JP4744034B2 - 難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法 - Google Patents

難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。更に詳細には、本発明は、主としてポリカーボネートからなる樹脂成分、及び有機リン化合物をスクリュー押出機を用いて混練しながら押出して難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、該有機リン化合物の酸価が0.1mgKOH/g以下であり、且つ該押出しを、該押出機中の樹脂の温度が300℃以下であって、押出機における該樹脂成分の滞留時間が40秒以下である条件下で行うことを特徴とする該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
本発明の方法によれば、高温高湿環境下に長時間曝露された場合においても、機械的物性及び色調の低下が極めて少ない、有機リン化合物により難燃化された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネート(PC)に有機リン化合物系難燃剤をブレンドした樹脂組成物、あるいはこれにABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)系樹脂等をブレンドした樹脂組成物は、非塩素・臭素系の難燃剤を用いた難燃性樹脂組成物であり、溶融流動性、剛性、耐衝撃性、耐熱性、耐光変色性等の諸性質において優れた特性を有するために電気製品、コンピュータ、プリンタ、ワープロ、コピー機等オフィス・オートメーション(OA)機器のハウジングの材料として幅広く利用されている。
【0003】
しかしながら、有機リン化合物系難燃剤を含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物(以下、屡々、単に「難燃性ポリカーボネート樹脂組成物」と称す)は、有機リン化合物の熱分解あるいは加水分解に起因する物性の低下が生じることがあり、特に高温高湿環境下に同材料が長時間曝された場合において、耐衝撃性や破断強度等の機械的物性が著しく低下したり、色調が低下するという問題がある。これは同材料の長期間の使用に対する信頼性を損なう大きな欠点であり、同材料において耐高温高湿性を改良することが強く求められている。
【0004】
上記問題を解決するための方法が種々提案されている。特開平9−188808号公報(EP711,851に対応)はゴムグラフトコポリマーを含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を開示しており、樹脂組成物中におけるゴムグラフトコポリマーの配合量を高めることにより高温高湿環境下でのアイゾット衝撃強度の低下を抑制する方法を提示している。しかしながら、ゴムグラフトポリマーの配合量を増大させる方法では、高温高湿環境下においてアイゾット衝撃強度を維持する効果が不充分であるばかりか、ゴムの配合量の増大に伴い、組成物の剛性の低下や溶融流動性低下や難燃性の低下を招くという欠点があった。
【0005】
また、特開平11−310695号公報(EP936,243に対応)では酸価が1mgKOH/g未満の有機リン化合物をポリカーボネート系樹脂の難燃剤として使用する方法が開示されている。しかしながら、該公報に示される低酸価の有機リン化合物を難燃剤として使用しても、十分に耐高温高湿性が向上した樹脂組成物を得ることは容易ではなかった。さらに、特開平11−189714号公報(EP909,790に対応)では、リン化合物の分解により発生する酸性物質に対する酸スカベンジャーを配合し、組成物の耐高温高湿性を改良する試みがなされている。しかしながら、該方法では酸スカベンジャーの配合量を適切にコントロールするのが容易ではなく、わずかに過剰の酸スカベンジャーの配合が組成物の溶融流動性の低下を招いたり、耐衝撃性を逆に低下させるなどの弊害を生じたりすることがある。
【0006】
一方、特開平11−246721号公報(米国特許第6,177,492明細書に対応)、特開2000−95935号公報、及び特開2000−109670号公報(米国特許第6,177,492明細書に対応)では、ポリカーボネート系樹脂にスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂等を配合し、さらに有機リン化合物難燃剤を配合することにより難燃化した樹脂組成物が開示されているが、これら公報に記載の樹脂組成物は耐光変色性と耐衝撃強度が不十分である。これら公報では樹脂組成物を製造する際の混練時間は20分以下が好ましいと記載されており、例えば特開平11−246721号公報では、実施例において100秒の混練時間が示されているが、該組成物の耐高温高湿性については触れられておらず、これを改良するための技術的示唆もなんら示されていない。
上記の如く、有機リン化合物系難燃剤を含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の耐高温高湿性の改良が強く望まれているにも拘わらず、十分に耐高温高湿性が向上した難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は未だ得られていないのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の1つの主要な目的は、難燃性、機械的物性及び色調に優れるだけでなく、高温高湿環境下に長時間曝露された場合においても、機械的物性及び色調の低下が極めて少ない、有機リン化合物を難燃剤として含有する難燃性ポリカーボネート難燃樹脂組成物を製造することができる方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、難燃性、機械的物性及び色調に優れるだけでなく、高温高湿環境下に長時間曝露された場合においても、機械的物性及び色調の低下が極めて少ない有機リン化合物を難燃剤として含有する難燃性ポリカーボネート難燃樹脂組成物を製造する方法を開発すべく鋭意研究を重ねた。その結果、驚くべきことに、主としてポリカーボネートからなる樹脂成分、及び有機リン化合物をスクリュー押出機を用いて混練しながら押出して難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、該有機リン化合物の酸価が0.1mgKOH/g以下であり、且つ該押出しを、該押出機中の樹脂の温度が300℃以下であって、押出機における該樹脂成分の滞留時間が40秒以下である条件下で行うことを包含する方法によって、上記の優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造することができることを見出した。この新しい知見に基づき本発明を完成したものである。
【0009】
すなわち本発明は、
1.主としてポリカーボネートからなる樹脂成分、及び有機リン化合物をスクリュー押出機を用いて混練して難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、該押出機として、該樹脂成分及び該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口、及び該混練によって得られる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の吐出口を有する押出機を用いる方法において、該樹脂成分を供給口を介して該押出機に連続的に供給し、一方、該有機リン化合物を、該樹脂成分の供給に用いたのと同じ供給口または該樹脂成分の供給に用いたのとは異なる供給口を介して押出機に連続的に供給し、該有機リン化合物の酸価が0.1mgKOH/g以下であり、該樹脂成分及び該有機リン化合物を、混練しながら該吐出口に向かって押出し、その際、該押出しを、該押出機中の樹脂の温度が300℃以下であって、押出機における該樹脂成分の滞留時間が40秒以下である条件下で行うことにより、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を生成し、これと同時に該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を上記吐出口より抜き出す、ことを包含することを特徴とする該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【0010】
2.押出機における該樹脂成分の滞留時間が30秒以下であることを特徴とする前項1に記載の製造方法。
3.該押出機が2軸押出機であることを特徴とする前項1または2に記載の製造方法。
4.該押出機に供給される樹脂成分が固体であり、該押出機が、ゾーン(a) 、ゾーン(b) 及びゾーン(c) が押出し方向に見てこの順序に配置されてなり、該ゾーン(c) が該吐出口と直接連通している押出機であって、ゾーン(a) においては、該樹脂成分を未溶融状態に維持し、ゾーン(b) においては、該樹脂成分を部分的溶融状態に維持し、ゾーン(c) においては、該樹脂成分を完全に溶融状態に維持することを特徴とする前項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【0011】
5.該押出機が、ゾーン(a) に直接連通する該樹脂成分のための供給口(a')及びゾーン(b) に直接連通する該有機リン化合物のための供給口(b')を有しており、該樹脂成分を供給口(a')を介してゾーン(a) に供給し、該有機リン化合物を供給口(b')を介してゾーン(b) に供給し、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、該有機リン化合物の供給速度(kg/hr)が1〜30%であることを特徴とする前項4に記載の製造方法。
【0012】
6.該ゾーン(b) に供給した有機リン化合物が該ゾーン(a) に逆流することを防ぐためのゾーンであって、該ゾーン(b) 内の、該押出機の押出し方向に見て有機リン化合物供給位置の上流側に配置されたゾーンIにおいて、該押出機の内部空間における該樹脂成分の容積比として定義される樹脂充満率を増加させ、且つ該樹脂成分及び該有機リン化合物の混練を、主として、該押出機の押出し方向に見て有機リン化合物供給位置の下流側の領域IIにおいて行うことを特徴とする前項5に記載の製造方法。
7.該樹脂成分が、ポリカーボネートとゴム変性樹脂とからなることを特徴とする前項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【0013】
8.該有機リン化合物が、下記式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【化2】
Figure 0004744034
【0014】
9.押出機のゾーン(b) に供給される該有機リン化合物中に含まれる金属原子及び塩素原子の量がそれぞれ30ppm以下及び20ppm以下であることを特徴とする前項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
10.フルオロポリマーを更に該押出機に供給することを特徴とする前項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
11.該押出機が、ゾーン(a) に直接連通する1つ又は複数の供給口(a')を有しており、該樹脂成分を、供給口(a')を介してゾーン(a) に供給し、一方、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを、該樹脂成分とは別に、樹脂成分の供給に用いたのと同じ供給口(a')または樹脂成分の供給に用いたのとは異なる供給口(a')を介してゾーン(a) に供給し、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンの供給速度(kg/hr)が0.01〜10%であることを特徴とする前項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
12.該押出機のゾーン(a) に供給されるフルオロポリマーの水性ディスパージョンの温度が5〜30℃であることを特徴とする前項11に記載の製造方法。
13.前項1〜12のいずれかに記載の製造方法により製造された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形品。
である。
【0015】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明において、樹脂成分に用いるポリカーボネートとしては芳香族ポリカーボネートが好ましい。本発明において好ましく使用される芳香族ポリカーボネート樹脂は、下記式(2)で表される繰り返し単位からなる主鎖を有する。
【化3】
Figure 0004744034
(式中、Arは、二価の炭素数5〜200の芳香族残基であり、例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレンや、下記式(3)で表される基が挙げられる。)
【0016】
【化4】
Figure 0004744034
(式中、Ar1 及びAr2 は、それぞれアリーレン基である。例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレン等の基を表し、Yは下記式(4)で表されるアルキレン基または置換アルキレン基である。)
【0017】
【化5】
Figure 0004744034
(式中、R1 、R2 、R3 及びR4 はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜31のアラルキル基であって、場合によりハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよく、kは3〜11の整数であり、R5 及びR6 は、各Xについて個々に選択され、お互いに独立に水素原子、または炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数6〜30のアリール基であって、場合によりハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよく、Xは炭素原子を表す。)
【0018】
また、下記式(5)で示される二価の芳香族残基を共重合体成分として含有していても良い。
【化6】
Figure 0004744034
(式中、Ar1 、Ar2 は式(3)と同じ。Zは単なる結合、または、−O−、−CO−、−S−、−SO2 −、−CO2 −、−CON(R1 )−(R1 は式(4)と同じ)等の二価の基である。)
【0019】
上記式(2)のAr及び式(5)で表される二価の芳香族残基の具体例としては、それぞれ下記式で表されるもの等が挙げられる。
【化7】
Figure 0004744034
【0020】
【化8】
Figure 0004744034
(式中、R7 及びR8 は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数5〜10のシクロアルキル基または炭素数6〜30のアリール基である。m及びnは1〜4の整数であり、mが2〜4の場合には各R7 はそれぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2〜4の場合は各R8 はそれぞれ同一でも異なるものであっても良い。)
【0021】
なかでも、下記式(6)で表される基が好ましい一例である。
【化9】
Figure 0004744034
特に、上記の式(6)で表される基をArとする式(2)の繰り返し単位を85モル%以上(ポリカーボネート中の全モノマー単位を基準として)含むポリカーボネートが特に好ましい。
また、本発明に用いることができるポリカーボネートは、三価以上の炭素数6〜300の芳香族残基を分岐点とする分岐構造を有しても良い。
【0022】
ポリマー末端の分子構造は特に限定されないが、フェノール性末端基、アリールカーボネート基、アルキルカーボネート基から選ばれた1種以上の末端基を結合することができる。アリールカーボネート末端基は、下記式(7)で表される基である。
【化10】
Figure 0004744034
(式中、Ar3 は一価の炭素数6〜30の芳香族残基であり、芳香環は置換されていても良い。)
【0023】
アリールカーボネート末端基の具体例としては、例えば、下記式で表される基が挙げられる。
【化11】
Figure 0004744034
【0024】
アルキルカーボネート末端基は下記式(8)で表される。
【化12】
Figure 0004744034
(式中、R9 は炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐アルキル基を表す。)
【0025】
アルキルカーボネート末端基の具体例としては、例えば下記式で表される基が挙げられる。
【化13】
Figure 0004744034
これらの中で、フェノール性末端基、フェニルカーボネート基、p−t−ブチルフェニルカーボネート基、p−クミルフェニルカーボネート基等が好ましく用いられる。
【0026】
本発明において、フェノール性末端と他の末端との比率は、特に限定されないが、よりすぐれた色調や機械的物性を得る観点からは、フェノール性末端基の比率が全末端基数の20%以上であることが好ましく、20〜80%の範囲にあることが更に好ましい。フェノール性末端基の比率が全末端基数の80%を超えると、溶融時の熱安定性が若干低下する傾向にある。
フェノール性末端量の測定方法は、一般にNMRを用いて測定する方法(NMR法)や、チタンを用いて測定する方法(チタン法)や、UVもしくはIRを用いて測定する方法(UV法もしくはIR法)で求めることができる。
【0027】
本発明に使用される芳香族ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)は、一般に5,000〜50,000の範囲にあることが好ましく、より好ましくは10,000〜40,000であり、さらに好ましくは15,000〜30,000であり、特に好ましくは18,000〜25,000である。5,000未満では得られる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性が不十分になる傾向があり、また50,000を越えると、樹脂組成物の溶融流動性が不十分になる傾向がある。
【0028】
重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行い、測定条件は以下の通りである。即ち、テトラヒドロフランを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から下式を用いる計算によって得られた換算分子量較正曲線を用いて求められる。
PC=0.3591MPS 1.0388
(式中、MPCはポリカーボネートの分子量、MPSはポリスチレンの分子量である。)
【0029】
本発明で用いられる芳香族ポリカーボネートは、公知の方法で製造したものを使用することができる。具体的には、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体と反応せしめる公知の方法、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(例えばホスゲン)を水酸化ナトリウム水溶液及び塩化メチレン溶媒の存在下に反応させる界面重合法(例えばホスゲン法)、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル(例えばジフェニルカーボネート)などを反応させるエステル交換法(溶融法)、ホスゲン法または溶融法で得られた結晶化カーボネートプレポリマーを固相重合する方法〔特開平1−158033号公報(米国特許第4,948,871号明細書に対応)、特開平1−271426号公報、特開平3−68627号公報(米国特許第5,204,377号明細書に対応)〕等の方法により製造されたものが用いられる。
【0030】
好ましい芳香族ポリカーボネートとしては、2価フェノール(芳香族ジヒドロキシ化合物)と炭酸ジエステルとからエステル交換法にて製造された実質的に塩素原子を含まないポリカーボネートがあげられる。
本発明では異なる構造や分子量の2種以上の異なるポリカーボネートを組み合わせて使用することも可能である。
本発明の方法において用いる樹脂成分は、上記のポリカーボネートのみからなっていてもよく、また、ポリカーボネートを主体として、ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。
【0031】
樹脂成分に用いるポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂としては、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、メチルメタクリレート−スチレン(MS)樹脂等のスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−ブチルアクリレート−スチレン(AAS)樹脂、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)樹脂、HIPS(high impact polystyrene )樹脂等のゴム変性スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びコアシェル型ゴムに代表される、耐衝撃性改良剤として使用されるグラフトゴムや各種のエラストマー等を挙げることができる。
【0032】
樹脂成分として、ポリカーボネートとポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂からなる樹脂成分を使用する場合、ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂は、樹脂成分の重量に対して、好ましくは50〜0.1重量%、より好ましくは40〜5重量%、更に好ましくは30〜10重量%で使用される。
本発明において、特に好ましく使用される樹脂成分は、ポリカーボネートとゴム変性樹脂からなる樹脂成分である。
ここで、ゴム変性樹脂とは、ゴム質重合体、および、少なくとも1種のビニル化合物を含むゴム変性樹脂を指す。
【0033】
ゴム変性樹脂に用いるゴム質重合体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものであれば用いることが可能である。ゴム質重合体の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム等のジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム、スチレン−ブタジエンブロック共重合ゴム、スチレン−イソプレンブロック共重合ゴム等のブロック共重合体、およびそれらの水素添加物等が挙げられる。これらの重合体の中で、好ましくは、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、ポリアクリル酸ブチル等である。
ゴム変性樹脂中のゴム質重合体の割合は1〜95重量%の範囲で用いられるが、必要とする機械的強度、剛性、成形加工性に応じて決められ、好ましくは、5〜45重量%であり、より好ましくは10〜40重量%である。
【0034】
ゴム変性樹脂に使用されるビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルアクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体が挙げられ、好ましくは、芳香族ビニル化合物、アルキル(メタ)アクリレート類、シアン化ビニル単量体、マレイミド系単量体であり、さらに好ましくは、スチレン、アクリロニトリル、N−フェニルマレイミド、ブチルアクリレートである。これらのビニル化合物は単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、芳香族ビニル化合物と芳香族以外のビニル化合物の組み合わせである。この場合、芳香族ビニル化合物と芳香族以外のビニル化合物は任意の割合で用いられるが、芳香族以外のビニル化合物の好ましい割合は、芳香族ビニル化合物と芳香族ビニル化合物以外のビニル化合物の合計量に対して、5〜80重量%の範囲である。
【0035】
ゴム変性樹脂の製造方法は特に限定されず、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など通常公知の製造方法を挙げることができる。
ポリカーボネートにゴム変性樹脂をブレンドして用いる場合、その割合は、必要とする機械的強度、剛性、成形加工性、耐熱性に応じて決められる。好ましくは、ポリカーボネート50〜95重量部に対してゴム変性樹脂が50〜5重量部であり、さらに好ましくは、ポリカーボネートが60〜90重量部に対してゴム変性樹脂が40〜10重量部である。
本発明では、前記樹脂成分として、溶融状態のものを使用することも可能であるが、好ましく使用されるのは固体状、即ち、ペレット状及び/又はパウダー状の樹脂成分である。
【0036】
また、本発明の製造方法では、樹脂成分がポリカーボネートとその他の熱可塑性樹脂からなる場合は、予めポリカーボネートのペレット及び/又はパウダーに、その他の熱可塑性樹脂のペレット及び/またはパウダーを機械的に混合して得られたものを使用しても良いし、あるいは押出機にこれら樹脂を各々独立して押出機にフィードすることも可能である。さらには、予め、ポリカーボネートとその他の熱可塑性樹脂とを溶融混合して得られるペレット状もしくは溶融状態の樹脂成分もしくはそれをペレット化したものを使用することもできる。
【0037】
本発明の方法で使用される有機リン化合物は、少なくとも1種の有機リン化合物であり、リン原子をその構造内に1つ以上有する化合物である。
リン原子をその構造内に1つ有する化合物(以下、モノ有機リン化合物と称す)としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、キシレニルフェニルホスフェート等を例示することができる。
しかしながら、モノ有機リン化合物は、それを用いて得られる難燃性ポリカーボネート組成物を成形する場合に金型表面にモールドデポジット(MD)が発生しやすいという欠点があるので、本発明で使用される有機リン化合物として、リン原子をその構造内に2つ以上有する化合物である有機リン化合物オリゴマーが好ましく使用される。
【0038】
本発明に用いられる有機リン化合物オリゴマーの特に好ましい例としては、下記式(1)で表される化合物群より選ばれるものを挙げることができる。
【化14】
Figure 0004744034
【0039】
上記式(1)における置換基Ra 、Rb 、Rc 及びRd は、それぞれ独立的に炭素数6〜12のアリール基を示し、その1つ以上の水素原子が置換されていてもいなくてもよい。その一つ以上の水素原子が置換されている場合、置換基としては炭素数1〜30のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基及びハロゲン化アリール基、及びハロゲン等が挙げられ、またこれらの置換基を組み合わせた基(例えば、アリールアルコキシアルキル基等)またはこれらの置換基を酸素原子、硫黄原子、窒素原子等により結合して組み合わせた基(例えば、アリールスルホニルアリール基等)を置換基として用いてもよい。
置換基Ra 、Rb 、Rc 及びRd として特に好ましいアリール基は、フェニル基、クレジル基、キシリル基、プロピルフェニル基、およびブチルフェニル基である。上記式(1)の化合物における置換基Ra 、Rb 、Rc 及びRd がアルキル基やシクロアルキル基であると、一般に熱安定性が不十分であり、溶融混練の際に分解が起こりやすい。
【0040】
有機リン化合物の例としての化合物群を表す上記式(1)におけるXは、ジフェニロールジメチルメタン残基である。通常使用されているオリゴマー系リン酸エステルとしては、Xがレゾルシノール残基やヒドロキノン残基であるものが多いが、これらと比較して、(Xがジフェニロールジメチルメタン残基である)上記式(1)で表される化合物群から選ばれるものを有機リン化合物として使用する場合は、有機リン化合物の耐加水分解性や熱安定性が向上し、樹脂組成物の機械的物性の劣化(特に高温高湿環境下での機械的物性の低下)を低レベルに抑え、材料の信頼性を著しく高めることができる。さらに、上記(1)式で表される有機リン化合物を使用することにより成形加工時に金型表面に付着するモールドデポジットの発生量を、従来使用されているオリゴマー型リン酸エステルと比して、飛躍的に低レベルにすることが可能である。
【0041】
式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーは、通常、式(1)において異なるnの値(nは自然数)を有する複数の異なる有機リン化合物オリゴマーの混合物として使用される場合が多い。この際、複数の異なる有機リン化合物オリゴマーの重量平均縮合度(N)が1〜1.2未満であることが好ましい。Nはゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーあるいは液体クロマトグラフィーにより異なるnを有するそれぞれの成分の重量分率(An )(例えば、nが1の有機リン化合物オリゴマーの重量分率はA1 とする)を求め、
N=Σ(n・An )/Σ(An
により算出される。
【0042】
ここで、An を求めるために、検出器として、UV検出器、あるいはRI検出器が通常使用される。ただし、Nの計算において、上記有機リン化合物が、上記式(1)の有機リン化合物オリゴマーと上記式(1)におけるnが0である構造の化合物(即ち、1分子中のリン原子が1つのみであるモノ有機リン化合物)との混合物である場合は、nが0の化合物はNの計算から除外する。重量平均縮合度Nは、通常1以上5以下であり、1以上2以下が好ましく、1以上1.5以下が更に好ましく、1以上1.2未満が特に好ましい。Nが小さいほど樹脂成分との相溶性に優れ、溶融流動性に優れ、かつ難燃性が高い。特に、N=1の化合物は樹脂組成物における難燃性と溶融流動性のバランスが特に優れる。有機リン化合物としての式(1)の化合物のNが5以上である場合は、該化合物の粘度が大きくなり、特に高せん断速度領域での溶融流動性が低下する傾向にあり、また、難燃性が低下する傾向がある。
【0043】
さらに、本発明で用いられる有機リン化合物は、その酸価が0.1mgKOH/g以下であり、好ましくは0.05mgKOH/g以下、さらに好ましくは0.02mgKOH/g以下、特に好ましくは0.01mgKOH/g以下である。酸価が低い有機リン化合物を使用することにより、耐高温高湿環境下における機械的物性や色調の劣化が著しく低減された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。従って、本発明では有機リン化合物の使用に当たって、その酸価が増大しないように、水分の混入を防いだり、必要以上の加熱を防ぐなどの、貯蔵、移送における配慮が重要である。
【0044】
また、上記式(1)で表される有機リン化合物は、米国特許第2,520,090号明細書、特公昭62−25706号公報、特開昭63−227632号公報等に記載されている方法により、塩化マグネシウムや塩化アルミニウムなどのルイス酸触媒の存在下にオキシ塩化リンとビスフェノールA及び一価フェノール類を反応させて合成し、得られた粗有機リン化合物を洗浄精製、乾燥することにより製品とすることができる。しかし、本発明に用いる有機リン化合物においては、有機リン化合物中に含まれる主に触媒由来のマグネシウム、アルミニウムや、洗浄精製にアルカリ金属、アルカリ土類金属などの金属イオンを含む水溶液を用いる場合において導入される可能性があるナトリウム、カリウム、カルシウム等の金属原子の量が、好ましくは30ppm以下、より好ましくは20ppm以下、更に好ましくは10ppm以下、特に好ましくは5ppm以下、であることが耐高温高湿環境下において機械的物性や色調の劣化が少ない難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得る上で望ましい。
【0045】
さらに、有機リン化合物中に含まれる塩素原子は、好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下、更に好ましくは5ppm以下、特に好ましくは1ppm以下、であることが耐高温高湿環境下において機械的物性や色調の劣化が少ない難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得る上で望ましい。
有機リン化合物の配合量は必要な難燃性のレベルに応じて決められるが、該樹脂成分100重量部に対して、1〜30重量部の範囲内であることが好ましい。従って、本発明の方法において、有機リン化合物を、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、1〜30%の供給速度(kg/hr)で押出機に連続供給することが好ましい。有機リン化合物の配合量が1重量部未満では必要な難燃効果が発揮されない場合がある。一方、30重量部を超えると、有機リン化合物の配合が困難になるばかりか、樹脂組成物の耐衝撃性や耐熱性が低下する場合がある。有機リン化合物の配合量は、好ましくは2〜20重量部の範囲であり、特に好ましい範囲は、5〜18重量部の範囲である。
【0046】
本発明の方法においては、得られる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の燃焼物滴下を防止する目的で、押出機に更にフルオロポリマーを加えることが好ましい。
本発明の方法では、フィブリル形成能力を有するフルオロポリマーを使用することができ、ファインパウダー状のフルオロポリマー、フルオロポリマーの水性ディスパージョン、フルオロポリマーとASやPMMA等のその他の樹脂との粉体状混合物など、様々な形態のフルオロポリマーを使用することができる。
【0047】
本発明の方法では、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを好適に使用することができる。該フルオロポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体等のテトラフルオロエチレンポリマー、ポリテトラフルオロエチレン以外のパーフルオロアルカンポリマー、好ましくはテトラフルオロエチレンポリマー、特に好ましくはポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。上記のフルオロポリマーの水性ディスパージョンは、例えば、「ふっ素樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社、1990年刊)に記載の方法で、テトラフルオロエチレンと場合によってはコモノマーとを水性媒体中で懸濁重合または乳化重合し、得られたフルオロポリマーの水性ディスパージョンを濃縮して、水性分散液中のフルオロポリマー微粒子の濃度を40〜70重量%にした後、界面活性剤により安定化し、乳白色状の水性ディスパージョンとして得ることができる。フルオロポリマーの水性ディスパージョンにおけるフルオロポリマーの濃度は分散状態が安定する濃度であれば水で希釈することも可能であるが、5〜70重量%が好ましく、更に好ましくは20〜65重量%、特に好ましくは30〜60重量%である。また、水性ディスパージョン中のフルオロポリマー粒子の平均一次粒子径は、0.01〜0.6μmが好ましく、更に好ましくは0.05〜0.4μmであり、特に好ましくは0.18〜0.3μmである。
【0048】
また、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンを安定化させる界面活性剤としては、エトキシ化アルキルフェノール、エトキシ化高級アルコール等のノニオン系の界面活性剤が好ましく使用され、通常、その配合量は1〜15重量%であり、好ましくは2〜10重量%、更に好ましくは3〜7重量%である。さらに、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンは、そのpH値が通常9〜10に調整されているのが好ましい。また、水性ディスパージョン中のフルオロポリマーの濃度が60重量%である場合、その液比重は約1.5であり、粘度(25℃)は15〜30cpの範囲にある。
【0049】
本発明において好ましく使用できるフルオロポリマーの水性ディスパージョンとして、三井デュポンフロロケミカル(株)製「テフロン30J」、ダイキン工業(株)製「ポリフロンD−1」、「ポリフロンD−2」、「ポリフロンD−2C」、「ポリフロンD−2CE」を例示することができる。
また、上記したフルオロポリマーとASやPMMA等のその他の樹脂との粉体状混合物に関しては、特開平9−95583号公報、特開平11−49912号公報、特開2000−143966号公報、特開2000−297189号公報等を参照することができる。本発明の製造方法において好ましく使用できるフルオロポリマーを含む粉体状混合物の例として、米国、GEスペシャリティケミカルズ社製「Blendex449」、三菱レーヨン(株)製「メタブレンA−3000」を例示することができる。
【0050】
フルオロポリマーの配合量は、樹脂成分100重量部に対して、通常、0.01〜3重量部の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.05〜2重量部、更に好ましくは0.1〜1重量部、特に好ましくは0.2〜0.6重量部である。フルオロポリマーの配合量が樹脂成分100重量部に対して0.01重量部未満の場合は、燃焼物滴下防止効果が不十分であり、高い難燃性が得られ難い。一方、3重量部を超える場合は溶融流動性や耐衝撃性が低下する傾向にある。
本発明の方法においては、上記の樹脂成分、有機リン化合物及び所望により上記のフルオロポリマーをスクリュー押出機を用いて混練して難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造する。
【0051】
具体的には、本発明においては、該押出機として、該樹脂成分及び該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口及び該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の吐出口と直接連通している押出機を用い、該樹脂成分を供給口を介して該押出機に連続的に供給し、一方、該有機リン化合物を、該樹脂成分の供給に用いたのと同じ供給口または該樹脂成分の供給に用いたのとは異なる供給口を介して押出機に連続的に供給し、該樹脂成分及び該有機リン化合物を、混練しながら該吐出口に向かって押出し、その際、該押出しを、該押出機中の樹脂の温度が300℃以下であって、押出機における該樹脂成分の滞留時間が40秒以下である条件下で行う。
また、本発明の方法においては、該押出機に供給される樹脂成分として、固体の樹脂成分を用い、該押出機が、ゾーン(a) 、ゾーン(b) 及びゾーン(c) が押出し方向に見てこの順序に配置されてなり、該ゾーン(c) が該吐出口と直接連通している押出機であって、ゾーン(a) においては、該樹脂成分を未溶融状態に維持し、ゾーン(b) においては、該樹脂成分を部分的溶融状態に維持し、ゾーン(c) においては、該樹脂成分を完全に溶融状態に維持することが好ましい。
【0052】
上記のゾーン(a) 〜(c) を有する押出機を用いて樹脂成分と有機リン化合物の混練を行う場合、該押出機が、ゾーン(a) に直接連通する該樹脂成分のための供給口(a')及びゾーン(b) に直接連通する該有機リン化合物のための供給口(b')を有しており、該樹脂成分を供給口(a')を介してゾーン(a) に供給し、該有機リン化合物を供給口(b')を介してゾーン(b) に供給し、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、該有機リン化合物の供給速度(kg/hr)が1〜30%であることが好ましい。この際、該ゾーン(b) に供給した有機リン化合物が該ゾーン(a) に逆流することを防ぐためのゾーンであって、該ゾーン(b) 内の、該押出機の押出し方向に見て有機リン化合物供給位置の上流側に配置されたゾーンI において、該押出機の内部空間における該樹脂成分の容積比として定義される樹脂充満率を増加させ、且つ該樹脂成分及び該有機リン化合物の混練を、主として、該押出機の押出し方向に見て有機リン化合物供給位置の下流側の領域II(以下、屡々、「主たる混練ゾーンII」と称す)において行うことが好ましい。
【0053】
また、上記のゾーン(a) 〜(c) を有する押出機を用いて樹脂成分と有機リン化合物と更にフルオロポリマーとを混練し、フルオロポリマーとして水性ディスパージョンを使用する場合、該押出機が、ゾーン(a) に直接連通する1つ又は複数の供給口(a')を有しており、該樹脂成分を供給口(a')を介してゾーン(a) に供給し、一方、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを、該樹脂製分とは別に、樹脂成分の供給に用いたのと同じ供給口(a' )または樹脂成分の供給に用いたのとは異なる供給口(a' )を介してゾーン(a) に供給し、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンの供給速度(kg/hr)が0.01〜10%であることが好ましい。
【0054】
本発明の方法においては、上記押出機として、2軸押出機を使用することが好ましく、同方向回転かみ合い型2軸押出機が最も好ましく使用される。同方向回転かみ合い型2軸押出機では、左右のスクリュー軸がお互いに噛み合うことによりセルフクリーニング効果が得られ、且つ樹脂原料の押出機内滞留時間を短くすることができ、優れた樹脂輸送性能、混練性能、脱揮性能を持つので、押出機として本発明で好ましく使用される。特に、高トルク対応型であり且つ高回転のスクリュー回転数が得られる2軸押出機を使用するのが、生産速度を向上でき、混練の際の溶融樹脂温度を低減できるので特に好適に使用することができる。更に、好ましくは300rpm以上、より好ましくは400rpm以上、さらに好ましくは500rpm以上のスクリュー回転数が得られる押出機が好ましい。
【0055】
本発明の方法で使用される押出機として特に好ましい例としては、東芝機械工業(株)より製造されているTEM−SSシリーズ、ドイツ国、Werner&Pfleiderer社より製造されているZSK−MCシリーズ、日本製鋼所(株)より製造されているTEX Super α−IIシリーズを挙げることができる。
本発明で用いる押出機は、図1の押出機のシリンダーブロックB1〜B9のような、複数のシリンダーブロックが連結されてなるシリンダー状バレル(以下、屡々、単に「シリンダー」と称す)を有する。
また、本発明の方法では、2軸押出機の押出機スクリュー構成(スクリュープロファイル)を押出機スクリュー要素(スクリューエレメント)の組み合えにより自在に選択でき、且つ、押出機のシリンダーの温度が各シリンダーブロック毎に制御できる2軸押出機を好適に使用することができる。このような押出機を用いて、スクリュープロファイルや押出機内の温度分布を適宜選択することにより、上記ゾーン(a) 、(b) 及び(c) の長さを調節したり、上記のゾーンI や混練を行うための領域IIを押出機内に形成することができる。
【0056】
本発明の方法に好適に用いることができる押出機の具体例として、図1に示す内部構造を有する押出機が挙げられる。図1は、本発明の方法に用いる押出機の一例の内部構造を示す説明的概略側断面図であって、図1に示す押出機におけるスクリュー構成は、本発明の方法を実施するのに好適に用いられるスクリュー構成の一例である。図1に参照して本発明の方法を説明する前に、本発明に用いることができる押出機スクリューエレメントに関して説明する。
本発明の方法では、押出機スクリュー構成用の押出機スクリュー要素として、順方向フライトスクリューエレメント、逆方向フライトスクリューエレメント、順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、順方向スクリューミキシングエレメント、逆方向スクリューミキシングエレメント、シールリングエレメント等を好ましく使用することが出来る。これらの組み合わせによって本発明で必要とされる押出機スクリュー構成を得ることが出来る。
【0057】
以下、各押出機スクリューエレメントとその作用効果について図4(a)〜11(b)を参照して説明する。
図4(a)は押出機の回転軸に取付けた順方向フライトスクリューエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図4(b)は上記順方向フライトスクリューエレメントの概略側面図である。「順方向フライトスクリューエレメント」とは、右ネジ方向の連続したスクリュー構造を有し、該スクリューの回転(回転方向は押出機の吐出口から見て右方向回転)によって押出し方向に樹脂成分を移動させる作用を有する押出機スクリューエレメントである。本発明で好ましく使用される二軸押出機では2つの回転軸上で対応する位置に対にして配置される。順方向フライトスクリューエレメントにおける条数(フライト数)は通常1条〜3条であり、使用目的にあわせて使い分けることができるが、図4(a)及び図4(b)は本発明において好ましく使用され、使用頻度が高い2−フライトの順方向フライトスクリューエレメントを示している。
【0058】
図4(a)においてスクリュー外径(Do )とスクリュー内径(Di )の比Do /Di (以下、スクリューかみ合い比と称す)は通常1.3〜1.8の範囲にあるが、本発明では、好ましくは1.4〜1.7、更に好ましくは1.5〜1.6が使用され、特に好ましく使用されるのはスクリューかみ合い比が1.55である順方向フライトスクリューエレメントである。また、順方向フライトスクリューエレメントのフライトのピッチは、一般にスクリュー外径Do に対して0.5〜2.0倍の長さであり、使用目的に応じて使い分けることができる。一般に該フライトピッチが長い場合は樹脂の搬送量は増大するが樹脂充満率は低下し、逆に短い場合は樹脂の搬送量は低下するが樹脂充満率が増大する。順方向フライトスクリューエレメントでは、樹脂は図4(b)の右から左の方向に進行する。
【0059】
図5(a)は押出機の回転軸に取付けた逆方向フライトスクリューエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図5(b)は上記逆方向フライトスクリューエレメントの概略側面図である。「逆方向フライトスクリューエレメント」とは、左ネジ方向の連続したスクリュー構造を有し、該スクリューの回転によって押出し方向と逆方向に樹脂を移動させる作用を有する押出機スクリューエレメントである。本発明で好ましく使用される二軸押出機では2つの回転軸上で対応する位置に対となって配置する。図5は本発明において好ましく使用され、使用頻度最も高い2−フライトの逆方向フライトスクリューエレメントを示している。逆方向フライトスクリューエレメントのフライト数は通常2であり、スクリューかみ合い比Do /Di は1.3〜1.8の範囲にあり、フライトのピッチは、一般にスクリュー外径Do に対して0.5〜1.0倍の長さの範囲である。逆方向フライトスクリューエレメントは押出し方向と逆方向に樹脂を移動させる作用効果が大きいので、この押出機スクリューエレメントを使用することにより、押出し方向に見て該押出機スクリューエレメントの上流側の樹脂充満率を実質的に1、すなわち完全充満状態とすることができる。
【0060】
従って、押出し方向に見て逆方向フライトスクリューエレメントの上流側に後述する順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、順方向スクリューミキシングエレメント、逆方向スクリューミキシングエレメント等の混練効果が高い押出機スクリューエレメントを挿入することにより、押出機内部で樹脂が完全充満した状態で樹脂の溶融混練を行うことができるので、樹脂に対して強い溶融混練作用を与えることが出来る。
【0061】
図6(a)は押出機の回転軸に固定された順方向ニーディングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図6(b)は上記順方向ニーディングエレメントの概略側面図である。「順方向ニーディングエレメント」とは、複数の擬楕円形ディスクが、スクリュー回転軸の軸線が各擬楕円形ディスクの中心を通るように、スクリュー回転軸上に連続して平行に固定されてなり、該複数の擬楕円形ディスクは図6(a) に示すように互いにずれつつ配置されており、該回転軸上に押出機の押出方向とは反対の方向に連続的に配置された複数のディスクにおける互いに隣接するディスクの、回転軸の回転方向をプラス(+)とした場合のねじれ角度(staggering angle)が、プラス(+)方向に0度より大きく90度より小さい、スクリューエレメントである。
【0062】
この押出機スクリューエレメントは、押出機スクリューエレメントの回転によって押出し方向に該樹脂を移動させる作用と同時に、樹脂を混練する作用を有する。順方向ニーディングエレメントは、上記擬楕円形ディスクが少なくとも3枚以上、好ましくは5枚以上が積層されて構成されることが好ましい。また、擬楕円形ディスクは、スクリュー外径に対して0.05〜0.5倍の厚みを持つことが好ましい。さらに上記ディスクは長径/短径の比が1.1〜2.0の擬楕円形であり、擬楕円形の最大径のシリンダ本体の内径に対する比が、0.950〜0.995であることが好ましい。図6(a) 及び(b) は、本発明において好ましく使用される、+45度のねじれ角度(staggering angle)で、5枚の擬楕円形ディスクS1〜S5がスクリュー回転軸上に連続して平行に、互いにずれつつ固定されてなる順方向ニーディングエレメントを示している。
【0063】
図7(a)は押出機の回転軸に取付けた逆方向ニーディングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図7(b)は上記逆方向ニーディングエレメントの概略側面図である。「逆方向ニーディングエレメント」とは、複数の擬楕円形ディスクが、スクリュー回転軸の軸線が各擬楕円形ディスクの中心を通るように、スクリュー回転軸上に連続して平行に固定されてなり、該複数の擬楕円形ディスクは図7(a)に示すように互いにずれつつ配置されており、該回転軸上に押出機の押出方向とは反対の方向に連続的に配置された複数のディスクにおける互いに隣接するディスクの、回転軸の回転方向と反対の方向をマイナス(−)とした場合のねじれ角度(staggering angle)が、マイナス(−)方向に0度より大きく90度より小さい、スクリューエレメントである。
【0064】
この押出機スクリューエレメントは、該押出機スクリューエレメントの回転によって押出し方向と逆の方向に樹脂を移動させる作用と同時に、樹脂を混練する作用を有する。該擬楕円形ディスクは少なくとも3枚以上、好ましくは5枚以上が積層されて構成されることが好ましい。該擬楕円形ディスクの厚み、長径/短径の比、擬楕円形の最大径は順方向ニーディングエレメントの場合と同じである。図7(a)及び(b)は、本発明において好ましく使用される、−45度のねじれ角度(staggering angle)で、5枚の擬楕円形ディスクS1〜S5がスクリュー回転軸上に連続して平行に、互いにずれつつ固定されてなる逆方向ニーディングエレメントを示している。
【0065】
図8(a)は押出機の回転軸に取付けたニュートラルニーディングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図8(b)は上記ニュートラルニーディングエレメントの概略側面図である。「ニュートラルニーディングエレメント」とは、複数の擬楕円形ディスクが、スクリュー回転軸の軸線が各擬楕円形ディスクの中心を通るように、スクリュー回転軸上に連続して平行に固定されてなり、該複数の擬楕円形ディスクは図8(a)に示すように互いにずれつつ配置されており、該回転軸上に押出機の押出方向とは反対の方向に連続的に配置された複数のディスクにおける互いに隣接するディスクの、上記プラス(+)及びマイナス(−)方向のいずれにおけるねじれ角度(staggering angle)も実質的に90度であるスクリューエレメントである。
【0066】
この押出機スクリューエレメントは、該押出機スクリューエレメントの回転によって、樹脂を混練する作用を有する。ニュートラルニーディングエレメントでは擬楕円形ディスクは互いに実質的に90度のねじれ角度(staggering angle)を有するため、樹脂を押出し方向またはその逆方向に移動させる機能を有さない。上記擬楕円形ディスクは少なくとも3枚以上、好ましくは5枚以上が積層されて構成されることが好ましい。該擬楕円形ディスクの厚み、長径/短径の比、擬楕円形の最大径は順方向ニーディングエレメントの場合と同じである。該ニュートラルニーディングエレメントを使用する場合は、一般に順方向ニーディングエレメントや逆方向ニーディングエレメントを使用する場合よりも更に強力な混練作用を得ることが出来る。図8(a)及び(b)は、本発明において好ましく使用される、90度のねじれ角度(staggering angle)で、5枚の擬楕円形ディスクS1〜S5がスクリュー回転軸上に連続して平行に、互いにずれつつ固定されてなるニュートラルニーディングエレメントを示している。
【0067】
図9(a)は押出機の回転軸に取付けた順方向スクリューミキシングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図9(b)は上記順方向スクリューミキシングエレメントの概略側面図である。「順方向スクリューミキシングエレメント」とは、図9(a)及び9(b)に示すように、順方向フライトスクリューのねじ山に切り欠きを設けた構造を有し、該スクリューの回転によって押出し方向に樹脂を移動させるとともに、切り欠き部分から樹脂の一部を押出し方向と逆の方向に移動させることにより、樹脂を混合する作用を有する押出機スクリューエレメントである。本発明で好ましく使用される二軸押出機では前述の順方向フライトスクリューエレメントと同様に2つのスクリュー軸上で対応する位置に対にして配置する。図9は本発明において好ましく使用される順方向スクリューミキシングエレメントを示している。
【0068】
図10(a)は押出機の回転軸に取付けた逆方向スクリューミキシングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図10(b)は上記逆方向スクリューミキシングエレメントの概略側面図である。「逆方向スクリューミキシングエレメント」とは、図10(a)及び10(b)に示すように、逆方向フライトスクリューのねじ山に切り欠きを設けた構造を有し、該スクリューの回転によって押出し方向と逆の方向に樹脂を移動させるとともに、切り欠き部分から樹脂の一部を押出し方向に移動させることにより、樹脂を混合する作用を有する押出機スクリューエレメントである。
【0069】
この押出機スクリューエレメントは、スクリューが左ネジ方向の構造であるため、該スクリューの回転によって押出し方向と逆方向に樹脂を移動させる作用が強く、樹脂充満率が高くなる。そのため、順方向スクリューミキシングエレメントを使用する場合に比べて樹脂を混合する作用がより強力である。本発明で好ましく使用される二軸押出機では前述の逆方向フライトスクリューエレメントと同様に2つのスクリュー軸上で対応する位置に対にして配置する。図10は本発明において好ましく使用される逆方向スクリューミキシングエレメントを示している。
【0070】
図11(a)は押出機の回転軸に取付けたシールリングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図11(b)は上記シールリングエレメントの概略側面図である。「シールリングエレメント」とは、基本的に円形の少なくとも1個のディスクで構成され、樹脂の進行をせき止めて樹脂の充満率を高める作用を有する。シールリングエレメントを用いた場合は、シリンダ本体とシールリングエレメントのクリアランスを樹脂がすり抜ける。本発明において好ましく使用される2軸押出機において使用されるシールリングエレメントは、通常、2つのスクリュー軸にそれぞれ1枚ずつ設置されるが、用途に応じて2枚以上設置することも可能である。該シールリングエレメントはスクリュー軸方向の厚みがスクリュー外径に対して0.05〜0.5倍の長さを持つことが好ましい。さらに該円形ディスクの直径はシリンダ本体の内径に対し、0.950〜0.995倍であることが好ましい。図11は本発明において好ましく使用されるシールリングエレメントを示している。
【0071】
本発明の方法において、押出機のゾーン(a) においては、上記樹脂成分を未溶融状態に維持する。例えば、上記ゾーン(a) において、押出機のスクリューを順方向フライトスクリューエレメントのみで構成し、且つシリンダーブロック温度を20〜200℃、好ましくは30〜100℃の範囲、更に好ましくは40〜70℃の範囲に設定することで、ポリカーボネートを含む樹脂成分の溶融を防ぐことができる。該ゾーン(a) の長さはスクリュー構成とシリンダーブロック温度のみならず、押出機のスクリュー回転数や樹脂成分の供給速度(処理速度)にも影響を受け、該回転数や該処理速度を増大させることによって該ゾーンを長くすることもできる。
【0072】
該ゾーン(a) では、樹脂成分(ペレット状及び/またはパウダー状の樹脂)の溶融した状態が全く観察されない状態であり、この確認は押出機シリンダーブロックの開口部(押出機の供給口(a' ))や押出機シリンダーブロックにのぞき窓を設けそれを通じて目視観察することにより行うことができる。本発明の方法では、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを用いる場合、フルオロポリマーの水性ディスパージョンはゾーン(a) に連続的に供給されるが、ゾーン(a) においてフルオロポリマーの水性ディスパージョンが供給される最も好ましい位置は、樹脂成分の投入用ホッパー下であり、さらに、該ホッパー下のシリンダーブロックの温度は40〜70℃の範囲であることが好ましい。
【0073】
本発明の方法において、押出機のゾーン(b) においては、上記樹脂成分を部分的溶融状態に維持する。例えば、上記ゾーン(b) において、押出機のスクリューを順方向フライトスクリューエレメント、もしくはこれに、順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、順方向スクリューミキシングエレメント、逆方向スクリューミキシングエレメント等の押出機スクリューエレメントを組み合わせて構成し、且つ、シリンダーブロック温度を201〜350℃、好ましくは210〜300℃の範囲、更に好ましくは220〜280℃の範囲に設定し、押出機スクリューエレメントの混練機能とシリンダーブロックからの熱供給により、該樹脂成分の一部を溶融させることができる。
【0074】
該ゾーン(b) では樹脂成分の一部が溶融している状態にあるが、この確認は押出機シリンダーブロックに設けたのぞき窓を設けそれを通じて目視観察する方法や、運転中の押出機を停止させてそのまま押出機シリンダーブロックを冷却し、しかる後に押出機スクリューを引き抜き、押出機内部の樹脂の溶融状態を観察する方法(ただし、観察を行う際には難燃剤である有機リン化合物の供給を停止する)によって行うことができる。この際、樹脂の未溶融の部分は目視で確認することができ、ゾーン(b) においては樹脂成分の0.01〜90重量%、好ましくは0.1〜70重量%、より好ましくは1〜50重量%が溶融状態にあることが好ましい。
【0075】
本発明では難燃剤である有機リン化合物をゾーン(b) に連続的に供給することが好ましいが、有機リン化合物の配合はギアポンプやプランジャーポンプ等を用いて定量的に押出機シリンダーブロックに取り付けられたインジェクションノズルを通じて圧入することが出来る。尚、有機リン化合物の供給位置での押出機スクリューエレメントは、樹脂圧を低くして有機リン化合物の配合を容易にするために、順方向フライトスクリューエレメントもしくは順方向スクリューミキシングエレメントで構成し、樹脂充満率を1未満、好ましくは0.4〜0.8とするのが好ましい。
【0076】
上記「主たる混練ゾーンII」においては、押出機のスクリュー構成として、逆方向フライトスクリューエレメントあるいはシールリングエレメント等の樹脂のシール性に優れる押出機スクリューエレメントを組み入れ、さらにこれらの押出機スクリューエレメントの押出し方向に見て上流側に、順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、順方向スクリューミキシングエレメント、逆方向スクリューミキシングエレメント等の溶融混練作用に優れた押出機スクリューエレメントを複数個組み合わせた押出機のスクリュー構成とし、且つシリンダーブロック温度を201〜350℃、好ましくは210〜300℃の範囲、更に好ましくは220〜280℃の範囲に設定し、押出機スクリューエレメントの混練機能とシリンダーブロックからの熱供給により、樹脂成分と有機リン化合物と好ましくは更にフルオロポリマーを加えて樹脂充満率が1の状態(すなわち溶融樹脂の完全充填状態)で十分な溶融混練を行う。
【0077】
本発明の方法では、該主たる混練ゾーンIIを通過した後には、未溶融の樹脂の粒子が全く観察されない程度まで溶融混練がなされるように該混練ゾーンIIのスクリュー構成を選択する必要がある。該主たる混練ゾーンIIを通過した後のゾーン(c) における溶融樹脂の状態を観察するには押出機シリンダーブロックにのぞき窓を設けて目視観察する方法や、運転中の押出機を強制的に停止させてそのまま押出機シリンダーブロックを冷却し、しかる後に押出機スクリューを引き抜き、押出機内部の樹脂の溶融状態を観察する方法によって行うことができる。尚、該主たる混練ゾーンIIの数は押出機中で1箇所でもよいが、複数あっても構わない。
【0078】
上記ゾーンIにおいては、押出機のスクリューエレメントとして、順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、狭いピッチの順方向フライトスクリュエレメント(フライトのピッチがスクリュー外径Do に対しておよそ0.5〜0.8倍であるもの)から選ばれる1〜3個の押出機スクリューエレメントを用いて、樹脂の充満率を0.7〜1.0とし、且つ、シリンダーブロック温度を201〜350℃、好ましくは210〜300℃の範囲、更に好ましくは220〜280℃の範囲に設定することにより、該ゾーン(b) に供給した有機リン化合物が該ゾーン(a) に逆流することを防止する。ゾーンI(以下、屡々「有機リン化合物の逆流防止用樹脂充満ゾーンI」と称す)の長さおよび樹脂充満率は、樹脂成分の供給速度(処理速度)や押出機スクリュー回転数にも依存し、一般に樹脂成分の供給速度(Q)とスクリュー回転数(NS )の比(Q/NS )の増大と共に、該ゾーン長並びに樹脂充満率は増加する。
【0079】
更に、本発明において用いる押出機にベントを設ける場合は、前述の主たる混練ゾーンIIは、押出し方向に見て、ベント部の上流側に設置される。また、ベントを有する押出機を用いる場合は、樹脂成分がベントから流出すること(樹脂のベントアップ)を防ぐための「ベントアップ防止用樹脂充満ゾーン III」を設けることが好ましい。ベントアップ防止用樹脂充満ゾーン IIIにおいては、樹脂充満率を0.7〜1.0にすることによって、ベントアップ防止用樹脂充満ゾーン IIIの下流に設けるベント付近における樹脂の充満率を低下させることにより樹脂組成物がベントから流出することを防止する。
【0080】
ベントアップ防止用樹脂充満ゾーン IIIでは、押出機のスクリュー構成として、順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、逆方向フライトスクリューエレメントあるいはシールリングエレメントが組み合わされて使用される。また、シリンダーブロック温度が201〜350℃、好ましくは210〜300℃の範囲、更に好ましくは220〜280℃の範囲に設定される。また、べント部のスクリュー構成には順方向フライトスクリューエレメントを設置する。ベント部においては、開放もしくは真空ポンプ等による減圧脱気を行うことができる。
【0081】
有機リン化合物により難燃化された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を、押出機を用いて製造する本発明の方法は以下の(1)〜(3)の特徴を有する。
(1)本発明の方法における第1の特徴は、酸価が0.1mgKOH/g以下である有機リン化合物を使用することである。この有機リン化合物の酸価が0.1mgKOH/g以下である有機リン化合物を使用することにより、高温高湿性環境下においても機械的物性や色調の低下が極めて少ない優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0082】
(2)本発明の方法における第2の特徴は、該押出機中の樹脂の温度を300℃以下とすることである。本発明の方法においては、通常、押出機先端部のダイ付近で樹脂の温度が最高になるような条件で押出しが行われるので、ダイ付近で測定される溶融樹脂の温度を該押出機中の樹脂の最高温度とみなす。ダイ付近の溶融樹脂の温度は、ダイ付近に装着された熱電対により測定することができる。樹脂の温度は、押出機設定温度だけでなく、スクリュー構成、原材料の供給速度、スクリュー回転数等の運転条件により影響を受けるが、本発明においては、押出機内の樹脂温度が300℃以下となるようにこれらの運転条件を適宜選択し、生産を行う。押出機内の樹脂温度が300℃を越えると、有機リン化合物の分解が急激に進行するため、これに起因して樹脂成分の劣化が起こり、溶融流動性が増大し、耐衝撃性が急激に低下する等の不利が生じる。また、高温高湿環境下における機械的物性と色調も著しく低下する。押出機内の樹脂の温度は、樹脂組成物の機械的物性の向上させ、かつ、着色を抑えるためには溶融混練が可能な範囲でできるだけ低い温度であることが好ましいが、一方で、樹脂の温度を低下させると溶融樹脂の粘度が増大するために、押出機の負荷が増大し、樹脂組成物の生産性が低下する。従って、好ましい樹脂温度は、樹脂組成物の性能と生産性とのバランスから、好ましくは230℃〜290℃、さらに好ましくは240℃〜285℃、特に好ましくは250℃〜280℃の範囲である。
【0083】
(3)本発明の方法における第3の特徴は、樹脂成分の押出機内滞留時間を40秒以下とすることである。本発明において、樹脂成分の押出機内滞留時間は、押出機の樹脂成分投入位置にカラーペレットを投入し、投入直後から、ダイ部において上記のカラーペレットにより着色された樹脂の吐出が開始されるまでの時間として定義する。本発明では、原料樹脂の押出機内滞留時間を40秒以下とすることにより、樹脂組成物の高温高湿環境下における機械的性質の低下や色調の低下を非常に効果的に抑制することができる(即ち、優れた耐高温高湿特性を有する樹脂組成物を得ることができる)。しかしながら、一方で溶融樹脂の押出機内滞留時間が短すぎると、混練が不十分となり樹脂組成物の性能が不十分となる。本発明では、原料樹脂の押出機内滞留時間は、好ましくは1〜35秒であり、より好ましくは、5〜30秒であり、更に好ましくは8〜25秒であり、特に好ましくは10〜20秒である。
【0084】
樹脂成分の押出機内滞留時間は、各成分の供給速度、スクリュー回転数、押出機のL/D(長さ/直径比)、押出機ダイ部分の空間容積等の因子に特に影響を受ける。
本発明において樹脂成分の押出機内滞留時間を短縮するためには、押出機のL/Dは原材料の十分な溶融混練が得られる範囲においてできるだけ小さくすることが好ましく、L/Dは25〜50の範囲にあることが好ましく、より好ましくは30〜45であり、更に好ましくは35〜40である。また、押出機ダイ部分の空間容積も可能な限り小さくし、樹脂の滞留時間の増大を防ぐことが好ましい。
【0085】
また、各成分の供給速度や押出機スクリュー回転数に関しても、上記の押出機内滞留時間となるように適宜選択する。押出機への各成分の供給速度は、押出機の処理能力に制限されるが、可能な限り各成分の供給速度を高めることにより、溶融樹脂温度を低減でき、さらに押出機内の樹脂成分の滞留時間を短縮できるので好ましい。一方、押出機スクリューの回転数は一般に高回転であるほど樹脂成分の押出機内滞留時間を短縮できるが、押出機スクリューの回転数を増大させると樹脂のせん断発熱が顕著となり、過度の溶融樹脂の温度上昇は得られる樹脂組成物の物性や色調に対して悪影響を及ぼすので、溶融樹脂温度を考慮して押出機のスクリュー回転数を選択するのが好ましい。
【0086】
本発明の方法として好適な例である図1に示すスクリュー構造を有する押出機を用いる方法においては、該有機リン化合物の配合により溶融樹脂の可塑化を容易にし、且つ溶融樹脂の粘度を低減できるので、溶融混練におけるせん断発熱による過度の溶融樹脂温度の上昇を抑制することができる。そのため、押出機スクリューの回転数が比較的に高い押出機の運転条件で難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を生産することが可能となる。押出機のスクリュー回転数を高くすることは溶融樹脂の搬送能力を高めこれにより押出機内滞留時間を短くすることができるので、耐高温高湿特性に優れた樹脂組成物を高い生産速度で製造する上で特に好ましい。
【0087】
以下に、上記特徴(1)〜(3)に関連して記載した以外の好ましい製造条件に関して説明する。
本発明の製造方法で使用されるの有機リン化合物は、液状のものが好ましく使用され、また、上記したように、樹脂成分と予備混合を行わずに、独立して供給口(b' )を介してゾーン(b)に供給することが好ましい。このように有機リン化合物をゾーン(b) へ供給することにより、樹脂成分の溶融が開始されると同時に有機リン化合物を配合し、該有機リン化合物を樹脂成分に対する溶融可塑剤として作用させ、これにより樹脂成分の溶融を容易ならしめて押出機の負荷を低減させ、また、樹脂組成物の高い生産速度を獲得することができる。更に、有機リン化合物の配合により溶融樹脂の粘度を低減できるために、混練時のせん断発熱による過度の樹脂温度の上昇を防止でき、これにより色調に優れ、更に機械的物性に優れた樹脂組成物を製造することが可能となる。
【0088】
有機リン化合物は、予め60〜120℃、好ましくは70〜100℃に加熱して溶融粘度を低下させた後に、押出機の所定のシリンダーブロックに装着された注入用ノズルを通じて、ギアポンプ、プランジャーポンプ等を使用して定量的に圧入配合することが好ましい。また、本発明において使用される有機リン化合物が粉体状である場合は、ポリカーボネート樹脂を含む樹脂成分と予備混合を行った後に押出機に投入し、溶融混練を行うことも可能であるが、予め60〜120℃に加熱して溶融させて液状として上記の方法で使用することが望ましい。
【0089】
難燃剤である有機リン化合物は、ゾーン(b) の所定の位置に置いて、上記の供給速度で連続供給する場合、有機リン化合物の配合量の増大に伴い、有機リン化合物が該有機リン化合物の配合位置の上流側に逆流する現象(以下、これを「有機リン化合物の逆流」と称する)が生じることがある。有機リン化合物の逆流は、有機リン化合物の配合量が高い場合に起こりやすく、また、樹脂成分がペレット状の形態である場合は、ゾーン(b) においてはペレットが完全に溶融しておらず、未溶融のペレット間の空隙が多いために有機リン化合物の逆流が起こりやすい。有機リン化合物の逆流が樹脂成分の供給用ホッパーの下部まで及ぶようになると、樹脂成分の押出機への供給に支障が生じる。
【0090】
これを避けるために、上記の有機リン化合物の逆流防止用樹脂充満ゾーンIを設けることが有効である。ただし、ゾーンIは、溶融混練が主目的ではないので、有機リン化合物の逆流を抑止するために最小限必要とされるゾーン長さで十分である。このゾーンIにおいて、該押出機のスクリュー構成として、順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、狭いピッチの順方向フライトスクリュエレメント(フライトのピッチがスクリュー外径Do に対しておよそ0.5〜0.8倍であるもの)等の押出機スクリュー要素を1〜3個導入することによって、該樹脂成分の一部分をこれらの押出機スクリュー要素によるせん断力により溶融させ、更にはペレット間の空隙を減少させることができる。
【0091】
該ゾーンIにおける樹脂成分の充満率は0.7〜1.0であることが好ましい。ゾーンIが必要以上に長いと溶融樹脂のせん断発熱を増大させ、樹脂組成物の色調を低下させたり、耐衝撃性等の機械的物性を低下させるのみならず、押出機の負荷の増大を招くため生産性を低下させるなどの悪影響を及ぼす。従って、本発明ではゾーンIでは、逆方向フライトスクリューエレメントあるいはシールリングエレメント等の樹脂のシール性が高い押出機スクリュー要素を組み入れないことが、樹脂成分の過剰の発熱を抑えることができるので好ましい。また、該ゾーンIを設けることにより、有機リン化合物の配合量が樹脂成分100重量部に対して15〜30重量部となるような、高い配合量の場合においても安定した連続運転を達成することができる。
【0092】
また、本発明の方法では、樹脂組成物を製造する際の比エネルギー(単位:kW・hr/kg)を0.13〜0.20kW・hr/kgの範囲とすることが好ましく、これにより機械的強度及び色調に優れ、かつ燃焼時の燃焼物の滴下防止機能に優れた難燃性樹脂組成物を得ることができる。ここで、比エネルギーは、該難燃性樹脂組成物を1kg/hrの速度で製造するために消費されるスクリュー押出機運転モーターの出力(kW)で表され、樹脂の混練の程度を表す尺度である。比エネルギーが0.13kW・hr/kg未満の場合は樹脂組成物の混練が不充分であり、目的とする樹脂組成物の性能が低下する傾向にある。
【0093】
一方、比エネルギーが0.20kW・hr/kgを越える場合は、溶融混練の際のせん断発熱が大きく、溶融樹脂の温度が必要以上に上昇するため、樹脂組成物の着色が顕著になるばかりか、樹脂組成物の耐衝撃性やのび特性等が低下し、さらに燃焼物滴下防止機能も低下する傾向にある。本発明の方法では、好ましい比エネルギーは0.135〜0.18kW・hr/kgであり、さらに好ましくは0.14〜0.17kW・hr/kgであり、最も好ましいのは0.145〜0.16kW・hr/kgの範囲である。比エネルギーは、押出機のスクリュー構成、スクリュー回転数、各成分の供給速度、シリンダー設定温度、さらには、樹脂の分子量、配合組成比等を適宜選択して制御することができる。
【0094】
本発明の方法において、有機リン化合物を前述の樹脂成分が部分的溶融状態に維持されているゾーン(b) へ供給し溶融混練を行う場合、難燃剤である有機リン化合物の存在下で樹脂成分を混練するため、該有機リン化合物の可塑化促進作用により、樹脂成分を押出機のシリンダーの設定温度が低い場合においても効率的に可塑化することできる。このために、押出機のシリンダーの設定温度が低い場合においても比エネルギーを低く抑えて溶融混練を行うことが可能となる。また、有機リン化合物をゾーン(b) へ供給し、低い溶融樹脂温度でも溶融混練を行うことにより、機械的物性、難燃性及び色調に優れた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
【0095】
本発明の方法において、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを用いる場合には、上記したように該フルオロポリマーの水性ディスパージョンと樹脂成分と有機リン化合物を、押出機にそれぞれ独立して供給し、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンは、押出機における樹脂が未溶融状態に維持されているゾーン(a) へ、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、0.01〜10%の供給速度(kg/hr)で供給することが好ましい。該フルオロポリマーの水性ディスパージョンの供給速度が、該樹脂成分の押出機への供給速度に対して0.01%未満の供給速度では燃焼時の滴下防止効果が不充分であり、一方、10%を超える供給速度では押出機の原料投入口で樹脂成分のブリッジングが生じたりするなどして樹脂成分の供給が不安定となったり、さらには過剰な水分を樹脂組成物に与えることにより物性を低下させるなどして好ましくない。ここで、「ブリッジング」とは、樹脂成分が多くのフルオロポリマーの水性ディスパージョンと混合されることにより、原料投入口付近で樹脂成分が湿潤状態で固まり、流動不能になることを示す。
【0096】
また、このようなフルオロポリマーの水性ディスパージョンを押出機に供給する本発明の方法では、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物中においてフルオロポリマーの分散を均一ならしめ、フィブリル構造を組成物全体に均質に形成させることができ、その結果、燃焼物滴下防止機能が優れた樹脂組成物を得ることができる。また、該ゾーン(a) にフルオロポリマーの水性ディスパージョンを供給することにより、フルオロポリマーが溶融樹脂の混練において滑剤的な作用をなし、溶融樹脂の混練による発熱を低く抑える作用と共に、溶融混練での押出機の負荷を低減させる作用が生じる。
フルオロポリマーの水性ディスパージョンを使用する場合において、その配合位置は、ゾーン(a) へ供給することが好ましく、ゾーン(a) においてフルオロポリマーの水性ディスパージョンが供給される最も好ましい位置は、既に述べたように、樹脂成分の投入用ホッパー下であり、さらに、該ホッパー下のシリンダーブロックの温度は、好ましくは30〜100℃、更に好ましくは40〜70℃である。
【0097】
さらに本発明の方法では、押出機のスクリュー回転数が高回転であるほど樹脂組成物中のフルオロポリマーの分散性が向上し、優れた燃焼物滴下防止機能を有する樹脂組成物を得ることができる傾向にある。押出機のスクリューの回転数は200〜1,500rpmが好ましく、より好ましくは300〜1,000rpm、更に好ましくは400〜800rpmである。しかしながら、一方で、スクリュー回転数の増大と共に混練時の溶融樹脂の発熱が増大し、樹脂組成物の色調や機械的物性を低下させるので、スクリュー回転数は、押出機中の樹脂温度、各成分の供給速度、比エネルギー等を考慮して決定される。
【0098】
また、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを押出機に直接連続供給するに当たり、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンの温度を5〜30℃、好ましくは5〜20℃、さらに好ましくは5〜15℃として供給することが好ましい。該フルオロポリマーの水性ディスパージョンは温度の上昇と共にフルオロポリマーの凝集が起こりやすくなり、該ディスパージョンの温度が30℃を越える場合は、該水性ディスパージョン供給用のポンプや供給ライン内で、フルオロポリマーの凝集が原因となる閉塞が生じることがある。また、該ディスパージョンの温度を5℃未満に下げても、実質的に得られる効果が少なく、また冷却に無駄なエネルギーを要するので好ましくない。
【0099】
該フルオロポリマーの水性ディスパージョン用のフィードポンプとしては、ダイヤフラムポンプ、プランジャーポンプ、チュービングポンプ等を使用することができ、連続的に定量的にフィードするためにはダイヤフラムポンプが特に好ましい。特に、機械的な接触部分が少ないポンプを使用することが、フルオロポリマーの凝集を抑えることができ、供給の安定性の点で好ましい。ここで、「機械的な接触部分」とはポンプ作用を発生させるために必要な部品間の接触が生じる部分、すなわち、ダイヤフラムポンプであればダイヤフラム部分及び逆止弁部分、プランジャーポンプであればピストン部分及び逆止弁部分、チュービングポンプであればチューブのピンチ部分(ローター部分)が具体的に示される。
また、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンの押出機への供給ライン、及び押出機への注入用ノズルは二重管構造とし、更に循環型チラー等の冷却装置を使用して冷却する等の措置を講じて、フルオロポリマーの水性ディスパージョンの凝集による供給ライン及び注入用ノズル部分での閉塞を防止することが好ましい。
【0100】
以下、本発明の方法の好ましい一態様について図1を参照して説明する。
図1は、本発明の方法において好適に用いることができる押出機の一例の内部構造を示す説明的概略側断面図である。
図1に示す押出機は、9個のシリンダーブロックB1〜B9(押出機の最も上流のシリンダーブロックを第1シリンダーブロック、最も下流側のシリンダーブロックを第9シリンダーブロックとする)と1個のダイアダプターブロック8から構成される、かみ合い型の同方向回転2軸押出機の押出機である。図1に示す押出機のスクリューの構成に関しては、押出機スクリューエレメントを適宜組み合わせることにより所望の構成を得ることができ、さらに各シリンダーブロックは独立して温度を制御することが可能である。
図1において、a、b及びcで示されている領域がそれぞれ、樹脂成分が未溶融状態に維持されているゾーン(a) 、該樹脂成分が部分的溶融状態に維持されているゾーン(b) 、及び該樹脂成分が完全な溶融状態に維持されているゾーン(c) である。
【0101】
図1に示す押出機は、押出機の押出し方向に見て上流から下流に向かって、5個の順方向フライトスクリューエレメント10、1個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる順方向ニーディングエレメント11、1個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる逆方向ニーディングエレメント12、2個の順方向スクリューミキシングエレメント13、2個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる順方向ニーディングエレメント11、2個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなるニュートラルニーディングエレメント14、1個の7枚の擬楕円形ディスクを積層してなる逆方向ニーディングエレメント12、1個の逆方向フライトスクリューエレメント15、3個の順方向フライトスクリューエレメント10、1個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる順方向ニーディングエレメント11、1個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる逆方向ニーディングエレメント12、1個の逆方向フライトスクリューエレメント15、及び4個の順方向フライトスクリューエレメント10の組み合わせからなるスクリューを有している。
また、9個のシリンダーブロックB1〜B9の設定温度は、第1シリンダーブロックB1は30〜70℃、第2シリンダーブロックB2は180〜220℃、第3シリンダーブロックB3は220〜260℃、第4シリンダーブロックB4は220〜280℃、第5〜第9シリンダーブロックB5〜B9は220〜270℃とし、ダイアダプターブロック8の設定温度は230〜270℃とする。
【0102】
本発明の方法では、樹脂成分3a-1(ポリカーボネートのみ、又はポリカーボネートと上記のポリカーボネート以外の樹脂)や添加剤成分3a-2等は重量フィーダーやベルトフィーダー等を使用してそれぞれ独立に定量的に押出機のホッパー2を経て供給口1(a')に供給される。これらの成分用の定量フィーダーの個数は特に限定されない。フルオロポリマーの水性ディスパージョンは、樹脂成分と予め混合することなく独立して、ゾーン(a) に相当する第1及び第2シリンダーブロックB1及びB2、好ましくはホッパー2下部の第1シリンダーブロックB1へ、冷却された注入用ノズル4を経て、ダイヤフラムポンプやプランジャーポンプにより、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、0.01〜10%の供給速度(kg/hr)で連続供給される。上記したように、図1において第1シリンダーブロックB1の温度は30〜70℃に設定することが好ましい。
【0103】
図1の第3〜5シリンダーブロックB3〜B5内が該樹脂成分が部分的溶融状態に維持されているゾーン(b) に相当し、溶融した樹脂成分と未溶融の樹脂成分が混在する押出機ゾーンである。有機リン化合物は予め60〜120℃に加熱し、ギアポンプ(図示しない)あるいはプランジャーポンプ(図示しない)により、第4シリンダーブロックB4に装着した注入ノズル5bを通じて、供給口5(b' )から、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して1〜30%の供給速度(kg/hr)で押出機へ連続供給される。該注入ノズル5bは、有機リン化合物の逆流防止用樹脂充満ゾーンIと主たる混練ゾーンIIの中間部分に設けるが、これを介して供給された有機リン化合物は、樹脂成分が溶融する過程において溶融可塑剤的な作用をし、押出機の負荷を下げ、せん断発熱を低下させることができ、高性能の樹脂組成物を高い生産速度で生産することが可能となる。
【0104】
図1において、有機リン化合物の逆流防止用樹脂充満ゾーンIは、1個の順方向ニーディングエレメント11と1個の逆方向ニーディングエレメント12の組み合わせによって形成されている。このような押出機スクリュー構成により、樹脂成分の一部がせん断力により押しつぶされて溶融し、更に該逆方向ニーディングエレメントが有する上流側への樹脂移動作用により樹脂の充満率が0.7〜1.0の範囲の状態を得ることができる。これにより、図1の供給口5(b')より供給される有機リン化合物の、押出し方向に見て上流側への逆流を抑止することができる。
【0105】
図1における主たる混練ゾーンIIにおいて、樹脂成分、有機リン化合物、及びフルオロポリマー、更には所望により添加されるその他の成分が、順方向ニーディングエレメント11、ニュートラルニーディングエレメント14、逆方向ニーディングエレメント12、逆方向フライトスクリューエレメント15の組み合わせにより、樹脂充満率が1の状態で十分に溶融混練される。主たる混練ゾーンIIでの溶融混練が不十分であると、得られる樹脂組成物の品質が安定しないばかりか、ストランド切れ等の運転上のトラブルが発生して押出機を停止せざるを得なくなるなどして、連続製造の安定性が失われる。しかしながら、一方で溶融混練が過剰になりすぎると樹脂組成物の色調や、難燃性や機械的物性の低下を招くので好ましくない。
【0106】
図1におけるベントアップ防止用樹脂充満ゾーンIII では、ベント6での溶融樹脂のベントアップを防止するために樹脂の充満率を高める。図1においては、1個の順方向ニーディングエレメント11、1個の逆方向ニーディングエレメント12及び1個の逆方向フライトスクリューエレメント15の組み合わせにより、ベントアップ防止用樹脂充満ゾーンIII を形成している。このゾーンIII において、必要に応じて溶融樹脂の混練度を高めることも可能である。
図1に示すベント6によって、開放脱揮、好ましくは減圧脱揮を行うことができる。
また、必要に応じて異物除去用のスクリーン7をダイアダプターブロック8に装着する。樹脂組成物を吐出口9からストランドとして押し出した後、水冷、ペレタイズしてペレット状の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得る。
【0107】
本発明の製造方法において、樹脂温度はダイ付近に装着された熱電対により測定される。樹脂温度及び比エネルギーは、スクリュー構成、原材料の供給速度、スクリュー回転数、押出機設定温度、等の運転条件により影響を受けるが、本発明においては、これらの運転条件を適宜選択して、樹脂温度を300℃以下にする必要があり、また、比エネルギーを0.13〜0.20kW・hr/kgの範囲になるようすることが好ましい。
本発明の方法により得られた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物から各種の成形品を得るための成形方法は特に限定されないが、例えば、押し出し成形、圧縮成形、射出成形、ガスアシスト成形等が挙げられ、中でも射出成形が好ましい。成形品の例としては、ノート型パソコン筐体、パソコンモニター、コピー機、プリンター、複写機等のOA機器の筐体、OA機器シャーシ、携帯電話のハウジング等が挙げられる。
【0108】
【発明の実施の形態】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、何らこれに限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例においては、以下の成分を用いてポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
1.芳香族ポリカーボネート
(PC−1)
ホスゲン法により製造されたペレット状のビスフェノールA系ポリカーボネート、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名「ユーピロンS−2000」と商品名「ユーピロンH−4000」のペレット混合物
(S−2000/H−4000=60/40(重量比))
【0109】
(PC−2)
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートから、溶融エステル交換法により製造されたペレット状のビスフェノールA系ポリカーボネート
(重量平均分子量(Mw)=22,000、フェノール性末端基比率(フェノール性末端基が全末端基数に占める割合)=33%)
(PC−3)
ホスゲン法により製造されたビスフェノールA系ポリカーボネートのパウダー状樹脂とペレット状樹脂の混合物
(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名「ユーピロンS−2000F」(パウダー状)と商品名「ユーピロンH−4000」(ペレット状)の重量比S−2000F/H−4000=75/25のパウダー樹脂/ペレット樹脂混合物)
【0110】
2.ゴム変性スチレン系樹脂
(ABS−1)
塊状重合アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂と乳化重合ABSの混合物からなるペレット状のABS樹脂(ブタジエンゴム含有量:22wt%)、(台湾国、奇美実業製「PA709N」)
(ABS−2)
パウダー状のABS樹脂
三菱レーヨン(株)製「RC」
(SAN)
ペレット状のアクリロニトリル単位25.0wt%、スチレン単位75.0wt%からなるアクリロニトリル−スチレン共重合体(Mw=110,000)
(MBS)
パウダー状のメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(台湾国、台湾プラスチックス製「M−51」)
【0111】
3.有機リン化合物
(ホスフェート−1)
前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーであって、置換基Ra 、Rb 、Rc 、及びRd が全てフェニル基であり、重量平均縮合度(N)が1.10であり、酸価が0.01mgKOH/gであり、マグネシウム含有量が2.5ppmであり、塩素含有量が1ppm以下であるもの。
(ホスフェート−2)
前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーであって、置換基Ra 、Rb 、Rc 、及びRd が全てフェニル基であり、重量平均縮合度(N)が1.12であり、酸価が0.05mgKOH/gであり、マグネシウム含有量が5.2ppmであり、塩素含有量が1ppm以下であるもの。
【0112】
(ホスフェート−3)
前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーであって、置換基Ra 、Rb 、Rc 、及びRd が全てフェニル基であり、重量平均縮合度(N)が1.09であり、酸価が0.51mgKOH/gであり、マグネシウム含有量が7.5ppmであり、塩素含有量が1ppm以下であるもの。
(ホスフェート−4)
酸価が0.05mgKOH/gであり、マグネシウム含有量が3.4ppmのレゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート(大八化学工業(株)製「CR733S」)
【0113】
4.フルオロポリマー
(Dis.PTFE)
固形分含有量が60wt%であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを界面活性剤として含有する水性PTFEディスパージョン(ダイキン工業(株)製・ポリテトラフルオロエチレンの水性PTFEディスパージョン(商品名「ポリフロン D−2CE」))
(PTFE混合粉体)
ポリテトラフルオロエチレンとアクリロニトリル−スチレン共重合体の50/50(重量比)粉体状混合物(米国、GEスペシャリティ・ケミカルズ(株)社製 商品名「Blendex 449」)
【0114】
5.その他の成分
(添加剤−1)
n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジターシャリーブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(スイス国、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名「IRGANOX 1076」)
(添加剤−2)
トリス(2,4−ジターシャリーブチルフェニル)ホスファイト(スイス国、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名「IRGAFOS 168」)
【0115】
【実施例1】
図2に示す構造を有する2軸押出機(TEM−58SS、L/D=37、東芝機械(株)社製)で溶融混練を行い、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
図2に示す押出機のスクリュー構成は、押出し方向に見て上流から下流に向かって、5個の順方向フライトスクリューエレメント10、1個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる順方向ニーディングエレメント11、2個の順方向スクリューミキシングエレメント13、3個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる順方向ニーディングエレメント11、2個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなるニュートラルニーディングエレメント14、1個の7枚の擬楕円形ディスクを積層してなる逆方向ニーディングエレメント12、1個の逆方向フライトスクリューエレメント15、4個の順方向フライトスクリューエレメント10、1個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる順方向ニーディングエレメント11、1個の7枚の擬楕円形ディスクを積層してなる逆方向ニーディングエレメント12、及び、4個の順方向フライトスクリューエレメント10の組み合わせとした。
また、9個のシリンダーブロックB1〜B9の設定温度に関しては、第1シリンダーブロックB1は50℃、第2シリンダーブロックB2は220℃、第3シリンダーブロックB3は250℃、第4シリンダーブロックB4は260℃、第5〜第9シリンダーブロックB5〜B9は250℃とし、ダイアダプターブロック8の設定温度は250℃とした。
【0116】
ポリカーボネート樹脂ペレット混合物(PC−1)3a-1を560kg/hrで、ペレット状のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS−1)3a-2を120kg/hrで、パウダー状のメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)3a-3を20kg/hrで、さらに、添加剤−1と添加剤−2のパウダー混合物3a-4(添加剤−1:添加剤−2=10:1)を0.7kg/hrでホッパー2を介して供給口1(a' )に連続供給した。また、10℃に冷却されたフルオロポリマー水性ディスパージョン(Dis.PTFE)を循環式冷媒により10℃に冷却された注入用ノズル4を介して、ダイヤフラムポンプにより3.5kg/hrの供給速度で供給口1(a' )より連続供給した。図2において符号aで示すゾーンが本発明におけるゾーン(a) であり、供給口1(a' )から目視にて、樹脂成分が溶融していないことを確認した。
【0117】
さらに、有機リン化合物(ホスフェート−1)を予め80℃に加熱した後、プランジャーポンプを用いて注入用ノズル5bから100kg/hrの供給速度で供給口5(b' )連続供給した。尚、図2において符号bで示すゾーンが本発明におけるゾーン(b) であり、シリンダーブロックB4に設けたのぞき窓(図示しない)により樹脂成分が部分的溶融状態であることを目視にて確認した。
図2中のゾーンIは、供給口5(b' )の押出し方向にみて上流に位置するゾーンIにおいて樹脂充満率を高めることにより、供給口5(b' )から供給された有機リン化合物の逆流を防ぐために上記順方向ニーディングエレメント11が配置されてなる「有機リン化合物の逆流防止用樹脂充満ゾーン」である。
【0118】
ゾーンIIは、3個の順方向ニーディングエレメント11、2個のニュートラルニーディングエレメント14、1個の逆方向ニーディングエレメント12、1個の逆方向フライトスクリューエレメント15が配置されてなる「主たる混練ゾーン」である。また、ゾーンIII は、樹脂充満率を高めることにより、ベント6から溶融樹脂が流出することを防ぐために1個の順方向ニーディングエレメント11、1個の逆方向ニーディングエレメント12が配置されてなる「ベントアップ防止用樹脂充満ゾーン」である。
押出機スクリューの回転数は480rpmとし、さらに、ベント6より50mmHgで減圧脱揮を行った。また、ダイ−アダプターブロック8に120メッシュのスクリーン7を装着した。吐出口9より押出された樹脂組成物のストランドを水冷し、ペレット化を行うことにより難燃性ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0119】
実施例1における押出特性、並びに得られた樹脂組成物の物性を以下の方法で評価した。
(1)ダイ部の溶融樹脂温度
ダイ付近での溶融樹脂温度を熱電対により測定した。(単位:℃)
(2)樹脂成分の押出機内滞留時間
押出機への各原料成分の供給が安定した後、樹脂成分供給口1(a')より黒のカラーマスターバッチのペレットを2〜3個投入し、投入直後から押出機のダイ部より黒く着色された溶融樹脂が現れるまでの時間をストップウオッチにより計測した。(単位:秒)
【0120】
(3)難燃性
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度260℃、金型温度60℃に設定した射出成形機(オートショット50D、、ファナック社製)で成形し、燃焼試験用の短冊形状成形体(厚さ1/16インチ)を作成し、UL94規格20MM垂直燃焼試験(V−0、V−1またはV−2に分類する(難燃性の程度:V−0>V−1>V−2))に基づいて難燃性レベルを評価した。
(4)80℃、95RH%環境下でのノッチ付き1/8”アイゾット強度変化
1/8インチ厚の試験用短冊片をシリンダー温度240℃、金型温度60℃に設定した射出成形機で成形した。試験短冊片を高温高湿環境下(80℃、95RH%)に曝し、アイゾット強度の経時変化をASTM D256に準じて、1/8インチ厚、ノッチ付きで測定した。(単位:kgf ・ cm/cm )
【0121】
(5)80℃、95RH%環境下での色調変化
1/8インチ厚の試験用短冊片をシリンダー温度240℃、金型温度60℃に設定した射出成形機で成形した。試験短冊片を高温高湿環境下(80℃、95RH%)に曝し、イエローインデックス(YI)の経時変化をスガ試験機カラーコンピューター「モデルSM5色差計」により測定した。
結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1で製造された樹脂組成物は高温高湿環境下に曝された場合において、耐衝撃強度の経時劣化が遅く、かつ、YI値の増大が小さい(即ち、色調変化が小さい)ことがわかる。実施例1の結果は、本発明の製造方法により、高温高湿環境下に長時間曝露された場合においても機械的物性の低下や色調の低下が極めて少ない、有機リン化合物により難燃化された難燃性ポリカーボネート組成物が得られることを示している。
【0122】
【実施例2】
ホスフェート−1をホスフェート−2に変更した以外は実施例1と同じ条件で樹脂組成物を製造した。
実施例2における押出特性、並びに得られた樹脂組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。
【実施例3】
ホスフェート−1をホスフェート−4に変更した以外は実施例1と同じ条件で樹脂組成物を製造した。
実施例3における押出特性、並びに得られた樹脂組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0123】
【比較例1】
ホスフェート−1をホスフェート−3に変更した以外は実施例1と同じ条件で樹脂組成物を製造した。
比較例1における押出特性、並びに得られた樹脂組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。表1から明らかなように、比較例1は実施例1に較べて高温高湿環境下に曝された場合の耐衝撃強度の経時劣化が早く進行し、また、YI値の増大が大きい(即ち、色調劣化が激しい)。
【比較例2】
押出機の9個のシリンダーブロックB1〜B9の設定温度を、第1シリンダーブロックB1は50℃、第2シリンダーブロックB2は260℃、第3シリンダーブロックB3は280℃、第4〜第9シリンダーブロックB4〜B9は300℃とし、ダイアダプターブロック8の設定温度を300℃とした以外は全て実施例1と同じ条件で樹脂組成物を製造した。比較例2ではダイ部の溶融樹脂温度が312℃であった。比較例2における押出特性、並びに得られた樹脂組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0124】
【比較例3】
押出機のスクリュー回転数を480rpmから900rpmに変更した以外は実施例1と同じ条件で樹脂組成物を製造した。比較例3ではダイ部の溶融樹脂温度が321℃であった。比較例3における押出特性、並びに得られた樹脂組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。
【比較例4】
ポリカーボネート樹脂(PC−1)3a-1の供給速度を140kg/hr、ABS樹脂(ABS−1)3a-2の供給速度を30kg/hr、MBS樹脂3a-3の供給速度を5kg/hr、添加剤−1と添加剤−2のパウダー混合物3a-4(添加剤−1:添加剤−2=10:1)の供給速度を0.17kg/hr、Dis.PTFEの供給速度を0.87kg/hr、ホスフェート−1の供給速度を25kg/hrとし、スクリュー回転数を350rpmとした以外は実施例1と同様にして、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを製造した。比較例4における押出特性、並びに得られた樹脂組成物の物性を実施例と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0125】
【表1】
Figure 0004744034
【0126】
【実施例4】
図3に示す構造を有する2軸押出機(ZSK−25、L/D=37、ドイツ国、Werner & Pfleiderer 社製)で溶融混練を行い、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
図3の押出機のスクリュー機構は、押出し方向に見て上流から下流に向かって、7個の順方向フライトスクリューエレメント10、1個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる順方向ニーディングエレメント11、2個の順方向スクリューミキシングエレメント13、1個の順方向フライトスクリューエレメント10、2個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる順方向ニーディングエレメント11、2個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなるニュートラルニーディングエレメント14、1個の7枚の擬楕円形ディスクを積層してなる逆方向ニーディングエレメント12、1個の逆方向フライトスクリューエレメント15、4個の順方向フライトスクリューエレメント10、1個の5枚の擬楕円形ディスクを積層してなる順方向ニーディングエレメント11、1個の7枚の擬楕円形ディスクを積層してなる逆方向ニーディングエレメント12、及び、5個の順方向フライトスクリューエレメント10の組み合わせとした。
【0127】
また、10個のシリンダーブロックB1〜B10の設定温度に関しては、第1シリンダーブロックB1は50℃、第2シリンダーブロックB2は220℃、第3シリンダーブロックB3は250℃、第4シリンダーブロックB4は260℃、第5〜第10シリンダーブロックB5〜B10は250℃とし、ダイアダプターブロック8の設定温度は250℃とした。
下記組成比で予め混合して得られた原料混合物を3a-1、20kg/hrの供給速度でホッパー2を介して供給口1(a’)に連続供給した。
Figure 0004744034
また、有機リン化合物(ホスフェート−1)を予め80℃に加熱した後、キアポンプを用いて注入ノズル5bから2.8kg/hrの供給速度で供給口5(b’)へ連続供給した。
【0128】
図3中のゾーンIは、供給口5(b’)の押出方向にみて上流に位置するゾーンIにおいて、樹脂充満率を高めることにより、供給口5(b’)から供給された有機リン化合物の逆流を防ぐために上記順方向ニーディングエレメント11が配置されてなる「有機リン化合物の逆流防止用樹脂充満ゾーン」である。ゾーンIIは、2個の順方向ニーディングエレメント10、2個のニュートラルニーディングエレメント14、1個の逆方向フライトスクリューエレメント15が配置されてなる「主たる混練ゾーン」である。ゾーンIII は、ベント6の押出方向にみて上流に位置するゾーン IIIにおいて、樹脂充満率を高めることにより、ベント6から溶融樹脂が流出することを防ぐために1個の順方向ニーディングエレメント11、1個の逆方向ニーディングエレメント12が配置されてなる「ベントアップ防止用樹脂充満ゾーン」である。
押出機スクリューの回転数は300rpmとし、さらに、脱揮口より20mmHgで減圧脱揮を行った。ダイ(3mm×6穴)より押出された樹脂組成物のストランドを水冷し、ペレタイズを行うことにより難燃性ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
実施例4における押出特性、並びに得られた実施例組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0129】
【比較例5】
原料混合物3a-1の押出機への供給速度を10kg/hrとし、ホスフェート−1の供給速度を1.4kg/hrとした以外は実施例4と同じ条件で難燃性ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
比較例5における押出特性、並びに得られた実施例組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0130】
【実施例5】
原料混合物3a-1の組成を以下のように変更した以外は実施例4と同じ条件で難燃性ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
Figure 0004744034
実施例5における押出特性、並びに得られた実施例組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0131】
【比較例6】
原料混合物3a-1の押出機への供給速度を10kg/hrとし、ホスフェート−1の供給速度を1.4kg/hrとした以外は実施例5と同じ条件で難燃性ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
比較例6における押出特性、並びに得られた実施例組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0132】
【表2】
Figure 0004744034
【0133】
【実施例6】
原料混合物3a-1の組成を下記のように変更した以外は実施例4と同じ条件で難燃性ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
Figure 0004744034
実施例6における押出特性、並びに得られた樹脂組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0134】
【比較例7】
ホスフェート−1をホスフェート−3に変更した以外は全て実施例6と同じ条件で樹脂組成物を製造した。比較例7における押出特性、並びに得られた樹脂組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0135】
【表3】
Figure 0004744034
【0136】
【発明の効果】
本発明の方法によれば、高温高湿環境下に長時間暴露された場合においても、機械的物性及び色調の低下が極めて少ない、有機リン化合物により難燃化された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができるので、本発明の方法は工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の方法に用いる押出機の1例の内部構造を示す説明的概略側断面図である。
【図2】実施例1〜3及び比較例1〜4において用いられた押出機の内部構造を示す説明的概略側断面図である。
【図3】実施例4〜6及び比較例5〜7において用いられた押出機の内部構造を示す説明的概略側断面図である。
【図4】図4(a)は押出機の回転軸に取付けた順方向フライトスクリューエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図4(b)は上記順方向フライトスクリューエレメントの概略側面図である。
【図5】図5(a)は押出機の回転軸に取付けた逆方向フライトスクリューエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図5(b)は上記逆方向フライトスクリューエレメントの概略側面図である。
【図6】図6(a)は押出機の回転軸に固定された順方向ニーディングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図6(b)は上記順方向ニーディングエレメントの概略側面図である。
【図7】図7(a)は押出機の回転軸に取付けた逆方向ニーディングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図7(b)は上記逆方向ニーディングエレメントの概略側面図である。
【図8】図8(a)は押出機の回転軸に取付けたニュートラルニーディングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図8(b)は上記ニュートラルニーディングエレメントの概略側面図である。
【図9】図9(a)は押出機の回転軸に取付けた順方向スクリューミキシングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図9(b)は上記順方向スクリューミキシングエレメントの概略側面図である。
【図10】図10(a)は押出機の回転軸に取付けた逆方向スクリューミキシングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図10(b)は上記逆方向スクリューミキシングエレメントの概略側面図である。
【図11】図11(a)は押出機の回転軸に取付けたシールリングエレメントを、押出機の吐出口の方向から見た概略図であり、図11(b)は上記シールリングエレメントの概略側面図である。
【符号の説明】
a 樹脂成分が未溶融状態に維持されているゾーン(a)
b 樹脂成分が部分的溶融状態に維持されているゾーン(b)
c 樹脂成分が完全な溶融状態に維持されているゾーン(c)
I ゾーン(b) に供給した有機リン化合物がゾーン(a) に逆流することを防ぐためのゾーンI
II 樹脂成分、有機リン化合物、及びフルオロポリマーの水性ディスパージョンを混練するためのゾーンII
III 溶融樹脂がベントから流出すること(樹脂のベントアップ)を防ぐためのゾーン
B1〜B10 第1〜第10シリンダーブロック
1(a') 樹脂成分及びフルオロポリマーの水性ディスパージョンの供給口(a')
2 ホッパー
3a-1 ポリカーボネート又はポリカーボネートを含む原料混合物
3a-2、3a-3及び3a-4 ポリカーボネート以外の樹脂又は添加剤
4 フルオロポリマーの水性ディスパージョン供給用ノズル
5(b') 有機リン化合物の供給口(b')
5a 有機リン化合物供給用ノズル
6 ベント
7 スクリーン
8 ダイアダプターブロック
9 難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の吐出口
10 順方向フライトスクリューエレメント
11 順方向ニーディングエレメント
12 逆方向ニーディングエレメント
13 順方向スクリューミキシングエレメント
14 ニュートラルニーディングエレメント
15 逆方向フライトスクリューエレメント
16 スクリュー回転軸
17 回転軸の軸線
18 押出機の吐出口の側から見た回転軸の回転方向
S1〜S5 図6〜8に示すニーディングエレメントを構成する擬楕円形ディスク

Claims (13)

  1. 主としてポリカーボネートからなる樹脂成分、及び有機リン化合物をスクリュー押出機を用いて混練して難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、
    該押出機として、該樹脂成分及び該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口、及び該混練によって得られる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の吐出口を有する押出機を用いる方法において、該樹脂成分を供給口を介して該押出機に連続的に供給し、一方、該有機リン化合物を、該樹脂成分の供給に用いたのと同じ供給口または該樹脂成分の供給に用いたのとは異なる供給口を介して押出機に連続的に供給し、該有機リン化合物の酸価が0.1mgKOH/g以下であり、該樹脂成分及び該有機リン化合物を、混練しながら該吐出口に向かって押出し、その際、該押出しを、該押出機中の樹脂の温度が300℃以下であって、押出機における該樹脂成分の滞留時間が40秒以下である条件下で行うことにより、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を生成し、これと同時に該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を上記吐出口より抜き出す、ことを特徴とする該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
  2. 押出機における該樹脂成分の滞留時間が30秒以下であることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
  3. 該押出機が2軸押出機であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 該押出機に供給される樹脂成分が固体であり、該押出機が、ゾーン(a) 、ゾーン(b) 及びゾーン(c) が押出し方向に見てこの順序に配置されてなり、該ゾーン(c) が該吐出口と直接連通している押出機であって、ゾーン(a) においては、該樹脂成分を未溶融状態に維持し、ゾーン(b) においては、該樹脂成分を部分的溶融状態に維持し、ゾーン(c) においては、該樹脂成分を完全に溶融状態に維持することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
  5. 該押出機が、ゾーン(a) に直接連通する該樹脂成分のための供給口(a')及びゾーン(b) に直接連通する該有機リン化合物のための供給口(b')を有しており、該樹脂成分を供給口(a')を介してゾーン(a) に供給し、該有機リン化合物を供給口(b')を介してゾーン(b) に供給し、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、該有機リン化合物の供給速度(kg/hr)が1〜30%であることを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
  6. 該ゾーン(b) に供給した有機リン化合物が該ゾーン(a) に逆流することを防ぐためのゾーンであって、該ゾーン(b) 内の、該押出機の押出し方向に見て有機リン化合物供給位置の上流側に配置されたゾーンIにおいて、該押出機の内部空間における該樹脂成分の容積比として定義される樹脂充満率を増加させ、且つ該樹脂成分及び該有機リン化合物の混練を、主として、該押出機の押出し方向に見て有機リン化合物供給位置の下流側の領域IIにおいて行うことを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
  7. 該樹脂成分が、ポリカーボネートとゴム変性樹脂とからなることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
  8. 該有機リン化合物が、下記式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
    Figure 0004744034
  9. 押出機のゾーン(b) に供給される該有機リン化合物中に含まれる金属原子及び塩素原子の量がそれぞれ30ppm以下及び20ppm以下であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
  10. フルオロポリマーを更に該押出機に供給することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
  11. 該押出機が、ゾーン(a) に直接連通する1つ又は複数の供給口(a')を有しており、該樹脂成分を、供給口(a')を介してゾーン(a) に供給し、一方、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを、該樹脂成分とは別に、樹脂成分の供給に用いたのと同じ供給口(a')または樹脂成分の供給に用いたのとは異なる供給口(a')を介してゾーン(a) に供給し、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンの供給速度(kg/hr)が0.01〜10%であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
  12. 該押出機のゾーン(a) に供給されるフルオロポリマーの水性ディスパージョンの温度が5〜30℃であることを特徴とする請求項11に記載の製造方法。
  13. 請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法により製造された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を成形して得られる成形品。
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