JP4686727B2 - 導電性陽極酸化皮膜を表面に有するマグネシウム又はマグネシウム合金製品 - Google Patents

導電性陽極酸化皮膜を表面に有するマグネシウム又はマグネシウム合金製品 Download PDF

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Description

本発明は、電気伝導性に優れた陽極酸化皮膜を表面に有するマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品に関する
マグネシウム及びマグネシウム合金は実用金属中で最も軽いために比強度が高く、放熱性も良好で、樹脂に比べてリサイクル性にも優れることから、近年、電気機器や自動車部品用途に広く用いられるようになってきている。中でも、小型軽量化の要求性能が高く、意匠性、リサイクル性の要求も高い電気機器の筐体として好適に使用されている。しかしながら、マグネシウム及びマグネシウム合金は腐食しやすいことから、耐食性を有する表面処理又は塗装が必要である。
マグネシウム又はマグネシウム合金に陽極酸化処理を施すことで優れた耐食性を付与することができる。代表的にはDow17法やHAE法と呼ばれる処方での陽極酸化処理が一般的に行われており、これによって実用上十分な耐食性を有する陽極酸化皮膜を形成することができる。また、特表平11−502567号公報(特許文献1:WO96/28591)には、アンモニアとリン酸塩化合物を含有する電解液に浸漬してマグネシウム又はマグネシウム合金を陽極酸化処理する方法が記載されている。
また、マグネシウム又はマグネシウム合金を化成処理することによってもある程度の耐食性を付与することができ、導電性を有する皮膜を形成できることが下記の公報に記載されている。特開2000−96255号公報(特許文献2)には、一定量のカルシウム、マンガン及びリンを含有し、電気抵抗率が0.1Ω・cm以下である化成処理皮膜が記載されている。また、特開2000−328261号公報(特許文献3)には、pH1〜5の酸性水溶液でマグネシウム合金の表面をエッチングしてから、有機リン化合物を含有するpH7〜14のアルカリ性水溶液に接触させ、引き続き化成処理液に接触させるマグネシウム合金の表面処理方法が記載されており、表面抵抗値の小さい製品が得られる旨が記載されている。
プラズマディスプレイ等の各種ディスプレイや携帯電話などにおいては、それから発生する電磁波を効率的に遮蔽できることが好ましい。マグネシウム及びマグネシウム合金は良好な電気伝導性を有することから、それを用いた電気機器の筐体は良好な電磁波シールド性を有することができる。また、多くの電気機器、特にデジタル電子機器においては、誤作動を防止するために、接地(アース)して電磁ノイズを除去することが重要であるが、このとき、筐体がマグネシウム又はマグネシウム合金であれば、そこに接地することも可能である。
ところが、前述のようにマグネシウム及びマグネシウム合金には、耐食性を有する表面処理又は塗装が必要である。マグネシウム又はマグネシウム合金に耐食性を付与するための陽極酸化処理を施したのでは、マグネシウム又はマグネシウム合金を絶縁性の酸化皮膜が覆ってしまい電磁波シールド性が失われてしまうとともに、接地することも不可能になる。そのため、例えば接地のための部分はマスキングしてから陽極酸化処理を行ったり、全面を陽極酸化処理してから一部の陽極酸化膜を削って除去したりする手法などが採用されていた。しかしながら、このような方法は操作が煩雑で生産コストを押し上げるものであった。
一方、化成処理によって形成される皮膜には、例えば特開2000−96255号公報(特許文献2)や特開2000−328261号公報(特許文献3)に記載された皮膜のように、電気伝導性を有するものが最近報告されている。しかしながら、マグネシウム又はマグネシウム合金に通電することで強固な酸化皮膜を形成する陽極酸化処理に比べると、単に処理液に浸漬するだけの化成処理で形成される皮膜は、その耐食性が十分ではない。近年のモバイル機器の筐体などでは、多様な環境下での耐食性が必要になることから、特にこの問題は重要である。そのため、化成処理で皮膜を形成した場合には、その上に更に複数層の塗装を施して何とか耐食性を確保しているのが現状である。しかしながら、形状の複雑な電気機器の筐体に均一な塗装を施すのは必ずしも容易ではなく、複数回の塗装工程を行ったのではコスト上昇が大きい。
一方、現在陽極酸化処理として広く行われているDow17法では、得られる陽極酸化皮膜がクロムを含有するし、HAE法ではマンガンを含有する。また、化成処理して得られる製品の多くもその皮膜が重金属元素を含有する。このように重金属元素を含有したのでは、リサイクル使用する際にマグネシウム又はマグネシウム合金中に重金属元素が混入することになり好ましくない。特に、マグネシウム及びマグネシウム合金は、プラスチックに比べてリサイクル性が優れていることが特徴であることから、リサイクル回数が重なることで蓄積されていく重金属元素の量は無視できないものである。また処理液が重金属元素を含有していたのでは、その廃液処理や周辺環境の保全の観点からも好ましくない。
特表平11−502567号公報 特開2000−96255号公報 特開2000−328261号公報
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、電気伝導性と優れた耐食性とを兼ね備えた陽極酸化皮膜を表面に有するマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品を提供することを目的とするものである本発明で得られる陽極酸化皮膜は、重金属元素を含有しなくても上記課題を解決することができるので、リサイクル性や環境保全の観点からも優れたものである。また、使用される電解液が重金属元素を含有しなくても、上記陽極酸化皮膜を形成することができるので、工場周辺の環境保全に寄与できるとともに、廃液処理コストも軽減できるものである。
上記課題は、マグネシウム元素を35〜65重量%、酸素元素を25〜45重量%及びリン元素を4〜15重量%含有し、膜厚が0.01〜10μmであり、かつ相互に10mm離れた2つの端子間で測定した皮膜表面の抵抗値が100Ω以下である導電性陽極酸化皮膜を表面に有するマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品を提供することによって達成される。
従来、マグネシウム又はマグネシウム合金を陽極酸化処理して得られる皮膜は、酸化物を主成分とする皮膜であって、絶縁体であった。むしろ絶縁体であるからこそ、マグネシウム又はマグネシウム合金本体に腐食電流が流れることがなく、本体の酸化劣化を防止することができていると考えられていた。ところが、本発明者が鋭意検討した結果、陽極酸化皮膜でありながら十分な電気伝導性を有する皮膜が見出された。しかも従来から陽極酸化皮膜が有していた、優れた耐食性はそのまま保持していることも明らかになったものである。これにより、優れた耐食性を有しながら良好な電気伝導性を有するマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品を提供できることとなった。特に、電磁波シールド性、接地特性などに優れた電気機器の筐体を提供することができるものである。このとき、耐食性と電気伝導性のバランスの点から、前記陽極酸化皮膜の膜厚0.01〜10μmである
本発明において、前記陽極酸化皮膜、マグネシウム元素を35〜65重量%、酸素元素を25〜45重量%含有する酸化されたマグネシウムを主成分として含有することで、マグネシウム又はマグネシウム合金の表面の陽極酸化皮膜が本来有するべき耐食性を有しているものと推測することもできるが、このような耐食性を有する理由は必ずしも定かではない。また、前記陽極酸化皮膜、リン元素を4〜15重量%含有する。また、前記製品がアルミニウムを含有するマグネシウム合金からなり、かつアルミニウム元素を5〜20重量%含有すること好適である。マグネシウム、酸素以外の元素を適当量含有することで、耐食性を損なうことなく、良好な電気伝導性を有するようになるものと推測することもできるが、このような電気伝導性を有する理由もまた定かではない。また、前記導電性陽極酸化皮膜がフッ素元素を実質的に含有しないことが好適である。本発明の陽極酸化皮膜は従来の陽極酸化皮膜が含有するような重金属元素を含有しなくても、優れた性能を発揮するものである。
本発明の好適な実施態様は、マグネシウム又はマグネシウム合金の表面の全部が陽極酸化皮膜で覆われ、かつ該陽極酸化皮膜の表面の一部にのみ樹脂塗装が施されて残余の部分の陽極酸化皮膜が露出しているマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品である。このように一部に陽極酸化皮膜の露出部分を設けることで、電磁波シールド性や接地特性を確保しながら、樹脂塗装によって外観の美麗な、耐摩擦性に優れた製品を提供することができるものである。具体的には、筐体内面には樹脂塗装が施されず、筐体外面には樹脂塗装が施された電気機器の筐体が、特に好適な実施態様である。
また、本発明の目的は、リン酸根を0.1〜1mol/L含有し、アンモニア又はアンモニウムイオンを0.2〜5mol/L含有し、pHが8〜13である電解液にマグネシウム又はマグネシウム合金を浸漬し、その表面を陽極酸化処理することを特徴とする、前記マグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品の製造方法を提供することによっても達成される
前述のように、これまでの陽極酸化処理においては、処理液が重金属イオンを含有することがほとんどであり、廃液処理を困難にするフッ素イオンを含有する場合もあった。これに対し、本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品の製造方法では、そのような成分を含有しなくとも性能の優れた陽極酸化皮膜を得ることができる。近年、重金属元素含有廃液の排出規制は厳しくなる一方であるから、本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品の製造方法が環境保全の観点からも優れたものであることは重要である。
本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品は、電気伝導性と優れた耐食性とを兼ね備えた陽極酸化皮膜をその表面に有するものである。従って、電磁波シールド性や接地特性に優れたマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品として使用され、電気機器の筐体として特に有用である。しかも、当該製品は重金属を含有せず、リサイクルにも適している。さらに、重金属イオンやフッ素イオンを使用しない電解液で陽極酸化処理することができるから、環境保全の観点からも優れた製造方法を提供することができるものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、相互に10mm離れた2つの端子間で測定した皮膜表面の抵抗値が100Ω以下である導電性陽極酸化皮膜を表面に有するマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品である。
原料とするマグネシウム又はマグネシウム合金は、マグネシウムを主成分とするものであればよく、マグネシウム単体からなる金属であっても良いし、合金であっても良い。通常は、成形性、機械的強度、延性などを付与するためにマグネシウム合金が好適に使用される。マグネシウム合金としては、Mg−Al系合金、Mg−Al−Zn系合金、Mg−Al−Mn系合金、Mg−Zn−Zr系合金、Mg−希土類元素系合金、Mg−Zn−希土類元素系合金などが挙げられる。本発明の実施例ではMg−Al−Zn系合金を使用しており、得られた陽極酸化皮膜中にはアルミニウム元素が含まれていた。したがって、原料のマグネシウム合金としては上記各種の合金のうち、アルミニウムを含有するものであることが好ましいと推測される。
陽極酸化処理に供されるマグネシウム又はマグネシウム合金の形態は特に限定されない。ダイカスト法、チクソモールド法、プレス成形法、鍛造法などによって成形された成形品を用いることができる。成形時には、成形品の表面付近に形成される皺や中空部の内部に離型剤が残留する場合がある。陽極酸化処理する場合には、化成処理する場合に比べて、残留する離型剤を少なくすることが容易である。製品に残留する離型剤は、加熱された時に揮発して、樹脂塗膜にフクレを生じさせることがある。ここで、成形時に使用される離型剤としては、シリコーン化合物からなる離型剤が代表的である。
マグネシウム又はマグネシウム合金からなる成形品は、成形時に付着した離型剤などの有機物に由来する汚れを表面に有していることがあるので、脱脂処理を施すことが好ましい。脱脂のための液としては界面活性剤やキレート剤を含有する水溶液が好適に使用される。
必要に応じて脱脂処理した後で、酸性水溶液に浸漬してから、電解液に浸漬して陽極酸化処理することが好ましい。酸性の水溶液に浸漬することによってマグネシウム又はマグネシウム合金の表面を適度にエッチングして、既に形成されている不十分な酸化皮膜や残存する有機物の汚れを除去することができる。酸性の水溶液としては特に限定されないが、リン酸水溶液が適度な酸性度を有しており好適である。リン酸水溶液を用いた場合には、エッチングと同時にリン酸マグネシウムが表面に形成されることもある。また、酸性水溶液に界面活性剤やキレート剤を配合して、脱脂処理を同時に行うこともできる。
また、こうして酸性の水溶液で処理した後で、さらにアルカリ性水溶液で洗浄してから陽極酸化処理に供することも好ましい。酸性水溶液中では不溶である成分(スマット)がマグネシウム又はマグネシウム合金の表面に付着していることがあることから、これを除去することが可能である。アルカリ性水溶液としては水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液が好適に使用される。
前記脱脂処理、酸性水溶液処理、アルカリ性水溶液処理のような各処理工程の後に、必要に応じて水洗や乾燥を施しても良い。こうして、必要に応じて前処理が施されたマグネシウム又はマグネシウム合金が電解液中に浸漬される。
本発明の電解液は、リン酸根を含有するアルカリ性の水溶液であることが好ましく、より具体的にはリン酸根を0.1〜1mol/L含有し、pHが8〜14である水溶液が好適である。適当な量のリン酸根を含有することで、適当な量のリン元素が陽極酸化膜に含まれることになる。また、アルカリ性にすることでマグネシウム又はマグネシウム合金の不必要な溶出を防止することができる。
ここでいうリン酸根は、遊離のリン酸、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩として電解液中に含まれるものである。また、リン酸が縮合して得られるポリリン酸やその塩の場合には、それらが加水分解して得られるリン酸根の数だけリン酸根を含有しているとする。塩の場合には、金属塩であってもよいし、アンモニウム塩のような非金属の塩であっても良い。リン酸根の含有量は0.1〜1mol/Lであることが好適である。より好適には0.15mol/L以上であり、さらに好適には0.2mol/L以上である。また、より好適には0.7mol/L以下であり、さらに好適には0.5mol/L以下である。
電解液のpHは8〜14であることが好適である。より好適にはpHは9以上であり、さらに好適には10以上である。また、より好適にはpHは13以下であり、さらに好適には12以下である。
また、電解液がアンモニア又はアンモニウムイオンを、それらの合計量として0.2〜5mol/L含有することが好ましい。これによって電解液のpHが適当なアルカリ性に保たれる。アンモニア又はアンモニウムイオンの含有量はより好適には0.5mol/L以上であり、さらに好適には1mol/L以上である。また、より好適には3mol/L以下であり、さらに好適には2mol/L以下である。
本発明の電解液は、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の成分を含有してもよいが、重金属元素を実質的に含有しないことが好ましい。ここで重金属元素とは、単体としての比重が4を超える金属元素のことをいい、従来の陽極酸化処理における代表的な電解液に含有されているものとして、クロム、マンガンなどが例示される。特に排出規制が厳しく有害なクロムを含有しないことが好ましい。なお、マグネシウム合金に含まれる重金属、例えば亜鉛が微量溶け出して電解液中に含まれることは通常あまり問題とはならない。また、本発明の電解液がフッ素元素を含有しないことも好ましい。フッ素元素を含有する水溶液は廃水処理が困難になることが多いからである。
前記電解液の中に、必要に応じて前処理したマグネシウム又はマグネシウム合金を浸漬し、これを陽極として通電することで陽極酸化処理が行われる。使用する電源は特に限定されるものではなく、直流電源でも交流電源でも使用可能であるが、直流電源を使用することが好ましい。また、直流電源を使用する際には、定電流電源と定電圧電源のいずれを使用しても良いが、定電流電源を使用することが好ましい。陰極材料は特に限定されず、例えばステンレス材などを好適に使用することができる。陰極の表面積は陽極酸化処理されるマグネシウム又はマグネシウム合金の表面積よりも大きいことが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、通常は10倍以下である。
電源として定電流電源を用いるときの陽極表面の電流密度は通常0.1〜10A/dmである。好適には0.2A/dm以上であり、より好適には0.5A/dm以上である。また、好適には5A/dm以下であり、より好適には2A/dm以下である。通電時間は通常10〜1000秒である。好適には20秒以上であり、より好適には50秒以上である。また、好適には500秒以下であり、より好適には200秒以下である。定電流電源で通電する際には、通電開始時の印加電圧は低いものの、時間の経過とともに印加電圧は上昇する。通電を終了する際の印加電圧は通常50〜400ボルトである。好適には100ボルト以上であり、より好適には150ボルト以上である。また、好適には300ボルト以下であり、より好適には250ボルト以下である。従来の陽極酸化処理方法であるDow17法やHAE法においては、印加電圧を100ボルト未満に設定することが多いのに対して、本発明の陽極酸化処理では、比較的高い電圧に設定するのが好ましい。これによって、シリコーン離型剤などの不純物を含有する部分でも酸化反応が進行しやすくなり、マグネシウム又はマグネシウム合金の表面全体に導電性の良好な皮膜を形成しやすくなる。また、酸化反応に伴ってマグネシウム又はマグネシウム合金の表面から酸素ガスが盛んに発生するので、陽極酸化処理中に上記不純物が除去されやすくなる。通電中の電解液の温度は、通常5〜70℃である。好適には10℃以上である。また、好適には50℃以下であり、より好適には30℃以下である。
通電終了後、洗浄することにより、陽極酸化皮膜の表面に付着した電解液を除去する。洗浄に際しては、水のみではなく、酸性水溶液を用いて洗浄することが好ましい。電解液がアルカリ性であることから、酸性水溶液で洗浄することによって、樹脂塗装を行った場合に塗膜の密着性が改善される。酸性水溶液としては硝酸水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液などを使用することができる。洗浄後、乾燥して、陽極酸化皮膜を表面に有するマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品が得られる。
本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品は、相互に10mm離れた2つの端子間で測定した皮膜表面の抵抗値が100Ω以下である導電性陽極酸化皮膜を表面に有するものである。当該抵抗値は、陽極酸化皮膜の表面の相互に10mm離れた任意の2点に端子を押し付けて測定される抵抗値(Ω)であって、本発明の製品はその表面の少なくとも一箇所において上記値以下の抵抗値を有すればよい。マグネシウム又はマグネシウム合金本体の抵抗値は小さいことから、実質的には、測定用の端子と、マグネシウム又はマグネシウム合金本体との間に存在する陽極酸化皮膜の厚み方向の電気抵抗に相関する値が測定されるものである。したがって、当該抵抗値は電磁波シールド性や接地特性の面から製品に要求される性能に対応する数値である。好適には10Ω以下であり、より好適には1Ω以下であり、最適には0.5Ω以下である。なお、表面処理していないマグネシウム又はマグネシウム合金からなる成形品の表面の抵抗値は、AZ91Dの場合で、通常0.02〜0.1Ω程度の値である。
本発明で得られる陽極酸化皮膜は、図1にも示すように、表面に通電中のスパークに由来すると思われる多数の孔が存在する場合が多い。この点で化成処理皮膜とは相違する。陽極酸化皮膜の膜厚は、0.01〜10μmであることが好適である。より好適には0.1μm以上であり、さらに好適には0.5μm以上である。また、より好適には5μm以下であり、さらに好適には3μm以下である。膜厚が薄すぎると耐食性が悪化する虞があり、厚すぎる場合には電気伝導率が低下して、電磁波シールド性や接地特性が低下する虞がある。
本発明で得られる陽極酸化皮膜の化学組成は特に限定されるものではないが、マグネシウム元素を35〜65重量%、酸素元素を25〜45重量%含有するものが好適である。すなわち、マグネシウム又はマグネシウム合金が陽極酸化された結果の生成物である、酸化されたマグネシウムを主成分として含有するものであることが好適である。マグネシウム元素の含有量はより好適には40重量%以上であり、さらに好適には45重量%以上である。また、より好適には60重量%以下であり、さらに好適には55重量%以下である。酸素元素の含有量はより好適には30重量%以上である。また、より好適には40重量%以下である。
前記陽極酸化皮膜が、リン元素を4〜15重量%含有することが好適である。リン元素の含有量はより好適には5重量%以上であり、さらに好適には6重量%以上である。また、より好適には12重量%以下であり、さらに好適には10重量%以下である。また、アルミニウム元素を5〜20重量%含有することも好適である。アルミニウム元素の含有量はより好適には7重量%以上であり、さらに好適には9重量%以上である。また、より好適には17重量%以下であり、さらに好適には15重量%以下である。マグネシウム、酸素以外の上記元素を適当量含有することで、耐食性を損なうことなく、良好な電気伝導性を有するようになるものと推測することができる。本発明の陽極酸化皮膜は本発明の効果を阻害しない範囲内で上記以外の元素を含んでいても構わない。しかしながら、原料のマグネシウム合金が元々含有していたものを除き、重金属、特にクロム元素を実質的に含有しないことが好ましい。また、フッ素元素も実質的に含有しないことが好ましい。
陽極酸化皮膜を表面に有する本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品の用途は特に限定されず、各種の電気機器や自動車用部品などに使用することができる。使用に際しては、必要に応じて陽極酸化皮膜の表面に上塗りの塗装を施しても良いが、電気伝導性の良好な本発明の陽極酸化皮膜の特徴を活かすためには、製品の全体を絶縁膜からなる塗装で覆ってはならない。
用いられる塗料は特に限定されず、金属表面の塗装に使用される各種の塗料を使用することができる。溶剤型塗料、水性塗料、粉体塗料などを使用して樹脂塗膜を形成することができる。塗布後に高温焼付けを要する熱硬化型の塗料であっても、比較的低温で溶剤や水を揮発させるだけでよい塗料であっても良いが、操作の容易な後者を使用することが好ましい。また、外観を美麗にするためには透明樹脂塗料を用いることが好ましく、適宜着色されたものを用いても良い。塗装方法も特に限定されず、スプレー塗装、浸漬塗装、電着塗装、粉体塗装などの公知の方法を採用することができる。一部に塗膜を有しない部分を有することが好ましい本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品においては、スプレー塗装や溶射法による粉体塗装が好適に採用される。
陽極酸化処理した後で、陽極酸化皮膜の表面に樹脂塗膜を1回だけ塗装して塗膜を形成することが好ましい。電気機器の筐体などでは、複雑な形状を有することも多く、均質な塗膜を形成することは必ずしも容易ではない。複数回の塗装を施すことで耐食性が一段と向上することが多いが、塗装の回数が多いとコストの上昇も大きくなる。この点、耐食性の良好な本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品においては、1回の塗装だけでも十分に良好な耐食性が得られる場合が多い。
溶剤型塗料、あるいは水性塗料を使用した場合には、40〜120℃の温度で加熱して塗膜を乾燥させることが好適である。より好適には50℃以上であり、100℃以下である。耐食性の良好な本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品においては、比較的低温の加熱工程で乾燥硬化させられる樹脂塗装のみで十分であることが多く、結果として製造コストを削減することが可能となる。加熱乾燥方法は特に限定されず、汎用のオーブンなどを使用することができる。
本発明の好適な実施態様は、マグネシウム又はマグネシウム合金の表面の全部が陽極酸化皮膜で覆われ、かつ該陽極酸化皮膜の表面の一部にのみ樹脂塗装が施されて残余の部分の陽極酸化皮膜が露出しているマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品である。このようにマグネシウム又はマグネシウム合金の表面の全部が陽極酸化皮膜で覆われることで、製品全体の耐食性が確保できる。ただし、ここでいう全部とは、実質的に全部ということであり、陽極酸化処理時に電源と導通させた接点部分など、陽極酸化皮膜が形成されていない部分が僅かにあっても構わない。また、陽極酸化皮膜の表面の一部にのみ樹脂塗装が施されて残余の部分の陽極酸化皮膜が露出していることで、電磁波シールド性や接地特性を確保しながら、樹脂塗装によって外観の美麗な、耐摩擦性に優れた製品を提供することができるものである。
特に好適な実施態様は、筐体内面には樹脂塗装が施されず、筐体外面には樹脂塗装が施された電気機器の筐体である。筐体外面に樹脂塗装が施されることで、外観を美麗にできるのみならず、使用時の損傷を防止することができる。一方、筐体の内面では導電性を有する陽極酸化皮膜が露出しているので、電気配線からの接地が容易に確保できるし、筐体内部の電子回路からの電磁波を効果的にシールドすることもできる。
こうして得られた本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品は、各種の用途に使用することができる。携帯電話、パソコン、ビデオカメラ、スチルカメラ、光ディスクプレーヤー、ディスプレイ(CRT、プラズマ、液晶)、プロジェクターなどの電気機器の筐体や、自動車用部品などに使用することができる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例中での試験方法は以下の方法に従って行った。
(1)陽極酸化皮膜の膜厚測定
試験片を5mm×10mmの寸法に切断し、エポキシ樹脂に包埋してから、切断面を研磨して鏡面を得た。試料の断面方向から、日本電子株式会社製X線マイクロアナライザー「JXA−8900」を用いて電子顕微鏡写真を撮影し、膜厚を測定した。
(2)陽極酸化皮膜の化学組成分析
日本電子株式会社製X線マイクロアナライザー「JXA−8900」を用いて、皮膜の表面及び断面の2方向から膜組成の分析を行った。各方向につき3ヶ所ずつ測定を行い、これらの平均値から化学組成を求めた。測定は、加速電圧15kV、試料照射電流2×10−8Aの条件で行った。データ解析は、ZAH補正によって行った。
(3)陽極酸化皮膜表面の抵抗値測定
三菱化学株式会社製低抵抗率計「ロレスターAP MCP−T400」を用い、二探針式プローブ「MCP−TP01」を使用して測定した。試験片の中央部分で皮膜の表面に測定端子を押し付けるようにして抵抗値(Ω)を測定した。前記プローブは10mmの間隔で測定端子が配置されたものであり、端子はベリリウム合金に金メッキしたもので、その先端形状は直径2mmの円柱状であり、端子を皮膜の表面に押し付ける荷重は端子1個あたり240gである。
(4)温水浸漬試験
試験片を、70℃に保った温水の中に24時間浸漬した。24時間経過後、試験片を取り出して、水分をふき取ってから、樹脂塗膜と陽極酸化皮膜とを貫通するように約1mmの間隔で碁盤目状の切込みを入れて、JIS K5400に準拠してテープ剥離試験を行い、塗膜の剥離状況や、その他欠陥の発生の有無を肉眼で観察した。
(5)塩水噴霧試験
試験片の表面に、樹脂塗膜と陽極酸化皮膜とを貫通するように十文字状の切込み(クロスカット)を入れてから、JIS Z−2371に準拠して5%塩水噴霧試験を120時間行った。120時間経過後、試験片を取り出して、クロスカット部分からのフクレの発生状況や、その他欠陥の発生の有無を肉眼で観察した。
実施例1
マグネシウム90重量%、アルミニウム9重量%及び亜鉛1重量%からなるASTM No.AZ91Dのマグネシウム合金を原料とし、ホットチャンバー法にて鋳造された170mm×50mm×2mmの寸法の合金板を試験片として使用した。上記試験片を2.2重量%のリン酸と微量の界面活性剤を含有する酸性水溶液に浸漬してから、イオン交換水で洗浄した。続いて、18重量%の水酸化ナトリウムを含有するアルカリ性水溶液に浸漬してからイオン交換水で洗浄し、試験片表面を前処理した。
リン酸水溶液とアンモニア水とを混合して、リン酸根を0.25mol/L、アンモニア又はアンモニウムイオンをその合計量で1.5mol/L含有する電解液を調製し、20℃に保った。この電解液のpHは11であった。この中に前記前処理を施したマグネシウム合金試験片を陽極として浸漬して、陽極酸化処理を行った。このときの陰極としては、前記陽極の4倍の表面積を有するSUS316Lの板を使用した。定電流電源を使用し陽極表面の電流密度が1A/dmとなるようにして120秒間通電した。通電開始時には低い印加電圧であったのが、通電終了時には約200ボルトまで上昇した。通電終了後、イオン交換水、硝酸水溶液、イオン交換水の順番で洗浄してから乾燥した。
得られた陽極酸化皮膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察した写真を図1に示す。陽極酸化皮膜の表面に通電中のスパークに由来すると思われる多数の孔の存在が認められた。この陽極酸化皮膜の膜厚は約1.5μmであった。ここでいう膜厚とは、多数の孔を有するために局所的な膜厚ムラのある皮膜において、厚い部分の表面から基材のマグネシウム合金面までの平均的な距離のことである。得られた陽極酸化皮膜は、マグネシウム元素を48.0重量%、酸素元素を33.5重量%、リン元素を7.0重量%及びアルミニウム元素を11.2重量%含有していた。陽極酸化皮膜の表面の抵抗値は、0.25Ωであった。
得られた陽極酸化皮膜の表面に、カシュー株式会社製アクリルシリコーン系塗料「アスコート300J」を、エアスプレー塗装した。このとき、塗装に際してはプライマー塗装することなく、陽極酸化皮膜の表面に当該アクリルシリコーン系塗料を1回だけ塗布した。塗布後、60℃で20分間加熱して、溶剤を揮発除去して塗膜を硬化させた。これにより、陽極酸化皮膜の表面に約20μmの膜厚の塗膜が形成された。
得られた試験片を温水浸漬試験及び塩水噴霧試験に供したところ、いずれの場合にも、表面に外観上の変化は観察されなかった。温水浸漬試験に供した後の試験片表面の写真を図2に、塩水噴霧試験に供した後の試験片表面の写真を図3にそれぞれ示す。
比較例1
リン酸水溶液とアンモニア水とを混合して、リン酸根を0.08mol/L、アンモニア又はアンモニウムイオンをその合計量で0.8mol/L含有する電解液を調製し、20℃に保った。この電解液のpHは11であった。この中に実施例1と同じ前処理を施したマグネシウム合金試験片を陽極として浸漬して、陽極酸化処理を行った。このときの陰極としては、実施例1と同じものを使用した。定電流電源を使用し陽極表面の電流密度が1A/dmとなるようにして120秒間通電した。通電開始時には低い印加電圧であったのが、通電終了時には約200ボルトまで上昇した。通電終了後、イオン交換水、硝酸水溶液、イオン交換水の順番で洗浄してから乾燥した。
得られた陽極酸化皮膜の膜厚は約1.5μmであり、マグネシウム元素を54.8重量%、酸素元素を37.7重量%、リン元素を3.2重量%及びアルミニウム元素を4.3重量%含有していた。陽極酸化皮膜の表面の抵抗値は、測定に使用した抵抗率測定器の測定限界の107Ωを超えた。
得られた陽極酸化皮膜の表面に、実施例1と同様にして樹脂塗膜を形成した。得られた試験片を温水浸漬試験及び塩水噴霧試験に供したところ、いずれの場合にも、表面に外観上の変化は観察されなかった。
比較例2
Dow17法と呼ばれる公知の陽極酸化皮膜形成方法を試験した例である。酸性フッ化アンモニウム300g/L、重クロム酸ナトリウム100g/L及びリン酸90g/Lを含有する電解液を調製し、75℃に保った。この中に実施例1と同じ前処理を施したマグネシウム合金試験片を陽極として浸漬して、陽極酸化処理を行った。このときの陰極としては、実施例1と同じものを使用した。定電流電源を使用し陽極表面の電流密度が4A/dmとなるようにして300秒間通電した。通電終了時には約70ボルトまで上昇した。通電終了後、イオン交換水で洗浄してから乾燥した。
得られた陽極酸化皮膜の膜厚は約1.5μmであり、マグネシウム元素を26.0重量%、酸素元素を25.7重量%、リン元素を11.2重量%、アルミニウム元素を1.0重量%、フッ素元素を23.4重量%、クロム元素を9.2重量%及びナトリウム元素を3.6重量%含有していた。陽極酸化皮膜の表面の抵抗値は、測定に使用した抵抗率測定器の測定限界の107Ωを超えた。
比較例3
陽極酸化処理する代わりに、市販の化成処理液を用いて化成処理を行った例である。ミリオン化学株式会社製化成処理液「MC−1000」を75g/Lの割合で含有するようにイオン交換水で希釈して処理液を調製し、40℃に保った。当該化成処理液の化学組成の詳細は不明であるが、リン酸イオン、マンガン(あるいはマンガン酸化物)イオン及びカルシウムイオンを含有する化成処理液であると推定されている。この処理液中に、実施例1と同じ前処理を施したマグネシウム合金試験片を30秒間浸漬した。浸漬終了後、イオン交換水で洗浄してから乾燥した。
得られた化成処理皮膜の膜厚は0.1μmかそれ以下であり、定量的に測定することが困難な薄い膜厚であった。この化成皮膜は、単位面積当たりの含有量として、カルシウム元素を85mg/m、マンガン元素を95mg/m、リン元素を220mg/m含有するものであった。また、この化成処理皮膜の表面の抵抗値は0.5Ωであった。
得られた化成皮膜の表面に、実施例1と同様にして樹脂塗膜を形成した。得られた試験片を温水浸漬試験に供した後の外観を図4に、塩水噴霧試験に供した後の外観を図5にそれぞれ示す。いずれの場合にも、皮膜に入れた切込みの周囲で樹脂塗膜の剥離が顕著に認められた。
比較例4
陽極酸化処理する代わりに、比較例3と異なる市販の化成処理液を用いて化成処理を行った例である。日本パーカライジング株式会社製化成処理液「MB−C10M」を75g/Lの割合で含有するようにイオン交換水で希釈して処理液を調製し、50℃に保った。当該化成処理液の化学組成の詳細は不明であるが、無水クロム酸14重量%及びフッ化水素0.7重量%を主成分として含有する化成処理液であると推定されている。この処理液中に、実施例1と同じ前処理を施したマグネシウム合金試験片を60秒間浸漬した。浸漬終了後、イオン交換水で洗浄してから乾燥した。
得られた化成処理皮膜の膜厚は0.1μmかそれ以下であり、定量的に測定することが困難な薄い膜厚であった。この化成皮膜は、単位面積当たりの含有量として、クロム元素を190mg/m含有するものであった。また、この化成処理皮膜の表面の抵抗値は0.75Ωであった。
得られた化成皮膜の表面に、実施例1と同様にして樹脂皮膜を形成した。得られた試験片を温水浸漬試験及び塩水噴霧試験に供したところ、いずれの場合にも、皮膜に入れた切込みの周囲での樹脂塗膜の剥離やフクレは認められなかった。しかしながら、温水浸漬試験の後、試験片のエッジに近い部分で塗膜にドット状に膨れた点(ブリスター)が複数発生していることが観察された。
以上説明したように、実施例1で陽極酸化処理して得られた本発明のマグネシウム合金からなる製品は、電気伝導性と優れた耐食性とを兼ね備えたものであった。これに対し、比較例1や2に示されるような従来の陽極酸化処理で得られたマグネシウム合金からなる製品は、耐食性には優れるものの、電気伝導性は認められなかった。一方、比較例3に示されるような化成処理で得られたマグネシウム合金からなる製品は、電気伝導性は認められたものの、耐食性が十分でなかった。
図1は、実施例1で得られた陽極酸化皮膜の表面を走査型電子顕微鏡で観察した写真である。 図2は、温水浸漬試験に供した後の実施例1の試験片表面の写真である。 図3は、塩水噴霧試験に供した後の実施例1の試験片表面の写真である。 図4は、温水浸漬試験に供した後の比較例3の試験片表面の写真である。 図5は、塩水噴霧試験に供した後の比較例3の試験片表面の写真である。

Claims (3)

  1. マグネシウム元素を35〜65重量%、酸素元素を25〜45重量%及びリン元素を4〜15重量%含有し、膜厚が0.01〜10μmであり、かつ相互に10mm離れた2つの端子間で測定した皮膜表面の抵抗値が100Ω以下である導電性陽極酸化皮膜を表面に有するマグネシウム又はマグネシウム合金からなる製品。
  2. 前記導電性陽極酸化皮膜がフッ素元素を実質的に含有しない請求項1記載の製品。
  3. 前記製品がアルミニウムを含有するマグネシウム合金からなり、かつ前記陽極酸化皮膜が、アルミニウム元素を5〜20重量%含有する請求項1又は2記載の製品。
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