JP4493567B2 - リップ状シール部材及び該リップ状シール部材を用いた車両用液圧マスタシリンダ - Google Patents
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前記リップ部を被シール面に対して液密にかつ摺動可能に押圧するリップ状シール部材であって、
ゴムと、該ゴムに分散されたカーボンナノファイバーと、を含む無架橋のゴム組成物で形成され、
前記無架橋のゴム組成物は、30℃の動的弾性率に対する150℃の動的弾性率の割合である動的弾性率の保持率が50%以上であることを特徴とする。
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.7〜15nmかつ平均長さが0.5〜100μmとすることができる。
また、本発明にかかるリップ状シール部材において、前記無架橋のゴム組成物は、30℃及び150℃における動的弾性率がいずれも8MPa以上であることができる。
前記ピストンが挿入されるシリンダ孔を有するシリンダボディと、
前記ピストンと前記シリンダ孔の底部との間に画成された液圧室と、
前記ピストンが前記底部に対して後退した際に、前記液圧室と貯液室とを連通する連通路と、を含み、
前記連通路は、前記シリンダ孔の内周壁に開口部を有し、
前記リップ状シール部材は、前記ピストンの移動によって、前記連通路の開口部を通過して前記シリンダ孔の内周壁に対し摺動することを特徴とする。
本実施の形態にかかるリップ状シール部材(カップシール82a,82b,92a,92b、Xリング10)は、環状のベース部821と、該ベース部821から無端状に突出形成されたリップ部822と、を有し、リップ部822を被シール面に対して液密にかつ摺動可能に押圧するリップ状シール部材であって、リップ状シール部材は、ゴムと、該ゴムに分散されたカーボンナノファイバーと、を含む無架橋のゴム組成物で形成され、無架橋のゴム組成物は、30℃の動的弾性率に対する150℃の動的弾性率の割合である動的弾性率の保持率が50%以上である。
本実施の形態にかかる液圧マスタシリンダ73は、例えば四輪車両用のブレーキ装置であり、液圧式ブレーキ装置71の一部を構成する。この液圧式ブレーキ装置71は、液圧マスタシリンダ73および液圧式ブレーキ(図示せず)を含む。図1においては、液圧式ブレーキ装置71のうち液圧マスタシリンダ73の部分のみが示されている。液圧マスタシリンダ73には、負圧ブースタ(図示せず)を介してブレーキペダル(図示せず)が取り付けられている。また、液圧マスタシリンダ73と液圧式ブレーキとは、液圧配管75(矢印を用いて省略して示す)によって連結されている。
本実施の形態にかかるプランジャポンプ1は、アルミニウム製のポンプハウジング2内に形成された円筒状のカム室3と、カム室3と連通して延びる円筒状のシリンダ孔9と、を含む。カム室3には図示せぬ電動モータの出力軸4が突出し、出力軸4に取り付けられた偏心カム軸41と、その偏心カム軸41の外周にボールベアリングを有するカム42が配置されている。シリンダ孔9は、一方をカム室3に開口し、他方を蓋状の出力室体7によって閉鎖され、プランジャ5が摺動可能に配置されている。そして、プランジャ5に配置された吸入弁20と、ポンプ室体6に配置された吐出弁22とによってポンプ室44が形成される。
まず、本実施の形態にかかるゴムは、天然ゴムもしくは合成ゴムであって、分子量が好ましくは5000ないし500万、さらに好ましくは2万ないし300万である。ゴムの分子量がこの範囲であると、ゴム分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、ゴムは、凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、したがってカーボンナノファイバー同士を分離する効果が大きい。ゴムの分子量が5000より小さいと、ゴム分子が相互に充分に絡み合うことができず、後の工程で剪断力をかけてもカーボンナノファイバーを分散させる効果が小さくなる。また、ゴムの分子量が500万より大きいと、ゴムが固くなりすぎて加工が困難となる。
本実施の形態にかかるカーボンナノファイバーは、平均直径が0.7〜15nmかつ平均長さが0.5〜100μmである。リップ状シール部材のゴム組成物において、前記ゴム100重量部に対して、カーボンナノファイバーの含有量は5〜100重量部であることが好ましい。ゴム組成物におけるカーボンナノファイバーの配合量が5重量部よりも少ないとカーボンナノファイバーの補強効果が小さく、100重量部を超えると硬度や弾性率が高くなり好ましくない。このように非常に細いカーボンナノファイバーで補強することによって、高温における物性低下を小さくすることができる。なお、カーボンナノファイバーが0.7nmより細いものは入手が困難であり、15nmを越えるものは材料特性(補強効果)が得ることができないので好ましくない。
本実施の形態にかかるゴム組成物の製造方法としては、ゴムとカーボンナノファイバーとを、オープンロール、単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなど公知の混合機に供給し、混練して得られる。カーボンブラックなどのカーボンナノファイバー以外の充填材は、カーボンナノファイバーを供給する前に混合器に供給することが好ましい。通常、この混練の際に、カーボンブラックと同量程度のプロセスオイルが使用されるが、本発明のゴム組成物の製造過程では使用しないことが望ましい。プロセスオイルを用いて製造されたリップ状シール部材を用いた液圧マスタシリンダは、プロセスオイルが作動液中に溶け出し、作動液の性能の経時変化や耐熱性の変化の原因となるからである。
本実施の形態にかかる無架橋のゴム組成物は、10Hz、30℃及び150℃における動的弾性率がいずれも8MPa以上である。また、この無架橋のゴム組成物は、30℃から150℃への温度上昇に伴う動的弾性率の保持率が50%以上である。リップ状シール部材としては、大きな圧力変動に耐えるためには高温においても高い動的弾性率を安定して維持することが好ましく、特に、本実施の形態にかかる液圧マスタシリンダのカップシールとして用いた場合、望ましいクワレ耐久性を有するためには動的弾性率が8MPa以上であることが好ましい。また、本実施の形態にかかる液圧マスタシリンダのカップシールとして用いた場合、30℃から150℃への温度上昇に伴う動的弾性率の保持率が50%以上であると、高温においても望ましいクワレ耐久性を有する。
混練されたゴム組成物は、リップ状シール部材の形状を有した金型を用いて押出成形もしくは射出成形される。一般にゴム組成物を架橋成形してリップ状シール部材を得るが、本実施例のリップ状シール部材は、無架橋のまま成形され、再利用(リサイクル)可能である。
(a)無架橋ゴム組成物の作製
1)6インチオープンロール(ロール温度10〜20℃)に、ゴムを投入して、ロールに巻き付かせた。
2)ゴム100重量部(phr)に対して表1に示す量(重量部(phr))のカーボンナノファイバー(表1では「CNT13」と記載する)をゴムに投入した。実施例4と5においては、さらにカーボンブラック(表1では「HAF−HS」と記載する)を、実施例3と5においては、繊維(絹糸)を、ゴムに投入した。このとき、ロール間隙を1.5mmとした。
3)カーボンナノファイバーを投入し終わったら、ゴムとカーボンナノファイバーとの混合物をロールから取り出した。
4)ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして、混合物を投入して薄通しをした。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。薄通しは繰り返し10回行った。
5)ロールを所定の間隙(1.1mm)にセットして、薄通しした混合物を投入し、分出しした。
前記(a)で得られたゴム組成物を射出成形し、実施例1〜6および比較例2、3の無架橋のカップシールを得た。比較例1は、カップシールに成形された後、架橋した。
各無架橋サンプルについて、電子顕微鏡(SEM)を用いて、カーボンナノファイバー及びカーボンブラックの分散の状態を観察した。全てのサンプルでカーボンナノファイバー及びカーボンブラックがゴム中に均一に分散している様子が観察された。
各無架橋のゴム組成物について、ゴム硬度(JISA)、引張強度(TB)および切断伸び(EB)を測定した。ゴム硬度(JISA)については、JIS K 6253によって測定した。TB及びEBについては、JIS K 6521−1993によって測定した。これらの結果を表1に示す。
各無架橋のゴム組成物について、30℃及び150℃におけるE’(動的弾性率)をJIS K 6521−1993によって測定した。さらに、E’保持率(%)として30℃のE’に対する150℃のE’の割合(E’保持率(%)=E’(150℃)/E’(30℃)・100)を計算した。これらの結果を表1に示す。
原料ゴム単体および無架橋のゴム組成物について、動的粘弾性測定(JIS K 6394)によって流動温度を測定した。具体的には、流動温度は、幅5mm、長さ40mm、厚み1mmのサンプルに正弦振動(±0.1%以下)を与え、これによって発生する応力と位相差δを測定して求めた。このとき、温度は、−70℃から2℃/分の昇温速度で200℃まで変化させた。その結果を表1に示す。なお、表1において、200℃までサンプルの流動現象がみられない場合を「200℃以上」と記載した。
各無架橋のゴム組成物について、パルス法NMRを用いてハーンエコー法及び反復法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核が1H、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、無架橋のゴム組成物は、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は150℃であった。この測定によって、サンプルの第2のスピン−スピン緩和時間を有する成分の成分分率(fnn)を求めた。その結果を表1に示す。
各カップシールのサンプルを、オープンロールで混練し、射出成形してカップシールを作成する工程を5回繰り返して製品(カップシール)が作成可能であるかどうかを評価した。その結果を表1に示す。なお、表1において、「○」は製品が作成可能であったことを示し、「×」はリサイクルできなかったことを示し、「−」はリサイクル試験を行なっていないことを示す。
カップシール部材の表面粘着性によって成形性を評価した。その結果を表1に評価を示す。表面の粘着性が高く成形が困難な場合には「×」を記入し、表面の粘着性が低く成形が容易である場合には「○」を記入した。
各ゴム組成物について、圧縮永久歪(JIS K6262)を測定した。圧縮永久歪は、150℃、70時間、25%圧縮の条件で行なった。圧縮永久歪は、カップシールのいわゆる耐ヘタリ性についての評価である。高温定荷重疲労は、150℃、2MPaの荷重を繰り返し与え、破断した回数を求めた。これらの結果を表1に示す。
各カップシールサンプルについて、クワレ耐久性を測定した。クワレ耐久性は、液圧マスタシリンダのピストンに各カップシールサンプルを装着し、リザーバを満タンにした状態で、ABS作動を行なった。具体的な条件は、室温、ABS開始圧2.45MPa、キックバック圧14.7〜17.6MPa、リザーバ液残しのフル減モード、1分間に1サイクルを50サイクル行い、クワレによる損傷の有無を観察した。これらの観察結果を表1にしめす。なお、表1において、「○」は損傷が見られなかったものを示し、「×」は損傷がみられたものを示す。
2 ポンプハウジング
3 カム室
5 プランジャ
9 シリンダ孔
10 Xリング
71 液圧式ブレーキ装置
73 液圧マスタシリンダ
75 液圧配管
76 シリンダボディ
76b 底部
77 シリンダ孔
78 リザーバ
79,89 リリーフポート
79a,89a 開口部
80,90 サプライポート
81,91 ピストン
82a,82b,92a,92b カップシール
83,93 液圧室
88,98 ばね
Claims (9)
- ベース部と、該ベース部から無端状に突出形成されたリップ部と、を有し、
前記リップ部を被シール面に対して液密にかつ摺動可能に押圧するリップ状シール部材であって、
ゴムと、該ゴムに分散されたカーボンナノファイバーと、を含む無架橋のゴム組成物で形成され、
前記無架橋のゴム組成物は、30℃の動的弾性率に対する150℃の動的弾性率の割合である動的弾性率の保持率が50%以上である、リップ状シール部材。 - 請求項1において、
前記無架橋のゴム組成物は、前記ゴム100重量部に対して、前記カーボンナノファイバーを5〜100重量部含み、
前記カーボンナノファイバーは、平均直径が0.7〜15nmかつ平均長さが0.5〜100μmである、リップ状シール部材。 - 請求項1または2において、
前記無架橋のゴム組成物は、30℃及び150℃における動的弾性率がいずれも8MPa以上である、リップ状シール部材。 - 請求項1ないし3のいずれかにおいて、
前記ゴムは、分子量が5000ないし500万である、リップ状シール部材。 - 請求項1ないし4のいずれかにおいて、
前記ゴムは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒である、リップ状シール部材。 - 請求項1ないし5のいずれかにおいて、
前記ゴムは、エチレン・プロピレンゴムもしくはスチレン−ブタジエンゴムである、リップ状シール部材。 - 請求項1ないし6のいずれかにおいて、
前記無架橋のゴム組成物の流動温度は、150℃以上である、リップ状シール部材。 - 請求項1ないし7のいずれかにおいて、
前記リップ状シール部材は、カップシールまたはXリングである、リップ状シール部材。 - 請求項1ないし8記載のいずれかのリップ状シール部材を装着されたピストンと、
前記ピストンが挿入されるシリンダ孔を有するシリンダボディと、
前記ピストンと前記シリンダ孔の底部との間に画成された液圧室と、
前記ピストンが前記底部に対して後退した際に、前記液圧室と貯液室とを連通する連通路と、を含み、
前記連通路は、前記シリンダ孔の内周壁に開口部を有し、
前記リップ状シール部材は、前記ピストンの移動によって、前記連通路の開口部を通過して前記シリンダ孔の内周壁に対し摺動する、車両用液圧マスタシリンダ。
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