JP4201906B2 - モールドデポジットが少ない難燃性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、流動性、耐衝撃性、耐熱性、および着色性に優れ、さらに成形の際に成形金型に発生するモールドデポジット(MD)が極めて少ない難燃性のポリーカーボネート系の樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネートにABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)系樹脂とリン系難燃剤をブレンドした樹脂組成物(難燃PC/ABS系アロイ)は、非ハロゲン系の難燃材料であり、かつ機械的特性と耐熱性に優れるので、電気製品、コンピュータ、プリンタ、ワープロ、コピー機等OA機器のハウジング材料として幅広く利用されている。
【0003】
同材料に関する技術は、特開平2−32154号公報、特開平2−115262号公報をはじめ、特開平4−285655号公報、特開平4−298554号公報、特開平4−300937号公報、特開平6−192553号公報、特開平6−228364号公報、特開平6−240127号公報、特開平7−11119号公報、特開平7−26129号公報、特開平7−33971号公報、特開平7−82466号公報、特開平7−145307号公報、特開平7−150028号公報、特開平7−196871号公報、特開平7−196872号公報、特開平7−196873号公報、特開平7−196874号公報、特開平7−331045号公報、特開平7−331051号公報、特開平8−3397号公報、特開平8−34916号公報、特開平8−34926号公報、特開平8−67810号公報、特開平8−120169号公報、特開平8−127686号公報、特開平8−165392号公報、特開平8−225737号公報、特開平8−277344号公報、特開平8−208972号公報、特開平9−3312号公報、特開平9−48912号公報、特開平9−95610号公報、特開平9−104811号公報、特開平9−124920、特開平9−143357号公報、特開平9−165518号公報、特開平9−176471号公報、特開平9−183893号公報、特開平9−188808号公報、特開平9−194713号公報等に開示されている。
【0004】
また、近年機器の薄肉化志向にともない、軽量薄肉化のための高い流動性を有する難燃性材料の開発が求められている。
難燃PC/ABS系アロイ材料において高い流動性を達成するために、例えばポリカーボネートの分子量を低くしたり、ABSやSAN(スチレン・アクリロニトリル共重合体)の比率を高めて流動性の改良を行う試みがなされている。しかしながら、このような改良法ではUL94燃焼試験で滴下物(ドリップ)を生じやすくなり、良好な難燃性を得るのが困難であり、さらに耐衝撃性や耐熱性が低下し、材料の物性のバランスを維持するのが困難である。
【0005】
また、リン系難燃剤を用いた難燃PC/ABS系アロイ材料では、成形の際にリン系難燃剤等が金型表面に付着する現象、すなわちモールドデポジット(MD)が発生し、これにより生産性が損われることがある。これを改良する技術としてオリゴマー系リン酸エステル系難燃剤を添加する技術が開示されているが、オリゴマー系リン酸エステルが使用される場合であってもMDの抑制に対して不十分である場合が多くその改良が望まれている。
【0006】
さらに、難燃PC/ABS系アロイ材料は、通常、染顔料により着色されて使用されるが、樹脂が着色性に優れることが望まれる。ベース樹脂が黄色を帯びている場合は白色である場合に比べて、所望とする色、特にOA機器は淡色系の着色が多いが、に着色するために多量の染顔料が必要となる。染顔料の使用量の増大は着色コストが高くなるばかりでなく、着色後の材料の伸びや耐衝撃性等の機械的特性の低下をしばしばもたらす。
【0007】
以上のように、安全上のための高い難燃性はもとより、高い流動性、高い耐衝撃性、高い耐熱性、良好な着色特性を同時に兼ね備えた材料、さらには、これに加えて成形の際のモールドデポジット(MD)が少ない材料が強く求められているものの、これらの物性が全て満足できるレベルにバランスされた材料は未だ得られていないのが現状であり、その開発が求められている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、UL94の5VB試験に合格し、かつ、高い流動性、高い耐衝撃性、及び高い耐熱性が高いレベルでバランスし、そして着色性に優れ、さらに成形の際のMDの発生が極めて少ないポリカーボネート系の樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ある特定のオリゴマー性リン酸エステルを難燃剤として使用し、さらに、樹脂強化用のグラフトゴム成分として、ゴム質重合体にグラフトするビニル単量体成分中にシアン化ビニル単量体成分を含まないグラフトゴムを使用することにより、難燃性、流動性、耐衝撃性、及び耐熱性がこれまでにない高いレベルでバランスし、そして着色性に優れ、さらに成形の際のMDの発生が極めて少ないポリカーボネート系の樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は、(A)(A−1)ポリカーボネート樹脂1〜100重量部、(A−2)(a1)芳香族ビニル単量体成分及び(a2)シアン化ビニル単量体成分を含む共重合体99〜0重量部を含み、かつ、(A)100重量部に対して、(B)(b1)芳香族ビニル単量体成分、(b2)アルキル(メタ)アクリレート単量体成分、及び(b3)ゴム質重合体を共重合体の構成成分として含む共重合体0.5〜40重量部を含み、さらに(A)と(B)の合計100重量部に対して、(C)化2で表される1種または2種以上の有機リン系化合物、0.1〜30重量部、
【0011】
【化2】
【0012】
からなる難燃性樹脂組成物である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるポリカーボネート系樹脂は、下記化3で表される繰り返し単位からなる主鎖を有する。
【0013】
【化3】
【0014】
(式中、Arは、二価の芳香族残基であり、例えば、フェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレンや、下記化4で表されるものが挙げられる。)
【0015】
【化4】
【0016】
(式中、Ar1 及びAr2 は、それぞれアリーレン基である。例えばフェニレン、ナフチレン、ビフェニレン、ピリジレン等の基を表し、Yは化5で表されるアルキレン基または置換アルキレン基である。)
【0017】
【化5】
【0018】
(式中、R1 、R2 、R3 及びR4 はそれぞれ独立に水素原子、低級アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基であって、場合によりハロゲン原子、アルコキシ基で置換されていてもよく、kは3〜11の整数であり、R5及びR6は、各Xについて個々に選択され、お互いに独立に水素原子、または低級アルキル基、アリール基であって、場合によりハロゲン原子、アルコキシ基で置換されていてもよく、Xは炭素原子を表す。)
また、下記化6で示される二価の芳香族残基を共重合体成分として含有していても良い。
【0019】
【化6】
【0020】
(式中、Ar1 、Ar2 は化2と同じ。Zは単なる結合、または、−O−、−CO−、−S−、−SO2 −、−CO2 −、−CON(R1 )−(R1 は化4と同じ)等の二価の基である。)
これら二価の芳香族残基の例としては、下記の化7及び化8で表されるもの等が挙げられる。
【0021】
【化7】
【0022】
【化8】
【0023】
(式中、R7 及びR8 は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、C1 〜C10アルキル基、C1 〜C10アルコキシ基、C1 〜C10シクロアルキル基またはフェニル基である。m及びnは1〜4の整数で、mが2〜4の場合には各R7 はそれぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2〜4の場合は各R8 はそれぞれ同一でも異なるものであっても良い。)
なかでも、下記化9で表されるものが好ましい一例である。特に、下記の化8で表されるものをArとする繰り返しユニットを85モル%以上含むものが好ましい。
【0024】
【化9】
【0025】
また、本発明に用いることができるポリカーボネートは、三価以上の芳香族残基を共重合成分として含有していても良い。
ポリマー末端の分子構造は特に限定されないが、フェノール性水酸基、アリールカーボネート基、アルキルカーボネート基から選ばれた1種以上の末端基を結合することができる。アリールカーボネート末端基は、下記化10で表され、具体例としては、例えば、化11が挙げられる。
【0026】
【化10】
【0027】
(式中、Ar3 は一価の芳香族残基であり、芳香環は置換されていても良い。)
【0028】
【化11】
【0029】
アルキルカーボネート末端基は下記化12で表され、具体例としては、例えば下記化13等が挙げられる。
【0030】
【化12】
【0031】
(式中、R7 は炭素数1〜20の直鎖もしくは分岐アルキル基を表す。)
【0032】
【化13】
【0033】
これらの中で、フェノール性水酸基、フェニルカーボネート基、p−t−ブチルフェニルカーボネート基、p−クミルフェニルカーボネート等が好ましく用いられる。
本願において、フェノール性水酸基末端と他の末端との比率は、特に限定されないが、全末端にしめるフェノール性水酸基末端比率が20〜80モル%の範囲にあることが好ましい。
【0034】
フェノール性水酸基末端量の測定方法は、一般にNMRを用いて測定する方法や、チタン法や、UVもしくはIR法で求めることができる。
本発明に用いられるポリカーボネートの重量平均分子量(Mw)は、一般に重量平均分子量で5,000〜50,000の範囲にあることが好ましく、より好ましくは10,000〜40,000であり、さらに好ましくは15,000〜30,000であり、特に好ましくは18,000〜25,000である。5,000未満では耐衝撃性が不十分であり、また、50,000を越えると、流動性が不足して好ましくない。
【0035】
本発明における重量平均分子量(Mw)の測定は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)を用いて行われ、測定条件としては、テトラヒドロフランを溶媒とし、ポリスチレンゲルを使用し、標準単分散ポリスチレンの構成曲線から下式による換算分子量較正曲線を用いて求められる。
MPC=0.3591MPS 1.0388
(MPCはポリカーボネートの分子量、MPSはポリスチレンの分子量)
これらポリカーボネートは、公知の方法で製造することができる。具体的には、芳香族ジヒドロキシ化合物とカーボネート前駆体と反応せしめる公知の方法、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンを水酸化ナトリウム水溶液及び塩化メチレン溶媒の存在下に反応させる界面重合法(ホスゲン法)、芳香族ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネートと反応させるエステル交換法(溶融法)、結晶化カーボネートプレポリマーを固相重合する方法(特開平1−158033、1−271426、3ー68627等)等の方法により製造することができる。
【0036】
好ましいポリカーボネート樹脂としては、2価フェノール(芳香族ジヒドロキシ化合物)と炭酸ジエステルとからエステル交換法にて製造された実質的に塩素原子を含まないポリカーボネート樹脂があげられる。
本発明では成分(A)に任意的に(A−2)(a1)芳香族ビニル単量体成分及び(a2)シアン化ビニル単量体成分を含む共重合体を含むことができる。(A−2)成分の配合は樹脂組成物の流動性を改良できるので好ましい。
【0037】
ここで、(a1)芳香族ビニル単量体成分としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ビニルキシレン、p−ターシャリーブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等を挙げることができ、これらを1種または2種以上使用する。好ましくはスチレン、α−メチルスチレンである。
【0038】
また、(a2)シアン化ビニル単量体成分としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができ、これらを1種または2種以上使用する。
該共重合体中の(a1)/(a2)の組成比は特に限定されないが、好ましくは(a1)が95〜50重量%、(a2)が5〜50重量%であり、更に好ましくは、(a1)が92〜65重量%、(a2)が8〜35重量%である。
【0039】
また、(A−2)では本発明の趣旨を妨げない範囲で、上記の成分(a1)成分及び(a2)成分の他にこれらの成分と共重合可能な単量体を使用することができる。そのような共重合可能な単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート単量体成分好ましくはブチルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体が挙げられる、これらの単量体は1種あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
本発明で用いることができる(A−2)の共重合体の好ましい例として、スチレン・アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)やブチルアクリレート・スチレン・アクリロニトリル共重合体樹脂(BAAS)等が挙げられ、BAAS(好ましくは共重合体中のブチルアクリレート単量体成分が2〜20重量%)は樹脂組成物の耐衝撃性を維持しながら流動性を改良する上で特に好適である。
【0041】
上記(A−2)の共重合体の製造方法としては、バルク重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など通常公知の製造方法を挙げることができる。
成分(A)における(A−1)及び(A−2)の割合は、必要とする機械的強度、剛性、成形加工性、耐熱性に応じて決められるが、好ましくは、成分(A−1)が20〜95重量部に対して成分(A−2)が80〜5重量部であり、さらに好ましくは、成分(A−1)が30〜90重量部に対して成分(A−2)が70〜10重量部である。また、成分(A−1)と成分(A−2)とのブレンド物は、1種または2種以上の成分(A−1)と、1種または2種以上の成分(A−2)を必要とする組成比でブレンドして使用することもできる。
【0042】
次に成分(B)について述べる。(B)は(b1)芳香族ビニル単量体成分、(b2)アルキル(メタ)アクリレート単量体成分、及び(b3)ゴム質重合体を共重合体の構成成分として含む共重合体である。本発明では、成分(B)として、ゴム質重合体にグラフトするビニル単量体成分中にシアン化ビニル単量体成分を含まないグラフトゴムを使用することにより、樹脂組成物の流動性と耐衝撃性のバランスを高度に維持することができ、さらに樹脂の色調が大いに改善された着色性に優れた樹脂組成物とすることができる。
【0043】
(b1)芳香族ビニル単量体成分は前記した成分(A)の(A−2)で示した(a1)が挙げられる。また、(b2)アルキル(メタ)アクリレート単量体成分としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート単量体を例示することができる。また、(b3)ゴム質重合体としては、ガラス転移温度が0℃以下のものであれば用いることができる。具体的には、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム等のジエン系ゴム、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合ゴム、スチレン・ブタジエンブロック共重合ゴム、スチレン・イソプレンブロック共重合ゴム等のブロック共重合体、およびそれらの水素添加物等を使用することができる。これらの重合体の中で、好ましくは、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム、ポリアクリル酸ブチル等が挙げられる。
【0044】
成分(B)は、上記ゴム質重合体に、(b1)芳香族ビニル単量体成分と(b2)アルキル(メタ)アクリレート単量体成分、及び必要に応じて、アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸類、無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体成分の1種以上を、塊状重合、懸濁重合、塊状・懸濁重合、溶液重合あるいは乳化重合等の方法、特に乳化重合でグラフト重合させてなるものである。
【0045】
ここに、ゴム質重合体の使用量は通常、10〜85重量%、好ましくは30〜82重量%、更に好ましくは40〜80重量%であり、ゴム質重合体としてブタジエン系重合体を用いる場合にはブタジエン系重合体のブタジエン成分の割合は50重量%以上が好ましい。成分(B)におけるゴム質重合体の使用量が10重量%未満では得られるポリカーボネート組成物からの成形品の耐衝撃性が低く、85重量%を超えると得られる組成物流動性が低下するので好ましくない。
【0046】
また、(b1)/(b2)の組成比は特に限定されず、用途に応じて各成分が配合される。
また本発明では、成分(B)として、乳化重合により得られた粒子状のグラフト共重合体を最も好適に使用することができるが、この場合にグラフト共重合体の平均粒径は0.1〜1.5μmが好ましい。0.1μm未満になると樹脂組成物の耐衝撃性が低下し、1.5μmを超えると成形品の外観が悪くなる。
【0047】
本発明にかかわる成分(B)として、MBS樹脂(スチレン・ブタジエン・メチルメタクリレート樹脂)を好適に使用することができ、例えば三菱レーヨン(株)から商品名「メタブレンMBS C223A」として市販されているものは特に好適に使用される。
本発明の樹脂組成物では上記の成分(B)は1種、または2種以上で混合して使用することができるが、その配合量は成分(A)100重量部に対して0.5〜40重量部、好ましくは0.5〜30重量部である。成分(B)が上記の範囲より少ないと耐衝撃性が不十分となり、また上記の範囲より多いと流動性や剛性が低下する。
【0048】
本発明に用いられる成分(C)は化14で表される有機リン系化合物である。
【0049】
【化14】
【0050】
成分(C)の式(1)中のnは、自然数であり、特に1〜10の自然数が好ましい。また、置換基Ra、Rb、Rc、Rdのうち少なくとも一つはフェニル基、少なくとも一つはキシリル基であって、他の置換基はフェニル基またはキシリル基である。特に式(1)において、置換基Ra、Rb、Rc、Rdのキシリル基とフェニル基の数の割合が1:1〜1:3である化合物が流動性と耐熱性のバランスが高く、好適に用いられる。また、キシリル基としては、2,6−キシリル基が、耐熱性と耐加水分解性の面で特に優れている。一方、Ra、Rb、Rc、Rdの全てがフェニル基の場合、及びRa、Rb、Rc、Rdの全てがキシリル基の場合は、樹脂組成物の耐熱性及び難燃性が低下する。また、Ra、Rb、Rc、Rdの全てがキシリル基の場合は、粘度が上昇して樹脂組成物の流動性が低下する。
【0051】
成分(B)は、通常、式(1)において異なるnの値、及び異なるフェニル基とキシリル基の割合を有する化合物の混合物である。
異なるnの値を有する化合物の混合物の場合、nの重量平均値は一般に1〜5である。我々の解析結果によれば、nの重量平均値が小さいほど、樹脂との相溶性及び難燃性が高い。中でもn=1の化合物は耐熱性と流動性のバランスが特に優れた樹脂組成物を与える上、難燃性も優れる。成分(B)は、n=1で表される化合物の占める割合が50重量%以上で、かつnの重量平均値が1〜3の範囲であることが好ましく、n=1で表される化合物の占める割合が成分(B)の60重量%以上で、nの重量平均値が1〜2の範囲であることが特に好ましい。
【0052】
有機リン系化合物(C)の含有量は必要な難燃性のレベルに応じて決められるが、成分(A)と(B)の合計100重量部に対して、0.1〜30重量部である。0.1重量部未満では必要な難燃効果が発揮されない。30重量部を超えると樹脂組成物の耐衝撃性や耐熱性を低下させる。好ましくは0.5〜20重量部の範囲であり、特に好ましい範囲は、5〜18重量部の範囲である。
【0053】
本発明の成分(C)の化合物は、特開平9−12587に記載されている方法により、任意の構造のものを選択的に効率よく製造することができる。
本発明の樹脂組成物は、化1におけるRa、Rb、Rc、Rdの全てがフェニル基のみ又はキシリル基のみの化合物、及びトリアリルホスフェートなどの、成分(C)以外の有機リン系化合物(以下、総称して成分(D)と記す)を、本発明の趣旨に反しない範囲で含有してよい。通常許容される、成分(D)の含有量は成分(C)と成分(D)の総量に対して1化合物あたり30重量%以下、かつ成分(D)全体として40重量%以下である。成分(D)が上記の値を超えて含有されると、樹脂組成物の、難燃性、耐熱性、流動性、MDのバランスを良好に保つことが困難になる。
【0054】
さらに、成分(C)に併用して滴下防止剤を用いることは効果的であり、好ましい。滴下防止剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン等のパーフルオロアルカンポリマー、シリコンゴム、ポリカーボネート・ジオルガノシロキサン共重合体、シロキサンポリエーテルイミド、液晶ポリマー、シリコンアクリル複合ゴムなどがある。特に好ましくはポリテトラフルオロエチレンであり、成分(A)を100重量部としたとき0.01〜3重量部の範囲にあることが好ましく、より好ましくは0.05〜2部である。0.01重量部未満の場合は、燃焼時の滴下防止効果が不十分であり、高い難燃性が得られない。また、3重量部を超える場合は成形加工性および剛性が低下する。
【0055】
さらに、成分(C)に併用して、(C)以外のその他の難燃剤、例えば、メラミンなどの窒素含有有機化合物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物、酸化アンチモン、酸化ビスマス、酸化亜鉛、酸化スズ等の金属酸化物、赤燐、ホスフィン、次亜リン酸、亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、無水リン酸等の無機系リン化合物、膨張黒鉛、シリカ、シリカ系ガラス溶融物等を本発明の趣旨に反しない範囲で含有していてもよい。
【0056】
また、本発明の樹脂組成物には、樹脂組成物の改質を行う目的で、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭酸カルシウム、タルク、雲母、などの無機フィラーや炭素繊維、木炭等の強化剤を添加することができる。好ましい添加量は、(A)と(B)の合計100重量部に対して、0.01〜60重量部、より好ましくは5〜55重量部である。
【0057】
さらに必要に応じて通常の添加剤、すなわち、熱安定剤、酸化防止剤、滑剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、酸化チタン、表面改質剤、分散剤、可塑剤などを添加することができる。熱安定剤としては、チオエーテル系熱安定剤、ホスファイト系熱安定剤、及び、分子量5000以上のフェノール系熱安定剤等があり、チオエーテル系熱安定剤としては、ジアルキル−3,3’−チオジプロピネート、テトラキス[メチレン−3−(アルキルチオ)プロピオネート]メタン、ビス[2−メチル−4−(3−アルキル−チオプロピオニルオキシ)−5−ターシャリーブチルフェニル]スルフィドが好ましく、ホスファイト系熱安定剤としては、分子内にペンタエリスリトール骨格を有するものが好ましく、特にジ(2,4−ジターシャリーブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジターシャリーブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、更にフェノール系安定剤としてはフェノール系化合物の−OH基の性質を遮蔽した分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物が好ましく、特にn−オクタデシル−3−(3’,5’−ジターシャリーブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−ターシャリーブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0058】
本発明における樹脂組成物の製造方法については、特に限定されず、通常の方法、例えば、押出混練によるメルトブレンド等により製造することができる。
さらに、これらの熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の成形方法は、押し出し成形、圧縮成形、射出成形、ガスアシスト成形等があり、特に限定されない。
【0059】
【実施例】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
用いた材料を以下に示す。
1.(A−1)成分
(ポリカーボネート:PC)
ビスフェノールAとジフェニルカーボネートから、溶融エステル交換法製造された、ビスフェノールA系ポリカーボネート
Mw=20,500
ヒドロキシ基末端量=35%
2.(A−2)成分
(アクリロニトリル・スチレン共重合体:SAN)
アクリロニトリル単位25.0wt%、スチレン単位75.0wt%からなるアクリロニトリル・スチレン共重合体
(ブチルアクリレート・アクリロニトリル・スチレン共重合体:BAAS)
ブチルアクリレート単位10.0wt%、アクリロニトリル単位27.0wt%、スチレン単位63.0wt%からなるブチルアクリレート・アクリロニトリル・スチレン共重合体
3.(B)成分
(スチレン・ブタジエン・アルキルメタクリレート共重合体:MBS)
三菱レーヨン(株)社製 MBS(商品名 メタブレン C223A)
4.(C)成分
(有機リン系化合物(C1))
化1で表される有機リン系化合物であって、置換基Ra、Rb、Rc、Rdのキシリル基とフェニル基の数の割合が1:1であり、くりかえし数nの平均値が1.12であるもの。
(有機リン系化合物(C2))
化1で表される有機リン系化合物であって、置換基Ra、Rb、Rc、Rdの全てがキシリル基であり、くりかえし数nの平均値が1.17であるもの。
(有機リン系化合物(C3))
大八化学(株)社製 フェニルレゾルシンポリホスフェート(商品名 CR733S)
(有機リン系化合物(C4))
化1で表される有機リン系化合物であって、置換基Ra、Rb、Rc、Rdの全てがフェニル基である有機リン化合物
大八化学(株)社製 フェニルビスフェノールAポリホスフェート(商品名 CR741)
5.その他の成分
(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体:ABS)
三菱レーヨン(株)社製 ABS(商品名 RC)
10メッシュ残分が、90%未満であるパウダー状樹脂
(フッ素系樹脂:PTFE)
三井デュポンフロロケミカル社製 ポリテトラフルオロエチレン(商品名 テフロン30J)水性PTFEディスパージョン
【0060】
【実施例1〜3および比較例1〜4】
樹脂組成物を表1に掲げる組成(単位は重量部)でブレンドし、シリンダー温度が250℃に設定された2軸押出機(ZSK−25、W&P社製)で溶融混練し、押出機の途中から難燃剤をポンプで圧入し、造粒し、樹脂組成物のペレットを得た。
(1)難燃性試験
得られたペレットを乾燥し、シリンダー温度260℃、金型温度65℃に設定した射出成型機(オートショット50D、ファナック社製)で成形し、燃焼試験用験片形状成形体(厚さ1/10インチ)を作成した。難燃性評価はUL94規格垂直燃焼試験(UL94−5VB)に基づいて実施し、5本の試験片について行った平均消炎時間(単位:秒)を評価した。
(2)MFR
ASTM D1238に準じて、220℃、10kg荷重条件で測定した。(単位:g/10min)
(3)アイゾット衝撃試験
ASTM D256に準じて、1/8インチ、ノッチ付きで測定した。試験片はシリンダー温度260℃、金型温度65℃に設定した射出成型機で成形した。(単位:kgf・cm/cm)
(4)加熱変形温度測定(HDT)
ASTM D648に準じて、1/8インチ、荷重18.6kgf/cm2で測定した。(単位:℃)
(5)モールドデポジット(MD)評価
シリンダー温度260℃、金型温度40℃に設定した射出成型機(NIIGATA CN75)を用いて、射出圧力905kgf/cm2、射出時間3秒、冷却時間1.2秒、休止時間2秒、成形サイクル8.3秒の条件で、試験片重量4gの成形体を連続成形し、200ショット後の金型表面状態を目視観察した。
○:MDの発生が極めて少ない。
×:MDの発生が多い。
(6)組成物の着色性
得られたペレット100重量部に酸化チタンを0.5重量部配合し、シリンダー温度240℃で50mm単軸押出機で混練し、目視観察により樹脂組成物の白色着色性を調べた。
○:白色着色性に優れる。
×:白色着色性にやや劣る。
【0061】
結果を表1に示す。
実施例1、2、および3は難燃性、流動性、耐衝撃性、耐熱性、着色性、およびMD発生状況についていずれもバランス良く優れた特性が得らている。一方、実施例と比較して、比較例1は難燃性が劣っており、比較例2は耐衝撃性と着色性が劣っており、比較例3は耐熱性が劣ってかつMDの発生が見られ、比較例4は耐熱性が低い。
【0062】
【表1】
【0063】
【発明の効果】
以上に示すように、本発明により、難燃性が高く、かつ、高い流動性、高い耐衝撃性、高い耐熱性、良好な着色性が高いレベルでバランスし、さらに成形の際のMDの発生が極めて少ないポリカーボネート系の樹脂組成物を提供することができる。
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