率と、製造する位相差フィルムの厚みを制御することにより、所望の位相差を有する位相差フィルムを得ることができる。また、位相差フィルムの厚みは、30〜200μmであることが好ましい。また、位相差フィルムの厚みは、基準厚さ(製品スペック)に対する公差が約±1μm以内であることが好ましい。
また、位相差フィルムは、フィルム面内(500mm幅×500mm長さの面内)の位相差の最大値と最小値との差が10nm以下であることが好ましく、フィルムの幅方向500mmの光軸を測定した場合、光軸が−1°以上+1°以下であることが好ましく、光学的な均一性が高い位相差フィルムであることが好ましい。
上述の位相差フィルムは、種々の偏光板や液晶層などと積層されて、携帯電話、携帯情報端末(Personal Digital Assistant:PDA)、パソコン、大型テレビ等の液晶表示装置用として、好適に使用できる。位相差フィルムを積層して使用する液晶表示装置(LCD)としては、光学補償ベンド(Optically Compensated Bend:OCB)モード、垂直配向(Vertical Alignment:VA)モード、横電界(In−Plane Switching:IPS)モード、薄膜トランジスター(Thin Film Transistor:TFT)モード、ねじれネマティック(Twisted Nematic:TN)モード、超ねじれネマティック(Super Twisted Nematic:STN)モードなど種々のモードの液晶表示装置が挙げられる。特に、本実施形態の製造方法によって得られる位相差フィルムは、VAモードの液晶表示装置に使用された場合に視野角依存性を改良する効果を奏する。
液晶表示装置は一般に、2枚の基板とそれらの間に挟持される液晶層とを有する液晶セルの両側に、それぞれ偏光板が配置されており、その一方の外側(背面側)に配置されたバックライトからの光のうち、液晶セルとバックライトの間にある偏光板の透過軸に平行な直線偏光だけが液晶セルへ入射するようになっている。位相差フィルムは、背面側偏光板と液晶セルとの間および/または表側偏光板と液晶セルとの間に、粘着剤を介して配置することができる。また、偏光板は、通常、ポリビニルアルコールからなる偏光フィルムを保護するために、2枚のトリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどの保護フィルムで、接着剤を介して偏光フィルムを挟持した構成を有する。位相差フィルムは、表側偏光板および/または背面側偏光板の液晶セル側の保護フィルムの代わりとして、接着剤で偏光フィルムに貼合される。このように、位相差フィルムは、光学補償フィルム(位相差フィルム)と保護フィルムの両方の役割を果たすことも可能である。
(ポリプロピレン系樹脂)
ポリプロピレン系樹脂フィルム(位相差フィルム)の原料であるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとの共重合体、及びこれらの混合物等が挙げられる。
プロピレンとの共重合体を形成するα−オレフィンとしては、上述したα−オレフィンの中でも、炭素原子数4〜12のα−オレフィンが好ましく、例えば、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、2−メチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ペンテン、2,3,4−トリメチル−1−ブテン、2−メチル−3−エチル−1−ブテン、1−オクテン、5−メチル−1−ペンテン、2−エチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、2−プロピル−1−ヘプテン、2−メチル−3−エチル−1−ヘプテン、2,3,4−トリメチル−1−ペンテン、2−プロピル−1−ペンテン、2,3−ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等が好ましい。これらの中でも、特に共重合性の観点から、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンがより好ましく、1−ブテン、1−ヘキセンが特に好ましい。
本発明の効果を得易いという観点では、プロピレン系樹脂として、プロピレンの単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・1−ペンテン共重合体、プロピレン・1−ヘキセン共重合体、プロピレン・1−オクテン共重合体が好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂が、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとの共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
ランダム共重合体としては、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体等が例示される。具体的には、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体として、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−1−オクテンランダム共重合体等が挙げられる。プロピレン−エチレン−α−オレフィンランダム共重合体としては、例えば、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−オクテンランダム共重合体等が挙げられる。これらの中でも、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−1−ヘキセンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体、プロピレン−エチレン−1−ヘキセンランダム共重合体が好ましい。
上述したポリプロピレン系樹脂の共重合体では、コモノマー由来の構成単位の含量が、共重合体全体に対して0重量%超40重量%以下であることが好ましく、0重量%超30重量%以下であることがより好ましい。また、ポリプロピレン系樹脂が、2種類以上のコモノマーとプロピレンとの共重合体である場合には、共重合体に含まれる全てのコモノマー由来の構成単位の合計含量が、前記範囲であることが好ましい。コモノマー由来の構成単位の含量を上記の好適範囲内とすることによって、得られるフィルムの透明性と耐熱性とをバランスさせることができる。
ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重21.18Nで測定される値で通常0.1〜200g/10分であり、好ましくは0.5〜50g/10分である。MFRがこのような範囲のプロピレン系重合体を用いることにより、縦延伸および横延伸時の原反フィルムの垂れさがりが少なくなり、均一に延伸しやすい。
ポリプロピレン系樹脂の分子量分布は、数平均分子量Mnに対する重量平均分子量Mwの比で定義され、通常1〜20である。MnおよびMwは、溶媒に140℃のo−ジクロロベンゼンを用い、標準サンプルにポリスチレンを用いるGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)によって測定される。
ポリプロピレン系樹脂の融点Tmは、通常120〜170℃である。なお融点は、示差走査型熱量計(DSC)によって測定された融解曲線において最高強度のピークが現われている温度で定義され、ポリプロピレン系樹脂のプレスフィルム10mgを、窒素雰囲気下において230℃で5分間熱処理後、降温速度10℃/分で30℃まで冷却して30℃において5分間保温し、さらに30℃から230℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の融解ピーク温度である。
ポリプロピレン系樹脂の製造方法としては、公知の重合用触媒を用いてプロピレンを単独重合する方法や、エチレンおよび炭素原子数4〜20のα−オレフィンからなる群から選択される1種以上のモノマーとプロピレンとを共重合する方法が挙げられる。
公知の重合触媒としては、例えば、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分等からなるTi−Mg系触媒、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と、必要に応じて電子供与性化合物等の第3成分とを組み合わせた触媒系、及びメタロセン系触媒等が挙げられる。
プロピレン系重合体の製造に用いる触媒系としては、これらの中で、マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分に、有機アルミニウム化合物と電子性供与性化合物とを組み合わせた触媒系が最も一般的に使用できる。より具体的には、有機アルミニウム化合物としては、好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物およびテトラエチルジアルモキサンが挙げられ、電子供与性化合物としては、好ましくはシクロヘキシルエチルジメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、tert−ブチルエチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランが挙げられる。マグネシウム、チタンおよびハロゲンを必須成分とする固体触媒成分としては例えば、特開昭61−218606号公報、特開昭61−287904号公報、特開平7−216017号公報等に記載された触媒系が挙げられる。メタロセン触媒としては例えば、特許第2587251号、特許第2627669号、特許第2668732号に記載された触媒系が挙げられる。
ポリプロピレン系樹脂の製造に用いる重合方法としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素化合物に代表される不活性溶剤を用いる溶剤重合法、液状のモノマーを溶剤として用いる塊状重合法、気体のモノマー中で行う気相重合法等が挙げられ、好ましくは塊状重合法または気相重合法である。これらの重合法は、バッチ式であってもよく、連続式であってもよい。
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、アタクチックのどの形式であってもよい。ポリプロピレン系樹脂は、耐熱性の点からシンジオタクチック、あるいはアイソタクチックのプロピレン系重合体であることが好ましい。ポリプロピレン系樹脂は、分子量やプロピレン由来の構成単位の割合、タクチシティーなどが異なる2種類以上のポリプロピレン系ポリマーのブレンドでもよいし、ポリプロピレン系ポリマー以外のポリマーや添加剤を適宜含有してもよい。
ポリプロプレン系樹脂には、得られるフィルムの厚み斑を抑制するという効果を阻害しない範囲内で公知の添加剤を配合してもよい。
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収材、帯電防止剤、滑剤、造核剤、防曇剤、アンチブロッキング剤等が挙げられる。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤(HALS)や、1分子中に例えばフェノール系とリン系の酸化防止機構と有するユニットを有する複合型の酸化防止剤などが挙げられる。紫外線吸収剤としては、2−ヒドロキシベンゾフェノン系、ヒドロキシトリアゾール系などの紫外線吸収剤や、ベンゾエート系など紫外線遮断剤などが挙げられる。帯電防止剤は、ポリマー型、オリゴマー型、モノマー型などが挙げられる。滑剤としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの高級脂肪酸アミドや、ステアリン酸などの高級脂肪酸、及びその金属塩などが挙げられる。造核剤としては、例えばソルビトール系造核剤、有機リン酸塩系造核剤、ポリビニルシクロアルカンなどの高分子系造核剤等が挙げられる。アンチブロッキング剤としては球状、あるいはそれに近い形状の微粒子が無機系、有機系に関わらず使用できる。これらの添加剤は、複数種を併用してもよい。
以上、本発明の一実施形態に係るポリプロピレン系樹脂フィルムの製造方法の好適な実施形態について説明したが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではない。