JP4365613B2 - 芳香族ポリエステル樹脂及び光学部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フルオレン骨格を側鎖に有し、かつ複屈折が小さな芳香族ポリエステル樹脂、このポリエステル樹脂を含む樹脂組成物、並びに前記樹脂及び樹脂組成物で構成された光学部材(光学レンズなど)に関する。
【0002】
【従来の技術】
光学レンズ、例えば、各種カメラ(カメラ、デジタルカメラ、ビデオカメラなど)、情報記録媒体[コンパクトディスク(CD)、コンパクトディスクリードオンメモリ(CD-ROM)、コンパクトディスクレコーダブル(CD-R)、コンパクトディスクリライタブル(CD-RW)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、デジタルバーサタイルレコーダブル(DVD-R)、ミニディスク(MD)、光磁気ディスク(MO)など]を用いた光ピックアップ装置又は光学的記録装置、オフィスオートメーション(OA)機器(複写機及びプリンター、ファクシミリなど)、投影装置(プロジェクター及びプロジェクションテレビなど)などの各種光学機器には高性能光学レンズが使用されている。この光学レンズには、従来、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、芳香族ポリカーボネート樹脂、シクロポリオレフィン樹脂などの熱可塑性樹脂を、射出成形装置を用いて成形したプラスチックレンズが広く使用されている。
【0003】
PMMAは透明性が高く、複屈折が小さく、安価であるため、代表的なプラスチックレンズとして広く用いられている。しかし、PMMAは吸水率が高く、耐熱性が低いため、環境変化に伴って形状や屈折率が変化し、結像精度を低下させる。
【0004】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、屈折率が1.59と高く、耐熱性、耐衝撃性に優れることから光ディスク用基板材料として利用されており、レンズとしては高分散性(低アッベ数)を利用した色収差補正用レンズとして利用される。しかし、芳香族ポリカーボネート樹脂は、成形に伴って歪を生じやすく、芳香環の分子配向に伴って複屈折が大きくなる。そのため、芳香族ポリカーボネート樹脂は、高精度が要求される用途、例えば、高密度光ディスク(DVDなど)の光ピックアップレンズなどには使用できない。さらに、射出成形などの成形に伴って複屈折が大きくなるため、レンズの生産性を向上できない。
【0005】
シクロポリオレフィン樹脂は、透明性、低複屈折性の点ではポリメチルメタクリレートに及ばないものの、優れた耐熱性と低吸水性を有しており、近年、カメラ、複写機などの撮像系レンズ、CD、DVDなどの光ピックアップレンズなどでの採用が進んでいる。しかし、屈折率が1.51〜1.54程度であり、高性能レンズの小型化に対しては必ずしも満足できない。また、密着性が低いため、レンズ表面のコーティングにより密着性の高い被覆層を形成することができない。
【0006】
光学系の焦点精度が記録密度に直接影響するため、近年、CD-R、DVDやMOなどの高密度記録方式が進むなかで、光学系に要求される基準が益々厳しくなっている。さらに、高密度化のためレーザー光の短波長化に伴って、焦点精度に対する要求もますます厳しくなっている。例えば、次世代光ディスクのDVD-Rの光ピックアップレンズでは405nmのレーザー光が使用され、レンズの光学設計上から、レンズ材料としては高屈折率、低複屈折、低吸水性がより一層要求される。また、レンズの小型化にともない、高屈折率、面精度、転写性が要求され、射出成形における樹脂の高流動性が重要となる。
【0007】
一般的に屈折率は樹脂中の芳香環の含量によるが、芳香環が多くなると、屈折率が高くなるが、同時に芳香環の分子配向による複屈折も高くなる傾向がある。ポリカーボネート樹脂よりも高屈折率でかつ複屈折の低い透明樹脂として、特開平7−198901号公報、特開平8−109249号公報、特開平9−302077号公報、特開平8−160222号公報、特開平5−215902号公報、特開平6−287230号公報などに開示されているフルオレン骨格を側鎖に有するポリエステル樹脂が挙げられる。この樹脂は、屈折率が1.62と熱可塑性樹脂としては最も高い。しかし、近年の高性能レンズに要求される性能からすると、複屈折や流動性の点で必ずしも十分ではない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、高い屈折率を有しながら、複屈折が極めて小さな芳香族ポリエステル樹脂、この樹脂を含む樹脂組成物、並びに光学部材(光学レンズなど)を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、高い流動性及び転写性を有し、射出成形しても光学歪が生じない芳香族ポリエステル樹脂、この樹脂を含む樹脂組成物、並びに光学部材(光学レンズなど)を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、耐熱性及び耐水性が高く、屈折率や複屈折の変化が少ない光学部材を得るのに有用な芳香族ポリエステル樹脂、この樹脂を含む樹脂組成物を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フルオレン骨格を有する芳香族ジオールと脂環族ジカルボン酸とのエステル化により生成する芳香族ポリエステル樹脂が高い屈折率及び流動性を有するだけでなく、射出成形に供しても複屈折が小さいことを見いだし、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の樹脂組成物は、芳香族ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂とを含有する。芳香族ポリエステル樹脂は、少なくとも9,9−ビスフェノールフルオレン骨格を有するジオールで構成されたジオール成分と、少なくとも脂環族ジカルボン酸で構成されたジカルボン酸成分とのエステル化により生成する。芳香族ポリエステル樹脂は、単一のジオール成分とジカルボン酸成分とで形成されたホモポリエステルであってもよく、共重合性分が共重合したコポリエステルであってもよい。例えば、ジオール成分は、9,9−ビスフェノールフルオレン骨格を有するジオールとアルキレングリコール(直鎖状又は分岐鎖状C 2−6 アルキレングリコールなど)とを前者/後者=100/0〜50/50モル比の割合で含んでいる。ジオール成分は、ビスフェノールフルオレン、9,9−ビス(C 1−4 アルキル ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ジC 1−4 アルキル ヒドロキシフェニル)フルオレン、置換基としてC 3−10 シクロアルキル又はC 6−12 アリール基を有する9,9−ビス(ジC 1−4 アルキル ヒドロキシフェニル)フルオレン、およびこれらのビスフェノール類のヒドロキシル基に対してC 2−4 アルキレンオキサイド1〜10モルが付加した化合物から選択された少なくとも一種と、直鎖状又は分岐鎖状C 2−4 アルキレングリコールとを含んでいてもよく、ジカルボン酸成分は、C 3−10 シクロアルカン−ジカルボン酸、C 3−10 シクロアルケン−ジカルボン酸、ジ又はトリシクロC 7−10 アルカン−ジカルボン酸、ジ又はトリシクロC 7−10 アルケン−ジカルボン酸、およびこれらのジカルボン酸の酸無水物、C 1−4 アルキルエステル又は酸ハライドから選択された少なくとも一種の脂環族ジカルボン酸を含んでいてもよい。このような芳香族ポリエステル樹脂は、例えば、少なくとも下記式(1)で表される繰り返し単位を有している。
【0013】
【化4】
【0014】
[式中、環Aは脂肪族炭化水素環を示し、R5は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基を示し、R1a及びR1bは同一又は異なってアルキレン基を示し、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a及びR4bは同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を示し、m及びnは同一又は異なって0又は1以上の整数を示す]
芳香族ポリエステル樹脂は、ホモポリエステルであってもよく、コポリエステルであってもよい。このような樹脂は、例えば、下記式(2)で表される繰り返し単位を有している。
【0015】
【化5】
【0016】
[式中、環Aは脂肪族炭化水素環を示し、R5は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基を示し、Fは、下記式(3)及び(4)
【0017】
【化6】
【0018】
(R1a、R1b及びR1Cは同一又は異なってアルキレン基を示し、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a及びR4bは同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アリール基、アラルキル基を示し、m及びnは同一又は異なって0又は1以上の整数を示し、qは1以上の整数を示す。p/r=100/0〜10/90(モル比)を示す)で表されるジオール成分の残基を示す]
【0019】
前記式(1)及び(2)において、環AはC5-10シクロアルカン環又はC5-10シクロアルケン環(例えば、シクロヘキサン環)、R5は水素原子又はハロゲン原子であってもよい。また、前記式(1)(3)および(4)において、R1a及びR1bはC2-4アルキレン基(例えば、エチレン基)、R1CはC2-10アルキレン基(例えば、C2-6アルキレン基)であってもよく、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a及びR4bは同一又は異なって水素原子又はC1-7アルキル基(例えば、水素原子)であってもよい。係数m及びnは1〜10(例えば、1〜5)程度の整数であってもよく、qは1〜5(例えば、1〜3)程度の整数であってもよく、p/r=100/0〜50/50(モル比)(例えば、100/0〜70/30(モル比))程度であってもよい。
【0020】
前記芳香族ポリエステル樹脂は、ポリカーボネート樹脂(ビスフェノール型芳香族ポリカーボネート樹脂などの芳香族ポリカーボネート樹脂など)と組み合わせて樹脂組成物として使用される。ポリカーボネート樹脂の使用量は、芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対して0〜500重量部(例えば、10〜300重量部)程度であってもよい。
【0021】
前記芳香族ポリエステル樹脂及び前記樹脂組成物は光学的特性に優れ、高い屈折率を有するとともに、複屈折率が小さい。しかも、高い溶融流動性及び転写性を有している。そのため、光学部材(光学レンズなど)を含め、種々の成形品を形成するのに適している。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明のポリエステル樹脂は、少なくともフルオレン骨格を有するジオールで構成されたジオール成分(9,9−ビスフェノール(フルオレン)骨格を有するジオールで構成されたジオール成分)と、少なくとも脂環族ジカルボン酸で構成されたジカルボン酸成分とのエステル化反応により得ることができる。このような芳香族ポリエステル樹脂は、少なくとも前記式(1)で表される繰り返し単位を有している。
【0023】
環Aで表される脂肪族炭化水素環(又は脂環族環)としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどの単環式C3-10シクロアルカン環、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテンなどの単環式C3-10シクロアルケン環、ボルナン、ノルボルナン、アダマンタンなどの多環式飽和炭化水素環(例えば、二環又は三環式C7-10炭化水素環)、ボルネン、ノルボルネンなどの多環式不飽和炭化水素環(例えば、二環又は三環式C7-10不飽和炭化水素環)などが例示できる。好ましい環Aは、C5-10シクロアルカン環又はC5-10シクロアルケン環である。特に、C5-8シクロアルカン環(例えば、シクロヘキサン環)が好ましい。
【0024】
置換基R5は、水素原子、ハロゲン原子(臭素原子、塩素原子、フッ素原子など)、アルキル基(メチル基、エチル基、ブチル基、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-6アルキル基)などを含む。R5は、通常、エステル化反応に不活性であり、例えば、水素原子又はハロゲン原子である場合が多い。水素原子以外の置換基R5の置換数は、環Aの員数などに応じて選択でき、通常、0〜6(例えば、1〜6)程度であってもよい。水素原子以外の置換基R5の置換位置は特に制限されず、環Aの種類に応じて選択できる。
【0025】
環Aにおいて、環Aに対応する炭化水素基の結合手の位置も、特に制限されず、非対称位置であってもよく対称位置であってもよい。例えば、環Aがシクロヘキサン環である場合、環Aに対応する炭化水素基は、1,2−シクロヘキサン−ジイル基、1,3−シクロヘキサン−ジイル基であってもよく、1,4−シクロヘキサン−ジイル基であってもよい。
【0026】
前記式(1)および二価の有機基Fに関する前記式(3)において、R1a及びR1bで表されるアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレン基が例示できる。R1a及びR1bにおいてアルキレン基の種類はそれぞれ異なっていてもよい。また、アルキレン基R1a及びR1bの種類は係数mおよびnの数によっても異なっていてもよい。好ましいアルキレン基は、C2-3アルキレン基(エチレン基、プロピレン基)であり、通常、エチレン基である。
【0027】
オキシアルキレン単位の繰り返し数m及びnは、0又は1以上の整数であり、通常、1〜10、好ましくは1〜7、さらに好ましくは1〜5(例えば、1〜3)程度の整数である。
【0028】
前記式(4)において、qは1以上の整数である。q=1であるとき、R1Cで表されるアルキレン基としては、エチレン、プロピレン、トリメチレン、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C2-10アルキレン基が例示できる。好ましいアルキレン基は、直鎖状又は分岐鎖状C2-6アルキレン基(例えば、エチレン基、テトラメチレン基などの直鎖状C2-4アルキレン基)である。q≧2であるとき、R1Cで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などのC2-4アルキレン基が例示でき、オキシアルキレン単位の繰り返し数qは、2〜10、好ましくは2〜7、さらに好ましくは2〜5(例えば、2〜4)程度であってもよい。前記式(4)において、係数qは、通常、1〜5、好ましくは1〜3(特に1)程度である。
【0029】
R2a、R2b、R3a、R3b、R4a及びR4bで表されるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-7アルキル基(特に、C1-6アルキル基)が例示できる。アリール基としては、フェニル、ナフチル基などのC6-12アリール基が例示でき、アラルキル基としては、ベンジル基などのC6-12アリール−C1-4アルキル基が例示できる。これらの置換基の種類は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。好ましい置換基R2a、R2b、R3a、R3bは、水素原子又はC1-4アルキル基(特にメチル基)である。また、好ましい置換基R4a及びR4bは、水素原子又はC1-4アルキル基(特にメチル基)であり、通常、水素原子である。これらの置換基の置換位置は特に制限されず、置換基R2a、R2b、R3a、R3bについては、通常、ベンゼン環の2−、3−、4−、2,6−、3,5−位置であってもよい。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂は少なくとも前記式(1)で表される繰り返し単位を有していればよく、ホモポリエステル樹脂であってもよくコポリエステル樹脂であってもよい。このようにポリエステル樹脂において、式(3)で表される単位と式(4)で表される単位との割合p/r(モル比)は、複屈折率が大きくならない限り100/0〜10/90程度の範囲から選択でき、通常、100/0〜50/50、好ましくは100/0〜70/30、さらに好ましくは100/0〜80/20程度である。
【0031】
本発明の芳香族ポリエステル樹脂は、例えば、下記式で表される繰り返し単位を有していてもよい。
【0032】
【化7】
【0033】
(R1a、R1b、R1C、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a、R4b、m、nは前記に同じ。t/u=100/0〜50/50を示す)
t/uの値は、通常、p/rの値に対応しており、例えば、100/0〜70/30、好ましくは100/0〜80/20程度である。
【0034】
好ましい芳香族ポリエステル樹脂は、下記式(2a)で表されるシクロヘキサンジカルボン酸ユニットと、式(3a)で表されるビスフェノールフルオレンを有するユニットと、式(4a)で表されるアルキレングリコールユニットで構成されている。
【0035】
【化8】
【0036】
(式中、R1a及びR1bはアルキレン基(エチレン基など)を示し、R1Cはアルキレン基(C2-6アルキレン基など)を示し、R2a、R2b、R3a、R3bは同一又は異なって、水素原子、アルキル基(C1-4アルキル基など)を示し、m及びnは1〜3の整数を示し、p/r=100/0〜75/25(モル比)を示す)
芳香族ポリエステル樹脂の分子量は、特に制限されず、例えば、重量平均分子量0.5×104〜100×104、好ましくは1×104〜50×104、さらに好ましくは1×104〜25×104(例えば、1×104〜10×104)程度であってもよい。
【0037】
芳香族ポリエステル樹脂の製造には、例えば、エステル交換法、溶融重合法(直接重合法など)、有機溶媒中で反応させる溶液重合法、酸ハライドを用いる界面重合法などが利用できる。前記ポリエステル樹脂は、少なくとも下記式(12)で表される脂環族ジカルボン酸で構成されたジカルボン酸成分と、少なくとも下記式(13)で表されるジオール(9,9−ビスフェノールフルオレン骨格を有するジオール)で構成されたジオール成分とを反応させることにより得ることができる。さらに、前記のように、ジオール成分及びジカルボン酸成分はそれぞれ単一の成分であってもよく、ジオール成分及び/又はジカルボン酸成分は共重合成分を含んでいてもよい。例えば、ジオール成分は、前記式(13)で表されるジオールと下記式(14)で表されるジオールとを組み合わせて構成してもよい。
【0038】
【化9】
【0039】
(式中、Xはヒドロキシル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を示し、環A、R1a、R1b、R1C、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a、R4b、m、n及びqは前記に同じ)
式(12)で表されるジカルボン酸(脂環族ジカルボン酸)としては、例えば、シクロアルカンジカルボン酸類(シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸などのC3-10シクロアルカン−ジカルボン酸)、シクロアルケンジカルボン酸類(テトラヒドロフタル酸などのC3-10シクロアルケン−ジカルボン酸)、多環式アルカンジカルボン酸類(ボルナンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、アダマンタンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7-10アルカン−ジカルボン酸)、多環式アルケンジカルボン酸類(ボルネンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸などのジ又はトリシクロC7-10アルケン−ジカルボン酸)、これらの反応性誘導体(ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸などの酸無水物、ジメチルエステル、ジエチルエステルなどの低級C1-4アルキルエステル、ジカルボン酸に対応する酸ハライドなどのエステル形成可能な誘導体)などが例示できる。これらの脂環族ジカルボン酸は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの脂環族ジカルボン酸のうち、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸またはその反応性誘導体(1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルなど)を用いる場合が多い。
【0040】
ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸など)を用いると、ベンゼン環の導入により耐熱性、屈折率が向上するが、複屈折が大きくなる。また、分散特性を表すアッベ数は、屈折率の上昇に伴って減少する傾向を示すため、ベンゼン環の導入には屈折率とアッベ数のバランスを考慮する必要があるものの、屈折率を高めつつ複屈折を低減することが困難である。さらに、フルオレン骨格を有するジオール(ビスフェノールフルオレン類)と芳香族ジカルボン酸とを重合させると、極限粘度が高くなり、成形流動性(又は溶融流動性)が低下する。そのため、成形品の応力歪みや分子配向が生じ、複屈折が大きくなる。そこで、共重合成分としてアルキレングリコール(エチレングリコールなど)を用いると、流動性を向上でき、応力歪みや分子配向を緩和できる。しかし、共重合性分の共重合に伴って樹脂の特性が低下する。これに対して、フルオレン骨格を有するジオール(ビスフェノールフルオレン類)と脂環族ジカルボン酸とを組合せると、耐熱性を損なうことなく、複屈折とアッベ数を改善でき、高い屈折率と小さな複屈折とを両立できる。しかも、樹脂の成形流動性を高めることもできる。
【0041】
ジカルボン酸成分において、脂環族ジカルボン酸(12)は、必要により非脂環族ジカルボン酸と組み合わせて使用してもよい。非脂環族ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸などのC4-12アルカン−ジカルボン酸など)、芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などのC6-12アレーン−ジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4′−ジカルボン酸、4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルケトンジカルボン酸などのC8-16ビスフェノール−ジカルボン酸など)又はそれらの反応性誘導体(酸無水物、低級アルキルエステル、酸ハライド)などが例示できる。脂環族ジカルボン酸と非脂環族ジカルボン酸との割合(モル比)は、前者/後者=100/0〜50/50、好ましくは100/0〜70/30、さらに好ましくは100/0〜80/20程度であってもよい。さらに、必要であれば、トリカルボン酸、テトラカルボン酸などの多価カルボン酸を併用し、ポリエステル樹脂に分岐構造を導入してもよい。
【0042】
式(13)で表されるジオールには、ビスフェノールフルオレン類及びそのアルキレンオキシド付加体が含まれる。ビスフェノールフルオレン類としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(ビスフェノールフルオレン,BPF);ビスクレゾールフルオレン(BCFG、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(C1−4アルキル ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジC1−4アルキル ヒドロキシフェニル)フルオレン;これらの化合物に対応し、置換基R2a、R2b、R3a、R3bがC3−10シクロアルキルやC6−12アリール基であるビスフェノールフルオレン類が挙げられる。
【0043】
また、ビスフェノールフルオレン類のアルキレンオキシド付加物としては、ビスフェノールフルオレン類のヒドロキシル基に対してC2-4アルキレンオキサイド1〜10モル(好ましくは1〜5モル、特に1〜3モル)程度が付加した化合物が挙げられる。アルキレンオキサイド1モルが付加した化合物としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(ビスフェノキシエタノールフルオレン,BPEF)などの9,9−ビス[4−(ヒドロキシC2-3アルコキシ)フェニル]フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3−メチルフェニル)フルオレン(ビスクレゾールエタノールフルオレン,BCEF)、9,9−ビス(4−ヒドロキシイソプロポキシ−3−メチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アルキルヒドロキシC2-3アルコキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシイソプロポキシ−2,6−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ジアルキルヒドロキシC2-3アルコキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(シクロアルキルヒドロキシC2-3アルコキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(アリールヒドロキシC2-3アルコキシフェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0044】
これらの化合物は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの化合物のうち、ヒドロキシル基に対してアルキレンオキサイドが付加したビスフェノールフルオレン類、例えば、9,9−ビス[4−(ヒドロキシC2-3アルコキシ)フェニル]フルオレン(例えば、BPEF)、9,9−ビス(アルキルヒドロキシC2-3アルコキシフェニル)フルオレン(例えば、BCEFなど)などが好ましい。ビスフェノールフルオレン類としては、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンを用いる場合が多い。
【0045】
上記式(13)で表されるジオール(例えば、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン)は、剛直なフルオレン環と2つのベンゼン環とを有することにより、耐熱性と屈折率を向上できるだけでなく、これらの3つの芳香環の平面が互いに直交する立体配座に起因するためか、分子固有の複屈折を低減した単量体として極めて有効である。
【0046】
式(14)で表されるジオールは共重合成分として使用でき、必ずしも必要ではない。式(14)で表されるジオールとしては、アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、デカンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-12アルキレングリコールなど)、(ポリ)オキシアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどのジ乃至テトラC2-4アルキレングリコールなど)が例示できる。これらのジオールは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいジオールは、直鎖状又は分岐鎖状C2-10アルキレングリコール、特にC2-6アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状C2-4アルキレングリコール)である。ジオールとしては、少なくともエチレングリコールを用いる場合が多い。
【0047】
上記式(14)で表されるジオール(例えば、エチレングリコール)は、重合反応性を高めるとともに樹脂に柔軟性を付与させするための共重合成分として有用である。なお、共重合成分の導入により、屈折率、耐熱性、吸水性が低下する場合があるため、一般的には、共重合比率はできるだけ小さい方がよいようである。
【0048】
式(13)で表されるジオールと式(14)で表されるジオールとの割合(モル比)は、前記割合p/rに対応しており、前者/後者=100/0〜50/50、好ましくは100/0〜75/25(例えば、100/0〜70/30)、さらに好ましくは100/0〜90/10(例えば、100/0〜80/20)程度であってもよい。
【0049】
なお、必要であれば、前記式(13)及び(14)に対応するジオールは、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンやそのアルキレンオキサイド付加体(2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパンなど)など)、芳香族ジオール(例えば、ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンやそのアルキレンオキサイド付加体(2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパンなど)、キシリレングリコールなど)と組み合わせて使用してもよい。これらのジオールも単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールを併用してもよい。
【0050】
ジカルボン酸成分とジオール成分との割合(モル比)は、通常、前者/後者=1.5/1〜0.7/1、好ましくは1.2/1〜0.8/1(特に、1.1/1〜0.9/1)程度であってもよい。
【0051】
なお、直接重合法(直接エステル化法)は、エステル交換法に比べて、アルコールの留出がなく、触媒を必要とせずに行うことができ、原料としてジカルボン酸ジエステルよりも安価なジカルボン酸が使用できるなどの利点がある。しかし、直接重合法では、ジオール成分に対するジカルボン酸成分の溶解性が低く、反応が円滑に進行しにくいため、通常のポリエステル製造では、エステル交換法が用いられることが多い。しかし、脂環族ジカルボン酸とビスフェノールフルオレン類と必要により共重合成分(アルキレングリコールなど)とを組み合わせると、極めて温和な条件でもエステル化反応が円滑に進行する。例えば、シクロヘキサンジカルボン酸と9,9−ビス(4−ヒドロキシエトキシフェニル)フルオレン(BPEF)とを等モルの割合で用い、触媒の存在下又は非存在下、1〜30torr(約1×102〜4×103Pa)程度の減圧下で、200〜250℃(好ましくは210〜240℃)程度の温度で反応すると、所望のポリエステル樹脂が得られる。
【0052】
反応は触媒の非存在下で行うこともできるが、所定の重合度の樹脂を得るためには、反応温度と反応時間を高める必要があり、樹脂の着色が生じる場合がある。そのため、より温和な条件で着色のない所定の重合度を有する樹脂を得るためには、触媒を用いるのが好ましい。触媒としては、ポリエステル樹脂の製造に利用される種々の触媒、例えば、金属触媒などが使用できる。金属触媒としては、例えば、アルカリ金属(リチウム、ナトリウム)、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、バリウムなど)、遷移金属[2B族元素(亜鉛など)、3B族元素(アルミニウムなど)、4B族元素(ゲルマニウム、スズ、鉛など)、5B属元素(アンチモン)、4A族元素(チタンなど)、7A族元素(マンガンなど)、8族元素(コバルトなど)、ランタノイド族元素(セリウムなど)など]の金属化合物が用いられる。金属化合物としては、アルコラート、有機酸塩(酢酸塩、プロピオン酸塩など)、無機酸塩(ホウ酸塩、炭酸塩など)、金属酸化物などが例示できる。これらの触媒は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。触媒の使用量は、例えば、ジカルボン酸成分に対して、0.01×10-4〜100×10-4モル、好ましくは0.1×10-4〜10×10-4モル程度であってもよい。
【0053】
反応は、通常、賦活性ガス(窒素、ヘリウムなど)雰囲気中で行うことができる。また、反応は、減圧下(例えば、1〜100torr(約1×102〜1×104Pa))で行うこともできる。反応温度は、例えば、150〜270℃(好ましくは180〜260℃、さらに好ましくは200〜250℃)程度で行うことができる。反応終了後、必要により慣用の方法で樹脂を精製してもよい。
【0054】
本発明のポリエステル樹脂は単独で使用してもよく、他の熱可塑性樹脂(例えば、環状オレフィン系樹脂など)と組み合わせて樹脂組成物として使用してもよい。なお、熱可塑性樹脂は溶融ブレンド又は溶融混練などの方法でポリエステル樹脂と複合化することができる。ポリエステル樹脂はポリカーボネート樹脂と組み合わせるのが好ましい。本発明のポリエステル樹脂はポリカーボネート樹脂と任意の割合で相溶し、溶融ブレンドした樹脂成形物の透明性は全く損なわれない。しかも、相溶化剤などの添加剤を必要としないので、ポリカーボネート樹脂とのブレンド割合により、各樹脂の特性を有効に発現させることができ、樹脂組成物の特性を任意に調整できる。例えば、ポリカーボネート樹脂とブレンドすることにより、許容範囲内の屈折率や複屈折において、耐熱性を高めたり、耐衝撃性を高めることができる。
【0055】
ポリカーボネート樹脂としては、種々の樹脂、例えば、ビスフェノール型芳香族ポリカーボネート樹脂(例えば、ビスフェノールA、F、ADなどのビスフェノール類をベースとしたポリカーボネート樹脂)、前記ビスフェノールフルオレン類をベースとするポリカーボネート樹脂(例えば、前記式(13)においてm及びnが0〜5であるビスフェノールフルオレン類などをベースとしたフルオレン骨格のポリカーボネート樹脂)、脂環族ポリカーボネート樹脂などが例示できる。これらのポリカーボネート樹脂は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましいポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂などのビスフェノール型芳香族ポリカーボネート樹脂である。なお、ポリカーボネート樹脂はホスゲン法や炭酸ジエステル法などにより調製できる。
【0056】
ポリカーボネート樹脂の分子量は特に制限されず、例えば、重量平均分子量1×104〜100×104、好ましくは1×104〜50×104、さらに好ましくは1×104〜25×104(例えば、1×104〜10×104)程度であってもよい。
【0057】
ポリエステル樹脂との相溶性が高いため、ポリカーボネート樹脂の使用量は、特に制限されず、広い範囲から選択できる。ポリカーボネート樹脂の使用量は、例えば、芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対して0〜300重量部(例えば、10〜300重量部)程度の範囲から選択でき、通常、10〜200重量部、好ましくは20〜150重量部、さらに好ましくは25〜120重量部程度である。
【0058】
本発明のポリエステル樹脂や樹脂組成物は、必要により、種々の添加剤を添加し、樹脂組成物として使用してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤(エステル類、ポリオール、ポリサルファイド、ウレタンプレポリマーなど)、滑剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、離型剤(天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸やその金属塩、酸アミド類、エステル類、パラフィン類など)、帯電防止剤、充填剤、難燃剤、着色剤(カーボンブラック、二酸化チタンなどの顔料)、分散剤、流動調整剤、レベリング剤、消泡剤などが挙げられる。また、液状ゴム(カルボキシル基末端ブタジエン−アクリロニトリル共重合ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体など);表面改質剤(シランカップリング剤やチタン系カップリング剤など);低応力化剤(シリコーンオイル、シリコーンゴム、各種プラスチック粉末、各種エンジニアリングプラスチック粉末など)などを適宜添加してもよい。また、屈折率や耐熱性を高めるために、硫黄化合物やポリシランなどを含んでいてもよい。
【0059】
より具体的には、充填剤としては、酸化物系無機充填剤(シリカ、アルミナ、マイカなど)、非酸化物系無機充填剤(炭化ケイ素、窒化ケイ素など)などが挙げられる。用途によっては、アルミニウム、亜鉛、銅などの金属粉末も使用できる。より詳細には、シリカ系充填剤(ケイ砂、石英、ノバキュライト、ケイ藻土など);合成無定形シリカ;ケイ酸塩系充填剤(カオリナイト、雲母、滑石、ウオラストナイト、アスベスト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムなど);ガラス系充填剤(ガラス粉末、ガラス球、中空ガラス球、ガラスフレーク、泡ガラス球など);非酸化物系無機充填剤(窒化ホウ素、炭化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ホウ化チタン、窒化チタン、炭化チタンなど);炭酸塩系充填剤(炭酸カルシウムなど);酸化物系充填剤(酸化亜鉛、アルミナ、ジルコニア、マグネシア、酸化チタン、酸化ベリリウムなど)などが挙げられる。
【0060】
これらの充填剤としては、繊維状、針状(ウィスカーを含む)、粉粒状、鱗片状などの種々の形状の充填剤が使用できる。充填剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0061】
難燃剤としては、無機系難燃剤(ホウ酸系難燃剤、リン系難燃剤、その他の無機系難燃剤)、有機系難燃剤(窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤など)、コロイド難燃物質などの各種の難燃剤が含まれる。無機系難燃剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、酸化スズの水和物、ホウ砂などの無機金属水和物、硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム−カルシウム、炭酸バリウム、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、赤リン、膨張黒鉛などが挙げられる。ハロゲン系難燃剤としては、例えば、テトラブロモビスフェノールA誘導体(TBA)、テトラブロモビスフェノールS誘導体、ヘキサブロモベンゼン、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモエタン(TBE)、ブタンテトラブロモブタン(TBB)、ヘキサブロモシクロデカン(HBCD)などの臭素系難燃剤、塩素化パラフィン、塩素化ポリフェニル、塩素化ジフェニル、パークロロペンタシクロデカン、塩素化ナフタレンなどの塩素系難燃剤が挙げられる。これらのハロゲン系難燃剤は、三酸化アンチモンなどと併用することにより、さらに高い難燃性を発揮する。
【0062】
リン系難燃化合物としては、例えば、リン酸アンモニウム、リン酸メラミン、赤燐、リン酸エステル、トリクレジルホスフェート、トリ(β−クロロエチル)ホスフェート、トリ(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリ(ジブロモプロピル)ホスフェート、2,3−ジブロモプロピル−2,3−ジクロロプロピルホスフェートなどが挙げられる。
【0063】
これらの難燃剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0064】
本発明のポリエステル樹脂は、非晶性であり、透明性が高く、屈折率が高い。また、優れた溶融粘弾性特性を示すので、流動性及び成形性に優れ、成形加工による残留応力歪、分子配向が起こりにくく、分子固有の複屈折が極めて小さい。そのため、本発明のポリエステル樹脂や樹脂組成物は、成形による光学歪を生じることなく、樹脂成形品の複屈折を極めて小さくでき、しかも屈折率が高いので、種々の光学部材(光学レンズなど)として極めて有用である。特に、高い結像精度や光学的特性が要求される高性能光学部材又は光学素子(高性能レンズなど)の材料として有用である。光学部材(又は光学素子)としては、例えば、光ファイバー(コアなど)や導波路、プリズム、レンズ、基板(又はディスク)などが例示でき、光ディスク基板、DNAチップ(基板)などとしても利用できる。これらの光学部材は、マイクロレンズなどの微小光学素子であってもよい。
【0065】
光学レンズは、例えば、顕微鏡、眼鏡、望遠鏡、カメラ、VTR(ビデオテープレコーダ)などの光学レンズ、液晶ディスプレイに用いられる導光板、プリズムシートなどのバックライト光学系、プロジェクターなどの照明光学系、CD、DVDなどの光学的情報記録系やピックアップ系のレンズなどに利用できる。特に、VTR、デジタルスチルカメラ(DSC)、レンズシャッターカメラ、フィルム一体型カメラ(レンズ付フィルム)、デジタルビデオカメラなどの各種カメラ、CD、CD−ROM、CD−R、CD−RW、コンパクトディスクビデオ(CD−Video)、MO、DVD、DVD−RAM、DVD−ROM、DVD−RW、スーパーオーディオなどの光ピックアップ装置、複写機およびプリンターなどのOA機器といった各種機器などに使用される高性能光学レンズに用いることができる。
【0066】
光学部材(光学レンズなど)は、公知の成形方法、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などにより得ることができる。生産性の点からは光学部材の成形法としては射出成形法が一般的である。射出成形法は、樹脂温度、金型温度、保持圧力などの成形条件を適正にすることにより、光学歪の小さい光学部材(レンズなど)を成形可能である。成形条件は樹脂の種類、重合度などによって異なるが、通常、樹脂温度は200℃〜320℃程度、金型温度は樹脂のガラス転移温度からガラス転移温度より20℃低い温度程度である。樹脂温度が低すぎると、流動性と転写性が低下し、成形に伴って応力歪が残り、複屈折が大きくなる。一方、樹脂温度が高すぎると、樹脂が熱分解しやすくなり、成形品の強度低下や着色の原因となる。さらに金型鏡面やスタンパの汚染、離型性の低下になることがある。成形された光学部品(レンズなど)の精度は、寸法精度と表面特性によって表され、これらの精度が低いと光学歪が大きくなる。
【0067】
本発明のポリエステル樹脂は流動性が高く、樹脂温度200℃でも高い流動性が得られる。そのため、樹脂温度を低下でき、成形に伴う着色を防ぐことができ、光学歪及び着色の少ない光学部材(レンズなど)を成形することができる。
【0068】
本発明の光学部材又は素子(光学レンズなど)の表面には、種々のコーティングを施してもよい。例えば、レンズには、光線透過率を高めるために反射防止膜をコーティングにより形成することができ、表面の傷防止のためにハードコート層を設けてもよい。反射防止膜は、単層であってもよく、屈折率の異なる薄膜を積層した多層膜であってもよい。反射率を低減できる限り、反射防止膜又は層は無機物及び/又は有機物で形成できる。表面の硬度や干渉縞の防止を重視する場合は、無機物で構成された反射防止膜が好ましい。無機物としては、酸化物やフッ化物、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、酸化セリウム、酸化ハフニウム、フッ化マグネシウムなどが挙げられる。
【0069】
本発明のポリエステル樹脂及び樹脂組成物は、光学部材(光学素子)に限らず、広い用途、例えば、成形品(例えば、電気・電子部品、機械部品、光学部品など)の製造にも利用できる。
【0070】
【発明の効果】
本発明では、特定のジカルボン酸成分とジオール成分とを組み合わせてポリエステル樹脂を得るため、得られたポリエステル樹脂及び樹脂組成物は、高い屈折率を有しながら、複屈折が極めて小さい。また、高い流動性を有し、射出成形しても光学歪が生じず、転写性が高い。そのため、種々の光学部材(光学レンズなど)などに利用できる。
【0071】
【実施例】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0072】
実施例1
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)1mol、エチレングリコール(EG)0.1mol、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)0.9molを通常の溶融重合で重合させ共重合ポリエステルを得た。この共重合ポリエステルの重量平均分子量Mwは51,000であり、ガラス転移点Tgは120℃であった。
【0073】
得られた共重合ポリエステルを射出成形機(東芝機械(株)製、30トン射出成形機)でプレート(3mm厚)を成形し、光学特性(全光透過率、屈折率、複屈折、アッベ数)を測定した。成形条件を表1にまとめた。
【0074】
【表1】
【0075】
実施例2
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(CHDA)1mol、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF)1molを通常の溶融重合で重合し、ポリエステルを得た。このポリエステルの重量平均分子量Mwは37,500、ガラス転移点Tgは135℃であった。実施例1と同様に射出成形し、光学特性を測定した。
【0076】
実施例3
実施例1で得られた共重合ポリエステル50重量部とポリカーボネート(帝人化成(株)製、パンライト5503)50重量部とを二軸押出混練機(テクノベル社製)で溶融混合し、冷却してペレットとした。このペレットを用い、実施例1と同様に射出成形し、光学特性を測定した。
【0077】
実施例4
実施例1で得られた共重合ポリエステル70重量部とポリカーボネート(帝人化成(株)製、パンライト5503)30重量部とを二軸押出混練機(テクノベル社製)で溶融混合し、冷却してペレットとした。このペレットを用い実施例1と同様に射出成形し、光学特性と溶融粘弾特性を測定した。
【0078】
実施例5
実施例1で得られた共重合ポリエステル90重量部とポリカーボネート(帝人化成(株)製、パンライト5503)10重量部とを二軸押出混練機(テクノベル社製)で溶融混合し、冷却してペレットとした。このペレットを用い実施例1と同様に射出成形し、光学特性を測定した。
【0079】
比較例1
ポリカーボネート(帝人化成(株)製、パンライト5503)を実施例1と同様に射出成形し、光学特性を測定した。
【0080】
なお、実施例及び比較例において、光学特性は次のようにして測定した。
【0081】
全光線透過率(%):JIS K−7105に準じて測定した。
【0082】
屈折率(D線)(20℃):アッベ屈折計を用いて測定した。
【0083】
屈折率温度依存係数(10-5/℃):アッベ屈折計を用いて測定した。
【0084】
アッベ数:アッベ屈折計を用いて測定した。
【0085】
複屈折(nm):エリプソメーターを用いて測定した。
【0086】
実施例及び比較例で得られた光学特性を表2に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
[溶融特性]
ポリカーボネート(帝人化成(株)製、パンライト5503)と、実施例1で得られた共重合ポリエステルとのペレット状のサンプルについて、温度一定の下で溶融粘度のせん断速度依存性を測定した。なお、上記特性は、毛管粘度計[東洋精機(株)社製「キャピログラフ1B」(最大荷重2t)、毛管の径D0.5(mm)、毛管の長さL10(mm)]を用い、検知可能な最低圧力は25kgf/cm2、印加可能せん断速度範囲4.86x101(sec-1)〜4.86x104(sec-1)で測定した。測定においては、試料を充填するシリンダーを所定の温度にし、試料を充填した後、2分間保持し、280℃で測定を開始した。印加せん断速度は低い方から順に段階的に大きくし、各せん断速度が定常に達してから溶融粘度を測定した。結果を図1に示す。
【0089】
図1より、実施例で得られた共重合ポリエステルはポリカーボネート樹脂よりも溶融粘度が低く、流動性および成形性に優れている。
【0090】
[複屈折]
さらに、実施例1で得られた共重合ポリエステル、実施例3,4,5で得られた樹脂組成物、及び比較例1のポリカーボネートを用いた射出成形品について、偏光板を用いて観察し、複屈折が応力歪みとなって現れている様子を撮影した。結果を図2に示す。
【0091】
図2より、実施例の共重合ポリエステルはポリカーボネートよりも歪みが少ない。また、共重合ポリエステルを溶融混合した樹脂組成物についても、ポリカーボネートの歪みを抑制することができる。そのため、実施例のポリエステル樹脂及び樹脂組成物は、低複屈折性である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は実施例1の共重合ポリエステルと比較例1のポリカーボネートについて測定した溶融粘度のせん断速度依存性を示すグラフである。
【図2】図2は実施例1の共重合ポリエステル、実施例3,4,5の樹脂組成物、及び比較例1のポリカーボネートについて偏光板を用いて観察した写真である。
Claims (11)
- 少なくとも9,9−ビスフェノールフルオレン骨格を有するジオールで構成されたジオール成分と、少なくとも脂環族ジカルボン酸で構成されたジカルボン酸成分との芳香族ポリエステル樹脂と、ポリカーボネート樹脂とを含有する樹脂組成物で構成された光学部材であって、ジオール成分が9,9−ビスフェノールフルオレン骨格を有するジオールとアルキレングリコールとを前者/後者=100/0〜50/50モル比の割合で含む、光学部材。
- ジオール成分が、9,9−ビスフェノールフルオレン骨格を有するジオールと直鎖状又は分岐鎖状C2−6アルキレングリコールとで構成されている請求項1記載の光学部材。
- ジオール成分が、
ビスフェノールフルオレン、9,9−ビス(C1−4アルキル ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(ジC1−4アルキル ヒドロキシフェニル)フルオレン、置換基としてC3−10シクロアルキル又はC6−12アリール基を有する9,9−ビス(ジC1−4アルキル ヒドロキシフェニル)フルオレン、およびこれらのビスフェノール類のヒドロキシル基に対してC2−4アルキレンオキサイド1〜10モルが付加した化合物から選択された少なくとも一種と、
直鎖状又は分岐鎖状C2−4アルキレングリコールとを含み、
ジカルボン酸成分が、
C3−10シクロアルカン−ジカルボン酸、C3−10シクロアルケン−ジカルボン酸、ジ又はトリシクロC7−10アルカン−ジカルボン酸、ジ又はトリシクロC7−10アルケン−ジカルボン酸、およびこれらのジカルボン酸の酸無水物、C1−4アルキルエステル又は酸ハライドから選択された少なくとも一種の脂環族ジカルボン酸を含む請求項1〜3のいずれかの項に記載の光学部材。 - 環AがC5−10シクロアルカン環又はC5−10シクロアルケン環、R5が水素原子又はハロゲン原子であり、R1a及びR1bがC2−4アルキレン基、R1CがC2−10アルキレン基であり、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a及びR4bが同一又は異なって水素原子又はC1−7アルキル基、m及びnが1〜10の整数であり、qが1〜5の整数であり、p/r=100/0〜70/30(モル比)である請求項5記載の光学部材。
- 環Aがシクロヘキサン環、R5が水素原子又はハロゲン原子であり、R1a及びR1bがエチレン基、R1CがC2−6アルキレン基、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a及びR4bが水素原子、m及びnが1〜5の整数であり、qが1〜3の整数であり、p/r=100/0〜80/20(モル比)である請求項5記載の光学部材。
- ポリカーボネート樹脂が、ビスフェノール型芳香族ポリカーボネート樹脂である請求項1〜7のいずれかの項に記載の光学部材。
- ポリカーボネート樹脂の使用量が、芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対して10〜300重量部である請求項1〜8のいずれかの項に記載の光学部材。
- 光学レンズである請求項1〜9のいずれかの項に記載の光学部材。
- 少なくとも9,9−ビスフェノールフルオレン骨格を有するジオールで構成されたジオール成分と、少なくとも脂環族ジカルボン酸で構成されたジカルボン酸成分との芳香族ポリエステル樹脂と、ポリカーボネート樹脂とを含有する樹脂組成物であって、ジオール成分が9,9−ビスフェノールフルオレン骨格を有するジオールとアルキレングリコールとを前者/後者=100/0〜50/50モル比の割合で含み、芳香族ポリエステル樹脂100重量部に対してポリカーボネート樹脂10〜300重量部を含む樹脂組成物。
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