JP5073892B2 - 耐衝撃性に優れたポリカーボネート系難燃樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、極薄肉での優れた耐衝撃性、溶融流動性、難燃性、及び剛性を有するポリカーボネート系難燃樹脂組成物に関する。更に詳細には、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、芳香族ビニル単量体単位、およびシアン化ビニル単量体単位を含む共重合体(B)、芳香族ビニル化合物とシアン化ビニル化合物とをゴム状重合体の存在下で共重合して得られるシアナイド含有グラフト共重合体(C)、芳香族ビニル化合物とアルキル(メタ)アクリレートとをゴム状ブタジエン重合体の存在下で共重合して得られる(メタ)アクリレート含有グラフト共重合体(D)、少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(E)、及びタルク(F)を含んでなるポリカーボネート系難燃樹脂組成物に関する。
【0002】
本発明の樹脂組成物は薄肉での優れた耐衝撃性、溶融流動性、難燃性、及び剛性を有するとともに低金型汚染性、及び耐熱性にも優れている。本発明の樹脂組成物は、OA機器や電気・電子機器のハウジングや、その他の様々な成形体に好適に用いることができ、特に肉厚1.2mm以下の部分を有する極薄肉成形体には好適に用いることができる。
【0003】
【従来の技術】
ポリカーボネート樹脂(PC)にアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系樹脂(ABS)と有機リン化合物系難燃剤をブレンドした組成物(以下、「PC/ABS/リン系難燃剤組成物」と称す。)は非臭素・非塩素系の難燃樹脂材料として、コンピューター用モニター、ノートブックパソコン、プリンタ、ワープロ、コピー機等のハウジング材料として利用されている。
【0004】
近年、同機器のハウジングは解体、分別しやすいように構造を簡略化してリサイクル性を高め,尚且つ薄肉化することにより軽量化とコストダウンを同時に狙った設計となってきており、特にノートブックパソコン等の携帯可能なOA機器ハウジングは、更なる軽量化を目的として肉厚1.2mm以下の極薄肉ハウジングとする要望がある。このようなハウジング設計の流れから、そこで使用される材料には極薄肉成形が可能となる溶融樹脂の良流動性、極薄肉成形体での高度な難燃性、及び極薄肉成形体での変形、破損を防止するための剛性、耐衝撃性、耐熱性が同時に求められるようになってきており、高度な物性バランスを有する樹脂組成物が求められている。
【0005】
上記課題の中で肉厚1.2mm以下の極薄肉成形体の成形を可能とするためには、溶融流動性に優れた樹脂組成物を使用することが一般的である。PC/ABS/リン系難燃剤組成物はPCにABSやリン系難燃剤が配合されているため、PCのみの場合より溶融流動性に優れているが、薄肉成形体を容易に成形加工するためには更に流動性向上が必要である。そのため、これまでの技術においてはPCより溶融粘度の低いABS樹脂配合量を多くする方法や、低分子量のPCを使用する方法等が用いられてきた。しかしながら該方法においてはABS樹脂配合量を多くすると難燃性、及び剛性が低下しやすい問題があり、また低分子量のPCを使用した場合は耐衝撃性が低下しやすい問題があるため、溶融流動性を高めると同時に難燃性、剛性、及び耐衝撃性を改善することが容易ではなかった。
【0006】
そこでABS配合量を多くして溶融流動性を高めると共に難燃性、及び剛性を改善させる方法としてタルクを配合する技術が特開平13−49106、特開平13−72852、特開平12−191896、特開平11−199768等に記載されている。しかしながら該技術では難燃性、及び剛性の改善においては有効であるが、タルクを配合することにより耐衝撃性が低下しやすく、特に肉厚1.2mm以下の極薄肉成形体に充分な耐衝撃性を付与することは困難であった。
【0007】
一般に、タルクのような鉱石を粉砕して得られる粉体を補強剤として樹脂組成物に配合する場合は、大粒径より小粒径の粉体を配合する方が耐衝撃性低下の割合が小さい傾向にある。そのため平均粒子径が2μm以下の小粒径タルクを配合して耐衝撃性の低下を抑制する方法が特開平7−316411に記載されている。しかしながら、該技術においてもタルク配合による耐衝撃性低下の抑制方法としては不十分であり、特に溶融流動性向上のために低分子量のPCを使用した場合などは著しく耐衝撃性が低下しやすい問題があった。したがって、これまでのPC/ABS/リン系難燃剤組成物にタルクを配合する従来技術においては、成形された肉厚1.2mm以下の極薄肉成形体に、十分な溶融流動性、難燃性、剛性、及び耐衝撃性を同時に付与することは非常に困難であった。
【0008】
一方、最近では成形の際の金型汚染を低減するためにPC/ABS/リン系難燃剤組成物に配合する難燃剤として、揮発成分が少ないオリゴマー系のリン系難燃剤が注目されている。中でも耐熱性に優れたビスフェノールAジホスフェート(BDP)型のオリゴマー系リン化合物難燃剤は、PC/ABS/リン系難燃剤組成物の金型汚染を低減し、且つ耐熱性を同時に改良できる難燃剤として使用されるようになってきている。しかしながら、オリゴマー系のリン系難燃剤は金型汚染を低減できる反面、トリフェニルフォスフェート(TPP)に代表されるモノ系のリン化合物難燃剤と較べると難燃性能が劣るという問題があった。したがってPC/ABS/リン系難燃剤組成物のリン系難燃剤としてオリゴマー系リン化合物を使用した場合、低金型汚染性、及び耐熱性は満足するものの、該組成物で成形した肉厚1.2mmの極薄肉成形体にUL94でのV−0相当の高度な難燃レベルを付与することが困難であった。
【0009】
上記に示すごとく、PC/ABS/リン系難燃剤組成物において、肉厚1.2mm以下の極薄肉成形体においても優れた耐衝撃性、溶融流動性、及び剛性を有し、同時に優れた難燃性、低金型汚染性、及び耐熱性を有するポリカーボネート系難燃樹脂組成物が強く望まれているにもかかわらず、満足できる性能が得られていないのが現状である。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、肉厚1.2mm以下の極薄肉成形体においても優れた耐衝撃性、溶融流動性、及び剛性を有し、同時に優れた難燃性、低金型汚染性、及び耐熱性を有するポリカーボネート系難燃樹脂組成物を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、PC/ABS/リン系難燃剤組成物に剛性、及び難燃性向上の目的でタルクを配合しながらも耐衝撃性を向上させ、尚かつ、同時に肉厚1.2mm以下の極薄肉成形体が容易に成形加工可能な、溶融流動性に優れたPC/ABS/リン系難燃剤組成物を得る方法を鋭意検討した結果、特定のグラフト共重合体を配合することにより、耐衝撃性が著しく向上し、尚かつ良流動の樹脂組成物が得られることを見出した。即ち、本発明者らは驚くべきことに、PC/ABS/リン系難燃剤組成物中に芳香族ビニル化合物とアルキル(メタ)アクリレートとをゴム状ブタジエン重合体の存在下で共重合して得られる(メタ)アクリレート含有グラフト共重合体を配合することにより、優れた耐衝撃性、溶融流動性、及び剛性を有し、尚かつオリゴマー系のリン系難燃剤を用いた場合においても肉厚1.2mm以下の極薄肉成形体で優れた難燃性が発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、
[1]芳香族ポリカーボネート樹脂(A)50〜95重量部、芳香族ビニル単量体単位(b−1)、およびシアン化ビニル単量体単位(b−2)を含む共重合体(B)49〜0重量部、芳香族ビニル化合物(c−1)とシアン化ビニル化合物(c−2)とをゴム状重合体(c−3)の存在下で共重合して得られるシアナイド含有グラフト共重合体(C)49〜1重量部、芳香族ビニル化合物(d−1)とアルキル(メタ)アクリレート(d−2)とをゴム状ブタジエン重合体(d−3)の存在下で共重合して得られる(メタ)アクリレート含有グラフト共重合体(D)49〜0.1重量部、及び、以下成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計100重量部に対して、少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(E)5〜30重量部、及びタルク(F)0.1〜20重量部を含んでなり、前記成分(C)中のゴム状重合体(c−3)の割合が、成分(C)100重量部に対して12〜25重量%であるポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
[2]タルク(F)が平均粒子径1〜50μmであり、且つタルク粒子全体の1〜80%が粒子径7μm以上の粒子であることを特徴とする上記[1]記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
【0013】
[3] 少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(E)が各々下記式(1):
【化3】
で表される化合物群より選ばれることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
【0014】
[4] 少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(E)が各々下記式(2):
【化4】
で表される化合物群より選ばれることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
【0015】
[5] 上記[1]、[2]、[3]、及び[4]のいずれか1つに記載されたポリカーボネート系樹脂組成物で成形された成形体であって、肉厚1.2mm以下の部分を少なくとも1つ有する薄肉成形体、である。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂(A)とは、下記式(3)で表される繰り返し単位からなる主鎖を有する。
【0017】
【化5】
【0018】
(式中、Arは、二価の芳香族残基であり、例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレンや、下記式(4)で表されるものが挙げられる。)
【0019】
【化6】
【0020】
(式中、Ar1及びAr2は、それぞれアリーレン基である。例えばフェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレン等の基を表し、Yは式(5)で表されるアルキレン基または置換アルキレン基である。)
【0021】
【化7】
【0022】
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6低級アルキル基、炭素数5〜10シクロアルキル基、炭素数6−30アリール基、炭素数7〜31アラルキル基であって、場合によりハロゲン原子、炭素数1〜10アルコキシ基で置換されていてもよく、kは3〜11の整数であり、R5及びR6は、各Xについて個々に選択され、お互いに独立に水素原子、または炭素数1〜6低級アルキル基、炭素数6〜30アリール基であって、場合によりハロゲン原子、炭素数1〜10アルコキシ基で置換されていてもよく、Xは炭素原子を表す。
)
また、下記式(6)で示される二価の芳香族残基を共重合体成分として含有していても良い。
【0023】
【化8】
【0024】
(式中、Ar1、Ar2は式(4)と同じ。Zは単なる結合、または、−O−、−CO−、−S−、−SO2−、−CO2−、−CON(R1)−(R1は式(5)と同じ)等の二価の基である。)
これら二価の芳香族残基の例としては、下記で表されるもの等が挙げられる。
【0025】
【化9】
【0026】
【化10】
【0027】
(式中、R7及びR8は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素数1〜10アルキル基、炭素数1〜10アルコキシ基、炭素数5〜10シクロアルキル基または炭素数6〜30アリール基である。m及びnは1〜4の整数で、mが2〜4の場合には各R7はそれぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2〜4の場合は各R8はそれぞれ同一でも異なるものであっても良い。)
中でも、下記式(7)で表されるものが好ましい一例である。
【0028】
【化11】
【0029】
特に、上記の式(7)で表されるものをArとする繰り返しユニットを85モル%以上(ポリカーボネート中の全モノマー単位を基準として)含むポリカーボネートが特に好ましい。
また、本発明に用いることができるポリカーボネートは、三価以上の芳香族残基を分岐点とする分岐構造を有していても良い。
ポリマー末端の分子構造は特に限定されないが、フェノール性水酸基、アリールカーボネート基、アルキルカーボネート基から選ばれた1種以上の末端基を結合することができる。アリールカーボネート末端基は、下記式(8)で表される。
【0030】
【化12】
【0031】
(式中、Ar3は一価の芳香族残基であり、芳香環は置換されていても良い。)アリールカーボネート末端基の具体例としては、例えば、下記式で表されるものが挙げられる。
【0032】
【化13】
【0033】
アルキルカーボネート末端基は下記式(9)で表される。
【0034】
【化14】
【0035】
(式中、R9は炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐アルキル基を表す。)
アルキルカーボネート末端基の具体例としては、例えば下記式で表されるものが挙げられる。
【0036】
【化15】
【0037】
これらの中で、フェノール性水酸基、フェニルカーボネート基、p−t−ブチルフェニルカーボネート基、p−クミルフェニルカーボネート等が好ましく用いられる。
本発明において、フェノール性水酸基末端と他の末端との比率は、特に限定されないが、優れた機械的強度や耐熱安定性を得る観点からは、フェノール性水酸基末端の比率が全末端基数の20%以上であることが好ましく、20〜80%の範囲にあることが更に好ましい。フェノール性末端基の比率が全末端基数の80%を超えると、溶融時の熱安定性が若干低下する傾向にある。
【0038】
フェノール性水酸基末端量の測定方法は、一般にNMRを用いて測定する方法(NMR法)や、チタンを用いて測定する方法(チタン法)や、UVもしくはIRを用いて測定する方法(UV法もしくはIR法)で求めることができる。
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、一般に5,000〜50,000の範囲にあることが好ましく、より好ましくは10,000〜40,000であり、さらに好ましくは15,000〜30,000であり、特に好ましくは18,000〜25,000である。5,000未満では耐衝撃性が不十分になる傾向があり、また、50,000を越えると、溶融流動性が不十分になる傾向がある。
【0039】
本発明において、ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行い、測定条件は以下の通りである。すなわち、テトラヒドロフランを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から下式による換算分子量較正曲線を用いて求められる。
MPC=0.3591MPS 1.0388
(MPCはポリカーボネートの重量平均分子量、MPSはポリスチレンの重量平均分子量)
【0040】
本発明の組成物における芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、公知の方法で製造したものを使用することができる。具体的には、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体と反応せしめる公知の方法、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(例えばホスゲン)を水酸化ナトリウム水溶液及び塩化メチレン溶媒の存在下に反応させる界面重合法(例えばホスゲン法)、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル(例えばジフェニルカーボネート)などを反応させるエステル交換法(溶融法)、ホスゲン法または溶融法で得られた結晶化カーボネートプレポリマーを固相重合する方法(日本国特開平1−158033(米国特許第4,948,871号に対応))、日本国特開平1−271426、日本国特開平3−68627(米国特許第5,204,377号に対応))等の方法により製造されたものが用いられる。
【0041】
好ましいポリカーボネート樹脂としては、2価フェノール(芳香族ジヒドロキシ化合物)と炭酸ジエステルとからエステル交換法にて製造された実質的に塩素原子を含まないポリカーボネート樹脂があげられる。
本発明では異なる構造や分子量の2種以上の異なるポリカーボネートを組み合わせて成分(A)として使用することも可能である。
本発明の組成物における成分(A)の量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計100重量部に対し、50〜95重量部、好ましくは60〜90重量部、さらに好ましくは65〜85重量部である。成分(A)が50重量部未満であると耐熱性と薄肉成形体での難燃性を満足することが困難となり、一方、95重量部を超えると溶融流動性を満足することが困難となり好ましくない。
【0042】
本発明で用いられる成分(B)とは、芳香族ビニル単量体単位(b−1)、及びシアン化ビニル単量体単位(b−2)とを含む共重合体である。
成分(B)中の芳香族ビニル単量体単位(b−1)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルキシレン、p−ターシャリーブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等を挙げることができ、これらを1種または2種以上使用する。好ましくはスチレン、α−メチルスチレンであり、最も好ましいのはスチレンである。
【0043】
成分(B)中のシアン化ビニル単量体単位(b−2)としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができ、これらを1種または2種以上使用する。この中で好ましいのはアクリロニトリルである。
成分(B)中の(b−1)/(b−2)の組成比は特に限定されないが、(b−1)と(b−2)の合計100重量部に対して、好ましくは(b−1)が95〜50重量%、(b−2)が5〜50重量%であり、より好ましくは、(b−1)が90〜60重量%、(b−2)が10〜40重量%であり、更に好ましくは(b−1)が85〜65重量%、(b−2)が15〜35重量%である。
【0044】
また、成分(B)では本発明の趣旨を妨げない範囲で、上記の成分(b−1)及び成分(b−2)の他にこれらの成分と共重合可能な単量体を使用することができる。そのような共重合可能な単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート単量体、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体が挙げられる。これらの単量体は、本発明の趣旨を妨げない範囲で、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
成分(B)の好ましい例として、スチレン・アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)やブチルアクリレート・スチレン・アクリロニトリル共重合体樹脂(BAAS)等を挙げることができる。この中でBAASは樹脂組成物の耐衝撃性、及び流動性を改良する上で好ましく、特に上記BAASは成分(B)中にブチルアクリレート単量体成分を2〜20重量%含むことが好ましい。また成分(B)として最も好ましいのはSANである。
【0046】
成分(B)の製造方法としては、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など通常公知の製造方法を挙げることができる。
成分(B)の重量平均分子量(Mw)は、通常、20,000〜200,000の範囲である。好ましくは60,000〜180,000であり、さらに好ましくは70,000〜150,000であり、特に好ましくは80,000〜140,000である。20,000未満では耐衝撃性を維持することが困難となり、また、200,000を越えると、高流動の組成物を得ることが困難となる。
【0047】
成分(B)の割合は、成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計100重量部に対し、49重量部〜0重量部であり、好ましくは30〜1重量部、さらに好ましくは20〜3重量部である。成分(B)は本発明の趣旨を達成するための必須成分ではないが、配合することにより流動性を向上することができるので配合することが好ましい。この場合、配合量が49重量部を超えると樹脂組成物の耐熱性、耐衝撃性、難燃性を維持することが困難となるため好ましくない。また成分(B)は異なる構造や分子量の2種以上の成分(B)を組み合わせて使用することも可能である。
【0048】
成分(C)とは、芳香族ビニル化合物(c−1)とシアン化ビニル化合物(c−2)とをゴム状重合体(c−3)の存在下で共重合して得られるシアナイド含有グラフト共重合体である。
ゴム状重合体(c−3)としては、ガラス転移温度が0℃以下のものであれば用いることができ、好ましくはガラス転移温度が−10℃以下のゴム状重合体であり、更に好ましくはガラス転移温度が−30℃以下、最も好ましいにはガラス転移温度が−50℃以下ののゴム状重合体である。
【0049】
成分(c−3)としてのゴム状重合体の具体的例としては、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム等のジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、シリコン・アクリル複合ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合ゴム、スチレン・ブタジエンブロック共重合ゴム、スチレン・イソプレンブロック共重合ゴム等のブロック共重合体、およびそれらの水素添加物等を使用することができる。これらの重合体の中で、好ましくは、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、ポリアクリル酸ブチル等が挙げられ、最も好ましいのはポリブタジエンである。
【0050】
成分(c−3)の平均粒径は0.1〜1.5μmが好ましく、より好ましくは0.15〜1.0μm、更に好ましくは0.2〜0.8μmであり、最も好ましいのは0.25〜0.7μmである。0.1μm未満であったり、1.5μmを超えたりすると、樹脂組成物の耐衝撃性を維持することが困難となるため好ましくない。
成分(C)中のゴム状重合体(c−3)の割合は本発明の趣旨に反しない範囲で用いられ、必要とする難燃性、機械的強度、剛性、成形加工性に応じて決められる。好ましい範囲としては成分(C)100重量部に対して5〜45重量%であり、より好ましくは8〜40重量%、更に好ましくは10〜30重量%、最も好ましいのは12〜25重量%である。成分(c−3)が多くなりすぎると難燃性、剛性、流動性が低下するため好ましくはなく、また少なすぎると樹脂組成物の耐衝撃性を維持することが困難となり好ましくない。
【0051】
成分(C)に使用される芳香族ビニル化合物(c−1)としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルキシレン、p−ターシャリーブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。この中で特にスチレンが好ましい。
成分(C)に使用されるシアン化ビニル化合物(c−2)としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができ、これらを1種または2種以上使用する。この中で好ましいのはアクリロニトリルである。
【0052】
成分(C)中の(c−1)/(c−2)の組成比は特に限定されないが、好ましくは(c−1)と(c−2)の合計100重量部に対して(c−1)が95〜50重量%、(c−2)が5〜50重量%であり、より好ましくは、(c−1)が90〜60重量%、(c−2)が10〜40重量%、更に好ましくは(c−1)が85〜65重量%、(c−2)が15〜35重量%である。
【0053】
また、成分(C)では本発明の趣旨を妨げない範囲で、上記の成分(c−1)及び成分(c−2)の他にこれらの成分と共重合可能な単量体を使用することができる。そのような共重合可能な単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート単量体、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体が挙げられる。これらの単量体は、本発明の趣旨を妨げない範囲で、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
成分(C)の好ましい例として、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂)、AAS樹脂(アクリロニトリル・ブチルアクリレート・スチレン樹脂)等が挙げられる。この中で好ましいのはABS樹脂である。
成分(C)の製造方法としては、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など通常公知の製造方法を挙げることができる。中でも、バルク重合、あるいは溶液重合により製造された成分(C)は、乳化剤を使用せずに成分(C)を得ることが出来るために、乳化剤に由来する脂肪酸あるいは脂肪酸金属塩を成分(C)中に実質的に含まないので、成分(C)として特に好適に使用できる。
【0055】
本発明で用いられる成分(D)とは、芳香族ビニル化合物(d−1)とアルキル(メタ)アクリレート(d−2)とをゴム状ブタジエン重合体(d−3)の存在下で共重合して得られる(メタ)アクリレート含有グラフト共重合体である。
ゴム状ブタジエン重合体(d−3)としては、ガラス転移温度が0℃以下のものであれば用いることができ、好ましくはガラス転移温度が−10℃以下のゴム状ブタジエン重合体、より好ましくはガラス転移温度が−30℃以下のゴム状ブタジエン重合体、更に好ましいのはガラス転移温度が−50℃以下のゴム状ブタジエン重合体、最も好ましいのはガラス転移温度が−80℃以下のゴム状ブタジエン重合体である。
【0056】
成分(d−3)の具体的例としては、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム等のジエン系ゴム、およびそれらの水素添加物等を挙げることができる。これらゴム状ブタジエン重合体の中でポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム等のジエン系ゴムが好ましく、最も好ましいのはガラス転移温度が−80℃以下のポリブタジエンである。また本発明においてはガラス転移温度が−50〜−60℃の範囲にあるスチレン・ブタジエンブロック共重合ゴムは耐衝撃性の改善効果が満足されるものではないため好適ではない。
【0057】
成分(D)中のゴム状ブタジエン重合体(d−3)の割合は、成分(D)100重量部に対して1〜95重量%の範囲で用いられるが、必要とする難燃性、機械的強度、剛性、成形加工性に応じて決められる。好ましくは、10〜95重量%であり、より好ましくは30〜95重量%、更に好ましくは50〜90重量%、最も好ましいのは70〜90重量%である。成分(d−3)の割合は、成分(c−3)の割合が多くない成分(C)を用いた場合、具体的には成分(C)100重量部に対して成分(c−3)の割合が30重量%以下の範囲にある成分(C)を用いる場合においては、特に成分(d−3)が70〜90重量%の範囲にある成分(D)を用いることが好ましい。
【0058】
成分(D)に使用される芳香族ビニル化合物(d−1)としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルキシレン、p−ターシャリーブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、特にスチレンが好ましい。
成分(D)に使用されるアルキル(メタ)アクリレート(d−2)としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなどが挙げられ、これらは単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、特にメチル(メタ)クリレートが好ましい。
【0059】
成分(D)中の(d−1)/(d−2)の組成比は特に限定されないが、好ましくは成分(d−1)と成分(d−2)の合計100重量部に対して(d−1)が0.1〜80重量%、(d−2)が99.9〜20重量%であり、更に好ましくは、(d−1)が10〜75重量%、(d−2)が90〜25重量%であり、更に好ましくは(d−1)が20〜70重量%、(d−2)が80〜30重量%、最も好ましいのは(d−1)が35〜65重量%、(d−2)が65〜35重量%である。成分(d−1)が0.1重量%未満、特に0重量%である場合は樹脂組成物の耐衝撃性を維持することが困難となるため好ましくない。また成分(d−2)が20重量%未満、特に0重量%であると樹脂組成物との相溶性が低下し、樹脂組成物の耐衝撃性を維持することが困難となるため好ましくない。
【0060】
また、成分(D)では本発明の趣旨を妨げない範囲で、上記の成分(d−1)及び成分(d−2)の他にこれらの成分と共重合可能な単量体を使用することができる。そのような共重合可能な単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体が挙げられる。これらの単量体は、本発明の趣旨を妨げない範囲で、1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
本発明における好適な成分(D)の具体例として、成分(d−1)がスチレン、成分(d−2)がメチル(メタ)クリレート、成分(d−3)がポリブタジエンであるMBS樹脂(メチル(メタ)クリレート・ブタジエン・スチレン樹脂)等が挙げられる。
成分(D)の製造方法としては、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など通常公知の製造方法を挙げることができる。
【0062】
本発明では成分(C)と成分(D)とを併用することにより、初めて優れた耐衝撃性、溶融流動性、難燃性、剛性を同時に兼ね備えた樹脂組成物を得ることができる。特に、成分(c−3)の割合が多くない成分(C)を用いた場合、具体的には成分(C)100重量部に対して成分(c−3)の割合が30重量%以下の範囲にある成分(C)と、成分(D)としてMBSを併用した場合は、本発明の趣旨を満足するのに好適である。このようなMBSの具体例としては、日本国三菱レーヨン(株)より製造されている「メタブレン C−223A」および「メタブレン C−323A」、日本国鐘淵化学工業(株)より製造されている「カネエース M−511」および「カネエース B−564」、日本国呉羽化学工業(株)「クレハBTA751」、台湾国台湾プラスチック社より製造されている「M−51]等を挙げることができる。
【0063】
本発明で用いられる成分(E)は、少なくとも1種の有機リン化合物であり、リン原子をその構造内に2つ以上有する化合物である有機リン化合物オリゴマーである。
本発明に用いられる有機リン化合物オリゴマーの特に好ましい例としては、下記式(1)で表される化合物群より選ばれるものを挙げることができる。
【0064】
【化16】
【0065】
上記式(1)における置換基Ra、Rb、Rc、Rdは、それぞれ独立的に炭素数6〜12のアリール基を示し、その1つ以上の水素原子が置換されていてもいなくてもよい。その一つ以上の水素原子が置換されている場合、置換基としては炭素数1〜30のアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、ハロゲン化アリール基等が挙げられ、またこれらの置換基を組み合わせた基(例えばアリールアルコキシアルキル基等)またはこれらの置換基を酸素原子、硫黄原子、窒素原子等により結合して組み合わせた基(例えば、アリールスルホニルアリール基等)を置換基として用いてもよい。
【0066】
置換基Ra、Rb、Rc、Rdとして特に好ましいアリール基は、フェニル基、クレジル基、キシリル基、プロピルフェニル基、およびブチルフェニル基である。上記式(1)の化合物における置換基Ra、Rb、Rc、Rdがアルキル基やシクロアルキル基であると、一般に熱安定性が不十分であり、溶融混練の際に分解が起こりやすいので好ましくない。
有機リン化合物の例としての化合物群を表す上記式(1)におけるXは、2価のフェノール類より誘導される芳香族基であり、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノール、4−t−ブチルカテコール、2−t−ブチルヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールSスルフィド、ビスフェノールF、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン等から誘導される芳香族基を挙げることができるが、本発明では特に式(2)
【0067】
【化17】
【0068】
で表される、Xがジフェニロールジメチルメタン基(ビスフェノールAより誘導される芳香族基)であるオリゴマー系有機リン化合物を使用することにより、耐加水分解性が向上し、樹脂組成物の滞留安定性を向上させ、さらに成形の際に金型表面に付着するモールドデポジット(MD)の発生を低減し金型汚染性を向上できるので好ましい。
【0069】
式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーは、通常、式(1)において異なるnの値(nは自然数)を有する複数の異なる有機リン化合物オリゴマーの混合物として使用される場合が多い。この際、複数の異なる有機リン化合物オリゴマーの重量平均縮合度(N)が1〜1.2未満であることが好ましい。Nはゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーあるいは液体クロマトグラフィーにより異なるnを有するそれぞれの成分の重量分率(An)を求め、nの重量平均、
N=Σ(n・An)/Σ(An)
により算出される。
【0070】
ここで、Anを求めるために、検出器として、UV検出器、あるいはRI検出器が通常使用される。ただし、Nの計算において、上記式(1)におけるnが0である構造のものが、併用あるいは含まれる場合(すなわち1分子中のリン原子が1つのみである有機リン化合物を用いるあるいは含まれる場合)は、nが0の化合物はNの計算から除外する。重量平均縮合度Nは、通常1以上5以下であり、1以上2以下が好ましく、1以上1.5以下が更に好ましく、1以上1.2未満が特に好ましい。Nが小さいほど樹脂との相溶性に優れ、溶融流動性に優れ、かつ難燃性が高い。特に、N=1の化合物は樹脂組成物における難燃性と溶融流動性のバランスが特に優れる。有機リン化合物としての式(1)の化合物のNが5以上である場合は、該化合物の粘度が大きくなり、特に高せん断速度領域での溶融流動性が低下する傾向にあり、また、難燃性が低下する傾向がある。
【0071】
さらに、本発明で用いられる有機リン化合物は、その酸価が0.1mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは0.05mgKOH/g以下であり、さらに好ましくは0.01mgKOH/g以下である。酸価が低い有機リン化合物を使用することにより、より耐湿熱性に優れたポリカーボネート系難燃樹脂組成物を得ることができる。
【0072】
また、上記一般式(1)で表される有機リン化合物は、米国特許第2,520,090号公報、特公昭62−25706号公報、特開昭63−227632号公報等に記載されている方法により、塩化マグネシウムや塩化アルミニウムなどのルイス酸触媒の存在下にオキシ塩化リンとビスフェノールA及び一価フェノール類を反応させて合成し、その後、粗有機リン化合物を洗浄精製、乾燥することにより製品とすることができるが、本発明に使用される有機リン化合物では、有機リン化合物中に含まれる主に触媒由来のマグネシウム、アルミニウムや、洗浄精製にアルカリ、アルカリ土類などの金属イオンを含む水溶液を用いる場合において導入される可能性があるナトリウム、カリウム、カルシウム等の金属分の総量が、好ましくは30ppm以下、より好ましくは20ppm以下、更に好ましくは10ppm以下、特に好ましくは5ppm以下であることが耐湿熱性により優れたポリカーボネート系難燃樹脂組成物を得る上で望ましい。
【0073】
さらに、有機リン化合物中に含まれる塩素濃分は、好ましくは20ppm以下、より好ましくは10ppm以下、更に好ましくは5ppm以下、特に好ましくは1ppm以下であることが耐湿熱性により優れたポリカーボネート系難燃樹脂組成物を得る上で望ましい。
本発明の組成物における成分(E)の量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計100重量部に対し、5〜30重量部、好ましくは7〜20重量部、さらに好ましくは9〜16重量部である。成分(E)が5重量部未満では薄肉成形体での難燃性が不十分となり好ましくなく、一方、30重量部を超えると樹脂組成物の耐衝撃性が不足するため好ましくない。
【0074】
本発明で用いられる成分(F)とはタルクであり、PC/ABS/リン系難燃剤組成物の難燃性や剛性の向上を目的として使用される。
タルクとは一般的には含水ケイ酸塩であり、層状構造をもった層状ケイ酸塩である。層構造は電気的にほぼ中性であって、層間物質をもたない構造となっている。化学式ではMg3Si4O10(OH)2で表されMgO層はSiO2層に挟まれて存在しており、この両者間に(OH)基が存在し、MgO層とSiO2層とはOを共有することにより、化学的に強く結合した3層板状構造を有するものである。主成分はMgO、SiO2であるが、タルクの原料となる原石により化学成分に若干の差異があり、少量のFe2+、Ni、Alなどを含むことがある。本発明においては異なる原石から製造された化学成分が若干異なるタルクをそれぞれ単独、または混合して使用することもできる。また、タルクは粉砕方法や分級方法によりさまざまな粉体特性を有し、例えば平均粒径、粒径分布、白色度、嵩比容積、比表面積、水分、及び吸油量が異なる粉体とすることができる。そのため樹脂組成物に配合した場合、それぞれの粉体特性が樹脂組成物の物性に影響を与えることがあり、特に本発明においてはタルクの平均粒径、及び粒径分布が樹脂組成物の難燃性に影響するため、タルク種を選択する場合は注意を要する。
【0075】
本発明で好ましく用いられる成分(F)としては、平均粒径が1〜50μmであり、且つ粒子径が7μm以上の粒子が成分(E)粒子全体の1〜80%である。より好ましい平均粒径は1〜20μm、さらに好ましくは1〜10μmである。1μm未満であると薄肉難燃性が低下するため好ましくなく、50μmを超えると耐衝撃性が低下するため好ましくない。7μm以上の粒子の割合で好ましいのは3〜75%であり、より好ましくはは5〜70%、更に好ましくは10〜60%である。1%未満では難燃性が低下するため好ましくなく、80%を超えると耐衝撃性を維持することが困難となるため好ましくない。
【0076】
本発明では、成分(F)は異なる平均粒径、及び粒子径が7μm以上の粒子の割合が異なるタルクを混合し、平均粒径が1〜50μmであり、且つ粒子径が7μm以上の粒子が成分(E)粒子全体の1〜80%である範囲に調製して使用することもできる。具体的には比較的均一粒径よりなる単分散タルクと比較的広い粒径範囲にある多分散タルクを単独、または混合して平均粒径が1〜50μmであり、且つ粒子径が7μm以上の粒子が成分(F)粒子全体の1〜80%である範囲に調製して使用することもできる。したがって本発明で使用される成分(F)の粒径分布幅は特に限定されず、平均粒径が1〜50μmであり、且つ粒子径が7μm以上の粒子が成分(E)粒子全体の1〜80%であれば、使用することができる。
【0077】
本発明における成分(F)は表面改質されていないものを使用したり、場合によっては樹脂との相溶性を向上させるために表面改質されているものを使用してもよく、使用方法はそれぞれ単独、または混合してもよい。ここでいう表面改質とはあらかじめ親油性の有機化合物を吸着させたり、シランカップリング剤を表面に塗布したりして、樹脂との親和性を向上させる方法を意味する。
本発明における成分(F)の粒径分布測定方法はふるい分け法、顕微鏡法、コールタ・カウンタ法、沈降法、吸着法、透過法、レーザー回析法等があるが、本発明においては島津製作所社製SALD−2000を使用し、レーザー回析法により平均粒径、及び粒径分布を測定し、粒子径が7μm以上の粒子が成分(F)粒子全体に含まれる割合を測定した。また成分(F)の平均粒径の定義もメディアン径、モード径、算術平均径、重量平均径等があるが、本発明における平均粒子径はメディアン径に相当する。
【0078】
本発明における成分(F)の白色度はJIS・P8123に準拠した測定方法で実施し、東洋精機製作所社製デジタルハンターSTにより測定した。本発明に用いる成分(F)の白色度は特に限定されないが、86%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上、更に好ましくは94%以上が好ましい。
本発明における成分(F)の比表面積は気相吸着法によるBET法で測定し、島津製作所社製フローソープ2300を使用して測定した。本発明に用いる成分(F)の比表面積は特に限定されないが0.5〜40m2/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜35m2/gの範囲であることが好ましい。
【0079】
本発明における成分(F)の水分はJIS・K5101に準拠した測定方法で実施し、島津製作所社製STAC―5100を使用して測定した。本発明に用いる成分(F)の水分は特に限定されないが0.1〜1%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜0.9%の範囲であることが好ましい。
本発明における成分(F)の吸油量はJIS・K5101に準拠した測定方法で実施した。本発明に用いる成分(F)の吸油量は特に限定されないが20〜70ml/100gの範囲であることが好ましく、より好ましくは30〜70ml/100g、更に好ましくは40〜65ml/100gであることが好ましい。
【0080】
本発明における成分(F)の嵩比容積はJIS・K5101に準拠した測定方法で実施した。本発明に用いる成分(F)の嵩比容積は特に限定されないが1〜5ml/gの範囲が好ましく、より好ましくは1〜3ml/gの範囲、更に好ましくは1.5〜2.5ml/gの範囲であることが好ましい。
本発明における成分(F)の使用量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計100重量部に対して、成分(F)の総量として、0.1〜20重量部の範囲であり、好ましくは1〜17重量部、より好ましくは3〜15重量部、更に好ましくは5〜12重量部である。成分(F)が0.1重量部未満であると組成物の難燃性、剛性を維持することが困難となり好ましくない。一方、成分(F)の使用量が20重量部を超えると、組成物の耐衝撃性を維持することが困難となり好ましくない。
【0081】
本発明にかかわるポリカーボネート系難燃樹脂組成物中の成分(F)の含有量は、ポリカーボネート系難燃樹脂組成物を400℃以上の高温で燃焼焼結後、その残嵯を測定して定量することができる。またはポリカーボネート系難燃樹脂組成物中のMg、Si等の元素含量を蛍光X線により定量して、成分(F)の含有量を求めることもできる。
また本発明においては、成分(F)のタルクの替わりに含水シリカ−アルミナカオリンを高温度で焼成したクレーや、モンモリロナイトを主成分とするベントナイト、及び珪酸(SiO2)を主成分とする珪藻土などを用いた場合は、本発明の趣旨を損なうことがあり、好ましくない。
【0082】
本発明に関わるポリカーボネート系樹脂組成物で成形された成形体とは、肉厚1.2mm以下の部分を少なくとも1つ有する薄肉成形体である。肉厚とは、その部分の肉厚方向に直角に延びる2つの対向する表面を有し、該肉厚は該対向する表面の間の距離として定義される。またガスアシスト成形や樹脂組成物に発泡剤を配合した場合等、成形体に中空部分を有する場合においては、本発明における肉厚とは中空部分を含めた肉厚を意味する。
【0083】
本発明のポリカーボネート系難燃樹脂組成物からなる成形品を得るための成形方法は特に限定されないが、例えば、射出成形、ガスアシスト成形、押出成形、圧縮成形等が挙げられるが、中でも射出成形が好ましく使用される。
本発明のポリカーボネート系難燃樹脂組成物を用いた成形品の例としては、モニター、ノート型パソコン、コピー機、プリンター等のOA機器筐体、OA機器シャーシ、携帯電話のハウジング等が挙げられる。
【0084】
本発明では樹脂組成物の燃焼物の滴下を防止する目的でフルオロポリマーを使用することが好ましい。詳しくは、本発明では樹脂組成物中においてフィブリル形成能力を有するフルオロポリマーを使用する事が好ましく、例えばファインパウダー状のフルオロポリマー、フルオロポリマーの水性ディスパージョン、ASやPMMA等の第2の樹脂との粉体状混合物等のフルオロポリマーを使用することが好ましい。
【0085】
更に詳しくは、本発明ではフルオロポリマーの水性ディスパージョンを好適に使用する事が好ましく、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンとは、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・プロピレン共重合体等のテトラフルオロエチレンポリマー、ポリテトラフルオロエチレン以外のパーフルオロアルカンポリマー、好ましくはテトラフルオロエチレンポリマー、特に好ましくはポリテトラフルオロエチレンが、例えば、「ふっ素樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社 1990年刊)に記載のように、懸濁重合または乳化重合で製造され、さらに、水性ディスパージョンの形態として使用されるものを示す。
【0086】
すなわち、本発明で好適に使用されるフルオロポリマーの水性ディスパージョンとは、懸濁重合または乳化重合によって得られるフルオロポリマー微粒子の分散液を40〜70wt%の濃度に濃縮した後、界面活性剤により安定化した乳白色状の水性ディスパージョンを示す。フルオロポリマーの水性ディスパージョンにおけるフルオロポリマーの濃度は分散状態が安定する濃度であれば水で希釈することも可能であるが、5〜70wt%が好ましく、更に好ましくは20〜65wt%、特に好ましくは30〜60wt%である。また、水性ディスパージョン中のフルオロポリマーの平均一次粒子径は0.01〜0.60μmが好ましく、更に好ましくは0.1〜0.40μmであり、特に好ましくは0.18〜0.30μmである。
【0087】
また、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンを安定化させる界面活性剤としては、エトキシ化アルキルフェノール、エトキシ化高級アルコール等のノニオン系の界面活性剤が好ましく使用され、通常、その配合量は1〜15wt%であり、好ましくは2〜10wt%、更に好ましくは3〜7wt%である。さらに、該フルオロポリマーの水性ディスパージョンはそのpH値が通常9〜10に調整されているものが好ましく使用される。
【0088】
また、フルオロポリマーの濃度が60wt%である場合、該水性ディスパージョンの液比重は約1.5であり、粘度(25℃)は15〜30cpの範囲にある。本発明において好ましく使用できるフルオロポリマーの水性ディスパージョンとして、三井デュポンフロロケミカル(株)製「テフロン30J」、ダイキン工業(株)製「ポリフロンD−1」、「ポリフロンD−2」、「ポリフロンD−2C」、「ポリフロンD−2CE」を例示することができる。
【0089】
さらに本発明では、フルオロポリマーとして、ASやPMMA等の第2の樹脂との粉体状混合物としたフルオロポリマーも好適に使用することができる。これら第2の樹脂との粉体状混合物としたフルオロポリマーに関する技術は、特開平9−95583号公報、特開平11−49912号公報、特開2000−143966号公報、特開2000−297189号公報等に開示されている。本発明において好ましく使用できる、これら第2の樹脂との粉体状混合物としたフルオロポリマーとして、GEスペシャリティケミカルズ社製「Blendex 449」、三菱レーヨン(株)製「メタブレンA−3000」を例示することができる。
【0090】
本発明におけるフルオロポリマーの配合量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計100重量部に対して0.01〜2重量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.8重量部、更に好ましくは0.2〜1.5重量部、特に好ましくは0.3〜1.2重量部である。フルオロポリマーの配合量が0.01重量部未満の場合は、樹脂組成物の燃焼時の滴下防止効果が不十分となり好ましくなく、特に薄肉成形体において高い難燃性を維持するのが困難となるため好ましくない。また、フルオロポリマーの配合量が2重量部を超える場合は溶融流動性や耐衝撃性が低下する傾向にあり、好ましくない。
また、本発明のポリカーボネート系難燃樹脂組成物では、必要に応じて樹脂組成物の改質を行う目的で、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、雲母などの無機フィラーや炭素繊維、木炭等の強化材、あるいはその他の熱可塑性樹脂を添加することもできる。
【0091】
さらに、本発明のポリカーボネート系難燃樹脂組成物では、本発明の趣旨を損なわない範囲内で必要に応じて離型剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、エポキシ化合物、帯電防止剤等を添加することができる。本発明では、これらの離型剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、エポキシ化合物、帯電防止剤等の総量が樹脂組成物100重量部に対して0〜5,000重量ppmの範囲であることが好ましい。5,000重量ppmを超えると本発明の趣旨を損なう可能性があり好ましくない。本発明にかかわるポリカーボネート系難燃樹脂組成物の原料である成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)中の離型剤、熱安定剤、酸化防止剤の含有量は、良溶媒/貧溶媒の組み合わせにより、同成分を分離あるいは抽出して、プロトンNMR法、GC/MS法、LC/MS法等の分析手法を組み合わせて定量することが可能である。また本発明にかかわるポリカーボネート系難燃樹脂組成物中の離型剤、熱安定剤、酸化防止剤の含有量も同様の手法により定量可能である。
【0092】
次に、本発明のポリカーボネート系難燃樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の樹脂組成物は前記の各成分(A)〜(F)、必要に応じてその他の成分を本明細書記載の組成割合で配合し、押出機等の溶融混練装置を用いて溶融混練することにより得ることが出来る。このときの各構成成分の配合及び溶融混練は一般に使用されている装置、例えば、タンブラー、リボンブレンダー等の予備混合装置、単軸押出機や二軸押出機、コニーダー等の溶融混練装置を使用することが出来る。また、溶融混練装置への原材料の供給は、予め各成分を混合した後に供給することも可能であるが、それぞれの成分を独立して溶融混練装置に供給することも可能である。
【0093】
溶融混練装置として通常は押出機、好ましくは2軸押出機が使用されるが、成分(E)が液状である場合は、成分(E)をギアポンプあるいはプランジャーポンプ等使用して押出機に直接フィードして溶融混練を行うことも可能であり、一般に該方法が製造方法として好ましい。また、樹脂組成物の燃焼時の滴下防止剤としてフルオロポリマーの水性ディスパージョンを使用する場合は、フルオロポリマーの水性ディスパージョンを予め他の原材料と混合してから押出機にフィードすることも可能であるが、押出機に直接フィードして溶融混練を行うこともできる。
【0094】
溶融混練は通常、押出機のシリンダー設定温度を200〜300℃、好ましくは220〜270℃とし、押出機スクリュー回転数100〜700rpm、好ましくは200〜500rpmの範囲で適宜選択して行うことができるが、溶融混練に際し、過剰の発熱を与えないように配慮する。さらに、押出機の後段部分に開口部を設けたり、必要に応じて減圧脱揮を行うことも有効である。また、原料樹脂の押出機内滞留時間は通常、10〜60秒の範囲で適宜選択されるが、本発明のポリカーボネート系難燃樹脂組成物の製造では原料樹脂の押出機内滞留時間を短時間とするほど、機械的特性、及び耐湿熱性に優れた樹脂組成物が得られるので好ましい。
【0095】
予め成分(A)〜(F)からなる未着色のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物のペレットを溶融混練により製造し、しかる後に該ペレットと着色剤を混合して、単軸または2軸の押出機により溶融混練して着色したポリカーボネート系難燃樹脂組成物を得る方法においては、着色剤の分散性や着色均一性を向上させるために、着色剤分散剤や着色剤展着剤としての成分を使用することも可能であるが、本発明では、これらの着色剤分散剤や着色剤展着剤を含めた成分の総量が着色したポリカーボネート系難燃樹脂組成物に対して0〜3,000重量ppmの範囲であることが好ましい。この場合、溶融混練装置として2軸の押出機を使用すると、着色剤分散剤や着色剤展着剤の使用量を低減でき、あるいはこれらを使用せずとも着色剤を樹脂組成物中に良好に分散できるので、好ましい。
【0096】
また、二軸押出機の使用は着色したポリカーボネート系難燃樹脂組成物の着色均一性を向上できる上でも好ましい。単軸押出機を使用する場合は、混練分散機能を強化したスクリュー構成を有する、例えば3〜6段のダルメージスクリューパーツを有する、単軸押出機を使用するのが好ましい。また成分(A)〜(F)以外の成分、特にフルオロポリマーを配合する場合、成分(A)〜(F)と同時に押し出し機にフィードする場合と、成分(A)〜(F)からなる未着色のポリカーボネート系難燃性樹脂組成物のペレットを着色する際にフィードする場合があるが、好ましくは成分(A)〜(F)と同時に押し出し機にフィードする方法が本発明には好適である。
【0097】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明する。
実施例あるいは比較例においては、以下の成分(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、及び(F)を使用し、ポリカーボネート系難燃樹脂組成物を製造した。
【0098】
1.成分(A)
(PC1)
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートから、溶融エステル交換法により製造された、ビスフェノールA系ポリカーボネートであり、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを300ppm、また、ホスファイト系熱安定剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを150ppm含むもの。
重量平均分子量(Mw)=26,000
フェノール性末端基比率(フェノール性末端基が全末端基数に占める割合)=34モル%
【0099】
(PC2)
ホスゲン法により得られたビスフェノールA系ポリカーボネートであり、離型剤としてパラフィン系離型剤を500ppm含むもの。
重量平均分子量(Mw)=20,500
【0100】
2.成分(B)
溶液重合法によって得られた、アクリロニトリル単位30重量%、スチレン単位70重量%で、重量平均分子量(Mw)が85,000であるアクリロニトリル・スチレン樹脂。
【0101】
3.成分(C)
(ABS1)
溶液重合法によって得られた、ブタジエンゴム含有量が12重量%、アクリロニトリル単位21重量%、スチレン単位67重量%で、ゴムの平均粒径が0.65μmであり、非グラフト共重合体成分の重量平均分子量(Mw)が110,000である溶液重合系アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂であり、滑剤成分を全く含ず、かつ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを1,000ppm、また、ホスファイト系熱安定剤としてトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを500ppm含むもの。
【0102】
(ABS2)
乳化重合法により重合し、硫酸塩析法にて凝固させた後に洗浄、乾燥処理を行って得たABSグラフト共重合体を、重量平均分子量(Mw)が110,000のAS樹脂(スチレン・アクリロニトリル樹脂)で希釈混練して得た、ブタジエンゴム含有量が32wt%、ゴム平均粒径が0.25μm、アクリロニトリル単位20wt%、スチレン単位48wt%からなる乳化重合系アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂であり、乳化剤残渣としての滑剤成分(ロジン酸)を1,100ppm、及びヒンダードフェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)を1,000ppm含むもの。
【0103】
(ABS3)
乳化重合法により重合し、硫酸塩析法にて凝固させた後に洗浄、乾燥処理を行って得たABSグラフト共重合体を、重量平均分子量(Mw)が110,000のAS樹脂(スチレン・アクリロニトリル樹脂)で希釈混練して得た、ブタジエンゴム含有量が22wt%、ゴム平均粒径が0.25μm、アクリロニトリル単位23wt%、スチレン単位55wt%からなる乳化重合系アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂であり、乳化剤残渣としての滑剤成分(ロジン酸)を1,200ppm、及びヒンダードフェノール系酸化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)を1,000ppm含むもの。
【0104】
4.成分(D)
(MBS1)
乳化重合法により重合し、ブタジエンゴム含有量が80wt%、ゴム平均粒径が0.22μm、メチル(メタ)クリレート単位2wt%、スチレン単位18wt%からなる乳化重合系メチル(メタ)クリレート・ブタジエン・スチレン樹脂。(−80.8℃にガラス転移温度を有する。)
【0105】
(MBS2)
乳化重合法により重合し、ブタジエンゴム含有量が80wt%、ゴム平均粒径が0.22μm、メチル(メタ)クリレート単位10wt%、スチレン単位10wt%からなる乳化重合系メチル(メタ)クリレート・ブタジエン・スチレン樹脂。(−80.8℃にガラス転移温度を有する。)
【0106】
5.成分(E):有機リン化合物オリゴマー
(ホスフェート1)
前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーであって、置換基Ra、Rb、Rc、Rdが全てフェニル基であり、重量平均縮合度(N)が1.14であり、マグネシウム含有量が3.5ppmであり、塩素含有量が1ppm以下であり、酸価が0.01mgKOH/g以下であるもの。
【0107】
(ホスフェート2)
大八化学(株)社製 レゾルシノールジホスフェート(CR733S)
重量平均縮合度(N)が1.43であり、マグネシウム含有量が7.2ppmであり、塩素含有量が1ppm以下であり、酸価が0.02mg/KOHであるもの。
(ホスフェート3)
大八化学(株)社製 トリフェニルホスフェート(TPP)
モノリン酸エステル化合物
【0108】
6.成分(F)
(タルク1)
平均粒径=3μm
7μm以上の粒子含量=14%
白色度=94%
(タルク2)
平均粒径=5μm
7μm以上の粒子含量=23%
白色度=96%
嵩比容積=2.3ml/g
比表面積=8.5m2/g
水分=0.2%
吸油量=51ml/100g
【0109】
(タルク3)
平均粒径=7μm
7μm以上の粒子含量=54%
白色度=94%
嵩比容積=1.5ml/g
(タルク4)
平均粒径=2.7μm
7μm以上の粒子含量=10%
白色度=96%
嵩比容積=2.1ml/g
比表面積=34.8m2/g
水分=0.7%
吸油量=54ml/100g
【0110】
(タルク5)
平均粒径=0.9μm
7μm以上の粒子含量=0%
白色度=96%
嵩比容積=3.0ml/g
比表面積=36.6m2/g
水分=1.0%
吸油量=62ml/100g
(タルク6)
平均粒径=51.0μm
7μm以上の粒子含量=98.5%
白色度=85%
嵩比容積=5.0ml/g
比表面積=0.7m2/g
水分=0.4%
吸油量=21ml/100g
【0111】
7.その他の成分
(MBA)
メチル(メタ)クリレートーブチルアクリレート共重合体。
日本国鐘淵化学工業(株)製(商品名:カネエース FM−21)
(MB)
乳化重合法により重合し、ブタジエンゴム含有量が80wt%、ゴム平均粒径が0.22μm、メチル(メタ)クリレート単位20wt%からなる乳化重合系メチル(メタ)クリレート・ブタジエン樹脂。(−80.4℃にガラス転移温度を有する。)
【0112】
(SB)
乳化重合法により重合し、ブタジエンゴム含有量が80wt%、ゴム平均粒径が0.22μm、スチレン単位20wt%からなる乳化重合系スチレン・ブタジエン樹脂。(−80.4℃にガラス転移温度を有する。)
(MSBS)
スチレン・ブタジエンブロック共重合ゴム含有量が80wt%、スチレン単位10wt%、メチル(メタ)クリレート単位10wt%からなる共重合体。(−58.3℃にガラス転移温度を有する。)
【0113】
(クレー)
English China Clay社製(商品名:POLESTAR 450)
(珪藻土)
Celite Corporaion製(商品名:Super Fine Super Floss)
【0114】
(PTFE1)
三井デュポンフロロケミカル(株)製 ポリテトラフルオロエチレンの水性PTFEディスパージョン(商品名 テフロン30J)
固形分含有量=60wt%
(PTFE2)
GEスペシャリティ・ケミカルズ(株)社製 ポリテトラフルオロエチレンとアクリロニトリル・スチレン共重合体の50/50(w/w)粉体状混合物(商品名 Blendex 449)
【0115】
【実施例1〜6、及び比較例1〜24】
成分(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)、及びその他の成分を表1〜3に示す量(単位は重量部)で二軸押出機を用いて溶融混練してポリカーボネート系難燃樹脂組成物を得た。
溶融混練装置は2軸押出機(ZSK−25、L/D=37、Werner&Pfleiderer社製)を使用して、シリンダー設定温度250℃、スクリュー回転数250rpm、混練樹脂の吐出速度20kg/Hr、押出機内部の原料樹脂の滞留時間は30〜40秒の条件で溶融混練を行った。溶融混練中に、押出機ダイ部で熱伝対により測定した溶融樹脂の温度は255〜265℃であった。
【0116】
2軸押出機への原材料の投入は、成分(A)、(B)、(C)、(D)、(F)、およびその他の成分については予め予備ブレンドしたものを重量フィーダーにより投入し、有機リン化合物オリゴマー(E)は、予め80℃に予備加熱してギアポンプにより押出機の途中からインジェクションノズルを通じて圧入することにより配合した。また、押出機の後段部分では減圧脱揮を行った。
得られたペレットを乾燥し、射出成形機(オートショット50D、ファナック社製)で成形し、以下の各試験を実施した。
【0117】
(1)難燃性
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度260℃、金型温度60℃に設定した射出成形機で成形し、燃焼試験用の短冊形状成形体(厚さ1.2mm、2.0mm)を作成し、UL94規格20MM垂直燃焼試験を行いV−0、V−1またはV−2に分類した。(難燃性の程度:V−0>V−1>V−2>NC)
○:V−0
△:V−1
×:V−2、またはNC
(NCはNon―Classificationを意味する。)
【0118】
(2)剛性
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度240℃、金型温度60℃に設定した射出成形機で1/8インチ厚短冊片を成形しASTM D790に準じて、曲げ弾性率を測定した。測定温度は23℃である。(単位:kgf/cm2)
○:32,000以上
△:30,000以上32,000未満
×:30,000未満
【0119】
(3)溶融流動性
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度260℃、金型温度60℃に設定した射出成形機で、燃焼試験用の短冊形状成形体(厚さ1.2mm)を作成する際に、完全充填されるまで射出圧力を10kgf/cm2刻みで増加させ、完全充填された射出圧力から10kgf/cm2差し引いた値をショートショットポイント(SSP)と称し、溶融流動性の尺度とした。溶融流動性はSSPが低いほど優れる。
(単位:kgf/cm2)
○:2,000未満
△:2,000以上2,500未満
×:2,500以上
【0120】
(4)耐衝撃性
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度260℃、金型温度60℃に設定した射出成形機でゲート径1mm、厚さ2mm、縦長さ100mm、横長さ100mmの平板を成形し、その平板を用いて落錘衝撃試験を実施し、吸収エネルギ−を測定した。測定値は延性破壊、及び脆性破壊を区別せず、5枚の平均値とした。落錘衝撃試験はTOYOSEIKI社製GRAPHIC IMPACT TESTER Bを使用し、落下高さ1m、荷重6.5kg、錘径1インチにて実施した。測定温度は23℃である。(単位:J)
○:35以上
△:10以上35未満
×:10未満
【0121】
(5)金型汚染性
シリンダー温度260℃、金型温度40℃に設定した射出成型機(NIIGATA CN75、新潟鐵工所製)を用いて、射出圧力905kgf/cm2、射出時間3秒、冷却時間1.2秒、型開閉時間2.1秒、休止時間2秒、成形サイクル8.3秒の条件で、試験片重量4gの成形体を連続成形し、100、500、1,000、及び2,000ショット後の金型表面状態を目視観察した。
○:2,000ショットでMDの発生が見られない。
△:101〜2,000ショットでMDの発生が見られる。
×:100ショット以下でMDの発生が見られる。
ここでMDは金型面に付着した固形状及び液状の堆積物の両方を含むものとする。
【0122】
(6)耐熱性
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度240℃で、金型温度60℃に設定した射出成形機で1/8インチ厚短冊片を成形し、ASTM D648に準じて、加熱変形温度を測定した。(単位:℃)
○:85以上
△:80以上85未満
×:80未満
結果を表1〜4に示す。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
実施例1〜6は本発明の組成物の結果であるが、薄肉難燃性、剛性、溶融流動性、耐衝撃性、金型汚染性、及び耐熱性に優れることがわかる。
比較例1〜4は本発明範囲外のグラフト共重合体を配合した場合であるが、耐衝撃性に劣ることがわかる。
比較例5〜7は成分(D)のグラフト共重合体を含まない場合であるが、耐衝撃性に劣ることが分かる。
【0128】
比較例8〜11は成分(C)のグラフト共重合体を含まない場合であるが、いずれも耐衝撃性、難燃性、剛性、溶融流動性、耐熱性を同時に満足しないことが分かる。
比較例12〜18は本発明の範囲外の結果である。いずれも薄肉難燃性、剛性、溶融流動性、耐衝撃性、金型汚染性、及び耐熱性を同時に満足しないことがわかる。
【0129】
比較例19〜21はタルクの替わりにクレー、ベントナイト、珪藻土を用いた場合の結果である。いずれも難燃性、剛性、耐衝撃性、金型汚染性、耐熱性を同時に満足しないことが分かる。
比較例22では(E)成分としてモノリン酸エステル化合物を用いた場合の結果である。金型汚染性のみならず、耐熱性にも劣ることが分かる。
比較例23、24で配合したタルク種では、充分な難燃性、耐衝撃性が得られないことが分かる。
【0130】
【発明の効果】
本発明のポリカーボネート系難燃樹脂組成物は、1.2mm以下の極薄肉成形体での難燃性、剛性、溶融流動性、耐衝撃性、金型汚染性、及び耐熱性に優れたポリカーボネート系難燃樹脂組成物であるので、コンピューター用モニター、ノートブックパソコン、プリンタ、ワープロ、コピー機等のハウジング材料として極めて有用である。
Claims (5)
- 芳香族ポリカーボネート樹脂(A)50〜95重量部、芳香族ビニル単量体単位(b−1)、およびシアン化ビニル単量体単位(b−2)を含む共重合体(B)49〜0重量部、芳香族ビニル化合物(c−1)とシアン化ビニル化合物(c−2)とをゴム状重合体(c−3)の存在下で共重合して得られるシアナイド含有グラフト共重合体(C)49〜1重量部、芳香族ビニル化合物(d−1)とアルキル(メタ)アクリレート(d−2)とをゴム状ブタジエン重合体(d−3)の存在下で共重合して得られる(メタ)アクリレート含有グラフト共重合体(D)49〜0.1重量部、及び、以下成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)の合計100重量部に対して、少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(E)5〜30重量部、及びタルク(F)0.1〜20重量部を含んでなり、前記成分(C)中のゴム状重合体(c−3)の割合が、成分(C)100重量部に対して12〜25重量%であることを特徴とするポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- タルク(F)が平均粒子径1〜50μmであり、且つタルク粒子全体の1〜80%が粒子径7μm以上の粒子であることを特徴とする請求項1記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- 請求項1,2,3,及び4のいずれか一項に記載されたポリカーボネート系樹脂組成物で成形された成形体であって、肉厚1.2mm以下の部分を少なくとも1つ有する薄肉成形体。
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