JP4391733B2 - ヘモグロビン類の測定方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヘモグロビン類の測定方法に関し、より詳細には安定型ヘモグロビンA1cの測定を目的とした、陽イオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヘモグロビンA1c(以下、HbA1cと略す)は、すべてのヘモグロビンに対するその構成比率が、過去1〜2カ月間の平均的な血糖値(血液中のグルコース濃度)を反映しているため、糖尿病のスクリーニング検査や糖尿病患者の血糖管理状態を把握する検査項目として繁用されている。
【0003】
HbA1cは、血液中のグルコースとヘモグロビンA(以下、HbAと略す)とが反応して生成された糖化ヘモグロビン( 以下、GHbと略す) であり、可逆的に反応したものを不安定型HbA1c(unstable HbA1c)と呼び、不安定型HbA1cを経て不可逆的に反応したものを安定型HbA1c(stable HbA1c)と呼んでいる。
【0004】
普通、ヘモグロビンは2種類のサブユニット2つずつから構成される4量体のタンパク質である。HbAのサブユニットはα鎖とβ鎖であり、このβ鎖のN末端アミノ酸にグルコースが結合したものがHbA1cである。過去1〜2カ月間の平均的な血糖値を良く反映するのは安定型HbA1cであり、臨床検査分野では、高精度に安定型HbA1c値(%)を得ることができる測定法の開発が望まれている。
【0005】
従来、HbA1cの主な測定法としては、血液検体を溶血希釈して調製した試料中のヘモグロビン類を、陽イオン交換法により、ヘモグロビン成分毎に異なるプラス荷電状態の違いを利用して分離する液体クロマトグラフィー(以下、LCと略す)が用いられてきた。(例えば、日本国・特公平8−7198号公報等)。
【0006】
陽イオン交換LCにより、十分な時間を掛けて溶血試料中のヘモグロビン類を分離すると、通常はヘモグロビンA1a(以下、HbA1aと略す)及びヘモグロビンA1b(以下、HbA1bと略す)、ヘモグロビンF(以下、HbFと略す)、不安定型HbA1c、安定型HbA1c及びヘモグロビンA0(以下、HbA0と略す)の順に溶離されてくる。HbA1a、HbA1b及びHbA1cはHbAが糖化されたGHb、HbFはα鎖とγ鎖から成る胎児性ヘモグロビン、HbA0はHbAを主成分とする一群のヘモグロビン成分であって、HbA1cより強くカラムに保持されたものである。
【0007】
従来の技術では、安定型HbA1cから不安定型HbA1cを十分に分離することができないばかりでなく、時にアセチル化ヘモグロビン(以下、AHbと略す)やカルバミル化ヘモグロビン(以下、CHbと略す)等の「修飾ヘモグロビン」が安定型HbA1cと重なって溶離してくるという問題があった。
【0008】
すなわち、陽イオン交換LCによる安定型HbA1c値(%)の測定を目的として、血液検体のヘモグロビン類を測定する際、安定型HbA1cの測定値に影響を与えないように、安定型HbA1cと溶出挙動が近似している不安定型HbA1cやAHb及びCHbピークを、安定型HbA1cピークから分離することが困難であった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高精度に安定型HbA1cを測定するために、上述した従来技術の欠点を解消し、短時間でしかも分離能に優れたヘモグロビン類の測定方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の発明(以下、 本発明という)は、陽イオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、カオトロピックイオンを含有し、かつ酸解離定数(pKa)が2.15〜6.39の範囲及び6.40〜10.50の範囲にある緩衝剤を含む溶離液を用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法である。
【0012】
請求項2記載の発明は、 請求項1に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、測定目的のピークを分離するのに際し、pHの異なる少なくとも2種以上の溶離液を用い、該pHの異なる少なくとも2種以上の溶離液が、同一の緩衝剤を含むものであることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法である。
【0013】
請求項3記載の発明は、 請求項1または2に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、HbA0を溶出するために、カラムに流入する際のpHがヘモグロビンの等電点と等しいか、または等電点よりアルカリ側になる溶離液を用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法である。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項3に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、前記溶離液のpHが6.8以上であることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法である。
【0017】
請求項5記載の発明は、 請求項1〜4のいずれか1項に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類の溶出に、pH4.0〜6.8の溶離液を用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法である。
【0018】
請求項6記載の発明は、 請求項5に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類の溶出に、少なくとも溶出力の異なる2種以上の溶離液を用い、 溶出力の弱い溶離液から順に送液することを特徴とするヘモグロビン類の測定方法である。
【0019】
請求項7記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、少なくとも溶出力の異なる3種の溶離液を用い、HbA0を溶出するための溶離液を送液する前に、該HbA0を溶出するための溶離液以外の溶離液を送液することを特徴とするヘモグロビン類の測定方法である。
【0020】
請求項8記載の発明は、 請求項1〜7のいずれか1項に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、溶離液を勾配溶出法または段階溶出法によって送液し、その途中において溶離液の溶出力を低下させることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法である。
【0039】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明では、上記カオトロピックイオンを含有し、かつ酸解離定数(pKa)が、2.15〜6.39の範囲及び6.40〜10.50の範囲にある緩衝剤を含有する溶離液が用いられる。
【0040】
上記カオトロピックイオンとは、化合物が水溶液に溶解したときに解離により生じたイオンであり、水の構造を破壊し、疎水性物質と水が接触したときに起こる水のエントロピー減少を抑制するものである。
陰イオンのカオトロピックイオンとしては、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン、塩化物イオン、酢酸イオン等が挙げられる。また、陽イオンのカオトロピックイオンとしては、バリウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、グアニジンイオン等が挙げられる。
上記カオトロピックイオンの中でも、陰イオンとして、トリブロモ酢酸イオン、トリクロロ酢酸イオン、チオシアン酸イオン、ヨウ化物イオン、過塩素酸イオン、ジクロロ酢酸イオン、硝酸イオン、臭化物イオン等を、陽イオンとして、バリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオン、セシウムイオン、グアニジンイオン等を用いるのが好ましい。さらに、より好ましくは、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン、グアニジンイオン等が用いられる。
上記溶離液中のカオトロピックイオンの濃度が、0.1mMより低いとヘモグロビン類の測定において、分離効果が低下するおそれがあり、また、3000mMよりも高いと、ヘモグロビン類の分離効果はそれ以上向上しないので、0.1mM〜3000mMが好ましく、1mM〜1000mMがより好ましく、更に、10mM〜500mMが好ましい。
また、カオトロピックイオンは複数種混合して用いても良い。
上記カオトロピックイオンは、測定試料と接触する液、例えば、溶血試薬、試料希釈液等に添加しても良い。
【0041】
本発明において、上記緩衝剤としては、酸解離定数(pKa)が、2.15〜6.39及び6.40〜10.50の範囲に存在するものが用いられる。すなわち、緩衝剤として、pKaを、2.15〜6.39及び6.40〜10.50の範囲に少なくとも一つずつもつ単一の物質を用いても良く、あるいは、2.15〜6.39の範囲に少なくとも一つのpKaをもつ物質と6.40〜10.50の範囲に少なくとも一つのpKaをもつ物質とを組み合わせて緩衝剤として用いても良い。また、上記緩衝剤を複数組み合わせて用いても良い。
【0042】
上記緩衝剤のpKaの範囲は、測定目的のピークを分離するのに適切な溶離液のpH付近において、より優れた緩衝能を発揮できるように、2.61〜6.39及び6.40〜10.50の範囲が好ましく、より好ましくは、2.80〜6.35及び6.80〜10.00の範囲である。さらに好ましくは、3.50〜6.25及び7.00〜9.50の範囲である。
【0043】
上記緩衝剤としては、例えば、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機物のほか、カルボン酸、ジカルボン酸、カルボン酸誘導体、ヒドロキシカルボン酸、アニリンまたはアニリン誘導体、アミノ酸、アミン類、イミダゾール類、アルコール類等の有機物が挙げられる。また、エチレンジアミン四酢酸、ピロリン酸、ピリジン、カコジル酸、グリセロールリン酸、2,4,6−コリジン、N−エチルモルホリン、モルホリン、4−アミノピリジン、アンモニア、エフェドリン、ヒドロキシプロリン、ペリジン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、グリシルグリシン等の有機物でも良い。
【0044】
上記カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、安息香酸等が挙げられる。
【0045】
上記ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フタル酸、フマル酸等が挙げられる。
【0046】
上記カルボン酸誘導体としては、例えば、β,β’−ジメチルグルタル酸、バルビツール酸、5,5−ジエチルバルビツール酸、γ−アミノ酪酸、ピルビン酸、フランカルボン酸、ε−アミノカプロン酸等が挙げられる。
【0047】
上記ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、酒石酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸等が挙げられる。
【0048】
上記アニリンまたはアニリン誘導体としては、例えば、アニリン、ジメチルアニリン等が挙げられる。
【0049】
上記アミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシン、α−アラニン、β−アラニン、ヒスチジン、セリン、ロイシン等が挙げられる。
【0050】
上記アミン類としては、例えば、エチレンジアミン、エタノールアミン、トリメチルアミン、ジエタノールアミン等が挙げられる。上記イミダゾール類としては、例えば、イミダゾール、5(4)−ヒドロキシイミダゾール、5(4)−メチルイミダゾール、2,5(4)−ジメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0051】
上記アルコール類としては、例えば、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等が挙げられる。
【0052】
また、上記緩衝剤としては、2−(N−モリホリノ)エタンスルホン酸(MES)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス−(ヒドロキシメチル)メタン(Bistris)、N−(2−アセトアミド)イミドジ酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、1,3−ビス(トリス(ヒドロキシメチル)−メチルアミノ)プロパン(Bistrispropane)、N−(アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−(N−モルフォリン)プロパンスルホン酸(MOPS)、N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−プロパンスルホン酸(HEPPS)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン(Tricine)、トリス(ヒドロキシメチル)アミノエタン(Tris)、N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、グリシルグリシン、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、グリシン、シクロヘキシルアミノプロパンスルホン酸(CAPS)等の一般にグッド(Good)の緩衝液といわれるものを組成する物質も使用できる。これらの物質のpKaを表1・2に示す(引用文献:堀尾武一・山下仁平 蛋白質・酵素の基礎実験法 南江堂 1985年)。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
溶離液中の上記緩衝剤濃度は、緩衝作用がある範囲であれば良く、好ましくは1〜1000mM、より好ましくは10〜500mMである。また、上記緩衝剤は、単独でも複数混合して用いても良く、例えば、有機物と無機物を混合して用いても良い。
【0056】
上記溶離液には、以下の物質を添加しても良い。
(1)無機塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸ナトリウム等)を添加しても良い。これらの塩類の濃度は、特に限定されないが、好ましくは1〜1500mMである。
(2)pH調節剤として、公知の酸、塩基を加えても良い。酸としては、例えば、塩酸、リン酸、硝酸、硫酸等が、塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらの酸、塩基の濃度は、特に限定されないが、好ましくは、0.001〜500mMである。
(3)メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン等の水溶性有機溶媒を混合しても良い。これらの有機溶媒の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0〜80%(v/v)であり、カオトロピックイオン、無機酸、有機酸、これらの塩等が析出しない程度で用いるのが好ましい。
(4)アジ化ナトリウム、チモール等の防腐剤を添加しても良い。
(5)ヘモグロビンの安定剤として、公知の安定剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、グルタチオン、アジ化ナトリウム等の還元剤・酸化防止剤等を添加しても良い。
【0057】
本発明においては、pHの異なる少なくとも2種類以上の上記溶離液を用いるのが好ましい。また、その場合、測定目的のピークを分離するにあたって用いる溶離液は、同一の緩衝剤を含むものを用いるのが好ましいが、溶離液を切り替える際の、(検出器出力の)ベースライン変動が、測定値に悪影響を与えなければ、その必要はない。
【0058】
さらに、ベースライン変動をより小さくするために、上記測定目的のピークを分離するにあたって用いる溶離液は、緩衝剤の濃度も同一であるものを用いるのがより好ましい。なお、溶離液のpHは、例えば、前述のpH調節剤の添加量により調節できる。
【0059】
上記pHの異なる2種類以上の溶離液を、勾配溶出法、あるいは段階溶出法によって送液しても良い。
【0060】
上記測定目的のピークとは、HbA1a、HbA1b、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1c、AHb、CHb、HbA0、HbA2 、HbS、HbC等が挙げられる。
【0061】
HbA0よりも前に溶出するヘモグロビン類を分離するための溶離液のpHは、4.0未満であると、ヘモグロビン類が変性する可能性があり、6.8を超えるとヘモグロビンのプラス電荷が減少し、陽イオン交換基に保持されにくくなり、分離能が低下するので4.0〜6.8が好ましく、4.5〜5.8がより好ましい。
【0063】
また、本発明においても、HbA0の溶出に際し、すなわち、HbA1cより強く充填剤に保持されたHbA等から成る「HbA0成分」を溶出するためには、カラムに流入する際のpHをヘモグロビンの等電点よりアルカリ側になるように設定した溶離液を用いるのが好ましい。この条件を実現するには、pHがヘモグロビンの等電点よりアルカリ側であるひとつの溶離液を送液する方法や、pHの異なる2種以上の溶離液を用いる方法がある。
【0064】
ヘモグロビンはpHが等電点より酸性側からアルカリ側になると、総荷電がプラスからマイナスに変わるため、充填剤の陽イオン交換基との「電気的反発力によってHbA0成分を溶出」させることができる。
【0065】
なお、理化学辞典(第4版、1987年9月、岩波書店、久保亮五ら編集)、1178頁に記載されているように、ヘモグロビンの等電点はpH6.8〜7.0である。そのため、HbA0成分を溶出するために、カラムに流入する際の溶離液のpHを6.8以上にすることがより好ましい。
【0066】
この条件を満たすため、測定に用いる溶離液の内、少なくともひとつの溶離液のpHが6.8以上であることが必要である。本溶離液のpHは望ましくは7.0〜12.0であり、7.5〜11.0がより好ましく、更には8.0〜9.5が好ましい。溶離液のpHが6.8未満になるとHbA0成分の溶出が不十分となる。溶離液のpHは、用いる充填剤の分解が起こらない範囲に設定すれば良い。
【0067】
HbA0成分の溶出に好適に用いられる、pHが6.8以上で緩衝能をもつ溶離液としては、例えば、リン酸、ホウ酸、炭酸等の無機酸または、その塩;クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、β、β−ジメチルグルタル酸等のカルボン酸誘導体、マレイン酸等のジカルボン酸、カコジル酸、等の有機酸または、その塩からなる緩衝液が挙げられる。その他、2−(N−モリホリノ)エタンスルホン酸(MES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−エタンスルホン酸(HEPES)、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス−(ヒドロキシメチル)メタン(Bistris)、Tris、ADA、PIPES、Bistrispropane、ACES、MOPS、BES、TES、HEPES、HEPPS、Tricine、Bicine、グリシルグリシン、TAPS、CAPS等の一般にグッド(Good)の緩衝液といわれるものも使用できる。また、BrittonとRobinsonの緩衝液;GTA緩衝液も使用できる。また、イミダゾール等のイミダゾール類;エチレンジアミン、メチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類;グリシン、β−アラニン、アスパラギン酸、アスパラギン等のアミノ酸類;等の有機物も使用できる。
【0068】
また、無機酸;有機酸;無機酸または有機酸の塩;有機物は、複数混合して用いても良く、また、有機酸、無機酸及び有機物を混合しても良い。
【0069】
より効果的にHbA0成分を溶出するためには、上記溶離液にカオトロピックイオンを添加するのが好ましい。添加するカオトロピックイオンは前記と同様である。
【0070】
添加するカオトロピックイオン濃度は、1〜3000mMで、好ましくは、10〜1000mM、更には、50〜500mMが好ましい。
【0071】
本発明においては、少なくとも溶出力の異なる3種の溶離液を用い、HbA0を溶出するための溶離液を送液する前に、該HbA0を溶出するための溶離液以外の溶離液を送液しても良い。
【0072】
すなわち、HbA0成分を溶出するための溶離液が(送液ポンプで)送液されてカラムに通液されるとHbA0成分が溶出されてくる。このHbA0成分を溶出するための溶離液を送液する前、すなわち、HbA0より前に溶出されてくる各ヘモグロビン成分を分離するために、HbA0成分を溶出する溶離液以外の溶離液を送液する。
【0073】
HbA0よりも前に溶出するヘモグロビン類の溶出に、pH4.0〜6.8の溶離液を少なくとも2種類以上用い、塩濃度勾配法やpH勾配法またはこの2つの組み合わせにより、安定型HbA1c等の測定対象ピークをシャープに溶出させることが可能になる。
【0074】
本発明においては、HbA0よりも前に溶出するヘモグロビン類(HbA1a及びb、HbF、不安定型HbA1c、安定型HbA1c)の溶出には、少なくとも2種類以上の溶離液を用い、かつ、溶出力の最も弱い溶離液を先に流すこともできる。
【0075】
本発明に係るヘモグロビン類の測定方法では、好ましくは、溶離液を勾配溶出法または段階溶出法によって送液し、その途中において溶離液の溶出力を低下させることが望ましい。
【0076】
従来のLCでは、分離対象成分のピークをシャープにしたり、隣り合って溶出する2つ以上のピークの分離度を向上させたりするために、複数の溶離液を用いた勾配溶出法や段階溶出法が利用されている。
【0077】
勾配溶出法は「グラジエント溶出」と呼ばれている。すなわち、複数台の送液ポンプを用い、溶出力が異なる複数の溶離液の送液比率を連続的に変化させて送液する。それによって、図20に示すように、時間と共に溶出力が連続的に上昇するように溶出が行われる。
【0078】
また、段階溶出法は「ステップワイズ溶出」と称されている。この方法では、1台の送液ポンプを、電磁弁等を介して複数の溶離液に連結する。そして、電磁弁を切り換えることにより、溶出力の低い溶離液から、溶出力の高い溶離液に切り換えて送液する。従って、図21に示すように、溶出力は段階的に上昇いていく。
【0079】
しかしながら、溶出される各成分の性質が類似していたり、短時間で溶出することが要求されている場合、従来の勾配溶出法や段階溶出法では、類似した性質の成分間でピークが重なり、分離度が低下するおそれがあった。
【0080】
これに対して、本発明では、勾配溶出法または段階溶出法によって溶離液を送液するに際し、その途中、すなわち勾配溶出法または段階溶出法により複数の溶離液を順に切り替えて送液していく途中において、分離対象のピークまたはピーク間の溶離タイミングを考慮して分離対象のピークまたはピーク間の分離状態が良くなるように、溶離液の溶出力を一旦低下させることもできる。具体的には、段階溶出法の場合、溶出力の弱い溶離液から溶出力の強い溶離液に切り替えて送液した後、溶出力の弱い溶離液に切り替え、しばらくしてから溶出力の強い溶離液に切り替えて送液する。
【0081】
陽イオン交換LCにおいて、溶離液の溶出力を低下させるには、溶離液の塩濃度を下げる方法やpHを下げる方法、またはこの2つを組み合わせる方法が挙げられる。
【0082】
陰イオン交換LCでは溶離液の塩濃度を下げる方法やpHを上げる方法、逆相クロマトグラフィーでは溶離液の有機溶媒の極性を上げる方法、順相クロマトグラフィーでは溶離液の有機溶媒の極性を下げる方法が挙げられる。
【0083】
上記のように勾配溶出法または段階溶出法によって送液し、その途中において溶離液の溶出力を低下させる方法により、ヘモグロビンを分離する場合をより具体的に説明する。
【0084】
ヘモグロビン類の分離には、陽イオン交換充填剤が充填されたカラムを用い、溶離液を塩濃度20〜1000mM、pH4〜9の範囲で勾配溶出法または段階溶出法によって送液させ、その途中において溶離液の塩濃度を5〜500mM、pHを0.1〜3の範囲で下げることによって溶離液の溶出力を低下させて分離を行う。
【0085】
本発明の方法を段階溶出法によって行う場合の、装置の構成例を図17に示した。溶離液A,B,C,Dは、各々溶出力の異なる(例えば、塩濃度、pH、極性等において異なる)ものであり、電磁弁1によって設定時間に各溶離液に切り替えられるように構成されている。溶離液は、送液ポンプ2により、試料注入部3から導入された試料とともにカラム4に導かれ、各成分が検出器5により検出される。各ピークの面積、高さ等はインテグレータ6により算出される。
【0086】
安定型HbA1cの測定に悪影響を与える可能性のあるHbA2、HbS、HbC等のヘモグロビン成分を含む血液検体を測定する場合、HbA0成分(ピーク)として主にHbAを溶出させ、それより後にHbA2、HbS、HbC等を溶離させる測定方法を設定することがある。これにより、HbA0ピークからHbA以外のヘモグロビン成分を除けるため、より正確な安定型HbA1c(%)を算出できる。
【0087】
HbA2、HbS、HbC等を溶離させる測定方法を設定する場合、前述した少なくとも溶出力の異なる3種の溶離液を用いる方法における「HbA0を溶出するための溶離液」は、HbAを主成分とするHbA0ピークを溶出する溶離液を意味している。このとき、「HbA0を溶出するための溶離液」の後に、HbA2、HbS、HbC等を溶離するために、より溶出力の強い溶離液を送液することが必要となる。
【0088】
本発明のヘモグロビン類の測定方法におけるカチオン交換液体クロマトグラフィーの充填剤は、少なくとも1種以上のカチオン交換基を有している粒子よりなるものであり、例えば、高分子粒子にカチオン交換基を導入することで得られる。
【0089】
該カチオン交換基は、公知のものでよく特に制限はない。例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などのカチオン交換基等が挙げられる。また、このカチオン交換基は、複数種導入しても良い。
【0090】
上記粒子の直径は、好ましくは0.5〜20μm、より好ましくは1〜10μmである。
また、粒度分布は、変動係数値(CV値)(粒径の標準偏差÷平均直径×100)として、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下である。
【0091】
上記高分子粒子としては、例えば、シリカ、ジルコニアなどの無機系粒子;セルロース、ポリアミノ酸、キトサンなどの天然高分子粒子;ポリスチレン、ポリアクリル酸エステルなどの合成高分子粒子などが挙げられる。
上記高分子粒子は、導入されるイオン交換基以外の構成成分は、より親水性であることが好ましい。また耐圧性・耐膨潤性の点から架橋度の高いものが好ましい。
【0092】
上記高分子粒子へのカチオン交換基の導入は、公知の方法により行うことができるが、例えば、高分子粒子を調製後、粒子が有する官能基(水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基など)に、化学反応でカチオン交換基を粒子に導入させる方法により行うことができる。
【0093】
また、カチオン交換基を有する単量体を重合して高分子粒子を調製する方法によってもカチオン交換充填剤を調製できる。例えば、カチオン交換基含有単量体と架橋性単量体等とを混合し、重合開始剤の存在下に重合する方法などが挙げられる。
【0094】
また、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの重合性カチオン交換基含有エステルを架橋性単量体などと混合し、重合開始剤存在下で重合した後、得られた粒子を加水分解処理し、エステルをカチオン交換基に変換させてもよい。
【0095】
更に、特公平8−7197号公報に記載のように、架橋重合体粒子を調製した後、カチオン交換基を有する単量体を添加して、重合体粒子の表面付近に、該単量体を重合させても良い。
【0096】
上記充填剤はカラムに充填されて液体クロマトグラフィー測定に用いられる。上記カラムは公知のステンレス製、ガラス製、樹脂製など、特に限定されない。カラムサイズとしては、内径0.1〜50mm、長さ1〜300mmのものが好ましく、内径0.2〜30mm、長さ5〜200mmのものがより好ましい。充填剤のカラムへの充填方法は、公知の任意の方法が使用できるがスラリー充填法がより好ましい。具体的には、例えば、充填剤粒子を溶離液などの緩衝液に分散させたスラリーを送液ポンプなどによりカラムに圧入することにより行う。
【0097】
本発明に使用されるLC装置は、公知のもので良く、例えば、送液ポンプ、試料注入装置(サンプラ)、カラム、検出器等から構成される。また、他の付属装置(カラム恒温槽や溶離液の脱気装置等)が適宜付加されても良い。
【0098】
上記測定法における、他の測定条件としては、公知の条件で良く、溶離液の流速は、好ましくは0.05〜5mL/分、より好ましくは0.2〜3mL/分である。ヘモグロビン類の検出は、415nmの可視光が好ましいが、特にこれのみに限定されるわけではない。測定試料は、通常、界面活性剤等溶血活性を有する物質を含む溶液により溶血された溶血液を希釈したものを用いる。試料注入量は、血液検体の希釈倍率により異なるが、好ましくは0.1〜100μL程度である。
【0099】
【実施例】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0100】
(実施例1)
充填剤の調製
テトラエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学社製)400g及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸150gの混合物に過酸化ベンゾイル(和光純薬社製)1.5gを溶解した。これを4重量%ポリビニルアルコール(日本合成化学社製)水溶液2500mLに分散させ、撹拌しながら窒素雰囲気下で75℃に昇温し、8時間重合した。重合後、洗浄し乾燥した後、分級して平均粒径6μmの粒子を得た。
【0101】
充填剤のカラムへの充填
得られた粒子をカラムに以下のようにして充填した。粒子0.7gを、50mMリン酸緩衝液(pH5.8)30mLに分散し、5分間超音波処理した後、よく撹拌した。全量をステンレス製の空カラム(内径4.6×30mm)を接続したパッカー(梅谷精機社製)に注入した。パッカーに送液ポンプ(サヌキ工業社製)を接続し、圧力300kg/cm2 で定圧充填した。
【0102】
ヘモグロビン類の測定
得られたカラムを用いて、以下の測定条件でヘモグロビン類の測定を行った。
なお、リン酸のpKaは表1に記載の通りである。測定開始より0〜3分の間は溶離液Aを送液し、3〜3.2分の間は溶離液Bを送液し、3.2〜5分の間は溶離液Aを送液した。
流速:2.0mL/分
検出波長:415nm
試料注入量:10μL
【0103】
(測定試料)
健常人血をフッ化ナトリウム採血した全血検体から以下の試料を調製した。なお、溶血試薬として、0.1重量%ポリエチレングリコールモノ−4−オクチルフェニルエーテル(トリトンX−100)(東京化成社製)を含有させたリン酸緩衝液溶液(pH7.0)を用いた。
a)糖負荷血:全血検体に500mg/dLのグルコース水溶液を添加し、37℃で3時間反応させ、次いで上記溶血試薬により溶血し、150倍に希釈して試料aとした。
b)CHb含有試料:全血検体10mLに、0.3重量%のシアン酸ナトリウムの生理食塩水溶液1mLを添加し、37℃で3時間反応させ、次いで上記溶血試薬により溶血し、150倍に希釈して試料bとした。
c)AHb含有試料:全血検体10mLに、0.3重量%のアセトアルデヒドの生理食塩水溶液1mLを添加し、37℃で3時間反応させ、次いで上記溶血試薬により溶血し、150倍に希釈して試料cとした。
【0104】
(測定結果)
上記測定条件により、試料を測定して得られたクロマトグラムを図1〜3に示す。図1は試料a、図2は試料b、図3は試料cを測定した結果である。ピーク1はHbA1a及びHbA1b、ピーク2はHbF、ピーク3は不安定型HbA1c、ピーク4は安定型HbA1c、ピーク5はHbA0、ピーク6はCHb、ピーク7はAHbを示す。
図1では、ピーク3および4が良好に分離されている。また、図2ではピーク6(CHb)、図3ではピーク7(AHb)がピーク4から良好に分離されている。
【0105】
(実施例2)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。得られたクロマトグラムは図1〜3と同様に良好であった。
なお、コハク酸のpKaは、表1に記載の通りである。
【0106】
(実施例3)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。得られたクロマトグラムは図1〜3と同様に良好であった。
なお、マレイン酸のpKaは、表1に記載の通りである。
【0107】
(実施例4)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。得られたクロマトグラムは図1〜3と同様に良好であった。
【0108】
(比較例1)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。
得られたクロマトグラムを図4〜6に示す。図4は試料a、図5は試料b、図6は試料cを測定した結果である。図1〜3に比較して、測定時間が長いにもかかわらず、分離状態が悪いことが分かる。
【0109】
(実施例5)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。
測定開始より0〜3分の間は溶離液Aを送液し、3〜3.2分の間は溶離液Bを送液し、3.2〜5分の間は溶離液Aを送液した。
【0110】
(測定結果)
得られたクロマトグラムを図7〜9に示す。図7は試料a、図8は試料b、図9は試料cを測定した結果である。ピーク1はHbA1a及びb、ピーク2はHbF、ピーク3は不安定型HbA1c、ピーク4は安定型HbA1c、ピーク5はHbA0、ピーク6はCHb、ピーク7はAHbを示す。
図7では、ピーク3および4が良好に分離されている。また、図8ではピーク6(CHb)、図9ではピーク7(AHb)がピーク4から良好に分離されている。
【0111】
(実施例6)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。得られたクロマトグラムは図7〜9と同様に良好であった。
【0112】
(実施例7)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。得られたクロマトグラムは図7〜9と同様に良好であった。
【0113】
(実施例8)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。得られたクロマトグラムは図7〜9と同様に良好であった。
【0114】
(比較例2)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。
得られたクロマトグラムを図10〜12に示す。図10は試料a、図11は試料b、図12は試料cを測定した結果である。図7〜9に比較して、測定時間が長いにもかかわらず、分離状態が悪いことが分かる。
【0115】
(比較例3)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。得られたクロマトグラムは図10〜12と同様であった。
実施例5〜8及び比較例2、3のクロマトグラムにおいて、HbA0のピーク幅及び分離能を比較した結果、実施例5〜8は、比較例2、3に比べて、HbA0のピーク幅は、狭く、しかも、分離能も良かった。
【0116】
(実施例9)
充填剤の調製において2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の代わりに、 メタクリル酸(和光純薬)を用い、 溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。
【0117】
(実施例10)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例9と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。
【0118】
(実施例11)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。
【0119】
(実施例12)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。
【0120】
(比較例4)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例9と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。
【0121】
(比較例5)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。
【0122】
実施例9〜12及び比較例4、5のクロマトグラムにおいて、HbA0のピーク幅及び分離能を比較した結果、実施例9〜12は、比較例4、5に比べて、HbA0のピーク幅は、狭く、しかも、分離能も良かった。
また、実施例9〜12及び比較例4、5において、試料を連続測定した場合のHbA1cの保持時間の変化を図13に示した。 図13より、実施例9〜12では、比較例4、5に比べて保持時間の変化が少ないことが分かる。
【0123】
(実施例13)
溶離液の数と組成およびその送液条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。
測定開始より0〜0.7分の間は溶離液Aを送液し、0.7〜1.4分の間は溶離液Bを送液し、1.4〜1.5分の間は溶離液Cを送液し、1.5〜1.9分の間は溶離液Aを送液した。
【0124】
(測定結果)
得られたクロマトグラムを図14〜16に示す。図14は試料a、図15は試料b、図16は試料cを測定した結果である。ピーク1はHbA1a及びb、ピーク2はHbF、ピーク3は不安定型HbA1c、ピーク4は安定型HbA1c、ピーク5はHbA0、ピーク6はCHb、ピーク7はAHbを示す。
図14では、ピーク3および4が良好に分離されている。また、図15ではピーク6(CHb)、図16ではピーク7(AHb)がピーク4から良好に分離されている。
【0125】
(実施例14)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例13と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。得られたクロマトグラムは図14〜16と同様に良好であった。
【0126】
(実施例15)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例13と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。得られたクロマトグラムは図14〜16と同様に良好であった。
【0127】
(実施例16)
溶離液を以下の組成としたことの他は、実施例13と同様に操作してヘモグロビン類の測定を行った。得られたクロマトグラムは図14〜16と同様に良好であった。
【0128】
(実施例17)
図17に示した装置を用いて、血液試料中のヘモグロビン類の測定を行った。カラムには陽イオン交換樹脂(ミクロネックスA1c HS−IV、積水化学工業社製)を充填したものを用いた。溶離液Aとして170mM、溶離液Bとして190mM、溶離液Cとして150mM、溶離液Dとして330mMの、それぞれリン酸緩衝液で、溶離液A〜CはpH6のものを、溶離液DはpH7.2のものを用いた。試料としては、実施例1で用いた全血検体を溶血試薬を用いて100倍に溶血、希釈したものを用いた。2分間でHbA1c(後述のピークP5)を各ヘモグロビン類のピークから分離するように溶離液を段階溶出法を用いて切り替えた。溶離液の切り替え条件および得られたクロマトグラムを図18に示した。すなわち、溶離液は0〜38秒は溶離液Aを、38〜58秒は溶出力のより高い溶離液Bを、58〜78秒はより溶出力の低い溶離液Cを、78〜100秒は溶出力の最も高い溶離液Dを、100〜120秒は溶離液Aを再び送液した。ピークの検出には415nmの吸収強度を用いた。
図18のクロマトグラムにおいて、ピークP1〜P3は、HbA1a及びHbA1b類であり、ピークP4はHbFであり、ピークP5はHbA1cであり、ピークP6はHbA0である。
【0129】
上記の方法では、溶離液Aから溶離液Bへの切り替えにより溶出力を上昇させたことによりピークP6が早く溶出して、HbA1cのピークであるピークP5の正確な検出を妨害するのを防ぐため、溶離液Bから溶出力のより低い溶離液Cへの切り替えを行っている。
【0130】
再現性を評価するために、この方法で同一試料について10回繰り返し測定し、次式によりHbA1c値を算出した。10回の各測定値、その平均値およびCV値(%)を表3に示した。
HbA1c値(%)=ピークP5の面積÷(ピークP1の面積+ピークP2の面積+ピークP3の面積+ピークP4の面積+ピークP5の面積+ピークP6の面積)×100
【0131】
【表3】
【0132】
(比較例6)
実施例17における溶離液Cを用いなかったこと、および溶離液Bの代わりに溶離液B1(180mM、pH6のリン酸緩衝液)を用いた他は、実施例17に準じて実施例17と同一の試料中のヘモグロビン類の測定を行った。溶離液の切り替え条件および得られたクロマトグラムを図19に示した。すなわち、溶離液は0〜38秒は溶離液Aを、38〜78秒は溶離液B1を、78〜100秒は溶出力の最も高い溶離液Dを、100〜120秒は溶離液Aを再び送液した。溶離液Aから溶離液Bよりも溶出力の低い溶離液B1へ切り替えたため、ピークP6の一部が早く溶出することはないが、ピークP5はシャープにならず、図19に○で囲んだように、ピークP5にピークP4およびピークP6が一部重なっていることが分かる。
【0133】
再現性をみるために、この方法で同一試料について10回繰り返し測定し、実施例1と同様にしてHbA1c値を算出した。10回の各測定値、その平均値およびCV値(%)を表3に示した。
【0134】
【発明の効果】
本願発明に係る測定方法によれば、従来のヘモグロビン類の測定方法における問題点であったヘモグロビン類の分離性能が改善され、特に安定型HbA1cを高い再現性で精密に分離できる。また、短時間で、ベースライン変動が少ないと共に、 カラム耐久性も向上されたヘモグロビン類の測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料a)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図2】 実施例1の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料b)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図3】 実施例1の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料c)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図4】 比較例1の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料a)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図5】 比較例1の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料b)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図6】 比較例1の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料c)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図7】 実施例5の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料a)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図8】 実施例5の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料b)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図9】 実施例5の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料c)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図10】 比較例2の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料a)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図11】 比較例2の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料b)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図12】 比較例2の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料c)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図13】 実施例9〜12及び比較例4、5において、試料を連続測定した場合のHbA1cの保持時間の変化を示した図である。
【図14】 実施例13の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料a)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図15】 実施例13の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料b)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図16】 実施例13の測定条件により、ヘモグロビン類の測定(試料c)を行った際に得られたクロマトグラムを示す図である。
【図17】 段階溶出法によって行う場合の、装置の構成例を示す図である。
【図18】 実施例17の溶離液の切り替え条件および得られたクロマトグラムを示す図である。
【図19】 比較例6の溶離液の切り替え条件および得られたクロマトグラムを示す図である。
【図20】 勾配溶出法を説明するための説明図である。
【図21】 段階溶出法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
1 HbA1a及びbのピーク
2 HbFのピーク
3 不安定型HbA1cのピーク
4 安定型HbA1cのピーク
5 HbA0のピーク
6 CHbのピーク
7 AHbのピーク
Claims (8)
- 陽イオン交換液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定方法において、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、硝酸イオン又はグアニジンイオンであるカオトロピックイオンを含有し、かつ酸解離定数(pKa)が2.15〜6.39の範囲及び6.40〜10.50の範囲にある緩衝剤を含む溶離液を用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
- 請求項1に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、測定目的のピークを分離するのに際し、pHの異なる少なくとも2種以上の溶離液を用い、該pHの異なる少なくとも2種以上の溶離液が、同一の緩衝剤を含むものであることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
- 請求項1または2に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、HbA0を溶出するために、カラムに流入する際のpHがヘモグロビンの等電点と等しいか、または等電点よりアルカリ側になる溶離液を用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
- 請求項3に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、前記溶離液のpHが6.8以上であることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類の溶出に、pH4.0〜6.8の溶離液を用いることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
- 請求項5に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、ヘモグロビンA0よりも前に溶出するヘモグロビン類の溶出に、少なくとも溶出力の異なる2種以上の溶離液を用い、 溶出力の弱い溶離液から順に送液することを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、少なくとも溶出力の異なる3種の溶離液を用い、HbA0を溶出するための溶離液を送液する前に、該HbA0を溶出するための溶離液以外の溶離液を送液することを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載のヘモグロビン類の測定方法であって、溶離液を勾配溶出法または段階溶出法によって送液し、その途中において溶離液の溶出力を低下させることを特徴とするヘモグロビン類の測定方法。
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