JP4601206B2 - 熱電素子の製造方法 - Google Patents
熱電素子の製造方法Info
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱電素子の製造方法、特に熱電特性に優れ、且つ特性の安定した熱電素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】
従来より、ペルチェ効果を利用した熱電素子は、熱電モジュールとしてレーザーダイオードの温度制御、恒温槽あるいは冷蔵庫における冷却に多用されている。この室温付近で使用される冷却用熱電モジュールには、冷却特性が優れるという観点からBi2Te3(テルル化ビスマス)からなる熱電素子が一般的に用いられている。
【0003】
さらに、熱電素子はp型およびn型を対にして用いる必要があり、p型にはBi2Te3とSb2Te3(テルル化アンチモン)との固溶体が、n型にはBi2Te3とBi2Se3(セレン化ビスマス)との固溶体が特に優れた性能を示すことから、このA2B3型結晶(AはBi及び/又はSb、BはTe及び/又はSe)が冷却用熱電モジュール用熱電素子として広く用いられている。
【0004】
このようなモジュールとして用いられる熱電素子の形状は、数mm角と小さいため、加工時等の応力に対する強度を保たせるためにホットプレス等により作製されている。しかし、ホットプレスによって作製した焼結体中に原料粉末中に含まれる酸素が残留し、上記A2B3型結晶からなる熱電素子の電気特性を劣化させてしまうという問題があった。
【0005】
そこで、Bi、Te、Se及びSb元素からなる群より選択される少なくとも2種類以上の元素を含有した熱電変換材料を成形し、しかる後に仮焼して得られた仮焼体を焼成前に水素を含む還元雰囲気で熱処理して不純物酸素を除去することによって、熱電特性を改善することが特開平9−18060号公報に記載されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平9−18060号公報号公報の方法では、熱電素子の熱電特性の最大値は改善できるものの十分ではなく、また、作製したロット間において、或いは同一ロットでも試料間において熱電特性の最大値と最小値の相違が大きく、ばらつくという問題があった。
【0007】
従って、本発明は、熱電特性に優れ、かつ特性のばらつきの小さい熱電素子を作製する方法を実現することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、前記原料粉末及び/又は前記成形体をTe粉末が配設された水素気流中で熱処理した後に焼成することで、高い性能指数を実現し、特性のばらつきを抑えることができるという知見に基づくものである。
【0009】
即ち、本発明の熱電素子の製造方法は、Bi,Sb,Seの少なくとも1つと、Teとを含む原料粉末又は成形体を焼成して、性能指数が3.0×10−3/K以上の焼結体を作製する熱電素子の製造方法において、前記原料粉末及び/又は前記成形体をTe粉末が配設された水素気流中で熱処理し、しかる後に焼成することを特徴とするものである。この熱処理により、原料粉末中のTeの揮発が抑制され、調合時の組成からのずれを防止できるため、性能指数を高めるとともに、特性のばらつきを抑制することができる。
【0010】
特に、前記成形体を作製する前に、予め前記原料粉末の累積重量比50%における平均粒子径(D50)が0.5〜10μm、累積重量比90%における粒子径(D90)が0.7〜20μm、粒子径比D90/D50が1.2〜4.0になるように粉砕することが好ましい。これにより、原料粉末を均一、且つ微細にできるため、焼結性を高め、より低い温度において焼成しやすくなるとともに、得られた焼結体中の結晶粒径の平均長軸径を10μm以下と小さくできるため、性能指数をさらに高めることができる。
【0011】
また、前記原料粉末を、窒化珪素製ボールを用いて粉砕することが好ましい。これにより、原料粉末に混入する不純物を抑制し、より高い性能指数を実現し、特性のばらつきを更に低く抑えられる。
【0012】
さらに、前記原料粉末を、パルス通電焼結法、ホットプレス法、ガス圧焼結法、熱間等方加圧焼結法のうち少なくとも1種を用いて焼成することが好ましい。これらの焼結方法によれば、短時間で焼成できるために粒子の粒成長を抑え、粒子の均一化が図れるため、熱電特性を改善できる。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の熱電素子の製造方法は、Bi、Sb、Te、Seのうち少なくとも2種を含む原料を用いることが重要であり、例えば、上記の金属を用いても良いが、A2B3型金属間化合物を用いることが好ましい。ここで、AがBi及び/又はSb、BがTe及び/又はSe型からなる半導体結晶であって、特に組成比B/Aが1.4〜1.6であることが、室温における熱電特性を高めるために好ましい。
【0014】
A2B3型金属間化合物としては、公知であるBi2Te3、Sb2Te3、Bi2Se3の少なくとも1種であることが好ましく、固溶体としてBi2Te3とBi2Se3の固溶体であるBi2Te3-xSex(x=0.05〜0.25)、又はBi2Te3とSb2Te3の固溶体であるBixSb2-xTe3(x=0.1〜0.6)等を例示できる。
【0015】
また、金属間化合物を効率よく半導体化するために、不純物をドーパントとして添加することができる。例えば、原料粉末にI、Cl及びBr等のハロゲン元素を含む化合物を含有せしめることにより、n型半導体を製造することができる。例えば、AgI、CuBr、SbI3、SbCl3、SbBr3、HgBr2等を加えることにより、金属間化合物半導体中のキャリア濃度を調整することができ、その結果、熱電特性を高めることが可能となる。
【0016】
なお、p型半導体を製造する場合には、キャリア濃度調整のためにTeを添加することができ、n型半導体と同様に、熱電特性を高めることができる。
【0017】
また、本発明の熱電素子の製造方法に用いられる原料粉末は、累積重量比50%における平均粒子径(D50)が0.5〜10μmであることが好ましい。これは、0.5μm未満ではコストが高くなり易く、また、10μmを超えると熱伝導率が高くなって性能指数が低下する傾向があるためである。
【0018】
また、累積重量比90%における粒子径(D90)が0.7〜20μm、粒子径比D90/D50が1.2〜4.0であることが好ましい。このように粒子径を制御することにより、性能指数を最適化することができる。
【0019】
なお、この累積重量比は粉末の粒度分布をレーザー回折法等によって測定するときに求められる値であり、結晶粒子のうちその粒子径が小さいものから積算して重量比50%のときの平均粒子径をD50、90%のときの平均粒子径をD90としている。
【0020】
本発明によれば、上記のような原料粉末を得るためには、粒子径の大きい市販粉末を分級しても良いが、市販粉末を所望の組成に調合し、有機溶媒を加え、窒化珪素製ボール等の高硬度、高靭性のセラミック粉砕用ボールを用いて粉砕させることで、本発明で使用する粉末を容易に得られる。
【0021】
この粉砕には、振動ミル、バレルミル又は回転ボールミルで窒化珪素製ボールを使用することが好ましい。粉砕に用いる容器としては、ポリエチレン製等の樹脂ポット又は樹脂の内張りを有するセラミックポット等を用い、ボールとして窒化珪素製ボールを使用することで粉砕時に混入する不純物量を500ppm以下、特に100ppm以下、更には50ppm以下にまで削減することも可能で、不純物混入による特性低下を防ぎ、更に優れた熱電特性の実現が容易になる。
【0022】
粉砕に用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサン等で良いが、これらの中でも、粉砕効率及びコストの面で、イソプロパノールが好適である。
【0023】
次いで、所望により上記の粉末を成形し、成形体を作製する。成形は、金型プレス法、冷間静水圧プレス(CIP法)、ドクターブレード法、カレンダーロール法、圧延法、押し出し成形法、鋳込み成形法、射出成形法等の周知の成形方法を用いることができる。これらの中で、特に金型プレス法、CIP法が簡便性と量産性の点で好ましい。なお、成形時に高磁場を印加して結晶配向させることも有効である。
【0024】
本発明によれば、原料粉末からなる成形体を焼成に先立って水素気流中で熱処理することが重要である。この熱処理は、例えば原料粉末を匣鉢に入れ、その匣鉢の周囲にTe粉末を配設し、水素気流中で加熱する。このような熱処理は、水素ガスにより粉末表面の不純物酸素を除去する効果があり、焼成によって得られた焼結体中に比抵抗の高い酸化物を減少することができるため、焼結体の比抵抗を低くし、性能特性を高めることができる。
【0025】
そして、Te粉末を原料粉末と共に加熱炉に配設することで、原料中のTeの分解を抑制して原料のBi/Te組成比が変化せずに維持され、その結果、特性ばらつきを低減することができる。なお、Te粉末は、単独でも、他の原料組成中の金属粉末との混合でもかまわない。例えば、成形体を熱処理する場合、成形体と同一の組成から成る粉末の中に成形体を埋めて加熱してもよい。
【0026】
この熱処理は温度350〜450℃が好ましく、特に375〜425℃、更には390〜410℃であると粉末の表面エネルギーが大きい微粉末が焼結し、特に微粉末を多く含む粉末の場合、D90/D50比を小さくすることができ、より安定した熱電素子を得ることができる。
【0027】
また、熱処理は熱処理条件にもよるが、原料粉末の表面に存在する酸素を十分に除去するため、熱処理は1時間以上行うことが好ましい。
【0028】
次いで、成形体を焼成するが、本発明によればこの焼結は、前記原料粉末を、パルス通電焼結法(PECS)、ホットプレス(HP)、ガス圧焼結(GPS)、熱間等方加圧焼結(HIP)のうち少なくとも1種を用いて焼成することが好ましい。これらの焼成が短時間で終了するため、焼結中の粒成長を抑え、微細で均一な結晶組織を実現してより熱電特性を改善するためであり、特にPECS、HPがより簡便に、より緻密な焼結体を得る点で好ましく、更にはPECSで行うと焼結時間が昇温を含め30分以内で完了するため組織制御が容易で、より優れた特性が得られる点でPECSが好ましい。
【0029】
焼成温度は、融点(T)よりも150℃程度低い温度範囲、特に(T−120℃)〜(T−20℃)の温度範囲が好ましい。例えばBi2Te3であれば400〜500℃程度、Bi0.5Sb1.5Te3であれば400〜480℃程度が望ましい。
【0030】
このように作製した熱電素子は、平均長軸径10μm以下の微細な結晶を有する焼結体からなり、3.0×10-3/K以上、特に4×10-3/K以上、さらには4.5×10-3/K以上、より好適には5×10-3/K以上、更に好適には5.5×10-3/K以上の優れた熱電特性を示す。
【0031】
なお、性能指数(Z)とは、ゼーベック係数をS、抵抗率をρ、熱伝導率をkとしたとき、Z=S2/ρkで定義されるもので、熱電素子を冷却素子あるいは発電素子として用いる場合の効率を示すものである。
【0032】
本発明の製造方法により作製した熱電素子は、熱電モジュールに使用することにより、冷却特性の高い冷却部品を実現でき、レーザーダイオード冷却用等として使用できる。
【0033】
【実施例】
純度99.99%以上のBi2Te3粉末、Sb2Te3粉末及びドーパントとしてSbI3粉末を準備した。n型素子原料としてBi2Te3粉末100重量部に対してSbI3粉末0.1重量部の割合で調合した。また、p型素子原料としてBi2Te3粉末20モル%、SbTe3粉末80モル%の割合で調合した。
【0034】
上記の原料をそれぞれポリエチレン製ポットに入れ、イソプロパノールと窒化珪素ボールを加えて、振動ミルにより20時間粉砕した。得られたスラリーを取り出し、乾燥後、40メッシュにて篩通しし、焼結前粉末を得た。なお、原料粉末同士はモル比で調合し、ドーパントは原料粉末全体と重量比で添加した。得られた粉末の粒度分布はレーザー回折法で求め、D50、D90およびD90/D50を求めた。
【0035】
上記の粉末を表1に示す条件で熱処理した後、カーボン型に充填し、ホットプレス法(HP)は温度450℃、加圧圧力50MPaで、パルス通電焼結法(PECS)は温度420℃、加圧圧力50MPaで焼成した。また、上記粉末をプレス圧150MPaで直径20mm、厚み15mmに成形し、成形体を表1に示す条件で熱処理した後、試料No.21は、温度500℃、圧力0.9MPaのAr雰囲気でガス圧焼結法(GPS)により、試料No.22は、温度500℃、圧力100MPaで熱間等方加圧焼結法(HIP)により焼成した。
【0036】
焼結体は成形時のプレス方向に対して垂直な方向に対して熱伝導率、ゼーベック係数及び抵抗率を測定するために、それぞれ測定試料を作製した。熱伝導率測定には、直径10mm、厚み1mmの円板試料を、ゼーベック係数、抵抗率測定には縦4mm、横4mm、長さ15mmの角柱試料を作製した。
【0037】
熱伝導率はレーザーフラッシュ法により、ゼーベック係数、比抵抗は真空理工社製熱電能評価装置により、それぞれ20℃の条件下で測定した。
【0038】
なお、熱電性能指数Zは、式Z=S2/ρk(Sはゼーベック係数、ρは抵抗率、kは熱伝導率である)より算出した。また、ばらつきは、最大値と最小値の差を平均値で割った値をパーセントで表した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
Te粉末と共に熱処理した本発明の試料No.1〜12及び14〜20は、いずれも、性能指数の平均値が4.13×10-3/K以上、そのばらつきが40%以下であった。
【0041】
一方、Te粉末を用いないで熱処理した本発明の範囲外の試料No.13は、性能指数の平均値が1.18×10-3/K、そのばらつきが70%であった。
【0042】
また、熱処理を行わなかった本発明の範囲外の試料No.21は、性能指数の平均値が2.76×10-3/K、そのばらつきが75%であった。
【0043】
【発明の効果】
本発明によれば、原料粉末又は成形体を焼成する前にTe粉末が配設された水素気流中で熱処理することによって、原料粉末の表面に存在する酸素を効率よく除去でき、その結果、性能指数を改善するとともに、酸素含有量のばらつきによって生じていた特性ばらつきを低減することができた。
Claims (4)
- Bi,Sb,Seの少なくとも1つと、Teとを含む原料粉末又は成形体を焼成して、性能指数が3.0×10−3/K以上の焼結体を作製する熱電素子の製造方法において、
前記原料粉末及び/又は前記成形体をTe粉末が配設された水素気流中で熱処理し、しかる後に焼成することを特徴とする熱電素子の製造方法。 - 前記成形体を作製する前に、予め前記原料粉末の累積重量比50%における平均粒子径(D50)が0.5〜10μm、累積重量比90%における粒子径(D90)が0.7〜20μm、粒子径比D90/D50が1.2〜4.0になるように粉砕することを特徴とする請求項1に記載の熱電素子の製造方法。
- 前記原料粉末を、窒化珪素製ボールを用いて粉砕することを特徴とする請求項2に記載の熱電素子の製造方法。
- 前記原料粉末を、パルス通電焼結法、ホットプレス法、ガス圧焼結法、熱間等方加圧焼結法のうち少なくとも1種を用いて焼成することを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれかに記載の熱電素子の製造方法。
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