JP5613917B2 - マグネシウム又はマグネシウム合金からなる成形品の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、マグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が陽極酸化皮膜で覆われてなる成形品製造方法に関する。また、そのような成形品からなる電子機器の筐体の製造方法に関する。
マグネシウム及びマグネシウム合金は実用金属中で最も軽いために比強度が高く、放熱性も良好で、樹脂に比べてリサイクル性にも優れることから、近年、電気機器や自動車部品用途に広く用いられるようになってきている。中でも、小型軽量化の要求性能が高く、意匠性、リサイクル性の要求も高い電気機器の筐体として好適に使用されている。しかしながら、マグネシウム及びマグネシウム合金は腐食しやすいことから、耐食性を有する表面処理又は塗装が必要である。
マグネシウム又はマグネシウム合金に陽極酸化処理を施すことで優れた耐食性を付与することができる。代表的にはDow17法やHAE法と呼ばれる処方での陽極酸化処理が一般的に行われており、これによって実用上十分な耐食性を有する陽極酸化皮膜を形成することができる。また、特許文献1には、アンモニアとリン酸塩を含有する電解液に浸漬してマグネシウム又はマグネシウム合金を陽極酸化処理する方法が記載されている。
また、マグネシウム又はマグネシウム合金を化成処理することによってもある程度の耐食性を付与することができ、導電性を有する皮膜を形成できることが下記の特許文献に記載されている。特許文献2には、一定量のカルシウム、マンガン及びリンを含有し、電気抵抗率が0.1Ω・cm以下である化成処理皮膜が記載されている。また、特許文献3には、pH1〜5の酸性水溶液でマグネシウム合金の表面をエッチングしてから、有機リン化合物を含有するpH7〜14のアルカリ性水溶液に接触させ、引き続き化成処理液に接触させるマグネシウム合金の表面処理方法が記載されており、表面抵抗値の小さい製品が得られる旨が記載されている。
多くの電気機器、特に携帯電話やパソコンなどの電子機器においては、誤作動を防止するために、接地(アース)して電磁ノイズを除去することが重要であるが、マグネシウム及びマグネシウム合金は良好な電気伝導性を有することから、このとき、筐体がマグネシウム又はマグネシウム合金であれば、そこに接地することが可能である。
ところが、前述のようにマグネシウム及びマグネシウム合金には、耐食性を有する表面処理又は塗装が必要である。マグネシウム又はマグネシウム合金に耐食性を付与するための陽極酸化処理を施したのでは、接地することが不可能になる。そのため、例えば接地のための部分はマスキングしてから陽極酸化処理を行ったり、全面を陽極酸化処理してから一部の陽極酸化皮膜を削って除去したりする手法などが採用されていた。しかしながら、皮膜が除去された部分は基材のマグネシウム及びマグネシウム合金が露出するため、その部分が腐食しやすくなる。そして、さらに時間が経過するとそこを起点として基材全体が腐食するおそれも生じる。近年のモバイル機器の筐体などでは、多様な環境下での耐食性が必要になることから、特にこの問題は重要である。
一方、化成処理によって形成される皮膜には、例えば上記特許文献2や特許文献3に記載された皮膜のように、電気伝導性を有するものが最近報告されている。しかしながら、マグネシウム又はマグネシウム合金に通電することで強固な酸化皮膜を形成する陽極酸化処理に比べると、単に処理液に浸漬するだけの化成処理で形成される皮膜は、その耐食性が十分ではない。そのため、化成処理で皮膜を形成した場合には、その上に更に複数層の塗装を施して何とか耐食性を確保しているのが現状である。しかしながら、形状の複雑な電気機器の筐体に均一な塗装を施すのは必ずしも容易ではなく、複数回の塗装工程を行ったのではコスト上昇が大きい。また、無機化合物からなる化成皮膜は、マグネシウム又はマグネシウム合金と比較すると電気伝導度が著しく低い。そのため、導通性の確保は膜厚を薄くすることで確保しているけれども、接地点としての導通性はなお不十分な場合が多い。
特許文献4には、マグネシウム又はマグネシウム合金に電気伝導性を有する陽極酸化皮膜を形成することが報告されている。アンモニアとリン酸塩を含有する電解液を用いた陽極酸化処理により皮膜を形成することで、化成処理で形成される皮膜に比べて耐食性の優れた皮膜が形成される。しかしながら、皮膜の膜厚を薄くすることで導通性を確保しているため、用途によってはなお耐食性が不十分な場合があった。また、接地点としての導通性が必ずしも十分でない場合もあった。
非特許文献1には、マグネシウム又はマグネシウム合金に形成された陽極酸化皮膜による犠牲防食効果が報告されている。非特許文献1によれば、アンモニアとリン酸塩を含有する電解液を用いて陽極酸化処理して形成された皮膜は、皮膜中にリン元素を含有する。そしてこのとき、熱力学的に不安定なリン元素から電子が放出されることによって、陽極酸化皮膜が基材のマグネシウム又はマグネシウム合金より卑な電位になり、犠牲防食効果が奏される旨が記載されている。ここで、犠牲防食効果とは、金属の耐食性の付与などに利用される効果であって、異なる金属同士を接触させた際に、そのうちの酸化されやすい卑な電位を有する金属が酸化されて電子を放出することで、もう一方の貴な金属の電子の放出が妨げられ、結果として貴な金属の酸化が抑制される効果のことをいう。
特表平11−502567号公報 特開2000−96255公報 特開2000−328261公報 WO03/080897号公報
Materials Transactions、Vol.49、 2008年、 p.1057−1064
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、耐食性に優れた陽極酸化皮膜に覆われたマグネシウム又はマグネシウム合金からなる成形品であって、その表面の一部に接触抵抗の小さい導通領域を有し、しかもその導通領域の耐食性が優れている成形品の製造方法を提供することを目的とするものである。またそのような成形品からなる電子機器の筐体の製造方法を提供することを目的とするものである。
上記課題は、マグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が陽極酸化皮膜で覆われてなる成形品の製造方法であって;マグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が、該基材よりも卑な陽極酸化皮膜で覆われてなり、下記方法で測定される陽極酸化皮膜表面の接触抵抗値が10 Ω・mm 以上の成形品に対して、パルス波であるレーザ光を照射して該陽極酸化皮膜を剥離することによって、前記成形品の表面の一部に導通領域を設けるに際し、該導通領域の中に前記陽極酸化皮膜で覆われた部分と前記基材が露出した部分とを形成するとともに、該基材が露出した部分の最大内接円の半径を0.5mm以下とし、かつ下記方法で測定される導通領域表面の接触抵抗値を100Ω・mm 以下にすることを特徴とする成形品の製造方法を提供することによって解決される。
ここで、上記接触抵抗値(Ω・mm )は、前記基材表面の前記陽極酸化皮膜を機械加工によって削って基材表面を露出させて、低抵抗率計を用いて、露出面と陽極酸化皮膜表面又は導通領域表面とに直径1.4mmの円柱状の二探針式プローブを40g/mm の圧力で接触させて測定されるものである。
このとき前記陽極酸化皮膜が、マグネシウム元素を10〜60重量%、酸素元素を25〜60重量%及びリン元素を5〜35重量%含有すること好適である。前記陽極酸化皮膜の膜厚が2〜50μmであることも好適である。また、このような方法によって製造することを特徴とする電子機器の筐体の製造方法が本発明の好適な実施態様である。
また、リン酸根を0.1〜1mol/L、アンモニア又はアンモニウムイオンを0.2〜5mol/L含有し、pHが8〜14である電解液にマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材を浸漬して陽極酸化処理して得られた陽極酸化皮膜にレーザ光を照射することも好適である。
本発明の方法によって製造されるマグネシウム又はマグネシウム合金からなる成形品は、耐食性に優れた陽極酸化皮膜に覆われるとともに、その表面の一部に接触抵抗の小さい導通領域を有していて、しかもその導通領域が耐食性に優れている。したがって、耐食性と部分的な導通性能が要求される電子機器の筐体として好適に用いられる。また、本発明の製造方法によれば、そのような成形品を容易に製造することができる。
実施例1における、AZ31Bからなる基材と、当該基材上に形成された陽極酸化皮膜のアノード分極曲線である。 実施例1における、AZ91Dからなる基材と、当該基材上に形成された陽極酸化皮膜のアノード分極曲線である。 実施例1において、基材がAZ31Bの場合における、レーザ照射した部分の表面の写真である。 実施例1において、基材がAZ91Dの場合における、レーザ照射した部分の表面の写真である。 実施例1において、基材がAZ31Bでレーザ周波数が5kHzの場合における、レーザ照射した部分の表面の化学組成である。 実施例1において、基材がAZ31Bでレーザ周波数が50kHzの場合における、レーザ照射した部分の表面の化学組成である。 実施例1において、基材がAZ31Bでレーザ周波数が100kHzの場合における、レーザ照射した部分の表面の化学組成である。 実施例2において、200μmの格子ピッチでレーザ照射した部分の断面写真である。 実施例2において、基材がAZ31Bの場合の塩水噴霧前後の導通領域の表面の写真である。 実施例2において、基材がAZ91Dの場合の塩水噴霧前後の導通領域の表面の写真である。 実施例3、比較例1、2及び3において、それぞれの試料の塩水噴霧試験後の外観写真である。
本発明の成形品は、マグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が陽極酸化皮膜で覆われてなる成形品である。
基材の原料とするマグネシウム又はマグネシウム合金は、マグネシウムを主成分とするものであればよく、マグネシウム単体からなる金属であっても良いし、合金であっても良い。マグネシウム元素の含有量は、通常50重量%以上であり、好適には80重量%以上である。通常は、成形性、機械的強度、延性などを付与するためにマグネシウム合金が好適に使用される。マグネシウム合金としては、Mg−Al系合金、Mg−Al−Zn系合金、Mg−Al−Mn系合金、Mg−Zn−Zr系合金、Mg−希土類元素系合金、Mg−Zn−希土類元素系合金などが挙げられる。マグネシウム合金がアルミニウム元素を含有することは導通領域の耐食性の面から好ましい。マグネシウム合金中のアルミニウム元素の含有量は、好適には1重量%以上であり、より好適には5重量%以上である。また、通常20重量%以下である。また、亜鉛元素を含有することも耐食性、機械強度の点から好適である。マグネシウム合金中の亜鉛元素の含有量は、好適には0.1重量%以上であり、より好適には0.3重量%以上である。また、好適には3重量%以下であり、より好適には2重量%以下である。
陽極酸化処理に供されるマグネシウム又はマグネシウム合金の形態は特に限定されない。ダイカスト法、チクソモールド法、プレス成形法、鍛造法などによって成形された成形品を用いることができる。成形時には、成形品の表面付近に形成される皺や中空部の内部に離型剤が残留する場合がある。陽極酸化処理する場合には、化成処理する場合に比べて、残留する離型剤を少なくすることが容易である。製品に残留する離型剤は、加熱された時に揮発して、樹脂塗膜にフクレを生じさせることがある。ここで、成形時に使用される離型剤としては、シリコーン化合物からなる離型剤が代表的である。マグネシウム又はマグネシウム合金からなる成形品は、成形時に付着した離型剤などの有機物に由来する汚れを表面に有していることがあるので、脱脂処理を施すことが好ましい。脱脂のための液としては界面活性剤やキレート剤を含有する水溶液が好適に使用される。
必要に応じて脱脂処理した後で、酸性水溶液に浸漬してから、電解液に浸漬して陽極酸化処理することが好ましい。酸性の水溶液に浸漬することによってマグネシウム又はマグネシウム合金の表面を適度にエッチングして、既に形成されている不十分な酸化皮膜や残存する有機物の汚れを除去することができる。酸性の水溶液としては特に限定されないが、リン酸水溶液が適度な酸性度を有しており好適である。リン酸水溶液を用いた場合には、エッチングと同時にリン酸マグネシウムが表面に形成されることもある。また、酸性水溶液に界面活性剤やキレート剤を配合して、脱脂処理を同時に行うこともできる。
また、こうして酸性の水溶液で処理した後で、さらにアルカリ性水溶液で洗浄してから陽極酸化処理に供することも好ましい。酸性水溶液中では不溶である成分(スマット)がマグネシウム又はマグネシウム合金の表面に付着していることがあることから、これを除去することが可能である。アルカリ性水溶液としては水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液が好適に使用される。
前記脱脂処理、酸性水溶液処理、アルカリ性水溶液処理のような各処理工程の後に、必要に応じて水洗や乾燥を施しても良い。こうして、必要に応じて前処理が施されたマグネシウム又はマグネシウム合金が電解液中に浸漬され、陽極酸化処理に供される。
本発明の陽極酸化皮膜は、マグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材よりも卑な電位を有することを特徴とするものである。このことにより、該皮膜で覆われず、マグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材が露出している導通領域が、犠牲防食効果により優れた耐食性を示すことができる。ここで、陽極酸化皮膜の電位がマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材より卑であるとは、電気化学測定によって得たアノード分極曲線の極小値から求められる陽極酸化皮膜の自然電位のほうが、マグネシウム又はマグネシウム合金の自然電位より卑であるということである。
犠牲防食効果は、異なる金属同士を接触させた際に、そのうちの酸化されやすい卑な電位を有する金属が酸化されて電子を放出することで、もう一方の貴な金属の電子の放出が妨げられ、結果として貴な金属の酸化が抑制される効果をいう。従来、陽極酸化皮膜は金属酸化物であり、金属よりも酸化されにくいというのが常識であった。しかしながら、非特許文献1に記載されているように、基材の金属よりも酸化され易い陽極酸化皮膜があることを本発明者らは見出した。例えば本発明の実施例において、アンモニアとリン酸塩を含有する電解液を用いて形成された陽極酸化皮膜は、皮膜に適量のリン元素を含有しており、熱力学的に不安定なリン元素から電子が放出されることによって、陽極酸化皮膜が基材のマグネシウム又はマグネシウム合金より卑な電位になる。このような陽極酸化皮膜が有する特殊な電気的性質によって、当該陽極酸化皮膜で覆われた基材に形成された導通領域において、基材が露出した部分であっても犠牲防食効果による良好な耐食性が付与される。
このように、導通領域の耐食性の点から、本発明で形成される陽極酸化皮膜は、マグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材より卑であることが必要である。陽極酸化皮膜に覆われる部分は基材表面のうち、導通領域を除いた全部でなくてもよいが、全部が覆われることによって基材全体の耐食性が確保される。ただし、ここでいう全部とは、実質的に全部ということであり、陽極酸化処理時に電源と導通させた接点部分など、皮膜が形成されていない部分が僅かにあっても構わない。また、通電することで強固な酸化皮膜が形成されるため、皮膜自体の耐食性が、化成処理皮膜よりも優れている。
本発明の陽極酸化皮膜の化学組成は特に限定されるものではない。好適な陽極酸化皮膜の元素組成は、マグネシウム元素を10〜60重量%、酸素元素を25〜60重量%含有するものが好適である。すなわち、マグネシウム又はマグネシウム合金が陽極酸化された結果の生成物である、酸化されたマグネシウムを主成分として含有するものであることが好適である。マグネシウム元素の含有量はより好適には12重量%以上であり、さらに好適には15重量%以上である。また、より好適には50重量%以下であり、さらに好適には40重量%以下である。酸素元素の含有量はより好適には30重量%以上である。また、より好適には55重量%以下である。
前記陽極酸化皮膜が、リン元素を5〜35重量%含有することが好適である。リン元素の含有量はより好適には10重量%以上であり、さらに好適には15重量%以上である。また、より好適には32重量%以下であり、さらに好適には30重量%以下である。また、アルミニウム元素を0.2〜20重量%含有することも好適である。アルミニウム元素の含有量はより好適には0.4重量%以上であり、さらに好適には0.6重量%以上である。また、より好適には17重量%以下であり、さらに好適には15重量%以下である。リン元素を適当量含有することで、皮膜が基材よりも卑となり、良好な耐食性と犠牲防食効果を有するようになる。アルミニウム元素を適当量含有することも耐食性の面から好ましい。本発明の陽極酸化皮膜は本発明の効果を阻害しない範囲内で上記以外の元素を含んでいても構わない。しかしながら、基材のマグネシウム合金が元々含有していたものを除き、重金属、特にクロム元素を実質的に含有しないことが好ましい。また、フッ素元素も実質的に含有しないことが好ましい。
本発明で得られる陽極酸化皮膜は、図8にも示されるように、表面に通電中のスパークに由来すると思われる多数の孔が存在する場合が多い。この点で化成処理皮膜とは相違する。陽極酸化皮膜の膜厚は、2〜50μmであることが好適である。より好適には3μm以上であり、さらに好適には4μm以上である。また、より好適には40μm以下であり、さらに好適には30μm以下である。膜厚が2μm未満であると耐食性と絶縁性が低下するおそれがある。なお、50μmより厚い場合にはコストの上昇を招くおそれや、陽極酸化処理時に温度上昇による基材への影響のおそれがある。
本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる成形品は、基材表面の陽極酸化皮膜を機械加工で削って基材表面を露出させ、露出面と陽極酸化皮膜表面とにプローブを接触させて測定した接触抵抗値が10Ω・mm以上である陽極酸化皮膜を表面に有すことが好適である。接触抵抗値は、先端部が所定の直径の円柱状のプローブを使用し、測定表面に押し付ける圧力を40g/mmとして測定した。マグネシウム又はマグネシウム合金本体の抵抗値は小さいことから、当該接触抵抗値は、実質的には、測定用の端子と、マグネシウム又はマグネシウム合金本体との間に存在する陽極酸化皮膜の厚み方向の電気抵抗に相関する値が測定されたものである。したがって、当該接触抵抗値が10Ω・mm以上であることは、陽極酸化皮膜が絶縁性であることを示している。
本発明の電解液は、リン酸根を含有するアルカリ性の水溶液であることが好ましく、より具体的にはリン酸根を0.1〜1mol/L含有し、pHが8〜14である水溶液が好適である。適当な量のリン酸根を含有することで、適当な量のリン元素が陽極酸化皮膜に含まれることになる。また、アルカリ性にすることでマグネシウム又はマグネシウム合金の不必要な溶出を防止することができる。
ここでいうリン酸根は、遊離のリン酸、リン酸塩、リン酸水素塩、リン酸二水素塩として電解液中に含まれるものである。また、リン酸が縮合して得られるポリリン酸やその塩の場合には、それらが加水分解して得られるリン酸根の数だけリン酸根を含有しているとする。塩の場合には、金属塩であってもよいし、アンモニウム塩のような非金属の塩であっても良い。リン酸根の含有量は0.1〜1mol/Lであることが好適である。より好適には0.15mol/L以上であり、さらに好適には0.2mol/L以上である。また、より好適には0.7mol/L以下であり、さらに好適には0.5mol/L以下である。
電解液のpHは8〜14であることが好適である。より好適にはpHは9以上であり、さらに好適には10以上である。また、より好適にはpHは13以下であり、さらに好適には12以下である。
また、電解液がアンモニア又はアンモニウムイオンを、それらの合計量として0.2〜5mol/L含有することが好ましい。これによって電解液のpHが適当なアルカリ性に保たれる。アンモニア又はアンモニウムイオンの含有量はより好適には0.5mol/L以上であり、さらに好適には1mol/L以上である。また、より好適には3mol/L以下であり、さらに好適には2mol/L以下である。
本発明の電解液は、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の成分を含有してもよいが、重金属元素を実質的に含有しないことが好ましい。ここで重金属元素とは、単体としての比重が4を超える金属元素のことをいい、従来の陽極酸化処理における代表的な電解液に含有されているものとして、クロム、マンガンなどが例示される。特に排出規制が厳しく有害なクロムを含有しないことが好ましい。なお、マグネシウム合金に含まれる重金属、例えば亜鉛が微量溶け出して電解液中に含まれることは通常あまり問題とはならない。また、本発明の電解液がフッ素元素を含有しないことも好ましい。フッ素元素を含有する水溶液は廃水処理が困難になることが多いからである。
前記電解液の中に、必要に応じて前処理したマグネシウム又はマグネシウム合金を浸漬し、これを陽極として通電することで陽極酸化処理が行われる。使用する電源は特に限定されるものではなく、直流電源でも交流電源でも使用可能であるが、直流電源を使用することが好ましい。また、直流電源を使用する際には、定電流電源と定電圧電源のいずれを使用しても良いが、定電流電源を使用することが好ましい。陰極材料は特に限定されず、例えばステンレス材などを好適に使用することができる。陰極の表面積は陽極酸化処理されるマグネシウム又はマグネシウム合金の表面積よりも大きいことが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、通常は10倍以下である。
電源として定電流電源を用いるときの陽極表面の電流密度は通常0.1〜10A/dmである。好適には0.2A/dm以上であり、より好適には0.5A/dm以上である。また、好適には5A/dm以下であり、より好適には2A/dm以下である。通電時間は通常10〜1000秒である。好適には20秒以上であり、より好適には100秒以上である。また、好適には800秒以下であり、より好適には600秒以下である。定電流電源で通電する際には、通電開始時の印加電圧は低いものの、時間の経過とともに印加電圧は上昇する。通電を終了する際の印加電圧は通常50〜700ボルトである。好適には100ボルト以上であり、より好適には150ボルト以上である。また、好適には500ボルト以下であり、より好適には400ボルト以下である。従来の陽極酸化処理方法であるDow17法やHAE法においては、印加電圧を100ボルト未満に設定することが多いのに対して、本発明の陽極酸化処理では、比較的高い電圧に設定するのが好ましい。これによって、シリコーン離型剤などの不純物を含有する部分でも酸化反応が進行しやすくなる。また、酸化反応に伴ってマグネシウム又はマグネシウム合金の表面から酸素ガスが盛んに発生するので、陽極酸化処理中に上記不純物が除去されやすくなる。通電中の電解液の温度は、通常5〜70℃である。好適には10℃以上である。また、好適には50℃以下であり、より好適には30℃以下である。
通電終了後、洗浄することにより、陽極酸化皮膜の表面に付着した電解液を除去する。洗浄に際しては、水のみではなく、酸性水溶液を用いて洗浄することが好ましい。電解液がアルカリ性であることから、酸性水溶液で洗浄することによって、樹脂塗装を行った場合に塗膜の密着性が改善される。酸性水溶液としては硝酸水溶液、塩酸水溶液、硫酸水溶液などを使用することができる。洗浄後、乾燥して、陽極酸化皮膜を表面に有するマグネシウム又はマグネシウム合金からなる成形品が得られる。
本発明の成形品の表面に設けられる導通領域は、その全部又は一部において基材が露出している領域である。基材のマグネシウム又はマグネシウム合金が露出することによって、導通領域と電極とが接触したときに電気的な接続が可能となる。このとき、導通領域内において、基材が全部露出している場合のみではなく、部分的に陽極酸化皮膜が残存していても構わない。導通領域に隣接する部分の表面が陽極酸化皮膜で覆われていることで、当該領域において犠牲防食効果が奏され、耐食性が得られると考えられる。
導通領域の寸法は特に限定されない。接地ポイントなどに使用する場合など導通領域が小面積である場合には、導通領域内の基材を全部露出させることによって良好な導通性と耐食性が得られる。一方、導通領域が大面積の場合には導通領域内の基材の一部を露出させて、部分的に陽極酸化皮膜を残存させることによって良好な導通性と耐食性が得られる。導通領域の最大内接円の半径が5mm以下であることが好適である。基材が露出した部分における犠牲防食効果は、陽極酸化皮膜からの距離が近いほど効果的であると考えられるからである。最大内接円の半径が4mm以下であることがより好ましく、3mm以下であることがさらに好ましい。また、電極との接続の容易さを考慮すれば、最大内接円の半径は、通常0.2mm以上である。
本発明の導通領域は、該領域の中に前記陽極酸化皮膜で覆われた部分と基材が露出した部分とを有する場合においても良好な導通性が得られる。このときの、基材が露出した部分の形状は特に限定されない。格子状、ストライプ状、ドット状など、任意の形状に形成することができる。このような導通領域に電極を押し当てた場合、電気的接続が可能な部分と一部分接触していることで良好な導通性が得られる。このような電気的接続が可能な部分は、例えば、レーザ照射で陽極酸化皮膜を除去したときなどに、陽極酸化皮膜と基材の露出部分の境界などに形成されるようである。また、犠牲防食効果による耐食性を得るためには、基材が露出した部分の最大内接円の半径が5mm以下であることが好適である。これは、犠牲防食効果は陽極酸化皮膜からの距離が近いほど効果的であると考えられるからである。基材が露出した部分の最大内接円の半径はより好適には3mm以下であり、さらに好適には1mm以下であり、特に好適には0.5mm以下である。基材が露出した部分の最大内接円の半径は、通常10μm以上である。
導通領域の表面の接触抵抗値は、100Ω・mm以下であることが好適である。ここでいう接触抵抗値は、基材表面の陽極酸化皮膜を機械加工で削って基材を露出させて得られた面と導通領域とにプローブを接触させて測定したときの値である。マグネシウム又はマグネシウム合金本体の抵抗値は小さいことから、実質的には、当該接触抵抗値は、導通領域表面の接地特性に対応する数値である。接触抵抗値は、より好適には10Ω・mm以下であり、さらに好適には1Ω・mm以下である。なお、表面処理していないマグネシウム又はマグネシウム合金からなる成形品の表面の接触抵抗値は、AZ91Dの場合で、通常0.02〜0.1Ω・mm程度の値である。
導通領域の形成方法としては、特に限定されないが、陽極酸化処理した後に皮膜を除去して形成する方法や、マスキング等によってマグネシウム又はマグネシウム合金基材を保護した後に陽極酸化処理する方法が挙げられる。陽極酸化皮膜を除去する方法としては、例えば、レーザ照射、ブラスト処理、切削加工などによる物理的な方法が採用できる。また、エッチング液などを用いて化学的に除去することもできる。
なかでもレーザ光を用いて陽極酸化皮膜を除去することが好適である。走査の容易なレーザ光を採用することで小面積や入り組んだ部分でも簡便に導通領域を形成できる。使用するレーザの種類としては、ガスレーザ、固体レーザ、半導体レーザ等の公知のいずれも用いることができ、特に限定されない。また、レーザ光は1つの波長からなるものに限らず、2以上の波長が混合されたものであってもよい。レーザの波長領域は500〜10600nmが好適である。
本発明ではレーザをパルス照射することによって、より効率的に陽極酸化皮膜を除去することができる。パルス照射することにより、高出力のレーザを使用しなくても、瞬間的に陽極酸化皮膜を加熱蒸発させることができるとともに、基材の温度上昇も抑えることができる。したがって、レーザマーカのような、低出力で、走査精度が高く、比較的安価なものを好適に用いることができる。
レーザ照射に際し、陽極酸化皮膜を除去する部分がレーザ光の照射径より広い場合、照射位置を走査する。走査方法はレーザ光を移動させてもよく、あるいは照射対象の基材を移動させてもよい。通常、レーザ光を走査する方が容易である。レーザ光の照射角度は皮膜にエネルギーが十分に伝達される範囲においては特に制限されない。照射エネルギーの制御は電流、電圧のいずれによる制御も採用できるし、パルス照射する場合にはその周波数やデューティー比によっても制御することができる。パルス照射の場合には、パルス周波数を変えることにより、パルス1回あたりのエネルギー量が変化することになる。すなわち、単位時間当たりのエネルギー量が一定であれば、パルス周波数が低いほど、パルス1回あたりのエネルギーは高くなる。レーザ光の強度は照射された範囲の陽極酸化皮膜とマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表層が蒸発する程度が好適である。そのような強度でレーザ光が照射されると、その瞬間、レーザ光が当たった表面は陽極酸化皮膜と基材のマグネシウム又はマグネシウム合金の表層が同時に蒸発すると考えられる。このとき、基材のマグネシウム又はマグネシウム合金の一部は残存する陽極酸化皮膜に拡散あるいは付着しており、その部分を通じて電気が流れているようであり、レーザ照射領域の近傍の陽極酸化皮膜に電極が接触した場合に導通性が得られる。
このようにして得られた陽極酸化皮膜で覆われたマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材に導通領域が設けられた成形品は、その後、樹脂塗装に供することができ外観の美麗な、耐摩擦性に優れた製品を提供することができる。
こうして得られた本発明のマグネシウム又はマグネシウム合金からなる成形品は、各種の用途に使用することができる。特に好適な実施態様は、携帯電話、パソコン、ビデオカメラ、スチルカメラ、光ディスクプレーヤー、ディスプレイ(CRT、プラズマ、液晶)、プロジェクターなどの電子機器の筐体である。筐体外面に樹脂塗装が施されることで、外観を美麗にできるのみならず、使用時の損傷を防止することができる。一方、筐体の内面は耐食性の優れた陽極酸化皮膜で覆われ、任意の部分に耐食性の良好な導通領域が形成され、電気配線からの接地が容易に確保できる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例中での試験方法は以下の方法に従って行った。
(1)陽極酸化皮膜及び導通領域の表面形状観察
試験片を日本電子株式会社製X線マイクロアナライザー「JXA−8500FS」を用いて電子顕微鏡写真を撮影した。このとき、各元素ごとの表面の分布状況についても分析した。
(2)陽極酸化皮膜及び導通領域の断面形状観察
試験片を5mm×25mmの寸法に切断し、エポキシ樹脂に包理してから、切断面を研磨して鏡面を得た。試料の断面方向から、日本電子株式会社製X線マイクロアナライザー「JXA−8500FS」を用いて電子顕微鏡写真を撮影した。また、この電子顕微鏡写真から皮膜の膜厚を測定した。
(3)陽極酸化皮膜及び導通領域の化学組成分析
日本電子株式会社製X線マイクロアナライザー「JXA−8500FS」を用いて、陽極酸化皮膜及び導通領域の表面の化学組成の分析を行った。測定は、加速電圧15kV、試料照射電流1×10−8A、プローブ径50μmの条件で行った。
(4)陽極酸化皮膜及び導通領域表面の接触抵抗値測定
三菱化学株式会社製低抵抗率計「ロレスターEP」を用い、二探針式プローブ「MCP−TPBP改」を使用して測定した。基材表面の陽極酸化皮膜を機械加工によって削って基材表面を露出させ、露出面と陽極酸化皮膜表面又は導通領域表面とにプローブを接触させて接触抵抗値を測定した。前記プローブは表面が金めっきで覆われたもので、その先端形状は実施例1及び2では直径1.4mmの円柱状であり、実施例3及び比較例1〜3では直径0.74mmの円柱状であった。端子を測定表面に押し付ける圧力は40g/mmであった。測定して得られた抵抗値(Ω)にプローブの先端の面積を乗じて、単位面積あたりの接触抵抗値(Ω・mm)を求めた。
(5)耐食性の評価
陽極酸化皮膜を形成した基材の表面の所定の領域にレーザ照射した後、JIS Z2371に準拠して5%塩水噴霧試験を行った。48時間、120時間、168時間経過後の導通領域の接触抵抗値(Ω・mm)を上記(4)と同様の方法で測定した。
(6)陽極酸化皮膜及び基材の自然電位の測定
北斗電工株式会社製の電気化学測定装置「HZ−3000」を用い、pH6.5の5重量%塩化ナトリウム水溶液中でアノード分極曲線を得た。試験片は15mm×15mmで、測定面積は10mm×10mmとした。参照電極には飽和カロメル電極(SCE)を、対極にはPt電極を用いた。測定中温度は20℃に保持し、等速電位走査による電流−電位曲線を測定した。電位走査速度は1mV/secとした。得られた分極曲線の極小値から陽極酸化皮膜及び基材の自然電位を得た。
実施例1
マグネシウム96重量%、アルミニウム3重量%及び亜鉛1重量%からなるASTM No.AZ31B合金を、圧延加工して製造された50mm×50mm×2mmの寸法の合金板、及びマグネシウム90重量%、アルミニウム9重量%及び亜鉛1重量%からなるASTM No.AZ91Dのマグネシウム合金を原料とし、チクソモールド法にて製造された50mm×50mm×2mmの寸法の合金板の2種類を試験片として使用した。上記試験片を2.2重量%のリン酸と微量の界面活性剤を含有する酸性水溶液に浸漬してから、イオン交換水で洗浄した。続いて、18重量%の水酸化ナトリウムを含有するアルカリ性水溶液に浸漬してからイオン交換水で洗浄し、試験片表面を前処理した。
リン酸水溶液とアンモニア水とを混合して、リン酸根を0.25mol/L、アンモニア又はアンモニウムイオンをその合計量で1.5mol/L含有する電解液を調製し、20℃に保った。この電解液のpHは11であった。この中に前記前処理を施したマグネシウム合金試験片を陽極として浸漬して、陽極酸化処理を行った。このときの陰極としては、前記陽極の4倍の表面積を有するSUS316Lの板を使用した。陽極酸化は、定電流電源を使用し陽極表面の電流密度が1A/dmとなるようにして、約400秒の間通電した。通電開始時には低い印加電圧であったのが、通電終了時には、約350ボルトまで上昇した。通電終了後、イオン交換水、硝酸水溶液、イオン交換水の順番で洗浄してから乾燥した。
得られた陽極酸化皮膜の膜厚はいずれの試験片も7〜10μmであった。ここでいう膜厚とは、多数の孔を有するために局所的な膜厚ムラのある皮膜において、厚い部分の表面から基材のマグネシウム合金面までの平均的な距離のことである。基材がAZ31Bの場合、得られた陽極酸化皮膜はマグネシウム元素26.4重量%、酸素元素46.4重量%、リン元素26.2重量%、アルミニウム元素1.1重量%含有していた。基材がAZ91Dの場合、得られた陽極酸化皮膜はマグネシウム元素23.2重量%、酸素元素47.2重量%、リン元素19.8重量%、アルミニウム元素9.8重量%含有していた。
当該陽極酸化皮膜と基材のマグネシウム合金の電気化学測定で得られたアノード分極曲線を図1及び2に示す。図1において、AZ31B基材の自然電位は−1.51V、該基材に形成された皮膜の自然電位は−1.74Vであった。したがって、基材よりも皮膜のほうが卑な電位であった。図2において、AZ91D基材の自然電位は−1.50V、該基材に形成された皮膜の自然電位は−1.73Vであった。したがって、基材よりも皮膜のほうが卑な電位であった。
以上のようにして陽極酸化皮膜が形成された試験片の所定の領域にレーザ照射した。レーザは、1064nmのYVOレーザを用い、パルス照射した。レーザ光線のスポット径50μm、照射距離135mmとし、基材表面に対して垂直にレーザ光が照射されるようにセッティングした。出力は25A、周波数1〜199kHzとし、走査速度100mm/secで照射した。レーザは直線で走査し、走査方向に対して直角方向に50μmずつ移動させながら、3mm×3mmの領域に1回照射した。
レーザ照射した領域の接触抵抗値を測定した結果を表1に示す。基材がAZ31Bの場合には、レーザ周波数1、5、10、25及び50kHzのいずれの場合においても1Ω・mm以下の接触抵抗値に収まり、良好な伝導性を示した。一方、レーザ周波数が75kHz以上の場合においては、抵抗率計は「∞」を示し、導通性がなかった。また、基材がAZ91Dの場合においても、レーザ周波数1、5、10、25及び50kHzの場合において1Ω・mm以下の良好な伝導性を示した。
レーザ照射した表面の電子顕微鏡写真を示す。図3は基材がAZ31Bの場合における、レーザ照射した部分の表面の写真である。図4は基材がAZ91Dの場合における、レーザ照射した部分の表面の写真である。また、このとき、同時に測定した表面の化学組成のうちの代表例を3つ示す。図5は基材がAZ31Bでレーザ周波数が5kHzの場合、図6は基材がAZ31Bでレーザ周波数が50kHzの場合、また、図7は基材がAZ31Bでレーザ周波数が100kHzの場合における、各レーザ照射した部分の表面の化学組成である。レーザ照射した領域は各写真の左下約3/4の部分である。表面の化学組成は白黒の濃淡でそれぞれの元素の濃度を示しており、色が濃いほど濃度が低い。まず、基材がAZ31Bの場合については、図3によれば、レーザ周波数1〜25kHzでは比較的平坦で、不規則な凹凸は観察されなかった。また、このときの表面の化学組成(図5:周波数5kHz)は、照射した全領域でマグネシウム濃度が高く、リン元素や酸素元素の濃度は低かった。したがって、このような周波数では陽極酸化皮膜がほぼ完全に除去されていることがわかる。一方、周波数50kHz〜150kHzでレーザ照射した部分には表面に不規則な突起が認められた。また、このときの表面の化学組成(図6:周波数50kHz、図7:周波数100kHz)分析では、マグネシウム濃度が高い部分と、リン元素や酸素元素の濃度が高い部分が混在した。したがって、このような周波数では陽極酸化皮膜は完全に除去されていなかった。199kHzにおいては陽極酸化皮膜がそのまま残存していた。また、基材がAZ91Dの場合もレーザ周波数による影響は、AZ31Bの場合とほぼ同様であった。
レーザ照射して導通領域を形成した試験片の塩水噴霧試験の結果を表2に示す。120時間噴霧後は基材がAZ31BとAZ91Dどちらの場合でも導通領域の接触抵抗値は1Ω・mm以下で良好な導電性を示した。168時間噴霧後は基材がAZ91Dの試験片は接触抵抗値1Ω・mm以下で良好な導電性を示したが、AZ31Bでは導電性が低下した。
実施例2
実施例1において、格子状に縦横50μm、200μm又は500μm間隔で各1回走査した以外は同様の方法で陽極酸化皮膜にレーザ照射した試験片を得た。このとき周波数5kHzでレーザ光を照射した。レーザ照射した部分の接触抵抗値を表3に示す。基材がAZ31BとAZ91Dどちらについても、格子間隔が50μm、200μm、500μmすべての場合において良好な導通性を示した。
レーザ照射した部分の断面の電子顕微鏡写真の一例を図8に示す。このときの格子間隔は200μmである。写真では格子間隔が200μmより広くなっているが、これは切断面の傾きによるものである。当該写真の下方約1/2がマグネシウム合金基材であり、中央付近の凸部が陽極酸化皮膜であり、凹部がレーザ照射した領域である。基材に大きな影響を与えることなく、陽極酸化皮膜が除去できることがわかる。
レーザ照射後、試験片を塩水噴霧試験に供した。塩水噴霧試験前後の試験片の外観写真を示す。図9は基材がAZ31Bの場合の塩水噴霧前後の各導通領域、図10は基材がAZ91Dの場合の塩水噴霧前後の各導通領域の表面の写真である。このとき、格子間隔50μmは導通領域全面にレーザ照射した場合であり、200、500μmは格子状にレーザ照射した場合である。また、塩水噴霧試験後の導通領域の接触抵抗値を表4に示す。噴霧120時間後までは基材がAZ31BとAZ91Dどちらについても、格子間隔が50μm、200μm、500μmすべての場合のおいて良好な導通性を示した。長時間の塩水噴霧試験では、基材がAZ91Dの方がA31Bよりも低い接触抵抗値を維持することができた。また、導通領域に陽極酸化皮膜が残存する場合には、格子ピッチが小さいほど長時間の耐食性が良好であった。なお、格子状にレーザ照射した後に、試料を希硝酸に浸漬すると導通性が失われた。このことから基材のマグネシウム又はマグネシウム合金の一部は残存する陽極酸化皮膜に拡散あるいは付着しており、その部分を通じて電気が流れていることが推定される。
実施例3
実施例1において30mm×30mm×2mmの寸法のAZ31B基材を使用し、レーザ照射領域が0.05mm×20mm、0.25mm×20mm、0.5mm×20mm及び1mm×20mmであること以外は実施例1と同様の方法で陽極酸化皮膜を形成し、レーザ照射した試験片を得た。レーザ周波数は5及び50kHzで照射した。1mm×20mmのレーザ照射領域を抵抗率計で測定すると、レーザ周波数5及び50kHzのどちらで照射した場合においても、接触抵抗値は1Ω・mm以下であった。引き続き、レーザ照射後の試験片の塩水噴霧試験を行った。塩水噴霧試験に120時間供した後の外観を図11に示す。当該写真からわかるように、レーザ照射部分、レーザが照射されていない皮膜部分どちらにおいても腐食は観察されなかった。また、1mm×20mmのレーザ照射領域を抵抗率計で測定すると、レーザ周波数5及び50kHzのどちらで照射した場合においても、接触抵抗値は1Ω・mm以下であり、良好な伝導性を示した。
比較例1
未処理のAZ31B基材自身の耐食性を試験した例である。塩水噴霧試験に120時間供した後の外観を図11に示す。当該写真からわかるように、全面において腐食が観察された。また、表面の接触抵抗値を抵抗率計で測定すると「∞」を示し、導通性は失われた。
比較例2
Dow17法と呼ばれる公知の陽極酸化皮膜形成方法を試験した例である。酸性フッ化アンモニウム300g/L、重クロム酸ナトリウム100g/L及びリン酸90g/Lを含有する電解液を調製し、75℃に保った。この中に実施例1と同じ前処理を施したAZ31Bの試験片を陽極として浸漬して、陽極酸化処理を行った。このときの陰極としては、実施例1と同じものを使用した。定電流電源を使用し陽極表面の電流密度が4A/dmとなるようにして300秒間通電した。通電終了時には約70ボルトまで上昇した。通電終了後、イオン交換水で洗浄してから乾燥した。形成した皮膜へ実施例3と同様の条件でレーザ照射した。1mm×20mmのレーザ照射領域を抵抗率計で測定すると、レーザ周波数5及び50kHzのどちらで照射した場合においても、接触抵抗値は1Ω・mm以下であった。引き続き、レーザ照射後の試験片の塩水噴霧試験を行った。塩水噴霧試験に120時間供した後の外観を図11に示す。当該写真からわかるように、レーザ照射部分では全領域にわたって腐食が観察された。また、1mm×20mmのレーザ照射領域を抵抗率計で測定すると、レーザ周波数5及び50kHzのどちらで照射した場合においても「∞」を示し、導通性は失われた。
比較例3
陽極酸化処理する代わりに、市販の化成処理液を用いて化成処理を行った例である。ミリオン化学株式会社製化成処理液「MC−1000」を75g/Lの割合で含有するようにイオン交換水で希釈して処理液を調製し、40℃に保った。当該化成処理液の化学組成の詳細は不明であるが、リン酸イオン、マンガン(あるいはマンガン酸化物)イオン及びカルシウムイオンを含有する化成処理液であると推定されている。この処理液中に、実施例1と同じ前処理を施したAZ31Bの試験片を30秒間浸漬した。浸漬終了後、イオン交換水で洗浄してから乾燥した。形成した皮膜へ形成した皮膜へ実施例3と同様の条件でレーザ照射した。1mm×20mmのレーザ照射領域を抵抗率計で測定すると、レーザ周波数5及び50kHzのどちらで照射した場合においても、接触抵抗値は1Ω・mm以下であった。引き続き、レーザ照射後の試験片の塩水噴霧試験を行った。塩水噴霧試験に120時間供した後の外観を図11に示す。当該写真からわかるように、レーザ照射部分、レーザが照射されていない皮膜部分どちらにおいても激しい腐食が観察された。また、1mm×20mmのレーザ照射領域を抵抗率計で測定すると、レーザ周波数5及び50kHzのどちらで照射した場合においても「∞」を示し、導通性は失われた。

Claims (5)

  1. マグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が陽極酸化皮膜で覆われてなる成形品の製造方法であって
    マグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材の表面が、該基材よりも卑な陽極酸化皮膜で覆われてなり、下記方法で測定される陽極酸化皮膜表面の接触抵抗値が10 Ω・mm 以上の成形品に対して、パルス波であるレーザ光を照射して該陽極酸化皮膜を剥離することによって、前記成形品の表面の一部に導通領域を設けるに際し、該導通領域の中に前記陽極酸化皮膜で覆われた部分と前記基材が露出した部分とを形成するとともに、該基材が露出した部分の最大内接円の半径を0.5mm以下とし、かつ下記方法で測定される導通領域表面の接触抵抗値を100Ω・mm 以下にすることを特徴とする成形品の製造方法
    ここで、上記接触抵抗値(Ω・mm )は、前記基材表面の前記陽極酸化皮膜を機械加工によって削って基材表面を露出させて、低抵抗率計を用いて、露出面と陽極酸化皮膜表面又は導通領域表面とに直径1.4mmの円柱状の二探針式プローブを40g/mm の圧力で接触させて測定されるものである。
  2. 前記陽極酸化皮膜が、マグネシウム元素を10〜60重量%、酸素元素を25〜60重量%及びリン元素を5〜35重量%含有する請求項記載の成形品の製造方法
  3. 前記陽極酸化皮膜の膜厚が2〜50μmである請求項1又は2記載の成形品の製造方法
  4. リン酸根を0.1〜1mol/L、アンモニア又はアンモニウムイオンを0.2〜5mol/L含有し、pHが8〜14である電解液にマグネシウム又はマグネシウム合金からなる基材を浸漬して陽極酸化処理して得られた陽極酸化皮膜にレーザ光を照射する請求項1〜3のいずれか記載の成形品の製造方法。
  5. 請求項1〜のいずれか記載の方法によって製造することを特徴とする電子機器の筐体の製造方法
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