JP4413340B2 - 酵素の安定化方法及び安定化された測定試薬 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は酵素の安定化方法及びその応用に関し、さらに詳しくはADP−リボースにより不安定化される酵素例えばウレアアミドリアーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルタミン酸脱水素酵素、ピルビン酸キナーゼ、ヘキソキナーゼ、リンゴ酸脱水素酵素、及び乳酸脱水素酵素の保存時又は反応時の安定化が確保された酵素の安定化方法及び測定試薬に関する。又、本発明は安定化された尿素測定試薬に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
NAD+又はNADP+を補酵素とする酵素としては種々のものが知られており、例えばグルコース−6−リン酸脱水素酵素等がある。NAD+又はNADP+を補酵素とする酵素反応系に用いられる酵素が保存時又は反応時に不安定化することが多いが、その原因についてはこれまでよく知られていなかった。
【0003】
ウレアーゼは尿素窒素の測定において尿素をアンモニアと二酸化炭素(CO2)に分解するのに用いられている。尿素はアミノ酸の脱アミノ化によって生じたアンモニアとCO2とから主として肝で尿素サイクルによって合成され、血中では血漿と血球の水分中に平等に含有されている。尿素窒素(以下、BUNと略称することがある)は、正常では、血清中の蛋白以外の窒素化合物である非蛋白窒素(以下、NPNと略称することがある)の約50%であるが、尿毒症では80〜90%に達する。BUNの測定はNPNとほとんど同じ臨床的意義をもっているが、病態における変動が大きく、測定法が簡単であることからBUN測定が主として行われている。
【0004】
BUNの測定用試薬の測定法としては、ネスラー法(C.J.Gentzkow, J. Biol. Chem.,143,531−544(1942))、比色法(A.A. Ormsby, J. Biol. Chem.,146,595−604(1942))、 カラー法(R.L.Searcy etc., Clin. Chim. Acta,12,170−175(1965))、 インドフェノール法(A.L.Chaney etc., Clin. Chem.,8,130−132(1962))、グルタミン酸脱水素酵素法(B.A.Humphries etc., Clin. Chem.,25,26−30(1979))がある。通常、グルタミン酸脱水素酵素法が用いられている。
【0005】
一方、修飾によりタンパク質の性質の変化あるいは機能の低下ないしは喪失がおきることが多くのタンパク質において知られている。例えば、ヘキソースによるタンパク質の糖質化(glycation)が多くの疾病の病理や老化過程に関与していることが示唆されている(D.Cervantes−Laurents,D.E.Minter,E.L.Jacobson, Biochemistry,32,1528−1534(1993))。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
例えばウレアアミドリアーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルタミン酸脱水素酵素、ピルビン酸キナーゼ、ヘキソキナーゼ、リンゴ酸脱水素酵素、及び乳酸脱水素酵素の少なくとも一種を含む酵素反応系に用いられる酵素が保存時又は反応時に不安定化する原因物質をつきとめ、この原因物質を除去することなく、あるいは補酵素等を精製することなく、簡単にその不安定化作用を回避する手段が望まれている。
【0007】
また、NAD+又はNADP+を補酵素とする酵素を含む酵素反応系の応用の一例である、ウレアアミドリアーゼを用いた尿素窒素測定方法において用いられる酵素を安定化すること、及びそのような酵素反応を利用した尿素窒素測定試薬の保存時又は反応時における安定性を向上させることが望まれている。
【0008】
従って、本発明の目的は、ウレアアミドリアーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼのような酵素を含む酵素反応系に用いられる酵素の保存時又は反応時の不安定化を回避する方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、ウレアアミドリアーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼのような酵素を含む酵素反応系において、酵素の安定化手段が導入された測定試薬ならびに、特に尿素窒素測定試薬を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は鋭意検討した結果、ウレアアミドリアーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルタミン酸脱水素酵素、ピルビン酸キナーゼ、ヘキソキナーゼ、リンゴ酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素の少なくとも一種の、保存時又は反応時の不安定化は、NAD+又はNADP+の分解生成物が原因で起きていること、これら分解生成物のうち、特にADP−リボースが原因物質であること、ADP−リボースによる酵素の不安定化は酵素タンパク質のADP−リボースによる修飾によるものであり、各種の酵素を利用した測定法の場合、このような酵素の不安定化は測定結果の信頼性を損なうので、例えば、尿素窒素の測定法において、尿素を分解する酵素の安定性が重要であることを見出した。
【0011】
本発明の一は、ADP−リボースが測定反応系の分解産物として産生される生体内成分の測定反応系において、ADP−リボースによる修飾によっておこる測定反応系に関与する酵素の不安定化を阻止する手段を導入することを特徴とする生体内成分の測定試薬に関し、さらに詳しくはウレアアミドリアーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルタミン酸脱水素酵素、ピルビン酸キナーゼ、ヘキソキナーゼ、リンゴ酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素の少なくとも一種を含む酵素反応系を用いる試薬においてADP−リボースによる修飾によっておこる該酵素の不安定化を阻止する手段を導入することからなる。
【0012】
さらに、本発明の別の一はNAD+又はNADP+の分解生成物あるいはADP−リボースによるこれら酵素(ADP−リボースにより不安定化される酵素)の不安定化がL−システイン、L−システイン類縁体、ヒドラジン及びヒドラジン類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を共存させることにより回避されることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
本発明の酵素の不安定化を阻止する手段は、ADP−リボースによる作用を阻止することであり、その阻止の手段とは該酵素の安定化に有効な量のL−システイン、L−システイン類縁体、ヒドラジン及びヒドラジン類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを共存させるものである。
【0014】
本発明の酵素の例としてはウレアアミドリアーゼ、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、ピルビン酸キナーゼ、ヘキソキナーゼ、リンゴ酸脱水素酵素、及び乳酸脱水素酵素から選ばれる少なくとも一種の酵素を含むものであってもよい。しかし、ADP−リボースによって影響をうける酵素であれば、これらに限定されるものではなく、広く適用可能である。
【0015】
本発明の酵素の安定化方法は、β−NAD(P)+等と、その分解生成物により阻害作用を受ける酵素を含む酵素反応系に、ADP−リボースによる修飾によっておこる酵素の不安定化を阻止する手段を導入することであり、その手段の一例として有効量のL−システイン、L−システイン類縁体、ヒドラジン及びヒドラジン類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することで、前記β−NAD(P)+分解生成物による前記酵素不安定化作用を回避するものである。
【0016】
本発明の安定化された試薬は、ADP−リボースが測定反応系の分解産物として産生される生体内成分の測定反応系において、ADP−リボースによる修飾によっておこる測定反応系に関与する酵素の不安定化を阻止する手段を導入することを特徴とする生体内成分の測定試薬である。ADP−リボースが測定反応系の分解産物として産生される生体内成分の測定反応系とは、NAD+、NADP+、NADH、NADPH,FAD等を補酵素として使用する反応系である。酵素の例としてはウレアアミドリアーゼ、ADP依存性ヘキソキナーゼ、グルコース−6−リン酸脱水素酵素、グルタミン酸脱水素酵素、ピルビン酸キナーゼ、ヘキソキナーゼ、リンゴ酸脱水素酵素、及び乳酸脱水素酵素から選ばれる少なくとも一種の酵素を含むものであってもよい。
【0017】
酵素の不安定化を阻止する手段の一例としては、有効量のL−システイン、L−システイン類縁体、ヒドラジン及びヒドラジン類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物安定化剤として使用するものである。
【0018】
上記ADP−リボースによる修飾によっておこる酵素の不安定化を阻止する手段としてL−システインを用いる場合は、L−システインが酸化されてシスチンになり沈澱を生成することを回避するための安定化補助手段を導入することが好ましく、該安定化補助手段としては酸化防止剤、例えばL−システインを除くスルフヒドリル化合物が好ましい。
【0019】
【発明の実施の形態】
NAD+又はNADP+を補酵素とする酵素を含む酵素反応系の例としては、ウレアアミドリアーゼ、ADP依存性ヘキソキナーゼ(ADP−HK)及びグルコース−6−リン酸脱水素酵素を用いた複合酵素系がある。この酵素反応系では、図1に示すように、次のように反応がおきる。
【0020】
まず、(1)ATPとマグネシウムイオン(Mg2+)及びカリウムイオン(K+)の存在下でウレアアミドリアーゼ(URL)が尿素に作用してこれをアンモニアとCO2とに分解し、その際ATPがADPに加水分解される。次に、(2)ADP依存性ヘキソキナーゼ(ADP−HK)及びMg2+の存在下、グルコースを基質としてグルコース−6−リン酸(G6P)が生成し、ADPはさらにAMPに加水分解する。さらに、(3)補酵素β−NADP+の存在下でグルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6DPH)の作用でG6Pから6−ホスホグルコノ−δ−ラクトンが生成し、その際、酸化型補酵素β−NADP+は還元型補酵素β−NADPHに変化する。この補酵素の変化量を340nmにおける吸光度の測定を行い、その変化から尿素窒素量を得ることができる。
【0021】
NAD+又はNADP+(併せてNAD(P)+と略称することがある)を補酵素とする酵素を含む酵素反応系に用いられる酵素、例えばウレアアミドリアーゼ(URL)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(G6PDH)は、保存時又は該酵素反応系において不安定化する現象がみられる。本発明者等による検討の結果、かかる不安定化は酵素自体が不安定であることに加え、β−NAD+又はβ−NADP+の分解生成物が主たる原因となっていることが判明した。
【0022】
例えば、URL酵素溶液にβ−NAD+又はβ−NADP+を3mM添加して30℃、5日間保存すると、無添加の場合に比較して残存活性(%)が低下したが、ニコチンアミド(1mM)、アデノシン(1mM)、ADP(1mM)をそれぞれ添加した場合は残存活性(%)は低下しないか又は若干低下したにすぎない(図3)。そこで、β−NAD+の分解生成物を逆相HPLC(HPLC:高速液体クロマトグラフィー)を用いて分析したところ、ADP−リボースが無視できない量存在することを確認し、ADP−リボースがURLの不安定化の原因物質であるとの示唆を得た。これを検証するために、ADP−リボースをURL酵素溶液に添加したところ、NAD+分解生成物を添加した場合と同等のいちじるしい残存活性(%)の低下がみられた。このため、ADP−リボースがURLの不安定化の原因物質であることが確認された(図3)。
【0023】
同様に、ADP−HKも上記反応系において残存活性低下がみられることを確認した。
【0024】
さらに検討した結果、本発明者等は、ADP−リボースによる上述の酵素の不安定化は特定の化合物を酵素と共存させることで回避し得ることを見出した。このような化合物としては、L−システイン、L−システイン類縁体、ヒドラジン、及びセミカルバジド、ヒドロキシルアミンのようなヒドラジン類縁体があり、特にL−システインとヒドロキシルアミンが好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
URL、G6PDH等の不安定化を回避するのに使用できる安定化剤としては、L−システイン、L−システイン類縁体、ヒドラジン及びヒドラジン類縁体、例えば塩酸ヒドロキシルアミン、塩酸セミカルバジド等があげられる。これらの安定化剤の使用量は酵素反応の温度、用いるNAD(P)+の濃度等に応じて変わり、予備試験を行うことにより適宜決めることができるが、一般に0.1〜50mMであり、好ましくは1〜25mMである。安定化剤としてL−システインを用いる場合、L−システインの安定化補助剤として酸化防止剤、例えばL−システインを除くスルフヒドリル化合物を用いることが好ましい。
【0026】
本発明による尿素窒素の測定は用手法、自動分析法のいずれによってもよい。
【0027】
L−システイン、システイン類縁体、ヒドラジン及びヒドラジン類縁体は非酵素的にADP−リボースと結合し、ADP−リボースの酵素に対する修飾作用(ADP−リボシル化作用)を阻害するものと考えられる。理論に縛られるつもりはないが、この阻害作用は、システイン、ヒドラジン又はそれらの類縁体のADP−リボース又はその構造類似物に対する非酵素的結合によるものと考えられる。いずれにしても、酵素タンパク質がADP−リボース又はその構造類似物と結合する部位に対するADP−リボース又はその構造類似物のアクセスがこれらの化合物により妨げられる結果、タンパク質の修飾が阻害され、酵素タンパク質の不安定化又は失活が回避されるものと考えられる。
【0028】
このように、URL、G6PDH、ADP−HKに限らず、ADP−リボースにより修飾されて不安定化又は失活する酵素であれば、G1uDH(グルタミン酸脱水素酵素)、PK(ピルビン酸キナーゼ)、HK(ヘキソキナーゼ)、MDH(リンゴ酸脱水素酵素)、LDH(乳酸脱水素酵素)など上述の本発明による安定化剤を酵素と共存させることで不安定化を回避することができる。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0030】
実施例1 尿素窒素測定試薬の組成
図1の反応系による尿素窒素の測定に用いる試薬の組成の一例をあげると次の通りである。第一試薬及び第二試薬のそれぞれの成分を下記の濃度になるように精製水に溶解して調製した。
【0031】
【表1】
HEPES: N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸
TAPS: N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸
G6PDH: グルコース−6−リン酸脱水素酵素
【0032】
実施例2 URLの安定性試験
URLの安定性試験を次のようにして行った。β−NADP+の代わりに、β−NAD+(3.3mM)とL−システイン(0mM,5mM,10mM,15mM,20mM,25mM,30mM,35mM,40mM,45mM,又は50mM)を添加した以外は実施例1と同様の組成の第一試薬を調製し、−80℃、2〜8℃又は30℃の各温度で7日間保存した場合について、URLの残存活性(%)を求めた(−80℃での残存活性を100%とした)ところ、図2に示す結果が得られた。2〜8℃では約15mMで残存活性がほぼ100%に達する。30℃では約5mMで残存活性が約50%に達し、約37mMで100%に達する。従って、温度によってL−システインの使用量は変わるが、約15〜40m以上で残存活性がよく、30℃以下で保存した場合は約37mMで残存活性が100%になる。他の化合物も同様の傾向を示した。
【0033】
実施例3〜6 URLの安定性試験
URLの安定性試験を次のようにして行った。実施例1に示す第一試薬において、L−システイン及びβ−NADP+を除いたもの(無添加)、L−システインを除き、β−NADP+の代わりにβ−NAD+(3mM)、ADP−リボース(0.3mM)、ニコチンアミド(1mM)、アデノシン(1mM)、ADP(1mM)、β−NADP+(1mM)を添加したものを作成し、30℃・5日間保存した場合のURLの安定性について検討した。その結果を図3に示す。この結果から明らかなように、ニコチンアミド、アデノシン、ADPは無添加とほぼ同じ安定性を示したのに対し、β−NAD+、ADP−リボース、β−NADP+を添加することによりURLの顕著な不安定化が起こった。β−NAD+が加水分解されるとADP−リボースとニコチンアミドを生じるが、この内ADP−リボースにより顕著に不安定化されたことから、ADP−リボースにより酵素の不安定化が引き起こされると考えられる。
【0034】
更に、実施例1に示す第一試薬において、β−NADP+の代わりに、β−NAD+(3mM)を添加し、L−システインを8mM、20mM添加したもの(実施例3)及び、L−システインの代わりにセミカルバジド(実施例4)、ヒドラジン(実施例5)、ヒドロキシルアミン(実施例6)をそれぞれ、8mM、20mM添加したものを30℃・5日間保存したときのURLの安定性を検討した。その結果を図3に示す。
【0035】
これらの結果から、明らかなように、安定化剤はいずれの濃度でも60%以上の残存活性を示した。L−システインとセミカルバジドは20mMの濃度で70%を越える残存活性を示し、ヒドロキシルアミンは8mMの濃度で約77%の残存活性を示した。
【0036】
実施例7〜9 URLの安定性試験
L−システイン(4mM、20mM)(実施例7)、塩酸セミカルバジド(0.2%、1%)(実施例8)、塩酸ヒドロキシルアミン(4mM、20mM)(実施例9)を用いて実施例2と同様にして第一試薬をそれぞれ調製した。対照として上述の安定化剤を含まずNADPの代わりにADP−リボース(40μM)を含む以外は実施例2と同じ組成のもの、及び安定化剤もADP−リボースも含まないものを調製した。これらの試薬を用いて2〜8℃、25℃又は37℃の各温度で5日間保存した場合のURLの安定性について検討した。
【0037】
得られた結果を表2に示す。
【0038】
【表2】
*残存活性は各々を2−8℃で保存したものを100%として算出した。
【0039】
実施例10〜13 G6PDHの安定性試験
G6PDHの安定性試験を次のようにして行った。実施例1に示す第一試薬において、L−システインを2.5mM、10mM添加したもの(実施例10)及びL−システインの代わりにヒドラジン(実施例11)、ヒドロキシルアミン(実施例12)、セミカルバジド(実施例13)を、それぞれ2.5mM、10mM添加したもの更に、前記試薬からβ−NADP+を除いたものを作成し、37℃・4日間保存したときのG6PDHの安定性を検討した。その結果を表3に示す。
【0040】
【表3】
G6PDH: グルコース−6−リン酸脱水素酵素
【0041】
表3の結果から明らかなように、安定化剤及びβ−NADPのいずれも添加しなかったときは残存活性が96.4%であったが、β−NADPが2.5mM存在すると残存活性は69.5%に低下した。これに対して、安定化剤としてL−システイン、ヒドラジン、ヒドロキシルアミン、セミカルバジドが存在すると、β−NADP無添加の場合は残存活性は安定化剤添加量が2.5mM、10mMのいずれにおいても無添加の場合とほぼ同じである。これに対して、2.5mMのβ−NADP存在化ではβ−NADP無添加の場合に比べて安定化剤の安定化効果は若干の低下がみられるものの、安定化剤が存在せず2.5mMのβ−NADPが存在する場合に比べていちじるしい安定化効果がみられた。
【0042】
実施例14 ADP−HKの安定性試験
表1に示す試薬組成でL−システインを添加したものと添加していないものを作成し、ADP−HKの安定性を検討した。各温度で30日間保存したときの酵素残存活性(%)を表4に示す。
【表4】
ADP−HK:ADP依存性ヘキソキナーゼ
【0043】
25℃及び30℃でADP−HKを保存すると酵素残存活性はそれぞれ68、59%に低下する。L−システイン添加により残存活性はそれぞれ91、82%と維持された。
【0044】
実施例15 1−チオグリセロールによるL−システインの酵素安定化作用の増強試験
L−システインは実施例2及び図2に示すように、保存時における安定化剤としての作用が保存温度により異なり、30℃では10mM以下の低濃度で効果が低い。表5に示すように 尿素窒素測定用の試薬にL−システイン0,2,4,6,8,10mMを安定化剤として単独添加し、37℃で11日間保存した場合、酵素(URL)の残存活性は、それぞれ2,12,15,19,28,42%であった。1−チオグリセロールは本酵素系では単独では酵素安定化作用をほとんど示さないが、L−システインとともにその補助剤として試薬に加えると、L−システインの酵素安定化作用を著しく増強した。2mM L−システイン存在下の酵素残存活性が1−チオグリセロール10mM添加により64%に、25mM添加により87%に増加した。さらに、L−システイン10mM存在下では10mM以上の1−チオグリセロール添加により酵素残存活性はほぼ100%となった。従って、L−システインを前記酵素の安定化剤として使用する場合、1−チオグリセロールをその安定化補助物質として用いることで著しい効果が得られる。
【表5】
【0045】
実施例16〜20 G1uDH、PK、HK、MDH、LDHの安定性試験(1)
0.1%BSA、3.3mM β−NAD及び安定化剤として10mM L−システイン塩酸塩及び33mM 1−チオグリセロール、10mM塩酸ヒドラジン、10mM塩酸ヒドロキシルアミンをそれぞれ含む50mM HEPES緩衝液pH7.0を負荷液とした。それそれの負荷液に1.0U/mLになるようにG1uDH(実施例16)、PK(実施例17)、HK(ヘキソキナーゼ)(実施例18)、MDH(実施例19)、LDH(実施例20)をそれぞれ溶解し、HK、MDHは30℃で7日間負荷を行い、一方G1uDH、PK、LDHは37℃で7日間の負荷を行い、それぞれ安定性を検討した。また、対照として安定化物質及び不安定化物質を含まないものも検討した。負荷前の活性を100%とした時の酵素の残存率を表6に示す。
【表6】
実施例21〜25 G1uDH、PK、HK、MDH、LDHの安定性試験(2)
実施例21〜25としてそれぞれ実施例16〜20の3.3mM β−NADの代わりに0.33mM ADP−リボースを用いて、実施例16〜20と同様に安定性の検討を行った。その結果を酵素の残存率として表7に示す。
残存率を表7に示す。
【表7】
【0046】
【発明の効果】
本発明に従い、NAD+又はNADP+を補酵素とする酵素を含む酵素反応系に用いられる酵素と、安定化剤としてL−システイン、L−システイン類縁体、ヒドラジン及びヒドラジン類縁体からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを共存させることで、系外にβ−NAD(P)+分解生成物とシステイン等の化合物との複合体を取り出すことなく、簡単に酵素の修飾を防止でき、酵素の不安定化を回避することができるので、試薬測定の自動化が可能である。また、本発明を尿素窒素の測定試薬キットに適用する場合は、試薬に用いるβ−NAD(P)+を精製することなく、そのまま使用できるので試薬製造のプロセスを減らすことができ、コスト的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に従う尿素窒素測定方法に用いる複合酵素系の反応(測定原理)を説明する反応行程図である。
【図2】異なる温度におけるL−システインとウレアアミドリアーゼ残存活性(%)との関係を示すグラフである。
【図3】ウレアアミドリアーゼに対する安定化剤の効果を示すグラフである。
【符号の説明】
URL ウレアアミドリアーゼ
ADP−HK ADP依存性ヘキソキナーゼ
G6PDH グルコース−6−リン酸脱水素酵素
Claims (3)
- ウレアアミドリアーゼを含む尿素窒素測定試薬の安定化方法であって、L−システイン、ヒドラジン、セミカルバジド及びヒドロキシルアミンから選ばれる少なくとも1種の化合物を含有させることを特徴とする、尿素窒素測定試薬の安定化方法。
- L−システイン、ヒドラジン、セミカルバジド及びヒドロキシルアミンから選ばれる少なくとも1種の化合物と、ウレアアミドリアーゼを含有する尿素窒素測定試薬。
- 酸化防止剤を含有する請求項2に記載の尿素窒素測定試薬。
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