JP3643022B2 - 電子部品焼成用治具 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体、積層コンデンサ、セラミックコンデンサ、圧電素子、サーミスタ等の電子部品を焼成する際に用いる、セッター、棚板、匣鉢等の電子部品焼成用治具に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子部品焼成用治具は、耐熱性や機械的強度の他に、焼成するセラミック電子部品と反応しないことが要求される。誘電体等の電子部品ワークが焼成用治具と接触し反応すると、融着したり、ワークの組成変動によって特性低下が生ずる等の問題点がある。
通常はこれらの電子部品焼成用治具の基材として、熱間強度が高く、熱スポーリング性の良好なアルミナ・ムライト系基材が頻繁に使用される。しかしこのアルミナ・ムライト系基材は電子部品ワークとの反応が起こり易く、この反応を防止するために、基材表面にジルコニアを被覆する方法が採用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ジルコニアは基材との反応性は低いが、該基材との熱膨張係数の差が大きいため繰り返し熱サイクルが生ずる使用環境下では治具の被覆に亀裂が生じたり、剥離するといった問題がある。更にジルコニアは〜1100℃近傍で単斜晶から正方晶への相変化が起こる。その結果繰り返し熱サイクルによる相変態に伴う熱膨張係数の変化により、ジルコニアの被覆層が脱離しやすいという問題点がある。なお未安定化ジルコニアを表面層として使用する場合には、相変態に伴う粉化が生ずるという問題点もある。
【0004】
このような問題点を解決するために、ジルコニア表面層と基材の間にアルミナから成る中間層を存在させた電子部品焼成用治具が提案されている。しかしこの電子部品焼成用治具では、アルミナの燒結性が悪く、アルミナとジルコニア表面層と密着性が不十分で表面層と基材との中間層として適切でなく、更に剥離が満足できるレベルで防止できないことがあるという欠点がある。
従って本発明は、従来のアルミナ単独の中間層に代えて、各種特性特に耐剥離性及び強度に優れた中間層を有する電子部品焼成用治具、又はアルミナ単独の中間層はそのまま使用しジルコニア表面層に代えて、各種特性特に耐剥離性及び強度に優れた表面層を有する電子部品焼成用治具を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、第1に基材、該基材表面に被覆されたアルミナを含む中間層、及び該中間層上に形成されたジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリア表面層を含んで成ることを特徴とする電子部品焼成用治具、第2に基材、該基材表面に被覆されたジルコニア、カルシア、アルミナ、イットリア及びマグネシアを含む群から選択される2種以上の酸化物から選択される中間層、及び該中間層上に形成されたジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリア表面層を含んで成ることを特徴とする電子部品焼成用治具である。
【0006】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の電子部品焼成用治具は、基材―中間層―表面層から成り、表面層として従来は使用されなかったジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリア又はイットリア安定化ジルコニアを使用する。中間層は、アルミナ単独層や焼成を行ったジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリア部分溶融中間層あるいはアルミナ―カルシア―マグネシアを含む部分溶融中間層が使用される。
本発明に係る電子部品焼成用治具の基材の材質は、従来と同様で良く、例えばアルミナ系材料、アルミナ−ムライト系材料、アルミナ−マグネシア系スピネル材料、アルミナ−ムライト−コージェライト系材料、又はこれらの組合わせによる材料が使用される。
【0007】
この基材上に形成される中間層又は部分溶融中間層は1又は2種類以上の金属酸化物粒子の混合物をバインダーで相互に結合させたり、高温焼成することにより得られる。この中間層又は部分溶融中間層はアルミナ単独又はアルミナと他の金属酸化物を組み合わせて構成する。例えばジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリア、アルミナ−スピネル酸化物−マグネシアやアルミナ−カルシア−イットリアの組合せにより優れた特性を有する中間層又は部分溶融中間層が得られ、更にアルミナ単独の場合には、後述する表面層との組み合わせで優れた特性が発現する。
【0008】
2種類以上の金属酸化物を使用する場合、その混合割合は特に限定されないが、1種類の金属酸化物の含有量が90重量%を越えると、2種類以上の金属酸化物の混合物を使用する効果が少なくなるため好ましくない。
この中間層又は部分溶融中間層を構成する金属酸化物の粒径は特に限定されずランダムな粒径の金属酸化物で中間層又は部分溶融中間層を構成しても良いが、粗粒子と微粒子を混合して、例えば平均粒径30〜500 μmの粗粒子と平均粒径0.1 〜10μmの微粒子を混合して存在させると、気孔率の大きい粗粒子金属酸化物により中間層又は部分溶融中間層中に空隙が形成され、表面層と中間層又は部分溶融中間層間、及び中間層又は部分溶融中間層と基材間の熱膨張率の差を吸収し緩和することができ、急熱及び急冷を繰り返す熱サイクル環境下で使用しても、比較的長期間剥離することなく使用できる。但し中間層又は部分溶融中間層全体に対する粗粒子の量は90重量%以下とする。
【0009】
前記中間層は塗布−熱分解法、スプレー法、ディップコート法及び結着法等により基材表面に形成できる。塗布−熱分解法は対応金属の硝酸塩等の金属塩水溶液を基材表面に塗布し熱分解により対応する金属酸化物に変換し基材表面に被覆する方法である。スプレー法は所定の粒径の金属酸化物粒子を溶媒に懸濁させてこの溶媒を基材表面に噴射しかつ溶媒を飛散させて金属酸化物を基材表面に被覆する方法である。又ディップコート法は対応金属酸化物を溶解又は懸濁させた溶液に基材を浸して金属酸化物を含有する液層を基材表面に形成しかつ乾燥して溶媒を除去して金属酸化物層を形成する方法であり、結着法は所定の粒径分布を有する金属酸化物粒子をバインダーを使用して互いに結合させるとともに基材表面層に結着させる方法である。
塗布−熱分解法及びディップコート法は生成する金属酸化物粒子の粒径を調節しにくく、所望の粒径分布の金属酸化物、例えば前述の粗粒子と微粒子から成る金属酸化物の中間層を形成する場合には所定の粒径の金属酸化物粒子を直接噴霧するスプレー法、又は所定の粒径の金属酸化物粒子を結着させる結着法によることが望ましい。
【0010】
中間層又は部分溶融中間層の厚さは特に限定されないが、金属酸化物の微粒子のみで形成する場合は10〜200 μmが好ましく、各製造法における基材への金属や金属化合物の噴霧量又は金属や金属化合物の溶液の被覆量及び除去される溶媒量を考慮することにより、形成される中間層又は部分溶融中間層の厚さを任意に調節できる。
中間層又は部分溶融中間層の焼成温度は実際に電子部品を焼成する温度より高い温度にして本発明の電子部品焼成用治具が使用時に劣化しないようにすることが望ましい。通常の電子部品の焼成温度は1200〜1400℃であるので、中間層焼成温度は1300〜1600℃程度とすることが好ましい。なお中間層の焼成は表面層を形成した後に該表面層の焼成と同時に行っても良く、それにより焼成工程の回数を減らすことができる。
【0011】
このように形成される中間層又は部分溶融中間層上にジルコニア表面層を形成する。該ジルコニア表面層を構成する物質はジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリアの複合酸化物とする。
表面層は、電子部品と直接接触するため、該電子部品に悪影響を与えるものであってはならず、従ってイットリア、カルシア及びマグネシア等により部分安定化又は安定化させたジルコニア又はジルコニアを含む複合酸化物を使用する。ジルコニアは室温では単斜晶系であり、温度上昇とともに、単斜晶系→(〜1170℃)→正方晶系→(〜2370℃)→立方晶系の相変態が起こるが、ジルコニアにイットリアやマグネシア等の部分溶融結合材(安定化剤)を固溶させることにより、高温相である正方晶や立方晶を室温下で「安定化」できる。
前記表面層の製法は前記中間層と同様に、塗布−熱分解法、スプレー法、ディップコート法及び結着法等がある。
【0012】
これらの表面層の内、ジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリアの複合酸化物は中間層の場合と同様な例えば塗布−熱分解法、スプレー法、ディップコート法及び結着法等で製造できるが、これ以外の製法を使用しても良い。例えば塗布−熱分解法で製造する場合は、硝酸ジルコニウム―硝酸カルシウム―硝酸アルミニウム―硝酸イットリウムの混合物を水に溶解して金属酸化物水溶液を調製し、この水溶液を基材表面に塗布し熱分解により対応する金属酸化物に変換し基材表面に被覆すれば良い。ジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリアの混合割合は電子部品との反応性を考慮してジルコニアが50%以上であることが望ましく、その他の各酸化物が1―50重量%含有されることが望ましい。
又イットリア安定化ジルコニアの場合は、少量のイットリアを添加したランダムな粒径のジルコニアを焼成することにより形成しても良いが、前記中間層の場合と同様に粗粒子と微粒子を混合して、例えば平均粒径30〜500 μmのジルコニア粗粒子と平均粒径0.1 〜10μmのジルコニア微粒子を混合してイットリアと共に存在させると、気孔率の大きいジルコニア粗粒子により表面層に空隙が形成され、中間層又は部分溶融中間層による空隙形成能に加えてイットリア安定化ジルコニア表面層の空隙形成能によりイットリア安定化ジルコニア表面層と中間層又は部分溶融中間層との熱膨張率の差をより完全に吸収し緩和することができる。なおこの場合も粗粒子は全体に対して90重量%以下とすることが望ましい。
【0013】
このように製造される本発明の電子部品焼成用治具は、表面層として中間層又は部分溶融中間層と密着性の高い従来にない成分を使用しているため、剥離等に強く長期耐久性に優れている。中間層を金属酸化物で構成し、加熱焼成時にそのうちの一部を溶融させて部分溶融中間層とすると、部分溶融により形成された液相が表面層及び基材の両者と反応し、これによって各層及び基材間の密着力が著しく改善され、換言すると表面層が基材から剥離にしくくなる。なお液相量が多過ぎると、液相が固化する際に収縮して膜や基材が変形することがあるため、加熱焼成の条件を適切に設定することが望ましい。
更に部分溶融中間層として2種類の金属酸化物を使用すると、1種類の金属酸化物の燒結性が劣っていても、他の金属酸化物の燒結性により補完されて、全体としての燒結性が向上して部分溶融中間層としての強度が改善される。又金属酸化物を2種類使用することにより、その融点が金属酸化物単独(例えばアルミナの融点は約2000℃)の場合より低下し、好ましい焼成温度である1300〜1600℃での焼成が容易になる。
従って、1種類のみの金属酸化物で形成した中間層を有する電子部品焼成用治具では実質的に達成できない剥離防止等が達成できるが、1種類のみの金属酸化物で形成した中間層も本発明に含まれる。本発明で表面層として使用できる安定化ジルコニア特にイットリア安定化ジルコニアは、従来は他の金属成分との親和力が弱く単独で中間層成分として使用できないと認識されていたアルミナとの親和力が強く、中間層をアルミナ、表面層を安定化ジルコニアとする電子部品焼成用治具も長期耐久性が改善されている。
更に本発明の一態様である部分溶融中間層及び表面層ともジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリアから成る電子部品焼成用治具では、部分溶融中間層と表面層の組成が同じであるため両層の親和性が向上して密着性が向上し、更に両層間に両層の成分が拡散して混合層が生成しやすくなり従ってより以上に両層間の密着性が向上する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の電子部品焼成用治具の製造に関する実施例を記載するが、該実施例は本発明を限定するものではない。
【0015】
実施例1
基材として、シリカ成分が約10重量%までのアルミナ−ムライト基材を使用した。それぞれが微粒状のジルコニア(7重量%)、カルシア(25重量%)、アルミナ(50重量%)及びイットリア(18重量%)をボールミル中で均一に混合し、水とバインダーであるポリビニルアルコールを加えてスラリーとした。このスラリーを前記基材表面にスプレーコートし約100 ℃で乾燥した。得られた中間層の厚さは約100 μmであった。次いでこの中間層の表面にそれぞれが、粗粒状のジルコニア(70重量%)、微粒状のジルコニア(15重量%)、カルシア(8重量%)、アルミナ(4重量%)及びイットリア(3重量%)をボールミル中で均一に混合した混合物をスプレーコートし約100 ℃で乾燥した。ジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリア表面層の厚さは約100 μmであった。この積層体を1400〜1600℃で2時間保持し、前記中間層を部分溶融中間層に変換し電子部品焼成用治具を作製した。
【0016】
この電子部品焼成用治具の表面層、部分溶融中間層及び基材との剥離を調べるために電気炉で500 ℃から1300℃まで3時間掛けて急熱し、次いで1300℃から500 ℃まで3時間掛けて急冷することを繰り返し、剥離までの熱サイクル数を調べた。その結果、150 サイクルを経ても剥離は生じなかった。その結果を表1に示した。
【0017】
実施例2〜3
中間層を微粒子アルミナ単独としたこと以外は実施例1と同様にして電子部品焼成用治具を作製し(実施例2)、更に部分溶融中間層を微粒子のアルミナ(75重量%)、カルシア(23重量%)及びマグネシア(2重量%)の混合物としたこと以外は実施例1と同様にして電子部品焼成用治具を作製した(実施例3)。
中間層又は部分溶融中間層の厚さは、それぞれ150μm(実施例2)及び150μm(実施例3) であった。
又表面層の厚さは、それぞれ200μm(実施例2)及び150μm(実施例3) であった。
これらの電子部品焼成用治具の表面層、中間層又は部分溶融中間層及び基材との剥離を調べるために実施例1と同様の条件下で急熱及び急冷を繰り返し、剥離までの熱サイクル数を調べた。その結果、150 サイクルを経ても剥離は生じなかった。その結果を表1に示した。
【0018】
比較例1
表面層をジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリアからイットリア安定化ジルコニアに代えたこと以外は実施例2と同様にして電子部品焼成用治具を作製した。中間層及び表面層の厚さは、それぞれ150μm及び200μmであった。
この電子部品焼成用治具の表面層、中間層及び基材との剥離を調べるために実施例1と同様の条件下で急熱及び急冷を繰り返し、剥離までの熱サイクル数を調べた。その結果、16サイクルを経て段階で剥離は生じ、それ以降は使用できなかった。その結果を表1に示した。
【0019】
【表1】
【0020】
【発明の効果】
本発明は、基材、該基材表面に被覆されたアルミナを含む中間層、及び該中間層上に形成されたジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリア表面層を含んで成ることを特徴とする電子部品焼成用治具(請求項1)及び基材、該基材表面に被覆されたジルコニア、カルシア、アルミナ、イットリア及びマグネシアを含む群から選択される2種以上の酸化物から選択される中間層、及び該中間層上に形成されたジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリア表面層を含んで成ることを特徴とする電子部品焼成用治具である。
この電子部品焼成用治具では、従来の電子部品焼成用治具と異なり、中間層又は部分溶融中間層との親和性、換言すると密着性の高いジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリアを表面層として使用している。従って長期耐久性が改善され、急熱及び急冷を繰り返す熱サイクルの環境でも、かなり長期に亘って電子部品焼成用治具として使用できる。
Claims (2)
- 基材、該基材表面に被覆されたアルミナを含む中間層、及び該中間層上に形成されたジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリア表面層を含んで成ることを特徴とする電子部品焼成用治具。
- 基材、該基材表面に被覆されたジルコニア、カルシア、アルミナ、イットリア及びマグネシアを含む群から選択される2種以上の酸化物から選択される中間層、及び該中間層上に形成されたジルコニア―カルシア―アルミナ―イットリア表面層を含んで成ることを特徴とする電子部品焼成用治具。
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