JP4404429B2 - ヘモグロビン類の測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近、液体クロマトグラフィー(LC)は、臨床検査分野で広く用いられており、特に、血液試料中に含まれている夾雑成分の中から測定対象成分を分離したり、性質の似た複数の成分を相互に分離分析したり、特定の成分を分取するために用いられている。
【0003】
その中でも、糖化ヘモグロビン、特にヘモグロビンA1c(以下、HbA1cという)は糖尿病診断の指標として広く利用されている。HbA1cとは血液中の糖が赤血球に入った後に、ヘモグロビンと不可逆的に結合して生成したものであり、過去1〜2カ月間の血液中の平均的な糖濃度を反映する。
【0004】
液体クロマトグラフィー法によるHbA1cの測定は、主にカチオン交換液体クロマトグラフィー法により行われている(特公平8−7198号公報など)。溶血液試料をカチオン交換液体クロマトグラフィーにより分離すると、通常、ヘモグロビンA1a(以下、HbA1aという)及びヘモグロビンA1b(以下、HbA1bという)、ヘモグロビンF(以下、HbFという)、不安定型HbA1c、安定型HbA1c並びにヘモグロビンA0(以下、HbA0という)などのピークが出現する。なお、糖尿病の診断の指標として使用されているHbA1cは、最近では、上記のうちの安定型HbA1cであり、その割合は、全ヘモグロビンピークの面積に対する安定型HbA1cピークの面積の比率(%)として求められている。
【0005】
しかしながら安定型HbA1cピークと不安定型HbA1cピークの分離が困難であるため、通常、精度良く安定型HbA1cピークのみを測定することが困難であった。
【0006】
このような、カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定において、測定時間の短縮は、相当進んでいるが、各ピークの分離は、上記HbA1cに例示される如く未だ不十分である。
【0007】
さらに、液体クロマトグラフ装置では、そのシステム中に塵等を除くために、ステンレス製等のラインフィルターが設置されている。しかしながら、該フィルターにヘモグロビン類が非特異的に吸着しやすいために、測定試料がフィルターの前で拡散し測定ピークがブロードになる、或いは、測定試料がフィルターに吸着されるため、注入した試料全てがカラム内に入らず測定誤差が生じる、さらに、測定の再現性が悪いという問題点があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記ヘモグロビン類の測定方法の問題点に鑑み、カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、ヘモグロビン類の非特異的な吸着をなくし、ヘモグロビン類の分離を高分離能で行うことができ、さらに測定再現性の優れたヘモグロビン類の測定方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1記載の本発明は、カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、実質的に測定値に対して影響を与えない程度に、蛋白質が含有されている溶離液及び/又は溶血試薬を用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法を提供する。
【0010】
また、請求項1記載の本発明は、上記蛋白質が、可視光領域でのヘモグロビン類の極大吸収領域内の特定波長において、ヘモグロビン類のモル吸光係数の5%以下のモル吸光係数を有する蛋白質であることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法を提供する。
【0011】
また、請求項2記載の本発明は、上記蛋白質が、血清アルブミン、カゼイン、ゼラチン、ミオグロビン及びグロブリンからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、該蛋白質の濃度が1〜50000ppmであることを特徴とする請求項1記載のヘモグロビン類の測定方法を提供する。
以下に、本発明の詳細を説明する。
【0012】
本発明における蛋白質は、ヘモグロビン類の測定値に対し実質的に影響を与えない程度に、溶離液及び/又は溶血試薬に添加される。すなわち、蛋白質は、溶離液または溶血試薬の少なくとも一方に含有されていればよく、また両方に含有されていても良い。
【0013】
ここで言うヘモグロビン類の測定値に実質的に影響を与えない程度とは、ヘモグロビン類の測定においてその測定値に要求される測定精度により異なるものであるが、測定精度の範囲内において蛋白質添加前後における測定値が、略同一であると看做すことの可能な程度を意味し、本発明ではこの程度において蛋白質の種類及び濃度を適宜設定することが可能である。
【0014】
上記蛋白質としては、可視光領域でのヘモグロビン類の極大吸収領域内の特定波長において、ヘモグロビン類のモル吸光係数の5%以下のモル吸光係数を有する蛋白質を用いることができる。ここで、可視光領域でのヘモグロビン類の極大吸収領域としては、波長350〜600nmの領域が挙げられる。例えば、415nmでのヘモグロビン類のモル吸光係数は3.0×105 であるので、この5%の値である1.5×104 以下のモル吸光係数を415nmの波長で有する蛋白質を本発明において好適に用いることができる。
【0015】
上記蛋白質の具体例としては、例えば、血清アルブミン、牛血清アルブミン(BSA、モル吸光係数1.25×104 (415nm))、カゼイン、ゼラチン、ミオグロビン、グロブリン等が挙げられる。
上記蛋白質は、単独で用いても、また2種以上を混合して使用しても良い。
【0016】
上記蛋白質の溶離液又は溶血試薬中の濃度は、1ppm未満では、ヘモグロビン類の非特異的吸収が起こりやすくなり、50000ppmを越えるとヘモグロビン類の分離能が低下するため、1〜50000ppmであることが好ましく、さらに好ましくは、5〜10000ppmであり、最も好ましくは、10〜5000ppmである。
【0017】
本発明における溶離液は、上記蛋白質を含有しており、これ以外の成分としてさらにカオトロピックイオン及び、pH4.0〜6.8で緩衝能を持つ無機酸、有機酸及び/又はこれらの塩を含むことが好ましい。
【0018】
上記カオトロピックイオンとは、化合物が水溶液に溶解したとき解離して生じたイオンであり、水の構造を破壊し、疎水性物質と水が接触したときに起こる、水のエントロピー減少を抑制するものである。
【0019】
陰イオンのカオトロピックイオンとしては、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン等が挙げられる。また、陽イオンとしては、バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、グアニジンイオン等が挙げられる。
【0020】
上記カオトロピックイオンの中でも、陰イオンとして、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン等を、陽イオンとして、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、グアニジンイオン等を用いるのが好ましい。さらに、より好ましくは、チオシアン酸イオン、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、グアニジンイオン等が用いられる。
【0021】
上記カオトロピックイオンの溶離液中の濃度は、0.1mMより低いとヘモグロビン類の測定において、分離効果が低下する恐れがあり、また、3000mMよりも高くてもヘモグロビン類の分離効果はそれ以上向上しないので、0.1mM〜3000mMが好ましく、より好ましくは1mM〜1000mM、また更に好ましくは、10mM〜500mMである。
また、カオトロピックイオンは複数種混合して用いてもよい。
【0022】
上記カオトロピックイオンは、測定サンプルと接触する液、例えば、溶血試薬、サンプル希釈液等にも添加してもよい。
【0023】
また、上記pH4.0〜6.8で緩衝能を持つ無機酸、有機酸又はこれらの塩としては、以下のものが挙げられる。
上記無機酸としては、例えば、炭酸、リン酸などが挙げられる。
上記有機酸としては、例えば、カルボン酸、ジカルボン酸、カルボン酸誘導体、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、カコジル酸、ピロリン酸などが挙げられる。
【0024】
上記カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸などが挙げられる。上記ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸などが挙げられる。上記カルボン酸誘導体としては、例えば、β、β−ジメチルグルタル酸、バルビツール酸、アミノ酪酸などが挙げられる。上記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、酒石酸、乳酸などが挙げられる。上記アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、アスパラギンなどが挙げられる。
【0025】
上記無機酸又は有機酸の塩としては、公知のものでよく、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。
【0026】
上記無機酸、有機酸及び/又はこれらの塩としては、複数混合して用いても良く、無機酸と有機酸を混合して用いてもよい。
【0027】
上記無機酸、有機酸又はこれらの塩の溶離液中の濃度は、水に溶解された状態で溶離液のpHを4.0〜6.8にする緩衝作用があれば良く、1〜1000mMが好ましく、10〜500mMが特に好ましい。
【0028】
上記溶離液のpHは、4.0〜6.8であり、好ましくは4.5〜5.8である。溶離液のpHが4未満であると、ヘモグロビン類が変性する可能性があり、pHが6.8をこえると、ヘモグロビン類のプラス荷電が減少し、カチオン交換基に保持されにくくなり、ヘモグロビン類の分離が悪くなる。
【0029】
また、溶離液には緩衝剤として、酸解離定数(pKa)が、2.15〜6.39及び6.40〜10.50の範囲に少なくとも一つずつ存在するものが用いられることが好ましい。すなわち、単一の物質でpKaを、2.15〜6.39及び6.40〜10.50の範囲に少なくとも一つずつ持つ物質を用いるか、あるいは、2.15〜6.39の範囲に少なくとも一つのpKaをもつ物質と6.40〜10.50の範囲に少なくとも一つのpKaを持つ物質とを組み合わせて用いる。また、上記緩衝剤を複数組み合わせて用いてもよい。
上記緩衝剤のpKaの範囲は、測定目的のピークを分離するのに適切な溶離液のpH付近において、より優れた緩衝能を発揮できるように、2.61〜6.39及び6.40〜10.50の範囲が好ましく、より好ましくは、2.80〜6.35及び6.80〜10.00の範囲である。さらに好ましくは、3.50〜6.25及び7.00〜9.50の範囲である。
【0030】
上記緩衝剤としては、例えば、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機物のほか、カルボン酸、ジカルボン酸、カルボン酸誘導体、ヒドロキシカルボン酸、アニリン又はアニリン誘導体、アミノ酸、アミン類、イミダゾール類、アルコール類などの有機物が挙げられる。また、エチレンジアミン四酢酸、ピロリン酸、ピリジン、カコジル酸、グリセロールリン酸、2,4,6−コリジン、N−エチルモルホリン、モルホリン、4−アミノピリジン、アンモニア、エフェドリン、ヒドロキシプロリン、ピペリジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、グリシルグリシン等の有機物でもよい。
上記カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等が挙げられる。
上記ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フタル酸、フマル酸等が挙げられる。
上記カルボン酸誘導体としては、例えば、β,β’−ジメチルグルタル酸、バルビツール酸、5,5−ジエチルバルビツール酸、γ−アミノ酪酸、ピルビン酸、フランカルボン酸、ε−アミノカプロン酸等が挙げられる。
上記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、酒石酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等が挙げられる。
上記アニリン又はアニリン誘導体としては、例えば、アニリン、ジメチルアニリン等が挙げられる。
上記アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシン、α−アラニン、β−アラニン、ヒスチジン、セリン、ロイシン等が挙げられる。
上記アミン類としては、例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。
上記イミダゾール類としては、例えば、イミダゾール、5(4)−ヒドロキシイミダゾール、5(4)−メチルイミダゾール、2,5(4)−ジメチルイミダゾール等が挙げられる。
上記アルコール類としては、例えば、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等が挙げられる。
【0031】
また、上記緩衝剤としては、2−(N−モリホリノ)エタンスルホン酸(MES)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス−(ヒドロキシメチル)メタン(Bistris)、N−(2−アセトアミド)イミドジ酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、1,3−ビス(トリス(ヒドロキシメチル)−メチルアミノ)プロパン(Bistrispropane)、N−(アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−(N−モルフォリン)プロパンスルホン酸(MOPS)、N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−プロパンスルホン酸(HEPPS)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(Tricine)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン(Tris)、N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、グリシルグリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、グリシン、シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸(CAPS)等の一般にグッド(Good)の緩衝液といわれるものを組成する物質も使用できる。これらの物質のpKaを表1・2に示す。(引用文献:堀尾武一・山下仁平 蛋白質・酵素の基礎実験法 南江堂、1985年)
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
上記緩衝剤の溶離液中の濃度は、緩衝作用がある範囲であればよく、好ましくは1〜1000mM、より好ましくは10〜500mMである。また、上記緩衝剤は、単独でも複数混合して用いてもよく、例えば、有機物と無機物を混合して用いても良い。
【0035】
上記溶離液のうちHbA0成分を溶出するための溶離液は、カラムの耐久性の向上と測定時間短縮のために、カラムに流入する際のpHが、ヘモグロビンの等電点(ヘモグロビンの等電点については、理化学事典(第4版、1987年9月、岩波書店、久保亮五ら編集)、1178頁に記載あるように、pH6.8〜7.0である)よりもアルカリ側である6.8以上であることが好ましい。
【0036】
HbA0成分を溶出するための溶離液のpHは、7.0〜12が好ましく、より好ましくは7.5〜11.0、また更に好ましくは8.0〜9.5である。溶離液のpHが6.8未満になるとHbA0溶出が不十分となり、pHが12より高いと充填剤の分解が起こるものと考えられる。
【0037】
充填剤の分解が測定に影響ない場合は、溶離液をpH12以上にするのが好ましく、pH10〜13.5がより好ましい。pHを高くしたとき、充填剤の分解が測定値に影響する場合は、溶離液を流す時間を短くすることにより、充填剤の分解を抑えることもできる。
【0038】
HbA0成分の溶出に好適に用いられる、pHが6.8以上で緩衝能をもつ溶離液としては、例えば、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸または、その塩;クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、β、β−ジメチルグルタル酸等のカルボン酸誘導体、マレイン酸等のジカルボン酸、カコジル酸、等の有機酸または、その塩からなる緩衝液が挙げられる。その他、2−(N−モリホリノ)エタンスルホン酸(MES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−エタンスルホン酸(HEPES)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス−(ヒドロキシメチル)メタン(Bistris)、Tris、ADA、PIPES、Bistrispropane、ACES、MOPS、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Bicine、グリシルグリシン、TAPS、CAPS等の一般にグッド(Good)の緩衝液といわれるものも使用できる。また、BrittonとRobinsonの緩衝液;GTA緩衝液も使用できる。また、イミダゾール等のイミダゾール類;エチレンジアミン、メチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;グリシン、β−アラニン、アスパラギン酸、アスパラギン等のアミノ酸類;等の有機物も使用できる。
【0039】
より効率的にHbA0を溶出させるために、HbA0溶出用の溶離液には、カオトロピックイオンを含有することが好ましい。
添加するカオトロピックイオンとしては、上述と同様のものを用いることができる。
カオトロピックイオンの濃度としては、1〜3000mMが好ましく、より好ましくは10〜1000mM、更に好ましくは50〜500mMである。
【0040】
本発明の溶離液には、以下の物質を添加してもよい。
(1)無機塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸ナトリウムなど)を添加してもよい。これらの塩類の濃度は、特に限定されないが、好ましくは1〜1500mMである。
(2)pH調節剤として、公知の酸、塩基を加えてもよい。酸としては、例えば、塩酸、リン酸、硝酸、硫酸等が、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらの酸、塩基の濃度は、特に限定されないが、好ましくは、0.001〜500mMである。
(3)メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトンなどの水溶性有機溶媒とを混合してもよい。これらの有機溶媒の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0〜80体積%であり、カオトロピックイオン、無機酸、有機酸、これらの塩などが析出しない程度で用いるのが好ましい。
【0041】
(4)アジ化ナトリウム、チモールなど防腐剤を添加してもよい。
(5)ヘモグロビンの安定剤として、公知の安定剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、グルタチオン、アジ化ナトリウムなどの還元剤・酸化防止剤などを添加してもよい。
【0042】
また、本発明の測定方法において、溶離液を測定途中で切り替えたり、勾配溶出法(グラディエント溶出法)、段階溶出法(ステップアップグラディエント溶出法)を行ってもよい。
【0043】
本発明における溶血試薬は、上記蛋白質を含有し、それ以外の成分として、通常用いられる公知の成分を含有しても良い。
上記成分としては、例えば、上記溶離液で使用したものと同様の無機酸、有機酸及び/又はこれらの塩、界面活性剤、不安定型HbA1c除去試薬(例えば、ホウ酸、ポリリン酸等)等が挙げられる。
さらに、溶血試薬には、上記溶離液で用いられると同様のカオトロピックイオンが添加されても良い。
【0044】
界面活性剤として、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤等を添加してもよい。界面活性剤を用いることにより、溶血を効率よく行うだけでなく、例えば高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等で測定を行う場合、溶血試薬の通過する流路等を洗浄する効果がある。
上記界面活性剤は、好ましくはノニオン性界面活性剤が使用され、例えば、ポリオキシエチレン類(以下、ポリオキシエチレンをPOE、エチレンオキシド付加モル数を(n)で表す。)、POE(7)デシルエーテル、POE(n)ドデシルエーテル、POE(10)トリデシルエーテル、POE(11)テトラデシルエーテル、POE(n)セチルエーテル、POE(n)ステアリルエーテル、POE(n)オレイルエーテル、POE(17)セチルーステアリルエーテル、POE(n)オクチルフェニルエーテル、POE(n)ノニルフェニルエーテル、モノラウリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、POE(n)モノラウリン酸ソルビタン、POE(n)モノパルミチン酸ソルビタン、POE(n)モノステアリン酸ソルビタン、POE(n)モノオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
これらの界面活性剤は、単独でもまた複数混合して用いてもよい。
【0045】
本発明のカチオン交換液体クロマトグラフィーにおいて用いられる充填剤は、少なくとも1種以上のカチオン交換基を有している粒子よりなるものであり、例えば、高分子粒子にカチオン交換基を導入することで得られる。
【0046】
該カチオン交換基は、公知のものでよく特に制限はない。例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などのカチオン交換基等が挙げられる。また、このカチオン交換基は、複数種導入しても良い。
【0047】
上記粒子の直径は、好ましくは0.5〜20μm、より好ましくは1〜10μmである。
また、粒度分布は、変動係数値(CV値)(粒径の標準偏差÷平均直径×100(%))として、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下である。
【0048】
上記高分子粒子としては、例えば、シリカ、ジルコニアなどの無機系粒子;セルロース、ポリアミノ酸、キトサンなどの天然高分子粒子;ポリスチレン、ポリアクリル酸エステルなどの合成高分子粒子などが挙げられる。
上記高分子粒子は、導入されるイオン交換基以外の構成成分は、より親水性であることが好ましい。また耐圧性・耐膨潤性の点から架橋度の高いものが好ましい。
【0049】
上記高分子粒子へのカチオン交換基の導入は、公知の方法により行うことができるが、例えば、高分子粒子を調製後、粒子が有する官能基(水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基など)に、化学反応でカチオン交換基を粒子に導入させる方法により行うことができる。
また、カチオン交換基を有する単量体を重合して高分子粒子を調製する方法によってもカチオン交換充填剤を調製できる。例えば、カチオン交換基含有単量体と架橋性単量体等とを混合し、重合開始剤の存在下に重合する方法などが挙げられる。
また、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの重合性カチオン交換基含有エステルを架橋性単量体などと混合し、重合開始剤存在下で重合した後、得られた粒子を加水分解処理し、エステルをカチオン交換基に変換させてもよい。
更に、特公平8−7197号公報に記載のように、架橋重合体粒子を調製した後、カチオン交換基を有する単量体を添加して、重合体粒子の表面付近に、該単量体を重合させても良い。
【0050】
上記充填剤はカラムに充填されて液体クロマトグラフィー測定に用いられる。カラムのサイズは、内径0.1〜50mm、長さ1〜300mmのものが好ましく、より好ましくは、内径0.2〜30mm、長さ5〜200mmである。
カラムサイズは、内径0.1mm、長さ1mmより小さくなると作業性が悪く分離機能も悪くなる。また、内径50mm、長さ300mmより大きくなると使用する充填剤量が多くなるだけでなく、分離機能も悪くなる。
【0051】
充填剤のカラムへの充填方法は、公知の任意の方法が使用できるがスラリー充填法がより好ましい。具体的には、例えば、充填剤粒子を溶離液などの緩衝液に分散させたスラリーを送液ポンプなどによりカラムに圧入することにより行う。
【0052】
上記カラムの素材としては、公知のステンレス製等の金属、ガラス製、PEEK等の樹脂製などが用いられる。
また、カラムの充填剤とカラム本体が接する部位を、不活性な素材で被覆してもよく、その素材としては、例えばPEEK、ポリエチレン、テフロン、チタン化合物、珪素化合物、シリコン膜等が挙げられる。
【0053】
上記測定に使用される液体クロマトグラフは、公知のものでよく、例えば、送液ポンプ、試料注入装置(サンプラ)、カラム、検出器などから構成される。また、他の付属装置(カラム恒温槽や溶離液の脱気装置など)が適宜付属されてもよい。
【0054】
また、本発明の測定方法における溶出方法は、公知の方法でよく、段階溶出法、グラディエント溶出、ステップアップグラディエント溶出を行ってもよい。
【0055】
上記測定方法における、他の測定条件としては、公知の条件でよく、溶離液の流速は、好ましくは0.05〜5ml/分、より好ましくは0.2〜3ml/分である。ヘモグロビン類の検出は、415nmの可視光が好ましいが、特にこれのみに限定されるわけではない。測定試料は、通常、界面活性剤など溶血活性を有する物質を含む溶液により溶血された溶血液を希釈したものを用いる。液体クロマトグラフへの試料注入量は、希釈倍率により異なるが、好ましくは0.1〜100μl程度である。
【0056】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示す。
【0057】
1.ヘモグロビンの吸着評価
以下に示した測定条件、測定試料、実施例1、2及び比較例1で調製した溶離液A及び溶離液Bを用いて、ステンレス製ラインフィルターにおけるヘモグロビン類の吸着性について繰り返し数3で評価した。
【0058】
(ラインフィルター)
図1及び図2に示したフィルター1をステンレス焼結体の一体成形品として製造した。構造は、円柱(直径5mm、厚さ1.5mm)部分の濾過孔径2μmのフィルター層からなる。
次に、このフィルター1をフッ素樹脂(テフロン)製のシール部材2に挿入した後、図3に示したステンレス製ホルダー(テーパ角度90度)3に嵌め込み、半体3a及び3b同士を螺合して、ラインフィルター4を作製した。
【0059】
(ヘモグロビン類の測定)
クロマトグラフに充填剤入りのカラムを取り付けずに、上記ラインフィルター4のみを取り付けて、以下の測定を行った。
【0060】
(実施例1)
(溶離液)
溶離液A:30mM過塩素酸及び200ppm牛血清アルブミンを含有する100mMリン酸緩衝液(pH5.8)
溶離液B:300mMリン酸緩衝液(pH6.8)
測定開始より0〜2分の間は溶離液Aを流し、2〜3分の間は溶離液Bを流し、3〜5分の間は溶離液Aを流した。
流速:2.0ml/分
検出波長:415nm
試料注入量:10μl
(測定試料)
フッ化ナトリウム採血した健常人血に、500mg/dlとなるようグルコース水溶液を添加し、37℃で3時間反応させ、次いで、溶血試薬(0.1重量%ポリエチレングリコール−モノ−4−オクチルフェニルエーテル(トリトンX−100)(東京化成社製)のリン酸緩衝液溶液(pH7.0))で溶血し、150倍に希釈して測定試料aとした。
【0061】
(実施例2)
(溶離液)
溶離液A:30mM過塩素酸を含有する100mMリン酸緩衝液(pH5.8)
溶離液B:300mMリン酸緩衝液(pH6.8)
測定開始より0〜2分の間は溶離液Aを流し、2〜3分の間は溶離液Bを流し、3〜5分の間は溶離液Aを流した。
(測定試料)
溶血試薬にトリトンX−100(東京化成社製)、2000ppm牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液溶液(pH7.0)を用いた以外は実施
例1と同様に測定試料を作成した。(測定試料b)
【0062】
(比較例1)
(溶離液)
溶離液A:30mM硝酸を含有する100mMリン酸緩衝液(pH5.8)
溶離液B 300mMリン酸緩衝液(pH6.8)
測定開始より0〜2分の間は溶離液Aを流し、2〜3分の間は溶離液Bを流し、3〜5分の間は溶離液Aを流した。
(測定試料)
測定試料は実施例1と同様のものを用いた。
【0063】
(測定結果)
ラインフィルターを装着せずに、実施例1、2、比較例1の測定条件で測定試料を測定したときのヘモグロビンピーク面積を100%として、ラインフィルターを装着して実施例1、2、比較例1の測定条件で測定試料を測定したときのヘモグロビンピーク面積から、以下の式により回収率を求め、結果を表3に示した。
回収率(%)=(ラインフィルター装着時のヘモグロビンピーク面積)÷(ラインフィルター装着なしのときのヘモグロビンピーク面積)×100
【0064】
【表3】
【0065】
実施例1、2では、回収率の平均値が99.1%、98.9%であったのに対し、比較例1では、回収率の平均値が79.4%であった。すなわち、実施例1及び2では、比較例1に比べてヘモグロビン類の吸着が少なかった。
【0066】
2.ヘモグロビン類の分離評価
上記実施例1、2及び比較例1で調製した溶離液A及び溶離液Bを用いて、ヘモグロビン類の分離評価を行った。
【0067】
(溶離液)
上記、吸着評価に用いた同様の溶離液を使用した。
測定開始より0〜4分の間は溶離液Aを流し、4〜4.5分の間は溶離液Bを流し、4.5〜8分の間は溶離液Aを流した。
流速:2.0ml/分
検出波長:415nm
試料注入量:10μl
(測定試料)
上記、吸着評価の測定試料と同様とした。
【0068】
(測定結果)
実施例1の測定条件により、測定試料を測定して得られたクロマトグラムを図4に示した。また、実施例2の測定条件により、測定試料を測定して得られたクロマトグラムは、図4と同様であった。
比較例1の測定条件により、測定試料を測定して得られたクロマトグラムを図5に示した。
ピーク11はHbA1a及びb、ピーク12はHbF、ピーク13は不安定型HbA1c、ピーク14は安定型HbA1c、ピーク15はHbA0を示す。
図4では、ピーク13及び14が良好に分離されている。図5では、ピーク13及び14が分離不良である。
また、上記で用いた測定試料aの測定再現性を安定型HbA1cの測定値で評価し、その結果を表4に示した。実施例1〜2では、安定型HbA1cの測定再現性は非常に良好であったが、比較例1では、測定再現性が悪かった。
【0069】
【表4】
【0070】
【発明の効果】
本発明のヘモグロビン類の測定方法の構成は、上述の如く、実質的に測定値に対して影響を与えない程度に、蛋白質が含有されているので、ヘモグロビン類の非特異的な吸着をなくし、ヘモグロビン類の分離を高分離能で行うことができ、さらに測定再現性が優れた方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】シール部材に挿入されたフィルターを示す断面図。
【図2】シール部材に挿入されたフィルターを示す平面図。
【図3】ラインフィルターを示す断面図。
【図4】実施例1、2の測定条件により、測定試料を測定して得られたクロマトグラムを示す図。
【図5】比較例1の測定条件により、測定試料を測定して得られたクロマトグラムを示す図。
【符号の説明】
1 フィルター
2 シール部材
3 ホルダー
4 ラインフィルター
11 HbA1a及びbのピーク
12 HbFのピーク
13 不安定型HbA1cのピーク
14 安定型HbA1cのピーク
15 HbA0のピーク
Claims (2)
- カチオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、可視光領域でのヘモグロビン類の極大吸収領域内の特定波長が、ヘモグロビン類のモル吸光係数の5%以下のモル吸光係数を有する蛋白質が含有されている、溶離液及び/又は溶血試薬を用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
- 上記蛋白質が、血清アルブミン、カゼイン、ゼラチン、ミオグロビン及びグロブリンからなる群より選ばれる少なくとも一種であり、該蛋白質の濃度が1〜50000ppmであることを特徴とする請求項1記載のヘモグロビン類の測定方法。
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