JP4375928B2 - L−エピ−2−イノソースの新規製造法とエピ−イノシトールの新規製造法 - Google Patents
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Description
本発明は、安価なミオ−イノシトール(myo−Inositol)を原料として用い、それ自体が生物活性を有して且つ医薬品、等の合成の原料としても価値の高いL−エピ−2−イノソース(L−epi−2−Inosose)を、化学合成工程を経ず、微生物の作用下に一段階で製造する方法に関する。また本発明はL−エピ−2−イノソースを還元して、それ自体が生物活性を有し医薬品として有用なエピ−イノシトール(epi−Inositol)を効率良く製造する方法に関する。
背景技術
ミオ−イノシトールは次の平面式(A)
または次の立体構造式(A´)
で表される天然に産する既知の物質である。
また、L−エピ−2−イノソースは次の平面式(B)
または次の立体構造式(B´)
で表される既知の物質である。さらに、エピ−イノシトールは次の平面式(C)
または次の立体構造式(C´)
で表される既知の化学合成物質である。エピ−イノシトールはミオ−イノシトールの立体異生体の一つである。
イノソース(Inososes,別名ではPentahydroxycyclohexanonesまたはAlicyclic ketohexoses)は一般的にイノシトールの微生物的酸化〔A.J.Kluyver & A.Boezaardt:「Rec.Trav.Chim.」58巻、956頁(1939)〕、酵素的酸化〔L.Anderson等:「Arch.Biochem.Biophys.」78巻、518頁(1958)〕、白金触媒を用いた空気酸化〔K.Heyns and H.Paulsen:「Chem.Ber.」86巻、833頁(1953)〕、硝酸等の酸化剤による酸化〔T.Posternak:「Helv.Chim.Acta」19巻、1333頁(1936)〕によって合成されることが知られている。
イノシトールのうち、ミオ−イノシトールの微生物的酸化あるいは酵素的酸化で生成するイノソースとしては、これまでシロ−イノソース(別名ミオ−イノソース−2)が知られているのみである〔A.J.Kluyver & A.Boezaardt:「Rec.Trav.Chim.」58巻、956頁(1939)、L.Anderson等:「Arch.Biochem.Biophys.」78巻、518頁(1958)〕。ミオ−イノシトールを酸化してL−エピ−2−イノソースを生成できる微生物はこれまで報告されていない。
L−エピ−2−イノソースは、D−キロ−イノシトール(DCIと略記される)の合成原料として有用である(米国特許第5,406,005号)。このDCIはインシュリン抵抗性糖尿病の治療薬として有用であり(WO90/10439号公報)、あるいは多嚢胞性卵巣症候群の改善薬として利用される〔J.E.Nestler等:「NEW Engl.J.Med.」340巻、1314頁(1999)〕ことが期待されている。このL−エピ−2−イノソースの製法としては、▲1▼ミオ−イノシトールの硝酸による酸化で生成するラセミ体のDL−エピ−2−イノソース((±)−エピ−2−イノソース)を、酸化白金触媒の存在下に水素で還元してエピ−イノシトールを生成し、その後に細菌のアセトバクター・サブオキシダンス(Acetobacter suboxydans)によるエピ−イノシトールの微生物的酸化を行うことにより、L−エピ−2−イノソースを合成する方法の報告がある〔T.Posternak:「Helv.Chim.Acta」29巻、1991頁(1946)〕。また、▲2▼D−グルクロン酸を出発原料にして化学合成したグルコジアルドースをアシロイン縮合して生成する化合物の一つとしてL−エピ−2−イノソースが合成されるという報告がある(米国特許第5,406,005号)。
イノシトールは、シクロヘキサンから誘導される6価アルコールの総称であり、イノシトールには9種の立体異生体が存在する。天然産イノシトールにはミオ−イノシトール、D−キロ−イノシトール、L−キロ−イノシトール、ムコ−イノシトール、シロ−イノシトールの5種のイノシトールが見出されている。その他のイノシトールにはエピ−イノシトール、アロ−イノシトール、ネオ−イノシトール、シス−イノシトールがあり、これら4種のイノシトールは非天然型の化学合成されたイノシトールである。非天然型のイノシトールのうち、エピ−イノシトールはうつ病、不安症の改善薬としての利用が期待されている〔R.H.Belmaker等のPCT出願PCT/IL/00523号の国際公開明細書WO99/22727号及びR.H.Belmaker等:「Int.J.Neuropsychopharmacol.」1巻、31頁(1998)参照〕。
このエピ−イノシトールの製法としては、(1)ミオ−イノシトールの硝酸による酸化で生成するラセミ体のD,L−エピ−2−イノソースを酸化白金触媒の存在下で水素で還元してエピ−イノシトールを合成する方法〔T.Posternak:[Helv.Chim.Acta」29巻、1991頁(1946)〕と、(2)シクロヘキサジエンの2価アルコールをオスミウム酸で酸化してエピ−イノシトールを合成する方法〔T.Tschamber等:「Helv.Chim.Acta」75巻、1052頁(1992)〕と、(3)テトラヒドロベンゾキノンに水素添加してエピ−イノシトールを合成する方法(L.Odier:EP特願公開524082号公報)と、(4)ムコ−イノシトールを適当に保護し、酸化、還元の組合せによりエピ−イノシトールを合成する方法〔K.E.Espelie等:「Carbohydrate Res.」46巻、53頁(1976)〕がある。また、グルコースあるいはガラクトースのFerrier環化反応及び適当な還元剤での還元反応の組合せによりエピ−イノシトールを合成する方法〔高橋等:「有機合成化学協会誌」58巻、120頁(2000)〕もある。
しかしながら、これら既知のL−エピ−2−イノソースの製造方法、およびエピ−イノシトールの製造方法は、いずれも工業的規模で製造する方法としては、操作の煩雑さ、環境汚染あるいは経済性の面で問題があるので、従来法は全て必ずしも満足し得るものではない。従って、工業規模で簡便に且つ効率良くL−エピ−2−イノソースを製造する新しい方法、及び簡便に効率良くエピ−イノシトールを製造する新しい方法が要望されている。本発明の目的は、このような要望に合致して種々の利点を有するL−エピ−2−イノソース及びエピ−イノシトールを効率よく製造できる新しい方法を提供することにある。
発明の開示
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、安価に入手できるミオ−イノシトールに対して、本発明者等により土壌から新たに分離した細菌の新しい菌株であるキサントモナス・エスピー AB10119株を水性の媒質中で作用させると、式(A)または(A´)で表されるミオ−イノシトールの4位の水酸基のみをほぼ選択的に酸化(または脱水素)できて、式(B)または(B´)のL−エピ−2−イノソースが生成することを見出した。この生成されたL−エピ−2−イノソースを単離し、核磁気共鳴スペクトル装置、質量分析装置、旋光度計などにより機器分析を実施した結果、この物質は光学純度の高いL−エピ−2−イノソースであることが判明した。
更に、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースに変換できる活性または能力を有する微生物を広く自然界から探索したところ、グラム陰性細菌、例えばシュードモナダセア(Pseudomonadaceae)科のキサントモナス(Xanthomonas)属またはシュードモナス(Pseudomonas)属の細菌;およびアセトバクテラセア(Acetobacteraceae)科のアセトバクター(Acetobacter)属またはグルコノバクター(Gluconobacter)属の細菌;およびリゾビアセア(Rhizobiaceae)科のアグロバクテリウム(Agrobacterium)属の細菌;エンテロバクテリアセア(Enterobacteriacea)科のエルウィニア(Erwinia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、セラチア(Serratia)属、エルシニア(Yersinia)属の細菌;およびパステウレアセア(Pasteurellaceae)科のパステウレラ(Pasteurella)属またはヘモフィルス(Haemophilus)属の細菌に属するグラム陰性細菌である分類学的に広範な範囲のグラム陰性細菌のうちに、上記のミオ−イノシトールを酸化してL−エピ−2−イノソースへ変換できる活性または能力を有する菌株が存在することが明らかになった。これらの中でもミオ−イノシトールを酸化してL−エピ−2−イノソースへ変換できる高い活性または能力を有する菌株の例として、具体的には、上記に記載のキサントモナス・エスピー AB10119株があり、これ以外に、土壌から新たに本発明者らが分離した細菌の新しい菌株であるシュードモナス・エスピー AB10215株、あるいはエルウィニア・エスピー AB10135株があげられる。
上記した知見に基づいて、L−エピ−2−イノソースの新しい製造方法が後記の通り工夫された。すなわち、ミオ−イノシトール並びに通常の炭素源及び窒素源を含有する液体培地、あるいは通常の炭素源を特に含有しないでミオ−イノシトール(これの一部が炭素源となる)と窒素源(窒素源が有機質の窒素源である場合、これの一部も培養条件によっては炭素源になる)とを含有する液体培地中で上記のキサントモナス・エスピー AB10119株あるいはシュードモナス・エスピー AB10215株あるいはエルウィニア・エスピー AB10135株、等を好気的に培養すると、これにより、得られた培養液中で、ミオ−イノシトールからL−エピ−2−イノソースを生成させ且つこれを蓄積するようにしてL−エピ−2−イノソースを効率よく製造できることが知見された。また、L−エピ−2−イノソースの上記の新しい製造方法では、培養液中に蓄積したL−エピ−2−イノソースは、培養液から使用微生物の菌体の除去後に、得られた培養上清液を陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂等のイオン交換樹脂処理あるいは活性炭処理あるいは結晶化操作にかけることにより、あるいはこれら処理の組合せにかけるとこにより、高純度なL−エピ−2−イノソースとして効率良く回収できることが知見された。
さらに、本発明者等が別途の研究を行った結果、上記のように培養液中で生成および蓄積されたL−エピ−2−イノソースを含む培養液から、菌体を除去し、そしてその後、得られた培養上清液に、直接に、適当な量の水素化ホウ素ナトリウムまたはこれと均等な水素化物の他の還元剤を添加して、培養上清液中でL−エピ−2−イノソースに該還元剤を反応させる場合に、L−エピ−2−イノソースがエピ−イノシトールに効率よく還元されることが知見された。すなわち、培養上清液からL−エピ−2−イノソースは単離されなくとも、培養上清液内で上記還元剤との反応によりL−エピ−2−イノソースはエピ−イノシトールに効率良く還元され得ることが見出された。
さらに、上記のキサントモナス・エスピー AB10119株に代表されるところの、ミオ−イノシトールを酸化によりL−エピ−2−イノソースに変換できる能力を有するグラム陰性細菌でミオ−イノシトールを処理する方法、並びに得られた培養上清液から生成されたL−エピ−2−イノソースを単離せずに、培養上清液中でL−エピ−2−イノソースを適当な還元剤で処理してエピ−イノシトールを生成し収得する方法について種々の実験を本発明者等は行った。その結果、多くの知見が得られた。それらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
従って、第1の本発明においては、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌を、ミオ−イノシトールに作用させて、それにより前記ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換させてL−エピ−2−イノソースを生成することをから成ることを特徴とする、L−エピ−2−イノソースの製造方法が提供される。
第1の本発明によるL−エピ−2−イノソースの製造方法は、具体的には、以下に示す(A)及び(B)の2つの実施方法で行うことができる。
実施方法(A)は、上記のミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースに変換できる能力を有するグラム陰性細菌を、ミオ−イノシトール並びに炭素源及び窒素源を含有する液体培地で好気的に培養し、その培養液中にL−エピ−2−イノソースを生成蓄積させて培養液を取得する工程と、得られた培養液から菌体を除去し、そして生成蓄積させたL−エピ−2−イノソースを、得られた培養上清液から、イオン交換樹脂処理、活性炭処理または結晶化操作あるいはそれらの処理などの組合せにより、回収する工程とを含む方法である。
実施方法(B)は、上記能力を有するグラム陰性細菌を培養し、得られた培養物から該微生物の菌体を分離する工程と、該菌体を、溶解されたミオ−イノシトールを含む緩衝液または液体培地に加え、該緩衝液または液体培地中でミオ−イノシトールと反応させ、得られた反応液中にL−エピ−2−イノソースを生成させる工程と、反応液に生成蓄積させたL−エピ−2−イノソースを、反応液からイオン交換樹脂処理、活性炭処理または結晶化操作あるいはこれら処理の組合せにより、回収する工程とを含む方法である。
第1の本発明の方法において使用するグラム陰性細菌は、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースに変換する活性または能力を有するグラム陰性細菌であれば、いずれの菌株でも良い。
具体的に例示すると、前述したようにミオ−イノシトールからL−エピ−2−イノソースを生産できる菌には多種の細菌が存在する。例えば本発明者らが分離した前記のAB10119株、AB10215株、AB10135株は本発明方法に最も有効に使用される細菌の例である。前記の3種の菌株の菌学的性質を後記の表1a、表1b、表1c、表1dに示した。
尚、前記の3種の菌株の同定を行うに当たっては、新細菌培地学講座(第2版、近代出版)、医学細菌同定の手引き(第2版、近代出版)、細菌学実習提要(丸善)に準じて、同定のための実験を行った。また、得られた実験結果をBergey’s Manual of Systematic Bacteriology VOL.1(1984)を参考に評価して、菌株の同定を行った。
AB10119株の主な菌学的性状は、次のとおりである。本菌株はコロニーが黄色の色素を帯びるグラム陰性の桿菌で、大きさは0.4〜0.6×0.6〜4.0μm。また、本菌株はカタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性であり、グルコースを好気的に分解し酸を生成する。最少培地での本菌株の生育は悪いが、最小培地にメチオニンを添加すると良好な生育となる。硝酸塩の還元性は無く、0.01%のメチルグリーン及びチアニンに感受性であった。本菌株の細胞のユビキノン分子の種はQ8で、DNAのGC含量は68%であった。
これらの菌学的性質を総合して、AB10119株はキサントモナス(Xanthomonas)属に属する菌株であると判断した。Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology VOL.1(1984)199頁〜210頁によると、キサントモナス属細菌には5種のスペシーズ(キサントモナス・カンペストリス;キサントモナス・フラガリアエ;キサントモナス・アルブリネンス;キサントモナス・アキソノポディス;キサントモナス・アメリザ)が知られている。AB10119株の菌学的性状を上記の既知のスペシーズと比較検討した結果、AB10119株はキサントモナス・カンペストリスに最も近縁の種とであると考えられた。しかし、本菌株の菌学的性質はキサントモナス・カンペストリスに完全には一致しなかったので、本AB10119株を公知のものと区別するため、キサントモナス・エスピーAB10119株と命名し、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に在る工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−17382として寄託した(寄託日は1999年5月7日)。さらに、2000年5月23日の寄託日で前記の研究所にAB10119株はブダペスト条約の規約下にFERM BP−7168の受託番号で寄託された。
また、AB10215株の主な菌学的性状は、次のとおりである。本菌体はコロニーが淡黄色の色素を帯びるグラム陰性の桿菌で、大きさは0.3〜0.5×0.6〜6.5μm。また本菌株はカタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性であり、グルコースを好気的に分解し酸を生成する。最少培地での本菌株の生育は良好であり、硝酸塩の還元性を有する。0.01%のメチルグリーン及びチアニンに感受性であった。本菌株の細胞のユビキノン分子の種はQ8で、DNAのGC含量は68%であった。
これらの菌学的性質を総合すると、AB10215株はBergey’s Manual of Systematic Bacteriology,Vol.1(1984)140頁〜199頁に記載されているシュードモナス・マルトフィリアに最も近縁な種であると考えられる。しかし、AB10215株は、その菌学的性質においてシュードモナス・マルトフィリアに完全には合致しなかったので、本菌株を公知のものと区別するため、シュードモナス・エスピー AB10215と命名し、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に在る工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−17804として寄託した(寄託日2000年3月31日)。さらに、2000年5月23日の寄託日で前記の研究所にAB10215株はブダペスト条約の規約下にFERM BP−7170の受託番号で寄託された。
一方、AB10135株の主な菌学的性状は、次のとおりである。本菌株はコロニーが乳白色の色素を帯びるグラム陰性の桿菌で、大きさは0.4〜0.6×0.8〜2.0μm。本菌株はグルコースを好気的・嫌気的のいずれの条件でも分解し酸を生成するが、好気的条件での生育に比べて嫌気的条件での生育は非常に悪い。また、本菌株はカタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性である。普通寒天培地での本菌株の生育は微量であるが、普通寒天培地に5%シュークロースを添加すると非常に旺盛な生育を示す。本菌株の細胞のユビキノン分子の種はQ8で、DNAのGC含量は50%であった。
これらの菌学的性質を総合して、AB10135株はエルウィニア(Erwinia)属に属する菌株であると判断した。Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology,Vol.1(1984)469頁〜476頁によると、エルウィニア属細菌は15種に分類されているが、AB10135株はいずれの種とも、その菌学的性質において完全には合致しなかった。従って、AB10135株を公知のものと区別するため、エルウィニア・エスピー AB10135と命名し、日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に在る工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM P−17803として寄託した(寄託日は2000年3月31日)。さらに、2000年5月23日の寄託日で前記の研究所にAB10135株はブダペスト条約の規約下にFERM BP−7169の受託番号で寄託された。
以下に、第1の本発明の方法の前記した実施方法(A)〜(B)をより詳しく説明する。
実施方法(A)では、ミオ−イノシトールならびに炭素源および窒素源を含む栄養液体培地で、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースに変換できる能力を有する微生物を好気的に培養し、その培養液中に、L−エピ−2−イノソースを生成蓄積させる第1工程が行われる。
ここに用いる液体培地の組成は、目的を達する限り何ら特別の制限はない。用いる液体培地は、L−エピ−2−イノソースへの変換原料であるミオ−イノシトールを含み、これに加えて、炭素源、窒素源、有機栄養源、無機塩類等を含有する培地であればよい。合成培地または天然培地のいずれも使用できる。用いる液体培地は、ミオ−イノシトールを0.1%〜40%、より好ましくは20〜30%含有し、炭素源としては、グルコース、シュークロース、マルトースあるいは澱粉を0.1%〜20%、より好ましくは0.5〜5%を含有し、また窒素源としては、酵母エキス、ペプトン、カザミノ酸、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムあるいは尿素等を0.01%〜5.0%、好ましくは0.5%〜2.0%含有するのが望ましい。その他必要に応じ、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、コバルト、マンガン、亜鉛、鉄、銅、モリブデン、リン酸、硫酸などのイオンを生成することができる無機塩類を培地中に添加することが有効である。得られる培養液中の水素イオン濃度をpH4〜10、好ましくはpH5〜9に調整しながら、菌を培養すると、効率よくL−エピ−2−イノソースを生成できる。
菌の培養条件は、用いた菌株や培地の種類によっても異なるが、培養温度は5〜40℃、好ましくは20〜37℃である。また、培養は液体培地を振とうしたり、液体培地中に空気を吹き込むなどして好気的に行うのが好ましい。培養期間は、培養液中でミオ−イノシトールが完全に消失し、且つ生成されたL−エピ−2−イノソースが最大の蓄積量を示すまでの期間であるのが良く、通常1〜14日、好ましくは3〜10日である。上記の第1工程によって、L−エピ−2−イノソースを含む培養液が得られる。
次に、培養液から目的のL−エピ−2−イノソースを採取する第2工程が行われる。この採取には、培養液から通常の水溶性中性物質を単離精製する一般的な方法を応用することができる。すなわち、L−エピ−2−イノソースを含む培養液から先づ菌体を除去し、その後、培養上清液を活性炭やイオン交換樹脂等で処理するが、これらの方法により、L−エピ−2−イノソース以外の不純物を培養上清液からほとんど除くことができる。しかし、イオン交換樹脂処理には、強塩基性陰イオン交換樹脂のOH−型はL−エピ−2−イノソースを化学変化させるので使用することはできない。その後、こうして活性炭またはイオン交換樹脂で処理された培養上清液から、L−エピ−2−イノソースは、結晶化および必要に応じて再結晶する方法等を用いることにより、目的生成物として単離することができる。
前記の培養上清液からL−エピ−2−イノソースを回収するためには、より具体的には、L−エピ−2−イノソースを蓄積、含有した培養上清液を、不望成分の除去の目的で強酸性陽イオン交換樹脂、例えばデュオライト(登録商標)C−20(H+型)を充填したカラムに通過させて、通過液を集め、その後このカラムに脱イオン水を通過させ洗浄して洗浄液を集め、先に得られた通過液と洗浄液を合併し、その合併された溶液を弱塩基性陰イオン交換樹脂、例えばデュオライト(登録商標)A368S(遊離塩基型)を充填したカラムに通過させ、通過液を集め、その後このカラムに脱イオン水を通過させ洗浄して洗浄液を集め、得られた通過液及び洗浄液を合併して、L−エピ−2−イノソースを含むがそれ以外の不純物をほとんど含まない水溶液を収得するのが好ましい。この水溶液を濃縮して、得られたL−エピ−2−イノソースの濃厚溶液に、エタノールの適当量を加え、室温または低温で一晩放置すると、純粋なL−エピ−2−イノソースの結晶を晶出できる。
第1の本発明方法の前記した実施方法(B)では、所望の能力を有する微生物を培養し、得られた培養物から該微生物の菌体を分離し、該菌体を、ミオ−イノシトールを含む緩衝液または液体培地に加え、該緩衝液または液体培地中でミオ−イノシトールと反応させ、得られた反応液中にL−エピ−2−イノソースを生成させる諸工程が行われる。
上記のミオ−イノシトールと菌体との反応工程で用いる菌体としては、実施方法(A)の第1工程により得た培養液から分離して集めた菌体を用いてもよく、また、前記微生物を別途の工程で適当な培養条件で培養して得た菌体を用いてもよい。集菌は、培養液を遠心分離、濾過等にかけて菌体を分離する公知の方法により行えばよい。
ミオ−イノシトールと菌体を反応させるための反応媒質としては、液体培地または緩衝液が用いられる。液体培地としては、実施方法(A)の第1工程において用いたものと同様の組成のものを用いてもよい。また別途に前記微生物を培養した後に、その培養液から菌体を除去して得られた培養上清液よりなる液体培地を、そのまま用いてもよい。緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド(Good’s)のCHES緩衝液等を10〜500mM、好ましくは20〜100mMの濃度で用いればよい。緩衝液または液体培地にとかされたミオ−イノシトールの溶液中のミオ−イノシトールの当初の濃度は0.1〜40%(重量)程度とするのが好ましい。
ミオ−イノシトールと菌体との反応条件は、菌株や培地、緩衝液の種類によって異なるが、反応温度は5〜60℃、好ましくは10〜45℃であり、反応時間は1〜50時間、好ましくは3〜48時間である。液体培地または緩衝液のpHは2〜10、好ましくは3〜9である。
ミオ−イノシトールと菌体との反応の終了後に、得られた反応液からの目的物質のL−エピ−2−イノソースを単離する方法は実施方法(A)の第2工程と同様に行えばよい。
第2の本発明においては、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌を水性媒質中でミオ−イノシトールに作用させて、前記ミオ−イノシトールのL−エピ−2−イノソースへの変換によりL−エピ−2−イノソースを該水性媒質中に生成させ、これによりグラム陰性細菌菌体とL−エピ−2−イノソースとを含有する反応液を収得し、次いで該反応液から菌体を除去してL−エピ−2−イノソースを含有する反応液ろ液を収得し、さらに得られたL−エピ−2−イノソース含有の反応液ろ液に適当な還元剤を直接に添加して該還元剤をL−エピ−2−イノソースに作用させてエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを生成させることから成ることを特徴とする、エピ−イノシトールの製造方法が提供される。
第2の本発明の方法は、具体的には、以下に示す(C)、(D)及び(E)の3つの実施方法で行うことができる。
第2の本発明方法の実施方法(C)は、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌を、第1の本発明方法の実施方法(A)に記載の微生物培養方法と同様な要領により、ミオ−イノシトール並びに炭素源及び窒素源を含有する液体培地よりなる水性媒質中で好気的に培養しながら、該グラム陰性細菌を培養液中でミオ−イノシトールに作用させて、得られた培養液中にミオ−イノシトールのL−エピ−2−イノソースへの変換により、L−エピ−2−イノソースを生成し且つ蓄積させて培養液を収得する工程(第1工程)と、反応液として得られた培養液から該グラム陰性細菌の菌体を除去して、その後、得られたL−エピ−2−イノソースを単離せずに、L−エピ−2−イノソースを含有する反応液ろ液として得られた培養上清液を収得する工程(第2工程)と、該培養上清液に対して直接に還元剤として水素化ホウ素アルカリ金属、水素化トリアルコキシホウ素アルカリ金属またはシアン化ホウ素アルカリ金属を添加し、該還元剤でL−エピ−2−イノソースを還元する反応を行い、これによりエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを該培養上清液内で生成する工程(第3工程)と、こうして得られたところの還元反応の反応液、すなわち生成されたエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを含有する培養上清液から、エピ−イノシトールとミオ−イノシトールを回収する工程(第4工程)と、回収されたエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを相互から分離する工程(第5工程)とからなる方法である。
第2の本発明方法の実施方法(D)は、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌を第1の本発明方法の実施方法(B)に記載の微生物培養方法と同様な要領により、炭素源及び窒素源を含有する液体培地で好気的に培養して該グラム陰性細菌の培養液を収得し、さらに該培養液から該グラム陰性細菌の菌体を分離する工程(第1工程)と、こうして得られたグラム陰性細菌菌体を水性の緩衝液または液体培地よりなる水性媒質中でミオ−イノシトールと反応させて、L−エピ−2−イノソースを生成させる工程(第2工程) と、こうして得られたところの、該グラム陰性細菌菌体と生成されたL−エピ−2−イノソースとを含有する反応液から菌体を除去して、これにより、グラム陰性細菌菌体を除去されたL−エピ−2−イノソースを含有する得られた反応液ろ液を収得する工程(第3工程)と、この反応液ろ液に還元剤として水素化ホウ素アルカリ金属、水素化トリアルコキシホウ素アルカリ金属またはシアン化ホウ素アルカリ金属を添加し、該還元剤をL−エピ−2−イノソースに作用させて還元する反応を行い、これによりエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを該反応液ろ液内で生成する工程(第4工程)と、生成されたエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを含有するその還元反応の反応液から、エピ−イノシトールとミオ−イノシトールを回収する工程(第5工程)と、回収されたエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを相互から分離する工程(第6工程)とからなる方法である。
第2の本発明方法の実施方法(E)は、上記の実施方法(C)及び(D)における還元剤を添加してL−エピ−2−イノソースを還元剤で還元する工程を行う前に、L−エピ−2−イノソースを含有する培養上清液または反応液濾液よりなる水性媒質のpHを、pH8〜12の範囲のアルカリ性に予め調整する工程を行い、その後、L−エピ−2−イノソースを含有するpH8〜12の水性媒質に還元剤として水素化ホウ素アルカリ金属、水素化トリアルコキシホウ素アルカリ金属またはシアン化ホウ素アルカリ金属を添加して該還元剤をL−エピ−2−イノソースに作用させて還元する反応を行うことから成る方法である。実施方法(E)により、副成されたミオ−イノシトールの生成量よりもはるかに高い生成量でエピ−イノシトールを生成させるようにして、エピ−イノシトールが製造される。
第2の本発明方法で使用されるグラム陰性細菌は、第1の本発明方法で用いられたところの、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌と同じであることができる。
以下に、第2の本発明の方法の前記した実施方法(C)〜(E)をより詳しく説明する。
第2の本発明方法の前記の実施方法(C)では、要約すると、ミオ−イノシトールを含む液体栄養培地に、所望の能力を有するグラム陰性細菌を接種して好気的に培養することにより、培養液中にL−エピ−2−イノソースを生成蓄積させて培養液を収得する第1工程と、培養液からグラム陰性細菌菌体を除去して、L−エピ−2−イノソースを含有する培養上清液を収得する第2の工程と、その後に培養上清液からL−エピ−2−イノソースを単離せず、該培養上清液に適当な還元剤を直接に添加し、L−エピ−2−イノソースの還元反応を行う第3工程と、こうして得られた還元反応の反応液から生成されたエピ−イノシトールを回収する第4工程とが行われる。
すなわち、第2の本発明方法の実施方法(C)において、所望の能力を有する微生物をミオ−イノシトール含有の液体培地で培養しながら培養液中にL−エピ−2−イノソースを生成、蓄積させて培養液を収得する第1工程が先ず行われるが、この第1工程は、第1の本発明方法の実施方法(A)の第1工程と全く同様に行うことができる。
実施方法(C)の第2工程では、第1工程で得られた培養液から菌体を除去してL−エピ−2−イノソースを含有する培養上清液を収得する工程を行う。その後、第3工程では、得られた培養上清液に直接に還元剤として水素化物を添加して還元反応を行う。これによって、培養上清液内でL−エピ−2−イノソースからエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールが生成される。使用される還元剤は、水系中でL−エピ−2−イノソースをエピ−イノシトールに還元できる還元剤として、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化トリメトキシホウ素ナトリウム、シアン化水素化ホウ素ナトリウムであるのが望ましい。還元反応は0℃〜室温で行う。L−エピ−2−イノソースの消失した時点または反応生成物の生成量が適当になった時点で還元反応を終了する。これによって、生成されたエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを含有する培養上清液が還元反応の反応液として第3工程で得られる。
ここで得られた還元反応の反応液である培養上清液から、エピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを回収する第4の工程を次に行う。この第4の回収工程では、第3工程から得られてエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを含有する培養上清液を、不望成分の除去の目的で強酸性陽イオン交換樹脂、例えばデュオライト(登録商標)C−20(H+型)を充填したカラムに通過させ、通過液を集め、その後このカラムに脱イオン水を通過させ洗浄して洗浄液を集め、得られた通過液及び洗浄液を合併し、その合併された溶液を強塩基性陰イオン交換樹脂、例えばデュオライト(登録商標)A113(OH−型)を充填したカラムに通過させ、通過液を集め、その後このカラムに脱イオン水を通過させ洗浄して洗浄液を集め、得られた通過液及び洗浄液を合併して、エピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを含みそれ以外の不純物をほとんど含まない水溶液を収得するのが好ましい。
実施方法(C)の最終(第5)工程では、先の第4工程で回収されたエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールの水溶液からエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを別々に分離する。これらの生成物の分離のためには、前記のエピ−イノシトールとミオ−イノシトールの水溶液を減圧下に濃縮し、その濃縮液を強塩基性陰イオン交換樹脂、例えばアンバーライト(登録商標)CG−400(OH−型)を充填したカラムに通過させ、その後このカラムに脱イオン水を通過させることによって該カラムを溶出し、これによって、ミオ−イノシトールを主として含有する溶出液画分と、目的とするエピ−イノシトールを含有する溶出液画分とを別々に得ることが好ましい。このエピ−イノシトールを含む水溶液を濃縮して、得られたエピ−イノシトールの濃厚溶液に、エタノールの適当量を加え、室温または低温で一晩放置すると、純粋なエピ−イノシトールの結晶を晶出できる。
なお、実施方法(C)において、上記の還元終了後に、生成されたエピ−イノシトールを含む培養上清液を、直列された複数のイオン交換樹脂カラムで処理する第4工程を行うと、エピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを含有するが、その他の不純成分をほとんど含有しない水溶液が得られる。このエピ−イノシトールとミオ−イノシトールの水溶液を濃縮し、得られた濃縮液を、スルホン酸基を交換基とするスチレン重合体よりなる強酸性陽イオン交換樹脂(Ca2+型)、例えばダイヤイオン(登録商標)UBK520M(Ca2+型)のカラムに通して、カラムにエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを吸着させ、ついでカラムを脱イオン水で溶出するようにして第5工程を行う場合には、ミオ−イノシトールからエピ−イノシトールを効率よく分離できることが本発明者等によって見出されている。
第2の本発明方法の前記の実施方法(D)では、要約すると、栄養液体培地で所望の能力を有するグラム陰性細菌を接種して好気的に培養し、得られた培養液からグラム陰性細菌菌体を分離し、これにより、該菌体を大量に収得する第1工程と、こうして得られた該菌体を、緩衝液あるいは液体培地よりなる水性媒質中で、これに溶解させたミオ−イノシトールに作用させて、L−エピ−2−イノソースを生成させる第2工程と、ここで得られた反応液から菌体を除去して、菌体が除去されたL−エピ−2−イノソースを含有する反応液ろ液を得る第3工程と、L−エピ−2−イノソースを単離せず、該反応液ろ液に適当な還元剤を添加し、L−エピ−2−イノソースの還元反応を行い、これによりエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを生成する第4工程と、こうして得られた還元反応液から、生成されたエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを回収する第5工程と、回収されたエピ−イノシトールをミオ−イノシトールから分離する第6工程とが行われる。
この実施方法(D)の第1工程では、使用される所望の変換能を有するグラム陰性細菌を、グラム陰性細菌の培養に常用される液体培地で好気的に培養し、得られた培養液から該グラム陰性細菌の菌体を分離する。この様に分離された菌体を実施方法(D)の第2工程で使用する。菌体としては、実施方法(A)の第1工程により得た培養液から菌体を分離して集めた菌体を用いても良い。また、前記の使用微生物を別途の工程により適当な培養条件で培養して得た菌体を用いてもよい。菌体の分離と集菌は、培養液を遠心分離、濾過等の公知の手段にかけることにより行えば良い。
実施方法(D)の第2工程において、菌体をミオ−イノシトールに反応させるための液体反応媒質としては、緩衝液または液体培地よりなる水性媒質が用いられる。液体培地としては、実施方法(A)の第1工程で用いたものと同様のものを用いても良い。緩衝液としては、リン酸緩衝液、グッド(Good’s)のCHES緩衝液等を10〜500mM、好ましくは20〜100mMの濃度で用いれば良い。ここで用いた水性の反応媒質にとかしたミオ−イノシトールの濃度は、0.1〜30%(重量)の程度とするのが望ましい。菌体とミオ−イノシトールとの反応条件は、使用菌株や使用された反応媒質の緩衝液または液体培地の種類によって異なる。反応温度は5〜60℃、好ましくは10〜45℃であり、反応時間は1〜50時間、好ましくは3〜48時間である。水性反応媒質として用いられる緩衝液または液体培地のpHはpH2〜10、好ましくは3〜9である。該第2工程で微生物菌体をミオ−イノシトールと反応させると、L−エピ−2−イノソースを含有する反応液が得られる。
実施方法(D)の第3工程では、第2工程で得られたL−エピ−2−イノソース含有反応液から遠心分離、濾過等の公知の手段により菌体を除去し、これによってL−エピ−2−イノソースを含有する反応液濾液を収得する。次の第4工程では、第3工程で得られたところの、菌体を除かれたL−エピ−2−イノソース含有の反応液濾液に対して、還元剤としての水素化物を添加して、L−エピ−2−イノソースの還元反応を行い、これによりエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを生成する。この第4工程の還元反応は、実施方法(C)の第3工程で説明したと同じ要領で行いうる。
次いで、エピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを含有する還元反応液からエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールをそれらの水溶液として回収する第5工程を行う。その後に、エピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを含有する水溶液からエピ−イノシトールを収得する第6工程を行う。これら第5及び第6工程は、先に実施方法(C)の第4工程および第5工程で説明した手法と同様に実施できる。
さらに第2の本発明方法の前記した実施方法(E)においては、第3の本発明方法の実施方法(C)の第2工程ならびに実施方法(D)の第4工程を行うに先立ち、すなわちL−エピ−2−イノソースを含有した前記の培養上清液あるいは反応液濾液にアルカリ金属水素化物型の還元剤を添加して還元反応を行う工程に先立ち、還元剤を添加する前に、予め前記の培養上清液あるいは反応液濾液を、水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウムあるいは炭酸ナトリウムあるいは炭酸カリウムの添加によりpH8−11、望ましくはpH9−10に調整して置く工程を行い、そして、その後に還元剤を添加し還元反応を行うのである。このようにアルカリ性に反応媒質のpHを調整することにより、反応媒質のpHを未調整(通常pH5−7)で還元反応を行う場合(通常エピ−イノシトール6〜7部に対しミオ−イノシトール3〜4部が生成する)と比較すると、生成するエピ−イノシトールの量が1.3〜1.5倍に増加し、副成するミオ−イノシトールの量が1/2〜1/4に減少することが本発明者の別途の研究で知見された。実施方法(E)によると、pH8〜11の水性媒質中で、L−エピ−2−イノソースを前記の水素化物で還元することによって、副成されたミオ−イノシトールの生成量よりもはるかに高い生成量でエピ−イノシトールを生成させることができる。
前記のAB10119株、AB10215株およびAB10135株は新規な微生物であって、ミオ−イノシトールからL−エピ−2−イノソースを生産できる有用性を有する。従って、第3の本発明においては、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる特性を有して工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−7168の受託番号で寄託されたキサントモナス・エスピーAB10119株が新規微生物として提供される。
また、第4の本発明においては、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる特性を有して工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−7170の受託番号で寄託されたシュードモナス・エスピーAB10215株がが新規微生物として提供される。
さらに、第5の本発明においては、ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる特性を有して工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−7169の受託番号で寄託されたエルウィニア・エスピーAB10135株が新規微生物として提供される。
第1の本発明および第2の本発明によれば、医農薬合成原料として有用な純度の高いL−エピ−2−イノソースと、医薬として有用なエピ−イノシトールとがそれぞれに工業生産規模で安価に且つ簡便に製造することができる。
発明を実施するための最良の形態
以下に本発明を下記の実施例について具体的に説明する。
実施例1
(a)第1の本発明の実施方法(A)によるL−エピ−2−イノソースの製造例(1)
(1)L−エピ−2−イノソースの生成(第1例)
ミオ−イノシトール 12.0%(360g)、酵母エキス 1.2%、(NH4)2SO4 0.1%、K2HPO4 0.7%、KH2PO4 0.2%、MgSO4・7H2O 0.01%を含むpH7の液体培地3リットルを、100mlずつ500ml容のバッフル付き三角フラスコに分注し、オートクレーブ滅菌した。各々の三角フラスコにキサントモナス・エスピーAB10119株(FERM BP−7168の受託番号で寄託)を接種し、27℃で3日間振とう培養した。培養液を遠心分離(8,000rpm、20分間)し、培養上清液を得た。
この培養上清液を高速液体クロマトグラフィーにより下記の条件で分析した。その結果、培養上清液中にはL−エピ−2−イノソースが66mg/mlの濃度で生成している(ミオ−イノソースからL−エピ−2−イノソースへの変換率55.6%)ことがわかった。この時の培養上清液中にミオ−イノシトールは検出されなかった。
なお、上記のL−エピ−2−イノソースへの変換率は、次の計算式により求めた。
変換率(%)=〔培養上清液1ml中のL−エピ−2−イノソースのモル数÷液体培地1ml中のミオ−イノシトールのモル数〕×100
高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。
カラム:Wakosil 5NH2:4.6×350mm
カラム温度:40℃
検出器:RI DETECTER ERC−7515A(ERMA CR
.INC.)
注入量:20μl
溶媒:アセトニトリル−水=4:1
溶出時間:L−エピ−2−イノソース;
6.7分
(2)L−エピ−2−イノソースの生成(第2例)
ミオ−イノシトール 25.0%(250mg/ml)、グルコース 1.0%、酵母エキス 0.7%を含むpH未調整の液体培地400mlを、100mlずつ500ml容のバッフル付き三角フラスコに分注し、オートクレーブ滅菌した。各々の三角フラスコにキサントモナス・エスピーAB10119株(FERM BP−7168の受託番号で寄託)を接種し、27℃で5日間振とう培養した。培養液を遠心分離(8,000rpm、20分間)し、培養上清液を得た。
この培養上清液を高速液体クロマトグラフィーにより前記の条件で分析した。その結果、培養上清液中にはL−エピ−2−イノソースが247mg/mlの濃度で生成している(変換率99.9%)ことがわかった。この時の培養上清液中にミオ−イノシトールは検出されなかった。
なお、上記のL−エピ−2−イノソースへの変換率は、前記の計算式により求めた。
(3)L−エピ−2−イノソースの生成(第3例)
ミオ−イノシトール 4.0%(40mg/ml)、酵母エキス 0.2%、(NH4)2SO4 0.1%、K2HPO4 0.7%、KH2PO4 0.2%、MgSO4・7H2O 0.01%を含むpH7の液体培地100mlを500ml容のバッフル付き三角フラスコに分注し、オートクレーブ滅菌した。この三角フラスコにエルウィニア・エスピーAB10135株(FERM BP−7169の受託番号で寄託)を接種し、27℃で5日間振とう培養した。培養液を遠心分離(8,000rpm、20分間)し、培養上清液を得た。
この培養上清液を高速液体クロマトグラフィーにより前記の条件で分析した。その結果、培養上清液中にはL−エピ−2−イノソースが22mg/mlの濃度で生成している(変換率55.6%)ことがわかった。この時の培養上清液中にミオ−イノシトールは検出されなかった。
なお、上記のL−エピ−2−イノソースの変換率は、前記の計算式により求めた。
(4)L−エピ−2−イノソースの生成(第4例)
ミオ−イノシトール 25.0%(250mg/ml)、グルコース 1.0%、酵母エキス 0.7%を含むpH未調整の液体培地100mlを、500ml容のバッフル付き三角フラスコに分注し、オートクレーブ滅菌した。各々の三角フラスコにシュードモナス・エスピーAB10215株(FERM BP−7170の受託番号で寄託)を接種し、27℃で5日間振とう培養した。培養液を遠心分離(8,000rpm、20分間)し、培養上清液を得た。
この培養上清液を高速液体クロマトグラフィーにより前記の条件で分析した。その結果、培養上清液中にはL−エピ−2−イノソースが244mg/mlの濃度で生成している(変換率98.7%)ことがわかった。この時の培養上清液中にミオ−イノシトールは検出されなかった。
(b)L−エピ−2−イノソースの回収と単離
上記の実施例1(2)で得た培養上清液を、強酸性陽イオン交換樹脂デュオライト(登録商標)C−20(H+型)80mlを充填したカラム(内径2cm、長さ30cm)に通過させ、その後このカラムに80mlのイオン交換水(脱イオン水)を通過させて洗浄した。この通過液及び洗浄液を、合併して、合併された溶液を弱塩基性陰イオン交換樹脂デュオライト(登録商標)368S(遊離塩基型)160mlを充填したカラム(内径3cm、長さ30cm)に通過させ、その後このカラムに160mlのイオン交換水を通過させて洗浄した。
こうして得られた通過液及び水洗浄液を合併して得られた水溶液中には、上記L−エピ−2−イノソースが含有される以外に、不純物はほとんど存在していなかった。
上記の合併により得た水溶液を減圧下で200mlまで濃縮した。その濃縮液にエタノールを3倍量加え5℃で一晩放置したところ、純粋なL−エピ−2−イノソースの無色結晶を60g得た。この時の精製品の回収率は60.7%、ミオ−イノシトールからのL−エピ−2−イノソースの全回収率は60.6%であった。
なお、上記L−エピ−2−イノソースの精製品回収率は次の計算式により求めた。
精製品回収率(%)=〔精製単離したL−エピ−2−イノソース量÷培養上清液400ml中に含まれた精製前のL−エピ−2−イノソースの量〕×100
また、上記L−エピ−2−イノソースの全回収率は次の計算式により求めた。
全回収率(%)=〔精製単離したL−エピ−2−イノソースのモル数÷液体培地400ml中に含有されたミオ−イノシトールのモル数〕×100
実施例2
第1の本発明の実施方法(A)によるL−エピ−2−イノソースの製造例(2)
(1)種培養物の調製
ミオ−イノシトール 2.0%、酵母エキス 0.2%、(NH4)2SO4 0.1%、K2HPO4 0.7%、KH2PO4 0.2%、MgSO4・7H2O 0.01%を含むpH7の液体培地100mlを500ml容のバッフル付き三角フラスコに分注し、オートクレーブ滅菌した。各々の三角フラスコにキサントモナス・エスピーAB10119株(FERM BP−7168)を接種し、27℃で1日間振とう培養した。この培養液を種培養物として用いた。
(2)4L容ジャーファーメンターによるL−エピ−2−イノソースの製造
ミオ−イノシトール 12.0%、酵母エキス 1.2%、(NH4)2SO4 0.1%、K2HPO4 0.7%、KH2PO4 0.2%、MgSO4・7H2O 0.01%を含むpH7の液体培地2.5リットルを、4L容ジャーファーメンターに分注し、オートクレーブ滅菌した。このジャーファーメンターにキサントモナス・エスピーAB10119株の、上記(1)の方法で調製した種培養物25mlを接種した。この後、培養温度は27℃、通気量は1vvm、回転数は200rpmで培養を実施した。培養は3日間行い、培養期間中のpHを5M NaOH水溶液及び3M 塩酸で7±0.2に自動調整した。3日間培養後の培養液を遠心分離(8,000rpm、20分間)し、上清を培養上清液として得た。
この培養上清液を高速液体クロマトグラフィーにより前記と同様の条件で分析した。この培養上清液を高速液体クロマトグラフィーにより下記の条件で分析した。その結果、培養上清液中にはL−エピ−2−イノソースが60mg/mlの濃度で生成している(変換率50.6%)ことがわかった。
反応液からのL−エピ−2−イノソースの単離方法は、実施例1(b)に記載した方法に準じて行い、結晶として114g(精製品回収率76.0%)を得た。また、この時のミオ−イノシトールからのL−エピ−2−イノソースの全回収率は38.4%であった。
なお、上記L−エピ−2−イノソースの変換率は、上記実施例1に準じた計算式で求め、また精製品回収率は次の計算式により求めた。
精製品回収率(%)=〔精製単離したL−エピ−2−イノソース量÷培養上清液2.5リットル中に含有された精製前のL−エピ−2−イノソース量〕×100
また、上記L−エピ−2−イノソースのミオ−イノシトールからの全回収率は次の計算式により求めた。
全回収率(%)=〔精製単離したL−エピ−2−イノソースのモル数÷培地2.5リットル中に含有されたミオ−イノシトールのモル数〕×100
実施例3
第1の本発明の実施方法(B)によるL−エピ−2−イノソースの製造例
(1)菌体の生産
ミオ−イノシトール 0.5%、(NH4)2SO4 0.1%、K2HPO4 0.7%、KH2PO4 0.2%、MgSO4・7H2O 0.01%を含むpH7の液体培地2Lを500ml容のバッフル付き三角フラスコに100mlずつ分注し、オートクレーブ滅菌した。各々の三角フラスコにキサントモナス・エスピーAB10119株(FERM BP−7168)を接種し、27℃で3日間振とう培養した。この培養液を遠心分離して菌体を得た。得られた菌体を、0.05M リン酸緩衝液(pH7.0)200mlで洗浄後、再度遠心分離し、洗浄菌体を得た。
(2)L−エピ−2−イノソースの製造
上記により得られた洗浄菌体35gを、ミオ−イノシトール4gを含有した0.05M リン酸緩衝液(pH7.0)400ml(ミオ−イノシトール濃度は10mg/ml)中に加えた。得られた混合物を30℃、24時間緩やかにスターラーで攪拌しながら反応させた。反応終了後、反応液を液体クロマトグラフィーにより分析したところ、L−エピ−2−イノソースが6mg/ml(変換率60.7%)の濃度で生成、蓄積していた。反応液からのL−エピ−2−イノソースの単離方法は、実施例1(b)に記載した方法に準じて行い、結晶として1.6g(精製品回収率66.7%)を得た。また、上記L−エピ−2−イノソースのミオ−イノシトールからの全回収率は40.4%であった。
なお、上記のL−エピ−2−イノソースの変換率は、上記実施例1に準じて求め、精製品回収率は次の計算式により求めた。
精製品回収率(%)=〔精製単離したL−エピ−2−イノソース量÷反応液400ml中の精製前のL−エピ−2−イノソース量〕×100
また、上記L−エピ−2−イノソースのミオ−イノシトールからの全回収率は次の計算式により求めた。
全回収率(%)=〔精製単離したL−エピ−2−イノソースのモル数÷緩液400ml中に添加したミオ−イノシトールのモル数〕×100
実施例4
第2の本発明の実施方法(C)によるエピ−イノシトールの製造例
(1)L−エピ−2−イノソースの生成
ミオ−イノシトール 25.0%(500g)、グルコース1.0%、酵母エキス 2.5%を含むpH未調整の液体培地2リットルを、100mlずつ500ml容のバッフル付き三角フラスコに分注し、オートクレーブ滅菌した。各々の三角フラスコにキサントモナス・エスピーAB10119株(FERM P−7168)を接種し、27℃で5日間振とう培養した。培養液を遠心分離(8,000rpm、20分間)し、培養上清液を得た。
この培養上清液を実施例1、(1)に示した高速液体クロマトグラフィーにより分析した。その結果、培養上清液中にはL−エピ−2−イノソースが415g(ミオ−イノシトールからL−エピ−2−イノソースへの変換率は83.9%)生成していることがわかった。
(2)エピ−イノシトールの生成
前項(1)で得たL−エピ−2−イノソース含有の培養上清液の2リットルに還元剤としての水素化ホウ素ナトリウムの29.2gを徐々に加えた。還元反応を室温で行った。反応の終了後、培養上清液(還元反応の反応液)を高速液体クロマトグラフィーにより下記の条件で分析した.その結果、還元反応後の反応液(培養上清液)は、生成したエピ−イノシトールの235.8gを含有し、副生成物として、ミオ−イノシトールの102.4gを含有していることがわかった(エピ−イノシトールとミオ−イノシトールの合計反応収率は80.6%)。L−エピ−2−イノソースからのエピ−イノシトールの変換率は56.2%であった。
高速液体クロマトグラフィーの分析条件は以下の通りである。
カラム:Wakosil 5NH2:4.6×250mm
カラム温度:40℃
検出器:RI DETECTER ERC−7515A
(ERMA CR.INC.)
注入量:20μl
溶媒:アセトニトリル−水=4:1
溶出時間:エピイノシトール;8.5分
なお、エピ−イノシトールとミオ−イノシトールの合計反応収率(%)は次式で計算した。
〔還元反応後の培養上清液中のエピ−イノシトールのモル数とミオ−イノシトールのモル数の合計÷還元反応前の培養上清液中のL−エピ−2−イノソースのモル数〕×100
また、上記のL−エピ−2−イノソースからエピ−イノシトールへの変換率は次の計算式により求めた。
変換率(%)=〔還元反応後の培養上清液中のエピ−イノシトールのモル数÷還元反応前の培養上清液中のL−エピ−2−イノソースのモル数〕×100
(3)エピ−イノシトールの回収と単離の1例
前項(2)で得た還元反応後の反応液(培養上清液)を二等分した。一方の上清液を強酸性陽イオン交換樹脂デュオライト(登録商標)C−20(H+型)300mlを充填したカラム(内径5cm、長さ30cm)に通過させ、その後このカラムに400mlのイオン交換水を通過させて洗浄した。この通過液及び洗浄液を合併して、強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライト(登録商標)A−113(OH−型)600mlを充填したカラム(内径5cm、長さ60cm)に通過させ、その後このカラムに700mlのイオン交換水を通過させて洗浄した。
こうして得られた通過液及び水洗浄液を合併した。ここで合併により得られた水溶液は、エピ−イノシトールと副生成物としてのミオ−イノシトールとを含有するが、これら以外に不純物をほとんど含有しなかった。
上記により得た水溶液を減圧下で300mlまで濃縮した。その濃縮液(300ml)の4分の1量(75ml)を、強塩基性陰イオン交換樹脂アンバーライト(登録商標)CG−400(OH−型)1500mlを充填したカラム(内径5cm、長さ200cm)に通過させ、その後このカラムに脱イオン水を通過させて溶出した。該カラムの溶出液はミオ−イノシトールを主として含む画分と、所望なエピ−イノシトールを主として含む画分とに分け集めた。前記の濃縮液の残りの4分の3(225ml)についても同様な操作を行うことにより、エピ−イノシトールを専ら含む溶出液を収得できた。これを濃縮乾固して、エピ−イノシトールを73g得た。さらにこのエピ−イノシトールを水に溶かし15%の水溶液とした後、エタノールを2倍量加えて5℃で一晩放置して再結晶させた。こうして純粋なエピ−イノシトールの結晶63gが得られた(精製品回収率53.4%)。ミオ−イノシトールからのエピ−イノシトールの全収率は25.2%であった。
なお、上記エピ−イノシトールの精製品回収率は次の計算式により求めた。
精製品回収率(%)=〔結晶として単離したエピ−イノシトールの量÷還元反応後の上清液中のエピ−イノシトールの量〕×100
また、上記のミオ−イノシトールからのエピ−イノシトール全回収率は次の計算式により求めた。
全回収率(%)=〔結晶として単離したエピ−イノシトールの量÷培地1リットルに含有されたミオ−イノシトールの量〕×100
(4)エピ−イノシトールの回収と単離の第2例
前項(3)で二等分された還元反応後の反応液(培養上清液)の残りの一方を、強酸性陽イオン交換樹脂デュオライト(登録商標)C−20(H+型)300mlを充填したカラム(内径5cm、長さ30cm)に通過させ、その後このカラムに400mlのイオン交換水を通過させて洗浄した。この通過液及び洗浄液を、強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライト(登録商標)A−113(OH−型)600mlを充填したカラム(内径5cm、長さ60cm)に通過させ、その後このカラムに700mlのイオン交換水を通過させて洗浄した。
上記により通過液及び水洗浄液を合併して、合併により得られた水溶液を減圧下で300mlまで濃縮した。その濃縮液(300ml)を強酸性陽イオン交換樹脂ダイヤイオン(登録商標)UBK520M(Ca+型)1500mlを充填したカラム(内径5cm、長さ200cm)に通過させ、その後このカラムに脱イオン水を通過させて溶出した。該カラムの溶出液はミオ−イノシトールを主として含む画分と、所望なエピ−イノシトールを主として含む画分とに分け集めた。このクロマトグラフィー操作でエピ−イノシトールを75g得た。さらにこのエピ−イノシトールを水に溶かし15%の水溶液とした後、エタノールを2倍量加えて5℃で一晩放置して再結晶させた。こうして純粋なエピ−イノシトールの結晶66g(精製品回収率56.0%)を得た。この時の出発原料として用いたミオ−イノシトールからのエピ−イノシトールの全回収率は26.4%であった。
なお、上記エピ−イノシトールの精製品回収率及び全回収率は前項(3)と同様に計算した。
実施例5
第2の本発明の実施方法(C)および(E)によるエピ−イノシトールの製造例
(1)L−エピ−2−イノソースの生成
ミオ−イノシトール 25.0%、グルコース 1.0%、酵母エキス 0.7%を含むpH未調整の液体培地100mlを500ml容のバッフル付き三角フラスコに分注し、オートクレーブ滅菌した。各々の三角フラスコにキサントモナス・エスピーAB10119株(FERM BP−7168)を接種し、27℃で5日間振とう培養した。培養液を遠心分離(8,000rpm、20分間)し、培養上清液を得た。
この培養上清液を実施例1、(1)に示した高速液体クロマトグラフィーにより分析した。その結果、培養上清液中にはL−エピ−2−イノソースが23g(ミオ−イノシトールからL−エピ−2−イノソースへの変換率93.0%に相当)の量で生成していることがわかった。
(2)エピ−イノシトールの生成
前項(1)で得たL−エピ−2−イノソース含有の培養上清液100mlに、5Mの水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH10に調整した。その後、直ちに水素化ホウ素ナトリウム1.3gをpH10の培養上清液に徐々に加えた。還元反応を室温で行った。反応の終了後、培養上清液(反応液)を高速液体クロマトグラフィーにより前記実施例4、(2)記載の条件で分析した.その結果、還元反応後の反応液(培養上清液)は、生成したエピ−イノシトールの18.4gを含有し、副生成物として、ミオ−イノシトールの0.8gを含有していることがわかった(エピ−イノシトールとミオ−イノシトールの合計反応収率は82.6%)。L−エピ−2−イノソースからのエピ−イノシトールの変換率は79.1%であった。
この時のエピ−イノシトールとミオ−イノシトールへの合計反応収率は次の計算式により求めた。
エピ−イノシトールとミオ−イノシトールの合計反応収率(%)=〔還元反応後の培養上清液中のエピ−イノシトールのモル数とミオ−イノシトールのモル数の合計÷還元反応前の培養上清液中のL−エピ−2−イノソースのモル数〕×100
また、上記のL−エピ−2−イノソースからのエピ−イノシトールへの変換率は次の計算式により求めた。
変換率(%)=〔還元反応後の培養上清液中のエピ−イノシトールのモル数÷還元反応前の培養上清液中のL−エピ−2−イノソースのモル数〕×100
(3)エピ−イノシトールの回収と単離
反応液からのエピ−イノシトールの回収と精製、単離は、実施例4、(4)に記載した方法に準じて行った。エピ−イノシトールの結晶として15.7gを得た。このときの反応液中のエピ−イノシトールからの精製品回収率は85.3%であった。反応液中のL−エピ−2−イノソースに基づくエピ−イノシトールの収率は67.5%、出発原料として用いたミオ−イノシトールからのエピ−イノシトールの全回収率は62.8%であった。
なお、上記の反応液中のエピ−イノシトールからのエピ−イノシトールの精製品回収率は次の計算式により求めた。
精製品回収率(%)=〔精製単離したエピ−イノシトール量÷還元反応後の培養上清液100ml中に含有された精製前のエピ−イノシトール量〕×100
また、上記のL−エピ−2−イノソースに基づくエピ−イノシトールの収率は次の計算式により求めた。
収率(%)=〔精製単離したエピ−イノシトールのモル数÷還元反応前の培養上清液100ml中に含有された還元反応前のL−エピ−2−イノソースのモル数〕×100
また、上記のミオ−イノシトールからのエピ−イノシトールの全回収率は次の計算式により求めた。
全回収率(%)=〔精製単離したエピ−イノシトール量÷培養開始時の培養液100ml中に含有されたミオ−イノシトール量〕×100
産業上の利用可能性
本発明によれば、ミオ−イノシトールから、医薬の合成用中間体として有用なL−エピ−2−イノソースが簡便に且つ効率よく製造できる。また、本発明によれば、ミオ−イノシトールからL−エピ−2−イノソースが生成され、さらにL−エピ−2−イノソースの還元により、各種の医薬として有用なエピ−イノシトールが簡便に且つ効率よく製造できる。従って、本発明方法は産業上で有用である。
Claims (17)
- ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌を、ミオ−イノシトールに作用させて、
それにより前記ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換させてL−エピ−2−イノソースを生成する
ことから成ることを特徴とする、L−エピ−2−イノソースの製造方法。 - 請求項1に記載のミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌が、
シュードモナダセア(Pseudomonadaceae)科に属するキサントモナス(Xanthomonas)属またはシュードモナス(Pseudomonas)属の細菌、
あるいはアセトバクテラセア(Acetobacteraceae)科に属するアセトバクター(Acetobacter)属またはグルコノバクター(Gluconobacter)属の細菌、
あるいはリゾビアセア(Rhizobiaceae)科に属するアグロバクテリウム(Agrobacterium)属の細菌、
あるいはエンテロバクテリアセア(Enterobacteriacea)科に属するエルウィニア(Erwinia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、セラチア(Serratia)属またはエルシニア(Yersinia)属の細菌、
あるいはパステウレアセア(Pasteurellaceae)科に属するパステウレラ(Pasteurella)属またはヘモフィルス(Haemophilus)属の細菌
から選ばれるグラム陰性細菌である、請求項1に記載の方法。 - 請求項1に記載のミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌が、
キサントモナス(Xanthomonas)・エスピーAB10119株(FERM BP−7168として寄託)
あるいはシュードモナス(Pseudomonas)・エスピーAB10215株(FERM BP−7170として寄託)
あるいはエルウィニア(Erwinia)・エスピーAB10135株(FERM BP−7169として寄託)である、
請求項1に記載の方法。 - 請求項1に記載のミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌を、ミオ−イノシトール並びに炭素源及び窒素源を含有する液体培地で好気的に培養し、
その培養液中において該グラム陰性細菌をミオ−イノシトールに作用させて培養液中にL−エピ−2−イノソースを生成、蓄積させる、
請求項1に記載の方法。 - 請求項1に記載のミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌を培養し、
得られた培養物から該グラム陰性細菌の菌体を分離し、
該菌体を、溶解されたミオ−イノシトールを含む緩衝液または液体培地に加え、
該緩衝液または液体培地中でミオ−イノシトールと反応させ、
得られた反応液中にL−エピ−2−イノソースを生成させる工程を含む、
請求項1に記載の方法。 - 請求項4または5に記載の方法により、生成、蓄積されたL−エピ−2−イノソースを含有する培養液または反応液を収得し、
さらに該培養液または反応液から、菌体を除去し、
その後、菌体を除去されたL−エピ−2−イノソースを含有する培養上清液または反応液ろ液を、イオン交換樹脂処理または活性炭処理または結晶化操作あるいはこれらの組合せの処理にかけ、
この処理により、高純度のL−エピ−2−イノソースを培養上清液または反応液ろ液から回収することを特徴とする、
請求項1に記載の方法。 - ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌を水性媒質中でミオ−イノシトールに作用させて、
前記ミオ−イノシトールのL−エピ−2−イノソースへの変換によりL−エピ−2−イノソースを該水性媒質中に生成させ、
これによりグラム陰性細菌菌体とL−エピ−2−イノソースとを含有する反応液を収得し、
次いで該反応液から菌体を除去してL−エピ−2−イノソースを含有する反応液ろ液を収得し、
さらに得られたL−エピ−2−イノソース含有の反応液ろ液に適当な還元剤を直接に添加して該還元剤をL−エピ−2−イノソースに作用させてエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを生成させる
ことから成ることを特徴とする、エピ−イノシトールの製造方法。 - 請求項7に記載のミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌が、
シュードモナダセア(Pseudomonadaceae)科に属するキサントモナス(Xanthomonas)属またはシュードモナス(Pseudomonas)属の細菌、
あるいはアセトバクテラセア(Acetobacteraceae)科に属するアセトバクター(Acetobacter)属またはグルコノバクター(Gluconobacter)属の細菌、あるいはリゾビアセア(Rhizobiaceae)科に属するアグロバクテリウム(Agrobacterium)属の細菌、
あるいはエンテロバクテリアセア(Enterobacteriacea)科に属するエルウィニア(Erwinia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、セラチア(Serratia)属またはエルシニア(Yersinia)属の細菌、
あるいはパステウレアセア(Pasteurellaceae)科に属するパステウレラ(Pasteurella)属またはヘモフィルス(Haemophilus)属の細菌から
選ばれるグラム陰性細菌である
請求項7に記載の方法。 - 請求項7に記載のミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌が、
キサントモナス(Xanthomonas)・エスピーAB10119株(FERM BP−7168として寄託)
あるいはシュードモナス(Pseudomonas)・エスピーAB10215株(FERM BP−7170として寄託)
あるいはエルウィニア(Erwinia)・エスピーAB10135株(FERM BP−7169として寄託)である
請求項7に記載の方法。 - 請求項7に記載のミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌を、
ミオ−イノシトール並びに炭素源及び窒素源を含有する液体培地よりなる水性媒質中で好気的に培養しながら、該グラム陰性細菌をミオ−イノシトールに作用させて、得られた培養液中にL−エピ−2−イノソースを生成し且つ蓄積させてグラム陰性細菌菌体とL−エピ−2−イノソースとを含有する反応液として、培養液を収得する工程と、
その培養液から該グラム陰性細菌の菌体を除去して、L−エピ−2−イノソースを含有する反応液ろ液として、得られた培養上清液を収得する工程と、
該培養上清液に直接にL−エピ−2−イノソースの還元のための還元剤として水素化ホウ素アルカリ金属、水素化トリアルコキシホウ素アルカリ金属またはシアン化ホウ素アルカリ金属を添加し、該還元剤でL−エピ−2−イノソースを還元する反応を行い、これによりエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを該反応液ろ液、すなわち該培養上清液内で生成する工程と、
こうして得られたところの還元反応の反応液、すなわち生成されたエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを含有する培養上清液から、エピ−イノシトールとミオ−イノシトールを回収する工程と、
回収されたエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを相互から分離する工程と
からなる請求項7に記載の方法。 - 請求項7に記載のミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる能力を有するグラム陰性細菌を、
炭素源及び窒素源を含有する液体培地で好気的に培養して該グラム陰性細菌の培養液を収得し、さらに該培養液から該グラム陰性細菌の菌体を分離する工程と、
こうして得られたグラム陰性細菌菌体を緩衝液または液体培地よりなる水性媒質中でミオ−イノシトールと反応させて、L−エピ−2−イノソースを生成させる工程と、
こうして得られたところの、該グラム陰性細菌菌体と生成されたL−エピ−2−イノソースとを含有する反応液から菌体を除去して、これにより、グラム陰性細菌菌体を除去されたがL−エピ−2−イノソースを含有する得られた反応液ろ液を収得する工程と、
このL−エピ−2−イノソース含有の反応液ろ液に還元剤として水素化ホウ素アルカリ金属、水素化トリアルコキシホウ素アルカリ金属またはシアン化ホウ素アルカリ金属を添加し、該還元剤をL−エピ−2−イノソースに作用させて還元する反応を行い、これによりエピ−イノシトール及びミオ−イノシトールを該反応液ろ液内で生成する工程と、
こうして得られて、生成されたエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを含有する還元反応の反応液から、エピ−イノシトールとミオ−イノシトールを回収する工程と、
回収されたエピ−イノシトールとミオ−イノシトールを相互から分離する工程と
からなる請求項7に記載の方法。 - 請求項10又は11に記載の方法における還元剤を添加してL−エピ−2−イノソースを還元剤で還元する工程を行う前に、
L−エピ−2−イノソースを含有する培養上清液または反応液ろ液よりなる水性媒質のpHを、pH8〜12の範囲のアルカリ性に予め調整する工程を行い、
その後、L−エピ−2−イノソースを含有するpH8〜12の該水性媒質に、還元剤として水素化ホウ素アルカリ金属、水素化トリアルコキシホウ素アルカリ金属またはシアン化ホウ素アルカリ金属を添加して該還元剤をL−エピ−2−イノソースに作用させて還元する反応を行い、
これにより、副成されたミオ−イノシトールの生成量よりもはるかに高い生成量でエピ−イノシトールを生成させることを特徴とする、
請求項10又は11に記載の方法。 - L−エピ−2−イノソースを還元するのに用いられる還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化メトキシホウ素ナトリウムまたはシアン化水素化ホウ素ナトリウムである
請求項7に記載の方法。 - 用いる水性媒質は水であり、用いる還元剤が水素化ホウ素ナトリウムである
請求項7に記載の方法。 - ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる特性を有して工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−7168の受託番号で寄託されたキサントモナス・エスピーAB10119株。
- ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる特性を有して工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−7170の受託番号で寄託されたシュードモナス・エスピーAB10215株。
- ミオ−イノシトールをL−エピ−2−イノソースへ変換できる特性を有して工業技術院生命工学工業技術研究所にFERM BP−7169の受託番号で寄託されたエルウィニア・エスピーAB10135株。
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