JP4910261B2 - 積層構造の水素分離装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素を含有する水素含有気体から水素を抽出する水素分離装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、水素と空気の電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。燃料電池は、水素と酸素との電気化学反応によって起電力を得る。燃料電池に供給される水素は、例えば、炭化水素系の原料を改質して得られる改質ガスから、水素分離装置によって水素を抽出することによって得られる。
【0003】
水素分離装置としては、例えば、パラジウムあるいはパラジウム合金など水素を選択的に透過させる性質を有する水素分離膜を利用する装置が知られている。かかる装置では、水素分離膜の一方の面に改質ガスを供給すると、他方の面から水素が抽出される。
【0004】
水素分離膜を備える水素分離装置としては、改質ガスが通過する流路を形成する部材と、水素分離膜と、抽出された水素が通過する流路を形成する部材とを、複数積層したものが提案されている(例えば、特開平6−345408号公報など)。かかる積層構造では、水素分離膜の表面積を広く確保することができ、単位体積当たりの水素抽出効率を向上させることができる利点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、積層構造による装置の小型化を図った結果、実用上、種々の課題が見出された。
【0006】
第1の課題は、熱歪みまたは熱応力による影響である。積層構造では、温度分布の不均一に起因して、種々の部位で熱歪みまたは熱応力が生じやすいことが見出された。温度分布の不均一は、特に、運転開始当初や水素分離装置内で改質反応等を生じさせる場合に、起こりやすかった。かかる熱歪みまたは熱応力は、装置の耐久性を損ねる可能性があった。
【0007】
第2の課題は、凝縮水による影響である。積層構造において、流路の断面積を縮小し、装置の小型化を図ると、運転停止時に装置内に凝縮水が付着する場合がある。この凝縮水は、装置の運転開始とともに急激に昇温され、蒸発し、体積が急増するため、装置の損傷を招く可能性があった。
【0008】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、積層型の水素分離装置の小型化に伴う種々の弊害を緩和する技術を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段およびその作用・効果】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本発明では、水素を含有する水素含有気体から水素の抽出を行う水素分離装置において、次の構成を適用した。即ち、本発明の水素分離装置は、第1の構成として、水素分離部材、第1および第2の流路部材を複数層の積層状に備えており、その層間の少なくとも一部には、隣接する層が互いに接合されていない非接合部を設けるものとした。
【0010】
こうすれば、各層に熱歪みが生じた場合、非接合部でその歪みを吸収することができるため、熱応力の発生を緩和することができる。非接合部は、全ての層間を非接合部としてもよいし、一部を非接合部としてもよい。一部を非接合部とする場合、その間隔は、熱歪みの大きさを考慮して、適宜設定すればよい。非接合部では、気密性を保持するための加工を施すことが好ましい。例えば、非接合部となる層間の接触面を十分に高い精度で平滑にしておき、水素分離装置を積層方向に押圧しておくことにより、気密性を保持する構成を適用することができる。
【0011】
本発明の水素分離装置において、水素分離部材とは、水素を選択的に透過させる薄板状の部材である。パラジウムまたはパラジウム合金など水素透過性を有する金属によって形成することができる。バナジウム、ニオブ、タンタルなど非常に水素透過性の高い5族金属を用いて形成してもよい。但し、5族金属は酸化しやすい性質を有しているため、これらを用いる場合には、少なくとも気体と接触する部位には、パラジウムなど、耐酸化性があり水素透過性を有する金属の被膜を形成しておくことが望ましい。
【0012】
本発明の水素分離装置において、第1の流路部材とは、水素分離部材の第1の面に隣接して配設され、隣り合う水素分離部材と共に、水素含有気体が通過する水素含有気体流路を形成する薄板状の部材をいう。第2の流路部材とは、水素分離部材の第2の面に隣接して配設され、隣り合う水素分離部材と共に、水素分離膜を透過して水素含有気体から抽出された水素が通過する水素流路を形成する薄板状の部材をいう。これらの部材は、例えば、ステンレスなどの金属によって形成することができる。また、バナジウム、ニオブ、タンタルなど水素分離部材と同質の5族金属で形成してもよい。こうすることにより、水素分離部材と流路部材との接合の容易化、安定化を図ることができる。両者の材質を揃えることは、特に、拡散接合によって両者を接合する場合に有用である。なお、5族金属は酸化しやすい性質を有しているため、表面には酸化を防止するための金属被膜を形成しておくことが望ましい。この場合の金属としては、チタン、銅、アルミニウムなどを用いることができる。熱歪みを抑制するという観点から、被膜は熱膨張係数が5族金属に近い素材が好ましく、上述の材料の中ではチタンを用いることが好ましい。
【0013】
本発明の水素分離装置においては、非接合部の少なくとも一部には、隣接する層で積層方向に生じる歪みを吸収可能な歪吸収体を備えることが好ましい。こうすることにより、熱歪みによる影響をより緩和することができる。歪吸収体は、非接合部における気密性を確保することが可能な素材を用いることが好ましい。例えば、カーボン、金属または樹脂製のガスケットを用いることができる。
【0014】
本発明は、水素分離装置における第2の構成として、水素分離部材、第1および第2の流路部材に加え、冷媒が通過する冷媒流路を形成する薄板状の冷却部材を積層状に備える構成を適用するものとした。こうすれば、冷媒によって水素分離装置で生じた熱を外部に運搬することができるため、水素分離装置内の温度分布の均一化を図ることができる。冷却部材を設ける間隔は、水素分離装置内の温度分布の均一化を考慮して適宜設定可能である。冷却部材を複数層設ける場合、各層によって水素分離装置内に直列的に冷媒流路を形成するものとしてもよいし、並列的に冷媒流路を形成するものとしてもよい。
【0015】
冷媒は、種々の流体を用いることが可能であるが、水素分離装置の熱歪みを緩和するという観点から、水素分離装置の運転温度との差違が比較的小さい流体が好ましい。例えば、空気を用いることが好ましい。この構成は、水素分離装置内で改質反応を生じさせる場合に特に有用性が高い。かかる場合には、反応温度の保持および温度分布の均一化の双方を考慮して、冷却部材の設置間隔および冷媒を設定することが好ましい。
【0016】
冷媒流路は、種々の配置が可能であるが、一例として、第1および第2の流路部材の間に配設することが好ましい。こうすることにより、第1および第2の流路部材を水素分離部材の第1および第2の面にそれぞれ隣接して配設することが可能となり、水素分離を阻害しない効率的な配置を実現することが可能となる。
【0017】
本発明は、第3の構成として、積層構造を有する水素分離装置を傾斜して設置するものとした。つまり、水素分離装置を、水素含有気体流路および水素流路の少なくとも一方で重力の作用方向に水滴が流れる角度に傾斜して設置するものとした。設置角度は、各流路の構成によって適宜定めることができる。こうすることにより、運転停止時に流路内に生じた凝縮水の排出を促進することができ、これらの凝縮水による弊害を回避することができる。
【0018】
水素含有気体に、改質反応によって生じた水蒸気が含まれている場合には、水素含有気体流路の水平部位を回避するよう傾斜させることが好ましい。一方、水素流路に、水素の分離効率を高めるためのパージガスとして水蒸気を供給する場合には、水素流路の水平部位を回避するよう傾斜させることが好ましい。もちろん、双方の流路ともに水平部位を回避することができる配置としても良い。
【0019】
本発明の水素分離装置は、上述した第1〜第3の構成のいずれを適用するかに関わらず、各部材が拡散接合されている場合に特に有用である。拡散接合は、各層間における気密性を容易に保つことができる反面、各層間を非常に強く拘束する接合方法であるため、熱歪みや凝縮水による弊害を特に受けやすいからである。もちろん、本発明は、ロウ付けなど、拡散接合以外の接合方法で各層が接合されている構成についても適用可能である。
【0020】
本発明は、上述した水素分離装置としての構成の他、種々の構成を採ることができる。例えば、上述の水素分離装置によって分離された水素を用いて発電する燃料電池と併せて、燃料電池システムとして構成してもよい。また、上述の第1〜第3の構成は、適宜組み合わせて一つの水素分離装置を構成することが可能である。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.システム構成:
B.水素分離装置の構成:
C.水素分離プレートの詳細構造:
D.流路プレートの詳細構造:
E.エンドプレートの詳細構造:
F.水素分離装置の製造方法:
G.変形例:
【0022】
A.システム構成:
図1は実施例としての水素分離装置を用いた燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。燃料電池システム80は、燃料電池90に供給される水素と酸素の電気化学反応によって発電する。酸素には、ブロワ92によって供給される圧縮空気が利用される。水素は、以下に示す機構により、原料の改質によって生成される。原料としては、ガソリンなどの液体炭化水素、メタノールなどのアルコール、アルデヒド類、または天然ガスなど、改質反応によって水素を生成可能な種々の炭化水素系燃料を選択することができる。
【0023】
原料タンク82に貯蔵された原料、および水タンク84に貯蔵された水は、それぞれ蒸発・混合部86で気化・昇温されて、改質器88に供給される。原料と水との混合ガスは、改質器88において改質され、水素リッチな改質ガスを生成する。改質器88で進行する改質反応は、水蒸気改質反応や部分酸化反応、あるいは両者を組み合わせたものなど種々の態様を選択することができる。改質器88は、原料および反応に適した改質触媒が備えられている。
【0024】
改質ガスは水素分離装置10に供給され、水素が分離される。水素分離装置10には、水素の分離を促進するためのパージガスも供給されている。本実施例では、水蒸気をパージガスとして用いるものとした。パージガスは、不活性ガス、燃料電池90のオフガスなど、種々のガスを利用することができる。パージガスを用いない構成を採ることもできる。こうして分離された水素は、燃料電池90に供給される。
【0025】
図1に示した構成は、例示に過ぎず、改質器88に加えてシフト反応を行うためのシフト部、改質ガス中の一酸化炭素を優先的に酸化する反応を行うためのCO選択酸化部などを設けてもよい。
【0026】
B.水素分離装置の構成:
図2は水素分離装置10の斜視図である。水素分離装置10は、正方形の薄板状部材を複数積層した構造を有している。積層構造の両端には、改質ガスおよびパージガスの流入口および排出口が設けられている。
【0027】
図3は水素分離装置10の一部の分解斜視図である。図中の領域Aに相当する部分を示した。積層構造の両端には、エンドプレート20が設けられている。エンドプレート20には、改質ガスの流入口22およびパージガスの流入口24が設けられている。エンドプレート20の下層には、流路プレート30a,50,30bおよび水素分離プレート40a,40bが交互に配列されている。
【0028】
流路プレート30a,50,30bは、面内を流れるガスの種類によって2通りに分類される。第1の流路プレートは、面内を改質ガスが流れる改質ガス流路プレートである。流路プレート30a,30bがこれに相当する。第2の流路プレートは、面内をパージガスが流れるパージガス流路プレートである。流路プレート50がこれに相当する。水素分離プレート40a,40bは、それぞれ改質ガス流路プレートとパージガス流路プレートに挟まれるように、配置されている。改質ガス流路プレートとパージガス流路プレートは同一形状のプレートであり、積層方向が表裏で相違している。
【0029】
また、流路プレート30aには、水素分離プレート40a,40bとともに面内の流路を形成する流路孔34、および改質ガスおよびパージガスをそれぞれ積層方向に流通させるための縦通孔32が設けられている。他の流路プレートについても同様である。
【0030】
水素分離プレート40a,40bは、改質ガスから水素を分離する機能を奏する。水素分離プレート40aには、図中にハッチングを付して示した水素分離部44が形成されている。図中で水素分離プレート40aの上面を流れる改質ガス中の水素は、水素分離部44で分離されて、下面を流れるパージガス内に抽出される。水素分離プレート40aには、改質ガスおよびパージガスをそれぞれ積層方向に流通させるための縦通孔42が設けられている。水素分離プレート40bを含め、他の水素分離プレートも同様の構成である。
【0031】
流路プレートおよび水素分離プレートの縦通孔32,42は、積層時にほぼ一致する位置および形状で設けられている。積層時には、これらの縦通孔32,42によって、改質ガスおよびパージガスを積層方向に流通されるための流路が形成される。図中に矢印で示す通り、改質ガスおよびパージガスは、積層方向に流れつつ、各流路プレートで枝分かれして、面内方向にも流れる。これらのガスは、最終的には、エンドプレート20に対向するエンドプレートにおいて排出口から排出される。
【0032】
本実施例において、エンドプレート、流路プレート、水素分離プレートは、それぞれ拡散接合によって接合される。拡散接合を用いることにより、各プレートの接合加工を比較的簡素化することができるとともに、各プレート間の気密性を容易かつ安定して保つことができる。
【0033】
流路プレートは、図3に示したほぼ全面において、他のプレートと接合される。水素分離プレートは、図中の水素分離部44を除く領域において他のプレートと接合される。このように他のプレートと接合される部分を、プレートの種類を問わず、以下、接合部と呼ぶものとする。
【0034】
C.水素分離プレートの詳細構造:
水素分離プレートは、バナジウムを基材として構成されている。バナジウムに代えて、バナジウム、ニオブ、タンタルなどの5族金属を用いるものとしてもよい。水素分離プレートの厚さは、適宜設定可能であるが、単体である程度形状を維持することができる自立膜として構成するためには、10μm以上とすることが好ましい。一方、十分な水素透過性を確保可能な程度に薄くすることを併せて考慮すれば、水素分離プレートは、20〜40μmとすることがより好ましい。なお、水素分離プレートの接合部には、補強のために100μm程度の補強部材を貼付するものとしてもよい。
【0035】
水素分離部には、基材の表面にパラジウムまたはパラジウム合金などの水素透過性を有する金属が被覆されている。この被覆は、例えば、化学蒸着法(CVD)、物理蒸着法(PVD)等により形成することができる。
【0036】
一般に5族金属は、パラジウム等よりも非常に高い水素の選択透過性を有するものの、酸化しやすいため、酸化被膜により水素の透過性が損なわれるという性質を有している。本実施例では、パラジウム等で基材表面を被覆することにより、酸化被膜の形成を抑制しつつ、高い水素透過性を実現することができる。また、水素透過性に優れる部材を基材とすることにより、十分な水素透過性を確保したまま水素分離プレートの厚さを確保でき、強度を向上することができる利点もある。
【0037】
水素分離プレートの接合部は、基材のままとしてもよいが、その表面を金属で被覆するものとしてもよい。かかる金属としては、例えば、チタン、銅およびアルミニウムなどを用いることができる。特に、熱膨張係数が5族金属に近く、熱応力を抑制することができるという点でチタンを用いることが好ましい。このように接合部に被膜を設けることにより、この部分の酸化および水素脆化を防ぐことができる利点がある。
【0038】
D.流路プレートの詳細構造:
流路プレートは、水素分離プレートと同じ材質で形成されている。本実施例では、バナジウムを用いるものとした。水素分離プレートと同質の材料を用いることにより、拡散接合の容易化、安定化を図ることができる。
【0039】
流路プレートは、先に説明した通り、面内のガス流路を形成する部材である。この流路の断面積は、流路プレートの厚さに依存する。流路プレートを薄くすれば、流路の断面積が小さくなり、ガスが流れる際の圧損が増大する。一方、流路プレートを薄くすれば、水素分離装置の小型化を図ることができる。流路プレートの厚さは、これらの両面を考慮して、適宜設定することができ、例えば100μm〜1mm、好ましくは200μm〜500μmの範囲に設定することができる。
【0040】
流路プレートの接合部は、基材のままとしてもよいが、水素分離プレートと同様、チタン、銅、アルミニウムなどの被膜を設けても良い。この場合でも、水素分離プレートに形成された被膜と同じ材料を用いることが好ましい。
【0041】
E.エンドプレートの詳細構造:
エンドプレートは、水素分離プレートと同じ材質で形成されている。本実施例では、バナジウムを用いるものとした。水素分離プレートと同質の材料を用いることにより、拡散接合の容易化、安定化を図ることができる。エンドプレートは、強度を確保するため、1mm程度の厚さとすることが好ましい。
【0042】
流路プレートと接合する側の面は、基材のままとしてもよいが、流路プレート等と同様、チタン、銅、アルミニウムなどの被膜を設けても良い。この場合でも、流路プレートに形成された被膜と同じ材料を用いることが好ましい。
【0043】
エンドプレートには、改質ガスおよびパージガスの流入口および排出口用の配管が接合される。これらの配管はステンレス等で形成することができ、エンドプレートとの接合は、ロウ付け、溶接など種々の接合方法によって行うことができる。
【0044】
本実施例では、流路プレートとの接合の容易性、気密性を考慮してエンドプレートの材質をバナジウムとしたが、配管との接合容易性を考慮して、配管と同質の素材、例えばステンレス等で形成してもよい。この場合でも、エンドプレートと流路プレートとの接合に拡散接合を用いることも可能ではあるが、接合の容易化、安定化の観点から、ロウ付けを適用することがより好ましい。エンドプレートをステンレスで形成する場合には、流路プレート等にパラジウム、チタンなど、ステンレスと5族金属との中間の熱膨張係数を有する金属の被膜を施すことが好ましい。こうすることにより、エンドプレートと流路プレートの間の熱応力を緩和することができる。
【0045】
F.熱歪み吸収構造:
図4は水素分離装置10の熱歪み吸収構造を示す説明図である。水素分離装置10の側面を模式的に示したものである。先に説明した通り、水素分離装置10は、流路プレート30a、50と水素分離プレート40aとが複数積層されている。図中では、流路プレートにハッチングを付し、水素分離プレートを黒く塗りつぶして示した。
【0046】
流路プレートおよび水素分離プレートの層間は、拡散接合されている。但し、一定の間隔で、拡散接合されない非接合部DC1,DC2が設けられている。つまり、水素分離装置10は、拡散接合によって一体的に形成された複数のモジュールM1〜M3を、積層した構成となっており、各モジュール間が非接合部DC1,DC2と成っている。図中では、非接合部DC1,DC2に敢えて隙間を設けて示したが、実際には、積層方向にかけられた押圧力によりほぼ密着している。非接合部DC1,DC2の両接合面の平滑度を十分に確保することにより、この押圧力のみで気密性を確保することができる。非接合部DC1,DC2には、シリコン、オイルなどでシーリングを施しても良い。本実施例では、流路プレート30m,30nのように非接合部の両面には流路プレートを設けるものとしたが、いずれか一方が水素分離プレートであってもよい。
【0047】
G.水素分離装置の設置:
図5は水素分離装置10の設置方法を示す説明図である。水素分離装置10は、図示する通り、鉛直方向から傾斜させて設置することが好ましい。各プレートの法線方向を積層方向と定義し、積層方向と鉛直方向のなす角度を傾斜角θと定義する。この時、0度<θ≦90度の範囲で傾斜角θを設定することが好ましい。水素分離装置10において、改質ガスおよびパージガスは、矢印Aで示す通り積層方向に流れるとともに、矢印Bで示す通り面方向に流れる。水素分離装置10を傾斜させて設置した場合には、改質ガスおよびパージガスの流れ方向に重力が作用する。従って、運転停止時に内部で結露した場合であっても、重力の作用によって水滴が排出されやすくなり、再運転時にこれらの水滴による種々の弊害を緩和することができる。これらの効果を期待しない場合には、傾斜角θを0度として水素分離装置10を設置しても構わない。
【0048】
以上で説明した実施例の水素分離装置10によれば、装置の小型化を図ることができるとともに、熱歪み吸収構造によって熱歪みの影響を回避することができる。つまり、非接合部DC1,DC2を設けることにより、各モジュールM1〜M3では、図中に示すように面方向に歪みが生じる自由度が存在するため、熱応力を緩和することができる。この結果、熱歪みに起因する装置の損傷、耐久性の低下を抑制することができる。
【0049】
実施例では、複数層ごとに非接合部を設ける場合を例示した。非接合部を設ける部位は、熱歪みによる影響を考慮して適宜設定することができる。全ての層間を非接合部としても構わない。また、実施例では、非接合部が一定間隔で設けられている場合を例示したが、間隔は非統一であっても構わない。
【0050】
図6は第1実施例の変形例としての水素分離装置10Aの構成を示す説明図である。側面の状態を模式的に示した。変形例の水素分離装置10Aも、実施例と同様、拡散接合された複数のモジュールM1〜M3を積層して形成されている。変形例では、これらのモジュール間にガスケット60a,60bを介在させた。ガスケット60a,60bは、例えば、カーボン、金属または樹脂製とすることができる。
【0051】
変形例によれば、これらのガスケット60a、60bを介在させることにより、図中に矢印で示す通り、積層方向の熱歪みを吸収することができ、熱応力をより緩和することが可能となる。また、ガスケット60a、60bの素材によっては、モジュール間における気密性をより確保することができる利点もある。
【0052】
H.第2実施例:
図7は第2実施例としての水素分離装置の構造を示す分解斜視図である。第2実施例の水素分離装置も、エンドプレート、水素分離プレート、流路プレートの積層構造を採る点で第1実施例と共通する。第2実施例では、これらのプレートに加えて冷媒が通過する冷媒流路を形成するための冷却プレートを備える点で第1実施例と相違する。以下、第1実施例との相違点を中心に説明する。
【0053】
図7には、図示の都合上、第1実施例(図3)における流路プレート50、30bの間の部分のみを示した。図7における流路プレート50A、30Bが上記各プレートに相当する。
【0054】
第2実施例では、流路プレート50A,30Bの間に、冷却プレート70が備えられている。冷却プレート70の上下面には、各流路プレート50A,30Bと冷却プレート70とを区分けするための仕切板76が設けられている。冷却プレート70および仕切板76には、改質ガスおよびパージガスを積層方向に流すための縦通孔72,78が設けられている。仕切板76は、冷却プレート70または流路プレート50A,30Bと一体的に構成しても構わない。
【0055】
冷却プレート70には、冷却ガスを面方向に流すための冷却孔74が設けられている。流路プレート50A,30B、仕切板76には、冷却ガスを流すための縦通孔54,34,77が設けられている。図示を省略したが、エンドプレートおよび水素分離プレートにも同様の縦通孔が設けられている。これらの縦通孔は、積層時に冷却孔74に冷却ガスを供給する流路を形成する。本実施例では、空気を冷却ガスとして用いるものとしたが、水蒸気、油など種々の流体を冷媒として用いることが可能である。
【0056】
第2実施例では、全プレートを拡散接合してもよいし、第1実施例と同様に非接合部を設けるものとしてもよい。第2実施例においても、第1実施例(図5)と同様、傾斜して配置することがより好ましい。
【0057】
以上で説明した第2実施例の水素分離装置によれば、冷却ガスによって水素分離装置で生じた熱を外部に運搬することができ、水素分離装置内の温度分布の均一化を図ることができる。従って、熱歪みまたは熱応力による弊害を緩和することができる。
【0058】
第2実施例において、冷却プレートを設ける間隔は、水素分離装置内の温度分布の均一化を考慮して適宜設定可能である。第2実施例では、流路プレート50A、30Bの間に冷却プレートを配設するものとしたが、流路プレートと水素分離プレートとの間に配設することもできる。但し、流路プレートの間に配設させる場合には、水素分離プレートにおける水素分離効率を損ねることなく冷却を行うことができる利点がある。
【0059】
I.変形例:
本実施例では、図3に示すように改質ガスおよびパージガスが交差して流れる構成とした。流路孔および縦通孔の形状および位置を調整し、両者は対向流となるよう形成してもよい。こうすることにより、水素の分離効率を更に向上することができる。
【0060】
本実施例では、改質ガス、パージガスおよび冷却ガスの面内流路は、並列流れとなる場合を例示した。流路は、種々の構成を適用可能であり、両者が直列流れとなる流路構成としてもよい。かかる構成は、例えば、図3において、縦通孔42cなどを塞ぐこと等により、容易に実現することができる。
【0061】
実施例では、改質ガスの供給を受けて水素を分離する場合を例示した。改質ガスプレート内に改質反応を生じさせる触媒を担持させることにより、改質反応と水素分離とを並行して行うものとしてもよい。
【0062】
流路構成は、以上の例示に関わらず種々の構成が可能である。例えば、特開平6−345408記載の技術のように、積層構造の面に沿う方向にガスの供給、排出を行う流路構成に、本発明を適用してもよい。
【0063】
以上、本発明の種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成を採ることができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例としての水素分離装置を用いた燃料電池システムの概略構成を示す説明図である。
【図2】水素分離装置10の斜視図である。
【図3】水素分離装置10の一部の分解斜視図である。
【図4】水素分離装置10の熱歪み吸収構造を示す説明図である。
【図5】水素分離装置10の設置方法を示す説明図である。
【図6】第1実施例の変形例としての水素分離装置10Aの構成を示す説明図である。
【図7】第2実施例としての水素分離装置の構造を示す分解斜視図である。
【符号の説明】
10,10A…水素分離装置
20…エンドプレート
22…流入口
24…流入口
30a,50,30b,30m,30n,50A,30B…流路プレート
32,42…縦通孔
34…流路孔
40a,40b…水素分離プレート
44…水素分離部
54,34,77…縦通孔
60a,60b…ガスケット
70…冷却プレート
72,78…縦通孔
74…冷却孔
76…仕切板
80…燃料電池システム
82…原料タンク
84…水タンク
86…蒸発・混合部
88…改質器
90…燃料電池
92…ブロワ

Claims (6)

  1. 水素を含有する水素含有気体から水素の抽出を行う水素分離装置であって、
    水素を選択的に透過させる薄板状の水素分離部材と、
    前記水素分離部材の第1の面に隣接して配設され、隣り合う前記水素分離部材と共に、前記水素含有気体が通過する水素含有気体流路を形成する薄板状の第1の流路部材と、
    前記水素分離部材の第2の面に隣接して配設され、隣り合う前記水素分離部材と共に、前記水素分離膜を透過して前記水素含有気体から抽出された水素が通過する水素流路を形成する薄板状の第2の流路部材と、
    を複数層の積層状に備え、
    該層間の少なくとも一部は、隣接する層が互いに接合されていない非接合部を有する水素分離装置。
  2. 請求項1記載の水素分離装置であって、
    前記非接合部の少なくとも一部には、隣接する層で積層方向に生じる歪みを吸収可能な歪吸収体が備えられている水素分離装置。
  3. 水素を含有する水素含有気体から水素の抽出を行う水素分離装置であって、
    水素を選択的に透過させる薄板状の水素分離部材と、
    前記水素分離部材の第1の面側に配設され、前記水素分離部材と共に、前記水素含有気体が通過する水素含有気体流路を形成する薄板状の第1の流路部材と、
    前記水素分離部材の第2の面側に配設され、前記水素分離部材と共に、前記水素分離膜を透過して前記水素含有気体から抽出された水素が通過する水素流路を形成する薄板状の第2の流路部材と、
    冷媒が通過する冷媒流路を形成する薄板状の冷却部材と、
    を積層状に備える水素分離装置。
  4. 請求項3記載の水素分離装置であって、
    前記第1の流路部材は、前記第1の面に隣接して配設されており、
    前記第2の流路部材は、前記第2の面に隣接して配設されており、
    前記冷却部材は、該第1の流路部材と第2の流路部材の間に配設されている水素分離装置。
  5. 水素を含有する水素含有気体から水素の抽出を行う水素分離装置であって、
    水素を選択的に透過させる薄板状の水素分離部材と、
    前記水素分離部材の第1の面に隣接して配設され、隣り合う前記水素分離部材と共に、前記水素含有気体が通過する水素含有気体流路を形成する薄板状の第1の流路部材と、
    前記水素分離部材の第2の面に隣接して配設され、隣り合う前記水素分離部材と共に、前記水素分離膜を透過して前記水素含有気体から抽出された水素が通過する水素流路を形成する薄板状の第2の流路部材と、
    を複数層の積層状に備え、
    前記水素分離装置は、前記水素含有気体流路および水素流路の少なくとも一方、重力の作用方向に水滴が流れる角度に傾斜するように設置されたことを特徴とする水素分離装置。
  6. 請求項1〜請求項5いずれか記載の水素分離装置であって、
    前記各部材は、拡散接合されている水素分離装置。
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