JP4489242B2 - 改良された機械的強度を有する高流動のポリカーボネート系難燃樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、様々な種類の材料強度試験における強度が優れ、更にそれらが高温高湿環境下におかれた場合においても維持され、また、優れた溶融流動性、優れた難燃性、優れた溶融樹脂の熱安定性を同時に併せ持ち、さらには、成形の際に成形金型に発生するモールドデポジット(MD)の発生量も極めて少ないポリカーボネート系の難燃樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネート(PC)にABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)系樹脂とリン系難燃剤をブレンドした樹脂組成物(以下、屡々、「PC/ABS/リン系難燃剤組成物」などと称す)は、非塩素・臭素系の難燃剤を用いた樹脂組成物であり、かつ、溶融流動性、剛性、耐衝撃性、耐熱性、耐光変色性等の諸性質において優れた特性を有するので、電気製品、コンピュータ、プリンタ、ワープロ、コピー機等OA機器のハウジング材料として幅広く利用されている。
【0003】
OA機器のハウジング材料として使用されるPC/ABS/リン系難燃剤組成物は、近年の機器の軽量化・薄肉化志向にともない、軽量薄肉な成形品の製造に有用な更なる高い溶融流動性と高い耐衝撃性とを併せ持つことが強く求められている。また、同時に薄肉の成形品においても高度な難燃性能を併せ持つ、PC/ABS/リン系難燃剤組成物の開発が要求されている。
【0004】
PC/ABS/リン系難燃剤組成物において、OA機器ハウジング用途に求められるUL94規格20MM垂直燃焼試験におけるV−0やV−1規格規格、あるいはUL94規格500MW垂直燃焼試験における5VB規格等といった高度な難燃性能を得るためには、ABS樹脂に比べてリン系難燃剤による難燃化効果が優れるPC樹脂を主構成成分とする組成構成である樹脂組成物とされるのが一般的である。
【0005】
このような組成構成からなるPC/ABS/リン系難燃剤組成物の溶融流動性は、樹脂成分として主成分であるPC樹脂の溶融流動特性が強く反映されるため、樹脂組成物の溶融流動性を改良する目的において、分子量の低いPC樹脂を用いる必要がある。この方法によれば、樹脂組成物の高度な難燃性は維持できるが、耐衝撃性が低下する欠点があり、特に、(1)高い成形温度で成形を行った場合、(2)成形時に溶融した組成物を成形機内部に滞留させた場合、(3)高温高湿の環境下に組成物が長時間暴露された場合、等に耐衝撃性や伸び特性が低下し易いという欠点があった。
【0006】
また、OA機器筐体には、筐体の面部分に対する耐衝撃強度や、筐体のリブ、ボス、ピン等の成形体突起部分に対する強度、さらには成形体のウエルド部分の強度等、成形体の様々な部分での機械的強度が求められる。従って、成形体としての強度は、一般に耐衝撃性の尺度として使用されているアイゾット衝撃試験やシャルピー衝撃試験のみでは不十分であり、この他に、ダート衝撃試験やウエルド部強度試験など、様々な試験方法において、いずれの場合においても優れた機械的強度を発現する材料の開発が求められている。しかしながら、溶融流動性を高めると同時にこれらの機械的強度試験の全てに対して優れた強度を得るのは困難な課題であった。
【0007】
特開平11−269368号公報(同対応EP933396)にはポリカーボネート樹脂と塊状重合法により得られたABS樹脂とリン系難燃剤からなる難燃組成物が、また、WO99/16828号公報ではポリカーボネート樹脂と溶液重合法により得られるABS樹脂とリン系難燃剤からなる組成物がそれぞれ開示されている。しかしながら、これらに示される組成物ではノッチ付きアイゾット衝撃強度には優れるが、ダート衝撃強度が劣る欠点がある。
【0008】
また、US4677162号公報にはポリカーボネート樹脂に塊状重合ABSと耐衝撃性改良剤としてのグラフト共重合体からなる組成物が開示されているが、溶融流動性を向上させるための技術に関する記載はなく、さらに難燃性を向上させるための技術に関しても記載がない。また、特開平10−25399号公報にはポリカーボネート樹脂と特定の塊状重合ABSからなる樹脂組成物が開示されており、溶融流動性と低温耐衝撃性の向上がその効果として示されているが、本発明の目的の一つである高度な難燃性を得るための技術的記載がない。
【0009】
さらに、特開平11−302523号公報にはポリカーボネート樹脂と塊状重合ABSと乳化重合ABSとリン系難燃剤とポリテトラフルオロエチレンポリマーからなる樹脂組成物が開示されているが、該樹脂組成物はリン系難燃剤としてトリフェニルホスフェート等に代表されるモノリン酸エステルを使用しているため、成形の際にリン系難燃剤等が金型表面に付着する現象、すなわちモールドデポジット(MD)が発生し、これにより製品の表面外観や生産性が損われる欠点がある。また、特開平11−181212号公報にはリン系難燃剤として有機リン化合物オリゴマーを使用する樹脂組成物が開示されているが、アイゾット衝撃強度、ダート衝撃強度及びウエルド部強度の全てを満足し、さらに溶融流動性を向上させる目的において十分とは言い難い。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、様々な種類の材料強度試験における強度が優れ、更にそれらが高温高湿環境下におかれた場合においても維持され、また、優れた溶融流動性、優れた難燃性、優れた溶融樹脂の熱安定性を同時に併せ持ち、さらには、成形の際に成形金型に発生するモールドデポジット(MD)の発生量も極めて少ないポリカーボネート系の難燃樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記のような優れた特性を有するポリカーボネート系の難燃樹脂組成物を得る目的で鋭意検討した。その結果、驚くべきことに、(A)ポリカーボネート樹脂、(B)ゴム質重合体(b11)の存在下に、シアン化ビニル単量体(b21)ならびにアルキル(メタ)アクリレート単量体(b22)から選ばれる1種以上の単量体、及び芳香族ビニル単量体(b23)を塊状重合法または溶液重合法によって共重合して得られるゴム変性スチレン系樹脂、(C)ゴム状ブタジエン系重合体(c11)の存在下に、アルキル(メタ)アクリレート単量体(c21)及び芳香族ビニル単量体(c22)を乳化重合法によって共重合して得られるブタジエン系グラフト共重合体、及び少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(D)を特定の量比で含んでなるポリカーボネート系難燃樹脂組成物が、難燃性、溶融流動性、溶融樹脂の耐熱性、更に様々な試験方法に対する機械的強度が同時に優れ、また、熱安定性、耐高温高湿性に優れ、さらに成形の際に成形金型に発生するモールドデポジット(MD)の発生量が極めて少ないという事実を見いだした。この新しい知見に基づき本発明を完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1](A)ポリカーボネート樹脂50〜98重量部、(B)ゴム質重合体(b11)の存在下に、シアン化ビニル単量体(b21)ならびにアルキル(メタ)アクリレート単量体(b22)から選ばれる1種以上の単量体、及び芳香族ビニル単量体(b23)を塊状重合法または溶液重合法によって共重合して得られるゴム変性スチレン系樹脂49〜1重量部、(C)ゴム状ブタジエン系重合体(c11)の存在下に、アルキル(メタ)アクリレート単量体(c21)及び芳香族ビニル単量体(c22)を乳化重合法によって共重合して得られるブタジエン系グラフト共重合体30〜0.1重量部を含み、さらに(A)、(B)、及び(C)の合計100重量部に対して少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(D)1〜30重量部を含み、但し、ゴム変性スチレン系樹脂(B)におけるゴム粒子の重量平均粒子径が0.35〜3.0μmであり、ゴム含有量が5〜30重量%である、ことを特徴とするポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
[2]該成分(D)が下記式(1)で表される1種または2種以上の有機リン化合物オリゴマーである上記[1]記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
【0013】
【化2】
【0014】
[3]該成分(B)におけるゴム質重合体(b11)成分が、ゴム状ブタジエン系重合体であることを特徴とする上記[1]または[2]に記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
[4]該成分(C)中のゴム状ブタジエン系重合体(c11)の含有量が65〜95重量%であり、該成分(C)中の成分(c21)の成分(c22)に対する重量比(c21/c22)が20/80〜95/5であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
【0015】
[5]該成分(C)が成分(c 11 )、成分(c 21 )、成分(c 22 )からなる共重合体であって、成分(c 11 )がポリブタジエン、成分(c 21 )がメチルメタクリレート、成分(c 22 )がスチレンであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
[6]該成分(A)の重量平均分子量が15,000以上30,000以下である上記[1]〜[5]のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、[7]該成分(B)における非グラフト共重合体成分の重量平均分子量が50,000〜160,000であることを特徴とする上記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
【0016】
[8]該成分(D)が、複数の異なる有機リン化合物オリゴマーを含み、該複数の異なる有機リン化合物オリゴマーの重量平均縮合度(N)が1〜1.2未満であることを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、[9]該成分(D)の酸価が1mgKOH/g未満であることを特徴とする上記[1]〜[8]のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、[10]該成分(D)の酸価が0.1mgKOH/g未満であることを特徴とする前記[9]に記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、
【0017】
[11]該成分(B)中のゴム質重合体(b11)と該成分(C)中のゴム状ブタジエン系重合体(c11)の合計量が組成物全量に対して3.0〜7wt%であることを特徴とする上記[1]〜[10]のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、[12]さらに、ポリテトラフルオロエチレンポリマーを含むことを特徴とする上記[1]〜[11]に記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、[13]ASTM D1238に準じて220℃、10kg荷重条件で測定したメルトフローレート(MFR)が25〜70g/10minである上記[1]〜[12]のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物、である。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明の組成物の成分(A)として好ましく用いられる芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、下記式(2)で表される繰り返し単位からなる主鎖を有する。
【0019】
【化3】
(式中、Arは、二価の芳香族残基であり、例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレンや、下記式(3)で表されるものが挙げられる。)
【0020】
【化4】
(式中、Ar1及びAr2は、それぞれアリーレン基である。例えばフェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレン等の基を表し、Yは式(4)で表されるアルキレン基または置換アルキレン基である。)
【0021】
【化5】
【0022】
(式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子、C1〜C6低級アルキル基、C5〜C10シクロアルキル基、C6〜C30アリール基、C7〜C31アラルキル基であって、場合によりハロゲン原子、C1〜C10アルコキシ基で置換されていてもよく、kは3〜11の整数であり、R5及びR6は、各Xについて個々に選択され、お互いに独立に水素原子、またはC1〜C6低級アルキル基、C6〜C30アリール基であって、場合によりハロゲン原子、C1〜C10アルコキシ基で置換されていてもよく、Xは炭素原子を表す。)
また、下記式(5)で示される二価の芳香族残基を共重合体成分として含有していても良い。
【0023】
【化6】
【0024】
(式中、Ar1、Ar2は式(3)と同じ。Zは単なる結合、または、−O−、−CO−、−S−、−SO2−、−CO2−、−CON(R1)−(R1は式(4)と同じ)等の二価の基である。)
これら二価の芳香族残基の例としては、下記で表されるもの等が挙げられる。
【0025】
【化7】
【0026】
【化8】
【0027】
(式中、R7及びR8は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C1〜C10アルキル基、C1〜C10アルコキシ基、C5〜C10シクロアルキル基またはC6〜C30アリール基である。m及びnは1〜4の整数で、mが2〜4の場合には各R7はそれぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2〜4の場合は各R8はそれぞれ同一でも異なるものであっても良い。)
中でも、下記式(6)で表されるものが好ましい一例である。
【0028】
【化9】
【0029】
特に、上記の式(6)で表されるものをArとする繰り返しユニットを85モル%以上(ポリカーボネート中の全モノマー単位を基準として)含むポリカーボネートが特に好ましい。
また、本発明に用いることができるポリカーボネートは、三価以上の芳香族残基を共重合成分として含有していても良い。
ポリマー末端の分子構造は特に限定されないが、フェノール性水酸基、アリールカーボネート基、アルキルカーボネート基から選ばれた1種以上の末端基を結合することができる。アリールカーボネート末端基は、下記式(7)で表される。
【0030】
【化10】
(式中、Ar3は一価の芳香族残基であり、芳香環は置換されていても良い。)
アリールカーボネート末端基の具体例としては、例えば、下記式で表されるものが挙げられる。
【0031】
【化11】
【0032】
アルキルカーボネート末端基は下記式(8)で表されれる。
【化12】
(式中、R9は炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐アルキル基を表す。)
アルキルカーボネート末端基の具体例としては、例えば下記式で表されるものが挙げられる。
【0033】
【化13】
【0034】
これらの中で、フェノール性水酸基、フェニルカーボネート基、p−t−ブチルフェニルカーボネート基、p−クミルフェニルカーボネート等が好ましく用いられる。
本願において、フェノール性水酸基末端と他の末端との比率は、特に限定されないが、各種の機械的強度試験においていずれに対しても優れた強度を得る観点からは、フェノール性水酸基末端の比率が全末端基数の20%以上であることが好ましく、20〜80%の範囲にあることが更に好ましい。フェノール性末端基の比率が全末端基数の80%を超えると、溶融時の熱安定性が若干低下する傾向にある。
【0035】
フェノール性水酸基末端量の測定方法は、一般にNMRを用いて測定する方法(NMR法)や、チタンを用いて測定する方法(チタン法)や、UVもしくはIRを用いて測定する方法(UV法もしくはIR法)で求めることができる。
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、一般に5,000〜50,000の範囲にあることが好ましく、より好ましくは10,000〜40,000であり、さらに好ましくは15,000〜30,000であり、特に好ましくは18,000〜25,000である。5,000未満では耐衝撃性が不十分になる傾向があり、また、50,000を越えると、溶融流動性が不十分になる傾向がある。
【0036】
本発明において、ポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行い、測定条件は以下の通りである。すなわち、テトラヒドロフランを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から下式による換算分子量較正曲線を用いて求められる。
MPC=0.3591MPS 1.0388
(MPCはポリカーボネートの分子量、MPSはポリスチレンの分子量)
【0037】
本発明の組成物における芳香族ポリカーボネート樹脂(A)は、公知の方法で製造したものを使用することができる。具体的には、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体と反応せしめる公知の方法、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体(例えばホスゲン)を水酸化ナトリウム水溶液及び塩化メチレン溶媒の存在下に反応させる界面重合法(例えばホスゲン法)、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル(例えばジフェニルカーボネート)などを反応させるエステル交換法(溶融法)、ホスゲン法または溶融法で得られた結晶化カーボネートプレポリマーを固相重合する方法(日本国特開平1−158033(米国特許第4,948,871号に対応))、日本国特開平1−271426、日本国特開平3−68627(米国特許第5,204,377号に対応))等の方法により製造されたものが用いられる。
【0038】
好ましいポリカーボネート樹脂としては、2価フェノール(芳香族ジヒドロキシ化合物)と炭酸ジエステルとからエステル交換法にて製造された実質的に塩素原子を含まないポリカーボネート樹脂があげられる。
本発明では異なる構造や分子量の2種以上の異なるポリカーボネートを組み合わせて成分(A)として使用することも可能である。
本発明の組成物における成分(A)の量は、成分(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対し、50重量部〜98重量部、好ましくは60〜95重量部、さらに好ましくは70〜90重量部である。成分(A)が50重量部未満であると耐熱性と難燃性が不十分になり、一方、98重量部を超えると溶融流動性が不足する。
【0039】
本発明に用いられる成分(B)は、ゴム質重合体(b11)の存在下に、シアン化ビニル単量体(b21)ならびにアルキル(メタ)アクリレート単量体(b22)から選ばれる1種以上の単量体、及び芳香族ビニル単量体(b23)を塊状重合法または溶液重合法によって共重合することにより得られるゴム変性スチレン系樹脂である。
【0040】
該成分(B)成分中の該ゴム質重合体(b11)は、ガラス転移温度が0℃以下、好ましくは−30〜−100℃であり、炭素骨格をその構造中に有するゴム質重合体である。ここで、炭素骨格をその構造中に有するゴム質重合体とは主鎖が全て炭素からなるゴム質重合体の他に、例えば、アルキルリチウム触媒でブタジエンを重合し、その末端にリチウム原子を有するポリブタジエンを作り、これにさらにシリコンテトラクロライドで処理することで作られるゴム質重合体のごとく、主鎖が炭素である高分子(平均分子量2,000以上)を、例えば珪素原子の如く炭素原子以外の原子を含む結合で結合した如きゴム質重合体を含む。該ゴム質重合体(b11)としては、例えば、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、クロロブタジエンゴム、ブタジエン・イソプレン共重合体ゴム等のブタジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合ゴム、スチレン・ブタジエンブロック共重合ゴム、スチレン・イソプレンブロック共重合ゴム等のブロック共重合体、およびそれらの水素添加物等を挙げることができ、これらを単独または異なる2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
これらの中で、本発明における成分(b11)として、好ましくはブタジエン系ゴムであり、更に好ましくは、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエンゴム、またはポリブタジエンとスチレン・ブタジエンゴムを併用して用いる場合である。
【0042】
シアン化ビニル単量体(b21)としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上混合して用いられる。
また、アルキル(メタ)アクリレート単量体(b22)の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート単量体を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上混合して用いられる。成分(b22)の使用は樹脂組成物の溶融流動性を向上させる効果があり、この目的において好ましいものはブチルアクリレートである。
【0043】
さらに、芳香族ビニル単量体(b23)の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルキシレン、p−ターシャリーブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等を挙げることができ、これらは単独で又は2種以上混合して用いられる。好ましくはスチレン、α−メチルスチレンである。
【0044】
また、本発明に使用される成分(B)においては、上記成分(b21)、(b22)、及び(b23)の他に、任意成分としてこれらと共重合可能な他の単量体成分(以下、成分(b24)と称す)、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体、ジベンジルフマレート、ジアリルマレエート等の1種以上を共重合させて使用することも可能である。さらには、成分(b24)の一部として、例えば0.01〜2重量%程度の二官能性以上のエチレン状単量体成分、例えばトリアリルイソシアヌレート、ジシクロペンタニルメタアクリレート等を使用することもできる。
【0045】
ゴム変性スチレン系樹脂(B)におけるゴム質重合体(b11)の含有量は5〜30重量%である。該成分(B)における成分(b11)が5重量%未満である場合は、耐衝撃性の改良効果が不十分である。一方、30重量%を超えると流動性が劣るようになるばかりか、成形体での耐衝撃強度の位置依存性が大きくなり、好ましくない。成分(B)における成分(b11)の含有量は、8〜25重量%が好ましく、より好ましくは10〜20重量部である。
【0046】
また、本発明に用いられるゴム変性スチレン系樹脂(B)に含まれるゴム質重合体(b11)を透過型電子顕微鏡を用いて観察すると、ゴム質重合体(b11)はその内部にオクルードされた非ゴム相の共重合体成分を有する粒子として観察される。本発明において使用される成分(B)におけるゴム質重合体(b11)の粒子の重量平均粒子径Daは、
Da=(ΣnDn 4)/(ΣnDn 3)
により、定義される。
【0047】
ここでDnの測定は、透過型電子顕微鏡による観察で写真撮影を行い、写真においてオクルード成分を有する成分(b11)からなる粒子の最大粒子径を測定することにより行う。また、ゴム質重合体(b11)の粒子のサンプリング個数nは少なくとも50個とし、100個以上が好ましい。尚、Daの測定は、本発明の難燃性樹脂組成物の円柱状ペレット(断面直径:1〜5mm、円柱高さ:1〜10mm)を使用し、円柱高さ方向に対して垂直方向に切り出した観察用試料について行うものとする。また、透過型電子顕微鏡観察で通常必要とされるゴム質重合体成分の染色は酸化オスニウムや酸化ルテニウム等を用いる公知の方法に基づいて行う。
【0048】
本発明において成分(b11)の粒子の重量平均粒子径Daは0.35〜3.0μmである。Daが0.35μm未満で有る場合は、アイゾット衝撃強度が不十分である。一方、3.0μmを超えると流動性が劣るようになるばかりか、得られる成形体の表面外観が劣るようになる。本発明で使用される成分(B)における成分(b11)の粒子の重量平均粒子径Daは0.40〜2.5μmが好ましく、より好ましくは0.50〜2.0μm、更に好ましくは0.6μm〜1.5μmである。
【0049】
また、本発明で使用される成分(B)では、更に、該成分(B)の試料約1.0gをトルエン/メチルエチルケトン=7/3の混合溶剤30ml中に溶解させ、不溶分を濾過した後に、メタノール100mlを用いて再沈殿させることにより得られる非グラフト共重合体成分の重量平均分子量が50,000〜160,00の範囲にある場合、好ましくは70,000〜140,000、更に好ましくは80,000〜120,000の範囲にある場合おいて、溶融流動性に優れ、更に種々の機械的強度に優れた樹脂組成物を得る上で好適である。ここで、成分(B)中の非グラフト共重合体成分の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーを用いて測定される。
【0050】
さらに、本発明の樹脂組成物において優れた機械的強度を得るためには、ゴム質重合体(b11)に対して使用される単量体成分、すなわち、シアン化ビニル単量体(b21)ならびにアルキル(メタ)アクリレート単量体(b22)から選ばれる1種以上の単量体、芳香族ビニル単量体(b23)、更にはこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(b24)の比率において、シアン化ビニル単量体(b21)が0〜40重量%、アルキル(メタ)アクリレート単量体(b22)が0〜40重量%、芳香族ビニル単量体(b23)が40〜95重量%、他の単量体(b24)が0〜20重量%の範囲にあり、好ましくは(b21)が10〜40重量%、(b22)が0〜30重量%、(b23)が60〜90重量%であり、特に好ましくは(b21)が15〜35重量%、(b22)が0〜20重量%、(b23)が65〜85重量%である。
【0051】
本発明においては成分(B)が上記に示した要件、すなわち、ゴム質重合体含有量、ゴム質重合体粒子の重量平均粒子径、非グラフト共重合体成分の重量平均分子量、更には、単量体成分比率に関する要件を満足するゴム変性スチレン系樹脂である場合において特に、本発明の目的とする、優れた難燃性能と優れた溶融流動性を持ち、更に様々な強度試験に対しても優れた機械的強度を有する樹脂組成物を得ることができる。
【0052】
成分(B)は、ゴム質重合体(b11)を、シアン化ビニル単量体(b21)、アルキル(メタ)アクリレート単量体(b22)、芳香族ビニル単量体(b23)、更にはこれらの単量体と共重合可能な他の単量体(b24)の混合物に溶解して連続的に塊状または溶液重合反応を行わせる反応器を用いて製造することができる。反応器としては例えば、プラグフロー型反応器、完全混合式反応器またはスタティックミキサー型プラグフロー反応器等が例示され、好ましくは完全混合式反応器であり、それらの反応器を1個の単独使用、好ましくは2個以上を併用することもできる。
【0053】
成分(B)を製造する際、反応系に重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、例えばアシルペルオキシド、エステルペルオキシド、ケタールペルオキシド、カーボネートペルオキシド、及びニトリル基とシクロヘキシル基を含有するアゾ化合物等が挙げられる。重合開始剤の添加量は単量体の総量100重量部に対して通常0.01〜1.0重量%である。また、前記反応器の反応温度は80〜200℃に制御し、より好ましくは90〜160℃の範囲にする。また、反応器の圧力は1〜5kg/cm2−Gの間に制御し、原料溶液が反応器に滞在する時間は1〜10時間である。重合体の分子量のコントロールには、例えばn−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、テルピレン等の連鎖移動剤を使用することができる。
【0054】
前記重合体の重合工程が終了した後、得られたグラフト重合体を予熱器により加熱し、脱揮処理によって未反応単量体とその他の揮発分を除去する。そして、コンデンサーによって除去された揮発分を回収して回収液とし、この回収液は含有水分を適宜除去して再び原料溶液として再使用する。その揮発分を除去した重合液融体を押し出してペレタイジングにより本発明に用いるゴム変性スチレン系樹脂(B)のペレットを得る。
【0055】
本発明の組成物における成分(B)の量は、成分(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対し、49〜1重量部、好ましくは40〜5重量部、さらに好ましくは30〜10重量部である。成分(B)が1重量部未満であると溶融流動性の改良効果が不十分であり、一方、49重量部を超えると難燃性が不十分となる。
【0056】
本発明に使用される成分(C)は、ゴム状ブタジエン系重合体(c11)の存在下に、アルキル(メタ)アクリレート単量体(c21)と芳香族ビニル単量体(c22)とを乳化重合法により、共重合して得られるブタジエン系グラフト共重合体である。本発明ではブタジエン系グラフト共重合体(C)は、溶融流動性及び耐衝撃性(特に成形体のダート衝撃強度)と更にはウエルド部の融着強度を同時に向上させるための必須成分である。
【0057】
本発明ではポリカーボネート系樹脂(A)に対して、成分(B)と成分(D)を組み合わせて使用することに特徴があり、これにより、優れた溶融流動性と併せて、種々の強度試験に対して優れた機械的強度を発現するポリカーボネート系の難燃樹脂組成物を得ることが可能となる。これに対して、成分(A)に成分(B)のみを使用する場合はアイゾット衝撃試験に対して優れた衝撃強度が得られるが、ダート衝撃試験に対する強度が劣り、一方、成分(A)に成分(C)のみを使用する場合は、ダート衝撃試験に対する強度が優れるもののアイゾット衝撃試験に対する強度が不足する。
【0058】
ゴム状ブタジエン系重合体(c11)は、ブタジエン含有量が50重量%以上であることが好ましい。ゴム状ブタジエン系重合体(c11)はガラス転移温度が−20℃以下のものが好ましく、−30℃以下のものであることがさらに好ましく、−50℃以下のものであることが最も好ましい。成分(c11)は、ポリブタジエンでも良いし、ブタジエンをそれと共重合可能な他の単量体や架橋剤などと共重合させて得られる共重合体であっても良い。
【0059】
ゴム状ブタジエン系重合体(c11)の好ましい具体例としては、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、ブタジエン・アクリル酸ブチル共重合体ゴム等が挙げられる。これらの内、樹脂組成物の溶融流動性と耐衝撃性とを共に向上させる観点から、ポリブタジエン、及び、スチレン・ブタジエン共重合ゴムが特に好ましい。
アルキル(メタ)アクリレート単量体(c21)の具体例としては、前記した成分(B)を得るために用いるアルキル(メタ)アクリレート単量体成分と同様のものを挙げることができる。
【0060】
また、芳香族ビニル単量体(c22)の具体例としては、前記した成分(B)を得るために用いる芳香族ビニル単量体成分と同様のものを挙げることができる。
ブタジエン系グラフト共重合体(C)におけるゴム状ブタジエン系重合体(c11)の量は通常、65〜90重量%、好ましくは70〜85重量%、更に好ましくは75〜83重量%である。成分(C)におけるゴム状ブタジエン系重合体(c11)の使用量が65重量%未満では耐衝撃性の改良効果が低くなる傾向があり、また90重量%を超えると組成物中での成分(C)の分散性が低下し、耐衝撃性が低下する傾向にある。
【0061】
また、成分(C)における、アルキル(メタ)アクリレート単量体(c21)の芳香族ビニル単量体(c22)に対する重量比(c21)/(c22)は20/80〜95/5であることが好ましい。(c21)/(c22)が上記組成範囲から外れる場合は耐衝撃性改良効果が不十分となる傾向にある。(c21)/(c22)はさらに好ましくは40/60〜90/10であり、最も好ましくは50/50〜80/20である。
【0062】
本発明に用いるブタジエン系グラフト共重合体(C)は、ゴム状ブタジエン系重合体(c11)に、アルキル(メタ)アクリレート単量体(c21)及び芳香族ビニル単量体(c22)、さらに必要に応じて、任意成分としてこれらと共重合可能な他の単量体成分(以下、成分(c23)と称す)、例えば、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体、ジベンジルフマレート、ジアリルマレエート等から選ばれる1種以上を共重合させて使用することも可能である。さらに、成分(c23)として、架橋用の単量体、例えば、ブチレンジアクリレート、ブチレンジメタクリレート、トリメチロ−ルプロパントリメタクリレート、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ビニルアクリレート、ビニルメタクリレート等から選ばれる1種以上を共重合させて使用することも可能である。
【0063】
成分(C)は乳化重合法により得られるが、その製造方法の例としては、下記の(1)〜(3)の方法が挙げられる。
(1)ゴム状ブタジエン系重合体(c11)に、成分(c21)及び成分(c22)を同時にグラフト重合させる方法、
(2)ゴム状ブタジエン系重合体(c11)にまず成分(c21)をグラフト重合し、しかる後に成分(c22)をグラフト重合させる方法、及び、
(3)ゴム状ブタジエン系重合体(c11)にまず成分(c22)をグラフト重合し、しかる後に成分(c21)をグラフト重合させる方法。
【0064】
本発明では上記(3)の方法で得られた成分(C)が、組成物の溶融流動性と耐衝撃性とを共に向上させる上で得に好ましい。また、この際、成分(c21)としてメチルメタクリレートを用いることが得に好ましい。
上記のブタジエン系グラフト共重合体(C)を含有する本発明の樹脂組成物における分散形態を透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope, TEM)によって観察すると、ブタジエン系グラフト共重合体(C)が、ゴム変性スチレン系樹脂(B)の非ゴム成分の領域中と、組成物のマトリックス相を形成する芳香族ポリカーボネート樹脂(A)中の両方に分散していることが観察される。さらに、成分(C)が含まれる場合は、含まれない場合に比較して、樹脂組成物中の成分(B)の分散粒子径が小さくなり、成分(B)が成分(A)に対してより良好に分散している様子が観察される。上記のような本発明の組成物の分散形態が、優れた溶融流動性と優れた機械的強度の同時発現に大きく寄与していると考えられる。
【0065】
また本発明で使用されるブタジエン系グラフト共重合体(C)は通常、粒状であるが、この際成分(C)の平均粒径は0.1〜0.4μmが好ましく、より好ましくは0.15〜0.35μmであり、さらに好ましくは0.20〜0.3μmである。0.1μm未満になると樹脂組成物の耐衝撃性、特にアイゾット衝撃強度が低下する傾向にあり、0.4μmを超えると成形品のダート衝撃強度が不足する傾向にある。
【0066】
乳化重合法でブタジエン系グラフト共重合体(C)を製造する際には、粒状のゴム状ブタジエン系重合体(c11)を含むラテックスを用いる。粒状の成分(c11)はそれぞれ独立した粒径が0.05〜0.4μmの比較的大きな粒子径を有する粒子からなる場合であっても、一次粒子径が0.01〜0.15μmの微小粒径ゴムを凝集させてなる、いわゆる肥大化ゴム粒子からなっていても構わない。また、成分(c11)は、幅広い粒子分布を有していてもよく、粒子径が比較的大きく異なる粒子の混合物であってもよい。
【0067】
乳化重合法で(C)が製造される場合において、得られた高分子ラテックスから目的物であるブタジエン系グラフト共重合体(C)を取り出すために凝固プロセスを行う。本発明においては、上記の凝固プロセスにおいて硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等の金属塩を用いずに、酸により凝固させて得られたブタジエン系グラフト共重合体(C)を用いることが好ましい。
本発明の樹脂組成物に用いる成分(C)の好ましい具体例としては、三菱レーヨン(株)より製造販売されている「メタブレン C−223A」および「メタブレン C−323A」、鐘淵化学工業(株)より製造されている「カネエース M−511」および「カネエース B−564」等が挙げられる。
【0068】
本発明では上記の成分(C)としてはブタジエン系グラフト共重合体を単独、または2種以上組み合わせて使用することができるが、その配合量は(A)、(B)、及び(C)の合計100重量部に対し、0.1重量部〜30重量部、好ましくは0.5〜20重量部、さらに好ましくは1〜15重量部である。成分(C)が0.1重量部未満であると耐衝撃性の改良効果が不十分であり、一方、30重量部を超えると流動性や剛性が不足する。
【0069】
また、組成物中における成分(B)と(C)の組成比は特に限定されないが、成分(B)中のゴム質重合体(b11)と成分(C)中のゴム状ブタジエン系重合体(c11)の重量比(b11)/(c11)が、90/10〜10/90が好ましく、さらに好ましくは75/25〜25/75、より好ましくは65/35〜35/65である。また、本発明の樹脂組成において、成分(B)中のゴム質重合体(b11)と成分(C)中のゴム状ブタジエン系重合体(c11)の合計量((b11)+(c11))は、組成物全量に対して、3.0〜7.0wt%、好ましくは3.5〜6.5wt%、更に好ましくは4.0〜6.0wt%である。(b11)+(c11)が3.0wt%未満の場合は耐衝撃性が不十分となる傾向にあり、一方、7.0重量部を超えると溶融流動性が低下する傾向にあり、更に難燃性が低下する傾向にある。
【0070】
本発明の成分(D)は,少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマーである。本発明で用いる有機リン化合物オリゴマー(D)はリン原子をその構造内に2つ以上有する化合物である。
本発明に用いられる成分(D)の例としては、下記式(1)で表される化合物群より選ばれるものを挙げることができる。
【0071】
【化14】
【0072】
上記式(1)における置換基Ra、Rb、Rc、Rdは、それぞれ独立的に、その1つ以上の水素原子が置換されていてもいなくてもよい。その一つ以上の水素原子が置換されている場合、置換基としてはアルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、ハロゲン、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、ハロゲン化アリール基等が挙げられ、またこれらの置換基を組み合わせた基(例えばアリールアルコキシアルキル基等)またはこれらの置換基を酸素原子、硫黄原子、窒素原子等により結合して組み合わせた基(例えば、アリールスルホニルアリール基等)を置換基として用いてもよい。置換基Ra、Rb、Rc、Rdとして特に好ましいアリール基は、フェニル基、クレジル基、キシリル基、プロピルフェニル基、およびブチルフェニル基である。上記式(1)の化合物における置換基Ra、Rb、Rc、Rdがアルキル基やシクロアルキル基であると、一般に熱安定性が不十分であり、溶融混練の際に分解が起こりやすい。
【0073】
本発明に用いられる成分(D)の例としての化合物群を表す上記式(1)におけるXは、上記のようにジフェニロールジメチルメタン基である。通常使用されているオリゴマー系リン酸エステルとしては、Xがレゾルシノール基やヒドロキノン基であるものが多いが、これらと比較して、Xがジフェニロールジメチルメタン基である上記式(1)で表される化合物群から選ばれるものを(D)として使用する場合は、有機リン化合物の耐加水分解性や熱安定性が向上し、樹脂組成物の物性の環境劣化(特に高温高湿環境下での物性低下)を低レベルに抑え、材料の信頼性を著しく高めることができる。さらに、上記式(1)で表される有機リン化合物を使用することにより、成形加工時に金型表面に付着するモールドデポジット(MD)の発生量を、従来使用されているオリゴマー系リン酸エステルと比して、各段に低レベルにすることが可能である。
【0074】
また、本発明では成分(D)として特に好ましいのは、該式(1)中のRa、Rb、Rc、及びRdが、各々独立的してフェニル基またはキシリル基を表し、但し、該式(1)の化合物が各々少なくとも1つのフェニル基及び少なくとも1つのキシリル基を含有するものである(以下、屡々、この化合物を「フェニル基とキシリル基の両方を含有する式(1)の化合物」などと称する)。そのような有機化合物(すなわち、フェニル基とキシリル基の両方を含有する式(1)の化合物)を成分(D)として使用することにより、樹脂組成物の耐熱性をさらに向上させることができ、また、MDの発生を更に低レベルにすることが可能となる。
【0075】
上記フェニル基とキシリル基の両方を含有する式(1)の化合物におけるキシリル基とフェニル基の数の割合は、1:1〜1:3であることが、難燃性、耐熱性、耐衝撃性、溶融流動性を高レベルでバランスさせる上で好ましい。また、キシリル基としては、2,6−キシリル基が耐熱性と耐加水分解性の面で特に優れている。本発明における成分(D)としては、式(1)の置換基Ra、Rb、Rc、及びRdの全てがフェニル基の場合は樹脂組成物の耐熱性が、また、置換基Ra、Rb、Rc、及びRdの全てがキシリル基の場合は樹脂組成物の難燃性が、フェニル基とキシリル基の両方を含有する式(1)の化合物である場合に比べて若干劣る。フェニル基とキシリル基の両方を含有する式(1)の化合物としての有機リン化合物は、特開平9−12587に記載されている方法により、任意の構造のものを選択的に効率よく製造することができる。
【0076】
式(1)で表される有機リン化合物オリゴマー(D)は、通常、式(1)において異なるnの値(nは自然数)を有する複数の異なる有機リン化合物オリゴマーの混合物として使用される場合が多い。この際、複数の異なる有機リン化合物オリゴマーの重量平均縮合度(N)が1〜1.2未満であることが好ましい。Nはゲルパーミエーションクロマトグラフィーあるいは液体クロマトグラフィーにより異なるnを有するそれぞれの成分の重量分率を求め、nの重量平均により算出される。
【0077】
検出器はUV検出器、あるいはRI検出器が使用される。ただし、本発明における成分(D)と共に上記式(1)におけるnが0である構造のものを併用する場合(すなわち1分子中のリン原子が1つのみである有機リン化合物を用いる場合)は、nが0の化合物はNの計算から除外する。重量平均縮合度Nは、通常1以上5以下であり、1以上2以下が好ましく、1以上1.5以下が更に好ましく、1以上1.2未満が特に好ましい。Nが小さいほど樹脂との相溶性に優れ、溶融流動性に優れ、かつ難燃性が高い。特に、N=1の化合物は樹脂組成物における難燃性と溶融流動性のバランスが特に優れる。成分(D)としての式(1)の化合物のNが5以上である場合は、該化合物の粘度が大きくなり、特に高せん断速度領域での溶融流動性が低下する傾向にあり、また、難燃性が低下する傾向がある。
【0078】
さらに、本発明で用いられる成分(D)は、その酸価が1mgKOH/g未満であることが好ましく、より好ましくは0.7mgKOH/g未満であり、さらに好ましくは0.4mgKOH/g未満であり、特に好ましくは0.1mgKOH/g未満である。本発明者らによる検討結果によると、有機リン化合物の加水分解速度は、温度と有機リン化合物の初期酸価の値に大きく依存し、このため、有機リン化合物を難燃剤として使用するポリカーボネート系樹脂組成物の製造においても、初期酸価が低い有機リン化合物を使用することにより、耐環境劣化性の少ない、すなわち高温高湿環境下での物性低下、繰り返しコンパウンディングや射出成形等の成形加工による物性の低下等、が少ない樹脂組成物を得ることができる。
【0079】
有機リン化合物オリゴマー(D)の配合量は必要な難燃性のレベルに応じて決められるが、成分(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対して、0.1〜30重量部の範囲内である。0.1重量部未満では必要な難燃効果が発揮されない。30重量部を超えると樹脂組成物の耐衝撃性や耐熱性を低下させる。成分(D)の配合量は好ましくは0.5〜20重量部の範囲であり、特に好ましい範囲は、5〜18重量部の範囲である。
【0080】
さらに、成分(D)に併用して滴下防止剤を用いることが好ましい。滴下防止剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンやテトラフルオロエチレン・プロピレン共重合体等のテトラフルオロエチレンポリマー、ポリテトラフルオロエチレン以外のパーフルオロアルカンポリマー、シリコンゴム、ポリカーボネート・ジオルガノシロキサン共重合体、シロキサンポリエーテルイミド、液晶ポリマー、シリコンアクリル複合ゴムなどがある。滴下防止剤として好ましいのはテトラフルオロエチレンポリマーであり、特に好ましいのはポリテトラフルオロエチレンである。テトラフルオロエチレンポリマーは、例えば、「ふっ素樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社 1990年刊)に記載のように、懸濁重合または乳化重合で製造される。
【0081】
滴下防止剤の配合量は、成分(A)、(B)、及び(C)の合計100重量部に対して0.01〜3重量部の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.05〜2部である。滴下防止剤の配合量が0.01重量部未満の場合は、燃焼時の滴下防止効果が不十分であり、高い難燃性が得られない。また、滴下防止剤の配合量が3重量部を超える場合は成形加工性および剛性が低下する。
【0082】
さらに、成分(D)に併用して、(D)以外の難燃剤、例えば、メラミンなどの窒素含有有機化合物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化スズ等の金属酸化物、赤燐、ホスフィン、次亜リン酸、亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、無水リン酸等の無機系リン化合物、膨張黒鉛、シリカ、シリカ系ガラス溶融物等を種々の公知の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に一般に用いられている量加えることができる。
【0083】
また、本発明の樹脂組成物には、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・アルキル(メタ)アクリレート等のスチレン系樹脂やポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリエチレンンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、乳化重合で得られるアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体等、本発明の樹脂組成物に対する混和性が良好な他の樹脂成分を併用することも可能である。
【0084】
さらに、本発明の樹脂組成物には、樹脂組成物の改質を行う目的で、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、タルク、雲母、などの無機フィラーや炭素繊維、木炭等の強化材を添加することができる。これらの強化材の好ましい添加量は、(A)、(B)及び(C)の合計100重量部に対して、0.01〜60重量部、より好ましくは5〜55重量部である。
【0085】
さらに必要に応じて、通常の添加剤、すなわち、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、酸化チタン、表面改質剤、分散剤、可塑剤などを添加することができる。熱安定剤としては、チオエーテル系熱安定剤、ホスファイト系熱安定剤、及び、分子量500以上のフェノール系熱安定剤等があり、チオエーテル系熱安定剤としては、ジアルキル−3,3'−チオジプロピネート、テトラキス[メチレン−3−(アルキルチオ)プロピオネート]メタン、ビス[2−メチル−4−(3−アルキル−チオプロピオニルオキシ)−5−ターシャリーブチルフェニル]スルフィドが好ましく、ホスファイト系熱安定剤としては、分子内にペンタエリスリトール骨格を有するものが好ましく、特にジ(2,4−ジターシャリーブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジターシャリーブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、更にフェノール系安定剤としてはフェノール系化合物の−OH基の性質を遮蔽した分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物が好ましく、特にn−オクタデシル−3−(3',5'−ジターシャリーブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−ターシャリーブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。これらの添加剤は、種々の公知の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に一般に用いられている量加えることができる。
【0086】
本発明における樹脂組成物の製造方法については特に限定されず、従来からの公知の方法で行うことができる。例えば、必須及び任意の諸成分を互いに混合するか、あるいは別々にフィードして単軸押出機や二軸押出機、バンバリーミキサー等で溶融混練押出しすることによるメルトブレンド等により製造することができる。
本発明のポリカーボネート系難燃樹脂組成物からなる成形品を得るための成形方法は特に限定されないが、例えば、押し出し成形、圧縮成形、射出成形、ガスアシスト成形等が挙げられ、中でも射出成形が好ましい。
成形品の例としては、ノート型パソコン、コピー機、プリンターのハウジング等のOA機器筐体、OA機器シャーシ、携帯電話のハウジング等が挙げられる。
【0087】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、何らこれに限定されるものではない。
実施例あるいは比較例においては、以下の成分(A)、(B)、(C)、(D)及びその他の成分を用いてポリカーボネート樹脂組成物を製造した。但し、比較例において用いた成分には、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の成分(A)〜(D)についての要件を満足しないものもあるが、便宜上、これらの成分も(A)〜(D)に分類した。
【0088】
1.成分(A):芳香族ポリカーボネート
(PC1)
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートから、溶融エステル交換法により製造された、ビスフェノールA系ポリカーボネート
重量平均分子量(Mw)=21,000
フェノール性末端基比率(フェノール性末端基が全末端基数に占める割合)=33%
【0089】
(PC2)
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートから、溶融エステル交換法により製造された、ビスフェノールA系ポリカーボネート
Mw=20,000
フェノール性末端基比率=35%
【0090】
2.成分(B):ゴム強化スチレン系共重合体
(B-ABS1)
スチレン70重量部とアクリロニトリル23重量部とポリブタジエンゴム7重量部(旭化成工業(株)製、ASADEN 55AS)をトルエン溶媒に溶解させてフィード液とし、さらに、ベンゾイルパーオキサイド及び第3級ドデシルメルカプタンをポンプにより途中フィードして原料溶液とし、4段の攪拌式重合槽列反応器に連続的に供給して溶液重合を行った。4つの重合槽の容積は各45リットルであり、それぞれの反応器は、97℃、100℃、104℃、及び110℃に保持されている。4段目の槽より重合液を脱揮装置に通して揮発分を除去して、さらに押出工程を経てペレタイズを行い、ゴム強化スチレン系共重合(B−ABS1)のペレットを得た。該B−ABS1は組成が、ゴム含有量が12重量%、スチレン66重量%、アクリロニトリル22重量%で、ゴムの重量平均粒径が0.7μmであった。また、非グラフト共重合体成分の重量平均分子量は120,000であった。
【0091】
(B−ABS2)
塊状重合法により得られたアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(三井化学工業(株)製(商品名 SANTAC AT−05)
(アクリロニトリル・スチレン共重合体:SAN)
アクリロニトリル単位25.0wt%、スチレン単位75.0wt%からなるアクリロニトリル・スチレン共重合体
Mw=110,000
(乳化重合法で得られたアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体:E−ABS)
三菱レーヨン(株)製 ABS(商品名 RC)
10メッシュ残分が、90%未満であるパウダー状のアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体
【0092】
3.成分(C):ブタジエン系グラフト重合体
(MBS1)
メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(三菱レーヨン(株)製(商品名 メタブレン C−223A))
(MBS2)
メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(鐘淵化学工業(株)製(商品名 カネエース B−564))
(MBS3)
以下の方法にて製造したメチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体。
【0093】
ポリブタジエンラテックス(固形分40wt%、平均粒子径0.2μm)6,000gに脱イオン水1,800g、ロジン酸カリウム30g、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)2.1g、ソジウムホルムアルデヒドサルホキシレート1.8g、硫酸第一鉄0.3gを攪拌機付きの10リットルガラス製反応器に入れ、70℃に加熱し、攪拌しながらメチルメタクリレート540g、スチレン60g、(メチルメタクリレート/スチレン=90/10)、クメンヒドロキシパーオキサイド3.6g、t−ドデシルメルカプタン2.1gの混合物、及び、ソジウムホルムアルデヒドサルホキシレート1.8gの水溶液を1.5時間に渡って連続的に添加した。その後、さらに1時間攪拌を継続し、熟成させた後に、硫酸により凝固させ、水洗し、乾燥させてメチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体を得た。
【0094】
(メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体:MB)
呉羽化学工業(株)製(商品名 クレハパラロイド EXL2602)
グラフト重合単量体成分としてスチレンを含まないブタジエン系グラフト重合体。
(メチルメタクリレート・ブチルアクリレート共重合体:MBA)
鐘淵化学工業(株)製 (商品名 カネエース FM−21)
ゴム成分がブチルアクリレートゴムであるグラフト重合体。
【0095】
4.成分(D):有機リン化合物オリゴマー
(D1)
前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーであって、置換基Ra、Rb、Rc、Rdが全てフェニル基であり、重量平均縮合度(N)が1.10であり、酸価が0.22mgKOH/gであるもの。
【0096】
(D2)
前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーであって、置換基Ra、Rb、Rc、Rdが全てフェニル基であり、重量平均縮合度(N)が1.12であり、酸価が0.08mgKOH/gであるもの。
(D3)
前記式(1)で表される有機リン化合物オリゴマーであって、置換基Ra、Rb、Rc、Rdが置換基が全てフェニル基であり、重量平均縮合度(N)が1.14であり、酸価が1.12mgKOH/gであるもの。
【0097】
(D4)
フェニル基とキシリル基を含有する前記式(1)の化合物であって、キシリル基とフェニル基の数の割合が1:1であり、重量平均縮合度(N)が1.12であり、酸価が0.43mgKOH/gであるもの。
(D5)
大八化学(株)社製 トリフェニルホスフェート(TPP)
モノリン酸エステル化合物。
【0098】
5.その他の成分
(フッ素系樹脂:PTFE)
三井デュポンフロロケミカル(株)製 ポリテトラフルオロエチレンの水性PTFEディスパージョン(商品名 テフロン 30J)
固形分含有量=60wt%
【0099】
【実施例1、2及び比較例1、2】
成分(A)、(B)、(C)及びその他の成分を表1に示す量(単位は重量部)で混合し、得られた混合物をシリンダー温度を250℃に設定した2軸押出機(ZSK−25、Werner&Pfleiderer社製)で溶融混練を行い、スクリュー回転数250rpm、吐出速度20kg/Hrの条件で樹脂組成物のペレットを得た。尚、難燃剤である成分(D)は90℃に予備加熱してギアポンプにより押出機の途中からインジェクションノズルを通じて圧入することにより配合した。ここで、実施例1、2及び比較例1、2で得た組成物はいずれも組成物中のゴム含有量を4.7%とした。
【0100】
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度260℃、金型温度60℃に設定した射出成形機(オートショット50D、ファナック社製)で成形し、1/8インチ厚短冊片、100mm×100mm×2mm(t)平板、並びに、ウエルド付き1/12インチ厚短冊片を作製した。ウエルド付き1/12インチ厚短冊片は短冊の両端部分にゲートを設けることにより作製した。
作製した試験片を用いて、以下の(1)〜(3)の強度試験を実施した。
【0101】
(1)アイゾット衝撃試験
ASTM D256に準じて、1/8インチ厚、ノッチ付きで測定した。測定温度は23℃である。(単位:kgf・cm/cm)
(2)ダート衝撃試験
東洋精機(株)製 グラフィックインパクトテスターを用い、23℃において落錘荷重10kg重、落下高さ100cm、落錘径20mmφ、試料ホルダー径76mmφの条件で全吸収エネルギーを測定した。(単位:J)
【0102】
(3)ウエルド部の引張強度試験
ウエルド付き1/12インチ厚短冊片に対して23℃において、引張速度を5mm/minとして引張強度試験を行い、破断強度を測定した。(単位:kgf/cm2)
さらに、下記(4)、及び(5)に示す方法により、難燃性試験とメルトフローレート(MFR)測定を行った。
【0103】
(4)難燃性試験
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度260℃、金型温度60℃に設定した射出成形機で成形し、燃焼試験用の短冊形状成形体(厚さ1/12インチ、及び1/16インチ)を作成し、UL94規格500MW垂直燃焼試験(5VB)(試験片厚み:1/12インチ)及び20MM垂直燃焼試験(V−0、V−1またはV−2に分類する(難燃性の程度:V−0>V−1>V−2))(試験片厚み:1/16インチ)に基づいて難燃性レベルを評価した。
【0104】
(5)MFR
ASTM D1238に準じて、220℃、10kg荷重条件で測定した。
(単位:g/10min)
また、成形した各種試験片を60℃、85RH%(相対湿度)環境下に200時間保持した後に取り出して、上記の(1)〜(3)の試験を実施した。
結果を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
実施例1及び実施例2は本発明の必須構成成分である成分(A)、(B)及び(C)を含む組成物の結果であるが、これらは、アイゾット衝撃強度、ダート衝撃強度、更にはウエルド部強度が同時に優れることが示される。これに対して、比較例1は成分(B)、(C)を共に用いずに、ゴム成分として乳化重合法によって製造されたABS(E−ABS)のみを使用した結果であり、アイゾット衝撃強度、及びウエルド部強度が劣る。また、比較例2は成分(B)と乳化重合法によって製造されたABS(E−ABS)を組み合わせて使用した結果であるが、ダート衝撃強度が劣り、更にウエルド部強度が劣る。
【0107】
更に、実施例1及び2は高温高湿環境下(60℃、85RH%)に200時間曝露された後も種々の試験方法で評価される組成物の機械的強度が良好に維持されることがわかる。一方、比較例1及び2は高温高湿環境下に曝露された場合、機械的強度が低下している。
【0108】
【実施例3、4及び比較例3、4】
表2に示す組成で、実施例1、2及び比較例1、2と同様の方法で樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物を以下の(6)、(7)に示す方法で評価した。
【0109】
(6)ノッチ付きアイゾット衝撃強度の成形温度依存性測定
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度を240℃、260℃、270℃及び280℃とし、但し金型温度はいずれの場合も60℃の条件で、実施例1、2及び比較例1、2で使用した射出成形機を用いて、1/8インチ厚短冊片を作製し、前記(1)のアイゾット衝撃試験を実施した。
【0110】
(7)溶融組成物の成形機内滞留後のアイゾット衝撃強度測定
得られた組成物を射出成形機内で240℃で10分間滞留させ、その後、金型温度が60℃の条件で1/8インチ厚短冊片を作製し、前記(1)のアイゾット衝撃試験を実施した。
結果を表2に示す。
【0111】
【表2】
【0112】
実施例3並びに4は本発明の成分(C)の構成要件を満足するブタジエン系グラフト共重合体を用いた結果であるが、高温に設定されたシリンダー温度条件で得られた成形体においても、更には溶融樹脂を成形機内部に滞留させた後に成形して得られた場合であっても良好な耐衝撃性が得られることがわかる。これに対して、比較例3は成分(C)に替えて、グラフト単量体成分に芳香族ビニル単量体が含まれないブタジエン系グラフト共重合体を使用した場合の結果を、また、比較例4は成分(C)に替えてアクリルゴム系のグラフト共重合体を使用した結果を示すが、衝撃強度の低下がみられる。さらに、比較例3、4は難燃性が劣る。
【0113】
【実施例5〜8、比較例5〜8】
表3に示す組成で、実施例1、2及び比較例1、2と同様の方法で樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物のMFR測定結果、1/8インチ厚ノッチ付きアイゾット衝撃試験結果、ダート衝撃試験、及び難燃性試験結果を同表3に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
表3の実施例5〜8に示すとおり、本発明の樹脂組成物は、溶融流動性、アイゾット衝撃強度、ダート衝撃強度、及び難燃性の全てがバランス良く優れていることがわかる。
また、組成物の難燃性能は組成物中のゴムの配合量が増えるに従い、低下する傾向が見られる。
図1は、実施例5〜8及び比較例5〜8の組成物において、組成物全量中に占めるブタジエン系ゴム成分の含有量(単位:wt%)とノッチ付きアイゾット衝撃強度の関係である。
【0116】
【実施例9〜12及び比較例9】
表4に示す組成で、実施例1、2及び比較例1、2と同様の方法で樹脂組成物のペレットを得た。得られた樹脂組成物のペレットより実施例1、2及び比較例1、2と同じ方法で各種試験片を作製し、表4に示す時間で60℃、85RH%環境下に曝露した後に、各種試験を行った結果を示す。
また、以下の(8)に示す方法により成形時に金型表面に発生するモールドデポジット(MD)の発生状況を、更に以下の(9)に示す方法により各組成物の加熱変形温度測定を行った。
【0117】
(8)モールドデポジット(MD)評価
シリンダー温度260℃、金型温度40℃に設定した射出成型機(NIIGATA CN75、新潟鐵工所製)を用いて、射出圧力905kgf/cm2、射出時間3秒、冷却時間1.2秒、休止時間2秒、成形サイクル8.3秒の条件で、試験片重量4gの成形体を連続成形し、100、500、1,000、及び2,000ショット後の金型表面状態を目視観察した。
◎:2,000ショットでMDの発生が見られない。
○:1,001〜2,000ショットでMDの発生が見られる。
△:101〜1,000ショットでMDの発生が見られる。
×:100ショット以下でMDの発生が見られる。
【0118】
(9)加熱変形温度測定(HDT)
ASTM D648に準じて、1/8インチ厚、荷重18.6kgf/cm2で測定した。(単位:℃)
【0119】
【表4】
【0120】
表4の実施例9〜11に示すように、酸価が小さな成分(D)を用いることにより、耐高温高湿環境下における耐衝撃性の低下を効果的に抑制することができる。実施例12は成分(D)として「フェニル基とキシリル基の両方を含有する式(1)の化合物」を使用した場合であるが、HDTとMD発生抑制効果が特に優れている。一方、比較例9は本発明で使用される成分(D)を欠き、成分(D)に替えて難燃剤としてモノリン酸エステルであるTPPを使用した結果であり、MDの発生量が多い。
【0121】
【発明の効果】
本発明の樹脂組成物は、優れた難燃性能と優れた溶融流動性を持ち、更に様々な試験方法に対する強度が同時に改良され、しかも、それらが高温高湿環境下におかれた場合においても維持されるポリカーボネート系の難燃樹脂組成物であり、更には成形時において、溶融樹脂の熱安定性に優れ、かつ、成形の際に成形金型に発生するモールドデポジットの発生量も極めて少ないポリカーボネート系の難燃樹脂組成物であるので、例えば、ノート型パソコン、コピー機、プリンターのハウジング等のOA機器筐体、OA機器シャーシ、携帯電話のハウジング等の材料として極めて有用な材料である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の樹脂組成物中の少ないゴム含有量とアイゾット衝撃強度及びMFRとの関係図である。
Claims (13)
- (A)ポリカーボネート樹脂50〜98重量部、(B)ゴム質重合体(b11)の存在下に、シアン化ビニル単量体(b21)ならびにアルキル(メタ)アクリレート単量体(b22)から選ばれる1種以上の単量体、及び芳香族ビニル単量体(b23)を塊状重合法または溶液重合法によって共重合して得られるゴム変性スチレン系樹脂49〜1重量部、(C)ゴム状ブタジエン系重合体(c11)の存在下に、アルキル(メタ)アクリレート単量体(c21)及び芳香族ビニル単量体(c22)を乳化重合法によって共重合して得られるブタジエン系グラフト共重合体30〜0.1重量部を含み、さらに(A)、(B)、及び(C)の合計100重量部に対して少なくとも1種の有機リン化合物オリゴマー(D)1〜30重量部を含み、但し、ゴム変性スチレン系樹脂(B)におけるゴム粒子の重量平均粒子径が0.35〜3.0μmであり、ゴム含有量が5〜30重量%であることを特徴とするポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- 該成分(B)におけるゴム質重合体(b11)成分が、ゴム状ブタジエン系重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- 該成分(C)中のゴム状ブタジエン系重合体(c11)の含有量が65〜95重量%であり、該成分(C)中の成分(c21)の成分(c22)に対する重量比(c21/c22)が20/80〜95/5であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- 該成分(C)が成分(c 11 )、成分(c 21 )、成分(c 22 )からなる共重合体であって、成分(c 11 )がポリブタジエン、成分(c 21 )がメチルメタクリレート、成分(c 22 )がスチレンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- 該成分(A)の重量平均分子量が15,000以上30,000以下である請求項1〜5のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- 該成分(B)における非グラフト共重合体成分の重量平均分子量が50,000〜160,000であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- 該成分(D)が、複数の異なる有機リン化合物オリゴマーを含み、該複数の異なる有機リン化合物オリゴマーの重量平均縮合度(N)が1〜1.2未満であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- 該成分(D)の酸価が1mgKOH/g未満であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- 該成分(D)の酸価が0.1mgKOH/g未満であることを特徴とする前項9に記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- 該成分(B)中のゴム質重合体(b11)と該成分(C)中の該ゴム状ブタジエン系重合体(c11)成分の合計量が組成物全量に対して3.0〜7wt%であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- さらに、ポリテトラフルオロエチレンポリマーを含むことを特徴とする請求項1〜11に記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
- ASTM D1238に準じて220℃、10kg荷重条件で測定したメルトフローレート(MFR)が25〜70g/10minである請求項1〜12のいずれかに記載のポリカーボネート系難燃樹脂組成物。
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