磁気ディスク等の磁気記録媒体は、近年めざましい技術革新により高容量化、高記憶密度化の要求が高まり、このため各種基板表面加工の高精度化が要求されている。
近年、高容量化、高記憶密度化に伴い、記録ディスクと磁気ヘッドとの間隔、つまり、磁気ヘッドの浮上高さは小さくなってきており、最近では5nm以下が要求されている。磁気ヘッドの浮上高さが著しく小さくなることにより、磁気ディスクの表面に突起があるとその突起と磁気ヘッドとが接触してヘッドクラッシュを起こし、ディスク表面に傷が発生する。また、ヘッドクラッシュには至らない程度の微小な突起でも、磁気ヘッドとの接触により情報の読み書きの際に発生するエラーの原因となる。記録ディスクについては、高容量化、高密度化と平行して小型化も進んできており、これに併せてスピンドル回転用のモーター等も小型化されてきている。このため、モーターのトルクが不足し、磁気ヘッドが記録ディスク表面とが密着し、浮上しなくなるというトラブルを引き起こす。
この記録ディスクと磁気ヘッドとの密着を防止する手段として、記録ディスクの基板表面に微細な条痕を形成するテクスチャー加工という表面処理が行われている。またテクスチャー加工を行うことにより、ディスク基板上に金属磁性層を形成する際の結晶成長の方向性を制御することで記録方向の抗磁力を向上させることが可能となる。
従来、テクスチャー加工の方法としては、遊離砥粒のスラリーを研磨布表面に付着させて研削を行うスラリー研削等が用いられている。しかし、テクスチャー加工によって、磁気ヘッドの低浮上を満足するための表面処理を行う場合、最近の急激な高記録容量化のための高記録密度化に対応するためには、研磨後のうねりを低くし、基板表面粗さを極めて小さくすることが要求され、その要求に対応しうる研磨布が求められている。テクスチャー加工において基板表面粗さを小さくするためには、クッション性や基材表面の平滑性に優れることから不織布を用いる方法が多く提案されてきた(特許文献1、特許文献2参照)。
中でも基材表面の平滑性向上やディスク基板表面への当たりの調節などを目的として、不織布を構成する繊維を極細化し、不織布に高分子弾性体を含浸させるという提案が種々なされており、例えば、0.3dtex以下の極細繊維不織布に高分子エラストマーを含浸させた研磨布が提案されており、この研磨布を用いた加工(特許文献3参照)では0.5nm程度の表面粗さを実現している。
また、極細繊維絡合不織布中に高分子弾性体が含有しており、0.03dtex以下の繊度を有する極細繊維からなる立毛が存在するテクスチャー加工用研磨シート(特許文献4参照)が提案されており、このシートを用いた加工では0.4nmの表面粗さを実現している。
また、繊維束内に繊維径の内外周差を有する極細繊維束から不織布とその空隙に高分子弾性体を充填してなる基材(特許文献5参照)を用いて、0.31nmの表面粗さを実現している。
更に、平均繊度0.001〜0.1dtexのポリアミド極細短繊維不織布からなる研磨布(特許文献6参照)が提案されており、0.28nmの表面粗さを実現している。
今後、更に表面粗さの極小化を実現できる技術が期待され、この技術の核となる超高精度な研磨布が要求されてきている。
遊離砥粒を含有するスラリーと不織布を主体とする研磨布を用いたテクスチャー加工方法では、まず研磨布をテープ状として用いる。次いで、基板を連続回転させた状態で、研磨テープを基板に押し付けながら、基板の径方向に往復運動させ、連続的に研磨テープを走行させる。その際に、スラリーを研磨テープと基板との間に供給し、スラリー中に含まれる遊離砥粒が研磨テープを構成する繊維に微分散した状態で把持され、基板に接触し研磨を行うものである。
従来の研磨布では、前述のテクスチャー加工において、低表面粗さを実現させるために必要な研磨布の使用量が多く、加工効率が低いものであった。更に、研磨布の使用量が多い、つまり基板1枚あたりの研磨布の接触総面積が広いことにより、初期段階において形成されるテクスチャー痕(微細な山や谷)を馴らす、すなわち微細な山や谷を平滑化させる作用が働くため、最終的に形成されるテクスチャー加工面の表面粗さこそ小さいものであるが、テクスチャー痕(微細な山や谷)の線密度が低く、シャープさに欠けることが影響して、分解能やS/N比などの電磁変換特性を著しく低下させる要因となり、ハードディスクドライブにおけるエラーの原因となっていた。
ハードディスクの電磁変換特性を向上させるためには、研磨布の使用量を少なくしたライトテクスチャー(軽度な研磨)にて、表面粗さを極小化し、且つシャープなテクスチャー痕を線密度が高い状態で形成させる必要がある。
これに対して、高分子弾性体が極細繊維束の大部分を実質的に拘束しない、すなわち、極細繊維束と高分子弾性体との間に空隙を形成させる構造を有する研磨布(特許文献4参照)が提案されているが、この構造では、立毛面を構成する極細繊維束の自由度が大きすぎるために、立毛繊維が乱れた方向性をもって分布された状態となり、テクスチャー加工において、0.3nm以下の基板表面粗さを実現するのに必要な研磨布の使用量が、必然的に多くなり、テクスチャー痕のシャープさにも欠け、線密度が小さい状態となってしまうため、電磁変換特性の低下につながるという欠点を惹起することとなっていた。
このように、従来の研磨布では、使用量を少なくした場合には、テクスチャー痕が形成されない未加工部分が発生し、表面粗さが大きくなってしまうため、高記録密度ハードディスクに対応可能な超高精度な加工面に仕上げることができなかったものである。
また、ハードディスクに要求される面記録密度を向上させるために、単位記録面積を小さくする必要性はますます高まってきており、従来のテクスチャー加工において、スクラッチ欠点と判定されなかった微細な傷、突起がエラーの原因となることがわかり、この微細な傷、突起がスクラッチ欠点とみなされる。よって、更なる基板の平滑性及び均一性の向上が必要となってきており、該要求に対応するためには、研磨布表面の平滑性及び均一性を向上させる必要性が高まっている。
これに対して、極細繊維を発生させる複合繊維の繊維収縮率を高め、絡合体の面積収縮率を高め、その後、圧縮する方法、高分子弾性体を不織布シートに付与後、高分子弾性体の溶剤または膨潤剤をシートに付与し、その後圧縮する方法などを組み合わせた方法を用いることにより、立毛シートの立毛面を表面自動変角光度計により測定した変角反射曲線から求められる数値を規定する技術(特許文献7参照)が提案されているが、かかる方法では、構造体として、高分子弾性体が極細繊維束の内周部の繊維にまで強固に接着する状態となりやすいとともに、繊維束同士の拘束力が高くなりすぎるために、立毛繊維が束状状態で分布し、粗密ムラが著しく大きくなり、テクスチャー加工において、0.3nm以下の基板表面粗さを実現できず、且つスクラッチ欠点を発生しやすいものであった。
このように従来の研磨布を使用した場合、研磨砥粒を均一且つ微分散させることが不十分であるため、研磨砥粒が局所的に凝集したり、局所的に砥粒が存在しない状態が発生し、研磨精度を低下させ、微細な傷、突起からなるスクラッチ欠点が生じやすく、該スクラッチ欠点により電磁変換特性が著しく低下し、生産歩留まりの上から問題が内在していた。
特開平9−262775号公報
特開平9−277175号公報
特開2001−1252号公報
特開2002−79472号公報
特開2002−172555号公報
特開2002−273650号公報
特開2001−67659号公報
本発明は、前記した課題、つまりテクスチャー加工に必要な研磨布の使用量を少なくすることができ加工効率に優れ、軽度なテクスチャー加工で、0.3nm以下という高精度化とスクラッチの抑制を両立するという課題について、鋭意検討し、研磨布表面上の立毛繊維の方向性及び分散性に着目して、研磨布を構成するシート状物を、極細繊維束の最外周に位置する繊維を部分的に接着拘束した特定な極細繊維束で作ってみたところ、このシート状物にバッフィング処理を施してみると、見事に、形成される立毛が、一方向に直線状に揃えられた状態で配列されると同時に、かかる課題を一挙に解決することができることを究明したものである。
本発明の研磨布を構成する不織布について説明する。具体的には、海島型パイプ口金を用いて、少なくとも2成分のポリマーからなる極細繊維発生型繊維を複合紡糸、延伸、捲縮、カットを経て得る原綿を用いて、ニードルパンチングにより絡合させて不織布を構成する。次いで、該複合繊維からなる不織布に水溶性樹脂を付与した後に、海成分を溶解除去あるいは物理的、化学的作用により剥離、分割し、平均繊維径0.5〜4μmに極細化した後、極細繊維重量に対し20%〜60%の高分子弾性体を付与し、該高分子弾性体を実質的に凝固、固化させる。次いで、該水溶性樹脂を溶解除去した後に、シート面積収縮率10%以上となる収縮処理及びバッフィング処理を施すことにより、本発明の研磨布を達成しうるものである。
さらに、本発明の研磨布の製造方法について詳細に記述する。
本発明の研磨布は、極細短繊維束を絡合させてなる不織布とその内部空間に存在する高分子弾性体とからなるものであるが、該極細繊維束の最外周に位置する繊維が、該高分子弾性体によって部分的に接合、拘束されている構造であることが特に重要である。
つまり、かかる高分子弾性体が、極細繊維束の最外周に位置する繊維を部分的に接合、拘束している構造とは、図1に示す研磨布を厚さ方向となす角度で0°〜30°にカットした断面における極細繊維イからなる極細繊維束について、高分子弾性体ロが極細繊維束の最外周層を形成する複数の繊維にまたがって接着しており、極細繊維束の内部、すなわち極細繊維束の最外周に位置する繊維の内側には高分子弾性体が存在しない状態を指すものである。更に詳しくは、研磨布を厚さ方向となす角度で0°〜30°にカットした断面を観察面として走査型電子顕微鏡により観察し、任意の30カ所の極細繊維束について、繊維束の最外周に位置する繊維の総本数に占める高分子弾性体が接着している繊維の本数の割合が5〜30%である状態を指すものである。
極細繊維束の最外周に位置する繊維を高分子弾性体が部分的に接着、拘束したことにより、立毛面上の立毛極細繊維の自由度を適度にコントロールすることができるので、その結果、バッフィング処理後の立毛繊維の方向性が極めて少なくし、すなわち、一方向に揃えられた状態に調整することができる。また、極細繊維束の内部に高分子弾性体が存在しない状態とすることにより、立毛繊維が均一に分散した状態となり、束状に膠着していないため、立毛面上に存在する極細繊維の粗密ムラが小さく、均一に配列した状態とすることができる。このように、立毛繊維が緻密且つ均一分散した状態で分布し、且つ繊維の方向性が一方向に揃えられた状態の構造とすることにより、研磨布の使用量が少ないライトテクスチャー加工において、表面粗さを0.3nm以下に制御でき、且つスクラッチ欠点を極めて少なくすることを可能とすることができる。
高分子弾性体と極細繊維束の最外周に位置する繊維とが部分的に接合されている構造とするためには、次の手段を採用することができる。
まず、極細繊維発生型繊維において、極細繊維を構成する島成分の島数が30以上で、溶解除去する海成分からなる繊維横断面において、極細繊維束の最外周に位置する島成分の外側に位置する海成分の最小厚み(t)と複合繊維の繊維径(d)との比(t/d)が0.03以上であることが必要である。
次いで、該海島型複合繊維からなる絡合不織布を形成した後、水溶性樹脂を含浸付与せしめ、海島型複合繊維の表面を水溶性樹脂により覆い、海成分を溶解除去した後に、高分子弾性体を含浸付与させる方法を用いることが必要である。
島数が30未満である場合には、不織布シートに高分子弾性体を含浸する際に、高分子弾性体が極細繊維束内部に入り込みやすく、繊維束内部の繊維を拘束するため、立毛繊維の分散性の低下につながるため好ましくない。また、上記のt/dが0.03未満である場合には、極細繊維束の最外周に位置する繊維と水溶性樹脂との間の空隙が小さく成りすぎるため、海成分除去後に付与される高分子弾性体が極細繊維束の最外周繊維に接着した状態となりにくいため、極細繊維束の自由度が大きくなり、立毛繊維の方向性が大きくなり、乱れた分布状態となりやすいため好ましくない。
上記の特徴を有する海島型複合繊維を得るには、例えば、海成分ポリマーと島成分ポリマーとを別々に流入し、一旦芯鞘複合流を形成した後、該芯鞘複合流を集合して海島型複合繊維を得る紡糸口金装置において、図2に示す島成分ポリマーAと海成分ポリマーBとからなる繊維横断面の最外周部における海成分からなる部分の最小厚み(t)と複合繊維の繊維径(d)との比(t/d)が0.03以上となるように、該芯鞘複合流が集合して成る海島型複合流の外周を更に海成分で覆うために海成分のみの流入孔を該芯鞘複合流の流入孔とは別に該芯鞘複合流の流入孔の外周に少なくとも16孔以上設けた島数が30以上となる海島型複合紡糸口金装置や海成分ポリマーと島成分ポリマーとを別々に流入し、一旦芯鞘複合流を形成し、該芯鞘複合流が集合して形成される海島型複合流を芯成分とした後に、別のポリマー導入孔より芯成分の外周に鞘成分を配する芯鞘型海島複合紡糸装置を用いるのが好ましい。この芯鞘型海島複合紡糸装置において、鞘成分は海島型複合流を構成する海成分と同一成分であってもよく、繊維横断面における最外周に位置する島成分の外側の成分の最小厚み(t’)と複合繊維の繊維径(d)との比(t’/d)が0.03以上となっていればよい。
芯鞘複合流が集合して成る海島型複合流の外周を更に海成分で覆うために海成分のみの流入孔を該芯鞘複合流の流入孔とは別に芯鞘複合流の流入孔の外周に少なくとも16孔以上設けた島数が30以上となる海島型複合紡糸口金装置について代表的な紡糸口金装置の構造例を図3に基づいて具体的に説明する。
図3において、島成分ポリマーAは、流入孔2より導入され、管5に流入する。海成分ポリマーBは、流入孔3より導入され、分配室6を経て導入孔4に至り、ここで、前記島成分ポリマーAを芯とする第1次芯鞘複合流を形成し、下方にある複合流集合室10へ群状となって流入する。一方、前記分配室6内の海成分ポリマーBは、分配室6と複合流集合室10の隔壁である複合板7に穿設されている通過孔8を通って芯鞘複合流を形成することなく複合流集合室10に流入する。ここで、該通過孔8から流入した海成分ポリマーBは、導入孔4から流入した複数の前記芯鞘複合流の外周に充填される。尚、この充填成分と上記第1次複合流の鞘成分とは、共に成分Bであるために、複合流集合室10内では成分Bの中に成分Aの芯成分が点在した構造、すなわち、成分Bが海成分、成分Aが島成分となった、いわゆる海島構造の第2複合流が形成され、これが紡糸吐出孔11から海島型複合繊維として紡出される。
このように構成された本発明の紡糸口金装置においては、芯鞘複合流となって、集合室10に至る芯鞘成分ポリマー流路(管5と導入孔4)の流路抵抗と、単独に集合室10に海成分Bが導入される流路(通過孔8)の流路抵抗とを適宜設計することにより、芯鞘複合流となって、前記集合室10に供給される芯鞘成分ポリマーと、単独に集合室10に供給される海成分Bとは、それぞれの供給割合で任意に調節される。ここで、通過孔8の孔数としては、紡糸吐出孔11のひとつの孔に対して、16孔以上であることが好ましい。すなわち、15孔以下の場合では、島数が30島以上の多島複合繊維の場合では、導入孔4から流入した複数の前記芯鞘複合流の外周に均一に充填することが難しくなり、結果としてt/dが0.03未満となることがある。
また、図5に示す海島型複合紡糸口金装置を用いた場合では、図4に示す通過孔8を設けていないため、繊維横断面における最外周に位置する島成分の外側の成分の最小厚み(t’)と複合繊維の繊維径(d)との比(t’/d)が0.03未満になりやすいため好ましくないのである。
本発明では、研磨布表面を構成する立毛繊維の大部分が立毛面内における一方向に直線状に揃えられた状態で配列していることが特に重要である。
立毛繊維の大部分が立毛面内における一方向に直線状に揃えられた状態で配列しているとは、次の構造体であることを指すものである。
まず、シート表面をシートの長手方向にバッフィングする過程において、バッフィング方向によって、立毛に方向性が付与される。ここで、立毛表面をブラシでなでた場合に立毛が倒れやすい方向を順目方向、立毛が起きる方向を逆目方向と定義する。素材がナイロン(210D−15f、東レ製)フィラメントを用い、地タテ糸×地ヨコ糸=85×57本/インチ、パイル本数=594株/25mm2 、パイル長=2.6mm(生地裏からパイル先端までの厚み)の二重パイル織物とし、ヒートセットして、一方向にパイルを傾斜させたブラシ生地を、重さ400gの長さ×幅=10cm×10cmの平面を有する荷重に張り付け固定したものを立毛シートの立毛面にのせて、立毛の正方向に5m/分程度の速度でなでる。この操作を5回繰り返し、評価試料とする。
この評価試料表面の中から、タテ1cm×ヨコ1cmのサンプルを10枚採取する。該サンプルの順目方向を下向きにして、倍率500倍にて電子顕微鏡写真を撮影する。この操作を10枚のサンプル全てに繰り返し実施する。
表面電子顕微鏡写真において、写真面上にて、直線状に配列しているある一本の繊維に対して垂線を引く。10枚のサンプルの全てにおいて、該垂線に対し、立毛繊維の少なくとも60%以上が70〜90度の角度で直線状に交わっている状態を指すものである。
立毛繊維が直線状となっていない、すなわち曲率が大きな巻き毛状となっている立毛繊維が多い状態や、立毛繊維の方向性が乱れが大きく、局所的に偏って分布している状態では、研磨布表面にスラリーを滴下する際に、立毛繊維の不均一分布を反映して、遊離砥粒が均一に分散されず、偏った分布状態となり、テクスチャー加工において、0.3nm以下の基板表面粗さを実現するのに必要な研磨布の使用量が多く、テクスチャー痕のシャープさに欠け、線密度が小さい状態となり、電磁変換特性の低下につながるため好ましくない。また、局所的に砥粒が凝集しやすいために、スクラッチ欠点を発生しやすいため好ましくない。
本発明の研磨布の立毛繊維の大部分が立毛面内における一方向に直線上に揃えられた状態で配列している構造体とするには、極細短繊維束を絡合させてなる不織布とその内部空間に存在する高分子弾性体とからなるシート状物において、該極細繊維束の最外周に位置する繊維が、該高分子弾性体によって部分的に接合、拘束されている構造体とし、後述するバッフィング処理を施すことが必要である。
この構造にする方法は、後述する海島型複合繊維からなる不織布に、まず、水溶性樹脂を付与した後、海成分を溶解除去し、極細繊維化し、次いで高分子弾性体を付与させると、現実には、海成分を溶解除去した段階で、該水溶性樹脂膜と該極細繊維との間に隙間が発生する。この状態にある不織布に高分子弾性体を付与させる。つまり、極細繊維化した後に、高分子弾性体を付与するのである。こうすることによって、該水溶性樹脂膜と極細繊維とで構成された隙間に高分子弾性体を流入させることができ、結果的に高分子弾性体で極細繊維を直接固定して、つまり接合、拘束することができるのである。
かかる極細短繊維束を絡合させてなる不織布とその内部空間に存在する高分子弾性体とからなるシート状物において、該極細繊維束の最外周に位置する繊維が、該高分子弾性体によって接合、拘束されていない状態、すなわち極細繊維束と高分子弾性体との間に空隙を形成されている構造体にバッフィング処理を施す場合には、立毛面を構成する極細繊維束の自由度が大きすぎるために、立毛面内における立毛繊維の方向性が極めて大きく、乱れて分布する状態となり、立毛繊維の分布に偏りが生じ、粗密ムラが大きくなるため、高精度のテクスチャー加工に適さないのである。
本発明では、上記の極細繊維発生型繊維の溶解抽出成分を溶解除去した後の極細短繊維の平均繊維径は0.5〜4μmであることが特に重要であり、1〜3μmであることがより好ましい。0.5μm未満である場合には、繊維強度及び剛性が低く、研削不足になるばかりでなく、スラリー中の遊離砥粒の保持性、分散性に劣るため、スクラッチが発生しやすいため好ましくない。4μmを越える場合には、研磨布表面での立毛繊維の緻密性に劣り、高精度の仕上げを達成できないため好ましくない。
本発明では、研磨布を構成する極細短繊維の繊維径のCV値が10%以下であることが好ましい。ここで、繊維径のCV値とは極細繊維の繊維径バラツキを表すもので、該繊維径分布の標準偏差を、極細繊維の繊維径の平均値で除して100を掛けた値のことである。
研磨布を構成する極細繊維の繊維径バラツキが大きいものは、研磨布表面における低繊度繊維と高繊度繊維との剛性差に起因する立毛繊維の分布の偏りが生じるとともに、砥粒分散の不均一性につながり、基板表面粗さの低減、研磨後のうねりの抑制及びスクラッチの抑制という高精度のテクスチャー加工を達成できない。所望の繊維径を有する極細繊維を得るには、海島型複合繊維などの極細繊維発生型繊維を用いるのが好ましく、通常、極細繊維発生型繊維の製造方法としては、海島型パイプ口金を用いた海島型複合紡糸法とチップブレンド、ポリマーブレンド等の混合紡糸法とが挙げられる。通常、混合紡糸法を用いて得られる極細繊維の繊維径CV値は30〜100%の範囲である。前記した特徴を有する極細短繊維を得る方法としては、海島型パイプ口金を用いた海島型複合紡糸法を用いることが必要であり、中でも、溶融ポリマーが均一分散されるよう分散板を調整し、かつ複合単繊維中の極細繊維の繊維径を均一にすべく適正な口金背面圧となるように口金寸法を調整した海島型パイプ口金を用いて、複合紡糸した後に、該海成分を除去することにより、極細短繊維の繊維径CV値を10%以下、好ましくは3〜10%の範囲にすることが可能となるものである。すなわち、極細短繊維の繊維径CV値は好ましくは3〜10%である。
本発明における基板表面粗さ0.3nm以下という超高精度のテクスチャー加工を生産性良く行うためには、前記繊維径CV値は10%以下とすることが好ましく、所望の繊維径CV値とするためには、海島型パイプ口金を用いた海島型複合紡糸法が最適である。チップブレンド、ポリマーブレンド等の混合紡糸法を用いると、複合繊維横断面における島成分の繊維径の内外周差が大きく、前記繊維径のCV値を達成するのは極めて難しいばかりでなく、海島型パイプ口金を用いた複合紡糸により得られる極細短繊維に比べ、部分的に極細短繊維同士が接着した束状となる状態になりやすく、繊維の均一分散性に劣るため、立毛繊維の粗な部分で砥粒の凝集が起こり、スクラッチが発生しやすい。海島型パイプ口金を用いた複合紡糸では、得られる極細短繊維束内での繊維間距離バラツキが小さいために、極細短繊維不織布を形成した際の表面繊維の均一分散性に優れており、基板の表面粗さの低減、基板表面の大きな傷の抑制を達成することができる。
本発明では、極細短繊維束内の繊維数は30〜300本/束であることが好ましい。より好ましくは70〜200本/束である。該極細繊維束内の繊維数を制御するためには、海島型パイプ口金における吐出孔あたりの島成分のパイプ本数をコントロールすればよく、30本/束未満である場合には、研磨布立毛面における緻密性に劣り好ましくない。一方、300本/束を越えると、バッフィング処理を施した際に極細繊維の分散性が低下し、立毛面の繊維分布が不均一になり、テクスチャー加工ムラという未加工部分が基板表面に発生するとともに、該研磨布にスラリーを付与した際に極細繊維が膠着しやすいため、研磨布表面上に繊維の存在しない部分が発生し、該部分に砥粒が凝集し、スクラッチの発生につながりやすく好ましくない。
本発明では、研磨布の立毛面における表面繊維本数の線密度が30本/100μm幅以上でかつシート連続長手方向における該線密度のCV値が10%以下であることが好ましい。
ここでいう表面繊維本数の線密度は以下により定義されるものである。該研磨布立毛面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、シート連続長手方向において、任意に1mm間隔で100μm幅の30カ所を抽出する。各抽出箇所における最表層に存在する極細繊維の繊維本数を測定し、表面繊維本数の線密度とする。またこれを母集団とした標準偏差値及び平均値から該線密度のCV値を算出する。表面繊維本数の線密度が30本/100μm幅未満である場合には、緻密性に劣り、砥粒を微細に分散させるに至らず、高精度の仕上げを達成できないとともに、研磨布表面上の繊維が存在しない部分に砥粒が凝集し、スクラッチの発生につながりやすく好ましくない。また、シート連続長手方向における表面繊維本数の線密度のCV値が10%を越える場合には、砥粒分散の不均一性につながり、研磨後のうねりが大きくなり、高精度の仕上げを達成できないため好ましくない。シート連続長手方向における表面繊維本数の線密度のCV値の好ましい範囲は、本発明者らの各種知見によれば、1%〜10%である。
該特性を満足させるためには、前述した特徴を有する極細繊維発生型繊維を用いて、研磨布の具体的製造方法として以下の構成とすることが好ましい。
まず、本発明における極細繊維発生型繊維の不織布を得るには、該複合繊維を短繊維化し、カード・クロスラッパーを用いてシート幅方向に配列させた積層ウエブを形成せしめた後、パンチングをするに際しては、針のバーブの向きが不織布ウエブ幅方向に対し垂直方向になるようにしてニードルパンチ処理を行うことが好ましい。ウエブを形成するという点においては、ランダムウエブなどを用いることも考えられるが、繊維配向の均一性に劣り好ましくない。またメルトブロー、スパンボンドなど紡糸から直接形成する長繊維不織布でもよいように考えられるが、とりわけ研磨布においては、極細繊維相互の絡合及び表面繊維の緻密性が、短繊維不織布よりも著しく劣り、かつ、表面繊維密度の粗密ムラが大きくなりすぎるので、極細長繊維不織布は研磨布としては使用することはできない。ニードルパンチの際の針のバーブ方向については、ランダム、45゜斜め向き等も考えられるが、シート幅方向に配列される複合繊維を高効率にて絡合させ、研磨布表面繊維の緻密性を得るためには、シート幅方向に対し垂直つまり90゜に向けることが最適なのである。ただし、もし、垂直にするのが難しいような場合には、該垂直方向から、±30度程度の角度範囲内、更に好ましくは±15度程度の角度範囲内でずれてバーブを用いるようにしてもある程度の効果が得られるので望ましいものである。バーブのスロートデプスとしては30〜150μmが好ましく、50〜100μmがより好ましい。ニードルパンチ処理のパンチング本数としては、繊維の高絡合化による繊維の高密度化(緻密な立毛面形成)の観点から1000〜3500本/cm2 であることが好ましい。1000本/cm2 未満では、研磨布表面繊維の緻密性に劣り、3500本/cm2 を越えると、加工性の悪化を招くとともに、繊維損傷が大きくなるため好ましくない。針のバーブの方向をシート幅方向に対し垂直にすることにより、上記範囲の針本数にて効率よく繊維絡合が進み、研磨布表面繊維の高密度化を達成しうるのである。ニードルパンチング後の不織布シートの繊維密度は、0.2g/cm3 以上であることが好ましく、0.2g/cm3 未満の場合、不織布シート中の複合繊維の緻密性に劣るものであり、表面繊維密度の緻密化を図れず好ましくない。
本発明のパンチングにおいて、不織布ウエブの繊維密度が0.3g/cm3 以上となるような圧縮状態でニードルパンチを行うことが好ましい。0.4g/cm3 以上の圧縮状態とするのがより好ましい。該圧縮状態を得るための具体的な装置としては、パンチングゾーンの入口、または出口あるいはその両方に、不織布シートの上下からニップする圧縮ロールが好ましく使用される。ニードルパンチを行う際に、不織布ウエブ中の厚み方向へ配向した繊維を該圧縮ロールにて積極的につぶすことにより、不織布ウエブの長手方向の配向性をより均一に揃えることができるのである。
ニードルパンチング処理前の該不織布ウエブの密度は、デリベリ圧縮による繊維配向の均一化を図るためには、0.3g/cm3 未満が好ましく、さらに好ましくは0.2g/cm3 以下、特に好ましくは0.1g/cm3 以下のフェルトまたはノンパンチングウエブが使用される。
本発明おける海島型複合繊維を構成する樹脂としては、海成分を溶解除去処理することにより、極細繊維を発生可能な2種類以上の樹脂の組合せが挙げられる。例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロンなどのポリアミド類、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、共重合ポリエステルなどのポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、共重合ポリスチレンなどのポリオレフィン類、ポリ乳酸、乳酸共重合体、ポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル系重合体類、脂肪族ポリエステルアミド系共重合体類などが用いることのできる合成樹脂の例として挙げられる。中では、極細短繊維成分として、親水性、耐摩耗性の観点から、ポリアミド類、ポリエステル類が好適に用いられる。とりわけ、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、共重合ナイロンなどのポリアミド類やポリブチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレートなどのポリエステル類が、スラリー液とのなじみが特に良好であり、スラリー液中の研磨砥粒の保持性、分散性に優れ、被研磨物に傷をつけることなく研磨することができるとともに、柔軟性に優れることにより、被研磨物との接触抵抗が低く微細研磨に適した素材として、より好適に用いられる。
かかる複合繊維の溶解除去される海成分を構成するポリマーとしては、上記のポリアミド類、ポリエステル類、ポリエチレン、ポリスチレン、共重合ポリスチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類を使用することができる。これらの中から極細短繊維の断面形成性、紡糸性、延伸性などを考慮して、海成分と島成分とを選択して組み合わせればよいが、特にニードルパンチしたときの繊維の高絡合化による表面繊維の高密度化の観点から、海成分としては、ポリスチレン、共重合ポリスチレンが好ましく使用される。さらに本発明において、極細短繊維の緻密性を上げるために、極細繊維化処理を行う前に、不織布シートの熱水収縮処理を行うことが好ましい。均一かつ高い収縮を得るためにも、海成分はポリスチレン、共重合ポリスチレンであることが好ましく、また表面繊維の緻密性と均一分散性を両立させ、且つ極細繊維束の最外周に位置する繊維に高分子弾性体が部分的に接合し、立毛繊維の方向性を極めて少なくするためには、海成分重量比率は海島型複合繊維総重量に対し40〜80%であることが好ましい。より好ましくは50〜70%の範囲である。
また、本発明において、ポリアミド極細短繊維の緻密性を上げるためには、前述した特徴を有する海島型複合繊維に機械捲縮を施すのが好ましく、複合繊維の捲縮数としては、10山/インチ以上であることが好ましい。絡合不織布を形成する際のカード通過性を考慮すると、25山/インチ以下であることがより好ましい。10山/インチ未満では、絡合不織布を形成する際の絡合度が低く、不織布厚み方向にループを形成しにくいため、結果として研磨布立毛面の表面繊維密度が低下するため好ましくない。25山/インチを越えると、カード処理における開繊性が低下し、ネップの発生等の工程通過性の悪化を招くため好ましくない。
更に、ニードルパンチ処理時に繊維切れを抑制し、絡合不織布の絡合度をより高めるためには、海島型複合繊維を構成した後に、繊維表面にシリコーン系化合物などの滑剤を付与することが好ましい。
本発明において、バルキーな構造体を形成し、スラリー液中に含まれる研磨砥粒を介したディスク基板表面への当たりを制御するとともに、研磨布表面上への高分子弾性体の露出を抑制するためには、極細繊維化処理を行う前に、不織布シートにポリビニルアルコールなどの水溶性樹脂を含浸付与することが好ましい。該水溶性樹脂を含む水溶液中に不織布シートを通し、該水溶性樹脂を含浸させた後、不織布シート中の水分を除去するために加熱処理を行う過程において、加熱時間、加熱温度を適宜調整することで、該水溶性樹脂が不織布シート中に含まれる水分と共にシート表層部に移動し、シート厚み方向に偏った分布をとることにより、高分子弾性体が研磨布表面に露出しにくい状態を可能とする。また、高分子弾性体の研磨布表面上への露出抑制とクッション性を両立させ、極細繊維束の最外周に位置する繊維に高分子弾性体が適度な状態で部分的に接合し、立毛の方向性を極めて少なくする点から、該水溶性樹脂の含有率は、極細繊維重量に対し40〜100重量%であることが好ましい。
本発明の研磨布は、極細繊維発生型繊維(海島型複合繊維)からなる不織布の内部空間に水溶性樹脂を付与した後、海成分を溶解除去し、極細繊維化すると、該水溶性樹脂膜と該極細繊維との間に隙間が発生する。この状態にある不織布に高分子弾性体を付与させる。つまり、極細繊維化した後に、高分子弾性体を付与するのである。こうすることによって、該水溶性樹脂膜と極細繊維とで構成された隙間に高分子弾性体を流入させることができ、結果的に高分子弾性体で極細繊維を直接固定することができ、これが本発明の研磨布である。
かかる高分子弾性体は、表面凹凸や振動吸収のためのクッション、繊維形態保持などの役割を有し、極細短繊維不織布の内部空間に高分子弾性体を充填し一体化させることにより、被研磨物へのフィット性および被研磨物へのキズの抑制効果に優れるものである。かかる高分子弾性体としては、ウレタン系、シリコーン系、アクリル系高分子などを使用することができる。中でも、ポリウレタンが本発明プロセスにおける加工性やクッション性の上から好ましい。本発明において好適に用いられるポリウレタンとしては、ポリマージオール、有機イソシアネートと鎖伸長剤とを反応せしめてなるものが好ましく、中でもそのポリマージオール成分として、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリエステル・エーテルジオール、ポリラクトンジオールもしくはこれらの共重合したものからなるものを使用することができ、ポリウレタン付与後のバッフィング処理の際に、研磨布表面上の立毛繊維が緻密でかつ均一分散された状態とするためには、シート弾性の観点から、これらポリウレタンの中でも特に、ポリマージオール成分中にポリエーテルジオールおよび/またはポリエステルジオールが含まれるポリウレタンが好ましく用いられる。研磨時のクッション性およびフィット性は、研磨精度の上で重要であり、極細短繊維と高分子弾性体の割合や空隙率(見掛け密度でわかる)によって制御し、研磨精度や研磨目的によって調節される。高分子弾性体の含有量は、成型上極細短繊維重量に対し20%〜60%であることが好ましく、含有量によって研磨布の表面状態、空隙率、クッション性、硬度、強度などを調節することができる。20%未満である場合、クッション性に劣るため、スクラッチを発生しやすく、また強度に劣るため好ましくない。60%を越えると、加工性及び生産性に劣るとともに、表面上に高分子弾性体が露出しやすく、砥粒の凝集によるスクラッチを引き起こしやすいため好ましくない。かかる高分子弾性体の付与方法としては、該高分子弾性体を塗布あるいは含浸後凝固させる方法などを採用することができる。
本発明において、表面繊維の緻密性を向上させる点から、高分子弾性体を付与し、水溶性樹脂を水洗除去した後に、シート面積収縮率10%以上となる収縮処理を施すことが好ましい。該収縮処理としては、シートに熱水を含ませた状態で、加熱温度100℃以上、好ましくは110℃以上、更に好ましくは120℃以上の熱風乾燥機に通す方法やベンジルアルコールやフェニルフェノールのエマルジョンなどの繊維形成成分に適合した膨潤剤を用いて、膨潤収縮処理させる方法が挙げられ、これら方法を適宜組み合わせることにより、より緻密な構造体とすることを可能とする。膨潤剤のエマルジョン化に際しては、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、又はこれらの混用の界面活性剤を添加して乳化分散させればよく、該膨潤剤を用いて膨潤処理する場合には、3〜12重量%の溶液として、これを60〜100℃程度で用いるとよく、その際にアニオン成分を増強するなどして高温域の乳化力を向上せしめた乳化剤を用いるのが好ましい。
尚、該収縮処理は、高分子弾性体を付与し、水溶性樹脂を水洗除去した後であれば、どの時点で行ってもよく、後述のバッフィング処理により立毛面を形成した後に行う場合であれば、再度バッフィング処理を施し、平滑且つ緻密にするのがより好ましい。
本発明の研磨布は、極細短繊維不織布に高分子弾性体を付与し、水溶性樹脂を水洗除去した後にバッフィング処理することにより得られる。ここでいうバッフィング処理とは、少なくとも片面が立毛面となっている状態で、スエード調に仕上げられていてもよい。バッフィング処理は針布やサンドペーパーを使用して行うのが一般的である。とりわけ、高分子弾性体付与後、表面をサンドペーパーを使用して、起毛処理することにより均一で緻密な立毛を形成することができる。さらに、研磨布表面上の表面繊維分布の均一性及び緻密性を向上させ、立毛繊維の方向性を極めて少なくするためには、研削負荷をより小さくすることが好ましい。研削負荷が高い状態では、巻き毛状となる立毛繊維が多く、立毛繊維が束状に膠着した状態となりやすいため、ライトテクスチャーにおける低表面粗さを実現できず、スクラッチ欠点を十分に抑制できないため好ましくない。研削負荷を小さくするためには、バフ段数、サンドペーパー番手、各段における研削重量、サンドペーパー走行速度、シート走行速度を適度に調節することが好ましい。中でも、バフ段数は3段以上の多段バッフィングとし、各段にて使用するサンドペーパーの番手をJIS規定の150番〜600番の範囲とするのが好ましい。また、各段における研削重量を50g/m2 以下とするのが好ましく、40g/m2 以下とするのがより好ましく、30g/m2 以下とするのが更に好ましい。さらに各段におけるサンドペーパー走行速度をシート走行速度で除した値が50〜200の範囲に設定することが好ましい。50未満の場合には、研磨布表面上の表面繊維の緻密性が低下するため好ましくなく、200を越える場合には研磨布表面上の表面繊維の分散性に劣り、立毛繊維の方向性の乱れが大きく、表面繊維の粗密ムラが大きくなるため好ましくない。
本発明の研磨布の立毛長は2mm以下であることが好ましい。より好ましくは0.1〜2mmの範囲である。立毛長が2mmを越えると、立毛繊維の自由度が大きくなりすぎるために、立毛面内における立毛繊維の方向性の乱れが大きい状態となり、0.3nm以下の基板表面粗さを実現するのに必要な研磨布の使用量が多く加工効率を低下させるとともに、局所的な砥粒分布の偏りが生じ、スクラッチ欠点を抑制できないため好ましくない。かかる立毛長は、研磨布表面の順目方向を下向きにして撮影した表面電子顕微鏡写真において、任意の50本の立毛繊維について最表層に露出している繊維長を測定し、その平均値のことを指すものである。立毛長を2mm以下に制御するためには、前述の絡合不織布と高分子弾性体とからなるシートの製造方法とバッフィング方法を組み合わせることにより達成可能である。
本発明において、研磨布のJISL−1096Bの規定に基づいて測定される吸水速度は80mm以上であることが好ましい。80mm未満である場合には、テクスチャー加工でスラリー液を研磨布表面上に付与する際に、スラリー中の研磨砥粒の分散性が低下するとともに、砥粒の保持性も低下するため、高精度の研磨に対応し得ないため好ましくない。研磨布の吸水速度を80mm以上にするためには、前述した極細短繊維不織布及び高分子弾性体の構成をとるのが好ましく、更に研磨布の見掛け密度としては、表面繊維の緻密性及び均一性が高くすること及び砥粒の保持性、押し付け力を考慮すると、0.2〜0.5g/cm3 の範囲にあることが好ましい。
本発明の研磨布の表面は、JISK−6253Aの規定に基づいて測定される硬度が20〜60であることが好ましい。硬度が20未満である場合、砥粒の押し付け力が不十分であり、研削不足となり、テクスチャー未加工部分が発生し、好ましくない。また、硬度が60を越える場合には、砥粒の押し付けが強くなりすぎるために、スクラッチ欠点が発生するとともに、所望の表面粗さを達成することができないため好ましくない。前述した極細短繊維不織布及び高分子弾性体の構成をとることにより、上記硬度とすることができる。
本発明において、JIS B−0601の規定に基づいて測定される表面粗さが30μm以下であることが好ましい。20μm以下であることがより好ましい。表面粗さが30μmを越えると、テクスチャー加工表面のうねりを抑制することができず、且つ所望の表面粗さを達成し得ないため好ましくない。前述した極細短繊維不織布及び高分子弾性体の構成をとることにより、上記表面粗さとすることができる。
本発明の研磨布を用いて、テクスチャー加工を行う方法としては、かかる研磨布を加工効率と安定性の観点から、30〜50mm幅のテープ状にカットして、テクスチャー加工用テープとして用いる。該研磨テープと遊離砥粒を含むスラリーとを用いて、アルミニウム合金磁気記録ディスクやガラス磁気記録ディスクのテクスチャー加工を行うのが好適な方法であり、研磨条件としては、スラリーはダイヤモンド微粒子などの高硬度砥粒を水系分散媒に分散したものが好ましく用いられる。砥粒の保持性と分散性の観点から、本発明の研磨布を構成する極細繊維の繊維径に適合した砥粒径として、0.2μm以下が好ましく、0.05〜0.2μmがより好ましい。
本発明で得られた研磨布は、テクスチャー加工に必要な研磨布の使用量を少なくすることができ加工効率に優れ、軽度なテクスチャー加工で、スクラッチ欠点が少なく歩留まりが良く、基板表面上に0.3nm以下という高精度なテクスチャー加工を施すことができるものである。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また実施例で用いた評価法とその測定条件について以下に説明する。
(1)繊維径及び繊維径CV値
該研磨布を厚み方向にカットした断面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、任意の300カ所の極細繊維の繊維径を測定し、これを母集団とした標準偏差値及び平均値を算出する。該平均値を平均繊維径とし、該標準偏差値を該平均値で除して100を掛けた値を繊維径CV値とした。
(2)表面繊維本数の線密度及び線密度CV値
該研磨布立毛面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、シート連続長手方向において、任意に1mm間隔で100μm幅の30カ所を抽出する。各抽出箇所における最表層に存在する極細繊維の繊維本数を測定し、表面繊維本数の線密度とする。またこれを母集団とした標準偏差値及び平均値を算出する。該標準偏差値を該平均値で除して100を掛けた値を線密度CV値とした。
(3)吸水速度
大きさ20cm×2.5cmの試験片をタテ方向及びヨコ方向にそれぞれ5枚採取し、各試験片を20℃の水を入れた水槽上の一定の高さに支えた水平棒上にピンで止める。試験片の下端を一線に並べて水平棒を降ろして、試験片の下端がちょうど水につかるようにする。10分間の水の上昇した高さを測定する。同様の方法で計10枚の試験を行い、その平均値を吸水速度として評価した。
(4)研磨布表面粗さ
大きさ3cm×3cmの試験片を10枚以上準備する。次いで、その中の1枚を表面粗さ計SURFCOM1400Dに取り付ける。室温20℃、湿度60%下で、測定検知部の曲率半径1.25μm、検知部速度0.6mm/秒、測定倍率タテ500倍、測定倍率ヨコ20倍、カットオフ長2.5mmの条件下にて、試料1枚あたりにつき、測定長5mmの試料表面粗さを測定する。同様の方法で計10枚測定を行い、得られた試料10枚の表面粗さの平均値で評価する。
(5)研磨布硬度
JISK−6253Aの規定に基づき、大きさ7cm×7cmの試験片を10枚準備する。この中の1枚を高分子計器社製のASKERA型硬度感知部を取り付けたCL−150定圧荷重硬度計に取り付け、室温20℃、湿度60%下で、硬度を測定する。同様の方法で計10枚の硬度を測定し、得られた試料硬度の平均値を研磨布硬度として評価した。
(6)基板表面粗さ
JISB0601に準拠して、ディスク基板サンプル表面の任意の10カ所について平均粗さを測定し、10カ所の測定値を平均することにより基板表面粗さを算出した。
(7)不良ディスク発生率
テクスチャー試験においてディスク基板100枚を1セットとし、計3セット実施する。各セット毎のスクラッチ欠点などの不良発生ディスク枚数の発生率を算出し、3セットにおける発生率の平均値を不良ディスク発生率とした。不良ディスク発生率が1%未満を加工性良好とし、1%を越える場合は加工性不良とした。
実施例1
島成分としてナイロン6と、海成分として共重合ポリスチレンを用いて、図3に示す島成分ポリマーAと海成分ポリマーBとを別々に流入し形成した芯鞘複合流が集合して成る海島型複合流の外周を、更に海成分で覆うために海成分のみの流入孔を芯鞘複合流の流入孔とは別に芯鞘複合流の流入孔の外周に16孔設けた島数が100の海島型複合紡糸口金装置を通して、島/海重量比率40/60で溶融紡糸した後、延伸、捲縮、シリコーン付与、カットを経て、複合繊度4.1dtex、繊維長51mm、捲縮数12山/インチ、繊維横断面の最外周部における海成分からなる部分の最小厚み(t)と複合繊維の繊維径(d)との比(t/d)が0.03の海島型複合繊維の原綿を形成する。
この海島型複合繊維の原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウエブを形成し、ついでこの積層ウエブに100本/cm2 のニードルパンチを行った。次に、複合繊維の見掛け密度が約0.3g/cm3の圧縮状態で、不織布シートの上下から、針のバーブ方向をシート幅方向に対し垂直にして1500本/cm2 のパンチ本数でニードルパンチし、目付630g/m2 、密度0.22g/cm3 の不織布を作製した。この不織布シートを熱水収縮させた後、ポリビニルアルコールを島成分繊維重量に対し45重量%含浸させてから海成分を溶解除去した。
次いでポリウレタン(ポリマージオール成分中にポリエーテルジオールが75%含まれるもの)を極細短繊維重量に対し40重量%含浸させ、水中で該ポリウレタンを凝固し、ポリビニルアルコールを水洗除去した。次いで、シートに熱水を含ませた状態で加熱温度120℃の熱風乾燥機に通した後、厚み方向に半裁した。熱風乾燥機を通す前後のシート面積収縮率は15%であった。
次いで、サンドペーパー走行速度をシート走行速度で除した値を160、160、120として、サンドペーパー番手を240番にて、非スライス面に対し、3段バッフィングを施した。尚、各段の研削重量は20、15、5g/m2とした。厚さ0.55mm、目付185g/m2 、見掛け密度0.34g/cm3 の研磨布を得た。
該研磨布中の極細繊維の繊維径は1.4μm、繊維径CV値は6%であった。また、該研磨布の表面繊維本数の線密度は抽出した30カ所全て30本/100μm幅以上であり、平均40本/100μm幅、線密度CV値は5%であった。また該研磨布の吸水速度は100mmであった。硬度は40、表面粗さは10μmであった。
更に、該研磨布において、極細繊維束の最外周に位置する繊維の総本数に占めるポリウレタンが接着している繊維の本数の割合は約8%であった。
また、立毛面内における立毛長は0.8mmであり、図4に示す立毛表面において、立毛繊維の大部分が立毛面内における順目方向に直線状に揃えられた状態で配列している状態であった。
該研磨布を40mm幅のテープとし、以下の条件でテクスチャー加工を行った。
アルミニウム基板にNi−Pメッキ処理した後、ポリッシング加工したディスクを用い、研磨布表面に平均粒径0.1μmのダイヤモンド結晶からなる遊離砥粒スラリーを滴下し、テープ走行速度を5cm/分の条件で研磨を実施した。テクスチャー加工後のディスクから任意に5枚を抽出し表面粗さを測定したところ、それぞれ0.25nm、0.24nm、0.26nm、0.25nm、0.25nmであり、0.3nm以下を安定して達成していることを確認できた。スクラッチ発生率は0.1%であり加工性が良好であった。また、上記の表面粗さを達成するのに要した研磨布の使用量は8mmであった。更に、テクスチャー加工後の基板は電磁変換特性に優れるものであった。
比較例1
水溶性樹脂を付与せず、海成分を溶解除去し極細繊維化する前に、ポリウレタンを付与する以外は、実施例1と同様の製法で、厚さ0.55mm、目付200g/m2 、見掛け密度0.36g/cm3 の研磨布を得た。
該研磨布中の極細繊維の繊維径は1.4μm、繊維径CV値は6%であった。また、該研磨布の表面繊維本数の線密度は抽出した30カ所中2カ所において、30本/100μm幅未満であり、平均35本/100μm幅、線密度CV値は15%であった。また該研磨布の吸水速度は90mmであった。硬度は43、表面粗さは20μmであった。
更に、該研磨布において、ポリウレタンと極細繊維束の最外周に位置する繊維との間には空隙が形成され、ポリウレタンが繊維に部分的に接合している箇所は見られなかった。また、立毛面内における立毛長は0.5mmであり、立毛繊維の方向性の乱れが大きい状態であった。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクから任意に5枚を抽出し表面粗さを測定したところ、それぞれ0.3nm、0.29nm、0.29nm、0.28nm、0.3nmであり、全て0.3nm以下を達成していた。スクラッチ発生率については1%であった。しかし、上記の表面粗さを達成するのに要した研磨布の使用量は20mmであり、加工効率に劣るものであった。また、テクスチャー加工後の基板はドライブエラーテストにおいて、エラーの発生が多発し、電磁変換特性が低いものであった。更に、実施例1と同一の研磨布使用量(8mm)で、テクスチャー加工面を観察すると、未加工部分が多く、表面粗さも大きいものであった。
比較例2
ポリウレタンを含浸付与、凝固した後に、ジメチルホルムアミドの90重量%水溶液中に浸漬するとともに、厚みの約半分のクリアランスで圧縮し、水中に浸漬し、溶剤除去を行うこと以外は、実施例1と同様の製法で、厚さ0.45mm、目付200g/m2 、見掛け密度0.44g/cm3 の研磨布を得た。
該研磨布中の極細繊維の繊維径は1.4μm、繊維径CV値は6%であった。また、該研磨布の表面繊維本数の線密度は抽出した30カ所中7カ所において、30本/100μm幅未満であり、平均30本/100μm幅、線密度CV値は40%であった。また該研磨布の吸水速度は70mmであった。硬度は47、表面粗さは10μmであった。
更に、該研磨布において、ポリウレタンは極細繊維束の最外周に位置する繊維と内周部に位置する繊維の両方に接着しており、また、極細繊維束の最外周に位置する繊維の総本数に占めるポリウレタンが接着している繊維の本数の割合は約40%であった。また、立毛面内における立毛長は0.7mmであり、立毛繊維の過半が巻き毛状となっており、立毛繊維が束状に膠着し、粗密ムラの大きい状態であった。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクから任意に5枚を抽出し表面粗さを測定したところ、それぞれ0.4nm、0.35nm、0.3nm、0.35nm、0.35nmであり、0.3nm以下を安定して達成するには至らなかった。スクラッチ発生率についても3%であり加工性が不良であった。また、上記の表面粗さを達成するのに要した研磨布の使用量は25mmであり、加工効率に劣るものであった。更に、実施例1と同一の研磨布使用量(8mm)で、テクスチャー加工面を観察すると、未加工部分が多く、表面粗さも大きく、スクラッチ欠点個数も多いものであった。
比較例3
島成分としてナイロン6と、海成分として共重合ポリスチレンを用いて、島本数16本/ホールの実施例1のような海島型複合流の外周を更に海成分で覆うための海成分のみの流入孔を設けていない図5の海島型パイプ口金を通して、島/海重量比率70/30で溶融紡糸すること以外は、実施例1と同様の製法で、厚さ0.5mm、目付170g/m2 、見掛け密度0.34g/cm3 の研磨布を得た。尚、上記方法により得られた海島型複合繊維について、繊維横断面の最外周部における海成分からなる部分の最小厚み(t)と複合繊維の繊維径(d)との比(t/d)が0.005であった。
該研磨布中の極細繊維の繊維径は5μm、繊維径CV値は6%であった。また該研磨布の表面繊維本数の線密度は抽出した30カ所全て30本/100μm幅未満であり、平均25本/100μm幅、線密度CV値は5%であった。また該研磨布の吸水速度は100mmであった。硬度は40、表面粗さは25μmであった。
更に、該研磨布において、極細繊維束の最外周に位置する繊維の総本数に占めるポリウレタンが接着している繊維の本数の割合は約2%であった。また、立毛面内における立毛長は1mmであり、立毛繊維の方向性の乱れが大きく、巻き毛状となっている立毛性が多く検出された。
該研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施し、テクスチャー加工後のディスクから任意に5枚を抽出し表面粗さを測定したところ、それぞれ0.5nm、0.55nm、0.55nm、0.55nm、0.6nmであり、0.3nm以下を安定して達成するには至らなかった。スクラッチ発生率については1%であり加工性はほぼ良好であった。また、上記の表面粗さを達成するのに要した研磨布の使用量は30mmであり、加工効率に劣るものであった。更に、実施例1と同一の研磨布使用量(8mm)で、テクスチャー加工面を観察すると、未加工部分が多く、表面粗さも大きく、スクラッチ欠点個数も多いものであった。