JP4004804B2 - 難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、有機リン化合物を難燃剤として含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。さらに詳細には、有機リン化合物の配合量が比較的多い難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を、混練不良を生じることなく安定に生産することができ、同時に、該組成物の難燃性、機械的物性、及び色調に優れる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性樹脂に有機リン化合物を難燃剤として用いる難燃性樹脂組成物は、一般に、スクリュー押出機等の溶融混練装置を用いて原料熱可塑性樹脂と有機リン化合物を溶融混練することにより製造される。従来方法では、(1)押出機に取り付けた1つの供給口を介して、樹脂成分と有機リン化合物を同時に押出機に供給して溶融混練を行う方法、(2)樹脂成分のみを押出機上流位置に取り付けた供給口を介して押出機に供給して樹脂成分を溶融させ、しかる後に樹脂成分の供給口より樹脂の流れ方向対して下流位置に設けられた有機リン化合物のための1つの供給口を介して、樹脂成分とは別に該有機リン化合物を押出機に供給して混練を行う方法(特開平8−92264号公報)、更には(3)樹脂成分のみを押出機上流位置に取り付けた供給口を介して押出機に供給して樹脂成分を溶融させ、しかる後に、樹脂成分の供給口より樹脂の流れ方向対して下流位置に設けられた有機リン化合物のための2つ以上の供給口を介して、樹脂成分とは別に該有機リン化合物を押出機に供給して混練を行う方法(特開平8−134261号公報、特開平11−188775号公報)、等の方法が知られている。
【0003】
上記、特開平8−92264号公報、特開平8−134261号公報、及び、特開平11−188775号公報で開示されている方法は、原料樹脂成分を完全に溶融させた後に有機リン化合物を押出機に供給して混練を行う方法であり、上記公報に開示される方法により、熱可塑性樹脂と液状の有機リン化合物の溶融混練を押出機を用いて安定に行うことができる。すなわち、熱可塑性樹脂と有機リン化合物の溶融混練において生じる、特に有機リン化合物の配合量が樹脂成分100重量部に対して10〜50重量部となるような有機リン化合物の配合量が比較的多い難燃性樹脂組成物を製造する場合において生じやすい、有機リン化合物と熱可塑性樹脂の混練不良、混練中に有機リン化合物が押出機のダイ部分やベント口から吹き出すトラブル、溶融樹脂の混練不良に起因するストランド切れトラブル、等の生産上の障害を起こすことなく、難燃性樹脂組成物を押出機により安定に製造することができる。
【0004】
しかしながら、前記公報に開示の方法はいずれも、「原料樹脂成分を完全に溶融させた後に有機リン化合物を押出機に供給して混練を行う方法」である。従って、これらの公報で開示された技術では、有機リン化合物の供給口よりも上流側で原料樹脂は完全に溶融させておく必要がある。しかしながら、原料樹脂供給口と有機リン化合物の供給口までの押出機ゾーン長さは、装置的な制約から原料樹脂を加熱昇温するのに十分な長さのゾーン長を得ることは通常困難であるので、従って、原料樹脂成分は加熱昇温が不十分な状態で、かつ、短い押出機混練ゾーンで原料樹脂を溶融させる必要が生じる。しかるに、原料樹脂を短い混練ゾーンで完全に溶融させる過程で、該原料樹脂に過剰のせん断発熱を発生させる結果となり、このため樹脂に対して少なからざる悪影響を与えるという欠点があった。すなわち、樹脂に過剰のせん断発熱を発生させることにより、最終的に得られる難燃性樹脂組成物の機械的物性、色調、および難燃性といった諸性能を低下させてしまう問題があった。
【0005】
とりわけ、使用する樹脂が主としてポリカーボネートを主体とする樹脂成分である場合には、前記「原料樹脂成分を完全に溶融させた後に有機リン化合物を押出機に供給して混練を行う方法」では、ポリカーボネートの高い溶融粘性のために、押出機に対する負荷が大きくなり、難燃性樹脂組成物の生産量が低下してしまうばかりでなく、過剰のせん断発熱の発生に起因する色調の低下や難燃性の低下に与える影響が顕著となる傾向にある。
従って、有機リン化合物を含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物をスクリュー押出機により製造するにおいて、多くの有機リン化合物が配合される場合においても混練不良を生じることなく安定に溶融混練を行うことができ、かつ、溶融混練時における溶融樹脂の発熱を抑制することにより、色調、機械的物性、及び難燃性が同時に優れた樹脂組成物を製造することができる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法が強く要望されているにもかかわらず、満足できる方法に達していないのが現状である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、有機リン化合物を含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物をスクリュー押出機により製造するにおいて、多くの有機リン化合物が配合される場合においても混練不良を生じることなく安定に溶融混練を行うことができ、かつ、溶融混練時における溶融樹脂の発熱を抑制することにより、色調、機械的物性、及び難燃性が同時に優れた樹脂組成物を製造することができる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物製造方法を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を達成するために鋭意検討した。
その結果、主としてポリカーボネートからなる樹脂成分、及び有機リン化合物を、スクリュー押出機を用いて混練して、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、
該スクリュー押出機として、ゾーン(a)、ゾーン(b)、ゾーン(c)及び該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の吐出口が押出し方向に見てこの順序に配置されてなり、該ゾーン(a)には該樹脂成分のための1つ又は複数の供給口(a’)が設けられており、該ゾーン(b)には該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口(b’)が設けられており、該ゾーン(c)には前記(b’)とは異なる該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口(c’)が設けられている押出機を用い、
その際、ゾーン(a)においては、該樹脂成分を未溶融状態に維持し、ゾーン(b)においては、該樹脂成分を部分的溶融状態に維持し、ゾーン(c)においては、該樹脂成分を完全溶融状態に維持し、
該樹脂成分は供給口(a’)を介してゾーン(a)に連続的に供給し、
該有機リン化合物は、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して5〜50%の供給速度で、供給口(b’)を介して該有機リン化合物の1〜90%をゾーン(b)に、供給口(c’)を介して該有機リン化合物の99〜10%をゾーン(c)にそれぞれ分割して連続的に供給し、
該樹脂成分、及び該有機リン化合物を混練しながら該吐出口に向かって押出すことを包含することを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法により、上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]主としてポリカーボネートからなる樹脂成分、及び有機リン化合物を、スクリュー押出機を用いて混練して、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、
該スクリュー押出機として、ゾーン(a)、ゾーン(b)、ゾーン(c)及び該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の吐出口が押出し方向に見てこの順序に配置されてなり、該ゾーン(a)には該樹脂成分のための1つ又は複数の供給口(a’)が設けられており、該ゾーン(b)には該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口(b’)が設けられており、該ゾーン(c)には前記(b’)とは異なる該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口(c’)が設けられている押出機を用い、
その際、ゾーン(a)においては、該樹脂成分を未溶融状態に維持し、ゾーン(b)においては、該樹脂成分を部分的溶融状態に維持し、ゾーン(c)においては、該樹脂成分を完全溶融状態に維持し、
該樹脂成分は供給口(a’)を介してゾーン(a)に連続的に供給し、
該有機リン化合物は、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して5〜50%の供給速度で、供給口(b’)を介して該有機リン化合物の1〜90%をゾーン(b)に、供給口(c’)を介して該有機リン化合物の99〜10%をゾーン(c)にそれぞれ分割して連続的に供給し、
該樹脂成分、及び該有機リン化合物を混練しながら該吐出口に向かって押出すことを包含し、
該押出機中の樹脂の温度を300℃以下とし、かつ該樹脂成分の押出機内滞留時間が1〜40秒であること
を特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【0009】
[2]該有機リン化合物が、供給口(b’)を介して該有機リン化合物の10〜50%をゾーン(b)に、供給口(c’)を介して該有機リン化合物の90〜50%をゾーン(c)にそれぞれ分割して連続的に供給することを特徴とする前記[1]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[3]該押出機が、2軸押出機であることを特徴とする前記[1]及び[2]のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[4]該樹脂成分が、ポリカーボネートとゴム変性樹脂とからなることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[5]該有機リン化合物が、下記式(1)で表される有機リン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【0010】
【化2】
【0011】
[6]該有機リン化合物が、酸価が0.1mgKOH/g以下であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[7]さらに、該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が、フルオロポリマーを含むことを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
[8]さらに、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して0.01〜10%の供給速度で、該樹脂成分とは別に、該ゾーン(a)に設けられた供給口(a’)を介して連続的に供給し、該樹脂成分、該有機リン化合物、及び該フルオロポリマーの水性ディスパージョンを混練しながら該吐出口に向かって押出すことを特徴とする前記[1]〜[6]に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明において好ましく使用される芳香族ポリカーボネートは、下記式(2)で表される繰り返し単位からなる主鎖を有する。
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、Arは、二価の炭素数5〜200の芳香族基であり、例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレンや、下記式(3)で表される基が挙げられる。)
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、Ar1及びAr2は、それぞれアリーレン基である。例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレン等の基を表し、Yは下記式(4)で表されるアルキレン基または置換アルキレン基である。)
【0017】
【化5】
【0018】
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、炭素数7〜31のアラルキル基であって、場合によりハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよく、kは3〜11の整数であり、R5及びR6は、各Xについて個々に選択され、お互いに独立に水素原子、または炭素数1〜6の低級アルキル基、炭素数6〜30のアリール基であって、場合によりハロゲン原子、炭素数1〜10のアルコキシ基で置換されていてもよく、Xは炭素原子を表す。)
また、下記式(5)で示される二価の芳香族基を共重合体成分として含有していても良い。
【0019】
【化6】
【0020】
(式中、Ar1、Ar2は式(3)と同じ。Zは単なる結合、または、−O−、−CO−、−S−、−SO2−、−CO2−、−CON(R1)−(R1は式(4)と同じ)等の二価の基である。)
上記式(2)のAr及び式(5)で表される二価の芳香族基の具体例としては、それぞれ下記式で表されるもの等が挙げられる。
【0021】
【化7】
【0022】
【化8】
【0023】
(式中、R7及びR8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数5〜10のシクロアルキル基または炭素数6〜30のアリール基である。m及びnは1〜4の整数で、mが2〜4の場合には各R7はそれぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2〜4の場合は各R8はそれぞれ同一でも異なるものであっても良い。)なかでも、下記式(6)で表される基が好ましい一例である。
【0024】
【化9】
【0025】
特に、上記の式(6)で表される基をArとする式(2)の繰り返し単位を85モル%以上(ポリカーボネート中の全モノマー単位を基準として)含むポリカーボネートが特に好ましい。
また、本発明に用いることができるポリカーボネートは、三価以上の炭素数6〜300の芳香族基を分岐点とする分岐構造を有しても良い。
ポリマー末端の分子構造は特に限定されないが、フェノール性末端基、アリールカーボネート基、アルキルカーボネート基から選ばれた1種以上の末端基を結合することができる。アリールカーボネート末端基は、下記式(7)で表される基である。
【0026】
【化10】
【0027】
(式中、Ar3は一価の炭素数6〜30の芳香族基であり、芳香環は置換されていても良い。)
アリールカーボネート末端基の具体例としては、例えば、下記式で表される基が挙げられる。
【0028】
【化11】
【0029】
アルキルカーボネート末端基は、下記式(8)で表される。
【0030】
【化12】
【0031】
(R9は炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐アルキル基を表す。)
アルキルカーボネート末端基の具体例としては、例えば下記式で表される基が挙げられる。
【0032】
【化13】
【0033】
これらの中で、フェノール性末端基、フェニルカーボネート基、p−t−ブチルフェニルカーボネート基、p−クミルフェニルカーボネート等が好ましく用いられる。
本発明において、フェノール性末端と他の末端との比率は、特に限定されないが、よりすぐれた色調や機械的物性を得る観点からは、フェノール性末端基の比率が全末端基数の20%以上であることが好ましく、20〜80%の範囲にあることが更に好ましい。フェノール性末端基の比率が全末端基数の80%を超えると、溶融時の熱安定性が若干低下する傾向にある。
【0034】
フェノール性末端量の測定方法は、一般にNMRを用いて測定する方法(NMR法)や、チタンを用いて測定する方法(チタン法)や、UVもしくはIRを用いて測定する方法(UV法もしくはIR法)で求めることができる。
本発明に使用される芳香族ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)は、一般に5,000〜50,000の範囲にあることが好ましく、より好ましくは10,000〜40,000であり、さらに好ましくは15,000〜30,000であり、特に好ましくは18,000〜25,000である。5,000未満では得られる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性が不十分になる傾向があり、また、50,000を越えると、樹脂組成物の溶融流動性が不十分になる傾向がある。
【0035】
重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて行い、測定条件は以下の通りである。即ち、テトラヒドロフランを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの較正曲線から下式を用いる計算によって得られた換算分子量較正曲線を用いて求められる。
MPC=0.3591MPS 1.0388
(式中、MPCはポリカーボネートの分子量、MPSはポリスチレンの分子量)
【0036】
本発明で用いられる芳香族ポリカーボネートは、公知の方法で製造したものを使用することができる。具体的には、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体を反応せしめる公知の方法、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(例えばホスゲン)を水酸化ナトリウム水溶液及び塩化メチレン溶媒の存在下に反応させる界面重合法(例えばホスゲン法)、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル(例えばジフェニルカーボネート)などを反応させるエステル交換法(溶融法)、ホスゲン法または溶融法で得られた結晶化カーボネートプレポリマーを固相重合する方法〔特開平1−158033号公報(米国特許第4,948,871号明細書に対応)、特開平1−271426号公報、特開平3−68627号公報(米国特許第5,204,377号明細書に対応)〕等の方法により製造されたものが用いられる。
【0037】
好ましい芳香族ポリカーボネートとしては、2価フェノール(芳香族ジヒドロキシ化合物)と炭酸ジエステルとからエステル交換法にて製造された実質的に塩素原子を含まない芳香族ポリカーボネート樹脂があげられる。
本発明では異なる構造や分子量の2種以上の異なるポリカーボネートを組み合わせて使用することも可能である。
本発明の方法において用いる樹脂成分は、上記のポリカーボネートのみからなっていてもよく、また、ポリカーボネートを主体として、ポリカーボネート以外の樹脂を含んでいてもよい。
【0038】
樹脂成分に用いるポリカーボネート以外の樹脂としては、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、メチルメタクリレート−スチレン(MS)樹脂等のスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−ブチルアクリレート−スチレン(AAS)樹脂、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)樹脂、HIPS(high impact polystyrene)樹脂等のゴム変性スチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びコアシェル型ゴムに代表される、耐衝撃性改良剤として使用されるグラフトゴムや各種のエラストマー等他を挙げることができ、これらの中で特に好ましく使用されるのはABS樹脂等のゴム変性スチレン系樹脂である。
【0039】
樹脂成分として、ポリカーボネートとポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂からなる樹脂成分を使用する場合、ポリカーボネート以外の熱可塑性樹脂は、樹脂成分の重量に対して、好ましくは50〜0.1重量%、より好ましくは40〜5重量%、更に好ましくは30〜10重量%で使用される。
本発明において、特に好ましく使用される樹脂成分は、ポリカーボネートとゴム変性樹脂からなる樹脂成分である。
ここで、ゴム変性樹脂とは、ゴム質重合体、および、少なくとも1種のビニル化合物を含むゴム変性樹脂を指す。
【0040】
ゴム変性樹脂に用いるゴム質重合体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものであれば用いることが可能である。ゴム質重合体の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム等のジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合ゴム、スチレン−ブタジエンブロック共重合ゴム、スチレン−イソプレンブロック共重合ゴム等のブロック共重合体、およびそれらの水素添加物等が挙げられる。これらの重合体の中で、好ましくは、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル−ブタジエン共重合ゴム、ポリアクリル酸ブチル等である。
【0041】
ゴム変性樹脂中のゴム質重合体の割合は1〜95重量%の範囲で用いられるが、必要とする機械的強度、剛性、成形加工性に応じて決められ、好ましくは、5〜45重量%であり、より好ましくは10〜40重量%である。
ゴム変性樹脂に使用されるビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、メチルメタクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルアクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体が挙げられ、好ましくは、芳香族ビニル化合物、アルキル(メタ)アクリレート類、シアン化ビニル単量体、マレイミド系単量体であり、さらに好ましくは、スチレン、アクリロニトリル、N−フェニルマレイミド、ブチルアクリレートである。これらのビニル化合物は単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。好ましくは、芳香族ビニル化合物と芳香族以外のビニル化合物の組み合わせである。この場合、芳香族ビニル化合物と芳香族以外のビニル化合物は任意の割合で用いられるが、芳香族以外のビニル化合物の好ましい割合は、芳香族ビニル化合物と芳香族ビニル化合物以外のビニル化合物の合計量に対して、5〜80重量%の範囲である。
【0042】
ゴム変性樹脂の製造方法は特に限定されず、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など通常公知の製造方法を挙げることができる。
ポリカーボネートにゴム変性樹脂をブレンドして用いる場合、その割合は、必要とする機械的強度、剛性、成形加工性、耐熱性に応じて決められる。好ましくは、ポリカーボネート50〜95重量部に対してゴム変性樹脂が50〜5重量部であり、さらに好ましくは、ポリカーボネートが60〜90重量部に対してゴム変性樹脂が40〜10重量部である。
【0043】
本発明では、前記樹脂成分として、溶融状態のものを使用することも可能であるが、好ましく使用されるのは固体状、即ち、ペレット状及び/またはパウダー状の樹脂成分である。
また、本発明の製造方法では、樹脂成分がポリカーボネートとその他の熱可塑性樹脂からなる場合は、予めポリカーボネートのペレット及び/またはパウダーに、その他の熱可塑性樹脂のペレット及び/またはパウダーを機械的に混合したものを使用しても良いし、あるいは押出機にこれら樹脂を各々独立して押出機にフィードすることも可能である。さらには、予め、ポリカーボネートとその他の熱可塑性樹脂とを溶融混合して得られる溶融状態の樹脂成分、もしくはそれをペレット化したものを使用することもできる。
【0044】
本発明の方法で使用される有機リン化合物は、少なくとも1種の有機リン化合物であり、リン原子を1つ以上有する化合物である。
リン原子を1つ有する化合物(以下、「モノ有機リン化合物」と称す。)としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、キシレニルフェニルホスフェート等を例示することができる。
【0045】
しかしながら、モノ有機リン化合物は、それを用いて得られる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を成形する場合に金型表面にモールドデポジット(MD)が発生しやすいという欠点があるので、本発明で使用される有機リン化合物として、リン原子を2つ以上有する化合物である有機リン化合物オリゴマーが好ましく使用される。
本発明に用いられる有機リン化合物オリゴマーの特に好ましい例としては、下記式(1)で表される化合物群より選ばれるものを挙げることができる。
【0046】
【化14】
【0047】
上記式(1)における置換基Ra、Rb、Rc及びRdは、それぞれ独立的に炭素数6〜12のアリール基を示し、その1つ以上の水素原子が置換されていてもいなくてもよい。その一つ以上の水素原子が置換されている場合、置換基としては炭素数1〜30のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基及びハロゲン化アリール基、及びハロゲン等が挙げられ、またこれらの置換基を組み合わせた基(例えばアリールアルコキシアルキル基等)またはこれらの置換基を酸素原子、硫黄原子、窒素原子等により結合して組み合わせた基(例えば、アリールスルホニルアリール基等)を置換基として用いてもよい。
【0048】
置換基Ra、Rb、Rc、Rdとして特に好ましいアリール基は、フェニル基、クレジル基、キシリル基、プロピルフェニル基、およびブチルフェニル基である。上記式(1)の化合物における置換基Ra、Rb、Rc、Rdがアルキル基やシクロアルキル基であると、一般に熱安定性が不十分であり、溶融混練の際に分解が起こりやすい。
有機リン化合物の例としての化合物群を表す上記式(1)におけるXは、ジフェニロールジメチルメタン基である。オリゴマー系リン酸エステルの中でも、Xがジフェニロールジメチルメタン基である上記式(1)で表される化合物群から選ばれるものを有機リン化合物として使用する場合は、上記式(1)においてXがレゾルシノール基やヒドロキノン基であるものと比較して、有機リン化合物の耐加水分解性や熱安定性が向上し、さらに成形加工時に金型表面に付着するモールドデポジットの発生量を低レベルにすることが可能であるので特に好ましい。
【0049】
前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーは、通常、式(1)において異なるnの値(nは自然数)を有する複数の異なる有機リン化合物オリゴマーの混合物として使用される場合が多い。この際、複数の異なる有機リン化合物オリゴマーの重量平均縮合度(N)が1〜1.2未満であることが好ましい。Nはゲルパーミエーションクロマトグラフィーあるいは液体クロマトグラフィーにより異なるnを有するそれぞれの成分の重量分率(An)を求め、
N=Σ(n・An)/Σ(An)
により算出される。
【0050】
ここで、Anを求めるために、検出器として、UV検出器、あるいはRI検出器が通常使用される。ただし、Nの計算において、上記有機リン化合物が、前記式(1)の有機リン化合物オリゴマーと前記式(1)におけるnが0である構造の化合物(即ち、1分子中のリン原子が1つのみであるモノ有機リン化合物)との混合物である場合は、nが0の化合物はNの計算から除外する。重量平均縮合度Nは、通常1以上5以下であり、1以上2以下が好ましく、1以上1.5以下が更に好ましく、1以上1.2未満が特に好ましい。Nが小さいほど樹脂成分との相溶性に優れ、溶融流動性に優れ、且つ難燃性が高い。特に、N=1の化合物は樹脂組成物における難燃性と溶融流動性のバランスが特に優れる。有機リン化合物としての式(1)の化合物のNが5以上である場合は、該化合物の粘度が大きくなり、特に高せん断速度領域での溶融流動性が低下する傾向にあり、また、難燃性が低下する傾向がある。
【0051】
さらに、本発明で用いられる有機リン化合物は、その酸価が1mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.5mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは0.2mgKOH/g以下、特に好ましくは0.1mgKOH/g以下である。酸価が低い有機リン化合物を使用することにより、耐湿熱性が向上した難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。従って、本発明では有機リン化合物の使用に当たって、その酸価が増大しないように、水分の混入を防いだり、必要以上の加熱を防ぐなどの、貯蔵、移送における配慮が重要である。
【0052】
本発明の方法では、有機リン化合物の供給速度は、原料樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して5〜50%の供給速度(kg/hr)であり、押出機に取り付けた該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口(b’)および(c’)を介して押出機に分割して供給される。
有機リン化合物の供給速度が、該樹脂成分の供給速度に対して50%を超えると、樹脂成分と有機リン化合物の混練が困難になる傾向にあり、一方、5%未満の場合は該有機リン化合物の供給口として、供給口(b’)および供給口(c’)の2箇所以上設けることによって得られる本発明の作用効果が小さい。本発明では有機リン化合物の供給速度は、原料樹脂成分の供給速度に対して、7〜40%が好ましく、より好ましくは10〜35%、特に好ましくは12〜30%である。
【0053】
本発明の方法においては、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の燃焼時の燃焼物滴下を防止する目的で、更にフルオロポリマーを加えることが好ましい。
本発明の方法では、フィブリル形成能力を有するフルオロポリマーを使用することができ、ファインパウダー状のフルオロポリマー、フルオロポリマーの水性ディスパージョン、粉体のフルオロポリマーとASやPMMA等のその他の樹脂との粉体状混合物など、様々な形態のフルオロポリマーを使用することができる。
【0054】
本発明の方法では、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを好適に使用することができる。該フルオロポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−プロピレン共重合体等のテトラフルオロエチレンポリマー、ポリテトラフルオロエチレン以外のパーフルオロアルカンポリマー、好ましくはテトラフルオロエチレンポリマー、特に好ましくはポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。上記のフルオロポリマーの水性ディスパージョンは、例えば、「ふっ素樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社 1990年刊)に記載に記載の方法で、テトラフルオロエチレンと場合によってはコモノマーとを水性媒体中で懸濁重合または乳化重合し、得られたフルオロポリマーの水性ディスパージョンを濃縮して、水性分散液中のフルオロポリマー微粒子の濃度を40〜70重量%にした後、界面活性剤により安定化し、乳白色状の水性ディスパージョンとして得ることができる。フルオロポリマーの水性ディスパージョンにおけるフルオロポリマーの濃度は分散状態が安定する濃度であれば水で希釈することも可能であるが、5〜70重量%が好ましく、更に好ましくは20〜65重量%、特に好ましくは30〜60重量%である。また、水性ディスパージョン中のフルオロポリマー粒子の平均一次粒子径は、0.01〜0.6μmが好ましく、更に好ましくは0.05〜0.4μmであり、特に好ましくは0.18〜0.3μmである。
【0055】
また、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンを安定化させる界面活性剤としては、エトキシ化アルキルフェノール、エトキシ化高級アルコール等のノニオン系の界面活性剤が好ましく使用され、通常、その配合量は1〜15重量%であり、好ましくは2〜10重量%、更に好ましくは3〜7重量%である。さらに、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンは、そのpH値が通常9〜10に調整されているのが好ましい。また、水性ディスパージョン中のフルオロポリマーの濃度が60重量%である場合、その液比重は約1.5であり、粘度(25℃)は15〜30cp(センチポイズ)の範囲にある。
【0056】
本発明において好ましく使用できるフルオロポリマーの水性ディスパージョンとして、三井デュポンフロロケミカル(株)製「テフロン(登録商標)30J」、ダイキン工業(株)製「ポリフロンD−1」、「ポリフロンD−2」、「ポリフロンD−2C」、「ポリフロンD−2CE」を例示することができる。
また、本発明の方法では、粉体のフルオロポリマーとASやPMMA等のその他の樹脂との粉体状混合物も好ましく使用することができる。粉体のフルオロポリマーとASやPMMA等のその他の樹脂との粉体状混合物に関しては、特開平9−95583号公報、特開平11−49912号公報、特開2000−143966号公報、特開2000−297189号公報等を参照することができる。本発明の製造方法において好ましく使用できるフルオロポリマーを含む粉体状混合物の例として、GEスペシャリティケミカルズ社製「Blendex449」、三菱レーヨン(株)製「メタブレンA−3000」を例示することができる。
【0057】
フルオロポリマーの配合量は、樹脂成分100重量部に対して、通常、0.01〜3重量部の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.05〜2重量部、更に好ましくは0.1〜1重量部、特に好ましくは0.2〜0.6重量部である。フルオロポリマーの配合量が樹脂成分100重量部に対して0.01重量部未満の場合は、燃焼物滴下防止効果が不十分であり、高い難燃性が得られ難い。一方、3重量部を超える場合は溶融流動性や耐衝撃性が低下する傾向にある。
また、本発明の方法では、さらに着色剤を使用する事が出来る。ここで、着色剤とは樹脂の着色に使用される顔料や染料であり、例えば、チタンホワイト(酸化チタン)、チタンイエロー、ベンガラ、群青、スピネルグリーン等の無機顔料、縮合アゾ系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、イソインドリノン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、アンスラキノン系有機顔料、フタロシアニン系有機顔料等の有機顔料、カーボンブラック、ペリレン系染料、ペリノン系染料、アンスラキノン系染料、複素環系染料の染料をあげることができる。
【0058】
また、本発明の製造方法では、さらに必要に応じて樹脂組成物の改質を行う目的で、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、タルク、雲母、などの無機フィラーや、炭素繊維、木炭等の強化材、等を添加することもできる。
また、本発明の製造方法では、さらに必要に応じて、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、着色剤分散剤、加工助剤、耐衝撃性改良剤、老化防止剤、等の熱可塑性樹脂に配合することができる各種の添加剤を配合することができる。
【0059】
本発明の方法においては、樹脂成分と有機リン化合物はそれぞれ独立して押出機に供給し、さらに、有機リン化合物は特定の2箇所又はそれ以上の供給口を介して分割して押出機に供給し、スクリュー押出機を用いて溶融混練することにより難燃性樹脂組成物を製造する。
該スクリュー押出機として、ゾーン(a)、ゾーン(b)、ゾーン(c)及び該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の吐出口が押出し方向に見てこの順序に配置されてなり、該ゾーン(a)には該樹脂成分のための1つ又は複数の供給口(a’)が設けられており、該ゾーン(b)には該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口(b’)が設けられており、該ゾーン(c)には前記(b’)とは異なる該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口(c’)が設けられている押出機を用いる。
【0060】
その際、ゾーン(a)においては、該樹脂成分を未溶融状態に維持し、ゾーン(b)においては、該樹脂成分を部分的溶融状態に維持し、ゾーン(c)においては、該樹脂成分を完全溶融状態に維持する。
本発明では、該樹脂成分を供給口(a’)を介してゾーン(a)に連続的に供給し、該有機リン化合物を供給口(b’)および供給口(c’)を介して、ゾーン(b)およびゾーン(c)にそれぞれ分割して連続的に供給し、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、前記供給口(b’)及び前記供給口(c’)を介して供給される該有機リン化合物の供給速度(kg/hr)が5〜50%であり、かつ、該有機リン化合物は、供給口(b’)を介して該有機リン化合物の1〜90%をゾーン(b)に供給し、供給口(c’)を介し該有機リン化合物の99〜10%をゾーン(c)にそれぞれ分割して連続的に供給し、該樹脂成分、及び該有機リン化合物を混練しながら該吐出口に向かって押出す。
【0061】
本発明の方法においては、上記押出機として、2軸押出機を使用することが好ましく、同方向回転かみ合い型2軸押出機が最も好ましく使用される。同方向回転かみ合い型2軸押出機では、左右のスクリュー軸がお互いに噛み合うことによりセルフクリーニング効果が得られ、且つ樹脂原料の押出機内滞留時間を短くすることができ、優れた樹脂輸送性能、混練性能、脱揮性能を持つので、押出機として本発明で好ましく使用される。特に、高トルク対応型であり且つ高回転のスクリュー回転数が得られる2軸押出機を使用するのが、生産速度を向上でき、混練の際の溶融樹脂温度を低減できるので特に好適に使用することができる。更に、好ましくは200rpm以上、より好ましくは300rpm以上、さらに好ましくは400rpm以上のスクリュー回転数が得られる押出機が好ましい。
【0062】
本発明の方法で使用される押出機として、特に好ましい例としては、東芝機械工業(株)より製造されているTEM−SSシリーズ、Werner&Pfleiderer社より製造されているZSK−MCシリーズ、日本製鋼所(株)より製造されているTEX Super α−IIシリーズを挙げることができる。
また、本発明の方法では、2軸押出機の押出機スクリュー構成(スクリュープロファイル)を押出機スクリュー要素(スクリューエレメント)の組み合えにより自在に選択でき、且つ、押出機のシリンダーの温度が各シリンダーブロック毎に制御できる2軸押出機を好適に使用することができる。このような押出機を用いて、スクリュープロファイルや押出機内の温度分布を適宜選択することにより、上記ゾーン(a)、(b)及び(c)の長さを調節したり、混練を行うための領域を押出機内に形成することができる。
【0063】
本発明の方法に好適に用いることができる押出機の具体例として、図1に示す内部構造を有する押出機が挙げられる。図1は、本発明の方法に用いる押出機の一例の内部構造を示す説明的概略側断面図であって、図1に示す押出機におけるスクリュー構成は、本発明の方法を実施するのに好適に用いられるスクリュー構成の一例である。図1に参照して本発明の方法を説明する前に、本発明に用いることができる押出機スクリューエレメントに関して説明する。
本発明の方法では、押出機スクリュー構成用の押出機スクリューエレメントとして、順方向フライトスクリューエレメント、逆方向フライトスクリューエレメント、順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、順方向スクリューミキシングエレメント、逆方向スクリューミキシングエレメント、シールリングエレメント等を好ましく使用することが出来る。これらの組み合わせによって本発明の方法に好適な押出機スクリュー構成を得ることが出来る。
【0064】
以下、各押出機スクリューエレメントとその作用効果について図2(a)〜9(b)を参照して説明する。
「順方向フライトスクリューエレメント」とは、右ネジ方向の連続したスクリュー構造を有し、該スクリューの回転(回転方向は押出機の吐出口から見て右方向回転)によって押出し方向に樹脂成分を移動させる作用を有する押出機スクリューエレメントであり、図2(a)に押出機の吐出口の方向からみた概略図を、図2(b)に概略側面図を示す。
【0065】
「逆方向フライトスクリューエレメント」とは、左ネジ方向の連続したスクリュー構造を有し、該スクリューの回転によって押出し方向と逆方向に樹脂を移動させる作用を有する押出機スクリューエレメントであり、図3(a)に押出機の吐出口の方向からみた概略図を、図3(b)に概略側面図を示す。
「順方向ニーディングエレメント」とは、押出機の回転軸を軸心として、複数の基本的に擬楕円形の平板が、回転軸の回転方向をプラスとした場合、プラス方向に0度より大きく90度より小さいねじれ角度(staggering angle)で、押出し方向とは反対の方向に互いにずれつつ上記平板の厚み方向に積層されて構成されており、この押出機スクリューエレメントの回転によって押出し方向に当該樹脂を移動させる作用と同時に、樹脂を混練する作用を有する押出機スクリューエレメントであり、図4(a)に押出機の吐出口の方向からみた概略図を、図4(b)に概略側面図を示す。
【0066】
「逆方向ニーディングエレメント」とは、該スクリュー回転軸を軸心として、複数の基本的に擬楕円形の平板が、回転軸の回転方向をプラスとした場合、マイナス方向に0度より大きく90度より小さい角度で、押出し方向とは反対の方向に互いにずれつつ該平板の厚み方向に積層されて構成されており、該押出機スクリューエレメントの回転によって押出し方向と逆の方向に樹脂を移動させる作用と同時に、樹脂を混練する作用を有する押出機スクリューエレメントであり、図5(a)に押出機の吐出口の方向からみた概略図を、図5(b)に概略側面図を示す。
【0067】
「ニュートラルニーディングエレメント」とは、該スクリュー回転軸を軸心として、複数の基本的に擬楕円形の平板が、実質的に90度のねじれ角度(staggering angle)で交互にずれつつ該擬楕円形平板の厚み方向に積層されて構成されており、該押出機スクリューエレメントの回転によって、樹脂を混練する作用を有する押出機スクリューエレメントであり、図6(a)に押出機の吐出口の方向からみた概略図を、図6(b)に概略側面図を示す。
「順方向スクリューミキシングエレメント」とは、順方向フライトスクリューのねじ山に切り欠き設けた構造を有し、該スクリューの回転によって押出し方向に樹脂を移動させるとともに、切り欠き部分から樹脂の一部を押出し方向と逆の方向に移動させることにより、樹脂を混合する作用を有する押出機スクリューエレメントであり、図7(a)に押出機の吐出口の方向からみた概略図を、図7(b)に概略側面図を示す。
【0068】
「逆方向スクリューミキシングエレメント」とは、逆方向フライトスクリューのねじ山に切り欠きを設けた構造を有し、該スクリューの回転によって押出し方向と逆の方向に樹脂を移動させるとともに、切り欠き部分から樹脂の一部を押出し方向に移動させることにより、樹脂を混合する作用を有する押出機スクリューエレメントであり、図8(a)に押出機の吐出口の方向からみた概略図を、図8(b)に概略側面図を示す。
「シールリングエレメント」とは、基本的に円形の少なくとも1個の平板で構成され、樹脂の進行をせき止めて樹脂の充満率を高める作用を有する押出機スクリューエレメントであり、図9(a)に押出機の吐出口の方向からみた概略図を、図9(b)に概略側面図を示す。
【0069】
本発明の方法において、押出機のゾーン(a)においては、上記樹脂成分を未溶融状態に維持する。例えば、上記ゾーン(a)において、押出機のスクリューを順フライトスクリューエレメントのみで構成し、且つシリンダーブロック温度を20〜200℃、好ましくは30〜100℃の範囲、更に好ましくは40〜70℃の範囲に設定することで、ポリカーボネートを含む樹脂の溶融を防ぐことが出来る。該ゾーン(a)の長さはスクリュー構成とシリンダーブロック温度のみならず、押出機のスクリュー回転数や樹脂成分の供給速度にも影響を受け、該回転数や該樹脂成分の供給理速度を増大させることによって該ゾーンを長くすることもできる。該ゾーン(a)では、樹脂成分(ペレット状および/またはパウダー状の樹脂)の溶融した部分が全く観察されない状態であり、この確認は押し出し機シリンダーブロックの開口部(押出機の供給口(a’))や押出機シリンダーブロックにのぞき窓を設け、それを通じて目視観察することにより行うことができる。
【0070】
本発明の方法でフルオロポリマーの水性ディスパージョンを使用する場合は、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンはゾーン(a)に連続供給するのが好ましい。この場合最も好ましい供給位置は樹脂成分の投入用ホッパー下であり、さらに該ホッパー下のシリンダーブロックの温度は40〜70℃の範囲であることが好ましい。
【0071】
本発明の方法において、押出機のゾーン(b)においては、上記樹脂成分を部分的溶融状態に維持する。例えば、上記ゾーン(b)において、押出機のスクリューを順方向フライトスクリューエレメント、もしくはこれに、順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、順方向スクリューミキシングエレメント、順方向スクリューミキシングエレメント等の押出機スクリューエレメントを組み合わせて構成し、且つ、シリンダーブロック温度を201〜350℃、好ましくは210〜300℃の範囲、更に好ましくは220〜280℃の範囲に設定し、押出機スクリューエレメントの混練作用とシリンダーブロックからの熱供給により、該樹脂成分の一部を溶融させることができる。該ゾーン(b)では樹脂成分の一部が溶融している状態にあるが、この確認は押出機シリンダーブロックに設けたのぞき窓を設けそれを通じて目視観察する方法や、運転中の押出機を停止させてそのまま押出機シリンダーブロックを冷却し、しかる後に押出機スクリューを引き抜き、押出機内部の樹脂の溶融状態を観察する方法(ただし、観察を行う際には有機リン化合物の供給を停止する)によって行うことができる。この際、樹脂の未溶融の部分は目視で確認することができ、ゾーン(b)においては樹脂成分の0.01〜90重量%、好ましくは0.1〜70重量%、より好ましくは1〜50重量%が溶融状態にあることが好ましい。
【0072】
本発明では押出機に供給される有機リン化合物の1〜90%、好ましくは10〜50%、更に好ましくは20〜40%が、1つ又は複数の供給口(b’)を介してゾーン(b)に連続的に供給されるが、有機リン化合物の配合はギアポンプやプランジャーポンプ等を用いて定量的に押出機シリンダーブロックに取り付けられたインジェクションノズルを通じて圧入することができる。尚、有機リン化合物の供給口(b’)の位置での押出機スクリューエレメントは、樹脂圧を低くして有機リン化合物の配合を容易にするために、順方向フライトスクリューエレメントもしくは順方向スクリューミキシングエレメントで構成し、樹脂充満率を1未満、好ましくは0.4〜0.8とするのが好ましい。
尚、本発明において押出機中の「樹脂充満率」は、押出機内部においてこれを測定する位置によって異なり、押出機内部の特定の領域における樹脂充満率は、その領域における押出機シリンダーの内部容積からスクリューシャフトとスクリューエレメントとの合計容積を引いた容積に対する樹脂成分の容積の比として求められる。上記の特定の領域において樹脂成分が完全に充満している場合、樹脂充満率は1である。
【0073】
本発明では、前記有機リン化合物のための供給口(b’)の下流に「第一混練ゾーン」を設ける。該「第一混練ゾーン」においては、押出機のスクリュー構成として、逆方向フライトスクリューエレメントあるいはシールリングエレメント等の樹脂のシール性に優れる押出機スクリューエレメントを組み入れ、さらにこれらの押出機スクリューエレメントの押出し方向に見て上流側に、順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、順方向スクリューミキシングエレメント、逆方向スクリューミキシングエレメント等の溶融混練作用が優れた押出機スクリューエレメントを複数個組み合わせた押出機のスクリュー構成とし、且つシリンダーブロック温度を201〜350℃、好ましくは210〜300℃の範囲、更に好ましくは220〜280℃の範囲に設定し、押出機スクリューエレメントの混練作用とシリンダーブロックからの熱供給により、樹脂成分、有機リン化合物、必要によりフルオロポリマーやその他の成分を樹脂充満率が1の状態(すなわち溶融樹脂の完全充填状態)で十分な溶融混練を行う。本発明の方法では、該「第一混練ゾーン」を通過した後には、未溶融の樹脂の粒子が全く観察されない程度まで溶融混練がなされるように該混練ゾーンのスクリュー構成を選択する必要がある。
【0074】
前記「第一混練ゾーン」の下流は、本発明のゾーン(c)であり、樹脂成分が完全溶融状態に維持される。本発明では該ゾーン(c)に更に有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口(c’)を介して、押出機に供給される該有機リン化合物の99〜10%、好ましくは90〜50%、更に好ましくは80〜60%が供給される。
また、本発明においては、供給口(c’)に対して更に下流の位置に「第二混練ゾーン」を設ける。該「第二混練ゾーン」における押出機のスクリュー構成は、「第一混練ゾーン」と同様に、逆方向フライトスクリューエレメントあるいはシールリングエレメント等の樹脂のシール性に優れる押出機スクリューエレメントを組み入れ、さらにこれらの押出機スクリューエレメントの押出し方向に見て上流側に、順方向ニーディングエレメント、逆方向ニーディングエレメント、ニュートラルニーディングエレメント、順方向スクリューミキシングエレメント、逆方向スクリューミキシングエレメント等の溶融混練作用が優れた押出機スクリューエレメントを複数個組み合わせた押出機のスクリュー構成とする。
【0075】
該「第二混練ゾーン」におけるシリンダーブロック温度は、201〜350℃、好ましくは210〜300℃の範囲、更に好ましくは220〜280℃の範囲に設定し、前記供給口(c’)を介して供給された有機リン化合物がさらに溶融混練される。
また、本発明では押出機にベントを設け、開放脱揮もしくは真空ポンプ等による減圧脱揮を行うことが好ましい。ベントを設ける場合は、該ベントは、押出し方向に見て「第二混練ゾーン」の更に下流に設置するのが好ましい。また、べント部のスクリュー構成は、順方向フライトスクリューエレメントを用いるのが好ましい。
【0076】
また、本発明では押出機のスクリュー回転数は、100〜1,500rpmが好ましく、より好ましくは300〜1,000rpm、更に好ましくは400〜800rpmである。本発明では、特に、樹脂組成物にフルオロポリマーを配合する場合に置いては、一般に、押出機のスクリューが高回転であるほど樹脂組成物中のフルオロポリマーの分散性が向上し、優れた燃焼物滴下防止機能を有する樹脂組成物を得ることができる傾向にある。しかしながら、一方で、スクリュー回転数の増大と共に混練時の溶融樹脂の発熱が増大し、樹脂組成物の色調や機械的物性を低下させるので、スクリュー回転数は、押出機中の樹脂温度、各成分の供給速度、等を考慮して決定される。
【0077】
本発明では、押出機に供給される有機リン化合物の1〜90%、好ましくは10〜50%、更に好ましくは20〜40%を供給口(b’)を介してゾーン(b)へ供給することにより、該有機リン化合物を樹脂成分に対する溶融可塑剤として作用させ、これにより樹脂成分の溶融を容易ならしめて押出機の負荷を低減させ、また、樹脂組成物の高い生産速度を獲得することができると共に、混練時のせん断発熱による過度の樹脂温度の上昇を防止でき、これにより色調に優れ、更に機械的物性に優れた樹脂組成物を製造することが可能となる。
【0078】
供給口(b’)から供給する有機リン化合物の供給量が1%以下である場合は、有機リン化合物による溶融可塑化効果が十分に得られず、せん断発熱が大きくなり、樹脂組成物の色相や機械的物性が低下する。一方、90%を超える場合は溶融不良や有機リン化合物の漏洩、吹き出し、上流側への逆流が生じることがある。
また、押出機に供給される有機リン化合物の99〜10%、好ましくは90〜50%、更に好ましくは80〜60%を供給口(c’)を介してゾーン(c)に供給することにより、有機リン化合物の配合量が多い場合においても、有機リン化合物の漏洩や、ベント口やダイからの吹き出し、あるいは混練不良によるストランド切れなどのトラブルを生ずることなく長時間にわたって安定に難燃性樹脂組成物を製造することができる。
【0079】
有機リン化合物は、予め60〜120℃、好ましくは70〜100℃に加熱して溶融粘度を低下させた後に、押出機のシリンダーブロックに装着された注入用ノズル(b’)並びに(c’)を介して、ギアポンプ、プランジャーポンプ等を使用して定量的に圧入配合することが好ましい。本発明において使用される有機リン化合物が室温下で粉体状である場合も、予め60〜120℃に加熱して溶融させて使用することが望ましい。
【0080】
本発明の方法に対して、有機リン化合物を、ゾーン(b)に設けられた1つ又は複数の供給口(b’)のみを通じて押出機に供給する場合、有機リン化合物の配合量の増大に伴い、有機リン化合物が該有機リン化合物の配合位置の上流側に逆流する現象が生じることがある。有機リン化合物の逆流は、有機リン化合物の配合量が多い場合に起こりやすく、また、樹脂成分がペレット状の形態である場合は、未溶融のペレット間の空隙が多いために有機リン化合物の逆流が起こりやすい。有機リン化合物の逆流が樹脂成分の供給用ホッパーの下部まで及ぶようになると、樹脂成分の押出機への供給に支障が生じる。
【0081】
また、有機リン化合物を、ゾーン(c)に設けられた1つ又は複数の供給口(c’)のみを通じて押出機に供給する場合、押出機の負荷が大きくなるばかりでなく、得られる樹脂組成物の色調、難燃性、機械的強度等が低下する傾向にある。
さらに、供給口(b’)または供給口(c’)のいずれかの一箇所に多量の有機リン化合物が供給する場合は、原材樹脂成分と有機リン化合物の混練不良が生じることがあり、また、有機リン化合物の注入圧力が高くなり、有機リン化合物の最大ポンプ注入圧力により有機リン化合物の注入量が制限されるという問題が生じる。
【0082】
さらに、本発明の方法では、該押出機中の樹脂の温度を300℃以下とすることが好ましい。本発明の方法においては、通常、押出機先端部のダイ付近で樹脂の温度が最高になるような条件で押出しが行われるので、ダイ付近で測定される溶融樹脂の温度を該押出機中の樹脂の最高温度とみなす。押出機中の樹脂の温度が300℃を越えると、燃焼物滴下防止機能が低下するのみならず、樹脂組成物の分解劣化が急激に進行するようになるため、溶融流動性が増大し、耐衝撃性が急激に低下する場合がある。難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の機械的物性を向上させ、着色を抑えるためには溶融混練が可能な範囲で、押出機中の樹脂の温度をできるだけ低い温度とすることが好ましいが、樹脂の温度を低下させると、溶融樹脂の粘度の増大により、押出機の負荷を増大させることになり該樹脂組成物の生産性が低下する。従って、樹脂温度は、樹脂組成物の性能と生産性とのバランスから、好ましくは230℃〜290℃、さらに好ましくは250℃〜285℃、特に好ましくは260℃〜280℃の範囲である。
【0083】
さらに、本発明の方法においては、樹脂成分の押出機内滞留時間を短時間とする程、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の耐湿熱性や色調を改善することができるので好ましい。該樹脂組成物において所望とする諸性能を得るためには、各成分の溶融混練が十分に行われる必要があるが、一方で、溶融混練を必要以上に行うと該樹脂組成物の耐湿熱性や色調が低下する傾向にある。従って、本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法では、樹脂成分の押出機内滞留時間を、好ましくは1〜40秒、より好ましくは5〜30秒、更に好ましくは8〜20秒とすることにより、耐湿熱性や色調が著しく改善された難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。尚、本発明において、樹脂成分の「押出機内滞留時間」は、押出機の樹脂成分投入位置にカラーペレットを投入し、投入直後から、ダイから着色樹脂の吐出が開始されるまでの時間として定義する。樹脂成分の押出機内滞留時間は、各成分の供給速度、スクリュー回転数、押出機のL/D(長さ/直径比)、押出機ダイ部分の空間容積等の因子に特に影響を受ける。
【0084】
本発明において樹脂成分の押出機内滞留時間を短縮するためには、押出機のL/Dは各成分の十分な溶融混練が得られる範囲においてできるだけ小さくすることが好ましく、L/Dは25〜50の範囲にあることが好ましく、より好ましくは30〜45であり、更に好ましくは35〜40である。また、押出機ダイ部分の空間容積も可能な限り小さくし、樹脂の滞留時間の増大を防ぐことが好ましい。
【0085】
さらに本発明の方法では、樹脂成分の押出機内滞留時間に対して、各成分の供給速度や押出機スクリュー回転数が影響を与えるが、本発明においては、樹脂成分の押出機内滞留時間が好ましくは40秒以下、更に好ましくは30秒以下、特に好ましくは20秒以下となるように運転条件を設定することが好ましい。押出機への各成分の供給速度は、押出機の処理能力に制限されるが、上記した範囲内で可能な限り各成分の供給速度を高めることにより、溶融樹脂温度を低減でき、さらに押出機内の樹脂成分の押出機内滞留時間を短縮できるので好ましい。一方、押出機スクリューの回転数は一般に高回転であるほど樹脂成分の押出機内滞留時間を短縮できるが、押出機スクリューの回転数を増大させると樹脂のせん断発熱が顕著となり、過度の溶融樹脂の温度上昇は得られる樹脂組成物の物性や色調に対して悪影響を及ぼすので、溶融樹脂温度を考慮して押出機のスクリュー回転数を選択するのが好ましい。
【0086】
上記したように、本発明の方法においては、該有機リン化合物の配合により溶融樹脂の可塑化を容易にし、且つ溶融樹脂の粘度を低減できるため、溶融混練におけるせん断発熱による過度の溶融樹脂温度の上昇を抑制することができる。そのため、本発明の製造方法では押出機スクリューの回転数が比較的に高い押出機の運転条件で難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を生産することが可能となる。押出機のスクリュー回転数を高くすることは溶融樹脂の搬送能力を高めこれにより上記の押出機内滞留時間を短くすることができるので、本発明の製造方法は耐高温高湿特性に優れた樹脂組成物を高い生産速度で製造することが可能となる。
【0087】
以下、本発明の方法を図1に参照して説明する。
図1は、本発明の方法に用いる押出機の1例の内部構造を示す説明的概略側断面図である。
図1に示す押出機は、9個のシリンダーブロックB1〜B9(押出機の最も上流のシリンダーブロックを第1シリンダーブロック、最も下流側のシリンダーブロックを第9シリンダーブロックとする)と1個のダイアダプターブロック8から構成される、かみ合い型の同方向回転2軸押出機の押出機である。図1に示す押出機のスクリューの構成に関しては、押出機スクリューエレメントを適宜組み合わせることにより、所望の構成を得ることができ、さらに各シリンダーブロックは独立して温度を制御することが可能である。
【0088】
図1において、a、b及びcで示されている領域がそれぞれ、樹脂成分が未溶融状態に維持されているゾーン(a)、該樹脂成分が部分的溶融状態に維持されているゾーン(b)、及び該樹脂成分が完全溶融状態に維持されているゾーン(c)である。
図1に示す押出機は、押出機の押出し方向に見て上流から下流に向かって、5個の順方向フライトスクリューエレメント10、1個の5枚の擬楕円形平板を積層してなる順方向ニーディングエレメント11、3個の順方向スクリューミキシングエレメント12、2個の5枚の擬楕円形平板を積層してなる順方向ニーディングエレメント11、2個の5枚の擬楕円形平板を積層してなるニュートラルニーディングエレメント13、1個の7枚の擬楕円形平板を積層してなる逆方向ニーディングエレメント14、1個の逆方向フライトスクリューエレメント15、2個の順方向フライトスクリューエレメント10、2個の5枚の擬楕円形平板を積層してなる順方向ニーディングエレメント11、2個の5枚の擬楕円形平板を積層してなるニュートラルニーディングエレメント13、1個の逆方向フライトスクリューエレメント15、及び4個の順方向フライトスクリューエレメント10の組み合わせからなるスクリュー構成を有している。
【0089】
また、9個のシリンダーブロックB1〜B9の設定温度は、第1シリンダーブロックB1は30〜70℃、第2シリンダーブロックB2は180〜220℃、第3シリンダーブロックB3は220〜260℃、第4シリンダーブロックB4は220〜280℃、第5〜第9シリンダーブロックB5〜B9は220〜270℃とし、ダイアダプターブロック8の設定温度は230〜270℃とする。
本発明の方法では、樹脂成分(ポリカーボネートのみ、又はポリカーボネートと上記のポリカーボネート以外の樹脂)、あるいは添加剤成分が重量フィーダーやベルトフィーダー等を使用してそれぞれ独立に定量的に押出機のホッパー2を経て供給口1(a’)に供給される。これらの成分用の定量フィーダーの個数は特に限定されず、成分数に応じて適宜使用することができる。フルオロポリマーの水性ディスパージョンを供給する場合は、樹脂成分と予め混合することなく独立して、ゾーン(a)に相当する第1及び第2シリンダーブロックB1及びB2、好ましくはホッパー2下部の第1シリンダーブロックB1へ、冷却された注入用ノズル4を経て、ダイヤフラムポンプやプランジャーポンプにより、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して、通常、0.01〜10%の供給速度(kg/hr)で連続供給される。図1において第1シリンダーブロックB1の温度は30〜70℃に設定することが好ましい。
【0090】
図1のゾーン(b)は、溶融した樹脂成分と未溶融の樹脂成分が混在する押出機ゾーンである。有機リン化合物は、予め60〜120℃に加熱し、ギアポンプあるいはプランジャーポンプにより、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して5〜50%の供給速度で、第4シリンダーブロックB4に装着した注入ノズル5bを通じて、供給口5(b’)から該有機リン化合物の1〜90%が連続供給され、第6シリンダーブロックB6に装着した注入ノズル5cを通じて、供給口5(c’)から該有機リン化合物の残りの99〜10%が連続供給される。供給口5(b’)を介してゾーン(b)へ供給された有機リン化合物は、樹脂成分が溶融する過程において溶融可塑剤的作用をするため、押出機の負荷を低下させ、せん断発熱を低下させることができ、高性能の樹脂組成物を高い生産速度で生産することが可能となる。
【0091】
図1における第一混練ゾーンIにおいて、樹脂成分、有機リン化合物、及び必要に応じて、フルオロポリマー、更には所望により添加されるその他の成分が、順方向ニーディングエレメント11、ニュートラルニーディングエレメント13、逆方向ニーディングエレメント14、逆方向フライトスクリューエレメント15の組み合わせにより、樹脂充満率が1の状態で十分に溶融混練される。第一混練ゾーンIでの溶融混練が不十分であると、得られる樹脂組成物の品質が安定しないばかりか、ストランド切れ等の運転上のトラブルが発生し、連続製造の安定性が失われる。しかしながら、一方で溶融混練が過剰になりすぎると樹脂組成物の色調や、難燃性や機械的物性の低下を招くので好ましくない。
【0092】
図1における第二混練ゾーンIIでは、有機リン化合物のための供給口5(c’)を介して押出機に供給された残りの有機リン化合物が、溶融した樹脂組成物にさらに溶融混練される。図1においては、2個の順方向ニーディングエレメント11、2個のニュートラルニーディングエレメント14、及び1個の逆方向フライトスクリューエレメント15の組み合わせにより、第二混練ゾーンIIを形成しており、該第二混練ゾーンIIでは前記第一混練ゾーンIと同様に樹脂充満率が1の状態で十分に溶融混練される。
【0093】
第二混練ゾーンIIでは樹脂成分が完全に溶融した樹脂と有機リン化合物の混練であるので、せん断発熱の発生、及び溶融樹脂温度の上昇を低レベルに抑えて溶融混練を行うことができる。
さらに、図1に示すベント6によって、開放脱揮、好ましくは減圧脱揮を行うことができる。
また、必要に応じて異物除去用のスクリーン7をダイアダプターブロック8に装着する。樹脂組成物は吐出口9からストランドとして押し出された後、水冷、ペレタイズされて難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が得られる。
本発明の方法により得られた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物から各種の成形品を得るための成形方法は特に限定されないが、例えば、押出成形、圧縮成形、射出成形、ガスアシスト成形等が挙げられ、中でも射出成形が好ましい。成形品の例としては、ノート型パソコン筐体、パソコンモニター、コピー機、プリンター、複写機等のOA機器の筐体、OA機器シャーシ、携帯電話のハウジング等が挙げられる。
【0094】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明する。
なお、実施例及び比較例においては、以下の成分を用いてポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
1.芳香族ポリカーボネート
(PC)
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートから、溶融エステル交換法により製造されたペレット状のビスフェノールA系ポリカーボネート
重量平均分子量(Mw)=22,800
フェノール性末端基比率(フェノール性末端基が全末端基数に占める割合)=30%
【0095】
2.ゴム変性樹脂
(ABS)
乳化重合法により重合し、硫酸塩析法にて凝固させた後に、洗浄、乾燥処理を行って得たABSグラフト共重合体を、さらにアクリロニトリル単位27重量%、スチレン単位73重量%からなり、重量平均分子量(Mw)が110,000であるスチレン・アクリロニトリル(AS)樹脂で溶融混練することにより得た、ブタジエンゴム含有量含有量が20重量%、ゴム重量平均粒径が0.26μmであるペレット状のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂
(MBS)
パウダー状のメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体
三菱レーヨン(株)製 「メタブレンC223A」
【0096】
3.有機リン化合物
(ホスフェート−1)
前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーであって、置換基Ra、Rb、Rc、及びRdが全てフェニル基であり、重量平均縮合度(N)が1.12であり、酸価が0.008mgKOH/gであり、マグネシウム含有量が3.0ppmであり、塩素含有量が1ppm以下であるもの。
(ホスフェート−2)
前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーであって、置換基Ra、Rb、Rc、及びRdが全てフェニル基であり、重量平均縮合度(N)が1.12であり、酸価が0.5mgKOH/gであり、マグネシウム含有量が5.2ppmであり、塩素含有量が1ppm以下であるもの。
【0097】
4.フルオロポリマー
(Dis.PTFE)
固形分含有量が60wt%であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテルを界面活性剤として含有する水性PTFEディスパージョン
ダイキン工業(株)製 ポリテトラフルオロエチレンの水性PTFEディスパージョン(商品名「ポリフロン D−2CE」)
【0098】
5.その他の成分
(添加剤−1)
n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジターシャリーブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名「IRGANOX 1076」
(添加剤−2)
トリス(2,4−ジターシャリーブチルフェニル)ホスファイト
チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製 商品名「IRGAFOS 168」
【0099】
【実施例1】
図1に示す構成の2軸押出機(TEM−58SS、L/D=37、東芝機械(株)社製)を用いて溶融混練を行い、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造した。
9個のシリンダーブロックB1〜B9の設定温度は、第1シリンダーブロックB1は50℃、第2シリンダーブロックB2は220℃、第3〜第5シリンダーブロックB3〜B5は250℃、第6〜第9シリンダーブロックB6〜B9は230℃とし、ダイアダプターブロック8の設定温度は250℃とした。
【0100】
ポリカーボネート樹脂ペレット(PC)3aを560kg/hrで、ペレット状のアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)3bを120kg/hrで、パウダー状のメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)3cを20kg/hrで、さらに、添加剤−1と添加剤−2の添加剤混合物3d(添加剤−1:添加剤−2=10:1(重量比))を0.7kg/hrでホッパー2を介して供給口1(a’)に連続供給した。また、10℃に冷却されたフルオロポリマー水性ディスパージョン(Dis.PTFE)を循環式冷媒により10℃に冷却された注入用ノズル4を介して、ダイヤフラムポンプにより3.5kg/hrの供給速度で供給口1(a’)より連続供給した。図1において符号aで示すゾーンが本発明におけるゾーン(a)であり、供給口1(a’)から目視にて、樹脂成分が溶融していないことを確認した。
【0101】
さらに、有機リン化合物(ホスフェート−1)を予め80℃に加熱した後、プランジャーポンプを用いて、総量100kg/hrの供給速度で、注入用ノズル5bから50%(50kg/hr)を供給口5(b’)を介して、また、注入用ノズル5cから50%(50kg/hr)を供給口5(c’)を介して、それぞれ連続供給した。尚、図1において符号bで示すゾーンが本発明におけるゾーン(b)であり、シリンダーブロックB4に設けたのぞき窓(図示しない)により樹脂成分が部分的溶融状態であることを目視にて確認した。また、図1において符号cで示すゾーンが本発明におけるゾーン(c)であり、シリンダーブロックB6に設けたのぞき窓(図示しない)により樹脂成分が完全溶融状態であることを目視にて確認した。
【0102】
図1中のゾーンIは、第一混練ゾーンである。また、ゾーンIIは第二混練ゾーンである。
押出機スクリューの回転数は520rpmとし、さらに、ベント6より100mmHg−G(ゲージ圧)で減圧脱揮を行った。また、ダイーアダプターブロック8に120メッシュのスクリーン7を装着した。吐出口9より押出された樹脂組成物のストランドを水冷し、ペレット化を行うことにより難燃性ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0103】
押出機への各原料成分の供給が安定した後、溶融樹脂の押出機内滞留時間を測定したところ、14秒であった。
実施例1における運転結果、並びに得られた樹脂組成物の物性を以下の方法で評価した。
(1)ダイ部の溶融樹脂温度
ダイ付近での溶融樹脂温度を熱電対により測定した。(単位:℃)
(2)押出機負荷
下記式で定義する「押出機モーター負荷率」(単位:%)により評価した。
【0104】
押出機モーター負荷率[%]=(押出機モーター電流値[A])/(押出機モーター最大許容電流値[A])×100
【0105】
(3)ストランド切れ
直径4.5mm、25穴のダイから押出された樹脂組成物のストランドの連続引き取り安定性を評価した。
○:1時間の連続運転においてストランド切れが全く生じない。
【0106】
△:1時間の連続運転中に、時々ストランド切れが生じる。
×:ストランド切れが頻繁に生じるため、安定に連続してペレタイズを行うことができない。
【0107】
(4)有機リン化合物の混練状況
有機リン化合物の混練状況を目視観察した。
○:有機リン化合物のベント口でのベントアップ、ダイからの吹き出し、押出機ホッ パー位置への逆流、等のトラブルが発生しない。
×:上記トラブルが発生する。
(5)UL94難燃性
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度250℃、金型温度60℃に設定した射出成形機(オートショット50D、ファナック社製)で成形し、燃焼試験用の短冊形状成形体(厚さ1/16インチ)を作成し、UL94規格20MM垂直燃焼試験(V−0、V−1またはV−2に分類する(難燃性の程度:V−0>V−1>V−2))に基づいて難燃性レベルを評価した。
(6)アイゾット衝撃強度
1/8インチ厚の試験用短冊片をシリンダー温度250℃、金型温度60℃に設定した射出成形機(オートショット50D、ファナック社製)で成形し、ASTM D256に準じて、ノッチ付きで測定した。(単位:kgf・cm/cm)
【0108】
(7)80℃、95RH%環境下での色調変化
1/8インチ厚の試験用短冊片をシリンダー温度250℃、金型温度60℃に設定した射出成形機(オートショット50D、ファナック社製)で成形し、試験短冊片を高温高湿環境下(80℃、95RH%)に1,000時間放置し、色調変化を目視評価した。
○:黄変が極めて少ない。
△:黄変がやや観察される。
×:黄変が著しい。
結果を表1に示す。
表1に示すように、実施例1では、溶融樹脂温度が低く、押出機負荷が小さく、ストランド切れや有機リン化合物の逆流、漏洩、吹き出し等のトラブルがなく、溶融混練をきわめて安定に行うことができ、さらに、得られた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、難燃性、耐衝撃性及び色調に優れることがわかる。
【0109】
【実施例2】
ホスフェート−1をホスフェート−2に変更した以外は実施例1と同じ条件で樹脂組成物を製造した。
実施例2における運転結果、並びに得られた樹脂組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0110】
【実施例3】
有機リン化合物(ホスフェート−1)を、注入用ノズル5bから20%(20kg/hr)を供給口5(b’)を介して、また、注入用ノズル5cから80%(80kg/hr)を供給口5(c’)を介して、それぞれ連続供給した以外は実施例1と同様に樹脂組成物を製造した。
実施例3の結果を表1に示す。
【0111】
【実施例4】
有機リン化合物(ホスフェート−1)を、注入用ノズル5bから80%(80kg/hr)を供給口5(b’)を介して、また、注入用ノズル5cから20%(20kg/hr)を供給口5(c’)を介して、それぞれ連続供給した以外は実施例1と同様に樹脂組成物を製造した。
実施例4の結果を表1に示す。
【0112】
【実施例5】
有機リン化合物(ホスフェート−1)の、総量の供給速度を160kg/hrに変更した以外は実施例1と同様に樹脂組成物を製造した。
実施例5の結果を表1に示す。
【表1】
【0113】
【比較例1】
有機リン化合物(ホスフェート−1)の全量を注入用ノズル5cから供給口5(c’)を介して連続供給した以外は実施例1と同様に樹脂組成物を製造した。
結果を表2に示す。
比較例1では、押出機モーターの負荷が大きく許容範囲を超え、連続製造を行うことができなかった。さらに、ストランド切れが頻繁に発生し、しばしばベント口6より有機リン化合物の吹き出しが発生した。
【0114】
【比較例2】
PCの供給速度を392kg/hr、ABSの供給速度を84kg/hr、MBSの供給速度を14kg/hr、添加剤混合物の供給速度を0.5kg/hr、Dis.PTFEの供給速度を2.5kg/hrとし、有機リン化合物(ホスフェート−1)は供給速度70kg/hrで全量を注入用ノズル5cから供給口5(c’)を介して、それぞれ連続供給し、その他の条件は実施例1と同じ条件で樹脂組成物を得た。
比較例2で得られた樹脂組成物の物性を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表2に示す。
比較例2は実施例1と較べて、樹脂組成物の生産速度が低いにもかかわらず、溶融樹脂温度、並びに押出機モーター負荷率が高く、実施例1より生産効率が劣っていることがわかる。また、しばしばベント口6より有機リン化合物の吹き出しが発生した。さらに、得られた樹脂組成物は、難燃性、アイゾット衝撃強度、色調が実施例1に比べて劣る。
【0115】
【比較例3】
有機リン化合物(ホスフェート−1)を、160kg/hrの供給速度で総量を注入用ノズル5bから供給口5(b’)を介して連続供給した以外は実施例5と同様に樹脂組成物を製造した。
比較例3では、運転中に有機リン化合物がホッパー4の直下まで逆流し、一部が押出機から漏洩した。更に、原材料のフィード不良や、ストランド切れが多く発生し、連続運転を行うことが困難であった。
【表2】
【0116】
【発明の効果】
本発明の方法は、有機リン化合物を含む難燃性ポリカーボネート樹脂組成物をスクリュー押出機により製造するにおいて、多くの有機リン化合物が配合される場合においても混練不良を生じることなく安定に溶融混練を行うことができ、かつ、溶融混練時における溶融樹脂の発熱を抑制することにより、色調、機械的物性、及び難燃性が同時に優れた樹脂組成物を製造することができる難燃性ポリカーボネート樹脂組成物製造方法であり、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の方法に用いる押出機の一例(実施例に使用)の内部構造を示す説明的概略側断面図である。
【図2】 本発明の方法に用いる「順方向フライトスクリューエレメント」の一例の、押出機の吐出口の方向から見た概略図(a)、及び概略側面図(b)である。
【図3】 本発明の方法に用いる「逆方向フライトスクリューエレメント」の一例の、押出機の吐出口の方向から見た概略図(a)、及び概略側面図(b)である。
【図4】 本発明の方法に用いる「順方向ニーディングエレメント」の一例の、押出機の吐出口の方向から見た概略図(a)、及び概略側面図(b)である。
【図5】 本発明の方法に用いる「逆方向ニーディングエレメント」の一例の、押出機の吐出口の方向から見た概略図(a)、及び概略側面図(b)である。
【図6】 本発明の方法に用いる「ニュートラルニーディングエレメント」の一例の、押出機の吐出口の方向から見た概略図(a)、及び概略側面図(b)である。
【図7】 本発明の方法に用いる「順方向スクリューミキシングエレメント」の一例の、押出機の吐出口の方向から見た概略図(a)、及び概略側面図(b)である。
【図8】 本発明の方法に用いる「逆方向スクリューミキシングエレメント」の一例の、押出機の吐出口の方向から見た概略図(a)、及び概略側面図(b)である。
【図9】 本発明の方法に用いる「シールリングエレメント」の一例の、押出機の吐出口の方向から見た概略図(a)、及び概略側面図(b)である。
【符号の説明】
a 樹脂成分が未溶融状態に維持されているゾーン(a)
b 該樹脂成分が部分的溶融状態に維持されているゾーン(b)
c 該樹脂成分が完全溶融状態に維持されているゾーン(c)
I 樹脂成分、有機リン化合物、必要によりフルオロポリマー及びその他の成分を混練するためのゾーン(混練ゾーンI)
II 樹脂成分、有機リン化合物、必要によりフルオロポリマー及びその他の成分を混練するためのゾーン(混練ゾーンII)
B1〜B9 第1〜第9シリンダーブロック
1(a’) 樹脂成分及びフルオロポリマーの水性ディスパージョンの供給口(a’)
2 ホッパー
3a ポリカーボネート
3b、3c及び3d ポリカーボネート以外の樹脂又は添加剤
4 フルオロポリマーの水性ディスパージョン供給用ノズル
5(b) ゾーン(b)への有機リン化合物供給用ノズル
5(b’) ゾーン(b)への有機リン化合物の供給口(b’)
5(c) ゾーン(c)への有機リン化合物の供給用ノズル
5(c’) ゾーン(c)への有機リン化合物の供給口(c’)
6 ベント
7 スクリーン
8 ダイアダプターブロック
9 難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の吐出口
10 順方向フライトスクリューエレメント
11 順方向ニーディングエレメント
12 順方向スクリューミキシングエレメント
13 ニュートラルニーディングエレメント
14 逆方向ニーディングエレメント
15 逆方向フライトスクリューエレメント
16 スクリュー回転軸
17 回転軸の軸線
18 押出機の吐出口の側から見た回転軸の回転方向
S1〜S5 図4〜6に示すニーディングエレメントを構成する擬楕円形板
Claims (8)
- 主としてポリカーボネートからなる樹脂成分、及び有機リン化合物を、スクリュー押出機を用いて混練して、難燃性ポリカーボネート樹脂組成物を製造する方法であって、該スクリュー押出機として、ゾーン(a)、ゾーン(b)、ゾーン(c)及び該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の吐出口が押出し方向に見てこの順序に配置されてなり、該ゾーン(a)には該樹脂成分のための1つ又は複数の供給口(a’)が設けられており、該ゾーン(b)には該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口(b’)が設けられており、該ゾーン(c)には前記(b’)とは異なる該有機リン化合物のための1つ又は複数の供給口(c’)が設けられている押出機を用い、その際、ゾーン(a)においては、該樹脂成分を未溶融状態に維持し、ゾーン(b)においては、該樹脂成分を部分的溶融状態に維持し、ゾーン(c)においては、該樹脂成分を完全溶融状態に維持し、該樹脂成分は供給口(a’)を介してゾーン(a)に連続的に供給し、該有機リン化合物は、該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して5〜50%の供給速度で、供給口(b’)を介して該有機リン化合物の1〜90%をゾーン(b)に、供給口(c’)を介して該有機リン化合物の99〜10%をゾーン(c)にそれぞれ分割して連続的に供給し、該樹脂成分、及び該有機リン化合物を混練しながら該吐出口に向かって押出すことを包含し、該押出機中の樹脂の温度を300℃以下とし、かつ該樹脂成分の押出機内滞留時間が1〜40秒であることを特徴とする難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
- 該有機リン化合物を、供給口(b’)を介して該有機リン化合物の10〜50%をゾーン(b)に、供給口(c’)を介して該有機リン化合物の90〜50%をゾーン(c)にそれぞれ分割して連続的に供給することを特徴とする請求項1に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
- 該押出機が、2軸押出機であることを特徴とする請求項1及び2のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
- 該樹脂成分が、ポリカーボネートとゴム変性樹脂とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
- 該有機リン化合物が、酸価が0.1mgKOH/g以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
- さらに、該難燃性ポリカーボネート樹脂組成物が、フルオロポリマーを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
- さらに、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを該樹脂成分の供給速度(kg/hr)に対して0.01〜10%の供給速度で、該樹脂成分とは別に、該ゾーン(a)に設けられた供給口(a’)を介して連続的に供給し、該樹脂成分、該有機リン化合物、及び該フルオロポリマーの水性ディスパージョンを混練しながら該吐出口に向かって押出すことを特徴とする請求項1〜6に記載の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
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