しかしながら、上述した従来の技術では、前者(特開平11−201216号)では、孔により2室が常に連通された状態にあるため、この孔を介しても液体が両液室間で流動して(液圧が逃げて)、オリフィスを介しての両液室間での流体流動効果が得られ難くなるため、その分、動的特性(減衰性能)の低下を招くという問題点があった。一方、減衰性能を確保するべく、孔をより小口径に構成すると、キャビテーションの発生を十分に抑制することができず、異音が発生するという問題点があった。
また、後者(特開2005−48906号公報)では、チェックバルブを新たに設けることが必要となり、重量増加を招くと共に、部品点数の増加に伴って、部品コスト・製造コストの上昇を招くという問題点があった。また、チェックバルブは、複数の部品を備える複雑な構造であるため、信頼性や耐久性の低下を招くという問題点もあった。
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、構造の簡素化を図りつつ、動的特性の確保とキャビテーション発生の抑制とを図ることができる液封入式防振装置を提供することを目的としている。
この目的を達成するために、請求項1記載の液封入式防振装置は、第1取付け具と、筒状の第2取付け具と、前記第2取付け具と前記第1取付け具とを連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体と、前記第2取付け具に取付けられ前記防振基体との間に液体封入室を形成するダイヤフラムと、前記液体封入室を前記防振基体側の第1液室と前記ダイヤフラム側の第2液室とに仕切る仕切り部材と、前記仕切り部材の外周部に形成され前記第1液室と第2液室とを連通させるオリフィスとを備えるものであり、前記仕切り部材により形成される空間であって前記第1液室側に開口を有する副液室と、前記副液室の開口部に位置し前記副液室と第1液室とを区画すると共にゴム状弾性体から構成されるメンブレン部材とを備え、前記メンブレン部材の一部が前記第1液室側へ変位することで前記副液室と第1液室とが連通され、前記仕切り部材は、前記第1液室側の上面が上段部と下段部とを有する階段状に形成され、前記オリフィスの前記第1液室側の出入口が前記下段部に対応する位置に配置されている。
請求項2記載の液封入式防振装置は、請求項1記載の液封入式防振装置において、前記仕切り部材の下段部に凹設され前記第1液室側に開口を有する凹部を備え、前記凹部により形成される空間が前記副液室とされ、前記副液室と第1液室とが前記メンブレン部材により区画されている。
請求項3記載の液封入式防振装置は、請求項2記載の液封入式防振装置において、前記メンブレン部材が前記凹部の内周面に取着されている。
請求項4記載の液封入式防振装置は、請求項1から3のいずれか1項に記載の液封入式防振装置において、前記仕切り部材は、前記第2取付け具との間に前記オリフィスを形成するために径方向外方へ張り出される一対のオリフィス形成壁と、前記一対のオリフィス形成壁を互いに接続して前記オリフィスを周方向に区画する縦壁とを備え、前記一対のオリフィス形成壁により形成される空間の内の前記オリフィスの残部となる空間が前記副液室とされ、前記副液室と第1液室とが前記メンブレン部材により区画されている。
請求項5記載の液封入式防振装置は、請求項1から4のいずれか1項に記載の液封入式防振装置において、前記下段部は、前記仕切り部材の上面視において、扇形に形成され、前記扇形の弧の部分に前記オリフィスの出入口が配置されると共に前記扇形の中心角が120°以下に設定されている。
請求項1記載の液封入式防振装置によれば、比較的低周波領域における振動の入力であって、第1取付け金具と第2取付け金具とを互いに近接する方向へ相対移動させる振動(以下、「加圧側振動」と称す。)が入力されると、防振基体の弾性変形に伴って、第1液室内の圧力が第2液室内の圧力と比して高くなることで、液体が第1液室からオリフィスを介して第2液室へ流動される。
一方、第1取付け金具と第2取付け金具とを互いに離間する方向へ相対移動させる振動(以下、「減圧側振動」と称す。)が入力されると、防振基体の弾性変形に伴って、第1液室内の圧力が第2液室内の圧力と比して低くなることで、液体が第2液室からオリフィスを介して第1液室へ流動される。
その結果、入力された振動は、その入力された振動により第1液室内の圧力が変化することに伴い、オリフィスを介して第1液室と第2液室との間を流動する液体の流体流動効果(液柱共振効果)により減衰される。
ここで、従来の液封入式防振装置では、例えば、大振幅の振動(加圧側振動)が入力され第1液室内の圧力が急激に上昇すると、オリフィスが目詰まりした状態となり、液体がオリフィスを流動しなくなる。そして、この場合には、第1液室内の圧力変化が大きいことから、その直後の振動(減圧側振動)の入力で第1液室内に発生する負圧力に伴って、第1液室内の液体中に多数の気泡が発生すると共にそれらが崩壊して消滅するキャビテーション(空洞化現象)が発生するという問題点があった。
これに対し、本発明では、仕切り部材により形成される空間であって第1液室側に開口を有する副液室と、副液室の開口部に位置し副液室と第1液室とを区画すると共にゴム状弾性体から構成されるメンブレン部材とを備え、メンブレン部材の一部が第1液室側へ変位することで副液室と第1液室とが連通されるように構成されているので、キャビテーションの発生を抑制することができるという効果がある。
即ち、本発明によれば、オリフィスが目詰まりした状態で大振幅の振動(減圧側振動)が更に入力されて、第1液室内に大きな負圧力が発生した場合でも、この負圧力を利用して、メンブレン部材の一部を第1液室側へ変位(撓み変形)させることで、かかるメンブレン部材により区画されていた副液室と第1液室とを互いに連通させることができる。
そして、この連通により、第1液室の体積を副液室の体積分だけ実質的に増加させることができるので、かかる体積増加効果により、第1液室内の負圧力を緩和させて、キャビテーションの発生を抑制することができる。その結果、異音の発生を抑制して、静粛性や乗り心地の向上を図ることができると共に、キャビテーションによる仕切り部材の破損を回避することができる。
なお、大振幅の振動(加圧側振動)が入力されオリフィスが目詰まりした場合に、副液室と第1液室とが既に連通された状態(例えば、メンブレン部材の一部が副液室内に入り込むように変位(撓み変形)した状態)となっていると、その後に大振幅の振動(減圧側振動)が入力された際に、上述した体積増加効果による負圧力の緩和作用を効果的に発揮させることができない。
これに対し、本発明によれば、液体封入室に封入される液体は非圧縮性であるので、大振幅の振動(加圧側振動)が入力されても、メンブレン部材の一部が副液室内に入り込むように変位(撓み変形)することはなく、副液室と第1液室とがメンブレン部材により区画された状態を保持することができる。よって、その後の減圧側振動入力時には、上述した体積増加効果による負圧力の緩和作用を効果的に発揮することができる。
また、本発明によれば、仕切り部材により副液室を形成すると共にその副液室の開口部にメンブレン部材を配置する構成であるので、チェックバルブを設ける従来品と比較して、構造を簡素化することができる。その結果、重量の軽量化を図ることができる共に、部品点数の低減により、部品コスト・製造コストの削減と信頼性・耐久性の向上とを図ることができる。
また、第1液室及び第2液室の2室を孔により常に連通された状態とする従来品では、孔を介しても液体が流動する(液圧が逃げる)ため、オリフィスを介しての両液室間での流体流動効果が得られ難くなるという問題点があった。これに対し、本発明によれば、副液室は第1液室のみと連通する構成であるので、かかる副液室を介して第1液室と第2液室との間で液圧が流動する(液圧が逃げる)ことがない。また、上述したように、液体封入室に封入される液体は非圧縮性であるので、振動(加圧側振動)の入力によりメンブレン部材が副液室側へ変位(撓み変形)して、液圧が逃げる(緩和される)こともない。よって、オリフィスを介しての両液室間での流体流動効果(液柱共振効果)を効率的に得ることができ、動的特性(減衰性能)の向上を図ることができる。
なお、本発明によれば、上述したように、第1液室内の負圧力が所定値に達すると、メンブレン部材が自身の剛性に抗して変位(撓み変形)する。言い換えれば、比較的小振幅の振動(減圧側振動)の入力時には、メンブレン部材は、自身の剛性により変位(撓み変形)せず、副液室と第1液室とが区画された状態を保持する。よって、オリフィスを介して第1液室と第2液室との間を流動する液体の流体流動効果(液柱共振効果)を効率的に得ることができる。また、変形(撓み変形)したメンブレン部材により液体の流動が阻害されるという不具合を回避して、所望の動的特性を安定して発揮させることができる。
ここで、本発明によれば、仕切り部材は、第1液室側の上面が上段部と下段部とを有する階段状に形成され、オリフィスの第1液室側の出入口が下段部に対応する位置に配置されているので、上段部と防振基体との間の離間距離に比して、下段部と防振基体との間の離間距離をより長くすることができる。
これにより、オリフィスが目詰まりした状態で大振幅の振動(減圧側振動)が更に入力されて、第1液室内に大きな負圧力が発生した場合でも、上述した離間距離がより長い分、上段部に比して、下段部における負圧力をより小さくすることができる。その結果、オリフィスの第1液室側の出入口付近(即ち、下段部に対応する部分)における液体の流動がキャビテーションにより影響を受けることを抑制して、所望の動的特性(減衰特性)を安定して発揮させることができるという効果がある。
請求項2記載の液封入式防振装置によれば、請求項1記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、仕切り部材の下段部に凹設され第1液室側に開口を有する凹部が形成する空間を副液室として構成すると共にその副液室と第1液室とをメンブレン部材により区画する構成であるので、副液室の開口部(即ち、メンブレン部材)を下段部において防振基体の底面に対向させて位置させることができる。
ここで、防振基体の底面部は、第1液室に圧力変化を与えて液体を流動させるピストン部として機能するところ、本発明によれば、上述のように、ピストン部に対向する位置に副液室の開口部(メンブレン部材)を配置したので、ピストン部により負圧力が付与された場合にはこの圧力変化に連動してメンブレン部材の一部を確実に変位(撓み変形)させることができる。
その結果、オリフィスが目詰まりした状態で大振幅の振動(減圧側振動)が入力され、第1液室内に大きな負圧力が発生した場合には、メンブレン部材の一部を第1液室側へ確実に変位(撓み変形)させることができ、上述した体積増加効果により、第1液室内の負圧力を緩和させて、キャビテーションの発生を確実に抑制することができるという効果がある。
また、本発明によれば、上述したように、副液室の開口部が下段部に位置するので、かかる下段部におけるキャビテーションを重点的に抑制することができる。これにより、オリフィスの第1液室側の出入口付近(即ち、下段部に対応する部分)における液体の流動がキャビテーションにより影響を受けることを抑制して、所望の動的特性(減衰特性)を安定して発揮させることができるという効果がある。
請求項3記載の液封入式防振装置によれば、請求項2記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、メンブレン部材を凹部の内周面に取着する構成としたので、メンブレン部材を仕切り部材に衝突させることなく変位(撓み変形)させることができ、その結果、衝突に起因する異音の発生を回避することができるという効果がある。
請求項4記載の液封入式防振装置によれば、請求項1から3のいずれか1項に記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、オリフィス形成壁により形成される空間の内のオリフィスの残部となる空間を副液室として利用する構成であるので、オリフィスとしての機能を有さずデッドスペースとなる空間を有効に活用することができるという効果がある。これにより、オリフィスの容量を確保した上で副液室を形成することができるので、防振装置の大型化を招くことなく、オリフィスを利用した流体流動効果(液柱共振効果)による振動減衰機能と、副液室を利用した体積増加効果による負圧力の緩和作用との両立を図ることができる。
また、本発明によれば、オリフィスの第1液室側の出入口に隣接する位置に副液室の開口部(即ち、メンブレン部材)を配置させることができるので、第1液室内における液圧(負圧力)をメンブレン部材へ適正に伝達させて、かかるメンブレン部材の一部を第1液室内の負圧力により確実に変位(撓み変形)させることができる。
その結果、オリフィスが目詰まりした状態で大振幅の振動(減圧側振動)が入力され、第1液室内に大きな負圧力が発生した場合には、メンブレン部材の一部を第1液室側へ変位(撓み変形)させ、上述した体積増加効果を確実に発揮させて、第1液室内の負圧力を緩和させることで、キャビテーションの発生を確実に抑制することができるという効果がある。
更に、本発明によれば、上述したように、副液室の開口部(メンブレン部材)がオリフィスの第1液室側の出入口に隣接して位置するので、かかる出入口付近におけるキャビテーションを重点的に抑制することができる。これにより、オリフィスの第1液室側の出入口付近における液体の流動がキャビテーションにより影響を受けることを抑制して、所望の動的特性(減衰特性)を安定して発揮させることができるという効果がある。
また、本発明によれば、オリフィスの第1液室側の出入口を挟んで副液室とオリフィスとが対向する、即ち、オリフィスの第1液室側の出入口からオリフィスに向かう液体の流動方向と反対側に副液室が位置する構成であるので、振動(加圧側振動)に入力により液体が第1液室からオリフィスへ流動する際には、かかる液体の流動がメンブレン部材により影響を受けることを回避することができる。これにより、オリフィスを介しての両液室間での流体流動効果(液柱共振効果)を効率的に得ることができ、動的特性(減衰性能)の向上を図ることができる。
請求項5記載の液封入式防振装置によれば、請求項1から4のいずれか1項に記載の液封入式防振装置の奏する効果に加え、下段部を仕切り部材の上面視において扇形に形成すると共に、その扇形の弧の部分にオリフィスの第1液室側の出入口を配置したので、かかる出入口付近におけるキャビテーションの発生を重点的に抑制することができる。その結果、オリフィスの第1液室側の出入口付近における液体の流動がキャビテーションにより影響を受けることを抑制して、所望の動的特性(減衰特性)を安定して発揮させることができるという効果がある。
また、本発明によれば、下段部は、その扇形の中心角が120°以下に設定されているので、下段部により形成される空間の第1液室に対する体積割合を適正化して、上述した副液室を利用した体積増加効果による負圧力の緩和作用を効率的に発揮させることができるという効果がある。
即ち、扇形の中心角を120°よりも大きな値に設定すると、下段部により形成される空間の第1液室に対する体積割合が大きくなるため、その分、上述した体積増加効果による負圧力の緩和作用を十分に発揮させるべく、副液室の体積を増加させる必要が生じる。しかしながら、副液室の体積を増加させると、副液室の開口の大型化に伴ってメンブレン部材も大型化する必要が生じ、その結果、メンブレン部材の変位(撓み変形)の応答性能が低下するため、上述した体積増加効果による負圧力の緩和作用を適切に発揮させることができないという問題点が生じる。
これに対し、本発明によれば、扇形の中心角を120°以下に設定したので、下段部により形成される空間の第1液室に対する体積割合を適正化することができる。これにより、副液室の体積を不必要に大型化する必要がないので、メンブレン部材を小型化することができ、かかるメンブレン部材の変位(撓み変形)の応答性能を向上させることができ、その結果、上述した体積増加効果による負圧力の緩和作用を効率的に発揮させることができる。
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における液封入式防振装置100の断面図である。
この液封入式防振装置100は、自動車のエンジンを支持固定しつつ、そのエンジン振動を車体フレームへ伝達させないようにするための防振装置であり、図1に示すように、エンジン側に取り付けられる第1取付け金具1と、エンジン下方の車体フレーム側に取付けられる筒状の第2取付け金具2と、これらを連結すると共にゴム状弾性体から構成される防振基体3とを備えている。
第1取付け金具1は、アルミニウム合金などの金属材料から略円柱状に形成され、図1に示すように、その上端面には、取付けボルト1aと位置決めピンとが突設されている。また、第1取付け部1の外周部には、略フランジ状の突出部が形成されており、この突出部がスタビライザー金具13と当接することで、大変位時のストッパ作用が得られるように構成されている。
第2取付け金具2は、図1に示すように、防振基体3が加硫成形される筒状金具4と、その筒状金具4の下方に取着される底金具5とを備えて構成されている。筒状金具4は上広がりの開口を有する筒状に、底金具5は底部を有するカップ状に、それぞれ鉄鋼材料などから形成されている。なお、底金具5の底部には、取付けボルト6と位置決めピンとが突設されている。
防振基体3は、図1に示すように、ゴム状弾性体から円錐台形状に形成され、第1取付け金具1の下面側と筒状金具4の上端開口部との間に加硫接着されている。また、防振基体3の下端部には、筒状金具4の内周面を覆うゴム膜7が連なっており、このゴム膜7には、後述する仕切り部材12のオリフィス形成壁22,23(例えば、図2参照)が密着され、オリフィス25が形成される。
ダイヤフラム9は、ゴム状弾性体から部分球状を有するゴム膜状に形成され上面視ドーナツ状の取付け板10に加硫接着されている。このダイヤフラム9は、図1に示すように、取付け板10が嵩上げ板14と共に筒状金具4と底金具5との間でかしめ固定されることで、第2取付け金具2に取着されている。その結果、このダイヤフラム9と防振基体3の下面との間には、液体封入室8が形成されている。
この液体封入室8には、エチレングリコールなどの不凍性の液体(図示せず)が封入される。また、液体封入室8は、図1に示すように、後述する仕切り部材12によって、防振基体3側の第1液室11Aと、ダイヤフラム9側の第2液室11Bとの2室に仕切られている。
仕切り部材12は、図1に示すように、オリフィス形成壁22,23が外周部に形成される本体部20と、その本体部20の下面側(図1下側)開口に内嵌保持される底面板30と、ゴム状弾性体から膜状に構成される第1メンブレン部材61及び第2メンブレン部材62とを主に備えて構成されている。
なお、仕切り部材12は、図1に示すように、嵩上げ板14と防振基体3の段部57との間に保持される。即ち、仕切り部材12は、防振基体3の段部57を軸芯方向(図1上下方向)に圧縮変形させた状態で第2取付け金具2(筒状金具4)内に挿入され、防振基体3(段部57)の弾性復元力により液体封入室8内で保持されている。
本体部20の外周面と第2取付け金具2の内周面を覆うゴム膜7との間には、図1に示すように、オリフィス25が形成されている。このオリフィス25は、第1液室11Aと第2液室11Bとを連通させ、これら両液室11A,11B間で液体を流動させるためのオリフィス流路であり、仕切り部材12(本体部20)の軸芯O周りに略1周して形成されている(図2参照)。
次いで、図2から図5を参照して、仕切り部材12について説明する。図2は、仕切り部材12の斜視図であり、図3(a)及び図3(b)は、仕切り部材12の上面図及び正面図である。図4(a)は、仕切り部材12の底面図であり、図4(b)は、図3(a)のIVa−IVa線における仕切り部材12の断面図である。また、図5は、図3(b)のVb−Vb線における仕切り部材12の断面図である。
仕切り部材12は、上述したように、液封入室8を第1液室11Aと第2液室11Bとに仕切るための部材であり(図1参照)、本体部20と底面板30とを主に備えて構成されている。本体部20及び底面板30は、図2乃至図5に示すように、熱可塑性の樹脂材料から軸芯Oを有する略円板状に形成されており、底面板30は、本体部20に内嵌保持されている。
本体部20の軸方向上下端には、一対のオリフィス形成壁22,23が径方向外方へ向けて略フランジ状に張り出して形成されており、これら一対のオリフィス形成壁22,23の対向面間にオリフィス流路が形成される。
なお、上述したように、各オリフィス形成壁22,23は、筒状金具4の内周を覆うゴム膜7に密着することで、断面略矩形状のオリフィス25を形成する(図1参照)。また、本体部20は、図2乃至図5に示すように、上下のオリフィス形成壁22,23を接続する縦壁24を備えており、オリフィス25(図1参照)は、この縦壁24によって周方向に分断(区画)される。
図2、図3及び図4(b)に示すように、上側のオリフィス形成壁22及び本体部20には、切欠き55が切欠形成されており、この切欠き55を介して、オリフィス流路(オリフィス25、図1参照)の一端が第1液室11Aに連通される。即ち、切欠き55がオリフィス25の第1液室11A側の出入口とされている。
一方、下側のオリフィス形成壁23及び本体部20には、切欠き56が切欠形成されており、この切欠き56を介して、オリフィス流路(オリフィス25、図1参照)の他端が第2液室11Bに連通される。即ち、切欠き56がオリフィス25の第2液室11B側の出入口とされている。
本体部20は、図2乃至図4に示すように、第1液室11A側となる上面側(例えば、図3(a)紙面手前側)が上段部21aと下段部21bとを有する階段状に形成されており、下段部21bに対応する位置には、上述したオリフィス25の第1液室11A側の出入口(即ち、切欠き55)が配置されている。
なお、下段部21aは、仕切り部材12の上面視において、図3(a)に示すように、扇形に形成され、扇形の弧の部分にオリフィス25の第1液室11A側の出入口(即ち、切欠き55)が配置されると共に、扇形の中心角が本実施の形態では100°に設定されている。なお、この中心角は120°以下に設定することが好ましい。
本体部20の下段部21bには、図4(b)に示すように、貫通孔26が穿設され、この貫通孔21bの底面側は、板部材30により閉封されている。これにより、本体部20の下段部21aには、第1液室11A(図1参照)側に開口を有する凹部、即ち、第1副液室11Cが形成されると共に、この第1副液室Cの開口部には、第1メンブレン部材61が加硫接着されている。
第1メンブレン部材61は、第1副液室11Cと第1液室11Aとを区画するための部材であり、図2又は図3に示すように、ゴム状弾性体から上面視円形に構成されている。この第1メンブレン部材61は、外周縁部の一部(本実施の形態では、周方向の40%)が貫通孔26の内周面に加硫接着されている。これにより、後述するように、第1メンブレン部材61の一部が第1液室11A側へ変位することで、第1副液室11Cと第1液室11Aとが連通される(図6(a)及び図6(c)参照)。
なお、第1メンブレン部材61の上面は、図4(b)に示すように、下段部21bの上面と同一の高さに設定されている。これにより、下段部21b上を段差のない面一状に構成して、液体の流動をスムーズに行わせることができる。
また、仕切り部材12は、図2乃至図5に示すように、一対のオリフィス形成壁22,23により形成される空間の内のオリフィス25の残部となる空間、即ち、縦壁24と切欠き55との間に形成される空間が第2副液室11Dとされると共に、この第2副液室11Dの開口部には、第2メンブレン部材62が加硫接着されている。
第2メンブレン部材62は、第2副液室11Dと第1液室11Aとを区画するための部材であり、図2乃至図5に示すように、オリフィス25の断面形状に対応した正面視矩形状にゴム状弾性体から構成されている。この第2メンブレン部材62は、オリフィス形成壁22に対応する一辺のみがオリフィス形成壁22の内周面に加硫接着されている。これにより、後述するように、第2メンブレン部材62の一部が第1液室11A側へ変位することで、第2副液室11Dと第1液室11Aとが切欠き55を介して連通される(図6(c)及び図6(d)参照)。
次いで、図6を参照して、振動が入力された際に第1及び第2副液室11C,11Dと第1及び第2メンブレン部材61,62とがキャビテーションの発生を抑制する動作について説明する。
図6(a)及び図6(c)は、仕切り部材12の断面図であり、図6(b)及び図6(d)は、仕切り部材12の正面図である。なお、図6(a)及び図6(b)は加圧側振動が入力された状態を、図6(c)及び図6(d)は減圧側振動が入力された状態を、それぞれ示している。
第1取付け金具1と第2取付け金具2とを互いに近接する方向へ相対移動させる振動(加圧側振動)が入力されると、防振基体3の弾性変形に伴って、第1液室11A内の圧力が第2液室11B内の圧力と比して高くなることで、液体が第1液室11Aからオリフィス25を介して第2液室11Bへ流動される。
一方、第1取付け金具1と第2取付け金具2とを互いに離間する方向へ相対移動させる振動(減圧側振動)が入力されると、防振基体3の弾性変形に伴って、第1液室11A内の圧力が第2液室11B内の圧力と比して低くなることで、液体が第2液室11Bからオリフィス25を介して第1液室11Aへ流動される。
その結果、入力された振動は、その入力された振動により第1液室11A内の圧力が変化することに伴い、オリフィスを介して第1液室11Aと第2液室11Bとの間を流動する液体の流体流動効果(液柱共振効果)により減衰される。
ここで、従来の液封入式防振装置では、オリフィスが目詰まりした状態で減圧側振動が入力されることで、第1液室内にキャビテーション(空洞化現象)が発生するという問題点があった。
これに対し、本発明の液封入式防振装置100では、第1及び第2副液室11C,11Dの開口部に第1及び第2メンブレン部材61,62とが配置されているので、図6(c)又は図6(d)に示すように、これら第1及び第2メンブレン部材61,62の一部が第1液室11A側へ変位することで、キャビテーションの発生を抑制することができる。
具体的には、例えば、大振幅の振動(加圧側振動)が入力され、図6(a)及び図6(c)に示すように、オリフィスが目詰まりした状態で大振幅の振動(減圧側振動)が更に入力され、第1液室11A内に大きな負圧力が発生した場合には、図6(c)及び図6(d)に示すように、第1液室11A内に発生した負圧力を利用して、第1及び第2メンブレン部材61,62の一部を第1液室11A側へ変位(撓み変形)させ、これら第1及び第2メンブレン部材61,62により区画されていた第1及び第2副液室11C,11Dと第1液室11Aとを互いに連通させることができる。
そして、この連通により、第1液室11Aの体積を第1及び第2副液室11C,11Dの体積分だけ実質的に増加させることができるので、かかる体積増加効果により、第1液室11A内の負圧力を緩和させて、キャビテーションの発生を抑制することができる。その結果、異音の発生を抑制して、静粛性や乗り心地の向上を図ることができると共に、キャビテーションによる仕切り部材12(本体部20の第1液室11A側の面)の破損を回避することができる。
ここで、大振幅の振動(加圧側振動)が入力されオリフィス25が目詰まりした場合に、第1副液室11C又は第2副液室11Dと第1液室11Aとが既に連通された状態(例えば、第1又は第2メンブレン部材61,62の一部が第1又は第2副液室11C,11D内に入り込むように変位(撓み変形)した状態)となっていると、その後に大振幅の振動(減圧側振動)が入力された際に、上述した体積増加効果による負圧力の緩和作用を効果的に発揮させることができない。
これに対し、本発明の液封入式防振装置100では、液体封入室8に封入される液体は非圧縮性であるので、大振幅の振動(加圧側振動)が入力されても、第1又は第2メンブレン部材61,62の一部が第1又は第2副液室11C,11D内に入り込むように変位(撓み変形)することはなく、図6(a)及び図6(b)に示すように、第1及び第2副液室11C,11Dと第1液室11Aとが第1及び第2メンブレン部材61,62により区画された状態を保持することができる。よって、その後の減圧側振動の入力時には、上述した体積増加効果による負圧力の緩和作用を効果的に発揮することができる。
また、仕切り部材12は、上述したように、第1液室11A側の上面(図6上側面)が上段部21aと下段部21bとを有する階段状に形成され、オリフィス25の第1液室11A側の出入口(切欠き55)が下段部21bに対応する位置に配置されているので、上段部21aと防振基体3との間の離間距離に比して、下段部21bと防振基体3との間の離間距離をより長くすることができる(図1参照)。
これにより、オリフィス25が目詰まりした状態で大振幅の振動(減圧側振動)が更に入力されて、第1液室11A内に大きな負圧力が発生した場合でも、上述した離間距離がより長い分、上段部21aに比して、下段部21bにおける負圧力をより小さくすることができる。その結果、オリフィス25の第1液室11A側の出入口付近(即ち、下段部21bに対応する部分)における液体の流動がキャビテーションにより影響を受けることを抑制して、所望の動的特性(減衰特性)を安定して発揮させることができる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記実施の形態では、第1メンブレン部材61が貫通孔26の内周面に加硫接着される範囲を周方向40%とする場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。但し、かかる加硫接着範囲は、周方向30%以上かつ50%以下の範囲に設定することが好ましい。加硫接着範囲が周方向30%よりも少ないと第1メンブレン部材61の変位(撓み変形)が過大となり負圧力緩和作用が不安定となる一方、加硫接着範囲が周方向50%よりも多いと第1メンブレン部材61の変位(撓み変形)が不十分となり負圧力緩和作用を十分に発揮させることができなくなるからである。
また、この場合には、第1メンブレン部材61の貫通孔26に対する接着箇所が本体部20の軸心O側に位置する、即ち、第1メンブレン部材61の非接着箇所が切欠き55側に位置することが好ましい。オリフィス25の第1液室11A側の出入口(切欠き55)付近における液体の流動がキャビテーションにより影響を受けることを効果的に抑制して、所望の動的特性(減衰特性)を安定して発揮させることができるからである。
上記実施の形態では、第2メンブレン部材62をオリフィス形成壁22の内周面に加硫接着する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の箇所に加硫接着することは当然可能である。例えば、本体部20の外周面部に第2メンブレン部材62を加硫接着しても良い。
上記実施の形態では、第1副液室11C及び第1メンブレン部材61を下段部21bに設ける場合を説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、これに代えて、或いは、これに加えて、他の箇所に副液室を設けることは当然可能である。例えば、上段部21aと下段部21bとを接続する側壁部に副液室を設けても良い。
上記実施の形態では、貫通孔26を断面円形に構成する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、他の形状を採用することは当然可能である。例えば、楕円形、矩形状或いは多角形などが例示される。