JP4446633B2 - 焼成治具のコーティング剤及び焼成治具 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、被焼成物(以下、ワークとも称す。)と反応しにくく、熱衝撃性、耐久性に優れ、かつ安価な焼成治具を得るためのコーティング剤であり、さらには、このコーティング剤を用いて得られる焼成治具及びこのコーティング剤を用いた焼成治具の製造方法に関する発明である。
【0002】
【従来の技術】
従来、1000〜1350℃程度の高温零囲気下において、使用される焼成治具には、ムライト質もしくはコージェライト質耐火物が多用されていた。また、近年は焼成炉の運転をより経済的、より生産性を向上させるため、省エネ運転,高速運転をなすために、焼成治具の比重や厚みを軽減したり、熱衝撃に強い材料選択が行なわれてきた。一方、焼成されるワークと焼成治具との反応を防ぎ、焼成治具の寿命を長くするためにイットリア等の安定化剤を含むジルコニア被覆を有する焼成治具も利用されていた。この場合、ジルコニア被覆層を形成するためには、焼成工程中に起きるとされるジルコニアの膨張やヒステリシスな熱履歴現象を緩和せねば、被覆層にクラックが発生して剥離してしまう。このため、該現象を緩和する安定化剤を混合する必要があった。この安定化剤には、イットリア、カルシア,マグネシア,セリア等が用いられてきた。こうしたジルコニア被覆を有する焼成治具に関する関連技術の例として、基板が繊維質のものが特開平2−89989号公報に開示されている。ジルコニア被覆を多孔とする発明が特許第3139962号に開示されている。安定化剤は、焼成されるワークの組成により適宜に選択されている。更に、焼成治具の基板をムライトあるいは炭化珪素にして、ワークとの反応防止被覆を高純度アルミナ被覆とする焼成治具の例もある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
焼成炉の運転をより経済的、より生産性を向上させるため、省エネ運転,高速運転をなすための解決方法の一つに熱衝撃性に優れた焼成治具を用いて、炉内に於ける昇温・降温をより短時間で行う事も望まれている。熱衝撃性に優れ、原材料の国内生産量も多く、入手が容易な焼成治具として、コージェライト質焼成治具が存在する。この治具は100%コージェライト晶からなるもは勿論のことこコージェライト晶を一部含有するコージェライト・ムライトと俗称されるものも含まれている。
【0004】
ところが、コージェライト質基板は、反応防止被覆に用いられるジルコニア層を形成するための焼成温度に比べて低い温度で溶融が起こる。このため、コージェライト質基板にジルコニアの反応防止被覆層を持った焼成治具の製造は、困難であると考えられてきた。理論上の可能性としては、コージェライト質基板にジルコニアを溶射被覆することが有る。しかしながら、安価には製造できるものではないので、一般的にはコージェライト質基板の上にジルコニア基板を積載して、更にその上に焼成すべきワークをセットして使用されている例が有った。
【0005】
この発明では、微細な反応をも嫌う電子セラミックスのような取り扱いが微妙なワークも、コージェライト質基板表面にコージェライト溶融温度より低い温度にて被覆層を焼成することができる新規コーティング剤を提案する事により、コージェライト質焼成治具の単独使用を可能にせしめ、その結果、安価で簡便に焼成する方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
この発明では、前記課題を解決するため、請求項1の発明は、コージェライト質基板表面にコージェライト溶融温度より低い温度にて被覆層を焼成するために用いるコーティング剤であって、ジルコニアを主成分として、更にイットリアとカルシアを含有し、ジルコニア、イットリア及びカルシアの合計重量に対するイットリアとカルシアの合計重量の比率が2%から15%の範囲にあり、かつイットリアとカルシアの合計重量に対するカルシアの重量比率が10%から90%の割合となっていることを要旨としている。請求項1の発明は、コージェライト質焼成治具基板へ被覆するためのコーティング剤についての発明である。
【0007】
請求項2の発明は、コージェライト質基板表面に、ジルコニアを主成分として、更にイットリアとカルシアを含有し、ジルコニア、イットリア及びカルシアの合計重量に対するイットリアとカルシアの合計重量の比率が2%から15%の範囲にあり、かつイットリアとカルシアの合計重量に対するカルシアの重量比率が10%から90%の割合となっている焼成されたコーティング剤被覆層を有することを要旨としている。請求項2の発明は、請求項1のコーティング剤を用いた焼成治具そのものについての発明である。
【0008】
請求項3の発明は、コージェライト質基板表面に、ジルコニアを主成分として、更にイットリアとカルシアを含有し、ジルコニア、イットリア及びカルシアの合計重量に対するイットリアとカルシアの合計重量の比率が2%から15%の範囲にあり、かつイットリアとカルシアの合計重量に対するカルシアの重量比率が10%から90%の割合となっているコーティング剤スラリーをスプレー塗装し被覆層を形成して得られたコーティング剤被覆層を含むコージェライト質焼成治具をコージェライト溶融温度より低い温度領域にて焼成することを要旨としている。請求項3の発明は、請求項1のコーティング剤を用いて焼成治具を製造するための製造方法についての発明である。
【0010】
以下、上述したこの発明の各構成要素について、詳しく説明する。この発明に言う焼成治具とは、陶磁器あるいは電子セラミック部品(絶縁体,伝導体,半導体,誘電体,圧電体,磁性体など),碍子,切削・研磨材料などを焼成する際に用いられる耐熱性のある治具のことであり、形状により台板,棚板,セッター,さや,とち,匣鉢,支柱、サガーなどと呼ばれる。これらの中で、直接被焼成物(ワーク)と接する治具としては、棚板,セッター、匣鉢、サガーがある。この発明の焼成治具では、電子セラミック部品の焼成に用いられる棚板,セッター、匣鉢、サガーとして用いることが、特に有効である。また、焼成治具の基板材質としては、コージェライトを前提としているが、他のムライト,アルミナ,炭化珪素,マグネシアスピネル等から選択されるものに対しても利用可能である。
【0011】
コージェライト質基板には、100%コージェライト晶からなっているものの他、ムライト粒子がコージェライト基質中に散在するコージェライト−ムライト板とコージェライト粒子がムライト基質中に散在するムライト−コージェライト板などがあるが、ここで言うコージェライト質基板とはコージェライト晶の一部が基板中に存在する全てのものをいい、そのいずれもがこの発明において利用可能である。
【0012】
ワークとの反応を防止できる被覆層形成に使用されるコーティング剤の主成分の一つは、ジルコニアである。主成分のもう一方はイットリアとカルシアであるがこれは、ジルコニアの安定化剤であり、単斜晶のジルコニアに固容する事により結晶構造を安定な立方晶や正方晶にさせる機能を有する。イットリアあるいはカルシアは、ジルコニアに対しして別個に加えられるか、予め、ジルコニア粉末の生産時に加えて、加熱処理により固容させておいても良い。また、その他の安定剤としてマグネシア,セリア等が挙げられるが、本発明の主旨を損わない限り、別途に含有されていても一向に差支えない。
【0013】
ジルコニア、イットリア及びカルシアの合計重量に対するイットリアとカルシアの合計重量の比率は2%から15%の範囲になければならない。また、該イットリアとカルシアの合計重量に対する該カルシアの重量比率は10%から90%の割合となっている必要がある。合計重量の比率が2%以下では、ジルコニアの安定化が十分なされないため、本発明の焼成治具として多数回用いた場合、コーティング層が数回目にして劣化して剥離する。また、15%以上では、ジルコニアの比率が相対的に減少しているためか、ワークと反応が見られるようになる。該イットリアとカルシアの合計重量に対する該カルシアの重量比率が10%以下では、コージェライト質基板の軟化温度以下での焼成温度では、コーティング層の焼結が行われず、粉っぽい脆弱な状態を呈する。また、90%以上では、本発明の焼成治具として多数回用いた場合、コーティング層が数回目にして劣化して剥離する。
【0014】
ジルコニア及び安定化剤であるイットリア及びカルシアの中心粒子径は0.5μmから50μmに入る粉末を用いることが望ましい。更に好ましくは、この中心粒子径範囲のうち、1〜20μmに入るものを利用するとき、一番問題ないコーティング剤層となる。この粒子径が0.5μm未満にある時は、コーティング剤による被覆層を焼成する際に、コーティング層の密度が上昇し凝集力のために亀裂が生じて剥離してしまう。一方、粒子径が50μm以上にあると、焼成してもジルコニア層の焼結状態が悪く、手で触れば取れるほどの脆弱層となり焼成治具としての機能をなさない。
また、カルシアとしては、その原料に水酸化カルシウム・炭酸カルシウムなどを用い、炉焼成によりカルシアを生成できるもので有ればいずれのものでもかまわない。但し、重量比率はカルシアに換算しなければならない。
【0015】
この発明において、コーティング剤は上記ジルコニア,安定化剤以外に、分散媒としての水,分散剤,湿潤剤,消泡剤,起泡剤等の界面活性剤,メチルセルロース,ポリビニルアルコール,ヒドロキシメチルセルロース,ポリアクリル酸塩,グアーガム等の増粘剤を適宜添加し、粘度100cps〜9000cpsのスラリー状にして使用される。このスラリー状のコーティング剤の不揮発分は、20〜80%程度に調整される。この水分割合が80%より大きい時には、基板の吸水率が少ないために、何度も重ね塗りをしないと、コーティング剤による被覆層の厚みが50μm以上にならないため効率が悪い。また、20%以下では粘性が大きくなり被覆が困難となり良くない。
【0016】
コーティング剤を焼成治具基板に対して、塗付するには公知の塗装手段により被覆層を形成することができる。塗装手段としては、スプレーガン,ナイフコータ,ロールコータによる塗装、ディッピングが例示できる。これらの塗装手段のうちスプレーガンによるスプレー塗装が、コーティングの被覆厚みを管理が容易であるため好ましい。
【0017】
この時、コーティング剤による被覆厚み(量)は、湿潤状態において50〜450μm(0.01〜0.4g/cm2)とするのが良い。この範囲に被覆厚み(量)がある時、焼成後の被覆層の厚みが40〜350μmとなり、ワークとの反応防止層としての機能が、得られるものとなる。被覆層の厚みは、40μm未満にあるときは、被覆層と焼成治具基板の反応層が表面に生じ、ワークとの反応防止効果に問題が生じる。一方、被覆層の厚みが450μmを越えるときは、被覆層自身に焼成時におけるクラックが生じ、基板がむき出しの部分で反応が見られたり、被覆層の剥離の原因となり良くない。
【0018】
コーティング剤による被覆層の焼成は、1100℃〜1350℃の範囲の中から、コーティング剤成分の焼結温度に応じて、適宜選択し行なわれる。この焼成温度は、所定の焼成温度より低い場合には、焼成治具基板との密着不足となり、また逆に高すぎる温度により焼成されると、焼成治具基板との反応が大きく進行したり、基板からの反応防止層の剥離が生じるようになる。
【0019】
被覆層の形成は、焼成治具基板が板状物でありかつ3mm以下の薄いとき、その両面に形成させるのが好ましい。これは被覆層を焼成させた時に、基板と被覆層の間に熱膨張率の差が基板全体に応力を発生させるためであり、この応力が生じても変形のない厚みがあったり、応力に耐える強度を有していれば片面形成でも良い。図1は、板状の焼成治具にあって、両面に反応防止層が形成されたものの断面模式図である。
【0020】
【作用】
この発明では、コーティング剤の組成について、ジルコニア:(イットリア:カルシア)を特定比とすることにより、コーティング剤の焼成温度を低下させることを可能としている。また、焼成温度を低下させる中、コージェライト質基板に対する密着性及び安定化度の確保を得ている。
【0021】
【実施例】
以下、この発明の実施形態を図面と併せて詳細に説明する。
実施例1では、下記に記す配合組成によりコーティング剤1を作成した。
【0022】
実施例1では分散剤は、花王(株)製の商品名ポイズ520を使用し、ジルコニアには中心平均粒径5μmの未安定品,イットリアには純度99.8%以上でかつ中心平均粒径0.5μm、カルシアは水酸化カルシウムとして平均粒径2μm(添加量はカルシアと水に振分けて換算),バインダーは濃度50%のアクリル酸エステルエマルションを使用した。これら割合により混合されたコーティング剤をボールミルで24hr分散し、スプレーガンを用いて、コージェライト−ムライト板である基板の両面へ200μm(0.1g/cm2)塗布した。また130℃で1hr乾燥したものを1300℃(昇降温度200℃/hr)にて焼成した。図1に実施例1における焼成治具断面模式図を示す。図中、符号1はコージェライト質基板であり、符号2は、反応防止被覆であるジルコニアの被覆層である。
【0023】
この被覆層を有するコージェライト質焼成治具を用い、マンガン−ジンク系のソフトフェライトのワークを最高温度1300℃で焼成した所、ワークが基板に融着する事もなくまた所定の電気特性も良好な製品を得ることができた。
また、50回同様な焼成を試みたが、該基板の損傷もなくまた、ワークの異常も観察されなかった。
【0024】
実施例2では、下記に記す配合組成によりコーティング剤2を作成した。
【0025】
実施例2では分散剤は、中京油脂(株)製のポリアクリル酸アンモニウム塩が主成分である商品名セルナD−305を使用し、バインダーは昭和高分子(株)の商品名SUM−4100を使用した以外は、実施例1に使用したものと同じものを用いた。これら割合により混合されたコーティング剤をボールミルで48hr分散し、スプレーガンを用いて、ムライト−コージェライト板へ300μm(0.15g/cm2)塗布した。また130℃で1hr乾燥したものを1300℃(昇降温度100℃/hr)にて焼成した。
【0026】
実施例2以下の実施例あるいは比較例おけるコーティング剤の配合を下記表1に記し、またこれらのコーティング剤を用いて焼成治具を作成し、その焼成治具に対する試験結果については、下記にまとめて表2に記載する。焼成治具の基板は、実施例1に使用したものと同じものを使用し、また、コーティング剤の塗布量あるいは焼成の条件も実施例1と同じとした。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例1を含む、実施例・比較例に対する性能評価は、基板作成時の被覆層の外観、実際のワーク焼成試験での焼成基板の外観とワークの特性評価を試験した。試験条件は、
1.基板に被覆したコーティング剤の焼成温度:昇温速度100℃/時間で最高温度1300℃で1時間保持バッチ炉(大気雰囲気)
2.ワーク焼成試験時の焼成温度:昇温速度150℃/時間で最高温度1250℃連続炉(大気雰囲気)
3.ワークの種類:マンガン−ジンク系ソフトフェライト
【0029】
【表2】
【0030】
【発明の効果】
本願の請求項1の発明では、ワークとの反応防止層を形成できるジルコニアコーティング剤の提供であり、焼成治具の基板として、安価でかつ熱衝撃抵抗力のあるコージェライト質基板に対して用いた場合に於いても、コージェライトが溶融する温度より低い温度にての焼成を可能にしたものである。従って、この発明のコーティング剤により、コージェライト質基板の応用範囲を広げることが可能となった。
【0031】
本願の請求項2の発明では、コージェライト質基板表面に特定割合のイットリアとカルシアを含むジルコニア被覆を有する焼成治具を提供し、安価かつ熱衝撃抵抗力のある焼成治具としている。
この製品は、実施例の試験結果の通り、耐久性の良いものであり、ワークの不良品発生を少なくすることができる。
【0032】
本願の請求項3の発明では、コージェライト質基板に特定割合のイットリアとカルシアを含むジルコニア被覆層を簡易な手段により形成可能としている。また、コーティング剤被覆層をコージェライトが溶融する温度領域より低い温度において、焼成層となして、焼成治具製造を可能としている。
【0033】
本願の発明により製造された焼成治具は、低温焼成によりワークとの反応性の少ないジルコニア層を形成したものであり、従来から行われていた棚板の基板の上にジルコニア単独の基板を設置してからワークをセットするという二重手間を省き、省力的で安価に使用することのできる効果を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1における断面模式図
【符号の説明】
1…コージェライト質基板
2…被覆層
Claims (3)
- コージェライト質基板表面にコージェライト溶融温度より低い温度にて被覆層を焼成するために用いるコーティング剤であって、ジルコニアを主成分として、更にイットリアとカルシアを含有し、ジルコニア、イットリア及びカルシアの合計重量に対するイットリアとカルシアの合計重量の比率が2%から15%の範囲にあり、かつイットリアとカルシアの合計重量に対するカルシアの重量比率が10%から90%の割合となっていることを特徴とするコージェライト質焼成治具のコーティング剤。
- コージェライト質基板表面に、ジルコニアを主成分として、更にイットリアとカルシアを含有し、ジルコニア、イットリア及びカルシアの合計重量に対するイットリアとカルシアの合計重量の比率が2%から15%の範囲にあり、かつイットリアとカルシアの合計重量に対するカルシアの重量比率が10%から90%の割合となっている焼成されたコーティング剤被覆層を有することを特徴とするコージェライト質焼成治具。
- コージェライト質基板表面に、ジルコニアを主成分として、更にイットリアとカルシアを含有し、ジルコニア、イットリア及びカルシアの合計重量に対するイットリアとカルシアの合計重量の比率が2%から15%の範囲にあり、かつイットリアとカルシアの合計重量に対するカルシアの重量比率が10%から90%の割合となっているコーティング剤スラリーをスプレー塗装し被覆層を形成して得られたコーティング剤被覆層を含むコージェライト質焼成治具をコージェライト溶融温度より低い温度領域にて焼成することを特徴とするコージェライト質焼成治具の製造方法。
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