磁気ディスク等の磁気記録媒体は、近年めざましい技術革新により高容量化、高記憶密度化の要求が高まり、このため各種基板表面加工の高精度化が要求されている。
近年の高容量化、高記録密度化に伴い、記録ディスクと記録・再生ヘッドとの間隔、すなわちヘッドの浮上高さはますます低くなってきている。磁気ディスク記憶装置は非駆動時にヘッドが記録ディスク上に静止するわけであるが、このときにヘッドと磁気ディスクが吸着する現象を防ぐために、記録ディスクの基板表面には極微細な条痕が付与されている。この基板表面の極微細な条痕を形成するためにはテクスチャー加工という表面処理が施されている。
テクスチャー加工の方法としては、遊離砥粒のスラリーを研磨布表面に供給しながら基板と研磨布との間に一定荷重と相対速度を与えて研磨する方法が一般的である。こうすることで基板表面に周方向に沿って極微細な条痕が付与される。これにより磁気ヘッドの低浮上安定性が実現される。
テクスチャー加工においては、極細繊維を用いて構成する基材がこれまで一般的に用いられてきている。例えば、単繊維繊維が0.3デシテックス(dtex)以下の極細合成繊維からなる捲縮を有するマルチフィラメント糸を緯糸に用いた織物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、織物を用いたテクスチャリング加工では、織物の織組織がディスクに転写してしまい、研磨後のディスクの平面性を高める上で限界があった。
基材表面の平滑性により優れた不織布を用いる方法では、例えば繊維径が10μm以下の繊維からなる絡合不織布あるいはメルトブロー不織布を少なくとも片面に有する研磨シートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、分割性繊維を通常の方法で絡合した絡合不織布にしてもメルトブロー法によって得られた不織布にしても、強度が低いために補強層を積層する必要があった。
そこで、基材の強度向上やディスク基板表面への当たりの調節などを目的として、不織布に高分子弾性体を含浸させる方法が提案されている。例えば、極細繊維絡合不織布中に高分子弾性体が含有されており、0.03dtex以下の繊度を有する極細繊維からなる立毛が存在するテクスチャー加工用研磨シートが提案されている(例えば、特許文献3参照)。ところが、これらの技術だけでは近年求められているヘッドの浮上高さ0.3nm以下という要求には応えられなかった。また、テクスチャー加工によってディスク基板表面に発生していた加工ムラやバリは、ヘッドの低浮上安定性の阻害や、ヘッドと磁気ディスクとの衝突によるヘッドの破壊などの問題を引き起こす致命的な欠点となっていた。さらに、基板表面にスクラッチと呼ばれる局所的な傷がつけられ、表面欠陥として認識されていた。
そこで、加工性の均一化とスクラッチの抑制を目的として、平均繊度0.001〜0.03デシテックスのポリアミド極細繊維に高分子弾性体が付与された基布で構成されており、該基布の表面粗さが5.0μm以下である研磨布が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかしながら、このような提案がなされてきたにもかかわらず、依然としてスクラッチの発生の問題があったばかりか、原因不明のディスクの記録・再生エラーの発生が観察されることがあった。さらなる検討を重ねた結果、テクスチャー加工を施したディスク上に異物が付着していることが確かめられ、これがスクラッチや、磁性膜の剥離を引き起こす等、何らかの形でディスクの歩留まりに影響を与えていることが示唆された。この異物の成分を分析したところ、少なくともチタン化合物が含まれていることが見出された。
一方、異物による研磨ダメージの発生を抑制する技術として、研磨布中の亜鉛化合物含有量を制御して半導体ウエーハ研磨加工時の研磨ダメージの発生を抑制する方法や(例えば、特許文献5参照)、研磨基布中のけい素の含有量を制御してスクラッチの発生を抑制する方法(例えば、特許文献6参照)が提案されているが、いずれもチタンの含有量については何ら考慮されていない。
特開2003−89048号公報
特開平9−262775号公報
特開2002−79472号公報
特開2003−94320号公報
W001/015860号公報
特開2003−170348号公報
本発明の課題は、特に高精度の仕上げを要求される磁気ディスクのテクスチャー加工において、ディスクの欠点となるスクラッチを抑制して均一な加工を実現するとともに、ディスク表面への二酸化チタンに代表されるチタン化合物の付着を阻止することで、記録ディスク用基板を生産性よく加工できる研磨布を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明では研磨布中に含まれるチタン化合物の含有量を規定することによって、テクスチャー加工時のスクラッチの発生およびディスク表面へのチタン化合物の付着を抑制することができることを見いだしたものである。
本発明の研磨布は、磁気ディスクの研磨布であって、該研磨布に含まれるチタン化合物の含有量が研磨布の重量に対するチタン重量にして100ppm以下であることを特徴とするものである。
なお、本発明でいう研磨布の重量に対するチタン重量とは、特に断りのない限り、研磨布中に含まれるチタンの重量/研磨布の重量を意味する。
このように研磨布に含まれるチタン化合物の含有量が研磨布の重量に対するチタン重量にして100ppm以下である研磨布を磁気ディスクのテクスチャー加工に用いれば、テクスチャー加工時のスクラッチの発生およびディスク表面へのチタン化合物の付着が抑制され、これに続いてディスク表面に磁性膜を製膜した際の不具合や、製膜後の磁性膜の剥離といった欠陥を抑制することができる。
また、本発明の好ましい態様は、磁気ディスクの研磨布であって、該研磨布に含まれるチタン化合物の含有量が研磨布の重量に対するチタン重量にして30ppm以下であることを特徴とするものである。
また、本発明のさらに好ましい態様は、磁気ディスクの研磨布であって、該研磨布がチタン化合物を含有しないことを特徴とするものである。
磁気ディスクの研磨布において、研磨布中のチタンの含有量は少なければ少ないほど好ましく、上記のようにチタン化合物を含有しない研磨布を用いれば、スクラッチの発生やテクスチャー加工後のディスク表面に磁性膜を製膜した際の不具合、製膜後の磁性膜の剥離といった欠陥はさらに抑制できる。
さらに、本発明にかかる研磨布は、0.3dtex以下の極細短繊維からなる絡合不織布からなり、少なくとも片面が立毛面となっているシートで構成されていることが好ましい。
また、本発明にかかる研磨布は、0.3dtex以下の極細短繊維からなる絡合不織布と高分子弾性体とを一体化せしめた複合体からなり、少なくとも片面が立毛面となっていることが好ましい。
このような極細短繊維からなる絡合不織布を基体とした研磨布を用いて研磨を行うことによって、表面にうねりのない平面性に優れたディスクを高精度に仕上げることが可能となる。
また、前記高分子弾性体は、本発明の研磨布を製造する工程における加工性、クッション性、繊維形態保持性などの観点から、ポリウレタンであることが好ましい。上記高分子弾性体にポリウレタンを用いることにより、テクスチャー加工時に表面凹凸や振動を吸収することができ、ディスク表面にスクラッチを発生させずにより好適に加工することができる。
さらに、前記高分子弾性体の含有率は極細短繊維重量に対し20〜60%であることが好ましい。
上記高分子弾性体の含有量を制御することにより、研磨布の表面状態、空隙率、クッション性、硬度、強度などを調整でき、テクスチャー加工時にディスク表面のスクラッチ発生を極限まで抑制する研磨布を得ることができる。
本発明にかかる研磨布は、その見かけ密度が0.2〜0.6g/cm3の範囲にあることが好ましい。
また、前記極細短繊維の平均繊維径が5μm以下であり、かつ繊維径のCV値が30%以下であり、前記立毛面における表面繊維本数の線密度が30本/100μm幅以上であるとともに、シート連続長手方向における上記線密度のCV値が30%以下であることが好ましい。
また、前記極細短繊維の平均繊維径が0.5〜4μmであり、かつ繊維径のCV値が10%以下であり、前記立毛面における表面繊維本数の線密度が30本/100μm幅以上であるとともに、シート連続長手方向における上記線密度のCV値が10%以下であることがより好ましい。
このように、研磨布表面に存在する極細短繊維の繊維径の均一性と表面繊維密度の均一性を制御することにより、テクスチャー加工時にディスク表面にスクラッチを発生させずにより好適に加工することができる。
本発明によれば、高精度の仕上げを要求される磁気ディスクのテクスチャー加工において、ディスクの欠点となるスクラッチを抑制して均一な加工を実現するとともに、ディスク表面へのチタン化合物の付着を阻止することで、記録ディスク用基板を生産性よく提供することができる研磨布とすることができる。
本発明者らは、磁気ディスクのテクスチャー加工において、スクラッチの発生や原因不明のディスクの記録・再生エラーが発生する問題があることを知見し、これらの問題について検討を重ねた結果、テクスチャー加工を施したディスク上に異物が付着していることを見出した。この異物の成分に硫酸を加えて炭化させた後、燃焼させて得られた灰分を硫酸、過塩素酸で処理して、得られた溶液をICP発光分光により分析したところ、少なくともチタンが検出され、異物の中にチタン化合物が含まれていることが見出された。さらに、チタン化合物を多く含有している研磨布を用いてテクスチャー加工を行った場合、チタン化合物の含有量が少ない研磨布を用いた場合に比べて生産歩留まりが悪いことが判明した。
そこで、チタンの混入について調査したところ、不織布を構成する熱可塑性樹脂につや消しの目的で二酸化チタンが添加されていることがわかった。それゆえ、これをもとに製造された研磨布には少なからず二酸化チタンが混入してしまうことがわかった。今回調査した従来の研磨布には数百ppmの二酸化チタンが含まれていた。
ここで添加されている二酸化チタンは、通常、粒径が0.1μm〜1μm程度のものである。このような二酸化チタンが研磨布中に含まれていると、これを用いてテクスチャー加工を行ったときに、スクラッチの発生や、研磨布から脱落した二酸化チタンのディスク表面への付着による磁性膜製膜の際の不具合が促進されることがわかった。
本発明の研磨布について、0.3dtex以下の極細短繊維からなる絡合不織布であることが好ましく、かかる極細短繊維は0.001dtex以上0.3dtex以下であることがより好ましい。この絡合不織布は、例えば、具体的には、海島型口金を用いて海島型複合繊維を紡糸、延伸、捲縮、カットを経て得る原綿を用いて、ニードルパンチングにより絡合させて不織布を構成する。次いで、該複合繊維からなる不織布に水溶性樹脂を付与した後に、海成分を溶解除去あるいは物理的、化学的作用により剥離、分割し、平均繊維径5μm以下に極細化した後、極細繊維重量に対し20%〜60%の高分子弾性体を付与し、該高分子弾性体を実質的に凝固、固化させる。次いで、該水溶性樹脂を溶解除去した後にバッフィング処理を施すことにより、本発明の研磨布を得ることができるものである。
本発明の不織布を構成する熱可塑性樹脂は、繊維形成能があり、物理的処理または化学的処理により、極細繊維を発生可能な、2種類以上の熱可塑性樹脂を組み合わせることができる。例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ポリアミド系共重合体等のポリアミド類;ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートおよびそれらを主体とする共重合体などのポリエステル類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン類;ポリアクリロニトリル類;ポリビニル類;ポリ乳酸、乳酸共重合体ポリグリコール酸などの脂肪族ポリエステル系重合体類;脂肪族ポリエステルアミド系共重合体類などが繊維成分として用いることのできる熱可塑性樹脂の例として挙げられる。
熱可塑性樹脂の選択にあたっては、二酸化チタンの含有量が熱可塑性樹脂の重量にして100ppm以下であるものを用いることが課題の解決にとって好ましい。本発明では、研磨布に含まれるチタン化合物の含有量が研磨布の重量に対するチタン重量にして100ppm以下であることが重要である。
島成分を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド類あるいはポリエステル類が耐摩耗性および耐ヘタリ性に優れるばかりでなく、さらにスラリー液とのなじみが特に良好であり、スラリー液中の研磨砥粒の保持性、分散性に優れるため好適である。ポリアミド類はとりわけ柔軟性に優れることにより、被研磨物との接触抵抗が低く微細研磨に適した素材として、抜群の機能を有するために特に好適に用いられる。
かかる複合繊維の溶解除去あるいは物理的、化学的作用により剥離、分割される海成分を構成するポリマーとしては、上記のポリアミド類;ポリエステル類;ポリエチレン、ポリスチレン、共重合ポリスチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類を使用することができる。これらの中から極細短繊維の断面形成性、紡糸性、延伸性などを考慮して、海成分と島成分とを選択して組み合わせればよいが、特にニードルパンチしたときの繊維の高絡合化による表面繊維の高密度化を満足させる上から、海成分としては、ポリスチレン、共重合ポリスチレンが好ましく使用される。
本発明では、上記の複合繊維を溶解除去あるいは物理的、化学的作用により剥離、分割した後の極細短繊維の平均繊維径は0.3〜5μmであることが好ましく、0.5〜4μmであることがより好ましい。さらに好ましくは1〜3μmである。0.3μm未満である場合には、繊維強度及び剛性が低く、研削不足になるばかりでなく、スラリー中の遊離砥粒の保持性、分散性に劣るため、スクラッチが発生しやすいため好ましくない。5μmを越える場合には、研磨布表面での立毛繊維の緻密性に劣り、高精度の仕上げを達成できないため好ましくない。
本発明では、研磨布を構成する極細短繊維の繊維径のCV値が30%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。ここで、繊維径のCV値とは極細繊維の繊維径バラツキを表すもので、該繊維径分布の標準偏差を、極細繊維の繊維径の平均値で除した値のことである。研磨布を構成する極細繊維の繊維径バラツキが大きいものは、研磨布表面における低繊度繊維と高繊度繊維との剛性差に起因する立毛繊維の分布の偏りが生じるとともに、砥粒分散の不均一性につながり、基板表面粗さの低減、研磨後のうねりの抑制及びスクラッチの抑制という高精度のテクスチャー加工を達成できない。
所望の繊維径を有する極細繊維を得るには、海島型複合繊維を用いるのが好ましく、通常、海島型複合繊維の製造方法としては、海島型口金を用いた海島型複合紡糸法とチップブレンド、ポリマーブレンド等の混合紡糸法とが挙げられる。通常、混合紡糸法を用いて得られる極細繊維の繊維径のCV値は30を越えた値から100%の範囲である。基板表面粗さ0.3nm以下という超高精度のテクスチャー加工を生産性良く行うためには、前記繊維径のCV値は小さければ小さいほどよく、10%以下とすることが好ましい。所望の繊維径のCV値とするためには、海島型口金を用いた海島型複合紡糸法が最適である。チップブレンド、ポリマーブレンド等の混合紡糸法を用いると、複合繊維横断面における島成分の繊維径の内外周差が大きく、前記繊維径のCV値を達成するのは極めて難しいばかりでなく、海島型口金を用いた複合紡糸により得られる極細短繊維に比べ、部分的に極細短繊維同士が接着した束状となる状態になりやすく、繊維の均一分散性に劣るため、立毛繊維の粗な部分で砥粒の凝集が起こり、スクラッチが発生しやすい。
本発明では、極細短繊維束内の繊維数は30〜300本/束であることが好ましい。より好ましくは70〜200本/束である。該極細繊維束内の繊維数が30本/束未満である場合には、研磨布立毛面における緻密性に劣り好ましくない。一方、300本/束を越えると、バッフィング処理を施した際に極細繊維の分散性が低下し、立毛面の繊維分布が不均一になり、テクスチャー加工ムラという未加工部分が基板表面に発生するとともに、該研磨布にスラリーを付与した際に極細繊維が膠着しやすいため、研磨布表面上に繊維の存在しない部分が発生し、該部分に砥粒が凝集し、スクラッチの発生につながりやすく好ましくない。
本発明における海島型複合繊維の不織布は、該複合繊維を短繊維化した後、ウエブとなし、ニードルパンチ、ウォータージェットパンチ、あるいはそれらの組み合わせによる絡合手段により形成することができる。繊維配向の均一性に優れた不織布を得るためには、カード・クロスラッパーを用いてシート幅方向に配列させた積層ウエブを形成せしめた後、針のバーブの向きが不織布ウエブ幅方向に対し垂直方向になるようにしてニードルパンチ処理を行うことが好ましい。メルトブロー、スパンボンドなど紡糸から直接形成する長繊維不織布は、とりわけ研磨布においては、極細繊維相互の絡合および表面繊維の緻密性が、短繊維不織布よりも著しく劣り、かつ、表面繊維密度の粗密ムラが大きくなりすぎるので、極細長繊維不織布は研磨布としては使用することはできない。
かかる短繊維の繊維長は3〜200mmであることが好ましく、10〜150mmであることがより好ましい。かかる短繊維は不織布製造の過程でわずかに抜け出ることがあり、繊維長が短い場合には抜け出る割合が高くなってしまうため好ましくない。一方、長すぎる場合には工程通過性が不良となるため好ましくない。乾式不織布での好ましい繊維長は20〜120mm、湿式不織布での好ましい繊維長は3〜10mmである。
ニードルパンチの際の針のバーブ方向については、シート幅方向に配列される複合繊維を高効率にて絡合させ、研磨布表面繊維の緻密性を得るためには、シート幅方向に対し垂直つまり90゜に向けることが最適であるが、もし、垂直にするのが難しいような場合には、該垂直方向から、±30度程度の角度範囲内、さらに好ましくは±15度程度の角度範囲内でずれてバーブを用いるようにしてもある程度の効果が得られるので望ましいものである。
ニードルパンチ処理のパンチング本数としては、繊維の高絡合化による繊維の高密度化(緻密な立毛面形成)の観点から1000〜3500本/cm2であることが好ましい。1000本/cm2未満では、研磨布表面繊維の緻密性に劣り、3500本/cm2 を越えると、加工性の悪化を招くとともに、繊維損傷が大きくなるため好ましくない。針のバーブの方向をシート幅方向に対し垂直にすることにより、上記範囲の針本数にて効率よく繊維絡合が進み、タテ配向繊維の高密度化を達成しうるのである。ニードルパンチング後の不織布シートの繊維密度は、0.2g/cm3 以上であることが好ましく、0.2g/cm3 未満の場合、不織布シート中のタテ配向繊維の緻密性に劣るものであり、表面繊維密度の緻密化を図れず好ましくない。
本発明において、極細短繊維の緻密性を上げるために、極細繊維化処理を行う前に、不織布シートの熱水収縮処理を行うことが好ましい。均一かつ高い収縮を得るためにも、海成分はポリスチレン、共重合ポリスチレンであることが好ましく、また表面繊維の緻密性と均一分散性を両立させる観点から、海成分重量比率は海島型複合繊維総重量に対し40〜80%であることが好ましい。より好ましくは50〜70%の範囲である。
本発明において、バルキーな構造体を形成し、スラリー液中に含まれる研磨砥粒を介したディスク基板表面への当たりを制御するとともに、研磨布表面上への高分子弾性体の露出を抑制するためには、極細繊維化処理を行う前に、不織布シートに水溶性樹脂を含浸付与することが好ましい。該水溶性樹脂を含む水溶液中に不織布シートを通し、該水溶性樹脂を含浸させた後、不織布シート中の水分を除去するために加熱処理を行う過程において、加熱時間、加熱温度を適宜調整することで該水溶性樹脂が不織布シート中に含まれる水分と共にシート表層部に移動し、シート厚み方向に偏った分布をとることにより、高分子弾性体が研磨布表面に露出しにくい状態を可能とする。また、高分子弾性体の研磨布表面上への露出抑制とクッション性を両立させる点から、該水溶性樹脂の含有率は、極細繊維重量に対し40〜80%であることが好ましい。該水溶性樹脂にはポリビニルアルコールや水系ポリウレタンなどを好適に用いることができる。
本発明の研磨布は、極細短繊維不織布に高分子弾性体を付与させることによって得られる。該高分子弾性体は、表面凹凸や振動吸収のためのクッション、繊維形態保持などの役割を有し、該極細短繊維不織布と一体化させることにより、被研磨物へのフィット性および被研磨物へのキズの抑制効果に優れるものである。かかる高分子弾性体としては、ウレタン系、シリコーン系、アクリル系高分子などを使用することができる。中でも、ポリウレタンが加工性やクッション性の上から好ましい。さらにかかるポリウレタンでも、そのソフトセグメントとして、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系もしくはこれらの共重合したものからなるものを使用することができ、ポリウレタン付与後のバッフィング処理の際に、研磨布表面上の立毛繊維が緻密で且つ均一分散された状態とするためには、シート弾性の観点から、これらポリウレタン中でも特に、ポリエーテル系単独、もしくはポリエーテル系と、50%以下の割合でポリエステル系、ポリカーボネート系の少なくとも1種とを共重合したポリウレタンが好ましく用いられる。研磨時のクッション性およびフィット性は、研磨精度の上で重要であり、極細短繊維と高分子弾性体の割合や空隙率(見掛け密度でわかる)によって制御し、研磨精度や研磨目的によって調節される。高分子弾性体の含有量は、成型上極細短繊維重量に対し20%〜60%であることが好ましく、含有量によって研磨布の表面状態、空隙率、クッション性、硬度、強度などを調節することができる。20%未満である場合、クッション性に劣るため、スクラッチを発生しやすく好ましくない。60%を越えると、加工性及び生産性に劣るとともに、表面上に高分子弾性体が露出しやすく、砥粒の凝集によるスクラッチを引き起こしやすいため好ましくない。かかる高分子弾性体の付与方法としては、該高分子弾性体を塗布あるいは含浸後凝固させる方法などを採用することができる。
本発明の研磨布は、極細短繊維不織布に高分子弾性体を付与した後にバッフィング処理することにより得られる。ここでいうバッフィング処理とは、少なくとも片面が立毛面となっている状態で、スエード調に仕上げられていてもよい。バッフィング処理は針布やサンドペーパーを使用して行うのが一般的である。とりわけ、高分子弾性体付与後、表面をサンドペーパーを使用して、起毛処理することにより均一で緻密な立毛を形成することができる。
本発明において、研磨布の見掛け密度としては、表面繊維の緻密性及び均一性が高く、所望の表面繊維の線密度を得ることを考慮すると、0.2〜0.5g/cm3の範囲にあることが好ましく、研磨布の厚みとしては、平滑性やクッション性、形態保持性を含めて考慮すると0.3〜1.2mmの範囲にあることが好ましい。
本発明では、研磨布の立毛面における表面繊維本数の線密度が30本/100μm幅以上で、かつシート連続長手方向における該線密度のCV値が30%以下あることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
ここでいう表面繊維本数の線密度は以下により定義されるものである。該研磨布立毛面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、シート連続長手方向において、任意に1mm間隔で100μm幅の30カ所を抽出する。各抽出箇所における最表層に存在する極細繊維の繊維本数を測定し、表面繊維本数の線密度とする。またこれを母集団とした標準偏差値及び平均値から該線密度のCV値を算出する。
表面繊維本数の線密度が30本/100μm幅未満である場合には、緻密性に劣り、砥粒を微細に分散させるに至らず、高精度の仕上げを達成できないとともに、研磨布表面上の繊維が存在しない部分に砥粒が凝集し、スクラッチの発生につながりやすく好ましくない。またシート連続長手方向における表面繊維本数の線密度のCV値が大きいほど、砥粒分散の不均一性につながり、研磨後のうねりが大きくなり、高精度の仕上げを達成できないため好ましくない。
そして、研磨布中のチタン含有量は100ppm以下であることが重要であり、より好ましくは30ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下である。チタン化合物を全く含まないことが最も好ましい。チタン含有量が100ppmを越えるとスクラッチが発生しやすいだけでなく、テクスチャー加工後のディスク表面に研磨布から脱落したチタン化合物が付着し、磁性膜を蒸着加工する際の不具合や、蒸着加工後の磁性膜の剥離といった欠陥の原因となるために好ましくない。
このようにして得られた研磨布は、高精度の仕上げを要求される磁気ディスクのテクスチャー加工において、ディスクの欠点となるスクラッチを抑制して均一な加工を実現するとともに、ディスク表面への二酸化チタンの付着を阻止することで、記録ディスク用基板を生産性よく提供することができるものである。
本発明では、かかる研磨布をテープ状にカットして、テクスチャー加工用テープとして用いる。この加工はすでに一般的に行われている遊離砥粒を用いたアルミニウム合金磁気記録ディスクのテクスチャー加工一般を指すものである。一般的な研磨条件としては、スラリーは平均粒径0.2μm以下のダイヤモンド微粒子やアルミナを水系溶液に分散したものが用いられる。また、研磨布は安定した研磨をするためおよそ0.03〜0.3MPa程度の適切に調節された圧力で研磨される。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また実施例で用いた評価法とその測定条件について以下に説明する。
(1)研磨布の厚み
研磨布の厚みを10箇所について測定し、10箇所の測定値を平均することにより厚みを求めた。
(2)研磨布の見掛け密度
研磨布を10cm角に切り取って、上記のように厚みを測定し、その後で重量を測定し、重量をサンプル体積で除して見掛け密度を求めた。
(3)極細繊維重量に対する高分子弾性体の含有率
研磨布を10cm角に切り取って、重量を測定し、この重量をaとした。次にサンプルをジメチルホルムアミド中に浸して研磨布に含まれるポリウレタンを完全に溶出させた。これを乾燥させた後、重量を測定し、この重量をbとした。(a−b)/bを百分率で表した値を極細繊維重量に対する高分子弾性体の含有率とした。
(4)研磨布に含まれるチタンの含有量
研磨布を50mm×50mmの大きさに切り出したのち16等分し、これに硫酸を加えて炭化させた後、さらに燃焼させて灰分を得た。これを硫酸、過塩素酸で処理して得られた溶液をICP発光分光装置により分析してチタンの含有量を定量した。なお、ここで定量したチタンの含有量は[切り出した50mm角の研磨布表面中に含まれるチタン化合物を構成するチタンの重量/切り出した50mm角の研磨布の重量]で表したものである。以下、これを単に研磨布中のチタンの含有量と呼ぶことがある。
(5)平均繊維径及び繊維径CV値
研磨布を厚み方向にカットした断面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、任意の300カ所の極細繊維の直径を測定し、これを母集団とした標準偏差値及び平均値を算出する。該平均値を平均繊維径とし、該標準偏差値を該平均値で除した値を繊維径のCV値とした。
(6)表面繊維本数の線密度及び線密度CV値
研磨布立毛面を観察面として走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、シート連続長手方向において、任意に1mm間隔で100μm幅の30カ所を抽出する。各抽出箇所における最表層に存在する極細繊維の繊維本数を測定し、表面繊維本数の線密度とする。またこれを母集団とした標準偏差値及び平均値を算出する。該標準偏差値を該平均値で除した値を線密度CV値とした。
(7)スクラッチ発生率
テクスチャー試験においてディスク基板100枚を1セットとし、計5セット実施する。各セット毎のスクラッチ発生ディスク枚数の発生率を算出し、5セットにおける発生率の平均値をスクラッチ発生率とした。スクラッチ発生率が1%以下を加工性良好とし、1%を越える場合は加工性不良とした。
実施例1
島成分として、二酸化チタンを含有しないナイロン6と、海成分として共重合ポリスチレンを用いて、島本数100本/ホールの海島型口金を通して、島/海重量比率40/60で溶融紡糸した後、延伸、捲縮、カットを経て、複合繊度4.2dtex、繊維長51mmの海島型複合繊維の原綿を形成した。
この海島型複合繊維の原綿を用いて、カード、クロスラッパー工程を経て積層ウエブを形成し、ついでこの積層ウエブに100本/cm2 のニードルパンチを行った。次にこの不織布シートの上下から、針のバーブ方向をシート幅方向に対し垂直にして1500本/cm2 のパンチ本数でニードルパンチし、目付690g/m2 、密度0.25g/cm3の不織布を作製した。この不織布シートを熱水収縮させた後、ポリビニルアルコールを島成分繊維重量に対し50重量%含浸させてから海成分を溶解除去した。
次いでポリウレタン(ソフトセグメントがポリエーテル系とポリエステル系との比率が75対25の割合からなるもの)を極細短繊維重量に対し40重量%含浸させ、水中で該ポリウレタンを凝固した後、ポリビニルアルコールを溶解抽出した。
次いでサンドペーパーを用いてバッフィングを施し、厚さ0.5mm、目付170g/m2 、見掛け密度0.34g/cm3の研磨布を得た。
得られた研磨布中からはチタンが検出されなかった。また、この研磨布中の極細繊維の平均繊維径は1.4μm、繊維径CV値は5%であった。
またこの研磨布の表面繊維本数の線密度は抽出した30カ所全て30本/100μm幅以上であり、平均43本/100μm幅、線密度CV値は4%であった。
この研磨布を40mm幅のテープとし、以下の条件でテクスチャー加工を行った。
アルミニウム基板にNi−Pメッキ処理した後、ポリッシング加工したディスクを用い、研磨布表面に平均粒径0.13μmのダイヤモンド結晶からなる遊離砥粒スラリーを滴下し、25秒間研磨を実施した。
スクラッチ発生率は0.2%であり加工性良好であった。さらにその後、ディスク表面に磁性膜を製膜したところ、良好に加工でき、製膜後のディスクからの磁性膜の剥離もなかった。
実施例2
島成分に二酸化チタンを0.1重量%含有するナイロン6を用い、実施例1と同様の製法で海島型複合繊維の原綿を形成した。
この海島型複合繊維を実施例1で得られた原綿と重量比で1:9となるように混ぜ合わせた原綿を用いたほかは、実施例1と同様の製法で、厚さ0.54mm、目付176g/m2 、見掛け密度0.33g/cm3の研磨布を得た。得られた研磨布中のチタン含有量は57ppmであった。この研磨布中の極細繊維の繊維径は1.4μm、繊維径CV値は4%であった。また該この研磨布の表面繊維本数の線密度は抽出した30カ所全て30本/100μm幅以上であり、平均40本/100μm幅、線密度CV値は7%であった。
この研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施したところ、スクラッチ発生率については0.8%であり加工性良好であった。さらにその後、ディスク表面に磁性膜を製膜したところ、良好に加工でき、製膜後のディスクからの磁性膜の剥離もなかった。
比較例1
島成分に二酸化チタンを0.1重量%含有するナイロン6を用い、実施例1と同様の製法で海島型複合繊維の原綿を形成した。
この海島型複合繊維を実施例1で得られた原綿と重量比で1:3となるように混ぜ合わせた原綿を用いたほかは、実施例1と同様の製法で、厚さ0.55mm、目付180g/m2 、見掛け密度0.33g/cm3の研磨布を得た。得られた研磨布中のチタン含有量は177ppmであった。この研磨布中の極細繊維の繊維径は1.4μm、繊維径CV値は5%であった。また該この研磨布の表面繊維本数の線密度は抽出した30カ所全て30本/100μm幅以上であり、平均41本/100μm幅、線密度CV値は7%であった。
この研磨布を用いて実施例1と同一の方法でテクスチャー加工を実施したところ、スクラッチ発生率については1.8%であり加工性は不良であった。さらにその後、ディスク表面に磁性膜を製膜したところ、製膜不良のディスクがあった。また、製膜後のディスクから磁性膜が剥離するディスクもあった。