JP4691145B2 - 焼成用セッター - Google Patents

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Description

本発明は焼成用セッターに関するものである。
電子部品焼成用セッターとしては、耐熱性や機械的強度の他に、焼成するセラミック電子部品と反応しないことが要求される。従来、このような特性を備えるセッターとして、アルミナ・ムライト系基材の表面に、アルミナからなる中間層を形成し、更にその表面にジルコニアを被覆したものが用いられてきた(特許文献1)。
近年、各企業の二酸化炭素排出量削減方針を受け、セラミックコンデンサー等のセラミック電子部品製造においても、低温で焼成可能な組成を有するワークの開発が進められている。これらの低温で焼成可能な組成を有するワークは、BaO,MnO,CaO,SrO,NiO等の低融点金属酸化物を含有することを特徴とするものである。
これらの低融点金属酸化物は、ワークの低温焼成を可能とする一方で、ワーク焼成時にセッターの表層や中間層にまで拡散し、ここで化学反応によるセッタ―の変質を引き起こす新たな問題の要因となっている。
具体的には、前記の3層構造セッターの中間層として一般に用いられるAlはコランダム型構造とよばれる結晶構造をしているが、Alはアルカリ成分と反応性が高いため、例えば、前記BaOと反応して、BaAlOやBaAl1219を生成する。当該化学反応は、従来コランダム型の結晶構造を有していた中間層の結晶構造をスピネル型結晶構造へと変化させる。コランダム型の結晶構造からスピネル型の結晶構造へと変化した結晶部分では、結晶軸が伸びる結果、中間層が膨張し、ここに応力が発生する。当該応力に由来してセッターのソリやセッター表層の剥離といった現象が生じ、セッタ―寿命が短くなる問題が生じていた。
特開2007−15882号公報
本発明の目的は、前記問題を解決し、低融点金属酸化物を含有するワークの焼成時にセッターのソリやセッター表層の剥離といった問題を生じることのない焼成セッターを提供することである。
上記課題を解決するためになされた本発明に係る焼成用セッターは、基材とコート層からなる焼成用セッターであって、前記基材は、アルミナまたは/およびムライトからなり、前記コート層は、基材表面に厚み20〜500μmで形成された中間層と、中間層表面に厚み20〜500μmで形成された表層とから構成され、中間層が、Na、K、Ca、Sr、Baのうち少なくとも一種を0.1〜25重量%含有したβアルミナ型結晶構造の結晶からなることを特徴とするものである。ここで、βアルミナ型結晶構造とは、Al成分とO成分およびNa,K,Ca,Sr,Ba成分のいずれかからなり、結晶構造に単純六方晶を持ち、空間群としてP63/mmc(194)を取る結晶構造をいう。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の焼成用セッターにおいて、表層の主成分が、安定化ジルコニア又はジルコン酸塩であることを特徴とするものである。
本発明に係る焼成用セッターでは、基材とコート層からなる焼成用セッターにおいてコート層をあらかじめβアルミナ型結晶構造を有するものとしたことにより、低融点金属酸化物を含有するワークを焼成する際に、従来のコランダム型構造のコート層で生じていた問題(化学反応により中間層がコランダム型結晶構造からスピネル型結晶構造に変化し、これに起因して発生した応力により、セッターのソリやセッターコート層の剥離といった現象が生じ、セッタ―寿命が短くなる問題)が解消可能となった。
本発明の焼成用セッタ―は、基材とコート層からなる焼成用セッターにおいて、コート層がβアルミナ型結晶構造を有するものである。図1には、本発明の一実施形態を示している。以下、図1に示すように、基材3は、アルミナまたは/およびムライトからなり、前記コート層は、中間層2と表層1とから構成され、該中間層2が基材3表面に形成され、該表層1が焼成対象物由来の化学物質と反応性の低い材質からなる、本発明の実施の形態について説明する。
本発明を構成する中間層2は、Al成分を主成分とし、その他の成分としてO,Na,K,Mg,Ca,Sr,Baのうち少なくとも一種を含有することが好ましいが、βアルミナ型結晶構造を有するものであればよく、特にこれらに限定されるものではない。本発明の中間層2の結晶構造は、中間層2形成時から既にβアルミナ型結晶構造を有する。したがって、電子部品(ワーク)焼成時、ワーク由来のBaO,MnO,CaO,SrO,NiO等の低融点金属酸化物がコーティング層(表層1や中間層2)にまで拡散した場合であっても、これらの低融点金属酸化物とアルミナとの化学反応によって、中間層2の結晶構造がコランダム型結晶構造からスピネル型結晶構造へと変化することはなく、結晶構造の変化に起因する応力発生や、それに伴うセッターのソリやコート層の剥離によるセッタ―の短寿命化を効果的に防止することができる。
尚、本発明を構成する中間層2は、焼き付け(焼付)又はプラズマ溶射により形成されることが好ましい。また、本発明を構成する中間層2の厚さは、20〜500μmであることが好ましく、更に、治具の軽減化の観点も考慮すると100〜300μmであることが好ましい。これは、中間層2の厚さが20μm以下の場合、ワークの変質が誘起されてしまう傾向が認められるためである。これは、基材由来のシリカ成分が中間層でブロックされずに表層表面にまで透過してしまうことに起因すると考えられる。一方、中間層の厚さが500μm以上の場合、中間層2自体の形成が困難となる。
本発明を構成する中間層2は、βアルミナ型結晶構造を有し、Na,K,Mg,Ca,Sr,Baを0.1〜60重量%含有する事が好ましく、更には、βアルミナ型結晶構造を有し、Na,K,Ca,Sr,Baを0.1〜25重量%含有する事がより好ましい。Na,K,Mg,Ca,Sr,Baの含有量が0.1質量%未満である場合、中間層の結晶構造はスピネル型結晶構造やβアルミナ型結晶構造を取ることができず、コランダム型結晶構造をとる。コランダム型結晶構造の結晶体は、ワーク成分との反応により結晶構造変化を起こすため、セッターのコート層剥離を有効に防止できない。一方、Na,K,Mg,Ca,Sr,Baの含有量が60質量%を超過する場合、Na,K,Mg,Ca,Sr,Baの含有量が過剰となり、コート層に必要とされる充分な硬度が得られず、中間層自体の形成が困難となる。従って、セッターを長期間使用した場合には、Na,K,Ca,Sr,Ba成分の移動が起こり易くなり、ワークへの悪影響が懸念される。
従って、中間層自体の形成と、ワークへの悪影響の観点から、本発明を構成する中間層2は、前記構成とすることが好ましい。特に、Baを0.1〜25重量%含有するβアルミナ型結晶構造とする事により、高温使用条件においても、成分の移動、結晶形態の変化が極めて少なく、長期間にわたって使用可能な焼成用セッターを得ることができる。
更に、本発明を構成する表層1の主成分は、安定化ジルコニア又はジルコン酸塩から構成されることが好ましい。ここで、本発明で用いる表層1は、電子部品材料である被焼成体と反応性が低い材質でなければならないが、被焼成体の種類によりその材質は異なる。
尚、本発明を構成する表層1の厚さは、20〜500μmであることが好ましい。被焼成体との反応により発生する残存膨張などの応力を極力少なくする点からは、50〜150μmとすることが、より好ましい。
更に、本発明を構成する基材3の主成分は、耐スポール性及び耐ベント性に優れたアルミナ又はムライトであることが好ましい。
次に、本発明の焼成治具の製造方法は、まず、焼き付け又はプラズマ溶射で基材3に中間層2を形成した後、得られた中間層2の上に表層1をスプレーコート焼き付け又はプラズマ溶射により、コート層が基材に形成される。
ここで、溶射とは、金属又はセラミックの微粉末(以下、「溶射材料」という。)を加熱して溶融状態とし、対象物の表面に吹き付けることにより溶射被膜を形成する方法をいう。加熱の方法により燃焼炎を用いるガス溶射、アークを用いるアーク溶射等、種々の方法が存在するが、本発明においてはプラズマジェットを用いるプラズマ溶射により中間層2の溶射被膜を形成することが好ましい。
本発明では、プラズマ溶射の中でも水プラズマ溶射(水安定化プラズマ溶射)を用いることが、特に好ましい。ガスプラズマ溶射による溶射被膜は、最大膜厚が300μm程度であるが、水(安定化)プラズマ溶射によれば最大膜厚1000μm程度の厚い被膜を形成することができるからである。また、水(安定化)プラズマ溶射は、比較的ポーラスで表面が荒れた被膜を形成できるため、基材3に対する密着性が向上する点においても好ましい。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下に示す方法で、電子部品用焼成治具のテストピースをそれぞれ作製した。ここで、表1、表2の上段(実施例1,2,4,6,8,9及び比較例1〜5,10〜12)は、中間層の材質・施工方法・厚み検討のためのテストピースであり、全てのテストピースにおいて、表層は100μm厚さのY8質量%含有安定化ジルコニアからなる。また、表1、表2の下段(実施例10,11,13,15,17〜20、比較例6〜9,13〜15)は、表層の材質・施工方法・厚み検討のためのテストピースであり、全てのテストピースにおいて、中間層は100μm厚さのβアルミナ型結晶構造を有する結晶からなる。
(基材の作製方法)
最大粒径150μmの電融アルミナ粒子にアルミナ含有量が85質量%となるように、粘土、仮焼アルミナを添加し混練した坏土を油圧プレスで縦150mm×横150mm×厚さ5mmの板状体を100MPaの圧力で成形し成形体を得た。得られた成形体を乾燥させ、1650℃、5時間保持で焼成を行い、テストピース用基材を作製した。
(中間層の作製方法)
(1)焼き付け施工:焼結アルミナを、溶媒に水を用いて、スラリー化した。得られたスラリーを基材に塗布した後、1450℃、5時間保持し、厚さ100μmの中間層をそれぞれ焼き付けた。
(2)コート施工:アルミナ粒子と、表1に示す成分(Na,K,Mg,Ca,Sr,Baの何れか)を含む粒子を用い、溶媒に水を用いて、スラリー化した。得られたスラリーを基材に塗布した後、1450℃、5時間保持し、表1に示す成分(Na,K,Mg,Ca,Sr,Baの何れか)を表1に示す割合(0.1〜60重量%)で含有し、表1に示す厚さの中間層をそれぞれ焼き付けた。
(3)プラズマ溶射施工:βアルミナまたはスピネルに、表1に示す成分(Na,K,Mg,Ca,Sr,Baの何れか)を表1に示す割合(0.1〜60重量%)で含有させた粒子(平均粒径70μm)を使用し、基材にプラズマ溶射を行うことにより、表1に示す厚さの中間層を形成した。
(表層の作製方法)
表1の安定化ジルコニア又はジルコン酸塩を使用し、基材にプラズマ溶射又はコート施工を行い、表1に示す厚さの表層を形成した。
Figure 0004691145
上記の作製方法で得られたテストピースを、以下の方法で評価を行った。その結果を表2に示す。なお、前記製法により形成された中間層の結晶構造の確認として、実施例2に記載の中間層表面をXRD測定した結果、主にBaAl1219の生成が認められ、実施例2の中間層は、βアルミナ型構造の結晶相を持つことが確認された。
(テストピースの評価方法1:表層剥離が起こるまでの焼成回数)
2重量%のBaCO、2重量%のMnCO、26重量%のBaTiOを70重量%水に分散させた液を作製し、その液(0.8g)をテストピース(サイズ:150×20×4mm)の表面に塗布後、1400℃、1時間保持する焼成を繰り返し行い、表層の剥離が生じるまでの焼成回数を評価した。
(テストピースの評価方法2:表層剥離に伴う剥離面のソリ量)
前記評価方法1で表層剥離が生じた時点で同時に、テストピース全体の反りを床面からの最大距離で計測し、ソリ量を評価した。
◎:ソリ量が0.5mm以下
○:ソリ量が0.5〜1.0mm以下
△:ソリ量が1.0mm以上
(テストピースの評価方法3:ワーク(被焼成体)との反応性[ワーク反応度])
BaTiO3を主成分とする材料からプレート状(サイズ:40mm×40mm×2mm)のワークを作製した。得られたワークをテストピースに載置し、1400℃、5時間保持する焼成を行った後、ワークの変質状態を外観観察で評価した。
◎:ワークの変質が確認されない。
○:ワークの変質が一部(全面の50%程度以下)確認される。
△:ワークの変質が大半(全面の50%程度以上)に確認される。
Figure 0004691145
以下、表2に基づく考察を行う。
中間層の検討に関する考察:表1、表2の上段(実施例1,2,4,6,8,9及び比較例1〜5,10〜12)
比較例1に示すように、中間層にスピネル構造を有さないアルミナを用いた場合、9回の焼成でコート層剥離が生じている。これに対し、各実施例に示すように、スピネル型結晶構造を有するβアルミナを主成分とし、他の成分としてNa,K,Mg,Ca,Sr,Baのうち少なくとも一種を含有した化合物からなる結晶体の中間層を20〜500μm設けることにより、低融点金属酸化物を含有するワークの焼成を繰り返し行っても、セッターのソリやセッター表層の剥離といった問題の発生を顕著に抑制することができた。
表層の検討に関する考察:表1、表2の下段(実施例10,11,13,15,17〜20、比較例6〜9,13〜15)
表層の厚みが20μmに満たない場合ではワークとの反応度に問題があった。一方、表層の厚みが500μmを超える場合ソリ評価が低下する問題があった。
本発明の焼成用セッターの断面説明図である。
1 表層
2 中間層
3 基材

Claims (2)

  1. 基材とコート層からなる焼成用セッターであって、
    前記基材は、アルミナまたは/およびムライトからなり、
    前記コート層は、基材表面に厚み20〜500μmで形成された中間層と、中間層表面に厚み20〜500μmで形成された表層とから構成され、
    中間層が、Na、K、Ca、Sr、Baのうち少なくとも一種を0.1〜25重量%含有したβアルミナ型結晶構造の結晶からなることを特徴とする焼成用セッター。
  2. 表層の主成分が、安定化ジルコニア又はジルコン酸塩であることを特徴とする請求項1記載の焼成用セッター。
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